(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】研磨液、分散体、研磨液の製造方法及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240611BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240611BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240611BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240611BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2023060633
(22)【出願日】2023-04-04
(62)【分割の表示】P 2021524860の分割
【原出願日】2020-06-02
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/022144
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】井上 恵介
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0127607(US,A1)
【文献】特開2017-190450(JP,A)
【文献】特開2014-018923(JP,A)
【文献】国際公開第2012/036087(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0162006(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102533123(CN,A)
【文献】特開2001-323254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材料からなる第1の部分と、当該第1の部分上に設けられた、タングステン材料からなる第2の部分とを備える基体の、少なくとも前記第2の部分を研磨するために用いられるCMP用研磨液であって、
シリカを含む砥粒と、
酸化剤と、鉄イオン供給剤と、有機酸と、防食剤と、液状媒体とを含有
し、
遠心分離法によって得られる質量基準の粒度分布において、前記砥粒のD50が150nm以下であり、前記砥粒のD90が100nm以上であり、前記D90と前記D50との差が21nm以上であり、
前記砥粒の含有量が、前記研磨液の全量を基準として、1.0質量%以上であ
り、
pHが4.0以下である、CMP用研磨液。
【請求項2】
前記砥粒の含有量が、前記研磨液の全量を基準として、5.0質量%以下である、請求項1に記載のCMP用研磨液。
【請求項3】
前記D50が80nm以上である、請求項1又は2に記載のCMP用研磨液。
【請求項4】
前記D90が125nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のCMP用研磨液。
【請求項5】
前記D90と前記D50との差が50nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のCMP用研磨液。
【請求項6】
前記酸化剤が過酸化水素を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のCMP用研磨液。
【請求項7】
前記鉄イオン供給剤が、硝酸鉄及び硝酸鉄の水和物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のCMP用研磨液。
【請求項8】
鉄イオン1原子に対する解離した前記有機酸の分子数の比が2.0以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載のCMP用研磨液。
【請求項9】
前記有機酸が、炭素-炭素不飽和結合を有しない、2価又は3価の有機酸である、請求項1~8のいずれか一項に記載のCMP用研磨液。
【請求項10】
前記有機酸が、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、リンゴ酸及びクエン酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のCMP用研磨液。
【請求項11】
pHが2.0以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載のCMP用研磨液。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のCMP用研磨液に用いられる分散体であって、
シリカを含む砥粒と酸化剤と、鉄イオン供給剤と、有機酸と、防食剤と、液状媒体とを含有し、
遠心分離法によって得られる質量基準の粒度分布において、前記砥粒のD50が150nm以下であり、前記砥粒のD90が100nm以上であり、前記D90と前記D50との差が21nm以上である、分散体。
【請求項13】
絶縁材料からなる第1の部分と、当該第1の部分上に設けられた、タングステン材料からなる第2の部分とを備える基体の、少なくとも前記第2の部分を研磨するために用いられるCMP用研磨液の製造方法であって、
シリカを含む砥粒と、酸化剤と、鉄イオン供給剤と、有機酸と、防食剤と、液状媒体とを混合し、pHが4.0以下のCMP用研磨液を調製する工程を備え、
遠心分離法によって得られる質量基準の粒度分布において、前記砥粒のD50が150nm以下であり、前記砥粒のD90が100nm以上であり、前記D90と前記D50との差が21nm以上であり、
前記工程では、前記砥粒の含有量が、前記研磨液の全量を基準として、1.0質量%以上となるように前記砥粒を配合する、CMP用研磨液の製造方法。
【請求項14】
絶縁材料からなる第1の部分と、当該第1の部分上に設けられた、タングステン材料からなる第2の部分とを備える基体を用意する工程と、
前記第2の部分における前記第1の部分とは反対側の表面と研磨パッドとが対向するように、前記基体を前記研磨パッド上に配置する工程と、
前記研磨パッドと前記基体との間に請求項1~11のいずれか一項に記載の研磨液を供給すると共に、前記研磨パッドと前記基体とを相対的に動かすことにより少なくとも前記第2の部分を研磨する工程と、を有する、基体の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨液、分散体、研磨液の製造方法及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路(以下、「LSI」という。)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(以下、「CMP」という。)法もその一つであり、LSI製造工程、特に、多層配線形成工程における絶縁膜の平坦化、金属プラグの形成、埋め込み配線の形成等において頻繁に利用される技術である。
