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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】脳機能計測装置及び脳機能計測方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
A61B10/00 E
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022572953
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2021044650
(87)【国際公開番号】W WO2022145176
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2020218674
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】山田 亨
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/174842(WO,A1)
【文献】特開2018-153533(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146725(WO,A1)
【文献】特開2019-170933(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078326(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と光検出部を内蔵する複数のプローブと、
各々の前記プローブにおいて、前記光源から発せられた光による反射光を、前記光検出部により検出すると共に、前記複数のプローブを用いた機能的近赤外分光計測により得られた信号から前記反射光の成分を除去することにより、前記プローブ間の計測チャンネルにおける脳の血流を示す脳機能信号を抽出する制御部を備えた脳機能計測装置。
【請求項2】
前記プローブの各々は、先端において、前記光を照射する照射面、及び前記反射光を取り込む検出面に、偏光方向が互いに直交する直線偏光子を備えた、請求項1に記載の脳機能計測装置。
【請求項3】
前記プローブの各々は、先端に透過率が可変な光減衰器を備え、
前記制御部は、検出されるノイズの分散が全ての前記計測チャンネルにおいて平準化するよう前記透過率を調整する、請求項1に記載の脳機能計測装置。
【請求項4】
前記プローブがそれぞれ、三角格子の頂点に位置するよう配置され、
前記制御部は、いずれの時刻においても、全ての前記光検出部が、隣接する一つの前記プローブから照射された光だけを検出するよう各々の前記プローブによる光の照射と検出を選択的に行わせて、前記光検出部で検出された光の強度を計測する、請求項1に記載の脳機能計測装置。
【請求項5】
前記プローブの各々は、先端に透過率が可変な光減衰器を備え、
前記制御部は、三角格子の頂点に位置する三つの前記プローブから照射される光の量が所望の値となるように全ての前記光減衰器の透過率を初期設定した上で、前記三つのプローブにより計測対象とされる三つの前記計測チャンネルのうち、前記検出により得られた光量が最大である第一の計測チャンネルを特定し、前記第一の計測チャンネルの両端に配置された第一及び第二の前記プローブと、残りの第三の前記プローブとの間にそれぞれ位置する第二及び第三の計測チャンネルにおいて前記検出を行い、前記第二及び第三の計測チャンネルのうち、より小さい光量が検出された前記計測チャンネルの一端に配置された前記第一若しくは前記第二の前記プローブに設けられた前記光減衰器の透過率を、前記第二及び第三の計測チャンネルで検出される光量が等しくなるよう調整し、前記第三の前記プローブに設けられた前記光減衰器の透過率を、前記第二若しくは前記第三の前記計測チャンネルで検出される光量が前記第一の計測チャンネルで検出される光量と等しくなるよう調整し、調整された透過率を維持した状態で、前記機能的近赤外分光計測を行う、請求項4に記載の脳機能計測装置。
【請求項6】
前記制御部は、隣接する第一の前記プローブと第二の前記プローブとの間の前記計測チャンネルにつき計測される光量が、前記第一の前記プローブに隣接する第三の前記プローブと前記第一の前記プローブとの間の前記計測チャンネルにつき観測された観測値になるよう、前記第二の前記プローブより照射される光量を調節し、前記第二の前記プローブと前記第二の前記プローブに隣接する第四の前記プローブとの間の前記計測チャンネルにつき計測される光量が、前記観測値になるよう、前記第四の前記プローブにより検出される光量を調節する、請求項4に記載の脳機能計測装置。
【請求項7】
光源と光検出部を内蔵する複数のプローブと、
前記プローブ間の計測チャンネルにおける脳の血流を示す脳機能信号を計測する制御部を備え、
前記プローブの各々は、
前記プローブの先端に配設され、前記光源から発せられた光による反射光を取り込む検出面と、
前記先端から被検体の略頭皮の厚さだけ離隔した位置に配設され、前記光を照射する照射面を有する脳機能計測装置。
【請求項8】
