(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】液吐出ヘッド及びその製造方法、液吐出装置、並びに液吐出方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240618BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240618BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C12M1/00 A
B41J2/14 613
B41J2/14 501
B41J2/14
B41J2/16
(21)【出願番号】P 2019211965
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 達哉
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼沼 秀和
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】塩野入 桃子
(72)【発明者】
【氏名】邉見 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】久保 千尋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 健広
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-149542(JP,A)
【文献】国際公開第2008/096618(WO,A1)
【文献】特開2016-116489(JP,A)
【文献】特開2019-089231(JP,A)
【文献】特開2017-077197(JP,A)
【文献】特開2019-022877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
B41J 2/14
B41J 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含みかつ界面活性剤を含まない液を吐出する液吐出ヘッドであって、
前記液を吐出する吐出口を有する膜状部材と、
前記膜状部材の位置を変位させて
、前記膜状部材に配置された前記液に慣性力を付与することで、前記吐出口から前記液を吐出させる変位部材と、を有し、
前記吐出口を形成する面に対する法線方向における前記吐出口を形成する前記膜状部材の縁の断面が曲線を有し、
前記膜状部材の表面に親水性の不動態膜を有する、ことを特徴とする液吐出ヘッド。
【請求項2】
前記曲線の曲率が、0.1以上1以下である、請求項1に記載の液吐出ヘッド。
【請求項3】
前記吐出口を形成する前記膜状部材の表面粗さ(Ra)が、100nm以下である、請求項1から2のいずれかに記載の液吐出ヘッド。
【請求項4】
前記膜状部材の材質が、ステンレス鋼である、請求項1から3のいずれかに記載の液吐出ヘッド。
【請求項5】
前記液が、粒子を含有する、請求項1から4のいずれかに記載の液吐出ヘッド。
【請求項6】
前記変位部材は、前記液吐出ヘッドから前記液が吐出される方向に、前記膜状部材の位置を変位させる、請求項1から5のいずれかに記載の液吐出ヘッド。
【請求項7】
前記液吐出ヘッドから前記液が吐出される方向は、略重力方向である、請求項1から6のいずれかに記載の液吐出ヘッド。
【請求項8】
前記変位部材は、前記膜状部材を往復動させる、請求項1から7のいずれかに記載の液吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の液吐出ヘッドを有することを特徴とする液吐出装置。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の液吐出ヘッドの製造方法であって、
前記膜状部材を化学研磨処理して前記膜状部材の表面に不動態膜を形成する不動態膜形成工程を含むことを特徴とする液吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
液吐出ヘッドで、細胞を含みかつ界面活性剤を含まない液を吐出する液吐出工程を含む、液吐出方法であって、
前記液吐出ヘッドは、
前記液を吐出する吐出口を有する膜状部材と、
前記膜状部材の位置を変位させて、前記膜状部材に配置された前記液に慣性力を付与することで、前記吐出口から前記液を吐出させる変位部材と、を有し、
前記吐出口を形成する面に対する法線方向における前記吐出口を形成する前記膜状部材の縁の断面が曲線を有し、
前記膜状部材の表面に親水性の不動態膜を有することを特徴とする液吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液吐出ヘッド及びその製造方法、液吐出装置、並びに液吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を含む細胞溶液をインクジェットヘッドで吐出することにより、細胞チップや3次元的な組織体を形成する技術の開発が盛んに行われている。
インクジェットヘッドの方式としては、圧電素子を用いた圧電加圧方式、ヒータを用いたサーマル方式、静電引力によって液を引っ張る静電方式などが挙げられる。これらの中でも、圧電加圧方式のインクジェットヘッドは、その他の方式のインクジェットヘッドと比べて、熱や電場によるダメージを細胞に与え難いため、細胞溶液の液滴を吐出する際に好適に用いることができる。
【0003】
しかし、一般的な圧電加圧方式のインクジェットヘッドは、加圧液室における液の圧縮を利用して液滴を形成するため、加圧液室内に気泡が混入した際には液を圧縮しにくくなり、液滴を吐出できないことがある。
また、一般的なインクジェットインクで用いられる界面活性剤は、細胞にダメージを与えることがあるため、細胞溶液には用いることが難しい。そのため、細胞溶液における溶媒としては、水が用いられることが多いが、溶媒として水を用いた場合には、水が高い表面張力を持つため気泡を巻き込みやすい。
【0004】
さらに、細胞溶液などの粒子が懸濁した液をインクジェットヘッドで吐出する際には、粒子の沈降等に起因して、吐出した液滴に含まれる粒子の数が大きくばらついてしまうことがある。
【0005】
これらの問題を解決するため、液体保持部内を大気に開放する大気開放部を有し、ノズル部が形成された膜状部材を振動させることにより液滴を形成する液滴形成装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ノズル周辺部へのインク成分の付着及び固着を防止するために、ノズル基材表面を撥液性の膜で被覆することなどが提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡易な構造で液を吐出可能な液吐出ヘッドにおいて、多様な液体を安定して継続吐出することができる液吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段としての本発明の液吐出ヘッドは、液を吐出する吐出口を有する膜状部材と、膜状部材の位置を変位させて吐出口から液を吐出させる変位部材と、を有し、吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口を形成する膜状部材の縁の断面が曲線を有し、膜状部材の表面に不動態膜を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、簡易な構造で液を吐出可能な液吐出ヘッドにおいて、多様な液体を安定して連続吐出することができる液吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、本発明の液吐出ヘッドの一例における概略上面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の液吐出ヘッドの一例における概略断面図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明の液吐出ヘッドの他の一例における概略断面図である。
【
図1D】
図1Dは、従来の液吐出ヘッドの一例における概略断面図である。
【
図1E】
図1Eは、本発明の液吐出ヘッドの他の一例における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(液吐出ヘッド)
本発明の液吐出ヘッド(液吐出ユニット)は、液を吐出する吐出口を有する膜状部材と、膜状部材の位置を変位させて吐出口から液を吐出させる変位部材と、を有し、吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口を形成する膜状部材の縁の断面が曲線を有し、膜状部材の表面に不動態膜を有し、固定部材、液収容室、電極、蓋部、接続部材を更に有することが好ましく、必要に応じてその他の部材を有する。
【0011】
本発明の液吐出ヘッドは、従来の液吐出ヘッドでは、インク中の成分(例えば、細胞、Si-OH基などと反応する成分)が吐出口(ノズル)又はその近傍に固着してしまいメニスカス形成が乱れ、メニスカスが狙いの状態ではなくなり吐出口(ノズル)からのインク溢れ等の吐出不良を引き起こしてしまうことがあるという知見に基づくものである。
