(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20240611BHJP
H01M 10/39 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M10/39 Z
(21)【出願番号】P 2020539068
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2019050550
(87)【国際公開番号】W WO2019141580
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2022-01-07
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ドムニク バイアー
(72)【発明者】
【氏名】イェズス エンリケ ゼルパ ウンダ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ヤブツィンスキ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン テル マート
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-062164(JP,A)
【文献】特表2017-505980(JP,A)
【文献】特開2001-243975(JP,A)
【文献】特表2018-503062(JP,A)
【文献】特開平01-221869(JP,A)
【文献】特開昭60-148071(JP,A)
【文献】米国特許第04188463(US,A)
【文献】中国実用新案第205882063(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のステップ:
(a)成形型への多孔質材料の挿入、
(b)前記多孔質材料中での0.5~200cm/sの範囲の流速による、前記成形型への液体多硫化物の導入、
(c)前記多硫化物の融解温度未満の温度への前記多硫化物の冷却、
(d)前記多硫化物を浸透させた前記多孔質材料の取出し
を含
み、
前記多孔質材料の挿入後、前記成形型を不活性ガスでフラッシングし、
前記多孔質材料が、フェルト、布、編物、ブレード編み、不織布、開孔発泡体、または三次元網状構造物であり、且つ、
前記多孔質材料が、グラファイト、熱安定化ポリマー繊維、酸化物セラミック繊維、ガラス繊維、またはそれらの混合物から構成されていることを特徴とする、多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品の製造方法。
【請求項2】
前記多硫化物を導入する前に、前記成形型に100mbar(絶対圧)未満の圧力を印加することを特徴とする、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
前記成形型が、150~350℃の範囲の温度を有することを特徴とする、請求項
1または2記載の方法。
【請求項4】
285~350℃の範囲の温度を有する前記多硫化物を、前記成形型に導入することを特徴とする、請求項1から
3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(b)において前記成形型を充填した後、前記ステップ(c)において、150~200barの範囲の圧力により前記多硫化物を追加導入することを特徴とする、請求項1から
4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記成形型に前記多硫化物を導入するために、コールドチャンバ法、ホットチャンバ法、または真空鋳造法を使用することを特徴とする、請求項1から
5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記多硫化物がアルカリ金属多硫化物であることを特徴とする、請求項1から
6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記多硫化物が多硫化ナトリウムであることを特徴とする、請求項
7記載の方法。
【請求項9】
前記成形品が、電気化学セル用の電極または電極の一部であることを特徴とする、請求項1から
8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記成形品が、電気化学セル内で使用するための貯蔵素子であることを特徴とする、請求項1から
