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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】錫球製造用金属錫
(51)【国際特許分類】
   C22B 25/08 20060101AFI20240611BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20240611BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240611BHJP
   B22F 1/065 20220101ALI20240611BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240611BHJP
   B22D 25/02 20060101ALI20240611BHJP
   B22D 21/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C22B25/08
B22F9/08 C
B22F1/00 R
B22F1/065
B22F1/05
B22D25/02 F
B22D21/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023172968
(22)【出願日】2023-10-04
【審査請求日】2023-12-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】竹本 幸一
(72)【発明者】
【氏名】小庄 孝志
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154740(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/069027(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106312082(CN,A)
【文献】特開2004-276086(JP,A)
【文献】特開2001-226706(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107841636(CN,A)
【文献】特開平11-343590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
C25C 1/14
C22B 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁浮遊法で測定した表面張力が、
1,000Kの温度で490×10-3Nm-1以上であり、
1,300Kの温度で390×10-3Nm-1以上である、金属錫の溶湯を使用して、直径が1mm~5mmの範囲にある錫球を製造する方法
【請求項2】
電磁浮遊法で測定した表面張力が、
1,000Kの温度で490×10-3Nm-1~510×10-3Nm-1の範囲にあり、
1,300Kの温度で390×10-3Nm-1~410×10-3Nm-1の範囲にある、請求項1に記載の製造方法
【請求項3】
金属錫の溶湯を、冷却用液状媒体中へ滴下する工程、
金属錫の液滴が、冷却用液状媒体内を落下しながら冷却されて、固体の錫球が形成される工程、
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
形成された固体の錫球の集団において、次の式によって算出される球形品割合(%)が、80%以上である、請求項1に記載の製造方法:
「球形品割合」 = 「球形品の重量(g)」/(「球形品の重量(g)」+「異形状品の重量(g)」)×100%
【請求項5】
形成された固体の錫球の集団から得られた球形品の集団において、次の式によって算出される直径不同比が0.04未満となる球形品の割合が50%以上である、請求項1に記載の製造方法:
「直径不同比」 = 「JIS B1509:2009の規定に準じて測定した直径不同(mm)」/「直径平均値(mm)」
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は錫球製造用の金属錫に関する。
【背景技術】
【0002】
金属球の産業的規模での製造は、極めて重要な基本技術である。そこで従来から、金属球の産業的規模での製造技術が開発されてきた。
【0003】
金属球製造の一般的な手法として、プレス、研磨等の機械加工による球製造方法がある。ただし、これは機械加工を伴うことから、高炭素クロム軸受鋼やステンレス鋼等の硬い金属材料に適した手法である。一方、錫、鉛及びその合金であるはんだ等の柔らかい金属材料は研磨等の機械加工に適さないために、鋳造による金属球の製造手法が用いられる。
【0004】
柔らかい金属材料を使用した金属球製造の古典的な例として、散弾の製造方法が知られている。これは、溶融した鉛を高所(例えば50m以上)から落下させて水槽で回収するという手法であり、製造のために塔を建築するという大がかりな手法であった。もちろん、得られる鉛球のばらつきは大きく、純度や真球性の制御を意図するような手法ではない。
【0005】
特許文献1(特開平11-221662号公開公報)には、大豆油中に溶融ハンダを滴下してハンダボールを製造する技術が開示されている。しかし、特許文献1では、得られたハンダボールの大きさ、真球性、及び純度についての記載はなく、単にボール状の形状となったハンダが得られればよいという古典的な技術が開示されている。
