(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞及びその製造並びに使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20240614BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240614BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/047 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/355 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240614BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20240614BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240614BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240614BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240614BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240614BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K9/10
A61K9/50
A61K31/047
A61K31/355
A61K31/496
A61K31/573
A61K38/13
A61K45/00
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/28
A61P27/02
(21)【出願番号】P 2021561011
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 CN2020082905
(87)【国際公開番号】W WO2020211653
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】201910308271.6
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520262412
【氏名又は名称】▲輔▼必成(上海)医▲薬▼科技有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ガン,リー
(72)【発明者】
【氏名】リュー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ホア
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ヤナン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジンロン
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108285(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0172520(US,A1)
【文献】Yanmei Qin et al.,Hyaluronic acid-modified cationic niosomes for ocular gene delivery: improving transfection efficiency in retinal pigment epithelium,Journal of Pharmacy and Pharmacology,2018年,70,1139-1151,DOI:10.1111/jphp.12940
【文献】Shilpa Kakkar et al.,Spanlastics - A novel nanovesicular carrier system for ocular delivery,International Journal of Pharmaceutics,2011年,Vol 413,202-210,DOI:10.1016/j.ijpharm.2011.04.027
【文献】Aliaa N. ElMeshad et al.,Enhanced corneal permeation and antimycotic activity of itraconazole against Candida albicans via a novel nanosystem vesicle,Drug Delivery,2014年07月31日,Vol.23 No.7,2115-2123,DOI:10.3109/10717544.2014.942811
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P 27/02
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物担持小胞を含むカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞であって、
前記薬物担持小胞の表面がカチオン化ヒアルロン酸により修飾され、
前記薬物担持小胞が、小胞膜と、小胞膜によって包まれた疎水性薬物とを含み、前記小胞膜が、非イオン性界面活性剤及びエッジ活性化剤を含
み、
前記非イオン性界面活性剤が、スパン40、スパン60、スパン80、ポロキサマー121又はポロキサマー123を含み、
前記エッジ活性化剤が、ツイーン20、ツイーン40、ツイーン80、コール酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル35又はポリオキシエチレンヒマシ油を含み、
眼疾患の治療又は薬物の眼球表面送達のための、カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞。
【請求項2】
前記疎水性薬物が、シクロスポリン、ルテイン、ケトコナゾール、α-トコフェロール及びパルミチン酸デキサメタゾンのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載のカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞。
【請求項3】
粒子径は200~310nmであり、ゼータ電位は-10~-30mVであり、粘度は1~12mPa・sであることを特徴とする請求項1に記載のカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤とエッジ活性化剤との重量比が60:40~90:10の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞。
【請求項5】
前記非イオン性界面活性剤と疎水性薬物との重量比が20:1~4:1の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞。
【請求項6】
非イオン性界面活性剤及び疎水性薬物を含むエタノール溶液を、エッジ活性化剤及びグリセリンを含む65~75℃の水溶液に注ぎ、撹拌してエタノールを揮発させ、薬物担持小胞の分散液を得、カチオン化ヒアルロン酸の等張溶液に薬物担持小胞の分散液を滴下して撹拌することで、カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞の分散液を得ることを含むことを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の
眼疾患の治療又は薬物の眼球表面送達のための、カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞の製造方法。
【請求項7】
修飾に用いる前記カチオン化ヒアルロン酸の修飾濃度が0.05%~0.15%w/vであることを特徴とする請求項
6に記載のカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞の製造方法。
【請求項8】
眼疾患の治療薬を製造するための
、カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞の使用
であり、
前記カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞が、薬物担持小胞を含むカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞であり、
前記薬物担持小胞の表面がカチオン化ヒアルロン酸により修飾され、
前記薬物担持小胞が、小胞膜と、小胞膜によって包まれた疎水性薬物とを含み、前記小胞膜が、非イオン性界面活性剤及びエッジ活性化剤を含み、
前記非イオン性界面活性剤が、スパン40、スパン60、スパン80、ポロキサマー121又はポロキサマー123を含み、
