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特許7503295速度軌道導出方法とそのプログラムおよび情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】速度軌道導出方法とそのプログラムおよび情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/165 20200101AFI20240613BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240613BHJP
   G05D 1/49 20240101ALI20240613BHJP
【FI】
B60W30/165
G08G1/16 E
G05D1/49
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020096021
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187352
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博志
(72)【発明者】
【氏名】服部 充浩
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203706(JP,A)
【文献】特開2020-15492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
G05D 1/00- 1/12
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置が、移動体を自動運転制御して他の先行移動体に追従させるクルーズコントロールを実施する際の速度軌道を導出する方法であって、
前記情報処理装置が、
前記クルーズコントロールを実施する際の評価基準となる評価関数を設定し、
開始点における、前記移動体と前記先行移動体との距離である第1距離及び前記移動体の速度である第1速度を設定し、
終端条件における、前記移動体と前記先行移動体との距離である第2距離及び前記先行移動体の速度である第2速度を設定し、
移動体と先行移動体との距離及び移動体の速度からなる二次元平面において、前記評価関数を最適化させるように、前記第1距離及び前記第1速度から、前記第2距離及び前記第2速度に至るまでの距離及び速度の遷移を算出し、
算出した前記距離及び速度の遷移に基づいて、前記移動体の速度軌道を導出する、速度軌道導出方法。
【請求項2】
前記算出は、前記二次元平面上で、前記第2距離及び前記第2速度を終端条件とする動的線形計画法により行われる、請求項1に記載の速度軌道導出方法。
【請求項3】
前記算出は、前記評価関数と前記終端条件とに基づいて、前記二次元平面上の任意の点で予め算出された、前記移動体と前記先行移動体の距離の変移及び前記移動体の速度の変移を示すテーブルを参照することにより行われる、請求項1または2に記載の速度軌道導出方法。
【請求項4】
前記二次元平面を四分割し、分割された各セグメントについて動的計画法による計算を行う、請求項2または3に記載の速度軌道導出方法。
【請求項5】
前記終端条件を基準として前記二次元平面を四分割する、請求項4に記載の速度軌道導出方法。
【請求項6】
前記評価関数として、前記移動体の消費エネルギーを設定する、請求項1から5のいずれか一項に記載の速度軌道導出方法。
【請求項7】
移動体を自動運転制御して他の先行移動体に追従させるクルーズコントロールを実施する際、コンピューターに速度軌道を導出させるプログラムであって、
前記コンピューターを、
前記クルーズコントロールを実施する際の評価基準となる評価関数を設定する手段、
開始点における、前記移動体と前記先行移動体との距離である第1距離及び前記移動体の速度である第1速度を設定する手段、
終端条件における、前記移動体と前記先行移動体との距離である第2距離及び前記先行移動体の速度である第2速度を設定する手段、
移動体と先行移動体との距離及び移動体の速度からなる二次元平面において、前記評価関数を最適化させるように、前記第1距離及び前記第1速度から、前記第2距離及び前記第2速度に至るまでの距離及び速度の遷移を算出する手段、及び
算出した前記距離及び速度の遷移に基づいて、前記移動体の速度軌道を導出する手段、
として機能させるプログラム。
【請求項8】
移動体を自動運転制御して他の先行移動体に追従させるクルーズコントロールを実施する際の速度軌道を導出する情報処理装置であって、
前記クルーズコントロールを実施する際の評価基準となる評価関数を設定する手段と、
開始点における、前記移動体と前記先行移動体との距離である第1距離及び前記移動体の速度である第1速度を設定する手段と、
