(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】半導体材料用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20240611BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240611BHJP
C08K 5/16 20060101ALI20240611BHJP
C08K 5/23 20060101ALI20240611BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20240611BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240611BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240611BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08L79/08 C
C08K3/013
C08K5/16
C08K5/23
C08K5/54
C08L83/04
H01L23/30 D
(21)【出願番号】P 2022536192
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2021023232
(87)【国際公開番号】W WO2022014259
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020122832
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 孝明
(72)【発明者】
【氏名】竹森 大地
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泉樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 岳
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2000/011084(WO,A1)
【文献】特開平11-246742(JP,A)
【文献】特開2018-048276(JP,A)
【文献】特開平04-132245(JP,A)
【文献】特開2010-195879(JP,A)
【文献】国際公開第01/066645(WO,A1)
【文献】特開平04-072360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08K 3/013
C08K 5/16
C08K 5/23
C08K 5/54
C08L 83/04
H01L 23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、(B)平均一次粒径が1~15μmであるシリコーンフィラーと、(C)顔料と、(D)溶媒と、(E)シラン系カップリング剤を含むカップリング剤と、(F)アゾ構造又はアミン構造を有する窒素含有有機化合物を含む分散剤とを含有し、
前記アゾ構造又はアミン構造を有する窒素含有有機化合物が、三ナトリウム=5-アミノ-3-({4’-[(7-アミノ-1-ヒドロキシ-3-スルホナト-2-ナフチル)ジアゼニル]ビフェニル-4-イル}ジアゼニル)-4-ヒドロキシナフタレン-2,7-ジスルホナート、又は、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、あるいはN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミンを含み、
固形分の全質量を基準として、前記(B)シリコーンフィラーの含有量が0.5~30質量%であり、前記(A)少なくとも1種の樹脂100質量部に対して前記分散剤(F)の含有量が5~50質量部である、半導体材料用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)少なくとも1種の樹脂が、ポリアミドイミド樹脂を含む、請求項1に記載の半導体材料用樹脂組成物。
【請求項3】
塗膜形成時の塗膜における(B)シリコーンフィラーの二次粒径の分布幅が20~150μmである、請求項1又は2に記載の半導体材料用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)顔料が、黒色系粉末を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体材料用樹脂組成物。
【請求項5】
25℃における粘度が、500~12,000mPa・sである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の半導体材料用樹脂組成物。
【請求項6】
半導体ウエハの回路面に対向する面に塗膜を形成するために用いられる、請求項1~
5のいずれか1項に記載の半導体材料用樹脂組成物。
【請求項7】
(A)ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、(B)平均一次粒径が1~15μmであるシリコーンフィラーと、(C)顔料と、(D)溶媒と、(E)シラン系カップリング剤を含むカップリング剤と、(F)アゾ構造又はアミン構造を有する窒素含有有機化合物を含む分散剤とを含有し、
