(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】紫外線受光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 31/108 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
H01L31/10 C
(21)【出願番号】P 2020007028
(22)【出願日】2020-01-20
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 隆一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 康弘
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-288925(JP,A)
【文献】特開2019-110168(JP,A)
【文献】特開2002-083996(JP,A)
【文献】特開2004-039913(JP,A)
【文献】米国特許第06104074(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/0392
H01L 31/08-31/119
H01L 31/18-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板上のAlN層と、前記AlN層上にAl組成の異なる複数のAlGaN層からなるAlGaN積層体とを有する紫外線受光素子であって、
前記AlGaN積層体は、前記AlN層側から順に、Al
w
Ga
1-w
Nバッファ層(0.5≦w≦0.95)及びAl
z
Ga
1-z
N受光層を有し、
前記AlGaN積層体は、前記Al
w
Ga
1-w
Nバッファ層と前記Al
z
Ga
1-z
N受光層との間に、前記AlN層側から順にn型Al
x
Ga
1-x
N電流広がり層及びn型Al
y
Ga
1-y
Nオーミックコンタクト層を有し、
各Al組成の値が
z≦y<x≦w
の関係を満足し、
230nm以上320nm以下の紫外線領域に受光感度ピーク波長を有し、
400nm以上680nm以下の可視領域の応答度の平均値Rvに対する前記受光感度
ピーク波長での応答度Rpの比(Rp/Rv)である拒絶率が10
5以上であ
り、
前記応答度の測定の照射光は前記サファイア基板の側から入射され、
前記紫外線受光素子の受光感度スペクトルの半値幅が40nm以下であることを特徴とするショットキー型の紫外線受光素子。
【請求項2】
前記Al
zGa
1-zN受光層はエッチング部を有し、前記エッチング部において前記n型Al
yGa
1-yNオーミックコンタクト層が露出し、
前記露出したn型Al
yGa
1-yNオーミックコンタクト層上にn型オーミック電極が設けられ、
前記Al
zGa
1-zN受光層上にショットキー電極を有することを特徴とする、請求項
1に記載の紫外線受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外線受光素子に関し、特に、屋外光や室内光の外乱を受けずに、紫外線の特定波長に有効な受光感度を有する紫外線受光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外線領域(200~400nm)は種々の産業技術に応用されている。例えば、感光性樹脂の硬化や、各種分析等のセンシング、殺菌、皮膚治療といった様々な用途が知られる。紫外線の光源としては、波長域によって異なり、殺菌用途では低圧水銀灯(254nm輝線)が、樹脂硬化用途では中/高圧水銀(200~600nm間の輝線)が、分析機器用途ではキセノンランプや重水素ランプ光源からの光を分光した紫外光が使用されている。また、紫外線領域の光源として、上記した従来型の水銀ランプ、重水素ランプ、キセノンランプに加え、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)などの単色光光源が開発されてきている。
【0003】
紫外線の人体影響を考慮すると、特に目や皮膚に悪影響を及ぼすため、紫外線を産業技術に応用するためには周囲への漏洩などに対する安全対策が不可避である。例えば、殺菌効率が最も高い波長は265nm近傍であることが知られており、DNAがその波長の光を吸収して破壊される。皮膚がんは特に短波長領域の被ばくで危険性が増すとされている。一方、特異的に310nm近傍の紫外線はビタミンDの生成に必要とされており、また皮膚治療への応用もされている。
【0004】
さらにバイオ関連技術への応用では、DNAやRNAの純度評価に紫外線吸収を用いることがある。例えば、波長260nmと280nmの吸光度比(A260/A280)が1.8以上の場合にDNAは純度が高いと判定され、2.0以上の場合にRNAの純度が高いと判定されている。また、260nmと230nmの吸光度比(A260/A230)は、DNA又はRNAが高純度であれば、通常2.0~2.2を示すとされている。仮にその値よりも小さい場合には、230nm光を吸収する各種有機物の混入を示唆するとされている。通常、これらの測定には紫外分光光度計が用いられている。
【0005】
上記のとおり紫外線は様々な用途を有する。紫外線の使用時には紫外線光量の測定評価や制御フィードバックが必要であるため、紫外光の光源側との対として受光側の素子も大切になる。
【0006】
半導体Siは幅広い用途に用いられており、受光素子にも用いられている。半導体Siは禁制帯幅(バンドギャップ)が1.12eVであるため、Si材料を用いた受光素子は、紫外線領域から近赤外域(概ね200~1100nm)まで受光感度を有する。その反面、半導体Siを受光素子に使用する場合、検出目的以外の光が含まれる場合には、その分も加算されて検知してしまうことになる。検出目的以外の光が外乱となってしまう用途においては、不要な波長成分を遮光するなどの対策が必要となる。
【0007】
