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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】炭素系固体酸
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20240618BHJP
   B01J 27/053 20060101ALI20240618BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240618BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C01B32/194
B01J27/053 M
H01B1/06 A
H01B1/12 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021509377
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2020012658
(87)【国際公開番号】W WO2020196383
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019054792
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019078290
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】近藤 章一
(72)【発明者】
【氏名】中澤 太一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 隆正
(72)【発明者】
【氏名】野原 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】川島 光善
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105314630(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106784950(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B01J 21/00-38/74
H01B 1/00-1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンカーを介したスルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸であって、
下記式(1)で示される構造を有する炭素系固体酸。
【化1】

(式(1)中、Gは、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種を有していてもよいグラフェンを示し、
kは1以上5以下の整数、jは1以上3以下の整数、mは1以上10以下の整数を示し、nは2から4の整数を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の炭素系固体酸が含まれる燃料電池の触媒層。
【請求項3】
前記炭素系固体酸が、電解質の1種であり、かつ触媒担体の1種である請求項2に記載の燃料電池の触媒層。
【請求項4】
さらにパーフルオロ酸系高分子を含む請求項2又は3に記載の燃料電池の触媒層。
【請求項5】
さらに結着剤を含む請求項2~4のいずれか1項に記載の燃料電池の触媒層。
【請求項6】
請求項1に記載の炭素系固体酸とパーフルオロ酸系高分子を含む組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の炭素系固体酸と、触媒とを含む触媒層形成用組成物を解砕処理する、触媒を担持した炭素系固体酸の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の炭素系固体酸と、触媒を担持した触媒担体とを含む触媒層形成用組成物を解砕処理する、請求項7に記載の触媒を担持した炭素系固体酸の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の炭素系固体酸及び触媒が含まれる燃料電池の触媒層であって、前記炭素系固体酸が前記触媒を担持している燃料電池の触媒層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素系固体酸に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸は、その構造中に水素イオンを固定するアニオン部位を有しており、金属イオンや錯イオンなど金属カチオンを含む水溶液中でイオン交換することにより、アニオン部位に金属イオンを固定化することできる。この固体酸は、有機系の固体酸と無機系の固体酸等の種類がある。有機系の固体酸としては、例えば、分子内にスルホン酸基やカルボキシル基などの酸性基をもつイオン交換樹脂が挙げられ、この酸性基が金属種を固定するアニオン部位となる。有機系の固体酸は、樹脂への酸性基の導入が容易であるため、アニオン部位を増強することが容易であるが、耐熱性、耐久性、耐薬品性の面で課題が多い。一方で酸化アルミニウム、酸化バナジウム、シリカアルミナ、ゼオライト等に代表される無機系の固体酸は、高耐熱性で溶媒に侵されにくい特長をもつものの、アニオン部位が少ないため、有機系の固体酸よりも高いイオン交換能力やイオン伝導能力を出すことが難しい。
【0003】
特許文献1~3には、有機化合物を濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理し、炭化、スルホ化、環同士の縮合を経て得られる無定形炭素が、固体酸として利用できることが報告されている。この固体酸は、炭素系固体酸、カーボン系固体酸、炭素固体酸等と呼ばれている。また、非特許文献1には、特許文献1~3と同様に硫酸処理を行なったグラフェンシートが、グラフェンシートにスルホン酸基、カルボン酸基、フェノール性水酸基を持つ炭素系固体酸であることが報告されている。
【0004】
この炭素系固体酸の利用や用途に関する報告は、例えば、特許文献1~3には、この炭素系固体酸が、触媒性能、プロトン伝導性ともに高い固体酸であることが報告されている。非特許文献1には、セルロースを加水分解する触媒として、高性能を有することが報告されている。特許文献4には、プロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜、膜電極接合体、燃料電池に使用できるイオン交換容量、触媒性能、プロトン伝導性が高く耐熱性に優れた炭素系固体酸が報告されている。特許文献6には、炭素系固体酸を使用した触媒前駆体、触媒材料及び触媒製造方法が報告されている。
【0005】
この炭素系固体酸の合成、製造方法及び原料に関する報告は、例えば、非特許文献1には、主原料に結晶性セルロースとスルホン化剤として30%発煙硫酸と濃硫酸を用いた製造方法が報告されている。また、特許文献1~4及び6には、主原料に芳香族炭化水素等とスルホン化剤として発煙硫酸と濃硫酸を用いた製造方法が報告されている。さらに、特許文献5には、主原料に、純粋セルロース、セルロース含有原料、樹木、草木、果実、種子、再生セルロース等の炭素源とスルホン化剤として三酸化硫黄を用いた工業的製造方法が報告されている。特許文献7には、主原料に、ナフタレンの炭素源とスルホン化剤として濃硫酸を用いた製造方法が報告されている。
【0006】
一方、非特許文献2には、例えばナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)等のフッ素電解質を、固体高分子形燃料電池の触媒層に電解質として導入することで、画期的に触媒の使用量を低減できた経緯が報告されている。触媒層に電解質を導入する際は、一旦、触媒インクを作製する方法が取られており、この触媒インクの組成は触媒成分、触媒成分を担持するための触媒担体、電解質及び溶剤から構成され、現在も一般的には、この触媒インクプロセスが基本となり固体高分子形燃料電池の触媒層が作製されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】岩本正和監修、触媒調製ハンドブック、エヌ・ティー・エス社(東京)、2011年、634-635ページ
【文献】Journal of The Electrochemical Society 2002年, 149(7)巻, S59-S67
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2005/029508号
【文献】特許4041409号
【文献】特許4582546号
【文献】特許4925399号
【文献】特許5528036号
【文献】特許5182987号
