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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04694 20160101AFI20240614BHJP
   H01M 8/065 20160101ALI20240614BHJP
   H01M 8/249 20160101ALI20240614BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20240614BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20240614BHJP
   H01M 8/04228 20160101ALI20240614BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20240614BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20240614BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20240614BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20240614BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
H01M8/04694
H01M8/065
H01M8/249
H01M8/04858
H01M8/04225
H01M8/04228
H01M8/04302
H01M8/04303
H01M8/04537
H01M8/0438
C01B3/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020155681
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049461
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 裕太
(72)【発明者】
【氏名】下田 英介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 成輝
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲彦
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-160336(JP,A)
【文献】特開2006-338967(JP,A)
【文献】特開2001-102074(JP,A)
【文献】特開2002-305015(JP,A)
【文献】特開2004-288603(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0104894(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
C01B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金タンクと、
前記水素吸蔵合金タンクに接続され、前記水素吸蔵合金タンクから放出される水素を用いて電力を発電する複数台の燃料電池と、
予め計画された電力値である計画出力値を一台以上の前記燃料電池で発電するように、運転させる前記燃料電池の台数である運転台数を増減させる制御装置と、
を備え
前記制御装置は、
現在運転中の前記燃料電池の台数に応じて設定される前記水素吸蔵合金タンク内の圧力の閾値を、前回の運転停止時において前記水素吸蔵合金タンクが水素放出状態で運転を終了した場合には第1タンク圧力閾値に設定し、水素吸蔵状態で運転を終了した場合には第1タンク圧力閾値よりも高い第2タンク圧力閾値に設定する閾値設定部と、
前回の運転が前記水素放出状態で停止した場合には前記水素吸蔵合金タンク内の圧力であるタンク圧力が前記第1タンク圧力閾値以上であることを条件として前記燃料電池を増加させ、前回の運転が前記水素吸蔵状態で停止した場合には前記タンク圧力が前記第2タンク圧力閾値以上であることを条件として前記燃料電池を増加させる起動部と、
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
水素吸蔵合金タンクと、
前記水素吸蔵合金タンクに接続され、前記水素吸蔵合金タンクから放出される水素を用いて電力を発電する複数台の燃料電池と、
予め計画された電力値である計画出力値を一台以上の前記燃料電池で発電するように、運転させる前記燃料電池の台数である運転台数を増減させる制御装置と、
を備え
前記制御装置は、
更新された前記計画出力値と現在運転中の燃料電池が1台少ない場合での最大出力値の合計値である第3合計値と、を比較し、更新された前記計画出力値が前記第3合計値未満の場合には、少なくとも一つ以上の前記燃料電池を停止させる停止部を備える燃料電池システム。
【請求項3】
