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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】電子聴診器
(51)【国際特許分類】
   A61B 7/04 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
A61B7/04 Z
A61B7/04 N
A61B7/04 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020183828
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073681
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 香菜子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敦也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宗
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3035983(JP,U)
【文献】特開2000-060847(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0020987(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538
5/06-5/398
7/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集音部の内部に配置したマイクロフォンで生体音を生体音信号に変換して出力端子へ出力する電子聴診器において、
被聴診者に接触する前記集音部の内部で収集される音を生体音信号に変換する前記マイクロフォンと、
該マイクロフォンから出力される前記生体音信号に雑音が含まれるか否かを判定する判定部と、
該判定部の判定結果に基づき、前記マイクロフォンから出力される前記生体音信号を前記出力端子に出力し、あるいは前記生体音信号の前記出力端子への出力を中断する信号出力部と、
前記マイクロフォンから出力される前記生体音信号を記憶する記憶部と、を備え
前記生体音信号を前記出力端子へ出力する第1期間と、前記生体音信号を前記出力端子へ出力しない第2期間とが繰り返されるとき、前記第1期間に前記記憶部に記憶された前記生体音信号を前記第2期間に前記出力端子に出力することを特徴とする電子聴診器。
【請求項2】
請求項1記載の電子聴診器において、
前記判定部は、前記マイクロフォンから出力される前記生体音信号を入力し、該生体音信号に雑音が含まれるか否かを判定することを特徴とする電子聴診器。
【請求項3】
請求項1記載の電子聴診器において、
前記集音部の外部に配置した周囲音を周囲音信号に変換する別のマイクロフォンを備え、
前記判定部は、前記別のマイクロフォンから出力される前記周囲音信号を入力し、前記周囲音に起因する雑音が前記生体音信号に含まれるか否かを判定することを特徴とする電子聴診器。
【請求項4】
請求項2記載の電子聴診器において、
前記判定部は、前記生体音信号に雑音が含まれると判定する前記生体音信号の閾値を記憶しており、該生体音信号の閾値と前記生体音信号とを比較し、該生体音信号が前記生体音信号の閾値に達したか否かを判定し、
前記生体音信号の閾値より前記生体音信号が小さいとき、前記生体音信号を前記出力端子に出力し、前記生体音信号の閾値より前記生体音信号が大きいとき、前記生体音信号の前記出力端子への出力を中断することを特徴とする電子聴診器。
【請求項5】
請求項3記載の電子聴診器において、
前記判定部は、前記生体音信号に雑音が含まれると判定する前記周囲音信号の閾値を記憶しており、該周囲音信号の閾値と前記周囲音信号とを比較し、該周囲音信号が前記周囲音信号の閾値に達したか否かを判定し、
前記周囲音信号の閾値より前記周囲音信号が小さいとき、前記生体音信号を前記出力端子に出力し、前記周囲音信号の閾値より前記周囲音信号が大きいとき、前記生体音信号の前記出力端子への出力を中断することを特徴とする電子聴診器。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5いずれか記載の電子聴診器において、
