(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料の製造方法、繊維強化複合材料、及び、成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240611BHJP
B29C 70/18 20060101ALI20240611BHJP
B29C 70/50 20060101ALI20240611BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
B29B11/16
B29C70/18
B29C70/50
B29K105:12
(21)【出願番号】P 2023568047
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2022044316
(87)【国際公開番号】W WO2023127389
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2021212278
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】永田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】人見 一迅
(72)【発明者】
【氏名】濱田 健一
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-131028(JP,A)
【文献】特公昭59-010295(JP,B2)
【文献】国際公開第2020/175266(WO,A1)
【文献】特開2007-283492(JP,A)
【文献】特開昭48-094764(JP,A)
【文献】特開2004-099820(JP,A)
【文献】特開平01-249409(JP,A)
【文献】国際公開第2021/106585(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110912(WO,A1)
【文献】特開昭62-073914(JP,A)
【文献】実開平03-112314(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維に樹脂組成物を含浸させて繊維強化複合材料を製造する方法において、
キャリアフィルム上に、前記強化繊維と前記樹脂組成物を積層して積層物を調製する工程と、
前記積層物を、複数の含浸ロールを回転させながら押圧・進行することにより、前記強化繊維に、前記樹脂組成物を含浸する工程と、を含み、
前記複数の含浸ロールの内、少なくとも、隣り合う2つの含浸ロールが、それぞれの表面に凹凸状の溝を有し、
前記隣り合う2つの含浸ロールの一方の表面に有する凸部と凸部の間に、前記隣り合う2つの含浸ロールのもう一方の表面に有する凸部が配置され、
前記複数の含浸ロールが、略同一平面上にあり、
前記凹凸状の溝を有する前記隣り合う2つの含浸ロールとして、凸部の幅が凹部の幅よりも狭い含浸ロールと、凸部の幅が凹部の幅よりも広い含浸ロールとを備えることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記強化繊維に、前記樹脂組成物を含浸した後、加熱する工程、を含むことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記複数の含浸ロールの内、前記進行する方向に対して、最終ロールが、表面が平滑であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記進行する方向に対して、前記凸部の幅が広くなることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項
1又は2に記載の繊維強化複合材料を用いて得られることを特徴とする成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料の製造方法、前記製造方法により得られる繊維強化複合材料、及び、前記繊維強化複合材料を用いて得られる成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維を強化繊維として、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を強化した繊維強化複合材料は、軽量でありながら、耐熱性や機械強度に優れる特徴が注目され、住設部材、自動車部品、電気部品などに広く使用されている。
【0003】
上記繊維強化複合材料に関して、エポキシ樹脂を使用した材料の成形方法としては、プリプレグと呼ばれる成形材料を加圧可能なオートクレーブで加熱し、硬化させるオートクレーブ法が知られており、不飽和ポリエステル樹脂を使用した材料の成形方法としては、シートモールディングコンパウンド(SMC)と呼ばれる中間材料を用いて、プレス成形、射出成形等の手法により、硬化、成形させる方法が知られている。特に近年では、生産性に優れる材料開発が活発に行われている。
【0004】
また、上記SMCとしては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、無機充填剤、硬化剤、増粘剤、その他添加剤からなる液状の樹脂コンパウンド(樹脂組成物)をドクターナイフ方式などにより、キャリアフィルム上に一定の厚みで塗布した2組の樹脂コンパウンド層の間に、裁断したガラス繊維や炭素繊維等からなる強化繊維を挟み込み、強化繊維に樹脂コンパウンドを含浸させ、ロール状に巻き取り、その後、樹脂を増粘させることで(Bステージ化)、取り扱いに優れたシート状の成形材料(SMC)を繊維強化複合材料として得られるものである。なお、この樹脂コンパウンド(樹脂組成物)は、キャリアフィルム上に一定の厚みで塗布する際には液状で、強化繊維に含浸した後に、増粘後は、シート状の成形材料(SMC)を形成していることが求められる。
