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特許7503311太陽電池および熱電変換素子を有する複合発電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】太陽電池および熱電変換素子を有する複合発電装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0525 20140101AFI20240613BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20240613BHJP
   H02S 40/42 20140101ALI20240613BHJP
   H10N 10/13 20230101ALI20240613BHJP
   H10N 10/17 20230101ALI20240613BHJP
【FI】
H01L31/04 602
H02N11/00 A
H02S40/42
H10N10/13
H10N10/17 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020561240
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2019045804
(87)【国際公開番号】W WO2020129539
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-03-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2018237064
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1. 発表日:平成30年6月13日(開催期間 平成30年6月10日~15日) 集会名:IEEE 7th World Conference on Photovoltaic Energy Conversion(WCPEC-7) 開催場所:アメリカ合衆国、ハワイ州、ワイコロア 内容:ポスター発表 “A solar cell enabling heat recovery without fast carrier extraction” 2. 公開日:平成30年6月10日(掲載期間:平成30年6月10日~15日) 掲載場所:IEEE WCPEC-7の会場に設置された端末“digital kiosk” 内容:IEEE WCPEC-7のポスター発表資料“A solar cell enabling heat recovery without fast carrier extraction” 3. 公開日:平成30年5月22日 掲載アドレス:http://www.wcpec7.org/eWCPEC/mobile/show_presentation.php?abstractno=454 内容:IEEE WCPEC-7のポスター発表のアブストラクト“A solar cell enabling heat recovery without fast carrier extraction” 4. 公開日:平成30年7月11日 掲載アドレス:http://www.pvsc-proceedings.orgの“2018-7th WCPEC-45th IEEE PVSC Conference-Waikoloa,HI”のサイト 内容:IEEE WCPEC-7のポスター発表についての論文 5. 公開日:平成30年11月29日 掲載アドレス:https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=8547894 内容:IEEE WCPEC-7のポスター発表についての論文(正式版) 6. 発表日:平成30年9月20日(開催期間 平成30年9月18日~21日) 集会名:第79回応用物理学会秋季学術講演会 開催場所:愛知県名古屋市、名古屋国際会議場 内容:口頭発表 20a-136-7「熱回収型太陽電池の温度特性と熱起電力効果」
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 7. 公開日:平成30年9月5日 公開方法:予稿集を記録したDVDの配布(DVDを配送業者に渡した) 内容:第79回応用物理学会秋季学術講演会の口頭発表「熱回収型太陽電池の温度特性と熱起電力効果」の予稿 8. 発表日:平成30年11月13日および14日 集会名:AIST太陽光発電研究 成果報告会2018 開催場所:茨城県つくば市 つくば国際会議場 内容:口頭発表「熱回収型太陽電池の原理提案」およびポスター発表 9. 公開日:平成30年11月13日 公開方法:AIST太陽光発電研究 成果報告会2018の発表資料を記録したDVDの参加者への配布 内容:「熱回収型太陽電池の原理提案」の口頭発表の資料およびポスター発表の資料 10. 公開日:平成30年11月13日 掲載アドレス:https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/results/past_presentation/2018/program.html https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/results/past_presentation/2018/oral/003-19.pdf https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/results/past_presentation/2018/poster/P73.pdf 内容:AIST太陽光発電研究成果報告会2018の「熱回収型太陽電池の原理提案」の口頭発表スライドおよびポスター発表の資料 11. 公開日:平成30年10月3日 掲載アドレス:https://spie.org/PWO/conferencedetails/pv-devices 内容:SPIE Photonics West 2019の口頭発表“A concept of nonequilibrium solar cell ″heat recovery solar cell″”(発表予定:平成31年2月7日)のアブストラクト
