(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】焼菓子用油脂組成物、ならびに、それを含む冷菓用焼菓子および複合冷菓
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240613BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20240613BHJP
A23G 9/48 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A23D9/00 518
A21D13/80
A23G9/48
(21)【出願番号】P 2020033579
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 恵
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-027079(JP,A)
【文献】特開2018-164433(JP,A)
【文献】特開2019-122343(JP,A)
【文献】特開昭54-031407(JP,A)
【文献】日本油化学会誌,1996年,vol.45, no.1,pp.29-36
【文献】食品油脂の科学,1989年,p.5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00-9/06
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(a)~(c)を満たす
冷菓用焼菓子用の油脂組成物;
(a)油脂組成物中の油相のトリグリセリド組成において、CN50~58のトリグリセリドの含量が、30~97質量%である;
(b)前記油相の構成脂肪酸組成において、多価不飽和脂肪酸の含量が8~45質量%である;
(c)10℃における前記油相のSFCが4~20%であり、かつ0℃における前記油相のSFCが8~30%である。
【請求項2】
さらに次の条件(d)を満たす、請求項1に記載の油脂組成物;
(d)前記油相の構成脂肪酸組成において、炭素数18の飽和脂肪酸の含量に対する炭素数16の飽和脂肪酸の含量の質量比が、0.05~5である。
【請求項3】
さらに次の条件(e)を満たす、請求項1または2に記載の油脂組成物;
(e)前記油相の構成脂肪酸組成において、不飽和脂肪酸の含量に対する飽和脂肪酸の含量の質量比が、0.1~0.4である。
【請求項4】
さらに次の条件(f)を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂組成物;
(f)前記油相のトリグリセリド組成において、CN34~38のトリグリセリドの含量に対するCN50~58のトリグリセリドの含量の質量比が、40~100である。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の油脂組成物を含有する冷菓用焼菓子。
【請求項6】
請求項5に記載の焼菓子と冷菓を含む複合冷菓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼菓子用油脂組成物、ならびに、それを含む冷菓用焼菓子および複合冷菓に関する。
【背景技術】
【0002】
嗜好の多様化に伴い、様々な冷菓が開発されており、そのうちの1つに、ビスケット等の焼菓子および冷菓を含む複合冷菓がある。このような複合冷菓は、例えば、油脂を含む生地を焼いて焼菓子を作製し、アイスクリーム等の冷菓を焼菓子に載せる、冷菓を焼菓子で挟む等することにより、製造される。
【0003】
上記のような複合冷菓では、複合冷菓の輸送時および保管時に、水分が冷菓や雰囲気などから焼菓子に移行して焼菓子の食感が損なわれる、という問題が知られている。焼菓子が水分を吸収してしまうと、例えばカリッとしたほど良く固い食感や香ばしさなど、焼菓子特有の性質が損なわれてしまう。そのような水分移行の問題に対し、従来、主に「アイス側の工夫」、「焼菓子側の工夫」および「複合時の工夫」の3つの観点から、水分移行を抑制する方法が検討されてきた。
【0004】
「アイス側の工夫」として、例えば、特許文献1は、セルロース等の増粘安定剤をアイスクリームに入れて、クッキー等の吸水性食材に水分が移行することを抑制する方法を開示する。
【0005】
「焼菓子側の工夫」として、例えば、特許文献2は、焼菓子の生地の中に、ケイ酸カルシウム等の吸湿性物質を添加して、焼菓子の食感を維持しやすくする方法を開示する。また、例えば、特許文献3は、焼菓子にセルロースを添加して、焼菓子が吸湿して軟化するまでの時間を長くする方法を開示する。
【0006】
「複合時の工夫」として、例えば、特許文献4、5は、チョコレートや糖結晶等を使用して焼菓子および冷菓をそれぞれ被覆して、経時的な水分移行の抑制を図り、可食容器として機能する焼菓子の食感の低下を抑制する方法を開示する。
【0007】
また、例えば特許文献6には、常温域において焼菓子への水分移行の抑制を図る油脂組成物が開示されている。一方、焼菓子および冷菓を含む複合冷菓ではないが、近年、チルド温度域または冷凍温度域まで冷やし喫食するための焼菓子も開発されている(特許文献7、8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-106587号公報
【文献】特開2019-047753号公報
【文献】特開平08-205778号公報
【文献】特開2005-237319号公報
【文献】特開平11-266777号公報
【文献】特開2009-039076号公報
【文献】特開2019-122343号公報
【文献】特開2018-130037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の方法では次のような問題が見出された。水分移行の抑制を図るための材料を添加する方法では、焼菓子および冷菓の味や食感が変化してしまう場合がある。焼菓子および冷菓をそれぞれ被覆する方法については、焼菓子や冷菓が定形を有する場合および設備や製造機器が整っている場合など、適用できる範囲に限りがある。また、焼菓子および冷菓をそれぞれ被覆できた場合であっても、製品の輸送や保管の際の温度環境(例えば冷凍温度域)において、水分移行の充分な抑制効果は得られていなかった。特許文献6では、もともと焼菓子の原材料である油脂組成物に水分移行抑制機能を持たせることにより、焼菓子の食感を維持しながら、常温域においては、水分移行を抑制する充分な効果が得られる。しかしながら、特許文献6の油脂組成物では、常温域における使用が想定されているから、そのような油脂組成物を複合冷菓に使用した場合には、冷凍温度域において油脂組成物が硬くなり、焼菓子の食感が変化する場合がある。
【0010】
そこで、焼菓子および冷菓を含む複合冷菓が冷凍温度域にあっても、焼菓子の食感を維持し、かつ、焼菓子への水分移行を抑制できる油脂組成物があると好ましい。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、焼菓子および冷菓を含む複合冷菓が冷凍温度域にあっても、焼菓子の食感を維持し、かつ、焼菓子への水分移行を抑制できる油脂組成物の提供を目的とする。また、本発明は、上記油脂組成物を含む冷菓用焼菓子および複合冷菓の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、油脂組成物中の油相が、特定のトリグリセリド組成と特定の構成脂肪酸組成を有し、かつ、特定範囲のSFCを有するように、油相の結晶多形を制御することにより、解決できた。具体的には、以下の手段<1>により、好ましくは<2>以降の手段により、上記課題は解決された。
<1>
以下の条件(a)~(c)を満たす焼菓子用油脂組成物;
(a)油脂組成物中の油相のトリグリセリド組成において、CN50~58のトリグリセリドの含量が、30~97質量%である;
(b)油相の構成脂肪酸組成において、多価不飽和脂肪酸の含量が8~45質量%である;
(c)10℃における油相のSFCが4~20%であり、かつ0℃における油相のSFCが8~30%である。
<2>
さらに次の条件(d)を満たす、<1>に記載の油脂組成物;
(d)油相の構成脂肪酸組成において、炭素数18の飽和脂肪酸の含量に対する炭素数16の飽和脂肪酸の含量の質量比が、0.05~5である。
<3>
さらに次の条件(e)を満たす、<1>または<2>に記載の油脂組成物;
(e)油相の構成脂肪酸組成において、不飽和脂肪酸の含量に対する飽和脂肪酸の含量の質量比が、0.1~0.4である。
<4>
さらに次の条件(f)を満たす、<1>~<3>のいずれか1つに記載の油脂組成物;
(f)油相のトリグリセリド組成において、CN34~38のトリグリセリドの含量に対するCN50~58のトリグリセリドの含量の質量比が、40~100である。
<5>
<1>~<4>のいずれか1つに記載の油脂組成物を含有する冷菓用焼菓子。
<6>
<5>に記載の焼菓子と冷菓を含む複合冷菓。
【発明の効果】
【0013】
本発明の焼菓子用油脂組成物により、焼菓子および冷菓を含む複合冷菓が冷凍温度域にあっても、焼菓子の食感を維持し、かつ、焼菓子への水分移行を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<冷菓用焼菓子に使用される油脂組成物(焼菓子用油脂組成物)>
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明の焼菓子用油脂組成物は、以下の条件(a)~(c)を満たす;
(a)油脂組成物中の油相のトリグリセリド組成において、CN50~58のトリグリセリドの含量が、30~97質量%である;
(b)油相の構成脂肪酸組成において、多価不飽和脂肪酸の含量が8~45質量%である;
(c)10℃における油相のSFCが4~20%であり、かつ0℃における油相のSFCが8~30%である。
【0015】
