(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】波長変換部材及び発光装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20240612BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20240612BHJP
F21V 9/32 20180101ALI20240612BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20240612BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240612BHJP
【FI】
G02B5/20
H01S5/022
F21V9/32
F21Y115:30
F21Y115:10
(21)【出願番号】P 2020079287
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】画星 直希
(72)【発明者】
【氏名】湯藤 祐且
(72)【発明者】
【氏名】坂田 広基
(72)【発明者】
【氏名】山下 利章
(72)【発明者】
【氏名】原 章徳
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-210657(JP,A)
【文献】特開2006-330560(JP,A)
【文献】特開2004-122173(JP,A)
【文献】特開2018-065730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
H01S 5/022
F21V 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体含有部と該蛍光体含有部を取り囲む光反射部とを有し、上面、下面及び側面を有する波長変換層を準備し、
前記波長変換層の上面に遮光膜を形成し、
レーザ加工により、前記遮光膜の一部を除去して、前記蛍光体含有部の少なくとも一部を前記遮光膜から露出させる波長変換部材の製造方法。
【請求項2】
前記遮光膜を、金属膜により形成する請求項1に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ加工を、柱状の液体を光導光路として用いて、前記柱状の液体とレーザ光とを、前記遮光膜に照射することにより行う請求項1又は2に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項4】
前記上面において、前記蛍光体含有部が、前記光反射部よりも突出した凸部又は凹んだ凹部を有する前記波長変換層を準備する請求項1~3のいずれか1項に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項5】
前記波長変換層の準備を、
前記蛍光体含有部と該蛍光体含有部を取り囲む前記光反射部を有し、上面、下面及び側面を有する波長変換層を準備し、
該波長変換層の一面を研磨して前記凸部又は前記凹部を形成する請求項4に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ加工を、
前記凸部又は凹部によるコントラストを画像認識し、得られた画像のコントラストにより前記蛍光体含有部の位置を特定し、前記蛍光体含有部を被覆する前記遮光膜を除去する請求項4又は5に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項7】
前記波長変換層の準備を、
上面、下面及び側面を有する複数の蛍光体含有部を準備し、
前記蛍光体含有部を取り囲むように前記蛍光体含有部の側方及び下方に無機材料からなる粉末を含む成形体を形成し、
前記成形体を焼結することにより形成する請求項1~6のいずれか1項に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法により波長変換部材を準備し、
光を発する発光素子を準備し、
前記波長変換部材の前記蛍光体含有部に前記発光素子からの光が照射される位置に、前記波長変換部材及び前記発光素子を固定する発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換部材及び発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザなどを励起光源として備え、この励起光源から出射された励起光を利用して照明などを行う発光装置が提案されている。
