(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】有機繊維強化樹脂成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20240611BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20240611BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240611BHJP
B29B 7/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L1/00
C08J5/04 CES
B29B7/00
(21)【出願番号】P 2021509619
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013855
(87)【国際公開番号】W WO2020196800
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019060606
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198328
【氏名又は名称】田中 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】伊倉 幸広
(72)【発明者】
【氏名】佐武 真有
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 涼音
(72)【発明者】
【氏名】中島 康雄
(72)【発明者】
【氏名】須山 健一
(72)【発明者】
【氏名】金 宰慶
(72)【発明者】
【氏名】田中 広樹
(72)【発明者】
【氏名】友松 功
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136881(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/196551(WO,A1)
【文献】特開2007-056176(JP,A)
【文献】特開2013-245343(JP,A)
【文献】特開2011-208015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂及びセルロース繊維を含有する有機繊維強化樹脂成形体であって、
前記セルロース繊維の直径が1~30μmであり、該樹脂成形体の密度が0.65g/cm
3以下であり、
前記樹脂の結晶配向度が0.50を越えて1.00以下である、有機繊維強化樹脂成形体
(ただし、β結晶型核剤を含む有機繊維強化樹脂成形体を除く)。
【請求項2】
前記セルロース繊維の配向度が0.40以上である、請求項1に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
【請求項3】
前記樹脂成形体の、60℃以上100℃以下の温度領域における線膨張係数が0ppm/K以上10ppm/K未満である、請求項1又は2に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
【請求項4】
前記樹脂がポリプロピレン樹脂を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
【請求項5】
前記樹脂成形体の引張強度を前記樹脂成形体の密度で除した比強度が0.08MJ/kg以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
【請求項6】
25℃における貯蔵弾性率E
25に対する100℃における貯蔵弾性率E
100の比である、弾性率維持率E
100/E
25が、0.38以上である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
【請求項7】
前記樹脂成形体が、一方向に延伸されてなる、請求項1~
6のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
【請求項8】
前記密度が0.40g/cm
3以上、前記セルロース繊維の配向度が0.40以上、前記樹脂の結晶配向度が0.65以上1.00以下である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
【請求項9】
樹脂及びセルロース繊維の溶融混練物から得られた中間成形体を、前記樹脂の結晶緩和温度以上融点以下の温度に保持し、少なくとも一軸に延伸する工程を有する、請求項1~
8に記載の有機繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維強化樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の機械的物性を高めるために、樹脂にガラス繊維、有機繊維等の強化繊維を配合した繊維強化樹脂が知られている。有機繊維としては、例えば、クラフトパルプ繊維、木粉、ジュート繊維等のセルロース繊維が挙げられる。有機繊維を強化材料として使用すると、ガラス繊維で強化した場合に比べて、得られる繊維強化樹脂はより軽量になり、比強度(機械強度を密度で除した値)が高くなることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1にはポリプロピレン樹脂と有機溶剤抽出成分量が1重量%以下の植物繊維とを含有する複合樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
輸送機器材料等に用いられる材料には、軽量(低密度)で、かつ高い機械強度を示すこと、すなわち、高い比強度を有することが求められる。近年、この要求はより一層高まっている。また、高温環境等の過酷な条件下で使用した場合にも機械特性を維持できる特性も求められる。
本発明者らが特許文献1記載の複合樹脂組成物から得られる成形体をはじめ、従来の有機繊維強化樹脂成形体について検討したところ、これらの有機繊維強化樹脂成形体では、上記要求に応えることができる十分な比強度を有しないことがわかってきた。
【0006】
本発明は、比強度に優れ、また、高温環境においても機械特性の低下を生じにくい有機繊維強化樹脂成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の上記課題は、以下の手段によって解決された。
〔1〕
樹脂及びセルロース繊維を含有する有機繊維強化樹脂成形体であって、該樹脂成形体の密度が0.65g/cm3以下である有機繊維強化樹脂成形体。
〔2〕
前記セルロース繊維の配向度が0.40以上である、〔1〕に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
〔3〕
前記樹脂成形体の、60℃以上100℃以下の温度領域における線膨張係数が0ppm/K以上10ppm/K未満である、〔1〕又は〔2〕に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
〔4〕
前記樹脂がポリプロピレン樹脂を含む、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
〔5〕
前記樹脂の結晶配向度が0.50を越えて1.00以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
〔6〕
前記樹脂成形体の引張強度を前記樹脂成形体の密度で除した比強度が0.08MJ/kg以上である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
〔7〕
25℃における貯蔵弾性率E25に対する100℃における貯蔵弾性率E100の比である、弾性率維持率E100/E25が、0.38以上である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
〔8〕
前記樹脂成形体が、一方向に延伸されてなる、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
〔9〕
前記密度が0.40g/cm3以上、前記セルロース繊維の配向度が0.40以上、前記樹脂の結晶配向度が0.65以上1.00以下である、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の有機繊維強化樹脂成形体。
〔10〕
樹脂及びセルロース繊維の溶融混練物から得られた中間成形体を、前記樹脂の結晶緩和温度以上融点以下の温度に保持し、少なくとも一軸に延伸する工程を有する、〔1〕~〔9〕に記載の有機繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【0008】
