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  • 特許-振動提示素子の振動伝達構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】振動提示素子の振動伝達構造
(51)【国際特許分類】
   B06B 1/06 20060101AFI20240617BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240617BHJP
   H10N 30/073 20230101ALI20240617BHJP
   H10N 30/071 20230101ALI20240617BHJP
【FI】
B06B1/06 Z
H10N30/20
H10N30/073
H10N30/071
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020182973
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2022073166
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹下 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 健
(72)【発明者】
【氏名】山下 崇博
(72)【発明者】
【氏名】椿本 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】西尾 英俊
(72)【発明者】
【氏名】奥野 博幸
(72)【発明者】
【氏名】大澤 拓人
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027708(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/095812(WO,A1)
【文献】特開2013-243609(JP,A)
【文献】特開2002-218771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/06
H10N 30/20
H10N 30/073
H10N 30/071
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電効果によって振動を発生させる複数の薄膜型圧電アクチュエータ素子と、
前記薄膜型圧電アクチュエータ素子から発生する振動で励振される振動板と、
前記振動板と一の前記薄膜型圧電アクチュエータ素子、及び、前記薄膜型圧電アクチュエータ素子同士、を接着する複数の接着剤層と、を有し、
前記薄膜型圧電アクチュエータ素子と前記接着剤層による積層構造を有しており
前記接着剤層の厚さが、前記薄膜型圧電アクチュエータ素子のそれぞれが発生させる振動を効果的に前記振動板へ伝達するように複数の前記接着剤層で異なって構成される、
ことを特徴とする、振動提示素子の振動伝達構造。
【請求項2】
前記積層構造においては、一の前記薄膜型圧電アクチュエータ素子と一の前記接着剤層との組み合わせを一層とする振動層が、複数積層されている、
ことを特徴とする、請求項1に記載の振動提示素子の振動伝達構造。
【請求項3】
前記接着剤層の硬度が、複数の前記接着剤層で異なる、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の振動提示素子の振動伝達構造。
【請求項4】
圧電効果によって振動を発生させる複数の薄膜型圧電アクチュエータ素子と、
前記薄膜型圧電アクチュエータ素子から発生する振動で励振される振動板と、
前記振動板と一の前記薄膜型圧電アクチュエータ素子、及び、前記薄膜型圧電アクチュエータ素子同士、を接着する複数の接着剤層と、を有し、
前記薄膜型圧電アクチュエータ素子と前記接着剤層による積層構造を有しており、
前記振動板は、前記積層構造における端部の前記接着剤層によって、一の前記薄膜型圧電アクチュエータ素子と接着されており、より前記振動板に近い側に位置する前記接着剤層の方が、他の前記接着剤層よりも、硬度が硬く、厚さが薄い、ものである、
ことを特徴とする、振動提示素子の振動伝達構造。
【請求項5】
前記薄膜型圧電アクチュエータ素子への印可電圧が、複数の前記薄膜型圧電アクチュエータ素子で異なる、
ことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の振動提示素子の振動伝達構造。
【請求項6】
前記振動板の形状は、反りを有する形状である、
ことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の振動提示素子の振動伝達構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動提示素子の振動伝達構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タブレット端末、ゲーム用コントローラ、機器の遠隔操作のフィードバック機構等、振動を伝達して人の触覚を刺激するハプティクスデバイスが、広く知られている。例えば、特許文献1には、タッチパネルの端部に振動モーターを配置し、タッチパネル全体を略均一な振動量で振動させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-137971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現状広く用いられている振動素子であるモーターは、そのサイズや重さの観点から、振動素子を組み込む機器の大きさが制限されてしまう。これに対して、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイス作製技術で製造された圧電型のアクチュエータを用いると、小型の装置にも振動素子を組み込むも考えられるが、大きな振動提示効果を得るには、印可電圧を大きく(例えば数十V程度)する必要がある、という問題があった。