9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記電気化学セルがナトリウム・硫黄電池であることを特徴とする、請求項
9または
10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品の製造方法に関する。
【0002】
そのような、多硫化物を浸透させた成形品は、電気化学セル、特にナトリウム・硫黄電池を製造する際に、例えば、電極もしくは電極部として、またはアノード材料用の貯蔵素子としても使用される。
【0003】
電池の貯蔵容量は、使用する反応物の含有量に依存するため、貯蔵容量を増やすためには付加的な貯蔵容器を使用する。ナトリウム・硫黄電池では、放電するために、カチオンに対して透過性の固体電解質に液体ナトリウムを供給する。液体ナトリウムは、同時にアノードとして利用され、カチオン伝導性固体電解質を通してカソードへと輸送されるカチオンを形成する。カソードでは、カソードへと流れる硫黄が多硫化物に還元される、つまり、ナトリウムイオンと反応して多硫化ナトリウムになる。対応する多硫化ナトリウムは、もう1つの容器に集めることができる。その代わりに、多硫化ナトリウムを硫黄と一緒にカソード室を囲む容器に集めることも可能である。密度差に基づいて、硫黄が上昇し、多硫化ナトリウムが沈殿する。この密度差は、カソードに沿った流れを引き起こすためにも利用できる。該当する電池設計が、例えば、国際公開第2011/161072号または国際公開第2017/102697号にも記載されている。
【0004】
ナトリウム・硫黄電池を製造する際に厄介であるのは、通常、使用する反応物の充填である。電池の故障のない動作を可能にするためには、通常はカソードとして使用される、固体電解質を取り囲む多孔質材料に完全に硫黄を浸透させることが必要である。電池の通常動作における硫黄の均一輸送を保証するためには、さらに、電極を取り囲む、硫黄タンク(Schwefelspeicher)として利用される空間も同じく、多孔質材料、通常はフェルトまたは不織布で充填する。通常、電池を充填するために、液体ナトリウムをナトリウム用貯蔵容器に注入し、かつ硫黄を浸潤させた多孔質電極を使用する。硫黄を浸透させた多孔質電極の製造方法は、例えば、特開2004-082461号公報、韓国公開特許第10-2013-0075495号公報または韓国公開特許第10-2014-0085758号公報に記載されている。
【0005】
アルカリ金属および硫黄で充填する際に厄介であるのは、特に、高反応性の液体アルカリ金属、特にナトリウムの操作である。あまり危険でなくかつあまり厄介でない電池の充填を可能にするためには、多孔質電極、および硫黄を貯蔵するための多孔質材料に多硫化物を浸透させ、かつそのように浸透させた多孔質電極および浸透させたタンク材料(Speichermaterial)を電気化学セルに装入することが、国際公開第2017/102697号から公知である。その場合、液体アルカリ金属、特に液体ナトリウムによる充填はもはや必要でない。電気化学セルをすぐに使える状態にするためには、次いで、組立て後に、アルカリ金属多硫化物をアルカリ金属と硫黄とに分解する最初の充電サイクルを行い、ただし、アルカリ金属イオンは、固体電解質を通過し、アノード室中の電極において電子受容により中和され、アルカリ金属用の貯蔵容器中に集まり貯蔵される。
【0006】
硫黄とは異なる、アルカリ金属多硫化物の特性ゆえ、特に、より高い融解温度およびその温度においてより低い粘性ゆえ、電極およびタンク材料用の多孔質材料を浸透させるために硫黄融体に対して使用する方法は、アルカリ金属多硫化物の浸透には使用できない。その上、アルカリ金属多硫化物融体は自然発火しかねないため、多硫化物を浸透させた多孔質材料の製造時には、多硫化物が液状で存在する限り、酸素との接触は避けるべきである。さらに、アルカリ金属多硫化物は吸湿性であるため、アルカリ金属多硫化物の水との接触は、たとえ周囲空気中に大気湿度として含有されている水とであってもできるだけ低く保つべきである。その上、高圧で充填する際に、浸透する多硫化物により、多孔質材料の構造が変化し得るか、または破壊されることさえもあることが分かった。
【0007】