本発明の説明において「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機繊維強化樹脂成形体は、優れた比強度を示し、また、高温環境においても機械特性の低下を生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体の広角X線回折測定の1次元回折パターンである。散乱ベクトルsが1.60nm
-1の位置に観測される回折ピークがポリプロピレンのα晶(040)面由来の回折ピークであり、散乱ベクトルsが1.92nm
-1の位置に観測される回折ピークがポリプロピレンのα晶(110)面由来の回折ピークである。なお、散乱ベクトルsが2.10nm
-1の位置に観測される回折ピークは、ポリプロピレンのα晶(130)面由来の回折ピークである。
【
図2】実施例1のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体の広角X線回折測定の1次元回折パターンである。散乱ベクトルsが3.87nm
-1の位置に観測される回折ピークがセルロース繊維の(004)面由来の回折ピークである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔樹脂成形体〕
本発明の有機繊維強化樹脂成形体(以下、単に「樹脂成形体」とも称す。)は、樹脂とセルロース繊維とを含有し、樹脂成形体の密度が0.65g/cm3以下である。この樹脂成形体は、比強度に優れ、かつ高温環境においても弾性率の低下が生じにくい。
【0012】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂を含有することが好ましく、ポリオレフィン樹脂(エチレン性不飽和化合物を重合又は共重合して得られる樹脂。詳細は後述するが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)を含有することがより好ましく、ポリプロピレン樹脂を含有することがさらに好ましい。本発明で使用しうる樹脂の詳細については後述する。
樹脂は、樹脂成形体中において、その少なくとも一部が結晶構造を形成していることが好ましい。例えば、樹脂としてポリプロピレン樹脂を含有する場合、ポリプロピレン樹脂の少なくとも一部は結晶構造を形成していることが好ましく、α型結晶(以下、α晶とも称す)を有することが好ましい。
樹脂成形体中において、セルロース繊維は配向していることが好ましい。また、樹脂成形体中において、樹脂も配向していることが好ましい。セルロース繊維の配向度、及び樹脂の配向度については後述する。
樹脂成形体は、一方向に延伸された樹脂成形体であることが好ましい。延伸の方法については後述する。
以下、本発明の樹脂成形体の構成成分について説明する。
【0013】
(セルロース繊維)
本発明で使用するセルロース繊維は、繊維状のセルロースである。
本発明の樹脂成形体中に含まれるセルロース繊維は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
上記セルロース繊維の由来は特に限定されず、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物(例えば、麦や稲などの藁、とうもろこし、綿花などの茎、サトウキビ)、布、再生パルプ、古紙などを原料として得られるセルロース繊維が挙げられる。パルプは、紙の原料ともなるもので、植物から抽出される仮道管を主成分とする。化学的に見ると、主成分は多糖類であり、その主成分はセルロースである。本発明に用いるセルロース繊維としては、木材由来のセルロース繊維が特に好ましい。
また、上記セルロース繊維としては、特に制限なく、任意の製造方法により得られたセルロース繊維を使用することができる。例えば、物理的な力で粉砕処理を行う機械処理や、クラフトパルプ法、サルファイドパルプ法、アルカリパルプ法等の化学処理、これらの処理の併用により得られるセルロース繊維が挙げられる。上記化学処理では、木材等の植物原料から、苛性ソーダなどの薬品を用いることによって、リグニン及びヘミセルロース等を除去し、純粋に近いセルロース繊維を取り出すことができる。このようにして得られるセルロース繊維を、パルプ繊維とも称す。
【0014】
本発明に用いるセルロース繊維としては、比強度、高温環境における弾性率等の機械特性を向上させる点から、化学処理により調製されたセルロース繊維が好ましく、クラフトパルプ法により調製されたセルロース繊維がより好ましい。特に、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いる場合には、化学処理を経たセルロース繊維を用いることが好ましい。上記化学処理を経たセルロース繊維の場合、セルロース繊維中にリグニン等が残留していないため、樹脂成形体の機械特性の向上に寄与する。これは、ポリプロピレン樹脂とセルロース繊維との界面における両者の相互作用がリグニンにより阻害されないことなどが一因と考えられる。
【0015】
本発明で使用するセルロース繊維の直径は1~30μmが好ましく、1~25μmがより好ましく、5~20μmがさらに好ましい。また長さ(繊維長)は10~2200μmが好ましく、50~1000μmがより好ましい。
【0016】
本発明の樹脂成形体に含まれるセルロース繊維の直径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)や繊維分析計により行うことができる。セルロース繊維の繊維長の測定もSEM観察により行うことができる。繊維長のSEM観察による測定においては、本発明の樹脂成形体中の樹脂(例えば、ポリプロピレン樹脂)を熱キシレンを用いて溶出させた残渣をステージの上にのせ、蒸着などの処理を行った上でSEM観察を行うことにより、繊維長を測定することができる。
【0017】
機械強度を高める観点からは、セルロース繊維のアスペクト比(繊維長L/繊維直径D)は、5~100が好ましく、10~50がより好ましい。
【0018】
本発明の樹脂成形体中のセルロース繊維の含有量は、樹脂及びセルロース繊維の合計量100質量部中、1~40質量部であることが好ましく、特に、5~30質量部であることが好ましい。
【0019】
(樹脂)
本発明で使用する樹脂は熱可塑性樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂の他、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、未変性の樹脂とともに、変性樹脂を含んでもよい。例えば、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体により変性した樹脂(酸変性樹脂)を含むことも好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、エチレン性不飽和結合を有する化合物(通常、アルケン)を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂であれば、特に限定されない。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂が挙げられる。
【0020】
熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましく、ポリオレフィン樹脂であることがより好ましい。なかでも、成形品の耐熱性や強度の観点から、熱可塑性樹脂はポリプロピレン樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン樹脂であることがより好ましい。前記ポリプロピレン樹脂は、未変性のものでも変性品でもよく、未変性のポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。前記ポリプロピレン樹脂は、未変性のポリプロピレン樹脂とともに、酸変性ポリプロピレン樹脂を含むことも好ましい。
本発明の樹脂成形体中の樹脂の含有量は、樹脂及びセルロース繊維の合計量100質量部中、40~95質量部であることが好ましく、特に、樹脂がポリプロピレン樹脂を含む場合、樹脂100質量%中に、ポリプロピレン樹脂を50~100質量%含有することが好ましく、60~90質量%含有することがより好ましい。
本発明では、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いた樹脂成形体を、セルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体ということがある。
【0021】
― ポリプロピレン樹脂 ―
ポリプロピレン樹脂は、特に限定されるものでなく、例えば、ホモポリプロピレン、ポリプロピレンブロック共重合体又はポリプロピレンランダム共重合体のいずれも使用することができる。