【文献】特許5017902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3及び特許文献4で報告されているように、炭素系固体酸は、強酸基であるスルホン酸基を持つため、燃料電池に使用できるイオン交換容量、触媒性能、プロトン伝導性が高く耐熱性に優れた材料であることが期待される。しかしながら、特許文献3及び特許文献4には、これらの炭素系固体酸を燃料電池のプロトン伝導膜の電解質として使用できるとする報告はあるが、燃料電池の触媒層で使用することは記載されていない。また、実際に燃料電池を作製して動作を確認した報告はない。
【0010】
特許文献6には、炭素系固体酸を使用した触媒前駆体、触媒材料及び触媒製造方法の記載があるが、実際に燃料電池を作製して動作を確認した報告はない。
特許文献7には、炭素系固体酸を固体高分子形燃料電池の触媒層に用いる報告があり、固体高分子形燃料電池の触媒層にて、電解質であるナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)と、炭素系固体酸とを併用して、燃料電池として発電することが行なわれている。
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、燃料電池の触媒層に使用でき、プロトン伝導性が良好な材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが検討を重ねた結果、従来の炭素系固体酸にスルホン酸基を末端に有する置換基(リンカーを介したスルホン酸基)を導入する合成反応を行うことで、従来より、多くのスルホン酸基(置換基の末端基としてのスルホン酸基も含む)を持つ炭素系固体酸を得て、この炭素系固体酸がプロトン伝導性を向上させ、優れた発電特性を奏することを見出した。
さらには、本発明の炭素系固体酸を燃料電池の触媒層を形成するための触媒インクに使用することで、触媒インクを塗布する際に、インクが凝集することなく、インク塗布装置のノズルの閉塞の頻度が少ないことも見出した。
以上より、本発明の炭素系固体酸を燃料電池の触媒層に用いた場合に、触媒層の電解質である、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)等のパーフルオロスルホン酸ポリマーまたは、ポリマーにスルホン基を導入した炭化水素系ポリマー等との併用することなく、本発明の炭素系固体酸を単独で使用しても、発電特性及び良好なインク塗布性を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
これらの知見に基づく本発明は、以下の通りである。
[1]リンカーを介したスルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸。
[2]前記リンカーがオキシアルキレン鎖である[1]の炭素系固体酸。
[3]前記炭素材料が、少なくとも一部にグラフェン構造を有することを特徴とする[1]又は[2]に記載の炭素系固体酸。
[4]前記炭素材料が、さらに、水素原子、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種を有することを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の炭素系固体酸。
[5]下記式(1)で示される構造を有する[1]~[4]のいずれかに記載の炭素系固体酸。
【化1】

(式(1)中、Gは、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種を有していてもよいグラフェンを示し、
kは0または1以上の整数、jは0または1以上の整数、mは0または1以上の整数を示し、k、jおよびmの少なくとも1つは1以上の整数を示し、nは2から4の整数を示す。)
[6]前記オキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基が、オキシアルキレン鎖の酸素が炭素材料と直接結合し、酸素と反対側のアルキレン鎖の末端の炭素がスルホン酸基と直接結合していることを特徴とする[2]~[5]のいずれかに記載の炭素系固体酸。
[7]前記炭素系固体酸が、前記式(1)において、k=0、j=0かつmが1以上の整数である構造を有する[5]に記載の炭素系固体酸。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の炭素系固体酸が含まれる燃料電池の触媒層。
[9]前記炭素系固体酸が、電解質の1種であり、かつ触媒担体の1種である[8]に記載の燃料電池の触媒層。
[10]さらにパーフルオロ酸系高分子を含む[8]又は[9]に記載の燃料電池の触媒層。
[11]さらに結着剤を含む[8]~[10]のいずれかに記載の燃料電池の触媒層。
[12]水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種を有する炭素材料とスルトン類とを反応させる工程を含む、炭素系固体酸の製造方法。
[13]前記スルトン類が、1,3-プロパンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,3-ブタンスルトン、及び2,4-ペンタンスルトンからなる群から選択される少なくとも1種である[12]の炭素系固体酸の製造方法。
[14]前記炭素材料が、少なくとも一部にグラフェン構造を有することを特徴とする[12]又は[13]に記載の炭素系固体酸の製造方法。
[15][1]~[7]のいずれかに記載の炭素系固体酸とパーフルオロ酸系高分子を含む組成物。
[16][1]~[7]のいずれかに記載の炭素系固体酸と、触媒とを含む触媒層形成用組成物を解砕処理する、触媒を担持した炭素系固体酸の製造方法。
[17][1]~[7]のいずれかに記載の炭素系固体酸と、触媒を担持した触媒担体とを含む触媒層形成用組成物を解砕処理する、[16]に記載の触媒を担持した炭素系固体酸の製造方法。
[18]スルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸及び触媒が含まれる燃料電池の触媒層であって、前記炭素系固体酸が前記触媒を担持している燃料電池の触媒層。
[19]スルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸と、触媒とを含む触媒層形成用組成物を解砕処理する、触媒を担持した炭素系固体酸の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭素系固体酸は、プロトン伝導性が良好であるため、燃料電池の触媒層に使用することができる。
更に本発明の炭素系固体酸を燃料電池の触媒層に使用するための触媒インクに用いると、触媒インクを塗布する際に生じるインク塗布装置のノズルの閉塞の頻度が少ないため、燃料電池の量産時の効率化と品質の安定化が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られた炭素系固体酸(1)のIRのチャートである。
図2】実施例1の原料である乾燥した炭素系固体酸(フタムラ化学社製、「CP」)のIRのチャートである。
図3】実施例2で得られた炭素系固体酸(2)のIRのチャートである。
図4】実施例2の原料である乾燥した炭素系固体酸(フタムラ化学社製、「CP高温品」)のIRのチャートである。
図5】実施例3で得られた炭素系固体酸(3)のIRのチャートである。
図6】実施例3の原料である乾燥した炭素系固体酸(フタムラ化学社製、「ZP高温品」)のIRのチャートである。
図7】固体高分子形燃料電池の構成を模式的に示す断面図である。
図8】触媒層形成用組成物を、超音波ホモジナイザーを用いて解砕して得られた、触媒を担持した炭素系固体酸のTEM写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
<<本発明の第1の態様>>
本発明の第1の態様は、リンカーを介したスルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸(以下「前記炭素系固体酸」ともいう)に関する。
【0016】
<リンカーを介したスルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸>
前記炭素系固体酸における炭素材料は、有機化合物を熱処理して炭素化を行い製造した材料を意味する。炭素源となる有機化合物としては、例えば、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、結晶性セルロース、純粋セルロース、樹木、草木、果実、種子、再生セルロース、芳香族炭化水素等が挙げられ、結晶性セルロース、純粋セルロース、樹木、草木、果実、種子、再生セルロース及び芳香族炭化水素が好ましい。
【0017】