終端条件における、前記移動体と前記先行移動体との距離である第2距離及び前記先行移動体の速度である第2速度を設定する手段と、
移動体と先行移動体との距離及び移動体の速度からなる二次元平面において、前記評価関数を最適化させるように、前記第1距離及び前記第1速度から、前記第2距離及び前記第2速度に至るまでの距離及び速度の遷移を算出する手段と、
算出した前記距離及び速度の遷移に基づいて、前記移動体の速度軌道を導出する手段と、
を備える情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速度軌道導出方法とそのプログラムおよび情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転は、一般的には「認知」→「判断」→「操作」の各段階を順に経て行われる。「認知」段階では、各種センサーを用いて道路環境、自車の位置、自車の状態などを把握し、「判断」段階では、把握した各情報に基づき、自車の走行経路、速度軌道を計算して決定し、「操作」段階で、タイヤトルク、ステア角を決定する。
【0003】
このような自動運転のうち、車両を前車(Preceding Vehicle)に追従させながら自動で走行させるクルーズコントロールを実施ないし実現するにあたっては(図1参照)、従来、できるだけ初期状態(Initial Condition)から前車と同じ速度、適切な車間距離を保ちながら走行することを目指し、種々の情報に基づき最適な速度軌道を計算することが試みられている(例えば非特許文献1等参照)。
【0004】
このようなクルーズコントロールを行う際の計算の基本アルゴリズムの一例は以下のようなものである。すなわち、前車の速度と車間距離から走行経路、速度軌道を計算する際には、ある評価関数に基づく動的計画法を用いて前車に追従するための速度軌道を導出し、当該速度軌道どおりになるよう制御を行う、というものである。
【0005】
評価関数としては種々のパラメーターに基づく関数を設定することができ、例えば、前車と同じ速度とし、適切な車間距離を保つためのクルーズコントロールを行う際の自車の消費エネルギーを評価関数として設定した場合であれば当該消費エネルギーを最小にする速度軌道に最適化するための計算が所定の数式により示される条件に基づいて行われる。
【0006】
さて、従来、動的計画法により所定の評価関数を最適化するための計算をする場合、位置と速度に加え、絶対的な時系列として時間軸を追加した三次元の動的計画法が利用されることがある。そして、ある終端条件を設定し、この終端条件から時間軸に対して逆算して、評価関数を最適にする条件を求めていくことが行われる(図3参照)。例えば、評価関数が自車の「消費エネルギー」であるならば、該「消費エネルギー」を最小化するように遷移する最適結果が計算で求められる(図2(A)、(B)参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】"Energy-optimal adaptive cruise control combining model predictive control and dynamic programming", Control Engineering Practice Volume 72, March 2018, Pages 125-137, Andreas Weismann, Daniel Gorges, Xiaohai Lin, https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0967066117302691
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、三次元の動的計画法を用いる従来の手法では計算に時間を要しがちである。すなわち、時間軸に対して逆算をおこなっていく過程で、前車との相対距離、車間距離といた、前車の動きによって無数に生じるパターンに応じてあらゆる時間(例えば本例の場合であれば前車との車間距離が所与の距離となるまでの時間)ごとに計算をするとすれば、場合によっては数時間単位の計算を何度も行う必要が生じかねない。また、三次元の動的計画法を用いる従来の手法では、計算結果として得られるデータの量が大きくなってしまうという問題もある。
【0009】
そこで、本発明は、動的計画法により移動体の最適な速度軌道を導出する際の計算量と計算の結果得られるデータの量を極力削減することを可能とする速度軌道導出方法とそのプログラムおよび情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、移動体を自動運転制御して他の先行移動体に追従させるクルーズコントロールを実施する際の速度軌道を導出する方法であって、
