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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240617BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20240617BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240617BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
B32B27/30 B
B32B7/022
B32B27/28 102
B32B27/34
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020138208
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034426
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】野中 康弘
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/209198(WO,A1)
【文献】特開2019-116064(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165441(WO,A1)
【文献】特開平10-279774(JP,A)
【文献】特開2007-153364(JP,A)
【文献】特開平08-132553(JP,A)
【文献】特開2016-199744(JP,A)
【文献】特開昭61-116544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B60C 1/00
B60C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア性樹脂(a)を含む複数のガスバリア層(A)、及びガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基を有するスチレン系エラストマー(b)を含む複数のエラストマー層(B)を備え、
複数のガスバリア層(A)及び複数のエラストマー層(B)の層数の合計が9層以上であり、
複数のガスバリア層(A)と複数のエラストマー層(B)とが、一層ずつ交互に隣接して積層されており、
前記極性基が、カルボキシ基及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
複数のエラストマー層(B)が、それぞれの両面にガスバリア層(A)が隣接している複数のエラストマー層(B1)を含み、
複数のエラストマー層(B1)における前記極性基の含有量が0.01mmol/g以上0.1mmol/g以下であり、
複数のエラストマー層(B1)のヨウ素価IB1が50g/100g以上300g/100g以下であり、
複数のエラストマー層(B)が、片面にのみガスバリア層(A)が隣接しているエラストマー層(B2)を含み、エラストマー層(B2)の1層の平均厚さが、複数のガスバリア層(A)の1層の平均厚さ及び複数のエラストマー層(B1)の1層の平均厚さより大きい、積層体。
【請求項2】
ガスバリア性樹脂(a)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体及びポリアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
複数のエラストマー層(B)が、ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基を有さないスチレン系エラストマー(b’)を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
スチレン系エラストマー(b’)のヨウ素価が、スチレン系エラストマー(b)のヨウ素価よりも大きい、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
スチレン系エラストマー(b’)が、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体を含む、請求項3又は4に記載の積層体。
【請求項6】
スチレン系エラストマー(b)が、カルボキシ基又はその誘導体を有するスチレン-エチレン/ブテン-スチレンブロック共重合体を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
複数のエラストマー層(B)の-30℃における引張貯蔵弾性率E’が、10Pa以上10Pa以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
エラストマー層(B2)の層数が2層である、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
エラストマー層(B2)における前記極性基の含有量が0.01mmol/g以上0.1mmol/g以下であり、
エラストマー層(B2)のヨウ素価IB2が50g/100g以上300g/100g以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
エラストマー層(B2)に隣接する被覆層(C)をさらに備える、請求項1~9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
被覆層(C)のヨウ素価Iが200g/100g以上300g/100g以下である、請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
被覆層(C)のヨウ素価Iが、複数のエラストマー層(B)のヨウ素価Iよりも大きい、請求項10又は11に記載の積層体。
【請求項13】
被覆層(C)の40℃における引張貯蔵弾性率E’が、複数のエラストマー層(B)の40℃における引張貯蔵弾性率E’よりも大きい、請求項10~12のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項14】
被覆層(C)が、カルボキシ基及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性基を有する成分を実質的に含まない、請求項10~13のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア層及びエラストマー層を備える積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体等のガスバリア性を有する樹脂を用いたフィルムは、食品用、医療用包装材料等の各種用途に広く使用されている。最近では、ガスバリア性等の各種性能を向上させる目的で、1層の厚さがミクロンオーダー又はサブミクロンオーダーの樹脂層が複数積層された種々の積層体が提案されている。
【0003】
特許文献1には、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の流体バリア材料及び熱可塑性ポリウレタン等のエラストマー材料により形成されるミクロレイヤー高分子複合物が交互に10層以上積層されるエラストマー性バリア膜が記載されている。特許文献2には、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の硬質ポリマー材料と可撓性ポリマー材料との交互の層を有する多層フィルムが記載されている。
【0004】
ガスバリア層とエラストマー層とを有する積層体は、優れたガスバリア性や延伸性等を生かして、例えば空気用タイヤのインナーライナー、アキュムレーターの内袋、空気入りボール、空気ばね等、膜状のゴム材料(ゴム層)を積層させて使用されるものがある。引用文献3には、このような使用形態に対応して、外面がゴム材料との高い接着性を有し、十分なガスバリア性、層間接着性及び耐屈曲性を有する積層体として、ヨウ素価が200以上300以下であるポリマーが少なくとも一方の最外層として積層された、ガスバリア層とエラストマー層との積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2002-524317号公報
【文献】特表2003-512201号公報
【文献】国際公開第2017/209198号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4に示すように、前記のようなゴム層102が外面に積層された積層体101においては、これを環状にし、端部103を重ね合わせて接着させて使用する場合がある。しかし、従来の積層体101をこのような形態で使用する場合、重なり合った端部103の間での剥離が生じることがある。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、十分なガスバリア性及び耐屈曲性を有し、ゴム層を積層させた上で環状にした際に重なり合う端部の接着性にも優れる積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば前記の目的は、
[1]ガスバリア性樹脂(a)を含む複数のガスバリア層(A)、及びガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基を有するスチレン系エラストマー(b)を含む複数のエラストマー層(B)を備え、複数のガスバリア層(A)及び複数のエラストマー層(B)の層数の合計が9層以上であり、複数のガスバリア層(A)と複数のエラストマー層(B)とが、一層ずつ交互に隣接して積層されており、前記極性基が、カルボキシ基及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、複数のエラストマー層(B)が、それぞれの両面にガスバリア層(A)が隣接している複数のエラストマー層(B1)を含み、複数のエラストマー層(B1)における前記極性基の含有量が0.01mmol/g以上0.1mmol/g以下であり、複数のエラストマー層(B1)のヨウ素価IB1が50g/100g以上300g/100g以下である、積層体;
[2]ガスバリア性樹脂(a)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体及びポリアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]の積層体;
[3]複数のエラストマー層(B)が、ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基を有さないスチレン系エラストマー(b’)を含む、[1]又は[2]の積層体;
[4]スチレン系エラストマー(b’)のヨウ素価が、スチレン系エラストマー(b)のヨウ素価よりも大きい、[3]の積層体;
[5]スチレン系エラストマー(b’)が、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体を含む、[3]又は[4]の積層体;
[6]スチレン系エラストマー(b)が、カルボキシ基又はその誘導体を有するスチレン-エチレン/ブテン-スチレンブロック共重合体を含む、[1]~[5]のいずれかの積層体;
[7]複数のエラストマー層(B)の-30℃における引張貯蔵弾性率E’が、10Pa以上10Pa以下である、[1]~[6]のいずれかの積層体;
[8]複数のエラストマー層(B)が、片面にのみガスバリア層(A)が隣接しているエラストマー層(B2)を含む、[1]~[7]のいずれかの積層体;
