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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】鋳塊の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/124 20060101AFI20240618BHJP
   B22D 11/04 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B22D11/124 S
B22D11/04 311F
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020117371
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022014813
(43)【公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲ヨウ▼
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳文
(72)【発明者】
【氏名】山根 冴羽
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-318031(JP,A)
【文献】特開平05-077011(JP,A)
【文献】特表2001-520122(JP,A)
【文献】特表平10-500629(JP,A)
【文献】特開昭59-092147(JP,A)
【文献】特開2006-035312(JP,A)
【文献】特開昭53-015222(JP,A)
【文献】特開平08-010921(JP,A)
【文献】特開2017-115169(JP,A)
【文献】特開昭61-262449(JP,A)
【文献】特開2014-037622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向において開口した筒状の鋳型の上部側から溶湯を供給し、冷却水の供給により冷却されて凝固した鋳塊を前記鋳型の下部側から連続的に引き出す鋳塊の製造装置であって、
前記鋳型の内周側の下端部から上方側に向かって、前記鋳塊の表面との間に全周に亘って隙間を形成する隙間形成部と、
前記隙間に向けて冷却水を供給する冷却水供給部とを備え、
前記冷却水供給部は、前記隙間形成部の上部と接続された第1の供給路と、前記隙間形成部の前記第1の供給路よりも下方側と接続された第2の供給路とを有し、
前記第1の供給路は、前記隙間形成部の上面に第1の流出口を有し、前記鋳型の外周側から内周側の前記第1の流出口に向かって斜め下方向に延在し、且つ、その間に亘って湾曲した流路を形成すると共に、前記第1の流出口に向かって、その流路断面積が漸次小さくなっており、
前記第2の供給路は、前記隙間形成部の側面に第2の流出口を有し、前記鋳型の外周側から内周側に向かって水平方向に延在し、且つ、その途中から内周側の前記第2の流出口に向かって斜め下方向に向かって延在する流路を形成すると共に、水平方向に延在する部分よりも斜め下方向に延在する部分の流路断面積が小さくなっており、
前記第1の供給路の前記第1の流出口における中心軸が前記鋳塊の表面に対して為す角度を0°~5°とし、
前記第2の供給路の前記第2の流出口における中心軸が前記鋳塊の表面に対して為す角度を20°~45°とし、
前記鋳型の内周側の下端部から上方側に向かって前記隙間の長さを10mm以下とし、
前記鋳塊の表面との間の前記隙間の幅を1mm~5mmの範囲とし、
前記第1の供給路の前記第1の流出口と前記鋳塊の表面との間の水平距離を0mm~5mmとし、
前記鋳型の上端部から前記隙間の上端部までの垂直距離を25mm~50mmとし、
前記第1の流出口から前記隙間に供給される冷却水を前記鋳塊の表面に沿って流下すると共に、前記第2の流出口から前記隙間に供給される冷却水を前記第1の流出口から前記隙間に供給された冷却水の流れに合流しながら前記鋳塊の表面に沿って流下することを特徴とする鋳塊の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳塊の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、上下方向において開口した筒状の鋳型の上部側から溶湯を供給し、冷却水の供給により冷却されて凝固した鋳塊を鋳型の下部側から連続的に引き出す連続鋳造機がある(下記特許文献1を参照。)。