前記炭素系固体酸における炭素材料は、少なくとも一部にグラフェン構造を有していることが好ましい。少なくとも一部にグラフェン構造を有する炭素材料としては、グラフェンシートが挙げられる。グラフェンシートの大きさとしては特に制限されないが、面方向の最大長さが1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましい。
【0018】
前記炭素系固体酸における炭素材料は、リンカーを介したスルホン酸基以外に、炭素材料の表面及び炭素の欠損部分の置換基として、スルホン酸基、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、オキシスルホン酸基等を有していることが好ましく、水酸基を有していることがより好ましく、また、炭素材料の表面及び炭素の欠損部分の構造として、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造、エーテル構造等を有していることが好ましく、エーテル構造を有していることがより好ましい。これらの官能基及び構造は、熱処理して炭素質物質に変換する炭素化の条件や原料の炭素源により、その種類や存在量が異なる。なお、本明細書において、炭素材料及びグラフェンは、すべての水素原子が前記官能基及び構造に置き換えられていることはなく、少なくとも水素原子を有する。
【0019】
例えば、非特許文献である触媒調製ハンドブック(エヌ・ティー・エス社(東京)、2011年、634-635ページ)には、炭素系固体酸の表面及び炭素の欠損部分の置換基としては、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基を有していることが報告されている。
【0020】
前記炭素材料におけるリンカーを介したスルホン酸基は、炭素材料の表面及び炭素の欠損部分の置換基として存在する。
リンカーを介したスルホン酸基におけるリンカーは、オキシアルキレン鎖が好ましい。
【0021】
オキシアルキレン鎖におけるアルキレン鎖としては、特に制限されないが、直鎖の炭素数2~4のアルキレン鎖及び分岐の炭素数4のアルキレン鎖が好ましく、直鎖の炭素数3並びに炭素数4のアルキレン鎖及び分岐の炭素数4のアルキレン鎖がより好ましく、直鎖の炭素数3のアルキレン鎖がさらに好ましい。
スルホン酸基は、オキシアルキレン鎖に加え、さらにカルボニル基又はスルホニル基を介して炭素材料に結合していてもよい。
【0022】
前記炭素系固体酸は、下記式(1)で示される構造を有することが好ましい。
【0023】
【化2】
【0024】
式(1)中、Gは、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種を有していてもよいグラフェンを示す。Gは、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基からなる群から選択される少なくとも1種を有するグラフェンであることが好ましい。
【0025】
kは0または1以上の整数、jは0または1以上の整数、mは0または1以上の整数を示し、k、jおよびmの少なくとも1つは1以上の整数を示す。
kは1以上5以下の整数が好ましく、1以上3以下の整数がさらに好ましい。
jは1以上3以下の整数が好ましく、1及び2の整数がさらに好ましい。
mは1以上10以下の整数が好ましく、1以上6以下の整数がさらに好ましい。
nは2から4の整数を示し、3又は4であることが好ましく、3であることがより好ましい。
【0026】
上記式(1)で示される化合物としては、特に制限されないが、例えば、式(1b)又は式(1c)で示される化合物が挙げられる。式(1b)及び式(1c)において、グラフェン構造の大きさは任意であり、各置換基の数およびグラフェン構造への結合位置も任意である。
【0027】
【化3】
【0028】
さらには、前記炭素系固体酸における炭素材料は、オキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基として、オキシアルキレン鎖の酸素が炭素材料と直接結合し、酸素と反対側のアルキレン鎖の末端の炭素がスルホン酸基と直接結合している、オキシアルキレン鎖のみを介したスルホン酸基を有することが好ましい。
【0029】
すなわち、炭素系固体酸が、前記式(1)において、k=0、j=0かつmが1以上の整数である構造を有する、下記式(2)で表されることがさらに好ましい。
【0030】
【化4】
【0031】
式(2)中、G及びnは、式(1)における内容と同じである。
mは1以上10以下の整数が好ましく、1以上6以下の整数がさらに好ましい。
【0032】
前記式(1)で表される炭素系固体酸のスルホン酸基を有する部分構造としては、オキシアルキレン鎖の酸素側で炭素材料との結合を有しオキシアルキレン鎖のアルキレンの末端の炭素側でスルホン酸基を有しているオキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基、オキシアルキレン鎖の酸素側でカルボニル基を介して炭素材料と結合し、オキシアルキレン鎖のアルキレンの末端の炭素側でスルホン酸基を有しているカルボニル基及びオキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基、オキシアルキレン鎖の酸素側でスルホニル基を介して炭素材料と結合し、オキシアルキレン鎖のアルキレンの末端の炭素側でスルホン酸基を有しているスルホニル基及びオキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基等が挙げられる。しかしながら前記部分構造中にエステル構造を有するものは、燃料電池の作動条件にて加水分解反応が進行するため、触媒層の安定性の観点からは、前記式(1)で表される炭素系固体酸は、前記式(2)で表されることが好ましく、さらにはスルホン酸基を有する部分構造として、酸素側で炭素材料との結合を有しアルキレンの末端の炭素側でスルホン酸基を有しているオキシアルキレン鎖のみを介したスルホン酸基、及びスルホン酸基のみを有する炭素系固体酸が好ましい。
【0033】
<燃料電池>
図7は、固体高分子形燃料電池の構成を模式的に示す断面図である。固体高分子形燃料電池100は、アノード触媒層103、カソード触媒層105及び両触媒層に挟持された固体電解質膜107を有し、各触媒層は外側にガス拡散層(Gas Diffusion Layer、以下「GDL」と略称する)101を有する。この構成を膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下「MEA」と略称する)という。燃料電池は、通常、このMEAがセパレータ109に挟持されている。
【0034】
アノード触媒層103及びカソード触媒層105の少なくとも一方は、前記炭素系固体酸を含む。さらには、固体電解質膜107も、前記炭素系固体酸を含んでいてもよい。高電流駆動時における過電圧上昇抑制の観点からは、前記炭素系固体酸は、少なくともカソード触媒層105に用いることが好ましい。
【0035】
前記炭素系固体酸は、プロトン伝導性及び酸素透過性を有するとともに、その構造から触媒を担持する機能も有する。したがって、燃料電池における触媒層における触媒担体、電解質及びその両者を兼ねたもの、固体電解質膜における電解質として用いることができる。
前記炭素系固体酸の主要機能としては、スルホン酸基を有する部分は、固体電解質としてのプロトン伝導の機能があり、グラフェン構造を有する場合は、グラフェン構造を有する部分は、電子伝導の機能があり、炭素系固体酸の固体表面は、燃料電池の反応に必要な触媒を担持する機能があり、更に炭素材料そのものが持つ空孔は、燃料ガスの拡散や水の吸着脱離の機能があると考えられる。
【0036】
アノード触媒層103及びカソード触媒層105は、前記炭素系固体酸に加え、それぞれ触媒成分、触媒成分を担持するための触媒担体及び電解質を含む。あるいは、触媒担体及び電解質は、前記炭素系固体酸であってもよい。
前記炭素系固体酸は、電解質の1種であり、かつ触媒担体の1種であることが好ましい。前記炭素系固体酸が、電解質と触媒担体とを兼ねることにより、従来プロトン伝導性を有さなかった触媒担体もプロトン伝導性を有することになり、燃料電池の電気特性の向上等が期待される。
触媒担体に担持された触媒を電極触媒という。本明細書では、アノード触媒層103及びカソード触媒層105を、触媒層と略すことがある。
【0037】
アノード触媒層103における触媒成分としては、特に制限なく公知の触媒を使用することができ、カソード触媒層105における触媒成分としては、特に制限なく公知の触媒を使用することができる。このようなアノード触媒層103及びカソード触媒層105に用いられる触媒成分としては、例えば、白金、金、銀、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などが挙げられる。触媒成分の主要機能は電気化学反応を起こすことである。
【0038】
