(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】材料加工用機械のレーザビームの伝播経路に沿って配置された光学素子の動作状態を検出する方法、当該方法を実行するためのシステム、及び当該システムを備えるレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
B23K 26/70 20140101AFI20240617BHJP
B23K 26/382 20140101ALI20240617BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240617BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240617BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20240617BHJP
【FI】
B23K26/70
B23K26/382
B23K26/21
B23K26/00 M
B23K26/00 N
B23K26/00 Q
B23K26/38 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020164758
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】102019000017735
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】508138955
【氏名又は名称】アディジェ ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】マウリツィオ・スベッティ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・ガンドルフィ
(72)【発明者】
【氏名】マッティア・ヴァニン
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-71340(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0144895(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017131147(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/70
B23K 26/382
B23K 26/21
B23K 26/00
B23K 26/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料(WP)のレーザ加工、特に前記材料のレーザ切断、穿孔、又は溶接用の機械の加工ヘッド(14)内において、パワーレーザビーム(B)の光伝播経路に沿って配置された少なくとも1つの光学素子(16)の動作状態を検出する方法であって、
前記レーザビーム(B)は、予め決められた動作波長で、予め決められた横方向のパワー分布を有し、
前記加工ヘッド(14)内の前記レーザビーム(B)の前記光路は、複数のカスケード型の光学素子(20,22,16,34)を含み、
前記方法は、
a)前記光学素子(16)の上流側で、前記レーザビーム(B)の波長に対応する波長を有し、前記レーザビーム(B)の伝播方向とは反対の方向に、光路に対して同軸的に伝播する第1の光放射を示す第1の信号又はデータ(LS
C)を取得し、
b)前記光学素子(16)の上流側で、近赤外領域の波長を有し、前記レーザビーム(B)の伝播方向とは反対の方向に、前記光路に対して同軸的に伝播する第2の光放射を示す第2の信号又はデータ(TS
C)を取得し、
c)前記光路に関して前記光学素子(16)の上流側の表面の近傍の予め決められた容積領域(R2)内で、前記光学素子(16)によって赤外範囲の波長で放射される近接光放射を示す第3の信号又はデータ(IR
V)を取得し、
d)前記光学素子(16)の容積を通じて発射された音波の飛行時間の関数である第4の信号又はデータPSを取得し、
e)前記光学素子(16)によって放射される近接光放射を示す信号又はデータIRv、前記第2の光放射を示す信号又はデータTS
C、及び前記第1の光放射を示す信号又はデータLS
Cの関数として、前記光学素子(16)についての近接光放射の正規化された信号又はデータIRv
_normを計算し、
f)前記光学素子(16)についての近接光放射の正規化された信号又はデータIRv
_norm、及び前記光学素子(16)の容積を通る音波の飛行時間PSの関数である信号又はデータの関数として、前記光学素子(16)についての現実の近接光放射の信号又はデータIRv
_realを計算し、
g)前記光学素子(16)の動作状態を示す信号又はデータを、前記現実の近接光放射の信号又はデータIRv
_real、前記第2の光放射を示す信号又はデータTS
C、及び前記第1の光放射を示す信号又はデータLS
Cの関数として計算する、
ことを含む、方法。
【請求項2】
前記光学素子(16)についての近接光放射の正規化された信号又はデータIRv
_normを計算することは、次式
IRv
_norm=(IRv-k*TSc)/(h*LSc)
に従って、前記光学素子(16)によって放射された近接光放射を示す信号又はデータIRvと前記第2の光放射を示す信号又はデータTS
Cとの差と、前記第1の光放射を示す信号又はデータLS
Cに比例した信号又はデータとの間の比率を計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光学素子(16)についての現実の近接光放射の信号又はデータIRv
_realを計算することは、次式
IRv
_real=m*IRv
_norm-n*PS
に従って、前記近接光放射の正規化された信号又はデータに比例する信号又はデータIRv
_normと、前記光学素子(16)の容積を通る音波の飛行時間の関数である信号又はデータPSとの間の差を計算することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記光学素子(16)の動作状態を示す信号又はデータを計算することは、次式
SS=t*(TS
C/LS
C)+s*IRv
_real
に従って、現実の近接光放射の信号又はデータに比例する信号又はデータIRv
_realと、前記第2の光放射を示す信号又はデータTS
Cと前記第1の光放射を示す信号又はデータLS
Cとの間の比率に比例した信号又はデータとの和を計算することを含む、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記光学素子(16)の容積を通る音波の飛行時間PS(P)の関数である信号又はデータは、
前記音波の飛行時間に対する前記レーザビーム(B)のパワーの寄与を示す信号又はデータであり、
前記音波の飛行時間に対する前記レーザビーム(B)のパワーと前記光学素子(16)が対向する予め決められた容積領域(R1)内に存在するガスの圧力との共同寄与を示す測定可能な飛行時間PS
m(p,P)の信号又はデータ、或いは、前記光学素子が埋め込まれている容積内の前記光学素子(16)の上流側の領域(R2)と前記光学素子(16)の下流側の領域(R1)との間の圧力差を示す信号又はデータと、
前記音波の飛行時間に対する、前記光学素子(16)が対向している容積領域(R1)に存在するガスの圧力、或いは、前記光学素子(16)が埋め込まれている容積内の前記光学素子(16)の上流側の領域(R2)と前記光学素子(16)の下流側の領域(R1)との間の圧力差からの寄与を示す基準飛行時間信号又はデータPS
rif(p)と、
の間の差によって計算され、
前記基準飛行時間信号又はデータPS
rif(p)は、前記レーザビーム(B)の非存在下で行われた予備較正フェーズにおける前記光学素子(16)の容積を通るガスの圧力と音波の飛行時間との関係モデルに基づいて、前記光学素子(16)が対向する容積領域(R1)に存在するガスの現在の圧力、或いは、前記光学素子が埋め込まれている容積内の前記光学素子(16)の上流側の領域(R2)と前記光学素子(16)の下流側の領域(R1)との間の圧力差からの寄与を示す信号又はデータを取得することから予め決められている、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
