(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】III族窒化物積層体
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20240612BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20240612BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20240612BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240612BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L21/205
C23C16/34
(21)【出願番号】P 2023199121
(22)【出願日】2023-11-24
(62)【分割の表示】P 2019116392の分割
【原出願日】2019-06-24
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】磯野 僚多
(72)【発明者】
【氏名】田中 丈士
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-546175(JP,A)
【文献】特開2006-147663(JP,A)
【文献】特開2008-277655(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069364(WO,A1)
【文献】特開2012-033679(JP,A)
【文献】特開2014-229781(JP,A)
【文献】特開2013-175696(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0261370(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0102926(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0113018(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0346530(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/338
H01L 21/205
C23C 16/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリタイプ4Hまたはポリタイプ6Hの半絶縁性の炭化シリコンで構成された基板と、
窒化アルミニウムで構成され、前記基板上に形成された第1層と、
窒化ガリウムで構成され、前記第1層上に形成された第2層と、
前記第2層を構成する窒化ガリウムよりも電子親和力の小さいIII族窒化物で構成され、前記第2層上に形成された第3層と、
を有し、
前記第1層のアルミニウム濃度がピークを示す深さ位置におけるシリコン濃度および炭素濃度の少なくとも一方が、1×10
21/cm
3以上であり、
前記第2層を均等な厚さに3分割した場合の下層部分における平均シリコン濃度が、1×10
16/cm
3未満である、
III族窒化物積層体。
【請求項2】
ポリタイプ4Hまたはポリタイプ6Hの半絶縁性の炭化シリコンで構成された基板と、
窒化アルミニウムで構成され、前記基板上に形成された第1層と、
窒化ガリウムで構成され、前記第1層上に形成された第2層と、
前記第2層を構成する窒化ガリウムよりも電子親和力の小さいIII族窒化物で構成され、前記第2層上に形成された第3層と、
を有し、
前記第1層のアルミニウム濃度がピークを示す深さ位置におけるシリコン濃度および炭素濃度の少なくとも一方が、1×10
21/cm
3以上であり、
前記第2層を均等な厚さに3分割した場合の下層部分における平均酸素濃度が、1×10
16/cm
3未満である、
III族窒化物積層体。
【請求項3】
前記第3層の厚さが、10nm以上50nm以下である、請求項1または2に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項4】
前記第3層は、窒化アルミニウムガリウムで構成され、前記第3層を構成する窒化アルミニウムガリウムのアルミニウム組成が、0.1以上0.5以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項5】
前記第1層の厚さが、5nm以上30nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項6】
前記第3層の上方にゲート電極、ソース電極、および、ドレイン電極が設けられ、前記III族窒化物積層体が高電子移動度トランジスタとして用いられるとき、