【0006】
特許文献2(特開昭54-085171号公開公報)には、半田合金の溶融金属をカッティング穴を持つ回転板を回転させつつノズルからシリコンオイル中へ噴出することで、金属球を得たことが開示されている。しかし、得られた金属球のサイズは直径1mmであり、これ以上のサイズの金属球を得られる技術は開示されていない。
【0007】
特許文献3(特開昭55-158875号公開公報)は、鉄の融液の液滴を水中へ滴下して、鉄球を得たことが開示されている。しかし、この技術では、鉄球の直径が1mmを越えるとワレ率が急上昇してしまい、例えば直径8mmとなるとワレ率は70%にも達する。また、得られた鉄球の真球性、及び純度についての記載はない。
【0008】
特許文献4(特開2001-226705号公開公報)は、はんだの溶湯をピエゾ素子で振動を付与しながら水素ガスを混合した窒素ガスで充填したチャンバー内へ噴出させて、直径400μm程度の微細金属球を製造する技術を開示している。この技術により得られる微細金属球は直径400μm程度と小さく、直径や真球性のばらつきも大きい。
【0009】
特許文献5(特開昭50-17363号公開公報)は、銅の溶湯をステンレス金網へ通過させてOF油中へ滴下して銅粒を製造する技術を開示している。しかし、特許文献5では、得られた銅粒の純度や真球性についての記載はなく、特許文献5の拡大写真からはサイズや真球性のばらつきが極めて大きいものとなっている。
【0010】
特許文献6(特開昭60-114508号公開公報)は、Co-W合金、Ni-B合金、及びCu-B合金の溶湯の液滴をノズルから冷却油へ滴下して、合金粒を得る技術を開示している。しかし、特許文献6では、得られた合金粒の純度、サイズ、真球性についての記載はなく、重量とその分布によって「良好」と評価しているだけである。
【0011】
特許文献7(特開2000-8104号公開公報)は、はんだの溶融金属をステンレスシャフトによって振動させながらノズルからエンジンオイル又は食用油中に滴下して球状金属粒子を製造する技術を開示している。しかし、特許文献7で得られた粒子の平均粒子径は約0.30mm~0.76mm程度であり、平均粒子径1mm以下となる技術である。
【0012】
このように、錫などの柔らかい金属を溶融して粒子を形成するにあたって、平均粒子径1mmよりも大きな粒子であって、球形状の正確性(真球性)に優れた粒子を得る技術として適切な技術はこれまでに存在しておらず、このような技術が求められている。
【0013】
非特許文献1及び非特許文献2には、溶融した金属試料の液滴に加えた周波数と試料質量から表面張力を算出するために有用なRayleighの式(非特許文献1参照)と、Cummings & Blackburnの補正式(非特許文献2参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平11-221662号公開公報
【文献】特開昭54-085171号公開公報
【文献】特開昭55-158875号公開公報
【文献】特開2001-226705号公開公報
【文献】特開昭50-17363号公開公報
【文献】特開昭60-114508号公開公報
【文献】特開2000-8104号公開公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】Lord Rayleigh、“On the Capillary Phenomena of Jets”、Proceedings of the Royal Society of London、pp.71-97、1879.
【文献】D.L.Cummings、D.A.Blackburn、“Oscillations of magnetically levutated aspherical droplets”、 J.Fluid Mech、vol.224、pp.395-416、1991.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、約1ミリメートルよりも大きな直径と真球性を備えた錫球を高い収率で製造する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は鋭意研究の結果、後述する手段によって上記目的が達成できることを見出して、本発明に到達した。
【0018】
すなわち、従来の技術においては、製造の工程の工夫によって約1ミリメートルよりも大きな直径と高い真球性(球形状の正確性)を備えた錫球を高い収率で製造しようとしていたところ、本願発明においては特定の錫球製造用錫を使用することによってこの目的を達成している。
【0019】
したがって、本発明は以下の(1)を含む:
(1)
電磁浮遊法で測定した表面張力が、
1,000Kの温度で490×10-3Nm-1以上であり、
1,300Kの温度で390×10-3Nm-1以上である、金属錫。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、約1ミリメートルよりも大きな直径と高い真球性を備えた高純度錫球を高い収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は溶融金属錫の表面張力を測定する装置の概略図である。
図2図2は高純度錫(試料1)(実施例)と高純度錫(試料2)(比較例)の溶融金属錫の表面張力を測定した結果を示すグラフである。
図3図3は錫球製造装置の概略図である。
図4図4は錫球の合否判定方法である。