それに対して、III族窒化物はワイドギャップ半導体であるため、受光感度を主に紫外線領域に持たせることが可能であるとの期待から、火炎センサーへの応用研究がなされていた。非特許文献1では、太陽光がオゾン層で吸収されるために地表に280nm以下の紫外光は到達しないことから、火炎検知波長として250~280nmを用いるのが良いといわれる。その場合、外乱となる検出目的以外の光の応答度に対する検出目的とする特定波長の紫外光受光ピークの応答度の比(以下、「拒絶率」という)は、約106あることが好ましいと非特許文献1では言及された。火炎検出などの特定波長を検出対象に用いるセンサーには大きな拒絶率が必要である。非特許文献1には窒化物半導体を用いた場合の特性値の報告例が示されているが、拒絶率は概ね104以下の範囲に留まっている。
【0008】
非特許文献2において、AlGaN混晶を用いたショットキー型の受光素子が報告例されており、広帯域のUV検出器にはpn型やpin型に比べてショットキー型の受光素子が有利であるといわれている。なお、ショットキー型の受光素子の構造はp型半導体層の代わりに非常に薄い金属層(Au(金)等)をn型半導体層と接合した構造であり、pn型やpin型とは構造的に異なる。非特許文献2では、ショットキー電極として半透明Au(100Å)コンタクトを用いており、光照射は半透明電極越しである(非特許文献2のFig.3参照)。受光感度帯を調整するために、AlxGa1-xN受光層のAl組成xを変化させた場合の、応答度の波長特性が非特許文献2のFig.8に示されている。カットオフ波長よりも短波長側で平坦な応答度特性を示しているが、その紫外線受光応答度と可視光応答度の比率、すなわち拒絶率は103~104であることを読み取ることができる(文中では103以上と記載されている)。なお、可視領域の波長範囲は400nm~475nmまでのデータのみが提示されている。300nm付近にカットオフを有する素子については、350nmまでの値であって、可視光領域に対する拒絶率を読み取ることはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】平野ら,“GaN系受光素子の火炎センサーへの応用”,応用物理,1999年,第68巻,第7号,p.805-809
【文献】E. Monroy, et al., "Analysis and modeling of AlxGa1-xN-based Schottky barrier photodiodes", Journal of Applied Physics, 2000年8月, vol 88, No. 4, p.2081-2091
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、紫外線の特定波長、例えば殺菌用水銀ランプ(254nm)の出力モニタとしては、それ以外の光を遮断するため、Si受光素子に干渉フィルター式のバンドパスフィルターをパッケージ窓材に装着する方法がとられている(例えば、浜松ホトニクス社製Siフォトダイオード:S12742-254)。しかしながら干渉フィルターでの遮蔽では、可視光領域の減光が不十分であるため、254nmでの応答度と近紫外~可視光領域の応答度の比(拒絶率)は102台に留まっている。そのため、可視光強度が強い場合には外乱を回避することは困難である。また、フィルター装着により、検出目的の紫外光に対する受光感度も低下する。
【0011】
単色光光源と、特定波長のみに応答する受光素子側とをペアで使用すれば、分光器が不要となり、簡便な評価システムを構築できる。上述した医療バイオ用途以外にも、殺菌用途、皮膚治療用途では紫外線の光量モニタやフィードバック制御、周囲への揺曳検知が必要であり、単に拒絶率を高めるだけではなく、紫外線領域の特定波長に高い受光感度を有する素子が望まれる。
【0012】
そこで、本発明は、外乱を抑制するために、紫外線の特定波長範囲内に高い受光感度(応答度)を有し、他の波長領域の受光感度(応答度)が抑制された拒絶率の高いショットキー型の紫外線受光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明者らは受光素子への紫外光入射方向と、受光層に至るまでの波長選別構造、さらには受光層の結晶性向上による可視光領域での応答度低減方法を検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0014】
(1)230nm以上320nm以下の紫外線領域に受光感度ピーク波長を有し、
400nm以上680nm以下の可視領域の応答度の平均値Rvに対する前記受光感度ピーク波長での応答度Rpの比(Rp/Rv)である拒絶率が105以上であることを特徴とするショットキー型の紫外線受光素子。
【0015】
(2)前記紫外線受光素子は、サファイア基板上のAlN層と、前記AlN層上にAl組成の異なる複数のAlGaN層からなるAlGaN積層体とを有し、
前記応答度測定の照射光は前記サファイア基板の側から入射されることを特徴とする、前記(1)に記載の紫外線受光素子。
【0016】
(3)前記紫外線受光素子の受光感度スペクトルの半値幅が40nm以下であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の紫外線受光素子。
【0017】
(4)前記AlGaN積層体は、前記AlN層側から順に、AlwGa1-wNバッファ層(0.5≦w≦0.95)及びAlzGa1-zN受光層を有し、
各Al組成の値がz<wの関係を満足することを特徴とする、前記(2)又は(3)に記載の紫外線受光素子。
【0018】
(5)前記AlGaN積層体は、前記AlwGa1-wNバッファ層と前記AlzGa1-zN受光層との間に、前記AlN層側から順にn型AlxGa1-xN電流広がり層及びn型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層を有し、
各Al組成の値が
z≦y<x≦w
の関係を満足することを特徴とする、前記(4)に記載の紫外線受光素子。
【0019】
(6)前記AlzGa1-zN受光層はエッチング部を有し、前記エッチング部において前記n型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層が露出し、
前記露出したn型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層上にn型オーミック電極が設けられ、
前記AlzGa1-zN受光層上にショットキー電極を有することを特徴とする、前記(5)に記載の紫外線受光素子。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、紫外線領域の特定波長に受光感度ピークを有し、かつ可視光に対する拒絶率の高いショットキー型の紫外線受光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明者らの検討によるサファイア基板上のAl