ポリプロピレン樹脂のポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレンブロック共重合体(プロピレン単独重合体成分又は主にプロピレンからなる共重合体成分と、エチレン及びα-オレフィンから選択されるモノマーの少なくとも1種とプロピレンとを共重合して得られる共重合体成分とからなる共重合体)などが挙げられる。これらのポリプロピレンは単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ポリプロピレン樹脂に用いられるα-オレフィンは、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセンが好ましく、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンがより好ましい。
【0023】
プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体としては、例えば、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-1-オクテンランダム共重合体などが挙げられる。
【0024】
プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体としては、例えば、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体などが挙げられる。
【0025】
プロピレンブロック共重合体としては、例えば、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ヘキセン)共重合体などが挙げられる。
【0026】
これらのポリプロピレン樹脂のうち、引張強度や耐衝撃性の観点から、ホモポリプロピレン、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体、ポリプロピレンブロック共重合体が好ましい。
【0027】
また、ポリプロピレン樹脂の流動性についても限定されず、成形体の肉厚、体積等を勘案し、適切な流動性を有するポリプロピレン樹脂を使用することができる。
【0028】
ポリプロピレン樹脂は、1種類を単独で使用してもよく、また、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0029】
本発明の樹脂成形体中のポリプロピレン樹脂の含有量は、ポリプロピレン樹脂及びセルロース繊維の合計量100質量部中、60~99質量部であることが好ましく、70~95質量部であることがより好ましく、75~85質量部であることが特に好ましい。
【0030】
本発明の樹脂成形体に含まれるポリプロピレン樹脂は、その一部が、酸変性されたポリプロピレン樹脂(以下、「酸変性ポリプロピレン樹脂」とも称す。)であることが好ましい。
本発明の樹脂成形体が、ポリプロピレン樹脂の一部として酸変性ポリプロピレン樹脂を含有すると、酸変性ポリプロピレン樹脂による酸変性していないポリプロピレン樹脂とセルロース繊維との接着性向上作用が得られ、さらに、セルロース繊維の配向度を効果的に高めることができ、これらの結果、高温環境においても弾性率等の機械特性を効果的に高めることができると考えられる。
酸変性ポリプロピレン樹脂としては、上述のポリプロピレン樹脂を、例えば、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体により変性したものが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル等が挙げられる。
酸変性ポリプロピレン樹脂としては、マレイン酸変性ポリプロピレン及び/又は無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含むことが好ましい。
本発明の樹脂成形体が酸変性ポリプロピレン樹脂を含む場合、本発明の樹脂成形体中の酸変性ポリプロピレン樹脂の含有量は、ポリプロピレン樹脂(酸変性されていないポリプロピレン樹脂と酸変性ポリプロピレン樹脂の合計)及びセルロース繊維の合計量100質量部中、0.3~20質量部であることが好ましく、1~15質量部であることが好ましく、3~7質量部であることがより好ましい。酸変性ポリプロピレン樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、本発明の樹脂成形体を、例えば、高温において高弾性率を示す機械特性へと導くことができる。
【0031】
(他の成分)
本発明の樹脂成形体は、上述した樹脂及びセルロース繊維からなる構成でもよく、ゴム、エラストマー等を併用してもよい。例えば、水添スチレンエラストマー、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、エチレン-αオレフィン共重合体等のエラストマーを追加配合して、樹脂成形体の物性を改質してもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、光安定剤、ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤、着色剤(染料、有機顔料、無機顔料)、充填剤、滑剤、可塑剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、発泡剤、パラフィンワックス等の潤滑剤、表面処理剤、結晶核剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、防徽剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤等の添加剤を適宜含有することができる。
【0032】
(樹脂の結晶構造及びその配向度)
樹脂成形体中において、樹脂はその少なくとも一部が結晶構造を形成していることが好ましい。樹脂成形体が複数種の樹脂を含む場合には、複数の樹脂のいずれかが結晶構造を形成していることが好ましい。
さらに、樹脂の結晶構造は配向していることが好ましい。樹脂成形体が複数種の樹脂を含む場合には、複数の樹脂のいずれかの結晶構造が配向していればよい。
樹脂の結晶構造の配向度(結晶配向度)は0.50を越えて1.00以下であることが好ましい。樹脂の結晶配向度を上記範囲とすることにより、比強度をより高めることができ、また、高温環境においても弾性率等の機械特性をより高めることができる。
本発明の樹脂成形体では、例えば、後述するように所定の温度範囲における延伸を行うことにより、上記樹脂の結晶構造が延伸方向に配向しやすくなり、樹脂成形体は高い結晶配向度を示すことができると考えられる。
対して、従来の発泡タイプの低密度のセルロース繊維強化樹脂成形体では、樹脂の配向性は低く、上記配向度は通常0.50以下であり、比強度、高温環境での弾性率等の機械特性の向上には制約がある。
樹脂の結晶配向方向における機械特性の向上も考慮すると、上記樹脂の結晶配向度は、より好ましくは0.60~0.98であり、さらに好ましくは0.90~0.98である。
樹脂の結晶構造及びその配向度については、X線回折測定により確認することができる。
以下に、樹脂がポリプロピレン樹脂の場合の、好ましい結晶配向度及びその測定方法について説明する。
【0033】
(ポリプロピレンの結晶構造)
ポリプロピレンは、主にα晶という結晶構造を採ることが知られている。α晶は単斜晶である。
本発明の樹脂成形体の好ましい態様においては、広角X線回折測定において、散乱ベクトルsが1.61±0.1nm-1及び1.92±0.1nm-1の位置にそれぞれ回折ピークが観測される。すなわち、本発明の樹脂成形体の好ましい態様において、ポリプロピレンの少なくとも一部が結晶構造を有し、その内の少なくとも一部がα晶である。ポリプロピレンの結晶構造中に占めるα晶以外の結晶構造については特に限定されないが、例えば、β晶が好ましく挙げられる。
【0034】
― ポリプロピレンα晶の確認方法 ―
α晶の存在を確認するためには、X線回折測定を用いることができる。広角X線回折測定を用いることが好ましい。一般的な延伸成形品の場合には、樹脂配向由来の方位角方向に強度分布が生じることがある。そのため、1次元のシンチレーションカウンタでは配向由来の強度分布を正確にとらえることができないことがあるため、検出器としては2次元検出器を用いることが好ましい。X線源は、CuKα線を用いて、形状はピンホールを用いることが好ましい。X線のビーム径としては5μm~1500μmが好ましく、より好ましくは7μm~1000μmである。ビーム径を1500μmより大きくすると十分な位置分解能を得ることができず、詳細な分析に向かないことがあり、5μm未満の場合にはビーム径が細いために照射強度が十分でなく測定時間が非常に長くなり、測定効率が悪くなることがある。
具体的には実施例に記載の方法で行うことができる。
