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特許7504595感光性ポリイミドをマイクロ波処理する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】感光性ポリイミドをマイクロ波処理する方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/40 20060101AFI20240617BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240617BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
G03F7/40 501
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H05K1/03 610N
【請求項の数】 5
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020003625
(22)【出願日】2020-01-14
(62)【分割の表示】P 2016563899の分割
【原出願日】2015-01-13
(65)【公開番号】P2020074023
(43)【公開日】2020-05-14
【審査請求日】2020-02-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】61/964,748
(32)【優先日】2014-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】3050 Bowers Avenue Santa Clara CA 95054 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ハバード ロバート エル
(72)【発明者】
【氏名】アハマド イフティカル
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】河原 正
【審判官】廣田 健介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-308765(JP,A)
【文献】特開2006-189788(JP,A)
【文献】特開平5-40339(JP,A)
【文献】特開2012-216715(JP,A)
【文献】特開2012-94600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/00-7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リイミド膜を形成する方法であって、
感光性メタクリレートアルコールで修飾されたポリアミド酸前駆体樹脂を含む感光性ポリアミド酸エステルを含む感光性ポリアミド前駆体組成物を基板上に堆積させることと、
前記感光性ポリアミド前駆体組成物を、セ氏200~340度の温度で、20~200,000ppmの範囲の酸素濃度を有するプロセス雰囲気中で一定時間、可変周波数マイクロ波加熱によって硬化させて、前記ポリイミド膜を形成すること、
を備え、
前記プロセス雰囲気の前記酸素濃度は、追加の酸素ガス(O2)を前記プロセス雰囲気に与えることによって調整され、
記ポリイミド膜は、アクリレート残基を含まないものであり、
記ポリイミド膜は、315~325℃のガラス転移温度を有する方法。
【請求項2】
前記感光性メタクリレートアルコールは、Rが有機部分を示す場合に、以下の式:R-CH2CH2OC(O)CH=C(CH32を有する、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記一定時間が60~180分である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記温度が、200~275℃の範囲にある、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記プロセス雰囲気が、200~200,000ppmの範囲の酸素濃度を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、マイクロ波エネルギーを使用して処理する材料のための装置および方法に関し、より詳細には、電子デバイス用の感光性ポリイミド(photosensitive polyimide:PSPI)膜を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波(microwave:MW)エネルギーを使用して化学反応の速度を高めることはよく知られており、それに関する文献も多い。熱を生み出すこの独特の方法は、活性化エネルギー(Ea)を低下させたり、または反応物の組合せのキネティックス(kinetics)(式1のfおよびp)を増大させたりすることができる[D. A. Lewis, J. D. Summers, T. C. Ward, and J. E. McGrath, "Accelerated Imidization Reactions using Microwave Radiation", Journal of Polymer Science: Part A; Polymer Chemistry, Vol. 30, 1647-53 (1992)を参照されたい]。