(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】高温超電導線材、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20240611BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01B12/06
H01B13/00 565D
(21)【出願番号】P 2022576666
(86)(22)【出願日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2022001333
(87)【国際公開番号】W WO2022158413
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2021009425
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「航空機用先進システム実用化プロジェクト/次世代電動推進システム研究開発/高効率かつ高出力電動推進システム」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町 敬人
(72)【発明者】
【氏名】和泉 輝郎
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-218008(JP,A)
【文献】特表2004-501493(JP,A)
【文献】国際公開第2011/52736(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の第1金属基板と、
前記第1金属基板上に、前記第1金属基板の長手方向に延在するように配置された、複数のフィラメント線材と、を有し、
複数の前記フィラメント線材は、間隙をあけて配置されており、
それぞれの前記フィラメント線材は、前記第1金属基板側から、希土類元素を含む第1超電導層、第1安定化層、第2安定化層、希土類元素を含む第2超電導層、および第2金属基板をこの順に含む、
高温超電導線材。
【請求項2】
それぞれの前記フィラメント線材は、前記第1金属基板と前記第1超電導層との間に配置された第1中間層と、前記第2超電導層と前記第2金属基板との間に配置された第2中間層と、をさらに有する、
請求項1に記載の高温超電導線材。
【請求項3】
それぞれの前記フィラメント線材は、前記第1安定化層および前記第2安定化層の間に、金属を含む接続層をさらに有する、
請求項1または2に記載の高温超電導線材。
【請求項4】
前記第1超電導層および前記第2超電導層が、それぞれREBa
2Cu
3O
x系化合物(REは、Gd、Eu、Y、Sm、Nd、Dy、Er、Yb、Ho、La、Tb、Tm、およびLuからなる群から選択される、少なくとも1種の元素を表し、xは6.2~7.0を表す)を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の高温超電導線材。
【請求項5】
隣り合う前記フィラメント線材どうしが、完全に離間している、
請求項1~4のいずれか一項に記載の高温超電導線材。
【請求項6】
前記高温超電導線材を平面視したとき、前記フィラメント線材が形成されている領域および前記間隙が形成されている領域の合計面積に対する、前記フィラメント線材の天面の合計面積が、80%以上である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の高温超電導線材。
【請求項7】
隣り合う前記フィラメント線材の間に、絶縁体が配置されている、
請求項1~6のいずれか一項に記載の高温超電導線材。
【請求項8】
第1金属基板、前記第1金属基板上に配置された、希土類元素を含む第1超電導層、および前記第1超電導層上に配置された第1安定化層、を有する長尺状の第1線材、ならびに第2金属基板、前記第2金属基板上に配置された、希土類元素を含む第2超電導層、および前記第2超電導層上に配置された第2安定化層、を有する長尺状の第2線材を準備する工程と、
前記第1安定化層および前記第2安定化層が向かい合うように前記第1線材および前記第2線材を接続する工程と、
前記第1線材および前記第2線材の長手方向に沿って、前記第2線材、前記第1安定化層、および前記第1超電導層を分断する溝を形成する工程と、
を含む、高温超電導線材の製造方法。
【請求項9】
前記溝の形成工程で、レーザを照射する、
請求項8に記載の高温超電導線材の製造方法。
【請求項10】
前記レーザがナノ秒レーザ、ピコ秒レーザ、またはフェムト秒レーザのいずれかである、
請求項9に記載の高温超電導線材の製造方法。
【請求項11】
前記レーザの発振波長が紫外域にある、
請求項9または10に記載の高温超電導線材の製造方法。
【請求項12】
前記第1線材および前記第2線材を接続する工程で、前記第1線材および前記第2線材をはんだ、または金属ペーストで接続する、