なお、本明細書において、「トリグリセリド組成」は、油相に含まれるトリグリセリドの種類に基づいた構成割合を意味し、「構成脂肪酸組成」は、グリセリドを構成する脂肪酸(より具体的には、脂肪酸残基。以下同様とする。)の種類に基づいた構成割合を意味する。また、トリグリセリドについて、「CN」は、トリグリセリドの構成脂肪酸中の炭素数(或いは炭素原子数)の合計を意味する。したがって、上記の「CN50~58のトリグリセリド」は、構成脂肪酸の炭素数の合計が50~58個であるトリグリセリドを意味し、他の数値を有する場合にも同様とする。また、SFCは、固体脂含量(Solid fat contents)を意味する。「多価不飽和脂肪酸」は、二価以上(つまり、二重結合が2つ以上)の不飽和脂肪酸を意味する。
【0016】
本発明において、焼菓子用油脂組成物が上記のような構成を有することにより、焼菓子および冷菓を含む複合冷菓が冷凍温度域にあっても、焼菓子の食感を維持し、かつ、焼菓子への水分移行を抑制することができる。
【0017】
この理由は、定かではないが、次のように推定できる。
油脂中の固体脂は、冷菓などから焼菓子への水分移行を遮る「壁」としての機能を有すると考えられ、油脂中の固体脂の割合が高いほど、水分移行が抑制されると考えられる。しかしながら、固体脂の割合が高すぎると食感が変化してしまう。したがって、固体脂の割合は、冷凍温度域において焼菓子特有の性質を損なわない範囲の適切な量に制御する必要がある。また、その「壁」としての機能性は、固体脂中の結晶成分の結晶化のしやすさや、結晶成分の組成に影響されると考えられる。そして、一般に、油脂の固体脂の割合および結晶状態は、トリグリセリドの種類、さらには構成脂肪酸の炭素数や炭素鎖の構造(飽和か不飽和か)等によって変化する。したがって、本発明において、トリグリセリド組成、構成脂肪酸組成および固体脂含量に関連する上記(a)~(c)の要件が満たされることによって、複合冷菓が冷凍温度域にあっても、焼菓子の食感を維持しかつ水分移行を抑制することができたと考えられる。
【0018】
また、本発明の焼菓子用油脂組成物は、上記(a)~(c)の要件が満たされることによって、複合冷菓を喫食した際に口の中で適度に崩れていく焼菓子の口どけ感(以下、単に「口どけ」ともいう。)が得られるという効果も奏する。その理由は定かではないが、次のように推定できる。焼菓子の口どけは、喫食から嚥下までの口中における唾液の分解作用の他に、焼菓子中の油脂が結晶状態から溶けていくという油脂の物理状態の変化にも影響を受けていると考えられる。したがって、冷凍温度域において油脂中の結晶量が過度に少なく、油脂が流動性を示すような場合には、上記物理状態の変化が生じないか或いは少ないため、喫食者は、その変化を知覚しにくく、良好な口どけを得にくいと考えられる。一方、冷凍温度域において油脂中の結晶量が過度に多い場合には、口中に油脂結晶が残存しやすくなるため、喫食者は良好な口どけを得にくいと考えられる。所定温度における油脂の結晶量や物理状態の変化のしやすさも、トリグリセリドの種類、さらには構成脂肪酸の炭素数や炭素鎖の構造(飽和か不飽和か)等によって変化するところ、本発明において、上記(a)~(c)の要件が満たされることによって、冷凍温度域において、油脂の適度に溶けやすい結晶状態が実現されたと考えられる。その結果、本発明において、焼菓子の良好な口どけが得られたと考えられる。
【0019】
以下、本発明の焼菓子用油脂組成物の構成ごとに詳細に説明する。
【0020】
<<条件(a)>>
本発明の焼菓子用油脂組成物では、その油相のトリグリセリド組成において、CN50~58のトリグリセリドの含量が30~97質量%である。本発明では、CN50~58のトリグリセリドの含量が上記範囲内にあることにより、複合冷菓が冷凍温度域にあっても、焼菓子の食感を維持しかつ水分移行を抑制することができ、さらには焼菓子の良好な口どけが得られる。CN50~58のトリグリセリドは、一般的な油脂において、比較的炭素数が多いトリグリセリドを表す。したがって、CN50~58のトリグリセリドの含量が、30質量%以上であることにより、相対的にCNの値の小さなトリグリセリドの量が増加することを防ぎ、油脂が軟らかすぎる物性となることを防ぐことができる。また、CN50~58のトリグリセリドの含量が、97質量%以下であることにより、油脂が硬すぎる物性となることを防ぐことができる。
【0021】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、CN50~58のトリグリセリドの含量は、38質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、53質量%以上であることがさらに好ましい。また、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、CN50~58のトリグリセリドの含量は、94質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、86質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
CN50~58のトリグリセリドにおいて、炭素数が50~58であれば、トリグリセリドの種類、つまり構成脂肪酸の組み合わせは、特に限定されない。CN50~58のトリグリセリドは、1種類のトリグリセリドからなってもよいが、通常は、複数種類のトリグリセリドから構成される。CN50~58のトリグリセリドについて、3つの構成脂肪酸の炭素数の好ましい組み合わせは、例えば、[16,16,18](50)、[16,18,18](52)、[18,18,18](54)、[16,18,20](54)、[18,18,20](56)、[16,18,22](56)および[18,18,22](58)等である。ここで、角括弧内の数値は、トリグリセリド上の1位~3位の任意の位置に対応する構成脂肪酸中の炭素数をそれぞれ表し、丸括弧内の数値は、構成脂肪酸中の炭素数の合計を表す。
【0023】
CN50~58のトリグリセリドにおいて、構成脂肪酸のそれぞれは、上記(b)および(c)の条件を満たす範囲で、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよい。焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、CN50~58のトリグリセリドは、不飽和脂肪酸を少なくとも1種含むことが好ましく、C18:1脂肪酸およびC18:2脂肪酸の少なくとも1種を含むことがより好ましく、その両方を含むことがさらに好ましい。なお、「C18:1」といった記載において、左側は脂肪酸中の炭素数を表し、右側は二重結合の数を表す。具体的には、「C18:1脂肪酸」は、炭素数が18で二重結合を1つ有する脂肪酸を意味し、他の数値を有する場合にも同様とする。
【0024】
<<条件(b)>>
本発明の焼菓子用油脂組成物では、その油相の構成脂肪酸組成において、多価不飽和脂肪酸(つまり、二価以上の不飽和脂肪酸)の含量が8~45質量%である。本発明では、多価不飽和脂肪酸の含量が上記範囲内にあることにより、複合冷菓が冷凍温度域にあっても、焼菓子の食感を維持しかつ水分移行を抑制することができ、さらには焼菓子の良好な口どけが得られる。一般に油脂において、多価不飽和脂肪酸の含量が多いほど、油脂の融点が低くなり油脂が軟らかな物性を有しやすくなる。したがって、多価不飽和脂肪酸の含量が、8質量%以上であることにより、油脂が硬すぎる物性となることを防ぐことができる。また、多価不飽和脂肪酸の含量が、45質量%以下であることにより、油脂が軟らかすぎる物性となることを防ぐことができる。
【0025】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、多価不飽和脂肪酸の含量は、9質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、多価不飽和脂肪酸の含量は、35質量%以下であることが好ましく、27質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、油相の構成脂肪酸組成において、C18:2の二価不飽和脂肪酸の含量は、8~30質量%であることが好ましい。C18:2の二価不飽和脂肪酸の含量は、いっそう好ましい効果を得る観点から、9質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、C18:2の二価不飽和脂肪酸の含量は、いっそう好ましい効果を得る観点から、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、油相の構成脂肪酸組成において、C18:3の三価不飽和脂肪酸の含量は、1~15質量%であることが好ましい。C18:3の三価不飽和脂肪酸の含量は、2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。また、C18:3の三価不飽和脂肪酸の含量は、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、C18:2の二価不飽和脂肪酸の含量に対するC18:1の一価不飽和脂肪酸の含量の質量比(以下、単に「O/L比」と記載する場合がある。)は、2.5~7.0であることが好ましい。O/L比は、いっそう好ましい効果を得る観点から、3.0以上であることがより好ましく、4.0以上であることがさらに好ましい。また、O/L比は、いっそう好ましい効果を得る観点から、6.0以下であることがより好ましく、5.0以下であることがさらに好ましい。
【0029】
<<条件(c)>>
本発明の焼菓子用油脂組成物では、10℃における油相のSFCが4~20%であり、かつ0℃における油相のSFCが8~30%である。本発明において、油相の各温度におけるSFCが、それぞれ上記範囲内にあることにより、複合冷菓が冷凍温度域にあっても、焼菓子の食感を維持しかつ水分移行を抑制することができ、さらには焼菓子の良好な口どけが得られる。
