(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】切断用ブレードおよび切断用ブレードの製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 5/12 20060101AFI20240617BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20240617BHJP
B26D 1/14 20060101ALI20240617BHJP
B23D 61/02 20060101ALI20240617BHJP
B23D 65/00 20060101ALI20240617BHJP
B23P 15/28 20060101ALI20240617BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
B24D5/12 Z
B24D3/00 340
B26D1/14 B
B23D61/02 Z
B23D65/00
B23P15/28 Z
H01L21/78 F
(21)【出願番号】P 2020041945
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】中村 正人
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-117066(JP,U)
【文献】特開2008-126369(JP,A)
【文献】特開平09-217155(JP,A)
【文献】特開2018-034264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 5/12
B24D 3/00
B26D 1/14
B23D 61/02
B23D 65/00
B23P 15/28
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心とする円板状であり、外周部に切れ刃を有する切断用ブレードであって、
砥粒が分散されるブレード内層と、
前記中心軸が延びる軸方向において、前記ブレード内層の両側に配置される一対のブレード外層と、を備え、
前記ブレード外層は、前記ブレード外層の外周部に配置されて径方向外側へ突出する突出刃部を有し、
前記切れ刃は、前記ブレード内層の外周部および前記突出刃部により構成され、
前記ブレード外層は、前記ブレード内層よりも硬度が高い、
切断用ブレード。
【請求項2】
中心軸を中心とする円板状であり、外周部に切れ刃を有する切断用ブレードであって、
砥粒が分散されるブレード内層と、
前記中心軸が延びる軸方向において、前記ブレード内層の両側に配置される一対のブレード外層と、を備え、
前記ブレード外層は、前記ブレード外層の外周部に配置されて径方向外側へ突出する突出刃部を有し、
前記切れ刃は、前記ブレード内層の外周部および前記突出刃部により構成され、
前記突出刃部は、
周方向のうちブレード回転方向を向くすくい面
と、
周方向のうち前記ブレード回転方向とは反対方向または径方向外側を向く逃げ面と、を有し、
前記中心軸と垂直な断面視で、前記中心軸と前記突出刃部の先端とを通る第1基準線と、前記すくい面と、の間に形成されるすくい角が、0°以上60°以下であ
り、
前記中心軸と垂直な断面視で、前記突出刃部の先端を通り前記第1基準線と直交する第2基準線と、前記逃げ面と、の間に形成される逃げ角が、0°以上60°以下であり、
前記中心軸と垂直な断面視で、前記すくい面と前記逃げ面との間に形成される前記突出刃部の刃物角が、30°以上60°以下である、
切断用ブレード。
【請求項3】
前記突出刃部は、周方向に沿って複数設けられる、
請求項1または2に記載の切断用ブレード。
【請求項4】
複数の前記突出刃部が、周方向に沿って鋸刃状に並ぶ、
請求項3に記載の切断用ブレード。
【請求項5】
前記突出刃部が、周方向に沿って等ピッチで4個以上85個以下配置される、
請求項3または4に記載の切断用ブレード。
【請求項6】
前記ブレード内層は、樹脂製であり、
前記ブレード外層は、超硬合金製である、
請求項1に記載の切断用ブレード。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の切断用ブレードを製造する方法であって
、
前記突出刃部を外周部に有する前記ブレード外層を作製する外層作製工程と、
前記砥粒を含有する前記ブレード内層の中間成形体を成形する内層成形工程と、