前記エッジ活性化剤が、ツイーン20、ツイーン40、ツイーン80、コール酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル35又はポリオキシエチレンヒマシ油を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬製剤の分野に該当し、詳しくは、カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞、製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
目は、光を知覚して視覚を提供する器官であり、情報伝達の窓口として、ほとんどの情報取得に関わる存在である。脳の記憶及び知識の約80%は目を通して取得される。現在、様々な原因で眼疾患が増加しており、世界では毎年2億人以上が眼疾患に苦しんでいる。目薬の投与は、眼疾患を治療するための主な方法の1つである。一方、薬物の膜透過輸送は、角膜バリア、鼻涙管ドレナージや薬物自体の物理的・化学的特性などにより制限される。
【0003】
シクロスポリン、ルテイン、ケトコナゾール、α-トコフェロール及びパルミチン酸デキサメタゾンなどの脂溶性高分子薬がある。脂溶性は、生体膜に浸透する上で有利であるかもしれないが、高分子量は生体膜の通過を妨げる。また、高い脂溶性は角膜上皮の通過を確保できるが、親水性の高い角膜上皮をさらに通過することは妨げられる。したがって、生物学的利用能を最大化するための薬物送達戦略を策定する必要がある。さらに、眼球表面への投与後に、例えば、反射性まばたき、涙液膜の再生及び涙液の代謝といった眼の様々な生理学的機構に曝されるので、投与量の一部の損失を引き起こすことがある。そのため、高い分子量、低い水溶性、および、眼球表面での限定的な保持時間は、これらの薬物の生物学的利用能が低く、通常は5%未満である主な理由である。さらに、安全性と忍容性は、眼科用品における重要な考慮事項である。
【0004】
眼科用製剤に用いられる小胞薬物送達系は、リポソームとニオソームがあり、親水性薬物を水性コア内に封入し、疎水性薬物を二重層の膜内に封入することによって、生体環境による影響から薬物を守りつつ、薬物の放出時間を制御することができる。小胞系は、眼における涙液中の酵素による代謝を防ぐことにより、角膜表面での作用時間を延長することもできる。ニオソームは、リポソームに類似する生体適合性や生分解性などの利点を有する。さらに、リン脂質の代わりに非イオン性界面活性剤から構成されるため、リポソームよりも低い製造コスト及び化学的安定性を有する。弾性ニオソーム小胞は、ニオソームにエッジ活性化剤(edge activator)(例えば、ツイーン80)を加えることにより、小胞の弾性が高くなり、濃度勾配による圧力により小さい孔を通過できるため、角膜浸透性が高くなる。
【0005】
眼球表面での薬物の保持時間を長くする方法としては、例えば、キトサン、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などの粘膜付着性ポリマーを点眼薬の担体として使用する方法もある。ヒアルロン酸(HA)は、ヒトの硝子体液の天然成分であり、眼科の薬物送達に広く用いられている。最近、HA又はその誘導体を用いた多くの製品は、ドライアイの治療に使用されている。第四級アンモニウム基を含むカチオン化ヒアルロン酸(CHA)は、補修剤、皮膚改質剤、ヘア化粧品に使用されており、その吸着特性により、アニオン性ヒアルロン酸よりも優れた保湿性を示している。この特徴から、眼に用いる可能性を持っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術の欠点を克服するために、本発明は、薬物の眼球表面送達のためのカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明は、薬物担持小胞を含むカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞であって、前記薬物担持小胞の表面がカチオン化ヒアルロン酸により修飾され、前記薬物担持小胞が、小胞膜と、小胞膜によって包まれた疎水性薬物とを含み、前記小胞膜が、非イオン性界面活性剤及びエッジ活性化剤を含むことを特徴とする、カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞を提供する。
【0008】
好ましくは、前記疎水性薬物は、シクロスポリン、ルテイン、ケトコナゾール、α-トコフェロール及びパルミチン酸デキサメタゾンのうちの少なくとも1つである。
好ましくは、前記非イオン性界面活性剤としては、スパン40、スパン60、スパン80、ポロキサマー121又はポロキサマー123が挙げられるが、これらに限定されない。
