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特許7505204吸引式保持部材及びその製造方法、吸引式保持装置、並びに搬送システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】吸引式保持部材及びその製造方法、吸引式保持装置、並びに搬送システム
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20240618BHJP
   B29C 64/379 20170101ALI20240618BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240618BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20240618BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240618BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240618BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20240618BHJP
【FI】
B25J15/06 G
B29C64/379
B33Y10/00
B33Y50/00
B33Y70/00
B33Y80/00
B29C64/386
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020030196
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021133448
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】武藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】坂木 泰三
(72)【発明者】
【氏名】武田 仁
(72)【発明者】
【氏名】岡本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 博志
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-346092(JP,A)
【文献】特開2009-127665(JP,A)
【文献】実開平05-077941(JP,U)
【文献】特開2013-214589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/06
B29C 64/379
B33Y 10/00
B33Y 50/00
B33Y 70/00
B33Y 80/00
B29C 64/386
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に当接して吸引保持するための吸引式保持部材であって、
前記対象物の吸引時に、前記対象物の凹部または貫通孔の開口部を塞ぐように挿入される挿入部と、
前記挿入部の外側に設けられ、前記対象物の吸引時に該対象物を支持するように当接する支持当接部と、
を有し、
前記挿入部が、その先端に向かって異なる複数の傾斜角で傾斜しており、前記挿入部の先端側の第1のテーパー面と、前記第1のテーパー面のテーパー角度よりも小さいテーパー角度を有する、前記挿入部の根元側の第2のテーパー面と、を有し、
前記対象物の吸引時に、前記第2のテーパー面が、前記凹部または前記開口部の外周に接して前記凹部または前記開口部を塞ぐと共に、前記支持当接部が前記対象物に当接して、前記対象物との間に気密空間が形成されることを特徴とする吸引式保持部材。
【請求項2】
露出する露出開口部と、前記露出開口部と連通しかつ前記露出開口部の最大径よりも大きな最大径を有する中空部とを有する、請求項1に記載の吸引式保持部材。
【請求項3】
前記中空部と、前記対象物との間に形成される気密空間とを連通する流路が設けられ、
前記気密空間側の流路開口部が、前記挿入部の外側に配置されており、かつ両流路開口部位置が同軸上にない、請求項2に記載の吸引式保持部材。
【請求項4】
吸着パッドである、請求項1から3のいずれかに記載の吸引式保持部材。
【請求項5】
三次元プリンターにより造形される、請求項1から4のいずれかに記載の吸引式保持部材。
【請求項6】
ニトリルゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、及びエチレンプロピレンゴムから選択される少なくとも1種の弾性材料で形成される、請求項1から5のいずれかに記載の吸引式保持部材。
【請求項7】
対象物に当接して吸引保持するための吸引式保持部材の製造方法であって、
前記吸引式保持部材は、前記対象物の吸引時に、前記対象物の凹部または貫通孔の開口部を塞ぐように挿入される挿入部と、
前記挿入部の外側に設けられ、前記対象物の吸引時に該対象物を支持するように当接する支持当接部と、
を有し、
前記挿入部が、その先端に向かって異なる複数の傾斜角で傾斜しており、前記挿入部の先端側の第1のテーパー面と、前記第1のテーパー面のテーパー角度よりも小さいテーパー角度を有する、前記挿入部の根元側の第2のテーパー面と、を有する吸引式保持部材であり、
前記挿入部が挿入される前記対象物の前記凹部または前記貫通孔の形状、大きさ、構造、数、配置、及び前記凹部または前記貫通孔の周囲の状態、並びに前記対象物の重量、大きさ、形状、厚み、及び材質から選択される少なくとも1種の情報から吸引式保持部材の造形情報を決定する決定工程と、
決定した吸引式保持部材の造形情報に基づき三次元プリンターによって吸引式保持部材を造形する造形工程と、
を含むことを特徴とする吸引式保持部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の吸引式保持部材を少なくとも1つと、真空吸引源と、を備えることを特徴とする吸引式保持装置。
【請求項9】
前記対象物を吸引保持した状態で搬送する搬送システムであって、
請求項8に記載の吸引式保持装置と、
