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特許7505505液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子及び液晶表示素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子及び液晶表示素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20240618BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240618BHJP
   C08L 35/00 20060101ALI20240618BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
G02F1/1337 525
C08K5/053
C08L35/00
C08L79/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021562667
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044730
(87)【国際公開番号】W WO2021112095
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2019221605
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】山極 大輝
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-68722(JP,A)
【文献】特開昭57-169729(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082975(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/082913(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08K 5/053
C08L 35/00
C08L 79/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分及び(B)成分を含有することを特徴とする液晶配向剤。
(A)成分:下記の式(m)で表される構造単位を有する重合体(A)。
【化1】
(R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。)
(B)成分:下記式(b-1)及び下記式(b-2)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の部分構造を2つ以上有する化合物、エポキシ基を2つ以上有する化合物、オキセタン環を2つ以上有する化合物及びオキサゾリン環を2つ以上有する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)。
【化2】
(R及びR2’は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は基「*3-CH-O-R11」(R11は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。*3は、R及びR2’が結合する炭素原子との結合手であることを表す。)を表す。R及びR3’は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。Yは、(n2a+n2b+1)価の芳香環を表す。Rは、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、n2bが0の場合、Rの少なくとも一つは水素原子を表す。n1は0又は1を表す。n2aは1~6の整数を表し、n2bは0~6の整数を表す。*1及び*2は、結合手を表す。*は、結合手を表す。)
【請求項2】
化合物(B)が、前記式(b-1)で表される部分構造を少なくとも2つ以上有する化合物であって、下記式(1b-1)~(1b-3)のいずれかで表される化合物である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化3】
(Aは、n価の有機基を表す(nは2~6の整数を表す。)。Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は-(CR2’n1-CR3’-OH(n1、R、R2’、R、R3’は式(b-1)の定義と同義である。)を表す。R2、3、2’及びR3’は、式(b-1)の定義と同義である。R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は-(CR2’n1-CR3’-OH(n1、R、R2’、R、R3’は式(b-1)の定義と同義である。)を表し、複数のR及びRの少なくとも2つは、-(CR2’n1-CR3’-OHを表す。)
【請求項3】
前記式(1b-1)で表される化合物が、下記式(b1)~(b5)のいずれかで表される化合物である、請求項2に記載の液晶配向剤。
【化4】
(Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は-CH-CR3’-OH(R、R3’は式(b-1)の定義と同義である。)を表し、mは1~8の整数を表す。Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。L31、L33はそれぞれ独立して、単結合、-NR-(Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。)、-(CH-(mは1~6の整数である。)、又は*1-(CH-NR-(mは1~6の整数である。Rは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。*1はカルボニル炭素原子との結合手を表す。)を表し、L32は単結合、-NR-(Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。)、-(CH-(mは1~6の整数である。)、-CH=CH-、-CONH-又は-C(=O)-O-を表す。n3は0~1の整数である。L41、L42、L43、Lはそれぞれ独立して、単結合、又は-(CH-(mは1~6の整数である。)を表す。複数のR及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項4】
前記式(1b-1)~(1b-3)で表される化合物が、下記式(b1-1)~(b1-16)で表される化合物である、請求項2~3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化5】
【化6】
【請求項5】
化合物(B)が、前記式(b-2)で表される部分構造を少なくとも2つ以上有する化合物であって、下記式(2b)で表される化合物である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化7】
(R、n2a、及びn2bは、式(b-2)のR、n2a、n2bと同義であり、n2bの少なくとも一つが0の場合、Rの少なくとも一つは水素原子を表す。Yは、芳香環を表し、該芳香環の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルコキシ基又はビニル基で置換されていてもよい。Zは、単結合、炭素数1~10の飽和炭化水素基、-NR-(Rは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。)-、又は-P-Q-P-で表される基(P及びPは、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基を表し、Qは芳香環を表す。)を表す。前記飽和炭化水素基は、全部又は一部が結合して環状構造を形成してもよく、任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。mは2~6の整数を表す。)
【請求項6】
前記式(2b)で表される化合物が、下記式(b2-1)~(b2-6)で表される化合物である、請求項5に記載の液晶配向剤。
【化8】
【請求項7】
前記化合物(B)が分子量2000以下の化合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
前記重合体(A)がさらに下記式(v)で表される構造単位を有する請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化9】
(R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、-OC(=O)-R(Rは炭素数1~6のアルキル基を表す)、-C(=O)-OR(Rは炭素数1~6のアルキル基を表す。)、-OR(Rは炭素数1~6のアルキル基を表す)、又はフェニル基を表す。)
【請求項9】
(C)成分として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリオルガノシロキサン、ポリ(メタ)アクリレート及びポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である重合体(Q)をさらに含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項10】
前記ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、又はポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマーが、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを重合反応させることにより得られる、請求項9に記載の液晶配向剤。
【請求項11】
ジアミン成分が、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、カルボキシル基を有するジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、1,2-ビス(4-アミノフェニル)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ブタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,2-ビス(4-アミノ-2-メチルフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)へキサン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、光重合性基を末端に有するジアミン、ラジカル開始機能を有するジアミン、光照射により増感作用を示す光増感機能を有するジアミン、複素環を有するジアミン、ジフェニルアミン骨格を有するジアミン、基「-N(D)-」(Dは加熱によって脱離し水素原子に置き換わる保護基を表す。)を有するジアミン、オキサゾリン構造を有するジアミン、及び液晶の垂直配向性を発現させる構造を側鎖に有するジアミンから選ばれる少なくとも1種のジアミンを含む、請求項10に記載の液晶配向剤。
【請求項12】
テトラカルボン酸成分が、下記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはその誘導体を含む、請求項10又は11に記載の液晶配向剤。
【化10】
Xは下記(x-1)~(x-13)から選ばれる構造を示す。
【化11】