【0003】
一例として、CMP法を用いた埋め込み配線の形成について説明する。まず、あらかじめ形成された凹凸を表面に有する基体(例えば基板)と、基体上に積層された絶縁材料を含む膜(以下、「絶縁膜」ともいう)とを有する積層体を準備する。次に、バリア材料を含む膜(以下、「バリア膜」ともいう)を絶縁膜上の全体に堆積する。さらに、凹部(溝部)を埋め込むようにバリア膜上の全体に、配線用金属膜を堆積する。次に、凹部以外の不要な配線用金属膜及びその下層のバリア膜をCMPにより除去して埋め込み配線を形成する。このような配線形成方法をダマシン法と呼ぶ(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
近年、配線金属膜には、タングステン、タングステン合金等のタングステン材料が用いられるようになってきている。タングステン材料を含む膜(以下、「タングステン膜」ともいう)を用いたダマシン法による配線形成方法としては、例えば、タングステン膜の大部分を研磨する第一の研磨工程と、タングステン膜及びバリア膜を研磨する第二の研磨工程と、を備える方法が一般的であり、場合により、タングステン膜、バリア膜及び絶縁膜を研磨する第三の研磨工程(仕上げ研磨工程)が実施される。特許文献1には、上記方法(特に第一の研磨工程)において使用し得るとされるCMP用研磨液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第一の研磨工程では、タングステン膜だけでなく、バリア膜及び絶縁膜を研磨する場合がある。第一の研磨工程に用いられるCMP用研磨液には、スループットの向上のためタングステン材料の研磨速度に優れるだけでなく、後続の第二の研磨工程で優れた平坦性を得るため、又は、絶縁膜が研磨され薄くなりすぎることで配線間の絶縁性が低くなりすぎることを抑制するため、絶縁材料の研磨速度に対するタングステン材料の研磨速度の比(タングステン材料の研磨速度/絶縁材料の研磨速度。以下、単に「研磨速度比」ともいう)にも優れることが求められる。
【0007】
一方、特許文献1の方法では、タングステン材料の研磨速度と上記研磨速度比を高度に両立することは困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、優れた研磨速度で、且つ、絶縁材料に対して高い選択性で、タングステン材料を研磨することができるCMP用研磨液、当該研磨液用の分散体、当該研磨液の製造方法及び当該研磨液を用いた研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、シリカを含む砥粒と液状媒体とを含有するCMP用研磨液であって、遠心分離法によって得られる質量基準の粒度分布において、砥粒のD50は150nm以下であり、砥粒のD90は100nm以上であり、D90とD50との差は21nm以上であり、砥粒の含有量が、研磨液の全量を基準として、1.0質量%以上である、CMP用研磨液に関する。この研磨液によれば、優れた研磨速度で、且つ、絶縁材料に対して高い選択性で、タングステン材料を研磨することができる。すなわち、上記側面の研磨液によれば、タングステン材料の研磨速度と、研磨速度比(タングステン材料の研磨速度/絶縁材料の研磨速度)とを高度に両立することができる。
【0010】
砥粒の含有量は、研磨液の全量を基準として、5.0質量%以下であってよい。
【0011】
砥粒のD50は50nm以上であってよい。
【0012】
砥粒のD90は200nm以下であってよい。
【0013】
研磨液は酸化剤を更に含有してよい。この酸化剤は過酸化水素を含むものであってよい。
【0014】
研磨液は鉄イオン供給剤を更に含有してよい。この鉄イオン供給剤は、硝酸鉄及び硝酸鉄の水和物からなる群より選択される少なくとも一種を含むものであってよい。
【0015】
研磨液は有機酸を更に含有してよい。研磨液が有機酸を更に含有する場合、鉄イオン1原子に対する解離した有機酸の分子数の比は2.0以上であってよい。
【0016】
有機酸は、炭素-炭素不飽和結合を有しない、2価又は3価の有機酸であってよく、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、リンゴ酸及びクエン酸からなる群より選択される少なくとも一種を含むものであってよい。
【0017】
研磨液は防食剤を更に含有してよい。この防食剤は、チオール基及び/又は炭素-炭素不飽和結合を有しないアゾール化合物を含んでよく、下記式(1)で表され、且つ、チオール基及び/又は炭素-炭素不飽和結合を有しない化合物を含んでよい。
H2N-X-COOH (1)
[式(1)中、Xは、置換基を有していてもよい、炭素数が1以上の炭化水素基を示す。]
【0018】
防食剤は、1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、グリシン及び6-アミノヘキサン酸からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0019】
研磨液のpHは、4.0以下であってよく、2.0以上であってよい。
【0020】
研磨液は、絶縁材料からなる第1の部分と、当該第1の部分上に設けられた、タングステン材料からなる第2の部分とを備える基体の、少なくとも第2の部分を研磨するために用いられる研磨液であってよい。
【0021】
本発明の他の一側面は、CMP用研磨液に用いられる分散体であって、シリカを含む砥粒と液状媒体とを含有し、遠心分離法によって得られる質量基準の粒度分布において、砥粒のD50が150nm以下であり、砥粒のD90が100nm以上であり、D90とD50との差が21nm以上である、分散体に関する。この分散体によれば、タングステン材料の研磨速度と、研磨速度比(タングステン材料の研磨速度/絶縁材料の研磨速度)とを高度に両立することができるCMP用研磨液が得られる。
【0022】
本発明の他の一側面は、シリカを含む砥粒と液状媒体とを混合する工程を備える、CMP用研磨液の製造方法であって、遠心分離法によって得られる質量基準の粒度分布において、砥粒のD50が150nm以下であり、砥粒のD90が100nm以上であり、D90とD50との差が21nm以上であり、上記工程では、砥粒の含有量が、研磨液の全量を基準として、1.0質量%以上となるように砥粒を配合する、CMP用研磨液の製造方法に関する。この方法により得られる研磨液によれば、優れた研磨速度で、且つ、絶縁材料に対して高い選択性で、タングステン材料を研磨することができる。
【0023】