クルーズコントロールを実施する際の評価基準となる評価関数を設定し、
開始点における、移動体と先行移動体との距離である第1距離及び移動体の速度である第1速度を設定し、
終端条件における、移動体と先行移動体との距離である第2距離及び先行移動体の速度である第2速度を設定し、
移動体と先行移動体との距離及び移動体の速度からなる二次元平面において、評価関数を最適化させるように、第1距離及び第1速度から、第2距離及び第2速度に至るまでの距離及び速度の遷移を算出し、
算出した距離及び速度の遷移に基づいて、移動体の速度軌道を導出する、速度軌道導出方法である。
【0011】
本発明の別の一態様は、移動体を自動運転制御して他の先行移動体に追従させるクルーズコントロールを実施する際、コンピューターに速度軌道を導出させるプログラムであって、
コンピューターを、
クルーズコントロールを実施する際の評価基準となる評価関数を設定する手段、
開始点における、移動体と先行移動体との距離である第1距離及び移動体の速度である第1速度を設定する手段、
終端条件における、移動体と先行移動体との距離である第2距離及び先行移動体の速度である第2速度を設定する手段、
移動体と先行移動体との距離及び移動体の速度からなる二次元平面において、評価関数を最適化させるように、第1距離及び第1速度から、第2距離及び第2速度に至るまでの距離及び速度の遷移を算出する手段、
算出した距離及び速度の遷移に基づいて、移動体の速度軌道を導出する手段、
として機能させるプログラムである。
【0012】
本発明のさらに別の一態様は、移動体を自動運転制御して他の先行移動体に追従させるクルーズコントロールを実施する際の速度軌道を導出する情報処理装置であって、
クルーズコントロールを実施する際の評価基準となる評価関数を設定する手段と、
開始点における、移動体と先行移動体との距離である第1距離及び移動体の速度である第1速度を設定する手段と、
終端条件における、移動体と先行移動体との距離である第2距離及び先行移動体の速度である第2速度を設定する手段と、
移動体と先行移動体との距離及び移動体の速度からなる二次元平面において、評価関数を最適化させるように、第1距離及び第1速度から、第2距離及び第2速度に至るまでの距離及び速度の遷移を算出する手段と、
算出した距離及び速度の遷移に基づいて、移動体の速度軌道を導出する手段と、
を備える情報処理装置である。
【0013】
三次元の動的計画法においては絶対的な時系列として時間軸を追加した三軸の座標系を用いていたのに対し、本願の上記態様においては、いわば時間軸を圧縮して二軸に特化した座標系を用い、その中で評価関数を最適化するための計算を行う。これは、別言すれば、時間軸上の変数つまりは時間(例えば、前車との車間距離が所与の距離となるまでの時間)ごとに計算をすることはせず、二軸上の変数のみに着目して評価関数を最適化するための計算をするということであり、こうすることにより、数時間単位にのぼるような計算を何度も行う必要がなく、計算に要する時間を極力削減することが可能となる。本態様の手法ないしプログラムあるいは情報処理装置は、時間軸上の変数ごとの計算結果は得られずとも、評価関数を最適化するための速度軌道の導出結果(のみ)を得たい状況下において極めて有用である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、動的計画法により移動体の最適な速度軌道を導出する際の計算量と計算の結果得られるデータの量を極力削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】クルーズコントロールの概念を簡単に説明する参考図である。
図2】動的計画法において、(A)ある終端条件から逆算する手順の概念、(B)評価関数を最小にする逆算の概念をそれぞれグラフにおいて示す参考図である。
図3】三次元の動的計画法について説明する参考図である。
図4】本発明の一実施形態における、二次元の動的計画法に適用する二次元平面において四分割された座標系を示す図である。
図5】四分割された各セグメントにおいて時系列に対して逆算を行うことについて説明する二次元平面を表す図である。
図6】四分割されたセグメント同士をシームレスに接続する概念について説明する二次元平面を表す図である。
図7】分割した動的計画法の計算により得られた最適化の結果の一例を表すテーブルである。
図8図7に示したテーブル中において得られる速度軌道について説明する図である。
図9】最適化の計算結果から導出される速度軌道にしたがってクルーズコントロールした場合の、(A)車間距離の経時変化、(B)自車速度の経時変化の例を示すグラフである。
