(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】偏光板及び有機EL表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240617BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20240617BHJP
H10K 50/86 20230101ALI20240617BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240617BHJP
【FI】
G02B5/30
G09F9/30 365
H10K50/86
H10K59/10
(21)【出願番号】P 2020166878
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】趙 天熙
(72)【発明者】
【氏名】崔 允碩
(72)【発明者】
【氏名】朴 ▲ミン▼奎
(72)【発明者】
【氏名】崔 正寧
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-053273(JP,A)
【文献】特開2015-036729(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0007606(KR,A)
【文献】特開2019-066502(JP,A)
【文献】特開2018-205663(JP,A)
【文献】特開2002-169024(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027864(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/093277(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117659(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G09F 9/30
H10K 50/86
H10K 59/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子を含み、
波長450nmでの吸光度A
450が下記の関係式(1)を満たし、
波長750nmでの吸光度A
750が下記の関係式(2)を満た
し、
波長700nmでの吸光度A
700
が下記の関係式(3)を満たす、偏光板。
1.6≦
A
450
≦2.7 (1)
0.7≦A
750≦2.3 (2)
3.11≦A
700
≦4.5 (3)
【請求項2】
直交色相のb値が-1.5以下である、請求項1
に記載の偏光板。
【請求項3】
直交色相のb値が-20以上である、請求項
1又は2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記偏光子の厚みが7μm以上30μm以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項5】
前記偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護フィルムをさらに含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項6】
さらに、λ/4位相差層を含む請求項1~
5のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項7】
有機EL表示パネルの視認側表面に配置して用いられる、請求項
6に記載の偏光板。
【請求項8】
有機EL表示パネルと、請求項
7に記載の偏光板と、を含む有機EL表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光板及び当該偏光板を備える有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)表示装置は、自発光型の薄型表示装置であり、液晶表示装置と比較して視認性が高い、視野角依存性が少ないといった表示性能の利点を有する。また、画像表示装置(ディスプレイ)を軽量化、薄層化できるといった利点に加え、フレキシブルな画像表示装置を実現できることから、これまでとは異なる画像表示装置を実現できるといった可能性を持っている。
【0003】
しかしながら、有機EL表示装置は、反射率の高い金属材料などを電極(金属電極)として用いることがあるため、当該金属電極の界面において外光が反射し、コントラスト低下や内部反射による映り込みの問題が生じることがある(外光反射)。
【0004】
外光反射による悪影響を抑えるため、直線偏光板と、λ/4位相差層とからなる円偏光板を反射防止板として用いる提案がなされている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-142170号公報
【文献】特開平9-127885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機EL表示パネルにおいては、青色発光素子の寿命が、他の色の発光素子の寿命と比較して短い場合がある。本発明は、有機EL表示パネルとともに用いられた場合であっても、表示装置の長寿命化が可能な新規の偏光板、及び当該偏光板を備える有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次の偏光板及び有機EL表示装置を提供する。
[1] 偏光子を含み、
波長450nmでの吸光度A450が下記の関係式(1)を満たし、
波長750nmでの吸光度A750が下記の関係式(2)を満たす、偏光板。
1.6≦A450≦2.7 (1)
0.7≦A750≦2.3 (2)
[2] 波長700nmでの吸光度A700が下記の関係式(3)を満たす、[1]に記載の偏光板。
1.7≦A700≦4.5 (3)
[3] 直交色相のb値が-1.5以下である、[1]又は[2]に記載の偏光板。
[4] 直交色相のb値が-20以上である、[3]に記載の偏光板。
[5] 前記偏光子の厚みが7μm以上30μm以下である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の偏光板。
[6] 前記偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護フィルムをさらに含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の偏光板。
[7] さらに、λ/4位相差層を含む[1]~[6]のいずれか1項に記載の偏光板。
[8] 有機EL表示パネルの視認側表面に配置して用いられる、[7]に記載の偏光板。
[9] 有機EL表示パネルと、[8]に記載の偏光板と、を含む有機EL表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の偏光板によれば、有機EL表示パネルとともに用いられた場合であっても、表示装置の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る偏光板の層構成の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明に係る偏光板の層構成の他の一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明に係る偏光子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図4】本発明に係る偏光板の一形態である円偏光板の層構成の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本発明に係る偏光板の一形態である円偏光板の層構成の他の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<偏光子及び偏光板>
(1)偏光板の基本的構成
図1は、本発明に係る偏光板の層構成の一例を示す概略断面図である。
図1に示される偏光板1のように、本発明の偏光板は、偏光子5と、その一方の面に第1接着剤層6を介して積層される第1保護フィルム3と、他方の面に第2接着剤層7を介して積層される第2保護フィルム4とを備えるものであることができる。偏光板1は、第1保護フィルム3及び/又は第2保護フィルム4上に積層される他の光学機能層や粘着剤層等をさらに有していてもよい。
【0011】
また本発明の偏光板は、
図2に示される偏光板2のように、偏光子5と、その一方の面に第1接着剤層6を介して積層される第1保護フィルム3とを備える片面保護フィルム付偏光板であってもよい。偏光板2は、第1保護フィルム3及び/又は偏光子5上に積層される他の光学機能層や粘着剤層等をさらに有していてもよい。
【0012】
(2)偏光板の吸光度特性
本発明の偏光板は、偏光子を含み、波長450nmでの吸光度A450が下記の関係式(1)を満たし、波長750nmでの吸光度A750が下記の関係式(2)を満たす。
1.6≦A450≦2.7 (1)
0.7≦A750≦2.3 (2)
【0013】