xGa
1-xN層の透過率のAl組成xの依存性を説明するグラフである。
【
図2】本発明に従う紫外線受光素子に適用可能なAlGaN積層体を有するエピタキシャル基板の断面構造の模式図である。
【
図3】本発明に従う紫外線受光素子の断面構造の模式図である。
【
図4】実施例1における紫外線受光素子(波長260nmに受光感度ピークを有する)のI-V特性を示すグラフである。
【
図5A】実施例1における紫外線受光素子(波長260nmに受光感度ピークを有する)の応答度の波長依存性および半値幅を示すための線形表示グラフである。
【
図5B】実施例1における紫外線受光素子(波長260nmに受光感度ピークを有する)の可視光領域との拒絶率を示すための、応答度の波長依存性の片対数表示グラフである。
【
図6】実施例2における紫外線受光素子(波長320nmに受光感度ピークを有する)のI-V特性を示すグラフである。
【
図7A】実施例2における紫外線受光素子(波長320nmに受光感度ピークを有する)の応答度の波長依存性および半値幅を示すための線形表示グラフである。
【
図7B】実施例2における紫外線受光素子(波長320nmに受光感度ピークを有する)の可視光領域との拒絶率を示すための、応答度の波長依存性の片対数表示グラフである。
【
図8】実施例3における紫外線受光素子(波長230nmに受光感度ピークを有する)のI-V特性を示すグラフである。
【
図9A】実施例3における紫外線受光素子(波長230nmに受光感度ピークを有する)の応答度の波長依存性および半値幅を示すための線形表示グラフである。
【
図9B】実施例3における紫外線受光素子(波長230nmに受光感度ピークを有する)の可視光領域との拒絶率を示すための、応答度の波長依存性の片対数表示グラフである。
【
図10】比較例1に係るバンドパスフィルターによって紫外特定波長領域を検知するSi受光素子の光電流―電圧特性を示すグラフである。
【
図11】比較例1に係るバンドパスフィルターによって紫外特定波長領域を検知するSi受光素子の可視光領域との拒絶率を示すための、応答度の波長依存性の片対数表示グラフである。
【
図12A】比較例2-1における紫外線受光素子(波長260nmに受光感度ピークを有する)の、受光層側からの光照射による応答度の波長依存性および半値幅を示す線形表示のグラフである。
【
図12B】比較例2-1における紫外線受光素子(波長260nmに受光感度ピークを有する)の、受光層側からの光照射での可視光領域との拒絶率を示すための、応答度の波長依存性を示す片対数表示のグラフである。
【
図13A】比較例2-2における紫外線受光素子(波長320nmに受光感度ピークを有する)の、受光層側からの光照射による応答度の波長依存性および半値幅を示す線形表示のグラフである。
【
図13B】比較例2-2における紫外線受光素子(波長320nmに受光感度ピークを有する)の、受光層側からの光照射での可視光領域との拒絶率を示すための、応答度の波長依存性を示す片対数表示のグラフである。
【
図14A】比較例2-3における紫外線受光素子(波長230nmに受光感度ピークを有する)の、受光層側からの光照射による応答度の波長依存性および半値幅を示す線形表示のグラフである。
【
図14B】比較例2-3における紫外線受光素子(波長230nmに受光感度ピークを有する)の、受光層側からの光照射での可視光領域との拒絶率を示すための、応答度の波長依存性を示す片対数表示のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<受光感度ピーク波長>
本発明によるショットキー型の紫外線受光素子は、230nm以上320nm以下の紫外線領域に受光感度ピーク波長λpを有する紫外線受光素子である。ここで、受光感度ピーク波長λpについて説明する。200nm~680nmの波長範囲において、特定波長λ(nm)の光を照射強度Q(W)で照射したときに、バイアス0Vにおいて受光素子に流れる光電流値をI(A)とする。そして、横軸に波長λを表示し、縦軸に光電流値I(A)を照射強度Q(W)で除した値である応答度R=I/Q(A/W)を表示したときの、応答度Rが最大の極大値をとる測定点(応答度の最大値:Rp)となる波長が、受光感度ピーク波長λpである。ここで、測定波長間隔Δλは10nm以下とする。
【0023】
<拒絶率>
そして、本発明によるショットキー型の紫外線受光素子は、230nm以上320nm以下の紫外線領域における受光感度ピーク波長での応答度Rp(応答度の最大値)と、400nm以上680nm以下の可視領域の応答度の平均値Rvとの比であるRp/Rv(以下、「拒絶率」と称する)が、105以上であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明による紫外線受光素子は、サファイア基板上に、AlN層と、Al組成の異なる複数のAlGaN層からなるAlGaN積層体とを順に有し、応答度測定の照射光はサファイア基板側から入射されることが好ましい。そして、このAlGaN積層体は、AlN層と接する側のAlGaN層に比べて、サファイア基板とは反対側のAlGaN層のAl組成が低いことが好ましい。そして、AlGaN積層体のうち、サファイア基板とは反対側に位置してAl組成が低いAlGaN層が受光層であることが好ましい。
【0025】
(分光透過率のAl組成への依存性)
ここで、本発明の着想に至った端緒を説明する。
図1は、本発明者らが測定した分光透過率のAl組成xへの依存性を示すものである。c面サファイア基板上に、MOCVD法により1000nm厚みのAlN層を成長し、1000nmのアンドープAl
xGa
1-xN層を成長させてエピタキシャル基板を作製した。アンドープAl
xGa
1-xN層のAl組成xを、
図1のグラフに記載のとおり0.25、0.50、0.56、0.68、0.85、1.0(Al組成1.0はAlNである)にした合計6種の試料を用意した。両面鏡面研磨サファイア基板をベースラインのリファレンスとし、日立ハイテクサイエンス社製の紫外可視(UV-VIS)分光光度計(U-3900型)を用いて、アンドープAl
xGa
1-xN層のAl組成xが異なる各試料の透過率を測定した。なお、