前記触媒層における触媒担体としては、例えば、前記炭素系固体酸、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、種々の炭素原子を含む材料を炭化し賦活処理した活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイト化カーボンなどの炭素材料が挙げられる。前記のうち、比表面積が高く電子伝導性に優れることから、触媒担体としては、前記炭素系固体酸、カーボンブラックが好ましい。触媒担体の主要機能は電子を伝導することである。更に触媒担体の主要機能としては、触媒担体の空孔による燃料ガスと水の輸送が挙げられる。
【0039】
電極触媒における電子伝導性の低下を抑制するため、触媒層に触媒担体同士を結着する結着剤を用いることができ、結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アクイヴィオン(登録商標、ソルベイ株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)等のフッ素系スルホン酸ポリマーなどが挙げられる。
【0040】
前記触媒層における電解質としては、例えば、前記炭素系固体酸、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アクイヴィオン(登録商標、ソルベイ株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)等のフッ素系スルホン酸ポリマー、炭化水素系スルホン酸ポリマー、部分フッ素系導入型炭化水素系スルホン酸ポリマー等が挙げられる。前記電解質としては、前記炭素系固体酸、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アクイヴィオン(登録商標、ソルベイ株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)等のパーフルオロ酸系高分子が好ましく、前記炭素系固体酸、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)がより好ましい。前記炭素系固体酸を単独で用いることもできるし、前記炭素系固体酸と上述した電解質とを混合して用いることもできる。触媒層における電解質の主要機能はプロトンを伝導することであるが、更に燃料ガスを通すことと水の輸送も同時に要求されている観点より、本発明の触媒層における電解質は、前記炭素系固体酸と共に、高電流領域での電圧特性の観点から、前記ナフィオン等のパーフルオロ酸系高分子を含むことが好ましい。
【0041】
触媒層103及び触媒層105の作製方法について説明する。触媒成分、触媒担体及び電解質を溶剤に分散した組成物を触媒インクとして調製した後、その触媒インクを目的の基材上に塗布して乾燥させて触媒層を作製する。目的の基材としては、例えば、固体電解質膜、GDL、フッ素樹脂から成るシート等が挙げられ、デカール法等の公知の製造方法により触媒層を作製できる。フッ素樹脂から成るシートに触媒インクを塗布した場合は、塗布した触媒層を固体電解質に転写する。フッ素樹脂から成るシートとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成るシートが一般的である。
【0042】
前記触媒インクの組成は、一般的には、前記の触媒成分、前記の触媒成分を担持するための触媒担体、前記の電解質、さらには溶剤により構成される。また、触媒インクの組成に触媒担体同士を結着する結着剤を配合することもできる。これらの触媒インクの組成を調整することで、電子伝導性の低下を抑制、プロトン伝導性の向上、燃料ガスの拡散性の向上、水輸送の効率化、触媒層の機械強度の向上などの機能や性能を向上させることができる。
【0043】
前記触媒インクに使用する溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。前記溶剤としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール及びイソブチルアルコールが好ましい。上述した溶剤のうち二種以上を混合して用いることもできる。インクの再凝集が抑制され塗布しやすく、更に触媒層中に溶剤が残留を抑制できる観点から、触媒インクに使用する溶剤としては、水、エタノール及び1-プロパノールがより好ましい。
【0044】
前記触媒インクの組成の例として、例えば、触媒を白金とし、触媒担体をカーボンブラックとし、電解質を前記炭素系固体酸及びナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)とした触媒インクの組成、触媒を白金とし、触媒担体をカーボンブラックとし、電解質を前記炭素系固体酸とした触媒インクの組成等が挙げられる。さらには、触媒を白金とし、触媒担体をカーボンブラック及び前記炭素系固体酸、又は前記炭素系固体酸のみとし、電解質を前記炭素系固体酸とした触媒インクの組成が挙げられる。このように、触媒担体の少なくとも一部を前記炭素系固体酸とする触媒インクは、前記炭素系固体酸と触媒とを含む触媒層形成用組成物を解砕処理することにより製造され、触媒を担持した炭素系固体酸を含む触媒インクが得られる。
【0045】
前記解砕処理としては、例えば、乾式での解砕処理、湿式での解砕処理が挙げられる。乾式での解砕処理としては、ボールミル、遊星ミル、ピンミル、ジェットミル等が挙げられる。湿式での解砕処理としては、超音波ホモジナイザー、超音波分散機、ビーズミル、サンドグラインダー、ホモジナイザー、湿式ジェットミル等が挙げられる。このなかでも、好ましい解砕処理は、ボールミル、超音波ホモジナイザー、超音波分散機、ホモジナイザーであり、超音波ホモジナイザーが特に好ましい。湿式での解砕処理の際、用いる溶媒は特に限定しないが、前記触媒インクに使用する溶剤等を用いることができる。
【0046】
より具体的には、カーボンブラックに担持された白金触媒(田中貴金属工業社製、白金含有量:46.5重量%、品名「TEC10E50E」)、前記炭素系固体酸、脱イオン水、エタノール(和光純薬工業社製)およびナフィオン分散溶液(和光純薬工業社製、品名「5% Nafion Dispersion Solution DE521 CS type」)を含む組成物を、超音波ホモジナイザーを用いて解砕すると、白金の少なくとも一部が、カーボンブラックから前記炭素系固体酸に移動し、触媒を担持した炭素系固体酸を含む触媒インクが得られる。その様子を図8に示す。
【0047】
前記炭素系固体酸は、前記触媒インクの調製時に使用して、膜電極接合体(MEA)を作成し単セルに組み込むことで、発電特性を得ることができる。
【0048】
更に前記炭素系固体酸を使用することで、触媒インクを塗布する際に頻繁に起こるインク塗布装置のノズルの閉塞の頻度を画期的に減少できたため、燃料電池の量産時の効率化と品質の安定化が期待される。
【0049】
触媒層における前記炭素系固体酸使用量の割合は、下記の式にて算出する。なお、下記計算式において、電極触媒、炭素系固体酸、電解質及び結着剤の重量は、水分及び溶剤を差し引いた固形分重量を計算に用いた。また、下記計算式において、電解質、電極触媒は、本発明における炭素系固体酸を含まない。
【0050】
炭素系固体酸割合(重量%)
=[炭素系固体酸(重量)/〔触媒層中の全重量(但し固形分重量)〕]×100(重量%)
=[炭素系固体酸(重量)/〔電極触媒(重量)+電解質(重量)+結着剤(重量)+炭素系固体酸(重量)〕]×100(重量%)
炭素系固体酸割合は、1~95%が好ましく、15~45%がより好ましい。
【0051】
固体電解質膜107の材料としては、前記炭素系固体酸、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アクイヴィオン(登録商標、ソルベイ株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)等のフッ素系スルホン酸ポリマー、炭化水素系スルホン酸ポリマー、部分フッ素系導入型炭化水素系スルホン酸ポリマー等が挙げられる。前記炭素系固体酸を含む触媒層は、固体電解質膜の材料としては、フッ素系スルホン酸ポリマー、炭化水素系スルホン酸ポリマー、部分フッ素系導入型炭化水素系スルホン酸ポリマーといずれの材料も、触媒層の材料として使用することができ、フッ素系スルホン酸ポリマー及び部分フッ素系導入型炭化水素系スルホン酸ポリマーを使用することが好ましい。
【0052】
ガス拡散層101としては、特に制限はないが、導電性を有する多孔質材料が好適に用いられており、このような材料としては、例えば炭素性の紙及び不織布、フェルト、不織布等が挙げられる。更にGDLには、撥水性樹脂とカーボン材料とを主成分とするコーティング層であるマイクロポーラス層(Micro Porous Layer、以下「MPL」と略称する)と呼ばれる層をコーティングした材料もあり、燃料電池の発電時の水輸送を効果的に行うことが報告されており、前記炭素系固体酸を含む触媒層は、このMPLを有するガス拡散層を使用することもできる。本発明中の発電試験では、このMPLを持たないGDLである撥水性カーボンペーパーを使用した。
