(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】離型層組成物、離型フィルムおよびこれらの製造方法、並びにフィルム積層体及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/08 20060101AFI20240618BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240618BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240618BHJP
C09J 183/08 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C08L83/08
B32B27/00 L
B32B27/00 101
C09J7/38
C09J183/08
(21)【出願番号】P 2022164901
(22)【出願日】2022-10-13
(62)【分割の表示】P 2022106524の分割
【原出願日】2022-06-30
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】大関 陽介
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/019845(WO,A1)
【文献】特開2011-219630(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059726(WO,A1)
【文献】特開平05-107746(JP,A)
【文献】特開2006-022223(JP,A)
【文献】特開2018-020442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00- 43/00
B29C 33/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E)フッ素置換基を含まない
シリコーンポリマーを含み、さらに(X)フッ素偏析促進剤を含み、該(X)フッ素偏析促進剤が、(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマーを含む配合液中で事前に架橋反応が行われた事前処理組成物である、離型層組成物。
【請求項2】
基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも片面に設けた離型層とを備える離型フィルムであって、前記離型層は請求項1に記載の離型層組成物が硬化されてなる離型フィルム。
【請求項3】
前記離型層におけるフッ素原子含有量が3,000モルppm以上900,000モルppm以下である請求項2に記載の離型フィルム。
【請求項4】
前記離型層における厚み方向の以下の方法により算出されるフッ素原子濃度分布比t
d(t1[75%]/t2[50%])が1~70%である、請求項2に記載の離型フィルム。
フッ素原子濃度分布比の算出方法;最表面(スパッタ時間0)のフッ素原子比率を基準とし、フッ素原子比率が最表面の75%まで低下するのにかかるスパッタ時間(t1[75%])と、フッ素原子比率が最表面の50%まで低下するスパッタ時間(t2[50%])との比t
d(t1[75%]/t2[50%])を百分率(%)で算出する。
【請求項5】
前記離型層の加熱剥離力が65mN/cm以下であり、かつ、残留接着率が85%以上である請求項2に記載の離型フィルム。
【請求項6】
(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E)フッ素置換基を含まない
シリコーンポリマーを含み、さらに(X)フッ素偏析促進剤を含む離型層組成物の製造方法であって、前記(X)フッ素偏析促進剤が、(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(B)シリコーン架橋剤、及び(C)硬化触媒を混合した後、攪拌および/または静置を行うことにより得られる、離型層組成物の製造方法。
【請求項7】
前記攪拌および/または静置を10秒以上行う、請求項6に記載の離型層組成物の製造方法。
【請求項8】
前記(B)シリコーン架橋剤として、フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤を用いる、請求項6に記載の離型層組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項6~8の何れかに記載の離型層組成物の製造方法により得られた離型層組成物を、基材フィルムの少なくとも片面側に塗布する、離型フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項2~5の何れかに記載の離型フィルムと、シリコーン粘着剤層と、機能層を有する積層フィルムとを備え、前記離型フィルムと、機能層を有する前記積層フィルムとがシリコーン粘着剤層を介して貼り合わされてなる、フィルム積層体。
【請求項11】
機能層を有する前記積層フィルムが、基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも片面側に設けた架橋樹脂層とを備える、請求項10に記載のフィルム積層体。
【請求項12】