図1には、サファイア基板の透過率のデータも併記しているが、そのデータは、大気をリファレンスとしている。サファイア基板は200nmから600nmの全域にわたり80%以上の透過率を有している。
図1を参照すると、高Al組成側(x=1.0)から低Al組成側(x=0.25)に順次移行するに伴い、透過率の立ち上り端が長波長側にシフトするのが分かる。
【0026】
サファイア基板上にAlxGa1-xN層のAl組成xを順次低減する積層構造としたAlGaN積層体(AlGaN積層体において、AlN層と接する側の層に比べてサファイア基板と反対側の層のAl組成を順次低くする)と、このAlGaN積層体上にショットキー電極を設けた受光素子を考える。サファイア基板側から光を入射するのならば、受光層のAl組成よりも大きなAl組成のAlGaN層で短波長側の光が吸収されカットされることになる。例えば、受光層のAl組成を0.56とし、受光層よりもサファイア基板側(AlN層側)にAl組成0.85のAlGaN層を配置すれば、約220nmから約250nmの間に受光感度ピークを持たすことができる。このように、Al組成の異なるAlGaN層をサファイア基板上に順次積層することにより、狭い波長範囲での受光感度幅を持たせることが可能と本発明者らは考えた。
【0027】
(検出光の入射方向に関する比較検討)
一方で、同一組成及び同一構造のAlGaN積層体を有するエピタキシャル基板であっても、サファイア基板側からではなく、AlGaN積層体の表面側から光を入射させる場合を考える。この場合、AlGaN積層体の中でもAl組成の低い層(例えば受光層)の透過率特性に準じることになる。例えばAlGaN層のAl組成が0.25の場合、約320nm以下の短波長側の広い波長範囲にわたって受光感度を有することになる。そしてこの場合、入射光と受光層との間にはショットキー電極しかない。なお、ショットキー電極越しに受光層に検知光を導く必要があるので、ショットキー電極は極薄の半透明電極を使用する、あるいは電極の一部を切り欠く方法で受光層へ導く構造をとらなければならない。
【0028】
AlGaN積層体の表面側から光を入射させる場合と異なり、サファイア基板側から光を入射させた場合は、受光面積を十分に確保することができると共に、AlGaN積層体の中でもAl組成の低い層(例えば受光層)に光が到達するまでに、サファイア基板のほか受光層よりもAl組成の高いAlGaN層を経由させることで、上記のように短波長側の光をフィルタリングさせ、狭い範囲の紫外光領域にのみ受光感度を持つようにすることができる。ショットキー電極材料側からの入射では、サファイア基板側から入射させるときのような、紫外領域の目的波長域より短波長側のフィルタリング除去は、実質的に不可能であると考えられる。
【0029】
<半値幅>
本発明による紫外線受光素子において、受光感度スペクトルの半値幅(FWHM)が40nm以下であることが好ましい。なお、横軸に波長λを表示し、縦軸に光電流値I(A)を照射強度Q(W)で除した応答度R=I/Q(A/W)を表示し、各測定点を直線で繋いで表示したものを受光感度スペクトルとする。そして、受光感度スペクトルの半値幅とは230nm以上320nm以下の紫外線領域における受光感度ピークにおける応答度の最大値の半分の応答度の値における波長の幅を、上述の受光感度スペクトルから求めたものである。
【0030】
サファイア基板側から光を入射させてサファイア基板上のAlxGa1-xN層のAl組成xを順次低減する積層構造とするならば、短波長側のフィルタリングによって狭い波長範囲での受光感度幅を持たせることができるため、Al組成xを適切に組み合わせることによって受光感度スペクトルの半値幅を40nm以下とすることができる。さらには、受光感度スペクトルが、受光感度ピークを中心に略対称のスペクトル形状を有していることも、より好ましい様態である。一方、ショットキー電極材料側から光を入射させる場合のように、短波長側のフィルタリングが無い場合は、短波長側に受光可能領域が大きく広がるため、半値幅は40nmよりも大きくなる。そして、受光感度スペクトルは非対称なスペクトル形状となる。
【0031】
以下、
図2を参照して本発明の紫外線受光素子の作製に用いることができるエピタキシャル基板の一例を説明する。説明の便宜状、以下ではAlGaN積層体の各層のAl組成をサファイア基板の側から順にw、x、y、zと表記する。
図2に示すエピタキシャル基板は、サファイア基板11上に、AlN層12を有し、このAlN層12上にAl
wGa
1-wNバッファ層13、n型Al
xGa
1-xN電流拡がり層14、n型Al
yGa
1-yNオーミック層15、Al
zGa
1-zN受光層16を順次有する。なお、各層のAl組成の値は、フォトルミネッセンス測定およびX線回折測定によって測定することができ、各層の膜厚は、光干渉式膜厚測定器を用いて測定することができる。
【0032】
<サファイア基板>
サファイア基板は市販されているものを使用することができ、厚さは例えば80~2000μmとすることができる。現在市販されているものの標準的な厚さは、2インチ径のもので430μm、4インチ径のもので650μm、6インチ径のもので1000μmまたは1300μmである。
【0033】
<AlN層>
サファイア基板11上にAlN層12を設けることが好ましい。AlN層12は膜厚0.3~3μmとすることができる。X線回折による(10-12)面の半値幅(Full Width Half Maximum,FWHM)が500秒以下であることが好ましい。サファイア基板の表面にアンドープのAlN層12をエピタキシャル成長させたAlNテンプレート基板を用いてもよい。AlN層12の転位密度低減を目的として、1500℃以上でのアニール処理を施してもよい。
【0034】
<AlGaN積層体>
AlGaN積層体は、AlN層側から順に、AlwGa1-wNバッファ層13(0.5≦w≦0.95)及びAlzGa1-zN受光層16を有することが好ましい。この場合、各Al組成の値がz<wの関係を満足する。さらに、AlGaN積層体は、AlwGa1-wNバッファ層13とAlzGa1-zN受光層16との間に、AlN層12側から順にn型AlxGa1-xN電流広がり層14及びn型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層15を有することも好ましい。この場合、AlGaN積層体は、AlN層12側から順にAlwGa1-wNバッファ層13、n型AlxGa1-xN電流広がり層14、n型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層15、AlzGa1-zN受光層16を有し、AlGaN積層体における各Al組成の値が、z≦y<x≦wの関係を満足することが好ましい。AlGaN積層体の各層の好ましい態様について、以下で順次説明する。