前記ゲート電極に負電圧を印加して前記高電子移動度トランジスタをオフ状態としたうえで、前記ソース電極および前記ドレイン電極間に50Vの電圧を印加することで測定される、前記高電子移動度トランジスタにおけるリーク電流が、1×10
-7A未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項7】
前記III族窒化物積層体は、ウエハの態様である、請求項1~6のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項8】
前記III族窒化物積層体は、チップの態様である、請求項1~6のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化シリコン基板上にIII族窒化物層を成長させたエピタキシャル基板の開発が進められている。このようなエピタキシャル基板は、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)等の半導体装置を作製するための材料として用いられる(特許文献1参照)。
【0003】
このようなエピタキシャル基板を用いたHEMTにおいて、リーク電流を抑制することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、炭化シリコン基板上にIII族窒化物層を成長させたエピタキシャル基板を用いたHEMTにおいて、リーク電流を抑制するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば
炭化シリコンで構成された基板と、
窒化アルミニウムで構成され、前記基板上に形成された第1層と、
窒化ガリウムで構成され、前記第1層上に形成された第2層と、
前記第2層を構成する窒化ガリウムよりも電子親和力の小さいIII族窒化物で構成され、前記第2層上に形成された第3層と、
を有し、
前記第2層を均等な厚さに3分割した場合の下層部分における平均シリコン濃度が、1×1016/cm3未満である、
III族窒化物積層体
が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
炭化シリコンで構成された基板と、
窒化アルミニウムで構成され、前記基板上に形成された第1層と、
窒化ガリウムで構成され、前記第1層上に形成された第2層と、
前記第2層を構成する窒化ガリウムよりも電子親和力の小さいIII族窒化物で構成され、前記第2層上に形成された第3層と、
を有し、
前記第2層を均等な厚さに3分割した場合の下層部分における平均酸素濃度が、1×1016/cm3未満である、
III族窒化物積層体
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
炭化シリコン基板上にIII族窒化物層を成長させたエピタキシャル基板を用いたHEMTにおいて、リーク電流を抑制するための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、本発明の一実施形態によるIII族窒化物積層体を示す概略断面図であり、
図1(a)はエピタキシャル基板の態様の、
図1(b)はHEMTの態様の、III族窒化物積層体を示す。
【
図2】
図2は、実験例により得られた、エピ層におけるSi濃度のSIMSプロファイルである。
【
図3】
図3は、実験例により得られた、エピ層におけるO濃度のSIMSプロファイルである。
【
図4】
図4(a)は、一実施形態によるIII族窒化物積層体が有するエピ基板の製造に用いられるMOVPE装置を概念的に示す概略図であり、
図4(b)は、一実施形態によるIII族窒化物積層体が有するエピ層の成長工程を例示する概略的なタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本発明の一実施形態>
本発明の一実施形態によるIII族窒化物積層体100(以下、積層体100ともいう)について説明する。
図1(a)および
図1(b)は、積層体100を例示する概略断面図である。積層体100は、基板110と、III族窒化物で構成され基板110上に形成されたIII族窒化物層150(以下、エピ層150ともいう)と、を有する。エピ層150は、核生成層120と、バッファ/チャネル層130と、バリア層140と、を有する。
【0011】
本実施形態による積層体100は、詳細は後述するように、バッファ/チャネル層130の下層部分において、シリコン濃度および酸素濃度のうちの少なくとも一方が抑制されていることで、リーク電流が抑制されていることを、一つの特徴とする。
【0012】
積層体100は、例えば、基板110とエピ層150とを有するエピタキシャル基板160(以下、エピ基板160ともいう)の態様であってよい。