化学文献は、マイクロ波エネルギーは、実際的および商業的に実行可能ではないであろうことも示唆している[J. Mijovic and J. Wijaya, "Comparative Calorimetric Study of Epoxy Cure by Microwave vs. Thermal Cure", Macromolecules 23:3671 (1990)およびJ. Mijovic, A. Fishbain, and J. Wijaya, "Mechanistic Modeling of Epoxy-Amine Kinetics: 2 - Comparison of Kinetics in Thermal and Microwave Fields", Macromolecules 25:986 (1992)を参照されたい]。しかしながら、この20年の間に、広範囲にわたる用途において、多くの重要な樹脂を硬化させる目的にマイクロ波エネルギーが採用された。この矛盾する事象の一部は、マイクロ波加熱の機構の反直観的な(counterintuitive)性質にその理由がある。さらに、この機構の適切な理解でさえも、マイクロ波エネルギーが提供する驚きおよび幸運をもたらす機会のいくつかを予想しない。
k=fpexp[Ea/RT] 式1
【0003】
基本的な伝導、誘導および対流加熱方法は、ランダムな衝突による、より高いエネルギーを有する一群の分子からより低いエネルギーを有する別の一群の分子の間の熱の伝達を含む。この衝突は物理的に逐次的に起こり、分子の加熱のバルクエンタルピー(ΔH)を除いて、分子の構造から独立している。対照的に、MW照射は、(ポリマーを含む)関心の多くの材料で高い侵入深さを有し、高い侵入深さは、標準熱伝達方法では必要な近隣の分子の逐次的な相互作用の必要性を排除する。MW加熱は、化学官能基の双極子回転を引き起こす、分極可能な結合の誘電緩和だけに依存する。分極可能な全ての結合におけるこれらの回転は、それらの結合が潜在的な反応位置であるか否かに関わらず、照射経路上の全ての分子間の非常に効率的で生産的な運動および衝突を生み出す。
【0004】
マイクロ波加熱は通常、マイクロ波を含む電磁場中の高エネルギー分布および低エネルギー分布のノード(node)のため、いくつかの商用使用に対して全体的に実際的ではない。市販の固定周波数多モードマイクロ波加熱システムが、大きなキャビティ内では空間的不均一性を有すること、ならびに、金属材料が処理されるときにはアーク発生および他の有害な影響を開始する傾向を有することはよく知られている。しかしながら、これらの影響は、必要に応じて、とりわけ「Curing polymer layers on semiconductor substrates using variable frequency microwave energy」という名称をそれぞれが有する1998年4月14日に発行されたFathiらの米国特許第5,738,915号および1999年3月9日に発行されたFathiらの米国特許第5,879,756号に教示されている可変周波数マイクロ波(VFM)を使用することによって軽減することができる。VFMは、金属アーク発生の危険なしで非常に均一な場を生み出すことにより、より多くの工業用途において、MW硬化が商業的に有用となることを可能にした。
【0005】
マイクロ波を使用した反応温度の操作は、特別な化学修飾なしでバルク材料の測定された反応(または「硬化」)温度を低下させる点で、一貫して有用であることが分かっている。従来のオーブンでは375℃よりも高い温度で完全にイミド化された修飾されていないポリアミド酸樹脂は、MWによって、200℃という低い温度で完全にイミド化することができる[追加の背景情報については、R. Hubbard, Z. Fathi, I. Ahmad, H. Matsutani, T. Hattori, M. Ohe, T. Ueno, C. Schuckert, "Low Temperature Curing of Polyimide Wafer Coatings", Proceedings of the International Electronics and Manufacturing Technologies, (2004)およびR. Hubbard, "Reduced Stress and Improved 2.5D and 3DIC Process Compatibility With Stable Polyimide Dielectrics", Proceedings of the International Wafer Level Packaging Conference, November 4-7, 2013, San Jose, CAを参照されたい]。
【0006】
マイクロエレクトロニクス産業において、ウエハ上の誘電体コーティングとして使用されている大部分のポリイミドは、追加のフォトレジストコーティング、マスク露光、現像および除去ステップなしでそれらを直接にパターニングすることを可能にする感光性を有する[K. Horie and T. Yamashita, "Photosensitive Polyimides - Fundamentals and Applications", Lancaster, Pennsylvania, Technomic Publishing Co., Inc., pp. 15-18 (1995)を参照されたい]。この有用な感光性は、図1に示されているように、ポリアミド酸(polyamic acid:PAA)前駆体樹脂のいくつかの部位を感光性メタクリレートアルコール(methacrylate alcohol)で修飾して、感光性ポリアミド酸エステル(polyamic ester:PAE)を形成することによって達成される。図示されたアルコールは、モノマーおよびオリゴマーのメタクリレートファミリー(methacrylate family)(R-CH2CH2OC(O)CH=C(CH32)の1種または複数のアルコールである。これは、UV露光によって架橋することが知られており、多くのフォトレジスト材料ファミリーの基礎を形成する。
