(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】魚肉粉砕物加工食品の製造方法、及び、魚肉粉砕物の風味と旨味の向上方法。
(51)【国際特許分類】
A23L 17/10 20160101AFI20240617BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20240617BHJP
A23D 9/00 20060101ALN20240617BHJP
【FI】
A23L17/10
A23L17/00 A
A23D9/00 518
(21)【出願番号】P 2020103474
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】富沢 直克
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】柑本 雅司
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-076558(JP,A)
【文献】特開2009-011252(JP,A)
【文献】特開2013-158300(JP,A)
【文献】特開2007-167023(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0104829(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0090704(KR,A)
【文献】食品成分表2015本表編,第144頁,2015年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00 - 9/06
A23L 2/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉粉砕物と油脂とを混合する工程を含む
、そぼろ状またはフレーク状の魚肉粉砕物加工食品の製造方法であって、該魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対する該油脂の添加量が10~55質量部であり、該魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対する該油脂に由来するα―リノレン酸が4~30質量部である、製造方法。
【請求項2】
前記油脂が、アマニ油、及び/又はえごま油を含む、請求項1に記載の魚肉粉砕物加工食品の製造方法。
【請求項3】
魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対して油脂を10~55質量部添加し、該魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対する該油脂に由来するα―リノレン酸が4~30質量部である、
そぼろ状またはフレーク状の魚肉粉砕物加工食品の風味と旨味の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成脂肪酸にα―リノレン酸を含有する油脂を、魚肉粉砕物に添加することを特徴とする魚肉粉砕物加工食品の製造方法、及び、該油脂を魚肉粉砕物に添加することを特徴とする魚肉粉砕物の風味と旨味の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉を粉砕加工して製造される魚肉フレークや魚肉そぼろは、おにぎりの具材、サラダ、和え物等に広く利用されている。しかし、前記のフレークやそぼろは、加工時に加熱処理や乾燥処理の工程を経ることで、魚に由来する風味や、コクのある旨味が弱くなる問題があった。
【0003】
魚肉フレークの風味を向上する方法として、原料魚と同じ魚から搾油された油を、魚肉フレークに特定量添加する方法(特許文献1)が報告されている。また、ラウンドの魚体を食塩水に浸漬後、加圧蒸煮と焙焼を行いフレーク状にする製造方法(特許文献2)も報告されているが、より簡便に魚肉の粉砕物の風味や旨味を向上する方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-167023号公報
【文献】特開2017-136024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を鑑み、魚肉粉砕物の風味と旨味に優れる魚肉粉砕物加工食品の製造方法、及び、魚肉粉砕物の風味と旨味の向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、構成脂肪酸にα―リノレン酸を含有する油脂を、魚肉粉砕物に特定量添加することで、該魚肉粉砕物の魚に由来する風味と、旨味が向上することを見出し、本発明を完成した。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1)魚肉粉砕物と油脂とを混合する工程を含む魚肉粉砕物加工食品の製造方法であって、該魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対する該油脂の添加量が10~55質量部であり、該魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対する該油脂に由来するα―リノレン酸が4~30質量部である、製造方法。
(2)前記油脂が、アマニ油、及び/又はえごま油を含む、(1)に記載の魚肉粉砕物加工食品の製造方法。