加工される前記材料(WP)が存在しない状態で前記パワーレーザビーム(B)が放射される無負荷動作状態と、前記材料(WP)の加工領域に向けて供給されるアシストガスの流れの存在下で前記パワーレーザビーム(B)が前記材料(WP)の加工領域に衝突する作業動作状態とにおいて、前記a)からg)の工程を実行することを含む、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記無負荷動作状態は、アシストガスの流れの送達を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1、第2、第3、及び第4の信号又はデータは、無負荷動作状態でのレーザビーム(B)のパワーに依存するとともに、材料(WP)及び作業動作状態での加工ヘッド(14)と前記材料(WP)との間の相互位置の相対的な移動速度に依存する、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記光学素子(16)の動作状態を示す信号又はデータが前記光学素子(16)の理想的な状態を示すように前記光路の設置時に初期較正工程を行うとともに、前記光学素子(16)の動作状態を示す信号又はデータが前記光学素子(16)の現在の状態を示すように無負荷動作状態及び作業動作状態においてプログラムされたテストサイクルを行うことを含む、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
現在の状態における前記光学素子(16)の動作状態を示す信号又はデータが、予め決められた閾値よりも大きい値で、基準状態における前記光学素子(16)の動作状態を示す信号又はデータと異なる場合に、異常信号を発することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記作業動作状態における前記光学素子(16)の動作状態を示す信号又はデータが、予め定められた第2の閾値よりも大きい値で、前記光学素子(16)の無負荷動作状態における前記光学素子(16)の動作状態を示す信号又はデータと異なる場合に、異常信号を発することを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
現在のテストサイクルにおける前記光学素子(16)の動作状態を示す信号又はデータが、予め決められた第3の閾値よりも大きい値で、以前のテストサイクルにおける前記光学素子(16)の動作状態を示す信号又はデータと異なる場合に、異常信号を発することを含む、請求項9~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの光学素子は、前記レーザビーム(B)の予め決められた横方向のパワー分布を変更するように構成され、前記レーザビーム(B)をコリメート又は集束する反射光学素子(20;16)を含む、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの光学素子は、前記レーザビーム(B)を偏向させるための反射光学素子(22)を含む、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
前記反射光学素子(22)は、前記レーザビームの予め決められた横方向のパワー分布を変更するように構成された反射光学素子を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの光学素子は、入射レーザビーム(B)の横方向のパワー分布を変更しないように意図された、前記光路の空間の光学保護素子(34)を含む、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
材料(WP)のレーザ加工、特に前記材料のレーザ切断、穿孔、又は溶接用の機械の加工ヘッド(14)内において、パワーレーザビーム(B)の光伝播経路に沿って配置された少なくとも1つの光学素子(16)の動作状態を検出するシステムであって、
前記パワーレーザビーム(B)は、予め決められた動作波長で、予め決められた横方向のパワー分布を有し、
前記加工ヘッド(14)内の前記レーザビーム(B)の前記光路は、複数のカスケード型の光学素子(20,22,16,34)を含み、
前記システムは、
- 前記光学素子(16)の上流側に配置され、前記レーザビーム(B)の波長に対応する波長を有し、前記レーザビーム(B)の伝播方向とは反対の方向に、前記光路に同軸的に伝播する第1の光放射を検出するように構成された第1のセンサ手段(50)と、
- 前記光学素子(16)の上流側に配置され、近赤外領域の波長を有し、前記レーザビーム(B)の伝播方向とは反対の方向に、前記光路に同軸的に伝播する第2の光放射を検出するように構成された第2のセンサ手段(52)と、
- 前記光学素子(16)に関連付けられ、前記光路に関して前記光学素子(16)の上流側の表面の近傍の予め決められた容積領域(R2)内で、赤外領域で構成される波長を有する、前記光学素子(16)によって赤外範囲の波長で放出される近接光放射を検出するように構成された第3のセンサ手段(54)と、
- 前記光学素子(16)の容積内で前記音波を放射するように構成された音波放射手段(56)と、
- 前記光学素子(16)に関連付けられ、前記光学素子(16)の容積内を通る前記音波の飛行時間を検出するように構成された第4のセンサ手段(56)と、
- 請求項1~16のいずれか1つに記載の少なくとも1つの光学素子(16)の動作状態を検出する方法を実行するように構成された電子処理制御手段(66)と、
を備える、システム。
【請求項18】
前記電子処理制御手段(66)は、前記光学素子(16)が対向する容積の領域(R1)内に存在するガスの現在の圧力、或いは、前記光学素子(16)が埋め込まれている容積内の前記光学素子(16)の上流側の領域(R2)と前記光学素子(16)の下流側の領域(R1)との間の圧力差を示す圧力信号又はデータを取得するように構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記光学素子(16)に関連付けられ、前記圧力信号又はデータを提供するように構成された第5のセンサ手段(58)を備える、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記電子処理制御手段(66)は、前記機械の作業処理制御手段(64)から、現在の作業処理のパラメータを示す信号又はデータ、及び、進行中の製造及び加工中の被加工物を示す信号又はデータを取得するように構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
材料(WP)のレーザ加工、特に、前記材料(WP)の少なくとも1つの作業面で予め決められた横方向のパワー分布を有するレーザビーム(B)によって、前記材料のレーザ切断、穿孔、又は溶接をする機械であって、
- レーザビーム(B)を放射する発光源(10)と、
- 前記レーザビーム(B)を前記材料(WP)に近接して配置された加工ヘッド(14)に伝達するために、光路に沿って前記光源(10)から放射されたレーザビーム(B)を伝送するための手段(12a,12b,12c,12d)と、
- 前記加工ヘッド(14)内の伝播方向に沿って前記レーザビーム(B)をビーム出力部に向けて整形するための光路であって、複数のカスケード型の光学素子(20,22,16,34)を含む光路と、
- 前記加工ヘッド(14)と前記材料(WP)との間の相互位置の制御手段(64)であって、前記材料(WP)の加工経路に沿って集束された前記レーザビーム(B)を伝送するように構成されている制御手段(64)と、
を備え、
前記複数のカスケード型の光学素子(20,22,16,34)は、
- 前記材料(WP)に入射する光伝播軸に沿って前記レーザビーム(B)をコリメートする少なくとも1つの反射光学素子(20)と、
- 場合によっては、前記レーザビーム(B)を偏向させる少なくとも1つの反射光学素子(22)であって、コリメートされた前記レーザビーム(B)を前記材料(WP)への入射方向に向けて反射させるように構成され、場合によっては、前記レーザビーム(B)の予め決められた横方向のパワー分布を変更するように構成された、少なくとも1つの反射光学素子(22)と、
- コリメートされた前記レーザビーム(B)を前記材料(WP)の作業面の領域に集束する少なくとも1つ反射光学素子(16)と、
- 前記レーザビーム(B)の横方向のパワー分布を変更しないように意図された、前記光路の空間の少なくとも1つの光学保護素子(34)と、
を含み、
前記レーザビーム(B)を整形する光路の少なくとも1つの光学素子(16)の動作状態を検出する請求項17~20のいずれか1つに記載のシステムを備える、機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料、好ましくは金属材料のレーザ加工に関し、より具体的には、材料のレーザ加工のための機械、特に前記材料のレーザ切断、穿孔、又は溶接のための機械の改良に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、請求項1及び請求項15の前文にそれぞれ記載されているように、材料を加工するための機械、特に前記材料のレーザ切断、穿孔、又は溶接のための機械において、レーザビームの伝播経路に沿って配置された光学素子の動作状態を検出するための方法及びシステムに関する。