(R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、塩素原子又はフェニル基を表す。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。j及びkは、それぞれ独立して、0又は1を表し、A及びAは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-CO-、-COO-、フェニレン、スルホニル基又はアミド基を表す。*1は一方の酸無水物基に結合する結合手を表し、*2は他方の酸無水物基に結合する結合手を表す。2つのAは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成されてなる液晶配向膜。
【請求項14】
請求項13に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板上に塗布して塗膜を形成し、液晶分子の層を介して前記塗膜が相対するように対向配置して液晶セルを形成し、前記一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する、液晶表示素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子及び液晶表示素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、パソコン、携帯電話、スマートフォン、テレビ等に幅広く用いられている。近年、車両に搭載されるカーナビやメーター、屋外に設置される産業機器や計測機器の表示部等、高温・高湿下で液晶表示素子が使用される機会も多くなっている。
【0003】
この種の液晶表示素子は、一般に、素子基板とカラーフィルタ基板との間に挟持された液晶層、液晶層に電界を印加する画素電極及び共通電極、液晶層の液晶分子の配向性を制御する液晶配向膜、画素電極に供給される電気信号をスイッチングする薄膜トランジスタ(TFT)等を備えている。
【0004】
液晶表示素子では、液晶層を画素電極及び共通電極で挟持させたものが液晶セルとして機能する。液晶セルでは、その電圧保持率(VHR:Voltage Holding Ratio)が低いと、電圧を印加しても液晶分子に十分な電圧がかかり難くなる。そのため、高温・高湿下での使用や長期使用等により、表示コントラストが低下したり、表示にフリッカー(ちらつき)が生じたりして表示が見難くなる。
特に、VA方式の液晶表示素子はコントラストが高い、視野角が広いという特長から、テレビや車載ディスプレイに使用されている。これら液晶表示素子は高輝度を得るために発熱量が大きいバックライトが使用されており、カーナビゲーションシステムやメーターパネルなどの車載用途では、長時間高温環境下で使用あるいは放置される場合があるため、電圧保持率の低下がより顕著である。
【0005】
基板に対して垂直に配向している液晶分子を電界によって応答させるVA方式では、予め液晶組成物中に光重合性化合物を添加し、かつポリイミド系などの垂直配向膜を用い、液晶セルに電圧を印加しながら紫外線を照射することで、液晶の応答速度を速くする技術(PSA(Polymer Sustained Alignment)方式素子、例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本特開2003-307720号公報
【文献】日本特開昭58―68722号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】K.Hanaoka,SID 04 DIGEST、P1200-1202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タッチパネル方式の液晶ディスプレイでは、指や、ペンなどのポインティングデバイスによる押圧等の外部圧力に対して耐久性が高いこと、つまり外部圧力が付与された場合にも配向不良や輝点不良が生じにくいことが求められる。また、タブレット型端末やモバイル端末では、軽量化及び薄型化が進み、液晶ディスプレイ製造時のパネル組み立て工程において、パネルの歪みが生じたりパネル内部に応力がかかりやすくなっている。こうしたパネルの歪みや応力は、配向膜の基板からの剥がれの原因となり、輝点不良や配向不良が発生する原因にもなる。そのため、液晶配向膜には、基板剥がれが生じにくいことが要求される。
【0009】
一方、特許文献2では、無水マレイン酸骨格を含有する構造単位を有する重合体に関する記載があるが、後述する本発明の化合物(B)については記載されていない。また、特許文献2では、基板剥がれが生じにくい液晶配向膜を得る等の上記課題については検討がなされていない。
【0010】
本発明は、基板剥がれが生じにくい液晶配向膜を得ることができ、かつ外部圧力に対する耐久性が高い液晶表示素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを一つの目的とする。また、高温環境下で使用した場合においても、高い電圧保持率を有する液晶配向膜を得ることができる液晶配向剤を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、下記構成の液晶配向剤により上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づくものであり、下記を要旨とするものである。
下記の(A)成分及び(B)成分を含有することを特徴とする液晶配向剤。
(A)成分:下記の式(m)で表される構造単位を有する重合体(A)。
【化1】
(R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。)
(B)成分:下記式(b-1)及び下記式(b-2)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の部分構造を2つ以上有する化合物、エポキシ基を2つ以上有する化合物、オキセタン環を2つ以上有する化合物及びオキサゾリン環を2つ以上有する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)。
【化2】
(R及びR2’は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は基「*3-CH-O-R11」(R11は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。*3は、R及びR2’が結合する炭素原子との結合手であることを表す。)を表す。R及びR3’は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。Yは、(n2a+n2b+1)価の芳香環を表す。Rは、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、n2bが0の場合、Rの少なくとも一つは水素原子を表す。n1は0又は1を表す。n2aは1~6の整数を表し、n2bは0~6の整数を表す。*1及び*2は、結合手を表す。*は、結合手を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基板剥がれが生じにくい液晶配向膜を得ることができ、かつ外部圧力に対する耐久性が高い液晶表示素子を得ることができる液晶配向剤が提供される。また、高温環境下で使用した場合においても、高い電圧保持率を有する液晶配向膜を得ることができる液晶配向剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、下記の(A)成分(重合体(A))及び(B)成分(化合物(B))を含有するものである。本発明の液晶配向剤は、例えば、重合体(A)及び化合物(B)を有機溶媒中に分散又は溶解させることによって、調製することができる。
【0015】
<重合体(A)>
本発明の重合体(A)は、下記式(m)で表される構造単位(以下、構造単位(m)とも言う。)を有する。すなわち、重合体(A)は、無水マレイン酸系重合体である。
【化3】
(R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。)
前記式(m)において、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であることが好ましく、Rが水素原子かつRが水素原子又はメチル基であることが更に好ましく、RとRが水素原子であることが一層好ましい。
【0016】
本発明の重合体(A)は、式(m)で表される構造単位を1種単独で含んでもよいし、2種以上含んでもよい。式(m)で表される構造単位の合計含有量は、重合体(A)の全構造単位に対して、10~50モル%が好ましく、30~50モル%がより好ましい。
【0017】
本発明の重合体(A)は、前記構造単位(m)以外の構造単位をさらに含んでもよい。本発明の重合体(A)は、好ましくは、前記構造単位(m)と、下記式(v)で表される構造単位(以下、構造単位(v)とも言う。)とを含む無水マレイン酸系共重合体(以下、共重合体(Mp)とも言う。)である。本発明の重合体(A)は、式(v)で表される構造単位を1種単独で含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【化4】
(R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、-OC(=O)-R(Rは炭素数1~6のアルキル基を表す。)、-C(=O)-OR(Rは炭素数1~6のアルキル基を表す。)、-OR(Rは炭素数1~6のアルキル基を表す。)、又はフェニル基を表す。)
【0018】
上記構造単位(v)は、例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、n-ペンテン、n-ヘキセン、炭素数1~4のアルキルアクリレート類及びメタクリレート類、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル、並びに
【化5】
(Rは、水素又は炭素数1~6のアルキル基であり、ベンゼン環は、任意に、炭素数1~4のアルキル基又はヒドロキシ基で置換されていてもよい。)で表されるスチレン性化合物から選択されるモノマーを重合して得られる。
【0019】
炭素数1~4のアルキルアクリレート類の好ましい例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、およびそれらの混合物が挙げられる。炭素数1~4のアルキルメタクリレート類の好ましい例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、およびそれらの混合物が挙げられる。炭素数1~4のアルキルメタクリレート類と炭素数1~4のアルキルアクリレート類との混合物を使用してもよい。スチレン性化合物の好ましい例としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、およびそれらの混合物が挙げられる。
上記無水マレイン酸系共重合体を得るためのモノマー成分として、スチレン性化合物、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、n-ペンテン、n-ヘキセン、炭素数1~4のアルキルアクリレート類及び/又はメタクリレート類との混合物を使用してもよい。エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、n-ペンテン、n-ヘキセン、の中でも特に、イソブチレン、又はイソブチレン、1-ブテン及び2-ブテンとの混合物が好ましく使用される。
【0020】
本発明の重合体(A)は、式(m)、及び(v)で表される構造単位以外の構造単位をさらに有してもよい。式(m)、及び(v)で表される構造単位以外の構造単位としては、例えば、その他のエチレン性二重結合を有する化合物に由来する構造単位が挙げられる。
【0021】
