(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】クロロフィル含有植物体抽出物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/43 20160101AFI20240612BHJP
A23L 5/46 20160101ALI20240612BHJP
A21D 13/80 20170101ALN20240612BHJP
A23F 3/16 20060101ALN20240612BHJP
A23G 3/34 20060101ALN20240612BHJP
【FI】
A23L5/43
A23L5/46
A21D13/80
A23F3/16
A23G3/34 102
(21)【出願番号】P 2021536949
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2020027920
(87)【国際公開番号】W WO2021020183
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019140557
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】徳地 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】青木 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 守雄
(72)【発明者】
【氏名】野上 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 三四郎
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-018188(JP,A)
【文献】特開2011-239761(JP,A)
【文献】特開2018-027940(JP,A)
【文献】特開平10-279494(JP,A)
【文献】特開2010-011835(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103145718(CN,A)
【文献】米国特許第2713584(US,A)
【文献】中国特許出願公開第105505570(CN,A)
【文献】HUMPHREY A. M.,Chlorophyll as a Color and Functional Ingredient,Journal of Food Science,米国,2004年,69(5),page C422-C425
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/43 - 5/46
A21D 13/80
A23G 3/34
A23F 3/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/FSTA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロフィル含有植物体抽出物の製造方法であって、
クロロフィル含有植物体と銅を接触させ、銅接触植物体を調製する工程、
前記銅接触植物体と食用油脂を混合し、油脂混合物を得る工程、
及び、前記油脂混合物から不溶物を除く工程
を含む、前記製造方法。
【請求項2】
前記クロロフィル含有植物体の乾燥質量当たりのクロロフィル含量が、0.01mg/g以上100mg/g以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記銅接触植物体を調製する前記工程は、水を添加する工程を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記銅接触植物体を調製する前記工程は、40℃以上120℃以下、5分以上480分以下でおこなう、請求項1乃至3いずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記油脂混合物を得る前記工程は、20℃以上150℃以下、5分以上240分以下でおこなう、請求項1乃至4いずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記油脂混合物から不溶物を除く前記工程は、ろ過、静置分離、及び遠心分離からなる群から選ばれる一種又は二種以上の工程を含む、請求項1乃至5いずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記油脂混合物から不溶物を除く前記工程は、油相を回収する工程を含む、請求項1乃至6いずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記クロロフィル含有植物体が茶葉、ほうれん草の葉、大麦の葉、明日葉の葉、クロレラ、及びミドリムシからなる群から選ばれる一種又は二種以上である、請求項1乃至7いずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記クロロフィル含有植物体抽出物は、前記食用油脂を60質量%以上含む、請求項1乃至8いずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載の製造方法で得られたクロロフィル含有植物体抽出物を配合する工程を含む、食品の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至9いずれかに記載の製造方法で得られたクロロフィル含有植物体抽出物を配合する工程を含む、粉末油脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至9いずれかに記載の製造方法で得られたクロロフィル含有植物体抽出物を配合する工程を含む、油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロフィル含有植物体抽出物の製造方法に関し、より詳細には、退色の抑制されたクロロフィル含有植物体抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抹茶は、各種有効成分を含み、また、従前から、菓子や飲料の着色に用いられている。しかしながら、抹茶由来の緑色は光や熱などにより、容易に退色することが知られている。