側面が鏡面加工され、前記反射光を前記光検出部へ導くライトガイドをさらに備えた、請求項7に記載の脳機能計測装置。
【請求項9】
前記照射面は、前記プローブの中心軸から前記プローブの周縁部に向かって、前記位置まで傾斜した、請求項7又は8に記載の脳機能計測装置。
【請求項10】
光源と光検出部を内蔵する複数のプローブを用いて機能的近赤外分光計測を行う脳機能計測方法であって、
各々のプローブにおいて、前記光源から発せられた光による反射光を、前記光検出部により検出する第一のステップと、
前記複数のプローブを用いて前記機能的近赤外分光計測を行う第二のステップと、
前記第二のステップで得られた信号から前記第一のステップで検出された前記反射光の成分を除去することにより、前記プローブ間の計測チャンネルにおける脳の血流を示す脳機能信号を抽出する第三のステップを有する脳機能計測方法。
【請求項11】
前記各々のプローブの先端において、前記光を照射する照射面、及び前記反射光を取り込む検出面に、偏光方向が互いに直交する直線偏光子を設けた、請求項10に記載の脳機能計測方法。
【請求項12】
前記各々のプローブの先端に透過率が可変な光減衰器を設け、検出されるノイズの分散が全ての前記計測チャンネルにおいて平準化するよう前記透過率を調整する、請求項10に記載の脳機能計測方法。
【請求項13】
前記プローブをそれぞれ、三角格子の頂点に位置するよう配置するステップと、
いずれの時刻においても、全ての前記光検出部が、隣接する一つの前記プローブから照射された光だけを検出するよう各々の前記プローブによる光の照射と検出を選択的に行わせて、前記光検出部で検出された光の強度を計測するステップを有する、請求項10に記載の脳機能計測方法。
【請求項14】
前記各々のプローブの先端に透過率が可変な光減衰器を設け、三角格子の頂点に位置する三つの前記プローブから照射される光の量が所望の値となるように全ての前記光減衰器の透過率を初期設定するステップと、
前記三つのプローブにより計測対象とされる三つの前記計測チャンネルのうち、前記検出により得られた光量が最大である第一の計測チャンネルを特定するステップと、
前記第一の計測チャンネルの両端に配置された第一及び第二の前記プローブと、残りの第三の前記プローブとの間にそれぞれ位置する第二及び第三の計測チャンネルにおいて前記検出を行うステップと、
前記第二及び第三の計測チャンネルのうち、より小さい光量が検出された前記計測チャンネルの一端に配置された前記第一若しくは前記第二の前記プローブに設けられた前記光減衰器の透過率を、前記第二及び第三の計測チャンネルで検出される光量が等しくなるよう調整するステップと、
前記第三の前記プローブに設けられた前記光減衰器の透過率を、前記第二若しくは前記第三の前記計測チャンネルで検出される光量が前記第一の計測チャンネルで検出される光量と等しくなるよう調整するステップと、
調整された透過率を維持した状態で、前記機能的近赤外分光法による計測を行うステップをさらに有する、請求項13に記載の脳機能計測方法。
【請求項15】
隣接する第一の前記プローブと第二の前記プローブとの間の前記計測チャンネルにつき計測される光量が、前記第一の前記プローブに隣接する第三の前記プローブと前記第一の前記プローブとの間の前記計測チャンネルにつき観測された観測値になるよう、前記第二の前記プローブより照射される光量を調節するステップと、
前記第二の前記プローブと前記第二の前記プローブに隣接する第四の前記プローブとの間の前記計測チャンネルにつき計測される光量が、前記観測値になるよう、前記第四の前記プローブにより検出される光量を調節するステップをさらに有する、請求項13に記載の脳機能計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳の機能を計測する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非侵襲で大脳皮質の活動を計測する手法として、機能的近赤外分光計測法が知られている。例えば、以下の非特許文献1や非特許文献2には、本計測法において、計測部位によらず皮膚血流の変化が同一であることを仮定することにより、所望の信号を抽出する方法が開示されている。
【0003】
なお、特許文献1には、表層組織の影響度の異なる計測部位および被検者においても、精度の高い計測を実現することを目的とした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】再表2015-15557号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Fabbri F, et al., Phys. Med. Biol. 49, 1183-1201 (2004)