請求項8~11のいずれか一項に記載の高温超電導線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超電導線材、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超電導体は、その臨界温度が液体窒素温度を超えることから超電導マグネット、超電導ケーブル、電力機器及びデバイス等への応用が期待されており、多くの研究結果が報告されている。
【0003】
高温超電導体を上記の分野に適用するためには、長尺状の線材とする必要がある。また特に、高温超電導化合物として希土類を含む化合物を使用する場合には、金属テープ等からなる金属基板上に高温超電導化合物を積層して、テープ状の線材とすることが一般的である。
【0004】
ここで、高温超電導線材では、通常、交流損失が発生する。交流損失の種類には、ヒステリシス損失、カップリング損失等があり、上述のようなテープ状の線材では、ヒステリシス損失が大きくなる。また特に、線幅が広い線材ほどヒステリシス損失の影響が大きくなる。そこで、線材中の超電導層を幅方向に複数に分割し、交流損失を低減する手法が提案されている(例えば、非特許文献1)。当該方法によれば、個々の超電導層(以下、「フィラメント線材」とも称する)を流れる超電導電流の量は少ないものの、上記交流損失が小さくなる。また、フィラメント線材の数を多くすることで、所望の量の超電導電流が得られる。
【0005】
ただし、個々のフィラメント線材の幅を細くすると、高温超電導層中の欠陥の影響を受けやすくなる。具体的には、フィラメント線材内に欠陥があると、超電導電流が欠陥によって妨げられ、超電導電流が流れなくなる。そして、一部のフィラメント線材が機能しなくなると、臨界電流が小さくなる。
【0006】
そこで、高温超電導層中の欠陥を減らすことが考えられるが、希土類を含む化合物からなる高温超電導層は、薄膜形成プロセスによって作製される。そのため、現在の技術では、高温超電導層中に存在する欠陥(臨界電流を低下させる部位)を皆無にすることは非常に難しい。
【0007】
一方、幅の広いテープ状の高温超電導線材を2枚貼り合わせ、高温超電導層中の欠陥の影響を減らす技術が提案されている(非特許文献2および非特許文献3参照)。当該技術によれば、一方の高温超電導線材に欠陥があったとしても、超電導電流が他方の高温超電導線材を通って流れることができ、臨界電流の低下が抑制される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】町敬人、外4名、「希土類系高温超電導テープ線材のスクライビング技術の動向(Trend in Scribing Technologies for RE-based High-Tc Superconducting Coated Conductors)」、低温工学、2015年、第50巻、第10号
【文献】木須隆暢、外7名、「Face-to-Face Double Stack(FFDS)構造を有する1mm幅細線加工REBCOコート線材の電流-電圧特性(Current-Voltage Characteristics in Face-to-Face Double Stacked (FFDS) 1-mm-Wide REBCO Coated Conductor Tapes)」、第96回2018年度春季低温工学・超電導学会、2018年5月
【文献】鬼塚雄大、外9名、「Face-to-Face Double Stack構造によるREBCO線材の電流輸送特性のロバスト性向上(Improvement of Robustness of Current Transport Properties in REBCO Coated Conductor by Face-to-Face Double Stack Structure)」、第98回2019年度春季低温工学・超電導学会、2019年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、交流損失の主たる要素であるヒステリシス損失は線材幅に比例して増大するため、ヒステリシス損失を低減するためには、高温超電導線材を幅方向に分割することが有効である。そして、臨界電流の低減を抑制するためには、2つの線材を重ね合わせることが有用である。そこで、これらの技術を組み合わせることが考えられる。しかしながら、高温超電導線材を幅方向に分割した後のフィラメント線材は非常に細く、2つのフィラメント線材を誤差なく貼り合わせることは困難であった。また、貼り合わせることができたとしても、隣り合うフィラメント線材どうしが接触しやすく、交流損失の第2の要素であるカップリング損失の低減効果が十分に得られなかった。つまり、従来の技術では、交流損失が少なく、かつ臨界電流が十分に高い超電導体は実現できていないのが実状であった。
【0010】
そこで、本発明は、臨界電流が高く、かつ交流損失が少ない高温超電導線材、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、以下の高温超電導線材を提供する。
長尺状の第1金属基板と、前記第1金属基板上に、前記第1金属基板の長手方向に延在するように配置された、複数のフィラメント線材と、を有し、複数の前記フィラメント線材は、間隙をあけて配置されており、それぞれの前記フィラメント線材は、前記第1金属基板側から、希土類元素を含む第1超電導層、第1安定化層、第2安定化層、希土類元素を含む第2超電導層、および第2金属基板をこの順に含む、高温超電導線材。