本発明の他の一側面は、絶縁材料からなる第1の部分と、当該第1の部分上に設けられた、タングステン材料からなる第2の部分とを備える基体を用意する工程と、第2の部分における第1の部分とは反対側の表面と研磨パッドとが対向するように、基体を研磨パッド上に配置する工程と、研磨パッドと基体との間に上記の研磨液を供給すると共に、研磨パッドと基体とを相対的に動かすことにより少なくとも第2の部分を研磨する工程と、を有する、基体の研磨方法に関する。この方法によれば、タングステン材料を優れた研磨速度で、且つ、絶縁材料に対して高い選択性で研磨することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、優れた研磨速度で、且つ、絶縁材料に対して高い選択性で、タングステン材料を研磨することができるCMP用研磨液、当該研磨液用の分散体、当該研磨液の製造方法及び当該研磨液を用いた研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、一実施形態の研磨方法を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書において、「材料Aの研磨速度」及び「材料Aに対する研磨速度」とは、材料Aからなる物質が研磨により除去される速度を意味する。本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書中、「pH」は、測定対象の温度が25℃のときのpHと定義する。
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0028】
<CMP用研磨液>
本実施形態の研磨液は、化学機械研磨(CMP)法に用いられる研磨液(CMP用研磨液)であり、シリカを含む砥粒と液状媒体とを含有する。このCMP用研磨液において、シリカを含む砥粒の含有量は、研磨液の全量を基準として、1.0質量%以上である。また、遠心分離法によって得られる質量基準の粒度分布において、砥粒のD50は150nm以下であり、砥粒のD90は100nm以上であり、D90とD50との差は21nm以上である。
【0029】
D50は、小粒径側から積算した粒子の相対重量が全粒子重量の50%になるときの粒径であり、D90は、小粒径側から積算した相対重量が全粒子重量の90%になるときの粒径である。D50及びD90は、遠心式の粒度分布計である日本ルフト社製の装置(製品名:DC24000)を用いて、25℃で測定し、得られた粒度分布から求められる。D50及びD90の測定は研磨液に配合する前のシリカを含む砥粒そのものを測定してもよいし、研磨液中のシリカを含む砥粒を測定してもよい。シリカを含む砥粒そのものを用いる場合は研磨液中の砥粒濃度と同程度に水で希釈して測定してもよい。
【0030】
上記本実施形態の研磨液によれば、タングステン材料を優れた研磨速度で、且つ、絶縁材料に対して高い選択性で研磨することができるという効果が奏される。シリカを含む砥粒の粒径を上記特定の範囲とすることで上記効果が得られることは、非常に意外な結果である。なぜなら、通常、タングステン材料に対する高い研磨速度を得るためには砥粒の平均粒子径をある程度大きくする必要があるが、この場合、絶縁材料に対する研磨速度も高くなる傾向がある。一方で、絶縁材料に対する研磨速度を低くするために砥粒の平均粒子径を小さくすると、タングステン材料に対する研磨速度も低下する。このように、タングステン材料に対する高い研磨速度と絶縁材料に対する低い研磨速度は相反する事象であり、砥粒の粒径を調整することでこれらを両立させることは困難であると考えられていた。しかし、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、シリカを含む砥粒の量を1.0質量%以上とした場合において、D50を150nm以下とした上で、D90を100nm以上とし、さらにD90とD50との差(D90-D50)を21nm以上とすることで、タングステン材料を優れた研磨速度で研磨することができ、且つ、絶縁材料の研磨速度を抑制して、高い研磨速度比が得られることを見出した。
【0031】
ところで、CMP用研磨液には、コスト低減、生産安定性等の観点から、長時間に渡り(例えば1週間程度)、研磨速度等の性能が安定している(ポットライフが長い)ことが望まれている。従来の研磨液では、研磨速度比を高めるために、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド等の調整剤を用いる場合があるが、このような調整剤は、砥粒を凝集させやすく、研磨液の保管安定性を低下させる場合がある。一方、本実施形態の研磨液によれば、優れた研磨速度比が得られるため、上記のような調整剤を用いる必要がなく、より長いポットライフが得られやすい。
【0032】
CMP用研磨液のpHは、タングステン材料のエッチング速度が高くなりすぎない観点、及び、上記本発明の効果がより顕著に奏される観点から、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.8以下であり、更に好ましくは3.6以下である。CMP用研磨液のpHは、3.4以下、3.2以下、3.0以下又は2.8以下であってもよい。タングステン材料のエッチング速度が高くなりすぎると、研磨後の表面が平坦化されにくくなるため、高い研磨速度と平坦性を両立することが難しくなる。CMP用研磨液のpHは、研磨装置等に対する腐食の発生が抑制され、タングステン材料に対するエッチング速度を抑制する観点から、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは2.2以上であり、更に好ましくは2.5以上である。これらの観点から、CMP用研磨液のpHは、2.0~4.0、2.2~3.8又は2.5~3.6であってよい。CMP用研磨液のpHは、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0033】
本実施形態のCMP用研磨液は、シリカを含む砥粒及び液状媒体以外の他の成分を更に含んでいてよい。他の成分としては、酸化剤、鉄イオン供給剤、有機酸、防食剤、pH調整剤等が挙げられる。以下、CMP用研磨液に含有される各成分について詳細に説明する。
【0034】
(砥粒)
シリカを含む砥粒としては、例えば、無定形シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、球状シリカ、合成シリカ、中空シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。これらの中でも、研磨対象の研磨後の表面にスクラッチ等の欠陥を生じさせにくくなり、被研磨面の平坦性をより向上させることができる観点から、コロイダルシリカが好ましい。
【0035】