ここで、偏光板の「吸光度A750」及び「吸光度A450」はそれぞれ、長波長側(赤色領域)の吸収帯の裾野における吸光度、短波長側(青色領域)の吸収帯の裾野における吸光度を指している。一般に、偏光板の長波長側及び短波長側の吸収帯は非常に大きいため、紫外可視分光光度計では飽和してその強度を把握できないことが多いところ、検討の結果、長波長側及び短波長側の吸収帯の強度はそれぞれ「吸光度A750」及び「吸光度A450」と十分に相関しており、長波長側及び短波長側の吸収帯の強度をそれぞれ「吸光度A750」及び「吸光度A450」によって評価できることがわかった。
【0014】
上記関係式(1)及び(2)を満たす本発明の偏光板は、青色領域の吸収帯と相関がある波長450nmでの吸光度A450が、長波長側の吸収帯と相関がある波長750nmでの吸光度A750と比較して高く、または同等であるために、有機EL表示パネルにおける青色発光素子の光量を絞ったとしても、青色光を充分に透過させることができ、有機EL表示素子の寿命を短くする原因となり得る青色発光素子の短命化を抑制し、ひいては有機EL表示装置の長寿命化に寄与する。
【0015】
また、上記吸光特性を示す本発明の偏光板は、その理由は完全には明らかではないものの、青色領域の透過率を適切な範囲に設定され、偏光子中のヨウ素錯体の安定性を向上させることから、耐熱試験に供しても偏光度の変化を抑制できる。耐熱試験に供しても偏光度の変化を抑制できるということは、耐熱試験に供しても青色領域の吸収帯と相関がある吸光度A450が長波長側の吸収帯と相関がある吸光度A750と比較して高い(または同等)状態を維持できることであり、高温環境下で有機EL表示装置を使用したとしても青色発光素子の短命化を抑制し、有機EL表示装置の長寿命化に寄与する。
【0016】
本発明の偏光板は、波長700nmでの吸光度A700が下記の関係式(3)を満たすことが好ましい。
1.7≦A700≦4.5 (3)
【0017】
偏光板の直交色相のb値は、短波長の光を効率的に透過させる観点から、好ましくは-1.5以下であり、より好ましくは-3.0以下である。また、偏光板の直交色相のb値は、色相が青くなりすぎて視認性が悪化する観点から、好ましくは-20以上であり、より好ましくは-19以上である。直交色相のb値は、後述する実施例の項の記載にしたがって測定される。
【0018】
偏光板の吸光度A450、吸光度A750及び吸光度A700は、紫外可視分光光度計などの吸光光度計を用いて測定することができる。入射光には自然光を用いる。入射光強度をT0、透過光強度をTとするとき、吸光度(吸光度A450、吸光度A750及び吸光度A700)は、下記式:
吸光度=-log(T/T0)により求められる。
【0019】
なお、試料(偏光板)に入射される入射光が偏光性を有していると、試料を吸光光度計にセットする際の配向に依存して、得られる吸光度値が変動し得る。例えば、吸光光度計によっては光源から試料までの間にあるミラーや光学素子などの影響で入射光に多少の偏光が生じたり、プリズムなどの偏光分離素子が入っていたりするものもあるため、測定時には注意が必要である。このような吸光光度計を用いる場合は、偏光板をある角度(光軸周りでのある方位を意味する。)で測定した後、90度まわした方位で再び測定し、これらの平均の透過光強度から吸光度を算出することで入射光の偏光性の影響をなくすことができる。
【0020】
(3)偏光板の偏光特性
偏光板の偏光性能は、主に単体透過率及び偏光度と呼ばれる数値で表すことができ、それぞれ下記式:
単体透過率(λ)=0.5×(Tp(λ)+Tc(λ))
偏光度(λ)=100×(Tp(λ)-Tc(λ))/(Tp(λ)+Tc(λ))
で定義される。
【0021】
ここで、Tp(λ)は、入射する波長λnmの直線偏光とパラレルニコルの関係で測定した偏光板の透過率(%)であり、Tc(λ)は、入射する波長λnmの直線偏光とクロスニコルの関係で測定した偏光板の透過率(%)であり、共に分光光度計による偏光紫外可視吸収スペクトル測定で得られる測定値である。また、各波長毎に求めた単体透過率(λ)及び偏光度(λ)に、視感度補正と呼ばれる感度補正をかけたものを、それぞれ視感度補正単体透過率(Ty)及び視感度補正偏光度(Py)と呼ぶ。これらTy、Pyの値は例えば、日本分光(株)製の吸光光度計(型番:V7100)などで簡便に測定できる。
【0022】
偏光板を表示装置に適用したときの画像の良好な明瞭さを確保するために、本発明に係る偏光板又は偏光子は、視感度補正単体透過率(Ty)が40.0%以上であり、42.0%以上であることが好ましく、44.0%以上であることがより好ましく、45.0%以上であることがさらに好ましい。視感度補正偏光度(Py)は、99%以上であることが好ましい。
【0023】
(4)偏光子
偏光子5は、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層に二色性色素を吸着配向させたものであることができる。本発明において偏光子5の厚みは、例えば7μm以上30μm以下であり、より好ましくは10μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは12μm以上25μm以下である。このような厚みの偏光子5を用いることにより、上記関係式(1)及び(2)を満たす偏光板を得やすい。
【0024】
偏光子は、その吸収軸に平行な振動面をもつ直線偏光を吸収し、吸収軸に直交する(透過軸と平行な)振動面をもつ直線偏光を透過する性質を有する吸収型の偏光子であることができる。代表的な偏光子としては、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものである。このような偏光子は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程;ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより二色性色素を吸着させる工程(染色処理);二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液等の架橋液で処理する工程(架橋処理);及び、架橋液による処理後に水洗する工程(洗浄処理)を含む方法等によって製造できる。
【0025】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体との共重合体等が挙げられる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体の例は、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、及びアンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等を含む。
【0026】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルから選択される少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリレート」等においても同様である。
【0027】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は通常、85~100モル%であり、98モル%以上が好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール又はポリビニルアセタール等を用いることもできる。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は通常、1000~10000であり、1500~5000が好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に準拠して求めることができる。
【0028】
本発明において好適に用いられるポリビニルアルコール系樹脂の市販品の例は、いずれも商品名で、(株)クラレ製の「PVA124」(ケン化度:98.0~99.0モル%)、「PVA117」(ケン化度:98.0~99.0モル%)、「PVA624」(ケン化度:95.0~96.0モル%)、「PVA617」(ケン化度:94.5~95.5モル%);日本合成化学工業(株)製の「AH-26」(ケン化度:97.0~98.8モル%)、「AH-22」(ケン化度:97.5~98.5モル%)、「NH-18」(ケン化度:98.0~99.0モル%)、「N-300」(ケン化度:98.0~99.0モル%);日本酢ビ・ポバール(株)の「JC-33」(ケン化度:99.0モル%以上)、「JM-33」(ケン化度:93.5~95.5モル%)、「JM-26」(ケン化度:95.5~97.5モル%)、「JP-45」(ケン化度:86.5~89.5モル%)、「JF-17」(ケン化度:98.0~99.0モル%)、「JF-17L」(ケン化度:98.0~99.0モル%)、「JF-20」(ケン化度:98.0~99.0モル%)を含む。
【0029】
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光子製造用の原反フィルム(ポリビニルアルコール系樹脂フィルム)として用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、上記関係式(1)及び(2)を満たす本発明の偏光板を構成する偏光子を得られる方法であれば限定されない。また、偏光子が上記関係式(1)及び(2)を満たすことが好ましく、さらに式(3)を満たすことがより好ましい。
【0030】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素による染色処理前に行っても、当該染色処理と同時に行っても、染色処理の後に行ってもよい。一軸延伸を染色処理の後で行う場合、かかる一軸延伸は、架橋処理の前に行っても、架橋処理中に行ってもよい。また、これらの複数の処理の段階で一軸延伸を複数回に分けて行ってもよい。