このような発光装置では、例えば、励起光源から出射された励起光を波長変換させるために、励起光源の前方に、蛍光体が含まれた発光部と、その周辺を取り囲む反射膜とによる波長変換部材を配置している。そして、波長変換部材の励起光源と反対側の面に、光吸収膜を配置している。その光吸収膜によって投光レンズからの反射光を吸収させることにより、その反射光の影響を抑制して、照明光の照度の均一性の向上を図る構成が採用されている(特許文献1)。特許文献1では、光吸収膜の開口のサイズを蛍光体膜と同一のサイズとし、光吸収膜を耐熱性透明樹脂などによって反射膜に貼り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されている光吸収膜を貼り付ける方法では、十分な位置精度が得られないか、十分な位置精度を得るためには慎重な位置合わせが求められる。もし光吸収膜が蛍光体膜に重なると、発光装置の出力が低下する。従って、光吸収膜の適所への、配置の精度を向上することができる製造方法が求められている。
本発明は、上記課題に鑑みたものであり、簡便かつ配置精度が向上された遮光膜を有する波長変換部材及びそれを備えた発光装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、以下の発明を含む。
(1)蛍光体含有部と該蛍光体含有部を取り囲む光反射部を有し、上面、下面及び側面を有する波長変換層を準備し、
前記波長変換層の上面に遮光膜を形成し、
レーザ加工により、前記遮光膜の一部を除去して、前記蛍光体含有部の少なくとも一部を前記遮光膜から露出させる波長変換部材の製造方法。
(2)上記製造方法により波長変換部材を準備し、
光を発する発光素子を準備し、
前記波長変換部材の前記蛍光体含有部に前記発光素子からの光が照射される位置に、前記波長変換部材及び前記発光素子を固定する発光装置の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
上述の発明によれば、簡便かつ配置精度が向上された遮光膜を有する波長変換部材及びそれを備えた発光装置の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】本発明の実施形態の波長変換部材の製造方法を説明するための波長変換層の平面図である。
【
図1D】
図1Aの波長変換層の別の変形例を示す断面図である。
【
図1E】
図1Aの波長変換層のさらに別の変形例を示す断面図である。
【
図2A】本発明の実施形態の波長変換部材の製造方法を説明するための遮光膜が形成された波長変換層の平面図である。
【
図3A】本発明の実施形態の波長変換部材の製造方法を説明するための波長変換部材の平面図である。
【
図4】本発明の実施形態の波長変換部材の製造方法で製造された波長変換部材を備える発光装置を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の実施形態の波長変換部材の製造方法で製造された波長変換部材を備える別の発光装置を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。ただし、示される形態は、本発明の技術思想が具体化されたものではあるが、本発明を限定するものではない。また、以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、重複した説明は適宜省略することがある。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするために誇張していることがある。
なお、蛍光体含有部及び光反射部は、波長変換層における上面、下面及び側面と同様に上面、下面及び側面を有する。
【0009】
一実施形態における波長変換部材の製造方法は、
蛍光体含有部と該蛍光体含有部を取り囲む光反射部とを有し、上面、下面及び側面を有する波長変換層を準備し、
前記波長変換層の上面に遮光膜を形成し、
レーザ加工により、前記遮光膜の一部を除去して、前記蛍光体含有部の少なくとも一部を前記遮光膜から露出させることを含む。