シリカを含む砥粒におけるシリカの含有量は、研磨に必要な研磨速度が得られやすい観点から、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってよく、99質量%以上であってよい。シリカを含む砥粒は、シリカ以外の成分を含んでいてもよく、実質的にシリカからなっていてもよい。シリカを含む砥粒がシリカ以外の成分を含む場合、シリカを含む砥粒の最表面はシリカで構成されている(例えば、砥粒の表面がセリア等の他の成分で被覆されていない)ことが好ましい。なお、研磨液が、シリカを含む砥粒以外の砥粒を含有する場合、砥粒全体(研磨液に含まれる砥粒全体)を基準とするシリカの含有量が上記範囲であってよい。
【0036】
シリカを含む砥粒のD50は、タングステン材料に対するより優れた研磨速度が得られる観点から、好ましくは115nm以下であり、より好ましくは105nm以下、更に好ましくは100nm以下である。D50は、95nm以下、90nm以下、85nm以下又は80nm以下であってもよい。D50は、タングステン材料に対するより優れた研磨速度が得られる観点から、好ましくは50nm以上であり、より好ましくは60nm以上であり、更に好ましくは70nm以上である。D50は、75nm以上、80nm以上、85nm以上又は90nm以上であってもよい。これらの観点から、D50は、例えば、50~150nm、60~115nm、又は70~100nmであってよい。
【0037】
シリカを含む砥粒のD90は、絶縁材料に対する研磨速度をより抑制することができ、より高い研磨速度比が得られる観点から、好ましくは105nm以上である。D90は、110nm以上、115nm以上又は120nm以上であってもよい。D90は、タングステン材料に対するより優れた研磨速度が得られる観点、及び、研磨対象の研磨後の表面にスクラッチ等の欠陥を生じさせにくくなり、被研磨面の平坦性をより向上させることができる観点から、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは180nm以下であり、更に好ましくは160nm以下である。D90は、140nm以下又は125nm以下であってもよい。これらの観点から、D90は、例えば、100~200nm、105~180nm、110~160nmであってよい。
【0038】
上記D90と上記D50との差(D90-D50)は、より高い研磨速度比が得られる観点から、好ましくは22nm以上である。差(D90-D50)は、25nm以上、30nm以上、35nm以上、40nm以上、45nm以上又は50nm以上であってもよい。差(D90-D50)は、より高い研磨速度比が得られる観点から、好ましくは90nm以下であり、より好ましくは60nm以下であり、更に好ましくは55nm以下である。差(D90-D50)は、50nm以下、45nm以下又は40nm以下であってもよい。これらの観点から、差(D90-D50)は、例えば、22~90nm、30~60nm又は35~55nmであってよい。
【0039】
シリカを含む砥粒の含有量は、タングステン材料に対するより優れた研磨速度が得られる観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは1.2質量%以上であり、より好ましくは1.5質量%以上であり、更に好ましくは1.9質量%以上であり、特に好ましくは2.3質量%以上である。シリカを含む砥粒の含有量が5.0質量%を超えると、タングステン材料に対する研磨速度の向上効果は得られにくくなるため、シリカを含む砥粒の含有量は、研磨液の全質量を基準として、5.0質量%以下であってよい。また、研磨対象の研磨後の表面にスクラッチ等の欠陥を生じさせにくくなる点では、研磨液の全質量を基準として、4.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、シリカを含む砥粒の含有量は、例えば、研磨液の全質量を基準として、1.0~5.0質量%、1.2~4.0質量%、1.5~3.0質量%、1.9~3.0質量%又は2.3~3.0質量%であってよい。
【0040】
研磨液は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、シリカを含む砥粒以外の砥粒を含んでいてもよい。
【0041】
(液状媒体)
液状媒体としては、特に制限はないが、脱イオン水、超純水等の水が好ましい。液状媒体の含有量は、他の構成成分の含有量を除いた研磨液の残部でよく、特に限定されない。
【0042】
(酸化剤)
酸化剤は、タングステン材料の研磨速度の向上に寄与する。すなわち、研磨液が酸化剤を含有する場合、タングステン材料の研磨速度がより向上する傾向がある。
【0043】
酸化剤としては、過酸化水素(H2O2)、過ヨウ素酸カリウム、過硫酸アンモニウム、次亜塩素酸、オゾン水等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化剤としては、添加後も比較的安定であり、ハロゲン化物等による汚染の懸念がない点で、過酸化水素が好ましく用いられる。
【0044】
酸化剤の含有量は、研磨速度の向上効果が得られ易い観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上であり、更に好ましくは2質量%以上である。酸化剤の含有量は、タングステン材料のエッチング速度を抑制しやすい観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは10.0質量%以下であり、より好ましくは7.0質量%以下であり、更に好ましくは5.0質量%以下である。
【0045】
(鉄イオン供給剤)
鉄イオン供給剤は、CMP用研磨液中に鉄イオンを供給する。鉄イオンは、好ましくは第二鉄イオンである。鉄イオン供給剤は、例えば、鉄の塩であり、研磨液中では、鉄イオンと、鉄イオン供給剤由来のアニオン成分とに解離した状態で存在してよい。すなわち、鉄イオン供給剤を含有する研磨液は、鉄イオンを含む。CMP用研磨液が鉄イオン供給剤を含有する場合、すなわち、CMP用研磨液が鉄イオンを含む場合、タングステン材料の研磨速度がより向上する傾向がある。なお、鉄イオン供給剤は、酸化剤として機能する場合があるが、鉄イオン供給剤及び酸化剤の両方に該当する化合物は、本明細書では、鉄イオン供給剤に該当するものとする。
【0046】
鉄イオン供給剤は、無機塩であっても有機塩であってもよい。鉄イオンを含む無機塩としては、硝酸鉄、硫酸鉄、ほう化鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、リン酸鉄、フッ化鉄等が挙げられる。鉄イオンを含む有機塩としては、三ぎ酸鉄、二ぎ酸鉄、酢酸鉄、プロピオン酸鉄、シュウ酸鉄、マロン酸鉄、コハク酸鉄、リンゴ酸鉄、グルタル酸鉄、酒石酸鉄、乳酸鉄、クエン酸鉄等が挙げられる。これらの無機塩及び有機塩は、アンモニウム、水等の配位子を含んでもよいし、水和物等であってもよい。鉄イオン供給剤は単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の中でも、研磨装置、基体への汚染が比較的少なく、安価で入手しやすい観点から、硝酸鉄及び硝酸鉄類(水和物等)が好ましい。