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 12. 公開日:平成30年12月17日 掲載アドレス:https://i.aist.go.jp/webc/rp-envene/sessions/10th_eeforum/index.html 内容:国立研究開発法人 産業技術総合研究所 第10回E&Eフォーラム講演会(開催日平成30年12月21日)の口頭発表のアブストラクトおよび発表資料
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上出 健仁
(72)【発明者】
【氏名】望月 敏光
(72)【発明者】
【氏名】高遠 秀尚
【合議体】
【審判長】波多江 進
【審判官】野村 伸雄
【審判官】吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】特公昭51-48037(JP,B2)
【文献】特開2009-16831(JP,A)
【文献】特開昭58-35991(JP,A)
【文献】Dario Narducci,et al.,”Challenges and Perspectives in Tandem Thermoelectric-Photovoltaic Solar Energy Conversion”,IEEE TRANSACTIONS ON NANOTECHNOLOGY,2016年,Vol.15, No.3,pp.348-355
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/0525
H10N 10/00-19/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光する第1の面とその裏側の第2の面を有する吸収層であって、該第1の面に設けられた第1の電極と該第2の面に設けられた第2の電極とを有する該吸収層を含む光電変換部と;
前記第2の面に設けられた熱伝導層と、
前記熱伝導層に、互いに電気的に絶縁されて設けられた複数の第1の接続電極と、
複数の第2の接続電極と、
M対のP型熱電変換素子およびN型熱電変換素子であって、各々の一端が前記複数の第1の接続電極のうちの一つと接触し、その他端が前記複数の第2の接続電極のうちの一つに接触する、ただしMは自然数である、該P型熱電変換素子およびN型熱電変換素子と、前記P型熱電変換素子およびN型熱電変換素子のうちの一つの他端に接触する第1および第2の出力電極と、を含む熱電変換部と;
を備え、
前記第1の電極と前記複数の第1の接続電極の一つとが電気的に接続され、
前記第2の電極と前記複数の第1の接続電極の他の一つとが電気的に接続され、
前記M対のP型熱電変換素子およびN型熱電変換素子の各々が前記第1の接続電極と前記第2の接続電極を介して接続され、前記第1および第2の出力電極を出力電極として前記光電変換部と前記M対のP型熱電変換素子およびN型熱電変換素子とが電気的に直列に接続されてなり、
前記Mは、式1を満たすように選択されてなる、複合発電装置;
1-(M/λ+C1/M)>0・・・(1)
ここで、λは1対の前記P型およびN型熱電変換素子の電気抵抗による電圧損失に対する前記M対の前記P型およびN型熱電変換素子により得られる熱起電力の割合を表す因子であり式2で表され、C1は、1対の熱電変換素子において得られる熱起電力に対する、最大電力点における光電変換部の内部電圧の温度変化の割合を表す因子であり式3で表され、
λ=(MjQ/je)×(ασ/κ) ・・・(2)
【数1】
式(2)中のパラメータはP型およびN型熱電変換素子のパラメータであり、jQおよびjeは、P型およびN型熱電変換素子の1つあたりの、それぞれ、前記第1の接続電極から流入する熱流の熱流密度(W/m2)、電流密度(A/m2)、αはゼーベック係数(V/K)、σは電気伝導率(1/(Ωm))、κは熱伝導率(W/(mK))であり、
式(3)中のパラメータは、dVOC/dTは光電変換部の開放電圧の温度特性、FFは光電変換部の電流-電圧特性のフィルファクタ、αはP型およびN型熱電変換素子のゼーベック係数(V/K)である。
【請求項2】
前記Mは、λ/2に最も近い自然数が選択されてなる、請求項1記載の複合発電装置。
【請求項3】
式4を満たす範囲でその式中の各パラメータが選択されてなる、請求項または2記載の複合発電装置;
ξ=αjec/κ<1 ・・・(4)
ここで、式中のパラメータはP型およびN型熱電変換素子のパラメータであり、jeはP型およびN型熱電変換素子の1つあたりの電流密度(A/m2)、αはゼーベック係数(V/K)、κは熱伝導率(W/(mK))、Lcは前記第1の接続電極と接する端部と前記第2の接続電極の端部とを結ぶ方向に沿った長さ(m)である。
【請求項4】
前記第1の電極と接続された前記第1の接続電極と前記第1の出力電極との間に少なくとも1個のP型熱電変換素子またはN型熱電変換素子が接続され、前記第2の電極と接続された前記第1の接続電極と前記第2の出力電極との間に少なくとも1個のP型熱電変換素子またはN型熱電変換素子が接続されてなる、請求項1~3のうちいずれか一項記載の複合発電装置。
【請求項5】
前記熱伝導層は電気絶縁材料からなる請求項1~4のうちいずれか一項記載の複合発電装置。