このような製造方法により波長変換部材を製造することにより、簡便な方法で遮光膜の配置精度を向上させることが可能となる。
【0010】
(波長変換層11の準備)
波長変換層11は、
図1A及び1Bに示すように、蛍光体含有部12と、蛍光体含有部12を取り囲む光反射部13とを有する。
波長変換層11は、上面11a、下面11b及び側面11cを有する限り、平面視が、例えば、円形又は楕円形、三角形又は四角形等の多角形等、種々の形状であってもよい。また、その立体形状は、直方体、立方体、柱状、錐台状等の種々の形状とすることができる。なかでも、直方体であることが好ましい。上面11a及び側面11cは、平面でなくてもよいが、下面11bは、平面であることが好ましい。波長変換層11によって発生した熱を、下面11bにおける放熱し得る部材と広面積で接触させて、効率的に放熱させるためである。
【0011】
(蛍光体含有部12)
蛍光体含有部12は、波長変換層11の蛍光体含有部12に入射した光を波長の異なる光に変換する。蛍光体含有部12は、無機材料、有機材料等の種々の材料を用いて形成することができるが、光の照射時に発生する熱により分解されにくいことを考慮して、無機材料で形成されていることが好ましい。
無機材料としては、蛍光体を含むセラミックス又は蛍光体の単結晶からなるものが挙げられる。例えば、蛍光体含有部12としてセラミックスを用いる場合は、蛍光体と酸化アルミニウム(Al2O3、融点:約1900℃~2100℃)等の透光性材料とを焼結させたものが挙げられる。具体的には、YAG蛍光体を含有するセラミックスが挙げられる。蛍光体の含有量は、セラミックスの総体積に対して0.05体積%~50体積%が挙げられる。また、実質的に蛍光体のみからなるセラミックスを焼結させたものであってもよい。蛍光体含有部12として蛍光体の単結晶を用いる場合には、セラミックスを用いる場合と比較して散乱が少ない蛍光体含有部を得ることができる。このような構成とすることにより、蛍光体を含有する樹脂を用いた部材と比較して、耐熱性が高いため、レーザ光照射用として比較的長期にわたって使用することができる。
【0012】
蛍光体含有部12に含まれる蛍光体は、当該分野で公知の蛍光体を用いることができる。例えば、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)蛍光体、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット(LAG)蛍光体、ユウロピウムで賦活されたシリケート蛍光体等が挙げられる。なかでも、耐熱性が良好な蛍光体であるYAG蛍光体を用いることが好ましい。蛍光体含有部12に含まれる蛍光体は2種以上であってもよい。
蛍光体含有部12の形状としては、平面視が、例えば、円形又は楕円形、三角形又は四角形等の多角形等、種々の形状とすることができる。蛍光体含有部12の平面視における形状は、例えば四角形とすることができる。蛍光体含有部12の上面、側面及び下面は、平面でなくてもよいが、平面であってもよい。蛍光体含有部12の上下面は、互いに平行とすることができる。蛍光体含有部12の側面は、その上面に対して垂直でもよいし、外側又は内側に広がるように傾斜していてもよいし、曲面を有していてもよい。蛍光体含有部12の寸法は、例えば、平面形状において、一辺又は直径として0.25mm~2mmが挙げられる。
蛍光体含有部12の厚みは、強度を考慮すると、例えば、0.2mm以上が挙げられる。コスト増大及び高さの増大を抑え、波長変換の程度を適切な程度にするために、蛍光体含有部12の厚みは1mm以下が好ましい。
蛍光体含有部12の上面及び/又は下面は、
図1Bに示すように、光反射部13の上面及び/又は下面と面一であってもよい。
図1Cに示すように、蛍光体含有部22が光反射部13の上面及び/又は下面より凹んだ凹部を有していてもよい。
図1Dに示すように、蛍光体含有部32が突出した凸部を有していてもよい。
【0013】
(光反射部13)