【0009】
好ましくは、前記エッジ活性化剤としては、ツイーン20、ツイーン40、ツイーン80、コール酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル35又はポリオキシエチレンヒマシ油ELが挙げられるが、これらに限定されない。
【0010】
好ましくは、前記カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞は、粒子径が200~310nmであり、ゼータ電位が-10~-30mVであり、粘度が1~12mPa・sである。
【0011】
好ましくは、前記非イオン性界面活性剤とエッジ活性化剤との重量比は60:40~90:10の範囲である。
【0012】
好ましくは、前記非イオン性界面活性剤と疎水性薬物との重量比は20:1~4:1の範囲である。
【0013】
上記カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞の製造方法としては、薄膜水和法、逆相蒸発法及び有機溶媒揮発法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明はさらに、非イオン性界面活性剤及び疎水性薬物を含むエタノール溶液を、エッジ活性化剤及びグリセリンを含む65~75℃の水溶液に注ぎ、撹拌してエタノールを揮発させ、薬物担持小胞の分散液を得、カチオン化ヒアルロン酸の等張溶液に薬物担持小胞の分散液を滴下して撹拌することで、カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞の分散液を得ることを含むことを特徴とする上記カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞の製造方法を提供する。
【0015】
好ましくは、前記等張溶液は生理食塩水溶液又は2.5%グリセリン水溶液である。
【0016】
好ましくは、修飾に用いる前記カチオン化ヒアルロン酸の濃度が0.05%~0.15%w/vである(すなわち、カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞の分散液100mL当たりにカチオン化ヒアルロン酸0.05~0.15gが含まれる)。
【0017】
本発明はさらに、眼疾患の治療薬を製造するためのカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞の使用を提供する。
【0018】
本発明におけるカチオンヒアルロン酸と薬物担持小胞との連結形態としては、静電吸着及び水素結合が挙げられるが、これらに限定されない。
【発明の効果】
【0019】
従来の技術と比較して、本発明は下記有利な効果を有する。
(1)本発明で得られたニオソーム小胞において、非イオン性界面活性剤は良好な安定性を有し、酸化しにくく、眼刺激性が低い。エッジ活性化剤を使用することにより、小胞の弾性が高くなり、濃度勾配による圧力により小さい孔を通過できるため、角膜浸透性が高くなる。
(2)本発明において、カチオン化ヒアルロン酸で担体を修飾することにより、担体の眼球表面での作用時間が長くなり、担体の角膜浸透能力も高くなる。
(3)本発明において、市販の乳剤とは異なり、ヒマシ油、防腐剤、カチオン性界面活性剤を使用せず、ニオソーム小胞はコロイド溶液であり、刺激なく点眼投与でき、患者のコンプライアンスが良好で、長期使用の観点から好適である。
(4)本発明は、眼球表面での作用時間が長くなり、角膜浸透性及び角膜残留量が高まり、眼球表面への刺激性がなく、生物学的利用能が改善したという特徴を有し、眼科薬物送達系として有望なものである。
(5)本発明の実験結果によれば、本発明の小胞は良好なシクロスポリン封入効果を有し、市販の乳剤と比較して、良好な角膜浸透能力及び角膜残留量を有し、急性及び長期の刺激性実験の両方で刺激性を示さなかった。さらに、ドライアイの動物モデルでは、シルマー涙液試験、涙液結晶化試験(Tear Ferning Test)、病理組織解析により、動物のドライアイ症状が有意に改善したことが分かった。
(6)本発明は、疎水性薬物を二層以上の膜内に封入することによって、生体環境による影響から薬物を守りつつ、薬物の放出時間を制御する。ニオソーム小胞にエッジ活性化剤を加えることによって、小胞の弾性が高くなり、濃度勾配による圧力により小さい孔と通過できるため、角膜浸透性が高くなる。カチオン化ヒアルロン酸により担体の粘膜付着性が高くなり、角膜浸透能力が改善するとともに、角膜保湿効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1はシクロスポリン担持ニオソーム小胞(SVs)及びカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞(CHASVs)の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は角膜浸透(a)及び角膜水和(b)の実験結果である。