【0031】
一軸延伸にあたっては、長尺状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いる場合には例えば、このポリビニルアルコール系樹脂フィルムをロールに掛け渡し、当該ロールの周速を異ならせることにより、ロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また一軸延伸は、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤や水を用いてポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は通常、3~8倍である。複数回の一軸延伸により、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸する場合には、元長に比しての延伸倍率が通常、3~8倍になるようにする。なお、この延伸倍率は、最終的に得られる偏光子が所望の厚みとなるようにして選択することができる。
【0032】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色する方法(染色処理)としては、典型的には、かかるポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有した水溶液に浸漬する方法が採用される。二色性色素としては、ヨウ素や二色性有機染料が用いられる。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
【0033】
二色性色素による染色処理後の架橋処理としては通常、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬する方法などが採用される。二色性色素としてヨウ素を用いる場合、このホウ酸含有水溶液は、ヨウ化カリウムを含有することが好ましい。
【0034】
偏光子に含有(吸着配向)される二色性色素は、ヨウ素又は二色性有機染料であることができる。二色性有機染料の具体例は、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンイエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、イエロー3G、イエローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラックを含む。二色性色素は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから製造してもよいし、基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成した積層体(ポリビニルアルコール系樹脂積層体)から製造してもよい。ポリビニルアルコール系樹脂積層体は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布液を基材に塗布する方法、基材にポリビニルアルコール系樹脂を積層する方法等により得ることができる。ポリビニルアルコール系樹脂積層体を、ポリビニルアルコール系樹脂積層体を一軸延伸する工程;一軸延伸したポリビニルアルコール系樹脂積層体を二色性色素により染色することにより二色性色素を吸着させる工程;二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂積層体をホウ酸水溶液等の架橋液で処理する工程;及び架橋液による処理後に水洗する工程等に供されて、偏光子が製造される。
【0036】
偏光子は、
図1及び
図2に示すように、偏光子の片面又は両面に保護フィルムを貼合した構成で偏光板とすることもできるし、単独で偏光板として用いることもできる。
【0037】
(5)第1及び第2保護フィルム
第1保護フィルム3及び第2保護フィルム4はそれぞれ、熱可塑性樹脂、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂等)、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;セルローストリアセテート、セルロースジアセテートのようなセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;又はこれらの混合物、共重合物等からなる透明樹脂フィルムであることができる。第1保護フィルム3と第2保護フィルム4は、互いに同種の保護フィルムであってもよいし、異種の保護フィルムであってもよい。
【0038】
環状ポリオレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、例えば、特開平1-240517号公報、特開平3-14882号公報、特開平3-122137号公報等に記載されている樹脂が挙げられる。環状ポリオレフィン系樹脂の具体例を挙げれば、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレンのような鎖状オレフィンとの共重合体(代表的にはランダム共重合体)、及びこれらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、並びにそれらの水素化物等である。中でも、環状オレフィンとしてノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマー等のノルボルネン系モノマーを用いたノルボルネン系樹脂が好ましく用いられる。
【0039】
環状ポリオレフィン系樹脂は種々の製品が市販されている。環状ポリオレフィン系樹脂の市販品の例は、いずれも商品名で、「Topas」(Topas Advanced Polymers GmbH社製、ポリプラスチックス(株)から入手できる)、「アートン」(JSR(株)製)、「ゼオノア(ZEONOR)」(日本ゼオン(株)製)、「ゼオネックス(ZEONEX)」(日本ゼオン(株)製)、「アペル」(三井化学(株)製)を含む。
【0040】
また、いずれも商品名で、「エスシーナ」(積水化学工業(株)製)、「SCA40」(積水化学工業(株)製)、「ゼオノアフィルム」(日本ゼオン(株)製)のような製膜された環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの市販品を保護フィルムとして用いてもよい。
【0041】
セルロースエステル系樹脂は、セルロースと脂肪酸とのエステルである。セルロースエステル系樹脂の具体例は、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネートを含む。また、これらの共重合物や、水酸基の一部が他の置換基で修飾されたものを用いることもできる。これらの中でも、セルローストリアセテート(トリアセチルセルロース:TAC)が特に好ましい。セルローストリアセテートは多くの製品が市販されており、入手容易性やコストの点でも有利である。セルローストリアセテートの市販品の例は、いずれも商品名で、「フジタックTD80」(富士フイルム(株)製)、「フジタックTD80UF」(富士フイルム(株)製)、「フジタックTD80UZ」(富士フイルム(株)製)、「フジタックTD40UZ」(富士フイルム(株)製)、「KC8UX2M」(コニカミノルタオプト(株)製)、「KC4UY」(コニカミノルタオプト(株)製)を含む。
【0042】
第1保護フィルム3及び/又は第2保護フィルム4は、位相差フィルム、輝度向上フィルムのような光学機能を併せ持つ保護フィルムであることもできる。例えば、上記材料からなる透明樹脂フィルムを延伸(一軸延伸又は二軸延伸等)したり、該フィルム上に液晶層等を形成したりすることにより、任意の位相差値が付与された位相差フィルムとすることができる。
【0043】
第1保護フィルム3及び/又は第2保護フィルム4の偏光子5とは反対側の表面には、ハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層、防汚層のような表面処理層(コーティング層)を形成することもできる。保護フィルム表面に表面処理層を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0044】
第1及び第2保護フィルム3,4の厚みは、5~90μm以下が好ましく、より好ましくは5~60μm、さらに好ましくは5~50μmである。
【0045】
(6)第1及び第2接着剤層
第1及び第2接着剤層6,7を形成する接着剤としては、水系接着剤又は光硬化性接着剤を用いることができる。第1接着剤層6を形成する接着剤と第2接着剤層7を形成する接着剤とは同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0046】
水系接着剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液からなる接着剤、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤などが挙げられる。中でもポリビニルアルコール系樹脂水溶液からなる水系接着剤が好適に用いられる。