一対の前記ブレード外層間に前記中間成形体を挟み、金型内でホットプレスする焼結工程と、を含む、
切断用ブレードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断用ブレードおよび切断用ブレードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子材料製造分野において、被切断材を切断することによって個片化する製法に用いられる切断用ブレードが知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の切断用ブレードは、被切断材として、例えば銅電極が樹脂モールドされたQFNパッケージ(quad flat non-leaded package)のような、複合材料により構成されるワークの切断加工品位を向上させる点に、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、複合材料により構成されるワークであっても、切断の加工品位を安定して高めることができる切断用ブレード、および切断用ブレードの製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様は、中心軸を中心とする円板状であり、外周部に切れ刃を有する切断用ブレードであって、砥粒が分散されるブレード内層と、前記中心軸が延びる軸方向において、前記ブレード内層の両側に配置される一対のブレード外層と、を備え、前記ブレード外層は、前記ブレード外層の外周部に配置されて径方向外側へ突出する突出刃部を有し、前記切れ刃は、前記ブレード内層の外周部および前記突出刃部により構成され、前記ブレード外層は、前記ブレード内層よりも硬度が高い。
また本発明の一つの態様は、中心軸を中心とする円板状であり、外周部に切れ刃を有する切断用ブレードであって、砥粒が分散されるブレード内層と、前記中心軸が延びる軸方向において、前記ブレード内層の両側に配置される一対のブレード外層と、を備え、前記ブレード外層は、前記ブレード外層の外周部に配置されて径方向外側へ突出する突出刃部を有し、前記切れ刃は、前記ブレード内層の外周部および前記突出刃部により構成され、前記突出刃部は、周方向のうちブレード回転方向を向くすくい面と、周方向のうち前記ブレード回転方向とは反対方向または径方向外側を向く逃げ面と、を有し、前記中心軸と垂直な断面視で、前記中心軸と前記突出刃部の先端とを通る第1基準線と、前記すくい面と、の間に形成されるすくい角が、0°以上60°以下であり、前記中心軸と垂直な断面視で、前記突出刃部の先端を通り前記第1基準線と直交する第2基準線と、前記逃げ面と、の間に形成される逃げ角が、0°以上60°以下であり、前記中心軸と垂直な断面視で、前記すくい面と前記逃げ面との間に形成される前記突出刃部の刃物角が、30°以上60°以下である。
また本発明の一つの態様は、上述の切断用ブレードを製造する方法であって、前記突出刃部を外周部に有する前記ブレード外層を作製する外層作製工程と、前記砥粒を含有する前記ブレード内層の中間成形体を成形する内層成形工程と、一対の前記ブレード外層間に前記中間成形体を挟み、金型内でホットプレスする焼結工程と、を含む。
【0007】
本発明の切断用ブレードおよびその製造方法によれば、切断用ブレードの切れ刃が、砥粒が分散されたブレード内層の外周部と、ブレード外層の突出刃部と、により構成される。このため、切断用ブレードは被切断材に対して、ブレード内層による第1の切断モードと、突出刃部による第2の切断モードと、によって同時に切り込む。この切断用ブレードは、第1の切断モードにより、被切断材を安定して切断することができる。また第2の切断モードにより、特に軟質の金属材料等(軟質材)に対して、金属バリ等の発生を抑えつつ加工品位を高めることができる。
本発明によれば、例えばQFNパッケージのような複合材料により構成されるワークであっても、切断の加工品位を安定して高めることができる。
上記切断用ブレードにおいて、前記ブレード外層は、前記ブレード内層よりも硬度が高い。
この場合、切断用ブレードの側面摩耗が抑制されて、切断の加工品位が良好に維持される。
上記切断用ブレードにおいて、前記突出刃部は、周方向のうちブレード回転方向を向くすくい面を有し、前記中心軸と垂直な断面視で、前記中心軸と前記突出刃部の先端とを通る第1基準線と、前記すくい面と、の間に形成されるすくい角が、0°以上60°以下である。