前記停止部は、
前記計画出力値が現在運転中の前記燃料電池の最大出力値の合計値である第2合計値未満の場合には、前記水素吸蔵合金タンク内の圧力であるタンク圧力が、現在の運転台数で次の計画出力値が更新されるまでに運転が継続可能なタンク圧力である第3タンク圧力閾値以上か否かを判定し、前記タンク圧力が前記第3タンク圧力閾値未満の場合には、少なくとも一つ以上の前記燃料電池を停止させる、
請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記運転台数を増加させる場合には、運転が停止している前記燃料電池の排熱回収率の高い順に前記燃料電池を優先的に起動させる、
請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記燃料電池の起動にかかる時間である起動時間の後の前記計画出力値と、現在の各燃料電池の出力値の合計値である第1合計値とが異なる場合には、前記運転台数を増減させる決定を行う、
請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記計画出力値と、現在運転中の前記燃料電池の最大出力値の合計値である第2合計値とを比較し、前記計画出力値が前記第2合計値以上の場合には、前記燃料電池を増加させるか否かを判定する、
請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御装置は、
更新された前記計画出力値が前記第3合計値以上の場合には、前記各燃料電池の出力を調整する出力調整部を更に備え、
前記出力調整部は、排熱を回収できる前記燃料電池がX台の場合において、前記排熱を回収できる前記各燃料電池の出力Phを、前記燃料電池の最大定格出力または最大定格出力の70%以上とし、それ以外の前記各燃料電池の出力Prを以下の式で表されると値とする第1の調整方法で前記各燃料電池の出力を調整する、請求項に記載の燃料電池システム。
Pr=(計画出力値-Ph×X)/(運転台数-X)
【請求項8】
前記出力調整部は、前記第1の調整方法で前記各燃料電池の出力を調整することができない場合には、前記各燃料電池の出力を、前記計画出力値を前記運転台数で均等に割った値とする第2の調整方法で前記各燃料電池の出力を調整する、請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記出力調整部は、前記計画出力値が現在の各前記燃料電池の出力の和を上回る場合には、前記各燃料電池の出力を最大定格の出力値とする第3の調整方法で前記各燃料電池の出力を調整する、請求項又はに記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素を燃料として用いることで発電する技術として、燃料電池が知られている。燃料電池を利用する際には大量の水素が必要となるため、水素貯蔵技術の開発は重要な課題とされている。水素貯蔵技術の一つとして、大量の水素を安全に貯蔵することができる水素吸蔵合金を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、水素吸蔵合金を有する水素吸蔵合金タンクと、水素吸蔵合金タンクから放出される水素を用いて発電する一つの燃料電池と、を有する燃料電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-22366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、あるメーカでは、燃料電池の最大定格出力が3.5kWである低出力機と、燃料電池の最大定格出力が100kWである高出力機との2機種の燃料電池が製造されている。そのため、計画出力値として10kWの発電出力が求められる場合には、特許文献1に記載の燃料電池システムでは、計画出力値の電力を燃料電池で発生させることができない場合があり、さまざまな計画出力値に対応できない場合があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、さまざまな計画出力値に対応可能な燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、水素吸蔵合金タンクと、前記水素吸蔵合金タンクに接続され、前記水素吸蔵合金タンクから放出される水素を用いて電力を発電する複数台の燃料電池と、予め計画された電力値である計画出力値を一台以上の前記燃料電池で発電するように、運転させる前記燃料電池の台数である運転台数を増減させる制御装置と、を備える燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、さまざまな計画出力値に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る燃料電池システムの概略構成の一例を示す図である。
図2】本実施形態に係る本実施形態の制御装置の構成の一例を示す図である。
図3】本実施形態に係るタンク圧力閾値を説明する図である。
図4】本実施形態に係る制御装置の動作のフロー図である。