【0047】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルをケン化処理して得られるビニルアルコールホモポリマーのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体をケン化処理して得られるポリビニルアルコール系共重合体、又はそれらの水酸基を部分的に変性した変性ポリビニルアルコール系重合体などを用いることができる。水系接着剤は、多価アルデヒド、水溶性エポキシ化合物、メラミン系化合物、ジルコニア化合物、亜鉛化合物などの添加剤を含むことができる。水系接着剤を用いた場合、それから得られる接着剤層の厚みは、通常1μm以下である。
【0048】
水系接着剤を用いた偏光子5と保護フィルムとの貼合方法は特に限定されるものではなく、一方の貼合面に水系接着剤を均一に塗布又は流し込み、塗布面に他方を重ねてロールなどにより貼合し、乾燥する方法などが挙げられる。通常、水系接着剤は、その調製後、15~40℃の温度下で塗布され、貼合温度は、通常15~30℃の範囲である。
【0049】
水系接着剤を使用する場合は、貼合後、水系接着剤中に含まれる水を除去するために乾燥させる乾燥工程を実施することが好ましい。乾燥は、例えば貼合後のフィルムを乾燥炉に導入することによって行うことができる。乾燥温度(乾燥炉の温度)は、好ましくは30~90℃である。30℃未満であると、保護フィルムが偏光子5から剥離しやすくなる傾向がある。また乾燥温度が90℃を超えると、熱によって偏光子5の偏光性能が劣化するおそれがある。乾燥時間は、例えば10~1000秒とすることができる。
【0050】
乾燥工程後、室温又はそれよりやや高い温度、例えば20~45℃の温度で12~600時間養生する養生工程を設けてもよい。養生温度は、乾燥温度よりも低く設定されるのが一般的である。
【0051】
上記光硬化性接着剤とは、紫外線などの活性エネルギー線を照射することで硬化する接着剤をいい、例えば、重合性化合物及び光重合開始剤を含むもの、光反応性樹脂を含むもの、バインダー樹脂及び光反応性架橋剤を含むものなどを挙げることができる。重合性化合物としては、光硬化性エポキシ系モノマー、光硬化性アクリル系モノマー、光硬化性ウレタン系モノマーなどの光重合性モノマーや、光重合性モノマーに由来するオリゴマーなどを挙げることができる。光重合開始剤としては、紫外線などの活性エネルギー線の照射によりラジカル、アニオン、カチオンのような活性種を発生する物質を含むものを挙げることができる。重合性化合物及び光重合開始剤を含む光硬化性接着剤として、光硬化性エポキシ系モノマー及び光カチオン重合開始剤を含むものを好ましく用いることができる。
【0052】
光硬化性接着剤を用いた偏光子5と保護フィルムとの貼合方法は特に限定されるものではなく、例えば、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、カンマコーター法、ドクタープレート法、ダイコート法、ディップコート法、噴霧法などにより、一方の貼合面に光硬化性接着剤を塗布し、両者を重ね合わせ、ニップロール等で挟んで貼合する方法が挙げられる。流延法とは、被塗布物を、概ね垂直方向、概ね水平方向、又は両者の間の斜め方向に移動させながら、その貼合面に接着剤を流下して拡布させる方法である。ニップロール等を用いて貼合された後の接着剤層の、乾燥又は硬化前の厚みは、5μm以下かつ0.01μm以上であることが好ましい。
【0053】
光硬化性接着剤を用いる場合、上述の貼合を実施した後、必要に応じて乾燥工程を行い(光硬化性接着剤が溶媒を含む場合など)、次いで活性エネルギー線を照射することによって光硬化性接着剤を硬化させる硬化工程を行う。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線が好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが好ましく用いられる。
【0054】
光硬化性接着剤への光照射強度は、光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1~6000mW/cm2となるように設定されることが好ましい。照射強度が0.1mW/cm2以上である場合、反応時間が長くなりすぎず、6000mW/cm2以下である場合、光源から輻射される熱及び光硬化性接着剤の硬化時の発熱による光硬化性接着剤の黄変や偏光子の劣化を生じるおそれが少ない。
【0055】
光硬化性接着剤への光照射時間についても、光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、上記照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10~10000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。積算光量が10mJ/cm2以上である場合、重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて硬化反応をより確実に進行させることができ、10000mJ/cm2以下である場合、照射時間が長くなりすぎず、良好な生産性を維持できる。
【0056】
なお、活性エネルギー線照射後の接着剤層の厚みは、通常0.01~5μmであり、好ましくは0.01~2μm、さらに好ましくは0.01~1μmである。
【0057】
<偏光子の製造方法>
本発明の偏光板に用いられる偏光子の製造方法の一形態を説明する。本形態では、偏光子製造の開始材料として、厚みが好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上の未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を用いる。原反フィルムの幅は特に制限されず、例えば400~6000mmであることができる。原反フィルムは、例えば長尺の未延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのロール(原反ロール)として用意される。
【0058】
偏光子は、上記の長尺の原反フィルムを原反ロールから巻出しつつ、偏光子製造装置のフィルム搬送経路に沿って連続的に搬送させて、処理槽に収容された処理液(以下、「処理浴」ともいう)に浸漬させた後に引き出す所定の処理工程を実施した後に乾燥工程を実施することにより長尺の偏光子として連続製造することができる。なお、処理工程は、フィルムに処理液を接触させて処理する方法であればフィルムを処理浴に浸漬させる方法に限定されることはなく、噴霧、流下、滴下等により処理液をフィルム表面に付着させてフィルムを処理する方法であってもよい。処理工程が、フィルムを処理浴に浸漬させる方法によってなされる場合、一つの処理工程を行う処理浴は一つに限定されることはなく、二つ以上の処理浴にフィルムを順次浸漬させて一つの処理工程を完成させてもよい。
【0059】
上記処理液としては、膨潤液、染色液、架橋液、補色液、洗浄液等が例示される。そして、上記処理工程としては、原反フィルムに膨潤液を接触させて膨潤処理を行う膨潤工程と、膨潤処理後のフィルムに染色液を接触させて染色処理を行う染色工程と、染色処理後のフィルムに架橋液を接触させて架橋処理を行う架橋工程と、架橋処理後のフィルムに補色液を接触させて補色処理を行う補色工程と、補色処理後のフィルムに洗浄液を接触させて洗浄処理を行う洗浄工程とが例示される。また、これら一連の処理工程の間(すなわち、いずれか1以上の処理工程の前後及び/又はいずれか1以上の処理工程中)に、湿式又は乾式にて一軸延伸処理を施す。必要に応じて他の処理工程を付加してもよい。
【0060】
以下、
図3を参照しながら、本発明に係る偏光子の製造方法の一例を詳細に説明する。
図3は、本実施形態発明に係る偏光子の製造方法及びそれに用いる偏光子の製造方法及び製造装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示される偏光子製造装置は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反(未延伸)フィルム10を、原反ロール11より連続的に巻出しながらフィルム搬送経路に沿って搬送させることにより、フィルム搬送経路上に設けられる膨潤浴(膨潤槽内に収容された膨潤液)13、染色浴(染色槽内に収容された染色液)15、架橋浴(架橋槽内に収容された架橋液)17a、補色浴(補色槽内に収容された補色液)17b、及び洗浄浴(洗浄槽内に収容された洗浄液)19を順次通過させ、最後に乾燥炉21を通過させるように構成されている。得られた偏光子23は、例えば、そのまま次の偏光板作製工程(偏光子23の片面又は両面に保護フィルムを貼合する工程)に搬送することができる。
図3における矢印は、フィルムの搬送方向を示している。
【0061】
図3の説明において、「処理槽」は、膨潤槽、染色槽、架橋槽、補色槽及び洗浄槽を含む総称であり、「処理液」は、膨潤液、染色液、架橋液、補色液及び洗浄液を含む総称であり、「処理浴」は、膨潤浴、染色浴、架橋浴、補色浴及び洗浄浴を含む総称である。
【0062】
偏光子製造装置のフィルム搬送経路は、上記処理浴の他、搬送されるフィルムを支持する、あるいはさらにフィルム搬送方向を変更することができるガイドロール30~48,60,61や、搬送されるフィルムを押圧・挟持し、その回転による駆動力をフィルムに与えることができる、あるいはさらにフィルム搬送方向を変更することができるニップロール50~55を適宜の位置に配置することによって構築することができる。ガイドロールやニップロールは、各処理浴の前後や処理浴中に配置することができ、これにより処理浴へのフィルムの導入・浸漬及び処理浴からの引き出しを行うことができる〔