また、本発明の液吐出ヘッドは、従来の液吐出ヘッドでは、例えば、界面活性剤などを含有することができないインクを用いる場合には、インク(吐出対象)の表面張力を制御することが難しく、吐出口(ノズル)近傍に形成されるメニスカスを制御して安定した吐出を維持することが難しくなる、という知見に基づくものである。
【0012】
そこで、本発明者らは、上記の問題などを解決可能な簡易な構造の液吐出ヘッド等について鋭意検討を重ね、本発明に想到した。すなわち、本発明者らは、下記に示すような態様の液吐出ヘッドが、簡易な構造で液を吐出可能であり、かつ多様な液体を安定して継続吐出可能であることを見出した。
【0013】
<膜状部材>
膜状部材(膜上部)としては、吐出口を有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0014】
膜状部材の形状として特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状(膜状)とすることができる。また、膜状部材の平面形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、略真円状、楕円状、多角形などが挙げられる。これらの中でも、膜状部材の平面形状としては、略真円状であることが好ましい。なお、平面形状とは、膜状部材を平面視したときの形状を意味する。
【0015】
膜状部材の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、φ(直径)20mmなどとすることができる。
膜状部材の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.05mmなどとすることができる。
【0016】
膜状部材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム等の金属、ABS、ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチックス(樹脂材料)、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスなどが挙げられる。これらの中でも、酸アルカリ処理による化学研磨処理工程によって表面に不動態膜である酸化クロム膜を簡便に形成することが可能である点から、ステンレス鋼が好ましい。
また、膜状部材の材質としては、ある程度の硬さを有する材質とすることが好ましい。膜状部材の材質がある程度の硬さを有すると、膜状部材が簡単に振動せず、吐出しないときに直ちに振動を抑えることが容易になる点で有利である。
【0017】
ある程度の硬さがある材質としては、例えば、金属、セラミック、樹脂(高分子)材料などが挙げられる。さらに、これらの中でも、吐出する液が粒子を含む場合であって、粒子として細胞やタンパク質を用いる際には、細胞やタンパク質に対する付着性の低い材料を用いることが好ましい。
【0018】
細胞の付着性は、材質の水との接触角に依存するとされており、材質の親水性が高い又は疎水性が高いときには、細胞の付着性は低くなる傾向がある。
親水性の高い材料としては、例えば、金属、セラミック(金属酸化物)などが挙げられる。また、疎水性が高い材料としては、例えば、フッ素樹脂などが挙げられる。
金属としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられる。
セラミックとしては、例えば、酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニアなどが挙げられる。
【0019】
また、膜状部材の材料表面をコーティング(表面処理膜形成)することで細胞の付着性を低下させることも好ましい。膜状部材の材料表面に対するコーティングとしては、例えば、膜状部材の材料表面を前述の金属又は金属酸化物材料によるコーティングや、細胞膜を模した合成リン脂質ポリマー(例えば、日油株式会社製、Lipidure)によるコーティング、Siを含む酸化物によるコーティングなどが挙げられる。
【0020】
また、膜状部材における吐出面とは、膜状部材において液を吐出する側の面である。膜状部材における吐出面は、本発明の液吐出ヘッドにおいて下面側となる面である。
【0021】
<<吐出口>>
吐出口(ノズル)とは、膜状部材上に配置された液を吐出する口(孔)を意味する。吐出口は、例えば、膜状部材の上面と下面とを貫通する貫通孔として形成されている。
本発明の液吐出ヘッドにおいて、吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口を形成する膜状部材の縁の断面が曲線を有する。
【0022】
ここで、
図1A~
図1Cを参照して、本発明の液吐出ヘッドにおける断面形状について説明する。また、対照として
図1D~
図1Eに従来の液吐出ヘッドの断面形状についても説明する。
なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、構成部材の数、位置、形状等は本実施形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
また、各図面における断面図は、吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口(ノズル)を含む位置の液吐出ヘッドの断面図である。
【0023】
図1Aは、本発明の液吐出ヘッドの一例を平面視したときの一例を示す図であり、
図1Bは、
図1Aに示す液吐出ヘッドを、吐出口を形成する面に対して法線方向に切った断面の一例を示す図であり、
図1Cは、
図1Bの点線で囲まれた領域の吐出口及び吐出口を形成する膜状部材を拡大した一例を示す図である。
図1Dは、従来の液吐出ヘッドにおける
図1Bの点線で囲まれた領域の吐出口及び吐出口を形成する膜状部材を拡大した一例を示す図である。
図1Eは、従来の液吐出ヘッドにおける
図1Bの点線で囲まれた領域の吐出口及び吐出口を形成する膜状部材を拡大した他の一例を示す図である。
図1D及び
図1Eに示すように、従来の液吐出ヘッド1110は、本発明の液吐出ヘッドのように、吐出口1012を形成する面(膜状部材1013を平面視した面)に対する法線方向における吐出口1012を形成する膜状部材1013の縁の断面が曲線を有していない。このため、吐出する液のメニスカス1015が吐出口の吐出面近傍に形成される。吐出する液のメニスカス1015が吐出口の吐出面近傍に形成されると、メニスカス1015形成が少しでも乱れると吐出口1012から液1300が溢れ、吐出不良の原因となってしまう。
これに対して、
図1A及び
図1Bに示すように、液吐出ヘッド1100は、膜状部材1013と、変位部材1030と、を有し、膜状部材1013を部分的に開口させた吐出口1012を有している。
図1Cに示すように、本発明の液吐出ヘッドにおいては、吐出口1012を形成する面(膜状部材1013を平面視した面)に対する法線方向における吐出口1012を形成する膜状部材1013の縁の断面が曲線を有している。換言すると、
図1Cに示す膜状部材1013における吐出口1012を形成する縁がR面取りされている。吐出口1012における膜状部材1013をこのような形状とすることによって、吐出する液のメニスカス1015の位置を安定化することができ、特に、表面張力が大きい液に対してもメニスカスを安定化することができる。そのため、多様な液体を安定して継続吐出することができる液吐出ヘッドとすることができる。
【0024】
また、
図1Cに示すように、本発明の液吐出ヘッド1110は膜状部材1013の表面に不動態膜1014を有している。膜状部材の表面に不動態膜を有することにより、吐出する液の成分が吐出口の周囲に堆積乃至固着することを防止することができるため、吐出する液のメニスカス1015の位置を安定化することができ、特に、表面張力が大きい液に対してもメニスカスを安定化することができる。そのため、多様な液体を安定して継続吐出することができる液吐出ヘッドとすることができる。
【0025】
吐出口としては、その配列数、配列態様、間隔(ピッチ)、開口形状、開口の大きさなどについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0026】
吐出口の開口形状としては、特に制限はなく、円形(真円状)、楕円形、四角形などが挙げられる。
吐出口の平均径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。吐出口の平均径としては、液が粒子を含む場合には、粒子が吐出口に詰まることを避けるため、粒子の大きさの2倍以上とすることが好ましい。
粒子が、例えば、動物細胞、特にヒトの細胞である場合、ヒトの細胞の大きさは、5μm以上50μm以下であるため、吐出口の平均径は、使用する細胞に合わせて、10μm以上100μm以下とすることが好ましい。
一方で、液滴が大きくなり過ぎることを抑制し、微小液滴を形成することをより容易にするため、吐出口の平均径は、200μm以下であることが好ましい。したがって、吐出口の平均径は、10μm以上200μm以下がより好ましい。
【0027】
膜状部材における吐出口の位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平面視したときの膜状部材の中心であってもよいし、平面視したときの膜状部材の中心以外の位置であってもよい。
【0028】
吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口を形成する膜状部材の縁の断面の曲線について、その曲率としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.1以上1以下が好ましく、0.1以上0.5以下がより好ましい。吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口を形成する膜状部材の縁の断面の曲線の曲率が、0.1以上1以下であると、高周波での吐出等におけるメニスカスの乱れに起因する吐出不良を軽減し、吐出する液滴の直進性を向上させることができる。
【0029】
吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口を形成する膜状部材の縁の断面の曲線の曲率の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、膜状部材の任意の点を中心とし、吐出口を形成する膜状部材の縁の断面における辺を10%以上含む円弧の半径を測定し、測定した円弧の半径の逆数を計算することにより求めることができる。
なお、吐出口を形成する膜状部材の縁とは、吐出口の外周を形成する膜状部材の部位を意味する。
【0030】
吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口を形成する膜状部材の縁の断面に曲線を有するように膜状部材を加工する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する不動態膜を膜状部材に形成する際に、膜状部材を加熱した薬液中で撹拌しながら浸すことにより形成する方法、吐出口を形成後のプレス加工によって膜状部材の縁を所望の曲率を持った形状に成形する方法、などが挙げられる。
【0031】
前記薬液を用いる方法の場合には、膜状部材に形成する、吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口を形成する膜状部材の縁の断面に曲線の曲率は、膜状部材を加工する条件(薬液の種類、温度、処理時間)を変更することにより適宜調節することができる。
薬液としては、特に制限はなく、使用する膜状部材に応じて適宜選択することができ、例えば、エスクリーンS-250(佐々木化学薬品株式会社)を用いた薬液などが挙げられる。
温度としては、特に制限はなく、使用する膜状部材に応じて適宜選択することができる。
処理時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
前記プレス加工により成形する方法においては、プレスに使用する型の曲率を適宜調節することによって曲率を制御することが可能となる。この場合不動態膜が形成されないため、不動態膜が必要な場合には、後述する不動態膜の形成方法を行うことにより不動態膜を形成することができる。
【0033】
吐出口を形成する膜状部材の表面粗さ(Ra)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、100nm以下であることが好ましく、0nm以上80nm以下がより好ましく、0nm以上50nm以下がより好ましい。吐出口を形成する膜状部材の表面粗さ(Ra)が、100nm以下であると、液成分の吐出口への堆積を防止する効果を向上させることができる。
吐出口を形成する膜状部材の表面粗さ(Ra)の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ISO 1302(JIS B 0031)に準拠して表面粗さRaを測定することができる。表面粗さの測定装置としては特に制限はなく、目的に応じ適宜選択することができ、例えば、VR3200(株式会社キーエンス製)を用いて測定することができる。表面粗さ(Ra)としては、測定方法により5回以上の測定した平均値を用いることが好ましい。
【0034】
不動態膜は、化学的に安定した膜を意味し、例えば、不動態を形成する金属種を含む膜を意味する。不動態膜は、不動態を形成する金属の酸化膜であることが好ましい。不動態膜に含まれる金属としては、糖に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1種単独で使用してもよく、2種以上であってもよい。金属としては、例えば、第4族、第5族、第6族、第13族、第15族の金属元素が好ましく、アルミニウム、ビスマス、アンチモン、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、タングステンなどがより好ましい。
不動態膜としては、例えば、酸化クロム膜、酸化ジルコニウム膜、酸化タンタル膜が好ましい。
不動態膜の膜状部材上の位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、膜状部材の全表面としてもよく、少なくとも吐出口の外周を形成する膜状部材の表面としてもよい。
これらの不動態膜を使用することにより、液に対する濡れ性を確保した上で液に含まれる成分の吐出口周辺への吐出する液成分の付着を防止することができる。
不動態膜の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、化学研磨処理などが挙げられる。
【0035】
<<<液>>>
吐出口から吐出する液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換水、蒸留水、純水、生理食塩水、アルコール、鉱物油、植物油等の様々な有機溶媒などが挙げられる。吐出口から吐出する液は、粒子を含むことが好ましい。
吐出口から吐出する液として水を使用する際には、液に水分の蒸発を抑えるための湿潤剤などが含まれていることが好ましい。これらの処方には、インクジェットインクに用いられる一般的な材料を用いることができる。
また、吐出口から吐出する液は、吐出口から液滴として吐出されることが好ましい。
【0036】
液滴の直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25μm以上150μm以下が好ましい。液滴の直径が25μm以上であると、内包する粒子の直径が適正となり、適用できる粒子の種類が多くなる。また、液滴の直径が150μm以下であると、液滴の吐出が安定となる。
また、液滴の直径をRとし、後述する粒子の直径をrとすると、R>3rであることが好ましい。R>3rであると、後述する粒子の直径と液滴の直径との関係が適正となり、液滴の縁(輪郭)の影響を受けることがないため、後述する液吐出装置により液滴に含まれる粒子の数を計数する場合に、粒子の計数精度を向上できる。
【0037】
液滴の液量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000pL以下が好ましく、100pL以下がより好ましい。
液滴の液量は、例えば、液滴の画像から液滴の大きさを求め、液量を算出する方法などにより測定することができる。
【0038】
液滴中に含まれる粒子の個数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1個以上が好ましく、1個以上5個以下がより好ましい。
液又は液滴に含まれる粒子としては、例えば、細胞、金属微粒子、無機微粒子などが挙げられる。これらの中でも、細胞が好ましい。
【0039】
-細胞-
細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真核細胞、原核細胞、多細胞生物細胞、単細胞生物細胞を問わず、すべての細胞が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
真核細胞としては、特に制限はなく、目的応じて適宜選択することができ、例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌、藻類、原生動物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、動物細胞、真菌が好ましく、ヒト由来の細胞がより好ましい。
【0041】
接着性細胞としては、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、組織や器官から直接採取した初代細胞を何代か継代させたものでもよく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分化した細胞、未分化の細胞などが挙げられる。
【0042】
分化した細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞;星細胞;クッパー細胞;血管内皮細胞;類道内皮細胞、角膜内皮細胞等の内皮細胞;繊維芽細胞;骨芽細胞;砕骨細胞;歯根膜由来細胞;表皮角化細胞等の表皮細胞;気管上皮細胞;消化管上皮細胞;子宮頸部上皮細胞;角膜上皮細胞等の上皮細胞;乳腺細胞;ペリサイト;平滑筋細胞、心筋細胞等の筋細胞;腎細胞;膵ランゲルハンス島細胞;末梢神経細胞、視神経細胞等の神経細胞;軟骨細胞;骨細胞などが挙げられる。
【0043】
未分化の細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞等の多能性幹細胞;単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞;iPS細胞などが挙げられる。