【0007】
次に、このPAA/PAEコポリマーを、従来のフォトレジストのように直接に光パターニングすることができる。図1に概略的に示されているように、マスク開口を通して露光されたエリアは、光活性基「R」のところで架橋され、デベロッパ中の溶解性がより低いエリアを生み出す。溶解性がより高いエリアはデベロッパによって除去され、高分解能パターンを残す。次に、感光性ポリイミド膜の「硬化」は、図2に概略的に示されているように、(1)イミド化(または閉環)反応ステップ、および(2)そのイミド化のアクリレート残基(acrylate residue)副生物の放出を含む。続いて、同じ375℃のソーク温度(soak temperature)でアクリレート残基の除去が達成される。
【0008】
アクリレート残基の化学反応は、必要な残基除去の程度に応じた少なくとも1時間の長時間の、通常は350℃を超える温度での分解反応を含む[M. Zussman and R. Hubbard, "Rapid Cure of Polyimide Coatings for Packaging Applications", Proceedings of The 13th Symposium on Polymers for Microelectronics, Wilmington, DE, (2008)を参照されたい]。より低い350℃の硬化温度での1時間の対流プロセスでは、予想されたとおり、アクリレート残基は大量には除去されず、一方、VFMプロセスではほぼ全ての残基が除去されたように見えた。図3には、対流硬化させた試料の動的機械分析(Dynamic Mechanical Analysis:DMA)での残ったアクリレート残基のピークが示されている。VFM硬化させた試料ではそのようなピークは見られない。図4の熱重量分析(Thermal Gravimetric Analysis:TGA)には、VFM(487℃、上側の曲線)の1%の減量が、対流硬化(376℃、下側の曲線)よりもはるかに高い温度で起こることが示されており、このことはDMAの結論を裏付けている[M. Zussman and R. Hubbard, "Rapid Cure of Polyimide Coatings for Packaging Applications", Proceedings of The 13th Symposium on Polymers for Microelectronics, Wilmington, DE (2008)]。
【0009】
ポリイミド誘電体膜の表面の酸化分解を防ぐため、従来の高温分解反応は低い酸素レベル(<100ppm)で実施することが非常に重要である。ポリイミド骨格鎖(polyimide backbone)の分解は誘電体膜の電気特性を低下させ、もろい暗色の膜を生み出す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示の少なくともいくつかの実施形態によって提供される可能性がある1つまたは複数の利点の非限定的な例には以下のものが含まれる:感光性ポリマーを硬化させる方法を提供すること、製造時のエネルギーの節約につながるより低い熱収支(thermal budget)を可能にするプロセスを提供すること、前の処理ステップまたは後続の処理ステップをより低い温度で実行することを可能にするプロセスを提供すること、ポリマーを硬化させる方法であって、同時に、温度に敏感な(temperature sensitive)成分または材料を保護する方法を提供すること、およびポリマー膜の処理方法であって、応力と温度の間の正比例関係を有する材料中の応力を低減させる方法を提供すること。本開示のこれらの利点およびその他の利点は、図面を参照して以下の明細書を読み、検討することによって明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書では、感光性ポリイミド(PSPI)膜、例えば電子デバイス内で使用するPSPI膜を処理する方法および装置が提供される。本開示のいくつかの実施形態では、感光性ポリイミド(PSPI)膜を硬化させる方法が、選択された基板上にPSPI膜を堆積させること、およびこの膜を、約200~275℃の選択された温度での、約20~200,000ppmの酸素濃度を含む選択された雰囲気中でのマイクロ波加熱によって硬化させることを含む。
いくつかの実施形態では、感光性ポリイミド(PSPI)膜を硬化させる方法が、選択された基板上にPSPI膜を堆積させること、PSPI膜を光パターニングすること、光パターニングされたPSPI膜を現像すること、および現像された前記膜を、約200~275℃の選択された温度での、約20~200,000ppmの酸素濃度を含む選択された雰囲気中でのマイクロ波加熱によって硬化させることを含む。
本開示の他の追加の実施形態については以下で説明される。