したがって、本発明の課題は、安全に操作可能でありかつ多孔質材料の構造を破壊しない、多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品の製造方法を提供することであった。
【0008】
この課題は、次のステップ:
(a)成形型への多孔質材料の挿入、
(b)該多孔質材料中での0.5~200cm/sの範囲の流速による、該成形型への液体多硫化物の導入、
(c)該多硫化物の融解温度未満の温度への該多硫化物の冷却、
(d)該多硫化物を浸透させた該多孔質材料の取出し
を含む、多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品の製造方法により解決される。
【0009】
驚くべきことに、0.5~200cm/sの範囲、好ましくは0.5~50cm/sの範囲にある、多孔質材料中での多硫化物の流速により、多孔質材料の構造が、性能損失のない電気化学セルの動作が不可能になるように変化することなく多孔質材料の浸潤が達成されることが分かった。そのような変化は、流速が高すぎる場合に、例えば、フェルト、または多孔質材料として使用される不織布中の繊維の移動により生じる。その移動により、フェルトまたは不織布内の細孔径が変化し、それが、毛細管現象の低下をもたらすため、放電中は、もはや十分には多硫化物が固体電解質から運び去られず、かつもはや十分には硫黄が固体電解質へと運ばれなくなり、充電中は、十分な多硫化物が固体電解質へと運ばれず、かつ十分な硫黄が固体電解質から運び去られなくなる。電気化学セルの最適な動作には、固体電解質が理想的には、放電時は常に硫黄で完全に濡れており、かつ硫黄とアルカリ金属の反応直後、多硫化物が固体電解質から運び去られ、相応に、充電時は常に多硫化物で完全に濡れており、かつ多硫化物が硫黄とアルカリ金属とに分解した直後、硫黄が固体電解質から運び去られることが必要である。この輸送は、多孔質電極中の細孔の毛細管現象、および多孔質材料の、多硫化物ないしは硫黄による相応する濡れ性によって促進される。
【0010】
本発明において、アノード材料X、通常はアルカリ金属、特にナトリウムと硫黄とからなる反応生成物XySnを「多硫化物」と呼ぶ。nは、1~5.2の間の数であり、多硫化物中に含有されている硫黄鎖の平均長さを指定し、ただし、多硫化物は、頻繁には、それぞれ分子当たり異なる数の硫黄原子を有する多硫化物からなる混合物であり、yは、アノード材料と硫黄とからなる反応生成物が電気的に中性であるように選択される整数である。硫黄鎖は、常に2倍の負荷電であるため、アノード材料Xがアルカリ金属の場合は例えばy=2である。
【0011】
多硫化物を浸透させた多孔質材料を製造するために、第1のステップ(a)では、多孔質材料を成形型に挿入する。その際、該成形型は、射出法または鋳造法において使用され、かつ製造すべき成形品の外面形状に相当する内表面輪郭線を有するような通常の成形型である。多硫化物の著しい腐食特性ゆえ、多硫化物と接触する、成形型の全表面は、多硫化物に対して不活性な材料からなる。これに関しては、成形型の表面をコーティングするか、またはその代わりに成形型を、多硫化物に対して不活性な、かつ生じる温度に対して安定な材料から製作することが可能である。成形型のコーティング用または製造用に適切な材料は、例えば、クロム、ガラス、またはセラミックスである。つまり、例えば、鋳鉄、または鋼、例えば特殊鋼もしくは焼入れ工具鋼から成形型を製作してクロムコーティングを施すことが可能である。その際、クロムコーティングは、好ましくは電気化学的に、つまり電気めっき法で塗布される。成形型用の材料としてガラスまたはセラミックスを使用する場合、その成形型を、好ましくは完全にそれらの材料から製作する。その代わりに、薄いセラミックコーティングを、例えば気相成長法、例えばCVDによって塗布することも可能である。製造した部品を離型しやすくするためには、成形品の輪郭線を形成する表面が研磨されていると有利である。
【0012】