前記アゾ構造又はアミン構造を有する窒素含有有機化合物が、三ナトリウム=5-アミノ-3-({4’-[(7-アミノ-1-ヒドロキシ-3-スルホナト-2-ナフチル)ジアゼニル]ビフェニル-4-イル}ジアゼニル)-4-ヒドロキシナフタレン-2,7-ジスルホナート、又は、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、あるいはN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミンを含み、
固形分の全質量を基準として、前記(B)シリコーンフィラーの含有量が0.5~30質量%であり、前記(A)少なくとも1種の樹脂100質量部に対して前記分散剤(F)の含有量が5~50質量部である半導体材料用樹脂組成物から形成された塗膜。
【請求項8】
塗膜における(B)シリコーンフィラーの二次粒径の分布幅が20~150μmである、請求項
7に記載の塗膜。
【請求項9】
半導体ウエハの回路面に対向する面に請求項1~
6のいずれか1項に記載の半導体材料用樹脂組成物を用いて形成される塗膜を有する、半導体パッケージ用部材。
【請求項10】
請求項
9に記載の半導体パッケージ用部材をダイシングすることによって得られる半導体素子と、前記半導体素子を搭載する半導体配線基板とを有し、前記半導体素子の回路面が前記半導体配線基板側に向く方向で搭載されている、半導体パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体材料用樹脂組成物に関し、より詳細には、半導体素子の保護層として好適な塗膜を形成することが可能な半導体材料用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器の小型化・軽量化が進められている。これに伴い、基板への高密度実装が要求され、電子機器に搭載する半導体装置についても小型化・軽量化が進められている。
【0003】
半導体装置に用いられるパッケージとして、従来から、QFP(Quad Flat Package)、及びLOC(Lead On Chip)等が知られている。通常、これらのパッケージには、製品を識別するためにロットナンバー及びメーカー名といった識別情報が印字されており、製品の履歴が判別できるようになっている。QFP及びLOC等のパッケージの場合は、外面に形成された封止材に、製品を識別するための識別情報を直接レーザーマーキングしている。
【0004】
近年、半導体装置の小型化・軽量化に対する要望がさらに高まり、QFP及びLOC等のパッケージよりも、さらに小型化・軽量化したμBGA(Ball Grid Array)及びCSP(Chip Size Package)等のパッケージが開発されている。このようなパッケージでは、半導体素子と基板とを接続する配線を半導体素子の中央部に配置し、その配線部分のみを封止している。そのため、半導体素子全体を封止する形状に比べて、さらにパッケージの小型化・軽量化を図ることが可能となる。
【0005】
しかし、μBGA及びCSP等のパッケージでは、半導体素子がフェイスダウン型で基板に実装される。つまり、半導体素子の回路面が半導体配線基板側に向けられ、パッケージの上部に半導体素子の裏面が露出する構造を有する。そのため、μBGA及びCSP等のパッケージでは、パッケージの製造時及び搬送時に半導体素子の端部が欠ける等の不具合が生じやすく、通常、半導体素子には保護層が設けられる。
【0006】
さらに、CSPパッケージの中には、半導体素子を封止材によって封止しない構造のWL-CSP(Wefer Level Chip Size Package)等のパッケージもある。このようなパッケージに対して製品を識別するための識別情報を印字するためには、半導体素子の保護層に、直接、印刷を行うか、又はレーザーマーキングを行う必要がある。
【0007】
しかし、印刷による方法は、半導体素子に対して識別情報を明確に表示できるが、印刷作業の工程が増え作業時間が大幅に増大する。一方、レーザーマーキングによる方法は、レーザーの照射によって識別情報を容易に印字できる。しかし、印字部と非印字部との明確なコントラストを得ることが困難であることから、識別性及び視認性に劣る傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-63551号公報
【文献】特開2004-142430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体素子の保護層を形成するための、レーザーマーキング可能な樹脂材料について様々な検討が行われている(特許文献1及び特許文献2)。例えば、保護層として、レーザーマーキング可能な半導体材料用樹脂組成物を半導体素子に塗布して塗膜を形成することができる。保護層として形成される塗膜は、優れた耐熱性を有し、また、レーザーの照射によって明確なコントラストを得る観点から、低光沢で、かつ異物が少ない外観を有することが好ましい。また、上記塗膜は作業性を向上する観点から、塗膜形成後に容易に剥離でき、リペアー可能であることが好ましい。しかし、これらの要望を全て満足する塗膜を形成可能な半導体材料用樹脂組成物は未だ存在せず、さらなる改善が望まれている。
【0010】
したがって、本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れ、レーザーマーキングに適した塗膜外観を有し、リペアー性に優れる塗膜を形成可能な半導体材料用樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、レーザーマーキング可能な半導体材料用樹脂組成物について種々検討を重ねた結果、特定の樹脂にシリコーンフィラー及び顔料を添加することによって所望とする特性を有する半導体材料用樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の実施形態を以下に記載するが、本発明は以下に限定されるものではなく種々な実施形態を含む。
