(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス用構造接続体
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20240611BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20240611BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20240611BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20240611BHJP
H01R 13/03 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
H01R4/18 Z
C22C9/02
H01B5/02 A
H01B7/00 301
H01R13/03 D
(21)【出願番号】P 2020112370
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】松尾 亮佑
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-096570(JP,A)
【文献】特開2010-084163(JP,A)
【文献】特許第6661040(JP,B1)
【文献】特開2011-001566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/00- 4/22
H01R13/00-13/08
H01R13/15-13/35
C22C 9/02
H01B 5/02
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の導体と、該導体に電気的に接続された被接続部材とを備え、
前記導体が、0.6質量%以上0.8質量%以下のSnを含み、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、
前記銅合金が、Cu及び不可避的不純物以外は、0.6質量%以上0.8質量%以下のSnのみを含み、
前記導体の直径が
0.24mm以上0.26mm以下であり、
前記導体の表面に0.5μm以上2.0μm以下の膜厚を有するSnめっき皮膜が被覆されており、
前記導体が、前記被接続部材と少なくとも2箇所以上で部分的に接触している接触部と、前記導体の全外周のうち前記接触部を含む外周部分を除いた非接触部とを有し、
前記非接触部における前記導体の円周に対する前記接触部における前記導体の円周方向の接触長さLの比率である接触比率が5%以上50%以下であり、
前記導体5本を束にした300mm長の電線の一端に400gの重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから前記重りを自由落下させる耐衝撃試験において断線が生じないことを特徴とするワイヤーハーネス用接続構造体。
【請求項2】
前記導体が700MPa以上の引張強度および2%以上の伸びを有する、請求項1に記載のワイヤーハーネス用接続構造体。
【請求項3】
前記非接触部における前記導体の直径D
0に対する前記接触部における前記導体の最小直径D
minの比(D
min/D
0)が0.80以上0.99以下である、請求項1又は2に記載のワイヤーハーネス用接続構造体。
【請求項4】
前記接触部における前記導体の引張試験力が25N以上である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス用接続構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の電気配線に使用されるワイヤーハーネスに用いることができるワイヤーハーネス用構造接続体に関し、特に、極細線を使用しても、接続信頼性、耐衝撃性及び生産性に優れたワイヤーハーネス用構造接続体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電車、航空機等の車両の電気配線には、導体を含む電線に端子を装着した、いわゆるワイヤーハーネスと呼ばれる部材が用いられている。このような自動車用ワイヤーハーネスには、電線の導体として通常、銅又は銅合金製の裸撚線が用いられており、電線の端部における導体がかしめ圧着された端子同士を勘合することで電気的信頼性が確保される。
【0003】
一方、近年の自動車の軽量化、車内スペースの拡大、信号線の増加に伴い、現行のワイヤーハーネスの軽量化及びサイズダウンの要求が高く、電線の細径化が求められている。このような要求に応じるため、導体撚線は細線化の一途をたどってきた。しかしながら、細線化した電線を備える端子をハウジング等に勘合する際、細径化された導体が抗力不足で折れ曲がり、接続不良が生じることがある。また、導体を端子に圧着することにより導体の断面積が大きく減少するため、組み立て作業中の衝撃で導体が断線してしまうことがある。