前記生体音信号の前記出力端子への出力の中断は、該中断を開始したときから一定期間継続することを特徴とする電子聴診器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子聴診器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子聴診器は、集音部の内部に配置したマイクロフォンにより生体音を生体音信号に変換し、信号処理を行いイヤーチップ等に出力する。マイクロフォンは、生体音以外の不要なノイズも集音してしまうので、聴診を行わない場合にはマイクロフォンから出力される電気信号をイヤーチップ等に出力しない構成となっている。
【0003】
この電気信号の出力を制御する方法は、聴診者が集音部に設けたスイッチを操作して出力回路をオンオフする方法や、集音部に設けたセンサにより被聴診者の体表面に集音部が接触したことを検知して出力回路をオンオフする方法等がある(例えば特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-261439号公報
【文献】特開平06-181921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで泣いている乳幼児を聴診する場合、その泣き声は空気中を伝搬して聴診者の耳に達することになる。一般的な電子聴診器を使用すると、空気中を伝搬する音は、遮音性の高いイヤーチップやチェストピースを用いたり、一般的なノイズキャンセル処理により、聴診者に聴こえない構成とすることが可能となる。
【0006】
しかしながらその泣き声は、空気中を伝搬するだけでなく体内にも伝搬する。この体内を伝搬する泣き声は、本来聴診したい生体音と重なり、泣き声のみを除去することができず、電子聴診器を通して聴診者の耳に達してしまう。このとき、生体音と比較して泣き声の信号レベルはかなり高い。そのため聴診者は、電子聴診器から出力される長く続く大きな音(泣き声)に慣れてしまい、泣き止んだときに信号レベルの低い生体音を聞き取るのが難しくなってしまう。そこで本発明は、乳幼児の泣き声のような被聴診者の体内を伝搬する信号レベルの高い音が信号レベルの低い生体音に重畳する場合に、聴診者が聴診しやすい電子聴診器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、集音部の内部に配置したマイクロフォンで生体音を生体音信号に変換して出力端子へ出力する電子聴診器において、被聴診者に接触する前記集音部の内部で収集される音を生体音信号に変換する前記マイクロフォンと、該マイクロフォンから出力される前記生体音信号に雑音が含まれるか否かを判定する判定部と、該判定部の判定結果に基づき、前記マイクロフォンから出力される前記生体音信号を前記出力端子に出力し、あるいは前記生体音信号の前記出力端子への出力を中断する信号出力部と、前記マイクロフォンから出力される前記生体音信号を記憶する記憶部と、を備え、前記生体音信号を前記出力端子へ出力する第1期間と、前記生体音信号を前記出力端子へ出力しない第2期間とが繰り返されるとき、前記第1期間に前記記憶部に記憶された前記生体音信号を前記第2期間に前記出力端子に出力することを特徴とする。
【0008】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の電子聴診器において、前記判定部は、前記マイクロフォンから出力される前記生体音信号を入力し、該生体音信号に雑音が含まれるか否かを判定することを特徴とする。
【0009】
本願請求項3に係る発明は、請求項1記載の電子聴診器において、前記集音部の外部に配置した周囲音を周囲音信号に変換する別のマイクロフォンを備え、前記判定部は、前記別のマイクロフォンから出力される前記周囲音信号を入力し、前記周囲音に起因する雑音が前記生体音信号に含まれるか否かを判定することを特徴とする。
【0010】
本願請求項4に係る発明は、請求項2記載の電子聴診器において、前記判定部は、前記生体音信号に雑音が含まれると判定する前記生体音信号の閾値を記憶しており、該生体音信号の閾値と前記生体音信号とを比較し、該生体音信号が前記生体音信号の閾値に達したか否かを判定し、前記生体音信号の閾値より前記生体音信号が小さいとき、前記生体音信号を前記出力端子に出力し、前記生体音信号の閾値より前記生体音信号が大きいとき、前記生体音信号の前記出力端子への出力を中断することを特徴とする。
【0011】
