(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】位相差フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240618BHJP
B29C 55/02 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/02
(21)【出願番号】P 2021536860
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020026095
(87)【国際公開番号】W WO2021020023
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019141795
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 恭輔
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-274135(JP,A)
【文献】特開2016-080959(JP,A)
【文献】特開2010-079239(JP,A)
【文献】特開2011-227429(JP,A)
【文献】特開2019-028109(JP,A)
【文献】特開2007-041514(JP,A)
【文献】国際公開第2017/065222(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第0735079(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 55/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された光学等方性の樹脂フィルムを用意する第一工程と、
前記樹脂フィルムを、有機溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折Rth/dを変化させることにより、前記樹脂フィルムのNZ係数を1.0未満に調整する、第二工程と、を含
み、
前記第二工程では、前記有機溶媒との接触によって生じる前記樹脂フィルムの前記厚み方向の複屈折Rth/dの変化量が、1.0×10
-3
以上である、位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第二工程では、前記有機溶媒との接触によって生じる前記樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/dの変化量が、0.0×10
-3~2.0×10
-3である、請求項
1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第二工程の後で、前記樹脂フィルムを延伸する第三工程を含む、請求項1
又は2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第三工程では、前記樹脂フィルムを延伸することにより、前記樹脂フィルムのNZ係数を0.0より大きく1.0未満に調整する、請求項
3に記載の位相差フィルム
の製造方法。
【請求項5】
前記第三工程では、前記樹脂フィルムを延伸することにより、1.0×10
-3以上の面内方向の複屈折Re/d、及び、1.0×10
-3以上の厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|の少なくとも一方を有する樹脂フィルムを得る、請求項
3又は4に記載の位相差フィルム
の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、炭化水素溶媒である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記結晶性を有する重合体が、正の固有複屈折を有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記結晶性を有する重合体が、脂環式構造を含有する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂を用いたフィルムの製造技術が提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平02-64141号公報
【文献】特開2016-26909号公報
【文献】国際公開第2017/065222号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂を用いて製造されるフィルムの一つに、位相差フィルムがある。位相差フィルムは、面内方向及び厚み方向のうち少なくとも一方にレターデーションを有するので、一般に、面内方向及び厚み方向のうち少なくとも一方の方向に大きな複屈折を有することが求められる。
【0005】
面内方向の複屈折と厚み方向の複屈折とのバランスは、NZ係数によって表すことができる。例えば、NZ係数が1.0未満の位相差フィルムが得られれば、その位相差フィルムによって、表示装置の視野角、コントラスト、画質等の表示品質の改善が可能になる。
【0006】
NZ係数が1.0未満の位相差フィルムの製造方法は、従来、知られている。しかし、従来の製造方法では、NZ係数が1.0未満の位相差フィルムを簡単に製造することができなかった。例えば、従来の製造方法では、フィルムの延伸及び収縮を組み合わせて実施する必要があったり、厚みを精密に調整した複数の層を備えるフィルムを用いる必要があったりした。そのため、制御項目が多くなったり工程数が多かったりするので、製造方法が複雑になる傾向があった。
【0007】
また、位相差フィルムは、光学フィルムの一種であるので、通常、ヘイズが小さいことが求められる。しかし、NZ係数が1.0未満の位相差フィルムの中でも特にヘイズが小さいものは、従来の技術によっては製造すること自体が困難であった。そのため、製造方法が簡単か否かに依らず、NZ係数が1.0未満で且つヘイズが小さい位相差フィルムを実現する技術も求められていた。
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、NZ係数が1.0未満であり、且つ、ヘイズが小さい位相差フィルム;並びに、NZ係数が1.0未満の位相差フィルムを簡単に製造できる製造方法;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された光学等方性の樹脂フィルムを用意する第一工程と、この樹脂フィルムを有機溶媒に接触させて厚み方向の複屈折を変化させる第二工程と、を含む方法によれば、NZ係数が1.0未満の位相差フィルムを簡単に製造できることを見い出した。さらに、本発明者は、この製造方法によれば、NZ係数が1.0未満で且つヘイズが小さい位相差フィルムを実現できることを見い出した。これらの知見に基づき、本発明者は本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0010】
〔1〕 結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成され、
NZ係数が1.0未満であり、且つ、
ヘイズが1.0%未満である、位相差フィルム。
〔2〕 前記位相差フィルムのNZ係数が、0.0より大きく1.0未満である、〔1〕に記載の位相差フィルム。
〔3〕 前記位相差フィルムが、有機溶媒を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の位相差フィルム。
〔4〕 前記有機溶媒が、炭化水素溶媒である、〔3〕に記載の位相差フィルム。
〔5〕 前記結晶性を有する重合体が、脂環式構造を含有する、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
〔6〕 前記結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
〔7〕 結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された光学等方性の樹脂フィルムを用意する第一工程と、
