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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】粉末活性炭成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/354 20170101AFI20240611BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20240611BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240611BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C01B32/354
B01J20/20 D
B01J20/28 Z
B01J20/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023175102
(22)【出願日】2023-10-10
【審査請求日】2023-10-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】505238175
【氏名又は名称】穴織カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100176326
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 美穂
(72)【発明者】
【氏名】柳原 悠人
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 尊則
(72)【発明者】
【氏名】長原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】田上 裕之
(72)【発明者】
【氏名】中川 翔
(72)【発明者】
【氏名】磯部 光孝
(72)【発明者】
【氏名】小川 国大
(72)【発明者】
【氏名】清水 昭博
(72)【発明者】
【氏名】能登 裕之
(72)【発明者】
【氏名】林 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敏明
(72)【発明者】
【氏名】パン ティ フォン ガト
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 智広
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】寺田 知世
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-132377(JP,A)
【文献】特開2017-007879(JP,A)
【文献】国際公開第2020/017553(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/080241(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/190945(WO,A1)
【文献】特許第7301300(JP,B1)
【文献】特許第7316715(JP,B1)
【文献】特開2020-050531(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107629828(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来の粉末活性炭を非酸化性雰囲気中で通電加熱法によって1400℃~1600℃に加熱すると共に機械的に30MPaで加圧することを特徴とする粉末活性炭成形体の製造方法。
【請求項2】
植物由来の粉末活性炭を非酸化性雰囲気中で通電加熱法によって650℃~800℃に加熱すると共に機械的に30MPaで加圧することを特徴とする粉末活性炭成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末活性炭を成形した粉末活性炭成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な大きさの細孔を有して物質の吸着効率を高める処理が施された活性炭は、吸着材として脱臭、脱色、濾過等を目的とする液体又は気体の処理に広く利用されている。活性炭は粉末状であるため、この粉末活性炭を成形体にすることによって利便性やハンドリング性を高めることが可能である。しかし、粉末活性炭は接着性や焼結性を備えていないので、粉末活性炭を通常の加圧や加熱によって成形体にすることは困難である。
【0003】
そこで、粉末活性炭に有機成分を含んだバインダを添加して混錬し、粉末活性炭成形体とすることが行われている。しかし、バインダによって粉末同士を結着するので、粉末活性炭の細孔がバインダで覆われ、粉末活性炭成形体の吸着機能が妨げられる。また、バインダによって単位体積当たりの粉末活性炭の割合が低下するため、粉末活性炭成形体の単位体積当たりの吸着性能が低下する。