【0003】
抹茶由来の緑色の退色を抑制する技術として、銅と接触させる方法が開示されている(例えば、特許文献1(特開2014-18188号公報))。しかしながら、本願実施例で示したように、銅との接触のみでは、退色抑制効果は十分ではなかった。
【0004】
また、特許文献2(特開2000-262215号公報)には、抹茶、乳化剤及び油脂を含有する抹茶ペーストが開示されている。そして、乳化剤を含まない比較例1では、退色をほとんど抑制できないことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-18188号公報
【文献】特開2000-262215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、クロロフィル含有植物体由来の緑色の退色が抑制されたクロロフィル含有植物体抽出物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を鋭意検討した結果、特定の製造工程を経たクロロフィル含有植物体抽出物が、クロロフィル含有植物体由来の緑色の退色を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、その第1の観点において、
クロロフィル含有植物体抽出物の製造方法であって、
クロロフィル含有植物体と銅を接触させ、銅接触植物体を調製する工程、
前記銅接触植物体と食用油脂を混合し、油脂混合物を得る工程、
及び、前記油脂混合物から不溶物を除く工程 を含む、前記製造方法を提供するものである。
【0009】
本発明により提供される上記製造方法においては、前記クロロフィル含有植物体の乾燥質量当たりのクロロフィル含量が、0.01mg/g以上100mg/g以下であることが好ましい。
【0010】
また、前記銅接触植物体を調製する前記工程は、水を添加する工程を含むことが好ましい。
【0011】
また、前記銅接触植物体を調製する前記工程は、40℃以上120℃以下、5分以上480分以下でおこなうことが好ましい。
【0012】
また、前記油脂混合物を得る前記工程は、20℃以上150℃以下、5分以上240分以下でおこなうことが好ましい。
【0013】
また、前記油脂混合物から不溶物を除く前記工程は、ろ過、静置分離、及び遠心分離からなる群から選ばれる一種又は二種以上の工程を含むことが好ましい。
【0014】
また、前記油脂混合物から不溶物を除く前記工程は、油相を回収する工程を含むことが好ましい。
【0015】
また、前記クロロフィル含有植物体が茶葉、ほうれん草の葉、大麦の葉、明日葉の葉、クロレラ、及びミドリムシからなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。
【0016】
また、前記クロロフィル含有植物体抽出物は、前記食用油脂を60質量%以上含むことが好ましい。
【0017】
一方、本発明は、その第2の観点においては、上記製造方法で得られたクロロフィル含有植物体抽出物を配合する工程を含む、食品の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、その第3の観点においては、上記製造方法で得られたクロロフィル含有植物体抽出物を配合する工程を含む、粉末油脂組成物の製造方法を提供するものである。
【0019】
さらに、本発明は、その第4の観点においては、上記製造方法で得られたクロロフィル含有植物体抽出物を配合する工程を含む、油脂組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法により得られたクロロフィル含有植物体抽出物は、緑色の退色が抑制される。そして、これを食品等に配合することで、その緑色の退色が抑制された食品等を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、クロロフィル含有植物体に特定の処理を施して、緑色の退色が抑制されたクロロフィル含有植物体抽出物を得るものである。また、得られたクロロフィル含有植物体抽出物は、それを配合してなる食品、粉末油脂組成物、油脂組成物等に利用可能である。以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明において用いられるクロロフィル含有植物体は、特に限定されないが、好ましくは、茶、ほうれん草、ケール、大麦、桑、明日葉、ハトムギ、カワラケツメイ等の植物の葉、ブロッコリー、ピーマン、クロレラ、及びミドリムシからなる群から選ばれる一種又は二種以上であり、より好ましくは、茶葉、ほうれん草の葉、ケールの葉、大麦の葉、桑の葉、明日葉の葉、クロレラ、及びミドリムシからなる群から選ばれる一種又は二種以上であり、さらに好ましくは、緑茶葉、ほうれん草の葉、大麦の葉、明日葉の葉、クロレラ、及びミドリムシからなる群から選ばれる一種又は二種以上である。また、前記クロロフィル含有植物体は、形状等を特に問わないが、乾燥物が好ましく、また、粉体が好ましく、例えば、抹茶がより好ましい。なお、ミドリムシはユーグレナ植物門に属する植物体であり、本発明において用いられるクロロフィル含有植物体に含まれる。
【0023】
ここで、クロロフィルには、主にクロロフィルa、b、c、d、eなどがあるが、本発明では、クロロフィルaおよびクロロフィルbのことを意味する。