図3参照〕。例えば、各処理浴中に1以上のガイドロールを設け、これらのガイドロールに沿ってフィルムを搬送させることにより、各処理浴にフィルムを浸漬させることができる。
【0063】
図3に示される偏光フィルム製造装置は、各処理浴の前後にニップロールが配置されており(ニップロール50~54)、これにより、いずれか1以上の処理浴中で、その前後に配置されるニップロール間に周速差をつけて縦一軸延伸を行うロール間延伸を実施することが可能になっている。以下、各工程について説明する。
【0064】
(膨潤工程)
膨潤工程は、原反フィルム10表面の異物除去、原反フィルム10中の可塑剤除去、易染色性の付与、原反フィルム10の可塑化等の目的で行われる。処理条件は、当該目的が達成できる範囲で、かつ原反フィルム10の極端な溶解や失透等の不具合を生じない範囲で決定される。
【0065】
図3を参照して、膨潤工程は、原反フィルム10を原反ロール11より連続的に巻出しながら、フィルム搬送経路に沿って搬送させ、原反フィルム10を膨潤浴13に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。
図3の例において、原反フィルム10を巻き出してから膨潤浴13に浸漬させるまでの間、原反フィルム10は、ガイドロール60,61及びニップロール50によって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送される。膨潤処理においては、ガイドロール30~32及びニップロール51によって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送される。
【0066】
膨潤浴13の膨潤液としては、純水のほか、ホウ酸(特開平10-153709号公報)、塩化物(特開平06-281816号公報)、無機酸、無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類等を約0.01~10重量%の範囲で添加した水溶液を使用することも可能である。
【0067】
膨潤浴13の温度は、例えば10~50℃、好ましくは10~40℃、より好ましくは15~30℃である。原反フィルム10の浸漬時間は、好ましくは10~300秒、より好ましくは20~200秒である。また、原反フィルム10が予め気体中で延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムである場合、膨潤浴13の温度は、例えば20~70℃、好ましくは30~60℃である。原反フィルム10の浸漬時間は、好ましくは30~300秒、より好ましくは60~240秒である。
【0068】
膨潤処理では、原反フィルム10が幅方向に膨潤してフィルムにシワが入るといった問題が生じやすい。このシワを取りつつフィルムを搬送するための1つの手段として、ガイドロール30,31及び/又は32にエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有するロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような他の拡幅装置を用いたりすることが挙げられる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は延伸処理を施すことである。例えば、ニップロール50とニップロール51との周速差を利用して膨潤浴13中で一軸延伸処理を施すことができる。
【0069】
膨潤処理では、フィルムの搬送方向にもフィルムが膨潤拡大するので、フィルムに積極的な延伸を行わない場合は、搬送方向のフィルムのたるみを無くすために、例えば、膨潤浴13の前後に配置するニップロール50,51の速度をコントロールする等の手段を講ずることが好ましい。また、膨潤浴13中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤浴13中での水流を水中シャワーで制御したり、EPC装置(Edge Position Control装置:フィルムの端部を検出し、フィルムの蛇行を防止する装置)等を併用したりすることも有用である。
【0070】
図3に示される例において、膨潤浴13から引き出されたフィルムは、ガイドロール32、ニップロール51、ガイドロール33を順に通過して染色浴15へ導入される。
【0071】
(染色工程)
染色工程は、膨潤処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着、配向させる等の目的で行われる。処理条件は、当該目的が達成できる範囲で、かつフィルムの極端な溶解や失透等の不具合が生じない範囲で決定される。
図3を参照して、染色工程は、ニップロール51、ガイドロール33~36及びニップロール52によって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送させ、膨潤処理後のフィルムを染色浴15(染色槽に収容された処理液)に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。二色性色素の染色性を高めるために、染色工程に供されるフィルムは、少なくとも一軸延伸処理を施したフィルムであることが好ましく、又は染色処理前の一軸延伸処理の代わりに、あるいは染色処理前の一軸延伸処理に加えて、染色処理時に一軸延伸処理を行うことが好ましい。
【0072】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合、染色浴15の染色液には、例えば、濃度が重量比でヨウ素/ヨウ化カリウム/水=約0.003~0.3/約0.1~10/100である水溶液を用いることができる。ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物を併用してもよい。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルト等を共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合は、ヨウ素を含む点で後述する架橋処理と区別され、水溶液が水100重量部に対し、ヨウ素を約0.003質量部以上含んでいるものであれば、染色浴15とみなすことができる。フィルムを浸漬するときの染色浴15の温度は、通常10~45℃、好ましくは10~40℃であり、より好ましくは20~35℃であり、フィルムの浸漬時間は、通常30~600秒、好ましくは60~300秒である。
【0073】
二色性色素として水溶性二色性染料を用いる場合、染色浴15の染色液には、例えば、濃度が重量比で二色性染料/水=約0.001~0.1/100である水溶液を用いることができる。この染色浴15には、染色助剤等を共存させてもよく、例えば、硫酸ナトリウム等の無機塩や界面活性剤などを含有していてもよい。二色性染料は1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上の二色性染料を併用してもよい。フィルムを浸漬するときの染色浴15の温度は、例えば20~80℃、好ましくは30~70℃であり、フィルムの浸漬時間は、通常30~600秒、好ましくは60~300秒である。
【0074】
上述のように染色工程では、染色浴15でフィルムの一軸延伸を行うことができる。フィルムの一軸延伸は、染色浴15の前後に配置したニップロール51とニップロール52との間に周速差をつけるなどの方法によって行うことができる。
【0075】
染色処理においても、膨潤処理と同様にフィルムのシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するために、ガイドロール33,34,35及び/又は36にエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有するロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような他の拡幅装置を用いたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は、膨潤処理と同様、延伸処理を施すことである。
【0076】
図3に示される例において、染色浴15から引き出されたフィルムは、ガイドロール36、ニップロール52、及びガイドロール37を順に通過して架橋浴17aへ導入される。
【0077】
(架橋工程)
架橋工程は、架橋による耐水化の目的で行う処理である。
図3を参照して、架橋工程は、ニップロール52,ガイドロール37~40及びニップロール53aによって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送させ、架橋浴17a(架橋槽に収容された架橋液)に染色処理後のフィルムを所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。
【0078】