図5】本実施形態に係る起動時間Δtを説明する図である。
図6】本実施形態に係る素吸蔵合金のPCT特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、図面において、同一又は類似の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省く場合がある。また、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されることがある。
【0011】
図1は、本実施形態に係る燃料電池システム1の概略構成の一例を示す図である。図1に示すように、燃料電池システム1は、水素吸蔵合金タンク10、一つ以上の燃料電池11及び制御装置12を備える。なお、本実施形態の一例として、燃料電池システム1が、複数の燃料電池11-1~11-n(nは2以上の整数である)を備える場合について説明する。なお、複数の燃料電池11-1~11-nのそれぞれを区別しない場合には、「燃料電池11」と称し、ハイフン以下を省略する場合がある。
【0012】
水素吸蔵合金タンク10は、複数の燃料電池11に接続されている。水素吸蔵合金タンク10は、水素吸蔵合金を内蔵し、水素を吸蔵かつ放出可能なタンクである。例えば、水素吸蔵合金タンク10は、外部に設けられた水電解装置や水素の供給源などから供給された水素を水素吸蔵合金に吸蔵させることで貯蔵する。水素吸蔵合金によって水素が吸蔵される状態を「水素吸蔵状態」と称する。水素吸蔵合金タンク10は、水素吸蔵合金によって貯蔵している水素を各燃料電池11に放出可能である。ここで、水素吸蔵合金によって水素が放出される状態を「水素放出状態」と称する。
【0013】
水素吸蔵合金は、水素吸蔵状態と水素放出状態とで圧力が異なる。水素吸蔵合金タンク10内において、水素吸蔵合金が置かれている雰囲気の圧力(以下、「タンク圧力」という。)を加圧することにより水素吸蔵合金が水素を吸蔵し、タンク圧力を減圧することによって水素吸蔵合金が水素を放出する。したがって、水素吸蔵状態のタンク圧力は、水素放出状態のタンク圧力よりも高い。なお、水素吸蔵合金は吸蔵時に発熱反応し、放出時に吸熱反応となる。よって、水素吸蔵合金タンクでは、基本的に、冷却により水素の吸蔵が開始され、加熱により水素の放出が開始される。
【0014】
各燃料電池11は、水素吸蔵合金タンク10が放出する水素を燃料として、水素と酸素を反応させて電力を発電し、発電した電力を不図示の電気負荷へ出力する。例えば、燃料電池11は、定置式である。
【0015】
制御装置12は、一つ以上の燃料電池11の起動、運転及び停止などを制御する。例えば、制御装置12は、BEMS(Building and Energy Management System)やFEMS(Factory Management System)などによって予め計画される電力量である計画出力値を、一つ以上の燃料電池11で発電させるために、運転中の前記燃料電池の台数を増減させる。この計画出力値は、一定周期ごとに更新される。
【0016】
本実施形態の燃料電池システム1では、水素吸蔵合金タンク10と複数の燃料電池11とを組み合わせ、燃料電池11の排熱を利用して水素吸蔵合金タンク10を加温し、水素吸蔵合金タンク10内の圧力を上げて水素吸蔵合金タンク10の運転を継続させる。
【0017】
以下において、本実施形態の制御装置12の構成の一例について、図2を用いて説明する。
【0018】
図2に示すように、制御装置12は、記憶部20、閾値設定部21、起動部22、停止部23及び出力調整部24を備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integrated circuit)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。この記憶装置は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)等により構成される。
【0019】
記憶部20には、図3に示すようなタンク圧力の閾値(以下、「タンク圧力閾値」という。)が格納される。このタンク圧力閾値には、大別して、第1タンク圧力閾値P1、第2タンク圧力閾値P2及び第3タンク圧力閾値P3の三種類のタンク圧力閾値がある。図3は、n=3であるときのタンク圧力閾値を示す。
【0020】
第1タンク圧力閾値P1は、水素吸蔵合金が水素放出状態で前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が終了した場合において、運転中の燃料電池11の台数(以下、「運転台数」という。)Mに応じて設定されるタンク圧力閾値である。第1タンク圧力閾値P1は、水素吸蔵合金が水素放出状態で前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が終了した場合に、新たな燃料電池11を起動しても次の計画出力値が更新されるまで運転が継続可能なタンク圧力である。例えば、運転台数Mが0台の場合には、M=0での第1タンク圧力閾値P1としてN0_Min_P1が設定される。例えば、運転台数Mが1台の場合には、M=1での第1タンク圧力閾値P1としてN1_Min_P1が設定される。例えば、運転台数が2台の場合には、M=2での第1タンク圧力閾値P1としてN2_Min_P1が設定される。すべての燃料電池11が運転中である場合には、運転台数を増やすことができないため、最大の運転台数Mが「3」である場合には、運転台数Mが2までの第1タンク圧力閾値P1が設定される。