【0003】
更なる側面によれば、本発明は、レーザビームを整形するための光路の少なくとも1つの光学素子の動作状態を検出するためのシステムを備える、材料をレーザ加工するための機械に関する。
【0004】
以下の説明及び特許請求の範囲において「材料」、及び好適な実施形態において「金属材料」は、例えば、閉断面(中空の円形、長方形、又は正方形の断面など)、又は開断面(平断面、又はL字形、C字形、U字形の断面など)を区別することなく有するシート又は細長いプロファイルなどを有する任意の製品を識別するために使用される。
【背景技術】
【0005】
材料の工業的加工、特に金属のシート及びプロファイルの工業的加工において、レーザは、加工される材料とのレーザビームの相互作用パラメータ(より具体的には、材料へのレーザビームの入射の容積当たりのエネルギー密度、及び相互作用時間間隔)に依存する、多種多様な用途のための熱的ツールとして使用されている。
【0006】
例えば、金属材料に低エネルギー密度(表面1mm2あたり数十Wのオーダー)を長時間(秒のオーダー)照射することで硬化処理を行い、同じ金属材料に高エネルギー密度(表面1mm2あたり数十MWのオーダー)をフェムト秒又はピコ秒のオーダーの時間、照射することで光切断加工を行う。エネルギー密度の増加と加工時間の減少との中間の範囲では、これらのパラメータを制御することにより、溶接、切断、穿孔、彫刻、マーキング加工を実施することができる。
【0007】
穿孔及び切断加工を含む多くの加工においては、レーザビームと材料との間の相互作用が行われる加工領域に、溶融物の推進という機械的機能、燃焼を補助する化学的機能、又は加工領域の周囲環境からの遮蔽という技術的機能を有するアシストガスの流れを提供することが必要である。
【0008】
材料のレーザ加工の分野において、レーザ切断、穿孔、及び溶接は、同一の機械によって実施され得る加工である。当該機械は、材料の少なくとも1つの作業面において予め決められた横方向のパワー分布を有する高出力集束レーザビーム、典型的には1~100000kW/mm2のパワー密度を有するレーザビームを生成するように構成され、材料に沿ったビームの入射方向及び位置を制御するように構成されている。材料に対して実行される可能性のある異なるタイプの加工間の違いは、使用されるレーザビームのパワー及びレーザビームと加工される材料との間の相互作用時間に実質的に起因している。
【0009】
先行技術に係るレーザ加工機は、
図1及び
図2に示され、例えば、同じ出願人による欧州特許第3272453号に記載されている。
【0010】
図1は、空気中にレーザビームの光路を有するCO
2レーザに基づく工業的加工のための機械を模式的に示している。当該機械は、シングルモード又はマルチモードのレーザビームBを放射するように構成されたCO
2レーザ発生装置のような発光源10と、材料WPに近接して配置され参照符号14で全体として示された加工ヘッドに向けてビームを伝送するための光路に沿って、前記発光源によって放射されたレーザビームを伝送するように構成された複数の反射ミラー12a,12b,及び12cとを備えている。加工ヘッド14は、金属材料に入射する光伝播軸に沿ってレーザビームを集束するように構成された集束レンズを一般的に有するレーザビーム用の光学集束系16を備えている。ノズル18は、集束レンズの下流に配置され、材料の作業面の領域に向けられたレーザビームを横断させる。ノズルは、図示しない対応する設備によって注入されたアシストガスのビームを材料の加工領域に向けるように構成されている。アシストガスは、達成可能な被加工物と同様に、加工(穿孔又は切断)の実行を制御するために使用される。例えば、アシストガスは、鉄の酸化のような金属との発熱反応を促進する酸素を含んでもよい。酸素は、発熱反応によって様々な種類の鉄の酸化物を生成し、レーザビームによって放射されたものと共に、加工の動的平衡を維持することに寄与するエネルギーを材料に放出し、切断速度を増加させることを可能にする。或いは、窒素のような不活性ガスは、材料の溶融には寄与しないが、溶融した材料自体の推進機能を果たし、加工プロファイルの端部での不要な酸化から(金属)材料を保護し、溶融物の飛沫から加工ヘッドを保護し、また、材料上に生成された溝の側面を冷却するために使用され、熱的に変化したゾーンの範囲を制限することができる。
【0011】
図2は、光ファイバ内にレーザビームを放射する工業加工用の機械を模式的に示している。これは、例えば、イッテルビウムドープファイバレーザ、或いは、シングルモード又はマルチモードのレーザビームを放射するように構成されたダイレクトダイオードレーザなどの、レーザビームを伝送ファイバに発射可能なレーザ発生装置のような発光源10と、当該発光源によって放射されたレーザビームを材料WPに近接して配置された加工ヘッド14に向けて伝送するように構成された光ファイバケーブル12dとを備えている。加工ヘッドにおいては、それ自体に制御された拡散性を有するファイバから出射されるレーザビームは、コリメート屈折光学系20によってコリメートされ、反射光学系22によって反射された後、一般的に集束レンズで構成される光学集束系16を通り、発光ノズル18を通過して材料WPに入射する光伝播軸に沿って集束される。
【0012】
図3は、従来技術の一実施形態に係る加工ヘッド14を例示している。参照符号30は、Bで示された、レーザビームが伝送される円筒状又は円錐状のセクションを有する管路を示している。発光源10によって生成されたレーザビームBは、複数の反射部を有する空気中又は光ファイバ中の光路を通って加工ヘッドに伝送され、その光伝播軸を加工される材料に入射する方向に偏向させる反射偏向素子32上でコリメートする。光学集束系16は、反射偏向素子32とその下流に配置された保護ガラス34との間の中間にあり、溶融物のいかなる飛沫からも集束系を保護するように構成されており、ビームの伝播方向に対して横方向(軸X-Y)及びビームの伝播方向(軸Z)に対してレンズの位置を較正するために機械的調整機構38が結合されたレンズホルダユニット36を備えている。
【0013】
第1の近似として、光学的集束系の下流側にある理想的なレーザビーム、すなわち平行ビームで理想的にコリメートされたレーザビームは、そのウエストにおける制限されたサイズの集束スポットに集束される。一般に、工業的な加工用途では、ビームの入射材料の壁及びビームの出力材料の壁に対して、ビームのウエストに対応する横断面の位置が10分の1ミリメートル単位で正確に定義された状態で、最適な加工条件に到達する。
【0014】
通常コリメートされたレーザビームのパワー密度分布は、典型的には、シングルモードのビームの場合には、回転対称性を有するガウス形状であり、すなわち、ビームの長手方向軸(軸Z)の周りにパワーが集中し、周辺のスカートに沿って徐々に減少するか、或いは、マルチモードのビームの場合には、回転対称性を有するガウス形状の包絡線として記述されてもよい。
【0015】
高出力レーザアプリケーションの分野では、第1の近似的にガウスビームとして記述されるシングルモード又はマルチモードのレーザ放射ビームの使用は、技術的な制御のニーズに対応している。実際、ガウスビームは、少ないパラメータで容易に記述することができ、また、パワー分布を変更せずに伝播する特性を有するため、発光源から加工機のヘッドまでの光搬送路に沿った伝播において容易に制御可能である。このため、遠距離伝播条件では、半径値と発散値とで記述してもよい(この場合、幾何光学近似が使用されてもよい)。集束ビームの近距離伝播条件では、幾何学的光学近似がもはや有効ではない加工軌跡に沿って、ビームは、その各断面において、依然として、パワー分布のガウス形状を維持する。
【0016】
逆に、高次の横モードを含むレーザビームは、非ガウス形状のパワー分布を有する。典型的には、これらの条件は、ガウス分布から始まるビームの形状を変更する屈折光学系(透過型の光学系、すなわちレンズ)又は反射光学系(反射型の光学系、すなわちミラー)を使用することによって得られる。
【0017】
ビームの横方向のパワー分布は、例えば、材料の大きな厚さの切断動作のためのガウス分布よりも広いパワー分布に従って(「大きな厚さ」とは、近赤外の波長のレーザに対する、約4mmから約25mmの間の厚さを意味する)、又は、薄い厚さの高速切断動作のためのガウス分布よりも狭いパワー分布に従って(「薄い厚さ」とは、4mm以下の厚さを意味する)、又は、非回転対称性を有するパワー分布の他の選択可能な形状に従って、リアルタイムで制御されてもよい。
【0018】