光反射部13は、上面、下面、外側面及び内側面を有する。言い換えると、光反射部13は、平板の中央部分に貫通孔を有した形状とすることができる。そして、貫通孔を形成する側面が、内側面に相当し、蛍光体含有部12の側面と接触し、蛍光体含有部12を取り囲んでいる。貫通孔は、蛍光体含有部12の平面形状に応じて、平面視、円形、楕円形又は四角形等の多角形など、種々の形状とすることができる。光反射部13の外形の形状は、円形、楕円形又は四角形等の多角形など、種々の形状が挙げられる。光反射部13の外形の形状は、例えば四角形とすることができる。光反射部13の上面及び外側面は、平坦でなくてもよいが、下面は、平面であることが好ましい。これにより、光反射部13の下面をパッケージ44のような他の部材に接合することが容易になる。光反射部13の大きさは、例えば、平面形状において、一辺又は直径として1mm~10mmが挙げられる。光反射部13の厚みは、強度を考慮すると、例えば、0.2mm以上が挙げられる。コスト及び厚みの増大を抑えるため、光反射部13の厚みは1mm以下が好ましい。
【0014】
光反射部13は、例えば、金属、セラミックス、樹脂、ガラス又はこれらの1種以上を備える複合材等によって形成することができる。なかでも、光反射部13は、熱伝導率の高さ及び蛍光体含有部12との一体的形成を考慮すると、セラミックスによって形成することが好ましい。セラミックスの主材料としては、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素が挙げられ、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)を用いる。光反射部13は、例えば、セラミックスの主材料に、その主材料よりも屈折率の高い高屈折率材料を含有させることによって、光反射性材料としてもよい。高屈折率材料としては、屈折率が、例えば1.8以上又は2.0以上であるものが挙げられる。高屈折率材料とセラミックスの主材料との屈折率差は、例えば0.4以上又は0.7以上のものが挙げられる。高屈折率材料としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化ルテチウム等が挙げられる。高屈折率材料は、空気等の気体で満たされた空隙であってもよい。光反射部13として、具体的に、白色のアルミナセラミックスが挙げられる。
光反射部13をセラミックスで形成する場合、内在する空隙の密度の程度を調節することにより、光反射性を制御することができる。空隙の密度は、セラミックス材料の押圧の程度を変更することで、調整することができる。空隙は、例えば、観察対象物の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認することができる。
【0015】
このような波長変換層11は、例えば、以下の方法、特開2017-149929号、特開2019-9406号等に記載の方法により又はそれらの方法に準じた方法等によって製造することができる。この場合、蛍光体含有部12を1つのみ形成してもよいし、蛍光体含有部12を複数形成した後、光反射部13を蛍光体含有部12ごとに切断してもよい。
例えば、(a)まず、上面、下面及び側面を有する蛍光体含有部12を準備する。蛍光体含有部12は複数準備してもよい。蛍光体含有部12は、例えば、セラミックス及び蛍光体等を含む焼結体である。この時点の蛍光体含有部は未焼結の成形体であってもよい。そして、蛍光体含有部12と接触し、その周囲を取り囲むように、つまり、蛍光体含有部12の側方と、下方及び/又は上方に、無機材料からなる粉末を含む複合成形体を形成する。その後、その複合成形体を焼結することにより、蛍光体含有部とこの蛍光体含有部を取り囲む光反射部を有し、上面、下面及び側面を有する波長変換層11を形成することができる。あるいは、
(b)表面に凹凸を有する光反射部13を準備する。光反射部13は、例えば、セラミックスを含む焼結体である。この時点の光反射部は未焼結の成形体であってもよい。そして、光反射部13の凹部に、無機材料及び蛍光体を含む粉末を配置して、複合成形体とする。その後、その複合成形体を焼結することにより、蛍光体含有部12とこの蛍光体含有部12を取り囲む光反射部13を有し、上面、下面及び側面を有する波長変換層11を形成してもよい。
このような製造方法によって、蛍光体含有部12と光反射部13とを焼結体、好ましくは、一体的な焼結体とすることができる。また、蛍光体含有部12の当初の配置からのずれを防止して、適所に蛍光体含有部12及び光反射部13を配置した波長変換層11を容易に製造することができる。ここでの一体的な焼結体とは、焼結体(セラミックス)同士が接着剤を用いずに一体化されているものを指し、一体的に焼結することにより形成されたものである。焼結には、例えば、放電プラズマ焼結法(SPS法)、ホットプレス焼結法(HP法)、常圧焼結法、ガス圧焼結法等を用いることができる。