【0035】
<<Al
wGa
1-wNバッファ層>>
Al
wGa
1-wNバッファ層13は、AlN層12とAl
zGa
1-zN受光層16との間の格子不整合を緩和して、Al
zGa
1-zN受光層16の結晶性を高めるための層であり、さらに、上述したとおり短波長側のフィルタリングをさせるための層である。
図1に示すように、230nm以上320nm以下の紫外線領域に受光感度ピーク波長を有する紫外線受光素子にとって、AlN層は短波長側のフィルタリングする層としては効果が弱いため、Al組成wは、0.5≦w≦0.95の範囲とすることが好ましい。
【0036】
AlwGa1-wNバッファ層13の膜厚は、結晶性を高めるのに十分な厚さであることが好ましく、例えば膜厚0.3~3μmの範囲で適宜設定すればよく、例えば1μmの厚さとすることができる。AlwGa1-wNバッファ層13は、アンドープでもn型ドーピングでも良いが、高濃度に不純物が含まれると透過率が低下する懸念があるため不純物濃度が1×1017cm-3未満となるようにすることが好ましく、アンドープであることがより好ましい。ここでアンドープとは、意図的な不純物のドーピングを行わないこといい、不可避的な不純物を除き、Siなどの不純物濃度が4×1016cm-3以下であることをいう。
【0037】
<<n型AlxGa1-xN電流広がり層>>
n型AlxGa1-xN電流広がり層14は、n型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層15における電流の横方向の流れを補助する目的の層である。Al組成xの値は、AlwGa1-wNバッファ層13のAl組成wと同じかそれよりも小さいことが好ましいため、n型AlxGa1-xN電流広がり層14を設ける場合はそのAl組成xをx≦wとする。
【0038】
n型AlxGa1-xN電流広がり層14の膜厚は、0.1~1μmの範囲で適宜設定すればよく、例えば500nmの厚さとすることができる。n型ドーパントとしては、Si、Geが使用でき、Siを使用することが好ましい。n型ドーパントの濃度は、5×1017cm-3~2×1019cm-3の範囲とすることが好ましい。
【0039】
<<n型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層>>
n型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層15は、詳細を後述するオーミック電極と接続して電流を流すための層である。n型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層15を設ける場合、そのAl組成yの値は、Al組成w、xの値に対して、y<x≦wであることが好ましい。
【0040】
n型AlxGa1-xNオーミックコンタクト層15の膜厚は、0.1~1μmの範囲で適宜設定すればよく、例えば200nmの厚さとすることができる。n型ドーパントとしては、Si、Geが使用でき、Siを使用することが好ましい。n型ドーパントの濃度は、5×1017cm-3~2×1019cm-3の範囲とすることが好ましい。
【0041】
<<AlzGa1-zN受光層>>
AlzGa1-zN受光層16は、光を受光し電気を発生させる層である。取出電極であるショットキー電極と、n型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層を経由したオーミック電極とにより、受光した光によって生成したキャリアを電流として取り出すことができる。AlzGa1-zN受光層16のAl組成zの値は、Al組成w、x、yの値に対して、z≦y<x≦wであることが好ましい。
【0042】
AlzGa1-zN受光層16は、アンドープとしても良く、また、意図的にn型ドーピングしても良い。キャリア濃度が1×1017cm-3未満となるようにすることが好ましい。AlzGa1-zN受光層16の膜厚は、0.1~1μmの範囲で適宜設定すればよく、例えば300nmの厚さとすることができる。
【0043】
<電極>
本発明による紫外線受光素子に設ける電極の形状及び配置は任意であり、例えばAlzGa1-zN受光層16上にショットキー電極を設け、n型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層15上にn型オーミック電極を設けることができる。この場合、AlzGa1-zN受光層16はエッチング部を有し、このエッチング部においてn型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層15が露出し、露出したn型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層15上にn型オーミック電極を設けることができる。
後述の実施例では、紫外線受光素子を俯瞰すると、ショットキー電極の形状が円形であり、矩形のn型オーミック電極の中央の円形くり抜き部分に上記のショットキー電極が配置される形であるが、ショットキー電極の形状は円形のほかに矩形や多角形などでもよく、また、n型オーミック電極もショットキー電極の形に応じて任意の形状とすることができる。
【0044】
(エピタキシャル基板の製造方法の例)