【0044】
真菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カビ、酵母菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、細胞周期を調節することができ、1倍体を使用することができる点から、酵母菌が好ましい。
細胞周期とは、細胞が増えるとき、細胞分裂が生じ、細胞分裂で生じた細胞(娘細胞)が再び細胞分裂を行う細胞(母細胞)となって新しい娘細胞を生み出す過程を意味する。
【0045】
酵母菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞周期をG1期に制御するフェロモン(性ホルモン)の感受性が増加したBar-1欠損酵母が好ましい。酵母菌がBar-1欠損酵母であると、細胞周期が制御できていない酵母菌の存在比率を低くすることができるため、液室内に収容された細胞の特定の核酸の数の増加等を防ぐことができる。
【0046】
原核細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真正細菌、古細菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
細胞としては、生細胞が好ましい。
【0048】
また、細胞としては、光を受光したときに発光可能な細胞であることが好ましい。光を受光したときに発光可能な細胞であると、光学センサにより細胞の数を高精度に制御して被着対象物に着弾させることができる。
ここで、受光とは、光を受けることを意味する。
また、光学センサとは、人間の目で見ることができる可視光線と、それより波長の長い近赤外線や短波長赤外線、熱赤外線領域までの光のいずれかの光をレンズで集め、対象物である細胞の形状などを画像データとして取得する受動型センサを意味する。
【0049】
--光を受光したときに発光可能な細胞--
光を受光したときに発光可能な細胞としては、光を受光したときに発光可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、蛍光色素によって染色された細胞、蛍光タンパク質を発現した細胞、蛍光標識抗体により標識された細胞などが挙げられる。
細胞における蛍光色素による染色部位、蛍光タンパク質の発現部位、又は蛍光標識抗体による標識部位としては、特に制限はなく、細胞全体、細胞核、細胞膜などが挙げられる。
【0050】
---蛍光色素---
蛍光色素としては、例えば、フルオレセイン類、アゾ類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、フルオレセイン類、アゾ類、ローダミン類が好ましく、エオシン、エバンスブルー、トリパンブルー、ローダミン6G、ローダミンB、ローダミン123がより好ましい。
【0051】
蛍光色素としては、市販品を用いることができ、市販品としては、例えば、商品名:EosinY(和光純薬工業株式会社製)、商品名:エバンスブルー(和光純薬工業株式会社製)、商品名:トリパンブルー(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミン6G(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミンB(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミン123(和光純薬工業株式会社製)などが挙げられる。
【0052】
---蛍光タンパク質---
蛍光タンパク質としては、例えば、Sirius、EBFP、ECFP、mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFP、TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer、TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBanana、KusabiraOrange、mOrange、TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberry、TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、mPlum、PS-CFP、Dendra2、Kaede、EosFP、KikumeGRなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
---蛍光標識抗体---
蛍光標識抗体としては、蛍光標識されていれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CD4-FITC、CD8-PEなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
細胞は、特定の核酸を有することが好ましい。特定の核酸を有する細胞の細胞数は、複数であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0055】
---特定の核酸---
特定の核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、感染症検査に用いられる塩基配列、自然界には存在しない核酸、動物細胞由来の塩基配列、植物細胞由来の塩基配列などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、特定の核酸としては、プラスミドも好適に使用することができる。
核酸とは、プリン又はピリミジンから導かれる含窒素塩基、糖、及びリン酸が規則的に結合した高分子の有機化合物を意味する。
【0056】
特定の核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNA、RNAなどが挙げられる。これらの中でも、ノロウイルスなどの感染症固定領域に由来するRNAに対応するDNA、自然界に存在しないDNAなどが好適に用いることができる。
【0057】
特定の核酸を有する複数の細胞は、使用する細胞由来の特定の核酸であってもよく、遺伝子導入により導入された特定の核酸であってもよい。特定の核酸として、遺伝子導入により導入された特定の核酸、及びプラスミドを使用する場合は、1細胞に1コピーの特定の核酸が導入されていることを確認することが好ましい。1コピーの特定の核酸が導入されていることの確認方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シーケンサー、PCR法、サザンブロット法などを用いて確認することができる。
【0058】
遺伝子導入の方法としては、特定の核酸配列が狙いの場所に狙いの分子数導入できれば特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、相同組換え、CRISPR/Cas9、TALEN、Zinc finger nuclease、Flip-in、Jump-inなどが挙げられる。特に、酵母菌の場合は、効率の高さ、及び制御のしやすさの点から、相同組換えが好ましい。
【0059】
-金属微粒子-
金属微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、銀粒子、銅粒子などが挙げられる。これらは吐出した液滴によって配線を描画する用途に用いることができる。
【0060】
-無機微粒子-
無機微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素等が白色インクとしての用途やスペーサ材料の塗布用途等で用いられる。
【0061】
粒子が凝集する場合には、粒子を含む液の粒子の濃度を調整することにより、液中の粒子の濃度と、液中の粒子の個数とがポアソン分布に従う理論から、液中の粒子の個数を適宜調整することができる。
【0062】
<変位部材>
変位部材(変位部)は、膜状部材の位置を変位させて吐出口から液を吐出させる。
変位部材の態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、膜状部材における、吐出口から吐出する液が配置される側に位置し、膜状部材の位置を変位させて吐出口から液を吐出させる態様(第1の態様)、膜状部材における周縁部の少なくとも一部に接続され、膜状部材の位置を変位させて吐出口から液を吐出させる態様(第2の態様)、膜状部材の位置を変位させて吐出口から液を吐出させる態様(第3の態様)、後述する液収容部における、吐出口から液を吐出する側と反対側に位置し、後述する液収容部の位置を変位させて吐出口から液を吐出させる態様(第4の態様)などが挙げられる。
【0063】
従来の液吐出ヘッドにおいては、ノズル部が形成された膜状部材(ノズル板)を振動させることにより液滴を形成する。具体的には、従来の液吐出ユニットにおいては、膜状部材に設置された圧電素子などにより、膜状部材のノズル部の近傍を大きく振動させる(変形させる)ことで、液滴を形成して吐出する。そのため、従来の液吐出ヘッドにおいては、膜状部材が或る程度の長さを有している必要がある。