ポリプロピレンα晶の存在の確認は、以下のようにして行うこともできる。例えば、セルロース繊維とポリプロピレン樹脂とを含有し、ポリプロピレン樹脂がα晶を形成している樹脂成形体について、広角X線回折測定を行うと、回折角2θが14.3±0.2°、17.1±0.2°や34.6±0.2°の位置にそれぞれ回折ピークが観測される。回折角2θが14.3±0.2°、17.1±0.2°の位置の回折ピークはポリプロピレンのα型結晶の(040)面由来の回折ピークであるため、これらの回折ピークのいずれかが観察された場合にはα晶が形成されていると判断できる。
【0035】
(ポリプロピレン樹脂の結晶配向度)
ポリプロピレン樹脂の結晶(散乱ベクトルsが1.92±0.1nm-1の位置に回折ピークを有する成分)配向度としては0.60以上が好ましい。上記ポリプロピレン結晶の配向度を0.60以上とすることにより、比強度、高温環境での弾性率等の機械特性をより高めることができる。本発明の樹脂成形体では、例えば、後述するように所定の温度範囲における延伸を行うことにより、上記ポリプロピレン結晶が延伸方向に配向しやすくなり、樹脂成形体は高い結晶配向度を示すことができると考えられる。
ポリプロピレン結晶の並び(配向する方向)に沿った方向における上記機械特性の向上も考慮すると、上記ポリプロピレン結晶の配向度は、より好ましくは0.60~1.00であり、さらに好ましくは0.65~0.97であり、特に好ましくは0.90~0.95である。
【0036】
― ポリプロピレン樹脂の結晶(α晶)配向度の測定方法 ―
ポリプロピレン樹脂の結晶配向度については、上記のポリプロピレンα晶の確認方法に基づき得られたX線の2次元回折画像をもとに、ポリプロピレンの(040)面由来(散乱ベクトル1.92±0.1nm-1に回折が測定される)の回折強度の方位角方向のプロファイルを解析することで得ることができる。解析方法としては方位角方向の回折ピーク半値幅を用いて解析する方法や、配向関数を用いて求める方法などが挙げられる。ポリプロピレン結晶の配向度の確認のためにはサンプルを切り出し良好な回折像が得られるような工夫を行っても構わない。より具体的には、サンプルによるX線の吸収を調整することを目的として、サンプルから任意の場所で切り出しを行い、厚さを0.2~1mm程度に整えることなどが挙げられる。
【0037】
― ポリプロピレン樹脂の結晶配向度の詳細な計算方法―
ポリプロピレン樹脂の結晶配向度を決定するためには、前述のポリプロピレン結晶のα型結晶の(040)面由来のX線回折パターンを利用する。前述のポリプロピレン結晶2次元回折パターンから、方位角VS強度のデータに1次元化する。2次元データを1次元化するために、ポリプロピレンα型結晶のポリプロピレンα型結晶(040)面の回折17.1°を中心として±0.5°の範囲で1次元化する。近くにはポリプロピレン樹脂非晶質由来の回折ピークも存在することから、その影響を排除するために16.1°を中心として±0.5°の範囲で1次元化を行い、ポリプロピレンα型結晶の1次元化回折強度から差し引くこともできる。補正を行ったポリプロピレンα型結晶の方位角回折強度のデータに対して配向度の決定を行うが、配向度の決定は半値幅を用いて計算する半値幅法もしくは、配向関数を用いる配向関数法のどちらを用いてもよい。配向関数もしくは半値幅を求めるために、方位角方向の回折強度をピーク分離するなどの方法を用いて得られるデータのノイズを少なくし、ピーク分離で得られた関数を用いて解析を行ってもよい。この操作と合わせて前述の強度補正等の作業を行っても構わない。ピーク分離及びフィッティングに用いる関数はガウス関数もしくはローレンツ関数が好ましく、ローレンツ関数がより好ましい。
【0038】
(セルロース繊維を含有していることの有無の確認決定方法)
セルロース繊維のセルロースはI型やII型といった種々の結晶構造を採ることが知られている。天然のセルロースは、Iα型(三斜晶)及びIβ型(単斜晶)の結晶構造を有し、植物由来のセルロースは一般的にIβ型結晶を多く含む。
本発明の樹脂成形体は、広角X線回折測定において、散乱ベクトルsが3.86±0.1nm-1の位置に回折ピークを有する。この回折ピークは、セルロースのIβ型結晶の(004)面に由来する。すなわち、本発明の樹脂成形体において、セルロース繊維のセルロースの少なくとも一部が結晶構造を有し、その内の少なくとも一部がIβ型結晶である。セルロースの結晶構造中に占めるIβ型結晶以外の結晶構造については特に限定されない。以下、セルロース繊維を「散乱ベクトルsが3.86±0.1nm-1の位置に回折ピークを有する成分」ということがある。
セルロース繊維を含有していることは種々の方法から確認することができる。例えば、X線を用いてセルロース繊維中のセルロース結晶由来の回折ピークを観測することで確認することができる。用いるX線の波長により回折ピーク位置が異なるため注意が必要であるが、CuKα線(λ=0.15418nm)を用いた場合には、散乱ベクトルsが3.86nm-1(2θ=34.6°)付近にセルロースのIβ型結晶の(004)面由来の回折ピークが観測できる。(004)面の回折をとらえるためには、サンプルをθ分回転させてX線を入射する必要がある。つまり、CuKα線を用いる場合にはサンプルステージをθ=17.3°回転させることになる。セルロース結晶由来の回折ピークとしては(004)面よりも内側にそのほかの回折ピークを観測することができるが、樹脂成分にポリプロピレン樹脂が含まれている場合にはポリプロピレン由来の回折ピークと回折位置がかぶってしまい、明確な回折ピークと判断できないことがある。このため、本明細書においては、セルロース繊維の有無はセルロースのIβ型結晶の(004)面の回折ピークを用いて判断する。
【0039】
(セルロース繊維の配向度)
セルロース繊維(散乱ベクトルsが3.86±0.1nm-1の位置に回折ピークを有する成分)の配向度としては0.40以上が好ましい。上記セルロース繊維の配向度を0.40以上とすることにより、比強度、高温環境での弾性率等の機械特性をより高めることができる。
さらに、本発明の好ましい態様である、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用い、ポリプロピレン樹脂の少なくとも一部がα晶を形成している形態では、以下のようにして、比強度、高温環境での弾性率等の機械特性をより高めることができると考えられる。
すなわち、このような樹脂成形体は、ポリプロピレンのα型結晶由来の回折ピーク及びセルロースのIβ型結晶由来の回折ピークを有し、ポリプロピレン樹脂の結晶配向度とこのセルロース繊維の結晶配向度がともに高められている。このため、セルロース繊維同士の相互作用、さらには、ポリプロピレン樹脂とセルロース繊維との界面での相互作用が向上する効果が得られ、引張強度等の機械特性が効果的に高められると考えられる。しかも、本発明の樹脂成形体は低密度であるため、優れた比強度が得られる。本発明の樹脂成形体では、例えば、後述するように所定の温度範囲における延伸を行うことにより、ポリプロピレン樹脂の結晶配向度を効果的に高めることができ、上記セルロース繊維のIβ型結晶の配向によるセルロース繊維の配向度も十分に高めることができる。
対して、従来の発泡タイプの低密度のセルロース繊維強化樹脂成形体では、セルロース繊維の配向性は低く、上記配向度は通常0.40未満であり、比強度、高温環境での弾性率等の機械特性の向上には制約がある。一方、射出成形による樹脂成形体でも、射出成形後に延伸処理等を行わない場合には、上記セルロース繊維の配向度は通常0.40未満であり、比強度、高温環境での弾性率等の機械特性の向上には制約がある。
セルロース繊維の並び(配向する方向)に沿った方向における上記機械特性の向上を考慮すると、上記セルロース繊維の配向度はより好ましくは0.40~1.00であり、さらに好ましくは0.50~0.95である。
【0040】
― セルロース繊維の配向度の測定方法 ―
セルロース繊維の配向度については、上記のセルロース繊維を含有していることの確認方法に基づき得られたX線の2次元回折画像をもとに、セルロースの(004)面由来の回折強度の方位角方向のプロファイルを解析することで得ることができる。解析方法としては方位角方向の回折ピーク半値幅を用いて解析する方法や、配向関数を用いて求める方法などが挙げられる。セルロース繊維の配向度の確認のためには、サンプルを切り出し良好な回折像が得られるような工夫を行っても構わない。より具体的には、サンプルによるX線の吸収を調整することを目的としてサンプルから任意の場所で切り出しを行い、厚さを0.2~1mm程度に整えることなどが挙げられる。
【0041】
― セルロース繊維配向度の詳細な計算方法 ―