【0005】
また、上記成形材料の中でも、炭素繊維を強化繊維として用いた炭素繊維強化複合材料は、自動車部品などに加えて、航空機等の筐体を軽量化する材料として、需要が高まっている。
【0006】
また、炭素繊維を強化繊維として用いたSMCは、高強度で高弾性率の性能が求められる場合が多く、炭素繊維の含有量は、通常、SMC中、40質量%以上と高くする必要がある。炭素繊維は、比重が軽く、裁断した際に、その嵩密度が大きくなる。また、炭素繊維は、一般的に樹脂コンパウンドと親和性が低いため、嵩高い、高濃度の炭素繊維に樹脂コンパウンドを含浸させるためには、効率良く、樹脂コンパウンドの炭素繊維間に浸透させる必要がある。
【0007】
上記強化繊維に樹脂コンパウンドを含浸させる方法として、例えば、剥離シート上に一定厚みで塗布して積層物とし、これを多数の針状の突起を有する回転ロールを用いて、押圧し、含浸させる方法などが挙げられる(特許文献1)。
【0008】
ただ、上記強化繊維として、炭素繊維を使用する場合、前記炭素繊維は、引張弾性率が高いものの、しなやかで柔らかいため、繊維が屈曲した場合、元の直線状に戻りにくいため、メッシュベルトや凹凸ロールによって押圧された部分が、そのままの形状を維持した状態となり、SMC表面に凹凸が転写される場合がある。この状態でSMCを熟成(Bステージ化)すると、凹凸模様が残った状態のSMCが製造されてしまう。このSMCを成形すると、成形品表面にも凹凸模様が残り、外観不良となる恐れがあり、問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、表面に凹凸状の溝を有する隣り合う含浸ロールのそれぞれの凸部の配置を制御することで、Bステージ化後のシート状の成形材料(繊維強化複合材料)や、前記繊維強化複合材料を用いて得られる成形品における含浸ロールに起因する凹凸模様の発生を回避できる、繊維強化複合材料の製造方法、前記繊維強化複合材料の製造方法により得られる繊維強化複合材料、及び、前記繊維強化複合材料を用いて得られる成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、表面に凹凸状の溝を有する隣り合う含浸ロールのそれぞれの凸部の配置を制御することで、Bステージ化後のシート状の成形材料(繊維強化複合材料)や、前記繊維強化複合材料を用いて得られる成形品における含浸ロールに起因する凹凸模様の発生を回避できる繊維強化複合材料の製造方法を見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、強化繊維に樹脂組成物を含浸させて繊維強化複合材料を製造する方法において、キャリアフィルム上に、前記強化繊維と前記樹脂組成物を積層して積層物を調製する工程と、前記積層物を、複数の含浸ロールを回転させながら押圧・進行することにより、前記強化繊維に、前記樹脂組成物を含浸する工程と、を含み、前記複数の含浸ロールの内、少なくとも、隣り合う2つの含浸ロールが、それぞれの表面に凹凸状の溝を有し、前記隣り合う2つの含浸ロールの一方の表面に有する凸部と凸部の間に、前記隣り合う2つの含浸ロールのもう一方の表面に有する凸部が配置され、前記複数の含浸ロールが、略同一平面上にあることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法に関する。
【0013】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記強化繊維に、前記樹脂組成物を含浸した後、加熱する工程、を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記複数の含浸ロールの内、前記進行する方向に対して、最終ロールが、平滑のロールであることが好ましい。
【0015】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記凹凸状の溝の内、凸部の幅が、凹部の幅よりも広いものを用いることができる。
【0016】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記凹凸状の溝の内、凸部の幅が、凹部の幅よりも狭いものを用いることができる。
【0017】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記進行する方向に対して、前記凸部の幅が広くなることが好ましい。
【0018】
本発明は、前記繊維強化複合材料の製造方法により得られることを特徴とする繊維強化複合材料に関する。
【0019】
本発明は、前記繊維強化複合材料を用いて得られることを特徴とする成形品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、表面に凹凸状の溝を有する隣り合う含浸ロールのそれぞれの凸部の配置を制御することで、Bステージ化後のシート状の成形材料(繊維強化複合材料)や、前記繊維強化複合材料を用いて得られる成形品における含浸ロールに起因する凹凸模様の発生を回避でき、前記製造方法を用いて得られる繊維強化複合材料は、外観性に優れ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明を実施するための具体的な製造工程を示す模式図である。