【0003】
具体的に、下記特許文献1には、「鋳型上部から溶湯を供給し、鋳型下方において冷却水を供給して、凝固した鋳塊を鋳型下部から引き出すアルミニウム鋳塊の連続鋳造において、鋳型下方における冷却水の供給は上下2段で行われ、上段で供給された冷却水のうち鋳塊表面で散乱した冷却水は全て下段で供給された冷却水により吸収されて鋳塊の冷却に再利用されることを特徴とするアルミニウム鋳塊の連続鋳造方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-211255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来の連続鋳造機では、鋳型の下部側に孔部やスリットを設けて、鋳型の下部側から引き出された鋳塊の表面に対して、孔部から流出した冷却水をジェット流の状態や、スリットから流出した冷却水を水膜流の状態で供給している。
【0006】
この場合、鋳塊の冷却強化を図るため、冷却水の水量を増加したり、孔部の径やスリットの幅を小さくして、冷却水の流速を増加させたりすると、鋳塊の表面に衝突した冷却水が跳ね返って、冷却水が飛散することになる。
【0007】
冷却水の飛散が生じると、鋳塊の冷却に寄与する冷却水の量が著しく減少するため、鋳塊の表面組織及び内部組織の粗大化による品質の劣化を招くおそれがある。また、場合によっては、鋳塊の再溶解による湯漏れのトラブルが発生してしまう。さらに、鋳塊の径を大きくした場合には、鋳塊の冷却不足により鋳造速度を十分に上げることができず、生産性の低下を招くことになる。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、鋳塊を効率良く冷却することを可能とした鋳塊の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の手段を提供する。
(1) 上下方向において開口した筒状の鋳型の上部側から溶湯を供給し、冷却水の供給により冷却されて凝固した鋳塊を前記鋳型の下部側から連続的に引き出す鋳塊の製造装置であって、
前記鋳型の内周側の下端部から上方側に向かって、前記鋳塊の表面との間に全周に亘って隙間を形成する隙間形成部と、
前記隙間に向けて冷却水を供給する冷却水供給部とを備え、
前記冷却水供給部は、前記隙間形成部の上部と接続された第1の供給路と、前記隙間形成部の前記第1の供給路よりも下方側と接続された第2の供給路とを有し、
前記第1の供給路は、前記隙間形成部の上面に第1の流出口を有し、前記鋳型の外周側から内周側の前記第1の流出口に向かって斜め下方向に延在し、且つ、その間に亘って湾曲した流路を形成すると共に、前記第1の流出口に向かって、その流路断面積が漸次小さくなっており、
前記第2の供給路は、前記隙間形成部の側面に第2の流出口を有し、前記鋳型の外周側から内周側に向かって水平方向に延在し、且つ、その途中から内周側の前記第2の流出口に向かって斜め下方向に向かって延在する流路を形成すると共に、水平方向に延在する部分よりも斜め下方向に延在する部分の流路断面積が小さくなっており、
前記第1の供給路の前記第1の流出口における中心軸が前記鋳塊の表面に対して為す角度を0°~5°とし、
前記第2の供給路の前記第2の流出口における中心軸が前記鋳塊の表面に対して為す角度を20°~45°とし、
前記鋳型の内周側の下端部から上方側に向かって前記隙間の長さを10mm以下とし、
前記鋳塊の表面との間の前記隙間の幅を1mm~5mmの範囲とし、
前記第1の供給路の前記第1の流出口と前記鋳塊の表面との間の水平距離を0mm~5mmとし、
前記鋳型の上端部から前記隙間の上端部までの垂直距離を25mm~50mmとし、