図1(a)は、エピ基板160の態様の積層体100を例示する。積層体100は、また例えば、エピ基板160を材料として形成された半導体装置の態様、より具体的には、エピ層150の(バリア層140の)上方に電極210(ソース電極211、ゲート電極212およびドレイン電極213)が設けられることで形成された高電子移動度トランジスタ(HEMT)200の態様であってよい。
図1(b)は、HEMT200の態様の積層体100を例示する。HEMT200の態様の積層体100は、ウエハの態様であってもよいし、ウエハが分割されたチップの態様であってもよい。
【0013】
以下、
図1(b)を参照し、HEMT200の態様の積層体100の構造について例示的に説明する。基板110は、炭化シリコン(SiC)で構成されており、エピ層150をヘテロエピタキシャル成長させるための下地基板である。基板110を構成するSiCとして、例えば、ポリタイプ4Hまたはポリタイプ6Hの半絶縁性SiCが用いられる。ここで「半絶縁性」とは、例えば、比抵抗が10
5Ωcm以上である状態をいう。基板110の、エピ層150を成長させる下地となる表面は、例えば(0001)面(c面のシリコン面)である。
【0014】
基板110上に(基板110の直上に)、核生成層120が形成されている。核生成層120は、窒化アルミニウム(AlN)で構成されており、バッファ/チャネル層130の結晶成長のための核を生成する核生成層として機能する。核生成層120の厚さは、例えば、1nm以上200nm以下(好ましくは5nm以上30nm以下)である。核生成層120は、リーク電流を抑制するために、過度に薄くないことが好ましく、ピットの発生を抑制するために、過度に厚くないことが好ましい。
【0015】
核生成層120上に(核生成層120の直上に)、バッファ/チャネル層130(以下、チャネル層130ともいう)が形成されている。チャネル層130は、窒化ガリウム(GaN)で構成されている。チャネル層130の下側の部分は、チャネル層130の上側の部分の結晶性を向上させるためのバッファ層として機能する。また、チャネル層130の上側の部分は、HEMT200の動作時に電子が走行するチャネル層として機能する。チャネル層(バッファ/チャネル層)130の厚さは、例えば、100nm以上1300nm以下である。チャネル層130は、ピットの発生を抑制するために、過度に薄くないことが好ましく、コストを抑制するために、過度に厚くないことが好ましい。
【0016】
チャネル層130上に、バリア層140が形成されている。バリア層140は、チャネル層130を構成するGaNよりも電子親和力の小さいIII族窒化物、例えば、III族元素としてアルミニウム(Al)およびガリウム(Ga)を含む窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)で構成されている。バリア層140は、チャネル層130に2次元電子ガス(2DEG)を生成させるとともに、2DEGをチャネル層130内に空間的に閉じ込めるバリア層として機能する。バリア層140の厚さは、例えば、1nm以上50nm(好ましくは10nm以上50nm以下)である。バリア層140を構成するAlGaNのAl組成は、例えば、0.1以上0.5以下である。高Al組成で膜厚が厚いと、バリア層140を構成する結晶が壊れやすく、また、低Al組成で膜厚が薄いと、バリア層140の特性が低下しやすい。このため、低Al組成で膜厚を厚くするか、高Al組成で結晶性が壊れない程度の膜厚となるように、バリア層140を形成することが好ましい。
【0017】
なお、バリア層140上に、必要に応じ、キャップ層が形成されてよい。つまり、エピ層150は、必要に応じ、キャップ層を有してよい。キャップ層は、例えばGaNで構成されており、HEMT200のデバイス特性(閾値電圧の制御性等)を向上させるために、バリア層140とゲート電極212との間に介在する。
【0018】
エピ層150上に(バリア層140の上方に)、HEMT200の電極210として、ソース電極211、ゲート電極212およびドレイン電極213が形成されている。ゲート電極212は、例えば、ニッケル(Ni)層と金(Au)層とが積層されたNi/Au層で構成されている。なお、本明細書で、積層をX/Yと記載した場合、X、Yの順で積層されていることを示す。
【0019】
ソース電極211およびドレイン電極213のそれぞれは、例えば、チタン(Ti)層とAl層とが積層されたTi/Al層で構成されている。ソース電極211およびドレイン電極213のそれぞれは、また例えば、Ti/Al層上にNi/Au層が積層されることで構成されていてもよい。
【0020】
HEMT200のソース電極211とドレイン電極213との間に電圧を印加した際の、チャネル層(バッファ/チャネル層)130におけるリーク電流の流れ(電子の移動方向)を、破線の矢印201で概略的に示す。