図10】本発明に係る速度軌道導出方法により得られた結果に基づき速度制御をする車両(Pro)と、一定加速度の車両モデルとについて、(a)「速度」(Velocity)、(b)「車間距離」(Distance)、(c)「出力」(Power)、(d)「消費エネルギー」(Energy) の比較結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0017】
本発明に係る速度軌道導出方法の態様の一例は、クルーズコントロールを実施する際の評価基準となる評価関数を設定し、移動時における移動体と先行移動体との相対位置を把握するための情報を検出して当該移動体の状況を認知し、認知した状況を基に、あらかじめ設定された評価関数を最適化させる当該移動体の速度軌道を算出する際、二次元の動的計画法を適用し該動的計画法により評価関数を最適化するというものである。以下、上記のごとき態様の内容を一実施形態としてより具体的に説明する。以下に説明する実施形態においては、自車Xを自動運転制御して前車Yに追従させるクルーズコントロールを実施する際の速度軌道を導出する手法などについて説明する(図4等参照)。なお、本実施形態では、前車Yは一定の速度で走行するものと仮定する。
【0018】
自車Xは自動運転車両であり、先行する前車Yに追従して自動走行するクルーズコントロールの制御対象たる車両である。自車Xにおける自動運転の各動作段階の内容、制御時の基本アルゴリズムは従前におけるものと同様である(図1図2参照)。なお、自車Xに搭載される動力系、駆動系、操舵系、センシング系、制御系を構成する要素・部品は従前におけるものと特に変わるところがないため、本明細書・図面においては図示することや符号を付することを省略して説明する。
【0019】
自車Xの速度軌道を導出するにあたり、まずはクルーズコントロールを実施する際の評価基準となる評価関数を設定する。上述のとおり評価関数としては種々のパラメーターに基づく関数を設定することができる。本実施形態では、前車Yと同じ速度で追従し、適切な車間距離(相対距離)を保つ状態となるまでの自車Xの消費エネルギーを評価関数として設定する。この場合、当該消費エネルギーを最小にする速度軌道に最適化するための計算は数1さらには数2~数6の数式に示す各条件に基づいて行われる。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0020】
消費エネルギーを最小化させるための当該自車Xの速度軌道を算出するにあたっては、二次元の動的計画法を適用する。二次元の動的計画法において用いるのは二軸の座標系であり、本実施形態の場合であれば、「車間距離」(Relative Portion (Distance))を横軸、「自車の速度」(Absolute Velocity)を縦軸とする座標系である(図4参照)。以上の説明から明らかなように、この座標系に時間軸は含まれていない。なお、二次元の動的計画法により消費エネルギーを最小化する表を作成する工程は、事前に(例えば車両設計時に)計算して行ってもよい。具体的には、作られた表を車両に搭載し、走行中はその表を読みながら制御をしていくという流れとしてもよく、この場合、走行中は表から読み取られた最適な速度に追従する速度制御を行うことになる。以上が基本的な流れとして想定される手法ではあるが、場合によっては(車両設計者次第では、車両の計算能力が十分あれば)動的計画法の工程を走行中に行うことも可能である。
【0021】
本実施形態では、かかる二軸の座標系である二次元平面の中央に終端条件(end)を設定し、当該終端条件を基に座標系を四分割して動的計画法を適用する。終端条件としては、所与の目標速度(一例として、前車Yの速度54km/h)と目標車間距離(一例として、30m)を設定する。この場合、座標系は、(1)自車Xの相対速度が前車Yよりも速く(Faster)、車間距離が目標値よりも大きい(Longer)第一セグメント(第一象限に当たる領域)、(2)自車Xの相対速度が前車Yよりも遅く(Slower)、車間距離が目標値よりも大きい第二セグメント(第四象限に当たる領域)、(3)自車Xの相対速度が前車Yよりも遅く、車間距離が目標値よりも小さい(Shorter)第三セグメント(第三象限に当たる領域)、(4)自車Xの相対速度が前車Yよりも速く、車間距離が目標値よりも小さい第四セグメント(第二象限に当たる領域)の四つに分割される(図4参照)。なお、括弧付きの数字(1)~(4)は計算の順番に対応している。ここで、第一及び第四セグメントでは、自車Xの相対速度が前車Yよりも速いので、時間の経過に伴い、自車Xと前車Yの車間距離は小さくなる。他方、第二及び第三セグメントでは、自車Xの相対速度が前車Yよりも遅いので、時間の経過に伴い、自車Xと前車Yの車間距離は大きくなる。四分割された各セグメント中に示す矢印の向きは、時間の経過に伴って、自車Xと前車Yの車間距離が変化する方向を表す。