【0004】
このように、自動車用導体として現在要求されている最も細い電線(極細線)は、ハンドリングが難しいため、端子への圧着接続に変わる新たな接続方式を検討する必要がある。また、圧着接続とは異なる新たな接続方式を適用するワイヤーハーネスに極細線を使用する場合、適度な強度を有するだけでなく、圧着接続と同等の接続信頼性を維持できることが要求される。さらに、近年では電線の性能の他にも、高いコスト競争力が求められることから、従来と同等のコストで電線を作製可能であることが望ましい。
【0005】
特許文献1には、複数の導体素線とその間に配される繊維状の補強材とを組み合せた極細線の導体を備える被覆電線について開示されている。しかしながら、圧着接続とは異なる接続方式およびその接続方式における導体の接続信頼性については言及されていない。また、複数の導体素線と補強材との組み合わせは生産性の観点からコスト競争力に劣ってしまう。
【0006】
特許文献2には、電線として重要な特性である高い強度と導電率を有する極細銅合金線が開示されている。しかしながら、極細銅合金線の接続信頼性について評価されていない。また、導体の材料である銅合金は主成分としてAgを含んでおり、コスト競争力の観点から近年の極細電線への適用には不向きである。
【0007】
特許文献3には、所定の化学組成成分を有する複数の銅合金素線を撚り合わせた銅合金撚線について開示されている。しかしながら、圧着接続とは異なる接続方式およびその接続方式における導体の接続信頼性については言及されていない。また、導体として複数の銅合金素線が使用されるため、生産性の観点からコスト競争力に劣っている。
【0008】
このように、圧着接続とは異なる接続方式に極細線を適用した接続構造については知られていない。そのため、極細線を使用しても、圧着接続と同等の接続信頼性を満たし、さらには、耐衝撃性および生産性にも優れた新たな接続構造体の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-3853号公報
【文献】特許第4311277号公報
【文献】国際公開第2015/159671号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、極細線を使用しても、耐衝撃性および接続信頼性に優れ、生産性が向上した新たなワイヤーハーネス用構造接続体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のワイヤーハーネス用接続構造体は、1本の導体と、該導体に電気的に接続された被接続部材とを備え、前記導体が、0.6質量%以上0.8質量%以下のSnを含み、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、前記導体の直径が0.2mmより大きく0.3mm以下であり、前記導体の表面に0.5μm以上2.0μm以下の膜厚を有するSnめっき皮膜が被覆されており、前記導体が、前記被接続部材と少なくとも2箇所以上で部分的に接触している接触部と、前記導体の全外周のうち前記接触部を含む外周部分を除いた非接触部とを有し、且つ、前記非接触部における前記導体の円周に対する前記接触部における前記導体の円周方向の接触長さLの比率である接触比率が5%以上50%以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明のワイヤーハーネス用接続構造体において、前記導体が700MPa以上の引張強度および2%以上の伸びを有し、且つ、前記導体5本を束にした300mm長の電線の一端に400gの重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから前記重りを自由落下させる耐衝撃試験において断線が生じないことが好ましい。
【0013】
本発明のワイヤーハーネス用接続構造体において、前記非接触部における前記導体の直径D0に対する前記接触部における前記導体の最小直径Dminの比(Dmin/D0)が0.80以上0.99以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のワイヤーハーネス用接続構造体において、前記接触部における前記導体の引張試験力が25N以上であることが好ましい。引張試験力の上限は特に限定されるものではないが、電線の強度の兼ね合いから40N以下が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極細線を使用しても、耐衝撃性および接続信頼性に優れ、生産性が向上した新たなワイヤーハーネス用構造接続体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施態様であるワイヤーハーネス用接続構造体の概要を説明する概略断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示したワイヤーハーネス用接続構造体のA-A概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態であるワイヤーハーネス用接続構造体(以下、単に「接続構造体」ということもある)について説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明を具体的に説明するために用いた代表的な実施形態の例示に過ぎず、本発明の範囲において種々の実施形態をとり得る。