前記吸引式保持装置の動作を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸引式保持部材及び吸引式保持部材の製造方法、吸引式保持装置、並びに搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プリント基板等を自動搬送する際に、プリント基板の電子部品が実装された箇所を吸着パッドで直接吸引すれば保持可能であるが電子部品を破損または破壊の恐れがあり、吸引保持位置が限られてしまうという問題がある。
一方、プリント基板には、通常、複数のねじ穴(貫通孔)が存在するので、プリント基板の貫通孔を吸引保持に使用できれば汎用性の高い吸引保持方法となるが、一般的な吸着パッドでは、貫通孔のエアー封止が不十分であるため貫通孔からエアー漏れが発生し、プリント基板を十分に吸引保持できないという問題がある。
【0003】
そこで、上記のような貫通孔を有するプリント基板等を吸引保持して搬送するのに適した吸着パッドとして、例えば、真空漏れ防止のための密閉ゴムと、貫通孔を基準に位置決め可能なガイド兼固定ねじを有し、吸着部に位置する範囲に穴、バリ、凹凸、粗面があっても吸着可能とする搬送用吸着パッドが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、先行文献に開示されているような吸着パッドでは、プリント基板の貫通孔を封止するためには、貫通孔の外周の平坦面を押さえる必要があり、適用できる箇所に制限があった。
【0005】
本発明は、正確な位置決めとエアー漏れの発生を防止できる吸引式保持部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としての本発明の吸引式保持部材は、対象物に当接して吸引保持するための吸引式保持部材であって、前記対象物の吸引時に、前記対象物の凹部または貫通孔の開口部を塞ぐように挿入される挿入部を有し、前記挿入部が、その先端に向かって傾斜している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、正確な位置決めとエアー漏れの発生を防止できる吸引式保持部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略斜視図である。
図2図2は、図1のA-A線での第1の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図である。
図3図3は、図1のB-B線での第1の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図である。
図4A図4A図4Dは、第1の実施形態に係る吸引式保持部材を用いた対象物の吸引保持動作の一例を説明する図であり、図4Aは吸引式保持部材の非吸引時の断面図である。
図4B図4A図4Dは、第1の実施形態に係る吸引式保持部材を用いた対象物の吸引保持動作の一例を説明する図であり、図4Bは吸引式保持部材が対象物に接触し、真空吸引が開始した状態を示す概略断面図である。
図4C図4A図4Dは、第1の実施形態に係る吸引式保持部材を用いた対象物の吸引保持動作の一例を説明する図であり、図4Cは吸引式保持部材と対象物との空間が真空状態となって吸着力が発生している状態を示す概略断面図である。
図4D図4A図4Dは、第1の実施形態に係る吸引式保持部材を用いた対象物の吸引保持動作の一例を説明する図であり、図4Dは対象物を目的位置まで搬送した後、エアー吸引を止めて対象物が自重によって脱落する状態を示す概略断面図である。
図5図5は、図1のA-A線での第2の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図である。
図6図6は、図1のB-B線での第2の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図である。
図7A図7A図7Dは、第2の実施形態に係る吸引式保持部材を用いた対象物の吸引保持動作の一例を説明する図であり、図7Aは吸引式保持部材の非吸引時の断面図である。
図7B図7A図7Dは、第2の実施形態に係る吸引式保持部材を用いた対象物の吸引保持動作の一例を説明する図であり、図7Bは吸引式保持部材が対象物に接触し、真空吸引が開始した状態を示す概略断面図である。
図7C図7A図7Dは、第2の実施形態に係る吸引式保持部材を用いた対象物の吸引保持動作の一例を説明する図であり、図7Cは吸引式保持部材と対象物との空間が真空状態となって吸着力が発生している状態を示す概略断面図である。
図7D図7A図7Dは、第2の実施形態に係る吸引式保持部材を用いた対象物の吸引保持動作の一例を説明する図であり、図7Dは対象物を目的位置まで搬送した後、エアー吸引を止めて対象物が自重によって脱落する状態を示す概略断面図である。
図8図8は、第3の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略斜視図である。
図9図9は、図1のA-A線での第4の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図である。
図10図10は、図1のB-B線での第4の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図である。
図11図11は、吸引式保持装置を用いて吸着力測定試験を実施している状況の一例を示す概略図である。
図12図12は、吸引式保持装置を用いて吸着力測定試験を実施している様子の一例を示す写真である。
図13図13は、吸引式保持装置を用いて耐久性評価試験を実施している状況の一例を示す概略図である。
図14図14は、吸引式保持装置を用いて耐久性評価試験を実施している様子の一例を示す写真である。
図15図15は、インクジェット方式の三次元プリンターの概略図である。
図16図16は、図15に示す三次元プリンターで作製した吸引式保持部材をサポート材から剥離した概略図である。
図17図17は、光造形方式の三次元プリンターの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(吸引式保持部材)
本発明の吸引式保持部材は、対象物に当接して吸引保持するための吸引式保持部材であって、前記対象物の吸引時に、前記対象物の凹部または貫通孔の開口部を塞ぐように挿入される挿入部を有し、前記挿入部が、その先端に向かって傾斜しており、支持当接部、露出開口部、中空部、及び流路を有することが好ましく、更に必要に応じてその他の部を有する。