図5図5は錫球の合否判定結果である。
図6A図6Aは実施例で製造した錫球の外観を示す写真である。
図6B図6Bは比較例で製造した錫球の外観を示す写真である。
図7図7は、実施例1において、目視仕分け及び転がり仕分けを経て、残った球形品である錫球の集団の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を具体的な実施の形態をあげて以下に詳細に説明する。本発明は以下に開示された具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【0023】
[錫球製造用の錫]
本発明の金属錫は、錫球製造用の金属錫であって、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で490×10-3Nm-1以上であり、1,300Kの温度で390×10-3Nm-1以上である、金属錫にある。
【0024】
本発明の錫球製造用の金属錫を使用すれば、約1ミリメートルよりも大きな直径と高い真球性を備えた高純度錫球を高い収率で製造することができる。
【0025】
溶融した金属錫を凝固することによって球形状の粒子を得る際に、粒子を形成するために作用している原理的な力として、表面張力を挙げることができる。
【0026】
しかし、本発明よりも前には、溶融した金属錫の表面張力と粒子形成との関係が具体的な技術として明らかにされることはなかった。すなわち、溶融した金属錫の具体的な表面張力の値がどのような値である場合に、どのような粒子形成がなされるかは、明らかにされていない。
【0027】
この理由は不明であるが、溶融した金属錫の表面張力の測定そのものが、極めて困難であることが理由のひとつとして考えられる。
【0028】
すなわち、溶融した金属錫の表面張力を測定しようとすれば、通常は溶融した金属錫を何らかの基板に載せて測定することになるが、その基板との接触によって溶融した金属錫の表面張力そのものが影響を受けてしまい、無視できない測定値の相違がそこから生じる。
【0029】
ところが今回、本発明は後述する実施例に示すように、溶融した金属錫を中空に浮遊させて、何らの基板物質とも接触させることなく溶融した金属錫の表面張力を測定することができた。そして、このようにして測定された表面張力と形成された粒子との関係を検討することによって、特定の表面張力を備えた錫が、平均粒子径1mmよりも大きな粒子であって、球形状の正確性(真球性)に優れた粒子を得るために特に優れていることを発見し、本願発明に到達した。
【0030】
[電磁浮遊法で測定した表面張力]
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で、例えば490×10-3Nm-1以上、好ましくは495×10-3Nm-1以上、さらに好ましくは500×10-3Nm-1以上、あるいは505×10-3Nm-1以上、好ましくは510×10-3Nm-1以上とすることができ、1,300Kの温度で、例えば390×10-3Nm-1以上、好ましくは395×10-3Nm-1以上、さらに好ましくは400×10-3Nm-1以上、あるいは405×10-3Nm-1以上、好ましくは410×10-3Nm-1以上とすることができる。
【0031】
電磁浮遊法による表面張力の測定は、実施例において後述する手段によって行うことができる。
【0032】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で、例えば490×10-3Nm-1~510×10-3Nm-1の範囲、好ましくは495×10-3Nm-1~510×10-3Nm-1の範囲、さらに好ましくは500×10-3Nm-1~510×10-3Nm-1の範囲、あるいは500×10-3Nm-1~505×10-3Nm-1の範囲、あるいは490×10-3Nm-1~505×10-3Nm-1の範囲、好ましくは490×10-3Nm-1~500×10-3Nm-1の範囲、さらに好ましくは495×10-3Nm-1~500×10-3Nm-1の範囲、あるいは490×10-3Nm-1~495×10-3Nm-1の範囲とすることができる。
【0033】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,300Kの温度で、例えば390×10-3Nm-1~410×10-3Nm-1の範囲、好ましくは395×10-3Nm-1~410×10-3Nm-1の範囲、さらに好ましくは400×10-3Nm-1~410×10-3Nm-1の範囲、あるいは400×10-3Nm-1~405×10-3Nm-1の範囲、あるいは390×10-3Nm-1~405×10-3Nm-1の範囲、好ましくは390×10-3Nm-1~400×10-3Nm-1の範囲、さらに好ましくは395×10-3Nm-1~400×10-3Nm-1の範囲、あるいは390×10-3Nm-1~395×10-3Nm-1の範囲とすることができる。
【0034】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で490×10-3Nm-1~510×10-3Nm-1の範囲、1,300Kの温度で390×10-3Nm-1~410×10-3Nm-1の範囲とすることができる。
【0035】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で495×10-3Nm-1~510×10-3Nm-1の範囲、1,300Kの温度で395×10-3Nm-1~410×10-3Nm-1の範囲とすることができる。