【0047】
鉄イオン供給剤の含有量は、研磨液中の鉄イオンの含有量が下記範囲となるように調整してよい。鉄イオンの含有量は、タングステン材料の研磨速度をより向上させる観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.0003質量%以上であり、より好ましくは0.0005質量%以上であり、更に好ましくは0.001質量%以上である。鉄イオンの含有量は、酸化剤等の分解及び変質の発生が起こりにくく、CMP用研磨液を室温(例えば25℃)で保管した後のタングステン材料に対する研磨速度が変化することを抑制しやすい(すなわち、ポットライフに優れる)観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.1質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以下であり、更に好ましくは0.01質量%以下である。これらの観点から、鉄イオンの含有量は、例えば、研磨液の全質量を基準として、0.0003~0.1質量%、0.0005~0.05質量%又は0.001~0.01質量%であってよい。
【0048】
(有機酸)
研磨液が有機酸を含む場合、研磨液に含まれる酸化剤が安定した状態で保たれやすくなり、タングステン材料に対する研磨速度の向上効果が安定的に奏される傾向がある。特に、鉄イオンと酸化剤とを含む研磨液では、酸化剤が鉄イオンによって分解され、また、酸化剤の分解の際に他の添加剤(例えば防食剤)が変質することで、研磨液のポットライフが減少する傾向があるが、研磨液が有機酸を含む場合には、上記酸化剤の分解を抑制することができる。そのため、本実施形態では、酸化剤を含む研磨液において有機酸を用いることが好ましく、鉄イオンと酸化剤とを含む研磨液において有機酸を用いることがより好ましい。なお、有機酸は、pH調整剤として研磨液に含有されてもよい。
【0049】
有機酸により上記効果が得られる理由は、定かではないが、有機酸が研磨液中で解離し、解離した有機酸が鉄イオンをキレートすることで鉄イオンによる酸化剤の分解を抑制することができると推察される。ここで、「解離」とは、研磨液中で有機酸が有する少なくとも1つの酸基(例えば、カルボキシ基(-COOH))からプロトン(H+)が離れ、酸基がアニオン性基(例えば-COO-)の状態で存在することを意味する。
【0050】
有機酸の酸基としては、上記効果が奏されやすくなる観点から、カルボキシ基が好ましい。
【0051】
有機酸は、酸化剤をより安定に保ちやすくなり、タングステン材料の研磨速度をより安定化することができる観点から、炭素-炭素不飽和結合を有しないことが好ましい。有機酸が炭素-炭素不飽和結合を有しないことで酸化剤の安定性が向上する原因は、明らかではないが、炭素-炭素不飽和結合部の反応性が比較的高いため、有機酸が炭素-炭素不飽和結合しないことで、研磨液中の酸化剤との反応による変質が起こらないことが一因と考えられる。
【0052】
有機酸は、2価又は3価の有機酸であることが好ましい。ここで「2価又は3価」とは、有機酸が有する酸基の数を意味する。有機酸が2価又は3価であると、有機酸が有する複数の酸基(例えば、解離した2以上の酸基)によって鉄イオンがキレートされることとなり、酸化剤をより安定に保ちやすくなる傾向がある。
【0053】
有機酸としては、pH2.5における解離率が1%以上となる有機酸が好ましく用いられる。このような有機酸は、研磨液のpHが2.0~4.0である場合に特に好適である。解離した有機酸が鉄イオンのキレートに有効であるため、解離率が1%以上であると、有機酸の必要量を少なくすることができる。この観点から、有機酸のpH2.5における解離率は、より好ましくは3%以上であり、更に好ましくは10%以上である。
【0054】
上記観点から、有機酸としては、炭素-炭素不飽和結合を有しない、2価又は3価の有機酸が好ましく、pH2.5における解離率が1%以上であり、且つ、炭素-炭素不飽和結合を有しない、2価又は3価の有機酸が更に好ましい。
【0055】
好ましい有機酸の具体例としては、マロン酸(pH2.5における解離率:41.4%)、コハク酸(pH2.5における解離率:3.1%)、グルタル酸(pH2.5における解離率:1.4%)、アジピン酸(pH2.5における解離率:1.7%)、リンゴ酸(pH2.5における解離率:15.4%)、クエン酸(pH2.5における解離率:19.0%)等が挙げられる。これらの有機酸は一種を単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
鉄イオン1原子に対する解離した有機酸の分子数の比は、鉄イオンを充分にキレートし、酸化剤の安定性を高める観点から、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは4以上であり、更に好ましくは6以上である。解離した有機酸の分子数は、有機酸の解離率から算出できる。有機酸の解離率は、研磨液のpH、有機酸の酸解離定数に基づき算出することができる。
【0057】
有機酸の含有量は、有機酸の鉄イオンを充分にキレートし、酸化剤の安定性を高める観点から、鉄イオン1原子に対する解離した有機酸の分子数の比が上述した範囲となるように調整されることが好ましい。例えば、有機酸としてマロン酸を用い、鉄イオンの含有量を0.001質量%とし、研磨液のpHを2.5とする場合、マロン酸のpH2.5における解離率は41.4%であるため、マロン酸の配合量は好ましくは0.009質量%(鉄イオン1原子に対して解離したマロン酸が2分子)以上である。なお、上記配合量は、マロン酸の分子量が104.06、鉄イオンの原子量を55.85として、鉄イオンのモル量を鉄イオンの原子量と配合量から計算し、そのモル量、マロン酸の解離率及び分子量、並びに、鉄イオン1原子に対するマロン酸の配合比率から計算して求めた。
【0058】
(防食剤)
