(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極用バインダー及びそれを含むリチウムイオン二次電池負極材
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240613BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240613BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240613BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240613BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240613BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240613BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20240613BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20240613BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/36 E
C08L33/14
C08K3/10
C08K3/04
(21)【出願番号】P 2020058457
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000116301
【氏名又は名称】亜細亜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【氏名又は名称】横井 大一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】梶田 徹也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 壽也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 昌則
(72)【発明者】
【氏名】上野 聡志
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 真人
(72)【発明者】
【氏名】森山 明祐
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-145468(JP,A)
【文献】特表2019-509596(JP,A)
【文献】特開2009-252348(JP,A)
【文献】特開2015-106489(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131519(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
C08K 3/04
C08K 3/10
C08L 33/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分と、下記(b)成分と、を含有し、かつ(a)成分と(b)成分との重量比が5:5~1:9の範囲にあることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用バインダー。
(a)成分:下式(1)で表される構成単位、下式(2)で表される構成単位、及び下式(3)で表される構成単位を繰り返し単位として有し、かつ、重量平均分子量が100,000~3,000,000である共重合体(a)。
(b)成分:下式(1)で表される構成単位、下式(2)で表される構成単位、及び下式(4)で表される構成単位を繰り返し単位として有し、かつ、重量平均分子量が100,000~3,000,000である共重合体(b)。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(式(1)~(4)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、R1はNa、K又はLiを表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、R3は炭素数1~3のアルキレン基を表し、R4は炭素数1~3のアルキル基を表し、R5は水素原子又はメチル基を表し、R6は炭素数1~6のアルキレン基を表す。nは0以上の整数を表し、m、l、kは、1以上の整数を表し、n:m=0:100~90:10であり、n+m:l=99:1~90:10であり、n+m:k=99:1~20:80である。)
【請求項2】
前記式(1)~(4)において、Rは水素原子を表し、R1はNaを表し、R2はメチル基を表し、R3はエチレン基を表し、R4はメチル基を表し、R5は水素原子を表し、R6はエチレン基を表す請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー。
【請求項3】
(a)成分と(b)成分との重量比が5:5~3:7の範囲である請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー及びリチウムイオン二次電池負極活物質を含むリチウムイオン二次電池負極材。
【請求項5】
前記リチウムイオン二次電池負極活物質が、シリコン又はシリコン合金と、結晶性炭素とを含む請求項4に記載のリチウムイオン二次電池負極材。
【請求項6】
リチウムイオン二次電池負極活物質が、前記シリコン又はシリコン合金が結晶性炭素間に存在し、かつSEM像観察により計測された前記リチウムイオン二次電池負極活物質中の空隙体積が該リチウムイオン二次電池負極活物質全体の体積の2%~90%である請求項5に記載のリチウムイオン二次電池負極材。
【請求項7】
リチウムイオン二次電池負極活物質が、さらに、非晶性炭素を含む請求項
5又は6に記載のリチウムイオン二次電池負極材。
【請求項8】
リチウムイオン二次電池負極活物質が、リチウムイオン二次電池負極活物質中のシリコン又はシリコン合金の体積に対する、SEM像観察により計測されたリチウムイオン二次電池負極活物質中の空隙体積の比が0.5~200である請求項5~7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
【請求項9】
リチウムイオン二次電池負極活物質中の前記シリコン又はシリコン合金の粒径(D50)が0.01~5μmである請求項5~8のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
【請求項10】
リチウムイオン二次電池負極活物質が、前記シリコン又はシリコン合金が、0.5μm以下の厚みの結晶性炭素層の間に挟まった構造であり、その構造が積層及び/又は網目状に広がっており、該結晶性炭素層がリチウムイオン二次電池負極活物質の表面付近で湾曲してリチウムイオン二次電池負極活物を覆っている請求項5~9のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
【請求項11】
リチウムイオン二次電池負極活物質中の該結晶性炭素は、ICP発光分光分析法による26元素(Al、Ca、Cr、Fe、K、Mg、Mn、Na、Ni、V、Zn、Zr、Ag、As、Ba、Be、Cd、Co、Cu、Mo、Pb、Sb、Se、Th、Tl、U)の不純物半定量値より求めた純度が99重量%以上で、酸素フラスコ燃焼法によるイオンクロマトグラフィ-(IC)測定法によるS量が1重量%以下、及び/又はBET比表面積100m