本願請求項5に係る発明は、請求項3記載の電子聴診器において、前記判定部は、前記生体音信号に雑音が含まれると判定する前記周囲音信号の閾値を記憶しており、該周囲音信号の閾値と前記周囲音信号とを比較し、該周囲音信号が前記周囲音信号の閾値に達したか否かを判定し、前記周囲音信号の閾値より前記周囲音信号が小さいとき、前記生体音信号を前記出力端子に出力し、前記周囲音信号の閾値より前記周囲音信号が大きいとき、前記生体音信号の前記出力端子への出力を中断することを特徴とする。
【0012】
本願請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5いずれか記載の電子聴診器において、前記生体音信号の前記出力端子への出力の中断は、該中断を開始したときから一定期間継続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電子聴診器は、集音部に被聴診者を介して信号レベルの高い雑音が入力した際に、その雑音を含む生体音信号の出力端子への出力を停止等することで、聴診者が大きな音に慣れてしまい、信号レベルの低い生体音信号の聴診ができなくなることを防止し、生体音の聴診を支障なく行うことができる構成としている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施例の電子聴診器の説明図である。
図2】本発明の第1の実施例の電子聴診器の説明図である。
図3】泣き声を含む生体音信号の一例の説明図である。
図4】本発明の電子聴診器の出力端子へ出力される生体音信号を説明する図である。
図5】本発明の第2の実施例の電子聴診器の説明図である。
図6】本発明の第2の実施例の電子聴診器の説明図である。
図7】本発明の第3の実施例の電子聴診器の説明図である。
図8】本発明の第4の実施例の電子聴診器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の電子聴診器は、集音部の内部に配置したマイクロフォンで生体音を生体音信号に変換して出力端子へ出力する電子聴診器であり、特に、集音部から信号レベルの高い雑音が入力した場合に、出力端子から出力される生体音信号を制御することができる電子聴診器である。以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は第1の実施例の電子聴診器の説明図で、主要部のブロック図である。本実施例の電子聴診器は、被聴診者の体表面に接触して生体音を収集する集音部1と、信号処理部2とを備えている。また集音部1の内部に生体音を生体音信号に変換するマイクロフォン3が配置されている。信号処理部2には、判定部4と信号出力部5を備えている。6は信号出力部5から出力される生体音信号の出力端子で、通常の電子聴診器同様、図示しないイヤホーン、スピーカー、イヤーチップ等と接続され、聴診者が生体音信号を聞くことができる構成となっている。図2は、本実施例の電子聴診器をベル型で構成した場合のチェストピースの一部断面図である。
【0019】
図2に示すように被聴診者の体表面に隙間なく集音部1を密着させると、周囲の空気中を伝搬する雑音が集音部1内に入り込むことはなく、マイクロフォン3で検知されることはない。また図示しないイヤーチップ等から周囲の空気中を伝搬する雑音が聴診者の耳に達することがない構造となっている。
【0020】
一方、被聴診者の体内を伝搬した生体音は、集音部1で集音され、マイクロフォン3で生体音信号に変換される。生体音信号が入力する信号処理部2の判定部4には、聴診者の聴診に影響を与えない程度の雑音に相当する閾値(生体音信号の閾値に相当)が予め記憶されており、入力する生体音信号がこの閾値に達したかどうかを判定する。その判定結果は判定信号として信号出力部5に出力される。
【0021】
信号出力部5では、判定部4の判定結果に基づき、マイクロフォン3から入力する生体音信号の出力端子6への出力を制御する。
【0022】
具体的には、判定部4が、入力する生体音信号に閾値を超える雑音を含んでいないと判定した場合、入力する生体音信号をそのまま、あるいは出力信号として要求される信号処理を施した生体音信号を出力端子6から出力する。ここで出力信号として要求される信号処理とは、例えばアナログ信号のデジタル信号への変換、フィルタリング、ゲイン調整、デジタル信号のアナログ信号への変換等、通常の電子聴診器において施される信号処理である。
【0023】
また判定部4が、入力する生体音信号に閾値を超える雑音を含んでいると判定した場合、入力する生体音信号を出力端子6に出力することを制限する。ここで制限とは、生体音信号の出力端子への出力の中断、あるいは生体音信号の信号レベルを低下させる処理を行い出力端子6に出力することを意味する。