【文献】Yamada T, et al., Journal of Biomedical Optics, 14, 064034 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実際には、頭部における皮膚組織の血管が有する脈管構造は部位によって細かく異なっており、それに応じて部位により皮膚の血流変化の様相も異なるため、該変化が部位によらず同一であるという上記仮定は妥当なものではないという課題がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、部位によって異なる皮膚の血流変化による寄与を、より正確に除去した脳機能信号を得ることのできる脳機能計測装置及び脳機能計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、光源と光検出部を内蔵する複数のプローブと、各々の上記プローブにおいて、上記光源から発せられた光による反射光を、光検出部により検出すると共に、上記複数のプローブを用いた機能的近赤外分光計測により得られた信号から上記反射光の成分を除去することにより、上記プローブ間の計測チャンネルにおける脳の血流を示す脳機能信号を抽出する制御部を備えた脳機能計測装置を提供する。
【0009】
また、上記課題を解決するため、本発明は、光源と光検出部を内蔵する複数のプローブを用いて機能的近赤外分光計測を行う脳機能計測方法であって、各々のプローブにおいて、上記光源から発せられた光による反射光を、光検出部により検出する第一のステップと、上記複数のプローブを用いて上記機能的近赤外分光計測を行う第二のステップと、第二のステップで得られた信号から第一のステップで検出された反射光の成分を除去することにより、上記プローブ間の計測チャンネルにおける脳の血流を示す脳機能信号を抽出する第三のステップを有する脳機能計測方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、部位によって異なる皮膚の血流変化による寄与を、より正確に除去した脳機能信号を得ることのできる脳機能計測装置及び脳機能計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る脳機能計測装置1の構成を示すブロック図である。
図2図1に示された計測部2の構成を示す断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る脳機能計測方法を示すフローチャートである。
図4図2に示されたプローブ2A,2Bを三角格子の頂点に配置した三点複向方式による脳機能計測方法を説明するための平面図である。
図5A】従来のプローブ多重配置方式による脳機能計測方法を説明するための第一の断面図である。
図5B】従来のプローブ多重配置方式による脳機能計測方法を説明するための第二の断面図である。
図6図2に示されたプローブ2Aの第一変形例に係るプローブ9の構成を示す断面図である。
図7図2に示されたプローブ2Aの第二変形例に係るプローブ10の構成を示す断面図である。
図8A図2に示されたプローブ2Aの作用効果を説明するための断面図である。
図8B図6に示されたプローブ9の作用効果を説明するための断面図である。
図8C図7に示されたプローブ10の作用効果を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る脳機能計測装置1の構成を示すブロック図である。図1に示されるように、脳機能計測装置1は入出力端子Tと、入出力端子Tに接続されたバスbと、それぞれバスbに接続された計測部2、制御部3、及び記憶部Mを備える。
【0014】
ここで、計測部2は後述するように複数のプローブにより構成され、機能的近赤外分光法(functional near-infrared spectroscopy:fNIRS)により、被検体の頭部における血流を計測する。また、制御部3は中央演算処理装置(central processing unit:CPU)により構成され、後述するように計測部2による計測を制御する。また、記憶部Mはメモリにより構成され、計測部2による計測で得られたデータを記憶すると共に、CPUで実行するプログラムを格納する。
【0015】
図2は、図1に示された計測部2の構成を示す断面図である。図2に示されるように、計測部2は同じ構成を有する複数のプローブ2A,2Bを含み、各プローブ2A,2Bは異なる波長の光を発する二個の光源4と、光検出器5と、互いに密着させてプローブ2A,2Bの先端に配設された直線偏光子6及び光減衰器7を備える。
【0016】
図2において、破線の矢印は、プローブ2Aに内蔵された、図面に向かって右側の光源4から出た光が、被検体の頭部で反射してプローブ2A,2Bの光検出器5へ入る様子を図示したものである。また同様に実線の矢印は、プローブ2Bに内蔵された、図面に向かって左側の光源4(図示省略)から出た光が、被検体の頭部で反射してプローブ2B,2Aの光検出器5へ入る様子を図示したものである。
【0017】
なお、図2においては、被検体の頭部の内部構造として、頭部表面から順に頭皮h1、骨h2、脳組織h3の各層が図示されているが、以下の図でも同様である。
【0018】
図3は、本発明の実施の形態に係る脳機能計測方法を示すフローチャートである。以下においては、本発明の実施の形態に係るfNIRSによる脳機能計測方法を、図1及び図2に示された脳機能計測装置1を用いて実行する場合を例に挙げて説明するが、本方法は脳機能計測装置1を用いて実行する場合に限られるものでないことは言うまでもない。
【0019】
ステップS1では、図2の二つの短い矢印に示されるように、各々のプローブ2A,2Bにおいて、光源4から発せられ被検体の頭部で反射された光を、光検出器5により検出する。