【0016】
蛍光体含有部12の側面は光反射部13によって取り囲まれるが、蛍光体含有部12の上面及び/又は下面も、光反射部13によって被覆されていることがある。この場合には、研磨等により蛍光体含有部12の上面及び下面を光反射部13から露出させる。
ここでの研磨等は、
図1Bに示すように、蛍光体含有部12の上面及び下面が光反射部13から露出するように行うことができる。蛍光体含有部12の上面と光反射部13の上面とが面一となるように、及び/又は、蛍光体含有部12の下面と光反射部13の下面とが面一となるように、蛍光体含有部12を光反射部13から露出させてもよい。
また、蛍光体含有部12と光反射部13とは、材料や空隙の含有率等が異なる場合に、研磨等における除去速度が異なる場合がある。蛍光体含有部22が光反射部13の上面及び/又は下面より除去速度が速い場合には、
図1Cに示したように、光反射部13の上面及び/又は下面より凹んだ凹部を構成することとなる。一方、蛍光体含有部32が光反射部13の上面及び/又は下面より除去速度が遅い場合には、
図1Dに示したように、光反射部13の上面及び/又は下面より突出した凸部を構成することとなる。言い換えると、焼結体として得られた波長変換層11の一面を研磨することにより、その一面に、凸部又は凹部を形成することができる。この場合の凹部及び凸部は、例えば、0.1μm~5μmの範囲の深さ又は高さが挙げられ、0.1μm~1μmの範囲の深さ又は高さが好ましい。
【0017】
蛍光体含有部12と光反射部13とは、上述したように、同じセラミックス焼結体であるが、以下の大小関係の少なくとも1つを満たすことが好ましく、すべてを満たしてもよい。(1)蛍光体含有部12の方が光反射部13よりも密度が大きい。(2)蛍光体含有部12の方が光反射部13よりも、空隙の含有率が小さい。(3)蛍光体含有部12の方が光反射部13よりも強度が高い。
このような大小関係を与えるためには、焼結における温度、圧力、熱処理時間の条件を調整すればよい。例えば、圧力を低くすれば、焼結体は空隙を含みやすくなり、空隙の含有率(ここでは焼結体の気孔率)が大きくなる。また、高温で短時間の熱処理により焼結すれば、粒子径は小さくなり、平均粒子径が小さくなる。また、そのように蛍光体含有部12と光反射部13とで処理条件を異ならせるためには、蛍光体含有部12又は光反射部13の一方を先に焼結し、その後に他方を焼結することが好ましい。
【0018】
蛍光体含有部12は、例えば、空隙の含有率が0%から5%となるように形成することができる。また、光反射部13は、空隙の含有率が5%から20%となるように形成することができる。蛍光体含有部12は、光反射部13よりも、空隙の含有率が5%以上小さいことがある。蛍光体含有部12と光反射部13との接触面、つまり、蛍光体含有部12の側面の近傍領域は、光反射部13の内側面の近傍領域よりも、空隙の含有率が5%以上小さいことがある。
蛍光体含有部12及び光反射部13の空隙の含有率は、例えば、アルキメデス法によって測定できる。これらの空隙の含有率は、断面のSEM像から求めてもよい。
【0019】
このように波長変換層11を準備した後、さらに、後述する工程の後等の任意の段階において、
図1Eに示すように、波長変換層11を、基板15に載置し、固定してもよい。この場合、波長変換層11、特に蛍光体含有部12、さらに光反射部13の下面が、基板15の上面に接触するように固定することが好ましい。これにより、蛍光体含有部12が発する熱を基板15に逃がし、蛍光体含有部12の温度上昇を低減することができる。固定は、接着剤を設けて接合してもよいし、直接接合してもよい。ここで、接着剤としては、例えば、Au-Snなどの金属接着剤、硬化性樹脂を主材料とする樹脂接着剤等が挙げられる。直接接合とは、接着剤を用いずに接合されることを指し、種々の直接接合法を利用することができる。
基板15としては、下面、上面及び側面を有するもの、つまり、板状の部材が挙げられる。基板15は、波長変換層11が載置される上面は平面であることが好ましい。このような形状によって、波長変換層11と接合し易く、また、比較的広い面積で熱的な接続ができる。これにより、蛍光体含有部12及び/又は光反射部13の熱を基板15に効率的に逃がすことができる。基板15の下面及び側面は平面でなくてもよい。