【0024】
この種の電子聴診器を用いて乳幼児を聴診する場合を例にとり、より具体的な例を説明する。乳幼児の診察では乳幼児が泣いている場合が多い。このような場合、息を吸い込むタイミングでは大きな声を上げることは少なく、息を吐きだすタイミングで大きな泣き声を上げることになる。
【0025】
このように呼吸に合わせた泣き声を含む生体音信号を図3に模式的に示す。泣き声は空気中を伝搬して聴診者の耳に達するが、本発明の電子聴診器を用いて聴診する際には、空気中を伝搬する音は聴診者には聞こえない。聴診者に達する泣き声は、被聴診者の体内を介して電子聴診器に達する音となる。従って図3に模式的示す生体音信号は、被聴診者の体内を通してマイクロフォン3に達した心拍、呼吸音のような生体音と、泣き声のような聴診に不要な音(雑音)とをマイクロフォン3が変換した信号となる。図3では、第1期間が被聴診者が息を吸い込む期間で、この第1期間にはほとんど雑音を含まない生体音信号となっている。また第2期間は被聴診者が息を吐きだす期間で、この第2期間には泣き声のような雑音を含む生体音信号となっている。図3に示すように泣き声は間欠的な音となっている。
【0026】
図3に示すような生体音信号は、信号処理部2の判定部4と信号出力部5に入力する。判定部4では、入力する生体音信号が雑音を含む音か、雑音を含まない音かを判定する。聴診者にとって信号レベルの高い泣き声は、聴診の妨げとなってしまう。そこで、判定部4に第2期間に達したことを検知する閾値(第1期間の信号レベルよりわずかに高い信号レベルに設定)を記憶させておき、入力する生体音信号の大きさと閾値とを比較し、その判定結果を信号出力部5に判定信号として出力する。
【0027】
信号出力部5に入力した判定信号が、閾値より生体音信号のレベルが低いこと(第1期間であること)を示す場合には、信号出力部5に入力した生体音信号を出力端子6に出力する。当然ながら、必要があればアナログ信号のデジタル信号への変換、フィルタリング、ゲイン調整、デジタル信号のアナログ信号への変換等、通常の電子聴診器において施される信号処理は行われる。
【0028】
一方信号出力部5に入力した判定信号が、閾値より生体音信号のレベルが高いこと(第2期間であること)を示す場合には、生体音信号を出力端子6に出力しない。信号レベルの高い雑音を含む生体音信号を出力端子6に出力すると、聴診者がその音に慣れてしまい信号レベルの低い本来聴診すべき生体音信号の聴診が難しくなってしまうからである。
【0029】
図4(a)に示すように、第1期間には信号出力部5に入力する生体音信号を出力し、第2期間には信号出力部5に入力する生体音信号を中断する。この生体音信号の出力の中断は、例えばゲインをゼロ(ボリュームをゼロ)に調整することで実現することができる。
【0030】
また図4(b)に示すように、第1期間には信号出力部5に入力する生体音信号を出力し、第2期間には信号出力部5に入力する生体音信号の信号レベルを低下させて出力してもよい。この場合、第1期間の信号レベルを高く調整すれば、聴診者に聞きやすい生体音信号を得ることができる。
【0031】
聴診者は、このように信号処理部2で処理された生体音信号を出力端子6に接続する図示しないイヤーチップ等を介して聞くことができる。雑音である泣き声を含む生体音信号は除去され、あるいは低いレベルとなることから、聴診者は雑音のない、あるいは雑音の少ない生体音信号により聴診することが可能となる。
【0032】
なお、図3に示す生体音信号を所定の閾値と比較する場合、第2期間内において閾値を上回る場合と閾値を下回る場合を繰り返すことになる。この閾値を上回る状態から閾値を下回る状態に変化したとき、閾値を下回るわずかな期間を雑音のない期間と判定することとしても、本来聴診したい心音等を聴診することは難しい。そこで、閾値を上回る状態となった場合には、所定の一定期間はその判定結果を継続するようにすれば、第2期間を雑音が含まれる生体音信号を出力している期間と判定することができる。一方閾値を下回る状態から閾値を上回る状態に変化したときは、生体音信号の出力を速やかに中断等するのが好ましい。
【0033】
以上のように構成した電子聴診器を用いると、泣いている乳幼児を聴診する際にも、泣き声を含む生体音信号が聴診者の耳に達することがなく、心音等の本来聴診すべき音を聞き取りやすくなる。
【実施例2】
【0034】