【0020】
次に、ステップS2では、複数のプローブ2A,2Bを用いて機能的近赤外分光計測を行う。
【0021】
そして、ステップS3では、ステップS2で得られた信号からステップS1で検出された反射光の成分を除去することにより、プローブ2A,2B間の計測チャンネルにおける脳の血流を示す脳機能信号を抽出する。
【0022】
なお、上記において、ステップS1とステップS2は、いずれを先に実行しても良いことは言うまでもない。
【0023】
以下において、このような脳機能計測方法が有用である理由について詳しく説明する。fNIRSによる計測で用いるプローブペアは頭皮上での相互距離が短いほど、深部組織に対する検出感度が低くなる。そこで、複数の異なる相互距離のプローブペアを導入し、それらで得た信号を比較することによって深部組織(すなわち大脳皮質組織)に由来する信号を抽出する。このため、この類型の方法は、プローブ多重配置法(multidistance method)と総称される。
【0024】
ここで、通常、深部組織の信号を検出するために配置されたプローブペアによる計測を以下では通常距離計測と呼ぶ。一方で、プローブペアの相互距離が短くなるほど大脳皮質に到達した光を検出できる感度は低下する。このように主に皮膚血流変化の計測を目的として短い距離のプローブ間で行われる計測を以下では近距離計測と呼ぶ。プローブ多重配置法では、通常計測と近距離計測の信号比較に基づいて通常計測により得られる信号に含まれる脳機能信号を抽出する。
【0025】
ただし、近距離計測に用いるプローブペアの適切な相互距離や信号比較手法に関しては仮定された頭部血流変化モデルの違いによって諸説が提唱されている。例えば、図5Aのように一つの照射プローブS1と2つの検出プローブD1,D2を用いたプローブ多重配置での通常距離と近距離の計測データに基づいて脳機能信号を抽出する方法は以下のように提案されている。
【0026】
ここで、図5Aの照射プローブS1と検出プローブD1を用いて計測される吸光度変化をa(t)とし、照射プローブS1と検出プローブD2を用いて計測される吸光度変化をa(t)とし、簡便のために皮膚組織と脳組織での光学特性の変化のみに着目すると、以下の2つの式が成り立つ。
【数1】
【数2】
【0027】
なお、式(1)及び式(2)において、それぞれ、下添字の1は通常計測、下添字の2は近距離計測を、上添字のSは皮膚組織、上添字のBは脳組織を示し、各添字を付した(小文字エル)lとΔμはそれぞれの計測、組織での光路長と光学特性変化を示す。
【0028】
いま、皮膚組織での通常計測時と近距離計測時の光路長の比を定数kとして以下のように定める。
【数3】
【0029】
そして、上記の式(1)から式(3)より、脳組織での光学特性変化Δμ(t)は以下のように得られる。
【数4】
【0030】
ここで、定数kの数値を与える方法は幾つか考えられる。例えば、各被検体のヒト頭部の光伝搬のシミュレーションを行うことを厭わなければ、各組織での光路長を具体的に算出し、式(3)により定数kを与えられる。より簡便には、当該観測部位で脳活動がない状態すなわちΔμ(t)がゼロの状態での計測データであるアスタリスクa(t),同a(t)を用いれば、定数kは以下のように与えることもできる。
【数5】
【0031】
ただし、脳活動がない状態での計測データは概して平坦波形であるため、式(5)の右辺の値は安定しない。値の安定な算出のためには、脳活動がない状態では以下の式(10)右辺の分母項が平坦になるべきことに着目して以下のような定数kを単一変数としたコスト関数を構成し、その最小化問題として定数kを求めることが有用である。
【数6】
なお、上式(6)の右辺はベクトルのノルムを表す。
【0032】
ここで注目しなければならないのは、この手法では、部位によらない皮膚血流変化の同一性を仮定している点である。この仮定ゆえに、式(1),(2)は2変数の連立一次方程式を構成でき、式(4)を導出できる。
【0033】
今までにプローブ多重配置法として提案されてきた従来手法は、この皮膚血流変化同一性の仮定を含む何らかの頭部血流モデルに立脚している。しかし近年の研究では、頭部の皮膚組織の血管の脈管構造は部位によって細かく異なっており、それに応じて部位によって皮膚血流変化の様相も異なることが明らかにされている。
【0034】
従って、皮膚血流変化が部位によらず同一であるという仮定は必ずしも妥当とは言えないため、部位による皮膚血流変化の違いが脳機能信号の算出に与える影響について更に考察する必要がある。
【0035】
従来のプローブ多重配置法は、図5A図5Bに示されるように、一つの通常距離のプローブペア(照射プローブS1及び検出プローブD1)と、一つの近距離配置のプローブペア、すなわち図5Aでは照射プローブS1及び検出プローブD2、図5Bでは照射プローブS2及び検出プローブD1を構成し、光路が異なる計測での信号を比較することで皮膚血流変化の寄与を除去するものであった。
【0036】
図5A及び図5Bに示された照射プローブS1と検出プローブD1で行われる通常計測では皮膚組織の観測部位は照射プローブS1直下および検出プローブD1直下であるのに対して、近距離計測での皮膚組織の観測部位は図5Aでは照射プローブS1直下と検出プローブD2直下であり、図5Bでは照射プローブS2直下と検出プローブD1直下である。いずれの場合も通常計測と近距離計測で観測される皮膚部位が異なるのであり、通常計測と近距離計測の比較から皮膚血流変化の影響を完全に除去することはできない。この問題は、通常距離計測と近距離計測を各1つずつ用いることで生じる原理的困難である。