上記その他のエチレン性二重結合を有する化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、4-ビニル安息香酸、マレイン酸等のカルボキシ基含有化合物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ基含有化合物;イソオクチルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、デシルメタクリレート、ステアリルアクリレート等の長鎖アルキル基含有化合物;シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの脂環式基含有化合物;2-フェノキシエチルアクリレート、エトキシ化ノニルフェニルアクリレート等のベンゼン環含有化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、4-(グリシジルオキシ)ブチル(メタ)アクリレートなどのオキシラニル基含有化合物、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製 カレンズMOI)、2-[(3,5-ジメチルピラゾイル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート(昭和電工社製 カレンズMOI-BP)等のイソシアネート基又は保護イソシアネート基を有する化合物;テトラヒドロフルフリルメタクリレートなどのテトラヒドロピラニル基を有する化合物;マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-フェニルマレイミド化合物等のマレイミド化合物等が挙げられる。
【0022】
前記共重合体(Mp)の分子量は、重量平均分子量が3,000~500,000であることが好ましく、8,000~150,000であることがより好ましい。
【0023】
本発明において、重合体(A)を得る方法は特に限定されないが、例えば、構造単位(m)で表される構造単位を形成する化合物(モノマー)、並びに場合によっては(v)で表される構造単位を形成する化合物(モノマー)及びその他の構造単位を形成する化合物(モノマー)を重合反応させることにより得られる。また、後述する実施例におけるISOBAMのように、市販のものを用いてもよい。
【0024】
本発明に用いられる重合体(A)の含有量は、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計に対し、1~100質量%が好ましく、1~70質量%がより好ましく、5~30質量%が特に好ましい。重合体(A)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
なお、本発明の液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計含有量は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によっても適宜変更できるが、均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点から1質量%以上が好ましく、溶液の保存安定性の点からは10質量%以下が好ましい。
【0025】
<化合物(B)>
本発明の化合物(B)は、下記式(b-1)及び下記式(b-2)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の部分構造を2つ以上有する化合物、エポキシ基を2つ以上有する化合物、オキセタン環を2つ以上有する化合物及びオキサゾリン環を2つ以上有する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である。各々の化合物は1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【化6】
(R及びR2’は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は基「*3-CH-O-R11」(R11は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。*3は、R及びR2’が結合する炭素原子との結合手であることを表す。)を表す。R及びR3’は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。Yは、(n2a+n2b+1)価の芳香環を表す。Rは、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、n2bが0の場合、Rの少なくとも一つは水素原子を表す。n1は0又は1を表す。n2aは1~6の整数を表し、n2bは0~6の整数を表す。*1及び*2は、結合手を表す。*は、結合手を表す。)
【0026】
前記式(b-1)及び前記式(b-2)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の部分構造を2つ以上有する化合物は、前記式(b-1)で表される部分構造を2つ以上有する化合物であってもよく、前記式(b-2)で表される部分構造を2つ以上有する化合物であってもよい。
【0027】
エポキシ基を2つ以上有する化合物としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルジアミン系エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、エポキシ基を有するアクリル樹脂などを挙げることができる。これらの市販品としては、例えばエポライト400E、同3002(共栄社化学(株)製)、エピコート828、同152、エポキシノボラック180S(ジャパンエポキシレジン(株)製)などを挙げることができる。
これらのうち、グリシジルジアミン系エポキシ樹脂が好ましく、下記式(b
【化7】
(式(b)中、Rは芳香環またはシクロヘキサン環を有し炭素数が6~40の2価の有機基であり、ただし基R中に酸素原子または硫黄原子が含まれていてもよい。)で表される化合物がより好ましい。
上記式(b)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(b-1)~(b-6)のそれぞれで表される化合物を挙げることができる。
【化8】
【0028】
オキセタン環を2つ以上有する化合物の具体例としては、1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン(アロンオキセタンOXT-121(XDO))、ジ[2-(3-オキセタニル)ブチル]エーテル(アロンオキセタンOXT-221(DOX))、1,4-ビス〔(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕ベンゼン(HQOX)、1,3-ビス〔(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕ベンゼン(RSOX)、1,2-ビス〔(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕ベンゼン(CTOX)、4,4’-ビス〔(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕ビフェニル(4,4’-BPOX)、2,2’-ビス〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕ビフェニル(2,2’-BPOX)、3,3’,5,5’-テトラメチル〔4,4’-ビス(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕ビフェニル(TM-BPOX)、2,7-ビス〔(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕ナフタレン(2,7-NpDOX)、1,6-ビス〔(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕-2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン(OFH-DOX)、2,4,6-O-トリス[(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル]シアヌル酸、ビスフェノールAと3-エチル-3-クロロメチルオキセタン(OXCと略す)のエーテル化物(BisAOX)、ビスフェノールFとOXCのエーテル化物(BisFOX)、フェノールノボラックとOXCのエーテル化物(PNOX)、クレゾールノボラックとOXCのエーテル化物(CNOX)、オキセタニルシルセスキオキサン(OX-SQ)、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンのシリコンアルコキサイド(OX-SC)(以上カッコ内は商品名又は開発品名、東亞合成(株)製)、ETARNACOLL OXBP(宇部興産(株)製)、下記式(C)等が例示できる。このうち、アロンオキセタン、OX-SC、OXT-121、OXT-221、PNOX-1009(以上東亞合成(株)製)、ETARNACOLL OXBP(宇部興産(株)製品)が好ましく、OX-SC、OXT-121、OXT-221、PNOX-1009が特に好ましい。
【化9】
【0029】
オキサゾリン環を2つ以上有する化合物の具体例としては、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(5-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(5,5’-ジメチルオキサゾリン)、2,2’-ビス(4,4,4’,4’-テトラメチル-2-オキサゾリン)、1,2-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)エタン、1,4-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)ブタン、1,6-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)ヘキサン、1,8-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)オクタン、1,4-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)シクロヘキサン、1,2-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)ベンセン、1,3-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼン、1,4-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼン、1,2-ビス(5-メチル-2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼン、1,3-ビス(5-メチル-2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼン、1,4-ビス(5-メチル-2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼン、1,4-ビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼン、1,4-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン、1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン、2,3-ビス(4-イソプロペニル-2-オキサゾリン-2-イル)ブタン、2,2’-ビス(4-ベンジル-2-オキサゾリン)、2,6-ビス(4-イソプロピル-2-オキサゾリン-2-イル)ピリジン、2,2’-イソプロピリデンビス(4-tert-ブチル-2-オキサゾリン)、2,2’-イソプロピリデンビス(4-フェニル-2-オキサゾリン)、2,2’-メチレンビス(4-tert-ブチル-2-オキサゾリン)、及び2,2’-メチレンビス(4-フェニル-2-オキサゾリン)、1,2,4-トリス(2-オキサゾリン-2-イル)ベンゼン等の化合物、エポクロス(商品名、株式会社日本触媒製)のようなオキサゾリン基を有するポリマーやオリゴマー等の化合物等を挙げることができる。