例えば、アシストガスの制御された分布に関連して、又は、従うべき加工経路や実行されるべき加工の種類に応じて、材料加工領域上でのガウス形態以外及び回転形態以外の対称性を有するレーザビームの横方向のパワーの伝播方向や分布の形態を制御することは、加工に利点をもたらす。例えば、切断工程の進行方向におけるアシストガスの流れの対称軸に対するレーザビームの光軸の位置の不均衡は、加工速度の観点でより良い性能を可能にし、より低いガス消費量を確保する。レーザビームのパワー分布を制御することは、場合によってはビームの回転対称性を崩して、加工軌跡に関連して必要なところでパワー分布を局所化又は拡大することを可能にし、レーザのパワーの一部を主加工の補助的な動作のために利用できるようにすることができる。
【0019】
示された利点を得るために、レーザビームの伝播方向の制御又はレーザビームの横方向出力の分布の形態の制御が、可能な限り正確で再現性のあるものでなければならないことは明らかである。このため、レーザビームの伝播経路に沿って配置された光学素子、より具体的には、機械の加工ヘッドに配置されたレーザビームを整形するための光学素子が、構造的に無傷であり、表面不純物がないことが必要である。これらの素子は、実際には、特に高出力材料のレーザ加工、すなわち700W以上のレーザビーム出力を有するレーザ加工の応用分野において、不利な物理的動作条件及び環境条件にさらされることによる損傷又は単純な摩耗の対象となる。例えば、加工ヘッドに入射するビームのコリメートレンズ、ビームの任意の偏向ミラー、及び集束レンズは、加工用レーザビームの入射によって決定される高い動作温度にさらされ、それによって光学素子の容積内に亀裂又は構造的な変形が生じる可能性がある。一方、光路からのレーザビームの出力部に設けられ、アシストガスを供給するためのノズルに対向する光学系の光学保護素子は、加工用レーザビームの入射によって決定される高い動作温度にさらされることを超えて、ノズルチャンバ内に存在する高い環境圧力にさらされる。ノズルチャンバは、光学素子が対向する容積領域であり、より好ましくは、光学素子が埋め込まれているヘッドの容積内において、光学素子の上流側の領域(理想的には周囲圧力)と光学素子の下流側の領域(アシストガスの圧力(典型的には1~25バール))との間の高い圧力差に対応する容積領域である。また、加工される材料に対向する光学保護素子の表面は、加工中に溶融した材料の噴流にさらされ、これにより汚れが生じて不透明化する。
【0020】
レーザビームの伝播経路に沿って配置された光学素子の構造的及び/又は表面的な性質、すなわち素子の構造的欠陥(非完全性)及び表面不純物の状態の変化状態又は動作状態は、素子の光学的機能性、素子を通過する加工用レーザビームの幾何学的及び光学的特性、並びに一般的な機械の動作を危うくするであろう。例えば、このことは、機械の光学系が時間の経過とともにレーザビームを既知の一定の方法で集束しなくなるように、集束の程度及び位置に直接影響を与えるであろう。
【0021】
これらの理由から、レーザ加工の分野では、許容できない動作状態に気づかず、(可能であれば)素子自体又は(妥協した)加工結果の単純な目視検査によって素子を交換する必要性に気づくのではなく、加工の結果が未だ許容される許容範囲を超えていない場合に、できるだけ早く光学素子の状態又は動作状態を判断できることが望ましい。これにより、加工ビームのパワー分布や加工される材料への入射スポットの擬似的な変化なしに、加工ビームが精密に制御されている無傷でクリーンな光学素子の理想的な状態に近い動作状態を復元することができる。
【0022】
米国特許出願公開第2016/377548号明細書には、半導体材料のサンプル中の欠陥を光学分析によって検出して分類するためのシステム及び方法が記載されている。
【0023】
特開昭59220294号公報には、加工動作の制御のために、レーザ加工を受けた被被加工物から発生する音波を検出することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、材料のレーザ加工用機械において、レーザビームの光伝播経路に沿って配置された少なくとも1つの光学素子の動作状態を検出する方法を提供することを目的とし、特に、全ての動作状態において正確な加工結果を得るために、高速且つ客観的に少なくとも1つの光学素子の動作状態を検出する方法を提供することを目的とする。
【0025】
本発明の更なる目的は、機械の停止及び加工ヘッドの光学系の目視又は実験室での検査を必要とせずに、材料のレーザ加工中に、レーザビームの光伝播経路に沿って配置された少なくとも1つの光学素子の動作状態をリアルタイム且つ連続的に検出する方法を提供することにある。
【0026】
本発明によれば、これらの目的は、請求項1に記載された特徴を有する少なくとも1つの光学素子の動作状態を検出する方法によって達成される。
【0027】
特定の実施形態は、従属請求項の主題を形成し、その内容は、本明細書の一体的な部分として理解されるべきである。
【0028】
本発明の更なる目的は、少なくとも1つの光学素子の動作状態を検出するシステム及び請求項に記載の材料のレーザ加工用機械である。
【課題を解決するための手段】
【0029】
要約すると、本発明は、透過型であれ反射型であれ、例えば、素子の容積が受ける機械的応力(加工用レーザビームの伝播軸に対して横方向の変形)、素子の露出面における機械的表面張力(加工用レーザビームの伝播軸方向の軸方向の変形)、素子の動作温度状態、及び素子の不透明度を含む光学素子の容積状態や表面状態が、素子による加工用レーザビームの後方反射又は拡散、素子の周囲の空間領域における素子による熱放射、及び素子の容積内での音波の伝播現象から推論できることを考慮した結果として得られるものである。
【0030】
本発明によれば、材料をレーザ加工する機械、特にレーザ切断、穿孔、又は溶接用の機械、より具体的には、機械の加工ヘッド内でビームの伝播方向に沿って配置された加工用レーザビームを整形する光学素子への上記考慮事項の適用は、加工ヘッドを通るレーザビーム伝播部の上流側にセンサ手段を配置するとともに、監視対象となる少なくとも1つの光学素子にセンサ手段を配置することによって達成される。また、上記考慮事項の適用は、好ましくは、上流から下流へ、光学コリメーション系、ビームを反射及び整形する光学系、光学集束系、光路からのレーザビームの出力を外部環境から保護する光学系、例えば、その構造及び表面状態が初期最適状態であるときに、入射ビームの横方向のパワー分布を変更しないように意図された光路の環境を保護する光学素子を含む、加工ヘッド内のレーザビームの伝播経路内に配置された全ての光学素子にセンサ手段を配置することによって達成される。
【0031】
加工用レーザビームの後方反射又は拡散、それを取り囲む空間領域における素子による熱放射、及び、1つ又は各光学素子に関連するバルク音波の伝播を示す物理量の測定は、好適には、伝播経路に沿ったセンサ手段の位置に応じた、考慮されている光学素子を通る加工用レーザビームの光路の状態のサイン、及び場合によってはその上流側の状態のサインを取得することを可能にする。
【0032】
従って、本発明は、光路の異なる位置で、光路に沿って介在する1以上の光学素子の動作状態を示す性質の異なる検査信号を検出し、光学素子に関する情報に重畳して、連続性又は予め決められた周期性を持ってリアルタイムで、加工情報と加工される材料の性質に関する情報とを取得し、この情報をリアルタイムで組み合わせるとともに加工から得られる情報を光学素子の情報から分離することによって処理し、監視経路の一部を形成する光学素子のセットの摩耗及び清浄度の状態を知らせるレベルの合成データを生成する、という原理に基づいている。
【0033】
前述したレベルは、例えば、「素子が正しく配置されていない」、「素子が配置されており、完全な状態にある」、「素子が修復可能な摩耗又は汚れの状態にある」、「素子が修復不可能な摩耗又は汚れの状態にある」、「直接且つ即時の介入を必要とする重大な破損前の状態にある」などの動作状態を示す機械や作業者が反応しなければならない信号に直接関連してもよい。
【0034】
好ましくは、検査信号の取得及び動作状態を示す合成データの結果として生じる加工は、例えば、新しいプロファイル又は新しいシートの各装填時、被加工物の加工の終了時、又は被加工物の幾何学的加工の終了時など、製造率と互換性のある周期性をもって行われる。
【0035】
また、本発明の方法によって実行される自動制御は、遅い信号(すなわち光学素子内の熱処理に直接関連する場合には10Hz)から速い信号(すなわち光学素子を通過する際のレーザビームの拡散などの光放射に関連する場合には10kHz)までの動作周波数で、例えば25μs毎に信号をサンプリングし、500μs毎にその累積処理を行うことによって、リアルタイムで実行されてもよい。
【0036】
本発明の方法を実施するように構成された制御システムは、従来技術のシステムとは異なり、加工ヘッドに統合されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明の更なる特徴及び利点は、非限定的な例として、添付の図面を参照して与えられるその実施形態の以下の詳細な説明において、より詳細に説明される。