サファイア基板11のc面上に、MOCVD法によりアンドープのAlN層12を1μm程度成長する。AlN層12上に、Al組成wが0.5≦w≦0.95の範囲のアンドープAlwGa1-wN層13を、例えば1μm程度成長させる。次に、紫外線受光素子における横方向の抵抗を低減するために、n型AlxGa1-xN電流広がり層14を例えば500nm程度成長する。この場合のAl組成xはy≦x≦wであり、n型ドーパントはSiであり、水素で希釈したシラン(SiH4)ガス等で添加すればよい。次に、n型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層15を例えば200nm程度成長する。この場合のAl組成yはy≦xとする。次に、アンドープのAlzGa1-zN受光層16を例えば300nm程度成膜する。Al組成zはz≦yである。それぞれのAlGaN層の組成は、目的の受光感度幅および受光感度ピーク波長に合わせて調整すればよく、少なくともz<x≦wの関係を維持することが好ましい。各層をエピタキシャル成長させるための原料ソースを例示すると、Alソースとしてはトリメチルアルミ(TMA)を、Gaソースとしてはトリメチルガリウム(TMG)を、窒素ソースとしてはアンモニアガス(NH3)を用いればよい。キャリアガスとしては例えば水素(H2)を用いることができる。なお、本例における各層の膜厚は例示にすぎず、上述した各層の膜厚を適用することができる。
【0045】
先に参照した
図2に本発明に適用可能なAlGaN積層体を設けたエピタキシャル基板100の断面構造模式図を示すが、ここに示したAlN層12上の少なくとも4層のAlGaN層に加え、それぞれの層間に中間層を設けても良い。例えば、層間の組成差やn型ドーパントの濃度差を緩やかに変化させる傾斜組成層、不純物濃度傾斜層である。或いは、層間の中間の組成、不純物濃度を有する層を追加することができる。
【0046】
(紫外線受光素子の製造プロセスの例)
図3は、本発明に従う紫外線受光素子の一例の断面構造模式図である。前述のエピタキシャル基板100から個片化して素子を得る製造方法について、その具体例を説明する。初めに、最終的に個片化するためのダイシングラインの決定、および中間特性検査のため、個々の素子間に分離溝20を設けるための加工を行う。AlN層及びAlGaN積層体の各エピタキシャル層並びにサファイア基板をエッチング加工するためには、塩素系ガスを用いたドライエッチングが不可避である。そこでまず、エピタキシャル基板100上にNiやCrなどの耐性のあるメタルマスクのパターンを形成する。この場合、スパッタリング法や真空蒸着法で上記金属を500nm以上成膜し、フォトリソグラフィーおよびエッチング法によって、メタルマスクのパターンを形成すればよい。そして、形成したメタルマスクのパターンをマスクとして利用し、ICP(インダクション・カップルド・プラズマ)エッチング法でBCl
3及びCl
2混合ガスなどを用いて、分離溝20を設ける部分において、少なくともn型Al
xGa
1-xN電流拡がり層14まで除去する(
図3ではAlN層12まで除去している)。次に、フォトリソグラフィーおよびウエットエッチング法により、オーミックコンタクト部を形成するためのメタルマスクのパターンをAl
zGa
1-zN受光層16上に形成し、Al
zGa
1-zN受光層16の一部を前述のドライエッチング法等によりn型Al
xGa
1-xNオーミックコンタクト層15の部分にまで除去することでエッチング部を形成し、エッチング部によるn型Al
xGa
1-xNオーミックコンタクト層15の露出領域を形成する。ドライエッチング用メタルをウエットエッチング等により除去した後、上記の露出領域のオーミック電極形成部分の開口部をフォトリソグラフィーで形成し、n型オーミック電極21用の積層メタル(例えばTi/Al)を真空蒸着法などで成膜し、リフトオフ法でn型オーミック電極21のパターンを形成する。その後熱処理を行うことで、n型オーミックコンタクト電極21を形成することができる。また、Al
zGa
1-zN受光層16の表面にショットキー電極23を形成するため、フォトリソグラフィーによる開口部形成を行い、真空蒸着法などによりショットキーメタルを成膜後、リフトオフによってショットキー電極23を形成する。ショットキーメタルとしては、仕事関数の大きいNi、Pd、Pt、Au、Irなどを使用することができる。また、これら金属の積層構造を用いても良い。個片化して個別分離する前にウエハの状態でプローバー(電気特性評価用の針立て)を用いた電気光学的な中間評価を行ってもよい。次いで各種個片化法(機械的切断、ケガキ導入切断、レーザ切断など)によって個片化する。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。まず、作製した紫外線受光素子の評価方法について説明する。
【0048】
(受光素子の光電気特性の評価方法)
受光素子の電気特性評価は、ウエハ状態、或いは個片化した素子に対して、ショットキー電極およびオーミック電極間を探針し、アジレント社製プレシジョン半導体パラメータ・アナライザ(4156C)を用いて実施した。掃引電圧範囲は-20~+5Vの範囲とし、電流値を計測することで、いわゆるI-V特性を評価した。電磁ノイズ及び室内光の外乱を防ぐために、測定はダークシールドボックス内で実施した。光照射方向としては、サファイア基板側からを主としたが、比較のためショットキー電極(エピタキシャル層表面)側からの照射も実施した。試料への光照射は、日本分光社製のキセノン(Xe)150W光源(PS-X150)からの光を同社製の集光系及び各種光学フィルター系を経由して、同社製のCT-25分光器に導入し、分光後は耐紫外線紫外・可視光ファイバーを経由して評価目的の試料に照射した。なお、試料表面の照射スポット径はφ1.2mmであり、照射光波長は200nm~680nmの範囲とした。
【0049】
各波長における絶対照射パワーは、オフィール社製のPD300-UV及び浜松ホトニクス社製のS2281フォトセンサーの両者での測定確認を行っており、波長域200nm~680nmの範囲の計測で、絶対値誤差が全領域で最大でも10%以内である事を確認した。なお、各波長における応答度は、所定のバイアス電圧下での光電流値(A)を照射パワー(W)で割って算出するため、単位はA/Wとなる。上述した拒絶率を求めるにあたり、可視光域の照射光量は大きい方がより好ましい。感度の低い可視光域の応答度評価には、分光光源以外にも、分光光源よりも照射パワーの大きい中心発光波長が455nm、530nm、630nmの3種のファイバーカップルLED光源を用いた測定も、参考データを取得するために行った。LED光源では通電電流の調整により、最大6mW程度試料面に照射が可能である。
【0050】
<実施例1>
受光感度のピーク波長が260nmである実施例1に係る紫外線受光素子を、以下のエピタキシャル成長条件でMOCVD法により作製した。サファイアc面基板にアンドープのAlN(0001)エピタキシャル層を800nm成長した。次に、アンドープのAl
0.70Ga
0.30N層(Al