【
図2】本発明を実施するための具体的な装置に含まれる含浸ロールを示す平面図、及び、断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
[樹脂組成物]
本発明の繊維強化複合材料の製造方法に用いる樹脂組成物としては、特に制限されないが、熱硬化性樹脂等の用途に使用される樹脂等を使用することが好ましく、例えば、ビニルエステル樹脂、不飽和単量体、ポリイソシアネート、及び、重合開始剤などを原料成分として使用することができる。
【0024】
[ビニルエステル樹脂]
前記ビニルエステル樹脂としては、エポキシ樹脂と不飽和単量体(例えば、(メタ)アクリル酸)とを反応させることにより得られるが、成形時のフィルム剥離性やタック性等の取扱性と流動性とのバランスに優れることから、前記エポキシ樹脂のエポキシ基(EP)と前記(メタ)アクリル酸のカルボキシル基(COOH)とのモル比(COOH/EP)を0.6~1.1の範囲で反応させることが好ましい。
【0025】
また、上記バランスの観点から、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、170~360g/eqの範囲が好ましく、180~280g/eqの範囲がより好ましい。
【0026】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方をいう。
【0027】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、オキゾドリドン変性エポキシ樹脂、これらの樹脂の臭素化エポキシ樹脂等のフェノールのグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテル等の多価アルコールのグリシジルエーテル、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、1-エポシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジル-p-オキシ安息香酸、ダイマー酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、トリグリシジル-p一アミノフェノール、N,N-ジグリシジルアニリンなどのグリシジルアミン、1,3-ジグリシジル-5,5-ジメチルヒダントイン、トリグリシジルイソシアヌレートなどの複素環式エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、成形品強度と成形材料の取り扱い性、成形材料の成形時の流動性により優れることから2官能性芳香族系エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。なお、これらのエポキシ樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0028】
また、前記エポキシ樹脂としては、エポキシ当量を調整するために、ビスフェノールA等の二塩基酸により、高分子量化し、使用してもよい。
【0029】
前記エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応は、エステル化触媒を用い、60~140℃において行われることが好ましい。また、重合禁止剤等を使用することもできる。なお、前記エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応により、ビニルエステル樹脂を得ることができる。
【0030】
[不飽和単量体]
前記不飽和単量体としては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートアルキルエーテル、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートアルキルエーテル、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート等の単官能(メタ)アクリレート化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート化合物;ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、スチレンなどが挙げられるが、これらの中でも、より高強度の成形材料が得られることから、芳香族を有する不飽和単量体が好ましく、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレートがより好ましい。なお、これらの不飽和単量体は単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0031】
前記ビニルエステル樹脂と前記不飽和単量体との質量比(ビニルエステル樹脂/不飽和単量体)は、強化繊維への樹脂含浸性、取り扱い性と硬化性のバランスがより向上することから、40/60~85/15の範囲が好ましく、50/50~70/30の範囲がより好ましい。
【0032】
[ポリイソシアネート]