一実施形態は、(A)ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、(B)シリコーンフィラーと、(C)顔料と、(D)溶媒と、(E)カップリング剤とを含有し、固形分の全質量を基準として、上記(B)シリコーンフィラーの含有量が0.5~30質量%である、半導体材料用樹脂組成物に関する。
【0013】
上記半導体材料用樹脂組成物において、上記(B)シリコーンフィラーの平均一次粒径は1~15μmであることが好ましい。
【0014】
上記半導体材料用樹脂組成物は、塗膜形成時の塗膜における(B)シリコーンフィラーの二次粒径の分布幅が20~150μmであることが好ましい。
【0015】
上記半導体材料用樹脂組成物において、上記(C)顔料は、黒色系粉末を含むことが好ましい。
【0016】
上記半導体材料用樹脂組成物は、さらに(F)分散剤を含むことが好ましい。上記(F)分散剤は、アゾ構造又はアミン構造を有する窒素含有有機化合物を含むことが好ましい。
【0017】
上記半導体材料用樹脂組成物は、25℃において、500~12000mPa・sの粘度を有することが好ましい。
【0018】
上記半導体材料用樹脂組成物は、半導体ウエハの回路面に対向する面に塗膜を形成するために用いられることが好ましい。
【0019】
一実施形態は、(A)ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、(B)シリコーンフィラーと、(C)顔料と、(D)溶媒と、(E)カップリング剤とを含有する、上記実施形態の半導体材料用樹脂組成物から形成された塗膜に関する。
【0020】
上記塗膜における(B)シリコーンフィラーの二次粒径の分布幅は、20~150μmであることが好ましい。
【0021】
一実施形態は、半導体ウエハの回路面に対向する面(半導体ウエハの裏面)に上記実施形態の半導体材料用樹脂組成物を用いて形成される塗膜を有する、半導体パッケージ用部材に関する。
【0022】
一実施形態は、上記実施形態の半導体パッケージ用部材をダイシングすることによって得た半導体素子と、基板とを有する半導体パッケージに関する。
一実施形態は、上記半導体パッケージ用部材をダイシングすることによって得られる半導体素子と、上記半導体素子を搭載する半導体配線基板とを有し、前記半導体素子の回路面が前記半導体配線基板側に向く方向で搭載されている、半導体パッケージに関する。
本願の開示は、2020年7月17日に出願された特願2020-122832号に記載の主題と関連しており、その全ての開示内容は引用によりここに援用される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、レーザーマーキング可能な半導体材料用樹脂組成物であって、耐熱性に優れ、レーザーマーキングに適した塗膜外観を有し、優れたリペアー性を有する半導体材料用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明は以下に限定されるものではなく、種々の実施形態を含む。
【0025】
一実施形態において、半導体材料用樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、(B)シリコーンフィラーと、(C)顔料と、(D)溶媒と、(E)カップリング剤とを含有し、全固形分の質量を基準として、上記(B)シリコーンフィラーの含有量は0.5~30質量%である。以下、半導体材料用樹脂組成物の構成成分について具体的に説明する。
【0026】
(A)樹脂
樹脂は、当技術分野で周知の樹脂であってよいが、熱可塑系樹脂が好ましい。樹脂として、少なくとも、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、耐熱性に優れることに加えて、強靭であり、かつ可とう性に優れる。そのため、上記の少なくとも1種の樹脂を使用した場合、半導体素子の保護層として好ましい塗膜特性を容易に得ることができる。上記樹脂のなかでも、リペアー性の観点から、ポリアミドイミド樹脂が最も好ましい。ポリイミド樹脂を使用した場合は、塗膜の乾燥温度を100℃~150℃に調整することによって、イミド化を抑え、優れたリペアー性を有する塗膜を容易に得ることができる。
【0027】
上記ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂は、周知の方法にしたがって製造することができる。製造方法は特に限定されないが、例えば、芳香族、脂肪族又は脂環式ジアミン化合物と、酸成分との反応による方法を適用することができる。上記酸成分の具体例として、ジカルボン酸又はその反応性酸誘導体、トリカルボン酸又はその反応性酸誘導体、及び/又はテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0028】
上記樹脂を製造するための反応は、有機溶媒の存在下で行うことができる。反応温度は、25℃~250℃の範囲が好ましい。反応時間は、バッチの規模、及び採用される反応条件等に応じて適宜選択することができる。
【0029】
上記樹脂の製造時に使用する有機溶媒は、特に限定されない。例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン等の含硫黄系溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸セロソルブ等のエステル系溶媒、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアセド、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン等の窒素含有溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。反応時に、上記溶媒を単独で使用しても、2種類以上を組合せて使用してもよい。好ましくは、反応によって生成する樹脂を溶解する溶媒を選択して使用する。