本発明における液吐出ヘッドは、変位部材が膜状部材又は後述する液収容部の位置を変位させることにより、膜状部材又は後述する液収容部に配置された液に慣性力を付与することにより、膜状部材又は後述する液収容部に配置された液を吐出口から吐出することができる。つまり、本発明における液吐出ヘッドは、例えば、膜状部材又は後述する液収容部の位置が変位することに伴って吐出口の位置が変位し、吐出する液に圧力上昇が生じることにより、吐出口から液滴を吐出する。
また、本発明における液吐出ヘッドは、変位部材が後述する液収容部の位置を変位させることにより、液の吐出を安定させるための予備吐出を行ってもよい。さらに、液吐出ヘッドは、変位部材が膜状部材の位置を変位させることにより、後述する液収容室が収容する液を撹拌してもよい。
なお、液吐出ヘッドが後述する接続部材を有する場合、変位部材は、膜状部材、液収容部、及び接続部材の位置を共に変位させることが好ましい。
なお、膜状部材又は後述する液収容部を、「膜状部材など」と称することがある。
【0064】
変位部材が膜状部材などの位置を変位させる方向としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、液吐出ヘッドが液の吐出を行う際には、液の吐出方向に膜状部材の位置を変位させることが好ましい。なお、液の吐出方向としては、略重力方向であることが好ましい。
変位部材が膜状部材などの位置を変位させる際には、膜状部材を往復動(往復運動)させることが好ましく、振動させることがより好ましい。
【0065】
本発明における液吐出ヘッドにおいては、変位部材が、吐出口から液を吐出する方向と略平行な方向に膜状部材などを往復動させて、膜状部材などの位置を変位させることが好ましい。こうすることにより、本発明における液吐出ヘッドにおいては、より効率的に液を吐出できるとともに、所望の位置により正確に液を吐出することができる。
【0066】
ここで、膜状部材などの位置を変位させて、吐出口から液を吐出する際には、膜状部材などの全体の位置を変位させてもよいし、膜状部材などを変形させ、膜状部材などにおける吐出口の位置を変位させてもよい。言い換えると、本発明においては、変位部材が膜状部材などの全体の位置を変位させて液を吐出してもよいし、変位部材が膜状部材などを変形させて、膜状部材などにおける吐出口の位置を変位させて液を吐出してもよい。
【0067】
変位部材の形状、大きさ、材質、及び構造については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0068】
変位部材としては、圧電素子が好適に用いられる。
圧電材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)、ビスマス鉄酸化物、ニオブ酸金属物、チタン酸バリウム、又はこれらの材料に金属や異なる酸化物を加えたものなどが挙げられる。これらの中でも、高い逆圧電効果を得られる点で、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が好ましい。
また、圧電素子における振動モードとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、縦モード、シアモードなどが挙げられる。
縦モードの圧電素子としては、例えば、電圧を加えることにより、縦方向に伸び、横方向に縮む積層タイプの圧電素子などを用いることができる。また、シアモードの圧電素子としては、例えば、電圧を加えることにより、圧電素子が変形して曲がり、圧電素子の一端の位置が変位するバイモルフタイプ(ベンドタイプ)の圧電素子などを用いることができる。
【0069】
なお、変位部材としては、例えば、膜状部材上に膜状部材とは線膨張係数が異なる材料を貼り付け、加熱することにより吐出口の位置を変位させてもよい。この場合、線膨張係数の異なる材料の近傍にヒータを配置し、通電によりヒータを加熱して吐出口の位置を変位させてもよい。
【0070】
変位部材が配置される位置としては、特に制限はなく、第1の態様~第4の態様などに応じて適宜選択することができる。
また、変位部材が膜状部材と当接することが好ましい。変位部材が膜状部材と当接することにより、例えば、少なくとも膜状部材と変位部材とにより、液を吐出可能となるため、液吐出ヘッドをより簡易な構造とすることができる。
変位部材が膜状部材と当接する位置としては、変位部材が膜状部材の位置を変位させることにより液を吐出可能となる位置であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0071】
さらに、変位部材としては、膜状部材の周縁部を囲むように位置し、膜状部材に配置される液を保持可能であることが好ましい。こうすることにより、変位部材により、吐出口から吐出する液を保持でき、より多くの液を膜状部材上に配置することができる。また、変位部材が液を保持可能であることにより、液吐出ヘッドは、膜状部材上に所定の厚みで液を保持することができ、吐出口から液を吐出する際における、膜状部材上の液の水圧を安定させることができるため、より安定して液を吐出できる。
ここで、膜状部材の周縁部としては、例えば、膜状部材における外側(吐出口から遠い側)の縁の近傍の領域を選択することができる。変位部材が、膜状部材の周縁部を囲むように位置することにより、より多くの液を保持可能となる。
変位部材を膜状部材の周縁部を囲むように位置させる(配置する)場合において、膜状部材の平面形状は、例えば、円環状(リング状)、膜状部材の周縁部と同様の形状などとすることができる。
【0072】
また、変位部材における表面の少なくとも一部が、液との接触を遮断するコーティング膜を有することが好ましい。より具体的には、例えば、変位部材における表面の一部が、吐出口から吐出する液と接触するような位置関係である場合、変位部材における液と接触し得る部分に、液との接触を遮断するコーティング膜が設けられていることが好ましい。
こうすることにより、例えば、変位部材と液との接触を防ぐことができ、吐出口から吐出する液に対する耐性を有さない変位部材を用いる場合であっても、変位部材と液が接触することによる不具合をより抑制することができる。
さらに、コーティング膜としては、変位部材の動きを阻害しないような材質や厚みであることが好ましい。コーティング膜としては、例えば、吐出口から吐出する液が水を主とする液体である場合には、耐水性を有するものとすることができる。
【0073】
ここで、コーティング膜としては、吐出口から吐出する液との接触を遮断することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パリレン、エポキシ、メラミン等の有機膜、無機膜などが挙げられる。
変位部材における表面にコーティング膜を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート、ディップ、スプレーコート、蒸着、CVDなどが挙げられる。
【0074】
本発明の液吐出ヘッドは、液を吐出する吐出口を有する膜状部材と、膜状部材の位置を変位させて吐出口から液を吐出させる変位部材とを有することにより、変位部材が、膜状部材の位置を変位させて吐出口から液を吐出させるため、上述した従来の液吐出ヘッドのように、膜状部材の吐出口の近傍を大きく振動させる(変形させる)必要がなく、例えば、膜状部材全体の位置を変位させることにより、液を吐出することができる。つまり、本発明の液吐出ヘッドにおいては、膜状部材の位置が変位することに伴って吐出口の位置が変位し、吐出する液に圧力上昇が生じることにより、吐出口から液滴を吐出する。このため、本発明の液吐出ヘッドでは、膜状部材を変形させることは必須でないため、簡易な構造とすることができ、従来よりも小さい(短い)膜状部材を用いることができる。したがって、本発明の液吐出ヘッドにおいては、従来の液吐出ヘッドに比べて、小型化することができる。
また、本発明の液吐出ヘッドは、従来の液吐出ヘッドに比べて小型化することができるため、1つの液吐出装置に多くの液吐出ヘッドを設置することができる。そのため、本発明の液吐出ヘッドを有する液吐出装置は、例えば、細胞溶液(細胞懸濁液)を吐出して複数の細胞からなる組織体を形成する際、より短時間で組織体を形成することができるため、形成時における細胞の生存率の低下を抑制することができる。
また、本発明の液吐出ヘッドは、上述したように、ノズルを有する膜状部材又は液収容部全体の位置を変位させることにより液を吐出する。そのため、本発明の液吐出ヘッドは、液を吐出する際に膜状部材又は液収容部の位置を変位させることや、液を吐出しない程度に膜状部材又は液収容部の位置を変位させることにより、膜状部材又は液収容部が収容する液を撹拌することができる。
このように、本発明の液吐出ユニットは、液の吐出や撹拌を行うことができ、更には膜状部材(ノズルプレート)や変位部材の大きさに制限されることなく小型化することができる。
また、本発明の液吐出ヘッドにおいては、液の吐出において膜状部材の変形を伴わない為、剛性の高い膜状部材を適用可能であることにより、液吐出ヘッドの液を連続で吐出する際の耐久性を向上できるとともに、ブラシなどのクリーニング装置を用いて膜状部材の液を吐出する側(膜状部材の下面側)をクリーニングする際における膜状部材の損傷を抑制できる。言い換えると、本発明の液吐出ヘッドにおいては、剛性の高い膜状部材を適用可能であることにより、簡易な構造とすることができ、耐久性も高くすることができるため、従来の液吐出ヘッドよりもメンテナンス性を向上させることができる。
【0075】
<固定部材>