前記樹脂フィルムを、有機溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折を変化させる第二工程と、を含む、位相差フィルムの製造方法。
〔8〕 前記第二工程の後で、前記樹脂フィルムを延伸する第三工程を含む、〔7〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔9〕 前記有機溶媒が、炭化水素溶媒である、〔7〕又は〔8〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔10〕 前記結晶性を有する重合体が、脂環式構造を含有する、〔7〕~〔9〕のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔11〕 前記結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、〔7〕~〔10〕のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、NZ係数が1.0未満であり、且つ、ヘイズが小さい位相差フィルム;並びに、NZ係数が1.0未満の位相差フィルムを簡単に製造できる製造方法;を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、フィルムの面内方向の複屈折は、別に断らない限り、(nx-ny)で表される値であり、よってRe/dで表される。さらに、フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。また、フィルムの厚み方向の複屈折は、別に断らない限り、[{(nx+ny)/2}-nz]で表される値であり、よってRth/dで表される。さらに、フィルムのNZ係数は、別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値である。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、フィルムの前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは、フィルムの厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0014】
以下の説明において、固有複屈折が正の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる材料を意味する。また、固有複屈折が負の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも小さくなる材料を意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
【0015】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長さの上限に特段の制限は無いが、通常、幅に対して10万倍以下である。
【0016】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0017】
以下の説明において、長尺のフィルムの長手方向は、通常は製造ラインにおけるフィルム搬送方向と平行である。また、MD方向(mashine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの搬送方向であり、通常は長尺のフィルムの長手方向と平行である。さらに、TD方向(transverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、前記MD方向に垂直な方向であり、通常は長尺のフィルムの幅方向と平行である。
【0018】
[1.第一実施形態に係る位相差フィルムの概要]
本発明の第一実施形態に係る位相差フィルムは、結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成され、NZ係数が1.0未満であり、且つ、ヘイズが小さい。このような位相差フィルムは、従来の技術では実現できなかったが、本発明により、初めて実現できたものである。この位相差フィルムは、例えば表示装置に設けることにより、その表示装置に表示される画像の鮮明性を高くしながら、視野角、コントラスト、画質等の表示品質を改善することができる。
【0019】
従来、表示装置に表示される画像の鮮明性を高くしながら表示品質を改善するという課題を解決するための技術的手段が求められていたが、その技術的手段を具体化することが困難であった。一局面において、第一実施形態に係る位相差フィルムは、前記の技術的手段の具体化を初めて達成したものと言える。
【0020】
[2.位相差フィルムに含まれる結晶性樹脂]
第一実施形態に係る位相差フィルムは、結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成されている。「結晶性を有する重合体」とは、融点Tmを有する重合体を表す。すなわち、「結晶性を有する重合体」とは、示差走査熱量計(DSC)で融点を観測することができる重合体を表す。以下の説明において、結晶性を有する重合体を、「結晶性重合体」ということがある。また、結晶性重合体を含む樹脂を「結晶性樹脂」ということがある。この結晶性樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂である。
【0021】
結晶性重合体は、正の固有複屈折を有することが好ましい。正の固有複屈折を有する結晶性重合体を用いることにより、NZ係数が1.0未満の位相差フィルムを容易に製造できる。
【0022】
結晶性重合体は、脂環式構造を含有することが好ましい。脂環式構造を含有する結晶性重合体を用いることにより、位相差フィルムの機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性を良好にできる。脂環式構造を含有する重合体とは、分子内に脂環式構造を有する重合体を表す。このような脂環式構造を含有する重合体は、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物でありうる。
【0023】
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる位相差フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0024】
脂環式構造を含有する結晶性重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造を有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、100重量%以下としうる。また、脂環式構造を含有する結晶性重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0025】
脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる位相差フィルムが得られ易いことから、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
【0026】
具体的には、脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましい。中でも、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0027】
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物における繰り返し単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、後述する実施例に記載の13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
【0028】
上記重合体(α)~重合体(δ)としては、国際公開第2018/062067号に開示されている製造方法により得られる重合体を用いうる。
【0029】
結晶性重合体の融点Tmは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Tmを有する結晶性重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0030】