【0030】
樹脂を製造する他の方法として、脱水反応によってイミド化を終了した反応液を、メタノール等の低級アルコール、水、又はこれらの混合物等の上記有機溶媒と相溶性であって、かつ樹脂に対して貧溶媒である大過剰の溶媒に注ぎ、樹脂の沈殿物を得る方法もある。樹脂の沈殿物をろ別し、溶媒を乾燥することによって、ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂が得られる。
【0031】
一実施形態において、市販された樹脂又は樹脂ワニスを使用することもできる。例えば、ポリアミドイミド樹脂ワニスとして、日立化成株式会社製のHL-1210BCを好適に使用することができる。
【0032】
(B)シリコーンフィラー
半導体材料用樹脂組成物から形成される塗膜にレーザーマーキングを行うことを考慮すると、塗膜は光沢がないことがより好ましい。光沢のない塗膜(低光沢の塗膜)は、レーザーマーキングを行った後の印字部と非印字部との明確なコントラストを得ることが容易となる。半導体素子の保護層を形成する樹脂材料には、通常、シリカフィラー等の無機フィラーが添加されている。これに対し、本実施形態の半導体材料用樹脂組成物では、シリコーンフィラーを使用することによって、シリカフィラーを使用した塗膜よりも低光沢の塗膜を提供することができる。
【0033】
本明細書において記載する「シリコーンフィラー」とは、シリコーン樹脂を含むフィラーを意味する。具体例として、シリコーンゴムフィラー、シリコーンレジンフィラー、及び被覆型シリコーンフィラーが挙げられる。なかでも、シリコーンゴムフィラー及びシリコーンレジンフィラーの少なくとも一方を使用することが好ましい。
【0034】
シリコーンゴムフィラーは、直鎖状のジメチルポリシロキサンを架橋した構造を有するポリマーの微粉末である。シリコーンレジンパウダーは、シロキサン結合が(RSiO3/2)nで表される三次元網目状に架橋した構造を有するポリオルガノシルセスキオキサン硬化物粉末である。被覆型シリコーンフィラーは、シリコーンフィラーの表面をさらにシリコーン樹脂で被覆した粉末である。
【0035】
一実施形態において、シリコーンフィラーの平均一次粒径は、好ましくは1~15μmであり、より好ましくは3~12μmであり、さらに好ましくは5~10μmである。また、一実施形態において、半導体材料用樹脂組成物を用いて得られる塗膜において、(B)シリコーンフィラーの二次粒径の分布幅は、好ましくは20~150μmであり、より好ましくは30~100μmであり、さらに好ましくは40~80μmである。二次粒径の分布幅が上記範囲内となる場合、低光沢の塗膜を得ることが容易となる。
【0036】
上記範囲内の平均一次粒径を有するシリコーンフィラーを使用した場合、半導体材料用樹脂組成物中にシリコーンフィラーを均一に分散させることが容易となる。また、塗膜を形成した時に、凝集によって好ましい二次粒径の分布幅を得ることが容易となる。その結果、レーザーマーキング性の観点から望ましい、低光沢の塗膜外観が得られる。シリコーンフィラーの平均一次粒径が大きすぎると、二次粒径も大きくなり、好ましい分布幅を得ることが困難となる傾向がある。
【0037】
本明細書において記載する「平均一次粒径」は、走査型電子顕微鏡を用いて得られるフィラー粒子の画像からフィラー粒子50個について長径を測定し、得られた測定値から算出した平均値を意味する。ここで、「フィラー粒子の長径」とは、切断面に現れる1つの粒子に対し、その粒子の外側に接する二つの平行線の組合せを、粒子を挟むように選択し、それらの組合せのなかで最長間隔になる二つの平行線の距離を意味する。
【0038】
また、本明細書において記載する「二次粒径の分布幅」とは、半導体材料用樹脂組成物を用いて得た塗膜の電子顕微鏡による画像において確認できるフィラー粒子の最小粒径と最大粒径とによって定義される。すなわち、「二次粒径の分布幅」とはフィラー粒子の最小粒径の値を下限値、及び最大粒径の値を上限値とする範囲を意味する。ここで、「最小粒径」とは、画像において最も小さいフィラー粒子の長径を意味する。同様に、「最大粒径」とは、画像において最も大きいフィラー粒子の長径を意味する。ここで、「フィラー粒子の長径」とは、先に平均一次粒径において説明したとおりである。
【0039】
シリコーンフィラーは、当技術分野で周知の方法に従って製造することができ、また平均一次粒径についても調整することができる。シリコーンフィラーは市販品として入手することもできる。
例えば、平均一次粒径が1~15μmであるシリコーンゴムフィラー又はシリコーンレジンフィラーの市販品として、信越化学工業株式会社製のKMP-594、KMP-597、KMP-598、KMP-590、KMP-600、KMP-601、KMP-605、KMP-706、及びX-52-1621、並びに、東レダウコーニング株式会社製のE-500、E-506、E-600、E-601、E-602、E-603、E-606、EP-2601、EP-9215、EP-9289 LL、EP-9801、EP-9701、及びEP-9702が挙げられる。
【0040】
一実施形態において、シリコーンフィラーの含有量は半導体材料用樹脂組成物中の固形成分の質量の合計量(固形分の全質量)を基準として、0.5~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。シリコーンフィラーの含有量を上記範囲内に調整した場合、凝集によって好ましい二次粒径の分布幅を得ることが容易になる。