本発明において用いられるクロロフィル含有植物体の乾燥質量当たりのクロロフィル含量(クロロフィルaおよびクロロフィルbの合計含量)は、特に限定されないが、好ましくは0.01mg/g以上100mg/g以下であり、より好ましくは0.1mg/g以上50mg/g以下であり、さらに好ましくは0.5mg/g以上30mg/g以下であり、さらにより好ましくは0.8mg/g以上15mg/g以下であり、特に好ましくは1mg/g以上10mg/g以下である。
また、本発明において用いられるクロロフィル含有植物体の乾燥質量当たりのクロロフィルa含量は、特に限定されないが、好ましくは0.005mg/g以上100mg/g以下であり、より好ましくは0.05mg/g以上50mg/g以下であり、さらに好ましくは0.1mg/g以上30mg/g以下であり、さらにより好ましくは0.5mg/g以上15mg/g以下であり、特に好ましくは0.8mg/g以上8mg/g以下である。
また、本発明において用いられるクロロフィル含有植物体の乾燥質量当たりのクロロフィルb含量は、特に限定されないが、好ましくは0.001mg/g以上50mg/g以下であり、より好ましくは0.01mg/g以上30mg/g以下であり、さらに好ましくは0.05mg/g以上15mg/g以下であり、さらにより好ましくは0.1mg/g以上8mg/g以下であり、特に好ましくは0.2mg/g以上5mg/g以下である。
【0024】
本発明の製造方法では、クロロフィル含有植物体と銅を接触させ、銅接触植物体を調製する工程をおこなう。銅としては、特に限定されないが、銅鍋、銅管、銅片など、いずれでもよく、後処理の点で、銅鍋及び銅管のいずれか一又は二を用いることが好ましく、銅管を用いることがより好ましい。銅管は、銅鍋に比べ、焦げ付き等による風味低下の可能性が低く、工業生産性に優れる。
接触させる条件は、特に限定されないが、温度は、好ましくは40℃以上120℃以下、より好ましくは50℃以上105℃以下、さらに好ましくは60℃以上100℃以下、さらにより好ましくは60℃以上99℃以下、特に好ましくは70℃以上98℃以下であり、最も好ましくは75℃以上98℃以下である。また、時間は、例えば、5分以上480分以下であり、好ましくは5分以上360分以下、より好ましくは5分以上240分以下、さらに好ましくは10分以上200分以下、さらにより好ましくは15分以上150分以下、特に好ましくは15分以上100分以下である。上記条件とすることで、より退色抑制効果が得られ、また、より風味の良いクロロフィル含有植物体抽出物を得ることができる。
また、常圧に限らず、加圧下や減圧下で銅と接触させてもよく、10kPa以上300kPa以下であることが好ましく、50kPa以上200kPa以下であることがより好ましく、80kPa以上150kPa以下であることがさらにより好ましく、常圧であることが特に好ましい。
クロロフィル含有植物体は、そのまま、銅と接触させてもよく、好ましくは水を添加して接触させる。クロロフィル含有植物体および添加する水の合計質量に対し、水の添加量は、好ましくは0質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上99質量%以下、さらに好ましくは50質量%以上99質量%以下、さらにより好ましくは60質量%以上99質量%以下、特に好ましくは70質量%以上99質量%以下である。所定量の水を添加することで、銅接触工程での効果と作業性を向上することができる。
【0025】
前記銅接触植物体と食用油脂を混合し、油脂混合物を得る工程、及び、前記油脂混合物から不溶物を除く工程、を合わせて、抽出する工程という。
【0026】
前記銅接触植物体と食用油脂を混合し、油脂混合物を得る工程で用いる、食用油脂としては特に制限はなく、適宜採用し得る。例えば、大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、米油、落花生油、パーム核油、ヤシ油等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂等の動物脂、あるいはこれら油脂に分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂などが挙げられる。食用油脂は、一種類を単品で用いてもよく、あるいは二種類以上が混合されたものを用いてもよい。前記食用油脂のヨウ素価は、特に限定されず、使用目的により、適宜選択すればよいが、好ましくは0以上160以下であり、より好ましくは0以上130以下である。例えば、本発明の製造方法により得られたクロロフィル含有植物体抽出物を粉末油脂組成物に利用する場合には、前記食用油脂のヨウ素価は、好ましくは0以上70以下であり、より好ましくは0以上50以下であり、さらに好ましくは0以上30以下である。所定のヨウ素価とすることで、粉末油脂組成物の安定性が向上する。
また、前記食用油脂の融点は、クロロフィル含有植物体抽出物の用途により、適宜選択すればよいが、好ましくは70℃以下であり、より好ましくは55℃以下であり、さらに好ましくは45℃以下である。ここでいう融点とは、「基準油脂分析試験法 2.2.4.2 融点(上昇融点)」に従って測定した値を意味する。
また、例えば、本発明の製造方法により得られたクロロフィル含有植物体抽出物を粉末油脂組成物に利用する場合には、前記食用油脂の融点は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上、さらにより好ましくは30℃以上である。前記食用油脂の融点を所定の範囲とすることで、粉末油脂組成物の製造時の乳化安定性が良好となる。
また、例えば、作業上、液状が好ましい場合には、前記食用油脂の融点は、好ましくは15℃以下、より好ましくは8℃以下、さらに好ましくは0℃未満である。
【0027】
前記油脂混合物を得る工程では、混合する温度は、好ましくは20℃以上150℃以下、より好ましくは20℃以上140℃以下、さらに好ましくは20℃以上130℃以下、さらにより好ましくは40℃以上110℃以下、特に好ましくは60℃以上100℃以下である。また、混合する時間は、好ましくは5分以上240分以下、より好ましくは10分以上200分以下、さらに好ましくは15分以上120分以下、さらにより好ましくは20分以上90分以下である。所定の温度と時間で混合することで退色抑制により優れたクロロフィル含有植物体抽出物を得ることができる。