突出刃部のすくい面のすくい角が0°以上、つまりすくい角が0°またはポジティブ角(正角)であると、突出刃部が被切断材に鋭く切り込んで切れ味が高められ、切断効率が向上する。
突出刃部のすくい面のすくい角が60°以下であると、突出刃部の刃物角が小さくなり過ぎることが抑制され、突出刃部の刃先強度が確保される。
上記切断用ブレードにおいて、前記突出刃部は、周方向のうち前記ブレード回転方向とは反対方向または径方向外側を向く逃げ面を有し、前記中心軸と垂直な断面視で、前記突出刃部の先端を通り前記第1基準線と直交する第2基準線と、前記逃げ面と、の間に形成される逃げ角が、0°以上60°以下である。
突出刃部の逃げ面の逃げ角が0°以上であると、切断加工時に、逃げ面が被切断材に接触することが抑制され、切断抵抗が小さく抑えられる。
突出刃部の逃げ面の逃げ角が60°以下であると、突出刃部の刃物角が小さくなり過ぎることが抑制され、突出刃部の刃先強度が確保される。
上記切断用ブレードにおいて、前記中心軸と垂直な断面視で、前記すくい面と前記逃げ面との間に形成される前記突出刃部の刃物角が、30°以上60°以下である。
突出刃部の刃物角が30°以上であると、突出刃部の刃先強度が安定して確保される。
突出刃部の刃物角が60°以下であると、すくい角や逃げ角が小さくなり過ぎることを抑制できる。
【0008】
上記切断用ブレードにおいて、前記突出刃部は、周方向に沿って複数設けられることが好ましい。
【0009】
この場合、複数の突出刃部により、第2の切断モードによる切断性能が安定して高められる。
【0010】
上記切断用ブレードにおいて、複数の前記突出刃部が、周方向に沿って鋸刃状に並ぶことが好ましい。
【0011】
この場合、ブレード外層の外周部に鋸刃状に配列する複数の突出刃部が、被切断材に連続的に切り込むことにより、切断効率を高めたり、加工精度を向上することができる。
【0012】
上記切断用ブレードにおいて、前記突出刃部が、周方向に沿って等ピッチで4個以上85個以下配置されることが好ましい。
【0013】
ブレード外層の外周部に配列する突出刃部が等ピッチで4個以上であると、突出刃部による機能が安定して高められる。
ブレード外層の外周部に配列する突出刃部が等ピッチで85個以下であると、突出刃部の周方向のピッチ寸法および突出刃部の径方向の高さ寸法(径方向の突出量)が小さくなり過ぎることが抑えられて、突出刃部間に切屑が詰まるなどの不具合が抑制される。このため、突出刃部による機能が安定して高められる。
【0016】
上記切断用ブレードにおいて、前記ブレード内層は、樹脂製であり、前記ブレード外層は、超硬合金製であることが好ましい。
【0017】
この場合、切断用ブレードの製造時に、一対のブレード外層間に挟まれるブレード内層が、焼結により溶融し固化することで接着剤として機能し、一対のブレード外層およびブレード内層が安定して一体化される。このため、切断用ブレードの製造が容易であり、また上述した切断用ブレードの作用効果がより安定する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一つの態様の切断用ブレードおよび切断用ブレードの製造方法によれば、複合材料により構成されるワークであっても、切断の加工品位を安定して高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本実施形態の切断用ブレードを模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の切断用ブレードを模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の切断用ブレードの切れ刃近傍を示す断面図である。
【
図5】
図5は、ブレード外層の突出刃部を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の切断用ブレードの製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、本実施形態の切断用ブレードの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る切断用ブレード10およびその製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態の切断用ブレード10は、電子材料製造分野において、例えば、被切断材(ワーク)を切断することによって個片化する製法に用いられる。切断される電子材料としては、例えば銅電極が樹脂モールドされたQFNパッケージのような、互いに特性の異なる複数種類の素材を含有する複合材料等が挙げられる。