【0021】
第2タンク圧力閾値P2は、水素吸蔵合金が水素吸蔵状態で前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が終了した場合において、運転台数Mに応じて設定されるタンク圧力閾値である。第2タンク圧力閾値P2は、水素吸蔵合金が水素吸蔵状態で前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が終了した場合に、新たな燃料電池11を起動しても次の計画出力値が更新されるまで運転が継続可能なタンク圧力である。例えば、運転台数Mが0台の場合には、M=0での第2タンク圧力閾値P2としてN0_Min_P2が設定される。例えば、運転台数Mが1台の場合には、M=1での第2タンク圧力閾値P2としてN1_Min_P2が設定される。例えば、運転台数が2台の場合には、M=2での第2タンク圧力閾値P2としてN2_Min_P2が設定される。すべての燃料電池11が運転中である場合には、運転台数を増やすことができないため、最大の運転台数M=3である場合には、運転台数Mが2までの第2タンク圧力閾値P2が設定される。
【0022】
なお、水素吸蔵合金タンク10が前回水素吸蔵状態で運転を終えた場合、次回の水素吸蔵合金タンク10に運転開示時において水素を放出する(燃料電池11に水素を供給する)に当たってタンク圧力が大きく減少する。そのため、第2タンク圧力閾値P2は、第1タンク圧力閾値P1よりも高い値に設定される。
【0023】
第3タンク圧力閾値P3は、現在の運転台数Mで次の計画出力値が更新されるまでに運転が継続可能なタンク圧力である。第3タンク圧力閾値P3は、現在の運転台数Mに応じて設定されるタンク圧力閾値である。例えば、運転台数Mが1台の場合には、M=1での第3タンク圧力閾値P3としてN1_Min_P3が設定される。例えば、運転台数Mが2台の場合には、M=2での第3タンク圧力閾値P3としてN2_Min_P3が設定される。例えば、運転台数が3台の場合には、M=3での第3タンク圧力閾値P3としてN3_Min_P3が設定される。なお、運転台数Mが0台の場合には、第3タンク圧力閾値P3は、設定されない。なお、第3タンク圧力閾値P3は、第2タンク圧力閾値P2よりも高い値である。
【0024】
閾値設定部21は、第1タンク圧力閾値P1、第2タンク圧力閾値P2及び第3タンク圧力閾値P3を設定し、記憶部20に格納する。
【0025】
例えば、閾値設定部21は、水素吸蔵合金タンク10が前回水素放出状態と水素吸蔵状態とのどちらで運転を終了したかで第1タンク圧力閾値P1と第2タンク圧力閾値P2とのいずれかを設定する。すなわち、閾値設定部21は、水素吸蔵合金タンク10が前回水素放出状態で運転を終了した場合には、現在の運転台数Mに応じた第1タンク圧力閾値P1を設定する。閾値設定部21は、水素吸蔵合金タンク10が前回水素吸蔵状態で運転を終了した場合には、現在の運転台数Mに応じた第2タンク圧力閾値P2を設定する。
【0026】
起動部22は、運転台数Mを増加させる場合には、運転が停止している燃料電池11の排熱回収率の高い順に燃料電池11を優先的に起動させてもよい。一例として、起動部22は、燃料電池11の起動にかかる時間である起動時間Δtの後の計画出力WΔtと、現在の各燃料電池11の出力値の合計値である第1合計値Ws1とを比較する。そして、起動部22は、計画出力値WΔtと第1合計値Ws1とが異なっていれば、計画出力値WΔtと、現在運転中の燃料電池11の最大出力値の合計値である第2合計値Ws2とを比較する。起動部22は、計画出力値WΔtが第2合計値Ws2以上の場合には、燃料電池11を増加させるか否かを判定する増加判定処理を行う。
【0027】
増加判定処理の一例として、起動部22は、前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が水素放出状態で停止したか、それとも水素吸蔵状態で停止したかを判定する。そして、起動部22は、前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が水素放出状態で停止した場合には、タンク圧力が第1タンク圧力閾値P1以上であることを条件として、燃料電池11を一つ以上増加させる。また、起動部22は、前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が水素吸蔵状態で停止した場合には、タンク圧力が第2タンク圧力閾値P2以上であることを条件として、燃料電池11を一つ以上増加させる。なお、増加させるとは、燃料電池11を起動させることと同意である。なお、起動部22は、起動させる燃料電池11に対して起動指令を出力することで当該燃料電池11を起動させる。