セルロース繊維配向度を決定するためには、前述のセルロース繊維のセルロースのIβ型結晶の(004)面由来のX線回折パターンを利用する。セルロース繊維のセルロースのIβ型結晶の(004)面の2次元回折パターンから、方位角VS強度のデータに1次元化する。2次元データを1次元化するために、セルロース繊維のセルロースのIβ型結晶の(004)面の34.6°を中心として±0.5°の範囲で1次元化する。近くにはポリプロピレン樹脂由来の回折ピークも存在することから、その影響を排除するために33.6°及び35.6°を中心として±0.5°の範囲で1次元化を行い、両者の平均値をセルロース繊維のセルロースのIβ型結晶の1次元化回折強度から差し引くこともできる。補正を行ったセルロース繊維のセルロースのIβ型結晶の方位角回折強度のデータに対して配向度の決定を行うが、配向度の決定は半値幅を用いて計算する半値幅法もしくは、配向関数を用いる配向関数法のどちらを用いてもよい。配向関数もしくは半値幅を求めるために、方位角方向の回折強度をピーク分離するなどの方法を用いて得られるデータのノイズを少なくし、ピーク分離で得られた関数を用いて解析を行ってもよい。この操作と合わせて前述の強度補正等の作業を行っても構わない。ピーク分離及びフィッティングに用いる関数はガウス関数もしくはローレンツ関数が好ましく、ローレンツ関数がより好ましい。
【0042】
(比強度)
本発明の樹脂成形体の、引張強度を指標にした比強度は、用いる樹脂及びセルロース繊維の種類、含有量等により左右され一義的に設定することはできないが、0.08MJ/kg以上であることが好ましく、0.16MJ/kg以上であることがより好ましく、0.17MJ/kg以上であることがさらに好ましい。上記比強度は、後述の方法により測定される引張強度[MPa]及び密度[g/cm3]から、下記式のようにして算出される。
比強度[MJ/kg]=(引張強度[MPa]/密度[g/cm3])/103
上記比強度の上限値に特に制限はないが、0.50MJ/kg以下が実際的である。
本発明の樹脂成形体の比強度が上記範囲の値であると、軽量で高い引張強度を示すことができ、例えば、後述する輸送機器用材料として好適に用いることができる。
【0043】
(引張強度)
本発明の樹脂成形体の引張強度は、用いる樹脂及びセルロース繊維の種類、含有量等により左右され一義的に設定することはできないが、50MPa以上1000MPa以下であることが好ましく、70MPa以上1000MPa以下であることがより好ましい。上記引張強度は、JIS K7161に準じ、実施例に記載の方法及び条件により測定することができる。また、サンプルが小さい場合には、サンプル幅や掴み間長を適宜調整することができる。
なお、繊維強化樹脂成形体の引張強度は、通常、測定する方向により値が異なってくる。このため、本発明では、上記の引張強度及び比強度は、樹脂成形体が最大の引張強度を示す方向での引張強度の測定値及びこの測定値を用いた比強度を意味する。
【0044】
(密度)
本発明の樹脂成形体の密度は、0.65g/cm3以下である。上記密度は、JIS K7112のA法(水中置換法)に準じ、実施例に記載の方法及び条件により測定することができる。
本発明の樹脂成形体は、密度が0.65g/cm3以下と軽量であることに加え、前述のように、樹脂及び/又はセルロース繊維の配向度が高いため、高い引張強度を示すことができ、結果、優れた比強度を示すことができると考えられる。樹脂成形体の密度は、0.60g/cm3以下であることが好ましい。
なお、上記密度の下限値に特に制限はないが、0.20g/cm3以上が実際的であり、0.40g/cm3以上が好ましく、0.55g/cm3以上がより好ましい。
【0045】
(線膨張係数)
樹脂成形体の、60℃以上100℃以下における線膨張係数(以下、単に線膨張係数という)は、用いる樹脂及びセルロース繊維の種類、含有量等により左右され一義的に設定することはできないが、0ppm/K(ケルビン)以上10ppm/K未満であることが好ましく、0ppm/K以上5ppm/K未満であることがより好ましい。上記線膨張係数を示す樹脂成形体は、上記高温領域での一方向での寸法の変化が抑制されている点で好ましい。
線膨張係数は平均線膨張係数を意味し、熱機械分析(Thermomechanical Analysis、TMA)により測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
なお、樹脂成形体の線膨張係数は、通常、測定する方向により値が異なってくる。このため、本発明では、上記の線膨張係数は、樹脂成形体が最小の線膨張係数を示す方向での線膨張係数の測定値を意味する。最小の線膨張係数を示す方向は、通常、セルロース繊維の配向方向又は延伸方向に一致する。
【0046】
(動的粘弾性測定)
動的粘弾性測定は、JIS K7244に準じ、実施例に記載の方法及び条件により行うことができる。
【0047】
(弾性率維持率)
弾性率維持率は上記、動的粘弾性測定から得られた曲線を用いて、25℃における貯蔵弾性率E25及び100℃における貯蔵弾性率E100を読み取り、E100をE25で除す(E100/E25)ことにより、求めることができる。
上記弾性率維持率の下限値は、0.38以上が好ましく、0.40以上がより好ましく、0.45以上がさらに好ましい。上記の好ましい下限値以上であると、高温環境においても弾性率が維持される結果、高温環境においても変形が生じにくくなり、本発明の樹脂成形体の使用中の変形を抑制することができる。
また、上記弾性率維持率の上限値は、0.90以下が好ましく、0.80以下がより好ましく、0.70以下がさらに好ましい。上記の好ましい上限値以下であると、加熱により、適度に変形することができ、本発明の樹脂成形体を加熱成形する場合等の二次加工時の割れの発生を抑制することができ、十分な加工性を示すことができる。
【0048】
高温環境での弾性率の低下を抑制する観点からは、セルロース線繊維の配向度と、樹脂の結晶配向度とを、それぞれが上記の範囲内となるように高めることが好ましい。
樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いる場合には、密度を0.40g/cm3以上、セルロース繊維の配向度を0.40以上、及び樹脂の結晶配向度を0.65以上1.00以下とすることが好ましい。これらを満たす樹脂成形体は、比強度を0.08MJ/kg以上に高めつつ、0.38以上の高い弾性率維持率を示す。さらに、線膨張係数も0ppm/K以上10ppm/K未満と低くできる。
【0049】
〔樹脂成形体の製造〕
本発明の樹脂成形体の製造方法では、少なくとも、樹脂及びセルロース繊維の溶融混練物から得られた中間成形体を所定の温度範囲で延伸する工程を含むことが好ましい。
ここで、中間成形体とは、上記溶融混練物を、棒状、繊維状、フィルム状(シート状)等に形成した成形体をいう。中間成形体としては、溶融混練物から得られたシートが好ましい(以下、単に「シート」とも称す。)。この中間成形体を得るための溶融混練の条件については後述する。
延伸を行う温度範囲は、樹脂の結晶緩和温度以上融点以下の温度の範囲である。
すなわち、樹脂成形体の製造方法の好ましい態様は、樹脂及びセルロース繊維の溶融混練物から得られた中間成形体を、前記樹脂の結晶緩和温度以上融点以下の温度に保持し、少なくとも一軸に延伸する工程を有する製造方法である。ここで、樹脂の結晶緩和温度は、動的粘弾性測定を行い得られた曲線(縦軸:Tanδ、横軸:温度)から求めることができる。具体的には、上記曲線において、ガラス転移温度を越える温度で、Tanδの肩状のピークの立ち上がりの温度を結晶緩和温度とする。
【0050】
上記の延伸を行う温度範囲は、[融点-50℃]以上融点以下が好ましく、[融点-30℃]以上融点以下がより好ましく、[融点-20℃]以上融点以下がさらに好ましく、[融点-15℃]以上融点以下がさらに好ましく、[融点-10℃]以上融点以下とすることが特に好ましい。このような温度を適用することにより、後述のように、高延伸倍率で、セルロース繊維の配向度及び樹脂の結晶配向度を十分に高めることが可能となる。
上記延伸工程により、セルロース繊維と樹脂との界面での剥離が生じ、さらに延伸されることで空孔が形成され、多孔質な樹脂成形体を得ることができる。すなわち、本発明の樹脂成形体中のセルロース繊維は、樹脂成形体における強化繊維としての機能に加え、本発明の樹脂成形体を多孔質体とし、所定の低密度の樹脂成形体とする機能も備える。また、上記延伸に伴い、樹脂の結晶(例えば、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いた場合には、ポリプロピレン樹脂のα型結晶)及びセルロース繊維のIβ型結晶を延伸方向に沿って高効率に配向させることができる。結果、本発明の樹脂成形体は、配向するセルロース繊維、樹脂間の相互作用の向上効果が複合的に、十分に作用して、比強度の向上にとどまらず、高温環境での弾性率等の機械特性も十分に高めることができる。また、得られる樹脂成形体の線膨張係数を格段に低減でき、寸法安定性にも優れる。