【0028】
前記油脂混合物を得る工程で使用する食用油脂の量は、特に限定されないが、クロロフィル含有植物体の乾燥質量 1質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上50質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以上40質量部以下であり、さらに好ましくは0.8質量部以上30質量部以下であり、さらにより好ましくは1質量部以上25質量部以下である。所定の割合とすることで、退色抑制により優れたクロロフィル含有植物体抽出物を得ることができる。
【0029】
前記油脂混合物から不溶物を除く工程は、例えば、ろ過、静置分離、遠心分離等が挙げられ、好ましくはろ過、静置分離、及び遠心分離からなる群から選ばれる一種又は二種以上の工程を含み、より好ましくは、ろ過及び遠心分離からなる群から選ばれる一種又は二種の工程を含み、さらに好ましくは遠心分離の工程を含む。またさらに、当該工程は、好ましくは、油相を回収する。なお、さらに、必要に応じて、水分を除去する工程をおこなってもよい。
【0030】
上記のようにして得られたクロロフィル含有植物体抽出物に含有される食用油脂の量は、特に限定されないが、60質量%以上であってよく、好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは80質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0031】
本発明の限定されない任意の態様においては、上記のようにして得られたクロロフィル含有植物体抽出物は、食品に配合することができる。この場合、その食品は、特に限定されない。例えば、菓子類(饅頭、どら焼き、羊羹、葛餅等の和菓子、クッキー、ラスク、せんべい等の焼き菓子、マドレーヌ、バームクーヘン、シフォンケーキ、プリン、チョコレート等の洋菓子)、クリーム類(コンパウンドクリーム、植物性クリーム等)、飲料(抹茶オレ等)、スープ類(ほうれん草スープ等)、パスタソース等のソース類が挙げられ、好ましくは、菓子類、飲料、及びスープ類から選ばれる一種であり、より好ましくは、クッキー、マドレーヌ、飲料、及びスープ類から選ばれる一種である。
【0032】
本発明の製造方法で得られたクロロフィル含有植物体抽出物を食品に添加する方法は、特に限定されない。例えば、クッキー等の生地を調製する際に添加してもよく、また、ショートニング、マーガリンや粉末油脂組成物の形態で添加あるいは配合してもよい。好ましくは、ショートニング、マーガリン、及び粉末油脂組成物のいずれか一種の形態であり、より好ましくは粉末油脂組成物の形態である。
【0033】
本発明の限定されない任意の態様においては、上記のようにして得られたクロロフィル含有植物体抽出物は、粉末油脂組成物に配合することができる。この場合、その粉末油脂組成物の製造方法では、必要に応じて、食用油脂を用いてもよく、上記に述べた食用油脂を使用することができる。前記食用油脂の融点は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上、さらにより好ましくは30℃以上であり、特に上限はないが70℃以下である。食用油脂の融点を所定の範囲とすることで、粉末油脂組成物の製造時の乳化安定性が良好となる。
【0034】
本発明により提供される粉末油脂組成物における、前記クロロフィル含有植物体抽出物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下であり、さらにより好ましくは25質量%以上55質量%以下であり、特に好ましくは35質量%以上55質量%以下である。
【0035】
本発明により提供される粉末油脂組成物中の油脂の含有量(含油分)は、特に限定されず、5質量%以上80質量%以下であってよく、好ましくは10質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以上55質量%以下である。
【0036】
本発明により提供される粉末油脂組成物に含まれる賦形剤は、主として油性成分を被覆することにより、粉末油脂組成物を形成し、そして油性成分の滲み出しを防止するために用いられる。賦形剤の例には、デンプン(オクテニルコハク酸デンプン等)、水あめ、粉あめ、コーンシロップ、蔗糖(スクロース)、ブドウ糖(グルコース)、麦芽糖(マルトース)、乳糖(ラクトース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース、トレハロース、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン等の糖類;エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴等の糖アルコール;小麦粉;ゼラチン;キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、トラガントガム等のガム質等が挙げられる。これらの賦形剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上の併用でもよい。
【0037】
前記賦形剤は、好ましくは糖類であり、より好ましくは、オクテニルコハク酸デンプン、コーンシロップ、及びデキストリンからなる群から選ばれる一種又は二種以上であり、さらに好ましくは、コーンシロップ及びデキストリンからなる群から選ばれる一種又は二種であり、さらにより好ましくはコーンシロップである。前記糖類の平均分子量は、好ましくは400以上20000以下であり、より好ましくは500以上15000以下である。また、糖類のデキストロース当量(DE)は、好ましくは10以上50以下であり、より好ましくは10以上40以下であり、さらに好ましくは10以上35以下である。
