(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20240612BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01L21/66 J
(21)【出願番号】P 2023503555
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2021007766
(87)【国際公開番号】W WO2022185390
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 奈浦
(72)【発明者】
【氏名】横須賀 俊之
(72)【発明者】
【氏名】小辻 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】中野 智仁
(72)【発明者】
【氏名】川野 源
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-310963(JP,A)
【文献】国際公開第02/001597(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01L 21/66
G01N 23/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して荷電粒子ビームを照射する荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子ビームを前記試料に対して照射することにより前記試料から発生する2次荷電粒子を検出してその信号強度を表す検出信号を出力する検出器、
前記検出信号を用いて前記試料の観察画像を生成する演算部、
を備え、
前記演算部は、前記試料の帯電状態が正帯電と負帯電との間で入れ替わる前記荷電粒子ビームの照射条件を特定し、
前記演算部は、前記特定した照射条件と、前記観察画像を取得したときにおける前記照射条件との間の第1関係にしたがって、
観察視野内における前記試料上に形成されているパターンのサイズのばらつき分布が閾値範囲内に収まるように、前記照射条件を調整する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
試料に対して荷電粒子ビームを照射する荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子ビームを前記試料に対して照射することにより前記試料から発生する2次荷電粒子を検出してその信号強度を表す検出信号を出力する検出器、
前記検出信号を用いて前記試料の観察画像を生成する演算部、
を備え、
前記演算部は、前記試料の帯電状態が正帯電と負帯電との間で入れ替わる前記荷電粒子ビームの照射条件を特定し、
前記演算部は、前記特定した照射条件と、前記観察画像を取得したときにおける前記照射条件との間の第1関係にしたがって、
観察視野内における前記試料上に形成されている像の歪みを抑制するように、前記照射条件を調整する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記荷電粒子ビームの偏向を抑制することにより、観察視野内における前記試料上に形成されている像の歪みを抑制する
ことを特徴とする請求項2記載の荷電粒子線装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記観察画像の特徴量を取得し、
前記演算部は、前記第1関係にしたがって、前記特徴量が所望範囲となるような前記照射条件を特定することにより、前記所望範囲の特徴量が得られるように前記照射条件を調整する
ことを特徴とする請求項1
から3のいずれか1項記載の荷電粒子線装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記特徴量として、前記試料上に形成されているパターンのサイズを計算
する
ことを特徴とする請求項
4記載の荷電粒子線装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記観察視野の中央部における前記パターンの第1サイズと、前記観察視野の前記中央部以外の位置における前記パターンの第2サイズとのうちいずれが大きいかに基づき、前記試料の帯電状態を推定し、
前記演算部は、前記第1サイズのほうが小さい場合は前記試料が正帯電していると推定し、
前記演算部は、前記第2サイズのほうが小さい場合は前記試料が負帯電していると推定する
ことを特徴とする請求項
5記載の荷電粒子線装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記第1サイズのほうが小さくなる前記照射条件と、前記第2サイズのほうが小さくなる前記照射条件との間の境界を探索することにより、前記試料の帯電状態が正帯電と負帯電との間で入れ替わる前記照射条件を特定する
ことを特徴とする請求項
6記載の荷電粒子線装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記観察画像の特徴量を取得し、
前記演算部は、前記第1関係にしたがって、前記特徴量が所望範囲となるような前記照射条件を特定することにより、前記所望範囲の特徴量が得られるように前記照射条件を調整し、
前記演算部は、前記特徴量として、前記試料上に形成されているパターンのサイズを計算し、
前記演算部は、前記観察視野の中央部における前記パターンの第1サイズと、前記観察視野の前記中央部以外の位置における前記パターンの第2サイズとのうちいずれが大きいかに基づき、前記試料の帯電状態を推定し、
前記演算部は、前記第1サイズのほうが小さい場合は前記試料が正帯電していると推定し、
前記演算部は、前記第2サイズのほうが小さい場合は前記試料が負帯電していると推定し、