【0004】
また、バインダに含まれる有機成分からガスが発生して問題となる場合がある。例えば、クライオポンプによって高真空状態を維持する核融合炉に対して、バインダを使用した粉末活性炭成形体をクライオポンプの吸着材として使用した場合に、バインダ由来のガスにより核融合炉内の真空度が却って低下してしまう。
【0005】
そのため、特許文献1には、バインダを使用せずに、放電プラズマ焼結法によって、粉末状の吸着材を加圧しながらプラズマ放電により焼結して成形体とすることが開示されている。放電プラズマ焼結法は、機械的な圧力と通電加熱によって被処理物を焼結する加工方法である。しかし、特許文献1には、放電プラズマ焼結法における温度や圧力等の条件は開示されていない。
【0006】
一方、粉末活性炭成形体をクライオポンプ用の吸着材として用いることがある。この場合には、一般に、粉末活性炭成形体の細孔分布において、メソ孔(直径が2nm~50nm)のうちの直径が2nm~10nmの範囲に分布のピークを有することが必要とされている。
【0007】
ここで、特許文献2には、細孔分布において4nm付近に分布のピークを有する粉末活性炭成形体が開示されている。この粉末活性炭成形体は、多孔質炭素粉末を、放電プラズマ焼結法により20MPaで加圧しながら通電加熱によって1000℃まで昇温して焼結している。そして、この焼結したものと焼結前の元の粉末活性炭とで、比表面積、全気孔容積、細孔分布等の比較が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-239723号公報
【文献】特開2020-50531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2の多孔質炭素粉末は、複雑な工程を経て工業的に生成された不純物が少ない高性能の粉末活性炭であり、吸着性、耐熱性等に優れているが高価である。この高性能の粉末活性炭の代わりに、容易且つ安価に入手可能な植物由来の粉末活性炭を成形することにより、特許文献2と比べて安価に粉末活性炭成形体を製造することが可能である。
【0010】
植物由来の粉末活性炭は、例えばヤシ殻、おがくず、もみ殻、稲わら等を原料とするものが一般的である。特にもみ殻、稲わらのように、稲由来の原料から生成された粉末活性炭は、日本国内で容易に入手できる。この植物由来の粉末活性炭には、土壌から吸収されたケイ素が炭化後の吸着効率を高める処理によっても除去されずに質量割合で数%程度残ってしまい、主に二酸化ケイ素(SiO)として含有されている。このような二酸化ケイ素を含有する粉末活性炭であっても、特許文献1、2のように、放電プラズマ焼結法によって成形体にすることが可能である。
【0011】
しかし、粉末活性炭成形体に含まれるケイ素は、吸着材としての性能を低下させる。例えば二酸化ケイ素が細孔を塞いで吸着材の吸着性を低下させる。また、例えば炭素よりも低融点の二酸化ケイ素は、高温環境下で溶融するため吸着材の耐熱性が低下する。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、植物由来の粉末活性炭に起因する吸着材としての性能低下を防ぐことができる粉末活性炭成形体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項の発明の粉末活性炭成形体の製造方法は、植物由来の粉末活性炭を非酸化性雰囲気中で通電加熱法によって1400℃~1600℃に加熱すると共に機械的に30MPaで加圧することを特徴としている。
上記構成によれば、植物由来の粉末活性炭が二酸化ケイ素を含有していても、粉末活性炭成形体とすることによって炭化ケイ素が生成される。この粉末活性炭成形体を吸着材とする場合に、炭化ケイ素は融点が高く、粉末活性炭成形体が例えば二酸化ケイ素を含有する場合よりも耐熱性が向上し、吸着材としての性能低下を防ぐことができる。また、炭化ケイ素は、化学的に安定であり、例えば炭素を溶かす硝酸には溶けないので耐酸性が向上し、吸着材としての性能が向上する。
【0018】
請求項の発明の粉末活性炭成形体の製造方法は、植物由来の粉末活性炭を非酸化性雰囲気中で通電加熱法によって650℃~800℃に加熱すると共に機械的に30MPaで加圧することを特徴としている。
上記構成によれば、植物由来の粉末活性炭が二酸化ケイ素を含有していても、粉末活性炭成形体とすることによって、元の粉末活性炭のときよりも比表面積を大きくすることができる。従って、粉末活性炭成形体を吸着材とする場合に、二酸化ケイ素を含有していても、比表面積に依存する吸着材の吸着性能の低下を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の粉末活性炭成形体及び粉末活性炭成形体の製造方法によれば、植物由来の粉末活性炭に起因する吸着材としての性能低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】放電プラズマ焼結法で使用されるパルス通電焼結機の構成図である。