wGa
1-wNバッファ層に相当)を1000nm成長した。次いで、Siドープしたn型Al
0.68Ga
0.32N層(n型Al
xGa
1-xN電流広がり層に相当)を500nm成長し、次いでオーミックコンタクト形成用のSiドープn型Al
0.50Ga
0.50N層(n型Al
yGa
1-yNオーミックコンタクト層に相当)を200nm成長し、最後にアンドープのAl
0.50Ga
0.50N層(Al
zGa
1-zN受光層に相当)を300nm成長して、受光素子用エピタキシャル基板を製造した。AlGaN積層体における各AlGaN層の組成関係を既述の組成記号(w、x、y、z)を用いて表記すると、w=0.70、x=0.68、y=0.50、z=0.50である。次いで、
図3を参照して説明した前述の紫外線受光素子の素子製造プロセスの一例に従い、素子寸法2mm□(分離溝幅200μm)、ショットキー電極は素子中央部にφ1.6mm径、その周囲にn型オーミック電極を具備した紫外線受光素子を作製した。ショットキー電極の金属にはNiを用い、その厚みは200nm厚みである。また、n型オーミック電極の金属にはTi/Alを用い、その合計厚みは合計210nmである。得られた紫外線受光素子に対し、サファイア基板側から照射波長を変えて、光電流―電圧(I-V)特性を測定し、各波長における応答度を求めた。別途、ファイバーカップルLED光源を用いて可視領域の上記3波長についてLED光照射を行い、それぞれの波長での応答度も求めた。
【0051】
図4に、暗状態および260nm光ならびに可視光である530nmを照射した場合のI-V特性を示す。
図5Aに、バイアス電圧が0Vの場合の応答度の波長依存性を表示した受光感度スペクトルを示す。
図5Aより、受光感度ピーク波長が260nmであり、その半値幅が20nmであることが分かる。この場合、半値短波長側の波長は250nmである。可視光との拒絶率を明確に示すため、
図5Bに、
図5Aの応答度(縦軸)を片対数表示した。黒丸(●)はXeランプ光源を分光して試料に照射した場合の応答度の波長依存性であり、併せてLEDを光源に用いた455nm照射(△)、530nm照射(◇)、630nm照射(□)による応答度の結果を
図5B中に付記している。
図5B中の△は1.5mWの照射であり、◇は3.3mWの照射であり、□は6.1mWの照射であった。ちなみに分光器光源の照射パワーは455nmでは18.7μW、530nmで13.0μW、630nmでは8.5μWであった。
【0052】
分光器光源を用いたバイアス電圧0Vの黒丸(●)での受光感度ピーク波長での応答度Rpは25.8mA/Wであり、400nm以上680nm以下の可視領域の応答度の平均値Rvは1.48×10-4mA/Wであった。これらの値を用いて計算すると、拒絶率(Rp/Rv)は、1.74×105であり、105以上の拒絶率であった。参考にXeランプ光源よりも高出力のLEDを当てた場合の応答度は、黒丸(●)よりも低かったことから、拒絶率は少なくとも105~106以上であることが分かった。
【0053】
<実施例2>
受光感度のピーク波長が320nmである実施例2に係る紫外線受光素子を、以下のエピタキシャル成長条件で作製した。サファイアc面基板にアンドープAlN(0001)層を800nm成長した。次に、アンドープのAl0.70Ga0.30Nバッファ層を1000nm成長した。次いで、Siドープn型Al0.68Ga0.32N層を500nm成長し、次いでオーミックコンタクト形成用のSiドープn型Al0.50Ga0.50N層を200nm成長し、最後にアンドープAl0.20Ga0.80N層を500nm成長して、受光素子用エピタキシャル基板を製造した。AlGaN積層体における各AlGaN層の組成関係を既述の組成記号(w、x、y、z)を用いて表記すると、w=0.70、x=0.68、y=0.50、z=0.20である。なお、その他の成長条件は実施例1と同様である。
【0054】
実施例1と同様のデバイス加工を行い、電気・光学特性を評価した。
図6に、暗状態およびXeランプを分光した320nm光ならびに可視光である530nm光を照射した場合のI-V特性を示す。
図7Aに、バイアス電圧が0Vの場合の応答度の波長依存性を表示した受光感度スペクトルを示す。
図7Aより、320nmに受光感度ピークを有することが分かる。バイアス電圧が0Vの場合の半値幅は18nmであり、半値の長波長側波長は325nmであった。なお、図示しないがバイアス電圧が-10Vのときには半値幅は35nmであり、半値の長波長側波長は335nmであった。可視光との拒絶率を示すため応答度を片対数表示したグラフを
図7Bに示す。黒丸(●)はXeランプ光源を分光して試料に照射した場合の応答度の波長依存性を示したもので、受光素子へのバイアス電圧は0Vである。併せてLEDを光源に用いた455nm照射(△)、530nm照射(◇)、630nm照射(□)による応答度の結果を
図7B中に付記している。LED光源及び分光器光源の照射パワーは実施例1と同様である。
【0055】
分光器光源を用いたバイアス電圧0Vの黒丸(●)での受光感度ピーク波長での応答度Rpは21.4mA/Wであり、400nm以上680nm以下の可視領域の応答度の平均値Rvは1.29E-4mA/Wであった。これらの値を用いて計算すると、拒絶率(Rp/Rv)は、1.66×105であり、105以上の拒絶率であった。参考にXeランプ光源よりも高出力のLEDを当てた場合の応答度は、黒丸(●)よりも低かったことから、拒絶率は少なくとも105~106以上の拒絶率であった。
【0056】
<実施例3>
受光感度ピーク波長が230nmである実施例3に係る紫外線受光素子を、以下のエピタキシャル成長条件で作製した。サファイアc面基板にアンドープAlN(0001)を800nm成長した。次に、アンドープのAl0.95Ga0.05N層を1000nm成長した。次いでSiドープn型Al0.88Ga0.12N層を500nm成長し、次いでオーミックコンタクト形成用のSiドープn型Al0.80Ga0.20N層を200nm成長、最後にアンドープAl0.75Ga0.25N層を300nm成長して、受光素子用エピタキシャル基板を製造した。AlGaN積層体における各AlGaN層の組成関係を既述の組成記号(w、x、y、z)を用いて表記すると、w=0.95、x=0.88、y=0.80、z=0.75である。なお、その他の成長条件は実施例1と同様である。