【0053】
<前記炭素系固体酸を含む組成物>
前記炭素系固体酸を含む組成物には、パーフルオロ酸系高分子を含むことが、該組成物を燃料電池の触媒層に用いた場合に高電流領域での電圧特性の観点から好ましい。組成物には、後述するような電解質、触媒担体等を含有させることができる。
【0054】
パーフルオロ酸系高分子としては、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アクイヴィオン(登録商標、ソルベイ株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)等のフッ素系スルホン酸ポリマーが挙げられる。
【0055】
<リンカーを介してスルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸の製造方法>
リンカーを介したスルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸は、工程1により製造することができる。耐久性の観点からは、工程1の後に、工程2を行なうことが好ましい。
[工程1]
本発明の炭素系固体酸の合成で使用する出発原料の炭素材料は、例えば、冨士色素株式会社、フタムラ化学株式会社等から入手できる。また、特許文献の国際公開2005/029508号、特許4041409号、特許4925399号、特許5528036号に記載の製造方法で合成した炭素系固体酸を、出発原料として用いてもよい。
【0056】
工程1では、出発原料である、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種を有する炭素材料とスルトン類とを反応させる。
工程1により、リンカーがオキシアルキレン鎖である、リンカーを介したスルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸を得ることができる。
【0057】
工程1の反応に用いられる炭素材料は、少なくとも一部にグラフェン構造を有することが好ましい。
工程1の反応に用いられる炭素材料は、水酸基、スルホン酸基及びエーテル構造から成る群から選択される少なくとも1種を有していることが好ましい。
工程1に用いられるスルトン類としては、1,3-プロパンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,3-ブタンスルトン、及び2,4-ペンタンスルトン等が挙げられ、1,3-プロパンスルトン及び2,4-ブタンスルトンが好ましい。
工程1は、例えば、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水酸化ナトリウム、1,8-ジアザビシクロ-5,4,0-ウンデカ-7-エン(DBU)、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N-エチルメチルブチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジエチルベンジルアミン、トリベンジルアミン等の存在下、行うこともできる。これらの中でも、スルトン化合物が水による加水分解反応で開環することを防ぐため、反応混合物中の水分を除く観点より、水素化ナトリウム及び水素化リチウムが好ましい。
【0058】
工程1に用いられる溶媒としては、炭素系固体酸を分散できる非水系溶媒であればよく、例えば、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、四塩化炭素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、イソオキサゾール、1,4-ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、アセトン、アセトニトリル、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、スルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等が挙げられる。1,3-プロパンスルトンは、反応の対象であるが、溶媒を兼ねることができる。トルエン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-プロパンスルトンが好ましく、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-プロパンスルトンがより好ましい。
【0059】
工程1の反応温度は、好ましくは-10~200℃、より好ましくは10~160℃、さらに好ましくは15~140℃である。
【0060】
工程1の反応時間は、好ましくは1~500時間、より好ましくは2~300時間、さらに好ましくは5~150時間である。
【0061】
[工程2]
工程2では、工程1で得られたオキシアルキレン鎖を介してスルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸の加水分解を行なう。加水分解は、炭素材料の置換基のエステル構造の部分で生じる。したがって、炭素材料におけるオキシアルキレン鎖を介してスルホン酸基を有する置換基の中で、エステル構造、スルホン酸エステル構造を介して炭素材料に結合しているオキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基は、エステル構造、スルホン酸エステル構造が加水分解され、オキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基は脱離して、カルボン酸基及びスルホン基が炭素材料に残る。それに対して、エーテル結合は、強酸を用いた場合であっても、加水分解を受けないため、オキシアルキレン鎖の酸素が炭素材料に直接結合しているオキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基は、炭素材料に結合した状態で残る。したがって、工程2を経て得られた炭素系固体酸は、燃料電池デバイスに使用する前に、事前に加水分解により反応する置換基を排除しているため、分解物が燃料電池デバイスを傷める事が極力減少できるため、耐久性に優れる。
加水分解は、空気中の水分により進行することもあるが、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、亜硫酸、亜硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、乳酸、蓚酸、クエン酸、蟻酸等の有機酸等を用いて行うこともでき、反応を完全に進行させる観点と水による洗浄の観点からは、強酸である硫酸、塩酸を用いて加水分解を行なうことが好ましく、燃料電池デバイスの観点から硫酸がより好ましい。
【0062】
工程2は、加水分解後の洗浄操作を含んでいてもよい。
工程1及び工程2の反応式としては、模式的に例えば、以下の(反応式A)で表されるが、炭素材料の構造は下記に限定されない。(反応式A)では、工程1の1例として、出発原料である例えば式(1a)で示される炭素系固体酸とスルトン類との反応を示し、工程2の1例として、例えば式(1b)で示される炭素系固体酸の加水分解を、点線で示した加水分解する部分とともに示す。
【0063】
【化5】
【0064】
一方、従来の方法を以下の(反応式B)に示す。(反応式B)の工程Xは、硫酸又は塩化スルホン酸を用いて、式(1d)で示される炭素系固体酸を原料にして、式(1e)で示される炭素系固体酸を製造する工程であり、式(1e)で示されるスルホン酸基が導入された炭素系固体酸を製造できる。この式(1e)で示される炭素系固体酸に、前記の工程Yでは、式(1e)で示される炭素系固体酸を洗浄処理する。洗浄は、水等を溶媒として硫酸等の酸性条件化におくことにより行われる。この洗浄を行うと、可逆反応によるスルホン酸基の脱離やオキシスルホン酸基の加水分解が進行するため、耐久性に優れた炭素系固体酸を得ることは難しく、炭素系固体酸上に有するスルホン酸基も減少してしまうため、燃料電池デバイスでの性能は低下してしまう。なお、反応式Bも模式的に表したものであり、炭素材料の構造は下記に限定されない。
したがって、反応式Bの製造方法に対して、本発明は、スルトン類を用いて炭素系固体酸に対してスルホン酸を導入することで、より耐久性に優れた炭素系固体酸を得ることができる。
【0065】
【化6】
【0066】
さらには、工程1及び工程2により得られる前記炭素系固体酸は、オキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基が、オキシアルキレン鎖の酸素が炭素材料と直接結合し、オキシアルキレン鎖のアルキレンの酸素と反対側の末端の炭素がスルホン酸基と直接結合していることが好ましく、本発明の前記式(1)において、k=0、j=0かつmが1以上の整数である構造を有する、下記式(2)で表されることがさらに好ましい。