次に第2の実施例について説明する。図5は第2の実施例の電子聴診器の説明図で、主要部のブロック図である。上述の第1の実施例同様、被聴診者の体表面に接触して生体音を収集する集音部1と、信号処理部2とを備えている。また集音部1の内部に生体音を生体音信号に変換するマイクロフォン3が配置されている。信号処理部2には、判定部4と信号出力部5を備えている。また本実施例では、信号処理部2に記憶部7を備えている点が相違している。6は信号出力部5から出力される生体音信号の出力端子で、通常の電子聴診器同様、図示しないイヤホーン、スピーカー、イヤーチップ等と接続され、聴診者が生体音信号を聞くことができる構成となっている。本実施例の電子聴診器は、図2に示すようにベル型で構成することができる。
【0035】
図2に示すように被聴診者の体表面に隙間なく集音部1を密着させると、周囲の空気中を伝搬する雑音が集音部1内に入込むことはなく、マイクロフォン3で検知されることはない。また図示しないイヤーチップ等から周囲の空気中を伝搬する雑音が聴診者に耳に達することがない構造となっている。
【0036】
一方、被聴診者の体内を伝搬した生体音は、集音部1で集音され、マイクロフォン3で生体音信号に変換される。生体音信号が入力する信号処理部2の判定部4には、聴診者の聴診に影響を与えない程度の雑音に相当する閾値が予め記憶されており、入力する生体音信号がこの閾値に達したかどうかを判定する。その判定結果は判定信号として信号出力部5に出力される。生体音信号は、記憶部7にも入力し記憶される。
【0037】
信号出力部5では、判定部4の判定結果に基づき、マイクロフォン3から入力する生体音信号の出力端子6への出力を制御する。
【0038】
具体的には、判定部4が、入力する生体音信号に閾値を超える雑音を含んでいないと判定した場合、信号出力部5に入力する生体音信号をそのまま、あるいは出力信号として要求される信号処理を施した生体音信号を出力端子6に出力する。出力信号として要求される信号処理とは、例えば、アナログ信号のデジタル信号への変換、フィルタリング、ゲイン調整、デジタル信号のアナログ信号への変換等、通常の電子聴診器において施される信号処理である。
【0039】
また判定部4が、入力する生体音信号に閾値を超える雑音を含んでいると判定した場合、入力する生体音信号を出力端子6に出力することを制限し、さらに補間する。ここで制限とは、生体音信号の出力端子への出力の中断、あるいは生体音信号の信号レベルを低下させる処理を行い出力端子6に出力することを意味する。また補間とは、生体音信号を置き換えて出力することを意味する。
【0040】
この種の電子聴診器を用いて乳幼児を聴診する場合を例にとり、より具体的な例を説明する。乳幼児の診察では、乳幼児が泣いている場合が多い。この場合、息を吸い込むタイミングでは大きな声を上げることは少なく、息を吐きだすタイミングで大きな泣き声を上げることになる。
【0041】
このように呼吸に合わせた泣き声を含む生体音信号を図3に模式的に示す。泣き声は空気中を伝搬して聴診者の耳に達するが、本発明の電子聴診器を用いて聴診する際には、空気中を伝搬する音は聴診者には聞こえない。聴診者に達する泣き声は、被聴診者の体内を介して電子聴診器に達する音となる。従って図3に模式的に示す生体音信号は、被聴診者の体内を通してマイクロフォン3に達した心拍、呼吸音のような生体音と、泣き声のような雑音を含む生体音信号となる。図3に示すように泣き声は間欠的な音となっている。
【0042】
図3に示すような生体音信号は、信号処理部の判定部4と信号出力部5と記憶部7に入力する。判定部4では、入力する生体音信号が雑音を含む音か、雑音を含まない音かを判定する。聴診者にとって信号レベルの高い泣き声は、聴診の妨げとなってしまう。そこで、判定部4に第2期間に達したことを検知する閾値を記憶させておき、入力する生体音信号の大きさと閾値とを比較し、その判定結果を信号出力部5に判定信号として出力する。
【0043】
信号出力部5に入力した判定信号が、閾値より生体音信号のレベルが低いこと(第1期間であること)を示す場合には、信号出力部5に入力した生体音信号を出力端子6に出力する。当然ながら、必要があればアナログ信号のデジタル信号への変換、フィルタリング、ゲイン調整、デジタル信号のアナログ信号への変換等、通常の電子聴診器において施させる信号処理は行われる。
【0044】
一方信号出力部5に入力した判定信号が、閾値より生体音信号のレベルが高いこと(第2期間であること)を示す場合には、生体音信号を出力端子6に出力しない。信号レベルの高い雑音を含む生体音信号を出力端子6に出力すると、聴診者がその音に慣れてしまい信号レベルの低い本来聴診すべき生体音信号の聴診が難しくなってしまうからである。
【0045】