本発明の液吐出ヘッドにおいて、変位部材における、膜状部材と当接する側と反対側を固定する固定部材(固定部)を有することが好ましい。液吐出ヘッドが固定部材を有することにより、液吐出ヘッドを配置する位置の選択の自由度を向上させることができ、例えば、液吐出ヘッドを多数並べて配置することを、より容易にすることができる。
ここで、固定部材の形状、大きさ、材質、及び構造については、変位部材における、膜状部材と当接する側と反対側を固定可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0076】
固定部材としては、剛性が高く変形しにくい材質で形成されることが好ましい。固定部材に適用可能な剛性が高く変形しにくい材料としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)などの金属材料、セラミックス材料などが挙げられる。
固定部材が、剛性が高く変形しにくい材質で形成されることにより、変位部材の変位のエネルギーの損失を抑制して、効率的に膜状部材の位置を変位させることができ、吐出口からの液の吐出をより効率的に行うことができる。
【0077】
<液収容部>
液収容部は、ノズルを有する。また、液収容部の少なくとも一部は、気体を流通可能であることが好ましい。なお、液収容部の少なくとも一部が気体を流通可能であるとは、液収容部の液収容室における内部と外部の間で、気体が流通可能であることを意味する。
液収容部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。液収容部としては、液収容室、ノズル(液吐出口)を有し、通気口を更に有することが好ましく、開口部及び付着防止部の少なくともいずれかを更に有することがより好ましい。
【0078】
<<液収容室>>
本発明の液吐出ヘッドにおいて、膜状部材及び液収容部の少なくともいずれかの液を収容可能な液収容室(液室)を有することが好ましい。
液収容室を有することにより、吐出口から吐出する液を収容して、より多くの液を膜状部材上に配置することができる。これにより、液吐出ヘッドは、膜状部材上に所定の厚みで液を収容することができ、吐出口から液を吐出する際における、膜状部材上の液の水圧を安定させることができるため、より安定して液を吐出できる。さらに、液吐出ヘッドが液収容室を有することにより、より多量の液を膜状部材の上に配置することができるため、液吐出ヘッドに液を供給する回数を減らすことができ、より短時間で多くの液滴を吐出することができる。特に、液吐出ヘッドから細胞溶液(細胞懸濁液)を吐出して複数の細胞からなる組織体を形成する場合には、より短時間で組織体を形成することができるため、形成時における細胞の生存率の低下を抑制することができる。
【0079】
液収容室の形状、大きさ、材質、及び構造については、膜状部材及び変位部材の少なくともいずれかの上に配置される液を収容可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、液収容室は、例えば、膜状部材に当接する変位部材の上に、円筒状の部材(液室)を密着させたものなどとすることができる。
【0080】
また、液収容室の少なくとも一部は、気体を流通可能であることが好ましい。なお、液収容室の少なくとも一部が気体を流通可能であるとは、液収容室の液室における内部と外部の間で、気体が流通可能であることを意味する。
液収容室としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。液収容室としては、通気口を更に有することが好ましく、開口部及び付着防止部の少なくともいずれかを更に有することがより好ましい。
【0081】
<<<液室>>>
液室は、液を収容する。
液室の形状、大きさ、材質、及び構造については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
液室の材質としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム等の金属、ABS、ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチックス(樹脂材料)、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスなどが挙げられる。これらの中でも、液室が収容する液が粒子を含む場合であって、粒子として細胞やタンパク質を用いる際には、細胞やタンパク質に対する付着性の低い材料を用いることが好ましい。
細胞の付着性は、材質の水との接触角に依存するとされており、材質の親水性が高い又は疎水性が高いときには、細胞の付着性は低くなる。親水性の高い材料としては各種金属材料やセラミックス(金属酸化物)を用いることが可能であり、疎水性が高い材料としてはフッ素樹脂等を用いることが可能である。
また、液室の材料表面をコーティングすることで細胞の付着性を低下させることも好ましい。液室の材料表面をコーティングとしては、例えば、材料表面を前述の金属又は金属酸化物材料でコーティングすることや、スパッタリングによるコーティング、化学研磨処理による表面不動態膜の形成、細胞膜を模した合成リン脂質ポリマー(例えば、日油株式会社製、Lipidure)によってコーティングすることなどが挙げられる。
【0082】
<<通気口>>
通気口(大気開放部)は、液収容室の内部と外部の間で、気体を流通可能とする口(孔)を意味する。液収容室が通気口を有することにより、液収容室内部の気圧が、液収容室外部の気圧(通常は大気圧)と同程度となるため、液収容室内部が負圧となることを抑制して、安定して液収容室が収容する液を吐出することができる。
通気口としては、液収容室の内部と外部の間で、気体を流通可能とするものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
通気口としては、例えば、液収容室を貫通した孔、液収容室の一部を開口させた通気用開口部などとすることができる。なお、通気口は、気体が通過可能な部材で覆われていてもよく、気体が通過可能な部材としては、例えば、網目状の部材、スポンジ状の部材などが挙げられる。
液収容室の内部と外部との間で、気体が流通可能となることにより、液を吐出する際に液収容室の内部が負圧となることを防止でき、液が吐出しやすくなる。また、これにより、液収容室が収容する液に混入した気泡を排出できるため、安定して液を吐出することができる。
また、液収容室の内部と外部との間で、気体が流通可能となることにより、液収容室が収容する液が粒子としての細胞を含む場合、液を吐出する際に加圧による細胞へのダメージを抑制することができる。液を吐出する際における加圧による細胞へのダメージを抑制できると、複数の細胞からなる組織体を形成する場合などに、細胞の生存率の低下を抑制することができるため有利である。
【0083】
<<開口部>>
液収容室は、開口部を有することが好ましい。
開口部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。開口部としては、液収容室に収容された液の少なくとも一部を、液収容室の外部に露出させる開口部であることが好ましい。開口部は、上述の通気口が兼ねる(開口部と通気口が同一である)形態であってもよく、通気口と別に設けられる形態であってもよい。開口部が上述の通気口と別に設けられる形態としては、例えば、後述する付着防止部に設けられる形態などが挙げられる。
【0084】
液収容室が開口部を有することにより、液収容室を後述する支持部材から取り外すことなく、液収容室に収容された液の操作を行うことができる。
液収容室を後述する支持部材から取り外すことなく、液収容室に収容された液の操作を行うことができると、液の操作に必要とされる時間を短縮することができる。結果的に液滴を吐出する効率を向上させることができる。液滴を吐出する効率を向上させることができると、複数の細胞からなる組織体を形成する場合などに、細胞の生存率の低下を抑制することができるため有利である。
なお、液の操作としては、例えば、液の補充、液の撹拌などが挙げられ、操作器具により行うことができる。操作器具としては、例えば、駒込ピペット、ホールピペット、メスピペット、マイクロピペット等のピペット、ガラス管、ガラス棒などが挙げられる。
また、開口部を設ける位置としては、開口部に操作器具を容易に挿入することができ、後述の接続部材や変位部材などにより操作器具の操作が制限されない位置にすることが好ましい。
【0085】
<<付着防止部>>
液収容室は、液収容室に収容された液が、液収容室の外部に付着することを防止する付着防止部を有することが好ましい。
付着防止部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液収容室の上部の少なくとも一部を(気体が通過可能になるように)覆う蓋状の形態、一部が開口したフード(天蓋)状の形態などとすることができる。
【0086】
液収容室が、付着防止部を有することにより、液を吐出する際に液収容室が変位(振動)することで、液が液収容室の外部に飛散して、液収容室以外の部材などに付着し、コンタミネーション(コンタミ)の原因となることを防止することができる。
また、上述したように、付着防止部が開口部を有する形態も好ましい。付着防止部が開口部を有することにより、液収容室に収容された液の操作を行う際に、操作器具が付着防止部以外の部材などに接触することで液が付着し、コンタミの原因となることを防止することができる。
【0087】
<電極>