架橋液としては、架橋剤を溶媒に溶解した溶液を使用できる。架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。これらは一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。溶媒としては、例えば水が使用できるが、さらに、水と相溶性のある有機溶媒を含んでもよい。架橋溶液における架橋剤の濃度は、これに限定されるものではないが、1~20質量%の範囲にあることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましい。
【0079】
架橋液としては、水100質量部に対してホウ酸を例えば約1~10質量部含有する水溶液であることができる。架橋液は、染色処理で使用した二色性色素がヨウ素の場合、ホウ酸に加えてヨウ化物を含有することが好ましく、その量は、水100質量部に対して、例えば1~30質量部とすることができる。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等を共存させてもよい。
【0080】
架橋処理においては、ホウ酸及びヨウ化物の濃度、並びに架橋浴17aの温度を適宜変更することができる。架橋液は、例えば、濃度が質量比でホウ酸/ヨウ化物/水=3~10/1~20/100の水溶液であることができる。必要に応じ、ホウ酸に代えて他の架橋剤を用いてもよく、ホウ酸と他の架橋剤を併用してもよい。フィルムを浸漬するときの架橋浴17aの温度は、通常40~70℃、好ましくは50~65℃であり、フィルムの浸漬時間は、通常10~600秒、好ましくは20~300秒、より好ましくは20~200秒である。
【0081】
架橋処理は複数回行ってもよく、通常2~5回行われる。この場合、使用する各架橋浴の組成及び温度は、上記の範囲内であれば同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0082】
ニップロール52とニップロール53aとの周速差を利用して架橋浴17a中で一軸延伸処理を施すこともできる。
【0083】
架橋処理においても、膨潤処理と同様にフィルムのシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するために、ガイドロールにエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有するロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような他の拡幅装置を用いたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は、膨潤処理と同様、延伸処理を施すことである。
【0084】
図3に示される例において、架橋浴17aから引き出されたフィルムは、ガイドロール49、ニップロール53aを順に通過して補色浴17bへ導入される。
【0085】
(補色工程)
補色工程は、色相調整の目的で行う処理である。
図3を参照して、補色工程は、ニップロール53a,ガイドロール41~44及びニップロール53bによって構築されたフィルム搬送経路に沿って搬送させ、補色浴17b(補色槽に収容された補色液)に架橋工程後のフィルムを所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。
【0086】
補色液としては、架橋剤を溶媒に溶解した溶液を使用できる。架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。これらは一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。溶媒としては、例えば水が使用できるが、さらに、水と相溶性のある有機溶媒を含んでもよい。補色溶液における架橋剤の濃度は、これに限定されるものではないが、1~20質量%の範囲にあることが好ましく、6~15質量%であることがより好ましい。
【0087】
補色液としては、水100質量部に対してホウ酸を例えば約1~10質量部含有する水溶液であることができる。補色液は、染色処理で使用した二色性色素がヨウ素の場合、ホウ酸に加えてヨウ化物を含有することが好ましく、その量は、水100質量部に対して、例えば1~30重量部とすることができる。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等を共存させてもよい。
【0088】
補色液において二色性色素としてヨウ素を用いた場合、例えば、補色液は、濃度が重量比でホウ酸/ヨウ化物/水=1~5/0.5~30/100のものを使用することができる。フィルムを浸漬するときの補色浴17bの温度は、通常10~45℃であり、フィルムの浸漬時間は、通常1~300秒、好ましくは2~100秒である。
【0089】
ニップロール53aとニップロール53bとの周速差を利用して補色浴17b中で一軸延伸処理を施すこともできる。
【0090】
補色処理においても、膨潤処理と同様にフィルムのシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するために、ガイドロールにエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有するロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような他の拡幅装置を用いたりすることができる。シワの発生を抑制するためのもう1つの手段は、膨潤処理と同様、延伸処理を施すことである。
【0091】
図3に示される例において、補色浴17bから引き出されたフィルムは、ガイドロール44、ニップロール53bを順に通過して洗浄浴19へ導入される。
【0092】
(洗浄工程)
図3に示される例においては、補色工程後の洗浄工程を含む。洗浄処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに付着した余分なホウ酸やヨウ素等の薬剤を除去する目的で行われる。洗浄工程は、例えば、補色処理したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄浴19に浸漬することによって行われる。なお、洗浄工程は、洗浄浴19にフィルムを浸漬させる工程に代えて、フィルムに対して洗浄液をシャワーとして噴霧することにより、若しくは洗浄浴19への浸漬と洗浄液の噴霧とを併用することによって行うこともできる。
【0093】
図3には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄浴19に浸漬して洗浄処理を行う場合の例を示している。洗浄処理における洗浄浴19の温度は、通常2~40℃であり、フィルムの浸漬時間は、通常2~120秒である。
【0094】
なお、洗浄処理においても、シワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送する目的で、ガイドロールにエキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロールのような拡幅機能を有するロールを用いたり、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップのような他の拡幅装置を用いたりすることができる。また、フィルム洗浄処理において、シワの発生を抑制するために延伸処理を施してもよい。
【0095】
(延伸工程)
上述のように原反フィルム10は、上記一連の処理工程の間(すなわち、いずれか1以上の処理工程の前後及び/又はいずれか1以上の処理工程中)に、湿式又は乾式にて一軸延伸処理される。一軸延伸処理の具体的方法は、例えば、フィルム搬送経路を構成する2つのニップロール(例えば、処理浴の前後に配置される2つのニップロール)間に周速差をつけて縦一軸延伸を行うロール間延伸、特許第2731813号公報に記載されるような熱ロール延伸、テンター延伸等であることができ、好ましくはロール間延伸である。一軸延伸工程は、原反フィルム10から偏光子23を得るまでの間に複数回にわたって実施することができる。上述のように延伸処理は、フィルムのシワの発生の抑制にも有利である。
【0096】
原反フィルム10を基準とする、偏光フィルム23の最終的な累積延伸倍率は通常、4.5~7倍であり、好ましくは5~6.5倍である。延伸工程はいずれの処理工程で行ってもよく、2以上の処理工程で延伸処理を行う場合においても延伸処理はいずれの処理工程で行ってもよい。
【0097】
(乾燥工程)
洗浄工程の後、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させる処理を行うことが好ましい。フィルムの乾燥は特に制限されないが、
図3に示される例のように乾燥炉21を用いて行うことができる。乾燥炉21は例えば熱風乾燥機を備えるものとすることができる。乾燥温度は、例えば30~100℃であり、乾燥時間は、例えば30~600秒である。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させる処理は、遠赤外線ヒーターを用いて行うこともできる。以上のようにして得られる偏光子23の厚みは、例えば7μm以上30μm以下である。
【0098】
得られた偏光子は、巻取ロールに順次巻き取ってロール形態としてもよいし、巻き取ることなくそのまま偏光板作製工程(偏光子の片面又は両面に保護フィルム等を積層する工程)に供することもできる。
【0099】
<偏光板の吸光度特性の制御>
以上のような製造方法によって偏光子5を得て、その後両面保護フィルム付偏光板1又は片面保護フィルム付偏光板2を作製する場合において、当該製造方法における各種処理は、偏光板1,2の吸光度A450や吸光度A750、及び耐熱試験前後での偏光度の変化の抑制に影響を与えるいくつかの因子を含んでいる。その主な例を挙げれば、偏光子5の製造方法における