【0036】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で500×10-3Nm-1~510×10-3Nm-1の範囲、1,300Kの温度で400×10-3Nm-1~410×10-3Nm-1の範囲とすることができる。
【0037】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で490×10-3Nm-1~505×10-3Nm-1の範囲、1,300Kの温度で390×10-3Nm-1~405×10-3Nm-1の範囲とすることができる。
【0038】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で490×10-3Nm-1~500×10-3Nm-1の範囲、1,300Kの温度で390×10-3Nm-1~400×10-3Nm-1の範囲とすることができる。
【0039】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で495×10-3Nm-1~500×10-3Nm-1の範囲、1,300Kの温度で395×10-3Nm-1~400×10-3Nm-1の範囲とすることができる。
【0040】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で490×10-3Nm-1~495×10-3Nm-1の範囲、1,300Kの温度で390×10-3Nm-1~395×10-3Nm-1の範囲とすることができる。
【0041】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫は、電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で500×10-3Nm-1~505×10-3Nm-1の範囲、1,300Kの温度で400×10-3Nm-1~405×10-3Nm-1の範囲とすることができる。
【0042】
[錫球の製造]
本発明の金属錫を加熱溶融して金属錫の溶湯の形態とすることができ、この金属錫の溶湯を使用することによって、錫球を製造することができる。
【0043】
本発明の金属錫を加熱溶融して金属錫の溶湯の形態とするための手段は、公知の手段を使用することができ、例えば輻射加熱、誘導加熱によって加熱溶融して金属錫の溶湯を調製することができる。
【0044】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯を冷却用液状媒体中へ滴下する工程、金属錫の液滴が冷却用液状媒体内を落下しながら冷却されて固体の錫球が形成される工程、を含む方法によって、錫球を好適に製造することができる。
【0045】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯を滴下するために使用できる冷却用液状媒体は、金属錫の融点よりも高温で安定であるものであれば好適に使用することができる。このような冷却用液状媒体として、例えば動植物油、鉱油、合成油をあげることができ、好ましくは潤滑油、シリコンオイルをあげることができ、特に好ましくはシリコンオイルを使用することができる。
【0046】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯を冷却用液状媒体中へ投入するための手段としては、滴下であれば特に制約なく、公知の手段を使用することができ、例えば重力滴下、動力滴下をあげることができ、好ましくは自然滴下、ポンプによる吐出をあげることができ、特に好ましくはポンプによる吐出を使用することができる。
【0047】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯が冷却用液状媒体中へ滴下された後に、冷却用液状媒体内を落下しながら冷却されて、固体の錫球が形成される。落下は重力による落下であり、固体の錫球が形成される程度の距離を落下できるように、冷却用液状媒体の高さを設けることが好ましい。
【0048】
[錫球]
本発明の金属錫の溶湯を使用して製造された錫球は、電磁浮遊法で測定した表面張力として、上記の表面張力を備えることによって、約1ミリメートルよりも大きな直径と高い真球性を備えた高純度錫球が、高い収率で製造されたものとなっている。
【0049】
本発明において、製造された錫球が備えている高い真球性とは、製造された錫球の集団において、後述する球形品割合が大きいことと、直径不同比が0.04未満となる球形品の割合が大きいことを、同時に備えていることをいう。
【0050】
[球形品割合]
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯を使用して製造された錫球は、形成された固体の錫球の集団において、次の式によって算出される球形品割合(%)が、例えば80%以上、好ましくは90%以上、好ましくは95%以上とすることができる:
「球形品割合」 = 「球形品の重量(g)」/(「球形品の重量(g)」+「異形状品の重量(g)」)×100%
【0051】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯を使用して製造された錫球は、形成された固体の錫球の集団において、上記の式によって算出される球形品割合(%)の上限には特に制約はないが、例えば100%以下、99.5%以下、99%以下、98.5%以下、98%以下とすることができる。