【0027】
図1~
図3に示すように、切断用ブレード10は、中心軸Oを中心とする円板状であり、外周部に切れ刃10aを有する。なお
図1および
図2は、本実施形態の切断用ブレード10の特徴部分をわかりやすく説明するため、切断用ブレード10を模式的に表している。
【0028】
本実施形態では、切断用ブレード10の中心軸Oが延びる方向を軸方向と呼ぶ。軸方向は、切断用ブレード10の厚さ方向に相当する。このため軸方向は、厚さ方向と言い換えてもよい。
中心軸Oと直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Oに近づく方向を径方向内側と呼び、中心軸Oから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
中心軸O回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。周方向のうち、切断用ブレード10が切断加工時に回転させられる方向を、ブレード回転方向Tと呼び、ブレード回転方向Tとは反対方向を、反ブレード回転方向と呼ぶ。
【0029】
本実施形態の切断用ブレード10は、円環板状である。すなわち、本実施形態でいう上記「円板状」には、円板の中央に孔を有する円環板状が含まれる。この切断用ブレード10は、いわゆるワッシャタイプの切断用ブレードである。切断用ブレード10は、取付孔10bを有する。取付孔10bは、切断用ブレード10の中心軸O上に位置する。取付孔10bは、切断用ブレード10を軸方向に貫通する。取付孔10bは、中心軸Oを中心とする円孔状である。
切断用ブレード10の軸方向の寸法(以下、単に厚さと呼ぶ場合がある)は、例えば、0.1mm以上1mm以下である。
【0030】
切断用ブレード10は、図示しない切断装置(ダイサー)の主軸に、円環板状のフランジを用いて着脱可能に装着される。切断用ブレード10は、切断装置の主軸により、中心軸Oを中心としてブレード回転方向Tに回転させられ、被切断材に対して径方向に移動させられて、フランジよりも径方向外側に突出する切れ刃10aで被切断材に切り込み、被切断材を切断する。なお、本実施形態において「切断」とは、切断加工および溝加工等の切削加工を含む概念である。このため「切断用ブレード」は「切削用ブレード」と言い換えてもよい。
【0031】
切断用ブレード10は、砥粒3が分散されるブレード内層1と、軸方向においてブレード内層1の両側に配置される一対のブレード外層2と、を備える。
ブレード内層1は、中心軸Oを中心とする円板状であり、具体的には円環板状である。本実施形態においてブレード内層1は、フェノール樹脂等の樹脂製であり、つまりレジンボンド相である。ブレード内層1の厚さは、例えば、0.06mm以上0.8mm以下である。
【0032】
砥粒3は、例えば、ダイヤモンド砥粒やcBN砥粒等である。本実施形態では砥粒3が、ブレード内層1にのみ分散され、ブレード外層2には分散されていない。砥粒3の粒径は、メッシュサイズに基づく粒度表示(JIS B 4130:1998を参照)で、例えば、#140から#325の範囲である。
【0033】
一対のブレード外層2は、軸方向においてブレード内層1を両側から挟む。一対のブレード外層2は、形状および大きさが互いに同一である。つまり一対のブレード外層2は、共通部材(共通品)である。
【0034】
ブレード外層2は、中心軸Oを中心とする円板状であり、具体的には円環板状である。ブレード外層2は、ブレード内層1よりも硬度が高い。本実施形態においてブレード外層2は、超硬合金製である。ブレード外層2は、ブレード内層1よりも厚さが薄い。ブレード外層2の厚さは、例えば、0.02mm以上0.1mm以下である。ブレード外層2の外径は、ブレード内層1の外径と等しい。ブレード外層2の内径は、ブレード内層1の内径と等しい。
【0035】
ブレード外層2は、ブレード外層2の外周部に配置されて径方向外側へ突出する突出刃部5を有する。切断用ブレード10の切れ刃10aは、ブレード内層1の外周部、および、ブレード外層2の突出刃部5により構成される。
【0036】
図1および
図4に示すように、突出刃部5は、軸方向から見て、径方向外側に尖る三角形状の突起である。突出刃部5の径方向外端(先端)に位置する刃先は、軸方向に延びる稜線状である。突出刃部5の先端つまり刃先の径方向位置は、ブレード内層1の外周面の径方向位置と同じである。