従来、繊維形状のフィラーと樹脂とを組み合わせてなる複合材は、一軸方向に高延伸倍率で延伸した場合、繊維形状のフィラーが延伸する樹脂の破壊の起点となる等して、所望の物性ないし外観を実現することが困難であった。本発明者らの検討により、上記の好ましい延伸温度を採用した場合に、上記の問題が解決できる傾向にあることがわかってきた。特に、ポリプロピレン樹脂を採用した上で、上記の好ましい延伸温度を採用した場合には、従来では困難であった高延伸倍率(例えば5倍以上)の延伸が可能となり、セルロース繊維の配向度及び樹脂の結晶配向度を格段に高めることができる。その結果、比強度、高温環境での弾性率等をより高めることができ、また線膨張係数を格段に低下させることができる。
さらに、上記の好ましい延伸温度を採用した場合には、アスペクト比が比較的高いセルロース繊維を用いても、上記高延伸倍率での延伸が可能となる。
【0051】
(延伸)
上記延伸工程における延伸温度としては、樹脂の結晶緩和温度以上融点以下の温度が好ましい。
上記延伸工程における延伸温度としては、上述のとおり樹脂の融点を上限とすることが望ましい。したがって、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いる場合には、延伸温度の上限値は、170℃以下が好ましく、165℃以下がより好ましく、162℃以下がさらに好ましい。延伸温度を上記の好ましい上限値以下とすることで、樹脂の結晶自体が溶けることなく延伸を行うことができる。また、樹脂が適度な配向緩和を示すことで、高い延伸倍率を達成しながらも、高温環境でも弾性率等の機械特性の低下を生じにくい。
また、上記延伸温度は、樹脂の結晶緩和温度を下限とすることが望ましい。例えば、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いる場合には、延伸温度の下限値は、50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましく、130℃以上がさらに好ましく、140℃以上がさらに好ましく、150℃以上がさらに好ましく、155℃以上が特に好ましい。延伸温度を上記の好ましい下限値以上とすることで、所望の延伸倍率を達成することができ、引張強度、高温環境での弾性率等に優れ、線膨張係数の低い樹脂成形品を得ることができる。特に、樹脂の結晶緩和温度未満の温度(例えば、ポリプロピレン樹脂であれば50℃未満)で延伸すると、樹脂が脆性破壊してしまうことがある。
樹脂として、ポリプロピレン樹脂を用いる場合には、延伸温度は、セルロース繊維の配向度及びポリプロピレン樹脂の結晶配向度のいずれをも高める観点からは、好ましくは100℃以上165℃以下であり、より好ましくは130℃以上162℃以下であり、さらに好ましくは140℃以上162℃以下であり、さらに好ましくは150℃以上162℃以下であり、さらに好ましくは155℃以上162℃以下である。
延伸速度は、樹脂及びセルロース繊維の種類、中間成形体の形状、延伸温度等にあわせて、適宜設定することができる。例えば、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いシート状に形成した場合の延伸速度としては、0.4~200mm/minとできる。
上記延伸に用いられる装置は、上記中間成形体を延伸可能なものであれば特に限定されず、例えば、延伸機や引張試験機を用いることができる。また、上記延伸温度での延伸を行う点から、恒温槽を備えた遠心機や引張試験機を用いることが好ましい。
上記延伸温度での延伸は、例えば、恒温槽を備えた遠心機や引張試験機に上記中間成形体を設置し、恒温槽での予熱を行った後に、所望の延伸温度で延伸することが挙げられる。
上記延伸による延伸倍率は、適宜調節することができる。例えば、延伸前の上記中間成形体に対して、5~20倍まで、好ましくは6~20倍まで、より好ましくは11~15倍まで延伸することが挙げられる。上記延伸倍率は、実施例で詳述する方法により算出される延伸倍率の算術平均を意味する。
上記延伸は、所定のセルロース繊維の配向度及び/又は樹脂の結晶配向度を達成できれば、多軸延伸でも一軸延伸でもよい。異なる方向へ延伸したことによる配向の平均化を抑制し、セルロース繊維の配向度及び/又は樹脂の結晶配向度を高める観点からは、一軸延伸が好ましい。
【0052】
上記中間成形体に対して延伸を行った後に、室温(約25℃)まで冷却することにより、本発明の樹脂成形体が得られる。
上記冷却の条件は特に制限されず、放冷、空冷等のいずれの方法で行ってもよい。例えば、1~500℃/minでの冷却が挙げられる。
【0053】
本発明の樹脂成形体の製造方法に用いられる、上記中間成形体の調製方法は、特に制限されない。例えば、樹脂とセルロース繊維の溶融混練物を目的の形状へと成形する工程を含む方法が挙げられる。
【0054】
(溶融混練)
上記溶融混練物は、樹脂とセルロース繊維の溶融混練工程を含む限り、特に制限されることなく、通常の方法で調製することができる。
上記溶融混練工程における溶融混練温度は、樹脂の融点以上の温度であれば特に限定されないが、例えば、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いる場合には、160~230℃が好ましく、170~210℃がより好ましい。
上記溶融混練温度の上限値は、より好ましくは、セルロース繊維の熱分解を低減する観点から、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。
上記溶融混練工程や前述の延伸工程を高温で行う際には、樹脂とセルロース繊維に加えて、熱劣化や酸化劣化を抑制する目的等により、酸化防止剤等の添加剤を添加して溶融混練してもよい。
上記溶融混練時間は、特に制限されず、適宜設定することができる。
上記溶融混練に用いられる装置としては、樹脂の融点以上で溶融混練が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ブレンダー、ニーダー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、一軸もしくは二軸の押出機などが挙げられ、二軸押出機が好ましい。
続く成形工程での取扱性の観点から、得られた溶融混練物は、ペレット状に加工(以降、得られたペレットを、単に「ペレット」とも称す。)することが好ましい。ペレット加工の条件は特に制限されず、常法に従い加工することができる。例えば、溶融混練物を水冷後、スランドカッター等を用いてペレット状に加工する方法が挙げられる。
なお、溶融混練に先立って、各成分を、ドライブレンド(予め混合)してもよい。ドライブレンドは、特に制限されず、常法に従い行うことができる。
【0055】
(成形)
上記溶融混練物を成形し、上記中間成形体を得る方法としては、特に制限されないが、例えば、上述のペレットを溶融圧縮成形する方法、上記溶融混練物を射出成形する方法が挙げられる。これらのうち、ペレットを溶融圧縮成形する方法が好ましい。
上記溶融圧縮成形において、溶融圧縮温度は、樹脂の融点以上の温度であれば特に限定されず、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いる場合には、160~230℃が好ましく、170~210℃がより好ましい。
上記溶融圧縮温度の上限値は、より好ましくは、セルロース繊維の熱分解を低減する観点から、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。
上記溶融圧縮成形における予熱時間、加圧時間、圧力等の条件は、適宜調整することができる。
上記溶融圧縮成形に用いられる装置としては、特に制限されず、例えば、プレス機があげられる。ほかにもシート成形用の押出機を用いたシーティングなどを用いてもよい。
上記シートの形状は特に制限されないが、例えば、ダンベル状に加工することもできる。また、前述の延伸が行いやすい、幅、長さ、厚さ等に適宜調節することができる。例えば、上記シートの厚さは2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。
【0056】
[用途]
本発明の樹脂成形体は、比強度、高温環境での弾性率に優れた特性が求められる、以下の製品、部品及び/又は部材等の材料として好適に用いることができる。例えば、輸送機器(自動車、二輪車、列車、及び航空機など)、ロボットアームの構造部材、アミューズメント用ロボット部品、義肢部材、家電材料、OA機器筐体、情報処理機器、携帯端末、建材、ハウス用フィルム、排水設備、トイレタリー製品材料、各種タンク、コンテナー、シート、包装材、玩具、及びスポーツ用品などが挙げられる。
【0057】