【0037】
さらに、こうしたプローブ多重配置法を実現しようとすると、近距離計測用プローブペアのうちの一つのプローブを図5A及び図5Bのように通常計測用のプローブペアと共用した場合においてさえ、チャンネル数と同数のプローブ追加が必要である。したがって、ヘッドセット重量による被検体への負荷増大や、プローブの混み合いによる毛髪かき分け作業の困難化、及び当初のチャンネル密度以上のチャンネル高密度化の困難などの問題が生じる。
【0038】
そこで、本発明の実施の形態に係る脳計測方法は、通常距離計測と近距離計測を各々1回ずつ行うために生じるプローブ多重配置法の原理的困難を克服するための新たな手法を採用することにより、プローブを追加することなくfNIRSによる計測を実現したものである。
【0039】
以下においては、図3に示された脳機能計測方法について、図2を参照しつつ詳しく説明する。図2に示されるように、照射と検出の機能を兼ね備えた2つのプローブ2A,2Bを通常距離に配置し、両プローブ間での通常距離計測に加えて、単独のプローブ2A,2Bのみを用いた近距離計測を行う。図2の実線矢印で示したように、プローブ2Bからの照射により頭部組織を伝搬した光の一部はプローブ2Aにより検出され、他の一部の光は頭部組織のごく浅い部分で散乱された後にプローブ2B自身によって検出される。対称的に、破線矢印で示したように、プローブ2Aからの照射により頭部組織を伝搬した光の一部はプローブ2Bにより検出され、他の一部の光は頭部組織のごく浅い部分で散乱されたのちにプローブ2A自身によって検出される。ここで、単独のプローブ2A,2Bのみによる照射及び検出は、従来のプローブ多重配置法の近距離計測のプローブペア間の距離をゼロにしたものに相当する。
【0040】
上述したプローブ2A,2Bによる4種類の計測は、一対のプローブ2A,2Bが互いに役割を入れ替えて行う共役的な構造をもっている。以下ではこれを多重共役計測と呼び、単独のプローブ2A,2Bのみによる照射及び検出をゼロ距離計測と呼ぶ。
【0041】
上記のように、従来のプローブ多重配置法では、通常計測と近距離計測で光路にある皮膚組織の部位が異なっており、この違いを両者の比較によって除去できないことが問題であった。これに対して、多重共役計測では、ゼロ距離計測ではプローブ直下の皮膚血流変化が検出され、用いるプローブそれぞれでゼロ距離計測を行うことから、この問題が回避できる。したがって、2つの通常計測と2つの近距離計測を利用すれば、プローブ直下の皮膚血流変化を除去して脳組織での血流変化のみを観測することができるはずである。
【0042】
以下、多重共役計測で得られた信号を用いて頭皮組織での血流変化の影響を除去する方法について詳しく説明する。図2に示された計測に関し、プローブiから照射され、プローブjで検出される光の吸光度変化をai,jとし、その光の皮膚組織および脳組織での部分光路長を(小文字エル)l i,jおよび(小文字エル)l i,jとする。また、計測時にその光路の各組織で生じた光吸収変化をΔμ i,jおよびΔμ i,jとする。このとき、図2に示した4つの計測で得られる信号に関して以下の式が成り立つ。
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0043】
図2における2つの通常計測は共役な配置での計測であるため、式(8)及び式(9)の第1項および第2項はそれぞれ等値である。また、それらのうち第1項はプローブ直下の部位の寄与を含むことは自明である。そこで、定数k及び定数kがゼロより大きいことを用いて、これを以下のように表す。
【数11】
【0044】
ここで、δはプローブ直下以外の皮膚組織の寄与である。一般にプローブ直下以外の皮膚組織に対する計測感度は直下のそれに比べて一桁以上低いため、このδは無視できる。したがって、式(11)を用いて式(7)から式(10)の連立方程式を解くと以下を得る。
【数12】
【数13】
【0045】
ここで以下の式(14)及び式(15)のように、プローブペアで構成される計測チャンネルCHでの計測量を共役計測量の平均値と定義する。
【数14】
【数15】
【0046】
そして、式(12)及び式(13)より以下が成立する。
【数16】
【0047】
したがって、適切な定数k及び定数kを与えることにより、多重共役計測量と式(16)に基づいて従来のプローブ多重配置計測よりも正確に脳機能信号の時間変化(小文字エル)l CHΔμ CH(t)を推定することができる。
【0048】
式(16)で与えられる脳機能信号(小文字エル)l CHΔμ CH(t)のうち(小文字エル)l CHは、頭部組織の解剖学的な構造と光学特性に依存する脳の活動状態とは独立な定数である。一方、Δμ CH(t)は、脳の活動状態に即した血流変化を反映する。従って、適切な定数k及び定数kを用いた場合、プローブペアが置かれた脳機能領野が神経活動をしていない安静状態では、Δμ CH(t)はほぼ平坦な時間波形を示さなければならない。このことは、安静状態で計測された有限な時間長のデータセットであるアスタリスクa1,1(t)、アスタリスクa1,2(t)、アスタリスクa2,1(t)、及びアスタリスクa2,2(t)を用いて定められる以下の式(17)で示されるコスト関数J(k,k)が最小値を取ることを要請する。