前記演算部は、前記パターンがLine&Spaceパターンである場合は、前記ばらつき分布として、前記第1サイズと前記第2サイズとの間の比率、前記第1サイズと前記第2サイズとの間の差分、または前記サイズの分布のうち少なくともいずれかを用い、
前記演算部は、前記パターンが孔である場合は、前記ばらつき分布として、前記孔の開口の重心ずれ、または前記孔の開口の形状ずれのうち少なくともいずれかを用いる
ことを特徴とする請求項
1記載の荷電粒子線装置。
【請求項9】
前記演算部は、前記観察画像の特徴量と前記第1関係にしたがって、前記試料の帯電状態を推定し、
前記演算部は、前記推定した帯電状態にしたがって、前記試料の帯電状態が所望範囲となるように、前記照射条件を調整する
ことを特徴とする請求項1
から3のいずれか1項記載の荷電粒子線装置。
【請求項10】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記帯電状態、および前記照射条件の間の第2関係をあらかじめ測定した結果を記述した帯電特性データを格納する記憶部を備え、
前記演算部は、前記帯電特性データが記述している前記第2関係にしたがって、前記帯電状態が前記所望範囲となるように前記照射条件を制御する
ことを特徴とする請求項
9記載の荷電粒子線装置。
【請求項11】
前記演算部は、
前記荷電粒子ビームの電流量、
前記荷電粒子ビームの電流量の面積密度、
前記荷電粒子ビームの電流量の時間密度、
前記荷電粒子ビームの走査速度、
前記荷電粒子ビームを用いて観察する前記試料上の領域の観察倍率、
のうち少なくともいずれかを調整することにより、前記照射条件を調整する
ことを特徴とする請求項
10記載の荷電粒子線装置。
【請求項12】
前記帯電特性データは、前記試料の材質ごとに前記第2関係を記述しており、
前記演算部は、前記試料の材質に対応する前記第2関係にしたがって、前記帯電状態が前記所望範囲となるように前記照射条件を制御する
ことを特徴とする請求項
10記載の荷電粒子線装置。
【請求項13】
前記荷電粒子線装置は、前記2次荷電粒子に対して作用する電界を発生させる電極を備え、
前記帯電特性データは、前記電界の強度ごとに前記第2関係を記述しており、
前記演算部は、前記電界の強度に対応する前記第2関係にしたがって、前記帯電状態が前記所望範囲となるように、前記照射条件または前記電界の強度のうち少なくともいずれかを制御する
ことを特徴とする請求項
10記載の荷電粒子線装置。
【請求項14】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記照射条件の範囲を指定するユーザインターフェースを備え、
前記演算部は、前記ユーザインターフェースを介して指定された前記照射条件の範囲内において、前記特徴量が前記所望範囲となる前記照射条件を探索し、その結果を前記ユーザインターフェース上で提示する
ことを特徴とする請求項
4記載の荷電粒子線装置。
【請求項15】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記試料が有する第1パターンと同じ第2パターンについて、前記特徴量を前記所望範囲にすることができる前記荷電粒子ビームの照射条件を前記第2パターンごとにあらかじめ測定した結果を記述した、条件データを格納する記憶部を備え、
前記演算部は、前記条件データが記述している照射条件にしたがって、前記第1パターンに対する前記照射条件を調整する
ことを特徴とする請求項
4記載の荷電粒子線装置。
【請求項16】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記試料が有するパターンの形状を表す形状パラメータ、前記試料の材質、前記照射条件、および前記特徴量の間の関係を機械学習によって学習する学習器を備え、
前記演算部は、前記学習器が出力する前記照射条件を用いて、前記所望範囲が得られる前記照射条件を探索することにより、前記特徴量が前記所望範囲となる前記照射条件を特定する
ことを特徴とする請求項
4記載の荷電粒子線装置。
【請求項17】
前記演算部は、前記荷電粒子ビームの照射量を変更した場合は、その変更後の照射量に応じて、前記荷電粒子ビームの光軸に関するパラメータを再調整する
ことを特徴とする請求項1
から3のいずれか1項記載の荷電粒子線装置。
【請求項18】
前記荷電粒子線装置は、前記荷電粒子ビームの開き角を調整する光学素子を備え、
前記演算部は、前記荷電粒子ビームの照射量を変更した場合は、その変更後の照射量に応じて、前記荷電粒子ビームのぼけを抑制するように、前記光学素子によって前記開き角を再調整する
ことを特徴とする請求項1
から3のいずれか1項記載の荷電粒子線装置。
【請求項19】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記試料の特性と前記観察画像の特徴量と前記照射条件との間の第3関係を記述した基準データを格納する記憶部を備え、
前記演算部は、前記第1関係を用いて前記基準データを参照することにより、前記試料の特性を推定する
ことを特徴とする請求項1
から3のいずれか1項記載の荷電粒子線装置。
【請求項20】
前記基準データは、前記試料の特性として、前記試料の材料を記述しており、
前記演算部は、前記基準データを参照することにより、前記試料の材料を推定する
ことを特徴とする請求項1
9記載の荷電粒子線装置。
【請求項21】
前記基準データは、前記試料の特性として、前記試料の構造を表す形状パラメータを記述しており、
前記演算部は、前記基準データを参照することにより、前記試料の構造を推定する
ことを特徴とする請求項1
9記載の荷電粒子線装置。
【請求項22】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記基準データを機械学習によって学習する学習器を備え、