前記ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-体、2,4’-体、又は2,2’-体、もしくはそれらの混合物)、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体、ヌレート変性体、ビュレット変性体、ウレタンイミン変性体、ジエチレングリコールやジプロピレングリコール等の数平均分子量1,000以下のポリオールで変性したポリオール変性体等のジフェニルメタンジイソシアネート変性体、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート変性体、ビュレット変性体、アダクト体、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらの中でも、取り扱い性(フィルム剥離性・タック性)に優れる成形材料が得られることから、芳香族ポリイソシアネートが好ましい。なお、これらのポリイソシアネートは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0033】
前記ポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)と前記ビニルエステル樹脂の水酸基(OH)とのモル比(NCO/OH)は、溶融粘度を容易に制御できることから、0.5~0.95の範囲が好ましく、0.55~0.85がより好ましい。
【0034】
[重合開始剤]
前記重合開始剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物が好ましく、例えば、ジアシルパーオキサイド化合物、パーオキシエステル化合物、ハイドロパーオキサイド化合物、ケトンパーオキサイド化合物、アルキルパーエステル化合物、パーカーボネート化合物、パーオキシケタール等が挙げられ、成形条件に応じて適宜選択できる。なお、これらの重合開始剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0035】
また、前記有機過酸化物の中でも、成形時間を短縮する目的で、10時間半減期を得るための温度が70~110℃の重合開始剤を使用するのが好ましい。前記温度の範囲内であれば、繊維強化複合材料の常温でのライフが長く、また、加熱により短時間で硬化ができるため好ましく、硬化性と成形性のバランスがより優れる。このような重合開始剤としては、例えば、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルパーオキシジエチルアセテート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジーtert-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート、t-アミルパーオキシトリメチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0036】
前記重合開始剤の含有量としては、硬化特性と保存安定性が共に優れることから、前記ビニルエステル樹脂と前記不飽和単量体との総量に対して、0.3~3質量%の範囲が好ましい。
【0037】
前記樹脂組成物としては、前記ビニルエステル樹脂、前記不飽和単量体、前記ポリイソシアネート、及び、前記重合開始剤以外のものを使用してもよく、例えば、前記ビニルエステル樹脂以外の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、重合禁止剤、硬化促進剤、充填剤、低収縮剤、離型剤、増粘剤、減粘剤、顔料、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、抗菌剤、紫外線安定剤、補強材、光硬化剤等を含有することができる。
【0038】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、ビニルウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。また、これらの熱硬化性樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0039】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイソプレン樹脂およびこれらを共重合等により変性させたものが挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0040】
前記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、p-t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、トルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、ナフテン酸銅、塩化銅等が挙げられる。これらの重合禁止剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0041】
前記硬化促進剤としては、例えば、ナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルト、オクテン酸バナジル、ナフテン酸銅、ナフテン酸バリウム等の金属石鹸類、バナジルアセチルアセテート、コバルトアセチルアセテート、鉄アセチルアセトネート等の金属キレート化合物が挙げられる。またアミン類として、N,N-ジメチルアミノ-p-ベンズアルデヒド、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N-エチル-m-トルイジン、トリエタノールアミン、m-トルイジン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェニルモルホリン、ピペリジン、ジエタノールアニリン等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0042】