【数17】
【0049】
すなわち、式(17)を脳機能信号の推定に適用するために適切な定数k及び定数kを見出す問題は、式(17)で与えられるコスト関数の最小値Jmin(アスタリスクk,アスタリスクk)を求める最適化問題と考えることができる。このような最適化問題は、最急降下法をはじめとする種々の手法が数学的に整備されており、それらのいずれかを用いて容易に短時間で解くことができる。このようにして得られるアスタリスクk及びアスタリスクkは、(小文字エル)l CHと同様に頭部組織の解剖学的な構造と光学特性に依存する定数であるため、ある被検体における、あるプローブペアの配置部位に対して一意に定まる。
【0050】
以上のことから、被検体にプローブ2A,2Bを装着した後に、まず安静状態で多重共役計測を行い、そのデータについて式(17)を最小化するアスタリスクk及びアスタリスクkを決定した後に、任意の多重共役計測量とともに式(16)に用いることで、各時刻の脳機能信号を示す(小文字エル)l CHΔμ CH(t)をリアルタイムで推定することができる。
【0051】
次に、図2に示された直線偏光子6について詳しく説明する。プローブ多重配置計測では、近距離計測でプローブ2A,2Bと頭皮の間にある毛髪の表面によって照射光が鏡面反射し、頭部組織を伝搬しないまま検出されることが問題になる。なぜなら、このような検出光は頭部組織内の血流変化の情報を全く含まないのみならず、頭部組織を伝搬したのちに検出される光に比べて強い強度を持つため、本来検出すべき頭部組織の血流変化信号を漂白してしまう性質をもつからである。上記のゼロ距離計測でも同様の問題が生じる。
【0052】
そこで、プローブ多重配置法の近距離計測で毛髪反射光を排除して頭部組織からの光を選択的に検出するため、毛髪表面での反射では光の偏光面が保存される性質を用いて、プローブ2A,2B先端の照射面と検出面に直線偏光子6を偏光方向が互いに直交するよう配置して取り付けると好適である。具体的には、図2に示されるように、照射及び検出という両用のプローブ2A,2Bとして、同一筐体に照射用の光源4と光検出器5が格納され、完全に分離された照射光路と検出光路をもつハイブリッドセンサを用いる必要があり、照射面と検出面に分離されたセンサ窓のそれぞれの面に直線偏光子を偏光方向が互いに直交する配置で取り付けることによって、有効に毛髪反射光を排除して頭部組織からの光を選択的に検出できることになる。
【0053】
次に、図2に示された光減衰器7について詳しく説明する。プローブ2A,2Bと頭皮の間にある毛髪はまた、プローブ2A,2Bと頭部組織間の光透過率を低下させる。その毛髪量はしばしば計測チャンネルごとに異なるため、これに応じて検出光量は計測チャンネルごとに異なることになる。これを一定の入力値に較正する従来の方法では、検出光量が小さい計測チャンネルでの検出器雑音の過大な増幅に起因する信号雑音の増大が生じていた。
【0054】
このような問題を克服するため、WO2016/132989号公報に記されているように、プローブ2A,2Bの先端に設ける光減衰器7を透過率可変なものとし、検出されるノイズの分散が全ての計測チャンネルにおいて平準化するよう制御部3が上記透過率を調整する方法を採用すると好適である。
【0055】
このような平準化手法を併用すれば、プローブペアでの共役な計測の信号対雑音比は最良の水準に平準化され、その結果、精度の高い脳機能信号の推定が実現できる。
【0056】
次に、図3に示された脳機能計測方法は、特開2015-100410号公報に記された三点複向式による多チャンネル計測法により計測する場合にも有用であるため、以下においては、図4を参照しつつ両方法を併用する場合について詳しく説明する。なお、図4における各々の矢印の根本は、プローブ2A~2Dから光が照射されることを表し、同矢印の先は、プローブ2A~2Dにより光が検出されることを表している。
【0057】
上記の三点複向式による多チャンネル計測法では、図4に示されるように、プローブ2A~2Dがそれぞれ、三角格子の頂点に位置するよう高密度に配置され、制御部3は、いずれの時刻においても、全ての光検出器5が、隣接する一つのプローブ2A~2Dから照射された光だけを検出するよう各々のプローブ2A~2Dによる光の照射と検出を選択的に行わせて、光検出器5で検出された光の強度を計測する。
【0058】
すなわち、ある時刻において、一つのプローブを照射に用い、他のプローブを検出に用いることになるが、この照射と検出を順次行うことで、全てのプローブ2A~2D間で正逆2方向の計測が完了する。このとき、図4の各プローブ2A~2Dにおいて模式的に円弧状の矢印で示すように、照射に用いるプローブ2A~2D自身においても検出を行う。
【0059】
このような三点複向式の多チャンネル計測法を、直線偏光子6と光減衰器7を備えたプローブ2A~2D(ハイブリッドセンサ)を用いて実施すれば、高密度な計測チャンネルにおいて、皮膚血流変化の影響が除去された脳機能信号をリアルタイムで得ることができる。