[9]エラストマー層(B2)の層数が2層である、[8]の積層体;
[10]エラストマー層(B2)の1層の平均厚さが、複数のガスバリア層(A)の1層の平均厚さ及び複数のエラストマー層(B1)の1層の平均厚さより大きい、[8]又は[9]の積層体;
[11]エラストマー層(B2)における前記極性基の含有量が0.01mmol/g以上0.1mmol/g以下であり、エラストマー層(B2)のヨウ素価IB2が50g/100g以上300g/100g以下である、[8]~[10]のいずれかの積層体;
[12]エラストマー層(B2)に隣接する被覆層(C)をさらに備える、[8]~[11]のいずれかの積層体;
[13]被覆層(C)のヨウ素価Iが200g/100g以上300g/100g以下である、[12]の積層体;
[14]被覆層(C)のヨウ素価Iが、複数のエラストマー層(B)のヨウ素価Iよりも大きい、[12]又は[13]の積層体;
[15]被覆層(C)の40℃における引張貯蔵弾性率E’が、複数のエラストマー層(B)の40℃における引張貯蔵弾性率E’よりも大きい、[12]~[14]のいずれかの積層体;
[16]被覆層(C)が、カルボキシ基及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性基を有する成分を実質的に含まない、[12]~[15]のいずれかの積層体;
のいずれかを提供することで達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分なガスバリア性及び耐屈曲性を有し、ゴム層を積層させた上で環状にした際に重なり合う端部の接着性にも優れる積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態の積層体を示す模式的断面図である。
図2図2は、図1の積層体を備える多層構造体を示す模式的断面図である。
図3図3は、図2の多層構造体を環状にし、端部を重ね合わせて接着させた状態を示す模式的断面図である。
図4図4は、ゴム層が積層された従来の積層体を環状にし、端部を重ね合わせて接着させた状態を示す模式的断面図である。
図5図5は、図4の一点鎖線で示した部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<積層体>
本発明の積層体は、複数のガスバリア層(A)及び複数のエラストマー層(B)を備える。各ガスバリア層(A)は、ガスバリア性樹脂(a)を含む。各エラストマー層(B)は、ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基を有するスチレン系エラストマー(b)を含む。複数のガスバリア層(A)及び複数のエラストマー層(B)の層数の合計は9層以上である。複数のガスバリア層(A)と複数のエラストマー層(B)とは、一層ずつ交互に隣接して積層されている。前記極性基は、カルボキシ基及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。複数のエラストマー層(B)は、それぞれの両面にガスバリア層(A)が隣接している複数のエラストマー層(B1)を含む。複数のエラストマー層(B1)における前記極性基の含有量は0.01mmol/g以上0.1mmol/g以下である。複数のエラストマー層(B1)のヨウ素価IB1が50g/100g以上300g/100g以下である。
【0012】
本発明の積層体は、十分なガスバリア性及び耐屈曲性を有し、ゴム層を積層させた上で環状にした際に重なり合う端部の接着性にも優れる。なお、本明細書において、積層体にゴム層を積層させた上で環状にした際に重なり合う端部の接着性を「端部接着性」と称する場合がある。本発明の積層体が前記効果を奏する理由は定かではないが、以下の理由が推測される。本発明の積層体は、複数のガスバリア層(A)と複数のエラストマー層(B)とが一層ずつ交互に隣接して合計9層以上積層されており、且つ両面にガスバリア層(A)が隣接しているエラストマー層(B1)には、ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基が十分な量存在する。このため、当該積層体においては、十分なガスバリア性及び耐屈曲性を有する。また、端部接着性に関し、従来のガスバリア層とエラストマー層とを備える積層体においては、端面におけるゴムとの接着性については考慮されていない。従って、図4、5に示すように、従来の積層体101においては、ゴム層102を積層させた上で環状にした際に重なり合う端部103における、積層体101の端面104とゴム層102との間の接着性が無い。このため、従来の積層体101を用いた場合、架橋反応(加硫)のための加熱の際に発生するガスが積層体101の端面104とゴム層102との間に残留することなどにより隙間105が生じる。また、ガスバリア層とエラストマー層との層間接着性が低い場合も、端面104から層間が剥離し、隙間105が生じ易くなる。このような隙間105が起点となり、端部103間の剥離が生じる。このようなことから、従来の積層体101の場合は端部接着性が低いと考えられる。これに対し、本発明の積層体においては、両面にガスバリア層(A)が隣接しているエラストマー層(B1)は、ヨウ素価が比較的高く、ゴムと結合可能な不飽和二重結合が十分に存在する。このため、本発明の積層体においては、端面においてゴムと十分に接着することができる。さらに本発明の積層体においては、エラストマー層(B1)中のスチレン系エラストマー(b)がガスバリア性樹脂(a)と反応可能な特定の極性基を有しているために層間の接着性も高い。このようなことから、本発明の積層体によれば、端部において隙間が生じ難く、端部接着性が優れていると推測される(後述する図3等参照)。
【0013】
本発明の一実施形態における好ましい層構造を有する積層体としては、図1に示す積層体10を挙げることができる。図1の積層体10は、複数のガスバリア層(以下「A層」ともいう。)1、複数のエラストマー層(以下「B層」ともいう。)2、及び2つの被覆層(以下「C層」ともいう。)3を備える。図1におけるA層1の層数は9層、B層2の層数は10層、C層3の層数は2層であるが、本発明の積層体の各層の層数は、これらの層数に限定されるものではない。また、C層3は、必須の層では無い。複数のA層1と複数のB層2とは、一層ずつ交互に隣接して積層されている。A層1とB層2とは、他の層を介さず直接積層されていてよい。複数のB層2は、それぞれの両面にA層1が隣接している複数のB1層4と、片面にのみA層1が隣接している2つのB2層5とを有する。積層体10は、B2層5を両最外層とするA層1とB層2との交互積層体の両最外面にそれぞれC層3が積層された構造を有する。具体的に図1の積層体10は、C/B2/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B2/Cの層構造を有する。
【0014】
積層体10のように、ガスバリア層(A層1)とエラストマー層(B層2)とが交互に積層されていることにより、ガスバリア性、柔軟性、耐屈曲性、層間接着性等を効果的に高めることができる。
【0015】
積層体10には、両最外層にC層3が配置されている。C層3は、通常、ゴム層(ゴム材料)との良好な接着性を確保しつつ、他の部材との粘着性又は接着性が比較的低い材料から形成される。積層体の最外層の粘着性等が高い場合、製膜時にキャストロールへの貼り付きが生じ易くなり、膜面が荒れ、得られる積層体の外観が低下することがある。そこで、積層体10の最外層としてこのようなC層3が設けられていることで、外観を良好なものとすることなどができる。
【0016】
また、積層体10は、対称な層構造となっている。対称構造とすることで、共押出によって各層を効率的に成形することなどができる。
【0017】
本発明の積層体は、A層及びB層のみから構成されるものであってもよく、A層、B層及びC層のみから構成されるものであってもよく、A層、B層及びC層以外の層をさらに有するものであってもよい。但し、本発明の積層体としては、A層、B層及びC層以外の層を有さないものが好ましく、A層、B層及びC層から構成されるものがより好ましい。
【0018】
本発明の積層体において、複数のA層及び複数のB層の層数の合計の下限は、9層であり、13層が好ましく、15層がより好ましく、17層がさらに好ましい。一方、複数のA層及び複数のB層の層数の合計の上限は、例えば300層が好ましく、200層がより好ましく、100層がさらに好ましく、50層が特に好ましい。当該積層体をこのように多層構造とすることで、屈曲等に対して、1つのA層においてピンホールや割れなどの欠陥が発生しても、他のA層でガスバリア性を維持できる結果、積層体全体としてガスバリア性、耐屈曲性等の特性を高めることができる。また、屈曲時のピンホールの発生自体を低減させることができる。なお、A層の層数としては、5層以上が好ましく、7層以上がより好ましい。B層の層数としては、6層以上が好ましく、8層以上がより好ましい。
【0019】
A層の1層の平均厚さの下限としては、0.1μmが好ましく、0.2μmがより好ましく、0.3μmがさらに好ましい。一方、この上限としては、15μmが好ましく、5μmがより好ましく、3μmがさらに好ましく、2μmが特に好ましい。A層1層の平均厚さを前記下限以上とすることで、均一な厚さで成形することが比較的容易になり、ガスバリア性、耐屈曲性等を高めることができる。逆に、A層1層の平均厚さを前記上限以下とすることで、柔軟性等が高まり、その結果、耐屈曲性等も向上する。
【0020】
なお、各層の平均厚さは、任意に選ばれた10点での断面の厚さの平均値とする。
【0021】
B1層の1層の平均厚さの下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましく、3μmが特に好ましい。一方、この上限としては、30μmが好ましく、15μmがより好ましく、10μmがさらに好ましく、8μmが特に好ましい。B1層1層の平均厚さを前記下限以上とすることで、均一な厚さで成形することが比較的容易になり、耐屈曲性、ガスバリア性、端部接着性、柔軟性等を高めることができる。逆に、B1層1層の平均厚さを前記上限以下とすることで、層間接着性等が向上する。
【0022】
B2層の1層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、3μmがより好ましく、5μmがさらに好ましく、8μmが特に好ましい。一方、この上限としては、30μmが好ましく20μmがより好ましく、15μmが特に好ましい。B2層1層の平均厚さを前記下限以上とすることで、耐屈曲性、ガスバリア性、端部接着性、柔軟性等を高めることができる。逆に、B2層1層の平均厚さを前記上限以下とすることで、本発明の積層体の薄膜化を図ることなどができる。
【0023】
B2層の1層の平均厚さは、A層の1層の平均厚さ及びB1層の1層の平均厚さより大きいことが好ましい。A層とB層との交互積層体の最外層として、このように厚いB2層を設けることで耐屈曲性等を高めることができる。B2層の1層の平均厚さは、A層の1層の平均厚さの2倍以上が好ましく、10倍以上がより好ましい。B2層の1層の平均厚さは、A層の1層の平均厚さの1,000倍以下又は100倍以下であってよい。B2層の1層の平均厚さは、B1層の1層の平均厚さの1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましい。B2層の1層の平均厚さは、B1層の1層の平均厚さの10倍以下又は5倍以下であってよい。
【0024】