本明細書に添付された、本明細書の部分を構成する図面は、本開示のある種の態様を示す。本開示のより明確な概念、ならびに本開示を含むシステムの構成要素および動作のより明確な概念は、図面に示された例示的なしたがって非限定的な実施形態を参照することによってより容易に明白になる。(2つ以上の図にある場合)同様の符号は同じ要素を示す。図面中の特徴物は必ずしも一定の尺度では描かれていない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】メタクリレート基の付加による、感光性ポリアミド酸エステルを生み出すためのポリアミド酸の修飾の略図である。
図2】ポリアミド酸エステルに対する、イミド化およびアクリレート除去のための処理ステップの略図である。
図3】オーブンで硬化させた膜とマイクロ波で硬化させた膜のDMAデータの比較を示す図であり、MW硬化が、残留ポリアクリレートを効果的に排除することを示す図である。
図4】硬化させた感光性ポリイミド膜のTGAデータの比較を示す図であり、MW硬化させた膜が、対流硬化させた試料よりもはるかに高い温度で1%の減量を示すことを示す図である。
図5】シリコンウエハ上のPSPI膜の対流硬化によるイミド化とMW硬化によるイミド化の結果を比較した図である。
図6】TMAの結果を比較した図であり、MW硬化が対流硬化よりも高いTgを与えることを示す図である。
図7】PSPI膜のMW硬化に対する酸素分圧の影響を示す図である。
図8】バッチウエハVFMプロセスを使用したPSPI膜のMW硬化に対する酸素分圧の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
シリコンウエハ上のPSPI膜の処理をより十分に理解し制御するために、本出願の出願人は一連の実験を実施した。
標準対流オーブン硬化とマイクロ波(VFM)硬化とを比較するために、標準シリコンウエハ上に、市販の感光性ポリイミド(PSPI)膜[HD4100、HD MicroSystems、ドイツWilmington]を厚さ5μmの膜として堆積させた。この例示的な厚さ(5μm)に対して、30秒、4000rpmのスピンコーティングでコーティングを塗布し、90℃、100秒+100℃、100秒のソフトベークを実施した。次いで、さまざまな時間およびさまざまな温度のVFM加熱または対流加熱によって膜を処理した。図5に示されているように、VFMでは、200℃という低温でイミド化反応の程度は完全になる。それに比較して標準対流プロセスでは375℃で完全になる。ポリイミド鎖の酸化は実質的に約300℃よりも高い温度でしか起こらないことが知られているため、これらのより低温の硬化条件では低酸素環境は必要なかった。
【0014】
これらの非常に低い硬化温度でのアクリレート残基の空気環境中での除去を評価すると驚くべき結果が得られた。大部分のアクリレート残基が除去されると、針入モード熱機械分析(penetration mode Thermal Mechanical Analysis:p-TMA)によって決定された同じPSPIに対するガラス転移温度(Tg)は315~325℃になる。図6に示されているように、250℃で対流硬化させた試料のTgは、6時間後でさえも約250℃に制限されているようである。このことは、アクリレート除去のレベルが低いことを示している。対照的に、250℃でVFM硬化させた試料のTgは、非常に実際的な時間内でのアクリレート残基の相当な除去ないし完全な除去を示している。
【0015】
しかしながら、標準半導体処理でより典型的な非常に低い酸素環境中でこのプロセスを実施しようとすると、結果は再現されなかった。特に、低硬化温度でのアクリレート残基の優れた除去は確実には起こらなかった。したがって、本出願の出願人は、アクリレート除去を促進するためには制御された量の酸素が有用であろうと考え、それにより、このプロセスに、制御された量の酸素を追加した。
【0016】
従来の(対流加熱される)プロセスでは、酸素の追加が通常は非常に有害であることに言及しておくことは重要である。これは、従来の処理温度(約375℃)では、膜特性を低下させるポリイミド骨格鎖の酸化分解が起こると考えられるためである。対照的に、VFMプロセスの特徴であるより低い硬化温度特性(約250℃)においてアクリレート樹脂の分解を助ける、本発明における酸化の使用が、ポリイミド骨格鎖の酸化分解を引き起こす可能性は非常に低く、実際、VFM硬化させた図6の試料はいずれも、ポリイミド分解の徴候である、膜の特徴的な暗色化を示さなかった。これに加えて、300℃よりも低い温度でマイクロ波エネルギーがこれらの熱可塑性材料の分解を引き起こすという証拠を、本出願の出願人はまだ見出していない。
【0017】
アクリレート残基の分解における酸素の役割も、高温(340℃)VFM硬化の評価中に集められた図7および8に示されたデータによって支持されている。VFM硬化中に少量の酸素が存在することによって、または追加の酸素流を追加することによって、膜のTgが、アクリレート除去の結果として、大幅に増大することは明らかである。これらのVFM硬化温度でのポリイミド骨格鎖の酸化の証拠は見つからなかったため、酸化はおそらく、主として芳香族であるポリイミド骨格鎖構造体でではなく、脂肪族アクリレート残基で優先的に起こり、したがって、このことが、硬化したポリイミド膜の電気的および機械的特性を有利に維持する。