【0038】
【
図3】先行技術に係るレーザ加工機の加工ヘッドの構造の一例を示す図である。
【
図4】本発明の好適な実施形態に係るレーザ加工機の加工ヘッドの複数の光学素子の動作状態を検出するシステムを模式的に示す図である。
【
図5】本発明の方法を実施するための光学素子に関連したセンサの配置を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の方法を実施する際に測定又は計算された量の間の関係を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の方法を実施する際に測定又は計算された量の間の関係を模式的に示す図である。
【
図8】本発明の方法に係るレーザ加工機の加工ヘッドの光学系の動作状態の基準データベースを確立するために実行される動作のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1~
図3は、先行技術を参照して前述されており、それらの内容は、本発明の教示に係る方法を実施するための制御された加工機の実施形態に共通するものとして、本明細書に参照される。
【0040】
本発明の好適な実施形態に係る例として、レーザ加工機の加工ヘッド内の複数の光学素子の動作状態を検出するシステムが、
図4に概略的に示されている。図において、
図1~
図3に図示されたものと同一又は機能的に等価な部材又は構成要素は、前述した図面の説明において既に使用された同じ参照数字を用いて示されている。
【0041】
図4のシステムは、伝送手段にレーザビームを放射するように構成されたレーザ発光源10を示している。伝送手段は、例えば、材料WPに近接して配置された加工ヘッド14に向けて光源によって放射されたレーザビームを伝送するように構成された光ファイバ12dである。
【0042】
光源10には、図面において参照符号50で示された第1の同軸レーザ後方反射センサと、図面において参照符号52で示された第2の同軸熱後方放射センサとが結合されている。光源10は、例えば、複数のレーザビームを伝送ファイバ12d上で、加工ヘッドを通る同じ伝播方向に沿って結合して発射するように設計された光源の光コンバイナ装置に関連付けられている。これらのセンサは、伝送ファイバ12d上で収束するそれぞれの光路の端部に配置されている。光コンバイナ装置に結合されることに代えて、これらのセンサは、加工用レーザビームが横断するダイクロイックミラーの背部に配置されてもよいし、光路から後方放射される信号を収集するための任意の方法を介して配置されてもよい。当該任意の方法は、光源内に配置された伝送ファイバの端部に位置決めされるか、或いは、直列に接続された複数のファイバの場合には接続部材内に位置決めされた、そのような信号の収集装置を使用する。
【0043】
加工ヘッド14には、コリメートレンズ20、ビーム反射整形ミラー22、集束レンズ16、及び光学保護素子34を有する光学素子のセットに属する少なくとも1つの監視される光学素子又はシステムに関連して、赤外線放射センサ54、圧電センサ56、及び少なくとも1つの圧力センサ58を含む参照符号531,...,53nで模式的に示された各センサが配置されている。好ましくは、前述したセンサは、完全な監視を可能にするために、加工ヘッド14の全ての光学部材に関連して配置される。
【0044】
図5は、レーザビームを集束するための光学素子16(例えば、集束レンズ)と関連したセンサ54,56,58の配置をより詳細に示している。赤外線放射センサ54は、レーザビームの伝播方向に応じて光学素子16の上流側の表面に近接した容積領域R2内に配置されている。赤外線放射センサ54は、光学素子が横たわる面(すなわち、平坦であればその表面)に対して傾斜した向きで、光学素子が対向する容積領域内で拡散された放射を、必ずしもではないが好ましくは光路を受け入れる導管の内壁からもインターセプトすることができるように、光学素子に対して接触せず且つそれを受け入れる容積に応じた十分な距離を置いて配置される。同等の実施形態においては、領域の全体的な表面及び容積によって放射される赤外線放射を複合的に検出するように、複数の赤外線放射センサ54が領域内に配置されてもよい。圧電センサ56は、光学素子の端部に接触して配置され、光学素子の容積内で伝達される音波、特に超音波のインパルスを検出できるように配置される。音波は、例えば、光学素子と一体化された変換手段によって放射され、正反対の又は周辺の飛行経路に従って素子の端部及び底面によって後方反射される。圧力センサ58は、光学素子が対向する容積R1の領域に配置され、本実施形態においては、これに限定されるものではないが、光学素子の下流側に配置されている。圧力センサ58は、配置されるであろう領域内の圧力が大気圧又は予め設定され制御された圧力であることが知られている場合には無くてもよい。あるいは、一対の圧力センサが、光学素子が埋め込まれている容積内で、光学素子の上流側の領域R2及び光学素子の下流側の領域R1にそれぞれ配置されてもよい。
【0045】
図4に戻って参照すると、加工ヘッド14は、参照符号60で全体として示された信号アドレッシングユニットの形態で、センサ53
1,...,53
nによって放出された信号を収集する手段にも関連付けられている。
【0046】
第1の同軸センサ50及び第2の同軸センサ52、並びに信号アドレッシングユニット60は、フィールドバス62に面している。このフィールドバス62は、予め設定された加工軌跡に沿って加工用レーザビームの印加を制御するように設計された作業処理制御手段64にも面している。予め設定された加工経路に沿って加工用レーザビームの印加を制御することは、予め設定された作業モデル又はプログラムを参照して、(切断用途では)アシストガスの流れの送達を制御すること、及び、予め設定された作業領域に向けてレーザビームの予め設定されたパワー分布の照射を制御することを含んでいる。予め設定された作業モデル又はプログラムは、加工ヘッド及び/又は加工される材料の移動指示の形で取得された加工軌跡の情報、及び、加工軌跡の関数として、光ビームのパワー分布、レーザビームのビームパワー強度及び活性化時間を示す物理的な加工パラメータに従う。処理手段64は、機械に搭載された単一の加工ユニットに統合されてもよいし、例えば加工ヘッドを含む機械の異なる部分に配置された加工モジュールを含む分散した形態で実装されてもよい。
【0047】
フィールドバス62は、データ記録メモリDBに接続され、センサ及び作業処理制御手段64によって放出された信号を処理するように設計され、監視光学素子の動作状態を示す信号又はデータを計算する産業用コンピュータなどの処理手段66に、読み取り時に面する。
【0048】
より具体的に且つ少なくとも1つの光学素子の動作状態を決定する方法のより詳細な議論の目的のために、複数のセンサによって放射される信号の性質及びそれらが提供する情報を以下に説明する。
【0049】
同軸レーザ後方反射センサ50は、レーザビームの光伝播経路の上流側、及び、1以上の監視光学素子の上流側で、レーザビームの波長に対応する波長を有し、レーザビームの伝播方向とは反対の方向に光路に対して同軸的に伝播する光放射を示す信号又はデータLSCを取得するように構成されている。これは、レーザビームの伝播軸に沿って介在される光学素子によって製造工程中に後方反射される放射線であって、理想的には完全に透明であるもの、例えば、光学素子の内部容積内で、クラックなどの拡散又は微小吸収中心(micro-absorption centers)によって生成される放射線である。
【0050】
同軸熱後方放射センサ52は、レーザビームの光伝播経路の上流側、及び、1つ以上の監視光学素子の上流側で、レーザビームの伝播方向とは反対の方向に光路に対して同軸的に伝播する近赤外領域(好ましくは1.2μmより大きい波長)を有する光放射を示す信号又はデータTScを取得するように構成されている。これは、いわゆる「熱帯域」又は熱赤外帯域において、それらを横切る加工用レーザビームのエネルギーに起因し、レーザビームの伝播軸に沿って介在する光学素子の表面によって製造工程中に放射される放射線である。
【0051】
赤外線放射センサ手段54は、加工用レーザビームの光路に関して上流側に対向する光学素子の表面に近接する容積領域R2内で、レーザビームの伝播軸の外側で、赤外スペクトル範囲で構成される波長で、関連付けられた光学素子によって放射される近接光放射を示すボリューム信号又はデータIRVを取得するように構成されている。このような光放射は、例えば、熱効果に起因する放射であり、光学素子によって放射され、容積領域R2内で容積壁によって拡散される。この放射は、レーザビームの印加の結果として放射され、光学素子の清浄度に関する情報を伝えるだけでなく、レーザビームがオフにされたときにも、光学素子の「周囲温度の指標」を実質的に伝える。