【0030】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、10℃における油相のSFCは、6%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましく、また、18%以下であることが好ましく、17%以下であることがより好ましい。焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、0℃における油相のSFCは、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、また、28%以下であることが好ましく、27%以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明において、SFCの値は、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料(油脂又は油脂組成物)のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値である。即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値をSFCとする。
【0032】
本発明の焼菓子用油脂組成物は、上記条件(a)~(c)に加えて、下記の条件(d)~(f)の少なくとも1つを満たすことが好ましく、条件(d)~(f)の少なくとも2つを満たすことがより好ましく、条件(d)~(f)の全てを満たすことが特に好ましい。これにより、焼菓子の食感をよりいっそう好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をよりいっそう向上させるができる。
(d)油相の構成脂肪酸組成において、炭素数18の飽和脂肪酸の含量に対する炭素数16の飽和脂肪酸の含量の質量比が、0.05~5である。
(e)油相の構成脂肪酸組成において、不飽和脂肪酸の含量に対する飽和脂肪酸の含量の質量比が、0.1~0.4である。
(f)油相のトリグリセリド組成において、CN34~38のトリグリセリドの含量に対するCN50~58のトリグリセリドの含量の質量比が、40~100である。
【0033】
<<条件(d)>>
上記のとおり、本発明の焼菓子用油脂組成物では、油相の構成脂肪酸組成において、炭素数18の飽和脂肪酸の含量に対する炭素数16の飽和脂肪酸の含量の質量比(以下、単に「P/St比」と記載する場合がある。)は、0.05~5である。本発明において、P/St比が、上記範囲内にあることにより、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させることができ、さらに、より良好な口どけも得られる。
【0034】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、P/St比は、0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.2以上であることが特に好ましい。また、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、P/St比は、3.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.0以下であることが特に好ましい。
【0035】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、油相の構成脂肪酸組成において、炭素数16の飽和脂肪酸の含量は、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。炭素数16の飽和脂肪酸の含量は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上でも3質量%以上でもよい。さらに、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、油相の構成脂肪酸組成において、炭素数18の飽和脂肪酸の含量は、28質量%以下であることが好ましく、22質量%以下であることがより好ましく、18質量%以下であることがさらに好ましい。炭素数18の飽和脂肪酸の含量は、5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上でも7質量%以上でもよい。
【0036】
<<条件(e)>>
上記のとおり、本発明の焼菓子用油脂組成物では、油相の構成脂肪酸組成において、不飽和脂肪酸の含量に対する飽和脂肪酸の含量の質量比(以下、単に「S/U比」と記載する場合がある。)は、0.1~0.4であることが好ましい。本発明において、S/U比が、上記範囲内にあることにより、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させることができ、さらに、より良好な口どけも得られる。一般に油脂において、不飽和脂肪酸の含量が多いほど、油脂の融点が低くなり油脂が軟らかな物性を有しやすくなる。したがって、S/U比が上記範囲内にあることにより、油脂の適切な軟らかさが実現できると考えられる。
【0037】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、S/U比は、0.20以上であることが好ましく、0.25以上であることがより好ましい。また、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、S/U比は、0.37以下であることが好ましく、0.35以下であることがより好ましい。
【0038】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、油相の構成脂肪酸組成において、飽和脂肪酸の含量は、10~35質量%であることが好ましい。飽和脂肪酸の含量は、12質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、飽和脂肪酸の含量は、30質量%以下であることが好ましく、27質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
<<条件(f)>>
上記のとおり、本発明の焼菓子用油脂組成物では、油相のトリグリセリド組成において、CN34~38のトリグリセリドの含量に対するCN50~58のトリグリセリドの含量の質量比(以下、単に「CN50~58/CN34~38比」と記載する場合がある。)は、40~100であることが好ましい。本発明において、CN50~58/CN34~38比が、上記範囲内にあることにより、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させることができ、さらに、より良好な口どけも得られる。これは、CN50~58/CN34~38比が、40以上であることにより油脂が軟らかすぎる物性となることを防ぎ、100以下であることにより油脂が硬すぎる物性となることを防ぐことができるためと考えられる。
【0040】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、CN50~58/CN34~38比は、50以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましい。また、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、CN50~58/CN34~38比は、90以下であることが好ましく、80以下であることがより好ましい。
【0041】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、本発明の焼菓子用油脂組成物において、CN34~38のトリグリセリドの含量は、5質量%以下であることが好ましい。また、いっそう好ましい効果を得る観点から、CN34~38のトリグリセリドの含量は、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。CN34~38のトリグリセリドの含量は0質量%でもよく、0.5質量%程度でも1質量%程度でもよい。
【0042】
本発明の焼菓子用油脂組成物は、実質的にトランス脂肪酸を含まないことが好ましい。ここでいう「実質的にトランス脂肪酸を含まない」とは、油相中、構成脂肪酸組成において、トランス脂肪酸の含量が、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下であることを意味する。
【0043】
実質的にトランス脂肪酸を含まないことが好ましい理由は、次のとおりである。水素添加は、油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、水素添加油脂は、完全水素添加油脂を除いて、通常、トランス脂肪酸が10~50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。したがって、近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものが要求されている。
【0044】
<<その他の特性>>
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、油相の構成脂肪酸組成において、一価不飽和脂肪酸の含量は、25~75質量%であることが好ましい。一価不飽和脂肪酸の含量は、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であることが特に好ましい。また、一価不飽和脂肪酸の含量は、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、油相の構成脂肪酸組成において、C18:1の一価不飽和脂肪酸の含量は、25~70質量%であることが好ましい。C18:1の一価不飽和脂肪酸の含量は、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であることが特に好ましい。また、C18:1の一価不飽和脂肪酸の含量は、67質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、油相の構成脂肪酸組成において、炭素数20以上の飽和脂肪酸の含量は、0.3~15質量%であることが好ましい。炭素数20以上の飽和脂肪酸の含量は、0.5質量%以上であることが好ましく、0.7質量%以上であることがより好ましい。また、炭素数20以上の飽和脂肪酸の含量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