通常、結晶性重合体は、ガラス転移温度Tgを有する。結晶性重合体の具体的なガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0031】
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmは、以下の方法によって測定できる。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷する。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定しうる。
【0032】
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0033】
結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
【0034】
重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0035】
位相差フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度は、特段の制限はないが、通常は、ある程度以上高い。具体的な結晶化度の範囲は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、特に好ましくは30%以上である。
結晶性重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0036】
結晶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0037】
結晶性樹脂における結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。結晶性重合体の割合が前記範囲の下限値以上である場合、位相差フィルムの複屈折の発現性及び耐熱性を高めることができる。結晶性重合体の割合の上限は、100重量%以下でありうる。
【0038】
結晶性樹脂は、結晶性重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、軟質重合体等の、結晶性重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
[3.位相差フィルムのNZ係数]
本発明の第一実施形態に係る位相差フィルムのNZ係数は、通常1.0未満である。このように1.0未満のNZ係数を有する位相差フィルムは、表示装置に設けた場合に、その表示装置の視野角、コントラスト、画質等の表示品質の改善が可能である。
【0040】
位相差フィルムのNZ係数の具体的な値は、位相差フィルムの用途に応じて任意でありえ、例えば、0.8未満、0.6未満、0.4未満などでありうる。位相差フィルムのNZ係数の下限は任意であり、例えば、-1000より大きい、-500より大きい、-100より大きい、-40より大きい、-20より大きい、などでありうる。中でも、従来の技術による製造が特に困難であったことから、位相差フィルムのNZ係数は、0.0より大きいことが好ましい。
【0041】
フィルムのNZ係数は、そのフィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthから計算により求めうる。
【0042】
[4.位相差フィルムのヘイズ]
本発明の第一実施形態に係る位相差フィルムのヘイズは、通常1.0%未満、好ましくは0.8%未満、より好ましくは0.5%未満であり、理想的には0.0%である。このようにヘイズが小さい位相差フィルムは、表示装置に設けた場合に、その表示装置に表示される画像の鮮明性を高くできる。
【0043】
フィルムのヘイズは、ヘイズメーター(例えば、日本電色工業社製「NDH5000」)を用いて測定しうる。
【0044】
[5.位相差フィルムに含まれる有機溶媒]
本発明の第一実施形態に係る位相差フィルムは、有機溶媒を含みうる。この有機溶媒は、通常、第二実施形態で説明する製造方法の第二工程においてフィルム中に取り込まれたものである。
【0045】
第二工程においてフィルム中に取り込まれた有機溶媒の全部または一部は、重合体の内部に入り込みうる。したがって、有機溶媒の沸点以上で乾燥を行ったとしても、容易には溶媒を完全に除去することは難しい。よって、位相差フィルムは、有機溶媒を含むことが通常である。
【0046】
前記の有機溶媒としては、結晶性重合体を溶解しないものを用いうる。好ましい有機溶媒としては、例えば、トルエン、リモネン、デカリン等の炭化水素溶媒;二硫化炭素;が挙げられる。有機溶媒の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0047】
位相差フィルムの重量100%に対する当該位相差フィルムに含まれる有機溶媒の比率(溶媒含有率)は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下である。
【0048】
位相差フィルムの溶媒含有率は、実施例において説明する測定方法により測定できる。
【0049】
[6.位相差フィルムのその他の特性]
位相差フィルムは、通常、面内方向及び厚み方向のうち少なくとも一方の方向に大きな複屈折を有する。具体的には、位相差フィルムは、通常、1.0×10-3以上の面内方向の複屈折Re/d、及び、1.0×10-3以上の厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|の少なくとも一方を有する。
【0050】
詳細には、位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dは、通常1.0×10-3以上、好ましくは3.0×10-3以上、特に好ましくは5.0×10-3以上である。上限に制限はなく、例えば、2.0×10-2以下、1.5×10-2以下、又は1.0×10-2以下でありうる。ただし、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|が1.0×10-3以上である場合には、位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dは前記範囲の外にあってよい。
【0051】
また、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|は、通常1.0×10-3以上、好ましくは3.0×10-3以上、特に好ましくは5.0×10-3以上である。上限に制限はなく、例えば、2.0×10-2以下、1.5×10-2以下、又は1.0×10-2以下でありうる。ただし、位相差フィルムの面内方向の複屈折Re/dが1.0×10-3以上である場合には、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|は前記範囲の外にあってよい。
【0052】
位相差フィルムの面内レターデーションReの値は、位相差フィルムの用途に応じて設定しうる。
位相差フィルムの具体的な面内レターデーションReは、例えば、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、特に好ましくは3nm以下でありうる。この場合、位相差フィルムは、ポジティブCプレート又はネガティブCプレートとして機能できる。
【0053】
また、位相差フィルムの具体的な面内レターデーションReは、例えば、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上、特に好ましくは120nm以上でありえ、また、好ましくは180nm以下、より好ましく170nm以下、特に好ましくは160nm以下でありうる。この場合、位相差フィルムは、1/4波長板として機能できる。
【0054】
さらに、位相差フィルムの具体的な面内レターデーションReは、例えば、好ましくは245nm以上、より好ましくは265nm以上、特に好ましくは270nm以上でありえ、また、好ましくは320nm以下、より好ましくは300nm以下、特に好ましくは295nm以下でありうる。この場合、位相差フィルムは、1/2波長板として機能できる。