変位部材として圧電素子を用いる場合、例えば、圧電材料に電圧を印加するための電極を設けた構造とすることが好ましい。この場合、駆動手段から圧電素子の電極間に電圧を印加することにより、圧電素子を振動させて、膜状部材を振動させることができる。
また、変位部材に電圧を印加するための電極を設ける位置としては、例えば、吐出口から吐出する液と接触しない位置とすることが好ましい。さらに、電極を設ける位置としては、液吐出ヘッドが液収容室を有する場合には、液収容室の外側とすることが好ましい。言い換えると、液吐出ヘッドが液収容室を有する場合、液収容室の外側に、変位部材に電圧を印加するための電極を有することが好ましい。こうすることにより、液吐出ヘッドは、吐出口から吐出する液と電極とが接触することを防止でき、吐出口から吐出する液と電極とが接触することによる不具合をより抑制することができる。
【0088】
<<蓋部>>
また、本発明の液吐出ヘッドは、膜状部材における液が配置される側に、膜状部材と対向して配置された蓋部を有することが好ましい。これにより、本発明の液吐出ヘッドは、収容した液が蒸発してしまう量を低減することができる。さらに、蓋部が通気口を有することも好ましい。また、蓋部は、付着防止部が兼ねてもよい。
蓋部における形状、大きさ、材質、及び構造については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0089】
また、本発明の液吐出ヘッドは、蓋部に装着され、収容されている液の移送により液を撹拌する撹拌部を更に有することが好ましい。これにより、本発明の液吐出ヘッドは、例えば、液に粒子が含有されている場合には、収容した液において粒子が沈殿してしまい、吐出する際に吐出口が粒子で詰まりやすくなる状況であっても、粒子を分散させることができる。
【0090】
撹拌部(撹拌手段)としては、液を撹拌することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。撹拌部(撹拌手段)としては、例えば、第一送液手段と、第二送液手段と、第一送液手段と液保持部を繋ぐ流路と、第二送液手段と液保持部を繋ぐ流路とを有するものなどが挙げられる。この場合、流路には止水弁が備えられているものを用いることができる。このとき、第一送液手段及び第二送液手段は一対の液移送部として機能し、流路及び流路は一対の液貯留部として機能し、止水弁及び止水弁は一対の開閉部として機能することが好ましい。
【0091】
また、本発明の液吐出ヘッドは、撹拌部が吐出口から吐出させる液を供給することが好ましい。これにより、本発明の液吐出ヘッドは、液の吐出を繰り返すことにより、収容した液の液量が少なくなっても、速やかに液を供給することができる。
【0092】
<支持(接続)部材>
本発明の液吐出ヘッドは、液収容室と変位部材とを接続する支持(接続)部材を有することが好ましい。
支持部材は、液収容部を支持する。
本発明の液吐出ヘッドにおいては、膜状部材及び変位部材の少なくともいずれか上に配置される液を収容可能な液収容室と、液収容室と変位部材とを接続する支持(接続)部材とを有することが好ましい。本発明の液吐出ヘッドが支持(接続)部材を有することにより、液吐出ヘッドの形状や配置の選択の自由度をより向上させることができ、例えば、液吐出ヘッドを多数並べて配置することを、より容易にすることができる。
【0093】
支持(接続)部材の形状、大きさ、材質、及び構造については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
支持(接続)部材の材質としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム等の金属、ABS、ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチックス、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスなどが挙げられる。
【0094】
支持(接続)部材が、液収容室を接続(支持)する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液収容室における通気口の少なくとも一部が開口するように支持する手法、支持(接続)部材にも通気口を形成して、液収容室の通気口と支持(接続)部材の通気口を介して気体が流通可能となるように接続(支持)する手法などが挙げられる。
【0095】
また、支持(接続)部材は、液収容室を着脱可能に接続(支持)することが好ましい。言い換えると、支持(接続)部材が液収容室を着脱可能に接続(支持)する着脱部を有することが好ましい。支持(接続)部材が液収容室を着脱可能に接続することにより、膜状部材及び液収容室を交換することができるので、吐出する液を変更する際に、液どうしのコンタミを抑制することができる。
【0096】
液吐出ヘッドや液吐出装置を用いて、細胞チップや3次元的な組織体を形成する場合、1つの液吐出ヘッドで複数の異なる種類の液を吐出することが必要なときがある。このとき、異なる液同士のコンタミを防止するために、吐出する液を変更する際に膜状部材及び液収容室ごと取り替え、膜状部材及び液収容室を使い捨てることが好ましい。
特開2015-3483号公報には、使い捨ての液収容室等について記載されているが、この技術は、液室における液の圧縮を利用して液滴を形成するため、加圧液室内に気泡が混入した際には液を圧縮することができず、液滴を吐出できないことがある。さらに、特開2015-3483号公報に記載の技術では、圧電素子が加圧板を介して変位規制板との衝突を繰り返すため、圧電素子が壊れてしまうことがある。
【0097】
また、従来技術の液吐出ヘッド(例えば、特開2016-116489号公報に記載のもの)を用いた場合には、液収容室(特開2016-116489号公報における液滴と形成装置)に圧電素子などの変位部材が設けられている。そのため、従来技術の液吐出ヘッドにおいては、膜状部材及び液収容室を使い捨てる際に、高価な変位部材まで捨ててしまうため経済的でない。さらに、従来の液吐出ヘッドにおいては、液収容室に変位部材が設けられているため、膜状部材及び液収容室を取り替える(交換する)際に、変位部材を動作させるための電気的な配線の取り外し及び取り付け、圧電素子ごとの動作のばらつきを抑制するための調整などの作業が必要となる。そのため、従来の液吐出ヘッドにおいては、短時間で膜状部材及び液収容室を取り替えることが困難であるという問題がある。
【0098】
本発明の液吐出ヘッドにおいては、支持(接続)部材が液収容室を着脱可能に接続する形態では、変位部材が支持(接続)部材を介して膜状部材全体の位置を変位させることにより液を吐出するため、膜状部材及び液収容室には変位部材が設けられていない。そのため、この形態では、支持(接続)部材が液収容室を着脱可能に接続することにより、膜状部材及び液収容室を取り替える場合に、短時間で膜状部材及び液収容室を取り替えることができる。
また、短時間で膜状部材及び液収容室を取り替えることができると、複数の細胞からなる組織体を形成する場合などに、細胞の生存率の低下を抑制することができるため特に有利である。
【0099】
着脱部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ねじ等の螺合部が液収容室を付勢して支持するもの、弾性体が液収容室を付勢して支持するもの、磁性体が磁力により液収容室を支持するものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、着脱部としては、弾性体が液収容室を付勢して支持するもの、磁性体が磁力により液収容室を支持するものが好ましい。
【0100】
着脱部が、弾性体を有し、弾性体が液収容室を付勢することにより、液収容室を脱離不能に支持することが好ましい。着脱部が、弾性体を有し、弾性体が液収容室を付勢することにより、液収容室を脱離不能に支持することで、より短時間で容易に膜状部材及び液収容室を付け替えることができる。
弾性体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゴム、コイルばね、板ばね、トーションバーなどが挙げられる。これらの中でも、板ばねが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、液収容室を脱離不能に支持するとは、液収容室を取り替える際には、ユーザ等により着脱可能であるが、液収容室及び接続部材が静止しているとき、及び変位部材により変位(振動)させられているときには、接続部材が液収容室を接続(支持)できる状態を意味する。
【0101】
また、着脱部が、磁性体を有し、磁性体が磁力により、液収容室を脱離不能に支持することも好ましい。着脱部が、磁性体を有し、磁性体が磁力により、液収容室を脱離不能に支持することにより、より短時間で容易に膜状部材及び液収容室を付け替えることができる。
磁性体とは、磁界(磁場)を発生させるものを意味し、例えば、永久磁石、電磁石などが挙げられる。これらの中でも、永久磁石が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
液収容室は、着脱部が磁性体を有する場合、磁性体の発生させる磁力により、接続部材との間で引力を生ずる吸着部を有することが好ましい。吸着部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性体の金属などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