前記演算部は、前記照射条件と前記特徴量を前記学習器に対して投入することにより、前記試料の特性を前記学習器からの出力として取得する
ことを特徴とする請求項1
9記載の荷電粒子線装置。
【請求項23】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記試料の構造、前記試料の材料、前記照射条件、および前記特徴量の間の第4関係を記述したデータを格納する記憶部を備え、
前記演算部は、前記試料の構造、前記試料の材料、および前記照射条件を用いて前記第4関係を参照することにより、前記特徴量を推定する
ことを特徴とする請求項
4記載の荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体パターンの微細化および高集積化に伴って、僅かな形状差がデバイスの動作特性に対して影響を及ぼすようになり、形状管理のニーズが高まっている。これに起因して、半導体の検査・計測のために用いられる走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、高感度・高精度が従来に増して求められるようになっている。走査電子顕微鏡は、試料から放出された電子を検出する装置であり、このような電子を検出することによって信号波形を生成し、例えばピーク(パターンエッジ)間の寸法を測定する装置である。
【0003】
近年、10nm以下の微細なパターンをウェハ上に形成する技術として、EUV(Extreme UltraViolet)リソグラフィの導入が進められている。EUVリソグラフィにおいては、ストキャスティック欠陥と呼ばれるランダムに発生する欠陥が課題となることが判明している。これにより、ウェハ全面での検査ニーズが高まっており、検査装置にはより高いスループットが要求されている。
【0004】
検査効率(スループット)を上げるためには、大電流による低倍率撮像で、広範囲な領域を一度に検査することが考えられる。一方、試料が帯電する材質である場合には、低倍率観察では帯電の影響はより顕著に現れ、画像歪みやシェーディング(輝度ムラ)、コントラスト異常など、検査精度を低下させる様々な現象が発生する。したがって、レジスト等の帯電する材質で形成されるパターンに対して、低倍率撮像を適用するためには、帯電現象の制御が必要となる。
【0005】
試料の帯電は、入射する荷電粒子(例えば、1次電子)と、試料から放出される荷電粒子(例えば、2次電子や後方散乱電子)との間のバランスによって決定される。荷電粒子が電子である場合、2次電子の放出率(2次電子イールド)は、入射電子のエネルギーに依存する。したがって、試料に照射する1次電子のエネルギーを調整することにより、試料に形成される帯電を抑制することが可能である。
【0006】
特許文献1は、試料の帯電を制御する方法として、入射電子のエネルギー制御を記載している。特許文献2は、SEM画像の特徴量として像の歪みを算出し、歪み量が許容値を超えた際には、ライブラリから現象の要因を推定し、結果を表示する方法について開示している。特許文献3は、帯電前に1次元に走査した信号波形と、帯電が顕現化する2次元での走査によって得られた信号波形とを比較し、歪みが生じた画像を補正する方法について、開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-310963号公報
【文献】特開2012-053989号公報
【文献】特開2019-067545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されているように、試料に照射される1次電子のエネルギーを変更することによって2次電子の放出率をコントロールし、試料の帯電を制御することが可能である。一方で、パターン(材質、形状)ごとに加速条件を切り替えるためには、加速に応じた光学条件の設定や調整等が必要となる。したがって特許文献1記載の技術は、複数のパターンが存在するウェハへ適用した際に、高スループットを実現する効果は限定的である。
【0009】
特許文献2と3は、帯電の結果として現れる像歪みを評価し、画像の補正などの後処理においてその像歪みを活用する方法を記載している。しかしこれら文献は、試料の帯電状態を所望状態に制御するために必要な1次電子の照射条件については記載がない。
【0010】
このように従来の荷電粒子線装置においては、加速電圧を調整することなく、試料が所望の帯電状態となる(あるいは観察像の特徴量を好適に取得することができる)ような1次電子の照射条件を特定することについては、十分に考慮されていない。
【0011】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、加速以外の光学条件の変更、もしくは光学条件を調整することで、所望の帯電状態を得ることができる1次荷電粒子の照射条件を特定することができる荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る荷電粒子線装置は、試料の帯電状態が正帯電と負帯電との間で入れ替わる荷電粒子ビームの照射条件を特定し、前記特定した照射条件と、試料の観察画像を取得したときにおける前記照射条件との間の関係にしたがって、前記照射条件を調整する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る荷電粒子線装置によれば、加速電圧を調整することなく、所望の帯電状態を得ることができる1次荷電粒子の照射条件を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1に係る走査型電子顕微鏡100の概略図を示す。
【