【0055】
位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthの値は、位相差フィルムの用途に応じて設定しうる。位相差フィルムの具体的な厚み方向のレターデーションRthは、好ましくは200nm以上、より好ましくは250nm以上、特に好ましくは300nm以上でありうる。また、上限は、10000nm以下でありうる。
【0056】
フィルムのレターデーションは、位相差計(例えば、AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)を用いて測定しうる。
【0057】
位相差フィルムは、光学フィルムであるので、高い透明性を有することが好ましい。位相差フィルムの具体的な全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。位相差フィルムの全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0058】
位相差フィルムの厚みdは、位相差フィルムの用途に応じて適切に設定できる。位相差フィルムの具体的な厚みdは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは20μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下である。位相差フィルムの厚みdが前記範囲の下限値以上である場合、ハンドリング性を良好にしたり、強度を高くしたりできる。また、位相差フィルムの厚みdが上限値以下である場合、長尺の位相差フィルムの巻取りが容易である。
【0059】
位相差フィルムは、枚葉のフィルムであってもよく、長尺のフィルムであってもよい。
【0060】
上述した第一実施形態に係る位相差フィルムは、後述する第二実施形態で説明する製造方法によって製造できる。
【0061】
[7.第二実施形態に係る位相差フィルムの製造方法の概要]
本発明の第二実施形態に係る位相差フィルムの製造方法は、結晶性重合体を含む結晶性樹脂で形成された光学等方性の樹脂フィルムを用意する第一工程と;この樹脂フィルムを、有機溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折を変化させる第二工程と、を含む。この製造方法では、第二工程において樹脂フィルムのNZ係数を調整することができるので、1.0未満のNZ係数を有する位相差フィルムを簡単に製造することができる。
【0062】
この製造方法によって1.0未満のNZ係数を有する位相差フィルムが得られる仕組みを、本発明者は下記の通りであると推察する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の仕組みによって制限されるものではない。
【0063】
結晶性樹脂で形成された光学等方性の樹脂フィルムを、第二工程において有機溶媒と接触させると、その有機溶媒が樹脂フィルム中に浸入する。浸入した有機溶媒の作用により、フィルム中の結晶性重合体の分子にミクロブラウン運動が生じ、フィルムの分子鎖が配向する。本発明者の検討によれば、この分子鎖の配向の際には、結晶性重合体の溶媒誘起結晶化現象が進行することがありうると考えられる。
【0064】
ところで、樹脂フィルムの表面積は、主表面であるオモテ面及びウラ面が大きい。よって、有機溶媒の浸入速度は、前記のオモテ面又はウラ面を通った厚み方向への浸入速度が、大きい。そうすると、前記の結晶性重合体の分子の配向は、当該重合体の分子が厚み方向に配向するように進行しうる。
【0065】
このように結晶性重合体の分子が厚み方向に配向することにより、当該樹脂フィルムのNZ係数が調整される。よって、有機溶媒との接触後の樹脂フィルムを、1.0未満のNZ係数を有する位相差フィルムとして得ることができる。このように光学等方性の樹脂フィルムと有機溶媒とを単純に接触させるだけでNZ係数を調整できることは、位相差フィルムの製造を容易にするうえで、有用である。
【0066】
本発明の第二実施形態に係る位相差フィルムの製造方法は、上述した第一工程及び第二工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。例えば、位相差フィルムの製造方法は、第二工程の後で樹脂フィルムを延伸する第三工程を含んでいてもよく、第二工程の後で樹脂フィルムに熱処理を施す第四工程を含んでいてもよい。これらの任意の工程を行う場合、それら任意の工程によって特性を調整された樹脂フィルムとして、位相差フィルムを得ることができる。
【0067】
[8.第一工程:樹脂フィルムの用意]
第一工程では、結晶性重合体を含む結晶性樹脂で形成された光学等方性の樹脂フィルムを用意する。以下の説明では、第二工程における有機溶媒との接触前の樹脂フィルムを、適宜「原反フィルム」ということがある。
【0068】
第一工程で用意される光学等方性の原反フィルムの材料としての結晶性樹脂は、第一実施形態において説明した結晶性樹脂と同じでありうる。ただし、原反フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度は、小さいことが好ましい。具体的な結晶化度は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、特に好ましくは3%未満である。有機溶媒と接触する前の原反フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度が低いと、有機溶媒との接触によって多くの結晶性重合体の分子を厚み方向に配向させられるので、広い範囲でのNZ係数の調整が可能となる。
【0069】
原反フィルムは、光学等方性の樹脂フィルムである。すなわち、原反フィルムは、面内方向の複屈折Re/dが小さく、且つ、厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|が小さいフィルムである。具体的には、原反フィルムの面内方向の複屈折Re/dは、通常1.0×10-3未満、好ましくは0.5×10-3未満、より好ましくは0.3×10-3未満である。また、原反フィルムの厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|は、通常1.0×10-3未満、好ましくは0.5×10-3未満、より好ましくは0.3×10-3未満である。このように光学等方性を有することは、原反フィルムに含まれる結晶性重合体の分子の配向性が低く、実質的に無配向状態となっていることを表す。このような光学等方性の樹脂フィルムを原反フィルムとして用いた場合、当該原反フィルムの光学特性の精密な制御が不要であり、よって結晶性重合体の分子の配向性の精密な制御が不要であるので、位相差フィルムの製造方法をシンプルにできる。さらに、光学等方性の樹脂フィルムを原反フィルムとして用いた場合、通常は、ヘイズが小さい位相差フィルムを得ることができる。
【0070】
原反フィルムは、有機溶媒の含有量が小さいことが好ましく、有機溶媒を含まないことがより好ましい。原反フィルムの重量100%に対する当該原反フィルムに含まれる有機溶媒の比率(溶媒含有率)は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下であり、理想的には0.0%である。有機溶媒と接触する前の原反フィルムに含まれる有機溶媒の量が少ないことにより、有機溶媒との接触によって多くの結晶性重合体の分子を厚み方向に配向させられるので、広い範囲でのNZ係数の調整が可能となる。
【0071】
原反フィルムの溶媒含有率は、密度によって測定しうる。
【0072】
原反フィルムのヘイズは、好ましくは1.0%未満、好ましくは0.8%未満、より好ましくは0.5%未満であり、理想的には0.0%である。原反フィルムのヘイズが小さいほど、得られる位相差フィルムのヘイズを小さくし易い。
【0073】
原反フィルムの厚みは、製造しようとする位相差フィルムの厚みに応じて設定することが好ましい。通常、第二工程で有機溶媒と接触させることにより、厚みは大きくなる。他方、第三工程において延伸を行う場合、その延伸によって厚みは小さくなる。したがって、前記のような第二工程以降の工程における厚みの変化を考慮して、原反フィルムの厚みを設定してもよい。