【請求項6】
前記吸収層と前記熱伝導層との間に赤外線吸収層をさらに備える、請求項1~5のうちいずれか一項記載の複合発電装置。
【請求項7】
前記第2の電極が前記複数の第1の接続電極の他の一つを兼ねてなる、請求項1~6のうちいずれか一項記載の複合発電装置。
【請求項8】
前記複数の第2の接続電極に接する冷却手段をさらに備える、請求項1~7のうちいずれか一項記載の複合発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽エネルギーを光電変換および熱電変換を利用して発電する複合発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、そのエネルギー変換効率が、非集光でシリコン単一の光吸収体を用いた場合、ショックレー・クワイサー理論による29.5%程度と言われている。エネルギー変換効率を超える太陽電池として、多接合太陽電池やホットキャリア太陽電池が提案されている。ホットキャリア太陽電池は、ホットキャリアを熱緩和が生じる前に電極に取り出すという原理であり、その構造を実現するのが困難であり、原理の実証も未だ行われていない。
【0003】
本発明者等は、熱回収型太陽電池のコンセプトを提案している(例えば、非特許文献1参照。)。熱回収型太陽電池は、ホットキャリアが熱緩和を生じる前に取り出しを行うことを必要としていない。その為、熱回収型太陽電池には、広汎な光吸収体材料を用いることができるという利点がある。
【0004】
他方、太陽電池と熱電変換モジュールを組み合わせることで太陽電池のエネルギー変換効率を向上する技術が知られている(例えば、特許文献1および2参照。)。熱電変換モジュールでは高温側と低温側との温度差が大きいほど出力電圧が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭51-48037号公報
【文献】特開平1-105582号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】上出、他、第65回応用物理学会春季学術講演会、講演番号17a-D101-6(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、太陽電池では、受光により温度が上昇して、太陽電池の開放電圧が減少し、太陽電池の出力低下が生じるが、特許文献2では、この点が考慮されておらず、エネルギー変換効率が実際に向上できるか不明であるという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、エネルギー変換効率を向上可能な複合発電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、受光する第1の面とその裏側の第2の面を有する吸収層であって、上記第1の面に設けられた第1の電極と上記第2の面に設けられた第2の電極とを有する上記吸収層を含む光電変換部と;上記第2の面に設けられた熱伝導層と、上記熱伝導層に、互いに電気的に絶縁されて設けられた複数の第1の接続電極と、複数の第2の接続電極と、M対のP型熱電変換素子およびN型熱電変換素子であって、各々の一端が上記複数の第1の接続電極のうちの一つと接触し、その他端が上記複数の第2の接続電極うちの一つに接触する、ただしMは自然数である、上記P型熱電変換素子およびN型熱電変換素子と、上記P型熱電変換素子およびN型熱電変換素子のうちの一つの他端に接触する第1および第2の出力電極と、を含む熱電変換部と;を備え、上記第1の電極と上記複数の第1または第2の接続電極の一つとが電気的に接続され、上記第2の電極と前記複数の第1または第2の接続電極の他の一つとが電気的に接続され、上記M対のP型熱電変換素子およびN型熱電変換素子の各々が上記第1の接続電極と上記第2の接続電極を介して接続され、上記第1および第2の出力電極を出力電極として上記光電変換部と前記M対のP型熱電変換素子およびN型熱電変換素子とが電気的に直列に接続されてなり、上記第1の接続電極の第1の温度とその第1の温度よりも低い上記第2の接続電極の第2の温度との差により発生する上記熱電変換部の電力分が、上記光電変換部の上記第2の温度に対して上記第1の温度において減少する電力分よりも大きくなるように構成されてなる、複合発電装置が提供される。
【0010】
上記態様によれば、太陽光による熱を吸収して、上記第2の温度から第1の温度への温度上昇による光電変換部の電力の損失分を超えて上記第1の温度と第2の温度との温度差によって熱電変換部において熱電変換による電力を得ることで、従来型の太陽電池よりもエネルギー変換効率を向上可能な複合発電装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る複合発電装置の概略構成を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る複合発電装置の電気的な等価回路を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る複合発電装置の一実施例の概略構成を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る複合発電装置のパラメータの計算例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る複合発電装置のエネルギー変換効率の計算例を示す図である。
図6図5に示した計算例の数値を示す図である。