前記第1の流出口から前記隙間に供給される冷却水を前記鋳塊の表面に沿って流下すると共に、前記第2の流出口から前記隙間に供給される冷却水を前記第1の流出口から前記隙間に供給された冷却水の流れに合流しながら前記鋳塊の表面に沿って流下することを特徴とする鋳塊の製造装置。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、鋳塊を効率良く冷却することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る連続鋳造機が備える鋳型の要部を拡大した断面図である。
図2図1中に示す鋳型の第1の供給路の角度α及び第2の供給路の角度βを示す断面図である。
図3図1中に示す鋳型の水平距離dhを示す断面図である。
図4図1中に示す鋳型の垂直距離dvを示す断面図である。
図5】鋳型の変形例を示す断面図である。
図6】実施例6~9で用いた鋳型の形状を示す断面図である。
図7】実施例10で用いた鋳型の形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した鋳塊の製造方法及び製造装置について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0013】
(鋳塊の製造装置)
先ず、本発明の一実施形態に係る鋳塊の製造装置として、例えば図1に示す連続鋳造機1について説明する。
なお、図1は、連続鋳造機1が備える鋳型2の要部を拡大した断面図である。
【0014】
本実施形態の連続鋳造機1は、図1に示すように、上下方向において開口した筒状の鋳型2の上部側から溶湯Lを供給し、冷却水Hの供給により冷却されて凝固した鋳塊Sを鋳型2の下部側から連続的に引き出す縦型連続鋳造機である。
【0015】
連続鋳造機1は、例えば、アルミニウム合金のスラブ(矩形断面)やアルミニウムのビレット(円形断面)など、アルミニウム合金の鋳塊Sを連続鋳造する際に用いられる。なお、鋳塊Sの種類については、上述したアルミニウム合金に限らず、この連続鋳造機1を用いて連続鋳造が可能な金属であればよい。
【0016】
本実施形態の連続鋳造機1では、鋳造条件として、例えば鋳造速度を200~400mm/分とし、鋳型2に供給する溶湯Lの温度をアルミニウ合金の液相線以上とし、有効モールド長(以下、「EML」という。)を25~50mmとし、鋳塊Sの径(以下、「鋳造径」という。)φを30~60mmとしている。
【0017】
アルミニウム合金は、Al-Si過共晶系合金とする。本実施形態では、連続鋳造機1を用いて、Al中に12.8~20質量%のSiを含有するアルミニウム合金の鋳造棒(ビレット)を製造する場合を例示している。
【0018】
鋳造速度が200mm/分未満なると、アルミニウム合金の溶湯Lが鋳型2内で凝固し、鋳造の継続ができなくなる。一方、鋳造速度が400mm/分を超えると、アルミニウム合金の溶湯Lが固まり切らずにブレークアウトする。
【0019】
連続鋳造機1では、溶湯Lと接する鋳型2との熱伝導により溶湯Lが一次冷却され、鋳塊Sの表面に凝固殻が形成される。EMLが25mm未満になると、この凝固殻が十分に形成されず、鋳塊Sの下部で溶湯Lの抜けが頻々発生してしまう。一方、EMLが50mmを超えると、鋳型2との熱伝導が冷却水Hより低いため、粗大セル層が形成され、初晶Siサイズの増大が発生する。
【0020】
鋳造径φを30mm以上且つ60mm以下とした場合には、初晶Siサイズがモールドに影響を及ぼさない。なお、鋳型2の内径は、鋳造径φに合わせて30~60mmである。
【0021】
本実施形態の連続鋳造機1は、鋳型2の内周側の下端部から上方側に向かって、鋳塊Sの表面との間に隙間Kを形成する隙間形成部3と、隙間Kに向けて冷却水Hを供給する冷却水供給部4とを備えている。
【0022】
隙間形成部3は、鋳型2の内周側を全周に亘って鋳型2の下端部から上方側に向かって切り欠くことによって、鋳塊Sの周囲に全周に亘って隙間Kを形成している。
【0023】
冷却水供給部4は、隙間形成部3の上部と接続された第1の供給路5と、隙間形成部3の第1の供給路5よりも下方側と接続された第2の供給路6とを有している。
【0024】
第1の供給路5は、隙間形成部3の上面に第1の流出口5aを有している。第1の流出口5aは、鋳塊Sの周方向に並ぶ複数の孔部又は鋳塊Sの周方向に連続したスリットにより構成されている。第1の供給路5は、鋳型2の外周側から内周側の第1の流出口5aに向かって斜め下方向に延在し、且つ、その間に亘って湾曲した流路を形成している。また、第1の供給路5は、第1の流出口5aに向かって、その流路断面積が漸次小さくなっている。