(3)魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対して油脂を10~55質量部添加し、該魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対する該油脂に由来するα―リノレン酸が4~30質量部である、魚肉粉砕物の風味と旨味の向上方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構成脂肪酸にα―リノレン酸を含有する油脂を魚肉粉砕物に添加することによる、魚に由来する風味と、旨味に優れる魚肉粉砕物加工食品の製造方法、及び、魚肉粉砕物の魚に由来する風味と、旨味の向上方法が提供される。ここで、本発明において「魚に由来する風味」とは、本発明における魚肉を食した時の呼気に伴う感覚であり、該魚肉に特徴的な風味を意味する。また、本発明において「旨味」とは、濃厚な旨さ、またはコクのある旨さを意味し、前記風味とは明確に区別される。さらに、本発明において「魚に由来する風味と、旨味の向上」とは、構成脂肪酸にα―リノレン酸を含有する油脂を添加した場合に、前述で定義された「魚に由来する風味」及び「旨味」が、該油脂を添加しない場合と比較して向上していることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[魚肉粉砕物]
本発明における魚肉粉砕物は、魚類やそれに類する動物(甲殻類、貝類を含む)の肉を粉砕処理したものを指す。ここで、前記粉砕処理する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択することができるが、例えば、魚の頭部、内臓、中骨、皮等の非可食部を除去した後、ミキサーで解す方法、サイレントカッター等で破砕する方法、ミートチョッパーでミンチする方法、エクストルーダー等で押し出し成形する方法等が挙げられる。本発明における魚肉粉砕物は、そぼろ状、またはフレーク状の態様が好ましい。ここでフレーク状とは、厚さ3~6mm程度、長辺が最大25mm程度、短辺が最大10mm程度の薄片状の態様を指す。また、本発明における魚肉粉砕物は、水分が好ましくは50~70質量%である。前記水分は、常法の常圧加熱乾燥法(105℃、3時間)から求めることができる。
なお、前記魚肉粉砕物の原料となる魚は、マグロ、カツオ、イワシ、アジ、タイ、ヒラメ、サケ、タラ、スケソウダラ等が挙げられるが、マグロ、カツオ、及びサケから選ばれる1種または2種以上が好ましい。
【0010】
[油脂]
本発明における油脂は、該油脂の構成脂肪酸、及び/または遊離の脂肪酸として、α-リノレン酸を含有する。本発明における油脂は、好ましくはアマニ油、及び/又はえごま油である。また、本発明における油脂は、該油脂の構成脂肪酸、及び/または遊離の脂肪酸としてα-リノレン酸を含有していれば、複数の油脂の混合物であってもよい。本発明における油脂は、該油脂の構成脂肪酸中にα-リノレン酸を豊富に含有するアマニ油、及び/又はえごま油を含有することが好ましい。また、本発明における油脂は、アマニ油、及び/又はえごま油と、通常食用として使用される油脂との混合油脂であってもよい。ここで、通常食用として使用される油脂とは、アマニ油、及びえごま油以外に、例えば、大豆油、菜種油、ハイエルシン酸菜種油、キャノーラ油、コーン油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、落花生油、ゴマ油、オリーブ油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油等の各種動植物性油脂や、それらの加工(水素添加、エステル交換、分別等)油脂が挙げられる。また、アマニ油、及びえごま油以外の油脂としては、本発明の魚肉粉砕物加工食品の風味に影響を与えない観点から、大豆油、菜種油、ハイエルシン酸菜種油、キャノーラ油、ヒマワリ油、サフラワー油、及び綿実油から選ばれる1種または2種以上が好ましい。
本発明における油脂は、魚肉粉砕物との混合のしやすさから、20℃で液状の油脂が好ましい。
【0011】
本発明における油脂は、該油脂に含まれるα-リノレン酸(油脂に由来するα-リノレン酸)が、好ましくは20~70質量%、より好ましくは35~65質量%、最も好ましくは45~60質量%である。前記α-リノレン酸の含有量は、AOCS Ce1f-96に準じて、ガスクロマトグラフィー法で測定することができる。
【0012】
[魚肉粉砕物加工食品]
本発明における魚肉粉砕物加工食品は、本発明における魚肉粉砕物と、本発明における油脂とが混合された状態にある食品である。魚肉粉砕物加工食品は、そぼろ状、またはフレーク状の態様が好ましい。
本発明における魚肉粉砕物加工食品は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の原料を含有してもよい。前記原料としては、蛋白酸分解物(HAP、HVP)、蛋白酵素分解物(EAP、EVP)、魚醤、酵母エキス、畜肉エキス、魚介エキス、野菜エキス、キノコエキス、食塩、糖類、糖アルコール、甘味料などの調味料、大豆たん白、小麦たん白、乳蛋白、卵白、などの蛋白素材、澱粉、加工澱粉、食物繊維、増粘多糖類などの安定剤、有機酸、pH調整剤、無機塩類、水等が挙げられる。
【0013】
[魚肉粉砕物加工食品の製造方法]
本発明の魚肉粉砕物加工食品の製造方法は、魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対して油脂が10~55質量部であり、該魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対して該油脂に由来するα―リノレン酸が4~30質量部となるように、該魚肉粉砕物と該油脂とを混合する工程を含む。なお、前記魚肉粉砕物の乾燥物換算における質量部は、常法の常圧加熱乾燥法(105℃、3時間)から求めることができる。