前記架橋樹脂層が、導電性ポリマーおよびバインダーポリマーを含有する架橋樹脂層組成物から形成される請求項11に記載のフィルム積層体。
【請求項13】
前記架橋樹脂層が、前記シリコーン粘着剤層に対する易接着層である請求項11に記載のフィルム積層体。
【請求項14】
機能層を有する前記積層フィルムが、基材フィルムと、該基材フィルムの片面側に設けた他の離型層とを備える、請求項10に記載のフィルム積層体。
【請求項15】
前記他の離型層が、(E)フッ素置換基を含まないポリマーを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される第1層、及びフッ素置換基を有する成分を含有する第2層を順次備えた構成からなる、請求項14に記載のフィルム積層体。
【請求項16】
前記他の離型層が、(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマーを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される、請求項14に記載のフィルム積層体。
【請求項17】
前記他の離型層が、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される、請求項14に記載のフィルム積層体。
【請求項18】
請求項2~5の何れかに記載の離型フィルムと、シリコーン粘着剤層と、樹脂フィルムとを備え、前記離型フィルムに、前記シリコーン粘着剤層を介して、前記樹脂フィルムを直接貼り合わせてなるフィルム積層体。
【請求項19】
請求項2~5の何れかに記載の離型フィルムと、シリコーン粘着剤層と、重剥離フィルムとを備え、前記離型フィルムを前記シリコーン粘着剤層の一方の面側に、前記重剥離フィルムを前記シリコーン粘着剤層の他方の面側に積層してなり、前記重剥離フィルムが前記離型フィルムよりも剥離強度が高いフィルム積層体の使用方法であって、前記離型フィルムを剥がした後、露出したシリコーン粘着剤層表面を被着体に貼着させた後、前記重剥離フィルムを剥離する、フィルム積層体の使用方法。
【請求項20】
前記被着体が光学部材である、請求項19に記載のフィルム積層体の使用方法。
【請求項21】
前記光学部材が偏光板又はタッチセンサーである、請求項20に記載のフィルム積層体の使用方法。
【請求項22】
前記光学部材が車載用光学部材である、請求項20に記載のフィルム積層体の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型層組成物、離型フィルムおよびこれらの製造方法、並びにフィルム積層体及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルを搭載する自動車が多くなっている。このような車載向けの用途では、高温や低温に長時間さらされることも多く、パネル構成部材を貼り合わせる粘着剤にも、高度な耐候性、耐熱性が求められている。これに適合する粘着剤として、シリコーンを主材とするシリコーン粘着剤が注目されている。
【0003】
シリコーン粘着剤は、耐熱性、耐薬品性、透明性に優れ、一般的な粘着剤では粘着し難いシリコーンゴムやフッ素樹脂、金属などに対しても粘着力を発揮し、再粘着性にも優れているなどの特徴を有している。
シリコーン粘着剤は、これを粘着層としてテープ(フィルム)状にしたものが用いられており、通常、使用する前は、片面又は両面を離型フィルムで被覆した状態で保管され、使用時に当該離型フィルムを剥がして用いることが一般的である。
【0004】
この種の用途に用いられる離型フィルムとしては、シリコーン剥離剤を基材フィルムにコートしてなるシリコーン離型フィルムが多く使用されている。
しかしながら、このようなシリコーン離型フィルムは、シリコーン粘着剤を被覆する場合、剥離剤と粘着剤の化学構造が類似しているため、粘着剤と離型フィルムとの間で強く粘着して剥離し難くなる傾向があった。そのため、シリコーン粘着剤に対する剥離力値を低くすること(軽剥離性化)を目的として、シリコーン剥離剤にフッ素を導入することなどが行われている。例えば、特許文献1には、シリコーン粘着剤に対して剥離性を発現させることを目的に、含フッ素有機基を有するフッ素化シリコーン材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているような架橋性フッ素シリコーンポリマーは、化学的安定性が高く、毒性の低い物質である。しかし、架橋性フッ素シリコーンポリマーをコートした離型フィルムの軽剥離化手段としては、塗布厚みを厚くすることで対応する場合が多く、コスト的に不利な状況であった。さらに、フッ素シリコーンポリマーを利用したシリコーン剥離剤は、粘着剤などに移行して、粘着剤の粘着力の低下を引き起こしたり、粘着剤が接着される被着体の汚染を引き起こしたりすることがあった。
【0007】
そこで本発明は、フッ素化シリコーンを用いて形成してなるシリコーン離型フィルムに関し、シリコーン粘着剤層に対して軽剥離性を付与し、かつ低移行性である新規の離型層組成物、離型フィルム、およびこれらの製造方法、並びに、該離型フィルムを備えるフィルム積層体及びその使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、特定構成の離型層組成物、及び離型フィルムを用いることで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[26]を提供するものである。