【0028】
停止部23は起動時間Δtの後の計画出力値WΔtが現在の計画出力値として更新されるまでの時間Δt+Aが経過すると、その更新された現在の計画出力値Wrと現在運転中の燃料電池が1台少ない場合での最大出力値の合計値である第3合計値Ws3と、を比較し、計画出力値Wrが第3合計値Ws3未満の場合には、少なくとも1つ以上の燃料電池11を停止させる。一例として、停止部23は、計画出力値WΔtが第2合計値Ws2未満の場合には、時間Δt+Aが経過した後においてタンク圧力と第3タンク圧力閾値P3とを比較し、タンク圧力が第3タンク圧力閾値P3以上の場合には、現在の計画出力値Wrと第3合計値Ws3とを比較する。そして、停止部23は、計画出力値Wrが第3合計値Ws3未満の場合には、少なくとも1つ以上の燃料電池11を停止させる。なお、停止部23は、停止させる燃料電池11に対して停止指令を出力することで当該燃料電池11を停止させる。
【0029】
出力調整部24は、計画出力値Wrが第3合計値Ws3以上の場合には、燃料電池11の出力の調整を行う。この燃料電池11の出力調整には、第1の調整方法、第2の調整方法及び第3の調整方法がある。
【0030】
第1の調整方法は、排熱を回収できる燃料電池11の出力を約最大定格で発電させる方法である。例えば、排熱を回収できる燃料電池11とは、水素吸蔵合金タンク10へ排熱を一定量以上供給できる燃料電池11のことである。第1の調整方法では、一例として、排熱を回収できる燃料電池11がX(Xは1台以上)台の場合には、そのX台の各燃料電池11の出力High_Pw(=Ph)を燃料電池11の最大定格出力又は最大定格出力のK%以上とし、それ以外の各燃料電池11の出力Prを(計画出力-High_Pw×X)/(運転台数-X)とする。ここで、High_Pwは、最大定格出力のK%の電力又は最大定格出力である。High_Pwは、可能な限り高い出力であることが望ましい。Kは、例えば70%以上であることが好ましい。
【0031】
出力調整部24は、第1の調整方法で各燃料電池11の出力を調整できない場合には、第2の調整方法で各燃料電池11の出力を調整してもよい。第2の調整方法は、すべての燃料電池11で均等に発電させる方法である。一例として、第2の調整方法では、各燃料電池11の出力を、計画出力値を運転台数Mで均等に割った値(各燃料電池11の出力=計画出力値/運転台数)とする。
【0032】
出力調整部24は、計画出力値が現在の各燃料電池11の出力の和を上回る場合、すなわち、すべての燃料電池11を最大出力で運転しても計画出力値には届かない場合には、第3の調整方法で燃料電池11の出力を調整してもよい。一例として、第3の調整方法では、各燃料電池11の出力を最大定格の出力値(各燃料電池11の出力=最大定格の出力値(Max_Pw))とする。
【0033】
以下において、本実施形態の制御装置12の動作の流れを、図4を用いて説明する。図4は、本実施形態の制御装置12の動作のフロー図である。
【0034】
制御装置12は、現在の時刻tにおいて、起動時間Δt先の計画出力値WΔtを例えば外部から取得し、その計画出力値WΔtと第1合計値Ws1とを比較し、比較した結果、計画出力値WΔtと第1合計値Ws1とが異なる場合には、運転台数を増減させる決定を行う。一例として、起動部22は、計画出力値WΔtと第1合計値Ws1とが異なるか否かの判定を行い(ステップS101)、計画出力値WΔtと第1合計値Ws1とが異なっていれば、計画出力値WΔtが第2合計値Ws2以上か否かを判定する(ステップS102)。ステップS102において、計画出力値WΔtが第2合計値Ws2未満である場合には、制御装置12は、ステップS109に移行する。
【0035】
起動部22は、ステップS102において計画出力値WΔtが第2合計値Ws2以上である場合には、前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が水素放出状態と水素吸蔵状態とのいずれの状態で停止したかを判定する(ステップS103)。
【0036】
起動部22にて前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が水素放出状態で停止したと判定された場合には、閾値設定部21は、現在の運転台数Mに応じた第1タンク圧力閾値P1を設定する(ステップS104)。一方、起動部22にて前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が水素吸蔵状態で停止したと判定された場合には、閾値設定部21は、現在の運転台数Mに応じた第2タンク圧力閾値P2を設定する(ステップS105)。このように、閾値設定部21は、燃料電池11の配管内パージ圧損を考慮し、現在起動していない燃料電池11を起動可能とするタンク圧力閾値を現在の運転中の燃料電池11の台数に対応して、水素吸蔵合金タンク10が前回放出状態、または吸蔵状態で運転を終了したかでそれぞれ設定する。
【0037】