【0052】
圧電センサ56は、光学素子の容積を通じて発射された音波、特に超音波の飛行時間の関数である信号又はデータPSを取得するように構成されている。前記飛行時間は、光学素子の容積の完全性の状態及び素子の温度に依存しており、それらは光学素子を通じて入射する加工用レーザビームのパワー分布及び素子の不純物(表面の汚れ、黒化)に依存している。具体的には、圧電センサ56は、超音波の速度を検出するように構成されている。
【0053】
圧力センサ58は、光学素子の少なくとも1つの表面が対向する領域の容積に充満するガスの圧力p、例えば、切断加工におけるアシストガスのノズルのチャンバのシールとして機能する光学保護素子の下流側の領域のガスの圧力を示す信号又はデータを取得するように構成されている。また、圧力を示す信号又はデータは、センサのない隣接領域の圧力が既知又は予め定められている場合には、素子の上流側の領域と下流側の領域との間の圧力差を示す差動信号又はデータであってもよい。一対の圧力センサが設けられている別の実施形態では、光学素子が埋め込まれている加工ヘッドの容積内において、光学素子の上流側の領域R2及び下流側の領域R1に、それぞれ、信号アドレッシングユニット60又は処理手段66が、素子の上流側の領域と下流側の領域との間の圧力差を計算するように構成されている。
【0054】
作業処理制御手段64は、進行中の作業処理のパラメータを示す信号又はデータをリアルタイムで供給するように配置されている。この信号又はデータは、少なくとも且つ必然的に、単一の光学素子に関連して、以下のものを含む。
- 加工用レーザビームによって制御される光パワーP;
- 光学素子が対向する領域又は光学素子が埋め込まれている領域に供給されるガスの公称圧力pnom、例えば、前記圧力を調節するための比例弁によって制御されるアシストガスの公称圧力(光学素子が大気圧で埋め込まれている場合、公称圧力は既知のものとして与えられ、測定されなくてもよい)
- 使用される加工ツール、及び、加工される材料からの切断ノズルのスタンドオフ距離(これが重要である場合)、レーザビームの集束スポットの軸方向の位置、現在の加工領域における材料の表面に対して垂直な方向に対するレーザビームの入射角度などの、加工時に制御される一連の作業パラメータを一意的に識別するように構成されたコードIDtool;及び
- 作業動作状態における加工ヘッドと材料との間の相互位置の相対的な移動速度vfeed
【0055】
作業処理制御手段64は、更に、進行中の製造及び加工されている材料の部分を示す信号又はデータをリアルタイムで供給するように配置されている。これらの信号又はデータは、少なくとも且つ必然的に、単一の光学素子に関連して、以下のものを含む。
- 加工される材料及びその表面状態、特に表面の粗さを識別するコードIDmat;
- 加工中の材料の厚さTh;及び
- IDtoolで識別されるツールのタイムフェーズの仕様を表す加工ステップPh(n)、例えば、切削の場合には、ブレークスルー穿孔、アプローチセグメントの切削、直線軌道上及び局所的な平坦面の切削、非平坦面の切削、前記表面に対して直交しない切削との区別、ブレークスルー穿孔の場合には、同じ穿孔内で分割されるサブステップの1つ、例えばスタンドオフ高さ、焦点位置、又はパワーを変更するサブステップ、直線軌道上及び局所的な平坦面での切削の場合には、加速開始及び一定速度での走行(cruise)のサブステップ
【0056】
図6、
図7、及び
図8を参照して、本発明の現在の好適な実施形態に係る処理手段66によって実行される、少なくとも1つの光学素子の動作状態を検出する方法が記載されている。
図6及び
図7は、本発明の方法を実施する際に測定又は計算された量の間の関係を、信号依存性及び信号処理の流れの観点からそれぞれ概略的に表したものである。楕円形のボックスに示された量は測定された量であり、長方形のボックスに示された量は表の量であり、平行四辺形のボックスに示された量は計算された量である。
図6は、一般的な光学素子に対する測定された量又は計算された量の間の関係を示しており、
図7は、複数の光学素子に対して前述した関係が繰り返されることを明確に表現するものであり、論理的/数学的関係が展開される複数の平行面で表されている。
図8のフローチャートは、現在の光学系の動作状態との比較として使用される、加工ヘッドの光学系の動作状態の基準データベースを確立するために実行される動作の合成的な高レベルのプレゼンテーションである。好ましくは、基準データベースは、特別に設計された既知の材料のサンプル一式に本方法を適用することによって得られる。
【0057】
一般的に、本方法は2つのステップを含む。第1のステップでは、加工される材料がない状態で、レーザ発光源がアクティブであり且つパワーレーザビームが機械の加工ヘッド内の光路を伝播する、「無負荷」状態での動作中にセンサの応答が取得されて処理される。第2のステップでは、前記パワーレーザビームが材料加工領域に衝突する作業動作状態で、センサの応答が取得されて処理される。被加工物の作製中、すなわち作業動作状態の間、リアルタイム制御を確実にするために、2つのステップは、示された順序で、すなわち、最初に無負荷動作状態で実行され、次に無負荷動作状態で取得されたデータが表形式で利用可能であるとき、作業動作状態で実行されなければならない。
【0058】
切断作業処理の場合、作業動作状態では材料の加工領域に向けられるアシストガスの流れの放出は、無負荷動作状態でも作業動作状態でも可能である。
【0059】
製造処理中の光学素子の品質を示す合成パラメータを構成する少なくとも1つの光学素子の動作状態を示す信号又はデータは、材料の加工中のセンサの応答の処理値、及び無負荷動作状態でのセンサの応答の処理値から得られる。
【0060】
センサの応答は、後の処理のためにログに記録されて保存されてもよいし、リアルタイムで処理されてもよい。
【0061】
好ましくは、光路の設置時(例えば、機械の新しい加工ヘッドの設置時又は光学素子の交換時)に初期較正工程が実施される。その際、光学素子の動作状態を示す信号又はデータは、光学素子の理想的な状態を表すものである。例えば、機械からの製造が停止されているときにスケジュールされた規則性を有する無負荷動作状態において、及び、光学素子の動作状態を示す信号又はデータが材料加工中の光学素子の現在の状態を表すものである作業動作状態において、スケジュールされたチェックサイクルが実行される。
【0062】
便利なことに、検証サイクルは、製造速度によって調整され、例えば、各形状の変更時、製造される1つの被加工物と他の被加工物との間、チューブや板金などの原材料の変更時、又は製造単位の変更時など、作業者に自由な選択肢として提供される。また、時間間隔が設けられてもよい。この場合、機械は、異なる検証期限の中から最初のものを選択する。
【0063】
更に、より特定の期間において、無負荷動作状態では、完全な光路を表す同軸センサ50,52の信号又はデータに関連して、及び、個々の光学的要素を表す容積放射センサ54、圧電センサ56、及び圧力センサ58の信号又はデータに関連して、前述した順序又は他の可能な順序で、以下の動作が実行される。以下の式において、添え字表記「0」は、無負荷動作状態を示す。
【0064】
作業処理制御手段がレーザ発光源に要求するレーザ光のパワーPと、レーザ後方反射センサ50で検出された信号LSCとの間には、相関曲線が較正されている。この相関曲線は、レーザビームのパワーPをパワー勾配に従って予め決められた最小値と最大値との間で制御することにより得られる。この相関曲線は、
LSC(P)0=f(P) (1)
と定義され、処理手段66のメモリDBに保存される。
【0065】
比較により、無負荷動作状態又は作業状態において、後続の測定で異なる読み取り値(典型的にはより高い値)が得られた場合、それらは光路による後方反射又は拡散が大きいことを示し、光路自体の一般的な摩耗の状態を示す。閾値の比較により、検出された信号を、光チェーンの状態の一般的な指標に関連付けることができる。しかしながら、摩耗の問題が報告された場合、どの光学素子又はどの光学素子のグループが影響を受けているかを知ることが重要である。
【0066】
同様に、作業処理制御手段がレーザ発光源に要求するレーザビームのパワーPと、熱後方放射センサ52で検出された信号TSCとの間には、相関曲線が較正されている。この相関曲線は、レーザビームのパワーPをパワー勾配に従って予め決められた最小値と最大値との間で制御することにより得られる。この相関曲線は、
TSC(P)0=f(P) (2)
と定義され、処理手段66のメモリDBに保存される。
【0067】