【
図3】
図3は急性(A)及び長期(B)の刺激性実験結果である。
【
図5】
図5は涙液結晶化試験(Tear Ferning Test)の実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。下記実施例は、本発明を説明するための例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。当業者は本発明の主旨に基づいて種々の変更を加えて実行することができ、このような変形も本願の特許請求の範囲に含まれる。
【0022】
以下の実施例で使用した各材料はいずれも市販品である。
以下の実施例で使用したカチオン化ヒアルロン酸はキユーピー株式会社製HyaloveilTM-Pである。
【実施例】
【0023】
[実施例1~3]
(変形性を有するニオソーム小胞の製造方法)
0.4gの非イオン性界面活性剤であるスパン60と、0.075gの疎水性薬物(シクロスポリン)を正確に量り取って12.5mLの無水エタノールに溶解し、水浴で1分間超音波をかけ、70℃に加熱して完全に溶解させ、非イオン性界面活性剤と疎水性薬物とを含むエタノール溶液を得た。
【0024】
水相として、エッジ活性化剤であるツイーン20(スパン60及びツイーン20の使用量を表1に示す。)及び2.5%グリセリンを100mLの水に溶解し、エッジ活性化剤及びグリセリンが溶解された水溶液を得た。
【0025】
エッジ活性化剤が溶解された水溶液100mLを量り取って、70℃に維持しながら撹拌し、回転数を800rpm/minとした。
【0026】
非イオン性界面活性剤及び疎水性薬物が完全に溶解されたエタノール溶液を注射器で吸い取り、針の先端を、エッジ活性化剤及びグリセリンが溶解された水溶液の液面下に入れた状態で、溶液を1ml/minの一定速度で、エッジ活性化剤及びグリセリンが溶解された水溶液に完全に注入した。さらに約30分撹拌してエタノールを揮発させた。形成された小胞を、限外濾過カップを用いて、分子量カットオフ値100kDaのフィルムにより等量限外濾過を10回実施し、エタノール及び遊離状態の薬物を除去した。得られたカチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞を等張水溶液(2.5%グリセリン水溶液)で100mLに定容し、室温で水浴中で3分間超音波処理して小胞を分散させ、分散液を得た。
【0027】
粒度分布測定装置により粒子径、ゼータ電位、PDIを測定し、高速液体クロマトグラフィー(クロマトグラフィー条件:フィラーとしてオクタデシルシラン結合シリカゲル(カラム=Diamonsil Plus C18、150mm×4.6mm、5μm)を使用し、移動相としてアセトニトリル-メタノール-水(62:5:33)を使用し、希釈液としてメタノールを使用する。測定波長は210nmとし、カラム温度は70℃とする。)により薬物の含有量及び封入率を測定した。ニオソーム小胞を孔径100nmのポリカーボネート製薄膜フィルターから押し出し、押し出し前後の粒子径を測定し、変形指数により小胞の弾性を評価した。変形指数は、D=j/t(rv/rp)2(式中、Dは変形指数(ml/s)であり、jは押出量(ml)であり、tは押出時間(s)であり、rvは押出後の小胞サイズ(nm)であり、rpは薄膜の孔径(nm)である。)により求めた。
【0028】
スパン60及びツイーン20をそれぞれ非イオン性界面活性剤とエッジ活性化剤として用いて実験を行った。
【0029】
【0030】
エッジ活性化剤の添加は膜の流動性を高め、弾性小胞は膜の曲げエネルギーによる水勾配の影響により変形して細胞間領域を通過することができる。上記表によれば、実施例2は最も高い変形指数を示した。実施例3は、薬物の含有量が比較的低かった。これは、エッジ活性化剤により脂質の二重層の流動性が高くなって、二重の分子層内の薬物が漏れたからであると考えられる。
【0031】
[実施例4~28]
(変形性を有するニオソーム小胞の製造)
別の非イオン性界面活性剤及びエッジ活性化剤を用いたこと以外は実施例2と同様にニオソーム小胞を製造した。
【0032】
【0033】
[実施例29~32]
(薬物担持ニオソーム小胞の製造方法)