図7】比較例の複合発電装置のパラメータの計算例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。なお、複数の図面間において共通する要素については同じ符号を付し、その要素の詳細な説明の繰り返しを省略する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る複合発電装置の概略構成を示す断面図である。図1を参照するに、本実施形態に係る複合発電装置10は、光電変換を行う光電変換部10Aと、熱電変換を行う熱電変換部10Bを備える。光電変換部10Aは、吸収層11と、その太陽光を受光する第1面11aに第1電極12と、第1面11aの裏側の第2面11bに第2電極13とを有する。熱電変換部10Bは、熱電変換を行うM対のP型熱電変換素子22(221~225)およびN型熱電変換素子23(231~235)とを有する。ここで、Mは自然数であり、一例としてM=5とした。
【0014】
吸収層11は、本実施形態では、単結晶系pn接合型半導体であるとして説明する。なお、後述するように、それに限定されるわけではない。吸収層11は、第1面11a側にp層11p、第2面11b側にn層11nを有し、第1電極12は正極になり、第2電極13は負極になる。
【0015】
赤外線吸収層14および熱伝導層15は、第2面11bにこの順で設けられる。
【0016】
熱伝導層15には、複数の高温側接続電極20が接触して設けられる。複数の高温側接続電極20は、各々、互いに電気的に絶縁されている。図1では、高温側接続電極20は、互いに接触しないように離隔して配置されている。なお、第2電極13は高温側接続電極20を兼ねている。
【0017】
M対のP型熱電変換素子22およびN型熱電変換素子23は、各々の一端(図1では図面の上側の端部)が高温側接続電極20に接触し、各々の他端が複数の低温側接続電極21の一つと接触している。低温側接続電極21のうち第1および第2出力電極24、25が、複合発電装置10の電力を取り出す電極として配置される。なお、電力は電流Ioutと出力電圧Vとの積で表される。第1出力電極24が、電流を負荷30へ流す正極となり、第2出力電極25が負荷30から電流を受ける負極となる。低温側接続電極21並びに第1および第2出力電極24、25は、低温体26に接触するように配置される。低温体26は、複合発電装置10の動作時に高温側接続電極20の温度よりも低い温度に保持される。
【0018】
複合発電装置10は、吸収層11の第1面11aに配置された第1電極12が、配線28を介して図1の右側の高温側接続電極20に電気的に接続され、吸収層11の第2面11bに配置された第2電極13が左側の高温側接続電極20に電気的に接続される。なお、この例では、第2電極13が高温側接続電極20を兼ねているが、別個に設けてもよい。5対のP型熱電変換素子22およびN型熱電変換素子23は、電気的に直列に接続されており、具体的には、右側の高温側接続電極20から、P型熱電変換素子221、低温側接続電極21、N型熱電変換素子231、・・・、P型熱電変換素子223、第1出力電極24に電気的に直列に接続され、さらに、負荷30を介して、第2出力電極25、N型熱電変換素子233、高温側接続電極20、P型熱電変換素子224、・・・、N型熱電変換素子235および左側の高温側接続電極20(第2電極13)に電気的に直列に接続される。
【0019】
複合発電装置10は、太陽光の受光により吸収層11および赤外線吸収層14の温度が上昇し、吸収層11から直接伝導した熱と吸収層11および赤外線吸収層14から熱伝導層15を介して伝導した熱とにより高温側接続電極20の温度が上昇する(温度をTHとする。)。低温側接続電極21は、低温体26(冷却手段として機能する。)によって環境温度Tc(低温側温度としてTLとも称する。)に維持される。高温側接続電極20と低温側接続電極21とに接するP型熱電変換素子221~225およびN型熱電変換素子231~235は、その両端に温度差が生じることでゼーベック効果により電位差が発生し、それぞれ正孔、電子の拡散が高温側から低温側に生じて、巨視的に電流が流れる。このようにして熱電変換部10Bにおいて電力が発生する。
【0020】
他方、光電変換部10Aでは、吸収層11において、太陽光の受光により光励起によって生じた電子正孔対が内部電界によって移動して、第1電極12と第2電極13との間に内部電圧が生じる。第1電極12から電流が配線28を介して熱電変換部10B側に流れ、第2電極13に戻ってくることで電力が発生する。吸収層11は、受光前の温度(例えば、環境温度(温度TL))から、動作時の温度が上昇して高温(温度TH)になると、内部電圧が低下する。このようにして光電変換部10Aで発生する電力が動作時に低下する。複合発電装置10は、熱電変換部10Bで発生する電力分は、光電変換部10Aが低温側の温度TLにおいて発生する電力に対して高温側の温度THになった場合に減少する電力分よりも大きくなるように熱電変換部10Bが構成される。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態に係る複合発電装置の電気的な等価回路を示す図である。図2において、高温側接続電極20と低温側接続電極21の一部を省略している。
【0022】
図2図1と合わせて参照するに、複合発電装置10は、図2の右側の熱電変換素子221~223、231~232と吸収層11と、図2の左側の熱電変換素子224~225、233~235が直列に電気的に接続されている。先の図1に示したように、右側の熱電変換素子221~223、231~232も、左側の熱電変換素子224~225、233~235もP型熱電変換素子22とN型熱電変換素子23とが高温側接続電極20または低温側接続電極21を介して交互に直列に電気的に接続されている。
【0023】