【0030】
前記化合物(B)は、好ましくは、前記式(b-1)で表される部分構造を少なくとも2つ以上有する化合物であって、より好ましくは下記式(1b-1)~(1b-3)で表される化合物である。
【化10】
(Aは、n価の有機基を表す(nは2~6の整数を表す。)。Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は-(CR2’n1-CR3’-OH(n1、R、R2’、R、R3’は式(b-1)の定義と同義である。)を表す。R2、3、2’及びR3’は、式(b-1)の定義と同義である。R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は-(CR2’n1-CR3’-OH(n1、R、R2’、R、R3’は式(b-1)の定義と同義である。)を表し、複数のR及びRの少なくとも2つは、-(CR2’n1-CR3’-OHを表す。)
【0031】
上記n価の有機基としては、例えばn価の炭化水素基、この炭化水素基の炭素-炭素間及び炭化水素基の末端の少なくとも一方にヘテロ原子を有する基を含むn価のヘテロ原子含有基、上記炭化水素基及びヘテロ原子含有基が有する一部又は全部の水素原子を置換基で置換したn価の基、2価の複素環、又はこの2価の複素環が単結合で連結した2価の有機基等が挙げられる。上記複素環としては、ピリジン環、ピペリジン環などの芳香族ヘテロ環;ピペリジン環、ピペラジン環などの脂肪族ヘテロ環が挙げられる。
【0032】
n価の炭化水素基としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン等のアルカン;エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン等のアルケン;エチン、プロピン、ブチン、ペンチン等のアルキン等の炭素数1~30の鎖状炭化水素、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ノルボルナン、アダマンタン等のシクロアルカン、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネン等のシクロアルケン等の炭素数3~30の脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、アントラセン等の炭素数6~30の芳香族炭化水素等の炭化水素から、n個の水素原子を除いたn価の基等が挙げられる。但し、上記鎖状炭化水素は、鎖状炭化水素のみで構成されている必要はなく、その一部に脂環式炭化水素や芳香族炭化水素を有していてもよい。
【0033】
ヘテロ原子を有する基としては、例えば、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、リン原子及びイオウ原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する基等が挙げられ、-O-、-NR-(Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。)、-CO-、-S-、及びこれらを組み合わせた基、複素環又はこの2価の複素環が単結合で連結した2価の有機基等が挙げられる。該複素環の具体例としては、上記2価の複素環で例示した構造が挙げられる。
【0034】
上記置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基等のアルコキシカルボニルオキシ基;シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0035】
前記式(1b-1)で表される部分構造を有する化合物の好ましい例は、下記式(b1)~(b5)で表される化合物である。
【化11】
(Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は-CH-CR3’-OH(R、R3’は式(b-1)の定義と同義である。)を表し、mは1~8の整数を表す。Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。L31、L33はそれぞれ独立して、単結合、-NR-(Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。)、-(CH-(mは1~6の整数である。)、又は*1-(CH-NR-(mは1~6の整数である。Rは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。*1はカルボニル炭素原子との結合手を表す。)を表し、L32は単結合、-NR-(Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。)、-(CH-(mは1~6の整数である。)、-CH=CH-、-CONH-又は-C(=O)-O-を表す。n3は0~1の整数である。L41、L42、L43、Lはそれぞれ独立して、単結合、又は-(CH-(mは1~6の整数である。)を表す。複数のR及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0036】
前記式(1b-1)~(1b-3)で表される部分構造を有する化合物の好ましい具体例として、下記式(b1-1)~(b1-16)で表される化合物が挙げられる。
【化12】
【化13】
【0037】
前記化合物(B)は、好ましくは、前記式(b-2)で表される部分構造を少なくとも2つ以上有する化合物であって、より好ましくは下記式(2b)で表される化合物である。
【化14】
(R、n2a、及びn2bは、式(b-2)のR、n2a、n2bと同義であり、n2bの少なくとも一つが0の場合、Rの少なくとも一つは水素原子を表す。Yは、芳香環を表し、該芳香環の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルコキシ基又はビニル基で置換されていてもよい。Zは、単結合、炭素数1~10の飽和炭化水素基、-NR-(Rは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。)-、又は-P-Q-P-で表される基(P及びPは、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基を表し、Qは芳香環を表す。)を表す。前記飽和炭化水素基は、全部又は一部が結合して環状構造を形成してもよく、任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。mは2~6の整数を表す。)
【0038】
Zにおける飽和炭化水素基の具体例としては、前記した炭素数1~10のアルカン、又は炭素数1~10のシクロアルカンからm個の水素原子を除いたm価の有機基が挙げられる。尚、アルカンの一部は、シクロアルカンで構成されてもよい。
【0039】
Y、Qにおける芳香環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フルオレン環などの芳香族炭化水素環、アズレン環、インデン環、ピロール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、ピラゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、プリン環、チアジアゾール環、ピリダジン環、トリアジン環、ピラゾリジン環、トリアゾール環、ピラジン環、ベンズイミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、チノリン環、フェナントロリン環、インドール環、キノキサリン環、ベンゾチアゾール環、フェノチアジン環、アクリジン環、オキサゾール環などの芳香族複素環が挙げられる。より好ましい芳香環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、アントラセン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、ピリダジン環、ピラジン環、ベンズイミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、インドール環、キノキサリン環、アクリジン環等が挙げられる。さらに好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、カルバゾール環であり、最も好ましくはベンゼン環、ピリジン環である。
【0040】
前記式(b-2)で表される部分構造を有する化合物の具体例としては、下記式(b2-1)~(b2-6)で表される化合物が挙げられる。
【化15】
【0041】
化合物(B)の分子量は、本発明の効果を好適に得る観点から、2000以下、好ましくは200~1800、特に好ましくは200~1500である。
【0042】
本発明に用いられる化合物(B)の含有量は、液晶配向剤に含まれる重合体成分(A)100質量部に対し、0.1~50質量部が好ましく、1~30質量部がより好ましく、5~15質量部がさらに好ましい。化合物(B)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0043】
本発明では、上記特定の重合体(A)と化合物(B)とを含有する液晶配向剤を使用することによって、後記する実施例において具体的に例証するように、基板剥がれが生じにくい液晶配向膜を得ることができ、かつ外部圧力に対する耐久性が高い液晶表示素子を得ることができる等の本発明の効果を発揮する。そのメカニズムが必ずしも明らかではないが、以下に述べることが一因と考えられる。
重合体(A)に含有される無水物基が開環することによりカルボン酸基が生成し、化合物(B)に含まれるアミドアルコール部位と加熱縮合することにより、重合体(A)(B)の架橋混成体が生成すると考えられる。フレキシブルな構造を有する重合体(A)と架橋効果により膜自体の硬度、靭性が向上すると推定される。
【0044】
<重合体(Q)>
本発明の液晶配向剤は、(C)成分として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリオルガノシロキサン、ポリ(メタ)アクリレート及びポリエステルよりなる群から選ばれる少なくとも一種である重合体(Q)をさらに含有してもよい。(C)成分は、液晶配向剤の溶液特性や液晶配向膜の電気特性を改善する点で含有することが好ましい。なお、ポリイミドは、該ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、又はポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマーをイミド化したものである。前記ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、又はポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマーは、好ましくは、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを重合反応させることにより得られる。
【0045】
<ジアミン成分>