【0052】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯を使用して製造された錫球は、形成された固体の錫球の集団において、上記の式によって算出される球形品割合(%)は、例えば80%~100%の範囲、好ましくは80%~99.5%の範囲、好ましくは80%~99%の範囲、好ましくは80%~98.5%の範囲、好ましくは80%~98%の範囲とすることができ、例えば90%~100%の範囲、好ましくは90%~99.5%の範囲、好ましくは90%~99%の範囲、好ましくは90%~98.5%の範囲、好ましくは90%~98%の範囲とすることができ、例えば95%~100%の範囲、好ましくは95%~99.5%の範囲、好ましくは95%~99%の範囲、好ましくは95%~98.5%の範囲、好ましくは95%~98%の範囲とすることができる。
【0053】
本発明における錫球に対する球形品及び異形状品の選別は、後述する実施例において開示した手段によって実施することができる。
【0054】
多数の球を製造する場合には、錫球の集団に対して、これらの重量を計測して品質管理することが有用であり、上記の球形品割合は、このような品質管理に適した指標となっている。
【0055】
[直径不同比]
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯を使用して製造された錫球は、形成された固体の錫球の集団から得られた球形品の集団において、次の式によって算出される直径不同比が0.04未満となる球形品の割合が、例えば50%以上、好ましくは55%以上、好ましくは60%以上とすることができる:
「直径不同比」 = 「JIS B1509:2009の規定に準じて測定した直径不同(mm)」/「直径平均値(mm)」
【0056】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯を使用して製造された錫球は、形成された固体の錫球の集団において、上記の式によって算出される直径不同比が0.04未満となる球形品の割合(%)の上限には、特に制約はないが、例えば100%以下、99%以下、98%以下、97%以下、96%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下とすることができる。
【0057】
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯を使用して製造された錫球は、形成された固体の錫球の集団から得られた球形品の集団において、次の式によって算出される直径不同比が0.04未満となる球形品の割合が、例えば50%~100%の範囲、好ましくは50%~99%の範囲、好ましくは50%~95%の範囲、好ましくは50%~90%の範囲、好ましくは50%~85%の範囲、好ましくは50%~80%の範囲、好ましくは50%~75%の範囲とすることができ、例えば55%~100%の範囲、好ましくは55%~99%の範囲、好ましくは55%~95%の範囲、好ましくは55%~90%の範囲、好ましくは55%~85%の範囲、好ましくは55%~80%の範囲、好ましくは55%~75%の範囲とすることができ、例えば60%~100%の範囲、好ましくは60%~99%の範囲、好ましくは60%~95%の範囲、好ましくは60%~90%の範囲、好ましくは60%~85%の範囲、好ましくは60%~80%の範囲、好ましくは60%~75%の範囲とすることができる。
【0058】
本発明における錫球に対する、JIS B1509:2009の規定に準じた直径不同(mm)、及び直径平均値(mm)の測定は、後述する実施例において開示した手段によって、実施することができる。
【0059】
[直径]
好適な実施の態様において、本発明の金属錫の溶湯を使用して製造された錫球の直径は、約1ミリメートルよりも大きな直径とすることができる。この錫球の直径は、錫球集団から採取した10個の錫球について、各錫球個体の直径平均値を算出して、この各個体の直径平均値を平均した値が、すなわち直径平均値の平均値が、例えば1mm~5mmの範囲、好ましくは1.5mm~4.5mmの範囲、好ましくは2mm~4mmの範囲とすることができる。
【0060】
[本発明の好適な態様]
好適な実施の態様として、本発明は、次の(1)以下を含む。
(1)
電磁浮遊法で測定した表面張力が、
1,000Kの温度で490×10-3Nm-1以上であり、
1,300Kの温度で390×10-3Nm-1以上である、金属錫。
(2)
電磁浮遊法で測定した表面張力が、
1,000Kの温度で490×10-3Nm-1~510×10-3Nm-1の範囲にあり、
1,300Kの温度で390×10-3Nm-1~410×10-3Nm-1の範囲にある、(1)に記載の金属錫。
(3)
錫球製造用金属錫である、(1)に記載の金属錫。
(4)
(1)に記載の金属錫の溶湯を使用して、錫球を製造する方法。
(5)
錫球を製造する方法であって、
(1)に記載の金属錫の溶湯を、冷却用液状媒体中へ滴下する工程、
金属錫の液滴が、冷却用液状媒体内を落下しながら冷却されて、固体の錫球が形成される工程、
を含む、錫球の製造方法。
(6)
形成された固体の錫球の集団において、次の式によって算出される球形品割合(%)が、80%以上である、(5)に記載の製造方法:
「球形品割合」 = 「球形品の重量(g)」/(「球形品の重量(g)」+「異形状品の重量(g)」)×100%
(7)