【0005】
上記のような問題点に鑑み、本発明は、振動提示素子の小型化、薄型化、及び低電圧化を実現しつつ、大きな振動提示効果を得ることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係る振動提示素子の振動伝達構造は、
圧電効果によって振動を発生させる複数の薄膜型圧電アクチュエータ素子と、
前記薄膜型圧電アクチュエータ素子から発生する振動で励振される振動板と、
前記振動板と一の前記薄膜型圧電アクチュエータ素子、及び、前記薄膜型圧電アクチュエータ素子同士、を接着する複数の接着剤層と、を有しており、
前記薄膜型圧電アクチュエータ素子と前記接着剤層による積層構造を有する、
ことを特徴とする。
【0007】
このような構成であると、各薄膜型圧電アクチュエータ素子への印可電圧は小さくとも、複数の薄膜型圧電アクチュエータ素子から発生する振動が重畳して振動板に伝達されるため、振動板の振動を大きなものにすることができる。また、接着剤層を介して薄膜型圧電アクチュエータ素子が積層されているため、接着剤層の物性値及び/又は形状を調整することにより、振動をより効率よく伝達することが可能になる。
【0008】
なお、前記積層構造においては、振動提示素子の振動伝達構造は、一の前記薄膜型圧電アクチュエータ素子と一の前記接着剤層との組み合わせを一層とする振動層が、複数積層されている構造であってもよい。
【0009】
また、前記接着剤層の物性値、及び/又は、形状が、複数の前記接着剤層で異なっていてもよい。このような構成であると、各接着剤層の物性値、形状を、振動板に対する接着
剤層の位置、薄膜型圧電アクチュエータへの印可電圧などに応じて、振動板をより大きく振動させるために最適化することができる。具体的には、例えば、前記接着剤層の硬度が、複数の前記接着剤層で異なっていてもよいし、前記接着剤層の厚さが、複数の前記接着剤層で異なっていてもよい。
【0010】
また、前記振動板は、前記積層構造における端部の接着剤層によって、一の前記薄膜型圧電アクチュエータ素子と接着されており、より前記振動板に近い側に位置する前記接着剤層の方が、他の前記接着剤層よりも、硬度が硬く、厚さが薄い、ものであってもよい。このような構成であると、振動板への振動をより効果的に伝えることができる。
【0011】
また、前記薄膜型圧電アクチュエータ素子への印可電圧が、複数の前記薄膜型圧電アクチュエータ素子で異なっていてもよい。このような構成であると、振動板に対する位置、接着剤層の物性値・形状などに応じて、各薄膜型圧電アクチュエータ素子への印可電圧を調節することで、各薄膜型圧電アクチュエータ素子の振動周波数、振幅を、最適化し、振動板をより効率よく振動させることができる。
【0012】
また、前記振動板の形状は、反りを有する形状であってもよい。このような構成とすることで、曲面を有する部位にも振動提示素子を配置することができ、ハプティクスデバイスの設計の自由度を高くすることが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、振動提示素子の小型化、薄型化、及び低電圧化を実現しつつ、大きな振動提示効果を得ることができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係る振動提示素子の概略を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る薄膜型圧電アクチュエータの概略を示す図である。
図3図3は、実施形態に係る振動提示素子シミュレーションについて説明する図である。
図4図4Aは、実施形態に係る振動提示素子の変形例を示す第1の図である。図4Bは、実施形態に係る振動提示素子の変形例を示す第2の図である。図4Cは、実施形態に係る振動提示素子の変形例を示す第3の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について図面に基づいて説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
<実施形態>
図1は、本実施形態に係る振動提示素子1の概略を示す図である。振動提示素子1は、概略、振動板100と、薄膜型圧電アクチュエータ素子12、22、32と、接着剤層11、21、31とを備える振動伝達構造を有する構成となっている。
【0017】
各薄膜型圧電アクチュエータ素子12、22、32は、半導体プロセスによって形成される極薄型のMEMSデバイスであり、全体の厚みは5μm程度である。図2に、薄膜型圧電アクチュエータ素子12の概略構成を示す。ただし、薄膜型圧電アクチュエータ素子22、32も、基本的にこれと同一の構成となっている。
【0018】
図2に示すように、薄膜型圧電アクチュエータ素子12は、シリコン(Si)からなる基部91と、例えばプラチナ(Pt)電極からなる電極層92、94と、例えばチタン酸
ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層93と、例えば二酸化ケイ素(SIO)からなる、絶縁層95を備える構成となっている。また、薄膜型圧電アクチュエータ素子12はMEMSデバイスであるため、基部91上には図示しない半導体回路が作り込まれており、この半導体回路は、必要に応じて、集積回路等の能動素子、コンデンサ、インダクタ、配線等の回路要素を備えていてもよい。
【0019】
各薄膜型圧電アクチュエータ素子12、22、32は、電圧が印可されることによって圧電効果により振動を発生させ、当該振動が振動板100に伝達されることによって振動板100により振動が提示される。
【0020】
接着剤層11は振動板100と薄膜型圧電アクチュエータ素子12とを接着する接着剤からなる層である。また、接着剤層21は薄膜型圧電アクチュエータ素子12と、薄膜型圧電アクチュエータ素子22とを接着する接着剤からなる層である。また、接着剤層31は薄膜型圧電アクチュエータ素子22と、薄膜型圧電アクチュエータ素子32とを接着する接着剤からなる層である。
【0021】
各接着剤層11、21、31は、各薄膜型圧電アクチュエータ素子12、22、32が発生させる振動を効果的に振動板100へ伝達するように、その物性値、形状が最適刺される。具体的には、例えば、接着剤層11は、接着剤層21よりも、硬く、かつ、薄く形成され、接着剤層21は、接着剤層31よりも、硬く、かつ、薄く形成されている。
【0022】
また、本実施形態に係る振動提示素子1は、図1に示すように、接着剤層11と薄膜型圧電アクチュエータ素子12とは、1組で振動層10を形成している。同様に、接着剤層21と薄膜型圧電アクチュエータ素子22とが振動層20、接着剤層31と薄膜型圧電アクチュエータ素子32とが、振動層30を形成している。
【0023】
このように、複数の振動層10、20、30が積層されていることによって、振動板100に伝達される振動による振動板100の変位を大きくすることが可能になる。図3に振動層の数の異なる複数の振動提示素子において、振動板の変位がそれぞれどうなるかをシミュレーションした際のデータを示す。
【0024】
なお、シミュレーションに用いた各振動提示装置の薄膜型圧電アクチュエータ素子の厚さは、全て6.5μmであり、接着剤層は全て100μmである。また、シミュレーションの際の各薄膜型圧電アクチュエータ素子への印可電圧は5Vで統一した。
【0025】
図3に示すように、振動層の数が1層のみ、即ち積層されていない振動提示素子のモデルでは、振動板のZ軸最大変位量は2.71μmであるが、2層に積層したモデルでは、振動板のZ軸最大変位量は4.63μmであり、変位量が1.71倍になることがわかる。さらに、振動層を3層積層した振動提示素子のモデルでは、振動板のZ軸最大変位量は5.86μmであり、1層のモデルと比較すると2.16倍となることがわかる。
【0026】
以上のように、実施形態に係る振動提示素子1の振動伝達構造によれば、極薄(例えば、320μm程度)の振動層の積層構造で印可電圧を抑えながらも(例えば5V)、大きな振動提示効果を得ることができる。
【0027】
なお、薄膜型圧電アクチュエータ素子12、22、32への印可電圧は5Vに限定され
るわけではなく、薄膜型圧電アクチュエータ素子のそれぞれで、印可電圧が異なるような構成としてもよい。例えば、振動板100からは遠い位置にある薄膜型圧電アクチュエータ素子32は低い周波数で振動し、振動板100から近い位置にある薄膜型圧電アクチュエータ素子12については高い周波数で振動するように、各薄膜型圧電アクチュエータ素
子への印可電圧を調整することができる。あるいは、振動板100からは遠い位置にある薄膜型圧電アクチュエータ素子32は高い電圧(大きな振幅)で振動し、振動板100から近い位置にある薄膜型圧電アクチュエータ素子12については低い電圧(小さな振幅)で振動するように、各薄膜型圧電アクチュエータ素子への印可電圧を調整することができる。
【0028】
<変形例>
なお、上記の実施形態に係る振動提示素子1は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記の実施形態に係る振動提示素子1は、平坦な構造の振動板100に対して、振動層が3層積層された一つの積層構造を有する構成であったが、本発明はこのような構成に限定されない。図4に、振動提示素子1の変形例を複数示す。
【0029】
例えば、図4Aに示すように、振動提示素子の積層数は3層に限定されるわけではなく、2層としてもよい。また、積層数を4層以上とすることも可能である。
【0030】
また、図4Bに示すように、振動提示素子の振動板の形状を、反りのある(即ち曲面を有する)形状とし、当該反りの曲面に沿って、振動層を積層するような構成であっても構わない。このような構成によれば、振動提示素子を搭載するハプティクスデバイスの設計の自由度を高くすることが可能になる。
【0031】
また、図4Cに示すように、一つの振動板に対して、アレイ状に複数の積層構造を設ける構成とすることもできる。このようにアレイ状に薄膜型圧電アクチュエータ素子の積層構造を配置することで、複雑な振動の提示を行うことも可能になる。
【符号の説明】
【0032】
1・・・振動提示素子
10、20、30・・・振動層
11、21、31・・・接着剤層
12、22、32・・・薄膜型圧電アクチュエータ素子
91・・・基部
92、94・・・電極層
93・・・圧電体層
95・・・絶縁層
図1
図2
図3
図4