C層の1層の平均厚さの下限としては、0.5μmが好ましく、1μmがより好ましく、3μmが特に好ましい。一方、この上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましく、15μmがさらに好ましく、10μmが特に好ましい。C層の平均厚さが前記下限以上であることにより、耐屈曲性、端部接着性、柔軟性、生産性、外観等を高めることができる。逆に、C層1層の平均厚さを前記上限以下とすることで、本発明の積層体の薄膜化を図ることなどができる。
【0025】
A層の全層及びB層の全層の合計厚さ(A層とB層との交互積層体の厚さ)の下限としては、10μmが好ましく、15μmがより好ましく、30μmがさらに好ましい。一方、この上限としては、500μmが好ましく、300μmがより好ましく、100μmがさらに好ましい。A層の全層及びB層の全層の合計厚さを前記下限以上とすることで、耐屈曲性、耐久性、ガスバリア性等が向上する。逆に、この合計厚さを前記上限以下とすることで、柔軟性、成形性等を高め、耐屈曲性や生産性等を高めることができる。ここで、全層の合計厚さとは、各層1層の平均厚さの合計をいう。
【0026】
A層の全層、B層の全層及びC層の全層の合計厚さの下限としては、20μmが好ましく、25μmがより好ましく、40μmがさらに好ましい。一方、この上限としては、500μmが好ましく、300μmがより好ましく、150μmがさらに好ましい。A層の全層、B層の全層及びC層の全層の合計厚さを前記下限以上とすることで、耐屈曲性、耐久性、ガスバリア性等が向上する。逆に、この合計厚さを前記上限以下とすることで、柔軟性、成形性等を高め、耐屈曲性や生産性等を高めることができる。
【0027】
本発明の積層体の平均厚さの下限としては、20μmが好ましく、25μmがより好ましく、40μmがさらに好ましい。一方、この上限としては、500μmが好ましく、300μmがより好ましく、150μmがさらに好ましい。本発明の積層体の平均厚さを前記下限以上とすることで、耐屈曲性、耐久性、ガスバリア性等が向上する。逆に、この平均厚さを前記上限以下とすることで、柔軟性、成形性等を高め、耐屈曲性や生産性等を高めることができる。なお、積層体の平均厚さは、任意に選ばれた10点での断面の厚さの平均値とする。
【0028】
以下、本発明の積層体の実施形態における各層の組成、物性等について詳説する。
【0029】
〈A層〉
A層(ガスバリア層)は、ガスバリア樹脂(a)を含む層である。A層は、ガスバリア樹脂(a)を含むA層形成材料から形成される。本発明の積層体は、ガスバリア樹脂(a)を含む複数のA層を備えることで、ガスバリア性に優れる。
【0030】
ガスバリア樹脂とは、気体の透過を防止する機能を有する樹脂であり、具体的には20℃-65%RH条件下で、JIS K 7126-2(等圧法;2006)に記載の方法に準じて測定した酸素透過速度が、100mL・20μm/(m・day・atm)以下の樹脂をいう。ガスバリア樹脂(a)の酸素透過速度は、50mL・20μm/(m・day・atm)以下が好ましく、10mL・20μm/(m・day・atm)以下がさらに好ましい。
【0031】
このようなガスバリア樹脂(a)としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ともいう。)、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0032】
これらのガスバリア性樹脂(a)の中でも、ガスバリア性の点から、ポリアミド、ポリエステル及びEVOHが好ましく、ガスバリア性に加え、溶融成形性、B層との接着性などの点から、EVOH及びポリアミドがより好ましく、EVOHが特に好ましい。
【0033】
(ポリアミド)
ポリアミドは、アミド結合を有するポリマーである。ポリアミドは、ラクタムの開環重合、又はアミノカルボン酸若しくはジアミンとジカルボン酸との重縮合などによって得ることができる。具体的なポリアミドとしては、例えばポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリラウロラクタム(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンジアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ナイロン46、ナイロン6/66、ナイロン6/12、11-アミノウンデカン酸の縮合生成物(ナイロン11)等の脂肪族系ポリアミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ナイロン6I)、メタキシレンジアミン/アジピン酸共重合体(ナイロンMXD6)、メタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸共重合体等の芳香族系ポリアミド等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を混合して用いることができる。これらのポリアミドの中でも、優れたガスバリア性を有するため、芳香族系ポリアミドが好ましく、ナイロンMXD6がより好ましい。
【0034】
(ポリエステル)
ポリエステルは、エステル結合を有するポリマーである。ポリエステルは、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合等によって得ることができる。具体的なポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリグリコール酸(PGA)、全芳香族系液晶ポリエステル等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。これらのポリエステルの中でも、ガスバリア性の高さの点から、PGA及び全芳香族系液晶ポリエステルが好ましく、PGAがより好ましい。
【0035】
(EVOH)
EVOHは、主構造単位として、エチレン単位及びビニルアルコール単位を有する重合体である。なお、このEVOHとしては、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外に、他の構造単位を1種類又は複数種含んでいてもよい。
【0036】
EVOHは、通常、エチレンとビニルエステルとを重合し、得られるエチレン-ビニルエステル共重合体をケン化して得られる。
【0037】
EVOHのエチレン単位含有量(すなわち、EVOH中の単量体単位の総数に対するエチレン単位の数の割合)の下限としては、3モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、20モル%がさらに好ましく、25モル%が特に好ましい。一方、EVOHのエチレン単位含有量の上限としては、70モル%が好ましく、60モル%がより好ましく、55モル%がさらに好ましく、50モル%が特に好ましい。EVOHのエチレン単位含有量を前記下限以上とすることで、本発明の積層体の高湿度下でのガスバリア性、溶融成形性等を高めることができる。逆に、EVOHのエチレン単位含有量を前記上限以下とすることで、当該積層体のガスバリア性を高めることができる。
【0038】
EVOHのケン化度(すなわち、EVOH中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合)の下限としては、80モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%が特に好ましい。一方、EVOHのケン化度の上限としては99.99モル%が好ましい。EVOHのケン化度を前記下限以上とすることで、溶融成形性、ガスバリア性、耐着色性、耐湿性等を高めることができる。逆に、EVOHのケン化度を前記上限以下とすることで、製造コストを抑えることなどができる。EVOHは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
EVOHは、下記式(I)で表される構造単位(I)、下記式(II)で表される構造単位(II)、及び下記式(III)で表される構造単位(III)の少なくともいずれか1種を有することが好ましい。EVOHがこのような構造単位を有することで、本発明の積層体の耐屈曲性等をより高めることができる。
【0040】
【化1】
【0041】
前記式(I)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R、R及びRのうちの一対は、結合していてもよい。また、前記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、カルボキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0042】
前記式(II)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、RとRとは、又はRとRとは、結合していてもよい。また、前記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0043】
前記式(III)中、R、R、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、前記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。R12及びR13は、それぞれ独立して、水素原子、ホルミル基又は炭素数2~10のアルカノイル基を表す。
【0044】
前記構造単位(I)、(II)又は(III)の全構造単位に対する含有量の下限としては、0.5モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。一方前記構造単位(I)、(II)又は(III)の含有量の上限としては、30モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。EVOHが前記(I)、(II)又は(III)に示す構造単位を前記範囲の割合で有することによって、A層形成材料の柔軟性及び加工特性が向上する結果、本発明の積層体の延伸性及び熱成形性等を向上することができる。
【0045】
前記構造単位(I)、(II)又は(III)において、前記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3~10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6~10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
【0046】
前記構造単位(I)において、前記R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基及びヒドロキシエチル基であることが好ましく、これらの中でも、それぞれ独立に水素原子、メチル基、水酸基及びヒドロキシメチル基であることがさらに好ましい。そのようなR、R及びRであることによって、本発明の積層体の延伸性及び熱成形性をさらに向上させることができる。
【0047】