【0038】
本発明により提供される粉末油脂組成物中の賦形剤の含有量は、通常、20質量%以上90質量%以下でよく、好ましくは30質量%以上85質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上70質量%以下である。賦形剤を所定量配合することで、保存安定性の良い粉末油脂組成物を得ることができる。
【0039】
本発明により提供される粉末油脂組成物は、食用油脂や賦形剤以外に、好ましくは乳化剤を含む。前記乳化剤は、好ましくは、粉末油脂組成物を製造する際の原料混合物を得る工程で添加するが、その添加の順番は特に問わない。
【0040】
前記乳化剤は、特に限定されず、通常、粉末油脂組成物を製造する際に使用するものを用いることができるが、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、モノグリセリン脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる一種又は二種であることがさらに好ましい。
前記乳化剤のHLBは、1以上15以下であることが好ましく、1以上10以下であることがより好ましく、2以上8以下であることがさらに好ましい。
【0041】
また、さらに、カゼインナトリウムを添加することが好ましい。
【0042】
本発明により提供される粉末油脂組成物は、粉末油脂組成物に汎用される助剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で添加してもよい。そのような助剤の例としては、リン酸水素2カリウム、硫酸2カリウム、クエン酸ナトリウム等のpH調整剤;トコフェロール等の抗酸化剤;上記賦形剤以外の甘味料;安定剤;香料;着色剤;炭酸カルシウム、二酸化チタン等が挙げられる。
【0043】
本発明により提供される粉末油脂組成物の製造方法は、前記粉末油脂組成物を製造するに際し、
(1)クロロフィル含有植物体抽出物、水及び賦形剤を含む原料混合物を得る工程、
(2)前記原料混合物を乳化させてエマルジョンを得る工程、及び
(3)前記エマルジョンを乾燥する工程、
を含むことが好ましい。
【0044】
前記(1)の工程において、添加する水の量は、クロロフィル含有植物体抽出物及び賦形剤の合計100質量部に対して、通常、30質量部以上200質量部以下でよく、好ましくは30質量部以上150質量部以下である。なお、前記原料混合物に、クロロフィル含有植物体抽出物のほか、更に食用油脂を含む場合には、「クロロフィル含有植物体抽出物及び賦形剤」を「クロロフィル含有植物体抽出物、食用油脂及び賦形剤」と読み替える。
【0045】
また、前記原料混合物は、水及び賦形剤を含む水相原料とクロロフィル含有植物体抽出物を含む油相原料を混合することにより得られることが好ましい。
【0046】
また、前記原料混合物には、クロロフィル含有植物体抽出物及び賦形剤以外に、好ましくは乳化剤を含む。前記乳化剤は、前記油相原料に含むことが好ましい。
【0047】
前記(2)の工程は、汎用の方法でよく、例えばホモジナイザー、ホモミキサー、高圧乳化機、高圧均質機、コロイドミル等で乳化処理される。
【0048】
前記(3)の工程は、汎用の方法でよく、例えば真空乾燥、真空凍結乾燥、真空ベルト乾燥、真空ドラム乾燥、スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥等を用いることができる。
【0049】
本発明の限定されない任意の態様においては、上記のようにして得られたクロロフィル含有植物体抽出物は、油脂組成物に配合することができる。この場合、その油脂組成物は、本発明の製造方法により得られたクロロフィル含有植物体抽出物を含んでいればよく、前記クロロフィル含有植物体抽出物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは30質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、さらにより好ましくは70質量%以上100質量%以下である。また、その油脂の含有量(含油分)は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、さらにより好ましくは80質量%以上である。上限は特に限定されないが、例えば100質量%以下である。
【0050】
本発明により提供される油脂組成物は、例えば、水分が1質量%以下である油脂組成物やの形態であってよいが、例えば、ドレッシング類、マーガリン、クリーム等の水を所定量以上含む製品形態も好ましく例示され得る。そのような含水製品形態の場合、前記クロロフィル含有植物体抽出物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、さらにより好ましくは25質量%以上70質量%以下であり、特に好ましくは35質量%以上60質量%以下である。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の実施例及び比較例を記載することにより、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施に際し、以下のものを使用した。
<クロロフィル含有植物体>
抹茶(宇治の花、株式会社ほんぢ園社製;緑茶葉を粉砕した乾燥物;乾燥質量当たりのクロロフィル含量6.2mg/g(クロロフィルa含量4.1mg/g、クロロフィルb含量2.1mg/g))
ほうれん草パウダー(ほうれん草ファインパウダー、三笠産業株式会社製;ほうれん草の葉を乾燥・粉砕したもの;乾燥質量当たりのクロロフィル含量7.1mg/g(クロロフィルa含量4.8mg/g、クロロフィルb含量2.3mg/g))