輸送機器用材料として車両用材料が挙げられる。車両用材料としては、例えば、ダッシュボードトリム、ドアートリム、ピラートリム等のトリム類、メーターパネル、メーターハウジング、グローブボックス、パッケージトレイ、ルーフヘッドライニング、コンソール、インストルメントパネル、アームレスト、シート、シートバック、トランクリッド、トランクリッドロアー、ドアーインナーパネル、ピラー、スペアタイヤカバー、ドアノブ、ライトハウジング、バックトレー等の内装部品や、バンパー、ボンネット、スポイラー、ラジエーターグリル、フェンダー、フェンダーライナー、ロッカーパネル、サイドステップ、ドア・アウターパネル、サイドドア、バックドア、ルーフ、ルーフキャリア、ホイールキャップ・カバー、ドアミラーカバー、アンダーカバー等の外装部品、その他、バッテリーケース、エンジンカバー、燃料タンク、給油口ボックス、エアインテークダクト、エアクリーナーハウジング、エアコンハウジング、クーラントリザーブタンク、ラジエターリザーブタンク、ウインドウ・ウオッシャータンク、インテークマニホールド、ファン及びプーリーなどの回転部材、ワイヤーハーネスプロテクター等の部品、接続箱又はコネクタ、また、フロントエンドモジュール、フロント・エンドパネル等の一体成形部品等が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、これは本発明を制限するものではない。
下記実施例及び比較例において、「部」は特に断らない限り、「質量部」を意味する。
以下の実施例においては、酸変性していないポリプロピレン樹脂については便宜上、単に「ポリプロピレン樹脂」と称し、酸変性ポリプロピレン樹脂と区別するようにした。
【0059】
-使用材料-
以下に、使用した材料を示す。
(セルロース繊維)
ARBOCEL B400:商品名、RETTENMAIER社製、苛性ソーダ処理品
アスペクト比(L/D):45
(ポリプロピレン樹脂)
プライムポリプロ J106MG:商品名、株式会社プライムポリマー社製
結晶緩和温度:70℃、融点165℃
(酸変性ポリプロピレン樹脂)
リケエイドMG250P:商品名、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、理研ビタミン株式会社製
リケエイドMG400P:商品名、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、理研ビタミン株式会社製
【0060】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂80質量部に対して、セルロース繊維20質量部を添加し、ドライブレンドした後、15mm二軸押出機(テクノベル社製)に供した。溶融混練後、押出ダイスから吐出された樹脂を水冷後にストランドカッターを用いてペレット状に加工した。
上記で得られたペレットを十分に乾燥し、次いで190℃に設定したプレス機(商品名:MP-WCH 株式会社東洋精機製作所製)に供し、予熱時間:5分、加圧時間:5分、圧力:20MPaの条件により、中間成形体として120mm×120mm×1mmのポリプロピレン樹脂シート(以後、「プレスシート」という)を得た。
【0061】
上記プレスシートをJIS1号ダンベル状の試験片打抜刃(JIS K6251準拠規格)を用いて打ち抜き、ダンベル試験片を作製した。
160℃に設定した恒温槽(商品名:TCR2A-200T+125-XSP 株式会社島津製作所製)を備えたオートグラフ精密万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、得られたダンベル試験片を、以下の条件により延伸した。
(条件)
ダンベル試験片の160℃恒温槽内での予熱時間:5分
延伸速度:50mm/min
つかみ間長さ:40mm
表1に示す延伸倍率で延伸した後、延伸後のダンベル試験片を引張試験冶具でクランプしていた部分から取り外し、クランプしていた未延伸部分を、ハサミを用いて取り除き、延伸部分のみを取り出し、厚さ0.4~0.6mm、多孔質のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体を得た。
なお、延伸前のダンベル試験片に、延伸方向に沿って5mm間隔で油性ペンにて標点を打っておき、延伸後の標点間距離をノギスで測定し、5mmで除すことにより、延伸前後での各標点間の延伸倍率を求めた。下記表1中における「延伸倍率」とは、試験片上の各標点間の延伸倍率の算術平均を意味する。この延伸倍率は、試験片内の位置による延伸倍率のばらつきを考慮して、試験片全体の延伸倍率を求めたものである。
【0062】
(実施例2)
実施例1のポリプロピレン樹脂の配合量を80質量部から75質量部に変更し、5質量部のリケエイドMG250Pをさらに配合し、表1に示す延伸倍率で試験片を延伸した以外は、実施例1と同様にして、厚さ0.4~0.6mmの、多孔質のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体を得た。
【0063】
(実施例3)
実施例1のポリプロピレン樹脂の配合量を80質量部から75質量部に変更し、5質量部のリケエイドMG400Pをさらに配合し、表1に示す延伸倍率で試験片を延伸した以外は、実施例1と同様にして、厚さ0.4~0.6mmの、多孔質のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体を得た。
【0064】
(実施例4)
実施例1のポリプロピレン樹脂の配合量を80質量部から77質量部に変更し、3質量部のリケエイドMG400Pをさらに配合し、表1に示す延伸倍率で試験片を延伸した以外は、実施例1と同様にして、厚さ0.4~0.6mmの、多孔質のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体を得た。
【0065】
(実施例5)
実施例1において、恒温槽の温度を100℃とし、表1に示す延伸倍率で試験片を延伸した以外は、実施例1と同様にして、厚さ0.5~0.7mmの、多孔質のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体を得た。
【0066】
(参考例1)
実施例1のポリプロピレン樹脂の配合量を80質量部から100質量部に変更し、セルロース繊維を添加しなかったこと、及び表1に示す延伸倍率で試験片を延伸した以外は、実施例1と同様にして、厚さ0.4~0.6mmのポリプロピレン樹脂成形体を得た。
【0067】
(参考例2)
参考例1における延伸前のプレスシートを参考例2のポリプロピレン樹脂成形体として得た。以下の評価においては、この樹脂成形体をJIS1号ダンベルで打ち抜いたダンベル試験片を用いた。
【0068】
(比較例1)
実施例1における延伸前のプレスシートを比較例1のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体として得た。以下の評価においては、この樹脂成形体をJIS1号ダンベルで打ち抜いたダンベル試験片を用いた。
【0069】
(比較例2)
実施例2における延伸前のプレスシートを比較例2のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体として得た。以下の評価においては、この樹脂成形体をJIS1号ダンベルで打ち抜いたダンベル試験片を用いた。
【0070】
(比較例3)
実施例1において二軸押出機による溶融混練で得られたペレットを射出成形機(ロボットショット α-S30iA(商品名)、ファナック株式会社製)にて射出樹脂温度190℃、金型温度40℃で成形を行いJIS5号ダンベルの形状のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体を得た。
【0071】
上記実施例1~5並びに比較例1~3で得られたセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体、参考例1及び2で得られたポリプロピレン樹脂成形体について、以下の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0072】
(密度の測定)
得られた各樹脂成形体から縦2mm×横30mmの密度測定用サンプルを切り出し、この測定用サンプルを用いて、JIS K7112のA法(水中置換法)に準じて、密度を測定した。
【0073】
(引張強度の測定)
オートグラフ精密万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、得られた各樹脂成形体の引張強度を測定した。引張条件については、引張速度:50mm/min、測定温度:25℃、つかみ間長さ:40mmとした。延伸を行った樹脂成形体(実施例1~5及び参考例1)については、引張強度が最大値を示す、延伸方向における引張強度を測定した。延伸を行っていない樹脂成形体のうち、参考例2、比較例1及び2については、引張強度は方向性を示さないので、樹脂成形体の長さ方向における引張強度を測定した。延伸を行っていない樹脂成形体のうち、比較例3については、引張強度が最大値を示す、射出成型の際の流れ方向における引張強度を測定した。