図2図1の装置で形成された粉末活性炭成形体の吸着量を示すグラフ(吸着等温線図)である。
図3図1の装置で形成された粉末活性炭成形体の細孔径分布図である。
図4図1の装置で形成された粉末活性炭成形体の表面分析結果である。
図5図1の装置で形成された粉末活性炭成形体のX線回折図形である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
粉末活性炭成形体は、ガスの発生源となるバインダを用いることなく、例えばヤシ殻、おがくず、もみ殻や稲わら等の植物由来の粉末活性炭のみを通電加熱法によって加熱することによって形成される。通電加熱法は、導電性の被処理物に電流を流し、被処理物をジュール熱によって直接加熱する方法である。
【0024】
通電加熱法としては、放電プラズマ焼結法(SPS法: Spark Plasma Sintering法)が好適である。SPS法は、被処理物に直流パルス電流を流して加熱すると共に機械的に加圧(圧縮)する。被処理物の粉末活性炭は、例えば粉末活性炭の粒子同士の接触部分や粉末活性炭の粒子中の微細組織、粉末活性炭の粒子が含有する官能基や不純物元素において、局所的に加熱され、粉末活性炭の粒子同士の結合が促進されると考えられる。
【0025】
市販の粉末活性炭は、ヤシ殻、おがくず、もみ殻や稲わら等の植物、石炭、石油、合成樹脂等を原料とし、これらを炭素化し賦活処理したものである。もみ殻や稲わらのような稲由来の原料は、日本国内で入手が容易である点で好ましい。植物には土壌から吸収されて蓄積されたケイ素が、主に二酸化ケイ素として含まれている。そのため、植物由来の粉末活性炭には、炭化後の例えば薬剤等による処理で除去しきれずに残ったケイ素が質量割合で数%程度含まれている。
【0026】
SPS法による粉末活性炭成形体の形成では、好ましくは人造黒鉛製の円筒状のダイスに互いに対向状に挿入される人造黒鉛製の1対のパンチの間に、所定量の粉末活性炭を充填し、1対のパンチで粉末活性炭を機械的に加圧する。このとき粉末活性炭がさらされる雰囲気は、粉末活性炭、ダイス、パンチ等の炭素の酸化による消耗を防止するための非酸化性雰囲気であり、真空雰囲気又は例えば窒素雰囲気のような不活性ガス雰囲気である。
【0027】
粉末活性炭の加熱時の最高温度(加熱温度)は、炭素の昇華温度(常圧で3642℃)及び三重点(10.8MPaで4327℃)よりも十分低いが高温の600℃~2000℃程度である。600℃未満では粉末活性炭の粒子同士の結合が促進されず、粉末活性炭成形体の形成が困難である。一方、2000℃を超えると粉末活性炭の細孔が変形し易くなり、細孔容積や比表面積が減少すると考えられる。加熱温度は、メソ孔や比表面積の維持又は増加の点では600℃以上且つ1000℃未満が好ましく、より好ましくは、650℃~800℃である。
【0028】
また、粉末活性炭成形体が炭化ケイ素を含有するためには、加熱温度は1400℃~2000℃であることが好ましい。加熱温度が1400℃未満では、粉末活性炭に含有される二酸化ケイ素等を炭化ケイ素にする反応が十分に起きない。
【0029】
加熱時の昇温速度は適宜設定することができ、例えば2℃/分~100℃/分とすることができる。尚、昇温速度は、好ましくは5℃/分~50℃/分であり、より好ましくは5℃/分~20℃/分である。
【0030】
加熱温度での保持時間は、例えば5分~60分とすることができる。5分未満では成形体に加熱むらが生じる恐れがある。60分を超えてもよいが、粉末活性炭成形体の製造効率が低くなる。
【0031】
粉末活性炭に機械的に印加する圧力は、粉末活性炭が十分に固形化して成形体となる圧力を適宜設定することができ、例えば5MPa~50MPaが好ましく、より好ましくは10MPa~30MPaである。
【0032】
粉末活性炭成形体のかさ密度は、0.5g/cm以上であることが好ましい。これよりも小さいかさ密度では、十分な強度を確保できず、取り扱いが容易ではなくなる恐れが生じる。
【0033】
成形に供する粉末活性炭として、稲のもみ殻を原料として製造されたトリポーラス(登録商標)(ソニー株式会社製)を用いて、SPS法により粉末活性炭成形体を形成した。SPS法で使用した装置は、パルス通電焼結機LABOX-325R(株式会社シンターランド製)、(最大圧力30kN, 最大パルス電流出力2500A)である。
【0034】
図1に示すように、パルス通電焼結機1に被処理物である稲由来の粉末活性炭2を配置する。具体的には、0.9g~1gの粉末活性炭2が、人造黒鉛製の円筒形状のダイス3(外径35mm、内径15mm、高さ30mm)に上下方向から挿入される人造黒鉛製の1対のパンチ4,5(直径15mm、長さ20mm)の間に装填される。この粉末活性炭2は、1対のパンチ4,5によって機械的に加圧(圧縮)される。パンチ4,5の直径はダイス3内を摺動可能なように調整されている。なお、パンチ4,5に粉末活性炭2が固着するのを防ぐため、粉末活性炭2とパンチ4,5の間には、パンチ4,5と同径且つ厚さが0.2mmの不図示の黒鉛シートが夫々挟まれている。
【0035】