前記充填剤としては、無機化合物、有機化合物があり、成形品強度、弾性率、衝撃強度、疲労耐久性等の物性を調整するために使用できる。
【0043】
前記無機化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ、タルク、カオリン、クレー、セライト、アスベスト、バーライト、バライタ、シリカ、ケイ砂、ドロマイト石灰石、石こう、アルミニウム微粉、中空バルーン、アルミナ、ガラス粉、水酸化アルミニウム、寒水石、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、二酸化モリブデン、鉄粉等が挙げられる。
前記有機化合物としては、セルロース、キチン等の天然多糖類粉末や、合成樹脂粉末等があり、合成樹脂粉末としては、硬質樹脂、軟質ゴム、エラストマーまたは重合体(共重合体)などから構成される有機物の粉体やコアシェル型などの多層構造を有する粒子を使用できる。具体的には、ブタジエンゴムおよび/またはアクリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム等からなる粒子、ポリイミド樹脂粉末、フッ素樹脂粉末、フェノール樹脂粉末などが挙げられる。これらの充填剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0044】
前記離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、カルナバワックスなどが挙げられる。好ましくは、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、カルナバワックス等が挙げられる。これらの離型剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0045】
前記増粘剤としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等の金属酸化物や金属水酸化物など、アクリル樹脂系微粒子などが挙げられる。これらの増粘剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0046】
また、前記樹脂組成物の粘度は、強化繊維への樹脂含浸性が向上することから、200~8000mPa・s(25℃)の範囲が好ましい。
【0047】
[強化繊維]
前記強化繊維としては、特に制限されないが、機械的強度や耐久性の観点から、炭素繊維が好ましく、高強度の炭素繊維が得られることから、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系などの各種のものが使用でき、中でも、容易に高強度の炭素繊維が得られることから、ポリアクリロニトリル系のものがより好ましい。
【0048】
前記炭素繊維としては、2.5~50mmの長さにカットした炭素繊維が用いられるが、成形時の金型内流動性、成形品の外観及び機械的物性がより向上することから、5~40mmにカットした炭素繊維がより好ましい。
【0049】
前記炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数は、樹脂含浸性及び成形品の機械的物性がより向上することから、1000~60000が好ましい。
【0050】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法により得られる繊維強化複合材料の成分中の、前記強化繊維の含有率は、得られる繊維強化複合材料から得られる成形品の機械的強度がより向上することから、20~80質量%の範囲が好ましく、40~70質量%の範囲がより好ましい。前記強化繊維の含有率が低いと、高強度な成形品が得られない可能性があり、前記強化繊維の含有率が高いと、繊維への樹脂含浸性が不十分で、成形品に膨れが生じ、やはり高強度な成形品が得られない可能性がある。
【0051】
[繊維強化複合材料の製造方法]
本発明は、強化繊維に樹脂組成物を含浸させて繊維強化複合材料を製造する方法において、キャリアフィルム上に、前記強化繊維と前記樹脂組成物を積層して積層物を調製する工程と、前記積層物を、複数の含浸ロールを回転させながら押圧・進行することにより、前記強化繊維に、前記樹脂組成物を含浸する工程と、を含み、前記複数の含浸ロールの内、少なくとも、隣り合う2つの含浸ロールが、それぞれの表面に凹凸状の溝を有し、前記隣り合う2つの含浸ロールの一方の表面に有する凸部と凸部の間に、前記隣り合う2つの含浸ロールのもう一方の表面に有する凸部が配置され、前記複数の含浸ロールが、略同一平面上にあることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法に関する。
本発明の繊維強化複合材料の製造方法においては、前記含浸ロールの内、少なくとも、隣り合う2つの含浸ロールが、それぞれの表面に凹凸状の溝を有し、前記隣り合う2つの含浸ロールの一方の表面に有する凸部と凸部の間に、前記隣り合う2つの含浸ロールのもう一方の表面に有する凸部が配置されることで、含浸ロールと接触する積層物表面への圧力が分散され、含浸ロールに起因する凹凸模様の発生を抑制でき、好ましい。一方、従前のように、隣り合う含浸ロールの凸部が、それぞれ、同じ位置に配置される場合、含浸ロールと接触する積層物表面への圧力が同じ位置に掛かることになり、含浸ロールに起因する凹凸模様が発生する原因となるため、好ましくない。