多孔質材料の挿入後、成形型を閉じる。多硫化物を浸透させた多孔質材料を電気化学セル中で使用する際、続く電気化学セルの組立てを容易にするために、成形型の内側輪郭線は、成形型中で製造された、多硫化物を浸透させた多孔質材料が、電気化学セル内への容易な装入を可能にする寸法を有するように形成される。つまり、製造された、多硫化物を浸透させた多孔質材料の外面は、多硫化物を浸透させた多孔質材料が、電気化学セルを組み立てた状態で密接する面に対して、それぞれわずかな間隔を有する。電気化学セルの動作中、多孔質材料が、それぞれの外面で密接するように、さらに、多孔質材料が成形型中でいくぶん圧縮されると好ましい。電気化学セル内に取り付けて多硫化物が溶融すると、次いで多孔質材料が再び膨張し、電気化学セルのそれぞれの外面に接触する。その際、製造された、多硫化物を浸透させた多孔質材料の形、および多孔質材料を成形型に挿入する際の圧縮は、電気化学セル内での緩和後、多孔質材料が、電気化学セル内でのすべての接触面で密接することが確保されるように選択する。それは、多孔質材料が、好ましくは電気化学セル内での回復後もなお軽く圧縮されているということを意味する。
【0013】
電気化学セル内での多孔質材料の使用に応じて、多孔質材料を成形型中で、圧縮されていない多孔質材料の体積よりも0~50%、好ましくは5~40%、特に5~30%小さい体積へと圧縮する。多孔質材料を電極部として使用する場合、多孔質材料を成形型中で、好ましくは、圧縮されていない多孔質材料の体積よりも5~50%、さらに好ましくは10~40%、特に20~30%小さい体積へと圧縮する。多孔質材料をタンク部に使用する場合、圧縮はそれほど決定的ではないため、その場合、多孔質材料を、好ましくは、圧縮されていない多孔質材料の体積よりも0~30%、さらに好ましくは5~20%、特に5~15%小さい体積へと圧縮する。
【0014】
溶融多硫化物は、酸素の存在下、自然発火する傾向があるため、多孔質材料を挿入して閉じた後、成形型を不活性ガスですすぐことが有利である。その際、不活性ガスとしては、多硫化物と反応しないあらゆるガスを使用できる。適切な不活性ガスは、特に、窒素、二酸化炭素、または希ガスである。不活性ガスとしては窒素が特に好ましい。不活性ガスでのすすぎにより、その前に成形型内に含有されていたガス、総じて空気が除去される。その結果、成形型内に含有されている酸素も除去されるため、多硫化物を成形型に注入する際に自然発火の危険は存在しないことになる。付加的または代案的に、空気、それゆえ酸素を成形型から除去するために、負圧を印加することも可能である。そのために、好ましくは、多硫化物を挿入する前に、成形型に100mbar(絶対圧)未満の圧力を印加する。その際、負圧の印加は、それにより、多硫化物の成形型への輸送が促進され、特に、成形型の完全な充填も可能になるという付加的な利点を有する。なぜなら、成形型内に含有されているガスを圧縮するために、成形型への多硫化物の導入に使用する圧力が小さくて済むからである。80mbar(絶対圧)未満、特に60mbar(絶対圧)未満の、成形型に印加する負圧が特に好ましい。
【0015】
成形型への導入中に、成形型の壁に沿って多硫化物が凝固し、凝固した多硫化物が融体と共に輸送されることにより、多孔質材料が傷つきかねず、その結果、欠陥のある成形品が製造されることを阻止するためには、成形型が、150~350℃の範囲の温度を有すると好ましい。そのような温度が、成形型への導入中に多硫化物が凝固することを阻止するために十分である。多硫化物を浸透させた多孔質材料を製造するために、例えば鋳造鋳型を使用する場合、その鋳型を、多硫化物の融解温度を上回る温度に加熱して充填後に冷却することが可能である。
【0016】
多硫化物の導入後、多硫化物をその融解温度未満の温度に冷却する。収縮を回避し、望ましい幾何的要件に対応する成形品を製造するためには、冷却中、成形型に多硫化物を追加導入する(nachdruecken)と好ましい。成形型内の多硫化物が凝固できるように、成形型の温度が、多硫化物の融解温度未満であることが必要である。しかしながら、他方で、多硫化物の凝固が早すぎて、成形品の形状保持性(Formhaltigkeit)を確保するための追加導入が困難もしくは阻止されないよう、または多孔質材料の破損が起き得ないよう、成形型の温度が低すぎないことも欠かせない。望ましい形状保持性を達成するための追加導入のためにも、成形型が150~350℃の範囲の温度を有すると有利である。
【0017】
その際、多硫化物と接触する面での温度が、成形型の温度と理解される。成形型の調温には、例えば、電気加熱を設けること、その代わりに調温媒体、例えば蒸気もしくは熱媒油が貫流する流路を成形型内に形成することが可能である。
【0018】
多硫化物を成形型に導入する最中の早すぎる凝固を回避するためにも、形状保持性のための追加導入を可能にするためにも、成形型の温度、つまり多硫化物と接触する成形型表面の温度が、150~350℃の範囲、さらに好ましくは150~250℃の範囲、特に170~230℃の範囲にあると好ましい。