図2】1次電子ビームの照射電流量を変更しながら試料表面(パターンなし)を走査した際に形成される試料上の帯電分布(解析結果)を示す。
【
図3】照射電流量と視野内の平均電位との間の関係を示す。
【
図4】電流密度と視野内の平均電位との間の関係を示す。
【
図5】電流密度と視野内の平均電位との間の関係を試料の材料特性ごとに示す。
【
図6】電流密度と平均電位との間の関係を、試料上に設定する電界(試料から放出された2次電子を引き上げる電界)条件ごとに示したものである。
【
図7】試料の帯電状態と偏向作用について説明する図である。
【
図8】各帯電状態において試料上の位置ごとにパターン寸法比を評価した結果の例を示す。
【
図9】Holeパターンを観察した場合の倍率変化の1例を示す。
【
図10】演算部110が1次電子ビームの照射条件(観察条件)を決定する手順を説明するフローチャートである。
【
図11】AIを用いて1次電子ビームの照射条件(観察条件)を決定する手順を説明するフローチャートである。
【
図14】ユーザが走査型電子顕微鏡100の動作条件を設定するためのユーザインターフェース画面の1例を示す。
【
図15】演算部110が材料特性を推定する手順を説明するフローチャートである。
【
図16】実施形態2におけるユーザインターフェース画面の1例を示す。
【
図17】膜厚の異なる3つの材料A~Cそれぞれの基準データの1例である。
【
図18】演算部110が膜厚を推定する手順を説明するフローチャートである。
【
図19】実施形態3におけるユーザインターフェース画面の1例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る走査型電子顕微鏡100(SEM100、荷電粒子線装置)の概略図を示す。電子銃1によって発生した電子線2(1次電子ビーム)をコンデンサレンズ3によって収束させ、対物レンズ5によって試料6上に収束させる。この際、1次電子の開き角を、コンデンサレンズ(開き角調整レンズ)8によって調整することができる。偏向器4(走査偏向器)は電子線2を試料の電子線走査領域の上を走査させる。1次電子を2次元的に走査して照射することによって試料内で励起され、試料から放出される信号電子を検出器9および検出器13が検出し、演算部110がその検出信号を画像に変換することにより、試料の観察画像を取得する。試料から放出された信号電子は、信号電子偏向器7を通じて、信号電子絞り10を通過する電子と衝突する電子に分けられる。信号電子絞り10に衝突した電子は、3次電子を発生させ、その3次電子は検出器9によって検出される。信号電子絞り10を通過した電子は、信号電子偏向器11を通じて検出器13に向けて偏向される。検出器13の前段には、エネルギーによる信号電子の弁別が可能なエネルギーフィルタ12が備えられており、フィルタを通過した電子を検出器13が検出する。エネルギーフィルタ12に印加する電圧を変更した際の信号量の変化から、試料の帯電状態を推定することが可能である。
【0016】
SEM100は、演算部110と記憶部120を備える。演算部110は、走査型電子顕微鏡100が備える各光学素子の制御、エネルギーフィルタ12に対して印加する電圧の制御、などを実施する。試料6を載置するための試料ステージには図示しない負電圧印加電源が接続されており、演算部110は当該負電圧印加電源を制御することによって、1次電子ビームが試料6へ到達するときのエネルギーをコントロールする。これに限られることはなく、1次電子ビームを加速するための加速電極と電子銃1との間に接続される加速電源を制御することによって、1次電子ビームが試料へ到達するときのエネルギーをコントロールするようにしてもよい。
【0017】
演算部110はその他、各検出器が検出した2次荷電粒子の検出信号を用いて、試料の観察画像を作成する。記憶部120は、演算部110が用いるデータを記憶する記憶デバイスである。例えば後述の
図3~
図6で説明する関係を記述したデータテーブル、学習器が生成した推論モデル112、実施形態2で説明する基準データ、などを格納することができる。
【0018】
SEM100は、画素ごとに検出信号を記憶する画像メモリを備えており、検出信号は当該画像メモリに記憶される。演算部110は、画像メモリに記憶された画像データに基づいて、画像内の指定された領域の信号波形を演算する。画像の歪み量(帯電推定パラメータ)から視野内の帯電状態を推定し、さらに帯電状態の制御のために、得られた推定状態から照射電流密度を変更する。ユーザが指定した閾値内に帯電推定パラメータが収まれば、このときの電流密度条件をパターン(材質、形状)と紐づけて記憶する。一度、条件を決めておけば、月の場所の同等のパターンを観察する際には、決定した条件を読み出して、パターンごとに電流密度条件を設定できる。
【0019】
図2は、1次電子ビームの照射電流量を変更しながら試料表面(パターンなし)を走査した際に形成される試料上の帯電分布(解析結果)を示す。それぞれ、SiO2平坦表面に対して、加速1keV、電流10pA~1nAで10μm×10μmの領域を2次元走査した結果である。照射電流量が低い条件において試料は正帯電するが、照射電流量の増加とともに帯電が負に反転していることがわかる。
【0020】
図3は、照射電流量と視野内の平均電位との間の関係を示す。1次電子ビームの照射電流量の増加とともに、視野内の平均電位は、正から負に反転し、視野内の平均電位(帯電量)が0となる照射電流量が存在することがわかる。照射電流量の増加に伴って、視野内の平均電位が反転する理由としては、電子線照射によって局所的に形成される帯電の強弱により、試料から放出された2次電子が再び試料に付着する割合が変化するためと考えられる。照射電流量が増えることにより、局所的な正帯電が強くなり、試料表面から放出された2次電子は試料に対して過剰に戻るようになる。これにより、入射した1次電子と放出された2次電子(試料に戻る2次電子を除く)との間のバランスが崩れ、負帯電が進行する。