上述の第1の実施例同様、図4(a)に示すように、第1期間には信号出力部5に入力する生体音信号を出力し、第2期間には信号出力部5に入力する生体音信号を中断する。この生体音信号の出力の中断は、例えばゲインをゼロ(ボリュームをゼロ)に調整することで実現することができる。
【0046】
また図4(b)に示すように、第1期間には信号出力部5に入力する生体音信号を出力し、第2期間には信号出力部5に入力する生体音信号の信号レベルを低下させて出力してもよい。この場合、第1期間の信号レベルを高くすれば、聴診者に聞きやすい生体音信号を得ることができる。
【0047】
本実施例ではさらに、図6に示すように、第1期間には信号出力部5に入力する生体音信号を出力し、第2期間には信号出力部5に入力する生体信号を出力する代わりに、先の第1期間に記憶部7に記憶した生体音信号を記憶部7から読み出して出力端子6に出力している。第1期間の長さと第2期間の長さが一致しない場合には、第1期間に記憶した生体音信号の一部を出力したり、第1期間に記憶した生体音信号を繰り返し出力すればよい。出力する第1期間の生体音信号は、連続する第2期間の直前の第1期間に限るものではない。
【0048】
聴診者は、このように信号処理部2で処理された生体音信号を出力端子6に接続するイヤーチップ等を介して聞きことができる。雑音である泣き声を含む生体音信号は除去され、聴診者は雑音のない、あるいは連続した生体音信号により聴診することが可能となる。なお、単に第2期間に第1期間に記憶した生体音信号を出力すると、心拍のようなリズムを持った生体音信号のリズムが変化してしまうことになるが、実際の聴診においては違和感なく聞くことができることを確認している。リズムを調整する信号処理を行っても問題はない。
【0049】
記憶部7に記憶する必要のある生体音信号は、雑音のない生体音信号(第1期間の生体音信号)のみでよい。そのため、記憶部7に判定部4から出力される判定信号を入力し、この判定信号により記憶部7への生体音信号の記憶を制御してもよい。
【実施例3】
【0050】
次に第3の実施例について説明する。上記第1の実施例および第2の実施例は、集音部1内に配置したマイクロフォン3から出力される生体音信号を判定部4に入力する構成としていた。しかしながら周囲環境の雑音(周囲音に相当)から集音部1に入力される雑音の大きさを予測する構成とすることも可能である。
【0051】
図7は第3の実施例の電子聴診器の説明図で、主要部のブロック図である。本実施例の電子聴診器は、被聴診者の体表面に接触して生体音を収集する集音部1と、信号処理部2とを備えている。また集音部1の内側に生体音を生体音信号に変換するマイクロフォン3が配置され、さらに集音部1の外側にマイクロフォン8(別のマイクロフォンの相当)が配置されている。信号処理部2には判定部4と信号出力部5を備えている。6は信号出力部5から出力される生体音信号の出力端子で、通常の電子聴診器同様、図示しないイヤホイーン、スピーカー、イヤーチップ等と接続され、聴診者が生体音信号を聞くことができる構成となっている。本実施例の電子聴診器をベル型で構成した場合、ベル型のチェストピースの外側にマイクロフォン8を配置すればよい。
【0052】
本実施例においても被聴診者の体表面に隙間なく集音部1を密着させると、周囲の空気中を伝搬する雑音が集音部1内に入り込むことはなく、マイクロフォン3で検知されることはない。またイヤーチップ等から周囲の空気中を伝搬する雑音が聴診者の耳に達することがない構造となっている。
【0053】
一方、被聴診者の体内を伝搬した生体音は、集音部1で集音され、マイクロフォン3で生体音信号に変換される。また周囲音は、マイクロフォン8によって周囲音信号に変換される。この周囲音の一部は、被聴診者の体内を通して集音部1で集音される。周囲音の信号レベルは大きく、集音部1で集音される音の信号レベルが小さい。しかしながら、信号レベルの差を除けば、周囲音とこの周囲音の一部の集音部1で集音される音は相似形となる。従って、マイクロフォン8によって変換される周囲音信号によって、マイクロフォン3によって変換される生体音信号に周囲音に起因する雑音が含まれるか否かは容易に判定することができる。本実施例では、周囲音信号の入力する信号処理部2の判定部4には、聴診者の聴診に影響を与えない程度の雑音に相当する閾値(周囲音信号の閾値に相当)が予め記憶されており、この閾値に達したかどうかで、入力する生体音信号に雑音が含まれているか否かを予想して判定する。
【0054】