【0041】
一実施形態において、シリコーンフィラーの含有量は、樹脂100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、5~30質量部がより好ましく、5~20質量部がさらに好ましい。
【0042】
(C)溶媒
溶媒として、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、エチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジブチルエーテル、ジメチルスルホキシド、1, 3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びプロピレングリコールメチルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。2種以上を組合せて使用する場合は、任意の割合で混合することができる。
【0043】
上記溶媒のなかでも、成膜性の観点から、比較的、沸点が低い溶媒が好ましい。例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコール、及びトリエチレングリコールジメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種を好ましく使用することができる。
【0044】
溶媒の使用量は、特に限定されず、塗布に適した粘度を得るために適宜調整することができる。一実施形態において、溶媒の含有量は、樹脂100重量部に対して、300~3500重量部が好ましく、400~1500重量部がより好ましい。
【0045】
(D)顔料
顔料として、例えば、カーボンブラック、黒鉛、チタンカーボン、二酸化マンガン、及びフタロシアニン等の有色顔料又は染料を使用することができる。しかし、分散性、及びレーザーマーキング性を考慮すると、白色以外の色の無機フィラーが好ましく、黒色系粉末がより好ましい。黒色系粉末として、例えば、カーボンブラック等の顔料を好適に使用することができる。一実施形態において、顔料の含有量は、樹脂100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、5~40質量部がより好ましく、10~40質量部がさらに好ましい。
【0046】
(E)カップリング剤
カップリング剤は、シラン系、チタン系、及びアルミニウム系のいずれでも使用できるが、シラン系カップリング剤が最も好ましい。
シラン系カップリング剤は、特に限定するものではないが、具体例として、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピル-トリス[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]シラン、N-メチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、トリアミノプロピル-トリメトキシシラン、3-4,5-ジヒドロイミダゾール-1-イル-プロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピル-トリメトキシシラン、3-メルカプトプロピル-メチルジメトキシシラン、3-クロロプロピル-メチルジメトキシシラン、3-クロロプロピル-ジメトキシシラン、3-シアノプロピル-トリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、アミルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリ(メタクリロイルオキエトキシ)シラン、メチルトリ(グリシジルオキシ)シラン、N-β(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジクロロシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ジメチルシリルイソシアネート、メチルシリルトリイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート、テトライソシアネートシラン、エトキシシランイソシアネート等が挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0047】
チタン系カップリング剤は、特に制限するものでないが、具体例として、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリス(n-アミノエチル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアエチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタンチリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、テトラメチルオルソチタネート、テトラエチルオルソチタネート、テタラプロピルオルソチタネート、テトライソブチルオルソチタネート、ステアリルチタネート、クレシルチタネートモノマー、クレシルチタネートポリマー、ジイソプロポキシ-ビス(2,4-ペンタジオネート)チタニウム(IV)、ジイソプロピル-ビス-トリエタノールアミノチタネート、オクチレングリコールチタネート、テトラ-n-ブトキシチタンポリマー、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレートポリマー、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート等が挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0048】