上記ジアミン成分としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4-(2-(メチルアミノ)エチル)アニリン、3,5-ジアミノ安息香酸などのカルボキシ基を有するジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、1,2-ビス(4-アミノフェニル)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ブタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,2-ビス(4-アミノ-2-メチルフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)へキサン、4-(2-(4-アミノフェノキシ)エトキシ)-3-フルオロアニリン、ジ(2-(4-アミノフェノキシ)エチル)エーテル、4-アミノ-4’-(2-(4-アミノフェノキシ)エトキシ)ビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノナフタレン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェネチル)ウレアなどのウレア結合を有するジアミン、メタクリル酸2-(2,4-ジアミノフェノキシ)エチル、2,4-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリンなどの光重合性基を末端に有するジアミン、下記式(R1)~(R5)などのラジカル開始機能を有するジアミン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンなどの光照射により増感作用を示す光増感機能を有するジアミン、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、下記式(z-1)~(z-18)などの複素環を有するジアミン、下記式(Dp-1)~(Dp-3)などのジフェニルアミン骨格を有するジアミン、下記式(5-1)~(5-11)などの基「-N(D)-」(Dは加熱によって脱離し水素原子に置き換わる保護基を表し、好ましくはtert-ブトキシカルボニル基である。)を有するジアミン、下記式(Ox-1)~(Ox-2)などのオキサゾリン構造を有するジアミン、下記式(V2-1)~(V2-13)などの液晶の垂直配向性を発現させる構造を側鎖に有するジアミン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサンなどのオルガノシロキサン含有ジアミン等が挙げられる。
該ジアミンは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
【化16】
【化17】
【化18】
(式(R3)、(R4)および(R5)において、nは2~6の整数である。)
【0047】
【化19】
【化20】
(Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。)
【0048】
【化21】
【化22】
【0049】
【化23】
(Xv1~Xv4、Xp1~Xp8は、それぞれ独立に、-(CH-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-CH-OCO-、-COO-、又は-OCO-を表し、Xv5は-O-、-CHO-、-CH-OCO-、-COO-、又は-OCO-を表し、XV6~XV7、Xs1~Xs4は、それぞれ独立に、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-を表す。X~Xは、単結合、-O-、-NH-、又は-O-(CH-O-(mは1~8の整数である。)を表し、Rv1~Rv4、R1a~R1hはそれぞれ独立に、-C2n+1(nは1~20の整数)、又は-O-C2n+1(nは2~20の整数)を表す。)
【0050】
また、上記ジアミン成分としては、メタキシレンジアミン等の脂肪族ジアミン、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂環式ジアミン、国際公開第2016/125870号に記載のジアミン等も挙げることができる。
【0051】
<テトラカルボン酸成分>
テトラカルボン酸成分とは、テトラカルボン酸及びテトラカルボン酸誘導体から選択される少なくとも一種を含む成分をいう。テトラカルボン酸誘導体としては、テトラカルボン酸ジハライド、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステルジクロリド、テトラカルボン酸ジエステル等が挙げられる。
重合体(Q)を製造するためのテトラカルボン酸成分は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、又はこれらの誘導体が挙げられる。ここで、芳香族テトラカルボン酸二無水物は、芳香環に結合する少なくとも1つのカルボキシ基を含めて4つのカルボキシ基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、鎖状炭化水素構造に結合する4つのカルボキシ基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。但し、鎖状炭化水素構造のみで構成されている必要はなく、その一部に脂環式構造や芳香環構造を有していてもよい。脂環式テトラカルボン酸二無水物は、脂環式構造に結合する少なくとも1つのカルボキシ基を含めて4つのカルボキシ基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。但し、これら4つのカルボキシ基はいずれも芳香環には結合していない。また、脂環式構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状炭化水素構造や芳香環構造を有していてもよい。
該テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
上記テトラカルボン酸成分は、好ましくは、下記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはその誘導体を含む。
【化24】
Xは下記(x-1)~(x-13)から選ばれる構造を表す。
【化25】
(R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、塩素原子又はフェニル基を表す。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。j及びkは、それぞれ独立して、0又は1を表し、A及びAは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-CO-、-COO-、フェニレン、スルホニル基又はアミド基を表す。*1は一方の酸無水物基に結合する結合手を表し、*2は他方の酸無水物基に結合する結合手を表す。2つのAは同一であっても異なっていてもよい。)
【0053】
上記(x-12)及び(x-13)の好ましい具体例としては、下記式(x-14)~(x-29)が挙げられる。尚、式中「*」は結合手を表す。
【化26】
【化27】
【0054】
上記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体の好ましい例としては、Xが上記式(x-1)~(x-7)及び(x-11)~(x-13)である式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体が挙げられる。
【0055】
<ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の製造>
本発明に用いられるポリイミド前駆体は、ポリアミック酸やポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマー等が挙げられる。なお、本明細書においては、ポリイミド前駆体又はポリイミドを総称してポリイミド系重合体ともいう。
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、例えば、以下の方法により製造することができる。具体的には、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを、有機溶媒の存在下で、-20~150℃、好ましくは0~80℃において、30分~24時間、好ましくは1~12時間反応させることによって合成できる。
【0056】
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分との反応は、通常、有機溶媒中で行う。その際に用いる有機溶媒としては、生成したポリイミド前駆体が溶解するものであれば特に限定されない。下記に、反応に用いる有機溶媒の具体例を挙げるが、これらの例に限定されるものではない。例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又は1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
また、ポリイミド前駆体の溶解性が高い場合は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン又は下記の式[D-1]~式[D-3]で示される有機溶媒を用いることができる。
【化28】
式[D-1]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-2]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-3]中、Dは炭素数1~4のアルキル基を示す。
これらの有機溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。更に、ポリイミド前駆体を溶解しない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。
【0057】
反応系中におけるポリアミック酸の濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0058】
上記のようにして得られたポリアミック酸は、反応溶液をよく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させて回収できる。また、析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥することで、精製されたポリアミック酸の粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0059】
<ポリイミド前駆体(ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマー)の製造>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマーは、例えば、(1)エステル化剤を用いたポリアミック酸のエステル化反応、(2)テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとの反応、又は(3)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとの重縮合反応で製造することができる。
【0060】
上記3つの製造方法の中でも、高分子量のポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマーが得られるため、上記(1)又は(2)の製法が特に好ましい。