EVOH中に前記構造単位(I)を含有させる方法については、特に限定されないが、例えば、前記エチレンとビニルエステルとの重合において、構造単位(I)に誘導されるモノマーを共重合させる方法などが挙げられる。この構造単位(I)に誘導されるモノマーとしては、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセンなどのアルケン;3-ヒドロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-ヒドロキシ-1-ペンテン、5-ヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-ヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5-ヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、4-ヒドロキシ-1-ヘキセン、5-ヒドロキシ-1-ヘキセン、6-ヒドロキシ-1-ヘキセン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセンなどの水酸基やエステル基を有するアルケンが挙げられる。その中で、共重合反応性、及び積層体のガスバリア性の観点からは、プロピレン、3-アセトキシ-1-プロペン、3-アセトキシ-1-ブテン、4-アセトキシ-1-ブテン及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが好ましい。エステルを有するアルケンの場合は、ケン化反応の際に、前記構造単位(I)に誘導される。
【0048】
前記構造単位(II)において、R及びRは共に水素原子であることが好ましい。特に、R及びRが共に水素原子であり、前記R及びRのうちの一方が炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、他方が水素原子であることがより好ましい。この脂肪族炭化水素基は、アルキル基及びアルケニル基が好ましい。本発明の積層体のガスバリア性を特に重視する観点からは、R及びRのうちの一方がメチル基又はエチル基、他方が水素原子であることが特に好ましい。また前記R及びRのうちの一方が(CHOHで表される置換基(但し、hは1~8の整数)、他方が水素原子であることも特に好ましい。この(CHOHで表される置換基において、hは、1~4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0049】
EVOH中に前記構造単位(II)を含有させる方法については、特に限定されないが、ケン化反応によって得られたEVOHに一価エポキシ化合物を反応させることにより含有させる方法などが用いられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(IV)~(X)で示される化合物が好適に用いられる。
【0050】
【化2】
【0051】
前記式(IV)~(X)中、R14、R15、R16、R17及びR18は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基など)、炭素数3~10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基など)又は炭素数6~10の脂肪族炭化水素基(フェニル基など)を表す。また、i、j、k、p及びqは、それぞれ独立して、1~8の整数を表す。
【0052】
前記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、3-メチル-1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシペンタン、3-メチル-1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、2,3-エポキシヘキサン、3,4-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘプタン、4-メチル-1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、2,3-エポキシオクタン、1,2-エポキシノナン、2,3-エポキシノナン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1-フェニル-1,2-プロパン、3-フェニル-1,2-エポキシプロパン等が挙げられる。
【0053】
前記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0054】
前記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキレングリコールモノグリシジルエーテルが挙げられる。
【0055】
前記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルケニルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0056】
前記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、グリシドール等の各種エポキシアルカノールが挙げられる。
【0057】
前記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルカンが挙げられる。
【0058】
前記式(X)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルケンが挙げられる。
【0059】
前記一価エポキシ化合物の中では炭素数が2~8のエポキシ化合物が好ましい。特に、化合物の取り扱いの容易さ、及び反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数としては、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい。また一価エポキシ化合物は前記式のうち式(IV)で表される化合物及び(V)で表される化合物であることが特に好ましい。具体的には、EVOHとの反応性及び得られる積層体のガスバリア性等の観点から、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが好ましく、中でもエポキシプロパン及びグリシドールが特に好ましい。
【0060】
前記構造単位(III)において、R、R、R10及びR11は水素原子又は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。特に、当該脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基及びペンチル基が好ましい。
【0061】
EVOH中に前記構造単位(III)を含有させる方法については、特に限定されないが、例えば、特開2014-034647に記載の方法で製造できる。
【0062】
A層(A層形成材料)におけるガスバリア樹脂(a)の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましく、99質量%又は99.9質量%がよりさらに好ましい場合もあり、実質的にガスバリア性樹脂(a)のみからなっていてもよい。一方、この含有量の上限としては、100質量%であってよく、99.9質量%又は99質量%であってもよい。
【0063】
A層(A層形成材料)には、実施態様に応じて、リン酸化合物、カルボン酸、ホウ素化合物、金属塩等の1種又は複数種の化合物が含有されていてもよい。これらの化合物をA層中に含有させることによって、本発明の積層体の各種性能を向上させることができる。また、A層(A層形成材料)は、本発明の目的を損なわない範囲で、ガスバリア樹脂以外の他の樹脂、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラーなど種々の成分を含んでいてもよい。
【0064】
〈B層〉
B層(エラストマー層)は、ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基を有するスチレン系エラストマー(b)を含む層である。B層は、スチレン系エラストマー(b)を含むB層形成材料から形成される。本発明の積層体は、スチレン系エラストマー(b)を含む複数のB層を備えることで、良好な延伸性、層間接着性、耐屈曲性、熱成形性等を発揮することができる。
【0065】
エラストマーとは、常温付近で弾性を有する樹脂をいい、本明細書においては、具体的には、室温(20℃)の条件下で、2倍に伸ばし、その状態で1分間保持した後、1分以内に元の長さの1.5倍未満に収縮する性質を有する樹脂をいう。エラストマーは、構造的には、通常、重合体鎖中にハードセグメントとソフトセグメントとを有する重合体であってよい。また、エラストマーは、通常、熱可塑性である。
【0066】
(スチレン系エラストマー(b))
スチレン系エラストマー(b)が有する、ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基は、カルボキシ基及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。カルボキシ基の誘導体としては、カルボキシ基同士が結合してなるカルボン酸無水物基、カルボキシ基がエステル化された基等が挙げられ、カルボン酸無水物基が好ましい。カルボキシ基は、塩の状態(-COONa等)で存在していてもよい。前記極性基としては、カルボキシ基及びカルボン酸無水物基からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。このような極性基は、例えばガスバリア樹脂(a)であるEVOHが有する水酸基、ポリアミドが有する第二級アミノ基(-NH-)等と良好な結合反応を示す。従って、本発明の一実施形態に係る積層体は層間接着性、耐屈曲性、端部接着性等が良好である。なお、例えば、エポキシ基等を有するスチレン系エラストマーを用いた場合は、ガスバリア性樹脂(a)との反応性(架橋反応性)が不十分であり、耐屈曲性、端部接着性、層間接着性等が不十分なものとなる。
【0067】
スチレン系エラストマーは、通常、芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)と、ゴムブロック(ソフトセグメント)とを有する。芳香族ビニル系重合体ブロックが物理架橋を形成して橋かけ点となり、一方、ゴムブロックがゴム弾性を付与する。
【0068】
スチレン系エラストマー(b)としては、例えば前記極性基を有するスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、前記極性基を有するスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、前記極性基を有するスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、前記極性基を有するスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、前記極性基を有するスチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)等を挙げることができる。
【0069】
これらのスチレン系エラストマー(b)の中でも、前記極性基を有するSBS及び前記極性基を有するSEBSが好ましく、前記極性基を有するSEBSがより好ましい。SEBSは、比較的多くの量の前記極性基を導入することができる。従って、前記極性基を有するSEBSを用いることで、B層のA層に対する接着性を十分に高めることなどができる。
【0070】
スチレン系エラストマー(b)におけるスチレン単位の含有割合の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%が好ましい。一方、この上限としては、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。スチレン単位の含有割合が前記範囲のスチレン系エラストマー(b)を用いることで、溶融成形性等が高まり、本発明の積層体の外観等が向上する。