光電変換部10Aの吸収層11では、電流として、受光により発生した正孔電子対による光生成成分Isunと正孔電子対の輻射再結合による放射損失成分Iradがあり、この差分の電流Iが熱電変換素子22、23に流れる。吸収層11で生じる内部電圧はVcellで表される。放射損失成分Iradは内部電圧Vcellと吸収層11の温度TH(吸収層11は高温側温度になっているため)に依存する。
【0024】
熱電変換部10Bにおいて、第1電極12と第1出力電極24との間に接続された図2の右側の熱電変換素子22、23においては、熱電変換素子の数をM1とすると、ゼーベック効果によって発生する電圧は、温度差(TH-TL)とゼーベック係数αと熱電変換素子の数M1(図1ではM1=5)によってαM1(TH-TL)で表される。一方、それらの熱電変換素子22、23における電圧降下は1つの熱電変換素子の電気抵抗Rを用いてM1Rと表される。したがって、右側の熱電変換素子22、23での正味の電圧はΔVA=M1(α(TH-TL)-RIout)で表される。熱電変換部10Bにおいて、第2電極13と第2出力電極25との間に接続された図2の左側のM2個の熱電変換素子22、23における正味の電圧は、同様にして、ΔVB=M2(α(TH-TL)-RIout)で表される(図1ではM2=5)。ただし、M1+M2=2Mである。
【0025】
したがって、第1出力電極24および第2出力電極25との間の出力電圧Vは、Vcell+2M(α(TH-TL)-RIout)となる。出力電圧Vと電流Ioutの積が複合発電装置10の出力(電力)となる。
【0026】
なお、M1およびM2は、1以上であることが好ましい。すなわち、第1電極12と接続された高温側接続電極20と第1出力電極24との間に少なくとも1個の熱電変換素子が接続されることが好ましい。高温側接続電極20と第1出力電極24とが直接あるいは導電体の配線で接続されると、熱電変換素子よりも電極および配線の方が熱伝導率が良好なため、高温側からの熱エネルギーが第1出力電極24を介して低温体に放熱されてしまい、熱損失が生じてしまう。同様の理由により、第2電極13(高温側接続電極20を兼ねる。)と第2出力電極25との間に少なくとも1個の熱電変換素子が接続されることが好ましい。
【0027】
図1に戻り、吸収層11は、半導体材料を含み、例えば、シリコン、アモルファスシリコン、SiC、シリサイド半導体であるBaSi2、OsSi2、Ca2Si等、Se、化合物半導体としては、InP、GaAs、AlSb、CdTe、CdSe等、多元系化合物混晶であるAlxGa1‐xAs、GaxIn1‐xAs、InxGa1‐xP、InxGa1‐xN等、ペロブスカイト結晶構造を有する材料であるMAPI(CH3NH3PbI3)、この鉛(Pb)をSnやGeで置き換えた類似体、ホルムアミジニウムヨウ化鉛(FAPI)、複合ハライド(FA,MA)PbI3(FAMAPI)、およびその類似体、CIGS系材料(Cu,In,Ge,Se,Sを原料とする化合物)、CZTS系材料(Cu.Zn,Sn,Sを原料とする化合物)、有機系半導体(ポリチオフェン(P3HT)等)等を用いることができる。
【0028】
吸収層11は、太陽光が入射する第1面11aまたは反対側の第2面11bあるいはその両方にテクスチャリングを施すことが光吸収が良好になる点で好ましい。
【0029】
吸収層11は、単結晶系pn接合型半導体としたが、p型およびn型不純物をドープしてもよい。吸収層11がSiの場合は、ドーパントとしては、p型ドープ領域11pは、例えばB、Al、Ga、Inを用いることができる。n型ドープ領域11nは、例えばP、As、Sbを用いることができる。これにより、吸収層11で生成された電子は電子の伝導度の高いn型ドープ領域11nを流れて第2電極13に到達し、吸収層11で生成された正孔は正孔の伝導度の高いp型ドープ領域11pを流れて第1電極12付近に到達する。
【0030】
なお、吸収層11は、その表面が露出する部分に、パッシベーション層(不図示)を形成してもよい。パッシベーション層は、例えば、アモルファスシリコン(a-Si:H)、熱酸化膜(SiO2)、シリコンナイトライド膜(a-Si1‐xx:H)を用いることができる。
【0031】
第1電極12および第2電極13は、導電性材料からなり、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、パラジウム、銀、白金、金等の金属およびこれらの合金、不純物イオンをドープしたケイ素等の半導体材料、酸化チタン(TiO2)、スズ添加酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al23)、AZO(ZnO:Al)、GZO(ZnO:Ga)、ATO(SnO2:Sb)、FTO(SnO2:F)、ZnMgO等の導電性金属酸化物およびそれらの混合物、導電性ペースト等から選択される。また、第1電極12および第2電極13は、それぞれ上記の互いに異なる導電性材料を積層してもよい。
【0032】
赤外線吸収層14は、赤外線の波長領域で吸収率の高い材料からなり、例えば、硝酸処理NiPメッキが施された部材、VANTAブラック、Metal Velvet(登録商標)等が挙げられる。吸収層11を透過した光、特に赤外線を吸収して熱に変換することで、赤外線吸収層14の温度が上昇し、それに接する熱伝導層15を介して高温側接続電極20を加熱することができる。なお、赤外線吸収層14は設けた方が高温側接続電極20を加熱するための熱量を得られる点で好ましいが設けなくともよい。
【0033】
熱伝導層15は、熱伝導が良好な材料からなる。熱伝導層15は、接する赤外線吸収層14あるいは吸収層11からの熱を高温側接続電極20に伝導する。熱伝導層15は、少なくとも高温側接続電極20に接する面が電気絶縁材料が形成されていることが好ましい。その代わりに熱伝導層15自体が電気絶縁材料でもよい。熱伝導層15は、例えば、熱良導体材料で電気絶縁材料である窒化アルミ(AlN)層またはその板を用いることができる。