【0021】
図4は、電流密度と視野内の平均電位との間の関係を示す。試料の帯電状態が正負反転する現象は、局所的に形成される帯電の影響で生じるものである。したがって
図3の横軸は、時間・面積当たりの1次電子ビームの電流照射量、すなわち照射電流密度によって表現することもできる。したがって
図3は
図4のような関係として記述することもできる。電流密度を決定する装置パラメータとして、照射電流量の他に、電子線の走査速度や観察倍率が考えられる。走査速度は、上記の時間に影響するパラメータであり、観察倍率は面積に影響するパラメータである。以上から、照射電流、走査速度、観察倍率(観察領域)のいずれかを変更することにより、視野内の平均電位が0となる条件を設定できる。
【0022】
図5は、電流密度と視野内の平均電位との間の関係を試料の材料特性ごとに示す。ここでは試料の材料特性として比誘電率を用いたが、同様の関係が得られるのであればその他の材料特性を用いてもよい。試料の帯電状態が正負反転する現象は、観察する材料によっても変化する。比誘電率が低いほど、同じ電荷を与えた際の、表面の帯電電位は高くなる。したがって、観察対象の比誘電率が低いほど、同じ電流密度を与えた際に試料に戻る2次電子数が増加し、視野内の平均帯電が正から負に反転する電流密度は低下する。このように、試料の材料によって、帯電の影響が最小となる電流密度条件は変化するので、観察パターン(試料の材質や構造)によって、電流密度条件を変更する必要がある。
【0023】
図6は、電流密度と平均電位との間の関係を、試料上に設定する電界(試料から放出された2次電子を引き上げる電界)条件ごとに示したものである。試料の帯電状態が正負反転する現象は、2次電子の試料表面への戻り量を変えることによっても制御できる。2次電子をより引き上げる強電界条件においては、戻り数が減るので、視野内の平均電位が0を跨ぐ条件(ゼロクロス点)は高電流密度側にシフトする。反対に、戻り電子数を増やす(電界を弱める)条件においては、ゼロクロス点は低電流密度側にシフトする。
【0024】
演算部110は、
図3~
図6に示す関係をあらかじめデータテーブルなどの形式で記憶部120内に保持しておくことにより、これを用いて試料の帯電状態を制御することもできる。例えば試料の帯電状態が0となる照射条件(ゼロクロス点)をデータテーブルから読み取り、これにしたがって試料の帯電状態を0に制御することができる。その他の任意の正負帯電状態となるような照射条件も同様にデータテーブルから取得できる。
【0025】
図7は、試料の帯電状態と偏向作用について説明する図である。
図7に示すように、視野内に形成される帯電によって1次電子は偏向作用を受ける。正帯電であれば、視野の内側に、負帯電であれば、外側に偏向される。この際、視野の中央と端においては視野内の帯電によって偏向される量が互いに異なり、視野の端に近い箇所ほど偏向の影響が大きくなる。すなわち、1次電子の偏向によって視野内で一様でない倍率変化が生じる。視野が正帯電すると、特に偏向量の大きい視野の端で倍率は増加する。倍率変化はパターンごとに異なるパラメータとして現れる。L&S(Line&Space)パターンを観察した場合には、視野中央でのパターン寸法と視野端でのパターン寸法を比較すると、より倍率の高い視野の端でのパターン寸法が大きくなる。負帯電の場合には、視野端での倍率は低下するので、パターン寸法としては視野中央よりも小さくなる。
【0026】
図8は、各帯電状態において試料上の位置ごとにパターン寸法比を評価した結果の例を示す。試料が正負いずれに帯電しているかによって、視野中央に対するパターン寸法の変化傾向は反転する。このようにして視野内に含まれるパターン寸法の分布から帯電状態を推定することができる。さらに、パターン寸法の変化が
図8左図のように下向きに突出した照射条件と
図8右図のように上向きに突出した照射条件との間の境界を探索することにより、帯電状態が0となる照射条件を特定することができる。ここでは、視野中央パターンに対する寸法比を示したが、寸法差や寸法の絶対値で評価しても同じ傾向が現れる。以下の説明においても同様である。
【0027】
図9は、Holeパターンを観察した場合の倍率変化の1例を示す。破線の設計値に対して、実線の画像から読み取ったホールのエッジ部分(コンター)がずれていることが分かる。この場合はホールの重心位置ずれ量から帯電状態を推定することが可能である。
【0028】
図10は、演算部110が1次電子ビームの照射条件(観察条件)を決定する手順を説明するフローチャートである。ここでは、X方向に分布するL&Sパターンが試料上に形成されていることを想定する。以下
図10の各ステップを説明する。
【0029】
(
図10:ステップS1010~S1020)
演算部110は、ある任意の観察条件において観察対象パターンの観察画像(SEM画像)を取得する(S1010)。演算部110は、取得した画像のパターン寸法を導出する(S1020)。演算部110は、S1010における観察条件とS1020において取得したパターン寸法を紐づけた状態で記憶しておく。パターン寸法は、観察画像の特徴量の1つとして取り扱うこともできる。
【0030】
(
図10:ステップS1030)
演算部110は、視野の中心におけるパターン寸法と視野の端におけるパターン寸法を比較する。中心における寸法と端部における寸法との間のばらつきが閾値以内に収まっていればS1050に進む。寸法ばらつきが閾値以内に収まっていなければS1040へ進む。視野中心と視野端部との間の寸法ばらつきが0であれば、帯電状態は0であると推定される。このとき、観察画像に対する試料帯電の影響が最小となる。
【0031】
(
図10:ステップS1030:補足)