【0021】
本願発明者は、実験例として、エピ層150の成長条件を様々に変化させてHEMT200を作製し、リーク電流が小さかった、実施形態に係るエピ層150(以下、実施例のエピ層150ともいう)と、リーク電流が大きかった、比較形態に係るエピ層150(以下、比較例のエピ層150ともいう)との違いについて検討した。その結果、チャネル層130における不純物濃度の2次イオン質量分析(SIMS)プロファイル(深さ方向分布)に関して、以下のような知見を見出した。
【0022】
実施例のエピ層150を有するHEMT200におけるリーク電流は、好ましくは1×10-6A未満であり、より好ましくは1×10-7A未満である。これに対し、比較例のエピ層150を有するHEMT200におけるリーク電流は、1×10-6A以上であり、例えば1×10-5A程度である。リーク電流として、オフリーク電流が例示される。オフリーク電流の測定は、形成されたHEMT200においてゲート電極212に十分な負電圧を印加して素子をピンチオフすなわちオフ状態にしたうえで、ソース電極211およびドレイン電極213間に例えば50V程度の電圧を印加することで実施できる。なお、オフリーク電流を低減することで、素子間リーク電流の低減も図られる。素子間リーク電流の測定は、ウエハ上の各素子をイオン注入法あるいはICPエッチング等により分離したのち、隣接する素子間のオーミック電極間に例えば50V程度の電圧を印加することで実施できる。
【0023】
図2および
図3を参照し、当該知見について説明する。チャネル層130における不純物濃度としては、シリコン濃度、酸素濃度および炭素濃度が例示される。
図2は、実験例により得られた、エピ層150(核生成層120、チャネル層130およびバリア層140)におけるシリコン(Si)濃度のSIMSプロファイルである。
図3は、実験例により得られた、エピ層150における酸素(O)濃度のSIMSプロファイルである。以下、SIMSプロファイルを、単に、プロファイルと称することもある。
【0024】
図2および
図3には、アルミニウム(Al)濃度、ガリウム(Ga)濃度、および、炭素(C)濃度のプロファイルも示す。Al濃度、Ga濃度およびC濃度のプロファイルは、
図2と
図3とで共通である。
【0025】
図2および
図3において、Si、OおよびCについては、左側の軸(Concentration(Atoms/cm
3))の表示により、濃度を(濃度の直接的な数値として)示す。AlおよびGaについては、右側の軸(Secondary ion intensity(counts/sec))の表示により、濃度を、濃度に対応するSIMSのカウント数として示す。
【0026】
図2においてはSi濃度プロファイルを、
図3においてはO濃度プロファイルを、実線で示す。
図2および
図3において、Al濃度プロファイルを、破線で示し、Ga濃度プロファイルを、一点鎖線で示し、C濃度プロファイルを、点線で示す。実施例のエピ層150におけるプロファイルを、太線で示し、比較例のエピ層150におけるプロファイルを、細線で示す。比較例のSi濃度プロファイルおよびO濃度プロファイルは、それぞれ、2つの試料に対する結果(2本の線)を示す。
【0027】
核生成層120の直上に配置された領域であって、Al濃度が、核生成層120におけるピーク濃度(
図2および
図3の例では4×10
5counts/sec)に対し、1/1000以下(
図2および
図3の例では4×10
2counts/sec以下)に低下している領域を、チャネル層(バッファ/チャネル層)130として規定している。つまり、Al濃度が、チャネル層130の直下に形成されAlNで構成された核生成層120からチャネル層130に向け立ち下がって、核生成層120におけるピーク濃度の1/1000に達する深さ位置が、チャネル層130の下端と規定されている。また、Al濃度が、チャネル層130からチャネル層130の直上に形成されAlGaNで構成されたバリア層140に向け立ち上がって、チャネル層130の下端を規定する濃度と同じ濃度に達する深さ位置が、チャネル層130の上端と規定されている。
【0028】
チャネル層130の下端から、チャネル層130の1/3の厚さの部分ずつ、チャネル層130の下層部分130L、中層部分130Mおよび上層部分130Uが規定されている。また、チャネル層130の下層部分130Lの下端(つまりチャネル層130の下端)から、下層部分130Lの1/3の厚さの部分ずつ、下層部分130Lの下層部分130LL、中層部分130LMおよび上層部分130LUが規定されている。つまり、チャネル層130の下層部分130Lは、チャネル層130を均等な厚さに3分割した場合の下層部分である。また、下層部分130Lの中層部分130LMは、下層部分130Lを均等な厚さに3分割した場合の、(分割された下層部分Lにおける)中層部分である。