【0019】
多硫化物を浸透させた多孔質材料から製造した成形品が、成形型から取り出した後になおも変形しかねないことを阻止するためには、成形品を取り出すために成形型を開く前に、成形型に導入した多硫化物全体が凝固していると有利である。それは、多硫化物の導入後、成形型が、さらに10~300s、好ましくは30~180s、特に60~120s閉じたままであることによって達成される。その際、その時間は、特に、成形型の温度、融体の温度、および多硫化物を浸透させた多孔質材料から製造した成形品のサイズに依存する。成形型の温度が高ければ高いほど、かつ成形品が大きければ大きいほど、成形品を取り出すために成形型を開いてよくなるまで、ますます長時間、成形品は、成形型への多硫化物の導入の終了後に成形型内にとどまる必要がある。
【0020】
多硫化物は自然発火する可能性があり、溶融状態で酸素と接触することは阻止する必要があるため、多硫化物を、好ましくは固体形状で貯蔵容器に導入する。その貯蔵容器を、多硫化物での充填後、例えば、不活性ガスですすぐことにより不活性化する。その際、不活性ガスとしては、成形型のすすぎ用に前記したガスと同じガスを使用してもよい。貯蔵容器の不活性化にはアルゴンが好ましい。代案的または付加的に、多硫化物の注入および密封後に貯蔵容器を減圧脱気することも可能である。不活性化後、貯蔵容器を、多硫化物の融解温度を上回る温度に加熱して、貯蔵容器内の多硫化物を溶融する。アノード材料としてのナトリウムおよびカソード材料としての硫黄をベースに作動する電気化学セルにおいて通常は使用されるように、多硫化物が多硫化ナトリウムである場合、貯蔵容器を、285℃超の温度、好ましくは285~350℃の温度に加熱すると、多硫化物も、溶融後に同じく285~350℃の範囲の温度を有するようになる。多硫化物の溶融を加速するためには、溶融最中の温度が285℃より高いと有利である。多硫化物の融解温度と貯蔵容器の温度との間の温度差が大きければ大きいほど、多硫化物を溶融するために利用可能な供給される熱流量がますます大きくなる。
【0021】
次いで、適切な接続管を介して貯蔵容器を成形型と接続する。例えば、貯蔵容器の出口にあるバルブを介して貯蔵容器から接続管への接続を開く前に、例えば、前記のように、不活性ガスでのすすぎおよび/または減圧脱気により、接続管を不活性化することが有利である。接続管を介して貯蔵容器を成形型と接続するような構成では、多硫化物を使い果たした場合に、貯蔵容器を簡単に交換できる。その場合、多硫化物を、成形型と接続していない貯蔵容器内で溶融することができ、溶融多硫化物で充填された貯蔵容器を接続管に接続する。それは、多硫化物を使い果たした後にそれぞれ新しい多硫化物を貯蔵容器に導入する必要があり、その貯蔵容器を不活性化してから多硫化物を溶融させる場合には必要であろう長時間の中断を伴わずに、多硫化物で充填した多孔質材料からなる成形品の製造を可能にする。その代わりに、定期的に多硫化物を貯蔵容器に注ぎ足すこと、または不活性化した容器を設け、その中に固体多硫化物を入れてその容器をディスペンス装置、例えばロータリーバルブにより、溶融多硫化物用の貯蔵容器と接続し、下側閾値(untere Fuellmenge)に達成したら追加添加するか、またはその代わりに固体多硫化物を連続的に、液体多硫化物用の貯蔵容器に追加添加することも可能であり、ただし、固体多硫化物は、貯蔵容器中、そこにすでに含有されている液体多硫化物の中で溶融する。
【0022】
貯蔵容器を交換する方法では、多硫化物を接続管中に残すことが有利である。それは、貯蔵容器の交換後に接続管を改めて不活性化することなく動作の続行を可能にする。その場合は自然発火の危険ゆえ接続管の末端部を密封する必要があるため、その場合、貯蔵容器の出口に設けられたバルブと、接続管を貯蔵容器に接続する側の接続管に設けられたバルブとの間の部分を不活性化することしか必要でない。多硫化物が接続管内で凝固し得ることを阻止するためには、接続管にトレース加熱、例えば、電熱線、または調温媒体が貫流する二重ジャケットを装備することが好ましい。さらに、燃焼の回避には接続管を断熱することも必要である。
【0023】
多硫化物は、融体として成形型に導入される。つまり、融解温度は、例えば、多硫化ナトリウムを使用する場合は235~285℃の範囲にある。多硫化ナトリウムを成形型に導入する際の温度は、好ましくは285~350℃の範囲、特に300~330℃の範囲にある。