突出刃部5の径方向の高さ寸法(径方向の突出量)は、ブレード外層2の径方向の幅Lを基準(100%)として、例えば、0.1~10%である。具体的に、突出刃部5の径方向の高さ寸法は、例えば、0.006mm~3.5mmである。
【0037】
突出刃部5は、周方向に沿って複数設けられる。本実施形態では、複数の突出刃部5が、周方向に沿って鋸刃状に並ぶ。突出刃部5は、周方向に沿って等ピッチで4個以上85個以下配置される。
【0038】
図5は、被切断材Wに切り込んだ状態の突出刃部5を、中心軸Oと垂直な断面視で示す図である。突出刃部5は、ブレード回転方向Tを向くすくい面5aと、反ブレード回転方向または径方向外側を向く逃げ面5bと、を有する。すくい面5aと逃げ面5bとの交差稜線が、突出刃部5の刃先を構成する。
【0039】
図5に示すように、中心軸Oと垂直な断面視で、中心軸Oと突出刃部5の先端とを通る第1基準線R1と、すくい面5aと、の間に形成されるすくい角αは、0°以上60°以下である。またこの断面視で、突出刃部5の先端を通り第1基準線R1と直交する第2基準線R2と、逃げ面5bと、の間に形成される逃げ角γは、0°以上60°以下である。またこの断面視で、すくい面5aと逃げ面5bとの間に形成される突出刃部5の刃物角βは、30°以上60°以下である。
【0040】
次に、本実施形態の切断用ブレード10の製造方法について、
図6および
図7を参照して説明する。本実施形態の切断用ブレード10の製造方法は、外層作製工程S10と、内層成形工程S20と、焼結工程S30と、を含む。
【0041】
外層作製工程S10では、突出刃部5を外周部に有するブレード外層2を作製する。
具体的に本実施形態では、ブレード外層2の原料である超硬合金粉末を焼結し、外周部に突出刃部5の形状を付与した円板状のブレード外層2原板を作製する。
【0042】
内層成形工程S20では、砥粒3を含有するブレード内層1の中間成形体1Aを成形する。
具体的に本実施形態では、ブレード内層1の原料である樹脂粉体および砥粒3を含む混合粉に、必要に応じて分散媒または貧溶媒等を加えたものを成形型内でコールドプレスして、ブレード内層1原板である円板状の中間成形体1Aを形成する。
【0043】
焼結工程S30では、一対のブレード外層2間に中間成形体1Aを挟み、金型50内でホットプレスする。
具体的に本実施形態では、各0.1mmの厚さとされた一対のブレード外層2間に、中間成形体1Aを配置した積層体を、
図7に示すように、上金型51、下金型52およびスペーサ53で構成される金型50内にセットし、金型温度200℃、30分間、荷重2MPaの条件でホットプレスし焼結する。これにより、中間成形体1Aが溶融し固化することでブレード内層1とされるとともに、ブレード内層1が接着剤として機能し、一対のブレード外層2およびブレード内層1が一体化されて、互いに固定される。
上記工程S10~S30の後、図示しない内外径加工工程等を経て、切断用ブレード10が製造される。
【0044】
以上説明した本実施形態の切断用ブレード10およびその製造方法によれば、切断用ブレード10の切れ刃10aが、砥粒3が分散されたブレード内層1の外周部と、ブレード外層2の突出刃部5と、により構成される。このため、切断用ブレード10は被切断材Wに対して、ブレード内層1による第1の切断モードと、突出刃部5による第2の切断モードと、によって同時に切り込む。この切断用ブレード10は、第1の切断モードにより、被切断材Wを安定して切断することができる。また第2の切断モードにより、特に軟質の金属材料等(軟質材)に対して、金属バリ等の発生を抑えつつ加工品位を高めることができる。
本実施形態によれば、例えばQFNパッケージのような複合材料により構成される被切断材(ワーク)Wであっても、切断の加工品位を安定して高めることができる。
【0045】
また本実施形態では、突出刃部5が、ブレード外層2の外周部に周方向に沿って複数設けられる。
この場合、複数の突出刃部5により、第2の切断モードによる切断性能が安定して高められる。
【0046】
また本実施形態では、複数の突出刃部5が、周方向に沿って鋸刃状に並ぶ。
この場合、ブレード外層2の外周部に鋸刃状に配列する複数の突出刃部5が、被切断材Wに連続的に切り込むことにより、切断効率を高めたり、加工精度を向上することができる。
【0047】
また本実施形態では、突出刃部5が、ブレード外層2の外周部に、周方向に沿って等ピッチで4個以上85個以下配置される。