上記のようにして得られるポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマーの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して、精製されたポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマーの粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0061】
<ポリイミドの製造>
本発明に用いられるポリイミドは、上記したポリイミド前駆体をイミド化することにより製造できる。
【0062】
イミド化は、イミド化させたいポリアミック酸を、有機溶媒中、塩基性触媒と酸無水物の存在下で、撹拌することにより行うことができる。有機溶媒としては、前述した重合反応時に用いる有機溶媒を使用できる。塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができる。中でも、ピリジンは、反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。また、酸無水物としては、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等を挙げることができ、中でも、無水酢酸を用いると、反応終了後の精製が容易となるので好ましい。
【0063】
上記イミド化反応を行うときの温度は、-20~140℃、好ましくは0~100℃であり、反応時間は0.5~100時間、好ましくは1~80時間で行うことができる。塩基性触媒の量は、アミック酸の0.5~30モル倍、好ましくは2~20モル倍であり、酸無水物の量は、アミック酸の1~50モル倍、好ましくは3~30モル倍である。得られる重合体のイミド化率は、触媒量、温度、反応時間を調節することで制御できる。イミド化率は、必ずしも100%である必要はなく、用途や目的に応じて任意に調整できる。
【0064】
上記ポリイミド前駆体のイミド化反応後の溶液には、添加した触媒等が残存しているので、以下に述べる手段により、得られたイミド化重合体を回収し、有機溶媒で再溶解して、本発明の液晶配向剤の成分として用いることが好ましい。
上記のようにして得られるポリイミドの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、重合体を析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して、精製されたポリイミドの粉末を得ることができる。
上記貧溶媒は、特に限定されないが、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン等が挙げられる。
【0065】
本発明に用いられる重合体(Q)の含有量は、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計に対し、30~99質量%が好ましく、70~95質量%がより好ましい。なお、重合体(Q)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0066】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、液晶配向膜の形成に好適となるように塗布液として調製されることが好ましい。本発明の液晶配向剤は、例えば、本発明の重合体(A)、化合物(B)及び重合体(Q)並びに必要に応じてその他の成分を有機溶媒中に分散又は溶解させることによって、調製することができる。
その他の成分としては、例えば、架橋性化合物、官能性シラン化合物、界面活性剤、光重合性基を有する化合物、有機溶媒等を挙げることができる。
【0067】
架橋性化合物は、液晶配向膜の強度を高めることを目的として使用できる。かかる架橋性化合物としては、国際公開公報WO2016/047771の段落[0109]~[0113]に記載の、イソシアネート基、若しくはシクロカーボネート基を有する化合物、又は、低級アルコキシアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する化合物の他、ブロックイソシアネート基を有する化合物等が挙げられる。
【0068】
ブロックイソシアネート化合物は、市販品として入手可能であり、例えば、コロネートAPステーブルM、コロネート2503、2515、2507、2513、2555、ミリオネートMS-50(以上、東ソー(株)製)、タケネートB-830、B-815N、B-820NSU、B-842N、B-846N、B-870N、B-874N、B-882N(以上、三井化学(株)製)等を好ましく使用できる。
【0069】
好ましい架橋性化合物の具体例としては、下記式(CL-1)~(CL-2)で示される化合物が挙げられる。
【化29】
【0070】
上記は架橋性化合物の一例であり、これらに限定されない。また、本発明の液晶配向剤に用いる架橋性化合物は、1種類でも、2種類以上組み合わせても良い。
【0071】
本発明の液晶配向剤における、その他の架橋性化合物の含有量は、全ての重合体成分100質量部に対して、0.1~150質量部、又は0.1~100質量部、又は1~50質量部である。
【0072】
官能性シラン化合物は、液晶配向膜と下地基板との密着性を向上することを目的として使用できる。具体例としては、国際公開公報2014/119682の段落[0019]に記載のシラン化合物を挙げることができる。官能性シラン化合物の含有量は、全ての重合体成分100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~20質量部である。
【0073】
界面活性剤は、液晶配向膜の膜厚の均一性や表面平滑性を向上させることを目的として使用できる。界面活性剤の例としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ノ二オン系界面活性剤などが挙げられる。これらの具体例は、国際公開公報WO2016/047771の段落[0117]に記載の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の使用量は、液晶配向剤に含有される全ての重合体成分100質量部に対して、好ましくは0.01~2質量部、より好ましくは0.01~1質量部である。
【0074】
光重合性基を有する化合物は、アクリレート基やメタクリレート基などの重合性不飽和基を分子内に1個以上有する化合物、例えば下記式(M-1)~(M-7)で表されるような化合物を挙げることができる。
【0075】
【化30】
【0076】
更に、本発明の液晶配向剤には、液晶配向膜中の電荷移動を促進して素子の電荷抜けを促進させる化合物として、国際公開公報WO2011/132751号(2011.10.27公開)の段落[0194]~[0200]に掲載される、式[M1]~式[M156]で示される窒素含有複素環アミン化合物、より好ましくは3-ピコリルアミン、4-ピコリルアミンを添加できる。このアミン化合物は、液晶配向剤に直接添加しても構わないが、濃度0.1~10質量%、好ましくは1~7質量%の溶液にしてから添加することが好ましい。この溶媒は、特定重合体(A)を溶解させるならば特に限定されない。
【0077】
本発明の液晶配向剤にポリアミック酸やポリアミック酸エステル、ポリアミック酸-ポリアミック酸エステルコポリマーを含有する場合は、塗膜を焼成する際に加熱によるイミド化を効率よく進行させる目的でイミド化促進剤等を添加しても良い。
【0078】
本発明の液晶配向剤に含有される有機溶媒としては、例えば、γ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトンなどのラクトン溶媒;γ-ブチロラクタム、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのラクタム溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド溶媒;4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-プロピル、乳酸n-ブチル、乳酸イソアミル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソブチルケトン(2,6-ジメチル-4-ヘプタノン)、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソプロピルエーテル、ジイソペンチルエーテル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート溶媒、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1,2-エタンジオール、ジイソブチルカルビノール(2,6-ジメチル-4-ヘプタノール)、等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0079】
好ましい溶媒の組み合わせとしては、N-メチル-2-ピロリドンとエチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとエチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとジエチレングリコールジエチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンとN-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、N-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとジイソブチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとプロピレングリコールジアセテート、γ-ブチロラクトンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとジイソブチルケトン、γ-ブチロラクトンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとプロピレングリコールジアセテート、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソブチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソプロピルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソブチルカルビノール、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとジプロピレングリコールジメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジプロピレングリコールジメチルエーテル、などを挙げることができる。このような溶媒の種類及び含有量は、液晶配向剤の塗布装置、塗布条件、塗布環境などに応じて適宜選択される。
【0080】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の有機溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンコート法による場合、固形分濃度は1.5~4.5質量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3~9質量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12~50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1~5質量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3~15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
