(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】エチレングリコール類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 41/42 20060101AFI20240618BHJP
C07C 27/28 20060101ALI20240618BHJP
C07C 43/11 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C07C41/42
C07C27/28
C07C43/11
(21)【出願番号】P 2020022056
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】野田 周祐
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-031606(JP,A)
【文献】特開2011-213663(JP,A)
【文献】特開昭56-104829(JP,A)
【文献】特公昭45-009926(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンオキシドを水と反応させ、
トリエチレングリコー
ルを含む水溶液を得る加水分解工程、前記
トリエチレングリコールを含む水溶液から
トリエチレングリコー
ルを蒸留精製する工程を含む、
トリエチレングリコー
ルの製造方法であって、
前記
蒸留精製する工程における
トリエチレングリコー
ルを含む水溶液のpH
を5.0以上
とすることを特徴とする、
トリエチレングリコー
ルの製造方法。
【請求項2】
前記
蒸留精製する工程における
トリエチレングリコール
を含む水溶液のpH
を6.0以上
とする、請求項
1に記載の
トリエチレングリコー
ルの製造方法。
【請求項3】
前記
蒸留精製する工程における
トリエチレングリコール
を含む水溶液のpH
を10未満
とする、請求項1
又は2に記載の
トリエチレングリコー
ルの製造方法。
【請求項4】
前記蒸留精製する工程の温度は159~170℃、圧力は10~22hPaである、請求項1~3のいずれかに記載のトリエチレングリコールの製造方法。
【請求項5】
前記加水分解工程で得られた水溶液からモノエチレングリコールを分留し、次いでジエチレングリコールを分留し、その後トリエチレングリコールを蒸留精製する、請求項1~4のいずれかに記載のトリエチレングリコールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエチレングリコール類、とりわけトリエチレングリコールの製造方法に関する
。詳しくは、エチレングリコール類の製造過程で混入する不純物や副生物を低減すること
ができる、高純度エチレングリコール類の製造方法に関する。このように製造されてエチ
レングリコール類は、溶媒、不凍液、潤滑油、ポリエステル樹脂の原料等に使用される。
【背景技術】
【0002】
エチレングリコール類(例えば、モノ、ジ及びトリエチレングリコール)は、エチレン
と酸素から酸化エチレンを製造した後、水と直接反応させて加水分解することにより大規
模に製造されている。この場合、エチレングリコール(モノ、ジ及びトリ)の混合物とし
て生成するため、製造工程の後段部分に各成分を留去するために精製工程を設けるのが通
常であり、精製工程を経て各成分は製品となる。
【0003】
上記方法では、エチレングリコール類として、混合物が製造されるため、例えばエチレ
ングリコールのみを製造したい場合は、その他のジエチレングリコール、トリエチレング
リコールは副生物となる。そのような副生物を蒸留等で留去し製品化することは、多大な
エネルギーを必要とし、経済的ではない。そのため、別法として、酸化エチレンからエチ
レンカーボネートを経てエチレングリコールを製造する方法が知られている(特許文献1
参照)。
【0004】
またエチレングリコール類を製造するにあたり、不純物が混入することを課題とし、そ
の課題を解決するための方法も提案されている。
例えば、特許文献2では、原料に由来するアルデヒド類、有機酸類が不純物として混入
している場合、その不純物が新たな副生物を生成する問題について指摘している。
また、前記副生物を除去する方法も提案されている。特許文献3では、エチレングリコ
ールの紫外線透過率に着目し、高いエチレングリコールを得る目的で、製造工程の特定部
分のホルムアルデヒド量を低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-201148号公報
【文献】特公昭45-9926号公報
【文献】特開2013-209329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のごとく、エチレングリコール類の製造工程で、不純物が含まれることや、その不
純物が更なる副生物を生成する可能性は示唆されている。またそのような不純物、副生物
を除去する方法等についても知られているが、そのほとんどが対処的な改善方法にすぎず
、化学反応的なアプローチで解決を提案するものではなかった。
本発明は、特定の不純物に対し、簡便な方法で恒久的に課題を解決することにより、高
純度のエチレングリコール類を製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは不純物として有機酸、特にギ酸が製造ライン中に混入もしくは生成した場
合、その酸がアルコール類、特にトリエチレングリコールと脱水縮合によりエステル化合
物を生成することを見出した。
さらにこのエステル化合物は、製造中のどの工程においても、分解または除去されるこ
となく、製品に混入する可能性があることが分かった。またそのような不純物を含むエチ
レングリコール類を原料として使用した場合、使用経過で予測しない反応を誘発したりす
る懸念もある。
【0008】