前記吸引式保持部材は、「吸着パッド」、「真空パッド」と称することもある。
【0010】
従来技術の吸着パッドでは、対象物としてのプリント基板の貫通孔を封止するには、対象物の貫通孔の外周の平坦面を押さえる必要があり、貫通孔の外周よりも少し大きい余分な面積が必要となる。これに対して、本発明の吸引式保持部材は、対象物の吸引時に挿入部が対象物の凹部または貫通孔の開口部のエッジに食い込むことによりエアー漏れを防止できるので、従来技術のような余分な面積を必要とせず、対象物に対する吸着力は内圧と面積によって決まるので、支持当接部の大きさを最小にすることができる。
【0011】
したがって、本発明の吸引式保持部材は、対象物に当接して吸引保持するための吸引式保持部材であって、前記対象物の吸引時に、前記対象物の凹部または貫通孔の開口部を塞ぐように挿入される挿入部を有し、前記挿入部が、その先端に向かって傾斜していることによって、正確な位置決めとエアー漏れ封止を両立できる。
【0012】
本発明の吸引式保持部材は、対象物を吸引保持できればその形状、大きさ、材質、構造等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
吸引式保持部材の材質としては、弾性材料が好適であり、前記弾性材料としては、例えば、ニトリルゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
吸引式保持部材のショアD硬度は、吸引式保持部材の大きさ、形状、ゴムの材質によって変わるが、例えば、図1のような形状であればショアD硬度が32以上40以下のシリコーンゴムを選定することができる。吸引式保持部材が硬すぎると弾性がないため柔軟性がなく、対象物を吸着して保持する力が低下してしまうことがある。一方、吸引式保持部材が柔らかすぎるとエアーの流通を遮断する押さえ力が減少してしまうことがある。
ショアD硬度は、例えば、ショアD硬度計を用いて測定することができる。
吸引式保持部材の形状、大きさ及び構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0013】
<対象物>
対象物としては、吸引式保持部材によって吸引保持することができるものであれば形状、大きさ、構造、材質等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、工業用部品、自動車部品等のコイル、スペーサー、ワッシャ、プーリー、レンズ、プリント基板、ガラス基板、園芸用のポットなどが挙げられる。
【0014】
対象物は、吸引式保持部材の挿入部が挿入される凹部または貫通孔を有する。これらの中でも、対象物に対する吸着力の点から、貫通孔であることが好ましい。凹部または貫通孔の開口部に挿入部を挿入することによって、正確な位置決めとエアー漏れ防止を実現できる。
【0015】
貫通孔の形状、大きさ、数、構造、配置などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
貫通孔の形状としては、例えば、円形、楕円形、長方形、正方形、三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形、ランダムな不定形などが挙げられる。
貫通孔の大きさについては、特に制限はなく、吸引式保持部材の挿入部の大きさに応じて適宜選択することができる。
凹部の大きさ、数、構造、配置などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0016】
<挿入部>
挿入部は、対象物の吸引時に、対象物の凹部または貫通孔の開口部を塞ぐように挿入される。挿入部を対象物の凹部または貫通孔の開口部を塞ぐように挿入すると流体流通不能となり、挿入部と凹部または貫通孔の開口部とが隙間なく当接する。
挿入部の形状、大きさ、構造、及び材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
挿入部の形状としては、凹部または貫通孔の形状及び大きさに応じて適宜選定することができ、形状としては、例えば、突起状、凸状の略円錐台、凸状の略角錐台などが挙げられる。
挿入部は吸引式保持部材と一体に形成され、吸引式保持部材と同じ材質であることが好ましい。
【0017】
挿入部は、その先端に向かって傾斜しており、挿入部の中心線に漸次近づくように傾斜したテーパー面を有することが好ましい。挿入部が先端に向かって傾斜していることによって、対象物の凹部または貫通孔への位置決めとエアーリーク防止を同時に実現できる。また、挿入部の先端に向かって前記挿入部の中心線に漸次近づくように傾斜したテーパー面を有することによって、凹部または貫通孔が少し大きい場合は深めに挿入部を挿入することができ、凹部または貫通孔が少し小さい場合には浅めに挿入部を挿入することにより、凹部または貫通孔の開口部の径のばらつきに対する吸引式保持部材の位置決め、及び対象物を吸着する際のロバスト性が向上する。
また、本発明の吸引式保持部材は、対象物の吸引時に挿入部が対象物の凹部または貫通孔の開口部のエッジに食い込むことによりエアー漏れを防止できるので、従来技術のような対象物の貫通孔の外周の平坦面を押さえるための余分な面積を必要とせず、支持当接部の大きさを最小にすることができる。
【0018】
挿入部が異なる複数の傾斜角で傾斜していることが好ましい。対象物の凹部または貫通孔のテーパー角度に対して、挿入部の先端が挿入し易いように挿入部のテーパー角度を変える(凹部または貫通孔の開口部の壁面に対して大きな角度にする)ことによって、凹部または貫通孔と吸引式保持部材との中心軸の位置ずれを補正することができる。
挿入部は、該挿入部の先端側の第1のテーパー面と、挿入部の根元側の第2のテーパー面とを有することが好ましい(以下、「2段テーパー」と称することもある。)。
第1のテーパー面は、挿入部を凹部または貫通孔に挿入時に凹部または貫通孔と相似形である挿入部が挿入をガイドする。例えば、対象物が厚さ1.4mmの基板の場合、第1のテーパー面のテーパー角度は10°以上30°以下が好ましく、15°以上25°以下がより好ましい。第1のテーパー面のテーパー角度が10°以上30°以下であれば、問題なく吸引式保持部材の挿入部を凹部または貫通孔に挿入することができる。