ミドリムシ含有パウダー(ユーグレナの緑汁、株式会社ユーグレナ社製;クロロフィル含有植物体として大麦若葉、ユーグレナグラリシス、明日葉、クロレラを含む;乾燥質量当たりのクロロフィル含量1.5mg/g(クロロフィルa含量1.1mg/g、クロロフィルb含量0.4mg/g))
【0053】
<食用油脂>
菜種油(さらさらキャノーラ油、株式会社J-オイルミルズ製、融点0℃未満、ヨウ素価118)
パーム核極度硬化油(本明細書では、「パーム核極硬油」と記載する場合もある)(融点40℃、ヨウ素価1、株式会社J-オイルミルズ製)
【0054】
<賦形剤>
コーンシロップ(製品名:フジシラップC-75S、平均分子量700、DE 28、水分25質量%)(加藤化学株式会社製)
デキストリン(製品名:マルトリンT180、DE 14~19.9)(Grain Processing Corporation社製)
【0055】
<pH調整剤>
リン酸水素2カリウム(太平化学産業株式会社製)
クエン酸ナトリウム(三栄源エフエフアイ株式会社製)
【0056】
<乳化剤>
ポエムP-200(モノグリセリン脂肪酸エステル、HLB 3.2、理研ビタミン株式会社製)
エマゾールP-10V(ソルビタンモノパルミテート、HLB 6.7、花王株式会社製)
【0057】
<その他>
酸カゼイン(Lactic Casein(Westland Co-operative Dairy Company Ltd社製))
カゼインナトリウム(Sodium Caseinate 180、Fonterra Limited社製)
薄力粉(ハート、日本製粉株式会社製)
強力粉(イーグル、日本製粉株式会社製)
ファットスプレッド(マイスターデリシア、株式会社J-オイルミルズ製)
【0058】
<クロロフィル含量の測定>
文献(R. J. Porra et al, (1989)Biochimica et Biophysica Acta 975: 384-394)に記載の方法で、使用したクロロフィル含有植物体のクロロフィルaおよびbの定量をおこない、その合計をクロロフィル含量として算出した。
【0059】
<クロロフィル含有植物体抽出物の調製>
(調製物4)
(1)銅接触
クロロフィル含有植物体として、抹茶を使用した。表1に示した配合で、抹茶と水を混合し、抹茶溶液を調製した。抹茶溶液を銅鍋に入れ、銅接触条件に記載の条件で、撹拌しながら、加熱した(95℃で60分間加熱後、100℃で20分間加熱し、一部の水を蒸発させた)。冷却し、抹茶含量が20質量%のペースト状の銅接触植物体を得た。
(2)抽出
表1に示した配合で、得られた銅接触植物体に菜種油を混合し、油脂混合物を調製し、抽出条件に記載の条件で、撹拌しながら、加熱した。具体的には、電熱加熱器で、油脂混合物の品温が130℃になるまで、加熱をおこなった(約30分)。約60℃(油脂混合物の品温)にて、遠心分離し、上層(油相)を回収し、調製物4を得た。
【0060】
(調製物3)
調製物4を得る操作における銅接触植物体を調製物3とした(すなわち、抽出をおこなっていないもの)。
【0061】
(調製物5および6)
調製物5および6は、抽出条件における銅接触植物体の配合量を表1に記載の量に変えたことを除き、調製物4と同じ操作で得た。
【0062】
(調製物1)
抹茶を調製物1とした。
【0063】
(調製物2)
調製物2は銅接触をおこなわなかったもので、具体的には、表1に示した配合で、抹茶にパーム核極硬油を混合し、油脂混合物を調製し、抽出条件に記載の条件で、撹拌しながら、加熱した。約60℃(油脂混合物の品温)にて、遠心分離し、上層(油相)を回収し、調製物2を得た。
【0064】
(調製物7)
調製物4を得る操作における、銅接触を銅鍋の代わりに、銅管を用いた。具体的には、表1に示した配合で、抹茶と水を混合し、ペースト状の抹茶溶液を調製した。銅管(内径:3.4mm、長さ:約6m)の外側をオイルバスで90℃に保温し、銅管内部にポンプを用いて、上記抹茶溶液275mlを送液循環(流速:約200ml/分、30分、即ち、銅と接触している時間は約24分)させ、銅接触植物体を得た。抽出は、表1に記載の配合等の条件で、銅接触植物体とパーム核極度硬化油を用いて、調製物4と同じ操作でおこない、調製物7を得た。
【0065】
(調製物8)
調製物7を得る操作において、表1に記載の配合としたことを除き、調製物7と同じ操作で調製物8を得た。
【0066】
(調製物9)
調製物7を得る操作において、抽出をおこなわず、銅接触植物体をスプレードライヤー(製品名:B-290、日本ビュッヒ株式会社製、INLET150℃、ポンプ出力30%、噴霧空気流量600L/時間)を用いて乾燥粉末化したものを、調製物9とした。
【0067】
(調製物10)
調製物7を得る操作において、銅接触処理をせずに、調製物7と同じ操作で調製物10を得た。
【0068】
【0069】
(試験1)
調製物4、7、2、および、10を用いて、光照射試験A、光照射試験B、加熱保存試験をおこない、評価をした。その結果を表2に示す。
【0070】
(1)光照射試験A(1000ルクス、3カ月)
試験試料を、透明瓶に入れ、密閉し、25℃、1000ルクス、3カ月の光存在下で保存し、その後の試料の色調を観察し、以下の評価基準で評価をおこなった。
【0071】
評価基準
A:試験前と同じ、もしくは、ほぼ同じである
B:試験前より色調はわずかに劣るが、緑色は十分に残っている
C:試験前より色調はやや劣るが、緑色は残っている
D:試験前より色調はかなり劣り、緑色はほとんど残っていない
【0072】
(2)光照射試験B(5000ルクス、3日)
試験試料を、透明瓶に入れ、密閉し、25℃、5000ルクス、3日の光存在下で保存し、その後の試料の色調を観察し、光照射試験Aと同じ評価基準で評価をおこなった。
【0073】
(3)加熱保存試験
試験試料をアルミパウチ(ラミジップAL-10、株式会社生産日本社製)に入れ、密閉し、60℃、4週間保存し、その後の試料の色調を観察し、光照射試験Aと同じ評価基準で評価をおこなった。