なお、前記隣り合う2つの含浸ロールの一方の表面に有する凸部と凸部の間に、前記隣り合う2つの含浸ロールのもう一方の表面に有する凸部が配置されるが、前記隣り合う凸部同士の一部が重なりあってもいてもよい。前記重なり合っていることで、前記凸部と接触する前記積層物の表面が、平面状に均されることになり、含浸ロールに起因する凹凸模様の発生を抑制しやすくなり、好ましい。
【0052】
また、本発明の繊維強化複合材料の製造方法においては、前記複数の含浸ロールが、略同一平面上にあることで、含浸ロールと接触する積層物表面への圧力が分散され、含浸ロールに起因する凹凸模様の発生を抑制でき、好ましい。一方、従前のように、複数の含浸ロールが存在する場合に、略同一平面上になく、隣り合う含浸ロールに上下差があるような場合(例えば、つづら折り状に配置)、積層物表面への圧力が均一に掛からない場合があり、これを解消するため、含浸ロールの形状を様々変更する必要などがあり、作業性が劣り、含浸ロールを含む装置の価格上昇などが生じることもあり、好ましくない。ここで、「略」同一平面とは、含浸ロールの凸部を含む直径に対して±10%以内の上下差の違いを意味する。
【0053】
なお、前記複数の含浸ロールとして、少なくとも、隣り合う2つの含浸ロールが、それぞれの表面に凹凸状の溝を有し、前記隣り合う2つの含浸ロールの一方の表面に有する凸部と凸部の間に、前記隣り合う2つの含浸ロールのもう一方の表面に有する凸部が配置されるが、それ以外に、例えば、複数(n個)の含浸ロールの全ての表面に凹凸状の溝を有し、全ての含浸ロールにおいて、垂直方向から見て、第一ロールの表面に有する凸部と凸部の間に、第二ロールの凸部が配置され、同様に第二ロールの表面に有する凸部と凸部の間に、第三ロールの凸部が配置されるように配置するといったものなどであってもよいし、更に、第四ロール及び第五ロールは、上記条件を満たさず、その後、第六ロール及び第七ロールが上記条件を満たすなどの組合せであっても、含浸ロールに起因する凹凸模様が発生を抑制できる場合であれば、特に問題はない。
【0054】
前記隣り合う2つの含浸ロールの凹凸状の溝は、全て同じ形状であって良いし、異なっていても良い。前記凹凸状の溝の形状が異なる場合は、隣り合う2つの含浸ロールの一方の表面に有する凸部と凸部の配置のピッチと、もう一方の表面に有する凸部の配置のピッチが同じであることが好ましい。
【0055】
更に、本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記強化繊維に、前記樹脂組成物を含浸した後、加熱(熟成)する工程、を含むことが好ましい。
本発明の繊維強化複合材料の製造方法においては、上記製造工程と共に、前記強化繊維に、前記樹脂組成物を含浸した後の加熱(熟成)工程を経ることで、Bステージ化後のシート状の成形材料(SMC)としての繊維強化複合材料が得られ、作業性や、フィルムの剥離性等に優れ、好ましい。
【0056】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記複数の含浸ロールの内、前記進行する方向に対して、最終ロールが、平滑のロールであることが好ましい。
前記複数の含浸ロールの内、前記積層物を、複数の含浸ロールを回転させながら押圧・進行させる際の進行方向の最終ロールが、平滑のロールであることで、たとえ、シート状の成形材料(SMC)が、最終ロールに到達する前に、多少の凹凸が発生した場合であっても、前記平滑ロールにより、凹凸による撓み(歪み)を抑えることができ、好ましい。
なお、前記平滑ロールとしては、最終ロールであることが好ましいが、最終ロール以外の含浸ロールにおいて、平滑ロールを含んでいてもよいし、最終ロールでない場合であっても、複数の含浸ロールの後半に配置された含浸ロールが平滑であってもよい。
【0057】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記凹凸状の溝の内、凸部の幅が、凹部の幅よりも広いものを用いることができ、また、前記凹凸状の溝の内、凸部の幅が、凹部の幅よりも狭いものであっても、用いることができる。
前記複数の含浸ロールの内、少なくとも、隣り合う2つの含浸ロールが、それぞれの表面に凹凸状の溝を有し、前記隣り合う2つの含浸ロールの一方の表面に有する凸部と凸部の間に、前記隣り合う2つの含浸ロールのもう一方の表面に有する凸部が配置され、前記凹凸状の溝の内、凸部の幅が、凹部の幅よりも広いものであっても、狭いものであっても、含浸ロールと接触する積層物表面への圧力が分散され、含浸ロールに起因する凹凸模様の発生を抑制でき、好ましいが、特に、前記凹凸状の溝の内、凸部の幅が、凹部の幅よりも広いものを使用することで、含浸ロールと積層物の接触面積が大きくなり、より圧力が分散され、凹凸模様の発生を抑制でき、好ましい。
【0058】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記進行する方向に対して、前記凸部の幅が広くなることが好ましい。
前記複数の含浸ロールの内、少なくとも、隣り合う2つの含浸ロールが、それぞれの表面に凹凸状の溝を有し、前記隣り合う2つの含浸ロールの一方の表面に有する凸部と凸部の間に、前記隣り合う2つの含浸ロールのもう一方の表面に有する凸部が配置され、前記進行する方向に対して、前記凸部の幅が広くなることで、含浸ロールと接触する積層物表面への圧力が分散され、含浸ロールに起因する凹凸模様の発生を抑制でき、好ましい。一方、凸部の幅が、進行方向に対して、狭くなる場合、含浸ロールと接触する積層物表面への圧力が高くなり、含浸ロールに起因する凹凸模様の発生を誘発することになり、好ましくない。