【0019】
第2のテーパー面は、凹部または貫通孔の開口部の外周壁に直接接触して凹部または貫通孔からのエアー漏れを防止する。例えば、対象物が厚さ1.4mmの基板の場合、第2のテーパー面のテーパー角度は3°以上10°以下が好ましく、4°以上6°以下がより好ましい。
第2のテーパー面のテーパー角度が3°以上10°以下であると、貫通孔の封止力が適正であり、かつ挿入部を離脱する際の抵抗が小さくなり、良好である。
【0020】
<支持当接部>
支持当接部は、吸引式保持部材における挿入部の外側に設けられ、対象物の吸引時に対象物を支持するように当接する。「支持当接部」は「スカート部」と称することもある。
支持当接部の形状、大きさ、構造、及び材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
支持当接部は吸引式保持部材と一体に形成され、吸引式保持部材と同じ材質であることが好ましい。
挿入部と支持当接部とが一体に形成されていることが好ましい。挿入部と支持当接部とが一体に形成されていることによって、連結箇所や密着ゴムからのエアー漏れの問題が発生せず、吸着力の安定性が高くなり、更に一体化による低コスト、及びメンテナンスフリー(消耗品扱い)を実現できる。
【0021】
挿入部が対象物の凹部または貫通孔に挿入されると、支持当接部が対象物表面に当接して、前記対象物との間に気密空間が形成される。気密空間が形成されると吸着力が向上し、対象物を吸引保持した状態で、搬送することができる。
気密空間は、真空吸引源を作動させてエアーを吸引することによって、真空空間となり、対象物に対する十分な吸着力が生じる。
【0022】
<中空部、露出開口部>
吸引式保持部材は、支持当接部とは異なる方向に設けられ、露出する露出開口部と、前記露出開口部と連通しかつ前記露出開口部の最大径よりも大きな最大径を有する中空部とを有することが好ましい。
露出開口部及び中空部を有することによって、真空吸引源の継手と接続し、真空吸引源の作動により、対象物の吸引保持を実現することができる。
露出開口部の最大径をX(mm)としたとき、前記中空部の最大径Yが1.3X(mm)以上であることが好ましい。
上記のような関係を満たす露出開口部(小径)と中空部(大径)からなる構造を有する成形物は、中空部を型から抜くことが困難(ただし、弾性材料を用いると変形させることで型から抜くことができる)であり、型では成形することが困難であるが、このような複雑な形状であっても三次元プリンターを用いることによって容易に造形することができる。
【0023】
<流路>
吸引式保持部材は、中空部と、対象物との間に形成される気密空間とを連通する流路を有することが好ましい。
気密空間側の流路開口部は、支持当接部の付け根と挿入部の付け根の間に1箇所以上に設けられる。気密空間側の流路開口部は2箇所以上に設け、挿入部に対して周囲に点対称に配置することが好ましい。これにより、特に初期の吸引が均等に行われる。
継手側の流路開口部(接続部)は、継手の穴径と一致することが好ましい。これにより、継手と吸引式保持部材との密着面積が大きいため、高い気密性が確保される。
継手側の流路開口部の真下には、挿入部の付け根があり、このように流路の両方の開口部は同軸上に配置できない。また、継手側の流路開口部の最外径は挿入部の最外径よりも小さく形成される。
このような場合、流路はアンダーカット部として形成され、流路を型で成形することは極めて困難であるが、三次元プリンターを用いることによって容易に造形することができる。
【0024】
<その他の部>
その他の部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
(吸引式保持部材の製造方法)
本発明の吸引式保持部材の製造方法は、対象物を吸引して保持する吸引式保持部材の製造方法であって、決定工程と、造形工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0026】
<決定工程>
決定工程は、挿入部が挿入される対象物の凹部または貫通孔の形状、大きさ、構造、数、配置、及び凹部または貫通孔の周囲の状態、並びに前記対象物の重量、大きさ、形状、厚み、及び材質から選択される少なくとも1種の情報から吸引式保持部材の造形情報を決定する工程である。
凹部または貫通孔の情報としては、形状、大きさ(直径、深さ)、構造、数、配置、貫通孔の周囲への電子部品の実装の有無などが挙げられる。
【0027】
<造形工程>
造形工程は、決定した吸引式保持部材の造形情報に基づき三次元プリンターによって吸引式保持部材を造形する工程である。
三次元プリンターを用いることによって、数が少なくても比較的安価に、短時間で製作可能である。また、三次元プリンターによると、単に一体的にして部品点数を減らせるだけでなく、型における抜く方向を考慮する必要がないので、吸引式保持部材の内部のエアー流路の形状の自由度が高まる。このため、例えば、支持当接部、挿入部、及び中空部を連結する構造部分を肉厚にしたり、真空吸引源と連結する継手を篏合する中空部の面積を大きくすることができ、吸引式保持部材をより耐久性の高い構造にすることができる。
【0028】
三次元プリンターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱溶融積層方式(FDM)、マテリアルジェット方式、バインダージェット方式、粉末積層法、光造形方式等の様々なものを選択可能であるが、吸引する面ができるだけ平滑になる方式、及び造形材料として弾性材料を用いることができる方式であることが好ましい。
造形材料としては、弾性材料を含み、重合性モノマーや重合性オリゴマーを含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。これらの中でも、造形材料ジェット用プリンター等に用いられる造形材料吐出ヘッドで吐出できる粘度や表面張力等の液物性を有する材料が好ましい。
前記弾性材料としては、例えば、ニトリルゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