【0071】
スチレン系エラストマー(b)(カルボン酸変性スチレン系エラストマー)は、(1)スチレン系エラストマーに不飽和カルボン酸又はその無水物を、付加反応やグラフト反応により化学的に結合させる方法、(2)ビニル芳香族化合物と、共役ジエン化合物/又はその水素添加物と、不飽和カルボン酸又はその無水物等とを共重合させる方法などによって得ることができる。前記不飽和カルボン酸及びその無水物としては、マレイン酸及び無水マレイン酸等を挙げることができ、無水マレイン酸が好ましい。
【0072】
スチレン系エラストマー(b)における前記極性基の含有量の下限としては、0.01mmol/gが好ましく、0.1mmol/gがより好ましい。一方、この上限としては、0.5mmol/gが好ましく、0.4mmol/gがより好ましい。スチレン系エラストマー(b)における前記極性基の含有量を前記範囲とすることで、本発明の積層体の層間接着性をより高めることなどができる。なお、前記極性基(カルボキシ基及びその誘導体)の含有量とは、カルボキシ基換算の含有量である。例えば、主鎖に結合する2つのカルボキシ基が結合してなる1つのカルボン酸無水物基は、2つのカルボキシ基を含有するとする。また、B層中の前記極性基の含有量が、層間接着性、端部接着性等に大きく影響する。B層中の前記極性基の含有量は、スチレン系エラストマー(b)以外の他の成分(例えば後述するスチレン系エラストマー(b’))との混合比率等によって調整できる。
【0073】
前記極性基の含有量は、JIS K 0070(1992)に準拠して測定することができる。具体的には、キシレン溶媒に試料を溶解し、0.1N水酸化カリウムのアルコール(水酸化カリウム7gにイオン交換水5gを添加し、1級エチルアルコールを加えて1Lとし、0.1N塩酸及び1%フェノールフタレイン溶液にて力価(F)を標定したもの)で滴定し、その中和量から次式に従って酸価を求め、酸価を水酸化カリウムの分子量で除することで算出できる。
酸価(mgKOH/g)=(KOH滴定量(ml)×F×56.1)/試料(mg)
【0074】
スチレン系エラストマー(b)におけるヨウ素価の下限は、例えば1g/100gであってもよく、3g/100gであってよい。一方、この上限は、例えば300g/100gであってもよく、100g/100gであってよく、30g/100gであってもよい。B層中のヨウ素価は、端部接着性に大きく影響する。しかし、B層中のヨウ素価は、スチレン系エラストマー(b)以外の他の成分(例えば後述するスチレン系エラストマー(b’)との混合比率等によって調整できるため、スチレン系エラストマー(b)のヨウ素価は低いものであってよい。
【0075】
ヨウ素価とは、対象となるエラストマー等100gに付加するヨウ素の質量(g)を示すものであり、エラストマー等中の二重結合の量を示す指標である。ヨウ素価は、以下のヨウ素還元滴定により測定した値を意味する。まず、フラスコ中に対象となる試料の適量(約0.1g~1g)を正確に秤量して、クロロホルム100mLを加えて完全に溶解させ、次いでウィス液(0.1Nの一塩化ヨウ素-酢酸溶液)20mLを加え静かに振り混ぜ、光を遮り室温で30分静置させる。この溶液に0.1g/mLのヨウ化カリウム水溶液を20mL及び水100mLを加えた後、遊離したヨウ素の量を0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液で逆滴定し、下記式によってヨウ素価(I:g/100g)を求める。この際、1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液による逆滴定の終点は、水相及びクロロホルム相を目視観察し、共に無色であると判断する点とする。なお、試料を加えずに同様の操作を行い、そのときの0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液の滴定量(mL)をブランク値とする。
I=(B-C)×f×1.269/S
I:ヨウ素価(g/100g)
S:秤量した試料の質量(g)
B:0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液のブランク滴定量(mL)
C:0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液の滴定量(mL)
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液のファクター
【0076】
前記ヨウ素価を所望する範囲に制御する方法としては、当業者が通常行う方法を採用することができる。例えば、スチレン系エラストマーを重合する際の反応温度、反応時間などの反応条件を適宜調節すること、スチレン系エラストマーへの水素添加反応をすることなどにより行うことができる。
【0077】
B層におけるスチレン系エラストマー(b)の含有量の下限としては、例えば1質量%であってもよく、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。一方、この上限としては、例えば100質量%であってもよく、90質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましく、40質量%が特に好ましい。
【0078】
(スチレン系エラストマー(b’))
B層は、ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基を有さないスチレン系エラストマー(b’)をさらに含むことが好ましい。これにより、B層における前記極性基の含有量及びヨウ素価を好適な状態に比較的容易に調整することができる。また、B層がスチレン系エラストマー(b’)をさらに含むことで、B層の柔軟性が高まり、本発明の積層体の耐屈曲性等が高まる傾向にある。
【0079】
スチレン系エラストマー(b’)としては、例えばスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)等を挙げることができる。
【0080】
これらのスチレン系エラストマー(b’)の中でも、SBS及びSISが好ましく、SBSがより好ましい。例えば前記のように、スチレン系エラストマー(b)として前記極性基を有するSEBSを用いた場合、SEBSはヨウ素価が低いものが一般的である。これに対し、SBSは比較的ヨウ素価が高い。従って、スチレン系エラストマー(b)としての前記極性基を有するSEBSと、スチレン系エラストマー(b’)としてのSBSとを組み合わせることで、B層における前記極性基の含有量とヨウ素価とをバランスよく高めることが容易となる。
【0081】
スチレン系エラストマー(b’)におけるスチレン単位の含有割合の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、この上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。スチレン単位の含有割合が前記範囲のスチレン系エラストマー(b’)を用いることで、溶融成形性等が高まり、本発明の積層体の外観等が向上する。
【0082】
スチレン系エラストマー(b’)のヨウ素価は、スチレン系エラストマー(b)のヨウ素価よりも大きいことが好ましい。これにより、B層のヨウ素価を大きくし、本発明の積層体の端部接着性等をより高めることができる。スチレン系エラストマー(b’)におけるヨウ素価の下限は、例えば100g/100gが好ましく、200g/100gがより好ましく、240g/100gがさらに好ましい。一方、この上限は、500g/100gであってもよく、400g/100gであってもよい。
【0083】
B層におけるスチレン系エラストマー(b’)の含有量の下限としては、例えば0質量%であってもよく、10質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましく、60質量%が特に好ましい。一方、この上限としては、99質量%であってもよく、90質量%が好ましく、85質量%がより好ましい。
【0084】
B層(B層形成材料)におけるスチレン系エラストマー(b)及びスチレン系エラストマー(b’)の合計含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましく、99質量%又は99.9質量%がよりさらに好ましい場合もある。一方、この合計含有量の上限としては、100質量%であってよく、99.9質量%又は99質量%であってもよい。
【0085】
B層(B層形成材料)におけるスチレン系エラストマー(b)とスチレン系エラストマー(b’)との質量比(b/b’)は1/99以上が好ましく、10/90以上がより好ましく、20/80以上がさらに好ましい。一方、質量比(b/b’)は90/10以下が好ましく、80/20以下がより好ましく、50/50以下がさらに好ましく、40/60以下が特に好ましい。
【0086】
B層(B層形成材料)には、実施形態に応じて、スチレン系エラストマー(b)及びスチレン系エラストマー(b’)以外の他の成分が含有されていてもよい。他の成分としては、他のエラストマー、エラストマー以外のポリマー、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー、加硫促進剤、加硫促進助剤等を挙げることができる。
【0087】
B層(B層形成材料)の-30℃における引張貯蔵弾性率E’(-30℃)の下限は、10Paが好ましく、2.0×10Paがより好ましく、5.0×10Paがさらに好ましく、1.0×10Paが特に好ましい。前記引張貯蔵弾性率E’(-30℃)の上限は、10Paが好ましく、5.0×10Paがより好ましく、2.5×10Paがさらに好ましい。引張貯蔵弾性率E’(-30℃)を前記範囲内とすることで、特に前記上限以下とすることで低温下での耐屈曲性が高まり、屈曲に伴うピンホールの発生を抑制することなどができる。
【0088】
B層(B層形成材料)の40℃における引張貯蔵弾性率E’(40℃)の下限は、10Paが好ましく、2.0×10Paがより好ましく、3.0×10Paがさらに好ましい。前記引張貯蔵弾性率E’(40℃)の上限は、10Paが好ましく、2.0×10Paがより好ましく、7.0×10Paがさらに好ましい。引張貯蔵弾性率E’(40℃)を前記範囲内とすることで、溶融成形性が高まり、外観等が向上する。
【0089】
なお、引張貯蔵弾性率E’は、JIS K 7244-4(1999)(プラスチック-動的機械特性の試験方法 第4部:引張振動-共振法)に準拠して測定された値とする。
【0090】
〈B1層〉
複数のB層(エラストマー層)は、それぞれの両面にA層(ガスバリア層)が隣接又は直接積層している複数のB1層を含む。
【0091】
複数のB1層における前記極性基の含有量の下限は、0.01mmol/gであり、0.010mmol/gが好ましく、0.02mmol/gがより好ましく、0.03mmol/gがさらに好ましく、0.04mmol/gが特に好ましい。一方、この上限は、0.1mmol/gであり、0.10mmolが好ましく、0.09mmol/gがより好ましく、0.08mmol/gがさらに好ましく、0.07mmol/gが特に好ましい。B1層における前記極性基の含有量を前記下限以上とすることで、A層との接着性を高め、十分なガスバリア性、耐屈曲性、端部接着性等を発揮することができ、外観も向上する。一方、前記含有量を前記上限以下とすることで、A層中のガスバリア性樹脂(a)との反応が強すぎることにより生じる外観不良を抑制することなどができる。