形成された固体の錫球の集団から得られた球形品の集団において、次の式によって算出される直径不同比が0.04未満となる球形品の割合が50%以上である、(5)に記載の製造方法:
「直径不同比」 = 「JIS B1509:2009の規定に準じて測定した直径不同(mm)」/「直径平均値(mm)」
(8)
錫球の直径が1mm~5mmの範囲にある、(5)に記載の製造方法。
【実施例
【0061】
以下に、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0062】
[例1:高純度錫(試料1)の製造]
[鋳造]
原料錫(純度99.999wt%)1.7kgを黒鉛製のるつぼ内で300℃以上に加熱溶融し、浮上したスラグを取り除いたあと黒鉛製の鋳型に流し込み、厚み約10mm、幅70mm、高さ150mmの板2枚を得た。
【0063】
[電解溶解]
板状の原料錫1枚を陽極とし、陰極としたチタン板(幅70mm、高さ150mm)と向き合うように電解槽に配置した。尚、陰極板は陽極と向き合う面に陰イオン交換膜を取り付けたカソードボックスに入れた。カソードボックス内には濃度9規定の硫酸水溶液を入れ、それをチューブポンプで外側の容器と繋ぎ、硫酸水溶液が循環されるようにした。カソードボックスの外側、且つ電解槽内には濃度0.5規定の希硫酸を入れた。その後、板状に鋳造した原料錫と整流器のプラス極、チタン板と整流器のマイナス極を電気配線で接続した。
【0064】
電流密度2A/dmで電気分解を行って、錫濃度90g/Lの硫酸錫溶液3Lを得た。
【0065】
得られた硫酸錫溶液に炭酸ストロンチウムを5g/L添加して1時間攪拌し、析出した固形分をろ過分離、除去した。得られたろ液にハイドロキノン5g/L、界面活性剤として青木油脂工業(株)製のブラウノンN-514を5g/L添加し、攪拌溶解して硫酸錫電解液2.8Lを得た。
【0066】
[電解採取]
上記で得られた硫酸錫電解液を純水で錫濃度20g/Lに希釈し、電解槽の陽極側に入れて陽極側電解液(アノライト)とした。また、上記の硫酸錫電解液を希釈せず電解槽の陰極側に入れて陰極側電解液(カソライト)とした。電解槽には陽極として上記の板状に鋳造した原料錫を入れ、陰極として上記と同じ大きさのチタン板を入れた。
原料錫に整流器のプラス極を、チタン板に整流器のマイナス極を接続し、電流密度1.5A/dmで電気分解を行った。アノライトとカソライトを入れ替えながら上記の操作を繰り返し、板状の電解錫約600gを得た。
【0067】
[真空鋳造]
得られた電解錫を十分に洗浄、乾燥したあと、黒鉛坩堝に入れて大気中で加熱してスラグを取り除き、そのまま冷却凝固した。その後、真空溶解炉に入れ、1,000℃に加熱、16時間保持したあと、冷却凝固して高純度錫塊を得た。
【0068】
[切削及び洗浄]
高純度錫塊の表面を切削除去し、内部の健全部のみとした。
【0069】
健全部のみとなった高純度錫から機械加工で小片を切り出し、酸洗浄、純水洗浄を行った。
【0070】
このようにして、高純度錫(試料1)を得た。得られた高純度錫(試料1)の不純物分析を、GD-MSを用いて行った。得られた不純物分析の結果を、次の表1に示す。表1において特に明記しない限り、数値の単位はwtppmである。
【0071】
【表1】
【0072】
[例2:高純度錫(試料2)の製造]
比較例に使用した高純度錫(試料2)は、次のように製造した。
例1において製造した高純度錫(試料1)と同様に電気分解を行って、板状の電解錫を得た。次に、得られた電解錫を十分に洗浄、乾燥した後、黒鉛坩堝に入れて大気中で加熱してスラグを取り除いて、そのまま冷却凝固した。得られた錫塊の表面を切削除去し、内部の健全部のみを使用した。健全部のみとなった錫を機械加工で小片を切り出し、酸洗浄、純水洗浄を行って、高純度錫(試料2)として使用した。
【0073】
高純度錫(試料2)の不純物分析の結果を、次の表2に示す。表2において、特に明記しない限り、数値の単位はwtppmである。
【0074】
【表2】
【0075】
[例3:高純度錫(試料1)の表面張力の測定]
[表面張力の測定装置]
得られた高純度錫(試料1)の表面張力の測定を行った。
図1は、表面張力の測定に使用した測定装置の概要を示す説明図である。
【0076】
図1に示す測定装置は、密閉された石英チャンバー4を備えており、石英チャンバー4の内部へはガス導入管7から気体を導入し、ガス排出管8から気体を排出できる構造となっている。石英チャンバー4の内部には、試料を保持するための試料ホルダー5が設けられている。試料ホルダー5は、試料である錫1を載置してコイル2によって誘導加熱できる位置に保持できる構造となっていると同時に、コイル2によって誘導加熱された試料(錫1)が溶融して浮遊すると同時に引き下げることができる構造を備えている。測定装置は、石英チャンバー4の外部にコイルへ高周波電流を供給可能な高周波電源を備えている。石英チャンバー4の上部には内部を観察するための観察窓6が設けられており、この観察窓6を通じてカメラ9によって内部を高速度撮影することができる。
【0077】
[表面張力の測定手順]
図1に示す測定装置を使用して、高純度錫の表面張力の測定を、以下のように行った。
【0078】
高純度錫(試料1)から、420~480mgの角形(1辺が約5mm)となるように錫を切断して採取した。
【0079】
採取した角形の錫試料の表面を、超音波洗浄機を用いて3vol.%の塩酸水溶液でエッチングした後、さらにアセトン洗浄した。
【0080】
電磁浮遊チャンバーの石英ガラスホルダーに錫試料を設置した。
【0081】