<<油脂>>
本発明の焼菓子用油脂組成物は、主成分として油脂を含み、必要に応じて水等のその他の成分を含むことができる。焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、焼菓子用油脂組成物において、油脂の含量は、70~100質量%であることが好ましい。油脂の含量は、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、85質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上でもよい。また、油脂の含量は、98質量%以下、97質量%以下および96質量%以下のいずれでもよい。
【0048】
まず、発明の焼菓子用油脂組成物に使用することができる油脂について述べる。本発明の焼菓子用油脂組成物に使用できる油脂は、焼菓子用油脂組成物の油相が、上記条件(a)~(c)を少なくとも満たす範囲において、特に制限されず、公知の油脂を使用できる。油脂は、植物油脂でもよく、動物油脂でもよいが、植物油脂であることが好ましい。本発明の焼菓子用油脂組成物に使用できる油脂は、例えば、大豆油、菜種油(キャノーラ油、ハイエルシン菜種油なども含む。)、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油(ハイオレイックヒマワリ油なども含む。)、トウモロコシ油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、ゴマ油、紅花油(ハイオレイック紅花油なども含む。)、カポック油、月見草油、カラシ油、ヤシ油、マンゴ脂、カカオ脂、シア脂、サル脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油および鯨油等の各種油脂である。また、例えばハイオレイック種のヒマワリ油や紅花油のように、構成脂肪酸組成において特定の脂肪酸種が多く含まれる油脂も、使用できる。本発明の焼菓子用油脂組成物において、原料となる油脂は、大豆油、菜種油、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、綿実油およびオリーブ油の少なくとも1種であることが好ましく、大豆油および菜種油の少なくとも1種であることがより好ましい。また、本発明の焼菓子用油脂組成物において、水素添加、分別およびエステル交換等の物理的又は化学的処理のうち1種または2種以上の処理を、上記油脂を含む原料に施して得られる油脂を使用することもより好ましい。なお、エステル交換の原料の一つとして、脂肪酸エステルを使用することもできる。使用できる脂肪酸エステルの例としては、例えばステアリン酸エチルを挙げることができる。なお、そのような処理(特にエステル交換)の原料の一つとして、脂肪酸エステルを使用することもできる。使用できる脂肪酸エステルの例としては、例えばステアリン酸エチルを挙げることができる。
【0049】
特に、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、本発明の焼菓子用油脂組成物の原料油脂として、下記の油脂(A)と油脂(B)の混合油脂、油脂(A)と油脂(C)の混合油脂または油脂(A)と油脂(D)の混合油脂を使用することが好ましく、油脂(A)と油脂(B)の混合油脂または油脂(A)と油脂(C)の混合油脂を使用することがより好ましく、油脂(A)と油脂(B)の混合油脂を使用することがさらに好ましい。
・油脂(A)液状油(下記B~Dに該当する油脂を除く。)。
・油脂(B)カカオ脂の分別軟部油、シア脂の分別軟部油、サル脂の分別軟部油、および、1,3-位置特異性を有するリパーゼを用いてハイオレイックヒマワリ油とステアリン酸エチルをエステル交換することにより得られるエステル交換油の分別軟部油(以下、単に「ハイオレイックヒマワリ油由来のエステル交換分別軟部油」ともいう。)から選択される少なくとも1種の油脂。
・油脂(C)液状油と極度硬化油の混合油をランダムエステル交換して得られるランダムエステル交換油脂であって、SFCが、0℃で5~25%であり、10℃で1~20%であるランダムエステル交換油脂。
・油脂(D)構成脂肪酸組成において、オレイン酸を45~80質量%、炭素数20~22の脂肪酸を5~25質量%含有し、構成脂肪酸組成における不飽和脂肪酸の含量に対するオレイン酸の含量の質量比(以下、単に「O/U比」と記載する場合がある。)が0.80以上である、ランダムエステル交換油脂。
【0050】
<<<油脂(A)>>>
油脂(A)は、上記のとおり、液状油である。ただし、下記油脂(B)~(D)に該当する油脂は、油脂(A)から除かれる。本発明において、「液状油」とは、30℃で液状である油脂を意味する。液状油の融点は、20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。油脂(A)として、例えば大豆油、菜種油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、ゴマ油、紅花油等、30℃で液状である油脂を使用できる。また、油脂(A)として、30℃で固体の油脂(例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、マンゴ脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油および鯨油等)を分別することで得られた軟部油であって30℃で液状である油脂を使用することもできる。油脂(A)は、上記した油脂から選択される1種のみの油脂であってもよく、上記した油脂から選択される2種以上の混合油脂であってもよい。本発明において、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、油脂(A)は、大豆油、菜種油、ヒマワリ油、米油、ゴマ油および紅花油の中から選択される少なくとも1種の油脂であることが好ましく、大豆油、ハイオレイックキャノーラ油、ハイオレイックヒマワリ油、米油、ゴマ油およびハイオレイック紅花油の中から選択される少なくとも1種の油脂であることがより好ましく、大豆油、ハイオレイックキャノーラ油、ハイオレイックヒマワリ油およびハイオレイック紅花油の中から選択される少なくとも1種の油脂であることがさらに好ましい。
【0051】
油脂(A)の0℃におけるSFCは、好ましくは0~3%である。このSFCの上限は、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。油脂(A)の10℃におけるSFCは、好ましくは0~3%である。このSFCの上限は、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。油脂(A)の20℃におけるSFCは、好ましくは0~3%である。このSFCの上限は、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
【0052】
<<<油脂(B)>>>
油脂(B)は、上記のとおり、カカオ脂の分別軟部油、シア脂の分別軟部油、サル脂の分別軟部油、および、ハイオレイックヒマワリ油由来のエステル交換分別軟部油から選択される少なくとも1種の油脂である。「分別軟部油」とは、分別により高融点油脂を分離除去して得られた低融点油脂を意味する。油脂(B)は、カカオ脂の分別軟部油、シア脂の分別軟部油、サル脂の分別軟部油、および、ハイオレイックヒマワリ油由来のエステル交換分別軟部油のうち、1種のみからなる油脂でもよく、2種以上の混合油脂でもよい。油脂(B)は、その一部または全部が液状油でない油脂でもよいが、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、その全部が液状油であることが好ましい。
【0053】
カカオ脂、シア脂、サル脂から分別軟部油を得る際の分別方法は、特に限定されず、公知の方法が使用できる。そのような方法としては、例えば、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、および、晶析等の無溶剤分別などがある。分別は必要に応じて複数回行ってもよく、各回の分別条件を変えてもよい。また、溶剤分別と無溶剤分別を組み合わせてもよい。
【0054】
また、ハイオレイックヒマワリ油由来のエステル交換分別軟部油は、ハイオレイックヒマワリ油とステアリン酸エチルとを、前者:後者で好ましくは1:2~2:1の質量比で混合したものに、1,3-位置特異性を有するリパーゼを加えて常法によりエステル交換し、上述したような公知の方法で分別することにより得られる。
【0055】
本発明において、カカオ脂の分別軟部油、シア脂の分別軟部油、サル脂の分別軟部油、および、ハイオレイックヒマワリ油由来のエステル交換分別軟部油それぞれのヨウ素価数は、40以上であることが好ましく、50~75であることが好ましい。
【0056】
油脂(B)の0℃におけるSFCは、好ましくは35~65%である。このSFCの下限は、より好ましくは40%以上であり、さらに好ましくは45%以上である。このSFCの上限は、より好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは55%以下である。油脂(B)の10℃におけるSFCは、好ましくは15~45%である。このSFCの下限は、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上である。このSFCの上限は、より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは35%以下である。油脂(B)の20℃におけるSFCは、好ましくは5~30%である。このSFCの下限は、より好ましくは8%以上であり、さらに好ましくは10%以上である。このSFCの上限は、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。油脂(B)の30℃におけるSFCは、好ましくは0~4%であり、より好ましくは0~3%であり、さらに好ましくは0~2%である。油脂(B)の40℃におけるSFCは、好ましくは0~2%であり、より好ましくは0~1%であり、さらに好ましくは0%である。