【0092】
複数のB1層におけるヨウ素価IB1の下限は、50g/100gであり、100g/100gが好ましく、140g/100gがより好ましく、180g/100gがさらに好ましい。一方、このヨウ素価IB1の上限は、300g/100gであり、270g/100gが好ましく、240g/100gがより好ましい。ヨウ素価IB1を前記下限以上とすることで、端面に接触するゴム層との接着性が高まり、優れた端部接着性を発揮することができる。一方、ヨウ素価IB1を前記上限以下とすることで、十分な量の前記極性基をB1層に含有させることができ、層間接着性、耐屈曲性等を高めることができる。
【0093】
複数のB1層における前記極性基の含有量及びヨウ素価IB1は、用いるスチレン系エラストマー(b)及びスチレン系エラストマー(b’)の種類や量等によって調整することができる。
【0094】
〈B2層〉
複数のB層(エラストマー層)は、片面にのみA層(ガスバリア層)が隣接又は直接積層している1層又は2層のB2層を含むことが好ましい。このようなB2層が存在することで、A層を十分に保護することができ、ガスバリア性や耐屈曲性等が高まる。このようなことから、B2層の層数は2層であることが好ましい。
【0095】
B2層における前記極性基の含有量の下限は、0.01mmol/gが好ましく、0.010mmol/gがより好ましく、0.02mmol/gがさらに好ましく、0.03mmol/gがよりさらに好ましく、0.04mmol/gが特に好ましい。一方、この上限は、0.1mmol/gが好ましく、0.10mmolがより好ましく、0.09mmol/gがさらに好ましく、0.08mmol/gがよりさらに好ましく、0.07mmol/gが特に好ましい。B2層における前記極性基の含有量を前記下限以上とすることで、A層との接着性を高め、十分なガスバリア性、耐屈曲性、端部接着性等を発揮することができ、外観も向上する。一方、前記含有量を前記上限以下とすることで、A層中のガスバリア性樹脂(a)との反応が強すぎることにより生じる外観不良を抑制することができる。
【0096】
B2層におけるヨウ素価IB2の下限は、50g/100gが好ましく、100g/100gがより好ましく、140g/100gがさらに好ましく、180g/100gがよりさらに好ましい。一方、このヨウ素価IB1の上限は、300g/100gが好ましく、270g/100gがより好ましく、240g/100gがさらに好ましい。ヨウ素価IB2を前記下限以上とすることで、端面に接触するゴム層との接着性が高まり、優れた端部接着性を発揮することができる。特に、B2層を比較的厚く設けた場合、B2層が端部接着性に与える影響が大きくなり、ヨウ素価IB2を前記下限以上とすることで端部接着性が十分に高まる。一方、ヨウ素価IB2を前記上限以下とすることで、十分な量の前記極性基をB2層に含有させることができ、層間接着性、耐屈曲性等を高めることができる。
【0097】
B2層における前記極性基の含有量及びヨウ素価IB2は、用いるスチレン系エラストマー(b)及びスチレン系エラストマー(b’)の種類や量等によって調整することができる。
【0098】
なお、B1層及びB2層の組成は同一であってもよく、異なっていてもよい。生産性の観点からは、B1層及びB2層の組成が同じであることが好ましい。
【0099】
〈C層〉
C層(被覆層)は、B2層に隣接する層である。B2層とC層とは、他の層を介さず直接積層されていてよい。C層は、通常、本発明の積層体の最外層である。C層は、通常、架橋反応によりゴム層との接着が可能な接着性樹脂(c)を含む。すなわち、C層は、通常、接着性樹脂(c)を含むC層形成材料から形成される接着性樹脂層である。架橋反応によりゴム層との接着が可能な接着性樹脂(c)としては、二重結合を主鎖中に有する樹脂が好ましい。また、接着性樹脂(c)としては、当該積層体の耐屈曲性等の観点から、エラストマーであることが好ましい。このようなことから、接着性樹脂(c)としては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー及びジエン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、スチレン系エラストマーがより好ましい。
【0100】
接着性樹脂(c)であるスチレン系エラストマーとしては、上述したB層に含まれていてよいスチレン系エラストマー(b’)と同様のものを挙げることができる。接着性樹脂(c)としては、これらの中でも、SBS及びSISが好ましく、SBSがより好ましい。接着性樹脂(c)としては、無変性のスチレン系エラストマーであることも好ましい。
【0101】
接着性樹脂(c)であるスチレン系エラストマーにおけるスチレン単位の含有割合の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、20質量%、30質量%又は37質量%がさらに好ましい。一方、このスチレン単位の含有割合の上限としては、60質量%が好ましく、50質量%がより好ましい。接着性樹脂(c)として、スチレン単位の含有割合が前記範囲のスチレン系エラストマーを用いることで、特に比較的スチレン単位の含有割合が高いスチレン系エラストマーを用いることで、溶融成形性等が高まり、本発明の積層体の外観等が向上する。
【0102】
接着性樹脂(c)のヨウ素価の下限としては、例えば100g/100gが好ましく、200g/100gがより好ましく、240g/100gがさらに好ましい。一方、この上限としては、例えば400g/100gが好ましく、300g/100gがより好ましい。
【0103】
C層(C層形成材料)における接着性樹脂(c)の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましく、99質量%又は99.9質量%がよりさらに好ましい場合もある。一方、この含有量の上限としては、100質量%であってよく、99.9質量%又は99質量%であってもよい。
【0104】
C層(C層形成材料)には、実施形態に応じて、接着性樹脂(c)以外の他の成分が含有されていてもよい。他の成分としては、他のポリマー、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー、加硫促進剤、加硫促進助剤等を挙げることができる。
【0105】
C層におけるヨウ素価Iは、複数のB層のヨウ素価Iより大きいことが好ましい。また、C層におけるヨウ素価Iは、B2層のヨウ素価IB2より大きいことが好ましい。このようなC層を設けることにより、ゴム層との接着性が向上する。C層のヨウ素価Iの下限としては、例えば100g/100gであってもよいが、200g/100gが好ましく、240g/100gがより好ましい。一方、このヨウ素価Iの上限は、例えば400g/100gであってもよいが、300g/100gが好ましい。ヨウ素価Iを前記下限以上とすることで、ゴム層との接着性がより高まる。一方、ヨウ素価Iを前記上限以下とすることで、外観が良好なものとなる。
【0106】
C層(C層形成材料)は、カルボキシ基及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性基を有する成分を実質的に含まないことが好ましい。C層(被覆層)においてカルボキシ基及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性基を有する成分の含有量が多いと、粘着性が高まり、製膜時にキャストロールへの貼り付きが生じ易くなり、膜面が荒れ、積層体の外観が低下することがある。そこで、C層をカルボキシ基及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性基を有する成分を実質的に含まない組成とすることで、外観を良好なものとすることができる。具体的にC層における前記極性基の含有量の上限としては、0.01mmol/gが好ましく、0.005mmol/gがより好ましく、0.001mmol/gがさらに好ましく、0.0005mmol/gが特に好ましい。
【0107】
C層(C層形成材料)の40℃における引張貯蔵弾性率E’は、B層(B層形成材料)の40℃における引張貯蔵弾性率E’より大きいことが好ましい。このように、C層を40℃における引張貯蔵弾性率E’が比較的大きい材料から形成することで、溶融成形性が高まることなどにより、得られる積層体の外観等がより向上する。具体的に40℃における引張貯蔵弾性率E’の下限は、10Paであってよいが、1.0×10Paが好ましく、1.0×10Paがより好ましく、5.0×10Paがさらに好ましい。前記40℃における引張貯蔵弾性率E’の上限は、1010Paが好ましく、5.0×10Paがより好ましく、1.5×10Paがさらに好ましい。
【0108】
〈用途等〉
本発明の積層体は、十分なガスバリア性及び耐屈曲性を有し、ゴム層を積層させた上で環状にした際に重なり合う端部の接着性にも優れる。従って、当該積層体は、ゴム層を積層させた上で環状(周状)にし、端部を重ね合わせて接着させて使用する用途に好適に用いることができる。このような用途としては、アキュムレーターの内袋、空気入りボール、空気ばね、空気用タイヤのインナーライナー等、膜状のゴム製品に積層されるガスバリアフィルムなどとして好適に用いられる。
【0109】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法は、A層とBと層が、さらにはB層とC層とが良好に積層及び接着される方法であれば特に限定されるものではなく、例えば共押出し、はり合わせ、コーティング、ボンディング、付着などの公知の方法を採用することができる。
【0110】
本発明の積層体は、好ましくはA層形成材料とB層形成材料とを共押出する工程を備える製造方法により製造することができる。当該積層体がさらにC層を有する場合、A層形成材料とB層形成材料とC層形成材料とを共押出する工程を備える製造方法により製造することができる。このような製造方法によれば、各層を同時に成形することができ、生産性等に優れる。
【0111】
多層共押出法においては、各層を形成する材料は、加熱溶融され、異なる押出機やポンプからそれぞれの流路を通って押出ダイに供給される。次いで、各層を形成する材料が、押出ダイから多層に押し出された後に積層接着されることで、積層体が形成される。この押出ダイとしては、例えばマルチマニホールドダイ、フィールドブロック、スタティックミキサー等を用いることができる。
【0112】
なお、A層形成材料及びB層形成材料の粘度の関係に関し、以下の溶融粘度比であることが好ましい。すなわち、温度210℃、剪断速度1,000/秒でのA層形成材料の溶融粘度(ηA)とB層形成材料の溶融粘度(ηB)との比(ηB/ηA)の下限としては、0.3が好ましく、0.5がより好ましい。一方、この溶融粘度比(ηB/ηA)の上限としては、2が好ましく、1.5がより好ましい。溶融粘度比(ηB/ηA)を前記範囲とすることによって、本発明の積層体の多層共押出法による成形において、外観が良好となり、また、A層及びB層との接着が良好となって当該積層体の耐屈曲性等を向上させることなどができる。
【0113】
本発明の積層体の製造方法は、共押出により得られた構造体(積層体)に電子線を照射する工程を備えることが好ましい。電子線照射により、層間の架橋反応が生じ、得られる積層体の層間接着力を高めることができる。電子線源としては、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を使用できる。
【0114】
<多層構造体>
本発明の一実施形態に係る多層構造体は、上述した本発明の積層体、及び前記積層体の最外層として積層されている層(好適にはC層)の外面に積層されているジエン系ゴム層(D)(以下、「D層」ともいう。)を備える。