薬物脂質比を変えて疎水性薬物(シクロスポリン)担持ニオソーム小胞を製造したこと以外は、実施例10と同様に行った。封入率及び保存安定性(4℃で2週間保存して、漏れ率(初期の封入率-2週間後の封入率)を測定した。)により、適切な薬物脂質比を決定した。
【0034】
【0035】
各実施例を比較した結果、薬物の封入量が増加するほど、ニオソーム小胞の粒子径が大きくなり、2週間後の薬物漏れが多くなることが分かった。中でも、実施例31は、薬物担持量が高くて安定性に優れ、均一で安定した二層以上のナノ小胞を形成できた。
図1(a)に示す。
【0036】
[実施例33~37]
(薬物担持ニオソーム小胞の製造方法)
実施例31のシクロスポリンニオソーム小胞の処方により、ルテイン、ケトコナゾール、α-コフェロール、パルミチン酸デキサメタゾンをそれぞれ用いて薬物担持を行い、限外濾過による不純物除去を実施せずに、薬物の封入率を測定した。
【0037】
【0038】
[実施例38~42]
薬物担持小胞を含むカチオンヒアルロン酸修飾シクロスポリンニオソーム小胞であって、前記薬物担持小胞の表面がカチオン化ヒアルロン酸により修飾され、前記薬物担持小胞が、小胞膜と、小胞膜によって包まれたシクロスポリンとを含み、前記小胞膜が非イオン性界面活性剤及びエッジ活性化剤を含む、カチオンヒアルロン酸修飾シクロスポリンニオソーム小胞。
【0039】
実施例33の方法により、シクロスポリン薬物担持ニオソーム小胞の分散液を調製し、分散液を2%カチオン化ヒアルロン酸(CHA)の等張溶液(2.5%グリセリン水溶液)に滴下し、室温で1時間磁気撹拌して、カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞(CHASVs)の分散液を得た。各担体の粒子径、pH、ゼータ電位、表面張力、接触角を測定し、レオメータにより室温で粘度を測定した。剪断速度は、0s-1から300s-1まで徐々に上げた。
【0040】
【0041】
透過型電子顕微鏡JEM-2100で各担体を観察した。
図1(a)から、コレステロールを添加しない状態で、非イオン性界面活性剤であるスパン60及びツイーン80は二層以上の小胞に自己組織化できたことが分かった。
図1(b)から、カチオン化ヒアルロン酸はSVsの周りに不規則なシェルを形成したことが分かった。カチオン化ヒアルロン酸は、弱い静電吸着及び水素結合により、ニオソーム小胞の表面に連結されていると考えられる。CHAの修飾量を増やすと、担体の粒子径及びPDIが大きくなる。一方、ヒアルロン酸は、硝子体に固有の成分であり、増粘剤としても使用できる。ヒアルロン酸の量を増やすことにより、さらなる修飾はできなくても、ニオソーム小胞のコロイド溶液に分散させて製剤の粘度を上げることは可能である。
【使用例】
【0042】
本発明の実施例38(SVs)、40(0.075%w/vCHA修飾SVs)及び42(0.15%w/v CHA修飾SVs)で得られた分散液を試料として用いて、インビトロでの角膜浸透及び角膜残留の評価、眼に対する安全性評価、ならびにインビボでの薬力学的評価を実施した。
【0043】
1.カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞の角膜浸透促進及び角膜残留
1.1 角膜浸透
耳の静脈に空気を注入してウサギを殺し、眼球を採取して角膜を取り出した。新鮮な角膜をその形状を維持しながら、角膜の上皮層が供給槽に臨むように、拡散槽の供給槽と受容槽の間に注意深く固定した。拡散媒体としてグルタチオン-重炭酸ナトリウムリンゲル液(GBR)を準備した。GBR溶液は、(1)塩化ナトリウム12.4g/L、塩化カリウム0.716g/L、リン酸二水素ナトリウム二水和物0.233g/L及び重炭酸ナトリウム4.908g/Lを含む溶液と、(2)無水塩化カルシウム0.174g/L、塩化マグネシウム六水和物0.349g/L、グルコース1.8g/L及び酸化型グルタチオン0.184g/Lを含む溶液とから構成される。上記(1)及び(2)の溶液は低温で保存し、使用の直前に同量混合する。供給槽及び受容槽に37℃で2%のSDSを含むGBR溶液(グルタチオン-重炭酸ナトリウムリンゲル液)7mlをそれぞれ加えた。系を10分平衡化した後、実験群は供給槽内の溶液を取り出し、その代わりに試料溶液を入れた。水循環を37℃に制御し、GBR溶液にO2/CO2(95%:5%)混合ガスを徐々に吹き込んだ。試験開始から30分後、60分後、90分後、120分後、150分後、180分後、240分後及び300分後の時点で受容槽から200μlサンプリングするとともに、37℃に予熱した等体積のGBR溶液を直ちに添加して拡散槽内の容量を維持した。試料20μlをHPLC測定に付した。各サンプリング時点の試料濃度(μg/ml)を求め、下記式により累積透過量Qn(μg)及び見かけ浸透係数Papp(cm/s)を算出した。