【0029】
なお、実施例と比較例とで、Al濃度が核生成層120におけるピーク濃度から1/1000以下となる領域は、つまり、チャネル層130の厚さ範囲は、厳密には一致していないが、ほぼ同様である。
図2および
図3には、実施例のチャネル層130の厚さ範囲を示す。
【0030】
チャネル層130の下端よりも下方に、つまり、
図2および
図3においてチャネル層130の右方に、核生成層120が配置されている。また、チャネル層130の上端よりも上方に、つまり、
図2および
図3においてチャネル層130の左方に、バリア層140が配置されている。
【0031】
Al濃度プロファイルおよびGa濃度プロファイルについては、実施例と比較例とで、大きな違いは見られない。核生成層120においてAl濃度がピークを示す深さ位置を、以下、Alピーク深さ位置ともいう。
【0032】
Si濃度プロファイルについては、実施例と比較例とで、大きな違いが見られる。実施例と比較例との違いは、特に、チャネル層130の下層部分130Lで顕著である。実施例と比較例とで共通に、核生成層120のAlピーク深さ位置において、Si濃度は、1×1021/cm3以上の高さを示す。これは、薄い核生成層120の直下にSiCで構成される基板110が存在するからではないかと推測される。また、実施例と比較例とで共通に、Si濃度は、核生成層120からチャネル層130に向けて減少し、チャネル層130の下端近傍で(下層部分130LL内で)、1×1017/cm3未満まで減少する。
【0033】
比較例のSi濃度は、チャネル層130の下層部分130Lの、下層部分130LLおよび中層部分130LMにおいて、1×1016/cm3以上の高さを維持し、下層部分130Lの上層部分130LUにおいて、1×1016/cm3未満に減少する。
減少する。
【0034】
これに対し、実施例のSi濃度は、チャネル層130の下層部分130Lの下層部分130LLにおいて、1×1016/cm3未満に減少し、下層部分130Lの中層部分130LMおよび上層部分130LUにおいて、1×1016/cm3未満の低さ、または、概ね1×1015/cm3未満の低さ(最大でも2×1015/cm3程度)を維持する。
【0035】
実施例と比較例とで共通に、Si濃度は、チャネル層130の、中層部分130Lおよび上層部分130Uの上端近傍までの厚さ範囲内において、1×1016/cm3未満の低さを維持する。これらの厚さ範囲内において、実施例のSi濃度は、比較例のSi濃度よりもやや低く、概ね1×1015/cm3未満の低さ(最大でも2×1015/cm3程度)を維持している。Si濃度は、チャネル層130の上層部分130Uの上端近傍より上方では、バリア層140に向けて増加している。
【0036】
このように、実施例と比較例とで、チャネル層130の下層部分130LにおけるSi濃度の分布が顕著に異なるという知見が得られた。下層部分130Lにおける平均Si濃度は、例えば、急激な濃度変化が少ない、下層部分130Lの中層部分130LMにおける平均濃度で規定される。チャネル層130の下層部分130Lにおける平均Si濃度は、比較例では、1×1016/cm3以上であるのに対し、実施例では、1×1016/cm3未満、好ましくは1×1015/cm3未満である。
【0037】
O濃度プロファイルについても、Si濃度プロファイルと同様に、実施例と比較例とで大きな違いが見られ、実施例と比較例との違いは、特に、チャネル層130の下層部分130Lで顕著である。
【0038】
比較例のO濃度は、チャネル層130の下層部分130Lにおいて、概ね1×1016/cm3以上の高さを示し、中層部分130Mに向けて減少する傾向を有する。比較例のO濃度は、チャネル層130の中層部分130Mにおいて、1×1016/cm3未満の低さを示した後、チャネル層130の上層部分130Uにおいて、バリア層140に向けて増加する傾向を有する。
【0039】
これに対し、実施例のO濃度は、チャネル層130の下層部分130Lおよび中層部分130Mにおいて、概ね、1×1016/cm3未満の低さを示す。実施例のO濃度は、比較例のO濃度と同様に、チャネル層130の上層部分130Uにおいて、バリア層140に向けて増加する傾向を有する。
【0040】
このように、実施例と比較例とで、チャネル層130の下層部分130LにおけるO濃度の分布が顕著に異なるという知見が得られた。下層部分130Lにおける平均O濃度は、下層部分130Lにおける平均Si濃度と同様に、例えば、下層部分130Lの中層部分130LMにおける平均濃度で規定される。チャネル層130の下層部分130Lにおける平均O濃度は、比較例では、1×1016/cm3以上であるのに対し、実施例では、1×1016/cm3未満である。
【0041】