三次元プリンターによると、挿入部の形状を、対象物の凹部または貫通孔の形状に合わせて造形できるので、凹部または貫通孔の開口部が楕円等の円形以外の場合にも対応できる。また、複雑な構造でも一体的に造形することができるため、エアー漏れの要因となる連結箇所をなくし、吸着力の安定を高めることができる。
更に、造形材料を造形途中で切替えることができる三次元プリンターを用いれば、各部ごとに造形材料を変更することができる。
【0030】
なお、同機能を有する吸引式保持部材を大量かつ安価に製造する場合には、三次元プリンターではなく、型を用いる方法を採用しても構わない。
【0031】
三次元プリンターとしては、インクジェット方式の三次元プリンター、または光造形方式の三次元プリンターが好ましい。
インクジェット方式の三次元プリンターは、インクジェット(マテリアルジェット)方式、あるいはディスペンサー方式にてインクを吐出し、UV光により硬化する方式が用いられる。これらの方式の場合、造形材料を複数用いることができるため、吸引式保持部材全体を同一組成ではなく、各部に応じて組成に分布を設けることが可能になる。
【0032】
例えば、図15に示すようなインクジェット方式の三次元プリンター10は、インクジェットヘッドを配列したヘッドユニットを用いて、造形体用液体材料噴射ヘッドユニット11から吸引式保持部材形成用液体材料を、支持体用液体材料噴射ヘッドユニット12、12から支持体形成用液体材料を噴射し、隣接した紫外線照射機13、13で吸引式保持部材形成用液体材料及び支持体形成用液体材料を硬化しながら積層する。
液体材料噴射ヘッドユニット11、12及び紫外線照射機13と、造形体17及び支持体18とのギャップを一定に保つため、積層回数に合わせて、ステージ15を下げながら積層する。
前記三次元プリンター10では、紫外線照射機13、13は矢印A、Bいずれの方向に移動する際も使用し、その紫外線照射に伴って発生する熱により、積層された支持体形成用液体材料表面が平滑化され、結果として吸引式保持部材の寸法安定性が向上できる。
造形終了後、図16に示すように吸引式保持部材17と支持体18を水平方向に引っ張り剥離したところ、支持体18は一体として剥離され、吸引式保持部材17を容易に取り出すことができる。
【0033】
また、図17に示すように、光造形方式の三次元プリンターでは、吸引式保持部材形成用液体材料を液槽24に溜め、液槽の表面27にレーザー光源21により出射された紫外線レーザー光23をレーザースキャナー22から照射して、造形ステージ26上に硬化物28を作製する。造形ステージ26はピストン25の作動により降下し、これを順次繰り返すことにより、吸引式保持部材が得られる。
【0034】
<その他の工程>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サポート材除去工程、制御工程、洗浄工程などが挙げられる。
【0035】
(吸引式保持装置)
本発明の吸引式保持装置は、本発明の吸引式保持部材を少なくとも1つと、真空吸引源と、を備えており、更に必要に応じてその他の部材を備える。
真空吸引源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真空ポンプなどが挙げられる。
前記吸引式保持装置は、本発明の吸引式保持部材を複数有することによって、面積や重量が大きい対象物であっても吸引保持し、目的場所にまで搬送することができる。
吸引式保持部材は固定部材に固定され、吸引式保持部材の継手と真空ポンプとを配管で連結する。配管の途中にはON/OFFバルブを備え、圧力調節器などを介してもよい。また、ON/OFFバルブはリーク弁を備え、内圧を開放することが好ましい。
【0036】
(搬送システム)
本発明の搬送システムは、対象物を吸引して保持した状態で搬送する搬送システムであって、
上記対象物保持装置と、吸引式保持部材を少なくとも1つ以上先端に備える搬送手段と、対象物保持装置と搬送手段の動作を制御する制御手段とを有し、更に必要に応じてその他の装置を有する。
搬送手段としては、例えば、多軸ロボット、上下方向及び水平方向の直動軸を組み合わせたものなどが挙げられる。
【0037】
<制御手段>
制御手段には、搬送に必要な動作プログラムが記憶されており、動作プログラムにしたがって、搬送手段の位置決め動作や、図4A図4Dに示した対象物保持装置の吸引動作(吸引のON/OFF)が実行される。また、搬送システムは真空センサを備えており、確実に対象物が吸引保持されたことを判定して搬送動作を行うことができる。
【0038】
<その他の装置>
その他の装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
ここで、本発明の吸引式保持部材及び吸引式保持装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、各図面において、同一構成部材には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0040】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略斜視図、図2は、図1のA-A線での第1の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図、図3は、図1のB-B線での第1の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図である。
【0041】
図1から図3に示す第1の実施形態に係る吸引式保持部材110は、挿入部1と、支持当接部2とを有する。第1の実施形態では、対象物は貫通孔を有している。
【0042】
吸引式保持部材110は対象物を吸引して保持する部材であり、露出開口部6、真空吸引源と連結する継手(図示を省略する)と接続される中空部4、継手側の流路開口部(接続部)7、流路5を有する。
【0043】
吸引式保持部材110は弾性材料からなり、該弾性材料としては、シリコーンゴムが用いられる。
吸引式保持部材110のショアD硬度は35前後が好ましい。吸引式保持部材110が硬すぎると弾性がないため柔軟性がなく、対象物の吸引保持力が低下してしまうことがある。一方、吸引式保持部材110が柔らかすぎるとエアーの流通を遮断する押さえ力が減少してしまうことがある。