【0067】
【化7】
【0068】
<<本発明の第2の態様>>
本発明の第2の態様は、スルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸及び触媒が含まれる燃料電池の触媒層であって、前記炭素系固体酸が前記触媒を担持している燃料電池の触媒層に関する。
【0069】
炭素材料及びその好ましい態様としては、第1の態様と同様のものが挙げられる。炭素材料の表面及び炭素の欠損部分の置換基又は構造としての好ましい態様としては、第1の態様と同様のものが挙げられ、またリンカーを介したスルホン酸基が挙げられる。リンカーについては、第1の態様と同様である。触媒も第1の態様と同様のものが挙げられる。
燃料電池及び触媒層の構成についても、第1の態様と同様である。
【0070】
第2の態様における炭素系固体酸は、燃料電池の触媒層において、電解質の1種であり、かつ触媒担体の1種である。第2の態様の炭素系固体酸が、電解質と触媒担体とを兼ねることにより、従来プロトン伝導性を有さなかった触媒担体もプロトン伝導性を有することになり、燃料電池の電気特性の向上等が期待される。
【0071】
第2の態様では、触媒担体としての、スルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸が、触媒を担持している。この触媒を担持した炭素系固体酸は、スルホン酸基を有する炭素材料を含む炭素系固体酸と、触媒とを含む触媒層形成用組成物を解砕処理することにより製造される。
【0072】
前記解砕処理としては、例えば、乾式での解砕処理、湿式での解砕処理が挙げられる。乾式での解砕処理としては、遊星ミル、ピンミル、ジェットミル等が挙げられる。湿式での解砕処理としては、超音波ホモジナイザー、超音波分散機、ビーズミル、サンドグラインダー、ホモジナイザー、湿式ジェットミル等が挙げられる。このなかでも、好ましい解砕処理は、超音波ホモジナイザー、超音波分散機、ホモジナイザーであり、超音波ホモジナイザーが特に好ましい。湿式での解砕処理の際、用いる溶媒は特に限定しないが、触媒層を形成するための触媒インクに使用する溶剤等を用いることができる。
【実施例
【0073】
以下に、本発明の実施例および試験例を、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例試験例で用いた分析装置およびその条件は以下のとおりである。
【0074】
赤外吸収(IR):
Thermo社製のフーリエ変換赤外分光装置iS5を用いて、測定した。
【0075】
透過電子顕微鏡(TEM):
日立ハイテク社製の透過電子顕微鏡装置H-8000を用いて、加速電圧200kVの条件にて観察した。
【0076】
燃料電池の発電試験A:
膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下「MEA」と略称する)は、固体電解質膜、ガス拡散層(Gas Diffusion Layer、以下「GDL」と略称する)および触媒インクより作製した。固体電解質膜は、ナフィオン212膜(登録商標、デュポン株式会社製、東陽テクニカ社より購入、膜厚:50μm)を用いた。GDLは、撥水性を持たせるためにポリテトラフルオロエチレンであるテフロン(登録商標、デュポン株式会社製)で加工されたカーボンペーパー(東レ社製、品名「EC-TP1-060T」)を用いた。
【0077】
触媒インクは、白金担持カーボンである電極触媒(田中貴金属工業社製、白金含有量:46.5重量%、品名「TEC10E50E」)、脱イオン水、エタノール(和光純薬工業社製)、及び炭素系固体酸を用いて調製した。ガラス製のバイアル瓶に、電極触媒、炭素系固体酸、脱イオン水、エタノールを、この順番で加えた分散溶液を、マイクロテック・ニチオン社製の超音波ホモジナイザーSmurt NR-50Mを用いて超音波を出力40%に設定して30分間照射することで、触媒インクを調製した。以下に触媒インク調製条件を記載する。
【0078】
触媒インク調製条件:
炭素系固体酸割合(重量%)
=[炭素系固体酸(重量)/〔電極触媒(重量)+炭素系固体酸(重量)〕]×100(重量%)
を28重量%となるようにした。具体的には、電極触媒の重量を100.0mgにした場合は、炭素系固体酸を38.9mg、脱イオン水を0.6mL、エタノールを5.1mLと設定した。
【0079】
触媒インク塗布条件:
触媒インクを調製した後、ノードソン社製のスプレー塗布装置V8Hを用いて、1cm×1cmの正方形に切り出したGDLの片面に触媒インクを塗布した。塗布する白金量は、GDLの一面分1cmあたり、0.3mgとした。スプレー塗布装置V8HのホットプレートにGDLを設置して、触媒インクの溶媒成分である脱イオン水とエタノールとを乾燥させて除き、触媒インクをGDLへ定着させた。触媒インクの塗布は、塗布する前後のGDLの重量差が目標重量差で0.896mgとなるように塗布を行い、2枚のガス拡散電極(Gas Diffusion Electrode、以下「GDE」と略称する)を作製した。
【0080】
MEAを作製する工程:
次に、5cm×5cmの正方形に切り出したナフィオン212膜を固体電解質膜として中央に設置し、その両面にGDEを、インクを塗った面が固体電解質膜側になるように重ね合わせた後、上下盤温度132℃、荷重0.6kN、圧着時間20秒の条件で熱圧着して、GDE(アノード電極)/固体電解質膜/GDE(カソード電極)となる3層構造のMEAを作製した。作製したMEAを、1cmの電極面積を有する単セル(エフシー開発社製、JARI標準セル)に組み込んだ後、燃料電池の発電試験を行った。
燃料電池評価システム(東陽テクニカ社製,AutoPEM)にて、温度80℃、相対湿度95%、100mL/分の水素および大気圧の空気ガス流で評価を行い、電流密度と電圧とを測定した。
【0081】
燃料電池の発電試験B:
触媒インクの組成、触媒インク調製条件及び触媒インク塗布条件を変更したこと以外は燃料電池の発電試験Aと同様の方法で発電試験を行った。以下に変更したところを記載する。
触媒インクは、白金担持カーボンである電極触媒(田中貴金属工業社製、白金含有量:46.5重量%、品名「TEC10E50E」)、脱イオン水、エタノール(和光純薬工業社製)、炭素系固体酸およびナフィオン分散溶液(和光純薬工業社製、品名「5% Nafion Dispersion Solution DE521 CS type」)を用いて調製した。ガラス製のバイアル瓶に、電極触媒、炭素系固体酸、脱イオン水、エタノール、ナフィオン分散溶液を、この順番で加えた分散溶液をマイクロテック・ニチオン社製の超音波ホモジナイザーSmurt NR-50Mを用いて超音波を出力40%に設定して30分間照射することで、触媒インクを調製した。図8のTEM写真に示すように、解砕処理後、白金の一部が、元の担体のカーボンから、炭素系固体酸に移動した。
【0082】
触媒インク調製条件:
ナフィオン割合(重量%)
=[ナフィオン固形分(重量)/〔電極触媒(重量)+ナフィオン固形分(重量)+炭素系固体酸(重量)〕]×100(重量%)
を28重量%となるようにした。
炭素系固体酸割合(重量%)
=[炭素系固体酸(重量)/〔電極触媒(重量)+ナフィオン固形分(重量)+炭素系固体酸(重量)〕]×100(重量%)
を28重量%となるようにした。具体的には、電極触媒の重量を61.1mgにした場合は、ナフィオン分散溶液を837μL、炭素系固体酸を38.9mg、脱イオン水を0.6mL、エタノールを5.1mLと設定した。ナフィオン分散溶液837μLは、ナフィオン固形分38.9mgに相当する。
【0083】
触媒インク塗布条件:
発電試験Aの触媒インク塗布条件において、GDLの一面分1cmあたりの白金量である0.3mgは変更せず、触媒インクの塗布は、塗布する前後のGDLの重量差が目標重量差で1.467mgとなるように塗布を行い、2枚のGDEを作製した。
【0084】
燃料電池の発電試験C:
一般的に行われている発電試験の例として本発明との比較をするための試験である。触媒層における電解質にナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)を用いた試験であり、炭素系固体酸は使用していない。ナフィオンを用いた最適化のため、触媒インクの組成及び調製条件、並びにMEAを作製する工程で変更を加えた以外は、発電試験Aと同様の方法で発電試験を行った。以下に変更したところを記載する。
触媒インクは、白金担持カーボンである電極触媒(田中貴金属工業社製、白金含有量:46.5重量%、品名「TEC10E50E」)、脱イオン水、エタノール(和光純薬工業社製)及びナフィオン分散溶液(和光純薬工業社製、品名「5% Nafion Dispersion Solution DE521 CS type」)を用いて調製した。ガラス製のバイアル瓶に、電極触媒、脱イオン水、エタノール、ナフィオン分散溶液を、この順番で加えた分散溶液を準備した。