a)架橋処理に用いる架橋液のヨウ化カリウム濃度、
b)補色処理に用いる補色液のヨウ化カリウム濃度、
c)ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの延伸倍率、延伸時のネックイン率、延伸温度、
d)洗浄工程での洗浄浴の温度、洗浄浴への浸漬時間、
e)乾燥工程での乾燥温度、乾燥時間、
等が挙げられる。
【0100】
上記の中でもとりわけb)、e)は、偏光板1,2の吸光度A450や吸光度A750、及び耐熱試験前後での偏光度の変化の抑制に影響を与える。
【0101】
具体的には、上記b)に関し、補色液のヨウ化カリウムの濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.5~10重量部であり、より好ましくは1~5重量部、さらに好ましくは1.5~2.5質量部である。また、上記e)に関し、乾燥温度は、好ましくは70~100℃であり、より好ましくは80~100℃である。また、偏光子の厚みも、偏光板1,2の吸光度A450や吸光度A750、及び耐熱試験前後での偏光度の変化の抑制に影響を与える。
【0102】
<円偏光板>
(1)円偏光板の基本的構成
図4は、本発明の偏光板の一形態である。
図4に記載の偏光板(以下、円偏光板1’という場合がある。)は、
図1に示す偏光板1の要素に加えて、第2保護フィルム4の偏光子5とは反対側に積層された第1位相差層8をさらに有する。第2保護フィルム4と第1位相差層8とは、接着剤層を介して貼合されていてもよく、ここで用いられる接着剤層としては、上述の第1及び第2接着剤層の説明が援用される。
【0103】
図5は、本発明の偏光板の一形態である。
図5に記載の偏光板(以下、円偏光板2’という場合がある。)は、
図2に示す偏光板2の要素に加えて、偏光子5の第1保護フィルム10とは反対側に積層された第1位相差層30をさらに有する。偏光子5と第1位相差層30とは、接着剤層を介して貼合されていてもよく、ここで用いられる接着剤層としては、上述の第1及び第2接着剤層の説明が援用される。
【0104】
本明細書における円偏光板の説明において用いられる用語および記号の定義は下記の通りである。
【0105】
(屈折率(nx、ny、nz))
「nx」は面内の屈折率が最大となる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向、「nz」は厚み方向の屈折率である。
【0106】
(面内の位相差値)
面内の位相差値(Re(λ))は、23℃、波長λ(nm)におけるフィルムの面内の位相差値をいう。Re(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、
Re(λ)=(nx-ny)×d
によって求められる。Re(550)とは、波長550nmの光におけるフィルムの面内位相差値を示す。
【0107】
(厚み方向の位相差値)
厚み方向の位相差値(厚み方向位相差値;Rth(λ))は、23℃、波長λ(nm)の光におけるフィルムの厚み方向の位相差値をいう。Rth(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、
Rth(λ)=((nx+ny)/2-nz)×d
によって求められる。Rth(550)とは、波長550nmの光におけるフィルムの厚み方向位相差値を示す。
【0108】
(2)第1位相差層
円偏光板1’、2’における第1位相差層(
図4,
図5における第1位相差層8)は、直線偏光を円偏光に変換する層である。第1位相差層の面内位相差値Re1(550)として、下記式(a)を満たすものを用い、好ましくは下記式(a1)を満たすものを用いる。第1位相差層の材料は特に限定されない。
110nm≦Re1(550)≦160nm (a)
120nm≦Re1(550)≦150nm (a1)
【0109】
第1位相差層は、上記式(a)を満たすものであり、λ/4位相差層ともいわれる。円偏光板は、λ/4位相差層とともに、後述する式(d)を満たすλ/2位相差層(以下、「第2位相差層」ともいう。)を備える構成であってもよい。以下、λ/4位相差を備え、λ/2位相差層を備えない円偏光板(以下、「第1態様」とする。)について説明する。λ/4位相差層とともにλ/2位相差層を備える円偏光板(以下、「第2態様」とする。)については、円偏光板の他の態様として後述する。
【0110】
第1態様において、第1位相差層は、その遅相軸と偏光子5の吸収軸の方向とのなす角度が略45°であることが好ましい。ここで、「略45°」とは、厳密に「45°」である場合に限られず、「45°±5°」の範囲内である場合を含む。
【0111】
第1態様において、第1位相差層は、面内位相差値Re1(λ)の波長分散が、下記式(b)及び(c)を満足するものを使用する。
Re1(450)/Re1(550)≦1.00 (b)
1.00≦Re1(650)/Re1(550) (c)
【0112】
第1位相差層として市場から容易に入手できる位相差フィルム(市販品)をそのまま使用することもできる。このような市販品としては例えば、帝人社製の商品名「ピュアエースWR-S」、「ピュアエースWR-W」、「ピュアエースWR-M」、日東電工社製の商品名「NRF」が挙げられる。
【0113】
位相差フィルムのもう1つの例としては、重合性液晶化合物の硬化物からなるもの(以下、「液晶位相差フィルム」という)である。液晶位相差フィルムは通常、厚さが0.2μm~10μmと薄いものを実現できるので、円偏光板の薄膜化の観点から好ましく用いられる。
【0114】
液晶位相差フィルムを形成し得る重合性液晶化合物は、例えば、特開2009-173893号公報、特開2010-31223号公報、WO2012/147904号公報、WO2014/10325号公報及びWO2017-43438号公報に開示されたものを挙げることができる。これらの公報に記載の重合性液晶化合物は、広い波長域において一様の偏光変換が可能な、逆波長分散性を有する液晶位相差フィルムを形成可能である。
【0115】
液晶位相差フィルムの形成方法を簡単に説明する。まず、適当な支持体を準備する。かかる支持体上に必要に応じて、配向膜を形成した後、重合性液晶化合物を含む液状組成物を塗工し、乾燥することで、当該支持体上に、重合性液晶化合物を含む層を形成する。かかる層に含まれる重合性液晶化合物が所定の方向に配向している状態で例えば、光照射することで、当該層に含まれる重合性液晶化合物を重合させることで、液晶位相差フィルムは形成される。
【0116】
(3)第3位相差層
第1態様の円偏光板には、さらに屈折率特性がnz>nx≧nyの関係を示す第3位相差層を有していてもよい。このような屈折率特性を有する第3位相差層を備えることで、例えば、反射防止偏光板として使用した場合に、反射光を吸収する効果の角度依存性が低減し、様々な角度で反射した反射光に対して、その出射を防止することができるため、好ましい。第3位相差層は、第1位相差層8と偏光子5との間に積層されていてもよく、第1位相差層8の偏光子5側とは反対側に積層されていてもよい。
【0117】
第3位相差層において、その屈折率がnx=nyの関係を示すことがある。ここで、「nx=ny」は、nxとnyが厳密に等しい場合のみならず、nxとnyが実質的に等しい場合も包含する。具体的には、Re(550)が10nm未満であることが好ましい。
【0118】
第3位相差層の厚み方向の位相差Rth(550)は、-260nm~-10nmが好ましく、-230nm~-15nmがより好ましく、-215nm~-20nmがさらに好ましい。このような範囲であることで、上記効果が顕著となるため、好ましい。
【0119】
前記第3位相差層は、任意の適切な材料で形成することができ、特に限定されるものではないが、液晶化合物がホメオトロピック配向に固定された位相差層であることが好ましい。ホメオトロピック配向させることができる液晶化合物は、液晶モノマーであっても液晶ポリマーであってもよい。当該液晶化合物及び当該液晶層の形成方法の具体例としては、例えば、特開2002-333642号公報の[0020]~[0042]に記載の液晶化合物及び形成方法が挙げられる。この場合、厚みは、0.1μm~5μmが好ましく、0.2μm~3μmがより好ましい。
【0120】
(4)円偏光板の他の態様
他の態様(第2態様)の円偏光板について、上述の第1態様の円偏光板とは異なる点についてのみ説明する。第2態様の円偏光板は、第1位相差層に加えて、偏光子5と第1位相差層8との間に第2位相差層を有する。第2位相差層の面内位相差値をRe2(λ)とすると、第2位相差層は面内位相差値Re2(550)が下記式(d)を満たすものを用い、好ましくは下記式(d1)を満たすものを用いる。第2位相差層の材料は特に限定されることはなく、例えば、第1位相差層で例示した材料を用いることができる。
210nm≦Re2(550)≦300nm (d)
220nm≦Re2(550)≦290nm (d1)
【0121】
第2態様において、第2位相差層は、その遅相軸と偏光子の吸収軸の方向とのなす角度は略15°であることが好ましい。第2態様において、第1位相差層は、その遅相軸と偏光子の吸収軸の方向とのなす角度は略75°であることが好ましい。ここで、「略15°」及び「略75°」とは、厳密に「15°」及び「75°」である場合に限られず、「15°±5°」及び「75°±5°」の範囲内である場合を含む。