【0012】
本発明は、以下の高温超電導線材の製造方法も提供する。
第1金属基板、前記第1金属基板上に配置された、希土類元素を含む第1超電導層、および前記第1超電導層上に配置された第1安定化層、を有する長尺状の第1線材、ならびに第2金属基板、前記第2金属基板上に配置された、希土類元素を含む第2超電導層、および前記第2超電導層上に配置された第2安定化層、を有する長尺状の第2線材を準備する工程と、前記第1安定化層および前記第2安定化層が向かい合うように前記第1線材および前記第2線材を接続する工程と、前記第1線材および前記第2線材の長手方向に沿って、前記第2線材、前記第1安定化層、および前記第1超電導層を分断する溝を形成する工程と、を含む、高温超電導線材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高温超電導線材は、臨界電流が高く、かつ交流損失が少ない。また、本発明の高温超電導線材の製造方法によれば、複雑な工程等を経ることなく簡便な方法で高温超電導線材を作製可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1Aは、本発明の高温超電導線材の一実施形態に係る斜視図であり、
図1Bは、
図1AにおけるA-A線での断面図である。
【
図2】
図2A~
図2Cは、第1超電導層および第2超電導層、ならびに欠陥を模式的に示す図である。
【
図3】
図3A~
図3Cは、本発明の高温超電導線材の製造方法の一実施形態に係る工程図である。
【
図4】
図4Aは、実施例1で作製した高温超電導線材の模式図であり、
図4Bは、実施例1で作製した高温超電導線材を上面から撮影した写真であり、
図4Cは、実施例1の高温超電導線材におけるフィラメント線材の電圧-電流特性を示すグラフである。
【
図5】
図5Aは、実施例2で作製した高温超電導線材の模式図であり、
図5Bは、実施例2の高温超電導線材におけるフィラメント線材の電圧-電流特性を示すグラフである。
【
図6】
図6A~
図6Cは、実施例3で作製した高温超電導線材の断面を走査電子顕微鏡で撮影した写真である。
【
図7】
図7は、参考例で作製した高温超電導線材の断面を走査電子顕微鏡で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0016】
本発明の高温超電導線材の構成や物性について説明し、その後、当該高温超電導線材の製造方法について説明する。
【0017】
1.高温超電導線材
本発明の高温超電導線材の一実施形態に係る模式図を
図1Aおよび
図1Bに示す。ただし、本発明の高温超電導線材は、当該形態に限定されない。
図1Aは、高温超電導線材100の模式的な斜視図であり、
図1Bは、当該高温超電導線材100の
図1AにおけるA-A線での断面図である。
図1Aに示すように、本実施形態の高温超電導線材100は、長尺状の第1金属基板11a上に、複数のフィラメント線材20が間隙をあけて配置された構造を有する。各フィラメント線材20は、第1金属基板11aの長手方向に延在するように間隔をあけて、かつ隣り合うフィラメント線材20が完全に離間するように平行に配置されている。なお、本明細書において、隣り合うフィラメント線材20が完全に離間するとは、隣り合うフィラメント線材20の側壁どうしが接触しておらず、これらの間に電気的な導通がないことをいう。
【0018】
また、各フィラメント線材20は、
図1Bに示すように、第1中間層12aと、第1超電導層13aと、第1安定化層14aと、接続層15と、第2安定化層14bと、第2超電導層13bと、第2中間層12bと、第2金属基板11bと、が積層された構造を有する。ただし、第1中間層12aおよび第2中間層12b、ならびに接続層15は必ずしも配置されていなくてもよい。
【0019】
本実施形態の高温超電導線材100では、複数のフィラメント線材20が間隙をあけて配置されていることから、これらの間で電気的な導通が生じ難く、カップリング損失が少ない。また、各フィラメント線材20が、第1超電導層13aおよび第2超電導層13b(以下、これらをまとめて「超電導層13」とも称する)を含むことから、超電導層13中の欠陥の影響を受け難く、臨界電流が低下し難い。
【0020】
その理由を
図2A~
図2Cの模式図を用いて説明する。
図2Aは、第1超電導層13aおよび第2超電導層13bの平面視形状を模式的に示す図であり、
図2Bは、第1超電導層13aおよび第2超電導層13bを重ね合わせたときの平面視形状を模式的に示す図である。また、
図2Cは、
図2BのB-B線における断面図である。なお、
図2Cでは便宜上、第1超電導層13aおよび第2超電導層13bが直接積層されているように記載しているが、実際は、これらの間に、第1安定化層14aや接続層15、第2安定化層14b等が配置される。
【0021】
一般的に、各超電導層13が含む欠陥31a、31bの密度は比較的小さい。例えば、10mm幅で1mの線材において、10~50個程度である。そのため、