C濃度プロファイルについて、実施例と比較例とで、大きな違いは見られない。核生成層120のAlピーク深さ位置において、C濃度は、1×1021/cm3以上の高さを示す。これは、薄い核生成層120の直下にSiCで構成される基板110が存在するからではないかと推測される。C濃度は、核生成層120からチャネル層130に向けて減少し、チャネル層130において下端近傍で、1×1016/cm3程度まで減少する。C濃度は、チャネル層130の概ね全厚さ範囲内で1~2×1016/cm3程度であり、バリア層140で増加する傾向を有する。
【0042】
チャネル層130の下層部分130Lにおける平均C濃度は、下層部分130Lにおける平均Si濃度または平均O濃度と同様に、例えば、下層部分130Lの中層部分130LMにおける平均濃度で規定される。実施例において、チャネル層130の下層部分130Lにおける平均Si濃度および平均O濃度は、それぞれ、下層部分130Lにおける平均C濃度よりも低いという特徴を有する。またさらに、実施例において好ましくは、チャネル層130の下層部分130Lの中層部分130LMの全厚さ範囲内で、(平均でない)Si濃度およびO濃度は、それぞれ、C濃度より低いという特徴を有する。
【0043】
チャネル層130を含むエピ層150は、後述のように、例えば有機金属気相成長(MOVPE)で成長される。この成長の際、有機原料に起因するCが、チャネル層130等に混入する。チャネル層130が含有するCの濃度は(下層部分130Lにおける平均C濃度は)、過度に高くならないように、例えば1×1017/cm3未満となるように、成長条件により制御される。
【0044】
以上説明したように、実験例で得られた各種不純物のSIMSプロファイルについて検討を行ったところ、本願発明者は、実施例では、比較例に対して、チャネル層130の下層部分130LにおけるSi濃度の分布およびO濃度の分布が顕著に異なること、より具体的には、下層部分130LにおいてSi濃度およびO濃度が顕著に減少していることを見出した。
【0045】
実施例においてリーク電流が減少しているメカニズムは明確でないが、SIMSプロファイルにおいて、このようなSi濃度の顕著な減少およびO濃度の顕著な減少が観察されることから、実施例におけるSi濃度の減少、および、O濃度の減少のうちの少なくとも一方が、リーク電流の減少に寄与しているのではないかと推測される。
【0046】
実験例において、エピ層150の成長条件を様々に変化させた。その結果、詳細は後述するように、実施例のエピ層150は、例えば、AlNで構成される核生成層120の形成に起因するAlの、チャネル層130への混入を抑制する製造方法により形成できるという知見が得られた。
【0047】
チャネル層130へのAlの混入抑制と、チャネル層130の下層部分130LにおけるSi濃度およびO濃度の減少との関係性は明確ではないが、一つの考え方としては、Al混入を抑制することで、チャネル層130の成長初期におけるGaN結晶の成長態様が変化することに伴って、チャネル層130にSiとOとが取り込まれにくくなったのではないか、と考えられる。なお、チャネル層130へのAlの混入が非常に微少であるために、実施例と比較例とにおけるチャネル層130へのAl混入の差は、SIMSプロファイルに明確に反映されるほどではない、と考えられる。
【0048】
次に、実施形態による積層体100の製造方法について説明する。ここでは、HEMT200の態様である積層体100の製造方法について例示する。まず、エピ基板160の製造方法について説明する。基板110としてSiC基板を準備する。基板110の上方に、エピ層150を構成する各層である、核生成層120、チャネル層130およびバリア層140を、例えばMOVPEにより成長させることで、エピ基板160を形成する。
【0049】
III族原料ガスのうちAl原料ガスとしては、例えばトリメチルアルミニウム(Al(CH3)3、TMA)ガスが用いられる。III族原料ガスのうちGa原料ガスとしては、例えばトリメチルガリウム(Ga(CH3)3、TMG)ガスが用いられる。V族原料ガスである窒素(N)原料ガスとしては、例えばアンモニア(NH3)が用いられる。キャリアガスとしては、例えば、窒素ガス(N2ガス)および水素ガス(H2ガス)の少なくとも一方が用いられる。また、後述のクリーニングに用いるクリーニングガスとしては、例えばアンモニアガス、また例えば塩素ガスが用いられる。成長温度は、例えば、900℃~1400℃の範囲で選択可能であり、III族原料ガスに対するV族原料ガスの流量比であるV/III比は、例えば、10~5000の範囲で選択可能である。形成する各層の組成に応じて、各原料ガスの供給量の比率が調整される。形成する各層の厚さは、たとえば予備実験で得た成長速度から設計厚さに対応する成長時間を算出することで、成長時間により制御できる。