2/g以下である請求項5~10のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極用バインダー及びそれを含むリチウムイオン二次電池負極材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器、電気自動車、家庭用蓄電機等の普及により、電力源となるリチウムイオン二次電池の重要性は増している。これらのリチウムイオン二次電池のほとんどは、その性能からリチウムイオン二次電池が使用されている。また、一回の充電でより多くの電気が蓄えられるようになるため、リチウムイオン二次電池の高容量化への要求は増大している。
リチウムイオン二次電池の高容量化のために、リチウムをより多く蓄えることができる物質を電極材料として用いる研究開発が盛んに行われている。特に、シリコンは、従来型の負極材料であるグラファイトの10倍のリチウムを蓄えることができ、次世代の負極材料として注目されている。
【0003】
しかしながら、シリコンでは、リチウムイオン吸蔵放出(充放電)時の体積変化が大きく、電極内で活物質として使用すると充放電サイクル時の電極表面での電解液の分解が大きく、充放電サイクルを重ねることで、電解液枯れが起こり充放電を示さなくなる。
このため、最近では、炭素材料とシリコン材料をコンポジット化することで高容量化と充放電サイクル特性のバランスをとることが試みられ、一定の性能向上が得られているもののさらなる充放電サイクル特性の向上が必要である。
【0004】
一方、シリコン系負極材料を含む電極全体としての電池性能向上も検討されている。特にバインダー種及び電極内含有量を変更させ、シリコン系負極材料の膨張収縮を抑制し、電極構造からの脱落を防ぐことが提案されている。提案されているバインダー種として(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを共重合させたアルキル変性カルボキシル基含有共重合体からなる電極用バインダーが特許文献1で開示されている。特許文献2には、シリコンを含む活物質を用いた場合、充放電の繰り返しによる活物質の体積変化によって充放電容量を低下させないために、架橋剤により架橋された重合体からなる電極用バインダーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-62868号公報
【文献】WO2015/163302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコン系材料を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池においては、充放電サイクル特性を改善することが必須の課題となっている。引用文献1、2においても充放電サイクル特性を改善するための技術が提案されているが、十分ではなく、更なる特性改善が求められている。
【0007】
本発明の課題は、シリコン系材料を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池において、良好な充放電サイクル特性を示すリチウムイオン二次電池負極用バインダー及びそれを含むリチウムイオン二次電池負極材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行った結果、(メタ)アクリル酸系単量体を構成単位として有する複数の特定の重合体を含有するバインダーをリチウムイオン二次電池負極用バインダーとして用いることにより、優れたサイクル特性を示すリチウムイオン二次電池負極材が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の態様を有するものである。
(1)下記(a)成分と、下記(b)成分と、を含有し、かつ(a)成分と(b)成分との重量比が5:5~1:9の範囲にあることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用バインダー。
(a)成分:下式(1)で表される構成単位、下式(2)で表される構成単位、及び下式(3)で表される構成単位を繰り返し単位として有し、かつ、重量平均分子量が100,000~3,000,000である共重合体(a)。
(b)成分:下式(1)で表される構成単位、下式(2)で表される構成単位、及び下式(4)で表される構成単位を繰り返し単位として有し、かつ、重量平均分子量が100,000~3,000,000である共重合体(b)。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(式(1)~(4)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、R1はNa、K又はLiを表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、R3は炭素数1~3のアルキレン基を表し、R4は炭素数1~3のアルキル基を表し、R5は水素原子又はメチル基を表し、R6は炭素数1~6のアルキレン基を表す。nは0以上の整数を表し、m、l、kは、1以上の整数を表し、n:m=0:100~90:10であり、n+m:l=99:1~90:10であり、n+m:k=99:1~20:80である。)
【0010】
(2)前記式(1)~(4)において、Rは水素原子を表し、R1はNaを表し、R2はメチル基を表し、R3はエチレン基を表し、R4はメチル基を表し、R5は水素原子を表し、R6はエチレン基を表す(1)に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー。
(3)(a)成分と(b)成分との重量比が5:5~3:7の範囲である上記(2)に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー。
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー及びリチウムイオン二次電池負極活物質を含むリチウムイオン二次電池負極材。
【0011】
(5)前記リチウムイオン二次電池負極活物質が、シリコン又はシリコン合金と、結晶性炭素とを含む上記(4)に記載のリチウムイオン二次電池負極材。
(6)リチウムイオン二次電池負極活物質が、前記シリコン又はシリコン合金が結晶性炭素間に存在し、かつSEM像観察により計測された前記リチウムイオン二次電池負極活物質中の空隙体積が該リチウムイオン二次電池負極活物質全体の体積の2%~90%である上記(5)に記載のリチウムイオン二次電池負極材。
(7)リチウムイオン二次電池負極活物質が、さらに、非晶性炭素を含む上記(4)~(6)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
(8)リチウムイオン二次電池負極活物質が、リチウムイオン二次電池負極活物質中のシリコン又はシリコン合金の体積に対する、SEM像観察により計測されたリチウムイオン二次電池負極活物質中の空隙体積の比が0.5~200である上記(5)~(7)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
(9)リチウムイオン二次電池負極活物質中の前記シリコン又はシリコン合金の粒径(D50)が0.01~5μmである上記(5)~(8)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
【0012】
(10)リチウムイオン二次電池負極活物質が、前記シリコン又はシリコン合金が、0.5μm以下の厚みの結晶性炭素層の間に挟まった構造であり、その構造が積層及び/又は網目状に広がっており、該結晶性炭素層がリチウムイオン二次電池負極活物質の表面付近で湾曲してリチウムイオン二次電池負極活物質を覆っている上記(5)~(9)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