【0018】
[接続構造体]
本実施形態に係る接続構造体は、極細線である1本の導体と被接続部材とが電気的に接続されている。
図1は本発明の実施形態に係る接続構造体の概要を説明する概略断面図の一例である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る接続構造体1は、1本の導体10と、導体10に電気的に接続された被接続部材20とを備える。導体10は、被接続部材20と少なくとも2箇所以上で部分的に接触している接触部30と、導体10の全外周のうち接触部30を含む外周部分を除いた非接触部40とを有しており、被接続部材20が導体10の接触部30に押しつけられることで被接続部材20と導体10との接触が保持される。また、導体10と被接続部材20との接続信頼性を確保するため、導体10の表面にはSnめっき皮膜が被覆されている(図示せず)。接続構造体1が、導体10が被接続部材20と少なくとも2箇所以上で部分的に接続している構造(以下、「部分接続方式」ともいう)を有することにより、従来の圧着接続によるかしめ方式を利用しなくても、極細線の導体1本で被接続部材20と導体10との電気的接続が確保される。これにより、接続信頼性に優れた新たな構造接続体を提供することができる。また、圧着接続により極細線の断面積が減少することに起因する強度の低下を防止することでき、優れた耐衝撃性が付与される。さらに、複数の導体を使用しなくても所定の導電性および強度が付与されるため、生産性が向上し、導体の本数の削減に伴う軽量化、サイズダウンに寄与することができる。尚、
図1では、被接続部材20は、導体10の同一外周上で接しているが、これに限らず、導体10の異なる外周上でそれぞれ接していてもよく、導体10の同一外周上と異なる外周上の両方で接していてもよい。
【0019】
本実施形態に係る接続構造体1において、非接触部40における導体10の円周に対する接触部30における導体10の円周方向の接触長さLの比率である接触比率が5%以上50%以下である。
図2は、接触部30において、導体10の円周方向の接触長さLの概要を説明する概略断面図の一例である。
図2に示されるように、導体10は、被接続部材20と少なくとも2箇所で接触している。被接続部材20が導体10に押しつけられることにより、導体10が塑性変形し、導体10(接触部30)の外周における一定の領域で被接続部材20と接触する。この被接続部材20と接触する導体10の領域における導体10の円周方向の長さが、接触部30における導体10の円周方向の接触長さLに相当する。ここで、接触長さLは、導体10の垂直断面において、導体10と被接続部材20とが接触している部分が最も長い部分である。尚、導体10は被接続部材20と2箇所以上で接触しているため、接触長さLは、導体10と被接続部材20とが接触している各領域における接触長さの合計で算出される。
【0020】
一方、非接触部40は被接続部材20が導体10に押しつけられていない部分であるため、非接触部40における導体10の円周とは、実質的に導体10それ自体の円周に相当する。尚、被接続部材20による導体10への押しつけは、例えば、被接続部材20を圧力変形させることによる圧着や、被接続部材20におけるまたは別部材としてバネ性を有する抑え部(図示せず)の圧力による圧着により行われる。
【0021】
非接触部40における導体10の円周に対する接触長さLの比率である接触比率の下限が5%以上であることにより、接続構造体1に優れた接続信頼性を付与することができる。また、接触比率の上限が50%以下であることにより、導体10の塑性変形量が大きくなり過ぎることに起因する導体10の断面積の減少が抑制され、接続構造体1に優れた耐衝撃性を付与することができる。特に、接続構造体1の引張強度を向上させるため、接触比率は20%以上であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態に係る接続構造体1において、非接触部40における導体10の直径D0に対する接触部30における導体10の最小直径Dminの比(Dmin/D0)は、0.55以上であることが好ましく、0.80以上0.99以下であることが好ましい。特に、Dmin/D0の下限が0.80以上であることにより、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0023】