【0057】
実施例1と同様のデバイス加工を行い、電気・光学特性を評価した。
図8に、暗状態およびXeランプを分光した230nm光ならびに530nm光を照射した場合のI-V特性を示す。
図9Aに、バイアス電圧が0Vの場合の応答度の波長依存性を表示した受光感度スペクトルを示す。
図9Aより、230nmに受光感度ピークを有することが分かる。この場合半値幅は18nmであり、半値の短波長側波長は216nmである。可視光との拒絶率を示すため、応答度を片対数表示したグラフを
図9Bに示す。黒丸(●)はXeランプ光源を分光して試料に照射した場合の応答度の波長依存性を示したもので、受光素子へのバイアス電圧は零である。併せてLEDを光源に用いた455nm照射(△)、530nm照射(◇)、630nm照射(□)による応答度の結果を
図9B中に付記している。LED光源及び分光器光源の照射パワーは実施例1と同様である。
【0058】
分光器光源を用いたバイアス電圧0Vの黒丸(●)での受光感度ピーク波長での応答度Rpは14.8mA/Wであり、400nm以上680nm以下の可視領域の応答度の平均値Rvは1.37×10-4mA/Wであった。これらの値を用いて計算すると、拒絶率(Rp/Rv)は、1.08×105であり、105以上の拒絶率であった。参考にXeランプ光源よりも高出力のLEDを当てた場合の応答度は、黒丸(●)よりも低かったことから、拒絶率は少なくとも105~106以上の拒絶率であった。
【0059】
<比較例1>
Si受光素子に紫外光バンドパスフィルターを付与した紫外特定波長帯受光素子、浜松ホトニクス社製S12742-254は水銀ランプの殺菌線(254nm)に合わせた受光感度を有する。そこで、当該素子を用いて、暗状態およびXeランプ光源を分光して254nm光、400nmから680nmの可視領域光を照射した場合のI-V特性を測定した。
図10に測定結果を示すものである。暗電流は評価装置系の検出下限に近いレベルであるが、可視光照射では光電流がかなり流れ(400nm~680nm)、254nm光照射時の電流値に対して2桁程度の差しかない。
図11は応答度の波長依存性を示したものであり、可視光への拒絶率は10
2台の半ば(少なくとも10
2超10
3未満の範囲内)である。なお、受光感度ピークは254nmであり、半値幅は13nmであった。
【0060】
(比較例2)
実施例1~3では、サファイア基板側から光照射を実施したが、以下の比較例2-1~2-3では実施例で用いた受光素子を用いつつ、受光層面側から光照射を行い電気・光学特性の評価を行った。
【0061】
<比較例2-1>
比較例2-1では、実施例1の260nmに受光感度を有する素子の受光層面側から光照射を行った。
図12Aは受光層側のショットキー電極越しに光照射を行った場合の応答度の波長依存性を示す線形表示のグラフであり、バイアス電圧0Vの例を示している。応答度の半値幅は60mmであり、受光感度ピークの短波長に広がる受光感度を有しており、非対称な形状となっている。
図12Bは可視光拒絶率を示すための応答度を片対数表示したグラフである。
【0062】
バイアス電圧0Vの黒丸(●)の受光感度ピーク波長での応答度Rpは2.37mA/Wであり、400nm以上680nm以下の可視領域の応答度Rvの平均値は1.29×10-4mA/Wであり、計算される拒絶率(Rp/Rv)は、1.84×104であり、105未満の拒絶率であった。
【0063】
<比較例2-2>
比較例2-2では、実施例2で用いた320nmに受光感度ピークを有する素子に対し、ショットキー電極越しに受光層側から光照射を行った。
図13Aは応答度の波長依存性を示す線形表示のグラフで、バイアス電圧0Vの場合の例を示すものであり、受光感度の半値幅は67nmであった。この場合も、受光感度ピーク波長よりも短波長側で感度の広がりが大きく、非対称な形状となっている。
図13Bは可視光拒絶率を示すための応答度を片対数表示したグラフである。
【0064】
バイアス電圧0Vの黒丸(●)の受光感度ピーク波長での応答度Rpは13.7mA/Wであり、400nm以上680nm以下の可視領域の応答度の平均値Rvは2.20×10-4mA/Wであり、計算される拒絶率(Rp/Rv)は、6.23×104であり、105未満の拒絶率であった。
【0065】
<比較例2-3>
比較例2-3では、実施例3で用いた230nmに受光感度ピークを有する素子に対し、ショットキー電極越しに受光層側から光照射を行った。
図14Aは応答度の波長依存性を示す線形表示のグラフで、バイアス電圧0Vの場合の例を示すものである。200nm未満の波長については、光照射パワーの測定が測定レンジ外になるため応答度を求めることができないが、長波長側の半値波長が245nmであるため、少なくとも半値幅は50nmを超えることが十分に読み取れる。この場合も、受光感度よりも短波長側での感度の広がりが大きく、非対称な形状である。
図14Bは可視光拒絶率を示すために応答度を片対数表示したグラフである。
【0066】
バイアス電圧0Vの黒丸(●)の受光感度ピーク波長での応答度Rpは4.35mA/Wであり、400nm以上680nm以下の可視領域の応答度の平均値Rvは1.25×10-4mA/Wであり、計算される拒絶率(Rp/Rv)は、3.84×104であり、105未満の拒絶率であった。
【0067】
以上の実施例1~3および比較例2-1~2-3の測定結果を表1にまとめて示す。
【0068】
【0069】
上記表1より、本発明の実施形態に従うAlGaN積層体を用い、サファイア基板側からの光照射を行う事で、可視領域の応答度に対して105以上の拒絶率を得ると共に、半値幅が40nm以下で特定波長のみを検出ことができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明による紫外線受光素子は、可視光や近紫外光の外乱を受けずに目的の紫外線波長のみを検出することができる。かかる特定波長のみを検出する紫外線受光素子は、殺菌用途、医療用途、分析用途等で発光素子とのペアで、出力モニタ、制御フィードバック用に用いる事ができ非常に有用である。
【符号の説明】
【0071】
11 サファイア基板
12 AlN層
13 AlwGa1-wNバッファ層
14 n型AlxGa1-xN電流広がり層
15 n型AlyGa1-yNオーミックコンタクト層
16 AlzGa1-zN受光層
20 分離溝
21 n電極
23 ショットキー電極