(11)リチウムイオン二次電池負極活物質中の該結晶性炭素は、ICP発光分光分析法による26元素(Al、Ca、Cr、Fe、K、Mg、Mn、Na、Ni、V、Zn、Zr、Ag、As、Ba、Be、Cd、Co、Cu、Mo、Pb、Sb、Se、Th、Tl、U)の不純物半定量値より求めた純度が99重量%以上で、酸素フラスコ燃焼法によるイオンクロマトグラフィ-(IC)測定法によるS量が1重量%以下、及び/又はBET比表面積100m2/g以下である上記(5)~(10)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリコン系材料を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池において、良好な充放電サイクル特性を示すリチウムイオン二次電池負極用バインダー及びそれを含むリチウムイオン二次電池負極材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例で製造したコイン型のリチウムイオン二次電池の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー及び負極材について、本発明の一例を示しながら詳述する。
本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を総称し、また、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを総称する。
(本発明のバインダー)
本発明のバインダーは、(a)成分として、式(1)で表される構成単位、式(2)で表される構成単位、及び式(3)で表される構成単位を繰り返し単位として有する共重合体と、(b)成分として、式(1)で表される構成単位、式(2)で表される構成単位、及び式(4)で表される構成単位を繰り返し単位として有する共重合体を含有する。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【0016】
式(1)において、Rは、水素原子又はメチル基を表し、好ましくは水素原子である。また、nは0以上の整数であり、好ましくは5,000~20,000であり、より好ましくは8,000~17,000である。
式(2)において、R1は、Na、K又はLiであり、好ましくはNa又はLiであり、特に好ましくはNaである。mは1以上の整数であり、好ましくは5,000~15,000であり、より好ましくは7,000~13,000である。
【0017】
式(3)において、R2は、水素原子又はメチル基を表し、好ましくはメチル基である。また、R3は炭素数1~3のアルキレン基を表す。該炭素数1~3のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられ、好ましくはエチレン基である。
式(3)におけるR4は炭素数1~3のアルキル基を表す。該炭素数1~3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。lは1以上の整数であり、好ましくは300~1,000であり、より好ましくは450~850である。
【0018】
式(4)において、R5は、水素原子又はメチル基を表し、好ましくは水素原子である。また、R6は炭素数1~6のアルキレン基を表す。該炭素数1~6のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられ、好ましくはエチレン基である。kは1以上の整数であり、好ましくは4,000~10,000であり、より好ましくは5,500~8,500である。
【0019】
また、式(1)~(4)において、前記n、mの割合は、n:m=0:100~90:10であり、5:95~60:40がより好ましい。また、n、m、lの割合は、n+m:l=99:1~90:10であり、98:2~92:8がより好ましい。また、n、m、kの割合は、n+m:k=99:1~20:80であり、80:20~40:60がより好ましい。
【0020】
特に、(a)成分としては、式(1)、(2)中のRが水素原子であり、かつ式(2)中のR1がNaであり、かつ式(3)中のR2がメチル基であり、R3がエチレン基であり、R4がメチル基である共重合体が好ましい。また、(b)成分としては、式(1)、(2)中のRが水素原子であり、かつ式(2)中のR1がNaであり、かつ式(4)中のR5が水素原子であり、R6がエチレン基である共重合体が好ましい。
【0021】
本発明における(a)成分及び(b)成分の重量平均分子量(以下、Mwという。)は、100,000~3,000,000であり、特に好ましくは200,000~2,000,000である。Mwを前記範囲の下限値以上とすることにより、リチウムイオン二次電池負極活物質層と集電体層との結着性を向上させることができる。また、上限値以下とすることにより、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池負極活物質層におけるリチウムイオン二次電池負極活物質の分散性を良好にできる。ここで、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、標準ポリスチレン換算の値として求めうる。
【0022】
本発明における(a)成分と(b)成分の割合は、(a)成分と(b)成分との重量比((a)成分/(b)成分)が5:5~1:9であり、5:5~3:7がより好ましい。(a)成分と(b)成分の割合が、上記範囲を有する場合、充放電時の電極内活物質層の変形と集電体から活物質層の剥離を抑制し、高サイクル特性の効果が達成される。
【0023】
本発明における(a)成分及び(b)成分を構成する共重合体(a)、(b)は、他の単量体の繰り返し単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、アクリル酸以外のエチレン性不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ヒドロキシ基含有ビニル、アミド基含有ビニル、アミノ基含有ビニル、芳香族ビニル、ポリオキシアルキレン基含有ビニル、アルコキシル基含有ビニル、シアノ基含有ビニル、シアン化ビニル、ビニルエーテル、ビニルエステル、共役ジエン等が挙げられる。これら単量体は単独でも2種類以上を併用してもよい。
他の単量体の割合は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。前記範囲の上限値以下とすることにより、リチウムイオン二次電池負極活物質層と集電体との結着力を向上させることができる。
【0024】
また、本発明における(a)成分及び(b)成分を構成する共重合体(a)、(b)は、更に、架橋性単量体を含んでいてもよい。ここで、架橋性単量体とは、加熱又はエネルギー線の照射により、重合中又は重合後に架橋構造を形成しうる単量体であり、エチレン性不飽和結合を1個以上有し、架橋性基を有する単量体、エチレン性不飽和結合を2個以上有する単量体などが挙げられる。
エチレン性不飽和結合を1個以上有し、架橋性基を有する単量体としては、例えば、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有多官能単量体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有多官能単量体;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独でも2種類以上を併用してもよい。
【0025】
エチレン性不飽和結合を2個以上有する単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体;ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物などが挙げられる。これらは単独でも、2種類以上を併用してもよい。