【0034】
高温側および低温側接続電極20、21並びに第1および第2出力電極24、25は、導電性材料からなり、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、パラジウム、銀、白金、金等の金属およびこれらの合金を用いることができる。
【0035】
P型熱電変換素子221~225およびN型熱電変換素子231~235は、公知の熱電変換材料を用いることができ、例えば、テルルビスマス(Bi2Te3)系材料またはPbTe材料を用いることができる。P型熱電変換素子221~225には、Bi2Te3系材料の場合にはSb2-xBixTe3、PbTe材料の場合にはアクセプタとして例えばナトリウム(Na)およびゲルマニウム(Ge)を添加した材料を用いることができる。また、N型熱電変換素子231~235には、Bi2Te3系材料の場合にはBi2Te3-XSe2-X、PbTe材料の場合にはドナーとして例えばヨウ化鉛(PbI2)を添加した材料を用いることができる。
【0036】
本実施形態によれば、複合発電装置10は、光電変換部10Aと熱電変換部10Bとを電気的に直列に接続することで、光電変換部10Aおよび熱電変換部10Bで発生した電圧を足し合わせた出力電圧が得られ、熱電変換部10Bで発生する電力分は、光電変換部10Aが低温側の温度TLにおいて発生する電力に対して高温側の温度THになった場合に減少する電力分よりも大きくなるように熱電変換部10Bが構成される。これにより、太陽光による熱を吸収して、温度TLから温度THへの温度上昇による光電変換部10Aの電力の損失分を超えて温度TLと温度THとの温度差によって熱電変換部10Bにおいて熱電変換による電力を得ることで、従来型の太陽電池よりもエネルギー変換効率を向上可能な複合発電装置10を提供できる。
【0037】
なお、本実施形態の複合発電装置10において、p型およびn型の極性を反転した構成を適用してもよい。この構成は、具体的には、光電変換部10Aの吸収層11のp層11pおよびn層11nを入れ替えて、熱電変換部10BのP型熱電変換素子22とN型熱電変換素子23とを入れ替えたものである。この構成においても上述した複合発電装置10と同様の作用効果を奏する。
【0038】
図3は、本発明の一実施形態に係る複合発電装置の一実施例の概略構成を示す図であり、(a)はx軸方向に分解した斜視図、(b)は吸収層を第2面から視た図である。図3(a)および(b)を参照するに、一実施例の複合発電装置100は、吸収層11が第1面11aおよび第2面11bに、それぞれ、グリッド状の第1電極12、第2電極13が設けられている。第1電極12および第2電極13は、y方向に主線12a、13aが延在し、主線12a、13aからそれぞれz軸方向に支線12b、13bが延在するように配置されている。
【0039】
赤外線吸収層14は、吸収層11の第2面11bの全体と接して設けられている。熱伝導層15は、一方の主面が赤外線吸収層14に接し、他方の主面が高温側接続電極20に接して設けられている。
【0040】
高温側接続電極20は、互いに分離して配置されている。図示の便宜のためy軸方向およびz軸方向に互いに離間して配置されているが、互いに接触しないように近接して設けることが好ましい。また、互いに離間する空間に熱伝導性が良好で電気的に絶縁する材料を充填してもよい。これにより、熱伝導層15から高温側接続電極20への熱伝導性が良好となる。
【0041】
P型およびN型熱電変換素子22、23は、図3において上端面が高温側接続電極20に接し、下端面が低温側接続電極21と第1および第2出力電極24、25とに接するように設けられている。P型およびN型熱電変換素子22、23は、円柱状でもよく、角柱状でもよい。
【0042】
低温側接続電極21と第1および第2出力電極24、25とは、互いに分離して配置されており、高温側接続電極20と同様に配置してもよく、互いに離間する空間に熱伝導性が良好で電気的に絶縁する材料を充填してもよい。
【0043】
低温体26は、一方の主面が低温側接続電極21と第1および第2出力電極24、25に接して設けられる。低温体26は、図示のように平板状でもよく、図において下の面が放熱構造、例えば、突起を多数設けてもよく、公知のヒートシンクを設けてもよい。
【0044】
複合発電装置100は、吸収層11の第1面11aの第1電極12から配線28を介して、高温側接続電極20に電気的に接続され、P型熱電変換素子22、低温側接続電極21、N型熱電変換素子23、高温側接続電極20、…、N型熱電変換素子23の順にM1個のP型およびN型熱電変換素子22、23が交互に直列に電気的に接続され第1出力電極24から一方の出力が取り出される。他方、複合発電装置100は、吸収層11の第2面11bの第2電極13から配線28を介して、高温側接続電極20に電気的に接続され、N型熱電変換素子23、低温側接続電極21、P型熱電変換素子22、高温側接続電極20、…、P型熱電変換素子23の順にM2個のP型およびN型熱電変換素子22、23が交互に直列に電気的に接続され第2出力電極25から他方の出力が取り出される。
【0045】
[本実施の形態に係る複合発電装置のエネルギー効率のシミュレーション]
本実施の形態に係る複合発電装置のエネルギー効率のシミュレーションを先の図1および図2を適宜参照しつつ説明する。
【0046】
本シミュレーションでは、吸収層11は、その半導体材料のエネルギーバンドのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を全て吸収することを仮定して、光励起による電流を光生成成分Isunとする。吸収層11内の輻射再結合による電流損失を放射損失成分Iradとする。この場合、吸収層11の電流(電流密度で表す。)I(A/m2)では、式1で表される。