アルミニウム系カップリング剤は、特に限定するものではないが、具体例として、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウム-モノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、アルミニウム-ジ-n-ブトキシド-モノ-エチルアセトアセテート、アルミニウム-ジ-イソ-プロポキシド-モノ-エチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート化合物、アルミニウムイソプロピレート、モノ-sec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウム-sec-ブチレート、アルミニウムエチレート等のアルミニウムアルコレートなどが挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0049】
一実施形態において、カップリング剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、1~30質量部がより好ましく、1~20質量部がさらに好ましい。
【0050】
一実施形態において、半導体材料用樹脂組成物は、例えば(A)芳香族ジカルボン酸又はその反応性酸誘導体とジアミンとを重縮合して得られるポリアミド重合体100質量部を(C)有機溶媒300~3500質量部に溶解させてなる重合体ワニスに対して、(B)シリコーンフィラーを50質量部以下、(D)着色顔料を50質量部以下、及び(E)カップリング剤を50質量部以下の割合で添加し、混合することによって製造することができる。
【0051】
(F)分散剤
一実施形態において、半導体材料用樹脂組成物は、さらに(F)分散剤を含有してもよい。分散剤を使用する場合、上記製造法において、各種成分を混合に際に同様に添加することができる。分散剤の含有量は、熱可塑系樹脂100質量部に対して50質量部以下が好ましく、1~20質量部がより好ましく、5~15質量部がさらに好ましい。
【0052】
使用可能な分散剤の具体例として、イミダゾール、脂肪族塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジニウムクロリド、アルキルカルボキシベタイン、スチレン・無水マレイン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン結合物、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロース、オレフィン・無水マレイン酸共重合物、ポリスチレンスルホン酸塩、アクリルアミド・アクリル酸共重合物、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポリアルキレンポリアミン、ポリアクリルアミド、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンブロック、ポリマーでんぷん、ポリエチレンイミン、アミノアルキルアクリレート共重合体、ポリビニルイミダソリン、及びサトキンサン等が挙げられる。
【0053】
分散剤は、半導体材料用樹脂組成物の極端な粘度増加等の不具合を起こさず、半導体材料用樹脂組成物の使用上の安定性を維持できるものが望ましい。また、レーザーマーキング性等の半導体材料用樹脂組成物の性能を低下させないものが望ましい。一実施形態において、アゾ構造又はアミン構造を有する窒素含有有機化合物を分散剤として好適に使用することができる。
【0054】
分散剤として使用する窒素含有有機化合物は、アゾ構造又はアミン構造を有する周知の分散剤であってよいが、分子内に、水酸基、ヒドロキシルアルキル基、スルホン酸基又はスルホン酸塩、及びアミノ基といった官能基を1以上有することが好ましい。
【0055】
アゾ構造を有する分散剤として、例えば、アゾ染料として周知のダイレクトブルーのシリーズを使用することができ、これらはビフェニレン基の両端にアゾ基を介してナフチル基が結合した骨格を有する。一実施形態において、三ナトリウム=5-アミノ-3-({4’-[(7-アミノ-1-ヒドロキシ-3-スルホナト-2-ナフチル)ジアゼニル]ビフェニル-4-イル}ジアゼニル)-4-ヒドロキシナフタレン-2,7-ジスルホナートを好適に使用することができる。この化合物は、東京化成工業社製の「Direct Blue 2」として入手することができる。
【0056】
アミン構造を有する分散剤は、例えば、分子内に1つ以上のヒドロキシアルキル基を有するアミン化合物であってよいが、分子内に2つのアミノ基を有する化合物がより好ましく、エチレンジアミン誘導体であることがさらに好ましい。具体例として、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、及びN,N,N’,N’N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミンが挙げられ、これらは市販品として入手することができる。例えば、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンは、東京化成工業社製の「T0781」として入手することができる。
【0057】
分散剤を使用する場合、その含有量は、樹脂100質量部に対して50質量部以下が好ましく、1~20質量部がより好ましく、5~15質量部がさらに好ましい。
【0058】