【0024】
多硫化物は凝固中に収縮するため、冷却中にさらなる多硫化物を成形型に追加導入することが欠かせない。それは、注入点から離れた成形品の部位においても、収縮を補整するための多硫化物が追加導入されるほどの大きな圧力で行う必要がある。それが、形の精確な成形品の製造を可能にし、電気化学セルを簡単に組立て可能にするためには、特に欠かせない。追加導入時にも、多孔質材料が変形することを阻止する必要があるため、成形型を充填した後、好ましくは150~200barの範囲の圧力で多硫化物を追加導入する。そのような圧力は、多孔質材料が変形することなしに形の精確な成形品の製造を可能にする。
【0025】
多硫化物を成形型に導入するためには、様々な鋳造法を使用できる。好ましくは、成形型に多硫化物を導入するために、コールドチャンバ法、ホットチャンバ法、または真空鋳造法を使用する。
【0026】
コールドチャンバ法では、多硫化物を炉内で加熱して溶融し、炉から、成形型内での圧力を上昇させることができる搬送ユニットへと運搬し、その搬送ユニットを用いて成形型内に押し込む。それとは異なり、ホットチャンバ法では、多硫化物を成形型に押し込むための搬送ユニットが炉の一部である。成形型内での圧力を上昇させることができる搬送ユニットとして、特にピストンユニットを使用する。そのようなピストンユニットは、貯蔵容器または炉から多硫化物がその中へと流入する圧縮室、および次のステップにおいて多硫化物を圧縮室から成形型に詰め込むためのピストンを含む。しかしながら、そのようなピストンユニットの代わりに、別のあらゆる適切な搬送ユニット、例えばポンプ、さらには往復スクリュー機も使用可能である。しかしながら、ピストンユニットが特に好ましい。
【0027】
真空鋳造法では、コールドチャンバ法およびホットチャンバ法とは異なり、多硫化物を、搬送ユニットにより成形型に押し込むのではなく、成形型に負圧を印加し、その、成形型に印加した負圧に基づき、溶融多硫化物が成形型に流入する。
【0028】
真空鋳造法をホットチャンバ法またはコールドチャンバ法と組み合わせることが特に好ましい。負圧の印加により、特に、ガスが成形品内に封入され得ることで多孔質材料の不完全な浸透につながるか、または成形型内のガスに起因し、成形型内の気泡により表面での変形が生じることが阻止される。なぜなら、多硫化物を導入する前に、成形型からガスが除去されるからである。その際、例えば、まず多硫化物を、単に負圧の印加により成形型に導入してもよい。搬送ユニットは追加導入のためにのみ使用するか、または最初から搬送ユニットで支持しながら多硫化物を成形型に押し込む。しかしながら、いずれの場合も、多孔質材料中での多硫化物の流速が、0.5~200cm/sの範囲、好ましくは0.5~50cm/sの範囲、特に1~10cm/sの範囲にあることに注意する。
【0029】
多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品は、特に、電気化学セル用の電極もしくは電極の一部、または電気化学セル内で使用するための貯蔵素子、特にナトリウム・硫黄電池用の貯蔵素子でもある。
【0030】
多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品をその中で使用できる電気化学セルは、通常、液体カソード材料を収容するカソード室、および液体アノード材料を収容するアノード室を含み、ただし、該カソード室と該アノード室とは、固体電解質により分離されており、該固体電解質は、カソード材料が貫流できる開口部を有する面状体で囲まれている。該面状体は、導電材料から製作されており、カソード室は、少なくとも1つの切片を含み、ただし、各切片は、導電材料からなるジャケットを有し、該ジャケットは、開口部を有する面状体に導電性に固定されている。カソード室が、複数の切片を含む場合、その上、開口部を有する面状体とジャケットとの流体密封接続が必要である。各切片は、それぞれ、カソード材料のタンクとして利用され、電気化学セルの貯蔵容量を増やすためには、切片数、または断面積、それゆえ切片体積のいずれか一方を大きくしてもよい。カソード材料を固体電解質へと均一に導き、かつ固体電解質上で形成された、アノード材料とカソード材料とからなる反応生成物を固体電解質から運び去るためには、切片内に多孔質材料を挿入する。