架橋性単量体の割合は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。これにより、リチウムイオン二次電池負極活物質層と集電体との結着力を向上させることができる。
【0026】
(本発明の(a)成分の製造方法)
本発明の(a)成分の製造方法としては、式(1)で表される構成単位となるモノマー、式(2)で表される構成単位となるモノマー及び式(3)で表される構成単位となるモノマーを、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、溶媒中に溶解又は分散させ、50~100℃で重合することにより、式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位を有する重合体(a)が得ることができる。
式(1)で表される構成単位となるモノマーとしては、(メタ)アクリル酸が挙げられ、特にアクリル酸が好ましい。式(2)で表される構成単位となるモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸ナトリム塩、(メタ)アクリル酸カリウム塩、(メタ)アクリル酸リチウム塩等の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩が挙げられる。
【0027】
式(3)で表される構成単位となるモノマーとしては、例えばジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられ、その中でもジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0028】
(a)成分の別の製造方法としては、次の方法が挙げられる。すなわち、前記式(1)で表される構成単位となるモノマー及び式(3)で表される構成単位となるモノマーを、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下に、溶媒中に溶解又は分散させ、50~100℃で重合することにより式(1)及び(3)で表される繰り返し単位を有する重合体を得て、この重合体を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸物と反応させて式(1)中のカルボン酸基をNa塩,K塩、Li塩に変えることにより、式(2)の繰り返し単位を有する共重合体(a)を得る。具体的には、アルカリ金属水酸物水溶液を、式(1)及び(3)の繰り返し単位を含む重合体に添加、撹拌することにより行うことが好ましい。反応温度は30℃以上に維持し、30分以上撹拌して行うことが好ましい。その結果、式(1)、(2)及び(3)の繰り返し単位を有する重合体を得ることができる。
このようにして得られる(a)成分における式(1)、(2)及び(3)の構成単位の割合は、前記したn、m、lの割合についての好ましい範囲、より好ましい範囲を有するようにせしめされる。
【0029】
(本発明の(b)成分の製造方法)
本発明の(b)成分の製造方法としては、式(3)で表される構成単位となるモノマーの代わりに式(4)で表される構成単位となるモノマーを使用する他は(a)成分と全く同様にして、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下に、溶媒中に溶解又は分散させ、50~100℃で重合することにより式(1)、(2)及び(4)で表される繰り返し単位を有する重合体が得ることができる。
式(4)で表される構成単位となるモノマーとしては、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、その中でもヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
本発明の(b)成分の別の製造方法としては、前記式(1)で表される構成単位となるモノマー及び式(4)で表される構成単位となるモノマーを、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、溶媒中に溶解又は分散させ、50~100℃で重合することにより式(1)及び(4)で表される繰り返し単位を有する重合体が得られ、得られた重合体を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸物と反応させて式(1)中のカルボン酸基をNa塩,K塩、Li塩に変えることにより、式(2)の繰り返し単位を有する重合体に変性することができる。具体的には、アルカリ金属水酸物水溶液を、式(1)及び(4)の繰り返し単位を含む重合体に添加、撹拌することにより行うことが好ましい。反応温度は30℃以上に維持し、30分以上撹拌して行うことが好ましい。その結果、式(1)、(2)及び(4)の繰り返し単位を有する重合体を得ることができる。
このようにして得られる(b)成分における式(1)、(2)及び(4)の構成単位の割合は、前記したn、m、kの割合についての好ましい範囲、より好ましい範囲を有するようにせしめされる。
【0031】
前記ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム等の過硫酸塩系、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系、過酸化ベンゾイル等の過酸化物系等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸を溶媒中に溶解又は分散させる溶媒としては、水、又は水と水溶性有機溶媒との混合溶媒が挙げられ、好ましくは水である。水としては、特に制限はなく、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水(イオン交換後、蒸留)のいずれでもよい。無機イオンが取り除かれているという観点で、イオン交換水か、純水がより好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等の低級アルコール類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;アセトン等のケトン類;1、4-ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上を併用してもよい。なかでも、特に好ましくはイオン交換水又は純水である。
【0032】
(リチウムイオン二次電池負極材)
本発明のリチウムイオン二次電池負極材は、前記リチウムイオン二次電池負極用バインダー及びリチウムイオン二次電池負極活物質を含むものである。
リチウムイオン二次電池負極活物質としては、シリコン又はシリコン合金(以下、シリコン化合物と総称することがある。)と、結晶性炭素とを含むことが好ましい。
本発明でいうシリコンとは、純度が98重量%程度の汎用グレードの金属シリコン、純度が2~4Nのケミカルグレードの金属シリコン、塩素化して蒸留精製した4Nより高純度のポリシリコン、単結晶成長法による析出工程を経た超高純度の単結晶シリコン、もしくはそれらに周期表13族もしくは15族元素をドーピングして、p型又はn型としたもの、半導体製造プロセスで発生したウエハの研磨や切断の屑、プロセスで不良となった廃棄ウエハなど、汎用グレードの金属シリコン以上の純度のものであれば特に限定されない。
【0033】
本発明でいうシリコン合金とは、シリコンが主成分の合金である。前記シリコン合金において、シリコン以外に含まれる元素としては、周期表2~15族の元素の一つ以上が好ましく、合金に含まれる相の融点が900℃以上となる元素が好ましい。