図2Aに示すように、欠陥31aを有する第1超電導層13aと、欠陥31bを有する第2超電導層13bと、を重ね合わせたとき、第1超電導層13a中の欠陥31aと、第2超電導層13b中の欠陥31bとが、縦に重なる確率は非常に低い(
図2Bおよび
図2C参照)。よって、第1超電導層13aおよび第2超電導層13bを幅方向に分割し、フィラメント線材20としたとき、第1超電導層13aを流れる超電導電流(
図2Cにおいて実線で示す流れ)の一部が欠陥31aによって妨げられたとしても、第2超電導層13bを流れる超電導電流(
図2Cにおいて破線で示す流れ)は、欠陥31aの影響を受けない。またさらに、本実施形態の構成を有する高温超電導線材100では、欠陥31aの近傍において、第1超電導層13aから第2超電導層13bに向かう超電導電流のバイパスが形成される。つまり、当該第1超電導層13a中の超電導電流が欠陥31aによって堰き止められずに流れる。したがって、各フィラメント線材20を流れる超電導電流の量が減少し難く、高温超電導線材100の臨界電流が低減し難い。なお、
図2Cでは、欠陥31aを迂回した超電導電流が、第1超電導層13a側に戻っているが、当該超電導電流は、第2超電導層13b内をそのまま流れてもよい。以下、各構成について説明する。
【0022】
(第1金属基板)
第1金属基板11aは、長尺状の基板であって、1つの基板上に後述の複数のフィラメント線材20を支持可能であれば、その形状は特に制限されない。ただし、第1金属基板11aは、低磁性、高い耐熱性、および高い強度を兼ね備えることが好ましい。第1金属基板11aがこれらを兼ね備えると、高温超電導線材100を種々の用途に適用しやすくなる。第1金属基板11aは、単層で構成されていてもよく、多層で構成されていてもよい。
【0023】
また、第1金属基板11aの材料の例には、ニッケル(Ni)や、ニッケル合金、タングステン合金、ステンレス鋼、銀(Ag)、銅(Cu)等が含まれる。より具体的には、Ni-Cr-Fe-Mo系のハステロイ(登録商標)B、C、X等のNi-Cr系合金;W-Mo系合金;オーステナイト系ステンレス鋼等のFe-Cr系合金;非磁性のFe-Ni系合金;等が含まれる。第1金属基板11aはその強度の観点からビッカース硬度(Hv)が150以上であることが好ましい。また、第1金属基板11aの厚みは、通常100μm以下が好ましい。
【0024】
ここで、第1金属基板11aが平板状であってもよいが、
図1Bに示すように、フィラメント線材20を分断するための溝と対応する凹部を有していてもよい。ただし、凹部の深さが深すぎると、高温超電導線材100の取扱性が悪くなったり、強度が低くなったりすることがあるため、適度な深さとする。
【0025】
(フィラメント線材)
本実施形態の各フィラメント線材20には、第1中間層12a、第1超電導層13a、第1安定化層14a、接続層15、第2安定化層14b、第2超電導層13b、第2金属基板11bが、上述の第1金属基板11a側から順に配置されている。
【0026】
第1中間層12aおよび第2中間層12b(以下、これらをまとめて「中間層12」とも称する)は、第1超電導層13aや第2超電導層13bを第1金属基板11aや第2金属基板11bの上に形成しやすくするための層であり、第1中間層12aおよび第2中間層12bは、同一の層であってもよく、異なる層であってもよい。
【0027】
中間層12は、二軸配向性を有することが好ましく、単層で構成されてもよく、複数層で構成されていてもよい。中間層12が複数層で構成される場合、第1金属基板11aや第2金属基板11bから超電導層13側への元素の拡散を抑制するための拡散防止層や、中間層12に二軸配向性を付与するための配向層等が積層されていることが好ましい。
【0028】
複数層からなる中間層12の一例として、Al2O3層またはGd2ZrO7層(第1の層)/Y2O3層(第2の層)/MgO層(第3の層)/LaMnO3層(第4の層)/CeO2層(第5の層)をこの順に積層した積層体等が挙げられる。ただし、中間層12は当該構成に限定されず、例えば、CeO2層(第5の層)がないものや、Al2O3/Y2O3が第1の層および第2の層を兼ねるもの等、種々の構成とすることができる。また、各層の厚みは適宜選択される。また、各層の厚みはフィラメント線材20の長さ方向全てでそれぞれ均一であってもよく、一部異なる領域があってもよい。当該中間層12は、第1の層が上記第1金属基板11a上に配置される。上記中間層12の総厚みは、通常1.5μm未満が好ましい。
【0029】
一方、超電導層13(第1超電導層13aおよび第2超電導層13b)は、希土類元素を含む超電導体を含む層であれば特に制限されない。超電導層13の例には、超電導体としてREBa2Cu3Ox系化合物(REは、Gd、Eu、Y、Sm、Nd、Dy、Er、Yb、Ho、La、Tb、Tm、およびLuからなる群から選択される、少なくとも1種の元素を表し、xは6.2~7.0を表す)を含む層が含まれる。ここで、REは、上記のいずれの元素であってもよいが、Y、Gd、EuまたはYおよびGdの併用が好ましく、Y、またはYおよびGdの併用が特に好ましい。また、超電導層13中のREBa2Cu3Ox系化合物の量は、70体積%以上が好ましく、80~100体積%がより好ましい。第1超電導層13aおよび第2超電導層13bは、同一の層であってもよく、異なる層であってもよい。