測定系内を真空排気(10-7atm)した後、雰囲気ガス(アルゴン-ヘリウム)を、2L/minで上部から導入した。雰囲気ガス(アルゴン-ヘリウム)の酸素分圧は、1×10-7atmとなるようにした(体積濃度:0.1vol.ppm)。
【0082】
電磁浮遊コイルに高周波交流電流を流し、試料を電磁浮遊と同時に加熱した。試料溶融前に試料とホルダーを分離するために、サンプルホルダーを加熱開始と同時に引き下げるようにした。
【0083】
波長の異なる2つの単色放射温度計を用いて温度計測した。
波長1:1.64μm
波長2:1.4μm
【0084】
チャンバー入口で、導入ガスの雰囲気酸素分圧を1,008Kで動作させたジルコニア式酸素センサで計測した。
【0085】
試料溶融後の液滴の表面振動挙動を、上方から高速度カメラで記録した
(500FPS、8192枚(16.384秒))。
【0086】
記録後ただちに試料上部からヘリウムガスを20L/minで吹き付け、急冷凝固した。
【0087】
電子天秤で試料質量を測定した。
【0088】
液滴投影画像から液滴の重心移動、半径、面積の変化を画像解析し、l=2モードの、m=0、m=±1、m=±2振動数とl=1モードの、m=0、m=±1振動数を同定した。
【0089】
求めた周波数と試料質量から、Rayleighの式(非特許文献1参照)とCummings & Blackburnの補正式(非特許文献2参照)を用いて、表面張力を計算した。
【0090】
[表面張力の測定結果]
このようにして測定した表面張力の測定結果を、図2に示す。
【0091】
[例4:高純度錫(試料2)の表面張力の測定]
例3において測定した高純度錫(試料1)と同様にして、高純度錫(試料2)の表面張力の測定を行った。測定した表面張力の測定結果を、図2にまとめて示す。
【0092】
[表面張力の測定結果の評価]
図2のグラフから、実施例とする試料1の表面張力が、1,000Kの温度で500(490~510)×10-3Nm-1以上、1,300Kの温度で400(390~410)×10-3Nm-1以上であり、それに対して比較例とする試料2の表面張力を同様に測定した結果、1,000Kの温度で440~460×10-3Nm-1以上、1,300Kの温度で330~350×10-3Nm-1以上であった。この結果から、本試料では温度と表面張力の間には負の相関があり、また実施例とする試料1の表面張力の方が、比較例とする試料2の表面張力よりも高いことがわかった。
【0093】
[例5:錫球の製造(実施例1~3)]
[錫球の製造装置]
得られた高純度錫(試料1)を使用して、錫球の製造を行った。
図3は、錫球の製造に使用した製造装置の概要を示す説明図である。
【0094】
図3に示す製造装置は、錫球の製造に使用するための原料となる錫を溶融して納めるための溶融容器14を備えている。溶融容器14内の錫は、ヒーター15によって加熱されて溶融した状態となっている。溶融容器14は密封されており、シリコンオイル容器17内に納められたシリコンオイルが、シリコンオイル送出管18を介して、ポンプ19によって導入されると、その圧力によって溶融容器14内の溶融錫は、錫送出管16を介して、造粒容器12内に満たされたシリコンオイルへと滴下される。造粒容器12の上部にはヒーター13が設けられており、溶融錫は造粒容器12の上部では溶融の状態が維持されている。製造装置中の空間は大気ではなく、アルゴンガスで満たされており、溶融錫の酸化が抑制されている。錫送出管16によって導入されて、造粒容器12内に満たされたシリコンオイルへと滴下された溶融錫の液滴は、造粒容器12内に満たされたシリコンオイル中を自由落下する間に、最初に球状化し、次に冷却されて凝固し、錫球11となって造粒容器12の底部へ堆積してゆく。
【0095】
[錫球の製造の手順]
高純度錫(試料1)を使用して、次のように錫球の製造を行った。
【0096】
酸洗、水洗済みの高純度錫(試料1)の小片2,000gを、石英でできた錫球製造装置の溶融容器に入れた。一方、造粒容器にはシリコンオイルを満たした。溶融容器と造粒容器の蓋を閉じ、造粒容器内部の酸素濃度が0.1vol%以下になるまで高純度のアルゴンガスを1L/分の流量で流し続けた。
【0097】
外部加熱ヒーターで溶融容器と、造粒容器の上部を加熱した。
【0098】
溶融容器内の高純度錫が溶解したところでポンプを起動し、溶融容器から造粒容器へ溶融錫を吐出し、滴下して自由落下させた。この自由落下する過程で、表面張力により溶融錫が球状化した。造粒容器の下部は加熱されていないため、溶融錫は球状化したまま凝固して堆積した。
【0099】
吐出が終わったら吐出ポンプとヒーターの電源を切り、冷却した後、アルゴンガスを流すのを停止し、錫球を取り出した。
【0100】
取り出した錫球からシリコンオイルを除く為にトルエンで洗浄し、その後、希塩酸で洗浄した。
【0101】
錫球の形状、大きさによって仕分けを行った。
【0102】
上記の手順によって、錫球の製造を3回繰り返し行い、実施例1~3とした。
【0103】
[例6:錫球の製造(比較例1~3)]
比較例の錫球の製造には、原料として高純度錫(試料1)ではなく、上記の高純度錫(試料2)を使用した。例5と同様の装置及び手順によって、錫球の製造を3回繰り返し行い、比較例1~3の錫球を製造した。
【0104】
[例7:錫球の評価]
[錫球の評価の手順]
実施例1~3及び比較例1~3によって得られた6つの錫球の集団は、錫球の直径が3.2~3.6mmの範囲内にあった。
【0105】