シリコン化合物の粒径(D50)は0.01~5μmが好ましく、さらに好ましくは0.01~1μmであり、特に好ましくは0.05~0.6μmである。0.01μmより小さいと、表面酸化による容量や初期効率の低下が激しく、5μmより大きいと、リチウム挿入による膨張で割れが激しく生じ、サイクル劣化が激しくなりやすい。なお、粒径(D50)はレーザー粒度分布計で測定した50%体積平均の粒子径である。
【0034】
リチウムイオン二次電池負極活物質におけるシリコン化合物の含有量は10~80質量部が好ましく、15~50質量部が特に好ましい。シリコン化合物の含有量が10質量部未満の場合、従来の黒鉛に比べて十分に大きい容量が得られず、80質量部より大きい場合、サイクル劣化が激しくなりやすい。
結晶性炭素として、焼成すると結晶性炭素になるものであれば特に制限はなく、特に黒鉛由来の炭素が好ましい。本発明でいう焼成すると結晶性炭素となる黒鉛としては、天然黒鉛材、人造黒鉛等が挙げられ、その中でも通常グラファイトと呼ばれる天然黒鉛を薄片化した薄片化黒鉛が好ましい。
【0035】
薄片化黒鉛とは、グラフェンシートの積層数が400層以下の黒鉛を意図する。なお、グラフェンシートは主にファンデルワールス力によって互いに結合している。
薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、シリコン化合物と薄片化黒鉛とがより均一に分散し、リチウムイオン二次電池負極活物質を用いた電池材料の膨張がより抑制される、及び/又は、リチウムイオン二次電池のサイクル特性がより優れる点(以後、単に、本発明の効果がより優れる点ということがある。)で、300層以下が好ましく、200層以下がより好ましく、150層以下がさらに好ましい。取り扱い性の点からは、5層以上が好ましい。
なお、薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる。
【0036】
薄片化黒鉛の平均厚みは、本発明の効果がより優れる点で、40nm以下が好ましく、22nm以下がより好ましく、一方、製造手順が煩雑になることから、4nm以上が好ましい。なお、上記平均厚みの測定方法としては、電子顕微鏡観察(TEM)によって薄片化黒鉛を観察し、薄片化黒鉛中の積層したグラフェンシートの層の厚みを10個以上測定して、その値を算術平均することによって、平均厚みが得られる。
薄片化黒鉛は、黒鉛化合物をその層面間において剥離し薄片化して得られる。薄片化黒鉛としては、例えば、いわゆる膨張黒鉛が挙げられる。
【0037】
膨張黒鉛中には、黒鉛が含まれており、例えば、鱗片状黒鉛を濃硫酸や硝酸や過酸化水素水等で処理し、グラフェンシートの隙間にこれら薬液をインターカレートさせ、さらに加熱してインターカレートされた薬液が気化する際にグラフェンシートの隙間を広げることによって得られる。なお、後述するように、膨張黒鉛を出発原料として所定のリチウムイオン二次電池負極活物質を製造することができる。つまり、リチウムイオン二次電池負極活物質中の黒鉛として、膨張黒鉛を使用することもできる。
【0038】
また、黒鉛として、球形化処理が施された膨張黒鉛も挙げられる。球形化処理の手順は後段で詳述する。なお、後述するように、膨張黒鉛に球形化処理を実施する際には、他の成分(例えば、ハードカーボン及びソフトカーボンの前駆体、シリコン化合物など)と共に、球形化処理が実施されてもよい。
【0039】
黒鉛は、純度99重量%以上、若しくは不純物量10000ppm以下であり、S量が1重量%以下であり、及び/又はBET比表面積が100m2/g以下であることが好ましい。純度が99重量%よりも少なく、若しくは不純物量が10000ppmよりも多いと、不純物由来のSEI形成による不可逆容量が多くなるため、初回の充電容量に対する放電容量である初回充放電効率が低くなる傾向がある。また、S量が1重量%よりも高くなると同様に不可逆容量が高くなるため、初回充放電効率が低くなる。さらに好ましくは、S量が0.5重量%以下が好ましい。黒鉛のBET比表面積は、さらに好ましくは、5~100m2/gであり、特に好ましくは、20~50m2/gであり、黒鉛のBET比表面積が100m2/gよりも高いと、電解液との反応する面積が多くなるため、初回充放電効率が低くなる。
【0040】
なお、黒鉛の比表面積は、窒素吸着によるBET法(JIS Z 8830、一点法)を用いて測定したものである。
不純物の測定は、ICP発光分光分析法により、以下の26元素(Al、Ca、Cr、Fe、K、Mg、Mn、Na、Ni、V、Zn、Zr、Ag、As、Ba、Be、Cd、Co、Cu、Mo、Pb、Sb、Se、Th、Tl、U)の不純物半定量値により測定する。また、S量は、酸素フラスコ燃焼法で燃焼吸収処理した後、フィルター濾過してイオンクロマトグラフィー(IC)測定により行う。
【0041】
リチウムイオン二次電池負極活物質において、結晶性炭素の含有量は95~10質量部が好ましく、60~10質量部が特に好ましい。結晶性炭素の含有量が10質量部未満の場合、結晶性炭素がSi化合物を覆うことができず、導電パスが不十分となって容量劣化が激しく起こりやすく、95質量部より大きい場合、容量が十分に得られない。
リチウムイオン二次電池負極活物質が、前記シリコン又はシリコン合金が結晶性炭素間に存在し、かつSEM像観察により計測されたリチウムイオン二次電池負極活物質中の空隙体積が該リチウムイオン二次電池負極活物質全体の体積の2%~90%であることが好ましい。
リチウムイオン二次電池負極活物質は、Si又はSi合金が結晶性炭素間に存在し、Si又はSi合金の周囲に空隙を有する構造を有することにより、高いクーロン効率と高い初回体積放電容量を持つとともに、Si又はSi合金の膨張を抑制することにより優れたサイクルを有するものである。
【0042】
リチウムイオン二次電池負極活物質における空隙は、Si又はSi合金の膨張応力を緩和するために導入されることからSEM像観察により計測されたSi又はSi合金の周囲にある空隙が該負極活物質全体の体積の2~90%であり、好ましくは10~65%であり、特に好ましくは10~40%である。
リチウムイオン二次電池負極活物質中のSi又はSi合金体積に対する、SEM像観察により計測された負極活物質中の空隙体積の比が0.5~200であることが好ましく、特に好ましくは0.5~185である。
【0043】
空隙の算出方法としてはまず、断面加工装置を用いてリチウムイオン二次電池負極を電極の垂直方向に切断する。断面加工に用いる装置としては、より明瞭な画像を得るためにクロスセクションポリッシャーを用いる。また、負極活物質粉末をエポキシ樹脂に包埋し、その後、顕微鏡を用いて得られた断面部分を観察する。ここで用いられる顕微鏡としては、解像度や観察範囲を十分得る必要があるため、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いる。その後、得られた2次電子像の印刷画像の上に透明シートを2枚重ね、1枚のシートには負極活物質の輪郭を描き、もう1枚のシートには空隙部分をペンで塗りつぶす。透明シートとしては、作業性が良いことからOHPシート(オーバーヘッドプロジェクター用シート)を用いる。次に、それぞれの画像をJPEGやTIFFデータに変換し、Nano Hunter NS2K-Pro(ナノシステム社製)を用いて2値化し、負極活物質の面積と空隙部分の面積を算出した。最後に、空隙率(%)=空隙部分の面積(μm2)/負極活物質の面積(μm2)×100の式から負極活物質中の空隙率を算出した。
【0044】
リチウムイオン二次電池負極活物質は、さらに非晶性炭素を負極活物質の内部及び/又は外層部分に含むことが好ましい。
該非晶性炭素としては、焼成すると非結晶性炭素になるものであれば特に制限はなく、特に黒鉛以外の非晶質もしくは微結晶の炭素質物が好ましい。