【0025】
第2の供給路6は、隙間形成部3の側面に第2の流出口6aを有している。第2の流出口6aは、鋳塊Sの周方向に並ぶ複数の孔部又は鋳塊Sの周方向に連続したスリットにより構成されている。第2の供給路6は、鋳型2の外周側から内周側に向かって水平方向に延在し、且つ、その途中から内周側の第2の流出口6aに向かって斜め下方向に向かって延在する流路を形成している。また、第2の供給路6は、水平方向に延在する部分よりも斜め下方向に延在する部分の流路断面積が小さくなっている。
【0026】
以上のような構成を有する本実施形態の連続鋳造機1では、第1の供給路5から隙間Kの上部に冷却水Hが供給される。隙間Kの上部から供給された冷却水Hは、鋳塊Sの表面に沿って鋳塊Sの全周に亘ってカーテン状に流下する。これにより、冷却水Hの飛散を防ぎながら、この冷却水Hにより鋳塊Sを効率良く冷却することが可能である。また、隙間Kの上部は、第1の供給路5から供給された冷却水Hが鋳塊Sの表面に直接接して急冷される部分となるため、初晶Siサイズの微細化が可能となる。
【0027】
また、本実施形態の連続鋳造機1では、第1の供給路5から隙間Kに供給された冷却水Hの流れに沿って、第2の供給路6から隙間Kに冷却水Hが供給される。この冷却水Hは、鋳塊Sの表面に沿って流下する冷却水Hの流れに合流しながら、隙間Kの上部よりも下方側から鋳塊Sの表面に沿って鋳塊Sの全周に亘ってカーテン状に流下する。これにより、冷却水Hの飛散を防ぎながら、鋳塊Sを冷却する冷却水Hの水量を増加し、冷却速度を大きくすることが可能である。
【0028】
以上のように、本実施形態の連続鋳造機1では、鋳塊Sの表面に衝突した冷却水Hが跳ね返って飛散するといったことがなく、隙間Kから鋳塊Sの表面に沿って流下する冷却水Hによって、鋳塊Sを効率良く冷却することが可能である。
【0029】
(鋳塊の製造方法)
次に、本発明の一実施形態に係る鋳塊の製造方法について説明する。
本実施形態の鋳塊の製造方法は、上記連続鋳造機1を用いた連続鋳造方法として、鋳型2の内周側の下端部から上方側に向かって、鋳塊Sの表面との間に隙間Kを設けて、この隙間Kに向けて冷却水Hを供給しながら、隙間Kから鋳塊Sの表面に沿って冷却水Hを流下させることを特徴とする。
【0030】
本実施形態の鋳塊の製造方法では、鋳塊Sの表面に衝突した冷却水Hが跳ね返って飛散するといったことがなく、隙間Kから鋳塊Sの表面に沿って流下する冷却水Hによって、鋳塊Sを効率良く冷却することが可能である。
【0031】
これにより、鋳塊Sでは、Al-Si過共晶系アルミニウム合金の組織内における初晶Siが粗大化することを抑制している。すなわち、この初晶Siの平均粒子径は、連続鋳造時におけるアルミニウム合金の溶湯Lの冷却速度に依存する。したがって、鋳塊Sの冷却速度を大きくすることで、初晶Siの平均粒子径を小さくすることが可能である。具体的に、本実施形態では、初晶Siの平均粒子径を15μm以下とすることが可能である。
【0032】
一方、Al-Si過共晶系アルミニウム合金は、組織内の初晶Siが粗大になると、切削加工時の刃具寿命の悪化や、鍛造時の型寿命が短くなるなどの不都合が生じる。これに対して、本実施形態の鋳塊の製造方法では、均一微細な初晶Siを有したAl-Si過共晶系アルミニウム合金の鋳造棒を製造することができ、この鋳造棒の加工性が向上する。
【0033】
また、本実施形態の鋳塊の製造方法では、図2に示すように、第1の供給路5の第1の流出口5aにおける中心軸AXが鋳塊Sの表面に対して為す角度αを0~5°とすることが好ましい。この角度αの範囲とすることで、隙間Kの上部から供給された冷却水Hを鋳塊Sの表面に沿って流下させることが可能である。
【0034】
また、隙間Kは、鋳型2の内周側の下端部から上方側に向かって長さDを10mm以下とし、鋳塊Sの表面との間の幅Wを1~5mmの範囲とすることが好ましい。これにより、隙間Kに供給された冷却水Hを鋳塊Sの表面に沿って流下させることが可能である。
【0035】