【0022】
続いて、分割した動的計画法の計算をする。ここでは、二次元平面の中で四分割された各セグメントにおいて、時系列に対して逆算(Back Calculation)を行う(図5参照)。上記のとおり、第一及び第四セグメントにおいては、時間の経過(Time Sequence)に伴って、自車Xと前車Yの車間距離は小さくなる(左方向に遷移する)ので、終端条件から右側に向けて逆算を行っていけばよい。他方、第二及び第三セグメントにおいては、時間の経過に伴って、自車Xと前車Yの車間距離は大きくなる(右方向に遷移する)ので、左側に向けて逆算を行っていけばよい。一例として、本実施形態では、第一セグメント→第二セグメント→第三セグメント→第四セグメントの順に、各セグメントにおいて動的計画法の計算を行う。
【0023】
かかる動的計画法の計算においては、セグメント同士をシームレスに接続する(別言すれば、セグメント間での遷移を可能にする(これは、セグメントを別々に計算しても、別のセグメントへの遷移が考慮できないため))ことを考慮する。本実施形態では、時系列のある時点の状態(例えば、二次元平面を表す図6中において第一セグメント内にグレーの縦長矩形枠で示す状態)への遷移を考えながら、消費エネルギーを最小化(min)させる評価関数に基づき、そこから時系列を一つ遡った時点の状態(例えば、図6中において第一セグメントに白抜きの正方形枠(□)で示す状態)を計算する(図6参照)。続いて、計算により得られた当該白抜きの正方形枠(□)を含む縦長矩形枠の各状態(不図示)から、さらに時系列を一つ遡った時点の状態を計算する。このようにして、時系列を順次遡りながら第一セグメント内で動的計算法の計算を行う(図6参照)。なお、計算により、消費エネルギーを最適化(最小化)するものとして得られた正方形枠(□)の状態は、おのおのが、自車Xと前車Yの距離の変位および自車Xの速度の変位に関する情報の最適化の結果を表すテーブル(図7参照)中のベクトル、より具体的には、次の時点における車間距離との差分と次の時点における自車速度との差分(を表すベクトル)に相当する。
【0024】
第一セグメント内での動的計算法の計算をした後は、続いて第二セグメント内において、時系列を遡りながら同様に動的計画法の計算を行う(図6参照)。なお、横軸の「車間距離」(Relative Portion (Distance))に関する情報(要素)が重複する部分については、第一セグメントで得られた計算結果(加速度に関する情報)を考慮に含めながら計算することで、計算量を削減することができる。別言すれば、第二セグメントの評価関数の値に加え、第一セグメントで得られた計算結果(評価関数の値)を用いることで、第二セグメントから第一セグメントへの遷移が考慮できるようになる。
【0025】
第二セグメント内での動的計算法の計算をした後は、続いて第三セグメント内において、時系列を遡りながら同様に動的計画法の計算を行う。そして、第三セグメント内での動的計算法の計算をした後は、続いて第四セグメント内において、時系列を遡りながら同様に動的計画法の計算を行う。なお、横軸の「車間距離」(Relative Portion (Distance))に関する情報(要素)が重複する部分については、第三セグメントで得られた計算結果(加速度(ここでは、より詳細には「減速」)に関する情報)を考慮に含めながら第四セグメントで計算することで、計算量を削減することができる。
【0026】
上記のように分割した各セグメントにおいて動的計画法の計算によって最適化をした結果は、「車間距離」(横軸)、「自車の速度」(縦軸)の各々に対応する、次の時点における車間距離との差分と次の時点における自車速度との差分が矢印(ベクトル)で示されたテーブルとして表され(図7参照)、このテーブルから、評価関数(本実施形態の場合、消費エネルギー)を最適化(最小化)する速度軌道を導出することができる。一例を示す。上述の終端条件の一例として示した値のごとく、前車Yの速度(第2速度)vpreが54km/hであって、これに追従する場合の目標車間距離(第2距離)dfinを30mとした場合(最終状態(Final Condition)、図1参照)、当該目標値(終端条件)をテーブル中にプロットする(図7中の〇印を参照)。ここで、現時点における自車Xの速度(クルーズコントロールの開始速度(第1速度))v0が30km/h、車間距離(第1距離)dが40mであるとすれば(初期状態(Initial Condition))、当該現時点の状況をテーブル中にプロットする(図8中の☆印を参照)。現時点の状態を示す☆印から目標の状態を示す〇印まで、消費エネルギーが最小となるように遷移するにはテーブル中の矢印(ベクトル)に沿って加減速をすればよく、本例の場合であれば、図8中に示すような軌道、すなわち最適化結果から導出される速度軌道に沿って遷移すればよい。ちなみに、この速度軌道にしたがってクルーズコントロールした場合の車間距離の経時変化、自車速度の経時変化は図9に示すようになる。