上記実施形態の半導体材料用樹脂組成物は、樹脂を溶媒に溶解して、これにシリコーンフィラー等の他の成分を加えて混合することによって得られる。半導体材料用樹脂組成物を塗布し塗膜を製造する観点から、半導体材料用樹脂組成物の粘度を適切に調整することが好ましい。
【0059】
一実施形態において、半導体材料用樹脂組成物の25℃における粘度は、500~12,000mPa・sが好ましく、より好ましくは700~11,000mPa・sであり、さらに好ましくは1,000~8,000mPa・sである。半導体材料用樹脂組成物の粘度を500mPa・s以上に調整することによって、所望とする膜厚を有する塗膜を容易に得ることができる。
【0060】
上記実施形態の半導体材料用樹脂組成物は、加熱乾燥によって溶媒を揮発させるだけで、容易に強靭な塗膜を形成することができる。塗膜を形成する方法は、特に限定されず、周知の方法を適用することができる。例えば、ディスペンス、スクリーン印刷、及びスピンコート等の方法を用いて半導体材料用樹脂組成物を塗布することができる。塗布後の乾燥条件は、特に限定されず適宜調整することができる。一実施形態において、60℃~130℃の温度で10分~60分の予備乾燥、次いで150℃~250℃で1時間~5時間の本乾燥を行うことが好ましい。
【0061】
一実施形態において、半導体材料用樹脂組成物を塗布して得られる塗膜の35℃における弾性率は、0.5~5.0GPaの範囲であることが好ましく、1.0~5.0GPaであることがより好ましい。上記弾性率は、動的粘弾性測定装置により測定した値である。弾性率が0.5GPa以上であれば、膜が柔らかくなりすぎず、十分な強靭性及び可撓性を容易に得ることができる。
【0062】
ウエハレベルCSP用の塗膜形成材料として半導体材料用樹脂組成物を使用する場合、上記弾性率は1.5~3.5GPaがさらに好ましく、2.0~3.0GPaが最も好ましい。男性率が上記範囲となる場合、強靱かつ可撓性に優れた塗膜を形成できるとともに、塗膜形成後に塗膜を剥離することが容易となる。すなわち、優れた塗膜特性と併せて、優れたリペアー性を得ることも容易となる。
【0063】
上記半導体材料用樹脂組成物を用いて形成された塗膜は、予備乾燥の段階であれば、基板上に形成した塗膜と基板との間にカッターを差し込み、塗膜の一部を剥がし、そこを起点として容易に引き剥がすことができる。このように薬品等の処理を施すことなく、物理的に容易に塗膜を取り除くことができるため、リペアー性に優れている。
【0064】
上記半導体材料用樹脂組成物は、上述のように、樹脂を溶媒に溶解して、これにシリコーンフィラー等のその他の成分を加え、混合することによって容易に調製することができる。また、半導体材料用樹脂組成物を塗布し、加熱乾燥により溶媒を揮発させるのみで、レーザーマーキング性及び耐熱性に優れ、また強靭かつ可とう性に優れる塗膜を容易に形成することができる。さらに塗膜は、塗膜形成後のリペアー性に優れている。これらのことから、半導体材料用樹脂組成物は、WL-CSPの裏面コート材等の半導体素子の保護層形成材料として好適に使用することができる。しかし、そのような用途に限定することなく、様々な用途に上記半導体材料用樹脂組成物を使用することができる。
一実施形態は、半導体パッケージ用部材であってよい。半導体パッケージ部材は、半導体ウエハの回路面に対向する面(すなわち、半導体ウエハの裏面)に上記実施形態の半導体材料用樹脂組成物を用いて形成される塗膜を有する。さらに他の実施形態は、上記実施形態の半導体パッケージ用部材をダイシングすることによって得た半導体素子と、基板とを有する半導体パッケージに関する。一実施形態において、半導体パッケージは、上記実施形態の半導体パッケージ用部材をダイシングすることによって得られる半導体素子と、上記半導体素子を搭載する半導体配線基板とを有し、上記半導体素子の回路面が前記半導体配線基板側に向く方向で搭載されていることが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではなく、様々な実施形態を含む。
【0066】
<1>半導体材料用樹脂組成物(ポリアミドイミド樹脂組成物)の調製
(実施例1)
ポリアミドイミドのNMPワニス(日立化成株式会社製「HL-1210BC」)に溶媒を加え、粘度を調整したものを948.10g準備した。このポリアミドイミド成分948.10g(ポリアミドイミド含有量(固形分含有量)18%)に対して、シリコーンフィラー15.71g(信越化学工業株式会社製「KMP-706」、平均一次粒子径2μm)、カーボンブラック52.01g(三菱ケミカル株式会社製「MA100」)、カップリング剤(信越化学工業株式会社製「KBE-9103P」)20.31g、及びアゾ構造を有する分散剤(東京化成工業社製「Direct Blue 2」)15.64gを加えて、室温下で30分攪拌し、黒色の混合溶液を得た。
得られた黒色の混合溶液を、ろ過器「KST-47」(アドバンテック株式会社製)に充填し、0.3MPaの圧力で加圧ろ過することによって、半導体材料用樹脂組成物(P-1)を得た。半導体材料用樹脂組成物中のシリコーンフィラーの含有量は、固形分の全質量を基準として6.6質量%である。
【0067】
(実施例2)
実施例1で使用した分散剤を、ジアミン構造を有する分散剤(東京化成工業社製「T0781」)に変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、半導体材料用樹脂組成物(P-2)を調製した。
【0068】
(比較例1)
実施例1で使用したポリアミドイミドのNMPワニスをアクリル樹脂(日立化成株式会社製「FA-511AS」、固形分含有量18%に調整)に変更し、さらに硬化促進剤(日本油脂株式会社製「パークミルH-80」)17.07gを添加したことを除き、全て実施例1と同様にして、半導体材料用樹脂組成物(P-3)を調製した。