本フローチャートにおいては、縦方向のLine&Spaceパターンを想定しているので、本ステップはX方向の寸法変化を評価する。視野内に含まれるパターンの形状に応じて評価する方向は任意に指定可能である。
【0032】
(
図10:ステップS1040)
演算部110は、観察条件として、1次電子ビームの照射電流、走査速度、観察倍率、試料上電界のうちいずれか1以上を変更する。観察条件を変更した後、S1010に戻って同様の処理を繰り返す。
【0033】
(
図10:ステップS1040:補足)
観察条件を変更する具体的方法としては例えば以下が考えられる:(a)パラメータを少しずつ変化させていきパターン寸法が視野中心と視野端部で一致する電流密度を見つける;(b)最初はパラメータを大きく変化させて
図3や
図4に示したような平均電位の変化の概形を予想しておき、正負が反転すると予想される付近の電流値を詳細に調べてゼロクロス点を特定する。
【0034】
(
図10:ステップS1050)
演算部110は、現在の観察条件を採用する。
【0035】
図11は、AIを用いて1次電子ビームの照射条件(観察条件)を決定する手順を説明するフローチャートである。学習器はあらかじめ、照射条件と観察画像の特徴量との間の関係を機械学習によって学習済であるものとする。以下
図11の各ステップについて説明する。
【0036】
(
図11:ステップS1110~S1130)
演算部110は、ある観察条件において観察対象パターンの観察画像を取得する(S1110)。演算部110は、取得した画像のパターン寸法を導出する(S1120)。演算部110は、画像データを観察条件と寸法ばらつきによってラベリングしてデータセットとして記憶する(S1130)。
【0037】
(
図11:ステップS1140)
演算部110は、視野の中心におけるパターン寸法と視野の端におけるパターン寸法を比較する。中心における寸法と端部における寸法との間のばらつきが閾値以内に収まっていればS1150に進む。寸法ばらつきが閾値以内に収まっていなければS1170へ進む。
【0038】
(
図11:ステップS1150~S1160)
演算部110は、現在の観察条件を採用する(S1150)。演算部110は、観察条件画像データと紐づけて学習器に追加学習させる(S1160)。
【0039】
(
図11:ステップS1170~S1180)
演算部110は、学習器に対して観察画像を投入することにより、その観察画像に適した観察条件を、学習器の出力として取得する(S1170)。これは学習器が適切な観察条件を提案することに相当する。演算部110は、学習器から取得した観察条件にしたがって、光学系の調整などを実施し(S1180)、S1110に戻る。
【0040】
図12は、学習器の構成を示す図である。学習器は、演算部110が備える機能部として構成することができる。学習器は、学習部111、推論モデル112、推論部113によって構成されている。
【0041】
学習工程において、学習部111は、学習用情報とラベル情報のペアを学習データとして学習することにより、これらの間の対応関係を学習する。学習用情報は、観察画像の特徴量(L&Sパターンであれば寸法ばらつきなど、Holeパターンであれば重心位置ずれなど)である。ラベル情報は、観察条件を表すパラメータ(試料の形状、材料、照射電流量など)である。学習部111が機械学習を実施した結果は、推論モデル112として出力される。
【0042】
学習方法と推論モデル112の1例を説明する。ある観察条件でL&Sパターンを観察した際に、視野中心におけるパターン寸法に対する視野端部におけるパターン寸法の差を取得し、取得した寸法差(学習用情報)を試料の形状・材質・照射電流量(ラベル情報)とペアにして教師データを生成する。これらの教師データから、特定のウェハ(特定の材質・形状)における照射電流量と寸法差との間の関係の推論モデル112を構築する。同様の手順により、複数のウェハ(複数の材質・形状)における推論モデル112をそれぞれ構築する。
【0043】
推論工程において、推論部113は、対象データ(観察画像の歪み量、試料の材質、試料の形状)を推論モデル112に対して投入することにより、観察画像に対応する観察条件(この例においては1次電子ビームの照射電流量)を取得する。この観察条件は、観察画像の歪み量を閾値以内に収めることができるものである。取得した照射電流量を用いて実際に観察画像を取得し、その歪み量が閾値以内に収まっていなければ、学習が十分に進んでいないことになる。この場合はそのデータセットを教師データとして追加学習を実施する。歪み量が閾値以内に収まるまで学習を繰り返す。試料の材質・形状が分からなかったとしても、歪み量のみを推論モデル112に対して投入することにより、その歪み量に対してある程度の相関を有する観察条件を取得することもできる。
【0044】
図13は、本発明の運用条件を説明する図である。
図13に示すように計測対象であるウェハ上には複数のパターンが混在する。観察の度に、
図11または
図12のフローチャートを実施することも可能であるが、観察対象の場所で条件探索を実施することにより、ガス等がパターンに付着するコンタミネーションの影響が現れるので、観察とは別の同一パターンを用いて観察条件を求めておくことが望ましい。そこで演算部110は、材質や形状が異なるパターンごとに
図11または
図12のフローチャートをあらかじめ実施し、最適な観察条件を事前に求め、その結果を記述したデータを記憶部120へ格納する。観察時には、求めた最適条件を観察対象に応じて設定し直す。この際、ウェハの位置情報とパターン情報(どの座標にどのパターンが存在するか)、観察条件を対応させておくことにより、観察するウェハ座標に応じて、光学条件を切り替えることが可能である。光学条件の変更を最小にするために、同じパターンをまとめて計測するなどのような画像取得順序をレシピへ反映することも可能である。
【0045】