【0050】
以下、チャネル層130へのAlの混入を抑制するための方法について、例示的に説明する。
図4(a)は、本実施形態によるエピ基板160の製造に用いられるMOVPE装置300を概念的に示す概略図である。MOVPE装置300の反応炉310内に、基板110を載置するためのサセプタ320が設置されている。サセプタ320の載置面の下方に、基板110を所定の温度に加熱するためのヒータ330が設置されている。反応炉310内に、基板110に向けて各種のガスを供給するためのガス管341、342、343および344が導入されている。
【0051】
ガス管341は、III族原料のうちAl原料(例えばTMA)を供給する。ガス管342は、Al原料以外のIII族原料、ここではGa原料(例えばTMG)を供給する。ガス管343は、V族原料(例えばNH3)を供給する。ガス管344は、反応炉310の炉壁等に付着したAl原料を除去するクリーニングを行うためのクリーニングガスを供給する。
【0052】
図4(b)は、本実施形態によるエピ層150の成長工程を例示する概略的なタイミングチャートである。核生成層120の形成工程では、基板110に向けてAl原料ガスおよびN原料ガスを供給することで、AlNを成長させることにより、核生成層120を形成する。核生成層120の形成に起因して、反応炉310の炉壁等に、Al原料が付着する。
【0053】
核生成層120の形成に続くクリーニング工程では、反応炉310内にクリーニングガスを供給することで、反応炉310の炉壁等に付着したAl原料を除去する。クリーニングとして塩素ガスを使う場合は、核生成層120を形成した基板110を、一旦反応炉310の外に出した状態で、クリーニング工程を行う。これは、クリーニング工程により核生成層120がエッチングされることを防止するためである。クリーニングとしてアンモニアガスを使う場合は、基板110を反応炉310の外に出さなくともよい。クリーニング工程において、核生成層120の形成工程でAl原料の供給に用いられたガス管341内にもクリーニングガス(例えばアンモニアガス、また例えば塩素ガス)を流すことで、ガス管341の内壁に付着したAl原料を除去することがより好ましい。
【0054】
クリーニング工程に続くチャネル層130の形成工程では、基板110に向けてGa原料ガスおよびN原料ガスを供給することで、GaNを成長させることにより、チャネル層130を形成する。本実施形態では、チャネル層130の形成工程に先立ち、クリーニング工程を行って反応炉310の炉壁等に付着したAl原料を除去しておくことにより、チャネル層130を形成する際のAl混入が抑制される。
【0055】
また、本実施形態では、Al原料ガスを供給するガス管341と、Ga原料ガスを供給するガス管342と、を別々にしている。これにより、Al原料ガスとGa原料ガスとを共通のガス管から供給する態様において生じるような、ガス管に残留したAl原料ガスがGa原料ガスとともに供給されることを防止できるため、チャネル層130におけるAl混入が、さらに抑制される。
【0056】
本実施形態では、このように、核生成層120の形成に起因するAlの、チャネル層130への混入を抑制することで、チャネル層130の下層部分130LにおけるSi濃度およびO濃度が抑制されたエピ層150を形成することができる。なお、クリーニング工程における、クリーニングガスの流量、クリーニング工程が行われる時間の長さ等の諸条件は、チャネル層130の下層部分130LにおけるSi濃度およびO濃度が、抑制された所定の濃度となるように、予備実験により定めることができる。
【0057】
チャネル層130の形成工程に続くバリア層140の形成工程では、基板110に向けてAl原料ガス、Ga原料ガスおよびN原料ガスを供給することで、AlGaNを成長させることにより、バリア層140を形成する。以上のように、基板110上にエピ層150を成長させることで、エピ基板160を製造する。
【0058】
次に、HEMT200の製造方法について説明する。エピ基板160が製造された後、エピ層150上に電極210(ソース電極211、ゲート電極212およびドレイン電極213)を形成することで、HEMT200を製造する。なお、HEMT200の製造の際、必要に応じ、保護膜等の他の部材を形成してもよい。電極210、保護膜等は、公知の手法で形成されてよい。以上のようにして、本実施形態による積層体100が製造される。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、バッファ層(バッファ/チャネル層)130の下層部分130LにおけるSi濃度およびO濃度のうちの少なくとも一方が抑制されていることで、積層体100におけるリーク電流を抑制することが可能となる。