【0115】
好ましい構造を有する多層構造体としては、図2に示す多層構造体20を挙げることができる。図2に示す多層構造体20は、図1の積層体10の一方の外面にD層6を積層したものである。
【0116】
なお、当該多層構造体においては、ジエン系ゴム層(D)は、積層体の両外面に積層されていてもよい。当該多層構造体は、A層、B層、C層及びD層以外の他の樹脂層等を有していてもよい。
【0117】
当該多層構造体における積層体及びこの積層体を構成する各層、すなわち、A層、B層(B1層及びB2層)及びC層は、上述したものと同様である。
【0118】
当該多層構造体の平均厚さの下限としては、50μmが好ましく、100μmがより好しく、300μmがさらに好ましい。一方、この上限としては、3mmが好ましく、1000μmがより好ましく、750μmがさらに好ましく、600μmが特に好ましい。当該多層構造体の平均厚さを前記下限以上とすることで、強度、耐屈曲性、耐久性、ガスバリア性等を高めることができる。前記平均厚さを前記上限以下とすることで、柔軟性、成形性、軽量性、耐屈曲性等を高めることができ、製造コストを抑制することもできる。
【0119】
D層は、ジエン系ゴムを含むゴム材料から形成されている。ジエン系ゴムとは、主鎖中に炭素二重結合を有するゴムをいう。ジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、シス-1,4-ポリブタジエン(BR)、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(1,2BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。これらのジエン系ゴムは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0120】
なお、D層は、ジエン系ゴムのみから形成されていてもよいが、本発明の効果を阻害しない範囲で、ジエン系ゴム以外の成分が含有されていてもよい。他の成分としては、例えば軟化剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、充填剤等を挙げることができる。
【0121】
D層の1層の平均厚さとしては、特に限定されないが、下限としては10μmが好ましく、100μmがより好ましい。一方、この上限としては、3mmが好ましく、1mmがより好ましく、0.5mmがさらに好ましい。
【0122】
D層とD層に隣接する層(C層等)とは、架橋反応(加硫反応)により、界面で強く結合している。特に、C層が十分な二重結合を主鎖中に有するスチレン系エラストマー等を含有するポリマーから形成されている場合、ジエン系ゴムとの十分な架橋反応を可能とする。
【0123】
図3に示されるように、多層構造体20は、環状にして端部21同士を重ね合わせて接着させて使用される場合がある。当該多層構造体20は、端面11として露出するB1層のヨウ素価が高く、好適な形態においてはB2層のヨウ素価も高いため、D層6(ジエン系ゴム層)との接着性に優れる。また、好適な形態においては、当該多層構造体20の外面12(図3における内周面)を構成するC層もヨウ素価が高い。従って、このような環状にした多層構造体20の端部21において、積層体10の端面11及び外面12は、D層6と密着性高く接着でき、隙間が形成され難い。従って、当該多層構造体20は、十分なガスバリア性及び耐屈曲性を有する上に、環状にした際に重なり合う端部21の接着性にも優れる。このため、当該多層構造体は、例えば空気入りタイヤのインナーライナー、アキュムレーターの内袋、空気入りボール、空気ばね等の構成材料に好適に用いることができる。
【0124】
<多層構造体の製造方法>
当該多層構造体は、本発明の積層体にD層を加熱接着する工程を備える製造方法により好適に得ることができる。
【0125】
前記加熱接着は、本発明の積層体の最外層(例えばC層)とD層(ジエン系ゴムの膜)とを積層し、加熱することによって行うことができる。この加熱により、積層体の最外層とD層との間で架橋が生じ、強固な接着が生じる。この際の加熱温度の下限としては、120℃が好ましく、125℃がより好ましく、130℃がさらに好ましい。一方、この加熱温度の上限としては、200℃が好ましく、190℃がより好ましく、180℃がさらに好ましい。
【0126】
<その他の実施形態>
本発明の積層体は、前記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の積層体は、A層、B層及びC層以外に他の層を含んでいてもよい。他の層としては、上述したD層も挙げられる。すなわち、上述したD層(ジエン系ゴム層)を備える多層構造体も、本発明の積層体の一実施形態である。また、本発明の積層体は、B2層が0層又は1層の層構造であってもよく、C層が0層又は1層の層構造であってもよい。
【0127】
すなわち、本発明の積層体の層構造としては、
A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A、
A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B2、
A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B2/C、
B2/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B2、
B2/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B2/C等であってよい。
【0128】
また、本発明の積層体の一方の外面等にさらに支持膜等が積層されてもよい。この支持膜としては特に限定されず、樹脂層でなくてもよく、例えば一般的な合成樹脂層、合成樹脂フィルム等も用いられる。また、支持層の積層手段としては特に限定されず、接着剤による接着や押出ラミネートなどが採用される。
【実施例
【0129】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0130】
<実施例及び比較例で用いた材料>
・ガスバリア性樹脂(a)
EVOH1:「エバール(登録商標)F101B」(株式会社クラレ製、EVOH、エチレン単位含有量32モル%)
EVOH2:「エバール(登録商標)E105B」(株式会社クラレ製、EVOH、エチレン単位含有量44モル%)
EVOH3:「エバール(登録商標)H171B」(株式会社クラレ製、EVOH、エチレン単位含有量38モル%)
EVOH4:「エバール(登録商標)L171B」(株式会社クラレ製、EVOH、エチレン単位含有量27モル%)
PA1:「アミラン(登録商標)CM1021FS」(東レ株式会社製、ナイロン6)
PA2:「MXナイロンS6007」(三菱ガス株式会社製、ナイロンMXD6)
【0131】
・エラストマー(b)
MA-SEBS1:「タフテック(登録商標)M1943」(旭化成株式会社製、無水マレイン酸変性SEBS、スチレン比含有量20質量%、ヨウ素価10g/100g、無水マレイン酸変性量(ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基量)0.19mmol/g)
MA-SEBS2:「タフテック(登録商標)M1913」(旭化成株式会社製、無水マレイン酸変性SEBS、スチレン比含有量30質量%、ヨウ素価12g/100g、無水マレイン酸変性量(ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基量)0.19mmol/g)
【0132】
・比較例で用いたエポキシ変性エラストマー
E-SBS1:「エポフレンド(登録商標)CT310」(株式会社ダイセル製、エポキシ変性SBS、スチレン比含有量40質量%、ヨウ素価249g/100g、エポキシ変性量(ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基量)0.16mmol/g)
E-SBS2:「エポフレンド(登録商標)AT501」(株式会社ダイセル製、エポキシ変性SBS、スチレン比含有量40質量%、ヨウ素価239g/100g、エポキシ変性量(ガスバリア性樹脂(a)と反応可能な極性基量)0.32mmol/g)
【0133】
・エラストマー(b’)又は接着性樹脂(c)
SBS1:「JSR TR2827」(JSR株式会社製、無変性SBS、スチレン比含有量24質量%、ヨウ素価295g/100g)
SIS1:「JSR SIS5229」(JSR株式会社製、無変性SIS、スチレン比含有量15質量%、ヨウ素価335g/100g)
SBS2:「タフプレン(登録商標)A」(旭化成株式会社製、無変性SBS、スチレン比含有量40質量%、ヨウ素価270g/100g)
SBS3:「JSR TR2500」(JSR株式会社、無変性SBS、スチレン比含有量35質量%、ヨウ素価279g/100g)
SEBS1:「タフテック(登録商標)H1041」(旭化成株式会社製、無変性SEBS、スチレン比含有量30質量%、ヨウ素価0g/100g)
【0134】
・ジエン系ゴム
天然ゴム:「TSR-20」(中部大阪ゴム製、天然ゴム)
【0135】
<比較例で用いたTPU1の製造>
数平均分子量が1000であるポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、1,4-ブタンジオール(1,4-BD)及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、PTMEG:1,4-BD:MDI=1.0:1.2:2.2のモル比で、且つこれらの合計供給量が200g/分となるようにして同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンを前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続的に供給して、260℃で連続溶融重合させた。得られた溶融物をストランド状に水中に連続的に押し出し、次いでペレタイザーで切断した後に60℃で12時間除湿乾燥させて、TPU1のペレットを得た。得られたTPUの溶融粘度は1080Pa・s、流出開始温度は171℃であった。
【0136】
前記各エラストマーのヨウ素価及び極性基量については、以下の方法で測定した。
【0137】
<評価方法>
(1)ヨウ素価
各エラストマー、B層形成材料及びC層形成材料のヨウ素価は、以下のヨウ素還元滴定により測定した。まず、フラスコ中に対象となる試料の適量(約0.1g~1g)を正確に秤量して、クロロホルム100mLを加えて完全に溶解させ、次いでウィス液(0.1Nの一塩化ヨウ素-酢酸溶液)20mLを加え静かに振り混ぜ、光を遮り室温で30分静置させた。この溶液に0.1g/mLのヨウ化カリウム水溶液を20mL及び水100mLを加えた後、遊離したヨウ素の量を0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液で逆滴定し、下記式によってヨウ素価(I:g/100g)を求めた。この際、1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液による逆滴定の終点は、水相及びクロロホルム相を目視観察し、共に無色であると判断する点とした。なお、試料を加えずに同様の操作を行い、そのときの0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液の滴定量(mL)をブランク値とした。