【0085】
触媒インク調製条件:
ナフィオン割合(重量%)
=[ナフィオン固形分(重量)/〔電極触媒(重量)+ナフィオン固形分(重量)+炭素系固体酸(重量)〕]×100(重量%)
を28重量%となるようにした。具体的には、電極触媒の重量を61.1mgにした場合は、ナフィオン分散溶液を837μL、脱イオン水を0.6mL、エタノールを5.1mLと設定した。ナフィオン分散溶液837μLは、ナフィオン固形分38.9mgに相当する。
【0086】
触媒インク塗布条件:
触媒インクを調製した後、ノードソン社製のスプレー塗布装置V8Hを用いて、1cm×1cmの正方形に切り出したGDL及び1cm×1cmの正方形の穴を開けたポリエチレンテレフタレート(PET)から成るフィルムで覆った5cm×5cmに切り出した固体電解質膜であるナフィオン212膜の両面に触媒インクを1cmあたりの白金量が、0.3mgとなるように塗布した。
【0087】
MEAを作製する工程(CCMを経由したMEAの作製):
触媒インクを塗布した固体電解質膜を、132℃、0.3kNで180秒間の条件で熱圧着して、触媒被覆膜(Catalyst Coated Membrane、以下「CCM」と略称する)を作製し、続いてCCMの両面に触媒インクを塗布したガス拡散層であるGDLを、132℃、0.6kNで20秒間の条件で熱圧着して、MEAを作製した。一方で、GDEを経由したMEA作製も実施して、発電試験を行ったところ、CCMを経由したMEAの方が、良い発電結果であったので、比較試験例としてCCMを経由したMEAを採用した。
【0088】
燃料電池の発電試験D:
触媒インクの組成、触媒インク調製条件、触媒インク塗布条件及びMEAを作製する工程を変更したこと以外は燃料電池の発電試験Aと同様の方法で発電試験を行った。以下に変更したところを記載する。
【0089】
触媒インクの組成:
触媒インクは、白金担持カーボンである電極触媒(田中貴金属工業社製、白金含有量:46.5重量%、品名「TEC10E50E」)、2-プロパノール(純正化学社製)、炭素系固体酸およびナフィオン分散溶液(富士フイルム和光純薬社製、品名「5% Nafion Dispersion Solution DE520 CS type」)を用いて調製した。ガラス製のバイアル瓶に、電極触媒、ナフィオン分散溶液、炭素系固体酸、2-プロパノールを、この順番で加えた分散溶液をマイクロテック・ニチオン社製の超音波ホモジナイザーSmurt NR-50Mを用いて超音波を出力40%に設定して20分間照射することで、触媒インクを調製した。
【0090】
触媒インク調製条件:
ナフィオン割合(重量%)
=[ナフィオン固形分(重量)/〔電極触媒(重量)+ナフィオン固形分(重量)+炭素系固体酸(重量)〕]×100(重量%)
を32重量%となるようにした。
炭素系固体酸割合(重量%)
=[炭素系固体酸(重量)/〔電極触媒(重量)+ナフィオン固形分(重量)+炭素系固体酸(重量)〕]×100(重量%)
を9重量%となるようにした。具体的には、電極触媒の重量を32.9mgにした場合は、ナフィオン分散溶液を353.8mg、炭素系固体酸を4.8mg、2-プロパノールを1.2mLと設定した。ナフィオン分散溶液353.8mgは、ナフィオン固形分17.7mgに相当する。
【0091】
触媒インク塗布条件:
1cmあたりの白金量が0.15mgとなるように、高さを300~400μmに調整できるアプリケーターを用いて、触媒インクを、厚さ130μmのポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略す)シートに、塗布した。
【0092】
MEAを作製する工程(デカール法によるMEAの作製):
5cm×5cmの正方形に切り出したナフィオン212膜を固体電解質膜として、触媒インクを塗布したPTFEシート(1cm×1cm)を両面に挟み込み、上下盤温度140℃、0.6kNで180秒間の条件で、触媒層を固体電解質膜に熱転写した。続いて、CCMの両面に、GDLであるカーボンペーパー(SGL社製、品名「24BCH」)を配置させて、単セルに組み込んだ。燃料電池評価システム(東陽テクニカ社製,AutoPEM)にて、温度80℃、相対湿度95%、1L/分の水素ガス流および2L/分の空気ガス流で評価を行い、電流密度と電圧とを測定した。
【0093】
炭素系固体酸の乾燥方法:
炭素系固体酸を、ナスフラスコに加えた後、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90~100℃にて、恒量になるまで乾燥した。別方法としては、炭素系固体酸を、真空乾燥器に静置した後、真空ポンプに接続して、温度90~120℃にて、恒量になるまで乾燥した。
【0094】
実施例1:炭素系固体酸(1)の合成
炭素系固体酸(フタムラ化学社製、太閤固体酸、銘柄「CP」)の湿品(5g、固形分24.4%)を、真空乾燥器に静置した後、温度100℃にて恒量になるまで乾燥して、乾燥させた炭素系固体酸(1.1g)を得た。この乾燥させた炭素系固体酸(0.51g)、テトラヒドロフラン(20mL)を、順次、反応容器に加えた。次に、水素化ナトリウム(400mg、16.67mmoL)の粉体は分割して反応容器に加え、最後に1,3-プロパンスルトン(2.1g、17.0mmoL)を反応容器に加えた。反応混合物を20~25℃にて、5日間撹拌して反応を行った。反応終了後、1mol/Lの硫酸(10mL)を反応容器に加え、1時間撹拌した後、硫酸(10mL)を反応容器に加え、1時間撹拌した。この反応混合物を遠心管に加え、遠心分離機器を用いて上澄み液と沈殿物とに分離した。この遠心管にイオン交換水を加えて、再び遠心分離機器で上澄み液と沈殿物とに分離する操作を、上澄み液の水素イオン指数(pH)をpH試験紙で確認して中性になるまで、繰り返した。この沈殿物をナスフラスコに加えた後、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90℃にて、恒量になるまで乾燥して、炭素系固体酸(1)を黒色の固体として得た(0.69g)。
【0095】
赤外吸収(IR):
図1に、炭素系固体酸(1)のIRのチャートを示す。
図2に、実施例1の原料である乾燥した炭素系固体酸(フタムラ化学社製、「CP」)のIRのチャートを示す。
図1にスルホン酸基のピーク1042cm-1,-O-CH-のピーク1207cm-1及び-CH-CH-のピーク2971cm-1が確認され、炭素系固体酸(1)には、オキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基が存在することがわかる。原料の図2のチャートには、-CH-CH-のピークは確認されない。
【0096】
実施例2:炭素系固体酸(2)の合成
炭素系固体酸(フタムラ化学社製、太閤固体酸、銘柄「CP高温用」)の湿品(10g、固形分37.3%)を、ナスフラスコに加え、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90℃にて、恒量になるまで乾燥して、乾燥させた炭素系固体酸(3.5g)を得た。この乾燥させた炭素系固体酸(2.0g)、テトラヒドロフラン(30mL)を、順次、反応容器に加えた。次に、水素化ナトリウム(1.2g、50.0mmoL)の粉体は分割して反応容器に加え、最後に1,3-プロパンスルトン(3.7g、30.3mmoL)を反応容器に加えた。反応混合物を70℃に設定したオイルバスに設置、48時間撹拌して反応を行った。反応終了後、2mol/Lの硫酸(20mL)を反応容器に加え、1時間撹拌した後、硫酸(10mL)を反応容器に加え、1時間撹拌した。この反応混合物を遠心管に加え、遠心分離機器を用いて上澄み液と沈殿物とに分離した。次に、この沈殿物を、シリカろ紙を装着した減圧濾過器にて、ろ液の水素イオン指数(pH)をpH試験紙で確認して中性になるまで、イオン交換水で洗浄した。この粗物をナスフラスコに加えた後、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90℃にて、恒量になるまで乾燥して、炭素系固体酸(2)を黒色の固体として得た(1.68g)。
【0097】
赤外吸収(IR):
図3に、炭素系固体酸(2)のIRのチャートを示す。
図4に、実施例2の原料である乾燥した炭素系固体酸(フタムラ化学社製、「CP高温用」)のIRのチャートを示す。
図3にスルホン酸基のピーク1040cm-1,-O-CH-のピーク1182cm-1及び-CH-CH-のピーク2950cm-1付近が確認され、炭素系固体酸(1)には、オキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基が存在することがわかる。原料の図4のチャートには、-O-CH-のピーク及び-CH-CH-のピークは確認されない。
【0098】
実施例3:炭素系固体酸(3)の合成