【0060】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0061】
(付記1)
炭化シリコンで構成された基板と、
窒化アルミニウムで構成され、前記基板上に(前記基板の直上に)形成された第1層と、
窒化ガリウムで構成され、前記第1層上に(前記第1層の直上に)形成された第2層と、
前記第2層を構成する窒化ガリウムよりも電子親和力の小さいIII族窒化物(アルミニウムを含有するIII族窒化物、窒化アルミニウムガリウム)で構成され、前記第2層上に形成された第3層と、
を有し、
前記第2層を均等な厚さに3分割した場合の下層部分における平均シリコン濃度が、1×1016/cm3未満である、
III族窒化物積層体。
【0062】
(付記2)
前記第2層の前記下層部分における平均シリコン濃度が、1×1015/cm3未満である、付記1に記載のIII族窒化物積層体。
【0063】
(付記3)
前記第2層の前記下層部分における平均酸素濃度が、1×1016/cm3未満である、付記1または2に記載のIII族窒化物積層体。
【0064】
(付記4)
前記第2層の前記下層部分における平均シリコン濃度が、前記第2層の前記下層部分における平均炭素濃度よりも低い、付記1~3のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0065】
(付記5)
前記第2層の前記下層部分における平均酸素濃度が、前記第2層の前記下層部分における平均炭素濃度よりも低い、付記1~4のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0066】
(付記6)
前記第2層の前記下層部分における平均炭素濃度が、1×1017/cm3未満である、付記4または5に記載のIII族窒化物積層体。
【0067】
(付記7)
炭化シリコンで構成された基板と、
窒化アルミニウムで構成され、前記基板上に(前記基板の直上に)形成された第1層と、
窒化ガリウムで構成され、前記第1層上に(前記第1層の直上に)形成された第2層と、
前記第2層を構成する窒化ガリウムよりも電子親和力の小さいIII族窒化物(アルミニウムを含有するIII族窒化物、窒化アルミニウムガリウム)で構成され、前記第2層上に形成された第3層と、
を有し、
前記第2層を均等な厚さに3分割した場合の下層部分における平均酸素濃度が、1×1016/cm3未満である、
III族窒化物積層体。
【0068】
(付記8)
前記第1層のアルミニウム濃度がピークを示す深さ位置におけるシリコン濃度が、1×1021/cm3以上である、付記1~7のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0069】
(付記9)
前記第1層のアルミニウム濃度がピークを示す深さ位置における炭素濃度が、1×1021/cm3以上である、付記1~8のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0070】
(付記10)
前記第3層の上方に配置された電極、を有し、
高電子移動度トランジスタとして用いられる、付記1~9のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0071】
(付記11)
前記高電子移動度トランジスタのゲート電極に負電圧を印加してオフ状態としたうえで、ソース電極およびドレイン電極間に50Vの電圧を印加することで測定される、前記高電子移動度トランジスタにおけるリーク電流(オフリーク電流)が、好ましくは1×10-6A未満であり、より好ましくは1×10-7A未満である、付記10に記載のIII族窒化物積層体。
【0072】
(付記12)
前記第2層は、前記第1層における(SIMSのカウント数として示される)アルミニウム濃度のピーク濃度に対し、アルミニウム濃度が1/1000以下となっている領域として規定されている、付記1~11のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0073】
(付記13)
前記第2層の前記下層部分における平均シリコン濃度、平均酸素濃度、または、平均炭素濃度は、前記下層部分を均等な厚さに3分割した場合の、分割された前記下層部分の中層部分における平均濃度として規定されている、付記1~12のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【符号の説明】
【0074】
100…III族窒化物積層体、110…基板、120…核生成層、130…バッファ/チャネル層、140…バリア層、150…III族窒化物層、160…エピタキシャル基板、200…HEMT、210…電極、211…ソース電極、212…ゲート電極、213…ドレイン電極、300…MOVPE装置、310…反応炉、320…サセプタ、330…ヒータ、341~344…ガス管