【0060】
ここで、上記三点複向式の多チャンネル計測法においては、WO2018/190130号公報に記載された雑音の平準化手法を併用すると好適である。すなわち例えば、制御部3は、三角格子の頂点に位置する三つのプローブ2A~2Cから照射される光の量が所望の値となるように全ての光減衰器7の透過率を初期設定した上で、三つのプローブ2A~2Cにより計測対象とされる三つの計測チャンネルのうち、検出により得られた光量が最大である第一の計測チャンネルを特定する。ここで、第一の計測チャンネルがプローブ2A,2Bの間に位置するチャンネルである場合には、本チャンネルの両端に配置された第一及び第二のプローブ2A,2Bと、残りの第三のプローブ2Cとの間にそれぞれ位置する第二及び第三の計測チャンネルにおいて検出を行い、第二及び第三の計測チャンネルのうち、より小さい光量が検出された計測チャンネル、例えばプローブ2B,2Cの間の計測チャンネル、の一端に配置された第一若しくは第二のプローブ(プローブ2B)に設けられた光減衰器7の透過率を、第二及び第三の計測チャンネルで検出される光量が等しくなるよう調整し、第三のプローブ2Cに設けられた光減衰器7の透過率を、第二若しくは第三の計測チャンネルで検出される光量が第一の計測チャンネルで検出される光量と等しくなるよう調整し、調整された透過率を維持した状態で、機能的近赤外分光計測を行えば、より精度の高い脳機能信号を得ることができる。
【0061】
また、上記三点複向式の多チャンネル計測法においては、WO2020/174842号公報に記載された雑音の平準化手法を併用することも好適である。すなわち例えば、制御部3は、隣接する第一のプローブ2Aと第二のプローブ2Bとの間の計測チャンネルにつき計測される光量が、第一のプローブ2Aに隣接する第三のプローブ2Cと第一のプローブ2Aとの間の計測チャンネルにつき観測された観測値になるよう、第二のプローブ2Bより照射される光量を調節し、第二のプローブ2Bと第二のプローブ2Bに隣接する第四のプローブ2Dとの間の計測チャンネルにつき計測される光量が上記観測値になるよう、第四のプローブ2Dにより検出される光量を調節した上で機能的近赤外分光計測を行えば、より精度の高い脳機能信号を得ることができる。
【0062】
以上より、本発明の実施の形態に係る脳機能計測装置1及び図3に示された脳機能計測方法によれば、プローブ2A~2D直下の反射光成分を計測することで、部位によって異なる皮膚の血流変化による寄与を、より正確に除去した脳機能信号を得ることができる。以下において、より詳しく説明する。
【0063】
従来のプローブ多重配置法は通常計測のプローブペアとは別の位置に新たなプローブを導入する必要があったため、この位置の皮膚血流変化の影響を適切に除去することが原理的に困難であった。そのため、従来のプローブ多重配置を用いた皮膚血流変化の影響除去方法の多くは、皮膚血流変化はどの位置でも一様であると仮定せざるを得なかった。しかし近年の研究では、頭部の皮膚血流はそこでの血管の脈管構造に応じて細かく異なることが分かっており、この仮定の限界が示されつつある。
【0064】
これに対して上記の脳機能計測装置1や図3に示された脳機能計測方法では、用いるプローブの直下の皮膚血流変化を実際に計測する。そのため、頭部の皮膚血流がプローブ位置ごとに異なる変化を示した場合にも、それらの寄与を有効に除去することができる。
【0065】
また従来のプローブ多重配置法では、通常計測用のプローブに加えて新たなプローブを導入するため、プローブの必要総数が増加し、プローブ間隔が狭くなる。これは装着時の毛髪かき分け作業などを著しく困難にすると同時に、プローブセット全体の重量も増加させる。
【0066】
これに対して上記の脳機能計測装置1や図3に示された脳機能計測方法では、多重共役計測のための新たなプローブを必要としない。このため、毛髪掻き分け作業の長時間化や重いプローブセットによる実験時の被検体への負荷増大を避けることができる。
【0067】
また、fNIRSにより得られた頭部皮膚血流変化の影響を含む信号から脳機能信号を分離する別の方法として、我々は血流動態分離法を提案している(特開2012-239668号公報参照)。この手法は、脳血流変化では酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンが逆相関し、皮膚血流変化での様態とは異なるという仮定に基づいて通常計測により得られた信号のみから分離を行うため、近距離計測が不用であった。この仮定は、動物およびヒトでの多数の神経科学研究で妥当性を確認されているものの、病態例や乳児等の未発達の脳組織を含むすべてで妥当であるかは未解明である。実際、我々はサルの脳卒中モデル研究において、運動機能回復後の機能代償領野における脳血流変化が健常時の機能領野の血流変化と異なる挙動を示すことを見出している。
【0068】
一方で、上記脳機能計測装置1や図3に示された脳機能計測方法で採用している原理によれば、血流動態に関する上述の仮定とは無関係に正しく脳組織における血流変化を観測することが可能である。このため、病態や機能回復に伴う脳血流動態の変容が生じるのであれば、その変容を非侵襲に観測することができるため、診断に役立つデータの取得が可能となる。