【0030】
また、超電導層13の厚みは、0.5μm以上5.0μm以下が好ましく、1.0μm以上2.0μm以下がより好ましい。超電導層13の厚みが当該範囲であると、高温超電導線材100を各種用途に適用しやすくなる。
【0031】
第1安定化層14aおよび第2安定化層14b(以下、これらをまとめて「安定化層14」とも称する)は、超電導層13の変質等を抑制するための層であり、例えば超電導層13中の超電導体と反応し難い銀を含む層である。安定化層14は、銀からなる層の他に、銅、金、白金、あるいはこれらの合金等を含む層をさらに含んでいてもよい。第1安定化層14aおよび第2安定化層14bは、同一の層であってもよく、異なる層であってもよい。また、安定化層14の厚みは、数μm以上が好ましい。
【0032】
第2金属基板11bは、フィラメント線材20の形状に合わせて複数に分割されている以外は、上述の第1金属基板11aと同様の基板とすることができる。第1金属基板11aおよび第2金属基板11bは同一の材料を含んでいてもよく、異なる材料を含んでいてもよい。第1金属基板11aおよび第2金属基板11bの厚みは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
接続層15は、はんだや合金ペースト等、導電性を有する材料によって形成された層であることが好ましい。接続層15の抵抗は、通常100mΩ以下が好ましく、50mΩ以下がより好ましい。接続層15の抵抗が100mΩ以下であると、上述のように、一方の超電導層13が欠陥を有していたとしても、他方の超電導層13側にバイパスが形成されやすくなり、高温超電導線材の臨界電流が高まりやすい。
【0034】
接続層15の厚みは、2μm以上20μm以下が好ましい。接続層15の厚みが当該範囲であると、上記バイパスが形成されやすくなる。一方で、第1金属基板11aおよび第2金属基板11bは、上記接続層15を用いることなく、安定化層14中の銀の拡散を利用した拡散接続によって接続されていてもよい。
【0035】
ここで、各フィラメント線材20の線幅は、高温超電導線材の用途等によって適宜選択されるが、通常、100μm以上1.5mm以下が好ましい。各フィラメント線材20の線幅が上記範囲であると、交流損失を低減しやすくなる。なお、1つのフィラメント線材20内で、線幅は一定であってもよく、連続的、または断続的に変化していてもよいが、通常、線幅は一定である。また、複数のフィラメント線材20の線幅は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、通常同一である。なお、本明細書でいう各フィラメント線材20の線幅とは、高温超電導線材100を平面視したときの各フィラメント線材20の天面の線幅をいう。
【0036】
また、高温超電導線材100を平面視したとき、フィラメント線材20が形成されている領域および間隙(溝)が形成されている領域の合計面積に対する、フィラメント線材の天面の合計面積は、高温超電導線材の用途によって適宜選択されるが、通常80%以上が好ましい。フィラメント線材の天面の合計面積が、フィラメント線材20が形成されている領域および間隙(溝)が形成されている領域の合計面積に対して80%以上であると、溝の幅が十分に狭くなり、十分な超電導電流が得られやすくなる。
【0037】
ここで、各フィラメント線材20の天面は、通常平面状であることが好ましいが、高温超電導線材100の用途に応じて、平面以外の形状であってもよい。一方、各フィラメント線材20の側壁の形状は、溝の形成方法によっても異なるが、隣のフィラメント線材20の側壁に接するような隆起や突起を有さないことが好ましく、平面上であることがより好ましい。
【0038】
さらに、各フィラメント線材20の長さ方向に垂直な断面の形状は特に制限されず、正方形状や長方形、台形状等であってもよい。
【0039】
また、隣り合うフィラメント線材20の間の距離、すなわち、隣り合うフィラメント線材20の間に位置する溝の幅は、1μm以上150μm以下が好ましく、5μm以上100μm以下がより好ましい。溝の幅が1μm以上であると、隣り合うフィラメント線材20の側壁どうしが電気的に導通し難くなり、高温超電導線材100のヒステリシス損失を抑制できる。一方で、溝の幅が150μmを超えると、一つの高温超電導線材100に配置可能なフィラメント線材20の数が少なくなり、高温超電導線材100を流れる超電導電流の量が少なくなる。なお、本明細書でいう、溝の幅とは、高温超電導線材100を平面視したときの、当該溝を挟んで対向するフィラメント線材20の天面の端部間の距離をいう。
【0040】
上記溝の幅は、1つの溝内で一定であってもよく、異なっていてもよいが、通常一定である。さらに、高温超電導線材100が複数の溝を有する場合、複数の溝の幅は同一であってもよく、異なっていてもよいが、通常一定である。
【0041】
また、高温超電導線材100が含むフィラメント線材20の数は、高温超電導線材100の幅や、フィラメント線材20の幅に応じて適宜選択されるが、通常、3本以上50本以下が好ましい。高温超電導線材100が、フィラメント線材20を当該個数含むと、十分な超電導電流が得られやすくなる。