【0059】
[含浸ロール]
前記含浸ロールとしては、特に限定されないが、材質としては金属、ゴム、プラスチックなどが挙げられる。含浸ロール表面に設けられる凹凸状の模様としては、特に制限されないが、ロールの周方向に凹凸が設けられた溝状、ロール表面に棒状、針状、千鳥状に設けられていても良い。これらの中でも、隣り合う含浸ロールの表面の凸部の位置制御を容易するため、溝ロールが好ましい。前記溝ロールの凸部は、幅方向に丸みを帯びていてもよく、丸みを帯びていなくても良い。また、前記溝ロールの凸部は深さ方向に幅が一定であっても良く、幅が広くなっていても良い。
【0060】
[シートモールディングコンパウンド(SMC)]
前記SMCの製造方法としては、通常のミキサー、インターミキサー、プラネタリーミキサー、ロール、ニーダー、押し出し機などの混合機を用いて、前記樹脂組成物に含まれる各成分を混合・分散し、得られた樹脂組成物を上下に設置されたキャリアフィルムに均一な厚さになるように塗布し、前記強化繊維を前記上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込み、次いで、全体を含浸ロールの間に通して、圧力を加えて、前記強化繊維に樹脂組成物を含浸させた後、ロール状に巻き取る等の方法が挙げられる。さらに、この後、20~60℃の温度領域で、12~72時間加熱(熟成)を行い、SMCとすることができ、また、複数の温度領域により、加熱(熟成)してもよい。なお、加熱(熟成)とは、低温(例えば、20℃程度)から高温(例えば、60℃程度)領域を指し、目的に応じて、調整することができる。SMCの厚みは所望の性能や用途に応じて適宜設定できるが、成形性や硬化物における強度等に優れることから、1mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることがより好ましく、1.5mm以上であることが特に好ましい。また、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、4mm以下であることが特に好ましい。
【0061】
前記キャリアフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンとポリプロピレンのラミネートフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等を用いることができる。
【0062】
[成形品の製造方法]
本発明は、前記繊維強化複合材料を用いて得られることを特徴とする成形品の製造方法に関する。前記繊維強化複合材料を用いて得られる成形品の製造方法により得られる成形品は、生産性や外観性に優れる観点から、その成形方法としては、SMCの加熱圧縮成形が好ましい。
【0063】
前記加熱圧縮成形としては、例えば、SMC等の成形材料を所定量計量し、予め、110~180℃に加熱した金型に投入し、圧縮成形機にて型締めを行い、成形材料を賦型させ、0.1~30MPaの成形圧力を保持することによって、成形材料を硬化させ、その後、得られた成形品を取り出すことで、成形品を製造することができる。
【0064】
[用途]
本発明の繊維強化複合材料は、外観性等に優れることから、自動車部材、鉄道車両部材、航空宇宙機部材、船舶部材、住宅設備部材、スポーツ部材、軽車両部材、建築土木部材、OA機器等の筐体等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げて、より詳細に説明するが、これらに限定解釈されるものではない。
【0066】
<水酸基価>
水酸基価は、樹脂試料1gをJIS K-0070の規定の方法に基づき、アセチル化剤を用いて、規定温度及び時間で反応させた時に生成した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数(mgKOH/g)を測定し、算出した。
【0067】
<粘度>
粘度は、デジタル粘度計(株式会社アタゴ製、VISCO)を用いて、25℃における粘度を測定した。
【0068】
(樹脂組成物(1)の製造)
温度計、窒素導入管、撹拌機を設けた2Lフラスコに、エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン850」、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:188g/eq)667質量部、ビスフェノールAを96.9質量部、及び、2-メチルイミダゾール0.38質量部を仕込み、120℃に昇温して3時間反応させ、エポキシ樹脂(A)(エポキシ当量:283g/eq)を得た。
上記で得られたエポキシ樹脂(A)を、60℃付近まで冷却し、ここに、メタクリル酸228質量部、及び、t-ブチルハイドロキノン0.29質量部を仕込み、窒素と空気とを1対1で混合したガス流通下で、90℃まで昇温した。更に、ここに2-メチルイミダゾール0.23質量部を投入し、110℃に昇温して10時間反応させ、酸価が6以下になったので、ここを反応の終点として、反応を終了した。60℃付近まで冷却した後、反応容器より取り出し、水酸基価206mgKOH/gのビニルエステル樹脂(1)を得た。