【0069】
また、光路が重複する多数のチャンネルでの計測データを前提として、データから頭部構造やそこでの血流変化の3次元的描出を試みる拡散光トモグラフィ(Diffuse Optical Tomography: DOT)と呼ばれる手法がある。DOTを用いれば、血流変化の3次元描出画像から脳組織での血流変化のみを容易に弁別できる。
【0070】
しかしながら、描出精度の向上のためには非常に多くのプローブを用いるか、その代わりに、単純化された仮定を必要とする。さらに、3次元画像の描出に必要な計算負荷が大きいため、計測中にリアルタイムで描出することは現時点ではほぼ不可能であることが利用上の大きな難点となっている。
【0071】
これに対して、上記の脳機能計測装置1や図3に示された脳機能計測方法によれば、多重共役計測データから過度に単純化された仮定を用いずに脳機能信号を必要な空間分解能で、リアルタイムに観測することが可能となる。
【0072】
図6は、図2に示されたプローブ2Aの第一変形例に係るプローブ9の構成を示す断面図である。図2に示されたプローブ2Aでは、光検出面と光照射面が同一平面上に設けられているのに対し、図6に示されたプローブ9の光検出面DPは先端に配設され、プローブ9の光照射面EP1は当該先端から被検体の略頭皮の厚さだけ離隔した位置に配設される。より具体的には、プローブ9は、その中心部に設けられた光検出面DPが、プローブ9の周縁部の光照射面EP1から突出された構成を有する。
【0073】
ここで、光検出面DPと光照射面EP1の段差の長さは、被検体の頭部表面から血管を含む真皮層までの深さ(頭皮h1の厚さ)よりも若干短い値であることが望ましい。
【0074】
このような段差を設けていない図2に示されたプローブ2Aを頭皮に圧迫密着させた場合には、図8Aに示されるように、プローブ2A直下の皮膚組織は圧迫のために薄くなってしまう。このため、照射光はほとんど皮膚組織を通過せずに頭蓋骨層に到達し散乱され、その一部が同一プローブ2Aで検出されることになるが、この光は復路でも同様にほとんど皮膚組織を通過しないことから、プローブ2Aの検出器5で計測される信号は皮膚組織の血流変化の情報をほとんど含まないことが生じうる。
【0075】
これに対して、上記段差を設ければ、図8Bに示されるように、プローブ9を頭皮に圧迫密着させても光照射面EP1と頭蓋骨表面の間には段差に相当する厚みを持った皮膚組織が残るため、当該皮膚組織の血流変化の情報をより安定かつ確実に計測することができる。
【0076】
また、検出対象とする当該反射光を検出器5へ導くための検出用ライトガイドの側面には、この段差部分で検出器5が光を拾わないように鏡面加工部8が設けられる。これにより、確実に段差に相当する皮膚組織を通過して頭蓋骨層まで到達した光のみを検出できる。
【0077】
また、プローブ9の光照射面EP1が頭皮h1に対して平行にされることで、プローブ9の直下に照射される光の量を多くし、被検体頭部の深部へ伝搬される光の割合を高めることができる。これにより、上記通常計測において、皮膚と頭蓋骨間の光伝搬を抑制することができる。
【0078】
図7は、図2に示されたプローブ2Aの第二変形例に係るプローブ10の構成を示す断面図である。図7に示されるように、プローブ10はプローブ9と同様な構成を有するが、プローブ10の中心軸からプローブ10の周縁部に向かって、当該反射光を取り込む光検出面DPより被検体の略頭皮の厚さだけ高い位置まで傾斜した光照射面EP2を有する。
【0079】
このように、光照射面EP2にテーパーがつけられているため、図8Cに示されるように、皮膚組織への照射体積を大きくすることができ、その結果、プローブ9を使用した場合に比して信号振幅を大きくすることができる。
【0080】
また、それぞれ図6図7に示されたプローブ9,10は、図2に示されたプローブ2Aに比して直線偏光子6が不要であるというメリットがある。これは、上記のように、光照射面EP1,EP2と光検出面DPに段差を設けたことにより、照射光を直接検出することを回避できたことによる。
【0081】
なお、これらのプローブ9,10では、図6及び図7に示されるように、プローブ2Aにおいて直線偏光子6の直上に配設されていた光減衰器7は、上記段差部分を避けて、光源4直下に配設される。
【0082】
また、プローブ9,10のように先端が段差形状のプローブを頭部に固定した場合は、突出した光検出面DPはより安定かつ確実に皮膚組織の深部に固定される。これより、たとえ照射光が頭皮表面に漏れ出て散乱されることがあったとしても、この散乱光が頭部組織への伝搬を経ずに隣接するプローブにおいて直接検出されてしまう事象を防ぐことができる。このような長所は、頭部組織を伝搬した光の計測を前提とする、特開2015-100410号公報に記された三点複向計測や、その計測信号に対して雑音平準化を行う上でも有用である。
【符号の説明】
【0083】
1 脳機能計測装置、2 計測部、2A~2D,9,10 プローブ、3 制御部、4 光源、5 光検出器、6 直線偏光子、7 光減衰器、8 鏡面加工部、EP1,EP2 光照射面、DP 光検出面、h1 頭皮。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図8C