1次電子ビームの照射電流量を変更した際には、光軸状態を変更することが必要であるので、あらかじめ設定した光軸条件を読み込んだ後に、撮像前に最終的な光軸調整を観察パターンとは別のテストパターンで実施する。照射電流条件を大きく変更した際には、ビームのぼけを抑制するために、1次電子ビームの開き角をコンデンサレンズ(開き角調整レンズ)8によって調整することも可能である。
【0046】
図14は、ユーザが走査型電子顕微鏡100の動作条件を設定するためのユーザインターフェース画面の1例を示す。このインターフェースは、演算部110がディスプレイなどの表示装置を介してユーザに対して提示するものである。
【0047】
画像表示部1410の指定は、あらかじめ取得した画像(あるいはレイアウトデータ)上で実施する。視野に含まれるパターン情報に対して、信号波形取得箇所(1420、1430)を操作者が任意に指定可能である。画像上の任意の2次元領域をマウス等で指定することによって設定する。観察するPattern type、加速電圧Vaccなどのパラメータを入力パラメータ設定部1440で設定し、探索したい条件である照射電流量Ip、Magnification、Scan speed、Vpのうち1つ以上の条件探索範囲を探索パラメータ設定部1450で設定して適用ボタン1460を押す。
図14はScan speedを掃引パラメータとした場合の出力結果の1例を示す。演算部110は、ユーザが指定したパラメータを指定した範囲内で掃引し、画像の領域Aに対する領域Bのパターン寸法差を波形表示部1470に表示させる。さらに掃引したパラメータに対する寸法差のグラフを掃引結果表示部1480に出力させ、最も寸法差の絶対値が小さいところのSoを最適な条件として設定し、最適パラメータ表示部1490に出力させる。最適パラメータは設計データと紐づけて記憶させる。次回同じ材質・形状の試料観察の際にはこの条件を呼び出して使用することが可能である。
【0048】
<実施の形態2>
実施形態1においては、観察画像の特徴量を用いて、好適な観察条件を推定する構成例を説明した。本発明の実施形態2では、画像特徴量(例えばパターン寸法)から試料の材料特性を推定する構成例について説明する。
【0049】
図5において説明したように、帯電が最小になるような観察パラメータは観察する材料によって変化する。
図5に示した材料特性(ここでは、比誘電率)を変えた際における、電流密度に対する視野内の平均電位の変化があらかじめ分かっていれば、画像を観察してその寸法ばらつきから材料特性を推定することが可能である。
【0050】
例えば、視野中心のパターン寸法と視野端部のパターン寸法との間の差分が0となるときの観察条件は、
図5におけるゼロクロス点に対応しているので、そのときの電流密度に対応する材料を
図5のデータテーブルから取得できる。寸法差が0である(帯電が0である)ときに代えて、(a)寸法差が最大になるときの観察条件を用いて材料を推定する、(b)観察条件の変化に対する寸法差の変化量(傾き)を用いて材料を推定する、などが考えられる。さらに観察条件の変化に対する寸法変化が把握できている場合には、
図5のような基礎データに対して1点だけデータがとれれば、そのデータ点が
図5におけるどの曲線に合致するかがわかるので、1枚の画像データから材料特性を推定することが可能である。
【0051】
図15は、演算部110が材料特性を推定する手順を説明するフローチャートである。ここではパターン寸法差がゼロ(またはゼロ近傍の閾値範囲内)となるときの観察条件を用いて材料を推定する例を説明する。
図10と同じステップについては同じステップ番号を付して説明を省略する。ここでは
図10と同様にX方向に分布するL&Sパターンを想定する。
【0052】
観察画像の特徴量から試料の材料特性を推定するためには、基準データをあらかじめ取得しておく必要がある。基準データとは、観察条件(照射電流量、走査速度、観察倍率)とパターン寸法と材料特性との間の関係を記録したデータセットのことである。基準データは例えばS1130において学習器に学習させる学習データから取得することができる。学習データは学習器における正解データとして用いるものであるので、これらの関係を適切に表しているからである。本フローチャートにおいても演算部110は基準データをあらかじめ取得済であることを前提とする。
【0053】
(
図15:ステップS1510~S1520)
演算部110は、観察画像から取得したパターン寸法を基準データと比較することにより、基準データ内のいずれのデータ系列が観察画像と合致しているかを特定する(S1510)。演算部110は、基準データ内における観察画像と合致するデータ系列に基づき試料の材料を決定する(S1520)。具体的には、視野中心のパターン寸法と視野端部のパターン寸法との間の差分が0となる観察条件をS1030において特定しているので、基準データのうちゼロクロス点がそのときの観察条件と合致するものを探索すればよい。
【0054】
(
図15:ステップS1530)
演算部110は、基準データが記述している観察条件のなかから、現在の観察条件とは異なるものを取得する。S1010に戻り、その観察条件を用いて改めて観察画像を取得する。観察条件を変更する方法はS1040と同様である。
【0055】
本実施形態において学習器を用いて試料特性を推定する場合の動作例について補足しておく。学習工程は実施形態1と同様である。推論工程において、推論部113は、観察画像の歪み量、試料の形状、および照射電流量を推論モデル112に対して投入することにより、試料の材質を取得する。
【0056】