【0074】
【0075】
表2に示されるように、本発明の製造方法により得られた調製物4および7は、いずれも退色が抑制されていた。一方、銅接触をおこなわずに得られた調製物2および10は、いずれも、退色し、緑色はほとんど残っていない状態であった。
これらの結果から、本発明の効果を発揮するために、銅接触の工程は必須であることが示された。
また、銅鍋に比べ、焦げ付き等による風味低下の可能性が低く、工業生産性に優れるため、銅接触は、銅管を用いることが好ましいと言える。
【0076】
(調製物11)
調製物11は、以下の方法で、調製物7を含む粉末油脂組成物として調製した。
【0077】
1.水相原料の調製
水 85.1質量部、酸カゼイン 2.05質量部、水酸化ナトリウム 0.05質量部を混合し、酸カゼインと水酸化ナトリウムを中和反応させ、カゼインナトリウムを含む水溶液を得た。この水溶液に、コーンシロップ 59.7質量部(固形分として、44.8質量部、水分14.9質量部)、リン酸水素二カリウム 1.6質量部、クエン酸三ナトリウム 0.5質量部を混合して、水相原料を得た。
【0078】
2.油相原料の調製
調製物7 50質量部に、エマゾールP-10V 0.5質量部、ポエムP-200 0.5質量部を混合し、油相原料を得た。
【0079】
3.高圧乳化と乾燥
前記水相原料 149.0質量部と前記油相原料 51.0質量部を合一して撹拌することにより、原料混合物を得た。
該原料混合物を、高圧乳化機(製品名:LAB-2000、SPXフローテクノロジー株式会社製)にて500barで処理することにより、O/W型エマルジョンを得た。得られたエマルジョンをスプレードライヤー(製品名:B-290、日本ビュッヒ株式会社製、INLET175℃、ポンプ出力50%、噴霧空気流量600L/時間)を用いて乾燥粉末化することにより粉末油脂組成物である調製物11を得た。
【0080】
(調製物12)
調製物12は、調製物7に代えて調製物10を使用したことを除き、調製物11と同じ条件で粉末油脂組成物を得た。
【0081】
(調製物13)
調製物13は、調製物7を得るために遠心分離した際に、残渣部分を回収し、スプレードライヤー(製品名:B-290、日本ビュッヒ株式会社製、INLET150℃、ポンプ出力30%、噴霧空気流量600L/時間)を用いて乾燥粉末化して得た。
【0082】
(試験2)
調製物1および11~13を用いて、光照射試験B、加熱保存試験をおこない評価をした。その結果を表3に示す。
【0083】
【0084】
表3に示されるように、本発明の製造方法により得られたクロロフィル含有植物体抽出物は、単独で退色が抑制されているだけでなく、粉末油脂組成物の原材料の一つとして用いた場合にも、その退色抑制の効果が保持されることがわかった。
一方、原料である抹茶(調製物1)、銅接触をしていない調製物12、また、銅接触をしているが、抽出の際の残渣部分である調製物13においては、いずれも、退色し、退色抑制の効果が十分ではなかった。
【0085】
(試験3)
調製物4~8を用いて、光照射試験A、光照射試験B、加熱保存試験をおこない評価をした。その結果を表4に示す。
【0086】
【0087】
表4に示されるように、抽出に用いる食用油脂の量として、クロロフィル含有植物体である抹茶の乾燥質量 1質量部に対し、1.56質量部以上20質量部以下の範囲において、本発明の効果が得られることが確認できた。
【0088】
(試験4)
調製物4~8、1および3を用いて、表5に記載のクッキー生地の配合で、クッキー生地を作った。得られたクッキー生地は、10mmの厚さにして、直径60mmで型抜きをおこなった。190℃、17分(15分後に天板の前後を入れ替えた)焼成し、クッキーを得た。得られたクッキーは、透明ビニール袋(無地スイーツパック/クリア-0、株式会社ヘッズ製)に入れ、密閉後、光照射試験Aをおこない評価した。その結果を表5に示す。
【0089】
【0090】
表5に示されるように、抽出をおこなわない調製物3では、十分な退色抑制の効果が得られないことがわかり、当該抽出が、効果を発揮するために必要であることがわかった。
また、本発明の製造方法により得られた調製物は、食品の一形態である、クッキーにおいても、退色抑制の効果があることが示された。
【0091】
(試験5)
調製物4と調製物1を用いて、下記生地配合で、通常の方法にて、マドレーヌを製造した。透明ビニール袋(無地スイーツパック/クリア-0、株式会社ヘッズ製)に入れ、密閉後、マドレーヌを、常温で、1000ルクス、5日間保存した。本発明の製造方法により得られた調製物4を用いたマドレーヌは、1000ルクス、5日後も十分な緑色を有していたが、調製物1を用いたマドレーヌは退色していた。
【0092】
(マドレーヌの生地配合)
薄力粉 246質量部
ベーキングパウダー 5質量部
ファットスプレッド 246質量部
砂糖 246質量部
全卵 246質量部
調製物(調製物4を7質量部、あるいは、調製物1を10質量部)
【0093】
このように、本発明により提供されるクロロフィル含有植物体抽出物は、単独での退色抑制だけでなく、クッキーやマドレーヌのような菓子類に配合しても、また、その製造工程で加熱をおこなっても、退色抑制の効果を有していた。従って、本発明により提供されるクロロフィル含有植物体抽出物は、これらの商品価値を向上でき、非常に有用であることが示された。
【0094】
(試験6)
調製物7~9を用いて、光照射試験Bの3日を35日に変更すること以外、光照射試験Bと同じ条件で評価をおこなった。その結果、調製物7と8は評価がAであり、調製物9はDであった。
【0095】
(試験7)
調製物1、7および8を用いて、加熱保存試験をおこなった。その結果、調製物7と8は評価がAであり、調製物1はDであった。
【0096】
(調製物24)
調製物7を得る操作において、表6に示したように、抹茶に代えてほうれん草パウダーを用いたこと、抽出において、抽出用原料の量を変更したこと、を除き、調製物7と同じ操作で、調製物24を得た。