【0069】
(比較例2)
実施例1で使用したポリアミドイミドのNMPワニスをエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製「1032H60」、固形分含有量18%に調整)に変更し、さらに硬化剤(四国化成株式会社製「キュアゾール2MAOK-PW」)17.07gを添加したことを除き、全て実施例1と同様にして、半導体材料用樹脂組成物(P-4)を調製した。
【0070】
(比較例3)
実施例1で使用したシリコーンフィラーをシリカフィラー(アドマテックス株式会社製「SO-C5」、平均一次粒子径1.5μm)15.71gに変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、半導体材料用樹脂組成物(P-5)を調製した。半導体材料用樹脂組成物中のシリカフィラーの含有量は、固形分の全質量を基準として6.6質量%である。
【0071】
<2>半導体材料用樹脂組成物(ポリアミドイミド樹脂組成物)の評価
実施例及び比較例で調製した半導体材料用樹脂組成物(P-1)~(P-5)の各種特性について、以下に記載するようにして検討を行った。
【0072】
<粘度測定>
半導体材料用樹脂組成物(P-1)~(P-5)について、それぞれ東機産業株式会社製の粘度計(RE-85R)を用い、粘度測定を実施した。測定は、サンプリング量:1.1mL、及び測定温度:25℃の条件下で実施した。測定値を表1に示す。
【0073】
<塗布外観>
スピンコートを用いて、半導体材料用樹脂組成物(P-1)~(P-5)をそれぞれシリコンウエハの表面に塗布した。その後、120℃の温度で5分にわたって、ホットプレートを用いて加熱することによって、塗膜を形成した。得られた塗膜の表面を目視で確認し、以下の基準にしたがって、外観を評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
A:光沢がなくかつ異物が全く確認できず、優れた外観である。
B:光沢がなく、かつ異物がほとんど確認できず、良好な外観である。
C:光沢があるか、又は異物が確認でき、外観不良である。
【0074】
<電子顕微鏡による観察(塗膜におけるフィラーの二次粒径)>
スピンコーターを用い、半導体材料用樹脂組成物(P-1)~(P-5)を、それぞれシリコンウエハの表面に塗布した。その後、120℃で5分乾燥させることによって、厚み25μmの塗膜(乾燥膜)を得た。
このようにして得た塗膜を、ヘラを使ってシリコンウエハから剥がし、独立した塗膜を得た。次いで、キーエンス株式会社製のマイクロスコープ「VHX-900F」を使用して塗膜の表面観察を行った。得られた観察画像において、最も大きいフィラー粒子の長径を測定し最大粒径とした。同様に、最も小さい粒子の長径を測定し、最小粒径とした。長径とは、観察画像に現れる粒子について、その粒子の外側に接する二つの平行線の組合せを、粒子を挟むように選択し、それらの組合せのうち最長間隔になる二つの平行線の距離である。最小粒径及び最大粒径の測定を5回実施し、その平均値を求めた。得られた値を表1に示す。
【0075】
<リペアー性>
スピンコーターを用い、半導体材料用樹脂組成物(P-1)~(P-5)を、それぞれシリコンウエハの表面に塗布した。その後、120℃の温度で、5分にわたって、ホットプレートを用いて乾燥することによって、塗膜を形成した。塗膜と基板との界面にカッターを差し込み約2cm程度剥離し、そこを起点として基板から塗膜を引き剥がした。その後、基板表面を目視で観察し、以下の基準にしたがって、リペアー性を評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
良好(P):塗膜の残存がない。
不可(F):塗膜の残存がある。
【0076】
<耐熱性>
半導体材料用樹脂組成物(P-1)~(P-5)について、JIS K 7120-1987に記載の方法に従って、それぞれ熱分解温度(Td5)を測定した。測定値(サンプルの重量が5%減少した温度)から、以下の基準にしたがって耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
良好(P):熱分解温度が260℃以上である。
不可(F):熱分解温度が260℃未満である。
【0077】
【0078】
表1から分かるように、本発明の実施形態となる実施例1及び2では、樹脂組成物が塗布に適した粘度を有し、容易に塗膜を形成することができた。また、半導体材料用樹脂組成物から得られる塗膜(乾燥膜)におけるシリコーンフィラーの二次粒径の分布幅が20~150μmの範囲内となり、塗膜外観が良好であり、リペアー性及び耐熱性についても良好であった。
【0079】
一方、比較例1及び2では、本発明で規定する特定の樹脂を使用していない。比較例1では、リペアー性及び耐熱性に劣り、比較例2では、リペアー性に劣る結果となった。また、比較例3では、シリコーンフィラーを使用せずにシリカを使用している。比較例3では、光沢のある塗膜外観が得られ、塗膜の電子顕微鏡写真ではフィラーの凝集が確認できなかった。光沢のある塗膜外観は、レーザーマーキング性の観点から望ましくない。
【0080】
以上の結果より、本発明によれば、耐熱性及びリペアー性に優れ、かつレーザー印字性の観点で優れた塗膜外観を有する塗膜を塗布によって容易に形成できる半導体材料用樹脂組成物を提供できることが分かる。本発明による半導体材料用樹脂組成物から得られる塗膜は、上記特性に加えて、ポリアミドイミド等の樹脂に起因して強靭であり、かつ可とう性に優れることから、半導体素子の保護層を形成するために好適に使用できる。