【0057】
<<<油脂(C)>>>
油脂(C)は、上記のとおり、液状油と極度硬化油の混合油脂(以下、「混合油脂(Cm)」と記載する場合がある。)をランダムエステル交換して得られるランダムエステル交換油脂であって、SFCが、0℃で5~25%であり、10℃で1~20%であるランダムエステル交換油脂である。油脂(C)の0℃におけるSFCは、7%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、また、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。油脂(C)の10℃におけるSFCは、3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、また、18%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。油脂(C)の20℃におけるSFCは、1~5%であることが好ましく、1~4%であることがより好ましく、1~3%であることがさらに好ましい。油脂(C)の30℃におけるSFCは、0~4%であることが好ましく、0~3%であることがより好ましく、0~2%であることがさらに好ましい。油脂(C)の40℃におけるSFCは、0~2%であることが好ましく、0~1%であることがより好ましく、0%であることがさらに好ましい。
【0058】
混合油脂(Cm)の作製に使用できる液状油は、特に制限されず、種々の液状油を使用できる。そのような液状油は、例えば大豆油、菜種油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、ゴマ油および紅花油等、30℃で液状である油脂であり、さらには、30℃で固体の油脂(例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、マンゴ脂、カカオ脂、シア脂、サル脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油および鯨油等)を分別することで得られた軟部油であって30℃で液状である油脂を使用することもできる。また、水素添加、分別およびエステル交換等の物理的又は化学的処理のうち1種または2種以上の処理を上記油脂に施した油脂も、得られる加工油脂が30℃で液状である範囲内において、上記液状油として使用することができる。本発明においては、これらの液状油を単独で用いることもでき、または2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、例えばハイオレイック種のヒマワリ油や紅花油のように、構成脂肪酸組成において特定の脂肪酸種が多く含まれる液状油も使用できる。
【0059】
本発明の焼菓子用油脂組成物において、混合油脂(Cm)の作製に使用できる液状油は、大豆油、菜種油、トウモロコシ油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、紅花油、ヒマワリ油であることが好ましく、菜種油であることがより好ましく、キャノーラ油であることがさらに好ましい。
【0060】
混合油脂(Cm)の作製に使用できる上記極度硬化油は、油脂に水添を実施することで固形化させた油脂であれば、特に制限されず、種々の公知の油脂が使用できる。上記極度硬化油は、例えば、食用油脂に対し、ヨウ素価が例えば5以下(好ましくは2以下、より好ましくは1以下)となるまで水素添加することによって得られる水素添加油脂などである。水素添加に用いる食用油脂は、例えば、30℃で液状の油脂(液状油)および30℃で固体の油脂の他、水素添加、分別およびエステル交換等の物理的又は化学的処理のうち1種または2種以上の処理をそれらの油脂に施した油脂でもよい。ここで、30℃で液状の油脂(液状油)および30℃で固体の油脂はそれぞれ、混合油脂(Cm)の作製に使用できる液状油の説明の中で示した液状油および30℃で固体の油脂と同様である。水素添加に用いる上記食用油脂は、1種単独の油脂でもよく、2種以上の混合油脂でもよい。また、上記極度硬化油は、1種単独の油脂でもよく、2種以上の混合油脂でもよい。
【0061】
本発明では、上記極度硬化油において、炭素数16の飽和脂肪酸の含量は、10~35質量%であることが好ましい。また、炭素数16の飽和脂肪酸の含量は、15質量%以上であることが好ましく、25質量%以下であることが好ましい。さらに、上記極度硬化油において、炭素数20以上の飽和脂肪酸の含量は、15~50質量%であることが好ましい。また、炭素数20以上の飽和脂肪酸の含量は、25質量%以上であることが好ましく、45質量%以下であることが好ましい。炭素数16および20以上の各飽和脂肪酸の含量が、上記範囲内にあることにより、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させることができる。
【0062】
上記特定の脂肪酸比を有する極度硬化油を得る方法は、特に限定されないが、例えば、次のような方法がある。
・炭素数16の脂肪酸を多く含有する油脂の極度硬化油と、炭素数20以上の脂肪酸を多く含有する油脂の極度硬化油とを混合する方法。
・炭素数16の脂肪酸を多く含有する油脂と炭素数20以上の脂肪酸を多く含有する油脂との混合油脂を水素添加により極度硬化油とする方法。
【0063】
炭素数16の脂肪酸を多く含有する油脂は、例えば、パーム油、または、パーム油に水素添加、分別およびエステル交換等の物理的又は化学的処理のうち1種または2種以上の処理を施した油脂である。炭素数16の脂肪酸を多く含有する油脂は、特に、パーム油またはパーム油の分別硬部油であることが好ましい。また、炭素数20以上の脂肪酸を多く含有する油脂は、例えば、ハイエルシン菜種油およびカラシ油、ならびに、これらの油脂に対し水素添加、分別およびエステル交換等の物理的又は化学的処理のうち1種または2種以上の処理を施した油脂である。炭素数20以上の脂肪酸を多く含有する油脂は、特に、ハイエルシン菜種油であることが好ましい。
【0064】
本発明では、液状油と極度硬化油を含む混合油脂(Cm)において、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、極度硬化油の配合割合が、5~35質量%であることが好ましい。また、この配合割合の下限は、10質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることがより好ましい。この配合割合の上限は、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0065】
また、混合油脂(Cm)のエステル交換の反応は、ランダムエステル交換反応であれば、特に制限されず、常法に従って行うことができる。そのような反応を得るための方法は、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。上記化学的触媒は、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒であることが好ましい。また、上記酵素は、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼであることが好ましい。なお、上記のようなリパーゼは、ケイ藻土およびセラミック等の担体に又はイオン交換樹脂に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもでき、粉末の形態で用いることもできる。
【0066】
<<<油脂(D)>>>
油脂(D)は、上記のとおり、構成脂肪酸組成において、オレイン酸を45~80質量%、炭素数20~22の脂肪酸を5~25質量%含有し、不飽和脂肪酸の含量に対するオレイン酸の含量の質量比(O/U比)が0.80以上である、ランダムエステル交換油脂である。
【0067】
油脂(D)中の構成脂肪酸組成において、オレイン酸の含量の下限は、47質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。また、オレイン酸の含量の上限は、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。油脂(D)中の構成脂肪酸組成において、炭素数20~22の脂肪酸の含量の下限は、7質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、炭素数20~22の脂肪酸の含量の上限は、22質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0068】
さらに、より良好な食感を得る観点から、油脂(D)中の構成脂肪酸組成において、O/U比は、0.85以上であることが好ましく、0.87以上であることがより好ましい。また、O/U比の上限は、0.95以下であることが実際的であり、0.93以下でもよい。
【0069】
油脂(D)中の構成脂肪酸組成において、オレイン酸の含量、炭素数20~22の脂肪酸の含量、及びO/U比が、それぞれ上記範囲内にあるエステル交換油脂を用いることにより、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させることができる。さらに、上記要件を満たすとともに、油脂(D)中のトリグリセリド組成において、BO2(モノベヘニルジオレオイルグリセロール)の含量は、7~25質量%であることが好ましい。これにより、焼菓子の食感がより好ましい範囲に維持される。また、BO2の含量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以下であることが好ましい。
【0070】