【0042】
(その他の構成)
高温超電導線材100は、本発明の目的および効果を損なわない範囲において、上記第1金属基板11aおよびフィラメント線材20以外の構成を含んでいてもよい。例えば、第1金属基板11aの底面側(フィラメント線材20の反対側)や、第2金属基板の天面側(第2中間層12bの反対側)に、第1安定化層14aや第2安定化層14bと同様の材料を含む層や、接続層15と同様の材料を含む層等をさらに有していてもよい。
【0043】
さらに、隣り合うフィラメント線材20どうしの間に、絶縁体(図示せず)が配置されていてもよい。絶縁体が配置されていると、隣り合うフィラメント線材20どうしが、さらに接触し難くなり、ヒステリシス損失がより低減される。
【0044】
絶縁体の種類は特に制限されず、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の樹脂であってもよく、無機材料等であってもよい。これらの中でも、隣り合うフィラメント線材20どうしの間に配置しやすいとの観点で樹脂が好ましく、耐熱性等の観点で、ポリイミドが好ましい。
【0045】
本発明の高温超電導線材100の用途は特に制限されないが、超電導マグネット(MRI、ガントリー、加速器用マグネット等)、超電導ケーブル、超電導回転機(モーター、発電機等)、電力機器、および各種デバイス等に適用可能である。
【0046】
2.高温超電導線材の製造方法
上述の高温超電導線材の製造方法の一実施形態について説明する。ただし、上述の高温超電導線材の製造方法は、以下の方法に制限されない。
【0047】
本実施形態の高温超電導線材の製造方法の工程を
図3A~
図3Cに示す。本実施形態の高温超電導線材の製造方法では、第1金属基板11a、第1中間層12a、第1超電導層13a、および第1安定化層14a、を有する長尺状の第1線材10aと、第2金属基板11b、第2中間層12b、第2超電導層13b、および第2安定化層14b、を有する長尺状の第2線材と、を準備する(線材準備工程、
図3A)。そして、第1線材10aの第1安定化層14aと、第2線材10bの第2安定化層14bとが向かい合うように配置し、接続層15によってこれらを接続する(接続工程、
図3B)。その後、第1線材10aおよび第2線材10bの長さ方向に沿って、少なくとも第2線材10b、第1安定化層14a、および第1超電導層13aを分断する溝を形成する(溝形成工程、
図3C)。
【0048】
上述のように従来、1つの高温超電導線材の超電導層を複数のフィラメント線材に分割すること、および2つの高温超電導線材を貼り合わせることはそれぞれ検討されていた。そこで、これらを組み合わせることも考えられるが、幅方向に超電導層を分割した後のフィラメント線材は非常に細く、フィラメント線材どうしを貼り合わせることは現実的ではなかった。
【0049】
これに対し、本実施形態の製造方法では、接続工程で、比較的幅の大きな2つの線材(第1線材10aおよび第2線材10b)を貼り合わせた後、溝形成工程で、一方の線材(本実施形態では第2線材10b)側から溝を形成し、複数のフィラメント線材20を作製する。そのため、細いフィラメント線材どうしを貼り合わせる必要がなく、確実に隣り合うフィラメント線材20を分離できる。また、当該方法によれば、隣り合うフィラメント線材20どうしの間隔を狭くできることから、高温超電導線材100を流れる超電導電流の量を多くできる。
【0050】
以下、本実施形態の高温超電導線材の製造方法の各工程について、詳しく説明する。
【0051】
(線材準備工程)
線材準備工程では、第1金属基板11a、第1中間層12b、第1超電導層13a、および第1安定化層14a、を有する長尺状の第1線材10aと、第2金属基板11b、第2中間層12b、第2超電導層13b、および第2安定化層14b、を有する長尺状の第2線材と、を準備する。
【0052】
第1線材10aを構成する、第1金属基板11a、第1中間層12a、第1超電導層13a、および第1安定化層14aは、いずれも上述の高温超電導線材で説明した各構成と同様である。第1線材10aは、常法に従って形成できる。なお、第1線材として、市販品を準備してもよい。
【0053】
同様に、第2線材10bを構成する、第2金属基板11b、第2中間層12b、第2超電導層13b、および第2安定化層14bは、いずれも上述の高温超電導線材で説明した各構成と同様である。第2線材10bも常法に従って形成できる。第2線材10bとして、市販品を準備してもよい。
【0054】
ここで、第1線材10aおよび第2線材10bは、同一の構成を有していてもよく、異なる構成を有していてもよい。また、第1線材10aおよび第2線材10bの厚みも特に制限されず、これらの厚みは同一であってもよく、異なっていてもよい。さらに、線幅や長さは同一であってもよく、異なっていてもよい。ただし、第1線材10aおよび第2線材10bが、略同一の線幅および略同一の長さであると、第1線材10aまたは第2線材10bを余白なしに重ね合わせることができ、線材の利用効率が高まる。
【0055】
(接続工程)