本実施形態に係る接続構造体1において、接触部30における導体10の引張試験力、すなわち抗力は25N以上であることが好ましい。導体10の引張試験力が25N以上であることにより、耐衝撃性をより向上させることができる。一方、引張試験力の上限は特に制限されるものではないが、ワイヤーハーネスとしての用途を考慮すると、引張試験力の上限は40N以下であることが好ましい。導体10が所定の引張試験力を有することにより、導体10を被接続部材20に接続する場合に、導体10の先端部における曲げ変形(座屈変形)を抑止することができる。
【0024】
本実施形態に係る接続構造体1において、所定の耐衝撃試験を行うことにより、耐衝撃性を評価することができる。ここで、所定の耐衝撃試験として、例えば、一定の長さの電線の一端に所定の重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから重りを自由落下させる耐衝撃試験が行われる。具体的には、導線5本を束にした300mm長の電線の一端に400gの重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから重りを自由落下させる耐衝撃試験において、導体10の断線の有無を評価する。導体10に断線が生じない場合、接続構造体1は耐衝撃性に優れていることを意味する。耐衝撃試験で導体が断線しないことにより、接続構造体1をワイヤーハーネスとして自動車に組み込む際、組み立て作業中に負荷され得る荷重に対しても断線が生じないことを保証できる。
【0025】
<導体>
導体10は、直径が0.2mmより大きく0.3mm以下の極細線であり、最小直径クラスの1本の単線で構成される。導体10が撚線ではなく単線であるため、従来のめっき撚線の圧縮工程における形状制御時に生じ得るめっき剥離が防止され、良好な接続信頼性を維持することができる。また、導体10の直径が0.2mmより大きいことにより、接続構造体1に優れた耐衝撃性が付与され、導体10の直径が0.3mm以下であることにより、上述したサイズダウンの効果を十分に得ることができる。導体10の直径は0.24mm以上0.26以下であることが好ましい。
【0026】
導体10の材料は、0.6質量%以上0.8質量%以下のSn(錫)を含み、残部がCu(銅)及び不可避的不純物からなる銅合金である。Snの含有量が0.6質量%以上0.8質量%以下であることにより、接続構造体1に優れた耐衝撃性が付与され、また、引張強度および伸びを向上させることができる。
【0027】
導体10の表面には、0.5μm以上2.0μm以下の膜厚を有するSnめっき皮膜が被覆されている。Snめっき皮膜の膜厚が0.5μm以上であることにより、接続構造体1に優れた接続信頼性が付与される。一方、Snめっき皮膜の膜厚が2.0μmより厚くても、各種特性に特段大きな影響を及ぼすものではないが、膜厚を厚くするにつれて導体寸法が限定されるため、上述のサイズダウンの要求に対して実用には不向きである。そのため、Snめっき皮膜の膜厚が2.0μm以下であることにより、実用化の観点で生産性が向上する。
【0028】
導体10は、650MPa以上の引張強度を有することが好ましく、700MPa以上の引張強度を有することがより好ましい。特に、導体10の引張強度が700MPa以上であることにより、導体10により高い強度を付与させることができ、より優れた耐衝撃性を有する構造接続体1を得ることができる。
【0029】
導体10は、1.7%以上の伸びを有することが好ましく、2%以上の引張強度を有することがより好ましい。特に、導体10の伸びが2%以上であることにより、導体10により高い強度を付与させることができ、より優れた耐衝撃性を有する構造接続体1を得ることができる。
【0030】
<被接続部材>
被接続部材20は、導体10と電気的に接続可能であり、また、接続信頼性を確保するためバネ性が高く、さらには導電性が良好な素材から形成されていることが好ましい。このような素材として、コルソン合金(Cu-Ni-Si系合金)等の強度および導電性に優れる銅合金が好適である。また、接続信頼性を高めるため、被接続部材20の表面にはSn等のめっきが施されていることが好ましい。
【0031】
次に、本実施形態に係る接続構造体の製造方法の一例を説明する。
【0032】
[接続構造体の製造方法]
まず、所定の合金組成を有する銅合金素線を準備し、必要に応じて素線に付着する不純物を除去した後、素線を所定の直径になるまで伸線し、任意に洗浄して極細線の導体(単線)を作製する。次いで、導体の表面に所定の膜厚になるまでSnめっきを施し、導体の外表面をSnめっき皮膜で被覆する。得られたSnめっき皮膜を有する導体が被接続部材と少なくとも2箇所で電気的に接続するように被接続部材を導体に押しつけ、保持することにより、極細線が従来の圧着接続ではなく、新たな接続方式により接続されたワイヤーハーネス用接続構造体を作製することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
<実施例1~31、比較例1~8>