【0074】
原反フィルムは、枚葉のフィルムであってもよいが、長尺のフィルムであることが好ましい。長尺の原反フィルムを用いることにより、ロール・トゥ・ロール法による位相差フィルムの連続的な製造が可能であるので、位相差フィルムの生産性を効果的に高めることができる。
【0075】
原反フィルムの製造方法としては、有機溶媒を含まない原反フィルムが得られることから、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法が好ましい。これらの中でも、厚みの制御が容易であることから、押出成形法が好ましい。
【0076】
押出成形法における製造条件は、好ましくは下記の通りである。シリンダー温度(溶融樹脂温度)は、好ましくはTm以上、より好ましくは「Tm+20℃」以上であり、好ましくは「Tm+100℃」以下、より好ましくは「Tm+50℃」以下である。また、フィルム状に押し出された溶融樹脂が最初に接触する冷却体は特に限定されないが、通常はキャストロールを用いる。このキャストロール温度は、好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+70℃」以下、より好ましくは「Tg+40℃」以下である。さらに、冷却ロール温度は、好ましくは「Tg-70℃」以上、より好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+60℃」以下、より好ましくは「Tg+30℃」以下である。このような条件で原反フィルムを製造する場合、厚み1μm~1mmの原反フィルムを容易に製造できる。ここで、「Tm」は、結晶性重合体の融点を表し、「Tg」は結晶性重合体のガラス転移温度を表す。
【0077】
[9.第二工程:樹脂フィルムと有機溶媒との接触]
第二工程では、第一工程で用意した原反フィルムとしての樹脂フィルムを、有機溶媒に接触させる。有機溶媒としては、樹脂フィルムに含まれる結晶性重合体を溶解させずに当該樹脂フィルム中に浸入できる溶媒を用いることができ、例えば、トルエン、リモネン、デカリン等の炭化水素溶媒;二硫化炭素;が挙げられる。有機溶媒の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0078】
樹脂フィルムと有機溶媒との接触方法は、任意である。接触方法としては、例えば、樹脂フィルムに有機溶媒をスプレーするスプレー法;樹脂フィルムに有機溶媒を塗布する塗布法;有機溶媒中に樹脂フィルムを浸漬する浸漬法;などが挙げられる。中でも、連続的な接触を容易に行えることから、浸漬法が好ましい。
【0079】
樹脂フィルムに接触させる有機溶媒の温度は、有機溶媒が液体状態を維持できる範囲で任意であり、よって、有機溶媒の融点以上沸点以下の範囲に設定しうる。
【0080】
樹脂フィルムと有機溶媒とを接触させる時間は、特に指定はないが、好ましくは0.5秒以上、より好ましくは1.0秒以上、特に好ましくは5.0秒以上であり、好ましくは120秒以下、より好ましくは80秒以下、特に好ましくは60秒以下である。接触時間が前記範囲の下限値以上である場合、有機溶媒との接触によるNZ係数の調整を効果的に行うことができる。他方、浸漬時間を長くしてもNZ係数の調整量は大きく変わらない傾向がある。よって、接触時間が前記範囲の上限値以下である場合、位相差フィルムの品質を損なわずに生産性を高めることができる。
【0081】
第二工程で有機溶媒と接触させられることにより、樹脂フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dは、変化する。これにより、NZ係数の調整が行われて、1.0未満のNZ係数が得られる。有機溶媒との接触によって生じる樹脂フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dの変化量は、好ましくは1.0×10-3以上、より好ましくは2.0×10-3以上、特に好ましくは5.0×10-3以上であり、好ましくは50.0×10-3以下、より好ましくは30.0×10-3以下、特に好ましくは20.0×10-3以下である。前記の厚み方向の複屈折Rth/dの変化量とは、厚み方向の複屈折Rth/dの変化の絶対値を表す。
【0082】
樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/dは、有機溶媒との接触によって変化してもよく、変化しなくてもよい。位相差フィルムの面内レターデーションReの制御を簡単にする観点では、有機溶媒との接触によって樹脂フィルムに生じる面内方向の複屈折Re/dの変化は小さいことが好ましく、変化を生じないことがより好ましい。有機溶媒との接触によって生じる樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/dの変化量は、好ましくは0.0×10-3~2.0×10-3、より好ましくは0.0×10-3~1.0×10-3、特に好ましくは0.0×10-3~0.5×10-3である。前記の面内方向の複屈折Re/dの変化量とは、面内方向の複屈折Re/dの変化の絶対値を表す。
【0083】
樹脂フィルムに接触した有機溶媒が樹脂フィルム中に浸入することにより、第二工程においては、通常、樹脂フィルムの厚みが大きくなる。この際の樹脂フィルムの厚みの変化率の下限は、例えば、10%以上、20%以上、又は30%以上でありうる。また、厚みの変化率の上限は、例えば、80%以下、50%以下、又は40%以下でありうる。前記の樹脂フィルムの厚みの変化率とは、樹脂フィルムの厚みの変化量を、原反フィルム(即ち、有機溶媒と接触する前の樹脂フィルム)の厚みで割って得られる比率である。
【0084】
前記のように、第二工程によって樹脂フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dが変化する。よって、第二工程による厚み方向の複屈折Rth/dの変化によって、所望の光学特性を有する樹脂フィルムが得られる場合、その樹脂フィルムを位相差フィルムとして得ることができる。
また、第二実施形態に係る製造方法では、第二工程を施された後の樹脂フィルムに、更に任意の工程を施してもよい。
【0085】
[10.第三工程:樹脂フィルムの延伸]
本発明の第二実施形態に係る位相差フィルムの製造方法では、第二工程の後で、樹脂フィルムを延伸する第三工程を含んでいてもよい。延伸により、樹脂フィルムに含まれる結晶性重合体の分子を延伸方向に応じた方向に配向させることができる。よって、第三工程によれば、樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/d、面内レターデーションRe、厚み方向の複屈折Rth/d、厚み方向のレターデーションRth、NZ係数等の光学特性;並びに、厚みdを調整することができる。
【0086】
延伸方向に制限はなく、例えば、長手方向、幅方向、斜め方向などが挙げられる。ここで、斜め方向とは、厚み方向に対して垂直な方向であって、幅方向に平行でもなく垂直でもない方向を表す。また、延伸方向は、一方向でもよく、二以上の方向でもよい。よって、延伸方法としては、例えば、樹脂フィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、樹脂フィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;樹脂フィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、樹脂フィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法等の、二軸延伸法;樹脂フィルムを斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法);などが挙げられる。
【0087】
延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは20.0倍以下、より好ましくは10.0倍以下、更に好ましくは5.0倍以下、特に好ましくは2.0倍以下である。具体的な延伸倍率は、製造したい位相差フィルムの光学特性、厚み、強度などの要素に応じて適切に設定することが望ましい。延伸倍率が前記範囲の下限値以上である場合、延伸によって複屈折を大きく変化させることができる。また、延伸倍率が前記範囲の上限値以下である場合、遅相軸の方向を容易に制御したり、樹脂フィルムの破断を効果的に抑制したりできる。