【数1】
【0047】
ここで、光生成成分Isunは式2で表され、放射損失成分Iradは式3で表される。
【数2】
【数3】
ここで、CRは集光倍率、qは電気素量、cは光速、Rsunは太陽の半径、LESは太陽と地球との距離、Eg Aは吸収層11の半導体材料のバンドギャップエネルギー、
【数4】
はプランク定数であり、kBはボルツマン定数、Tsunは太陽表面温度であり6000Kとし、Vcellは吸収層11で生じる内部電圧である。
【0048】
出力電圧Vと吸収層11の内部電圧Vcell差は式4で表される。
【数5】
ここで、断面積SCのP型およびN型熱電変換素子22、23を流れる電流密度je(A/m2)は、je=ISA/SCで与えられるとし、熱電変換材料のゼーベック係数をα(V/K)、電気伝導率をσ(1/(Ωm))、P型およびN型熱電変換素子22、23の高温側温度(TH)と低温側温度(TC)の温度差をΔT(=TH-TC)、P型およびN型熱電変換素子22、23の長さをLc(高温側接続電極20と接する端部と低温側接続電極21の端部とを結ぶ方向に沿った長さ)
である。なお、Iは上述した吸収層11の電流密度、SAは吸収層11の断面積(電流が流れる方向に対して垂直な面の面積)(m2)、 C はP型およびN型熱電変換素子22、23の断面積(m2)である。
【0049】
複合発電装置10の動作時の温度差ΔTは、式5の微分方程式を立式する。
【数6】
T(Lc)=Tc ・・・(6)
dT/dx(x=0)=-j/κ ・・・(7)
ここで、x軸はP型およびN型熱電変換素子22、23の高温側の端部と低温側の端部とを結ぶ方向と平行に設定し、κはP型およびN型熱電変換素子22、23の熱伝導率(W/(m・K))である。
【0050】
式5を、式6および式7を境界条件として、解くことにより、式8が得られる。
【数7】
ここで、ξは無次元量であり、式9により定義した。
ξ≡αje C/κ ・・・(9)
【0051】
式8において、P型およびN型熱電変換素子の高温側接続電極に接する端面から流入する1本当たりの熱流密度jQ(W/m2)は式10で表されるとした。
=Q/(2MSC)
=SA(Psun-PT-Prad(TH,Vcell)-IVcell)/(2MSC) ・・・(10)ここで、熱流量Q(W)は、吸収層11における入射光分(Psun)、透過光分(PT)および輻射再結合損失分(Prad)のエネルギー流密度(W/m2)を、それぞれ、下記式11~13とした。
【数8】
【0052】
複合発電装置10では、赤外線吸収層14を設けているので、透過光分(PT)は全て熱に変換されたとして、式10の代わりに式14を用いる。
=Q/(2MSC)
=SA(Psun-Prad(TH,Vcell)-IVcell)/(2MSC) ・・・(14)
【0053】
以上の立式により、複合発電装置10の電流電圧特性(I-V特性)および式15で表されるエネルギー変換効率ηをシミュレーションにより求めることができる。
η(%)=100×IV/Psun ・・・(15)
【0054】
上記式9で定義したξについて、ξ<1の場合は、上記式8のξ≪1に対する漸近式として式16の近似式を用いることができる。
【数9】
【0055】
式16を上記式5に代入すると式17が得られる。直列接続したM対のP型およびN型熱電変換素子22、23によって、電圧上昇分は式17、電力の増加分Gは式18で表される。
【数10】
【数11】
ここで、λは、
λ≡(MjQ/je)×(ασ/κ) ・・・(19)
により定義した。λは、1対の熱電変換素子22、23当たりの電気抵抗による電圧損失に対する、M対により得られる熱起電力の比(割合)を表す因子である。
【0056】
式18によれば、M/λ<1の場合は、電力の増加分Gが正値になり、M対のP型およびN型熱電変換素子22、23を設けた効果が奏される。
【0057】
他方、吸収層11の温度(TH)が上昇すると、吸収層11の太陽電池としての内部電圧Vcellが低下し、それによる電力の減少も生じるおそれがある。内部電圧Vcellの低下は開放電圧の低下に主に起因するとすれば、その電力の減少分L(W)は、式20で表される。
【数12】
ここで、C1は、光電変換部10A単体の太陽電池としての曲線因子をフィルファクタFF、室温での開放電圧の温度係数を式21で表されるとすると、式22で表される。フィルファクタFFは、光電変換部10A単体の最大出力時の電圧Vmax、電流I(Vmax)、開放電圧をVOC、短絡電流をIshとしたときにI(Vmax)Vmax/VOCshで定義される。C1は、1対の熱電変換素子22、23当たりの熱起電力に対する、最大電力点における吸収層11の内部電圧の温度変化の割合を表す因子である。
【数13】
【数14】
【0058】
上記式18および20により、光電変換部10Aを単体で動作させた場合に対して、複合発電装置10による正味の電力増加Gnetは式23で表される。
【数15】
【0059】
式23において、右辺の括弧内が正値になれば、光電変換部10A単体で動作させた場合よりも複合発電装置10の電力が増加することになる。すなわち、
1-(M/λ+C1/M)>0 ・・・(24)
である。
【0060】
式24の左辺のカッコ内の第1項は、1対のP型およびN型熱電変換素子22,23において、得られる熱起電力に対する電気抵抗による電圧損失の比であり、第2項は、1対のP型およびN熱電変換素子22,23において得られる熱起電力に対する、1対のP型およびN熱電変換素子当たりの(つまりP型およびN型熱電変換素子の対数Mで除した)最大電力点における光電変換部10Aの内部電圧の温度変化の割合である。この第1項と第2項との和が1よりも小さい場合に複合発電装置10の出力電力が光電変換部10A単体で発電を行った場合の出力電力よりも多くなる。さらに、上記式24を満たす範囲では、より低い温度でエネルギー変換効率を増加できる点でMは大きい程好ましい。