多孔質材料の細孔内での毛管力により、カソード材料ないしは反応生成物の輸送が促進される。電気化学セルを製造する際に、反応性の反応物、特にアノード材料として使用される高反応性アルカリ金属の操作を回避するために、多孔質材料に多硫化物を浸透させ、次いで、多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品として切片内に装入する。該当する電気化学セルおよびその製造は、例えば、国際公開第2017/102697号に記載されている。カソード材料およびアノード材料で充填する代わりに多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品を使用することにより、電気化学セルは、組立て後、放電状態にある。したがって、電気化学セルを使用可能にするためには、まず充電する必要がある、そのためには、電気化学セルをまず加熱し、多硫化物が溶融するようにする。続いて、電気化学セルに電流を印加すると、固体電解質上で多硫化物が、カソード材料とアノード材料とに分解される。アノード材料は固体電解質を通過し、アノード室に集まる。カソード材料は、カソード室の多孔質材料中にとどまる。
【0031】
代案的または付加的に、多孔質材料からなる電極を設けることも可能であり、ただし、その電極は、固体電解質の、カソード室に面した側に配置されている。その際、多孔質材料からなる電極が、好ましくは固体電解質を囲む。
【0032】
多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品を、電気化学セルにおいて使用する際、多硫化物としてアルカリ金属多硫化物を使用することが特に好ましい。特に好ましくは、アルカリ金属多硫化物が多硫化ナトリウムである。
【0033】
多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品の機能に応じて、多孔質材料用の材料を選択する。多孔質材料を、電気化学セル内の多孔質電極として使用する場合、その多孔質材料には、硫黄によっても多硫化物によっても濡らすことができる、化学的に不活性かつ導電性の材料を使用する。その場合、多孔質材料は、好ましくは、特にグラファイトの形の炭素から構成されている。
【0034】
多孔質電極内での物質輸送を改善するためには、カソード材料によって濡らすことができる化学的に不活性かつ導電性の材料に加えて、カソード材料とアノード材料とからなる反応生成物によって良好に濡れ性の第2の材料を設けることが可能であり、ただし、その第2の材料は、必ずしも導電性でなくてもよい。カソード材料とアノード材料とからなる反応生成物によって良好に濡れ性の材料としては、特に、酸化物セラミックスまたはガラス、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化ケイ素、例えば、ガラス繊維、アルミニウムの、ケイ素、ケイ酸塩、およびアルミノケイ酸塩との混合酸化物、ならびに酸化ジルコニウム、およびそれらの材料の混合物が適切である。さらに、アノード材料とカソード材料とからなる反応生成物によって良好に濡れ性の材料が含有されている場合、電極中での、カソード材料とアノード材料とからなる反応生成物によって良好に濡れ性の材料の分率は、好ましくは50体積%未満、特に好ましくは40体積%未満、少なくとも5体積%である。その上、熱処理により電極をアノード材料とカソード材料とからなる反応生成物に対して濡れ性にすることが可能である。熱処理は、例えば、空気雰囲気中の600℃において20~240分間、行ってもよい。
【0035】
多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品を、カソード室内のタンク材料として使用する場合、多孔質材料を、好ましくは、カソード材料によって、およびカソード材料とアノード材料とからなる反応生成物によって良好に濡れ性である材料から製作する。カソード材料および反応生成物の濡れ特性が異なる場合でも多孔質材料の良好な濡れを獲得するためには、多孔質材料を異なる材料から製作することが有利であり、ただし、材料の一部はカソード材料によって良好に濡れ性であり、一部はアノード材料によって良好に濡れ性である。多孔質材料用の複数の異なる材料からなる混合物を使用する場合、それらの材料を、好ましくはそれぞれ同一体積分率で使用する。しかしながら、電気化学セルの設計に応じて、別の体積比率も設定可能である。