本発明の態様では、吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口を形成する膜状部材の縁の断面が曲線を有する形状とする、即ち、吐出口の縁を滑らかに丸くすることにより液体の流動を妨げることがなく、残渣の発生を抑制することができ、吐出口、液体、外気によって構成されるメニスカスの位置を安定させることができる。
また、吐出口を構成する膜状部材の表面が不動態によって皮膜されていることによって液体及びそれに含有されている粒子、反応成分による付着を抑制することができる。そのため、本発明の液吐出ヘッドは、メニスカスを狙いの状態に維持することが可能となり、従来の液吐出ヘッドに比べて安定した吐出を継続することが可能となる。
【0103】
(液吐出ヘッドの製造方法)
本発明の液吐出ヘッドの製造方法は、本発明の液吐出ヘッドの製造方法であって、膜状部材を化学研磨処理して膜状部材の表面に不動態膜を形成する不動態膜形成工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0104】
不動態膜形成工程は、膜状部材を化学研磨処理して膜状部材の表面に不動態膜を形成する工程である。
ここで、膜状部材、不動態膜は上述した本発明の液吐出ヘッドで説明したものと同様のものである。
化学研磨処理としては、例えば、エスクリーンS-250(佐々木化学薬品株式会社)を用いた薬液処理などが挙げられる。
【0105】
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0106】
(液吐出装置)
本発明の液吐出装置は、本発明の液吐出ヘッドを備え、駆動手段、粒子数計数手段を有することが好ましく、更に必要に応じてその他の手段を備える。
本発明の液吐出装置における液吐出ヘッドは、本発明の液吐出ヘッドと同一のものであるため説明を省略する。
【0107】
<駆動手段>
駆動手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液吐出ユニットに駆動電圧を入力する手段などが挙げられる。この場合、駆動手段が圧電素子を変形させることにより微小な液滴を吐出させることができる。
【0108】
<粒子数計数手段>
粒子数計数手段は、液滴に含まれる粒子を計数する手段であり、液滴の吐出後、かつ液滴の被着対象物への着弾前に、液滴に含まれる粒子数をセンサによって計数する手段であることが好ましい。
センサとは、自然現象や人工物の機械的・電磁気的、熱的、音響的、又は化学的性質、或いはそれらにより示される空間情報・時間情報を、何らかの科学的原理を応用して、人間や機械が扱い易い別媒体の信号に置き換える装置を意味する。
【0109】
粒子数計数手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、吐出前に粒子を観測する処理、着弾後の粒子をカウントする処理を含んでもよい。
【0110】
液滴の吐出後、かつ液滴の被着対象物への着弾前に、液滴に含まれる粒子数の計数する処理としては、液滴が被着対象物としてのプレートのウェルに確実に入ることが予測されるウェル開口部の直上の位置にあるタイミングにて液滴中の粒子を観測することが好ましい。
【0111】
プレートとしては、特に制限はなく、バイオ分野において一般的に用いられる穴が形成されたものを用いることが可能である。
プレートにおけるウェルの数は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、単数であってもよく、複数であってもよい。
ウェルの数が複数であるプレートとしては、ウェルの数が24個、96個、384個など業界において一般的な個数及び寸法で穴が形成されたものを用いることが好ましい。
プレートの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後の処理のために、細胞や核酸の壁面への付着が抑制されているものを用いることが好ましい。
【0112】
液滴中の粒子を観測する方法としては、例えば、光学的に検出する方法、電気的・磁気的に検出する方法などが挙げられる。
【0113】
<その他の手段>
その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、制御手段、表示手段、記録手段などを有することが好ましい。
【実施例】
【0114】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0115】
(実施例1)
3T3細胞を最終濃度3×106個/mlとなるように、リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBS(-)と表記する)で希釈し、細胞懸濁液を調製した。
【0116】
次に、エスクリーンS-250(佐々木化学薬品株式会社)等を用い、約100℃に加熱した薬液中で撹拌しながら化学研磨処理を施し、表面に酸化クロムの被膜(不動態膜)を形成した膜状部材であるSUS304(日鉄ステンレス株式会社製、吐出口を形成する面に対する法線方向における吐出口を形成する膜状部材の縁の断面の曲線の曲率:0.2、表面粗さ(Ra):100nm)を用いて、
図1A~
図1Cに示す液吐出ヘッドを有する液吐出装置を用いて、調製した細胞懸濁液を以下の吐出条件で吐出し、以下のようにして「連続吐出性」を評価した。
【0117】
-吐出条件-
・ 吐出量:52pL
・ 吐出口直径:100μm
・ 液滴直径:100μm
【0118】
<連続吐出性>
上述した吐出条件において、下記評価基準に基づき液吐出ヘッドを評価した。結果を表1に示す。
【0119】
[評価基準]
◎:1h以上の連続吐出において、安定吐出できる(吐出口(ノズル)面払拭などのメンテナンスなし)
○:1h以上の連続吐出において、安定吐出できる(吐出口(ノズル)面払拭などのメンテナンスあり)
△:0.4h以上1h未満の連続吐出において、安定吐出できる(吐出口(ノズル)面払拭などのメンテナンスあり)
×:0.4h未満の連続吐出において、安定吐出できる(吐出口(ノズル)面払拭などのメンテナンスあり)
【0120】
(実施例2~実施例6及び比較例1~2)
実施例1において、液吐出ヘッドの構成を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして液吐出ヘッドを作製し、「連続吐出性」を評価した。結果を表1に示す。
なお、比較例1においては、膜状部材の処理方法において処理温度を低温(60℃~80℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして液吐出ヘッドを作製した。また、比較例2においては、膜状部材の処理方法において吐出口の加工方法をプレス加工して吐出口を形成し、薬液処理を行わずに不動態膜を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして液吐出ヘッドを作製した。
【0121】
【0122】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 液を吐出する吐出口を有する膜状部材と、
前記膜状部材の位置を変位させて前記吐出口から前記液を吐出させる変位部材と、を有し、
前記吐出口を形成する面に対する法線方向における前記吐出口を形成する前記膜状部材の縁の断面が曲線を有し、
前記膜状部材の表面に不動態膜を有する、ことを特徴とする液吐出ヘッドである。
<2>前記曲線の曲率が、0.1以上1以下である、前記<1>に記載の液吐出ヘッドである。
<3> 前記吐出口を形成する前記膜状部材の表面粗さ(Ra)が、100nm以下である、前記<1>から<2>のいずれかに記載の液吐出ヘッドである。
<4> 前記膜状部材の材質が、ステンレス鋼である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の液吐出ヘッドである。
<5> 前記液が、粒子を含有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の液吐出ヘッドである。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の液吐出ヘッドを有することを特徴とする液吐出装置である。
<7> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の液吐出ヘッドの製造方法であって、
前記膜状部材を化学研磨処理して不動態膜を形成する不動態膜形成工程を含むことを特徴とする液吐出ヘッドの製造方法である。
【0123】
前記<1>から<5>のいずれかに記載の液吐出ヘッド、前記<6>に記載の液吐出装置、及び前記<7>に記載の液吐出ヘッドの製造方法によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0124】
【文献】特開2016-116489号公報
【文献】特開2001-55563号公報
【文献】特開2015-3483号公報
【符号の説明】
【0125】
1100 液吐出ヘッド
1012 吐出口
1013 膜状部材
1030 圧電素子(変位部材の一例)
A 吐出口付近の領域
1014 不動態膜
1015 メニスカス(気液界面)
1300 液