【0044】
【数1】
式中、C
0は、供給槽の初期薬物濃度(μg・cm
-3)であり、Aは有効透過面積(cm
2)である。ΔQ
n/Δtは、累積透過量-時間曲線の定常状態部分の傾き(μg・min
-1)によって求められる。C
iはi回目のサンプリング時に測定した濃度であり、nはサンプリング回数である。V
0は受容槽内の液体積であり、Vはサンプリング体積であり、C
nはn回目のサンプリング時の試料濃度である。
【0045】
1.2 角膜の水和度
試験後、角膜の水和値Hを次の式により算出した。
【0046】
【数2】
式中、m
bは透過実験終了時の角膜透過部分の湿重量である。つまり、透過実験後、角膜周縁部の固定用の強膜輪を切り取り、角膜の重さを量ってm
bとする。さらに、該角膜を40℃で一定の重量になるまで乾燥させ、この時の重量をm
aとする。
【0047】
1.3 角膜残留
インビトロでの角膜透過実験後、使用した角膜を取り出してすすぎ、乾燥後、正確に秤量し、ガラス均質化チューブに入れ、メタノール1mlを加え、均質化して遠心分離し、上澄みを採取して、HPLC測定に供した。クロマトグラフィー条件は含有量の測定と同様にした。
【0048】
(角膜薬物の標準曲線の作成)ブランク角膜を、異なる濃度のシクロスポリンを含むメタノール溶液1mlに入れ、均質化して遠心分離し、上澄みを採取して、HPLC測定に供した。
【0049】
【0050】
実験結果を表6及び
図2に示す。弾性小胞SVsは、エッジ活性化剤を添加したため、小胞の弾性が高くなり、角膜透過量がニオソームより多かった。カチオン化ヒアルロン酸により修飾した例では、角膜透過量が有意に増加し、しかも修飾量が高いほど、透過率が高くなったことから、CHAは薬物の角膜透過量を有意に向上できると考えられる。SVs実験群の角膜におけるCsA残留量が多かったのは、最初に角膜表面に吸収され、そして、包まれた薬物が角膜上皮細胞膜に輸送され、さらに受動的に拡散して輸送されるという小胞浸潤機構が原因であると考えられる。SVsと比較して、CHA修飾小胞では、角膜における薬物の残留量が有意に増加し、しかもCHA修飾量の増加につれて増加したことから、CHAはさらに、製剤と角膜との接触及び融合をさらに促進できると考えられる。これは、上述した接触角が低くなり、濡れ広がりやすいという結果に一致している。さらに、各製剤とインキュベートしたインビトロ角膜の水和値の測定結果はブランク群と有意な差がなかったこと(P>0.05)から、インビトロ実験で使用した製剤は角膜を損傷するものではないと考えられる。以上より、SVs及びCHASVsは有望な眼部薬物送達系である。
【0051】
2.カチオンヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞のインビボ安全性評価
ウサギをウサギスタンドに固定し、両眼の結膜嚢にそれぞれ試料100μlを滴下し、まぶたを閉じて薬物を均一に分散させる。
【0052】
(急性刺激性実験)ウサギの両眼に5分間隔で3回連続投与した。最後の投与から30分後に眼の各指標を確認した。
【0053】
(長期刺激性実験)ウサギの両眼に1日5回で7日間連続して投与した。最後の投与から2時間後、ドレイズ眼刺激性スコアの評価基準により眼の各指標を評価した。
実験結果を
図3に示す。(a)は未投与群、(b)はSVs群、(c)は0.075%w/v CHASVs群、(d)は0.15%w/v CHASVs群であった。急性刺激性実験において、未投与群を対照とし、SVs群及びCHASVs群では炎症、浮腫などの兆候は見られなかった。長期実験において、各群のドレイズ眼刺激性スコアはいずれも0であったことから、SVs及びCHASVsは長期投与しても刺激性がなく、眼への長期投与に適すると考えられる。
【0054】
3.カチオンヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞のインビボ薬力学的評価
3.1 ドライアイの動物モデルの誘導
ドライアイを誘発するため、1%硫酸アトロピン溶液をウサギの両眼に滴下する。午前9時、午後2時及び午後7時に、ウサギの両眼の下結膜嚢に硫酸アトロピン溶液50μLを滴下した。この操作を5日間続けた。
【0055】
3.2 投与レジメン
午前9時、午後2時及び午後7時に、毎回の硫酸アトロピン溶液の滴下から5分後に試料溶液50μLを滴下し、治療を5日間続けた。シルマーテストにより涙液の基礎分泌値を測定し、光学顕微鏡により涙のシダ状結晶を観察し、組織解析により杯細胞を観察した。