このような状況下、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、エチレングリコール類の製
造方法において、アルカリ金属を添加することにより、前記エステル化合物の生成を抑制
することができ、結果として高純度のエチレングリコール類を製造することが可能である
ことを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は以下に存する。
(1)エチレンオキシドを水と反応させ、エチレングリコール類を含む水溶液を得る加水
分解工程、前記エチレングリコールを含む水溶液からエチレングリコール類を脱水・精製
する工程を含む、エチレングリコール類の製造方法であって、
前記脱水・精製する工程におけるエチレングリコール類のpHが、5.0以上であるこ
とを特徴とする、エチレングリコール類の製造方法。
(2)前記(1)において、エチレングリコール類が、トリエチレングリコールである、
エチレングリコール類の製造方法。
(3)前記(1)または(2)において、pHが6.0以上であることを特徴とする、エ
チレングリコール類の製造方法。
(4)前記(1)~(3)のいずれかにおいて、pHが10未満であることを特徴とする
、エチレングリコール類の製造方法。
【0009】
なお本発明で課題が解決できる理由は以下の通りである。ギ酸等の有機酸は、酸化エチ
レン等の不純物として混入することが知られている。そのような有機酸は、プロセス系内
にアルコール類が存在している場合、エステル化反応が起こり、エステル化合物が副生す
る。本発明では、プロセス系内にアルカリ金属を添加し、有機酸を予め有機酸のアルカリ
金属塩とすることにより、上記エステル化反応を阻害することができ、エステル化合物の
副生が抑制できるという原理に基づく。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、不純物として有機酸、特にギ酸が製造ライン中に混入もしくは生成した場
合、その酸がアルコール類、特にトリエチレングリコールと脱水縮合によりエステル化合
物を生成することを見出した。このような状況下、エチレングリコール類の製造方法にお
いて、アルカリ金属を添加することにより、前記エステル化合物の生成を抑制することが
でき、結果として高純度のエチレングリコール類を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】典型的なエチレンオキシド/エチレングリコールのブロックフローを示した図である。
【
図2】エチレングリコール類から減圧蒸留塔で分留精製する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、「エチレンオキシドを水と反応させ、エチレングリコール類を含む水溶液を
得る加水分解工程、前記エチレングリコールを含む水溶液からエチレングリコール類を脱
水・精製する工程を含む、エチレングリコール類の製造方法であって、
前記脱水・精製する工程におけるエチレングリコール類のpHが、5.0以上であるこ
とを特徴とする、エチレングリコール類の製造方法。」である。
【0013】
以下、「エチレングリコール類」とは、モノ・ジ・トリエチレングリコールの内、少な
くとも1つを含むものをいう。
エチレングリコール類は、エチレンオキシドを水と直接反応させて加水分解することに
より製造されることが一般的である。また、エチレンオキシドの製造プラントとエチレン
グリコールの製造プラントは併設されることが一般的である。
図1には、エチレンオキシ
ド/エチレングリコールのブロックフローを示している。
【0014】
エチレンオキシド(以下、単に「EO」と称す)は、エチレンの気相触媒反応により製
造されている。反応生成ガスは、水で洗浄して、EOを水に吸収させて反応生成ガスから
分離する。得られたEO水溶液は、蒸留塔に供給してEOを放散させ、塔頂留出物として
高濃度のEO水溶液を回収する。気相触媒反応に際しては、銀触媒が使用される。また、
EOと共に蟻酸、酢酸などの有機酸やホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどが少量副
生することが知られている。
【0015】
次いで、上記EO水溶液は、エチレングリコール(以下、単に「EOG」と称す)反応
器に送られる。反応温度は通常、150~180℃、反応圧力は2.5MPa以下で反応
が実施される。EO水溶液は、目的とするEOGの比率に応じて水の濃度を調整する。E
Oの濃度が低いほど、モノエチレングリコールの比率が大きくなる。
よって、一般的にはEO濃度は9~13wt%程度で使用することが好ましい。生成し
たEOG水溶液はその後、脱水塔等で水分が除去される。その後、減圧蒸留を行い、モノ
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの順に分留される
。
【0016】
以下、減圧蒸留について
図2を参照しながら説明する。
図2は、エチレングリコール類
から減圧蒸留塔で分留精製する装置の概略図を示すものである。
図2において、第一の精
製塔でモノエチレングリコール(以下、単にMEGと称す。)が分留される。その際の温
度は、125~225℃、好ましくは135~195℃であり、圧力は、10~550
hPa、好ましくは15~79 hPaである。この範囲の温度、圧力であれば効率的に
MEGを分留精製することが可能である。
【0017】
なお、ジエチレングリコール(以下、単にDEGと称す。)の分留の前にリサイクルす
る工程を含んでいてもよい(図示せず)。このリサイクルする工程は、純度の向上を目的
とする。
MEGを塔頂部から分留した後、次いで塔底部の成分からジエチレングリコール(以下
、単にDEGと称す。)を分留する。その際の温度は、100~230℃、好ましくは1
10~157℃であり、圧力は、5~640 hPa、好ましくは6~50 hPaであ