【0044】
吸引式保持部材110は、外部に露出する露出開口部6と、露出開口部6と連通しかつ露出開口部6の最大径よりも大きな最大径を有する中空部4とを有する。
露出開口部6及び中空部4を有することによって、真空吸引源と連結する継手と接続し、真空吸引源の作動により、対象物の吸引保持を実現することができる。
図2に示すように、露出開口部の最大径をX(mm)としたとき、例えば、穴径φ4mm~10mmに適用する場合、図2に示すように、露出開口部の最大径をX(mm)としたとき、設計値として1.3X~2.0Xmmを例示することができる。
このような露出開口部6(小径)と中空部4(大径)からなる構造を有する成形物は、中空部を型から抜くことが困難(弾性材料から形成される場合には変形させて型から抜くことができる)であり、型では成形することが困難であるが、このような複雑な形状であっても三次元プリンターを用いると容易に造形することができる。
【0045】
中空部4と、対象物との間に形成される気密空間とを連通する流路5が設けられる。
図4Aに示すように、気密空間側の流路開口部8は、支持当接部2の付け根と挿入部1の付け根の間に1箇所以上に設けられる。2箇所以上に設け、挿入部1に対して周囲に点対称に配置することが好ましい。特に初期の吸引が均等に行われる。
図2に示すように、継手側の流路開口部7(接続部)は、継手の穴径と一致することが好ましい。継手と吸引式保持部材110との密着面積が大きいため、高い気密性が確保される。
継手側の流路開口部7(接続部)の真下には、挿入部1の付け根があり、このように流路の両方の開口部は同軸上に配置できない。また、継手側の流路開口部7の最外径Zは挿入部1の最外径LHよりも小さく形成される。
このような場合、流路はアンダーカット部として形成され、流路を型で成形することは極めて困難であるが、三次元プリンターを用いることによって容易に造形することができる。
【0046】
挿入部1は、対象物の吸引時に、対象物の貫通孔の開口部を塞ぐように挿入される。
挿入部1は、吸引式保持部材110と一体に形成され、吸引式保持部材110と同じシリコーンゴムが用いられている。
【0047】
挿入部1は、その先端に向かって傾斜しており、挿入部の中心線に漸次近づくように傾斜したテーパー面を有することが好ましい。挿入部によって封止する箇所がテーパー形状になっているので、貫通孔への位置決めとエアーリーク防止が同時に実現できる。また、挿入部がテーパー面を有することによって、貫通孔が少し大きい場合は深めに挿入することができ、貫通孔が少し小さい場合には浅めに挿入することで、貫通孔の径のばらつきに対する吸引式保持部材の位置決め、及び対象物の吸着のロバスト性が向上する。
【0048】
挿入部1は異なる複数の傾斜角で傾斜していることが好ましい。対象物の貫通孔のテーパー角度に対して、挿入部の先端が挿入し易いように挿入部のテーパー角度を変える(貫通孔の壁面に対して大きな角度にする)ことによって、貫通孔と吸引式保持部材との中心軸の位置ずれを補正することができる。
挿入部1は、その先端側の第1のテーパー面と挿入部の根元側の第2のテーパー面を有すること(2段テーパー)が好ましい。
第1のテーパー面は、挿入部を貫通孔に挿入時に貫通孔と相似形である挿入部が挿入をガイドする。対象物が厚さ1.4mmの基板の場合、第1のテーパー面のテーパー角度は20°前後であることが好ましい。第1のテーパー面のテーパー角度が20°前後であれば、問題なく挿入部を貫通孔に挿入することができる。
【0049】
第2のテーパー面は、貫通孔の外周に直接接触し貫通孔からのエアー漏れを防止する。対象物が厚さ1.4mmの基板の場合、第2のテーパー面のテーパー角度は5°前後が好ましい。第2のテーパー面のテーパー角度が大きすぎると封止力が減少してしまうことがあり、一方、第2のテーパー面のテーパー角度が小さすぎると、吸引式保持部材の挿入部を貫通孔に挿入時と離脱時の抵抗が大きくなってしまうことがある。
【0050】
挿入部1の形状を、対象物の貫通孔の形状に合わせて造形できるので、貫通孔が長径孔等の円形孔以外にも対応できる。また、対象物の貫通孔の面積分しか吸着力が低下しないので、最大限の吸着力を発揮できる。したがって、目標の吸着力に対して支持当接部の大きさ(円形の場合は外径)を最小とすることができる。
【0051】
図2中挿入部1の根元径LHは、対象物の貫通孔の径と相似形であり、対象物が厚さ1.4mm、穴径がφ4mmの場合、挿入部1の根元径LHは、対象物の貫通孔の径+0.5mm~0.6mmであることが好ましい。なお、ショアD硬度によって、最適値は調節する必要がある。
【0052】
支持当接部2は、吸引式保持部材110における挿入部1の外側に設けられ、対象物の吸引時に前記対象物に対して当接する。
支持当接部2の形状、大きさ、構造、及び材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
支持当接部2は吸引式保持部材110と一体に形成され、吸引式保持部材110と同じシリコーンゴムが用いられている。
吸引式保持部材110と挿入部1と支持当接部2とは一体に形成されていることが好ましい。吸引式保持部材110と挿入部1と支持当接部2とが一体に形成されていることによって、連結箇所や密着ゴムからのエアー漏れの問題が発生せず、吸着力の安定性が高くなり、更に一体化による低コスト、及びメンテナンスフリー(消耗品扱い)を実現できる。
【0053】
挿入部が対象物の貫通孔に挿入されると、前記支持当接部が前記対象物表面に当接して、前記対象物との間に気密空間が形成されることが好ましい。気密空間が形成されると対象物に対する吸着力が向上し、対象物を吸引保持した状態で、目的位置まで搬送することができる。
前記気密空間は、真空吸引源を作動させてエアーを吸引することによって、真空空間となり、対象物に対する吸着力が生じる。
【0054】
図2中DSで示される支持当接部の厚さは、材質の特性にもよるが、支持当接部の厚さが薄いとエアー吸引によって支持当接部が内部に引き込まれるおそれがあり、支持当接部の厚さが厚いと支持当接部の弾力がなくなるので、適度が厚みを有することが好ましい。
図2中LSで示される支持当接部2の外径は、一つの吸引式保持部材に要求される必要な吸着力の点から、支持当接部の大きさは、貫通孔の輪郭と支持当接部の内径とで形成される吸着面積が十分確保される必要がある。