研磨液は、タングステン材料のエッチング速度を抑制する観点から、防食剤を含んでいてもよい。防食剤としては、一般的なアゾール系防食剤、下記式(1)で表される化合物等を使用することができる。ただし、ポットライフが低下することを防ぐ観点から、チオール基又は炭素-炭素不飽和結合を有しない、アゾール化合物又は下記式(1)で表される化合物が好ましく、チオール基及び炭素-炭素不飽和結合を有しない、アゾール化合物又は下記式(1)で表される化合物がより好ましい。チオール基及び/又は炭素-炭素不飽和結合を有する、アゾール化合物又は下記式(1)で表される化合物を用いた場合、エッチング速度が上昇してしまう傾向があり、さらにポットライフも低下する傾向がある。この原因は明らかではないが、研磨液中の酸化剤がチオール基及び/又は炭素-炭素不飽和結合部位と反応することで、酸化剤及び防食剤が変質してしまうことが原因の一つとして考えられる。したがって、本実施形態では、研磨液がチオール基及び/又は炭素-炭素不飽和結合部位と反応する酸化剤を含む場合において、研磨液が、チオール基又は炭素-炭素不飽和結合を有しないアゾール化合物、下記式(1)で表され、且つ、チオール基又は炭素-炭素不飽和結合を有しない化合物、チオール基及び炭素-炭素不飽和結合を有しないアゾール化合物、並びに、下記式(1)で表され、且つ、チオール基及び炭素-炭素不飽和結合を有しない化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
H2N-X-COOH (1)
[式中、Xは、置換基を有していてもよい、炭素数が1以上の炭化水素基を示す。]
【0059】
式(1)中、炭化水素基は、直鎖状であってよく、分枝状であってもよい。炭化水素基は、飽和又は不飽和のいずれであってもよいが、飽和である(炭素-炭素不飽和結合を有しない)ことが好ましい。炭化水素基の炭素数は、例えば、1~16であってよい。置換基は、例えば、ハロゲン原子、複素原子を含む基等であってよいが、チオール基でないこと好ましい。炭化水素基は、好ましくは、直鎖状又は分枝状のアルキレン基であり、より好ましくは直鎖状のアルキレン基である。
【0060】
防食剤としては、グリシン、6-アミノヘキサン酸、1,2,4-トリアゾール、1H-テトラゾール、1,2,4-トリアゾール-3-カルボサミド、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、5-メチルテトラゾール、5-アミノ-1H-テトラゾール、1H-テトラゾール-1-酢酸、1,5-ペンタメチレンテトラゾール、3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール、1H-1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾールカルボン酸エチルエステル、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸メチル及びこれらの誘導体が挙げられる。これらの中でも、タングステン材料のエッチング速度を抑制しやすい観点から、グリシン、6-アミノヘキサン酸、1,2,4-トリアゾール及び4-アミノ-1,2,4-トリアゾールが好ましい。
【0061】
防食剤の含有量は、タングステン膜のエッチング速度を抑制する観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.003質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上であり、更に好ましくは0.01質量%以上であり、特に好ましくは0.02質量%以上である。防食剤の含有量は、タングステン材料の研磨速度の上昇効果が得られ難くなること避ける観点から、研磨液の全質量を基準として、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、更に好ましくは0.2質量%以下である。これらの観点から、0.003~0.5質量%、0.005~0.3質量%、0.01質量%~0.3質量%又は0.02質量%~0.2質量%であってよい。
【0062】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、既知の有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基を用いることができる。
【0063】
有機酸としては、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、リンゴ酸、クエン酸、ブタンテトラカルボン等を用いることができる。無機酸としては、硫酸、硝酸、リン酸、塩酸等を用いることができる。これらの有機酸と無機酸は二種以上を組み合わせて用いてよい。
【0064】
有機塩基としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、モノエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を用いることができる。無機塩基としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。これらの有機塩基と無機塩基は二種以上を組み合わせてよい。
【0065】
(その他の成分)
研磨液は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、上述した成分以外の他の成分を含んでいてもよい。例えば、研磨液は、ポリアクリル酸等の陰イオン性界面活性剤、ポリエチレンイミン等のカチオン性界面活性剤、ポリグリセリン、ポリアクリルアミド等のノニオン性界面活性剤などの調整剤を含んでいてもよい。
【0066】
以上より、本実施形態の研磨液としては、シリカを含む砥粒と、酸化剤と、有機酸と、水とを含有し、砥粒のD50が50~115nmであり、砥粒のD90が100~200nmであり、上記D90と上記D50との差(D90-D50)が21nm以上であり、シリカを含む砥粒の含有量が、研磨液の全質量を基準として、1.0~5.0質量%であり、pHが2.0~4.0であるCMP用研磨液が好ましく、上記シリカを含む砥粒がコロイダルシリカであるCMP用研磨液がより好ましく、鉄イオン供給剤を更に含有するCMP用研磨液が更に好ましい。
【0067】
以上説明した研磨液は、CMPに用いられる研磨液として広く使用可能であるが、特にタングステン材料を研磨するためのCMP用研磨液に好適である。具体的には、例えば、絶縁材料からなる第1の部分と、当該第1の部分上に設けられた、タングステン材料からなる第2の部分とを備える基体(例えば基板)の、少なくとも第2の部分を研磨するために用いられる。研磨液は、第2の部分に加えて第1の部分を研磨するために用いられてもよい。
【0068】
第1の部分は、例えば、絶縁材料を含む膜(絶縁膜)の一部又は全部であってよい。絶縁材料としては、例えば、シリコン系絶縁材料、有機ポリマ系絶縁材料等が挙げられる。シリコン系絶縁材料としては、酸化ケイ素(例えば、テトラエチルオルトケイ酸(TEOS)を用いて得られた二酸化ケイ素)、窒化ケイ素、テトラエトキシシラン、フルオロシリケートグラス、トリメチルシラン、ジメトキシジメチルシランを出発原料として得られるオルガノシリケートグラス、シリコンオキシナイトライド、水素化シルセスキオキサン、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド等が挙げられる。有機ポリマ系絶縁材料としては、全芳香族系低誘電率絶縁材料等が挙げられる。