なお、隙間Kの幅Wが1mm未満になると、隙間Kに供給される冷却水Hが鋳造方向に抜けきらず、逆流を起こして溶湯爆散を起こす可能性がある。このため、隙間Kの幅Wは、少なくとも1mm以上とすることが好ましい。一方、隙間Kの幅Wが5mmを超えると、鋳塊Sの表面に冷却水Hをうまく沿わすことができず、冷却性能が低下することになる。その結果、上述した鋳塊Sの組織内における初晶Siが粗大化することになる。これを防ぐため、隙間Kの幅Wは、5mm以下とすることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態の鋳塊の製造方法では、図3に示すように、第1の供給路5の第1の流出口5aと鋳塊Sの表面との間の水平距離dhを0~5mmとすることが好ましい。この水平距離dの範囲とすることで、隙間Kの上部から供給された冷却水Hを鋳塊Sの表面に沿って流下させることが可能である。
【0037】
また、本実施形態の鋳塊の製造方法では、図4に示すように、鋳型2の上端部から隙間Kの上端部までの垂直距離dvを25~50mmとすることが好ましい。垂直距離dvは、上記EMLに相当する。
【0038】
冷却水Hにより強制冷却されて凝固する鋳塊Sのうち、鋳型2と接触する部分は、隙間Kよりも上方に位置して、鋳型2との熱伝導により鋳塊Sの表層が間接的に冷却(徐冷)されて凝固する。したがって、この鋳型2と接触する部分は、比較的粗い結晶組織となり易い。
【0039】
このため、垂直距離dv(EML)が25mm未満になると、この凝固殻が十分に形成されず、鋳塊Sの下部で溶湯Lの抜けが頻々発生してしまう。一方、垂直距離dv(EML)が50mmを超えると、鋳型2との熱伝導が冷却水Hより低いため、粗大セル層が形成され、初晶Siサイズの増大が発生する。
【0040】
すなわち、垂直距離dv(EML)が長くなり過ぎると、それに伴って鋳塊Sの表層部における粗い結晶組織の厚さが増大することになる。一方、垂直距離dv(EML)を短くするほど、溶湯Lが鋳型2に供給されてから水冷によって直接冷却されるまでの時間が短くなる。これにより、鋳塊Sの表層が間接的に冷却(徐冷)される時間が短くなるために、鋳塊Sの表面の逆偏析相が薄くなり、平滑な表面が得られる。
【0041】
また、本実施形態の鋳塊の製造方法では、図2に示すように、第2の供給路6の第2の流出口6aにおける中心軸BXが鋳塊Sの表面に対して為す角度βを20~45°とすることが好ましい。この角度βの範囲とすることで、第2の供給路6から供給される冷却水Hを隙間Kの上部から鋳塊Sの表面に沿って流下する冷却水Hの流れに合流させながら、鋳塊Sの表面に沿って流下させることが可能である。
【0042】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記連続鋳造機1では、冷却水供給部4として、第1の供給路5及び第2の供給路6を備えた構成となっているが、場合によっては、第1の供給路5のみの構成とすることも可能である。一方、隙間形成部3の第1の供給路5よりも下方側に複数の第2の供給路6を接続した構成とすることも可能である。
【0043】
また、上記連続鋳造機1では、隙間Kが上端から下端まで一定の幅Wとなっているが、隙間Kの幅Wを変更することも可能である。例えば、隙間Kは、図5(A)に示すように、第2の流出口6aから下端に向かって、幅Wが漸次拡大した広口(テーパー)形状を有していてもよい。これにより、第2の供給路6から供給される冷却水Hの水量を増加した場合でも、冷却水Hの飛散を防ぎながら、鋳塊Sの表面に沿って流下する冷却水Hの流れに第2の流出口6aから流出される冷却水Hを合流させることが可能である。
【0044】
さらに、隙間Kは、図5(B)に示すように、第1の流出口5aから第2の流出口6aとの合流位置に向かって、幅Wが漸次縮小した狭口(逆テーパー)形状を有していてもよい。また、第2の流出口6aとの合流位置における幅Wは1mm以上とすることが好ましい。これにより、第1の流出口5aから流出される冷却水Hが鋳塊Sの表面に沿い易くなり、冷却性能を高めることが可能である。
【実施例
【0045】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0046】