【0055】
ここで、図4A図4Dは、第1の実施形態の吸引式保持部材及び吸引式保持装置を用いた対象物の吸引保持動作の一例を示す概略図である。
図4Aは、第1の実施形態の吸引式保持部材及び吸引式保持装置の非吸引時の状態を示し、吸引式保持部材110が真空吸引源と連結する継手50と接合した状態でエアー吸引が開始されたときのエアーの流れを示す。図4A中8は気密空間側の流路開口部である。
図4Bは、吸引式保持部材110が対象物表面に接触した瞬間で吸引式保持部材110と対象物である基板40の隙間からのエアーの流通が止まり、図4B中Pの位置で封止が始まり、真空吸引源の作動により真空吸引が開始した状態を示す。
図4Cは、吸引式保持部材110が対象物に接触した後、真空吸引源の作動による真空吸引により、図4C中Qの位置で吸引式保持部材110の挿入部1が基板40の貫通孔32の周壁面に食い込み、エアーの流通が封止される。挿入部1が基板40の貫通孔32に挿入されると、支持当接部2が基板40に当接して、対象物との間に形成される空間Vが真空空間となり、対象物に対して吸着力が発生している状態を示す。
図4Dは、吸引式保持部材110が基板40を吸引し保持したまま目的の位置まで搬送した後、エアー吸引を止めると、基板40が自重で落下した状態を示す。
【0056】
<第2の実施形態>
図1は、第2の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略斜視図、図5は、図1のA-A線での第2の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図、図6は、図1のB-B線での第2の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図である。
なお、第2の実施形態において、既に説明した実施の形態と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0057】
図5及び図6に示す第2の実施形態に係る吸引式保持部材120において、図2及び図3に示す第1の実施形態の吸引式保持部材110との違いは、挿入部1の形状及び大きさを変更した点である。即ち、第2の実施形態の吸引式保持部材120では、挿入部1が1段のテーパー面を有している。また、対象物である基板は凹部41を有している。なお、第2の実施形態の吸引式保持部材110において挿入部1が2段のテーパー面を有するようにしても構わない。
【0058】
次に、図7A図7Dにおいて、第2の実施形態に係る吸引式保持部材120を用いた対象物の保持動作について説明する。
図7Aは、第2の実施形態の吸引式保持部材及び吸引式保持装置の非吸引時の状態を示し、吸引式保持部材120が真空吸引源と連結する継手50と接合した状態でエアー吸引が開始されたときのエアーの流れを示す。図7A中8は気密空間側の流路開口部である。
図7Bは、吸引式保持部材120が対象物表面に接触した瞬間で吸引式保持部材110と対象物である基板40の隙間からのエアーの流通が止まり、図7B中Pの位置で封止が始まり、真空吸引源の作動により真空吸引が開始した状態を示す。
図7Cは、吸引式保持部材120が対象物に接触した後、真空吸引源の作動による真空吸引により、図7C中Qの位置で吸引式保持部材120の挿入部1が基板40の凹部41の周壁面に食い込み、エアーの流通が封止される。挿入部1が基板の凹部41に挿入されると、支持当接部2が基板40に当接して、基板との間に形成される空間Vが真空空間となり、基板に対して吸着力が発生している状態を示す。
図7Dは、吸引式保持部材120が基板40を吸引し保持したまま目的の位置まで搬送した後、エアー吸引を止めると、基板40が自重で落下した状態を示す。
【0059】
<第3の実施形態>
図8は、第3の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略図である。なお、第3の実施形態において、既に説明した実施の形態と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
図8に示す第3の実施形態に係る吸引式保持部材130において、図2及び図3に示す第1の実施形態の吸引式保持部材110との違いは、対象物である基板40の貫通孔32が楕円形状であり、吸引式保持部材130の挿入部1の形状を貫通孔32の楕円形状に合わせて変更した点である。図8中32aは吸着力が発生する部位を示す。
第3の実施形態によると、挿入部1を対象物の貫通孔32の形状に応じて相似形状に形成することができ、貫通孔32の外周をそのまま封止することができるので、支持当接部の大きさの最小化による実装面積の有効活用が図れる。
第3の実施形態においては、三次元プリンターを用いて造形するために、様々な異形の貫通孔の形状であっても短時間で安価に造形することができる。
【0060】
<第4の実施形態>
図1は、第4の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略斜視図、図9は、図1のA-A線での第4の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図、図10は、図1のB-B線での第4の実施形態に係る吸引式保持部材の一例を示す概略断面図である。
なお、第4の実施形態において、既に説明した実施の形態と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0061】
図9及び図10に示す第4の実施形態に係る吸引式保持部材140において、図2及び図3に示す第1の実施形態の吸引式保持部材110との違いは、継手側の流路開口部7(接続部)の最大径Zを挿入部1の最外径LHよりも大きく形成し、吸引式保持部材を弾性材料で成形した場合には中空部4及び流路5を型から抜くことができるので、型によって成形することができ点である。
この第4の実施形態によれば、型を用いて、吸引式保持部材140を安価に大量生産が可能である。
なお、第4の実施形態の型成形した吸引式保持部材は、三次元プリンターで造形した造形物のような微粉状の表面異物が存在しないという利点がある。
【実施例