「無負荷」動作状態であることから、収集された熱放射は全て光学素子の加熱により、光学系自体によって生成されると想定される。TSC信号は、その性質上、光学素子によって放出される熱放射が、センサの下流側の光路全体に沿って統合されるため、全体的な情報を与えるにすぎないかもしれないが、それは、光コンバイナ装置に統合される場合、直列に接続された複数のファイバの等価接続素子に統合される場合、又はレーザビームの経路の上流側に配置される光源内の伝送ファイバの端部に配置された収集装置に統合される場合には、加工ヘッド内の光路全体である。
【0068】
レーザ後方反射信号及び熱後方放射信号は、後続の無負荷測定のための比較の基礎として機能するために保存される。
【0069】
解析される更なる信号は、加工用レーザビームの光路に関して上流に向けられた光学素子の表面に近接する容積領域において、赤外スペクトル範囲内の波長で、関連付けられた光学素子によって放出される近接光放射を示す容積信号又はデータIRvである。
【0070】
このような近接光放射は、複数の反射部を介してセンサに到達する信号の収集を通じて、センサが指向している光学素子、特にその表面についての情報を通知するとともに、光学素子のすぐ近傍の情報を通知する。また、この場合も、作業処理制御手段がレーザ発光源から要求するレーザビームのパワーPと、赤外線放射センサ54によって検出される信号IRvとの間で相関曲線が較正される。この相関曲線は、レーザビームのパワーPをパワー勾配に従って予め決められた最小値と最大値との間で制御することにより得られる。この相関曲線は、
IRv(P)0=f(P) (3)
と定義され、処理手段66のメモリDBに保存される。
【0071】
この曲線は、センサがあまりにも多くの情報を重ね合わせて「見ている」という事実に起因する不正確さに煩わされる。情報の重ね合わせの限界を克服し、センサ54によって直接観察される光学素子のみを基準とする排他的な情報を得るために、信号IRvは、適当なk及びhを有する次の関係式に従って、TScの再スケーリングされた値で減算し、その結果をLScの再スケーリングされた値で除算することによって正規化される。
【0072】
IRv_norm(P)0=(IRv(P)0-k*TSc(P)0)/(h*LSc(P)0) (4)
【0073】
TSc及びLScの値は、信号TSc、信号LSc、及び信号IRvの異なる検出スケール、後方反射された放射の光カップリングの変動、又は他の光ファイバからのスプリアス信号成分を考慮に入れるために、正規化の目的で再スケーリングされている。k及びhの値は、光路の最初の「工場」特性化工程の間、クリーンルーム内で標準化可能な最大値と考えられる光学素子の清浄度の状態から出発して、単一の検体の信号のばらつきに関係なく、「ヘッドモデル」の同じ構成に対して、前述の相関曲線が一意で普遍的であるような方法で選択されるのがよい。
【0074】
このようにして、光路の残りの部分に関する情報が独立して測定され、最小化されているので、最も近い光学素子の摩耗状態と清浄度との相関性が高い信号が得られる。
【0075】
しかしながら、このようにして得られる信号は、主に分析対象の光学素子の表面の発光によって生成されるため、完全な情報ではない。
【0076】
光学素子の応力及び表面張力の状態を直接的に知らせる更なる独立した測定が望まれる。この測定は、圧電変換器56の信号を介して得られてもよい。
【0077】
光学素子の容積を通る音波の飛行時間の関数である信号PSの解析から、光学素子の容積内の温度及び機械的応力の影響と光学素子自体の表面張力の影響との総和に由来する情報を得ることができる。
【0078】
有利なことに、光学素子の表面に発生するガスの圧力によって生じる張力の影響は、非負荷ステップにおいて、レーザ発光源をオフにした状態で、圧電センサの信号PSの飛行時間と圧力とを相関させた曲線を収集し、それを変化させることでキャンセルされる。圧力値は、測定に対して重要な同じ容積に埋め込まれている圧力センサ58によって読み取られた値であり、比例弁によって実際に調節された圧力と比較される直接測定値である。その後、再び、無負荷ステップおいて、入射レーザのパワーP及び圧力pでの飛行時間信号PSの依存値のマトリクスが収集される。
【0079】
p(pnom)0=f(pnom)
PSref(p)0=f(P) (5)
PSm(p,P)0=PSref(p)0+f(P)0 (6)
PS(P)0=PSm(p,P)0-PSref(p)0 (7)
【0080】
式中において、前記光学素子の容積を通る音波の飛行時間の関数としての信号又はデータPS(P)は、前記音波の飛行時間に対するレーザビームのパワーの寄与を示す信号又はデータであり、(i)音波の飛行時間に対する、レーザビームのパワーと、光学素子が対向する予め決められた容積領域に存在するガスの圧力又は光学素子が埋め込まれている容積内の光学素子の上流側の領域と光学素子の下流側の領域との間の圧力差とによる共同寄与を示す測定可能な飛行時間の信号又はデータPSm(p,P)と、(ii)音波の飛行時間に対する、光学素子が対向する容積内の領域に存在するガスの圧力又は光学素子が埋め込まれている容積内の光学素子の上流側の領域と光学素子の下流側の領域との間の圧力差による寄与を示す基準飛行時間信号又はデータPSref(P)との差によって計算される。基準飛行時間信号又はデータPSref(P)は、前記レーザビームが存在しない状態で行われる予備較正工程におけるガスの圧力と光学素子の容積を通る音波の飛行時間との関係のモデルに基づいて、光学素子が対向する容積領域に存在するガスの現在の圧力p又は光学素子が埋め込まれている容積内の光学素子の上流側の領域と光学素子の下流側の領域との間の圧力差を示す信号又はデータの取得から出発するように予め設定されている。
【0081】
光学素子が対向する容積領域に存在するガスの現在の圧力pを示す信号又はデータの取得は、圧力センサ58を介して、又は、作業処理制御手段64から予め設定され制御された圧力値の処理手段66への通信の効果によって行われてもよい。光学素子が埋め込まれている容積内の光学素子の上流側の領域と光学素子の下流側の領域との間の圧力差を示す信号又はデータの取得は、同様に、一対の圧力センサ58を介して、作業処理制御手段64から予め設定され制御された圧力値の処理手段66への通信の効果によって行われてもよいし、或いは、1つの領域に1つのセンサのみが設けられ、他の領域の圧力が予め設定され制御されているものとして知られている場合には、前記2つの方法の組み合わせによって行われてもよい。
【0082】
PS(P)0=PSm(p,P)0-PSref(p)0
として定義される相関曲線は、処理手段66のメモリDBに保存される。
【0083】
したがって、圧電センサの役割は、温度情報を間接的に取得することではなく、制御対象の光学素子の片面のみに印加される圧力によって誘起される温度と表面応力との畳み込み信号を取得することにある。信号PSは、加工の報知目的ではなく、補正目的、特に信号IRv_normによって伝達される情報の補正目的を有するものである。無負荷状態での圧力センサを介した圧力の直接測定により、圧力の影響がパラメータ化され、圧電センサによって得られた温度及び圧力の間接的な測定値が、制御下の光学素子に関連付けられた赤外線放射センサによって検出された信号の補正パラメータとして使用される。
【0084】
前述の式を考慮すると、ガスの圧力による影響から分離された特定の光学素子の摩耗及び内部応力に関する局所的な情報を有することが可能であり、これにより、一般的な情報から、カスケードで、適当なm及びnを有する以下の式及び適当なt及びsを有する以下の式に従って、他の光学素子に関する集合的な情報を得ることが可能になる。
【0085】
IRv_real(P)0=m*IRv_norm(P)0-n*PS(P)0 (8)
【0086】
SS(P)0=t*(TSC(P)0/LSC(P)0)+s*IRv_real(P)0 (9)
ここで、SS0は、無負荷動作状態での光学素子の動作状態を表す。
【0087】
m、n、t、及びsの値は、光路の最初の「工場」特性化工程の間、クリーンルーム内で標準化可能な最大値と考えられる光学素子の清浄度の状態から出発して、単一の検体の信号のばらつきに関係なく、「ヘッドモデル」の同じ構成に対して、前述の相関曲線が一意で普遍的であるような方法で選択される。
【0088】
前記は、光路の特定の偶発的な状態に関連するとともに、単一の測定の対象となる素子の特定の偶発的な状態に関連して、すなわち、クリーンな光学素子を用いた工場の較正の対象となる特定の加工ヘッドに言及される、9つの信号曲線又は基準データを取得して保存することを可能にする。また、基準信号又はデータのデータベースが、レーザビーム及びアシストガスが存在するが、材料との相互作用なしに構築されて得られる。
【0089】