【0088】
延伸温度は、好ましくは「Tg+5℃」以上、より好ましくは「Tg+10℃」以上であり、好ましくは「Tg+100℃」以下、より好ましくは「Tg+90℃」以下である。ここで、「Tg」は結晶性重合体のガラス転移温度を表す。延伸温度が前記範囲の下限値以上である場合、樹脂フィルムを十分に軟化させて延伸を均一に行うことができる。また、延伸温度が前記範囲の上限値以下である場合、結晶性重合体の結晶化の進行による樹脂フィルムの硬化を抑制できるので、延伸を円滑に行うことができ、また、延伸によって大きな複屈折を発現させることができる。さらに、通常は、得られる樹脂フィルムのヘイズを小さくして透明性を高めることができる。
【0089】
前記の延伸処理を施すことにより、延伸された樹脂フィルムとしての延伸フィルムを得ることができる。前記のように、第三工程での延伸によって複屈折が変化しうるので、NZ係数の調整を行うことができる。よって、第三工程による延伸によって所望の光学特性を有する延伸フィルムとしての樹脂フィルムが得られる場合、その樹脂フィルムを位相差フィルムとして得ることができる。
【0090】
[11.第四工程:樹脂フィルムの熱処理]
本発明の第二実施形態に係る位相差フィルムの製造方法では、第二工程の後で、樹脂フィルムに熱処理を施す第四工程を含んでもよい。位相差フィルムの製造方法が第三工程を含む場合、第四工程は、通常、第三工程の後に行われる。熱処理により、樹脂フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化を進行させて、結晶性重合体の配向性を高めることができる。また、熱処理により、樹脂フィルムに含まれる有機溶媒の量を減らすことができる。よって、第四工程によれば、樹脂フィルムの光学特性を調整することができる。
【0091】
熱処理温度は、通常、結晶性重合体のガラス転移温度Tg以上、結晶性重合体の融点Tm以下である。より詳細には、熱処理温度は、好ましくはTg℃以上、より好ましくはTg+10℃以上であり、好ましくはTm-20℃以下、より好ましくはTm-40℃以下である。前記の温度範囲では、結晶化の進行による白濁を抑制しながら、速やかに結晶性重合体の結晶化を進行させることができる。
【0092】
熱処理の処理時間は、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上であり、好ましくは30分以下、より好ましくは15分以下である。
【0093】
前記のように、第四工程での熱処理によって複屈折が変化しうるので、NZ係数の調整を行うことができる。よって、第四工程による熱処理によって所望の光学特性を有する樹脂フィルムが得られる場合、その樹脂フィルムを位相差フィルムとして得ることができる。
【0094】
[12.その他の工程]
位相差フィルムの製造方法は、上述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。
位相差フィルムの製造方法は、例えば、第二工程の後で、樹脂フィルムに付着した有機溶媒を除去する工程を含んでいてもよい。有機溶媒の除去方法としては、例えば、乾燥、ふき取り等が挙げられる。
【0095】
位相差フィルムの製造方法は、例えば、第三工程の前に、樹脂フィルムを延伸温度に加熱するための予熱処理を行う工程を含んでいてもよい。通常、予熱温度と延伸温度は同じであるが、異なっていてもよい。予熱温度は、延伸温度T1に対し、好ましくはT1-10℃以上、より好ましくはT1-5℃以上であり、好ましくはT1+5℃以下、より好ましくはT1+2℃以下である。予熱時間は任意であり、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上でありえ、また、好ましくは60秒以下、より好ましくは30秒以下でありえる。
【0096】
位相差フィルムの製造方法が、第三工程又は第四工程を含む場合、それらの工程後の樹脂フィルムには残留応力が含まれうる。そこで、位相差フィルムの製造方法は、例えば、樹脂フィルムを熱収縮させて残留応力を除去する緩和処理を行う工程を含んでいてもよい。緩和処理では、通常、樹脂フィルムを平坦に維持しながら、適切な温度範囲で樹脂フィルムに熱収縮を生じさせることで、残留応力を除去できる。
【0097】
上述した製造方法によれば、長尺の原反フィルムを用いて、長尺の位相差フィルムを製造することができる。位相差フィルムの製造方法は、このように製造された長尺の位相差フィルムをロール状に巻き取る工程を含んでいてもよい。さらに、位相差フィルムの製造方法は、長尺の位相差フィルムを所望の形状に切り出す工程を含んでいてもよい。
【0098】
[13.製造される位相差フィルム]
上述した本発明の第二実施形態の製造方法によれば、原反フィルムを有機溶媒に接触させるという簡単な工程によって複屈折の調整が可能であるので、所望のNZ係数を有する位相差フィルムを簡単に製造できる。よって、この製造方法によれば、NZ係数が1.0未満の位相差フィルムを容易に得ることができる。
【0099】
第二実施形態に係る製造方法で製造される位相差フィルムのNZ係数は、詳細には、第一実施形態に係る位相差フィルムのNZ係数と同じでありうる。さらに、第二実施形態に係る製造方法で製造される位相差フィルムは、NZ係数以外の特性についても、第一実施形態に係る位相差フィルムと同じでありうる。よって、第二実施形態に係る製造方法で製造される位相差フィルムは、当該位相差フィルムが含む結晶性樹脂;当該位相差フィルムのヘイズ;当該位相差フィルムが含む有機溶媒の量;当該位相差フィルムのレターデーションRe及びRth;当該位相差フィルムの複屈折Re/d及びRth/d;当該位相差フィルムの全光線透過率;当該位相差フィルムの厚み;などの特性が、第一実施形態に係る位相差フィルムと同じでありうる。
【0100】
[14.用途]
上述した第一実施形態に係る位相差フィルム、及び、第二実施形態に係る製造方法で製造された位相差フィルムは、例えば、表示装置に設けうる。この場合、位相差フィルムは、表示装置に表示される画像の視野角、コントラスト、画質等の表示品質を改善することができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0102】
[評価方法]
(重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法)
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0103】
(重合体の水素化率の測定方法)
重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、145℃で、1H-NMR測定により測定した。
【0104】
(ガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定方法)
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定は、以下のようにして行った。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷した。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定した。
【0105】
(重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法)
重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定は以下のようにして行った。オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン-d4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0106】
(フィルムのレターデーションRe及びRth並びにNZ係数の測定方法)
フィルムの面内レターデーションRe、厚み方向のレターデーションRth、及びNZ係数は、位相差計(AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)により測定した。測定波長は590nmであった。