これらの錫球を、以下の手順によって評価した。この錫球の評価の手順の流れを示す説明図を、図4に示す。
【0106】
[目視仕分け]
目視で、極端に大きいもの、極端に小さいもの、形が歪なものを除いた。
【0107】
[転がり仕分け]
次に、90°に折り曲げられた金属アングル上を転がして、転がらないものを除いた。
【0108】
[球形品と異形状品の選別]
目視仕分け及び転がり仕分けを経て、残ったものを球形品とした。目視仕分け及び転がり仕分けを経て、除かれたものを異形状品とした。
【0109】
[球形品割合]
球形品の重量、及び異形状品の重量から、次の式によって、球形品割合(%)を算出した。
「球形品割合」 = 「球形品の重量」/(「球形品の重量」+「異形状品の重量」)×100%
【0110】
[直径不同比]
球形品からランダムに10個の球を取り出して、JIS B1509:2009 の規定を参考にして、測定平面とこれに垂直な測定子に代えて、マイクロメータを用いて、測定箇所を変えつつ、各球についてそれぞれ10回の測定を行って、その10回の測定値を用いて直径不同を算出した。本発明においては各球について測定した10回の測定値の算術平均値をそれぞれの球の直径平均値とし、直径平均値に対する直径不同の比として直径不同比を求めた。
【0111】
[錫球の評価の結果]
実施例1~3及び比較例1~3の錫球集団に対して得られた球形品割合の算出結果を、図5にまとめて示す。
【0112】
図5に示すように、実施例1~3の球形品割合がいずれも80%を上回る値となるのに対して、比較例1~3の球形品割合はいずれも80%を下回る値であった。このことから、実施例の試料のほうが、球形品の製造に適していると言える。
【0113】
実施例1~3の錫球集団から得られた球形品及び異形状品の外観を、図6Aに例示して示す。比較例1~3の錫球集団から得られた球形品及び異形状品の外観を、図6Bに例示して示す。
【0114】
図6A及び図6Bに例示したように、球形品は、非常に球に近い形状となっていた。また、図6A及び図6Bに例示したように、異形状品としては、複数の球が結合してしまったような形状の品や、球の形状から変形してしまったような形状の品が観察された。データとしての数値化は示してはいないが、複数の球が結合した異形状品において、実施例1~3では、2つの球が結合した異形状品が大部分を占めていたのに対して、比較例1~3では、2つの球よりもさらに多数の球が結合した異形状品が多数観察されるものとなっていた。
【0115】
実施例1~3及び比較例1~3の錫球集団から得られた直径平均値の測定結果を、表3にまとめて示す。表3において、No.は、測定のために取り出した錫球の各個体に対する付番である。表3において特に明記しない限り、数値の単位はmmである。
【0116】
【表3】
【0117】
表3に示すように、得られた錫球は、その直径(直径平均値の平均)が、3~4mmの間にあり、十分に大きな球となっていた。
【0118】
実施例1~3及び比較例1~3の錫球集団から得られた直径不同比の測定結果を、表4にまとめて示す。表4において、No.は、測定のために取り出した錫球の各個体に対する付番である。
【0119】
【表4】
【0120】
表4に示すように、実施例1~3においては、直径不同比が0.04未満となる割合が全体の50%以上を占めていた。一方、比較例1~3については、直径不同比が0.04未満となる割合が全体の50%未満であった。このことから、球形品の中で比較した場合にも、実施例の試料の球形度が、比較例の球形度よりも高くなっており、実施例の試料のほうが、球形品の製造に適していることを示している。なお、測定した試料の直径不同比の平均値をとると、実施例1~3においてはいずれも0.04未満であり、比較例1~3はいずれも0.04以上であったことからも、実施例の試料の球形度が比較例の試料に比べて高いことがうかがえる。
【0121】
実施例1において、目視仕分け及び転がり仕分けを経て、残った球形品である錫球の集団の外観写真を、図7に示す。本発明の高純度錫によれば、図7のような高品質の球形品の錫球を、効率よく、多数を同時に製造することができた。
【0122】
[表面張力と錫球の評価結果の関係]
本発明の錫は電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で
492×10-3Nm-1、1,300Kの温度で397×10-3Nm-1であり、この錫を用いて製造した錫球に含まれる異形状品を除く球形品の割合は96.9~97.5%と高いものであった。
【0123】
一方、これより表面張力の低い錫を電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で455×10-3Nm-1、1,300Kの温度で365×10-3Nm-1であり、この錫を用いて製造した錫球に含まれる異形状品を除く球形品の割合は70.1~75.9%と低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、大きな直径と高い真球性を備えた錫球を高い収率で製造することができる。本発明は産業上有用な発明である。
【要約】
【課題】約1ミリメートルよりも大きな直径と高い真球性を備えた錫球を高い収率で製造する手段を提供する。
【解決手段】電磁浮遊法で測定した表面張力が、1,000Kの温度で490×10-3Nm-1以上であり、1,300Kの温度で390×10-3Nm-1以上である、金属錫。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7