アノード材料としてアルカリ金属およびカソード材料として硫黄を使用する場合、多孔質材料を構成する材料として、特に、熱安定化ポリマー繊維、酸化物セラミック繊維またはガラス繊維、好ましくは酸化物セラミック繊維またはガラス繊維と混合した熱安定化ポリマー繊維が適切である。酸化物セラミック繊維またはガラス繊維として、特に、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化ケイ素からなる繊維、例えば、ガラス繊維、アルミニウムの、ケイ素、ケイ酸塩、もしくはアルミノケイ酸塩との混合酸化物、酸化ジルコニウム、またはそれらの材料の混合物が適切である。適切な熱安定化ポリマー繊維は、例えば、酸化された熱安定化ポリアクリルニトリル(PAN)繊維であり、例えば、PANOX(登録商標)の名称で市販されている。そのような繊維を、300℃超の温度に対してより安定性にするためには、酸化物セラミック繊維またはガラス繊維と混合したポリマー繊維を、例えば、12~36時間、400~500℃の範囲の温度において、不活性雰囲気中、例えば、窒素、またはアルゴンのような希ガス中で後処理することが有利である。
【0036】
電気化学セル、特にナトリウム・硫黄電池において使用する多孔質材料により、電極へと向かうおよび電極から離れる、カソード材料およびカソード材料とアノード材料とからなる反応生成物の均一な輸送が確保され得るように、多孔質材料は、好ましくはフェルト、布、編物、ニット布、ブレード編み、不織布、開孔発泡体、または三次元網状構造物である。多孔質材料がフェルトである場合、電気化学セルの動作中の物質輸送を改善するために優先方向を与える。その際、優先方向は、特に、ニードリングによって生み出してもよい。その際、優先方向は、好ましくは、電気化学セルの組立て後、固体電解質に対して垂直に延びる。代案的または付加的に、物質輸送を改善するために流路状の構造を設けることが可能である。その構造も同じく、電気化学セルを組み立てた状態で、好ましくは固体電解質に対して垂直に延びる。
【0037】
優先方向を有する多孔質材料において、多硫化物と多孔質材料とからなる成形品の製造時にその優先方向を利用するため、かつ多硫化物による浸透を容易にするためには、多硫化物を成形型に導入するための注入点が、成形型への導入時、多硫化物が多孔質材料内の優先方向に沿って流れるように配置されていると有利である。それにより、特に、成形型に多硫化物を導入する最中の多孔質材料の変形がさらに軽減または阻止される。
【0038】
多硫化物の導入後、多硫化物が凝固するまで冷却する。それにより、多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる成形品が形成される。凝固した多硫化物により、成形品も寸法安定性であるため、成形品は変形不可能となり、それによって簡単に電気化学セルの製造に使用できるようになる。多孔質材料の変形は、多硫化物が改めて溶融して初めて、再び簡単に可能である。多硫化物を浸透させた多孔質材料からの製造のもう1つの利点は、成形品を安全に操作できることである。なぜなら、多硫化物は、溶融状態でのみ自然発火する傾向があり、多硫化物が固体形状であれば、酸素の存在下でさえもそのような自然発火は起こらないからである。
【0039】
したがって、多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる複数の成形品を安全に製造するためには、成形型を開いて成形品を取り出した後、改めて閉じてから多硫化物を導入する前に、成形型を再び不活性化することが必要である。前記のように、例えば、不活性ガスでのすすぎにより、または代案的もしくは付加的に負圧の印加により、多硫化物を導入する前に成形型を不活性化する限り、本方法は、複数の成形品を製造するためにも安全に操作できる。
【0040】
成形品を製造するための唯一の鋳型を有する成形型の使用に加えて、それぞれ流路を介して互いに接続されているか、または多岐管を介して多硫化物用の中央供給部と接続されている複数の鋳型を有する成形型を使用することも可能であり、それによって、1つの成形型内で、多硫化物を浸透させた多孔質材料からなる複数の成形品を同時に製造できる。その場合、成形型の個々の鋳型を、多岐管を介して中央供給部と接続することが好ましいため、個々の鋳型は、多岐管を介して同時に、中央供給部により導入される多硫化物で充填されることになる。