前記油脂に由来するα-リノレン酸は、油脂中のα-リノレン酸、及び/又はα-リノレン酸の誘導体(グリセリド)を、遊離のα-リノレン酸として換算して算出する。油脂に由来するα-リノレン酸は、例えば、前述の油脂の全構成脂肪酸中のα-リノレン酸含有量をAOCS Celf-96に準じて算出し、算出したα-リノレン酸含有量と添加する油脂量との積として算出することができる。
【0014】
本発明の魚肉粉砕物加工食品の製造方法は、魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対して油脂が好ましくは12~52質量部、より好ましくは15~40質量部、最も好ましくは20~30質量部であり、該魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対して該油脂に由来するα―リノレン酸が好ましくは5~28質量部、より好ましくは7~25質量部、最も好ましくは10~20質量部となるように、該魚肉粉砕物と該油脂とを混合する工程を含む。魚肉粉砕物に対する油脂とα―リノレン酸の混合量が上記の範囲にあると、得られた魚肉粉砕物加工食品は、魚に由来する風味が向上し、且つ、濃厚な旨味やコクのある旨味も向上する。
なお、魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対する油脂の添加量が55質量部よりも多くなると、得られた魚肉粉砕物加工食品は、油性感が強くなり好ましくない。
【0015】
本発明の魚肉粉砕物加工食品の製造方法は、本発明における魚肉粉砕物と、本発明における油脂とを混合する工程が含まれればよく、粉砕前の魚肉に油脂を添加した後、該魚肉を粉砕しながら混合してもよい。前記混合方法は、粉砕した魚肉に油脂が行き渡ればよく、特に制限されないが、例えばニーダー等の撹拌機械で混合する方法が挙げられる。
本発明の魚肉粉砕物加工食品の製造方法は、本発明の効果を損なわない限り、上記魚肉粉砕物と油脂とを混合する工程以外の工程を含んでもよい。具体的には、加水、加熱、乾燥、他の添加物との混合等の工程を含むことができる。
【0016】
[魚肉粉砕物の風味と旨味の向上方法]
本発明の魚肉粉砕物の風味と旨味の向上方法は、魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対して油脂を10~55質量部添加し、該魚肉粉砕物100質量部(乾燥物換算)に対する該油脂に由来するα―リノレン酸が4~30質量部となる方法である。前記の方法によれば、魚肉粉砕物の風味と旨味を、前記油脂を添加しない場合と比較して向上させることができる。
なお、前記魚肉粉砕物、油脂、及び油脂添加量の好ましい態様は、本発明の魚肉粉砕物加工食品の製造方法と同様である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0018】
[魚肉粉砕物加工食品の製造]
表1及び2に示す配合に従い、鮭フレークに各種の油脂を添加し、ヘラで油脂を魚肉によく馴染ませ、鮭フレークの加工食品(比較例1、実施例1~5)を製造した。表中の各種原料は、下記のものを使用した。
・鮭フレーク(商品名:北海道加工 秋鮭フレーク 国産鮭ほぐし 業務用1kg、(株)道南冷蔵製、常圧加熱乾燥法(105℃、3時間)による乾燥物含量39質量%)
・キャノーラ油(商品名:日清キャノーラ油、日清オイリオグループ(株)製、α-リノレン酸含有量8質量%)
・アマニ油(日清オイリオグループ(株)製造品、α-リノレン酸含有量54質量%)
・えごま油(商品名:えごま油、(株)朝日製、α-リノレン酸含有量60質量%)
【0019】
[魚肉粉砕物加工食品の評価]
魚肉粉砕物加工食品の評価は、社内規定の味覚テスト、及び嗅覚テスト(第一薬品産業(株)製のパネル選定用基準臭を使用)に合格した5名の専門パネルが、上記で製造した魚肉粉砕物加工食品40gを電子レンジで加熱(600W、20秒間)した後、5gを食し、風味と旨味について下記の採点基準で採点し、次に、5名の採点の平均点を算出し、下記の評価基準で評価した。評価結果を表1及び2に示す。
なお、対照(対照例)としては、油脂を添加していない鮭フレークを使用した。
【0020】
(風味の評価 採点基準)
0点:対照と同等の鮭の風味、又は対照よりも鮭の風味が弱く感じられる
1点:対照よりも鮭の風味が感じられる
2点:対照よりも鮭の風味が強く感じられる
3点:鮭の風味が2点の評価よりも強く感じられる
(風味の評価 評価基準)
◎:2.1~3.0
○:1.1~2.0
×:0.0~1.0
【0021】
(旨味の評価 採点基準)
0点:対照と同等の濃厚な旨味、又はコクのある旨味、或いは対照よりも旨味が弱く感じられる
1点:対照よりも濃厚な旨味、又はコクのある旨味が感じられる
2点:対照よりも濃厚な旨味、又はコクのある旨味が強く感じられる
3点:濃厚な旨味、又はコクのある旨味が2点の評価よりも強く感じられる
(旨味の評価 評価基準)
◎:2.1~3.0
○:1.1~2.0
×:0.0~1.0
【0022】
表1及び2中の「油脂添加量」とは、乾燥物換算した鮭フレーク100質量部に添加した油脂の質量部を指す。同様に、「α-リノレン酸添加量」とは、前記乾燥物換算した鮭フレーク100質量部に添加した油脂に由来するα-リノレン酸の質量部を指す。
鮭フレークの乾燥物換算は、該鮭フレークの乾燥物含量(39質量%)を用いた。また、α-リノレン酸の質量部は、各原料油脂のα-リノレン酸含有量から算出した。
【0023】
【0024】
【0025】
上記表1及び2の結果より、鮭フレーク100質量部(乾燥物換算)に12.8~51.3質量部の油脂を添加し、該油脂に由来するα-リノレン酸が鮭フレーク100質量部(乾燥物換算)に対し5.6~27.7質量部である鮭フレークの加工食品(魚肉粉砕物加工食品)は、該油脂を添加しない鮭フレークと比べて、鮭の風味が向上し、また、旨味も向上した。