本発明でいう焼成すると非晶性炭素となる黒鉛以外の非晶質もしくは微結晶の炭素質物としては、2000℃を超える熱処理で黒鉛化する易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)と、黒鉛化しにくい難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、もしくは黒鉛様の芳香族系化合物が挙げられる。
【0045】
ハードカーボンは、樹脂又は樹脂組成物などの前駆体を炭化処理して得ることが好ましい。炭化処理することで、樹脂又は樹脂組成物が炭化処理され、リチウムイオン二次電池用炭素材として用いることができる。ハードカーボンの原材料(前駆体)となる、樹脂又は樹脂組成物としては、高分子化合物など(例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂)が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂;ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;アニリン樹脂;シアネート樹脂;フラン樹脂;ケトン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ウレタン樹脂などが挙げられる。また、これらが種々の成分で変性された変性物を用いることもできる。
【0046】
また、上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、特に好ましいハードカーボンの原材料(前駆体)としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂等が挙げられる。
ハードカーボンの前駆体の形状は、粉状、板状、粒状、繊維状、塊状、球状など、あらゆる形状のものが使用可能である。これらの前駆体は、各種成分を混合する際に使用する溶剤に溶解することが好ましい。
【0047】
使用されるハードカーボンの前駆体の重量平均分子量としては、本発明の効果がより優れる点で100以上が好ましく、1,000,000以下がより好ましい。
ソフトカーボンは、樹脂又は樹脂組成物などの前駆体を炭化処理して得ることが好ましい。炭化処理することで、樹脂又は樹脂組成物が炭化処理され、リチウムイオン二次電池用炭素材として用いることができる。ソフトカーボンの原材料(前駆体)となる、樹脂又は樹脂組成物としては、石炭系ピッチ(例えば、コールタールピッチ)、石油系ピッチ、メソフェーズピッチ、コークス、低分子重質油、又はそれらの誘導体などが挙げられ、石炭系ピッチ(例えば、コールタールピッチ)、石油系ピッチ、メソフェーズピッチ、コークス、低分子重質油、又はそれらの誘導体などが好ましい。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、石炭系ピッチなどの前駆体から得られるソフトカーボンが好ましい。
【0048】
ソフトカーボンの前駆体の形状は、粉状、板状、粒状、繊維状、塊状、球状など、あらゆる形状のものが使用可能である。これらの前駆体は、各種成分を混合する際に使用する溶剤に溶解することが好ましい。
使用されるソフトカーボンの前駆体の重量平均分子量としては、本発明の効果がより優れる点で1000以上が好ましく、1,000,000以下がより好ましい。
【0049】
黒鉛様の芳香族系化合物としては、例えば、ドーパミン塩酸塩、ジヒドロキシフェニルアラニン、5,6-ジヒドロキヒインドールなどのドーパミン誘導体、タンニン酸、カテキン、アントシアニン、ルチン、イソフラボンなどのポリフェノール類、カテコールアミン、没色子酸、ピロガロール、ガラセトフェノンなどが挙げられる。これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも特に好ましい黒鉛様の芳香族系化合物としては、ドーパミン塩酸塩、ジヒドロキシフェニルアラニン、5,6-ジヒドロキヒインドールなどのドーパミン誘導体が挙げられる。
【0050】
リチウムイオン二次電池負極活物質の粒径(D50:50%体積粒径)は、本発明の効果がより優れる点で、1~40μmが好ましく、2~35μmがより好ましく、3~30μmがさらに好ましい。なお、粒径(D90:90%体積粒径)は、本発明の効果がより優れる点で、2~75μmが好ましく、4~60μmがより好ましく、5~45μmがさらに好ましい。
さらに、粒径(D10:10%体積粒径)は、本発明の効果がより優れる点で、0.5~30μmが好ましく、1~20μmがより好ましい。
D10、D50及びD90は、レーザー回折散乱法により測定した累積粒度分布の微粒側から累積10%、累積50%、累積90%の粒径にそれぞれ該当する。
【0051】
なお、測定に際しては、リチウムイオン二次電池負極活物質を液体に加えて超音波などを利用しながら激しく混合し、作製した分散液を装置にサンプルとして導入し、測定を行う。該負極活物質と液体がうまくなじまない時は、必要に応じて界面活性剤などを添加しても良い。液体としては作業上、水やアルコール、低揮発性の有機溶媒を用いることが好ましい。この時、得られる粒度分布図は正規分布を示すことが好ましい。
リチウムイオン二次電池負極活物質は、比表面積が0.5~200m2/gが好ましく、さらに好ましくは0.5~150m2/g、特に好ましくは0.5~130m2/gである。この範囲とすることで、前記複合粒子の内部に空隙を導入しつつ、電解液との接触及び充放電により活物質表面に形成される固体電解質層(SEI)を抑制し、初回クーロン効率と容量維持率を改善できる。
【0052】
リチウムイオン二次電池負極活物質の比表面積(BET比表面積)は、試料を200℃で20分真空乾燥後、窒素吸着多点法で測定する。
リチウムイオン二次電池負極活物質において、Si化合物が、0.5μm以下の厚みの結晶性炭素層の間に挟まった構造であり、その構造が積層及び/又は網目状に広がっており、該結晶性炭素層がリチウムイオン二次電池負極活物質の外表面付近で湾曲してリチウムイオン二次電池負極活物質外表見を覆っていることが好ましい。
リチウムイオン二次電池負極活物質は、WO2019/131519記載の方法により製造することができる。
【0053】
リチウムイオン二次電池負極材は、本発明のバインダー、リチウムイオン二次電池負極活物質を混合し、好ましくは溶剤を用いて負極材スラリーとした。
負極材スラリーにおけるバインダーの割合は、溶媒を含まない負極材スラリーの100質量%に対して、好ましくは1~10質量%であり、より、好ましくは2~8質量%である。バインダーが多すぎると負極活物質の割合が相対的に減少するため、電池の充放電時に高容量が得られにくく、逆に少なすぎると結着力が充分でないため、充放電サイクル特性が低下してしまう。
【0054】
溶剤としては、例えば、水、イソプロピルアルコール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。なお、負極材スラリーを調製する際には、上記のように必要に応じて、公知の攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどを用いて攪拌混合してもよい。
【0055】
負極材スラリーには、導電助剤を含有しても良く、該導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンなどが挙げられる。また、黒鉛などの炭素粉末、各種金属のファイバーや箔などを用いてもよい。これらの導電助剤は、単独でも、2種類以上を併用してもよい。導電助剤の割合は、溶媒を含まない負極材スラリーの100質量%に対して好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