【0097】
【0098】
(調製物21)
ほうれん草パウダーを調製物21とした。
【0099】
(調製物22)
調製物24を得る操作において、抽出をおこなわず、銅接触植物体をスプレードライヤー(製品名:B-290、日本ビュッヒ株式会社製、INLET150℃、ポンプ出力30%、噴霧空気流量600L/時間)を用いて乾燥粉末化したものを、調製物22とした。
【0100】
(調製物23)
調製物23は銅接触をおこなわなかったもので、具体的には、表6に示した配合で、ほうれん草パウダーにパーム核極硬油を混合し、油脂混合物を調製し、抽出条件に記載の条件で、撹拌しながら、加熱した。約60℃(油脂混合物の品温)にて、遠心分離し、上層(油相)を回収し、調製物23を得た。
【0101】
(調製例25)
調製物25は、以下の方法で、調製物24を含む粉末油脂組成物として調製した。
【0102】
1.水相原料の調製
水 100質量部、カゼインナトリウム 5質量部を混合し、カゼインナトリウムを含む水溶液を得た。この水溶液に、マルトリンT180を45質量部混合して、水相原料を得た。
【0103】
2.油相原料の調製
調製物24 50質量部を60℃で溶解し、油相原料を得た。
【0104】
前記水相原料 150質量部と前記油相原料 50質量部を合一して撹拌することにより、原料混合物を得た。
該原料混合物を、高圧乳化機(製品名:LAB-2000、SPXフローテクノロジー株式会社製)にて500barで処理することにより、O/W型エマルジョンを得た。得られたエマルジョンをスプレードライヤー(製品名:B-290、日本ビュッヒ株式会社製、INLET175℃、ポンプ出力50%、噴霧空気流量600L/時間)を用いて乾燥粉末化することにより粉末油脂組成物である調製物25を得た。
【0105】
(試験8)
調製物23と24を用いて、光照射試験Bで評価をおこなった。その結果、本発明の製造方法により得られた調製物24は評価がAであり、調製物23はDであった。よって、クロロフィル含有植物体として、ほうれん草においても効果が確認された。
【0106】
(試験9)
調製物21、22および25を用いて、光照射試験Bの3日を35日に変更すること以外、光照射試験Bと同じ条件で評価をおこなった。その結果、調製物25は評価がAであり、調製物21および22はDであった。クロロフィル含有植物体としてほうれん草を使用して提供された本発明の調製物を粉末油脂組成物の原材料の一つとして用いた場合にも、その退色抑制の効果が得られることがわかった。
【0107】
(調製物32)
調製物24を得る操作において、表7に示したように、ほうれん草パウダーに代えてミドリムシ含有パウダーを用いたこと、パーム核極硬油に代えて菜種油を使用したこと、抽出用原料の量を変更したこと、遠心分離を室温(油脂混合物の品温)にておこなったこと、を除き、調製物24と同じ操作で、調製物32を得た。
【0108】
【0109】
(調製物31)
調製物31は銅接触をおこなわなかったもので、具体的には、表7に示した配合で、ミドリムシ含有パウダーに菜種油を混合し、油脂混合物を調製し、抽出条件に記載の条件で、撹拌しながら、加熱した。室温(油脂混合物の品温)にて、遠心分離し、上層(油相)を回収し、調製物31を得た。
【0110】
(試験10)
調製物31と32を用いて、光照射試験Bで評価をおこなった。その結果、本発明の製造方法により得られた調製物32は評価値がAであり、調製物31はDであった。よって、クロロフィル含有植物体として、抹茶、ほうれん草のほかに、大麦若葉、ミドリムシ(ユーグレナグラリシス)、明日葉、クロレラにおいても効果を確認することができた。したがって、本発明に用いられる植物体は、特に限定されずに、クロロフィルを含む植物体で普遍的に効果があることが示された。
【0111】
(調製例1:抹茶飲料)
表8に記載の組成で、抹茶飲料の粉末を調製した。該粉末 8gに対し、お湯を180g加え、良く撹拌し、抹茶飲料とした。実施例8-1の抹茶飲料は、外観上、対照と比べ、遜色のない抹茶飲料であった。
なお、表8に記載の粉末油脂とは、調製物11において、調製物7の代わりにパーム核極度硬化油を用いたものである。
【0112】
【0113】
(試験11)
調製物1および本発明の製造方法により得られた調製物11を透明瓶に入れ密栓し、60℃、14日保存前後の色調を色差計(CM-5、コニカミノルタ株式会社製)で分析し、得られたa*値に基づき、下記式で変化率を算出した。その結果、調製物11の変化率は、-6.9%であり、ほとんど変化がなく、退色していないことが確認できた。一方、調製物1の変化率は、88.6%であり、大きく退色していることが確認された。
変化率(%)=([保存前a*値]-[保存後a*値])/[保存前a*値]×100
【0114】
(試験12:銅接触条件)
分光光度計にて600nm~700nmの吸光度を測定したところ、銅接触することにより、クロロフィル含有植物体を含む水溶液の最大吸収波長が660nm付近になることがわかった。以下の条件1~3は、その指標で確認できた例である。
【0115】
(条件1)
抹茶20gと水180gを混合し、ペースト状の抹茶溶液を調製した。銅管(内径:7.7mm、長さ:約6m)の外側をオイルバスで80℃に保温し、銅管内部にポンプを用いて、上記抹茶溶液を送液循環(流速:15~20ml/分、45分)させた。
【0116】
(条件2)
抹茶25gと水225gを混合し、ペースト状の抹茶溶液を調製した。銅管(内径:3.4mm、長さ:約6m)の外側をオイルバスで95℃に保温し、銅管内部にポンプを用いて、上記抹茶溶液を送液循環(流速:約100ml/分、15分)させた。
【0117】
(条件3)
抹茶15gと水485gを混合し、抹茶溶液を調製した。銅片(約10mm×約10mm×厚さ約0.3mm)を5枚入れた1Lステンレス鍋に上記抹茶溶液を入れ、95℃、約45分間、撹拌しながら、加熱した。