接続工程では、第1線材10aの第1安定化層14aと、第2線材10bの第2安定化層14bとが向かい合うように配置し、接続層15によってこれらを接続する。第1安定化層14aおよび第2安定化層14bの接続方法は特に制限されず、例えばはんだ等によって接続してもよく、金属ペースト等を塗布し、これを硬化させて接続してもよい。また、安定化層拡散法によって、接続層15を形成することなく接続してもよい。
【0056】
(溝形成工程)
溝形成工程では、第1線材10aおよび第2線材10bの長さ方向に沿って、少なくとも第2線材10b、第1安定化層14a、および第1超電導層13aを分断する溝を形成する。
【0057】
溝の形成方法は特に制限されないが、上述の第2金属基板11bを切削可能であり、かつ熱の発生を抑制できるとの観点で、レーザ照射が好ましい。中でもパルス長が100ns以下のナノ秒レーザ、ピコ秒レーザ、フェムト秒レーザが好ましい。パルス長が短いほど、溝の形状を微細に調整できる。
【0058】
これらの中でも、パルス長は、100ns以下が好ましく、300fs以上30ps以下がより好ましい。パルス長が100ns以下であると、上述の第2金属基板11bを切削しやすくなり、短時間で第2線材10bや第1線材10bを切削できるため、これらに熱がかかり難くなる。
【0059】
また、レーザの発振波長は特に制限されず、例えば波長157~1050nmとすることができる。これらの中でも、発振波長が紫外域にあるレーザ、すなわちUVレーザがより好ましい。レーザの発振波長が長いと、第2安定化層や第1安定化層を構成する銀や銅がレーザを反射してしまう。したがって、所望の位置に溝を形成することが困難になることがある。これに対し、発振波長が紫外域にあると、上記反射が生じ難く、効率よく溝を形成できる。
【0060】
なお、本明細書において、紫外域とは、波長150nm以上380nm以下をいう。このような発振波長を有するUVレーザとしては、ガスレーザであるエキシマレーザや、繰り返し周波数を高くできるYAG等の固体レーザの高調波を使用可能である。その例には、発振波長が157nm程度であるF2レーザ、発振波長が193nm程度であるArFエキシマレーザ、発振波長が222nm程度であるKrClエキシマレーザ、発振波長が248nm程度であるKrFエキシマレーザ、発振波長が308nm程度であるXeClエキシマレーザ、発振波長が351nm程度であるXeFエキシマレーザ、発振波長が266nm程度であるYVO4レーザの四倍高調波、発振波長が355nm程度であるYVO4レーザの三倍高調波、発振波長が355nm程度であるYAGレーザの三倍高調波等が含まれる。
【0061】
なお、本実施形態では、第2線材10b(すなわち、第2金属基板11b、第2中間層12b、第2超電導層13b、および第2安定化層14b)、第1安定化層14a、第1超電導層13a、および第1中間層12aを分断するように溝を形成しているが、第1金属基板11aの一部にも、溝を形成してもよい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0063】
[実施例1]
(第1線材および第2線材の準備)
10mm幅、厚み100μmのテープ状のハステロイC276(登録商標)製の第1金属基板の片面に、約56nm厚のGd2Zr2O7(GZO)と、約14nm厚のY2O3層と、約5nm厚のMgO層と、約7nm厚のLaMnO3層と、600~900nmのCeO2層と、を成膜し、これらを第1中間層とした。当該第1中間層の上に1.6μm厚のEuBa2Cu3O7からなる第1超電導層を形成した。さらに、当該第1超電導層上に第1安定化層として銀を10μm厚で成膜し、これを第1線材とした。
【0064】
なお、第1線材には、検証のため、人工的に欠陥を作成した。具体的には、
図4に示すように、第1線材10aの長さ方向に垂直に、第1線材10aの一方の側辺から幅1mm、長さ5mmの欠陥31a(溝)を、化学的エッチング法によって第1超電導層および第1安定化層を除去して形成した。同様に、第1線材10aの他方の側辺から幅1mm、長さ3mmの欠陥31a(溝)を形成した。欠陥31aは、第1安定化層から第1超電導層までを分断するように形成した。
【0065】
一方、第2線材として、市販の4mm幅の線材を準備した。当該第2線材10bは、厚み30μmのハステロイC276からなる第2金属基板、0.5μm以下の厚みの第2中間層、1μm厚の第2高温超電導層、2μm厚のAgからなる第2安定化層を有するものとした。
【0066】
(第1線材および第2線材の接続)
上記第2線材10bの第2安定化層上に金ナノペーストを塗布した。そして、第1線材10aの第1安定化層と、第2線材10bの第2安定化層とが向かい合うように、第1線材10aおよび第2線材10bを重ね合わせ、150℃で2時間熱処理して接続した。このとき、
図4Aに示すように、第2線材10bの幅方向中央部と、第1線材10aの幅方向中央部とが重なるように接続した。
【0067】
(溝の形成)
第1線材10aおよび第2線材10bの長手方向に沿って、ナノ秒パルスレーザ(発振波長:355nm、パルス長:30ナノ秒)によりスクライビング加工し、2本の溝を形成した。溝は、第2線材および第1安定化層、第1超電導層、第1中間層、および第1金属基板の一部を分断するように形成した。また、高温超電導線材を平面視したときの溝の幅はそれぞれ30μm程度とした。当該実施例1で作製した高温超電導線材の写真を