基板15は、例えば、金属、サファイア、石英、炭化ケイ素及びガラス等によって形成することができる。基板15は、上面から下面にかけて光が透過する透光領域を有することができる。これにより、励起光を基板15の下面から入射させて蛍光体含有部12に到達させることができる。ここで、透光性とは、入射光(励起光)に対する透過率が80%以上であることとする。なかでも、基板15は、透光性のサファイアを用いることが好ましい。
【0020】
(遮光膜14の形成)
次に、
図2A及び2Bに示すように、波長変換層11の上面全面に、遮光膜14を形成する。
遮光膜14は、蛍光体含有部12からの光に対して遮光性を有する膜である。蛍光体含有部12からの光は、励起光と、励起光によって蛍光体が励起されて発する蛍光とを含む。遮光膜14としては、これらの光に対する透過率がいずれも10%以下であるのものを用いることができる。遮光膜14の材料としては、例えば、黒色樹脂等の暗色系の樹脂又は金属を用いることができる。これらの材料を用いることで、波長変換層11を構成する材料に対して、例えばレーザ加工等によって、選択的に除去することができる。遮光膜14は、金属膜によって形成することが好ましい。金属膜は、樹脂よりも熱に対する耐性が高く、励起光源としてレーザ素子を用いる場合により適している。
遮光膜14を形成する金属膜としては、例えば、アルミニウム、チタン、ニッケルの金属又は合金の単層膜又は積層膜等が挙げられる。これらの金属膜は、スパッタ法、真空蒸着法等によって形成することができる。後述する工程で遮光膜14の一部除去を行うため、遮光膜14は、形成時にはパターニングしなくてよい。遮光膜14は、例えば、波長変換層11の上面の全面に形成することができる。
遮光膜14は、例えば、0.1μmから10μmの厚みで形成することができ、0.5μmから1μmの厚みが好ましい。これにより、遮光性をより確実に確保することができる。
【0021】
(蛍光体含有部12の遮光膜14から露出)
続いて、
図3A及び3Bに示すように、遮光膜14の一部を除去して、蛍光体含有部12の少なくとも一部を遮光膜14から露出させる。
遮光膜14は、レーザ加工により除去することが好ましい。レーザ加工であれば、フォトリソグラフィにより遮光膜14をパターニングする場合と比較して、フォトレジスト等のマスクを形成する必要がないため、より少ない工程で遮光膜14をパターニング可能である。また、フォトリソグラフィにより遮光膜14をパターニングする場合は、フォトレジスト及び/又は現像液が蛍光体含有部12及び/又は光反射部13の隙間や表面の凹凸に残存する可能性がある。レーザ加工であれば、そのような残存を回避することができる。これにより、フォトレジスト及び/又は現像液の残存に起因する遮光膜14のパターン形成不良の発生を回避することができるため、それらの残存に起因する加工精度の低下を回避することができる。また、フォトレジスト及び/又は現像液が波長変換層11に残存すると、波長変換層11が変色する場合があるが、レーザ加工であればこれも回避可能である。特に、上述したように、蛍光体含有部12及び/又は光反射部13が空隙を含有する場合には、フォトリソグラフィを行う際のフォトレジスト等の残存の可能性が高くなる。このため、特に、蛍光体含有部12及び/又は光反射部13が空隙を含有する場合に、遮光膜14の一部はレーザ加工により除去することが好ましい。これにより、遮光膜14の加工精度を向上させることができるため、遮光膜14の配置精度を向上させることができる。
【0022】
レーザ加工としては、当該分野で公知の方法、条件等を設定することができる。例えば、レーザ加工を、柱状の液体を光導光路として用いて、柱状の液体とレーザ光とを遮光膜に照射することにより行うことができる。このような方法としては、例えば、WO2011/004437号及び特開2004-122173号等に記載された、いわゆる、レーザマイクロジェット加工を利用することができる。レーザマイクロジェット加工における、光源の種類、加工幅等の条件は、遮光膜14の厚み、材料等により適宜調整することができる。レーザマイクロジェット加工を用いることにより、液体を用いないレーザ加工と比較して、熱による影響を低減させることができ、熱による蛍光体含有部12の劣化又は損傷を防止することができる。また、遮光膜14の加工時に生じるデブリ及びバリを低減することができるため、遮光膜14の加工精度をより向上させることができる。