【0056】
3.3 シルマー涙液試験
シルマー涙液試験(STT)により泪液の基礎分泌状況を検査した。眼内に表面麻酔剤を滴下し、眼の余分な涙を吸い取った後、5×35mmの目盛り付き試験紙を一端を5mm折って被検眼の下結膜嚢の外側から1/3のところに軽く入れ、5分後に濾紙を取り出し、濡れた長さを測った。通常、10~30mm/5minは正常とし、5mm未満は涙不足とする。6~10mmは分泌低下の疑いで、10mm超は正常である。5分未満で濾紙が完全に濡れた場合は、完全に濡れた時点を記録する。
【0057】
実験結果を
図4に示す。ウサギの目を研究対象として、様々な方法でドライアイを治療してみた。ブランク群は、健康群と比較して、ウサギの涙液分泌量が急に低下し、STTスコアが10未満であった。これは、ドライアイを誘発できたことを示している。NSで治療した結果、スコアは特に上がらなかった。SVs及びCHASVsで治療した結果、ウサギの涙液分泌量が有意に増加したことから、ドライアイの症状が改善したと考えられる。STT結果も、CHASVsによるドライアイへの抑制作用の改善がCHA修飾量に関係することを示している。CHA修飾濃度が0.15%w/vまで増加した例では、涙液の分泌状況は健康群と特に差はなかった。
【0058】
3.4 涙液結晶化試験(Tear Ferning Test)
涙の形状及び涙腺の分泌機能を検査することを目的とする。涙湖からキャピラリーチューブにより涙滴を吸い取ってスライドガラスに載せ、室温で10分間乾燥させた後、光学顕微鏡で400倍の倍率で結晶化状況を観察した。
【0059】
(評価基準)涙のシダ状結晶の完全性、均一性、分岐状態により、シダのような枝が太くて密集しているパターンIa、及び、枝が細くて隙間があるパターンIbを含むパターンIと、シダのような枝が小さく、視野が空白で雪のような結晶が見られるパターンIIと、結晶が少なく、シダのような枝が形成されていないパターンIIIと、ビーズ状の粘液しか見られないパターンIVとに分けられる。パターンIは正常な結晶であり、これ以外は異常な結晶である。
【0060】
実験結果を
図5に示す。(a)は健康群、(b)はドライアイ群、(c)は生理食塩水治療群、(d)はSVs治療群、(e)は0.075%w/vのCHASVs治療群、(f)は0.15%w/vのCHASVs治療群である。硫酸アトロピン誘導群の涙のシダ状結晶はパターンIIであり、シダのような枝が小さくて不完全であった。これは、ドライアイが誘導されたことを示している。生理食塩水で処理された群の涙のシダ状結晶形態は有意な改善が見られなかった。SVs治療群のシダ状結晶はパターンIbであり、枝が細くて隙間があった。CHASVsで治療した群は、シダのような枝が太くて密集し、パターンIaとなった。実験結果によれば、SVsは、涙腺の分泌機能を改善でき、CHAで修飾されると、より良い治療効果が得られる。
【0061】
3.5 組織学的解析
薬剤投与後、空気塞栓術によりウサギを殺し、眼球を採取してホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋を行った。病理組織切片をヘマトキシリンとエオシンで染色し、顕微鏡検査を実施して、各表皮細胞及び基底細胞の形態が正常であるかどうか、炎症性細胞(好酸球、好中球、肥満細胞、リンパ球)の浸潤や組織形態の変化があるかどうかを確認し、結膜杯細胞密度及び上皮形態を確認した。
【0062】
実験結果を
図6に示す。(a)は健康群、(b)はドライアイ群、(c)は生理食塩水治療群、(d)はSVs治療群、(e)は0.075%w/vのCHASVs治療群、(f)は0.15%w/vのCHASVs治療群である。ヒト結膜杯細胞はムチンの主な供給源であり、正常な眼球表面機能を維持する上で重要な役割を果たしている。ムチン分泌の低下は涙液膜を不安定にし、眼表面の潤滑不良を引き起こすことがある。そのため、杯細胞の数は、眼球表面の健康の重要な指標である。CsAは、ドライアイ患者の眼球結膜杯細胞の密度を高めることができる。
図6から、健康群と比較して、硫酸アトロピン誘導群の結膜杯細胞の数が大幅に減少し、ドライアイが誘発されたことが分かる。生理食塩水群と比較して、CsA投与群は結膜杯細胞数が増加したことから、眼表面機能が改善したと考えられる。したがって、すべての製剤は、眼球表面への局所投与によってドライアイを抑制することができる。CHA修飾後、杯細胞の数が大幅に増加したことから、CHAがCsAの生物学的利用能を改善できると考えられる。したがって、カチオン化ヒアルロン酸修飾ニオソーム小胞は有望な眼部薬物送達系である。