炭素系固体酸(フタムラ化学社製、太閤固体酸、銘柄「ZP高温用」)の湿品(15g、固形分38.0%)を、ナスフラスコに加え、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90℃にて、恒量になるまで乾燥して、乾燥させた炭素系固体酸(2.9g)を得た。この乾燥させた炭素系固体酸(2.3g)、テトラヒドロフラン(50mL)を、順次、反応容器に加えた。次に、水素化ナトリウム(2.0g、83.3mmoL)の粉体は分割して反応容器に加え、最後に1,3-プロパンスルトン(7.0g、57.3mmoL)を反応容器に加えた。反応混合物を70℃に設定したオイルバスに設置、24時間撹拌して反応を行った。反応終了後、2mol/Lの硫酸(30mL)を反応容器に加え、1時間撹拌した後、硫酸(15mL)を反応容器に加え、1時間撹拌した。この反応混合物を遠心管に加え、遠心分離機器を用いて上澄み液と沈殿物とに分離した。次に、この沈殿物を、シリカろ紙を装着した減圧濾過器にて、ろ液の水素イオン指数(pH)をpH試験紙で確認して中性になるまで、イオン交換水で洗浄した。この粗物をナスフラスコに加えた後、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90℃にて、恒量になるまで乾燥して、炭素系固体酸(3)を黒色の固体として得た(2.02g)。
【0099】
赤外吸収(IR):
図5に、炭素系固体酸(3)のIRのチャートを示す。
図6に、実施例3の原料である乾燥した炭素系固体酸(フタムラ化学社製、「ZP高温用」)のIRのチャートを示す。
図5にスルホン酸基のピーク1041cm-1,-O-CH-のピーク1206cm-1及び-CH-CH-のピーク2950cm-1付近が確認され、炭素系固体酸(1)には、オキシアルキレン鎖を介したスルホン酸基が存在することがわかる。原料の図6のチャートには、-O-CH-のピーク及び-CH-CH-のピークは確認されない。
【0100】
実施例4:炭素系固体酸(2-a)の合成
炭素系固体酸(フタムラ化学社製、太閤固体酸、銘柄「CP高温用」)の湿品(21.6g、固形分37.3%)を、ナスフラスコに加え、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90℃にて、恒量になるまで乾燥して、乾燥させた炭素系固体酸(7.1g)を得た。この乾燥させた炭素系固体酸(3.1g)、テトラヒドロフラン(50mL)を、順次、反応容器に加えた。次に、水素化ナトリウム(4.8g、200mmoL)の粉体は分割して反応容器に加え、最後に1,3-プロパンスルトン(24.4g、200mmoL)を反応容器に加えた。反応混合物を80℃に設定したオイルバスに設置、24時間撹拌して反応を行った。反応終了後、2mol/Lの硫酸(80mL)を反応容器に加え、20~25℃にて2時間撹拌した後、硫酸(20mL)を反応容器に加え、更に20~25℃にて2時間撹拌した。この反応混合物を遠心管に加え、遠心分離機器を用いて上澄み液と沈殿物とに分離した。次に、この沈殿物を、シリカろ紙を装着した減圧濾過器にて、ろ液の水素イオン指数(pH)をpH試験紙で確認して中性になるまで、イオン交換水で洗浄した。この粗物をナスフラスコに加えた後、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90℃にて、恒量になるまで乾燥して、炭素系固体酸(2-a)を黒色の固体として得た(4.4g)。
【0101】
実施例5:炭素系固体酸(2-b)の合成
実施例4で得た乾燥させた炭素系固体酸(1.4g)、1,3-プロパンスルトン(33.3g、273mmoL)を、順次、反応容器に加えた。次に、水素化ナトリウム(0.65g、27.1mmoL)の粉体を反応容器に加えた。反応混合物を120℃に設定したオイルバスに設置、24時間撹拌して反応を行った。反応終了後、水(20mL)及び濃硫酸(3mL)を反応容器に加え、20~25℃にて2時間撹拌した。この反応混合物を、シリカろ紙を装着した減圧濾過器にて、ろ液の水素イオン指数(pH)をpH試験紙で確認して中性になるまで、イオン交換水で洗浄した。この粗物をナスフラスコに加えた後、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90℃にて、恒量になるまで乾燥して、炭素系固体酸(2-b)を黒色の固体として得た(1.8g)。
【0102】
比較試験例1:燃料電池の発電試験1
上記の乾燥方法で乾燥させた炭素系固体酸(フタムラ化学社製、太閤固体酸、銘柄「CP」)を用いて、上述の燃料電池の発電試験Aを行った。電圧および電流密度の結果を表1に示す。発電試験1を行う際に使用した触媒インクの塗布状況は、スプレー塗布装置の触媒インクと吐出口にて目詰まりしたため、スプレー塗布装置を分解して吐出口を超音波洗浄にて清掃してインク塗布作業を完了させた。
【0103】
【表1】
【0104】
試験例1:燃料電池の発電試験2
実施例1で合成した炭素系固体酸(1)を用いて、上述の燃料電池の発電試験Aを行った。試験例1及び比較試験例1の電圧および電流密度の結果を表2に示す。発電試験2を行う際に使用した触媒インクの塗布状況は、スプレー塗布装置の触媒インクと吐出口にて目詰まりはなかった。
【0105】
【表2】
【0106】
炭素系固体酸の種類が異なる以外は、同じ条件にそろえて燃料電池の発電試験で実施した比較試験例1とで発電特性を比較すると、試験例1の方が良い結果であった。
【0107】
比較試験例2:燃料電池の発電試験3
上記の乾燥方法で乾燥させた炭素系固体酸(フタムラ化学社製、太閤固体酸、銘柄「CP高温用」)を用いて、上述の燃料電池の発電試験Bを行った。電圧および電流密度の結果を表3に示す。発電試験3を行う際に使用した触媒インクの塗布状況は、スプレー塗布装置の触媒インクと吐出口にて目詰まりは軽微であり、スプレー塗布装置の吐出量調整の操作で目詰まりを解消した。スプレー塗布装置の分解は行わず、インク塗布作業を完了させた。
【0108】
【表3】
【0109】
試験例2:燃料電池の発電試験4
実施例2で合成した炭素系固体酸(2)を用いて、上述の燃料電池の発電試験Bを行った。試験例2及び比較試験例2の電圧および電流密度の結果を表4に示す。発電試験4を行う際に使用した触媒インクの塗布状況については、スプレー塗布装置の触媒インクと吐出口にて目詰まりはなかった。
【0110】
【表4】
【0111】
炭素系固体酸の種類が異なる以外は、同じ条件にそろえて燃料電池の発電試験で実施した試験例2と比較試験例2とで発電特性を比較すると、試験例2の方が良い結果であった。
【0112】
試験例3:燃料電池の発電試験5
実施例3で合成した炭素系固体酸(3)を用いて、上述の燃料電池の発電試験Bを行った。電圧および電流密度の結果を表5に示す。発電試験5を行う際に使用した触媒インクの塗布状況については、スプレー塗布装置の触媒インクと吐出口にて目詰まりはなかった。
【0113】
【表5】
【0114】
比較試験例3:燃料電池の発電試験6
【0115】
一般的に行われている発電試験の例として、触媒層における電解質に、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)のみを用いて行った試験であり、上述の燃料電池の発電試験Cを行った。比較試験例3、試験例2及び試験例3の電圧および電流密度の結果を表6に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
一般的に行われている発電試験の例である比較試験例3と本発明の試験例2及び試験例3とで発電特性を比較すると、電流密度が0.20~0.80(A/cm)では、本発明の試験例2及び試験例3が僅かに劣るものの、高電流の領域の1.00~1.40(A/cm)では、比較試験例3よりも良い結果であった。
【0118】
試験例4:燃料電池の発電試験7
実施例3で合成した炭素系固体酸(3)を用いて、上述の燃料電池の発電試験Dを行った。電圧および電流密度の結果を表7に示す。発電試験7を行う際に使用した触媒インクの塗布状況については、塊状となる部分は認められなかった。
【0119】
【表7】
【0120】
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の炭素系固体酸は、例えば、燃料電池用の電解質材料(例えば、触媒層に用いる電解質材料、固体電解質膜、触媒担体等)として有用であり、燃料電池の発電特性の向上や高耐久化が期待される。
更に本発明の炭素系固体酸は、触媒インクを塗布する際に、インクが凝集することなく、インク塗布装置のノズルの閉塞の頻度少ないため、燃料電池の量産時の効率化と品質の安定化が期待される。
【符号の説明】
【0122】
100 燃料電池
101 ガス拡散層
103 アノード触媒層
105 カソード触媒層
107 固体電解質膜
109 セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8