【0062】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
造形材料としてAR-G1L(低硬度シリコーンゴム、ショアD硬度35、株式会社キーエンス製)を用い、インクジェット方式の三次元プリンター(株式会社キーエンス製、アジリスタ3200)を用いて、図1図3に示すような吸引式保持部材110を造形した。
次に、得られた吸引式保持部材110を用いて、以下のようにして、吸着力、耐久性、及び位置ズレを評価した。
【0064】
<吸着力の測定>
図11及び図12は、吸引式保持部材110の吸着力を単独で繰り返し測定することができる吸着力測定装置及び該吸着力測定装置を用いた吸着力測定方法を示す。
貫通孔32を設けた基板31を一対の基台30、30間に固定し、継手34を介して連結されているテンションテスター(SIMPO社製、デジタルフォースゲージ)35の作動によって吸引式保持部材110が上下動する。
テンションテスター35の先端に新しい吸引式保持部材110を装着後、その真下の固定された基板31の貫通孔32に挿入部を挿入し、真空吸引ポンプを作動させて吸引を開始した後、そのまま強制的に吸引式保持部材110を基板31から引き離した時の吸着力をテンションテスター35により繰り返し測定した。
表1に示すように、5,000回以上の吸着と強制リリースの繰り返しを行っても、吸着力が目標値である400gf以上を達成できることが確認できた。
【0065】
<耐久性の評価>
図13及び図14は、貫通孔32を有する対象物であるプリント基板40を実際に吸引保持とリリースを繰り返し行う耐久性評価装置及び該耐久性評価装置を用いた耐久性評価方法を示す図である。
対象物であるプリント基板40の対角線上の隅2箇所の貫通孔32を、新しい吸引式保持部材110を用いてエアー吸引、吸着、持ち上げ、左右振れ、基準位置停止、下降、エアー停止、及びリリースの反復動作を繰り返す。それぞれの吸引式保持部材110には継手34を介して吸引のための配管37が接続されている。
表1に示すように、50万回以上で使用できる状態で実験が終了した。目標値である30万回以上を達成できることがわかった。
【0066】
<位置ズレ限界値の測定>
図11中の水平方向移動手段38を作動させて、挿入部中心をX及びYのいずれか一方向へ±0.05mmずつ移動させ、保持ができる範囲を記録した。結果を表1に示した。測定結果は、挿入部中心から±1.05mmの位置ズレ(全幅では2.1mm)まで保持できた。
表1に示すように、図1から図3に示す吸引式保持部材110によると、挿入部を2段テーパー形状としたことにより、位置ズレ幅が最大2.1mmでも吸引保持し、搬送可能であり、目標値である位置ズレ限界値が±0.3mm以上を達成できることがわかった。
【0067】
【表1】
【0068】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 対象物に当接して吸引保持するための吸引式保持部材であって、
前記対象物の吸引時に、前記対象物の凹部または貫通孔の開口部を塞ぐように挿入される挿入部を有し、
前記挿入部が、その先端に向かって傾斜していることを特徴とする吸引式保持部材である。
<2> 前記挿入部が異なる複数の傾斜角で傾斜している、前記<1>に記載の吸引式保持部材である。
<3> 露出する露出開口部と、前記露出開口部と連通しかつ前記露出開口部の最大径よりも大きな最大径を有する中空部とを有する、前記<1>から<2>のいずれかに記載の吸引式保持部材である。
<4> 前記中空部と、前記対象物との間に形成される気密空間とを連通する流路が設けられ、
気密空間側の流路開口部が、挿入部の外側に配置されており、かつ両流路開口部位置が同軸上にない、前記<3>に記載の吸引式保持部材である。
<5> 吸着パッドである、前記<1>から<4>のいずれかに記載の吸引式保持部材である。
<6> 三次元プリンターにより造形される、前記<1>から<5>のいずれかに記載の吸引式保持部材である。
<7> ニトリルゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、及びエチレンプロピレンゴムから選択される少なくとも1種の弾性材料で形成される、前記<1>から<6>のいずれかに記載の吸引式保持部材である。
<8> 対象物に当接して吸引保持するための吸引式保持部材の製造方法であって、
挿入部が挿入される前記対象物の凹部または貫通孔の形状、大きさ、構造、数、配置、及び前記凹部または貫通孔の周囲の状態、並びに前記対象物の重量、大きさ、形状、厚み、及び材質から選択される少なくとも1種の情報から吸引式保持部材の造形情報を決定する決定工程と、
決定した吸引式保持部材の造形情報に基づき三次元プリンターによって吸引式保持部材を造形する造形工程と、
を含むことを特徴とする吸引式保持部材の製造方法である。
<9> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の吸引式保持部材を少なくとも1つと、真空吸引源と、を備えることを特徴とする吸引式保持装置である。
<10> 対象物を吸引保持した状態で搬送する搬送システムであって、
前記<9>に記載の吸引式保持装置と、
前記吸引式保持装置の動作を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする搬送システムである。
【0069】
前記<1>から<7>のいずれかに記載の吸引式保持部材、前記<8>に記載の吸引式保持部材の製造方法、前記<9>に記載の吸引式保持装置、及び前記<10>に記載の搬送システムによると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 挿入部
2 支持当接部
4 中空部
5 流路
6 露出開口部
7 継手側の流路開口部(接続部)
8 気密空間側の流路開口部
32 貫通孔
40 対象物(基板)
41 凹部
50 継手
110 吸引式保持部材
120 吸引式保持部材
130 吸引式保持部材
140 吸引式保持部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0071】
【文献】特開2000-190268号公報
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17