【0069】
第2の部分は、例えば、タングステン材料を含む膜(タングステン膜)の一部又は全部であってよい。タングステン材料としては、例えば、タングステン、窒化タングステン、タングステンシリサイド、タングステン合金が挙げられる。タングステン材料中のタングステンの含有量は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。
【0070】
基体は、第1の部分と第2の部分との間に、バリア材料からなる第3の部分を更に備えていてよい。研磨液は、第2の部分(更には第1の部分)に加えて第3の部分を研磨するために用いられてよい。第3の部分は、例えば、バリア材料を含む膜(バリア膜)の一部又は全部であってよい。バリア材料としては、例えば、タンタル、窒化タンタル、チタン、窒化チタン等が挙げられる。
【0071】
上記のような基体としては、ダマシン法による配線形成プロセスに適用される基板が挙げられる。換言すれば、上記実施形態のCMP用研磨液は、ダマシン法による配線形成プロセスに使用されるCMP用研磨液に好適である。
【0072】
CMP用研磨液は、上述した砥粒と液状媒体とを含有する分散体の状態で保管又は運搬されてよい。分散体は、上述したCMP用研磨液から液状媒体の一部を除去し濃縮したものであってよく、上述したCMP用研磨液を液状媒体で希釈したものであってもよい。換言すれば、CMP用研磨液は、液状媒体の一部を除去し濃縮した状態で保管又は運搬されてよく、液状媒体によって希釈された状態で保管又は運搬されてよい。分散体には、シリカを含む砥粒及び液状媒体以外の他の成分(添加剤)が含まれなくてもよい。例えば、CMP用研磨液は、その構成成分が第1の液(シリカを含む砥粒と液状媒体とを含有する液)と第2の液(添加剤と液状媒体とを含有する液)とに分けられた、研磨液セットの状態で保管又は運搬されてもよい。この場合、使用時に第1の液と第2の液とを混ぜ合わせて使用してよい。また、CMP用研磨液は、砥粒と、液状媒体と、に分けた状態で保管又は運搬されてもよい。この場合、使用時に砥粒と液状媒体を混ぜ合わせて使用してよい。
【0073】
<CMP用研磨液の製造方法>
本実施形態のCMP用研磨液の製造方法は、例えば、シリカを含む砥粒と液状媒体とを混合する工程とを備える。上記工程では、シリカを含む砥粒の含有量が、研磨液の全量を基準として、1.0質量%以上となるようにシリカを含む砥粒を配合する。上記工程で使用するシリカを含む砥粒のD50は150nm以下であり、D90は100nm以上であり、D90とD50との差(D90-D50)は21nm以上である。D90及びD50は、上記砥粒を、研磨液中での砥粒濃度と同程度の濃度となるように水中に分散させて水分散液とし、当該分散液に対して上述した方法を適用することで測定することができる。本実施形態の方法によれば、上述した研磨液を得ることができる。
【0074】
シリカを含む砥粒の配合量は、研磨液中のシリカを含む砥粒の含有量が上述した範囲となるように調整してよい。また、シリカを含む砥粒のD50、D90及びD90とD50との差の好適な範囲は、上記研磨液に関して説明した好適な範囲と同じである。
【0075】
上記工程では、シリカを含む砥粒以外の他の成分(酸化剤、鉄イオン供給剤、有機酸、防食剤、pH調整剤等)を更に混合してよい。これらの成分の配合量は、研磨液中の各成分の含有量が上述した範囲となるように調整してよい。
【0076】
本実施形態のCMP用研磨液は、シリカを含む砥粒と液状媒体とを混合することにより予め調製した分散体を希釈又は濃縮することにより得てもよい。また、本実施形態のCMP用研磨液は、予め調製した、シリカを含む砥粒と液状媒体とを含有する第1の液、及び、添加剤と液状媒体とを含有する第2の液を混ぜ合わせることにより得てもよい。
【0077】
<研磨方法>
本実施形態の研磨方法は、上記実施形態の研磨液を用いて、被研磨材料(例えばタングステン材料等)をCMPによって除去する工程を備える。本実施形態の研磨方法では、例えば、被研磨材料を備える基体(基板等)を、研磨装置を用いて研磨する。研磨装置としては、例えば、研磨パッド(研磨布)が貼り付けられ、回転数が変更可能なモータ等が取り付けられた研磨定盤と、基体を保持するホルダー(ヘッド)とを備える、一般的な研磨装置を使用することができる。研磨パッドとしては、特に制限はないが、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等を使用することができる。
【0078】
本実施形態の研磨方法は、例えば、被研磨材料を備える基体を用意する工程(用意工程)と、当該基体を研磨パッド上に配置する工程(配置工程)と、研磨液を用いて当該基体を研磨する工程(研磨工程)と、を備える。以下では、被研磨材料を備える基体として上述した上述した第1の部分と第2の部分と第3の部分とを備える基体を用いる態様を例に挙げて、
図1を用いて、本実施形態の研磨方法の詳細を説明する。
【0079】
まず、
図1(a)に示すように、研磨前の基体として、表面に溝が形成された絶縁材料からなる第1の部分1と、第1の部分1上に設けられた第2の部分2と、第1の部分1と第2の部分2との間に設けられた第3の部分3とを備える基体(基板)100を用意する(用意工程)。第2の部分2は、タングステン材料からなり、第1の部分と第3の部分によって形成された凹部を埋めるように堆積されている。第3の部分3は、バリア材料からなり、第1の部分1の表面の凹凸に追従するように形成されている。
【0080】
次に、
図1(b)に示すように、第2の部分2における第1の部分1とは反対側の表面と研磨パッド10とが対向するように、基体100を研磨パッド10上に配置する(配置工程)。
【0081】
次に、基体100を研磨パッド10に押圧した状態で、研磨パッド10と基体100との間に上記実施形態のCMP用研磨液を供給すると共に、研磨パッド10と基体100とを相対的に動かすことにより少なくとも第2の部分を研磨する(研磨工程)。この際、第1の部分1が露出するまで第2の部分2及び第3の部分3を除去してもよく、第1の部分1を余分に研磨するオーバー研磨を行ってもよい。このようなオーバー研磨により、研磨後の被研磨面の平坦性を高めることができる。以上の操作により、
図1(c)に示す基体200が得られる。
【0082】