【0122】
<粘着剤付き円偏光板>
本発明の円偏光板は、少なくともいずれか一方の表面に粘着剤層を設けて粘着剤層付き円偏光板とすることができる。かかる粘着剤層は通常、画像表示パネルに、本発明の円偏光板を貼り合わせるために用いられる。この粘着剤層を形成する粘着剤は、特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。
【0123】
前記粘着剤層としては、光学透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性、及び接着性等の粘着特性を示すものであればよいが、耐久性等に優れるものが好ましく用いられる。具体的に粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えば、アクリル系樹脂やゴム系樹脂からなる感圧性接着剤(アクリル系粘着剤やゴム系粘着剤ともいう)が挙げられる。
【0124】
前記粘着剤層を形成し得る粘着剤の中で、好ましいアクリル系粘着剤から形成される粘着剤層は、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、および(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルのような(メタ)アクリル酸エスエルを重合してなる(メタ)アクリル酸エステル系樹脂や、これらの(メタ)アクリル酸エステルを2種類以上用いた共重合樹脂がベースポリマーとして好ましく用いられる。また、これらの樹脂には、極性モノマーが共重合されていてもよい。極性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリルアミド、2-N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびグリシジル(メタ)アクリレートといったカルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基,およびエポキシ基等の極性官能基を有するモノマーが挙げられる。なお、ここでいうベースポリマーとは、アクリル系粘着剤を構成する固形分の中で主成分であるポリマーをいう。また、粘着剤には、通常、アクリル系樹脂とともに架橋剤が配合されている。
【0125】
粘着剤にはこの他、各種の添加剤が配合されていてもよい。好適な添加剤として、シランカップリング剤や帯電防止剤がある。シランカップリング剤は、ガラスとの接着力を高めるうえで有効である。帯電防止剤は、静電気の発生を低減または防止するうえで有効である。
【0126】
画像表示パネルに貼り合わせるための粘着剤層の厚みは、3~50μmとすることが好ましい。さらに好ましくは、5~30μmである。なお、本発明の円偏光板において、画像表示パネルに貼り合わせるための粘着剤層の逆側に、前面板と貼り合わせるための粘着剤層を設けることもできる。このように、本発明の円偏光板の両側面に粘着剤層を設けた場合には、2つの粘着剤層のうち、少なくとも一方の厚みが、3~50μmとすることが好ましい。さらに好ましくは、5~30μmである。
【0127】
粘着剤層には通常、輸送時等において、粘着剤層にゴミや異物が付着することを防止する目的で、剥離フィルムが貼り合わされることがある。この剥離フィルムを剥離する際に、粘着剤層に静電気が発生するといった不具合を生じることはある。かかる不具合を防止する目的で、粘着剤層に適度な導電性を持たせることもある。粘着剤層に導電性を持たせる場合には、その抵抗値は適宜選択されればよいが、例えば1×109~1×1011Ω/□の範囲であることが好ましい。
【0128】
本発明の円偏光板に形成することもある前記粘着剤層の形成方法は、公知の方法により行うことができる。
【0129】
[画像表示装置]
本発明の偏光板は、画像表示パネルに貼り合わせることで画像表示装置を形成する。以下、かかる画像表示装置に関して、説明する。
【0130】
画像表示装置としての種類は問わず公知のものが使用できる。例えば、有機EL表示装置に本発明の偏光板が好適に用いることができる。有機EL表示パネルの視認側に、本発明の偏光板を、有機EL表示パネル側に第1位相差層が配置されるように設けて用いることができる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0132】
<実施例1>
縦及び横100cm、厚さ30μm、ケン化度が99.9モル%以上の透明な未延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(PE60、平均重合度2400、KURARAY社製)を25℃の水(脱イオン水)に1分20秒間浸漬して膨潤させた(膨潤処理)。その後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/ホウ酸/水=0.3/1.2/0.3/100(質量比)が含有された30℃の染色液に2分30秒間浸漬して染色した(染色処理)。このとき、膨潤処理及び染色処理において、それぞれ1.56倍、1.64倍の延伸比で延伸し、染色処理が終了するまでの累積延伸比が2.56倍になるように延伸した。
【0133】
次いで、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水=7.1/1.8/100(質量比)の割合で含む54℃の架橋液に26秒間浸漬(第1架橋処理)して架橋しながら、1.5倍の延伸比で延伸した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水=7/3.4/100(質量比)の割合で含む54℃の架橋液に20秒間浸漬(第2架橋処理)して架橋させながら、1.6倍の延伸比で延伸した。次いで補色処理において、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水=1.5/3.4/100(質量比)の割合で含む40℃の補色用水溶液に10秒間浸漬しながら、1.01倍延伸した(補色処理)。この時、膨潤処理、染色処理、架橋処理、補色処理の総累積延伸比が5.9倍になるようにした。
【0134】
補色処理が完了した後、6℃の純水にて7秒間水洗を行い、偏光子の表面に付着した異物を除去した(洗浄処理)。水洗が完了した後、偏光子を下記の表1の温度で乾燥し(乾燥処理)、偏光子を製造した。
【0135】
得られた偏光子を、水系接着剤を用いて片面に第1保護フィルムであるトリアセチルセルロースフィルム(大日本印刷(株)製の商品名「DSG17Z」)を、もう一方の面に第2保護フィルムである(富士フイルム社製のゼロ位相差のトリアセチルセルロースフィルム「ZRT」)を貼合した後、80℃で5分間乾燥し、偏光板を製造した。
【0136】
上記の水系接着剤は、次の手順で作製した。ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製の商品名「KL-318」、平均重合度1800)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(田岡化学工業(株)製の商品名「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコール粉末2重量部に対して1重量部の割合で混合して、水系接着剤を得た。
【0137】
<実施例2、比較例1>
実施例2及び比較例1は、補色処理で用いた補色液のヨウ化カリウムの水100重量部に対する重量部、及び乾燥処理での温度を、下記の表1に記載のように変更し、また第1保護フィルムとしてトリアセチルセルロースフィルム(大日本印刷(株)製、反射率0.1%商品名「LQ9」)を用いた点以外は、実施例1と同様な方法で偏光子、及び偏光板を製造した。
【0138】
<評価試験>
(1)直交bの測定
実施例及び比較例で製造された偏光板を4cm×4cmのサイズに切断した後、紫外可視光線分光計(JASC社製のV-7100)により直交bを測定した。表1に結果を示す。
【0139】
(2)偏光度の測定
実施例及び比較例で製造された偏光板を4cm×4cmのサイズに切断した後、紫外可視光線分光計(V-7100、JASC社製)により視感度補正偏光度及び視感度補正単体透過率(Ty)を測定した。その後、80℃のオーブンに250時間投入した後に、同様の方法により視感度補正偏光度を測定した。オーブンに透過する前後の視感度補正偏光度の差の絶対値をΔPyとした。耐熱性に優れた偏光板を提供できる観点からΔPyは0.3以下であることが好ましい。表1に結果を示す。
【0140】
(3)吸光度の測定
実施例及び比較例で製造された偏光板について、紫外可視光線分光計(JASC社製のV-7100)を用いて、波長450nmでの吸光度A450、波長700nmでの吸光度A700、及び波長750nmでの吸光度A750を測定した。表1に結果を示す。
【0141】
【符号の説明】
【0142】
1,2 偏光板、1’,2’ 円偏光板、3 第1保護フィルム、4 第2保護フィルム、5 偏光子、6 第1接着剤層、7 第2接着剤層、8 第1位相差層(λ/4位相差層)、 10 ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム、11 原反ロール、13 膨潤浴、15 染色浴、17a 架橋浴、17b 補色浴、19 洗浄浴、21 乾燥炉、23 偏光子、30~48,60,61 ガイドロール、50~52,53a,53b,54,55 ニップロール。