上述したように、波長変換層11を構成する光反射部13の上面及び/又は下面より突出した蛍光体含有部12の凸部に起因して、遮光膜14の表面に凸部又は凹部が存在する場合がある。この場合には、その凹凸によるコントラストを画像認識し、得られた画像のコントラストにより、蛍光体含有部12の位置を特定することができる。そして、その特定した位置に基づいて、蛍光体含有部12を被覆する遮光膜14を除去することができる。このように遮光膜14の上から蛍光体含有部12の位置が特定できることにより、より高い精度で遮光膜14の一部を除去することができる。また、画像認識によって自動処理を可能にすることができる。
【0023】
蛍光体含有部12の遮光膜14からの露出は、例えば、蛍光体含有部12の平面積の20%から100%を露出することができる。また、蛍光体含有部12が0.1mm2から0.5mm2の範囲で露出することができる。蛍光体含有部12は、その一部が遮光膜14に被覆されていてもよい。遮光膜14を設けることで、光反射部13の上面から出る光を遮ることができ、また、外部からの光が光反射部13の上面で反射されないように遮ることができる。これにより、波長変換部材10を励起光源と組み合わせた際に波長変換部材10が発する光の見切り性を向上させることができる。好ましくは、蛍光体含有部12の全部を遮光膜14から露出させる。これにより、蛍光体含有部12の上面から出る光が遮光膜14で遮られることを回避できる。この場合、光反射部13が露出しておらず、蛍光体含有部12の外縁が、一部除去後の遮光膜14の縁と一致していてもよい。また、蛍光体含有部12のみならず、蛍光体含有部12を取り囲む光反射部13の一部を遮光膜14から露出させてもよい。この場合、波長変換部材10が発する光の見切り性を向上させるためには、光反射部13の露出面積は小さいほど好ましい。具体的には、蛍光体含有部12の外縁から遮光膜14の縁までの距離を100μm以下とすることができ、50μm以下が好ましい。蛍光体含有部12の外縁から遮光膜14の縁までの距離は、10μm以上としてもよい。これにより、より確実に蛍光体含有部12の全部を遮光膜14から露出させることができる。蛍光体含有部12の外縁から遮光膜14の縁までの距離は、蛍光体含有部12の全外縁において同じであってもよいし、部分的に異なっていてもよい。例えば、蛍光体含有部12の平面形状が四角形の場合、その一辺または二辺において、蛍光体含有部12の外縁から遮光膜14の縁までの距離が、他の辺における距離よりも小さくてもよいし、大きくてもよい。蛍光体含有部12の一部の外縁と遮光膜14の縁とが一致しているか、蛍光体含有部12の外縁から遮光膜14の縁までの距離が50μm以下であることが好ましい。ここでの一致とは、±10μm程度の距離のずれは、許容される。
このような製造方法によって、簡便かつ配置精度が向上された遮光膜を有する波長変換部材を得ることができる。
【0024】
上述した製造方法により製造された波長変換部材10は、例えば、この波長変換部材10の蛍光体含有部12に光を照射する光源を備える発光装置に利用することができる。
発光装置の製造方法は、波長変換部材を準備する工程と、光を発する発光素子を準備する工程と、波長変換部材の蛍光体含有部に発光素子からの光が照射される位置に、波長変換部材及び発光素子を固定する工程とを有することができる。
このような発光装置の一例として、例えば、
図4に示すように、波長変換部材10を透過型の波長変換部材として備える発光装置40が挙げられる。この発光装置40では、波長変換部材10と、波長変換部材10の蛍光体含有部12に励起光を照射する発光素子41を備える。この場合、蛍光体含有部12は、セラミックスによって形成することが好ましい。これによって、良好な散乱効果を付与することができる。
これら波長変換部材10及び発光素子41は、発光装置40を構成するパッケージ44に収容又は載置されている。パッケージ44は、上面側が開口した凹部44aを有している。波長変換部材10は凹部44aの上を覆うように配置される。パッケージ44は、主として、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等のセラミックス又は銅等の金属によって形成することができる。パッケージ44は、例えば、上面視形状が四角形等、種々の形状とすることができる。パッケージ44には、凹部44aの底面、壁部及び/又は上面等に、発光素子41に電流を供給するための電極等が配置されている。波長変換部材10は、凹部44aを塞ぐ位置に配置されている。波長変換部材10は、パッケージ44に、例えば、金属接合層によって固定されている。金属接合層としては、例えば、Sn-Bi系、Sn-Cu系、Sn-Ag系等の半田、AuとSnとを主成分とする合金、AuとSiとを主成分とする合金、AuとGeとを主成分とする合金等の共晶合金、低融点金属のろう材、これらを組み合わせた接着剤等が挙げられる。