【0074】
(比強度の算出)
下記式の通り、上記で測定した引張強度を上記で測定した密度で除すことにより、比強度を算出した。
比強度[MJ/kg]=(引張強度[MPa]/密度[g/cm3])/103
【0075】
(線膨張係数の測定)
得られた樹脂成形体について、熱機械分析機TMA(メトラー・トレド株式会社製)を用いて線膨張係数の測定を行った。装置内を窒素雰囲気化にし、昇温/降温速度を10℃/minとした。温度パターンは、25℃から-60℃まで降温し、つぎに100℃まで昇温し、昇温後にまた-60℃まで降温し、さらに160℃まで昇温するパターンとし、二度目の昇温過程においてTMA曲線を得た。得られたTMA曲線の60℃以上100℃以下の温度領域における平均線膨張係数を求めた。延伸を行った樹脂成形体(実施例1~5及び参考例1)については、線膨張係数が最小値を示す、延伸方向における線膨張係数を測定した。延伸を行っていない樹脂成形体のうち、参考例2、比較例1及び2については、線膨張係数は方向性を示さないので、樹脂成形体の長さ方向における線膨張係数を測定した。延伸を行っていない樹脂成形体のうち、比較例3については、線膨張係数が最小値を示す、射出成型の際の流れ方向における線膨張係数を測定した。
【0076】
(広角X線回折測定)
-ポリプロピレンα晶の確認方法-
D8 DISCOVER(Bruker AXS製)を用いて広角X線回折測定により確認を行った。セットした各樹脂成形体にCuKα線をφ0.5mmに絞ったピンホールコリメータで照射して得られた回折を、カメラ長10cmに設置した2次元検出器VANTEC500(Bruker AXS製)で検出し2次元回折像を得た。得られた2次元回折像を散乱ベクトルsが0~2.91nm
-1の範囲で方位角方向0~360°で積分平均化処理を行い、1次元データを得た。1次元データに対して、X線の透過率に合わせて空気散乱を引き算する補正を行った後に、ガウス関数を用いてカーブフィッティングを行い、ポリプロピレン結晶由来の回折成分と非晶質由来の回折成分に成分分離を行った。散乱ベクトルsが1.61±0.1nm
-1及び1.92±0.1nm
-1の位置に回折ピークが確認された場合にはα晶が存在していると判断した。ポリプロピレンのα晶(110)面の回折ピークは散乱ベクトルsが1.61±0.1nm
-1、(040)面の回折ピークは散乱ベクトルsが1.92±0.1nm
-1の位置に表れるためである。
なお、測定に用いた各樹脂成形体は、必要にあわせて適宜切り出し等を行った。
実施例1の試験片において、
図1に示すように、散乱ベクトルsが1.61±0.1nm
-1及び1.92±0.1nm
-1の位置にそれぞれ回折ピークを確認した。また、実施例2~5、比較例1及び2、参考例1及び2の各試験片においても同様に、散乱ベクトルsが1.61±0.1nm
-1及び1.92±0.1nm
-1の位置にそれぞれ回折ピークを確認した。
【0077】
-ポリプロピレンα晶の配向度の確認方法-
前述のポリプロピレンα晶の確認方法にて得られたポリプロピレンα晶由来の二次元回折画像の方位角方向の0~90°の範囲のデータを用いて配向度の決定を行った。配向度の決定には方位角方向の配向関数を用いた。配向度は、各樹脂成形体から厚さ0.2~1mmに調整し切り出した試験片の任意の3点について測定を行った結果の平均値として求めた。
【0078】
-セルロース繊維の存在確認方法-
D8 DISCOVER(Bruker AXS製)を用いて広角X線回折測定により確認を行った。サンプルステージをθ=17.3°傾けた状態でセットした上記試験片に、CuKα線をφ1.0mmに絞ったピンホールコリメータで照射して得られた回折を、カメラ長10cmに設置した2次元検出器VANTEC500(Bruker AXS製)で検出し2次元回折像を得た。得られた2次元回折像を散乱ベクトルsが1.13~4.44nm
-1の範囲で方位角方向0~90°で積分平均化処理を行い、1次元データを得た。1次元データに対して、X線の透過率に合わせて空気散乱を引き算する補正を行った後に、ガウス関数を用いてカーブフィッティングを行い、ポリプロピレン結晶由来の回折成分とセルロース繊維由来の回折成分を分離し、散乱ベクトルsが3.86±0.1nm
-1の位置に回折ピークが観測された場合には、成形体中にセルロース繊維が存在していると判断した。セルロース繊維の(004)面由来の回折ピークは、通常散乱ベクトルsが3.86±0.1nm
-1の位置に表れるためである。
実施例1の試験片において、
図2に示すように、散乱ベクトルsが3.86±0.1nm
-1の位置に回折ピークを確認した。また、実施例2~5並びに比較例1~3の各試験片においても同様に、散乱ベクトルsが3.86±0.1nm
-1の位置に回折ピークを確認した。参考例1及び2の各試験片においては、散乱ベクトルsが3.86±0.1nm
-1の位置に回折ピークが見られなかった。
【0079】
-セルロース繊維配向度の確認方法-
前述のセルロース繊維の存在確認方法にて得られたセルロース繊維由来の二次元回折画像の方位角方向の0~90°の範囲のデータを用いて配向度の決定を行った。配向度の決定には方位角方向の配向関数を用いた。回折のベースラインとしてセルロースの回折ピーク位置に近接した33.6°±0.5°及び35.6°±0.5°のデータを用いて補正を行った。配向度は、試験片から厚さ0.5~1.5mmに調整し切り出した試験片の任意の3点について測定を行った結果の平均値として求めた。
【0080】
(貯蔵弾性率の測定及び弾性率維持率の算出)
得られた樹脂成形体から延伸方向を長手として幅およそ2mm、厚さおよそ0.5mm、長さ40mmの弾性率測定用試験片を切り出し、動的粘弾性試験に供した。動的粘弾性試験は、JIS K7244に準じ、測定装置としてRSA-G2(商品名、TA Instruments社製)を用い、下記条件に従い行った。
(条件)
測定温度範囲:-90℃~150℃
昇温速度:5℃/min
測定周波数:1Hz
つかみ間長:20mm
ひずみ:0.05%
延伸を行った樹脂成形体(実施例1~5及び参考例1)については、延伸方向における貯蔵弾性率を測定した。延伸を行っていない樹脂成形体のうち、参考例2、比較例1及び2については、試験片の長さ方向における貯蔵弾性率を測定した。延伸を行っていない樹脂成形体のうち、比較例3については、射出成型の際の流れ方向における貯蔵弾性率を測定した。
上記試験から得られた曲線(横軸:測定温度に対する縦軸:貯蔵弾性率のグラフ)から、25℃における貯蔵弾性率E25及び100℃における貯蔵弾性率E100を読み取った。
また、E100をE25で除すことにより、弾性率維持率(E100/E25)を算出した。
【0081】
【0082】
【0083】
表1の結果から、以下のことがわかる。
比較例1~3のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体は、密度がいずれも1.03g/cm3であり、本発明の規定を満たさない。これらの比較例1及び2のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体は、いずれも、比強度及び弾性率維持率が低く、劣っていた。
これに対し、実施例1~5のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体は、散乱ベクトルsが1.61±0.1nm-1、1.92±0.1nm-1及び3.86±0.1nm-1の位置に回折ピークを有し、密度が0.65g/cm3以下である。これらの実施例1~5のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体は、比強度及び弾性率維持率に優れていた。さらに、線膨張係数も10ppm/K未満に抑制されていた。なかでも、3.86±0.1nm-1の位置に回折ピークを有するセルロース結晶の配向度が0.50以上と高い値を示す実施例1~4のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体は、比強度がいずれも0.16MJ/kg以上と高く、比強度に優れ、また、弾性率維持率がいずれも0.40以上と高く、高温環境での機械特性の低下抑制に優れていた。しかも、これらの実施例1~4のセルロース繊維強化ポリプロピレン樹脂成形体の比強度及び弾性率維持率は、セルロース繊維を含有しない参考例1及び2のポリプロピレン樹脂成形体と比べても高く、優れていた。
【0084】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0085】
本願は、2019年3月27日に日本国で特許出願された特願2019-060606に基づく優先権を主張するものであり、これらはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。