起動部22は、前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が水素放出状態で停止したと判定した場合には、タンク圧力が第1タンク圧力閾値P1以上か否かを判定し(ステップS106)、タンク圧力が第1タンク圧力閾値P1以上である場合には、停止中の燃料電池11を1台以上、起動させる(ステップS107)。例えば、起動部22は、ステップS107において燃料電池11を起動させる場合には、運転が停止している複数の燃料電池11のうち、排熱回収率の高い順に燃料電池11を優先的に起動させる。ステップS106においてタンク圧力が第1タンク圧力閾値P1未満である場合には、制御装置12は、ステップS109に移行する。
【0038】
起動部22は、前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が水素吸蔵状態で停止したと判定した場合には、タンク圧力が第2タンク圧力閾値P2以上か否かを判定し(ステップS108)、タンク圧力が第2タンク圧力閾値P2以上である場合には、停止中の燃料電池11を1台以上、起動させる(ステップS107)。ステップS108においてタンク圧力が第2タンク圧力閾値P2未満である場合には、制御装置12は、ステップS109に移行する。
【0039】
ステップS109の処理は、時刻tからΔt+Aが経過した後に実行される。時刻tからΔt+Aが経過した後とは、現在の計画出力値Wrが計画出力値WΔtに更新された後を意味する。閾値設定部21は、現在の計画出力値Wrが計画出力値WΔtに更新されると、運転中の燃料電池の台数、すなわち現在の運転台数Mに応じた第3タンク圧力閾値P3を設定する(ステップS109)。そして、停止部23は、タンク圧力が第3タンク圧力閾値P3以上か否かを判定し(ステップS110)、タンク圧力が第3タンク圧力閾値P3以上である場合には、現在の計画出力値Wrが第3合計値Ws3以上か否かを判定する(ステップS111)。出力調整部24は、ステップS112において計画出力値Wrが第3合計値Ws3以上の場合には、各燃料電池11の出力の調整を第1の調整方法、第2の調整方法及び第3の調整方法のいずれかの方法で行う(ステップS112)。
【0040】
停止部23は、ステップS110においてタンク圧力が第3タンク圧力閾値P3未満であると判定した場合には、燃料電池11を1台停止させる(ステップS113)。また、停止部23は、ステップS111において現在の計画出力値Wrが第3合計値Ws3未満である場合、すなわち現在運転中の燃料電池11より1台少ない場合の燃料電池11の合計最大出力値が現在の計画出力Wrを超える場合には、運転台数Mが過剰であるため、燃料電池11を1台停止させる(ステップS113)。ステップS113で燃料電池11を1台停止させた場合には、ステップS110に移行してタンク圧力が第3タンク圧力閾値P3以上か否かの判定が再度実行される。
【0041】
以下において、本実施形態の作用効果について説明する。
例えば、従来の燃料電池システムでは、水素吸蔵合金タンク10には、一つの燃料電池が接続されていることが前提である。したがって、さまざまな計画出力値に対応できない場合があった。一方、本実施形態の燃料電池システム1では、複数台の燃料電池11が水素吸蔵合金タンク10に接続されており、複数台の燃料電池11を連携させて運用を行い、予め計画された計画出力値を1台以上の燃料電池11で発電するように、運転台数Mを増減させる制御装置12を備える。これにより、さまざまな計画出力値に対応可能となる。
【0042】
ここで、図5に示すように、燃料電池11の起動の際には、暖気運転を行う必要があり、ある燃料電池11では起動指令から計画出力値が出るまで約10分かかる場合がある。一方、燃料電池11の停止の際には停止指令から実際にその燃料電池11の発電出力がゼロになるまで時間差は少ない。したがって、計画出力値を時刻t1において燃料電池11にて発電させる場合において、時刻t1にて起動指令を出力すると、時刻t1から10分後の時刻にて計画出力値に相当する発電電力が燃料電池11から出力されることになり、計画された時間通りに計画出力値の電力を燃料電池11から出力させることができない場合がある。
【0043】
そこで、燃料電池システム1は、時刻tにおいて、起動指令を燃料電池11に出力してからその燃料電池が定格の電力を出力するまでにかかる時間である起動時間Δt後の計画出力値(時刻tを基準として起動時間Δt後、すなわち時刻t+Δtのときの計画出力値)WΔtと、現在運転中の燃料電池11の出力の合計である第1合計値Ws1とを比較し、計画出力値WΔtと第1合計値Ws1とが異なっている場合には、その計画出力値WΔtが現在運転中の燃料電池11の最大出力の合計である第2合計値Ws2より大きい場合には新しく燃料電池11を起動する。これにより、燃料電池システム1は、時刻t1よりも10分前に起動指令を出力することになり、計画された時間通りに計画出力値の電力を燃料電池11から出力させることができる。
【0044】