【0027】
ここまで説明したように、本実施形態のごとき二次元の動的計画法を新たに採り入れた速度軌道導出方法によれば、これまでであれば数時間単位にものぼっていたような計算を何度も行う必要がなくなることから、計算に要する時間を極力削減することが可能となる。また、同速度軌道導出方法によれば、計算の結果得られるデータの量を極力削減することも可能となる。
【0028】
なお、本実施形態において説明した速度軌道導出方法は、車載コンピューター(あるいはネットワークにより接続された端末に搭載されたコンピューターでもよい)に上述のごとき処理・手順を実行させるプログラム、ないしは当該プログラムやコンピューターを搭載した情報処理装置やシステムによって具体的に実現することができる。コンピューターは、計算して導出した速度軌道に沿って、当該車両の動力系、駆動系、操舵系の各要素(タイヤトルク、ステア角など)を適宜制御する。
【0029】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では、クルーズコントロールを実施する際の評価基準となる評価関数として自車Xの消費エネルギーを設定したがこれは好適な一例にすぎない。評価関数として用いることができるのは、時間・速度・加速度・車間距離から計算できる全ての関数であり、この他、例えば、加速度の絶対値を最小にして乗り心地を改善する、などの手法が考えられる。また、評価関数の値を計算するために「車両モデル」を用い、二次元の動的計画法により、速度の情報のみから当該車両の挙動を逆算することとしてもよい。特に図示はしないが、この場合、速度・位置のテーブル上で車両の挙動を計算することができる。車両の挙動を計算する際に用いられうる数式を参考までに以下に示す。
【0030】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0031】
あるいは、評価関数を消費エネルギーとして設定した「消費電力モデル」(または「等価鉄損抵抗モデル」)を用い、車輪回転数・トルクをもとに消費電力を計算することもできる。これは、例えば電気自動車における消費エネルギーが最小になる速度軌道の生成に利用することが可能である。消費電力の挙動を計算する際に用いられうる数式を参考までに以下に示す。
【0032】
【数11】
【数12】
【数13】
【0033】
また、上述の実施形態では、前車Yの走行速度が一定とした条件下での説明を行ったがが、前車Yの走行速度が一定でない場合については、所与の車間距離(相対距離)および/または相対速度を適時に更新するといったように手法を拡張することで応用することが可能である。すなわち、上述の実施形態では、事前計算で動的計画法を用いて表を作成する段階では前車Yの走行速度が一定であるという仮定を置いたのだが、その表を読み出す際、前車Yの速度が変わるたびに表を再読み込みすることで、前車Yの速度の変化に対応することが可能である。
【0034】
また、上述の実施形態では移動体が車両(自車、前車)である場合を例に説明したがこれも本発明の好適な一例にすぎない。本発明の技術的な思想の内容からすれば自動車・車両を問わずあらゆる移動体に対しても適用可能であることはいうまでもない。
【実施例1】
【0035】
本実施形態の速度軌道導出方法により得られた最適化結果に基づき速度制御をする車両(Pro)の「速度」(Velocity)、「車間距離」(Distance)、「出力」(Power)、「消費エネルギー」(Energy)、のそれぞれについて、一定加速度で加速→減速をする車両モデル(Con)と比較するシミュレーション(Pro-Con)を行った。その結果を図10に示す。ここからは、初期状態から最終状態(目標状態)に達するまでの消費エネルギーが、本実施形態の速度軌道導出方法によれば十分に(1割近く)減少するとの結果が得られた(図10(d)等参照)。動的計画法は常に最適な結果が出ることが保証される手法であり、理論上は消費エネルギーが必ず減少するところ、ここではそのことの証左の一つが得られたと考えることができた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、自動運転車両をはじめとする移動体を自動運転制御して他の先行移動体に追従させるクルーズコントロールを実施する際の速度軌道導出方法として適用するに好適なものである。
【符号の説明】
【0037】
X…自車(移動体)、Y…前車(他の先行移動体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10