【0107】
(フィルムの厚みの測定方法)
フィルムの厚みは、接触式厚さ計(MITUTOYO社製 Code No. 543-390)を用いて測定した。
【0108】
(フィルムのヘイズの測定方法)
フィルムのヘイズは、ヘイズメーター(日本電色工業社製「NDH5000」)を用いて測定した。
【0109】
(位相差フィルムの溶媒含有率の測定方法)
サンプルとしての位相差フィルムを製造するために用いた原反フィルム(溶媒浸漬前の樹脂フィルム)について、熱重量分析(TGA:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、30℃~300℃)によって、その重量を測定した。30℃における原反フィルムの重量WO(30℃)から300℃における原反フィルムの重量WO(300℃)を引き算して、300℃における原反フィルムの重量減少量ΔWOを求めた。後述する実施例及び比較例で用いた原反フィルムは、溶融押出法によって製造されたものであるので、溶媒を含まない。よって、この原反フィルムの重量減少量ΔWOを、後述する式(X)ではリファレンスとして採用した。
【0110】
また、サンプルとしての位相差フィルムについて、前記と同じく熱重量分析(TGA:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、30℃~300℃)によって、その重量を測定した。30℃における位相差フィルムの重量WR(30℃)から300℃における位相差フィルムの重量WR(300℃)を引き算して、300℃における位相差フィルムの重量減少量ΔWRを求めた。
【0111】
前記の300℃における原反フィルムの重量減少量ΔWO、及び、300℃における位相差フィルムの重量減少量ΔWRから、以下の式(X)により、位相差フィルムの溶媒含有率を算出した。
溶媒含有率(%)={(ΔWR-ΔWO)/WR(30℃)}×100 (X)
【0112】
〔製造例1.ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む結晶性樹脂の製造〕
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0113】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解し、溶液を調製した。この溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0114】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0115】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0116】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点(Tm)は262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0117】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合後、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出し機(製品名「TEM-37B」、東芝機械社製)に投入した。ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物及び酸化防止剤の混合物を、熱溶融押出し成形によりストランド状の成形した後、ストランドカッターにて細断して、ペレット形状の結晶性樹脂を得た。前記の二軸押出し機の運転条件は、以下の通りであった。
・バレル設定温度=270~280℃
・ダイ設定温度=250℃
・スクリュー回転数=145rpm
【0118】
[実施例1]
(1-1.第一工程:原反フィルムの製造)
製造例1で製造した結晶性樹脂を、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機(Optical Control Systems社製「Measuring Extruder Type Me-20/2800V3」)を用いて成形し、1.5m/分の速度でロールに巻き取って、およそ幅120mmの長尺の原反フィルムとしての樹脂フィルム(厚み50μm)を得た。前記のフィルム成形機の運転条件は、以下の通りであった。
・バレル設定温度=280℃~300℃
・ダイ温度=270℃
・スクリュー回転数=30rpm
・キャストロール温度=80℃
【0119】
(1-2.第二工程:原反フィルムと処理溶媒との接触)
樹脂フィルムを、100mm×100mmにカットした。位相差計を用いてレターデーションを測定したところ、面内レターデーションRe=5nm、厚み方向のレターデーションRth=6nmであった。この樹脂フィルムは、前記のように高温(280℃~300℃)での熱溶融押出によって製造されているので、樹脂フィルムは溶媒を含まないと考えられることから、その溶媒含有量は0.0%とした。
【0120】
バットを処理溶媒としてのトルエンで満たし、このトルエンに樹脂フィルムを5秒間浸漬させた。その後、トルエンから樹脂フィルムを取り出し、ガーゼで表面をふき取った。得られた樹脂フィルムを、位相差フィルムとして上述した方法で評価した。その結果、面内レターデーションRe=9nm、厚み方向のレターデーションRth=-575nm、厚みは64μm、ヘイズHzは0.4%であった。
【0121】
[実施例2]
前記工程(1-1)において、フィルムをロールに巻き取る速度(ライン速度)を調整することにより、原反フィルムとしての樹脂フィルムの厚みを20μmに変更した。
また、前記工程(1-2)において、樹脂フィルムを処理溶媒(ここでは、トルエン)に浸漬する時間を1秒に変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0122】
[実施例3]
前記工程(1-1)において、フィルムをロールに巻き取る速度(ライン速度)を調整することにより、原反フィルムとしての樹脂フィルムの厚みを100μmに変更した。
また、前記工程(1-2)において、樹脂フィルムを処理溶媒(ここでは、トルエン)に浸漬する時間を60秒に変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0123】
[実施例4]
延伸装置(エトー株式会社製「SDR-562Z」)を用意した。この延伸装置は、矩形の樹脂フィルムの端部を把持可能なクリップと、オーブンとを備えていた。クリップは、樹脂フィルムの1辺当たり5個、及び、樹脂フィルムの各頂点に1個の合計24個設けられていて、これらのクリップを移動させることで樹脂フィルムの延伸が可能であった。また、オーブンは2つ設けられており、延伸温度及び熱処理温度にそれぞれ設定することが可能であった。さらに、前記の延伸装置では、一方のオーブンから他方のオーブンへの樹脂フィルムの移行は、クリップで把持したまま行うことができた。
【0124】
実施例1と同じ方法により、原反フィルムとしての樹脂フィルムの製造、及び、その樹脂フィルムのトルエンへの接触を行った。
トルエンへの接触後の樹脂フィルムを、前記の延伸装置に取り付け、樹脂フィルムを予熱温度110℃で10秒間処理した。その後、樹脂フィルムを、延伸温度110℃で、縦延伸倍率1倍、横延伸倍率1.5倍、延伸速度1.5倍/10秒で延伸した。前記の「縦延伸倍率」は、長尺の原反フィルムの長手方向に一致する方向への延伸倍率を表し、「横延伸倍率」は、長尺の原反フィルムの幅方向に一致する方向への延伸倍率を表す。これにより、延伸処理を施された樹脂フィルムとしての延伸フィルムを得た。この延伸フィルムを、位相差フィルムとして上述した方法で評価した。その結果、面内レターデーションRe=347nm、厚み方向のレターデーションRth=-12nm、厚みは47μm、ヘイズHzは0.4%であった。
【0125】
[実施例5]
フィルムをロールに巻き取る速度(ライン速度)を調整することにより、原反フィルムとしての樹脂フィルムの厚みを35μmに変更した。以上の事項以外は、実施例4と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0126】