研磨条件は、特に制限はないが、基体が飛び出さないように、研磨定盤の回転数を200rpm以下にすることが好ましい。タングステン材料を備える基体を用いる場合、研磨圧力は好ましくは3~100kPaである。研磨速度の研磨面内での均一性が良好となり、良好な平坦性が得られる観点から、研磨圧力は5~50kPaであることがより好ましい。研磨している間、研磨パッドにはCMP用研磨液をポンプ等で連続的に供給することが好ましい。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨液で覆われていることが好ましい。研磨パッドの表面状態を常に同一にしてCMPを行うために、研磨の前及び/又は研磨中に研磨布のコンディショニング工程を実施することが好ましい。例えば、ダイヤモンド粒子のついたドレッサを用いて少なくとも水を含む液で研磨パッドのコンディショニングを行う。続いて、本実施形態の研磨方法を実施し、さらに、基板洗浄工程を実施することが好ましい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0084】
(砥粒の用意)
以下の実施例及び比較例では、シリカを含む砥粒として、表1に示すD50及びD90を有するシリカ粒子(コロイダルシリカ)A、B、C、D、E、F、G、H、I、J及びKを用いた。なお、表1に示すシリカ粒子のD50及びD90は、遠心式の粒度分布計である日本ルフト社製の装置(製品名:DC24000)を用いて、25℃で測定した。測定には、シリカ粒子を、砥粒濃度(シリカ粒子濃度)が0.5~3.0質量%となるように純水で希釈して得た測定サンプルを用いた。
【0085】
【0086】
(実施例1)
脱イオン水に、マロン酸、硝酸鉄九水和物及びシリカ粒子(シリカ粒子A)を配合した。次いで、過酸化水素を加えてCMP用研磨液1を得た。各成分の配合量は表2に示す通り、研磨液中でのマロン酸の含有量が0.04質量%、硝酸鉄九水和物の含有量が0.008質量%、シリカ粒子Aの含有量が1.0質量%、過酸化水素の含有量が3.0質量%となるように調整した。
【0087】
(実施例2~6)
シリカ粒子Aに代えて表2に示すシリカ粒子を用いたこと、及び、研磨液中のシリカ粒子の含有量が表2に示す値となるように、シリカ粒子の配合量を調整したこと以外は、実施例2と同様にして、CMP用研磨液2~6を作製した。
【0088】
(実施例7~8)
有機酸を表3に示す有機酸とし、有機酸の配合量を表3に示す配合量としたこと以外は、実施例5と同様にして、CMP用研磨液7~8を作製した。
【0089】
(実施例9)
マロン酸に代えてマレイン酸を用いたこと、及び、研磨液中のマレイン酸の含有量が0.10質量%となるようにマレイン酸の配合量を調整したこと以外は、実施例3と同様にして、CMP用研磨液9を作製した。
【0090】
(実施例10)
硝酸鉄九水和物量を0.04質量%としたこと以外は、実施例3と同様にして、CMP用研磨液7を作製した。
【0091】
(実施例11~12)
防食剤を表3に示す防食剤とし、防食剤の配合量を表3に示す配合量としたこと以外は、実施例3と同様にして、CMP用研磨液11~12を作製した。
【0092】
(比較例1~6)
シリカ粒子Aに代えて表4に示すシリカ粒子を用いたこと、及び、研磨液中のシリカ粒子の含有量が表4に示す値となるように、シリカ粒子の配合量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、CMP用研磨液13~18を作製した。
【0093】
<評価>
(粒度分布測定)
CMP用研磨液1~18中のシリカ粒子のD50及びD90を、遠心式の粒度分布計である日本ルフト社製の装置(製品名:DC24000)を用いて、25℃で測定した。結果を表2~4に示す。
【0094】
(pH測定)
CMP用研磨液1~18のpHを下記の条件で測定した。結果を表2~4に示す。
[測定条件]
測定温度:25℃
測定装置:株式会社堀場製作所の製品名:Model(F-51)
測定方法:フタル酸塩pH標準液(pH:4.01)と、中性リン酸塩pH標準液(pH:6.86)と、ホウ酸塩pH標準液(pH:9.18)とをpH標準液として用い、pHメーターを3点校正した後、pHメーターの電極を研磨剤に入れて、2分間以上経過して安定した後のpHを上記測定装置により測定した。
【0095】
(有機酸の解離率の測定)
以下の式に基づき研磨液中での有機酸の解離率を求め、鉄イオンの1原子に対する解離した有機酸の分子数の比を算出した。
有機酸の乖離率(%)=100×A
A=(K1/B)×(1/(1+K1/B+K1×K2/B^2))
B=10^(-pH)
K1,K2=有機酸の解離定数
【0096】
(研磨速度評価)
CMP用研磨液1~18を用いて、タングステン材料及び絶縁材料の研磨速度を測定した。研磨速度の測定は、以下の評価用基板を以下の研磨条件で研磨することにより行った。
【0097】
[研磨速度評価用基板]
タングステン膜を有する基板:シリコン基板上に厚さ700nmのタングステンが製膜された、12インチタングステン膜基板
絶縁膜を有する基板:シリコン基板上に厚さ1000nmのTEOS(テトラエトキシシラン)が製膜された、12インチTEOS膜基板
【0098】
[研磨条件]
研磨パッド:IC1010(ニッタ・ハース株式会社)
研磨圧力:20.7kPa
定盤回転数:93rpm
ヘッド回転数:87rpm
CMP用研磨液供給量:300ml
タングステン膜の研磨時間:30秒
絶縁膜(TEOS膜)の研磨時間:60秒
【0099】
タングステン材料の研磨速度は、タングステン膜のCMP前後での膜厚差を抵抗測定器VR-120/08S(日立国際電気社製)を用いて電気抵抗値から換算して求めた。結果を表2~4に示す。なお、同一条件のCMPにおいて、タングステン材料の研磨速度は350nm/min以上であることが好ましい。
【0100】
絶縁材料(TEOS)の研磨速度は、絶縁膜(TEOS膜)のCMP前後での膜厚差を、光学式膜厚計F50(フィルメトリクス社製)を用いて測定した。結果を表2~4に示す。なお、同一条件のCMPにおいて、絶縁材料の研磨速度は80nm/min以下であることが好ましい。また、タングステン材料の研磨速度と絶縁材料の研磨速度の比r(タングステン材料の研磨速度/絶縁材料の研磨速度)は5.0以上であることが好ましい。
【0101】
(ポットライフ評価)
ポットライフの指標として、CMP用研磨液を室温で1週間保管した後のタングステン材料の研磨速度の維持率を評価した。タングステン材料の研磨速度の維持率は、CMP用研磨液を調製した直後(12時間以内)に測定したタングステン材料の研磨速度(R1)と、室温(25℃)で1週間保管したCMP用研磨液で同様に測定したタングステン材料の研磨速度(R2)から、下記式により求めた。結果を表2~4に示す。なお、タングステン材料の研磨速度の維持率は、95%以上であることが好ましい。
タングステン研磨速度維持率(%)=100×R1/R2
【0102】
【0103】
【0104】
【符号の説明】
【0105】
1…第1の部分1、2…第2の部分2、3…第3の部分、10…研磨パッド、100,200…基板(基体)。