図16は、本実施形態におけるユーザインターフェース画面の1例を示す。実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して説明を省略する。掃引結果表示部1610は、基準データ(観察条件とパターン寸法差との間の関係を示すデータ)を表示する。ユーザが指定した探索パラメータ範囲内でそれぞれ視野中心と視野端部との間のパターン寸法差を取得して掃引結果表示部1610の×印として表示する。基準データが記述している各材料特性のうち×印と最も合致するものが、試料の特性を表している。
図16においては2つ目の材料特性が×印と合致している。試料特性表示部1620は、その材料特性を表示する。
【0057】
基準データのなかで観察画像から取得した寸法差と合致する曲線を特定する際には、必ずしも基準データのゼロクロス点を用いなくともよい。例えば
図16に示す例において、少なくとも1つの×印に合致する材料特性を特定することができれば、ゼロクロス点を用いる必要はない。特定した材料特性は画像データと紐づけて記憶させる。
【0058】
<実施の形態3>
実施形態2では、観察画像の特徴量から試料の材料を推定する構成例を説明した。本発明の実施形態3では、試料の材料を推定することに代えて、観察画像の特徴量から試料の構造を推定する構成例を説明する。推定する構造の1例としては、試料を構成する層の膜厚が挙げられる。
【0059】
図17は、膜厚の異なる3つの材料A~Cそれぞれの基準データの1例である。層材料は例えばSiO2である。帯電が最小になるような観察パラメータは観察する材料の構造(膜厚)によっても変化する。SiO2の膜厚が薄いほど正帯電しづらく、したがって戻り電子も発生しにくいので、帯電が反転する電流値も高電流側にシフトすると予想される。このような材料構造(ここでは膜厚)を変えた際の、電流密度に対する視野内の平均電位の変化があらかじめ分かっていれば、観察画像における視野中心のパターン寸法と視野端部のパターン寸法との間の差分から膜厚を推定することが可能である。
【0060】
膜厚を推定する方法としては、実施形態2と同様に以下のものが挙げられる:(a)寸法差が0となるときの観察条件によって推定する;(b)寸法差が最大になるときの観察条件によって推定する;(c)観察条件の変化に対する寸法差の変化量(傾き)によって推定する;(d)観察条件の変化に対する寸法変化が把握できている場合において、1枚の画像データから膜厚を推定する。
【0061】
図18は、演算部110が膜厚を推定する手順を説明するフローチャートである。ここではパターン寸法差がゼロ(またはゼロ近傍の閾値範囲内)となるときの観察条件を用いて膜厚を推定する例を説明する。
図10と同じステップについては同じステップ番号を付して説明を省略する。ここでは
図10と同様にX方向に分布するL&Sパターンを想定する。基準データは取得済であることとする。
【0062】
S1810~S1830は、それぞれS1510~S1530と同様である。ただし本実施形態における基準データは、観察条件と膜厚との間の関係を記述しているので、S1820においては試料の膜厚を取得することになる。
【0063】
本実施形態において学習器を用いて膜厚を推定する場合の動作例について補足しておく。学習工程は実施形態1と同様である。推論工程において、推論部113は、観察画像の歪み量、試料の材質、および照射電流量を推論モデル112に対して投入することにより、試料の膜厚を取得する。
【0064】
図19は、本実施形態におけるユーザインターフェース画面の1例を示す。実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して説明を省略する。掃引結果表示部1910は、基準データ(観察条件とパターン寸法差との間の関係を示すデータ)を表示する。ユーザが指定した探索パラメータ範囲内でそれぞれ視野中心と視野端部との間のパターン寸法差を取得して掃引結果表示部1910の×印として表示する。基準データが記述している各膜厚のうち×印と最も合致するものが、試料の膜厚を表している。
図19においては2つ目の膜厚が×印と合致している。試料膜厚表示部1920は、その膜厚を表示する。基準データのゼロクロス点を必ずしも用いなくともよいのは実施形態2と同様である。
【0065】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0066】
以上の実施形態において、試料の材質、試料の形状、および観察条件(1次電子ビームの照射電流量)から、観察画像の歪み量を推定することもできる。例えば学習器の学習工程において異常の実施形態と同様に学習を実施する。推論工程において、推論部113は、試料の材質、試料の形状、および観察条件を推論モデル112対して投入することにより、観察画像の歪み量を取得できる。さらに、エネルギーフィルタ12による試料表面の電位測定結果に基づき、試料表面の帯電状態を推定することができるので、帯電状態を併せて学習してもよい。この場合は推論モデル112から、歪み量あるいは歪み量から予想される試料表面電位を得ることができる。
【0067】
以上の実施形態において、演算部110および演算部110が備える各機能部は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアを演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0068】
以上の実施形態においては、荷電粒子線装置の1例としてSEMを挙げたが、試料の観察画像を荷電粒子ビームによって取得するその他の荷電粒子線装置においても、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 電子銃
2 電子線
3 コンデンサレンズ
4 1次電子偏向器
5 対物レンズ
6 試料
7 信号電子偏向器
8 コンデンサレンズ(開き角調整レンズ)
9 検出器
10 信号電子絞り
11 信号電子偏向器
12 エネルギーフィルタ
13 検出器
100 走査型電子顕微鏡