本実施例では、上記連続鋳造機1を用いて、Al-Si過共晶系アルミニウム合金からなるビレット(鋳塊)を製造した。このアルミニウム合金の組成を下記表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
また、ビレットの鋳造条件は以下のとおりである。
鋳造径φ:40mm
鋳造速度:285mm/分
溶湯温度:740℃
冷却水量:25L/分(1本)
鋳造本数:4本
【0049】
(実施例1)
実施例1では、第1の供給路5の角度αを3°、第1の供給路5からの水流量を15L/分(1本)とし、第2の供給路6の角度βを30°、第2の供給路6からの水流量を10L/分(1本)として、ビレットの製造を行った。また、鋳型2の水平距離dhを2mm、鋳型2の垂直距離dvを35mm、隙間Kの長さDを8mm、隙間Kの幅Wを1mmとしている。
【0050】
(実施例2)
実施例1では、隙間Kの幅Wを6mmとした以外は、実施例1と同じ条件で、ビレットの製造を行った。
【0051】
(実施例3)
実施例3では、第2の供給路6からの冷却水Hの供給を停止し、第1の供給路5からの水流量を25L/分(1本)とした以外は、実施例1と同じ条件で、ビレットの製造を行った。
【0052】
(実施例4)
実施例4では、隙間Kの幅Wを5mmとした以外は、実施例3と同じ条件で、ビレットの製造を行った。
【0053】
(実施例5)
実施例4では、隙間Kの幅Wを6mmとした以外は、実施例3と同じ条件で、ビレットの製造を行った。
【0054】
(実施例6)
実施例6では、図6に示すように、第1の供給路5を省略し、上端から下端に向かって幅Wが漸次拡大した広口(テーパー)形状の隙間Kを有する鋳型2を用いて、隙間Kの幅W(テーパー下端の最大幅)を5mmとし、第2の供給路6の角度αを30°、第2の供給路6からの水流量を25L/分(1本)とした以外は、実施例1と同じ条件で、ビレットの製造を行った。
【0055】
(実施例7)
実施例7では、鋳造径φを57mmとした以外は、実施例6と同じ条件で、ビレットの製造を行った。
【0056】
(実施例8)
実施例8では、鋳造径φを57mm、鋳造速度を200mm/分とした以外は、実施例6と同じ条件で、ビレットの製造を行った。
【0057】
(実施例9)
実施例9では、鋳造径φを57mm、鋳造速度を350mm/分とした以外は、実施例6と同じ条件で、ビレットの製造を行った。
【0058】
(実施例10)
実施例10では、図7に示すように、第1の供給路5を省略し、上端から下端に向かって幅Wが漸次拡大した広口(テーパー)形状の隙間Kを有し、2つの第2の供給路6が上下方向に並んで設けられた鋳型2を用いて、鋳造径φを57mm、鋳造速度を400mm/分とした以外は、実施例6と同じ条件で、ビレットの製造を行った。
【0059】
実施例1~10について、鋳造したビレットの初晶Siの平均粒子径を下記(a)~(c)の条件で測定し、その評価を行った。
(a)試料のサンプリング箇所
サンプリング箇所は、溶湯温度が710℃とした。
(b)測定方法・測定条件
画像解析方法を用いて、半径方向断面の初晶Siサイズを求めた。
ビレットの中心で倍率200倍の5視野(1つ視野面積:286000μm)で測定した結果の平均値を算出した。
(c)測り方
画像解析方法を用いて、初晶Siサイズの円相当径を求めた。
【0060】
判定基準は、初晶Siサイズが15μm以下のものを合格として判断した。これらをまとめたものを下記表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、実施例1~10では、何れもAl-Si過共晶系アルミニウム合金の組織内における初晶Siが粗大化することを抑制することができた。その中でも、実施例2,5では、初晶Siの平均粒子径を16μm以下とし、実施例1,3,4では、初晶Siの平均粒子径を15μm以下とすることができた。
【符号の説明】
【0063】
1…連続鋳造機 2…鋳型 3…隙間形成部 4…冷却水供給部 5…第1の供給路 6…第2の供給路 L…溶湯 S…鋳塊 H…冷却水 K…隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7