下部治具として、パンチ5側ほど小さくなるように人造黒鉛製の大きさが異なる第1~第3スペーサ6~8が配置されている。同様に、上部治具として、パンチ4側ほど小さくなるように人造黒鉛製の大きさが異なる第1~第3スペーサ6~8が配置されている。
【0036】
ダイス3の外周には、断熱のために厚さが5mmのカーボンフェルト9がダイス3を覆うように装着されている。これら上部治具と下部治具、カーボンフェルト9が装着されたダイス3及び1対のパンチ4,5の周囲を気密に覆うケーシング10が配置されている。
【0037】
パルス通電焼結機1は、加圧ユニット11とパルス電源12と冷却機構13と真空ユニット14を有する。加圧ユニット11は、上部治具と下部治具を介してパンチ4,5の間に配置された粉末活性炭2を加圧する。パルス電源12は、パンチ4,5を介して粉末活性炭2に直流パルス電流を印加する。冷却機構13は、少なくとも1対のパンチ4,5を空冷又は水冷により冷却する。真空ユニット14は、ケーシング10内を排気して真空状態を維持する。加熱される粉末活性炭2の温度として、放射温度計15によってダイス3のカーボンフェルト9で覆われていない側面部分の温度が測定される。
【0038】
本発明の実施例1~4及び比較例1~4に共通する成形処理条件を示す。
雰囲気は、20Pa程度の真空とした。
加圧ユニット11による加圧は、昇温中であって、目標とする加熱温度よりも100℃低い温度に到達したときに開始した。
昇温速度は、加圧を開始するまでは20℃/分以上且つ100℃/分以下とし、加圧開始から加熱温度到達までは、20℃/分とした。
加熱温度を維持する保持時間は10分とした。
保持時間経過後は、加熱及び加圧を停止し、冷却機構13による冷却によって取り出し可能な50℃程度になってから、粉末活性炭2を成形した粉末活性炭成形体がダイス3から取り出された。
取り出された粉末活性炭成形体に黒鉛シートが付着している場合は、粉末活性炭成形体を傷つけないように黒鉛シートが丁寧に取り除かれた。
【0039】
実施例1~4及び比較例1~4の個別の成形処理条件(加熱温度、印加圧力)と得られた粉末活性炭成形体の測定結果、及び参考例として成形処理未実施の粉末活性炭の測定結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1~4は、加熱温度を夫々650℃、800℃、1400℃、1600℃とし、印加圧力を全て30MPaとした。比較例1~3は、加熱温度を全て1000℃とし、印加圧力を夫々10MPa、20MPa、30MPaとした。比較例4は、加熱温度を1200℃とし、印加圧力を30MPaとした。実施例1~4及び比較例1~4の粉末活性炭成形体は、何れもかさ密度が0.50g/cm以上であり、堅牢に成形されて崩れ難いため容易に取り扱うことができる。尚、かさ密度が最小の実施例1の粉末活性炭成形体の圧縮強度は約1.1MPaであり、実施例2~4及び比較例1~4の粉末活性炭成形体はこれと同等以上の圧縮強度を有すると考えられる。
【0042】
実施例1~4及び比較例1~4の粉末活性炭成形体について、ガス吸着試験装置(Quantachrome Instruments社製 Autosorb iQ―XR-XR(2 Stat.)Viton)を用いて、比表面積、細孔容積、細孔径分布の測定を行った。各粉末活性炭成形体から測定サンプルとして、砕かれて粉末状に戻された0.03g~0.07g程度の粉末活性炭が取り出され、夫々測定された。参考例として、成形処理未実施の粉末活性炭についても測定された。
【0043】
測定サンプルは、測定前処理として117℃で3時間以上加熱された後、約120℃で2時間以上かけて減圧脱気が施された。測定は、常法に従い、液体窒素で77Kとし、窒素ガスを吸着ガスとして用いて行われた。相対圧力に対する窒素ガスの吸脱着量(昇圧及び減圧)が測定され、図2に示す吸着等温線図が得られた。
【0044】
図2では、相対圧力に対する窒素ガスの吸着量がプロットされている。何れの測定サンプルの吸脱着等温線においても、吸着過程と脱着過程とでヒステリシスが生じている。そして脱着時の平衡吸着量の方が、吸着時の平衡吸着量よりも大きい値を示している。国際純正・応用化学連合(IUPAC)の分類に照らすと、これらはIV型の吸着等温線図に分類される。
【0045】
各測定サンプルの比表面積は、Brunauer-Emmett-Teller法(BET法)により求められた。すなわち、相対圧力0.05~0.3におけるBETプロットの傾きと切片から単分子層吸着量を求め、比表面積を算出した。また、各測定サンプルの細孔容積は、相対圧力0.99 以上における窒素吸着量に基づき計算により求められた。表1には、参考例の粉末活性炭、実施例1~4及び比較例1~4の粉末活性炭成形体の細孔特性として比表面積と細孔容積が示されている。
【0046】
細孔径分布は、Barrett-Joyner-Halenda法(BJH法)により、メソ径の形状がシリンダー形状であると仮定して求められた。図3には、参考例、実施例1~4及び比較例1~4の細孔径(直径)分布(脱着における細孔径2nm~10nmに対する細孔容積)を示す曲線が示されている。