【0025】
発光素子41は、発光ダイオード(LED)及び半導体レーザ素子等が挙げられ、半導体レーザ素子であることが好ましい。発光素子41が半導体レーザ素子であることにより、蛍光体含有部12に効率良く光を照射することができる。発光素子41は、パッケージ44の凹部44aの底面に直接配置してもよいが、サブマウント42上に配置してよい。発光素子41である半導体レーザ素子から出射したレーザ光は、パッケージ44の底面に対して実質的に平行な方向に進行するように実装されている。サブマウント42としては、例えば、SiC、AlN等を主材料として形成されたものが挙げられる。サブマウント42への発光素子41の実装は、例えば、AuSn共晶半田等を用いて行うことができる。
発光素子41は、レーザ光が放出される端面が、パッケージ44の凹部44a内に配置された反射部材43の傾斜面と向かい合うように対向して配置されている。これによって、発光素子41から出射したレーザ光が反射部材43に照射され、反射部材43で、パッケージ44の上面側に固定された波長変換部材10の方向に反射して、波長変換部材10の蛍光体含有部12に励起光を照射させることができる。反射部材43としては、三角柱、四角錐台等の形状をしたガラス、Si等からなる本体部の斜面に反射膜が設けられた部材を用いることができる。反射膜としては、単層又は多層の誘電体膜又は金属膜等を用いることができる。なお、
図4では発光素子41のレーザ光の出射方向は図中右方向であるが、図中上方向にレーザ光を出射するように発光素子41を配置してもよく、この場合、反射部材43は不要である。
【0026】
また、別の発光装置の例として、例えば、
図5に示すように、波長変換部材10を反射型の波長変換部材として備える発光装置50が挙げられる。
この発光装置50は、光源60から出射される光を所望の配光等に変更し得る光学部材52を通して外部に出射することができる。また、光源60から出射した光が波長変換部材10に特定の角度で入射するように、空間光変調器53を光源60と波長変換部材10との間に配置してもよい。光源60は発光素子を有する。発光装置50における波長変換部材10は、例えば、光源60からの光が入射する面とは反対の側の面に反射膜等の光反射構造を有する。波長変換部材10は、光源60からの光が入射する面とは反対の側の面に、基板を設けてもよい。
このような構成を有することにより、光源60からの光は波長変換部材10に入射し、その光の一部は、蛍光体含有部の蛍光体によって波長変換及び反射又は拡散され、そのまま外部に向かう。光源60からの光の他の一部は、蛍光体含有部に入射しても、蛍光体によって波長変換されずに光反射構造で反射され、外部に向かう。これらの波長変換光と、波長変換されていない光とが混じり合い、例えば、白色光として外部に出射させることができる。また、波長変換層の下方に基板を配置することで、その基板が効果的に光照射による熱を放熱し、発光装置としての機能を長期にわたって維持することができる。
光源60としては、発光ダイオード(LED)及び半導体レーザ素子、これらがパッケージ等されたもの等が挙げられ、半導体レーザ装置であることが好ましい。半導体レーザ装置を用いることで、LEDを用いる場合と比較して蛍光体含有部12の光入射面の面積を小さくすることができるため、発光装置50のサイズを小型化することができる一方、熱伝導部及び基板によって放熱効果を効率的に確保することができる。空間光変調器53としては、当該分野で公知のものを用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
10 波長変換部材
11 波長変換層
11a 上面
11b 下面
11c 側面
12、22、32 蛍光体含有部
13 光反射部
14 遮光膜
15 基板
40、50 発光装置
41 発光素子
42 サブマウント
43 反射部材
44 パッケージ
44a 凹部
52 光学部材
53 空間光変調器
60 光源