油脂(D)は、構成脂肪酸中にオレイン酸を多く含有する油脂と、構成脂肪酸中に炭素数20~22の脂肪酸を多く含有する油脂との混合油脂(以下、「混合油脂(Dm)」と記載する場合がある。)をランダムエステル交換することによって得ることができる。
【0071】
上記のオレイン酸を多く含有する油脂は、特に制限されず、例えば、30℃で液状の油脂(液状油)および30℃で固体の油脂の他、水素添加、分別およびエステル交換等の物理的又は化学的処理のうち1種または2種以上の処理をそれらの油脂に施した油脂でもよい。なお、分別処理を施す場合には、分別軟部油を選択することが好ましい。ここで、30℃で液状の油脂(液状油)および30℃で固体の油脂はそれぞれ、混合油脂(Cm)の作製に使用できる液状油の説明の中で示した液状油および30℃で固体の油脂と同様である。上記のオレイン酸を多く含有する油脂は、1種単独の油脂でもよく、2種以上の混合油脂でもよい。
【0072】
構成脂肪酸中にオレイン酸を多く含有する油脂としては、構成脂肪酸組成においてオレイン酸を70質量%以上含有する油脂を選択することが好ましく、オレイン酸を75質量%以上含有する油脂を選択することがより好ましい。構成脂肪酸中にオレイン酸を多く含有する油脂は、具体的には、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイック紅花油、ハイオレイックキャノーラ油、及びそれらの加工油脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0073】
上記の炭素数20~22の脂肪酸を多く含有する油脂としては、ハイエルシン菜種油、魚油、サル脂、カラシ油、および、これらの油脂に水素添加、分別およびエステル交換等の物理的又は化学的処理のうち1種または2種以上の処理を施した油脂を選択することが好ましい。
【0074】
混合油脂(D)のランダムエステル交換方法は、特に限定されず、例えば混合油脂(C)のエステル交換方法と同様の方法により行うことができる。エステル交換によって得られる油脂(D)において、ヨウ素価は55以上であることが好ましく、57以上であることがより好ましく、59以上であることがさらに好ましい。
【0075】
油脂(D)において、0℃におけるSFCは、好ましくは10~40%である。このSFCの下限は、より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは21%以上である。このSFCの上限は、より好ましくは39%以下であり、さらに好ましくは38%以下である。油脂(D)において、10℃におけるSFCは、好ましくは5~35%である。このSFCの下限は、より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。このSFCの上限は、より好ましくは33%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。油脂(D)において、20℃におけるSFCは、好ましくは5~25%である。このSFCの下限は、より好ましくは8%以上であり、さらに好ましくは10%以上である。このSFCの上限は、より好ましくは21%以下であり、さらに好ましくは18%以下である。油脂(D)の30℃におけるSFCは、好ましくは0~4%であり、より好ましくは0~3%であり、さらに好ましくは0~2%である。油脂(D)の40℃におけるSFCは、好ましくは0~2%であり、より好ましくは0~1%であり、さらに好ましくは0%である。
【0076】
<<<油脂(A)~(D)の配合比率>>>
本発明の焼菓子用油脂組成物において、油脂(A)と油脂(B)~(D)のいずれかとの質量比率は、上記条件(a)~(c)を満たす範囲で任意の割合で混合することができる。また、上記質量比率は、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、前者対後者の表示で、20~80:80~20であることが好ましく、35~65:65~35であることがより好ましい。
【0077】
<<その他の成分>>
本発明の焼菓子用油脂組成物は、上記した油脂以外に、その他の成分を含んでもよい。以下、その他の成分について述べる。本発明の焼菓子用油脂組成物に含有させることのできるその他の成分としては、特に制限されず、例えば次のような材料があり、それらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。下記材料の詳細は、後述する「冷菓用焼菓子に関するその他の構成」における説明と同様である。
・水、乳化剤。
・食塩や塩化カリウム等の塩味剤。
・クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料。
・糖類や糖アルコール類。
・乳および各種乳製品。
・ステビア、アスパルテーム等の甘味料。
・β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料。
・トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤。
・小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白。
・卵及および各種卵製品。
・増粘安定剤、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤等の他の食品添加物。
・果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材。
【0078】
焼菓子用油脂組成物において、上記その他の成分のうち水以外の成分の含量は、油脂の用途等に応じて適宜調整可能であり、例えば0~20質量%である。この含量の上限は、15質量%以下でもよく、10質量%以下でもよい。水以外のその他の成分は、上記材料から選択された1種でもよく2種以上の組み合わせでもよい。水以外のその他の成分が複数ある場合には、それらの合計量が上記範囲内にあることが好ましい。
【0079】
<<焼菓子用油脂組成物の形態>>
本発明の焼菓子用油脂組成物の形態について述べる。本発明の焼菓子用油脂組成物の形態は特に限定はされないが、可塑性を有することが好ましく、その形態は、焼菓子用油脂組成物が作る油相および水相を含有するマーガリンタイプとすることも、水相を含有しないショートニングタイプとすることもできる。焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、本発明の焼菓子用油脂組成物は、水相を含有しない形態であることが好ましい。
【0080】
本発明の焼菓子用油脂組成物が水相を含む場合には、水の含量は、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。また、この場合、水の含有量は、1質量%程度でも、5質量%程度でもよい。
【0081】
また、焼菓子用油脂組成物が乳化物である場合には、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、その乳化形態は、連続層が油相である形態が好ましく、油中水型及び二重乳化型のいずれかであることがさらに好ましい。
【0082】
<焼菓子用油脂組成物の製造方法>
次に、本発明の焼菓子用油脂組成物の製造方法について述べる。本発明の焼菓子用油脂組成物は、少なくとも上記条件(a)~(c)を満たす油脂を調製した後、必要に応じ、水等の他の成分を添加して乳化し、冷却し、結晶化させることにより製造される。
【0083】
詳しくは、先ず、少なくとも上記条件(a)~(c)を満たすことができるように、各種油脂を1種または2種以上選択して、加熱溶解し、混合および撹拌を行うことにより、油相を調製する。なお、油溶性のその他の成分については、必要により、この油相に含有させることができる。また、必要に応じて、水に水溶性のその他の成分を添加した水相を調製し、その後、この水相を油相に添加し、これを乳化してもよい。
【0084】
次に、油相および必要に応じて水相を含む原料に殺菌処理を行うことが好ましい。殺菌方法は、特に限定されず、タンクでのバッチ式でもよく、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でもよい。
【0085】
次に、原料を冷却し、必要により可塑化する。本発明において、冷却条件は、好ましくは0.5℃/分以上、さらに好ましくは5℃/分以上とする。冷却に用いる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0086】
<焼菓子用油脂組成物の用途>
本発明の焼菓子用油脂組成物は、焼菓子および冷菓を含む複合冷菓が冷凍温度域にあっても、焼菓子の食感を維持し、かつ、焼菓子への水分移行を抑制することができるという特徴を有する。したがって、本発明の焼菓子用油脂組成物は、その特徴から、冷凍温度域において製造、保管および輸送等されるような飲食品について好適に使用され、特に冷菓用焼菓子に対して好ましく用いられる。冷菓用焼菓子の詳細については後述する。
【0087】
さらに、本発明の焼菓子用油脂組成物は、冷凍温度域を超える温度域で、さらには常温以上で製造等される任意の飲食品に使用することもできる。本発明の焼菓子用油脂組成物が適用される飲食品としては、例えば、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、風味ファットスプレッド、ホイップクリーム、ドレッシング、マヨネーズ等の油脂加工食品をはじめ、チョコレート、和菓子、パン、カレー、シチュー、グラタン、調味料、即席調理食品、畜産加工品、水産加工品、野菜加工品等を挙げることができる。また、本発明の焼菓子用油脂組成物は、これらを適当な条件で冷凍して得られる冷凍食品を製造する際にも好適に使用できる。
【0088】
<冷菓用焼菓子>
以下、本発明の冷菓用焼菓子について述べる。
本発明の冷菓用焼菓子は、上記のようにして得られた本発明の焼菓子用油脂組成物を用いて製造される。冷菓用焼菓子は、冷菓と組み合わせて複合冷菓を製造する際に使用される焼菓子である。
【0089】