前記で調製したリチウムイオン二次電池負極材を集電体上に塗工することでリチウムイオン二次電池負極を得ることができる。
【0056】
集電体としては、ニッケル、銅、ステンレス(SUS)などの導電性の材料を用いた箔が好ましく、電池のサイクルがより優れる点で、三次元構造を有する集電体がより好ましい。三次元構造を有する集電体の材料としては、例えば、炭素繊維、スポンジ状カーボン(スポンジ状樹脂にカーボンを塗工したもの)、金属などが挙げられる。三次元構造を有する集電体(多孔質集電体)としては、金属や炭素の導電体の多孔質体として、平織り金網、エキスパンドメタル、ラス網、金属発泡体、金属織布、金属不織布、炭素繊維織布、又は炭素繊維不織布などが挙げられる。
【0057】
実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と負極が電解質を挟んで対向に配置されている。リチウムイオン二次電池の形状は、円筒型、角形、積層型、コイン型のいずれでもよい。
図1は、本発明で実施したコイン型のリチウムイオン二次電池の断面模式図である。平面形状のリチウム金属2と電極10がセパレータ7を挟んで対向に配置された構造となっている。金属ケースである外装体1、外装体9を通して電気を取り出せる。
【0058】
(正極)
前記リチウムイオン二次電池負極材を有するリチウムイオン二次電池に使用される正極としては、公知の正極材料を使用した正極を使用することができる。正極の製造方法としては公知の方法が挙げられ、正極材料と結合剤及び導電剤よりなる正極合剤を集電体の表面に塗布する方法などが挙げられる。正極材料(正極活物質)としては、酸化クロム、酸化チタン、酸化コバルト、五酸化バナジウムなどの金属酸化物や、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1-yCoyO2、LiNi1-x-yCoxAlyO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFeO2などのリチウム金属酸化物、硫化チタン、硫化モリブデンなどの遷移金属のカルコゲン化合物、又は、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリピロールなどの導電性を有する共役系高分子物質などが挙げられる。
【0059】
(電解液)
上記リチウムイオン二次電池負極材を有するリチウムイオン二次電池に使用される電解液としては、公知の電解液を使用することができる。例えば、電解液中に含まれる電解質塩として、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C6H5)、LiCl、LiBr、LiCF3SO3、LiCH3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3CH2OSO2)2、LiN(CF3CF3OSO2)2、LiN(HCF2CF2CH2OSO2)2、LiN{(CF3)2CHOSO2}2、LiB{C6H3(CF3)2}4、LiN(SO2CF3)2、LiC(SO2CF3)3、LiAlCl4、LiSiF6などのリチウム塩を用いることができる。特にLiPF6及びLiBF4が酸化安定性の点から好ましい。電解質溶液中の電解質塩濃度は0.1~5モル/リットルが好まし、0.5~3モル/リットルがより好ましい。
【0060】
電解液で使用される溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート、1,1-又は1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、1,3-ジオキソフラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル、スルホラン、メチルスルホランなどのチオエーテル、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3-メチル-2-オキサゾリン、エチレングリコール、ジメチルサルファイトなどの非プロトン性有機溶媒を用いることができる。
【0061】
なお、電解液の代わりに、高分子固体電解質、高分子ゲル電解質などの高分子電解質を使用してもよい。高分子固体電解質又は高分子ゲル電解質のマトリクスを構成する高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリレートなどのアクリレート系高分子化合物、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)やビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物が好ましい。これらを混合して使用することもできる。酸化還元安定性などの観点から、PVDFやビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物が特に好ましい。
【0062】
(セパレータ)
上記リチウムイオン二次電池負極材を有するリチウムイオン二次電池に使用されるセパレータとしては、公知の材料を使用できる。例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などが例示される。合成樹脂製微多孔膜が好適であるが、なかでもポリオレフィン系微多孔膜が、膜厚、膜強度、膜抵抗などの点から好適である。具体的には、ポリエチレン及びポリプロピレン製微多孔膜、又はこれらを複合した微多孔膜などである。
【実施例】
【0063】
<実施例1>
((a)成分の合成)
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入管、及び滴下装置を備えた反応器に、水を200.0質量部仕込み、撹拌しながら75℃まで昇温した。そこに、アクリル酸97.0質量部、ジメチルアミノエチルメタクリレート3.0質量部、過硫酸カリウム1.2質量部、及び水250.0質量部からなる混合物を、3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間反応させた。反応終了後冷却し、水酸化ナトリウム32.3質量部、及び水337.9質量部を仕込み、中和することにより、式(1)の割合が39.4重量%、(2)の割合が59.2重量%、式(3)の割合が1.4重量%、Mwが650,000である共重合体(a)を得た。
【0064】
((b)成分の合成)
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入管、及び滴下装置を備えた反応器に、水を300.0質量部仕込み、撹拌しながら75℃まで昇温した。そこに、アクリル酸2.6質量部、アクリル酸ナトリウム76.2質量部、ヒドロキシエチルアクリレート48.4質量部、過硫酸カリウム0.3質量部、及び水350.0質量部からなる混合物を、3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間反応させた。反応終了後冷却し、水114.3質量部を仕込むことにより、式(1)の割合が3.2重量%、(2)の割合が60.0重量%、式(4)の割合が36.8重量%、Mwが1,100,000である共重合体(b)を得た。
【0065】
(バインダーの調製)
上記で合成された共重合体(a)と共重合体(b)とを、(a)/(b)が重量比で5:5になるように室温、大気下にて混合することにより、バインダーを得た。
(膨張黒鉛の調製)
平均粒子径(D50)1mmの鱗片状天然黒鉛を硫酸9質量部と硝酸1質量部の混酸に室温で1時間浸漬後、No3ガラスフィルタ-で混酸を除去して酸処理黒鉛を得た。さらに酸処理黒鉛を水洗後、乾燥した。乾燥した酸処理黒鉛5gを蒸留水100g中で攪拌し、1時間後にpHを測定したところ、pHは6.7であった。乾燥した酸処理黒鉛を850℃に設定した窒素雰囲気下の横型電気炉に投入し、膨張黒鉛を得た。膨張黒鉛の嵩密度は0.015g/cm3であり、BET比表面積は24m2/gであった。