I=(B-C)×f×1.269/S
I:ヨウ素価(g/100g)
S:秤量した試料の質量(g)
B:0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液のブランク滴定量(mL)
C:0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液の滴定量(mL)
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液のファクター
【0138】
(2)極性基の含有量
(2-1)カルボキシ基の含有量
各エラストマー及びB層形成材料のカルボキシ基の含有量は、JIS K 0070(1992)に準拠して測定した。具体的には、キシレン溶媒に試料を溶解し、0.1N水酸化カリウムのアルコール溶液(水酸化カリウム7gにイオン交換水5gを添加し、1級エチルアルコールを加えて1Lとし、0.1N塩酸及び1%フェノールフタレイン溶液にて力価(F)を標定したもの)で滴定し、中和に必要となる水酸化カリウム量からカルボキシ基の含有量を求めた。
【0139】
(2-2)エポキシ基の含有量
各エラストマー及びB層形成材料のエポキシ基の含有量はJIS K 7236に準拠して求められるエポキシ当量の逆数から算出した。具体的には、クロロホルム/トルエン=50質量%/50質量%の混合溶液30mLに0.1gの試料を溶解し、0.1質量%クリスタルバイオレット酢酸溶液を指示薬とし、0.1mol/L臭化水素酸・酢酸溶液で滴定し、中和量に必要となる臭化水素酸・酢酸溶液の量からオキシラン酸素を算出し、次式からエポキシ当量を算出した。
オキシラン酸素(%)=0.16×B×F/試料採取量(g)
B:0.1mol/L臭化水素酸・酢酸溶液の使用量(mL)
F:0.1mol/L臭化水素酸・酢酸溶液の力価
エポキシ当量(g/eq)=1600/オキシラン酸素測定値(%)
【0140】
(3)酸素透過速度
実施例及び比較例で得られた積層体を2枚用意し、20℃、65%RHで5日間調湿し、調湿済みの積層体2枚各々について、MOCON社の「MOCON OX-TRAN2/20型」を用い、20℃、65%RH条件下でJIS K 7126-2(等圧法;2006)に記載の方法に準じて、酸素透過速度を測定し、その平均値を求めた(単位:mL/(m・day・atm))。なお、酸素透過速度が、300mL/(m・day・atm)以下であれば、1気圧の条件下で、1m当たりに1日に300mL以下の酸素透過量となるため、十分なガスバリア性を有すると評価できる。
【0141】
(4)A層とB層との層間接着性
層間接着力をT型剥離強度試験で評価した。具体的には、実施例及び比較例で得られた積層体を23℃、50%RHの雰囲気下で7日間調湿したのち、10mm幅の短冊状の切片をMD方向(成形時フィルムの引取方向)に作製して測定試料とした。この測定試料を用い、JIS K 6854-3に準拠して、23℃、50%RHの雰囲気下、島津製作所社のオートグラフ「AGS-H型」を用いて、引張速度250mm/分にて、A層とB層とのT型剥離強度を測定した。測定値を以下の基準で評価した。測定値を以下の基準A~Dで評価した。A~Cであれば、層間接着性が高いと評価できる。
A:20N/10mm以上
B:15N/10mm以上20N/10mm未満
C:10N/10mm以上15N/10mm未満
D:10N/10mm未満
【0142】
(5)屈曲後ピンホール数(耐屈曲性)
実施例及び比較例で得られた積層体について、ASTM-F392-74に準じて、テスター産業社製「BE1006恒温槽付ゲルボフレックステスター」を使用し、-30℃の環境下、屈曲を5000回繰り返した。屈曲後のピンホールの数を測定した。なお、このピンホール数が、A4(210mm×297mm)範囲内で5個以下であれば、十分な耐屈曲性を有すると評価できる。
【0143】
(6)積層体の外観(ストリーク)
実施例及び比較例で得られた積層体の表面の外観を目視にて検査し、ストリークの有無について以下の基準で評価した。A又はBであれば、外観特性は高いと評価できる。
A:ストリークが皆無に近かった。
B:ストリークが存在するが、少なかった。
C:ストリークが著しかった。
【0144】
(7)積層体の外観(膜面荒れ)
実施例及び比較例で得られた積層体の表面の外観を目視にて検査し、膜面荒れの有無について以下の基準で評価した。A又はBであれば、外観特性は高いと評価できる。
A:膜面荒れが皆無に近かった。
B:膜面荒れが存在するが、少なかった。
C:膜面荒れが著しかった。
【0145】
(8)D層との接着性
実施例及び比較例で得られた積層体の一方の面に、一部に紙を挟んで、平均厚さ400μmの天然ゴム「TSR-20」をD層として重ね合わせた。この状態で160℃、15分間加熱することで架橋(加硫)反応を行い、多層構造体を得た。得られた多層構造体について、紙を取り除き、積層体とD層との界面が一部剥離した多層構造体を得た。かかる、多層構造体について、23℃、50%RHの雰囲気下で7日間調湿したのち、10mm幅の短冊状の切片をMD方向(成形時フィルムの引取方向)に作製して測定試料とした。この測定試料を用い、23℃、50%RHの雰囲気下、島津製作所社のオートグラフ「AGS-H型」を用いて、引張速度250mm/分にて、積層体とD層との間のT型剥離強度を測定した。測定値を以下の基準A~Dで評価した。A~Cであれば接着性が高いと評価できる。
A:10N/10mm以上
B:5N/10mm以上10N/10mm未満
C:2.5N/10mm以上5N/10mm未満
D:2.5N/10mm未満
【0146】
(9)多層構造体の外観(デラミネーション)
前記(8)で得られた多層構造体を目視にて観察し、デラミネーションの有無の評価を行った。なお、発明者らの知見によれば、A層とB層との層間接着性、ストリークの有無、D層との層間接着性等がデラミネーションの発生に影響を与える。
A:デラミネーションが皆無に近かった。
B:デラミネーションがわずかに存在するが少なかった。
C:デラミネーションが著しかった。
【0147】
(10)端部での剥離数
実施例及び比較例で得られた積層体について、幅30cmに切出し、積層体の一方の面にD層(平均厚さ400μmの天然ゴム「TSR-20」)を重ね合わせた。これを環状にし、端部が重なるようにした状態で160℃、15分間の加熱をすることで架橋(加硫)反応を行い、環状の多層構造体である測定サンプルを作製した。かかる測定サンプルを10枚作製し、目視にて、端部において1mm以上の剥離が発生している箇所をカウントし、剥離数とした。なお、この剥離数が5個以下であれば、優れた端部接着性を有すると評価でき、2個以下であれば特に優れた端部接着性を有すると評価できる。
【0148】
(11)積層体の膜厚測定(平均厚さ)
実施例及び比較例で得られた積層体について、ミクロトームを用い、TD方向(幅方向)に切出した。切出された積層体の断面について、株式会社キーエンス製の「DIGITAL MICROSCOPE VK-X200」を用いて、断面観察を行い、任意に選択される10点の膜厚の平均を平均厚さとした。
【0149】
[実施例1]
A層用の押出機には、ガスバリア性樹脂(a)であるEVOH1「エバール(登録商標)F101B」をA層形成材料として供給した。B層用の押出機にはエラストマー(b)であるMA-SEBS1「タフテック(登録商標)M1943」とエラストマー(b’)であるSBS1「JSR TR2827」を質量比30/70で事前にドライブレンドしたものをB層形成材料として供給した。C層用の押出機には、接着性樹脂(c)であるSBS2「タフプレン(登録商標)A」をC層形成材料として供給した。これにより、3種21層の積層体を製造した。製造に使用した共押出機は21層フィードブロックを有し、かかる共押出機に190℃の溶融状態として各層の形成材料を供給し、共押出を行うことによって、3種21層構造の積層体を得た。なお、9層のA層と、10層のB層とが交互に積層され、かつB層のうちの最外のB2層の外面にC層が積層されるように共押出を行った。すなわち、得られた積層体の層構造は、C/B2/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B1/A/B2/Cであった。B層形成材料について、前記評価方法(1)及び(2)に従い、ヨウ素価及び極性基量を測定した。結果を表1に示す。また、B層形成材料及びC層形成材料について、JIS K 7244-4:1999(プラスチック-動的機械特性の試験方法 第4部:引張振動-共振法)に準拠して、下記条件にて、-30℃及び40℃における引張貯蔵弾性率E’を測定した。結果を表1に示す。
<引張貯蔵弾性率E’測定条件>
測定機器 :株式会社ユービーエム製「Rheogel E4000」
昇温速度 :3℃/min
基本周波数 :11Hz
歪み波形 :正弦波
測定開始温度:-120℃
測定治具 :引張
また、得られた積層体について、前記評価方法(3)~(7)に従い、酸素透過速度、A層とB層との層間接着性、屈曲後ピンホール数及び積層体の外観について評価した。結果を表1に示す。
【0150】
得られた積層体に対し、日新ハイボルテージ社の電子線照射装置「生産用キュアトロンEBC200-100」を使用して、加速電圧200kV、照射エネルギー150kGyの条件で電子線照射を行った。得られた電子線照射後の積層体に対し、前記評価方法(8)~(11)に従って、D層との接着性、外観、端部での剥離数及び積層体の膜厚測定を行った。評価結果を表1に示す。
【0151】
[実施例2~22、比較例1~7]
各層を形成する樹脂の種類、樹脂の量、各層の積層数及び各層の1層の平均厚さを表1~4に記載の通り変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~22及び比較例1~7の各積層体を製造し評価した。結果を表1~4に示す。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
【表3】
【0155】
【表4】
【0156】
表1~3に示されるように、実施例1~22の各積層体は、酸素透過速度が300mL/(m・day・atm)以下であり十分なガスバリア性を有し、屈曲後ピンホール数が5個以下であり十分な耐屈曲性を有していた。さらに、実施例1~22の各積層体から得られた多層構造体は、端部での剥離数が5個以下であり、優れた端部接着性を有していた。これに対し、表4に示されるように、比較例1~7は、少なくとも耐屈曲性(屈曲後ピンホール数)及び端部接着性(端部での剥離数)の一方が不十分であった。
【0157】
実施例間で比較すると、表1の実施例1~7に示されるように、極性基の含有量及びヨウ素価を調整することで、層間接着性、外観及び端部接着性等をより改善できることがわかる。表2の実施例8~10等から、所定範囲のヨウ素価及び引張貯蔵弾性率を有するC層を設けることで外観が良好になることがわかる。表2の実施例12~14等から、B2層の厚さを比較的大きくすることで、耐屈曲性が高まることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の積層体は、ガスバリア性、耐屈曲性等が要求されるゴム膜の材料などとして、例えば、空気入りタイヤのインナーライナー、アキュムレーターの内袋、空気入りボール、空気ばね等の材料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0159】
1 A層(ガスバリア層)
2 B層(エラストマー層)
3 C層(被覆層)
4 B1層
5 B2層
6 D層(ジエン系ゴム層)
10 積層体
11 端面
12 外面
20 多層構造体
21 端部
図1
図2
図3
図4
図5