焼菓子は、例えば、穀粉(小麦粉等)、油脂および水等を混錬した生地を加熱調理することで製造したベーカリー製品である。焼菓子の種類は特に制限されず、例えば、ビスケット、クッキー、サブレ、クラッカー、パイ、マカロン、タルト、ワッフル、デニッシュ、シューおよびラスクなどである。焼菓子の原料も特に制限されない。油脂は、必要に応じて本発明の焼菓子用油脂組成物以外の油脂を使用してもよく、本発明の焼菓子用油脂組成物のみを使用することが好ましい。その他、必要に応じて、味、風味および外観等の特徴づけのための材料を使用してもよい。冷菓用焼菓子の原材料の詳細については後述する。
【0090】
また、冷菓とは、冷凍温度域で、製造、保管および喫食等される冷やして食べる食品(特に菓子)である。冷凍温度域の解釈は様々であるが、概ね、冷凍温度域は、-10℃以下、-18℃以下または-20℃以下の範囲である。なお、冷凍温度域の下限は、特に制限されないが、例えば-30℃程度である。冷菓の種類は、特に制限されず、例えば、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓(アイスキャンディ等)等の冷やして供される菓子である。
【0091】
冷菓用焼菓子は、複合冷菓の製造から喫食までの流れの少なくとも一部の期間で冷凍温度域に置かれる。本発明の冷菓用焼菓子は本発明の焼菓子用油脂組成物を含有するため、そのような状況下であっても、焼菓子の食感を維持し、かつ、焼菓子への水分移行を抑制することができる。
【0092】
<<冷菓用焼菓子に使用される油脂>>
本発明の冷菓用焼菓子は、上記のとおり油脂として、上記において説明した本発明の焼菓子用油脂組成物を含む。そして、本発明の焼菓子用油脂組成物、および、油脂に溶解している他の成分が、全体として冷菓用焼菓子中の油相を構成する。
【0093】
本発明の冷菓用焼菓子において、油脂全体の含量は、特に制限されず、冷菓用焼菓子に求める味、食感、風味および物性等によって適宜調整される。特に、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、油脂全体の含量は、焼成前の冷菓用焼菓子生地に対し10~45質量%であることが好ましい。この含量の下限は、14質量%以上であることがより好ましく、18質量%以上であることがさらに好ましい。また、この含量の上限は、41質量%以下であることがより好ましく、37質量%以下であることがさらに好ましい。なお、後述する冷菓用焼菓子に用いられるその他の原料が油脂を含む場合には、そのような油脂を含めた油脂全体の含量が、上記の範囲にあることが好ましい。
【0094】
また、本発明の冷菓用焼菓子において、上記焼菓子用油脂組成物の含量は、選択した焼菓子の種類や、冷菓用焼菓子に求める味、食感、風味および物性等によって適宜調整される。特に、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させる観点から、上記焼菓子用油脂組成物の含量は、冷菓用焼菓子生地に対し5~40質量%であることが好ましい。この含量の下限は9質量%以上であることが好ましく、13質量%以上であることがさらに好ましい。また、この含量の上限は、36質量%以下でもよく、32質量%以下でもよい。
【0095】
<<冷菓用焼菓子に関するその他の構成>>
次に、本発明の冷菓用焼菓子の油脂以外の構成について述べる。
本発明の冷菓用焼菓子は、上記の焼菓子用油脂組成物の他、澱粉類を含み、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲において、一般に焼菓子に用いられるその他の原材料を含有することができる。
【0096】
上記澱粉類としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、タピオカ、馬鈴薯、甘藷、小麦、米、豆などの澱粉、これらの澱粉を原料とし、エステル化、エーテル化、架橋化、α化、熱処理等の化学的、物理的処理を施したもの、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉等の小麦粉類、ライ麦粉、米粉等のその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉等の堅果粉等があげられる。また、澱粉類としては、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0097】
本発明の冷菓用焼菓子において、澱粉類の含量は、焼成前において生地全体の35~75質量%であることが好ましい。この含量の下限は40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましい。また、この含量の上限は70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。
【0098】
本発明の冷菓用焼菓子に用いられるその他の原材料は、例えば次のような材料があり、それらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
・水、乳化剤、
・食塩や塩化カリウム等の塩味剤。
・酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料。
・糖類や糖アルコール類。
・乳および各種乳製品。
・甘味料。
・β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料。
・トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤。
・小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白。
・卵および各種卵製品。
・増粘安定剤、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、酵素等の他の食品添加物。
・果実、果汁、果実の粉末、乾燥果実、コーヒー粉末、茶粉末、ナッツペースト、香辛料、香辛料抽出物、カカオマス、ココアパウダー、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材。
【0099】
本発明の冷菓用焼菓子生地が水分を含む場合において、後述するその他の原材料中の水分も合わせて、冷菓用焼菓子生地中の水分含量は、生地全体の50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。この水分含量の下限は、例えば10質量%以上であることが実際的であり、15質量%以上でもよい。なお、焼菓子生地中の水分の大部分は、焼成により揮発する。
【0100】
上記の乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム及びポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化成分を挙げることができる。また、乳化剤としては、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0101】
本発明の冷菓用焼菓子に乳化剤を含有させる場合においては、焼菓子生地中の含量は、0.05~1質量%であることが好ましく、0.1~0.5質量%であることがより好ましい。
【0102】
上記の乳および各種乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリーム、クリームパウダー、サワークリーム、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、バターミルク、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエイプロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン及び乳清ミネラル等が挙げられる。また、本発明ではこれらの乳製品の中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0103】
本発明の冷菓用焼菓子生地中、乳および各種乳製品の総量の好ましい量は、固形分量として、0.1~10質量%であり、0.1~7質量%であることがさらに好ましい。
【0104】
上記の甘味料としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、蔗糖、液糖、はちみつ、ブドウ糖、果糖、黒糖、麦芽糖、乳糖、シクロデキストリン、酵素糖化水飴、酸糖化水飴、還元澱粉糖化物、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、キシロース、トレハロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、アラビノース、パラチノースオリゴ糖、アガロオリゴ糖、キチンオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ヘミセルロース、モラセス、イソマルトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、カップリングシュガー、ラフィノース、ラクチュロース、テアンデオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖、高甘味度甘味料が挙げられる。また、甘味料としては、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0105】
上記の卵及び各種卵製品としては、全卵、卵黄、卵白、加塩全卵、加塩卵黄、加塩卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加塩全卵、凍結加塩卵黄、凍結加塩卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄などを用いることができる。また、卵及び各種卵製品としては、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0106】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン等が挙げられる。また、増粘安定剤としては、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0107】