図4Bに示す。
【0068】
(高温超電導線材の特性)
得られた高温超電導線材のうち、欠陥31aを導入したフィラメント線材(
図4Aにおける一番上のフィラメント線材)の電流-電圧特性を測定した。結果を
図4Cに示す。
図4Cでは、縦軸が、検出された電圧(μV/cm
2)であり、横軸は印加した電流値(A)である。当該フィラメント線材では、第1超電導層が完全に分断されているにも関わらず、通常の高温超電導線材と同様の電流-電圧特性が得られ、かつその臨界電流値は100A以上であった。つまり、第1超電導層の欠陥部分において、第2超電導層側にバイパスが生じたといえる。
【0069】
[実施例2]
(第1線材および第2線材の準備)
上述の実施例1の第1線材と同一の構成の長さ150mmの第1線材10aと、上述の実施例1の第1線材と同一の構成の長さ80mmの第2線材10bとを準備した。第1線材10aには、検証のため、人工的に欠陥31a(溝)を作成した。具体的には、
図5Aに示すように、第1線材10aの長さ方向に垂直に、第1線材10aの一方の側辺から幅1mm、長さ5mmの欠陥31a(溝)を、上述と同様に、化学的エッチング法によって形成した。欠陥31a(溝)は、第1安定化層から第1超電導層までを分断するように形成した。
【0070】
(第1線材および第2線材の接続)
上記第1線材10aをはんだ浴(PbSn)に通した後、第1線材10aの第1安定化層と、第2線材10bの第2安定化層とが向かい合うように、第1線材10aおよび第2線材10bを重ね合わせ、接続した。
【0071】
(溝の形成)
第1線材10aおよび第2線材10bの長手方向に沿って、ピコ秒パルスレーザ(波長:355nm、パルス長:10ピコ秒)によりスクライビング加工し、2本の溝を形成した。溝は、高温超電導線材の一方の側辺から2.5mm、および5mmの位置に形成した。また、各溝によって、第2線材および第1安定化層、第1超電導層、第1中間層、および第1金属基板の一部を分断した。また、高温超電導線材を平面視したときの溝の幅はそれぞれ40μmとした。
【0072】
(高温超電導線材の特性)
得られた高温超電導線材のうち、欠陥を導入したフィラメント線材(
図5Aにおける一番上のフィラメント線材)の電流-電圧特性を測定した。結果を
図5Bに示す。
図5Bでは、縦軸が、検出された電圧(μV/cm
2)であり、横軸は印加した電流値(A)である。当該フィラメント線材では、第1超電導層は分断されているにも関わらず、通常の高温超電導線材と同様の電流-電圧特性が得られた。また、その臨界電流値は50A以上であった。つまり第1超電導層の欠陥部分において、第2超電導層側にバイパスが生じたといえる。
【0073】
[実施例3]
第1の線材に人工的に欠陥を生じさせなかった以外は、実施例2と同様に高温超電導線材を作製した。当該高温超電導線材の断面をSEM(走査電子顕微鏡)で観察した。結果を
図6Aに示す。
図6Aに示すように、ピコ秒パルスレーザ(発振波長355nm)によるスクライビング加工によれば、第2線材10bだけでなく、第1線材10aの第1安定化層14aや第1超電導層13a、第1中間層12a、第1金属基板11aの一部も分断可能であった。
【0074】
続いて、上記ピコ秒パルスレーザの代わりに、フェムト秒パルスレーザ(発振波長:1μm、パルス長:300フェムト秒)を用いて溝を形成した場合の断面を
図6Bに示す。また、ピコ秒パルスレーザ(発振波長:1μm、パルス長:10ピコ秒)を用いて溝を形成した場合の断面を
図6Cに示す。いずれにおいても、第2線材10bだけでなく、第1線材10aの第1安定化層14aや第1超電導層13a、第1中間層12a、第1金属基板11aの一部も分断可能であった。
【0075】
[参考例]
実施例2と同様に、第1線材および第2線材を貼り合わせた。当該線材に対し、100Hz、最大出力0.5JのKrFエキシマガスレーザ(波長248nm、パルス長:15ナノ秒)を照射し、溝を形成しようとした。しかしながら、
図7に示すように、一般的なKrFエキシマガスレーザでは、第2金属基板11bも貫通できなかった。
【0076】
本出願は、2021年1月25日出願の特願2021-009425号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の高温超電導線材は、臨界電流が高く、かつヒステリシス損失が少ない。したがって、当該高温超電導線材は、超電導マグネット、超電導ケーブル、電力機器及びデバイス等に適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
10 線材
10a 第1線材
10b 第2線材
11 金属基板
11a 第1金属基板
11b 第2金属基板
12 中間層
12a 第1中間層
12b 第2中間層
13 超電導層
13a 第1超電導層
13b 第2超電導層
14 安定化層
14a 第1安定化層
14b 第2安定化層
15 接続層
20 フィラメント線材
31a、31b 欠陥
100 高温超電導線材