信号出力部5では、判定部4の判定結果に基づき、マイクロフォン3から入力する生体音信号の出力端子6への出力を制御する。
【0055】
具体的には、判定部4が、入力する周囲音信号に閾値を超える雑音を含んでいないと判定した場合、信号出力部5に入力する生体音信号をそのまま、あるいは出力信号として要求される信号処理を施した生体音信号を出力端子6から出力する。ここで出力信号として要求される信号処理とは、例えばアナログ信号のデジタル信号への変換、フィルタリング、ゲイン調整、デジタル信号のアナログ信号への変換等、通常の電子聴診器において施される信号処理である。
【0056】
また判定部4が、入力する周囲音信号に閾値を超える雑音を含んでいると判定した場合、信号出力部5に入力する生体音信号を出力端子6に出力することを制限する。ここで制限とは、生体音信号の出力端子への出力の中断、あるいは生体音信号の信号レベルを低下させる処理を行い出力端子6に出力することを意味する。
【0057】
本実施例においても、上述の第1の実施例同様、図4(a)に示すように、第1期間には信号出力部5に入力する生体音信号を出力し、第2期間には信号出力部5に入力する生体音信号を中断したり、図4(b)に示すように、第1期間には信号出力部5に入力する生体音信号を出力し、第2期間には信号出力部5に入力する生体音信号の信号レベルを低下させて出力することができる。
【0058】
聴診者は、このように信号処理部2で処理された生体音信号を出力端子6に接続するイヤーチップ等を介して聞くことができる。雑音である泣き声を含む生体音信号は除去され、あるいは低いレベルとなることから聴診者は雑音のない、あるいは雑音の少ない生体音信号により聴診することが可能となる。
【0059】
また、図3に示す生体音信号に相似するような周囲音信号を所定の閾値と比較する場合も、第2期間内において閾値を上回る状態とし閾値を下回る場合を繰り返すことになる。この閾値を上回る状態から閾値を下回る状態に変化したとき、閾値を下回るわずかな期間を雑音のない期間と判定することとしても、本来聴診したい心音等を聴診することは難しい。そこで、閾値を上回る状態となった場合には、所定の一定期間はその判定結果を維持するようにすれば、第2期間を雑音が含まれる生体音信号を出力している期間と判定することができる。一方、閾値を下回る状態から閾値を上回る状態に変化したときは、生体音信号の出力を速やかに中断等するのが好ましい。
【0060】
以上のように構成した電子聴診器を用いると、泣いている乳幼児を診察する際にも、泣き声を含む生体音信号が聴診者の耳に達することがなく、心音等の本来聴診すべき音が聞きやすくなる。
【実施例4】
【0061】
次に第4の実施例について説明する。図8は第4の実施例の電子聴診器の説明図で、主要部のブロック図である。上述の実施例同様、被聴診者の体表面に接触して生体音を収集する集音部1と、信号処理部2とを備えている。また集音部1の内部に生体音を生体音信号に変換するマイクロフォン3が配置され、さらに集音部1の外部にマイクロフォン8が配置されている。信号処理部2には、判定部4と信号出力部5を備えている。また本実施例では、信号処理部2に記憶部7を備えている。6は信号出力部5から出力される生体音信号の出力端子で、通常の電子聴診器同様、図示しないイヤホーン、スピーカー、イヤーチップ等と接続され、聴診者が生体音信号を聞くことができる構成となっている。本実施例の電子聴診器は、図2に示すようにベル型で構成することができる。
【0062】
本実施例においても被聴診者の体表面に隙間なく集音部1を密着させると、周囲の空気中を伝搬する雑音が集音部1内に入り込むことはなく、マイクロフォン3で検知されることはない。またイヤーチップ等から周囲の空気中を伝搬する雑音が聴診者の耳に達することがない構造となっている。
【0063】
一方、被聴診者の体内を伝搬した生体音は、集音部1で集音され、マイクロフォン3で生体音信号に変換される。また周囲の雑音は、マイクロフォン8によって周囲音信号に変換される。この周囲音の一部は、被聴診者の体内を通して集音部1で集音される。周囲音の信号レベルは大きく、集音部1で集音される音の信号レベルが小さい。しかしながら、信号レベルの差を除けば、周囲音とこの周囲音の一部の集音部1で集音される音は相似形となる。従って、マイクロフォン8によって変換される周囲音信号によって、マイクロフォン3によって変換される生体音信号に周囲音に起因する雑音が含まれるか否かは容易に判定することができる。そこで本実施例では、周囲音信号の入力する信号処理部2の判定部4には、聴診者の聴診に影響を与えない程度の雑音に相当する閾値が予め記憶されており、この閾値に達したかどうかで、入力する生体音信号に雑音が含まれているか否かを予想して判定する。