上記したその他の原材料のうち、水以外の原材料の合計の含量は、焼成前において生地全体の7~35質量%であることが好ましい。この含量の下限は、10質量%以上であることがより好ましく、13質量%以上であることがさらに好ましい。また、この含量の上限は、32質量%以下であることがより好ましく、28質量%以下であることがさらに好ましい。
【0108】
<冷菓用焼菓子の製造方法>
次に冷菓用焼菓子の製造方法について、説明する。
冷菓用焼菓子の製造方法としては、特に制限されず、一般の焼菓子の製造方法を使用できる。冷菓用焼菓子は、例えば、小麦粉等の穀粉類、砂糖、本発明の焼菓子用油脂組成物、水、および必要に応じてその他の原材料を混錬して生地を作製し、この生地を加熱調理(焼成)することで得られる。
【0109】
これらの焼菓子の生地は、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法等、公知の方法によって製造することができ、常法に従って焼成される。
【0110】
加熱調理は、特に制限されず、焼く、揚げる、蒸す、電子レンジ調理、およびオーブン調理などである。加熱調理の条件も、適宜調整することができ、例えば、加熱温度は、生地の温度が80~120℃となるような温度であり、加熱時間は1~90分間である。
【0111】
冷菓用焼菓子は、冷菓と組み合わせて複合冷菓を製造するために、その製造の前またはその製造の際の適切な段階で、例えば25℃程度の常温まで冷やされ、冷菓と組み合わされ、その後、冷蔵庫等の保管庫に保管される。
【0112】
<複合冷菓>
次に、本発明の複合冷菓について述べる。本発明の複合冷菓とは、本発明の冷菓用焼菓子と、上述したような冷菓とが組み合わされた食品である。特に、焼菓子の食感をより好ましい範囲に維持しかつ水分移行の抑制効果をより向上させることができるという、本発明の特徴を活かす観点から、本発明の冷菓用焼菓子は、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓(アイスキャンディ等)など、水分を多く含む冷菓と複合させた場合に有用性がより発揮される。
【0113】
本発明の複合冷菓における複合方法は、例えば、冷菓を焼菓子に載せる、焼菓子を冷菓に載せる、焼菓子を冷菓に挿入する、冷菓を焼菓子で挟む、焼菓子を冷菓で挟む、冷菓と焼菓子を交互に重ねる、焼菓子を冷菓に折り込む、冷菓を焼菓子で包む、冷菓を焼菓子に充填する、冷菓と細かくした焼菓子とを和えるなど、いずれの方法でもよい。
【実施例】
【0114】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0115】
<原材料>
実施例で使用した油脂の詳細は以下のとおりである。各油脂を単に油脂A-1のように略して記載することがある。
(油脂A-1)
菜種油。上記の油脂(A)に相当する。
(油脂A-2)
大豆油。上記の油脂(A)に相当する。
(油脂B-1)
シア脂の分別軟部油(ヨウ素価65)。上記の油脂(B)に相当する。
(油脂C-1)
以下に述べる手法で得られたランダムエステル交換油脂。上記の油脂(C)に相当する。
菜種油83質量部、ヨウ素価が3以下となるまで水素添加を行ったパーム油の極度硬化油7質量部、同様に水素添加を行ったハイエルシンナタネ油の極度硬化油10質量部をそれぞれ加熱溶解した状態で混合して、油脂配合物を得た。次に、この油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒として、ランダムエステル交換反応を行った。この後、常法に従って、漂白(白土量は対油3質量%、処理温度85℃)及び脱臭(250℃、60分間、吹込み水蒸気量は対油5質量%)の精製処理を行い、ランダムエステル交換油脂である油脂C-1を得た。
(油脂D-1)
以下に述べる手法で得られたランダムエステル交換油脂。上記の油脂(D)に相当する。
ヨウ素価が3以下となるまで水素添加を行い、極度硬化油としたハイエルシン菜種油30質量部、ハイオレイックヒマワリ油(構成脂肪酸組成中のオレイン酸量が86.3質量%)70質量部を、それぞれ加熱溶解した状態で混合して、油脂配合物を得た。次に、この油脂配合物に対し、ナトリウムメトキシドを触媒として用い常法に従ってランダムエステル交換反応を行った。この後、常法に従って、漂白(白土量は対油3質量%、処理温度85℃)及び脱臭(250℃、60分間、吹込み水蒸気量は対油5質量%)の精製処理を行い、ランダムエステル交換油脂である油脂D-1を得た。
(油脂E-1)
以下に述べる手法で得られたランダムエステル交換油脂。
ヨウ素価が60のパームスーパーオレイン100質量部に対し、油脂C-1の製造と同様に常法に従って、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、漂白・脱臭の精製処理を行い、ランダムエステル交換油脂である油脂E-1(ヨウ素価65)を得た。
【0116】
<焼菓子用油脂組成物の製造>
表1~3に示す配合で、加温融解した原料油脂を混合し、均一になるように撹拌した後、-30℃/分で急冷可塑化させて、水相を含まないタイプの焼菓子用油脂組成物(比較例1~9、実施例1~10)をそれぞれ製造した。各焼菓子用油脂組成物の分析値については、表1~3に示した。
【0117】
焼菓子用油脂組成物中のトリグリセリド組成および各成分の含量は、日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013(トリアシルグリセリン組成)」に従い、高速液体クロマトグラフ法によって測定した。また、焼菓子用油脂組成物中の構成脂肪酸組成および各成分の含量は、日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」を参考に、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定した。
【0118】
<冷菓用焼菓子の製造>
上記のようにして得られた各焼菓子用油脂組成物(比較例1~9および実施例1~10)を使用して、次の方法でサブレ生地(焼菓子生地)を作製した。まず、ショートニングタイプの焼菓子用油脂組成物(45質量部)に上白糖(25質量部)を加え、均一になるように撹拌した。その後、この撹拌物に、全卵(20質量部)と水(10質量部)を合わせた材料を2回に分けて追加および混合を行った。最後に、篩にかけた薄力粉(100質量部)を少量ずつ加えて、撹拌し、よく混錬することにより、サブレ生地を得た。
【0119】
そして、このサブレ生地を4mm厚に伸ばしたあと、内径69mmのセルクルで型抜きし、上火180℃下火150℃のオーブンで、上記型抜きした生地を15分間焼成することで、サブレを得た。
【0120】
内径65mmのセルクルで型抜きしたバニラアイス(厚さ1.5cm)(株式会社ロッテ社製「ロッテアイシスM14LDバニラ」,乳脂肪分14質量%、水分約60質量%)を、上記方法で得られたサブレ2枚を用いて挟むことで、サンドアイス(複合冷菓)を得た。
【0121】
<効果の評価法>
上記のようにして得られたサンドアイスをフリーザーバッグに入れ、-18℃に設定された冷凍庫で7日間保管した。そして、取り出した各サンドアイスを食し、以下の評価基準で、焼菓子用油脂組成物、冷菓用焼菓子および複合冷菓について、「焼菓子部のサクサク感」、「焼菓子部の噛みだしの硬さ」、および、「焼菓子部の口どけ」の3点から官能評価を行った。食した際のサンドアイスの温度は-10~-5℃(アイス中心温度)で、評価試験を実施する環境の温度は18~22℃程度とした。なお、「焼菓子部のサクサク感」の評価は、サブレ特有のサクサク感の程度評価であり、サブレがサクサクした良好な食感を有するほど、サブレが湿気ていない、つまり、焼菓子への水分移行が抑制されていると言える。「焼菓子部の噛みだしの硬さ」の評価においては、冷菓用焼菓子のみをサンドアイス同様にフリーザーバッグに入れ、サンドアイスと同条件で冷凍保管した焼菓子の硬さを基準とした。
【0122】
上記3点の官能評価は、12名のパネラーにより実施した。評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
【0123】
評価基準は下記のとおりである。評価結果を表1~3に示した。官能評価の結果は、12名のパネラーの合計点に応じて、[54~60点:+++、44~53点:++、36~43点:+、18~35点:-、0~17点:--]として、表3に示した。「焼菓子部のサクサク感」および「焼菓子部の噛みだしの硬さ」の両方の項目において、プラス記号「+」が1つ以上であれば、本発明の課題達成レベルと言える。
【0124】
<<評価基準:焼菓子部のサクサク感>>
5点:サクサクとした非常に良好な食感であった。
3点:サクサクとした良好な食感であった。
1点:軟らかな食感或いは硬い食感で、サクサクとした食感に乏しかった。
0点:軟らかな食感或いは硬い食感が強く、サクサクとした食感が感じられなかった。
【0125】
<<評価基準:焼菓子部の噛みだしの硬さ>>
5点:丁度よい硬さで非常に良好であった。
3点:良好な硬さであった。
1点:基準となる硬さよりも、硬い或いは軟らかい。
0点:基準となる硬さよりも、非常に硬い或いは非常に軟らかい。
【0126】
<<評価基準:焼菓子部の口どけ>>
5点:非常に良好な口どけであった。
3点:良好な口どけであった。
1点:口どけに乏しかった。
0点:口どけを全く感じられなかった。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
<評価結果>
上記実施例および比較例の結果から、本発明の焼菓子用油脂組成物、冷菓用焼菓子および複合冷菓によれば、焼菓子および冷菓を含む複合冷菓が冷凍温度域にあっても、焼菓子の食感を維持し、かつ、焼菓子への水分移行を抑制することができることが分かった。また、本発明の焼菓子用油脂組成物、冷菓用焼菓子および複合冷菓によれば、焼菓子の良好な口どけが得られることも分かった。