ブレード外層2の外周部に配列する突出刃部5が等ピッチで4個以上であると、突出刃部5による機能が安定して高められる。
ブレード外層2の外周部に配列する突出刃部5が等ピッチで85個以下であると、突出刃部5の周方向のピッチ寸法および突出刃部5の径方向の高さ寸法(径方向の突出量)が小さくなり過ぎることが抑えられて、突出刃部5間に切屑が詰まるなどの不具合が抑制される。このため、突出刃部5による機能が安定して高められる。
【0048】
また本実施形態では、突出刃部5の径方向の高さ寸法(径方向の突出量)が、ブレード外層2の径方向の幅Lを基準(100%)として、0.1~10%である。
突出刃部5の径方向の高さ寸法が、ブレード外層2の径方向の幅Lを基準として0.1%以上であると、突出刃部5の径方向の高さ寸法が小さくなり過ぎることが抑えられて、突出刃部5間に切屑が詰まるなどの不具合が抑制される。
突出刃部5の径方向の高さ寸法が、ブレード外層2の径方向の幅Lを基準として10%以下であると、ブレード外層2および突出刃部5の剛性が安定して確保される。
【0049】
また本実施形態では、ブレード外層2の硬度が、ブレード内層1の硬度よりも高い。
この場合、切断用ブレード10の側面摩耗が抑制されて、切断の加工品位が良好に維持される。
【0050】
また本実施形態では、ブレード内層1が樹脂製であり、ブレード外層2が超硬合金製である。
この場合、切断用ブレード10の製造時に、一対のブレード外層2間に挟まれるブレード内層1が、焼結により溶融し固化することで接着剤として機能し、一対のブレード外層2およびブレード内層1が安定して一体化される。このため、切断用ブレード10の製造が容易であり、また上述した切断用ブレード10の作用効果がより安定する。
【0051】
また本実施形態では、突出刃部5のすくい面5aのすくい角αが、0°以上60°以下である。
突出刃部5のすくい面5aのすくい角αが0°以上、つまりすくい角αが0°またはポジティブ角(正角)であると、突出刃部5が被切断材Wに鋭く切り込んで切れ味が高められ、切断効率が向上する。
突出刃部5のすくい面5aのすくい角αが60°以下であると、突出刃部5の刃物角βが小さくなり過ぎることが抑制され、突出刃部5の刃先強度が確保される。
【0052】
また本実施形態では、突出刃部5の逃げ面5bの逃げ角γが、0°以上60°以下である。
突出刃部5の逃げ面5bの逃げ角γが0°以上であると、切断加工時に、逃げ面5bが被切断材Wに接触することが抑制され、切断抵抗が小さく抑えられる。
突出刃部5の逃げ面5bの逃げ角γが60°以下であると、突出刃部5の刃物角βが小さくなり過ぎることが抑制され、突出刃部5の刃先強度が確保される。
【0053】
また本実施形態では、突出刃部5の刃物角βが、30°以上60°以下である。
突出刃部5の刃物角βが30°以上であると、突出刃部5の刃先強度が安定して確保される。
突出刃部5の刃物角βが60°以下であると、すくい角αや逃げ角γが小さくなり過ぎることを抑制できる。
【0054】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0055】
前述の実施形態では、ブレード内層1が樹脂製であり、ブレード外層2が超硬合金製である例を挙げたが、これに限らない。例えば、ブレード内層1およびブレード外層2が、互いに異なる金属材料からなる金属製等であってもよい。なおこの場合、前述の実施形態で説明したように、ブレード外層2の硬度が、ブレード内層1の硬度よりも高いことが好ましい。
【0056】
前述の実施形態では、砥粒3が、ブレード内層1に分散され、ブレード外層2に分散されていない例を挙げたが、これに限らない。砥粒3は、ブレード外層2にも分散されていてもよい。
また特に図示しないが、切断用ブレード10は、ブレード内層1およびブレード外層2の少なくともいずれかに分散されるフィラーを有していてもよい。
【0057】
前述の実施形態では、突出刃部5が、軸方向から見て三角形状の突起である例を挙げたが、これに限らない。突出刃部5は、すくい面5a、逃げ面5bおよびこれらの交差稜線に形成される刃先を有していればよく、例えば、軸方向から見て三角形状以外の多角形状等であってもよい。
【0058】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例およびなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されない。
【0060】