図8のフローチャートは、上述の説明に従って、処理手段66のメモリDBに保存されている加工ヘッドの光学系の動作状態の基準データベースを確立するために実行される動作の合成的な高レベルのプレゼンテーションである。これは、材料サンプルの無負荷動作状態及び作業処理状態において、製造処理のパラメータ並びに加工される材料の製造及び被加工物を示すパラメータに基づいて識別される、複数の異なる特定の加工環境に対して実行される。
【0090】
具体的には、100は加工用レーザ光のパワーをゼロに設定する工程を示し、110は光学素子が対向する領域又は光学素子が埋め込まれている領域の圧力を設定する工程を示し、120は設定圧力の関数として圧電センサの信号PSを取得する工程を示す。設定圧力は、1バールから25バールまでの予め決められた圧力の範囲で、離散的なステップで変化し、工程130で、予め決められた圧力の範囲で設定された最終的な圧力に達したか否かが確認される。その場合、当該工程は、光学素子が対向する領域又は光学素子が埋め込まれている領域において、予め決められた一定公称値、可能な圧力の範囲の中間(例えば5バール)に、圧力を設定する次のステップ140に移行する。その後、ステップ200では、加工用レーザビームのパワーが設定される。210は、設定された光パワーの関数としての信号LSC,TSC,PS,IRVの取得ステップを示す。設定された光パワーは、ゼロからレーザ発光源の公称パワーまで、典型的には1kWから20kWまで、離散的なステップで変化し、ステップ220で、予め決められたパワーの範囲で設定された最終的な光パワーに達したか否かが確認される。その場合、処理手段66のメモリDBに保存されたデータベース内に測定値LSC,TSC,PS,IRVを保存するため、後続のステップ230に移行する。
【0091】
作業動作状態において、完全な光路を表す同軸センサ50,52の信号又はデータに関連して、及び、個々の光学的要素を表す容積放射センサ54、圧電センサ56、及び圧力センサ58の信号又はデータに関連して、前述されたシーケンス又は他の可能なシーケンスで、以下の動作が実行される。
【0092】
特に、無負荷ステップで検出された同じ信号が検出されるが、この場合、それらは、進行中の製造及び加工される材料の被加工物、並びに、上述した進行中の作業処理のパラメータ、すなわち、使用される加工ツール、比例制御弁によって制御されるアシストガスの公称圧力、加工ヘッドと材料との間の相互位置の相対的な移動速度、加工される材料及びその厚さ、処理ステップの関数である。
【0093】
少なくとも1つの光学素子の動作状態、すなわち特定の素子の摩耗及び応力の「量」は、適当なa及びbを有する次の式で表される。次の式は、基準データを収集するために予備的に実施された加工に対応する試験条件を参照し、作業動作状態における式(8)の変形例を表すものである。
【0094】
IRv_norm(P,vfeed,IDmat)=a*IRv_norm(P,vfeed,IDmat)-b*PS(P) (10)
【0095】
IRv_norm(P,vfeed,IDmat)=IRv(P)+(k(vfeed,IDmat,Th)*TSC(P)/(h(vfeed,IDmat,Th)*LSC(P)
(10a)
【0096】
k及びhを有する式は、加工ヘッドと材料との間の相互位置の相対的な移動速度と、反射率スケールに応じて材料に依存する材料の厚さとの線形関数を表すものである。
【0097】
PS(P)=PSm(p,P)-PSref(p) (10b)
【0098】
前記式は、ガスの圧力による表面張力の寄与ではなく、熱成分(非線形熱膨張)による容積応力の寄与のみを考慮している。
【0099】
無負荷動作状態で計算されたものと同様に、処理手段66は、次の式に従って、加工中の光学素子SSの動作状態を計算する。
【0100】
SS(P)=t*(TSC(P)/LSC(P))+s*IRv_real(P) (11)
【0101】
処理手段66は、作業動作状態で検出又は計算された信号又はデータ、又は無負荷動作状態で取得又は計算された信号又はデータ(一般的に、現在の状態での前記光学素子の動作状態を示す信号又はデータと呼ばれる)を、類似の加工環境で取得又は計算された基準信号又はデータと比較し、前記光学素子の現在の動作状態を示す信号又はデータSSが、予め決められた閾値よりも高い値で、基準(又は理想的な)状態での前記光学素子の動作状態を示す信号又はデータと異なる場合に、異常信号を発する。
【0102】
代替的又は付加的に、処理手段66は、作業動作状態で検出又は計算された信号又はデータを、未負荷動作状態(例えば、直近の未負荷動作状態)で類似の加工環境で取得又は計算された信号又はデータと比較し、作業動作状態での光学素子の動作状態を示す信号又はデータSSが、予め決められた第2の閾値よりも高い値で、未負荷動作状態での前記光学素子の動作状態を示す信号又はデータと異なる場合に、異常信号を発する。
【0103】
更に代替的又は付加的に、処理手段66は、検証サイクルn(現在の検証サイクルにおける前記光学素子の動作状態を示す信号又はデータとして一般的に示される)での作業動作状態で検出又は計算された信号又はデータ、或いは、無負荷動作状態で取得又は計算された信号又はデータを、類似の加工環境で検証サイクルn-1又は先行の任意のケース(以前の検証サイクルにおける前記光学素子の動作状態を示す信号又はデータとして一般的に示される)での作業動作状態で検出又は計算された信号又はデータ、或いは、無負荷動作状態で取得又は計算された信号又はデータとそれぞれ比較し、前記光学素子の現在の動作状態を示す信号又はデータSSが、予め決められた第3の閾値よりも高い値で、前記光学素子の以前の動作状態を示す信号又はデータと異なる場合に、異常信号を発する。
【0104】
類似の加工環境は、作業処理制御手段64によって提供される、進行中の作業処理のパラメータと、進行中の製造及び加工される材料の被加工物を示すパラメータとに基づいて決定される。また、前記閾値は、進行中の作業処理のパラメータと、進行中の製造及び加工される材料の被加工物を示すパラメータとを含む加工環境情報の関数として予め定められている。
【0105】
このような比較は、各信号又は部分データLSC,TSC,IRv,IRv_norm、IRv_realについて別々に行われてもよいが、それらのうちのいくつか、特に後方反射信号又はデータLSC、及び、後方放射信号又はデータTSCについては、標準的な場合に較正された値と比較して、予期しない又は最適でない動作状態を示す閾値制御を適用することが好ましい。
【0106】
特に、合成パラメータIRv_real及びSSは、材料がない状態での無負荷動作ステップと、材料のレーザ切断、穿孔、溶接の加工中の作業動作ステップとの両方において、上述した特定のセンサ配置が関連付けられた後に、光路全体の状態、及び特定の部品の状態に関する情報を得ることを可能にする。
【0107】
また、加工中に合成パラメータのアラーム閾値に達すると、機械の停止と後続の無負荷チェックが行われる。このようにして、加工中の異常に関する情報と光学素子の摩耗傾向に関する情報との両方を取得することができる。
【0108】
また、本発明の方法は、例えば、光放射の後方放射及び後方反射が互いに干渉する、典型的には高出力レーザビーム(700Wよりも高い)を用いて材料を加工するための機械の可動加工ヘッドのような、狭い容積に入れられた複数の光学素子の状態に関する情報を取得することを可能にし、レーザビームの光伝播経路に沿って別個に重畳される異なる光学素子の寄与を分離する。このことは、作業動作状態における光学素子の動作状態を、無負荷動作状態における光学素子の動作状態に関して別々に識別することによって行われ、これにより、不純物又は摩耗によって決定される永続的な動作状態への寄与を、高出力レーザビームの伝播によって引き起こされる一時的な動作状態への寄与から分離することが可能になる。
【0109】
更に、本発明の方法のアレンジメントは、加工用レーザビームの単なる後方反射の寄与を、光学素子の不要な表面不純物に起因するレーザビームの拡散による寄与、又は応力/歪みに起因する光学素子の亀裂による寄与、例えば温度又は動作圧力の耐え難い状態に起因する寄与から分離することを可能にし、熱的性質の寄与を圧力応力に起因する寄与から更に分離することを可能にする。
【0110】
前述の議論において本発明のために提案された実施形態は、純粋に本発明の非限定的な例示であることに留意すべきである。当業者であれば、本発明を、本明細書に記載された原理から逸脱しない様々な実施形態で容易に実施することができ、したがって、本特許に包含される。
【0111】
このことは、記載された既知の信号又はデータから出発する訓練されたニューラルネットワークによって本発明の方法を実施する可能性に関して特に当てはまる。
【0112】
当然のことながら、本発明の原理を損なうことなく、実施形態及び構成の詳細は、純粋に非限定的な例示のために説明及び図示されたものに関し、それによって添付の特許請求の範囲によって定義された本発明の保護範囲から逸脱することなく、広く多様化され得る。