マイクロ波によって誘起された化学反応に見られる低活性化エネルギーが、熱分解を引き起こすことは認められていないため、ラジカルを発生させる感受性のアクリレート残基に対してVFM硬化中に酸素が利用可能であるときには、自動酸化(autoxidation)効果が生じる可能性がある。この自動酸化効果は、アクリレートのアルキル部分の酸化を漸進的に引き起こし、次いで二酸化炭素および他のガスを放出して、このような驚くほど低い温度でPSPI膜からのこれらの残基の除去を完了させる。
この低温VFM硬化と酸素補助の驚くべき組合せは、現在のところマイクロエレクトロニクス産業において最も一般的に使用されているポリマー誘電体材料である感光性ポリイミド膜を、非常に低い温度で完全に硬化させる実際的な方法を初めて利用可能にする。この完全な硬化はアクリレートの除去を含む。これらの温度で(空気中のまたは酸素流による)酸素を追加することには、膜に対する負の影響はないようである。低温硬化は、温度に敏感な材料および処理ステップを保護すること、ならびに膜により低い応力が加わることを含む、上に挙げた利点を可能にする。
【実施例
【0018】
(例)
図5の特定の例に示されているように、シリコンウエハ上のPSPI膜のVFM処理は、約230~270℃の硬化温度および約60~180分の時間にわたって実質的に同一の膜特性を達成する。これらの条件下では、ポリイミドを傷つけることなく酸素を安全に導入することができる。
対照的に、対流加熱では、同じレベルのイミド化を達成するのに375℃、300分の加熱が必要である。この条件に酸素が加わると、ポリイミドに対する望ましくない酸化損傷が生じると考えられる。
【0019】
(例)
図6に示されているように、比較可能な温度(250℃)で処理した後のVFM硬化させたPSPI膜は、約50~350分の範囲全体にわたって、対流硬化させた膜よりもかなり高いTgを有する。
【0020】
(例)
図7に示されているように、340℃、酸素分圧約20~200,000ppmのVFM硬化では、DMAによって測定されたTg値が約240~280℃になる。
図8に示されているように、濃度約200~200,000ppmの酸素を含む静止雰囲気中(右側の曲線)または流動雰囲気中(左側の曲線)での340℃でのバッチウエハVFM硬化の使用は、約250~320℃の範囲のTg値を有する膜を生成する。ここでの酸素の値は、名目上1気圧のキャリアガス(通常は窒素)中の酸素濃度を表し、最も高い値は実質的に空気を表す。本出願の出願人は一般に、同じ有効酸素活量(effective oxygen activity)を達成する低圧の純酸素を使用する等価の条件ではなしに、キャリアガス中の希釈された酸素の使用を好む。これは単に、周囲圧力で動作させた方がより単純であり、集中的な保守も必要ないためである。しかしながら、状況によっては、周囲圧力以外の圧力で動作させた方が望ましいことがある。周囲圧力での20~200,000ppm混合物の酸素活量と等価の所望のレベルの酸素活量を維持するために、チャンバ圧力および酸素濃度を独立にまたは一緒に調整することができる。前述の範囲の酸素活量を達成する手段は、本開示の範囲に含まれているとみなされる。例えば、1気圧の空気または0.2気圧の純酸素あるいは他のある組合せを使用して、200,000ppmの有効酸素濃度を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
大きな処理容積の全体にわたって非常に均一なパワー密度を生み出すことが容易なため、VFM処理の使用は有利だが、いくつかの場合、例えば処理する構成要素が小さく、かつ/または、選択された作用容積(working volume)にわたって均一なエネルギー密度を生み出すために単一モードキャビティが使用される場合には、固定周波数MW硬化を使用することもできる。さらに、本出願の出願人は、任意の特定のタイプのマイクロ波システムまたはマイクロ波発生装置だけに限定することを意図していない。
シリコンウエハ上に堆積させた特定の市販の膜形成材料の本明細書における議論は、単に例示のためだけに示したものであり、この議論が、基板としてシリコンを使用することだけに本開示を限定すること、または、任意の特定の製造業者のPSPI材料もしくは任意の特定の製造業者の感光性ポリマーだけに本開示を限定することは意図されていない。
【0022】
本開示の実施形態は、本明細書に記載された特定の例示的な組成物に類似した多くの化学系に適用することができる。特に、前述のとおり、組成物は、ポリアミド酸(PAA)前駆体樹脂のいくつかの部位を感光性メタクリレートアルコールで修飾して、図1に示されているような感光性ポリアミド酸エステル(PAE)を形成することを含むことができる。図示されたアルコールは、モノマーおよびオリゴマーのメタクリレートファミリー(methacrylate family)(R-CH2CH2OC(O)CH=C(CH32)の1種または複数のアルコールである。これは、UV露光によって架橋することが知られており、多くのフォトレジスト材料ファミリーの基礎を形成する。本明細書で使用されるとき、Rは、示された位置に結合された任意の選択された有機部分を示す。
【0023】
さらに、その感光性部分が、後続の処理中に少なくとも部分的に除去可能であり、ポリマー骨格鎖の永続的な部分を形成しない限り、より一般的に、本開示の実施形態を、他の感光性化学物質、例えばポリベンゾオキサゾール(polybenzoxazole:PBO)に適用することができることが理解される。
【0024】
以上の説明は本開示の実施形態を対象としているが、本開示の基本的な範囲を逸脱することなく本開示の他の追加の実施形態を考案することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8