【0081】
<液晶配向膜・液晶表示素子>
本発明の液晶配向膜は、上記液晶配向剤から得られる。本発明の液晶配向膜は、水平配向型若しくは垂直配向型の液晶配向膜に用いることができるが、中でもVA方式又はPSAモード等の垂直配向型の液晶表示素子に好適な液晶配向膜である。本発明の液晶表示素子は、上記液晶配向膜を具備するものである。本発明の液晶表示素子は、例えば以下の工程(1)~(3)又は工程(1)~(4)を含む方法により製造することができる。
(1)液晶配向剤を基板上に塗布する工程
パターニングされた透明導電膜が設けられている基板の一面に、本発明の液晶配向剤を、例えばロールコーター法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などの適宜の塗布方法により塗布する。ここで基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板とともに、アクリル基板やポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることもできる。また、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならば、シリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極にはアルミニウム等の光を反射する材料も使用できる。
(2)塗膜を焼成する工程
液晶配向剤塗布後、塗布した配向剤の液垂れ防止等の目的で、好ましくは先ず予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、より好ましくは40~150℃であり、特に好ましくは40~100℃である。プレベーク時間は好ましくは0.25~10分であり、より好ましくは0.5~5分である。そして溶剤を完全に除去した後、さらに加熱(ポストベーク)工程が実施されることが好ましい。
このポストベーク温度は好ましくは80~300℃であり、より好ましくは120~250℃である。ポストベーク時間は好ましくは5~200分であり、より好ましくは10~100分である。このようにして形成される膜の膜厚は、5~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましい。
【0082】
上記工程(1)で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対し配向能付与処理を施してもよい。配向能付与処理としては、塗膜を例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理、塗膜に対して偏光又は非偏光の放射線を照射する光配向処理などが挙げられる。
【0083】
光配向処理において、塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。また、用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線を照射する場合には、照射の方向は斜め方向とする。
(3)液晶層を形成する工程
(3-1)VA型液晶表示素子の場合
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置する。具体的には以下の2つの方法が挙げられる。第一の方法は、従来から知られている方法である。先ず、それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置する。次いで、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶組成物を注入充填して膜面に接触した後、注入孔を封止する。
【0084】
また、第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に、例えば紫外光硬化性のシール剤を塗布し、更に液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶組成物を滴下する。その後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせて液晶組成物を基板の全面に押し広げて膜面に接触させる。次いで、基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化する。いずれの方法による場合でも、更に、用いた液晶組成物が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
【0085】
(3-2)PSA型液晶表示素子を製造する場合
重合性化合物を含有する液晶組成物を注入又は滴下する点以外は上記(3-1)と同様にする。重合性化合物としては、例えば上記式(M-1)~(M-7)で表されるような重合性化合物を挙げることができる。
(3-3)重合性基を有する化合物を含む液晶配向剤を用いて基板上に塗膜を形成した場合
上記(3-1)と同様にした後、後述する紫外線を照射する工程を経て液晶表示素子を製造する方法を採用してもよい。この方法によれば、上記PSA型液晶表示素子を製造する場合と同様に、少ない光照射量で応答速度に優れた液晶表示素子を得ることができる。重合性基を有する化合物は、上記式(M-1)~(M-7)で表されるようなアクリレート基やメタクリレート基などの重合性不飽和基を分子内に1個以上有する化合物であってもよく、その含有量は、全ての重合体成分100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましく、より好ましくは1~20質量部である。また、上記重合性基は液晶配向剤に用いる重合体が有していてもよく、このような重合体としては、例えば上記光重合性基を末端に有するジアミンを含むジアミン成分を反応に用いて得られる重合体が挙げられる。
【0086】
(4)紫外線を照射する工程
上記(3-2)又は(3-3)で得られた一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する。ここで印加する電圧は、例えば5~50Vの直流又は交流とすることができる。また、照射する光としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができるが、300~400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。照射光の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。光の照射量としては、好ましくは1,000~200,000J/mであり、より好ましくは1,000~100,000J/mである。
【0087】
そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより液晶表示素子を得ることができる。液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【0088】
本発明の液晶表示素子は、種々の装置に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなどの各種表示装置に用いることができる。
【実施例
【0089】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例において使用した化合物の略号の意味を以下に示す。
<ポリマー>
ISOBAM:ポリ(イソブチレン-o-マレイン酸無水物)Mn (数平均分子量):160,000~170,000(クラレ社製、ISOBAM-10)(重合体(A)に対応)
<モノマー>
(ジアミン)
DBA:3,5-ジアミノ安息香酸
3AMPDA:3,5-ジアミノ-N-(ピリジン-3-イルメチル)ベンズアミド
【0090】
【化31】
【0091】
(テトラカルボン酸成分)
PMDA:ピロメリット酸無水物
D1:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
D2:ビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物
D3:2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
(特定架橋剤)
AD-1:N,N,N’,N’-テトラキス(2―ヒドロキシエチル)アジポアミド
PEA:パルミトイルエタノールアミド
【化32】
(AD-1およびAD-2は化合物(B)に対応)
(溶媒)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BCS:エチレングリコールモノブチルエーテル
【0092】
<ポリイミドの分子量測定>
合成例におけるポリイミドの分子量は、(株)センシュー科学社製 常温ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置(SSC-7200)、Shodex社製カラム(KD-803、KD-805)を用い以下のようにして測定した。
カラム温度:50℃
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム-水和物(LiBr・HO)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10mL/L)
流速:1.0ml/分
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(分子量 約900,000、150,000、100,000、30,000)、および、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(分子量 約12,000、4,000、1,000)。
【0093】
<イミド化率の測定>
合成例における重合体のイミド化率は次のようにして測定した。試料粉末20mgをNMRサンプル管(草野科学製 NMRサンプリングチューブスタンダード φ5)に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d、0.05%TMS混合品)0.53mLを添加し、超音波をかけて完全に溶解させた。
この溶液を日本電子データム(株)製NMR測定器(JNW-ECA500)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5~10.0ppm付近に現れるアミック酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い、以下の計算式によって求めた。
イミド化率(%)=(1-α・x/y)×100
(xはアミック酸のNH基由来のプロトンピーク積算値、yは基準プロトンのピーク積算値、αはポリアミック酸(イミド化率が0%)の場合におけるアミック酸のNH基プロトン1個に対する基準プロトンの個数割合である。)
【0094】
<無水マレイン酸系重合体と架橋剤の混合溶液の調製>
<合成例1>
ISOBAM(3.50g)をNMP(13.06g)中に添加し、強撹拌下で25℃環境下にて60分間よく溶解させた。溶解を確認後、予め調製しておいた、AD-1のNMP10%溶液(1.05g)を系中に添加し、さらに18時間反応させた。これにより混合溶液(IP-1)を得た。
<合成例2~6>
AD-1溶液の添加量の変更もしくは架橋剤の種類をAD-2に変更した以外は全て同じ操作により、混合溶液(IP-2)~(IP-3)もしくは混合溶液(IT-1)~(IT-3)を調製した。このとき、調製に用いた架橋剤種、添加量は下表1に示す通りである。
【0095】
<比較合成例1>
NMP(17.5g)中にISOBAM(3.50g)を添加し、強撹拌下で60分間よく溶解させた。溶解を確認した後、さらに18時間撹拌を続け、溶液(IB-1)を得た。