【0047】
3.8nm付近にピークを有するメソ孔の曲線の高さは、実施例1,2の粉末活性炭成形体の方が、参考例の未処理の粉末活性炭よりも高くなっている。これは、SPS法による成形処理後のメソ孔の容積が、処理前よりも大きくなっていることを示している。また、比表面積が、実施例1では754.0m/g、実施例2では721.3m/gであり、参考例の比表面積693.8m/gより大きな値を示した。実施例1,2の粉末活性炭成形体では、成形処理前よりもメソ孔の容積が増え、且つ比表面積が大きくなっていることから吸着性が向上し、吸着材としての性能が向上している。細孔容積は、実施例1では0.72cc/gであり、参考例の0.68cc/gより大きな値を示した。実施例2では、細孔容積が0.67cc/gであり、参考例より僅かに小さいが同程度である。
【0048】
従って、実施例1,2の粉末活性炭成形体は吸着材としての性能が元の粉末活性炭より向上しており、実施例1,2の成形処理条件は吸着材としての性能を元の粉末活性炭より向上させるための条件になっている。また、加熱温度が異なる実施例1~4及び比較例3,4から、加熱温度が高いほど比表面積及び細孔容積が小さくなる傾向がある。それ故、少なくとも実施例1,2の間の温度をSPS法の加熱温度とすれば、吸着材としての性能が向上することがわかる。
【0049】
図4には、実施例4及び比較例1の粉末活性炭成形体表面の電子顕微鏡像(SEM像)及び、SEM像と同じ領域のエネルギー分散型X線分析(EDS)による炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)のマッピング図が示されている。実施例4の粉末活性炭成形体については、SEM像において直径が1μm以下の複数の針状構造物が観察され、マッピング図において酸素は検出されず、針状構造物に集中するようにシリコンが検出された。一方、比較例1の粉末活性炭成形体では、SEM像において直径が数μmの粒状物が観察され、マッピング図において粒状物に集中するようにシリコンと酸素が検出され、例えば二酸化ケイ素のような酸化したケイ素が存在していると推定される。
【0050】
図5には、参考例の粉末活性炭と、実施例1~4及び比較例1~4の粉末活性炭成形体についてのX線回折による分析結果及びβ-SiCの回折ピーク位置が示されている。実施例3,4の粉末活性炭成形体ではβ-SiCに対応する回折ピークが現われている。従って、図4の実施例4のSEM像に示す針状構造物はβ-SiCであると考えられる。実施例3,4の加熱温度は夫々1400℃、1600℃であり二酸化ケイ素の融点(1710℃)より低温であるが、SPS法により粉末活性炭の粒子の間又は細孔内に発生する放電プラズマエネルギーによって、下記のような反応が促進されて炭化ケイ素が生成されたと考えられる。
SiO + C → SiO + CO
SiO + 2C → SiC + CO
【0051】
実施例3,4の粉末活性炭成形体では、比表面積及び細孔容積は、参考例の未処理の粉末活性炭よりも小さい値になっている。一方、図3に示すように3.8nm付近にピーク有するメソ孔の曲線の高さは、実施例3,4の粉末活性炭成形体の方が、参考例の未処理の粉末活性炭より高くなっており、メソ孔の容積が増えている。従って、実施例3,4の粉末活性炭成形体は、少なくとも吸着材としての吸着機能を維持している。そして、実施例3,4の粉末活性炭成形体は、例えば炭素を溶かす硝酸に対して化学的に安定で反応しない炭化ケイ素を含有するので耐酸性が向上し、実施例3,4の成形処理条件は吸着材としての性能を元の粉末活性炭より向上させるための条件になっている。また、加熱温度が異なる実施例1~4及び比較例3,4から、加熱温度が高い場合にβ-SiCの回折ピークが現われている。それ故、少なくとも実施例3,4の間の温度をSPS法の加熱温度とすれば、吸着材としての性能が向上することがわかる。
【0052】
その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、上記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0053】
1 :パルス通電焼結機
2 :粉末活性炭
3 :ダイス
4,5:パンチ
6~8:第1~第3スペーサ
9 :カーボンフェルト
10 :ケーシング
11 :加圧ユニット
12 :パルス電源
13 :冷却機構
14 :真空ユニット
15 :放射温度計
【要約】
【課題】植物由来の粉末活性炭に起因する吸着材としての性能低下を防ぐことができる粉末活性炭成形体及びその粉末活性炭成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】粉末活性炭成形体は、植物由来の粉末活性炭が非酸化性雰囲気中で通電加熱法によって650℃~800℃に加熱されると共に機械的に加圧されて成形され、二酸化ケイ素を含有すると共に、元の粉末活性炭よりも大きい比表面積を有するように形成された。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5