上記得られたビニルエステル樹脂(1)55質量部を、フェノキシエチルメタクリレート45質量部に溶解した樹脂溶液100質量部に、ポリイソシアネート(三井化学株式会社製「コスモネートLL」)20質量部、及び、重合開始剤(化薬アクゾ株式会社製「カヤカルボンAIC-75」、有機過酸化物)1質量部を混合し、樹脂組成物(1)を得た。樹脂組成物(1)の粘度は3Pa・sであった。
【0069】
(
参考例1)
含浸ロールを5本準備した(
図1参照)。第一ロールから第四ロールは溝ロールを用いた(
図1中の「13」)。ロール幅方向に凸部幅3mm、高さ10mm、凹部幅9mmの溝を複数有するロールを4本用いた。含浸ロールの垂直方向からみて、第一ロールの隣り合う凸部と凸部の間に第二ロールの凸部が位置するように第二ロールを設置した(
図2参照)。同様に第三ロールの凸部が第二ロール凸部と凸部の間、第四ロールの凸部が第三ロールの凸部と凸部の間に位置するように配置した。第五ロールとしてロール表面に凹凸のない平滑ロールを用いた(
図1中の「8」)。
【0070】
上記で得られた樹脂組成物(1)を、樹脂塗布装置(
図1中の「21a」)を用いてポリエチレンとポリプロピレンのラミネートフィルム(
図1中の「12a」)上に塗布量が0.5kg/m
2となるよう塗布し、この上に、炭素繊維ロービング(東レ株式会社製「T700SC-12000-50C」)(
図1中の「23」)を引き出し(
図1中の「24」)、切断装置(
図1中の「25」を用いて25mmにカットした炭素繊維(
図1中の「24a」)を繊維方向性が無く、厚みが均一で炭素繊維含有率が50質量%になるよう空中から均一落下させ、同様に樹脂組成物(1)を樹脂塗布装置(
図1中の「21b」)を用いてポリエチレンとポリプロピレンのラミネートフィルム(
図1中の「12b」)上に塗布量が0.5kg/m
2となるよう塗布したフィルムで挟み込んだ。
【0071】
挟み込んだ積層物(
図1中の「9」)を移送ベルトで搬送し(
図1中の「20」)、上記5本の含浸ロールを用いて含浸させた。樹脂組成物(1)を含浸させた後、巻き取り、45℃恒温機中に24時間静置(熟成)し、厚さ1.8mmの炭素繊維強化複合材料(X-1)(SMC)(
図1中の「7」)を得た。この炭素繊維強化複合材料(X-1)の目付け量は、2kg/m
2であった。
【0072】
熟成後、常温(25℃)に冷却し、265mm×265mmの上記SMCを2枚切り出した。300mm×300mmの平板金型の中央に265mm角のSMCを2枚重ねてセットし、プレス金型温度150℃、プレス時間3分間、プレス圧力10MPaで成形し、厚さ約2mmの平板状の成形品を得た。成形品表面に溝ロールに起因する凹凸は観察されなかった。
【0073】
(実施例2)
参考例1で用いた5本の含浸ロールの内、溝ロールである第四ロールを、凸部幅7mm、高さ10mm、凹部幅5mmの溝を複数有するロールに変更した以外は、参考例1と同様の手順にて、厚さ1.8mmの炭素繊維強化複合材料(X-2)(SMC)を得た。この炭素繊維強化複合材料(X-2)の目付け量は、2kg/m2であった。
【0074】
得られた炭素繊維強化複合材料(X-2)を参考例1と同様の手順にて成形し、平板状の成形品を得た。成形品表面に溝ロールに起因する凹凸は観察されなかった。
【0075】
(比較例1)
参考例1で用いた含浸ロール5本を準備した。含浸ロールの垂直方向からみて、第一ロールの凸部と第二ロールの凸部が同じ位置に重なるように第二ロールを設置した。同様に第三ロールの凸部が第二ロールの凸部の位置と重なるように第三ロールを設置した。第四ロールも第三ロールの凸部の位置と重なるように第四ロールを設置した。第五ロールとしてロール表面に凹凸のない平滑ロールを用いた。
【0076】
参考例1で用いた5本の含浸ロールの内、溝ロールである第一ロールから第四ロールの凸部の位置を同じ位置にした以外は、参考例1と同様の手順にて、厚さ1.8mmの炭素繊維強化複合材料(X-3)(SMC)を得た。この炭素繊維強化複合材料(X-3)の目付け量は、2kg/m2であった。
【0077】
得られた炭素繊維強化複合材料(X-3)を参考例1と同様の手順にて成形し、平板状の成形品を得た。成形品表面に溝ロールに起因する凹凸が観察された。
【0078】
上記評価結果より、参考例1及び実施例2では、隣り合う含浸ロールの凸部がそれぞれ異なる位置に配置することで、樹脂組成物を含浸させた積層物に対して、含浸ロールの凸部に基づく圧力が分散し、前記積層物から得られる平板状の成形品への溝ロールに起因する凹凸模様の発生を抑えられることが確認できた。特に、実施例2においては、更に、含浸ロールの凹凸状の溝の内、凸部の幅が、凹部の幅よりも広いことで、第三ロールの凸部と凸部の間を第四ロールの凸部で含浸させることにより、炭素繊維強化複合材料を平
滑にすることが可能となり、平板状の成形品における凹凸模様の発生がなく、外観性に優れることが確認できた。
一方、比較例1においては、隣り合う含浸ロールの凸部がそれぞれ同じ位置に配置したため、含浸ロールの凸部に基づく圧力が高くなり、最終ロールに、平滑ロールを用いても、得られた平板状の成形品における凹凸模様の発生が認められ、外観性に劣ることが確認された。
【符号の説明】
【0079】
7 SMC
8 平滑ロール
9 積層物
12a、12b ラミネートフィルム(キャリアフィルム)
13 含浸ロール
19a、19b 巻出装置
20 移送ベルト
21a、21b 樹脂塗布装置
22a、22b 樹脂組成物(樹脂ペースト)
23 ロービング
24 ストランド
24a チョップドストランド
25 切断装置
101 第一ロール
102 第二ロール