【0061】
シミュレーションでは、P型およびN型熱電変換素子22,23にBi2Te3系材料を用いたとして、電気伝導率σ=105(1/(Ωm))、熱伝導率κ=1(W/(mK))、ゼーベック係数α=0.0002(V/K)を用いた。吸収層11に結晶シリコン(エネルギーギャップE /q=1.12V)を想定し、環境温度T=300Kでの光電変換部10A単体での太陽電池特性パラメータをフィルファクタFF=0.869,開放電圧VOC=0.868Vとした。複合発電装置10が赤外線吸収層14を備えていることにより、入射光エネルギーの約70%(=0.7×Psun)が熱流となったとした。最大電力動作で吸収層11における電流損失がほぼないことを想定した。なお、低温側接続電極の温度TLはTと同じ300Kとした。
【0062】
計算の結果、上記式19で定義したλが17.9、上記式22で定義したCが1.8が得られた。これを用いて、上記式23で表される複合発電装置10による正味の電力増加Gnetの左辺に含まれる上記式24の左辺(1-(M/λ+C1/M))をP型およびN型熱電変換素子の対数Mの関数として計算した。
【0063】
図4は、本発明の一実施形態に係る複合発電装置のパラメータの計算例を示す図である。図4において、横軸はP型およびN型熱電変換素子の対数M、縦軸は式24の左辺(1-(M/λ+C1/M))である。図4を参照するに、Mが3以上15以下では(1-(M/λ+C1/M))が0よりも大きくなっていることが分かる。このことから、3≦M≦15の範囲でMを選択することで、複合発電装置10は、光電変換部10A単体の構成の太陽電池よりも大きなエネルギー変換効率が得られることが分かった。
【0064】
図4において、(1-(M/λ+C1/M))が0になる点が2カ所ある。それは、Mが小さい側がλ/2-((λ/2)2-λC1)1/2であり、大きい側がλ/2+((λ/2)2-λC1)1/2である。このことおよび最適なMの詳細な検討によれば、Mはλ/2に最も近い自然数が選択されることが、高温側の温度THの上昇に対してエネルギー変換効率がより向上する点で、好ましい。
【0065】
次に、M=6および10で、上記式2における集光倍率CRを1(非集光)の場合、複合発電装置10のエネルギー変換効率を計算した。
【0066】
図5は、本発明の一実施形態に係る複合発電装置のエネルギー変換効率の計算例を示す図であり、図6は、図5に示した計算例の数値を示す図である。図5において、横軸は複合発電装置の出力電圧(V)であり、縦軸は複合発電装置のエネルギー変換効率η(%)である。図5および図6において、上記式(9)で定義されるξに含まれる複合発電装置10の設計パラメータであるP型およびN型熱電変換素子の実効長leff=(SA/SC)LCを変えてξ<1の範囲でξ1~ξ4について計算した。なお、SA、SCおよびLCの定義は上記式4における定義と同様である。また、出力電圧が高い側(図5の右側)においてエネルギー変換効率ηが0になる出力電圧は、出力電流が0になる電圧であるから開放電圧VOCを表していることになる。
【0067】
図5および図6を参照するに、複合発電装置のエネルギー変換効率ηは、M=6でも10でも、その最大値(最大エネルギー効率)が、従来の単接合型太陽電池のエネルギー変換効率ηの理論的限界である29.5%よりも高くなっていることが分かる。特に、ξの増加に伴って、最大エネルギー効率ηmaxが上昇し、M=6のξ4では34%に達していることが分かる。開放電圧VOCも、ξの増加に伴って増加していることが分かる。以上のことから、複合発電装置10は、従来の理論的限界を超えるエネルギー変換効率を達成できることが分かる。
【0068】
さらに、図6において、M=10およびleff=3.0において高温側温度(吸収層の温度)THが466.9Kの場合、最大エネルギー変換効率ηmaxが33.5%となり、他方、M=6およびleff=2.0で同様のTHが488.5Kでηmaxが32.4%となっている。これらのことから、上記式24を満たす範囲ではMが大きい程好ましいことが分かった。
【0069】
図7は、比較例の複合発電装置のパラメータの計算例を示す図である。図7において、複合発電装置10の電力が光電変換部10A単体で動作させた場合よりも増加しない場合、すなわち、上記式24を満たしていない範囲でのM=2および20を用いた場合を比較例とした。
【0070】
図7を参照するに、比較例のM=2および20のいずれの場合も、実効長leff=0.1の場合が最大エネルギー変換効率ηmaxが29%であり他の実効長leffではそれよりも低くなっている。このことから、上記式24を満たしていない範囲では熱電変換部によるエネルギー変換効率を上昇させる効果がないことが分かる。
【0071】
以上、本発明の実施形態および実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。本発明の実施形態に係る複合発電装置10は、太陽光を受光する前提で説明したが、太陽光に限定されず、吸収層11が光励起を生じる光であれば特に限定されない。
【符号の説明】
【0072】
10、100 複合発電装置
10A 光電変換部
10B 熱電変換部
11 吸収層
12 第1電極
13 第2電極
14 赤外線吸収層
15 熱伝導層
20 高温側接続電極
21 低温側接続電極
22、221~225 P型熱電変換素子
23、231~235 N型熱電変換素子
24 第1出力電極
25 第2出力電極
26 低温体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7