る。この範囲の温度、圧力であれば効率的にDEGを分留精製することが可能である。上
述のごとく、トリエチレングリコール(以下、単にTEGと称す。)の分留の前にリサイ
クルする工程を含んでいてもよい。
【0018】
DEGを塔頂部から分留した後、次いで塔底部の成分からTEGを分留する。その際の
温度は、159~230℃、好ましくは159~170℃であり、圧力は、10~220
hPa、好ましくは10~22 hPaである。この範囲の温度、圧力であれば効率的
にTEGを分留精製することが可能である。
以上、エチレングリコール類からMEG、DEG、TEGを分留する工程について説明
したが、次にEOG水溶液に含まれている有機酸の挙動について説明する。有機酸は各蒸
留塔内で、酸またはその塩の状態で存在している。軽沸成分であれば、蒸留塔の塔頂部か
ら排除することも可能であるが、底部に存在するものも多く、各成分を分留によって除去
されることなく、蒸留塔の下流に存在し、次工程の蒸留塔に流入する。
【0019】
ここで、最終工程のTEGの分留に際し、有機酸とアルコールとのエステル化合物、特
にギ酸とTEGが脱水縮合して生成したエステル化合物が存在することが分かった。
そのようなエステル化合物としては、HCOO-(CH2CH2O)3-H、HCOO
-(CH2CH2O)-CH2CH2OCOH等が挙げられる。これらの化合物は、沸点
が低いためTEGの分留の際に、TEGと共に塔頂部へ分配され、精製されたTEGに混
入する。さらに、製品として出荷されたTEGの使用場面においては、エステル化合物が
加水分解を起こし、ギ酸が再生成することにより、pHの低下やTEG自体の酸分解が起
こり、品質低下をまねく虞がある。
【0020】
このような問題点は、TEGの分留に際して、精製塔内に流入するEOG水溶液のpH
を適当な範囲に設定することにより解決する。これは、ギ酸を十分なアルカリ金属によっ
てギ酸塩とし、酸とアルコールとのエステル化反応の平衡状態を偏在させることにより、
ギ酸とTEGのエステル化合物の生成を抑制することに基づく。
アルカリ金属としては、通常アルカリ金属に分類されるリチウム、ナトリウム、カリウ
ム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。ギ酸等の有機酸が十分に塩となり、且つTEG
の精製を阻害しない限り、またTEG製品への悪影響を及ぼさない限り、アルカリ金属は
いずれでも選択可能であるが、経済性の観点から、ナトリウムが好ましい。またTEGを
含む水溶液に対しては、アルカリ金属塩として添加されるのが通常である。例えば、水酸
化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。これらのうち、
経済性の観点から水酸化ナトリウムが好ましい。
【0021】
アルカリ金属の添加量については、エチレングリコール水溶液のpHを測定することに
より調整すれば良い。すなわち、エチレングリコール水溶液に有機酸が含まれる場合は、
前記水溶液のpHは酸性となる。そこにアルカリ金属を添加し、pHを中性付近~アルカ
リ性となることが、有機酸がアルカリ金属塩となったことの指標となりうる。
ここで、アルカリ金属添加後のエチレングリコール水溶液のpHは、5.0以上であり
、好ましくはpH6.0以上である。上限は、pHが中性~アルカリ性である限り、特に
制限はないが、極度にアルカリ性にすることは、過剰なアルカリ金属の添加が必要となり
、製品に不要なものが混在したり、予期せぬ反応を引き起こす虞もある。そのような観点
から、pHの上限は、10未満であることが好ましい。
【0022】
前記pHの調整は、脱水及び精製する工程におけるエチレングリコール類のpHが、5
.0以上となっていればよく、pHを調整するタイミングは、例えば、エチレングリコー
ル類を製造する前工程、エチレングリコール類を製造した後、脱水する前、精製する前の
いずれのタイミングでpHの調整を実施してもよい。特に、前述の通り、ギ酸が有機酸と
して含まれる場合、TEGとの反応物が顕著に生成するため、TEGを分留する前にpH
が上述の範囲に調整できていることが好ましい。添加方法としては、特に制限はなく、添
加するタイミングに応じた添加手法を選択することができる。
【0023】
このように調整されたエチレングリコール水溶液を各種エチレングリコール類に精製す
ることにより、有機酸とアルコールのエステル化合物が混入することのない、高純度のエ
チレングリコール類を製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明が実施例の記載に
限定的に解釈されるものではない。
<実施例1>
酸化エチレンと水を反応器に連続供給し、エチレングリコール類を含有する反応液(3
37g)を得た。ここに水酸化ナトリウム0.4g(682重量ppm)を加えて、撹拌
しながら溶解させた。溶解後の反応液のpHは7.2であった。
【0025】
得られた溶液を蒸留精製してトリエチレングリコールを得た。得られたトリエチレング
リコールのpHは6.0であった。
<実施例2>
水酸化ナトリウムを0.82g(1400重量ppm)加える以外は実施例1と同様に
操作を行った。得られたトリエチレングリコールのpHは7.4であった。
【0026】
<実施例3>
水酸化ナトリウムを1.0g(1706重量ppm)加える以外は実施例1と同様に操
作を行った。得られたトリエチレングリコールのpHは7.6であった。
<実施例4>
水酸化ナトリウムを5.8g(9896重量ppm)加える以外は実施例1と同様に操
作を行った。得られたトリエチレングリコールはギ酸を0.5重量ppm含み、pHは9
.3であった。
【0027】
<比較例1>
水酸化ナトリウムを加えずに実施例1と同様に操作を行った。得られたトリエチレング
リコールはギ酸を4.4重量ppm含み、pHは4.9であった。