(Si粉砕工程)
粒径(D50)が7μmのケミカルグレ-ドの金属Si(純度3N)をエタノ-ルに21重量%混合し、直径0.3mmのジルコニアビ-ズを用いた微粉砕湿式ビ-ズミルを6時間行い、粒径(D50)が0.2μm、乾燥時のBET比表面積が100m2/gの超微粒子Siスラリ-を得た。
【0066】
(Si表面修飾工程)
上記Siスラリ-を197gビ-カ-に投入し、15分間超音波照射を行い、その後、追加エタノ-ルを412gを追加し、Siスラリ-を得た。その後、アンモニウムヒドロキシド45gと水200gを混合し、上記Siスラリ-に添加し、撹拌羽を用いて回転数250rpmの条件で1時間撹拌を行った。その後、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MPS)25gを上記Siスラリ-に添加した。室温で24時間撹拌を行い、その後、得られたSiスラリ-を回転数6000rpm、回転時間30分の条件で遠心分離処理し、エタノ-ルで再分散した。
この遠心分離処理とエタノ-ル再分散の操作を3回繰り返した後に、再度同じ条件で遠心分離処理し、上澄み除去後にエタノ-ルで再分散させることで、粒径(D50)が0.2μmの3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランコ-トSi(以下、MPS-Siと略す。)スラリーを得た。
【0067】
(Si被覆工程)
上記MPS-Siスラリ-を固形分量が8gとなるように秤量し、その後、超音波照射を15分間行い、合計のエタノ-ル量が504gとなるように追加でエタノ-ルを添加した。ポリビニルピロリドン(東京化成工業社製、グレ-ド名:ポリビニルピロリドンK30)を10.67g採取し、29.33gの水に添加し、超音波照射しながら溶解させた。1Lの丸底フラスコを窒素パ-ジした後に、上記MPS-Siスラリ-とポリビニルピロリドン水溶液を注ぎ、蒸留したスチレンモノマ-を32g及びアゾイソビスブチロニトリル0.53gを添加し、オイルバスを60℃に昇温させた。その後、還流下で6時間加熱を続け、ポリスチレンコ-トSiスラリ-を得た。
【0068】
上記ポリスチレンコ-トSiスラリ-を66g(Siとして13.5g)、上記膨張黒鉛を31.5g、グリセリンを4.5g、及び、エタノ-ル0.5Lを撹拌容器に入れ、ホモミキサ-で15分混合撹拌し混合液を得た。その後、該混合液をロ-タリ-エバポレ-タ-に移し、回転しながら温浴で50℃に加熱し、アスピレ-タで真空に引き、溶媒を除去した。その後、ドラフト中でバットに広げて排気しながら2時間乾燥し、目開き2mmのメッシュを通し、さらに1日間乾燥して、110gの混合乾燥物(軽装かさ密度164g/L)を得た。
【0069】
(プレス、球形化工程)
この混合乾燥物を3本ロ-ルミルに2回通し、目開き1mmの篩を通し、軽装かさ密度299g/Lに造粒・圧密化した。
次に、この造粒・圧密化物をニュ-パワ-ミルに入れて水冷しながら、21000rpmで360秒粉砕し、同時に球形化し、軽装かさ密度371g/Lの略球状複合粉末を得た。
【0070】
(分級、焼成工程)
上記略球状複合粉末を風力分級装置(ホソカワミクロン社製 ATP-50)に投入し、分級機回転速度15,000rpmにて分級し、軽装かさ密度197g/Lの略球状複合微粉末を得た。
得られた微粉末を石英ボ-トに入れて、管状炉で窒素ガスを流しながら、最高温度900℃で1時間焼成した。これにより、結晶性炭素(黒鉛由来)70質量部、Si30質量部からなる焼成粉を得た。その後、目開き45μmのメッシュを通し、軽装かさ密度115g/L、粒径(D50)が10μmの焼成粉(負極活物質)を得た。
【0071】
(リチウムイオン二次電池負極の作製)
上記で得られた負極活物質92.5重量%(固形分全量中の含有量。以下同じ。)に対して、導電助剤としてアセチレンブラック0.5重量%、上記で調製したバインダー7.0重量%、及び水を混合して負極材スラリ-を調製した。
【0072】
得られた上記負極材スラリ-を、アプリケ-ターを用いて固形分塗布量が3.0mg/cm2になるように厚みが10μmの銅箔に塗布し、90℃で仮乾燥後、真空乾燥機にて90℃で1晩乾燥した。乾燥後、14mmφの円形に打ち抜き、圧力(ゲージ圧)1.0t/cm2の条件で一軸プレスし、さらに真空下、110℃で2時間熱処理して、厚みが20μmの負極合剤層を形成したリチウムイオン二次電池負極を得た。
【0073】
(リチウムイオン二次電池モデルセルの作製)
作製したリチウムイオンン次電池負極をアルゴン雰囲気のグローブボックス内に導入し、グローブボックス内でCR2032型(外装体の規格が直径20mm、厚さ3.2mm)コイン電池を作製した。簡易的に電池性能を評価するため、対極がLi金属であるリチウムイオン二次電池モデルセルとした。
前記負極、セパレータに21mmφのガラスフィルタ-、ガスケット、対極に18mmφで厚み0.2mmの金属リチウム、金属板(SUS製)及びワッシャーを積層した。なお、負極とセパレータのみ電解液に浸漬したものを用いた。最後に蓋をねじ込み作製した。電解液は、エチレンカ-ボネ-トとジエチルカ-ボネ-トの体積比1対1の混合溶媒とし、これにFEC(フルオロエチレンカ-ボネ-ト)を2体積%添加し、LiPF6を1.2モル/リットルの濃度になるように溶解させたものを使用した。
【0074】
評価用コインセルは25℃の恒温室にて、サイクル試験した。充電は、定電流で0.01Vまで0.3Cで充電後、0.01Vの定電圧で電流値が0.03Cになるまで行った。
また放電は、0.3Cの定電流で1.5Vの電圧値まで行った。また、サイクル特性は、前記充放電条件にて20回充放電試験した時の20サイクル目の効率を指標とした。この効率が高いほどLiのやり取りのロスが少なく、かつ電解液の分解が少ない高性能ということになる。
【0075】
<実施例2>
リチウムイオン二次電池負極を作製する際に使用するバインダーとして、(a)成分と(b)成分との重量比を3:7にした以外は同様にしてバインダーを調製した。このバインダーを使用する以外は、実施例1と同様に実施することによりリチウムイオン二次電池モデルセルを作製した。
<実施例3>
リチウムイオン二次電池負極を作製する際に使用するバインダーとして、(a)成分と(b)成分との重量比を1:9にした以外は同様にしてバインダーを調製した。このバインダーを使用する以外は、実施例1と同様に実施することによりリチウムイオン二次電池モデルセルを作製した。
【0076】
<比較例1>
リチウムイオン二次電池負極を作製する際に使用するバインダーとして、(a)成分と(b)成分との重量比を0:10にした以外は同様にしてバインダーを調製した。このバインダーを使用する以外は、実施例1と同様に実施することによりリチウムイオン二次電池モデルセルを作製した。
【0077】
(充放電試験)
実施例1~3及び比較例1のリチウムイオン二次電池モデルセルについて、実施例1に記載した上記充放電条件にて20回充放電試験した時の20サイクル目の効率結果を求めた。それぞれの結果を表1に示した。
【0078】
【0079】
表1、2に見られるように、実施例1~3のモデルセルは、比較例1に比較して、いずれも高い充放電効率を有することがわかる。
このように、本発明のバインダーを含むリチウムイオン二次電池負極材を用いると良好な充放電サイクル特性のリチウムイオン二次電池が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0080】
1:外装体、 2:リチウム金属、 3:ワッシャー、 4: 金属板
5:ガスケット、 6:集電体、 7:セパレータ、 8: 活物質層
9:外装体、 10:電極