<比較合成例2>
ISOBAM(3.50g)をNMP(13.06g)中に添加し、強撹拌下で25℃環境下にて60分間よく溶解させた。溶解を確認後、予め調製しておいた、PEAのNMP10%溶液(1.05g)を系中に添加し、さらに18時間反応させて、混合溶液(IB-2)を得た。
【0096】
【表1】
【0097】
<ポリイミド系重合体の合成>
<合成例7>
テトラカルボン酸二無水物であるD3(384.45g、1715mmol)、ジアミン成分であるDA-5(144.54g、437.5mmol)、DA-4(265.00g、350.0mmol)、DA-8(121.44g、612.5mmol)、及びDA-9(83.06g、350.0mmol)を、NMP(2456.1g)中で混合し、60℃で12時間反応させポリアミック酸溶液(PAA-1)を得た。
このポリアミック酸溶液(60.0g)にNMP(124.62g)を加え、6.5質量%に希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(21.30g)及びピリジン(3.30g)を加え、80℃で5時間反応させた。この反応溶液をメタノール(732.28g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、60℃で減圧乾燥し、ポリイミド粉末を得た。このポリイミド粉末のイミド化率は72%であり、数平均分子量は10,800、重量平均分子量は41,800であった。このポリイミド粉末に、固形分濃度が20質量%濃度になるようにNMPを加え、70℃で12時間撹拌することによりポリイミド溶液(SPI-1)を得た。
【0098】
<合成例8>
ジアミン成分であるDBA(2.74g、18.0mmol)、3AMPDA(3.27g、13.5mmol)及びDA-1(5.14g、13.5mmol)を、NMP(44.59g)中で混合し溶解させた。この溶液にD2(2.25g、9.0mmol)を添加し、60℃で4時間反応させた後、反応液を水冷し、D1(5.12g、26.1mmol)を加えて1時間撹拌した。最後にPMDA(1.96g、9.0mmol)を添加して室温で12時間撹拌し、ポリアミック酸溶液(PAA-2)を得た。なお全ての工程は反応液濃度が20質量%濃度になるようにNMP溶媒で希釈して行っている。
このポリアミック酸溶液(30.0g)にNMP(30.00g)を加え、10質量%に希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(4.00g)及びピリジン(1.55g)を加え、70℃で3時間反応させた。この反応溶液をメタノール(229.44g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、60℃で減圧乾燥し、ポリイミド粉末を得た。このポリイミド粉末のイミド化率は75%であり、数平均分子量は11,840、重量平均分子量は37,800であった。このポリイミド粉末に、固形分濃度が20質量%濃度になるようにNMPを加え、70℃で12時間撹拌することによりポリイミド溶液(SPI-2)を得た。
【0099】
<合成例9>
ジアミン成分であるDA-6(5.20g、17.5mmol)、DA-5(1.73g、5.20mmol)及びDA-2(5.32g、12.2mmol)を、NMP(49.10g)中で混合し溶解させた。この溶液にD2(4.38g、17.5mmol)を添加し、60℃で4時間反応させた後、反応液を水冷し、D1(3.29g、16.8mmol)を加えて12時間撹拌することにより、ポリアミック酸溶液(PAA-3)を得た。なお全ての工程では反応液濃度が20質量%濃度になるようにNMP溶媒で希釈している。このポリアミック酸の数平均分子量は12,540、重量平均分子量は41,800であった。
<合成例10>
ジアミン成分である3AMPDA(3.88g、16.0mmol)、DA-3(3.48g、8.8mmol)及びDA-7(3.41g、16.0mmol)を、NMP(43.06g)中で混合し溶解させた。この溶液にD2(5.00g、20.0mmol)を添加し、60℃で4時間反応させた後、反応液を水冷し、D1(3.77g、19.2mmol)を加えて12時間撹拌することにより、ポリアミック酸溶液(PAA-4)を得た。なお全ての工程では反応液濃度が20質量%濃度になるようにNMP溶媒で希釈している。このポリアミック酸の数平均分子量は10,240、重量平均分子量は32,800であった。
合成例7~合成例10の成分等は下表2に示す通りである。
【0100】
【表2】
【0101】
<液晶配向剤の調製>
(例1)
撹拌子を入れた20mLサンプル管に、合成例1で得られた溶液(IP-1)(3.00g)を量り取り、NMP(3.00g)及びBCS(6.00g)を添加した後に、マグネチックスターラーで30分間撹拌し、溶液である液晶配向剤(A-1)を得た。A-1を-20℃で1週間保管したところ、固形物の析出が見られず、均一な溶液であった。
【0102】
(例2)~(例8)
溶液IP-1の代わりに溶液(IP-2)~(IP-3)、(IT-1)~(IT―3)及び(IB-1)~(IB-2)を用いた以外は全て例1と同様の手順により、溶液である液晶配向剤(A-2)~(A-6)及び(R-1)~(R-2)を得た。得られた液晶配向剤を-20℃で1週間保管したところ、固形物の析出が見られず、均一な溶液であった。それぞれの液晶配向剤作製にあたる採取量、希釈溶剤量については下表3の通りである。
【0103】
【表3】
【0104】
(例9)
撹拌子を入れた20mLサンプル管に、合成例7で得られたポリイミド溶液SPI-1(0.90g)と合成例8で得られたSPI-2(2.10g)とを量り取り、NMP(6.00g)及びBCS(6.00g)を添加した後に、マグネチックスターラーで30分間撹拌し、ポリイミド混合溶液である液晶配向剤(A-7)を得た。A-7を-20℃で1週間保管したところ、固形物の析出が見られず、均一な溶液であった。
(例10)
SPI-1の代わりにPAA-3を、SPI-2の代わりにPAA-4を用いた以外は全て例9と同様の手順により、ポリアミック酸混合溶液である液晶配向剤(A-8)を得た。A-8を-20℃で1週間保管したところ、固形物の析出が見られず、均一な溶液であった。
例9および例10の成分等は下表4に示す通りである。
【0105】
【表4】
【0106】
(例11)
撹拌子を入れた20mLサンプル管に例1で得られた溶液(A-1)(3.00g)と例9で得られたポリイミド混合溶液(A-7)(7.00g)とを量り取った後にマグネチックスターラーで30分間撹拌し、液晶配向剤(B-1)を作成した。B-1を-20℃で1週間保管したところ、固形物の析出が見られず、均一な溶液であった。
(例12~例22)
混合する試料種を溶液(A-1)から溶液(A-2)~(A-6)及び(R-1)~(R-2)へ、及び溶液(A-7)から溶液(A-8)へ変更した以外は全て例11と同様の手順にて液晶配向剤(B-2)~(B―12)、(C-1)、(C-2)、(D-1)、及び(D-2)を調製した。この時、混合する試料の組み合わせは下表5の通りである。
【0107】
【表5】
【0108】
<例27~44>
下記のようにして、液晶配向膜及び液晶セルを作製し、作製した各液晶セルの特性を評価した。それらの結果を下記表に示す。なお、下記の例において、例27~38は本発明の実施例であり、例39~44は比較例である。
【0109】
<液晶セルの作製>
上記例9~26で得た液晶配向剤を、それぞれ、純水及びIPA(イソプロピルアルコール)で洗浄したITO付き無アルカリガラス基板(縦30mm、横40mm、厚み0.7mm)のITO面にスピンコートし、70℃で90秒間ホットプレートにて焼成した後、230℃の赤外線加熱炉で20分間焼成を行い、膜厚100nmの塗布基板を作製した。
上記方法で塗布基板を二枚作製し、一方の基板の液晶配向膜面上に4μmのビーズスペーサーを散布した後、その上から熱硬化性シール剤(協立化学産業社製 XN-1500T)を印刷した。次いで、もう一方の基板の液晶配向膜が形成された側の面を内側にして、先の基板と貼り合せた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルにPSA用重合性化合物含有液晶MLC-3023(メルク社製)を減圧注入法によって注入し、液晶セルを作製した。
【0110】
次に、この液晶セルに15VのDC電圧を印加した状態で、この液晶セルの外側から光化学反応用ケミカルランプFHF14UV32A-H(東芝ライテック社製)を70秒間照射(1次PSA処理とも称する)した。
その後、液晶セル中に残存している未反応の重合性化合物を失活させる目的で、電圧を印加していない状態で東芝ライテック社製UV-FL照射装置を用いてUV(UVランプ:FLR40SUV32/A-1)を30分間照射(2次PSA処理とも称する)した。その後、電圧保持率の測定を行った。
【0111】
<電圧保持率の評価>
上記で作製した液晶セルを用い、60℃の熱風循環オーブン中で1Vの電圧を60μs間印加した後、16.67msec後と1667msec後の電圧をそれぞれ測定し、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として計算した。電圧保持率の測定には、東陽テクニカ社製のVHR-1を使用した。各材料における電圧保持率を下記表6にまとめる
【0112】
<膜硬度の評価>
上記例9~26で得た液晶配向剤をITO付き無アルカリガラス基板(縦30mm、横40mm、厚み0.7mm)のITO面にスピンコートし、70℃で90秒間ホットプレートにて焼成した後、230℃の赤外線加熱炉で20分間焼成を行い、膜厚100nmの配向剤塗布基板を作製した。この塗布基板表面を所定のラビング方向で、レーヨン布によりラビング(ロール系120mm、回転数1000rpm、移動速度20mm/sec、押し込み量0.6mm)した後、光学顕微鏡観察を行い、膜の擦傷を確認した。この時、目視で擦傷及び削れカスが確認されたものを「×」、擦傷のみが確認されたものを「△」、削れカスも擦傷も確認されなかったものを「〇」として評価した。評価結果を下記表6に示す。
【0113】
【表6】
【0114】
表6中に示すように、実施例の液晶配向剤(B-1)~(B-12)を用いた場合は、比較例の液晶配向剤、すなわち、無水マレイン酸系重合体とポリイミド系重合体のみからなる液晶配向剤((C-1)、(C-2))、ポリイミド系重合体のみからなる液晶配向剤((A-7)、(A-8))、及びアミドアルコール基を分子内に1つだけ有する化合物、並びに無水マレイン酸系重合体及びポリイミド系重合体からなる液晶配向剤((D-1)、(D-2))を用いた場合に対して良好な電圧保持率を示した。
表6中に示すように、実施例の液晶配向剤(B-1)~(B-12)を用いた場合は、比較例の液晶配向剤(C-1)、(C-2)、(A-7)、(A-8)、(D-1)、及び(D-2)を用いた場合に対して良好な膜硬度を示した。
【0115】
<液晶配向性の評価>
上記例11~22で得られた液晶配向剤(B-1)~(B-12)を用いて、上記液晶配向膜付き基板を2枚用意し、その1枚の液晶配向膜上に4μmのスペーサーを散布した。その上からシール剤を印刷し、もう1枚の基板を液晶配向膜面が向き合い光配向方向が直行するようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶ML-3023(メルク・ジャパン製)を注入し、注入口を封止し、VA液晶セルを得た。この液晶セルを120℃30分熱処理して、その後室温まで除冷してセルの観察を行ったところ、面内で配向不良は見られず、いずれも液晶配向性は良好であった。
【0116】
なお、2019年12月6日に出願された日本特許出願2019-221605号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。