この実施例5では、トルエンへの接触後に得られる樹脂フィルム(延伸前の樹脂フィルム)の厚みは47μm、厚み方向のレターデーションRthは-420nmであった。
【0127】
[実施例6]
延伸装置を用いた樹脂フィルムの延伸の際、横延伸倍率を1.3倍に変更した。以上の事項以外は、実施例4と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0128】
[実施例7]
実施例4と同じ方法により、原反フィルムとしての樹脂フィルムの製造、その樹脂フィルムのトルエンへの接触、及び、その樹脂フィルムの延伸を行った。
【0129】
延伸処理を施された樹脂フィルムとしての延伸フィルムを、クリップで把持したまま熱処理用のオーブンに移動させ、処理温度170℃で20秒、熱処理を行った。この熱処理後の延伸フィルムを、位相差フィルムとして上述した方法で評価した。その結果、面内レターデーションRe=378nm、厚み方向のレターデーションRth=-10nm、厚みは44μm、ヘイズHzは0.4%であった。
【0130】
[実施例8]
熱処理における処理時間を10分に変更した。以上の事項以外は、実施例7と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0131】
[実施例9]
フィルムをロールに巻き取る速度(ライン速度)を調整することにより、原反フィルムとしての樹脂フィルムの厚みを30μmに変更した。また、延伸装置を用いた樹脂フィルムの延伸の際、横延伸倍率を1.7倍に変更した。以上の事項以外は、実施例4と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0132】
この実施例9では、トルエンへの接触後に得られる樹脂フィルム(延伸前の樹脂フィルム)の厚みは41μm、厚み方向のレターデーションRthは-370nmであった。
【0133】
[実施例10]
フィルムをロールに巻き取る速度(ライン速度)を調整することにより、原反フィルムとしての樹脂フィルムの厚みを33μmに変更した。また、延伸装置を用いた樹脂フィルムの延伸の際、横延伸倍率を1.4倍に変更した。以上の事項以外は、実施例4と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0134】
この実施例10では、トルエンへの接触後に得られる樹脂フィルム(延伸前の樹脂フィルム)の厚みは44μm、厚み方向のレターデーションRthは-390nmであった。
【0135】
[実施例11]
処理溶媒の種類を、トルエンからリモネンに変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0136】
[実施例12]
処理溶媒の種類を、トルエンからデカリンに変更した。また、樹脂フィルムを処理溶媒(ここでは、デカリン)に浸漬する時間を、60秒に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0137】
[比較例1]
実施例1の工程(1-1)と同じ方法により、長尺の樹脂フィルムを製造した。得られた樹脂フィルムを、100mm×100mmにカットした。カットした樹脂フィルムを、前記延伸装置に取り付け、予熱温度110℃で10秒間処理した。その後、樹脂フィルムを、延伸温度110℃で、縦延伸倍率1倍、横延伸倍率1.5倍、延伸速度1.5倍/10秒で延伸した。延伸後の樹脂フィルムの面内レターデーションRe=62nm、厚み方向のレターデーションRth=77nm、厚みは33μm、ヘイズHzは0.1%であった。
【0138】
延伸後の樹脂フィルムを原反フィルムとして、処理溶媒としてのトルエンに接触させた。すなわち、バットをトルエンで満たし、このトルエンに前記の延伸された樹脂フィルムを5秒間浸漬させた。その後、トルエンから樹脂フィルムを取り出し、ガーゼで表面をふき取った。得られた樹脂フィルムを、位相差フィルムとして上述した方法で評価した。
【0139】
[比較例2]
実施例1の工程(1-1)と同じ方法により、長尺の樹脂フィルムを製造した。得られた樹脂フィルムを、100mm×100mmにカットした。カットした樹脂フィルムを、前記延伸装置に取り付け、予熱温度110℃で10秒間処理した。その後、樹脂フィルムを、延伸温度110℃で、縦延伸倍率1倍、横延伸倍率2倍、延伸速度1.5倍/10秒で延伸した。延伸後の樹脂フィルムの面内レターデーションRe=91nm、厚み方向のレターデーションRth=85nm、厚みは25μm、ヘイズHzは0.1%であった。
【0140】
延伸後の樹脂フィルムを原反フィルムとして、処理溶媒としてのトルエンに接触させた。すなわち、バットをトルエンで満たし、このトルエンに前記の延伸された樹脂フィルムを5秒間浸漬させた。その後、トルエンから樹脂フィルムを取り出し、ガーゼで表面をふき取った。得られた樹脂フィルムを、位相差フィルムとして上述した方法で評価した。
【0141】
[比較例3]
実施例1の工程(1-1)と同じ方法により、長尺の樹脂フィルムを製造した。得られた樹脂フィルムを、100mm×100mmにカットした。カットした樹脂フィルムの両面に、収縮フィルムを貼合して、複層フィルムを得た。前記の収縮フィルムは、145℃において、縦に20%、横に25%収縮する性質を有するフィルムであった。
【0142】
複層フィルムを、前記延伸装置に取り付け、予熱温度145℃で5秒処理した。その後、複層フィルムを、延伸温度145℃で、縦延伸倍率0.8倍、横延伸倍率1.2倍で延伸した。延伸後の複層フィルムから収縮フィルムを除去して、位相差フィルムとしての樹脂フィルムを得た。この樹脂フィルムを、上述した方法で評価した。
【0143】
[結果]
上述した実施例及び比較例の結果を、下記の表に示す。下記の表において、略称の意味は、以下の通りである。
COP:ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物。
d:厚み。
Re:面内レターデーション。
Rth:厚み方向のレターデーション。
Hz:ヘイズ。
【0144】
【0145】
【0146】
[検討]
比較例3に示すように、フィルムの延伸及び収縮を組み合わせた製造方法によれば、NZ係数が1.0未満のフィルムを製造することは、可能であった。しかし、このように延伸及び収縮の組み合わせは、その制御が複雑であった。さらに、比較例3で得られるフィルムは複屈折が小さく、位相差フィルムとして用いることはできない。よって、1.0未満のNZ係数を有する位相差フィルムを簡単に製造することはできていない。
【0147】
また、比較例2に示すように、光学異方性の原反フィルムを有機溶媒に接触させた場合にも、1.0未満のNZ係数を有する位相差フィルムを簡単に製造することはできなかった。さらに、比較例2で得られた位相差フィルムは、ヘイズが大きく、表示装置に設けた場合に画像の鮮明性が劣ると考えられる。
【0148】
比較例1に示すように、光学特性を適切に調整されることによって結晶性重合体の分子の配向性を適切に制御された原反フィルムを用いる場合には、当該原反フィルムが光学異方性を有していても、NZ係数が1.0未満の位相差フィルムを製造できることがある。しかし、比較例1と同じく光学異方性の原反フィルムを用いた比較例2で1.0未満のNZ係数が得られていないことから分かるように、光学異方性の原反フィルムを用いる場合は、1.0未満のNZ係数を達成するために、その原反フィルムの光学特性を精密に制御することが求められ、よって原反フィルムに含まれる結晶性重合体の分子の配向性を精密に制御することが求められる。したがって、光学異方性の原反フィルムを用いる場合、制御が複雑化し、位相差フィルムの簡単な製造が実現できない。また、比較例1の位相差フィルムは、比較例2の位相差フィルムと同じく、ヘイズの大きかった。
【0149】
これに対し、実施例では、光学等方性の原反フィルムを有機溶媒に接触させるというシンプルな方法により、1.0未満のNZ係数を有する位相差フィルムを得ている。また、得られた位相差フィルムは、いずれも、ヘイズが充分に小さい。よって、これらの実施例の結果から、本発明の製造方法によってNZ係数が1.0未満の位相差フィルムを簡単に製造できること、及び、製造される位相差フィルムのヘイズを小さくできることを確認できた。