図6は、水素吸蔵合金のPCT特性の一例を示す図である。図6に示すように、燃料電池11に接続した水素吸蔵合金タンク10の運用を行う際、水素吸蔵合金タンク10内に詰められた水素吸蔵合金は水素吸蔵状態と水素放出状態で圧力が異なる。ここで、水素吸蔵状態の方が水素放出状態より圧力が高いため、水素吸蔵状態から水素放出状態に遷移した際、大きな減圧が生じる。そのため、水素吸蔵合金タンク10が水素放出状態で前回の運用を終え、次回の運転開始時に水素を放出した場合にはほとんど影響がないが、水素吸蔵合金タンク10を水素吸蔵状態で前回の運用を終え(例えば、水素吸蔵合金タンク10に外部から水素を供給)、次回の運転開始時において水素を放出した場合には水素吸蔵合金タンク10の圧力が大きく減り、燃料電池11の起動が困難になる場合がある。
【0045】
そこで、燃料電池システム1は、BEMSなどで設定された計画出力値に燃料電池11の発電出力値を近づけるために燃料電池11からの排熱回収を行いつつ、タンク圧力及び現在の発電出力と計画出力値とのズレを基準に燃料電池11を起動させることにより、燃料電池11への水素供給に必要な圧力の不足を防ぎ、燃料電池11の起動を行い易くなる。
【0046】
また、燃料電池11の起動時においては、配管内のパージなどを行う必要があり、水素を定格出力での運転より多く消費する場合がある。その結果、一時的に大量の水素が必要となり、タンク圧力の急激な低下により、燃料電池11に水素が供給されず、起動が上手く行われない場合がある。また、燃料電池11の停止時に水素吸蔵合金タンク10に対する加温のための排熱が急激に少なくなり、タンク圧力の急激な低下により、残りの燃料電池11の運転の継続が困難になる場合が考えられる。
【0047】
そこで、燃料電池システム1は、前回の水素吸蔵合金タンク10の運転が水素放出状態で運転終了した場合と、水素吸蔵状態で運転終了した場合とで別々のタンク圧力閾値を設定し、「水素放出状態で終了の場合のタンク圧力閾値である第1タンク圧力閾値P1」<「水素吸蔵状態で終了した場合のタンク圧力閾値である第2タンク圧力閾値P2」とする。そして、燃料電池システム1は、水素放出状態で水素吸蔵合金タンク10が終了した場合においてタンク圧力が第1タンク圧力閾値P1以上である場合には燃料電池11を起動し、水素吸蔵状態で水素吸蔵合金タンク10が終了した場合においてタンク圧力が第2タンク圧力閾値P2以上である場合には燃料電池11を起動する。これにより、燃料電池システム1は、タンク圧力を一定に維持することができ、タンク圧力の急激な低下を引き起こすことなく、燃料電池11の起動や停止を行うことができる。
【0048】
また、燃料電池11は、水素吸蔵合金タンク10からの距離等によって排熱回収効率が異なる場合がある(例えば、水素吸蔵合金タンク10または熱交換器に近い方が有利など)。また、燃料電池11の出力が高いほど排熱を多く回収することができる。そのため、計画出力値に対して各燃料電池11を均一な出力で運転させた場合、水素吸蔵合金タンク10を有効に加熱することができない場合がある。
【0049】
そこで、燃料電池システム1は、排熱回収率の高い燃料電池11を優先的に起動することで、燃料電池11の最適な排熱回収運転を行うことができる。
【0050】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0051】
以上、説明したように、本実施形態の燃料電池システム1は、計画出力値を発電するために、複数台の燃料電池11を運転する必要がある場合には、合金の特性を利用し、前回の水素吸蔵合金タンク10の運転停止時において水素吸蔵状態で運転を終了したか、水素放出状態で終了したか(終了とは、例えば、水素吸蔵合金タンク10の水素出入口弁を閉めたことを示す)によって別々のタンク圧力を閾値として定めることで、1台以上の燃料電池11を計画通りに起動させることができる。また、排熱回収を行いながら水素吸蔵合金タンク10を加温し合金圧力を高めることで、タンク圧力が一定以上である限り、計画出力値通りの出力で燃料電池11を運転継続でき、タンク圧力が閾値を下回った場合には燃料電池11を計画出力値より小さな出力(少ない台数)で運転継続できる。
【0052】
明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「含む」、「有する」や「備える」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0053】
また、明細書に記載の「…部の用語は、少なくとも1つの機能や動作を処理する単位を意味し、これは、ハードウェアまたはソフトウェアとして具現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現されてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 燃料電池システム
10 水素吸蔵合金タンク
11 燃料電池
12 制御装置
20 記憶部
21 閾値設定部
22 起動部
23 停止部
24 出力調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6