【0064】
信号出力部5では、判定部4の判定結果に基づき、マイクロフォン3から入力する生体音信号の出力端子6への出力を制御する。
【0065】
具体的には、判定部4が、入力する周囲音信号に閾値を超える雑音を含んでいないと判定した場合、信号出力部5に入力する生体音信号をそのまま、あるいは出力信号として要求される信号処理を施した生体音信号を出力端子6から出力する。ここで出力信号として要求される信号処理とは、例えばアナログ信号のデジタル信号への変換、フィルタリング、ゲイン調整、デジタル信号のアナログ信号への変換等、通常の電子聴診器において施される信号処理である。
【0066】
また判定部4が、入力する周囲音信号に閾値を超える雑音を含んでいると判定した場合、信号出力部5に入力する生体音信号を出力端子6に出力することを制限し、さらに補間する。ここで制限とは、生体音信号の出力端子への出力の中断、あるいは生体音信号の信号レベルを低下させる処理を行い出力端子6に出力することを意味する。また補間とは、生体音信号を置き換えて出力することを意味する。
【0067】
本実施例においても、上述の第1の実施例同様、図4(a)に示すように、第1期間には信号出力部5に入力する生体音信号を出力し、第2期間には信号出力部5に入力する生体音信号を中断したり、図4(b)に示すように、第1期間には信号出力部5に入力する生体音信号を出力し、第2期間には信号出力部5に入力する生体音信号の信号レベルを低下させて出力することができる。
【0068】
本実施例ではさらに、図6に示すように、第1期間には信号出力部5に入力する生体音信号を出力し、第2期間には信号出力部5に入力する生体音を出力する代わりに、先の第1期間に記憶部7に記憶した生体音信号を記憶部7から読み出して出力端子6に出力している。第1期間の長さと第2期間の長さが一致しない場合には、第1期間に記憶した生体音信号の一部を出力したり、第1期間に記憶した生体音信号を繰り返し出力すればよい。出力する第1期間の生体音信号は、連続する第2期間の直前の第1期間に限るものではない。
【0069】
聴診者は、このように信号処理部2で処理された生体音信号を出力端子6に接続するイヤーチップ等を介して聞くことができる。雑音である泣き声を含む生体音信号は除去され、聴診者は雑音のない、あるいは連続した生体音により聴診することが可能となる。なお、単に第2期間に第1期間に記憶した生体音信号を出力すると、心拍のようなリズムを持った生体音信号のリズムが変化してしまうことになるが、実際の聴診においては違和感なく聞くことができることを確認している。リズムを調整する信号処理を行っても問題はない。
【0070】
記憶部7に記憶する必要のある生体音信号は、雑音のない生体音信号(第1期間の生体音信号)のみでよい。そのため、記憶部7に判定部4から出力される判定信号を入力し、この判定信号により記憶部7への生体音信号の記憶を制御してもよい。
【0071】
また、図3に示す生体音信号に相似するような周囲音信号を所定の閾値と比較する場合も、第2期間内において閾値を上回る状態とし閾値を下回る場合を繰り返すことになる。この閾値を上回る状態から閾値を下回る状態に変化したとき、閾値を下回るわずかな期間を雑音のない期間と判定することとしても、本来聴診したい心音等を聴診することは難しい。そこで、閾値を上回る状態となった場合には、所定の一定期間はその判定結果を維持するようにすれば、第2期間を雑音が含まれる生体音信号を出力している期間と判定することができる。一方、閾値を下回る状態から閾値を上回る状態に変化したときは、生体音信号の出力を速やかに中断等する必要があるのは当然である。
【0072】
以上のように構成した電子聴診器を用いると、泣いた乳幼児を診察する際にも、泣き声を含む生体音信号が聴診者の耳に達することがなく、心音等の本来聴診すべき音が聞きやすくなる。
【0073】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。例えばベル型に限らずメンブレン型の電子聴診器に適用ことができる。また本電子聴診器が除去できる生体音に含まれる雑音は、乳幼児の泣き声に限るものでもない。
【符号の説明】
【0074】
1:集音部、2:信号出力部、3:マイクロフォン、4:判定部、5:信号出力部、6:出力端子、7:記憶部、8:マイクロフォン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8