実施例1~31について、Snを0.6~0.8質量%含み、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金の鋳造及び直後の線形加工により、8~10mmの直径を有する素線を形成した。次いで、必要に応じて素線に付着した酸化物を除去する皮むきを行った後、0.24~0.26mmの直径になるまで素線を伸線し、さらに酸洗を行うことで、極細線の導体を作製した。その後、導体の表面にSnめっきを施し、導体の外表面を0.5~2.0μmの膜厚を有するSnめっき皮膜で被覆した。接続構造体として評価する際には導体の接触部と接続させる被接続部材としての要素試験片を用意し、得られたSnめっき皮膜を有する導体について、接触比率が5%~50%の範囲内、Dmin/D0が所定の範囲内になるようそれぞれ調整し、部分接続方式により接続構造体を作製した。尚、要素試験片内に構成されるバネ片を導体に押しつけ保持することにより要素試験片と導体の接続部とを接続した。接触比率およびDmin/D0は下記に示す方法で測定した。一方、比較例1~7については、合金成分、導体の直径、Snめっき皮膜の膜厚、接触比率が上記の範囲外になるように構造接続体を作製した。また、比較例8については、従来の圧着接続によるかしめ方式を利用して構造接続体を作製した。得られた各導体および各接続構造体について下記の測定および評価を行った。各測定および評価結果を表1に示す。
【0035】
<接触比率の測定>
接続構造体に対して導体が挿入された状態で、接続部分を含む形で樹脂埋め込みを行い、
図2で示す断面方向より研磨し接続部分の比率を断面より確認した。具体的には、マイクロスコープ「VHX-1000」(KYENCE社製)を用いて倍率「×20」~「×100」の拡大像を元に装置付随の解析ツールにより接触比率を算出した。
【0036】
<Dmin/D0の測定>
上記接触比率の測定と同様の作業にてDmin/D0を測定した。
【0037】
<引張強度の測定>
導体の引張強度はJIS Z2241(2011)の規格に準拠して2回測定し、その平均値を引張強度として算出した。
【0038】
<伸びの測定>
導体の伸びは、JIS Z2241(2011)の破断伸びの規格に準拠して測定した。
【0039】
<接続信頼性>
接続信頼性は、測定端子間の距離を接続構造体の端部から導体までの距離300mmとしたこと以外はJIS H0505(1975)の規格に準拠して電気抵抗を2回測定し、その平均値を算出した。得られた平均値が0.5mΩ未満である場合、接続信頼性に優れるとして「〇」、0.5mΩを上回る場合は不合格として「×」と評価した。
【0040】
<耐衝撃性>
得られた導体5本を束にした300mm長の電線の一端に錘を付け、他端を固定し同位置から重りを自由落下させた耐衝撃試験を行った。400g以上の錘にて断線していない場合、耐衝撃性に非常に優れているとして「◎」、400g未満300g以上の錘にて断線していない場合、耐衝撃性に優れているとして「〇」、300gの錘において断線した場合、耐衝撃性が不十分であるとして「×」とそれぞれ評価した。
【0041】
<引張試験力>
一端を被覆付き電線、もう一端である電線と接触部と接続された接続構造体それぞれを引張試験機のつかみ具で挟みその距離が100mmとなるようにし、形状以外の試験条件はJIS Z2241(2011)に準拠して2回測定し、その平均値を算出した。
【0042】
【0043】
表1に示されるように、実施例1~31で得られた接続構造体は、いずれも、極細線である1本の導体だけでも耐衝撃試験で断線が生じず、耐衝撃性に優れていた。また、電気抵抗も0.5mΩ未満であり、接続信頼性にも優れていた。そのため、極細線であっても、耐衝撃性および接続信頼性に優れた新たなワイヤーハーネス用構造接続体を構築することができた。また、複数の導体を使用しなくても所定の導電性(接続信頼性)および強度(耐衝撃性)が付与されることから、生産性も向上し、さらには導体の本数の削減に伴う軽量化、サイズダウンに寄与することができる。このことから、実施例1~31で得られた接続構造体はワイヤーハーネスへの用途として好適であると評価できる。
【0044】
一方、比較例1、2では、導体に使用される銅合金の成分において、Snの含有量が0.6~0.8質量%の範囲外であるため、耐衝撃性が不十分であった。また、比較例3、4では、導体の直径が0.2mm以下であるため、耐衝撃性が不十分であった。
【0045】
比較例5では、Snめっき皮膜の膜厚が0.5μm未満であるため、接続信頼性が不十分であった。
【0046】
比較例6では、接触比率が5%未満であるため、接続信頼性が不十分であった。一方、比較例7では、接触比率が50%を超えているため、耐衝撃性が不十分であった。
【0047】
従来の圧着接続によるかしめ方式を利用して構造接続体を作製した比較例8では、接触比率が100%となるため、耐衝撃性が不十分であった。
【符号の説明】
【0048】
1 ワイヤーハーネス用接続構造体(接続構造体)
10 導体
20 被接続部材
30 接触部
40 非接触部