本発明の実施例として、前述した実施形態の切断用ブレード10を用意した。切断用ブレード10の諸元は、下記の通りである。
・ブレード内層1:SDC325-75NMR
(上記の「NMR」は、ブレード内層1がレジンボンドであることを示し、「SDC」は、砥粒3がNiコーティングされたダイヤモンド砥粒であることを示し、「325」は、砥粒3の粒径が#325であることを示し、「75」は、砥粒3の集中度が75であることを示す。なお「集中度」とは、ブレード内層1に分散される砥粒3の含有量を表す指標であり、例えば集中度100の場合には、ブレード内層1に占める砥粒3の体積比率(含有率)が25%であることを示す。上記集中度75の場合は、ブレード内層1に占める砥粒3の体積比率が18.75%であることを示す)
・ブレード外層2の材質:超硬合金
・ブレード外層2の厚さ:各50μm
・ブレード外層2の突出刃部5の刃数:周方向に等ピッチで3~90の間で適宜選択
・ブレード寸法:外径58mm、内径40mm、厚さ0.32mm(総厚)
【0061】
また比較例として、ブレード内層1のみで構成され、一対のブレード外層2が設けられていない切断用ブレードを用意した。比較例の切断用ブレードの諸元は、上記の「ブレード内層1」および「ブレード寸法」と同様である。
【0062】
<刃先形状確認試験>
上述の実施例および比較例の各切断用ブレードを用いて、ドレッシングプレートを所定本数溝入れ加工し、切れ刃の刃幅の変化量を確認した。
試験条件については、下記の通りである。
・使用ダイサー:東京精密製 A-WD100A
・使用ドレッシングプレート:東京精密製 A2-2mm
・スピンドル回転数:15000m-1
・送り速度:100mm/s
・切込み:1.5mm
・溝入れ本数:100本
・切れ刃の刃幅測定:カーボンに溝入れ加工し、カーボンの溝形状を測定
結果を下記表1に示す。
【0063】
【0064】
表1に示すように、本発明の実施例1~8は、比較例に比べて、100本の溝入れ加工(切断)を行った前後で切れ刃の刃幅の変化量が小さく抑えられていた。実施例1~8は、ブレード外層2の硬度が高いために、比較例よりもブレード側面の摩耗が抑制されて、刃痩せが低減したものと考えられる。
【0065】
<ワーク切断確認試験>
次に、上述の実施例および比較例の各切断用ブレードを用いて、複合材料からなるワークを切断加工したときの、電極間距離、Zバリ長さ、Yバリ長さについて確認した。なお「Zバリ」とは、ワークの切断面から鉛直方向(上方)に延びるバリを指し、「Yバリ」とは、切断面から水平方向に延びるバリを指す。
試験条件については、下記の通りである。
・使用ダイサー:東京精密製 A-WD100A
・使用ワーク:5×5ダミーQFNワーク
・スピンドル回転数:30000m-1
・送り速度:30mm/s
・テープ切込み:0.08mm
結果を下記表2~表4に示す。
【0066】
【0067】
表2に示すように、本発明の実施例1~8は、比較例に比べて、電極間距離が大きく確保されていた。その中でも、突出刃部5の刃数が4~85個の範囲である実施例2~7については、電極間距離が顕著に大きく確保されることが確認された。
【0068】
【0069】
表3に示すように、本発明の実施例1~8は、比較例に比べて、Zバリ長さが小さく抑えられていた。その中でも、突出刃部5の刃数が4~85個の範囲である実施例2~7については、Zバリ長さが顕著に小さく抑えられることが確認された。
【0070】
【0071】
表4に示すように、本発明の実施例1~8は、比較例に比べて、Yバリ長さが小さく抑えられていた。その中でも、突出刃部5の刃数が4~85個の範囲である実施例2~7については、Yバリ長さが顕著に小さく抑えられることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の切断用ブレードおよび切断用ブレードの製造方法によれば、複合材料により構成されるワークであっても、切断の加工品位を安定して高めることができる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0073】
1…ブレード内層、1A…中間成形体、2…ブレード外層、3…砥粒、5…突出刃部、5a…すくい面、5b…逃げ面、10…切断用ブレード、10a…切れ刃、50…金型、O…中心軸、R1…第1基準線、R2…第2基準線、S10…外層作製工程、S20…内層成形工程、S30…焼結工程、T…ブレード回転方向、α…すくい角、γ…逃げ角、β…刃物角