[1](A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E)フッ素置換基を含まないポリマーを含む離型層組成物。
[2]さらに(X)フッ素偏析促進剤を含む上記[1]に記載の離型層組成物。
[3]前記(X)フッ素偏析促進剤が、(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマーを含む配合液中で事前に架橋反応が行われた事前処理組成物である、上記[2]に記載の離型層組成物。
[4]基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも片面に設けた離型層とを備える離型フィルムであって、前記離型層は上記[1]~[3]の何れかに記載の離型層組成物が硬化されてなる離型フィルム。
[5]前記離型層におけるフッ素原子含有量が3,000モルppm以上900,000モルppm以下である上記[4]に記載の離型フィルム。
[6]前記離型層における厚み方向の以下の方法により算出されるフッ素原子濃度分布比td(t1[75%]/t2[50%])が1~70%である、上記[4]又は[5]に記載の離型フィルム。
フッ素原子濃度分布比の算出方法;最表面(スパッタ時間0)のフッ素原子比率を基準とし、フッ素原子比率が最表面の75%まで低下するのにかかるスパッタ時間(t1[75%])と、フッ素原子比率が最表面の50%まで低下するスパッタ時間(t2[50%])との比td(t1[75%]/t2[50%])を百分率(%)で算出する。
[7]前記離型層の加熱剥離力が65mN/cm以下であり、かつ、残留接着率が85%以上である上記[4]~[6]の何れかに記載の離型フィルム。
[8](A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E)フッ素置換基を含まないポリマーを含む離型層組成物の製造方法。
[9]さらに(X)フッ素偏析促進剤を含む上記[8]に記載の離型層組成物の製造方法。
[10]前記(X)フッ素偏析促進剤が、(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(B)シリコーン架橋剤、及び(C)硬化触媒を混合した後、攪拌および/または静置を行うことにより得られる、上記[9]に記載の離型層組成物の製造方法。
[11]前記攪拌および/または静置を10秒以上行う上記[10]に記載の離型層組成物の製造方法。
[12]前記(B)シリコーン架橋剤として、フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤を用いる、上記[10]又は[11]に記載の離型層組成物の製造方法。
[13]上記[8]~[12]の何れかに記載の離型層組成物の製造方法により得られた離型層組成物を、基材フィルムの少なくとも片面側に塗布する、離型フィルムの製造方法。
[14]上記[4]~[7]の何れかに記載の離型フィルムと、シリコーン粘着剤層と、機能層を有する積層フィルムとを備え、前記離型フィルムと、機能層を有する前記積層フィルムとがシリコーン粘着剤層を介して貼り合わされてなる、フィルム積層体。
[15]機能層を有する前記積層フィルムが、基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも片面側に設けた架橋樹脂層とを備える、上記[14]に記載のフィルム積層体。
[16]前記架橋樹脂層が、導電性ポリマーおよびバインダーポリマーを含有する架橋樹脂層組成物から形成される上記[15]に記載のフィルム積層体。
[17]前記架橋樹脂層が、前記シリコーン粘着剤層に対する易接着層である上記[15]又は[16]に記載のフィルム積層体。
[18]機能層を有する前記積層フィルムが、基材フィルムと、該基材フィルムの片面側に設けた他の離型層とを備える、上記[14]~[17]の何れかに記載のフィルム積層体。
[19]前記他の離型層が、(E)フッ素置換基を含まないポリマーを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される第1層、及びフッ素置換基を有する成分を含有する第2層を順次備えた構成からなる、上記[18]に記載のフィルム積層体。
[20]前記他の離型層が、(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマーを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される、上記[18]又は[19]に記載のフィルム積層体。
[21]前記他の離型層が、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される、上記[18]~[20]の何れかに記載のフィルム積層体。
[22]上記[4]~[7]の何れかに記載の離型フィルムと、シリコーン粘着剤層と、樹脂フィルムとを備え、前記離型フィルムに、前記シリコーン粘着剤層を介して、前記樹脂フィルムを直接貼り合わせてなるフィルム積層体。
[23]上記[4]~[7]の何れかに記載の離型フィルムと、シリコーン粘着剤層と、重剥離フィルムとを備え、前記離型フィルムを前記シリコーン粘着剤層の一方の面側に、前記重剥離フィルムを前記シリコーン粘着剤層の他方の面側に積層してなり、前記重剥離フィルムが前記離型フィルムよりも剥離強度が高いフィルム積層体の使用方法であって、前記離型フィルムを剥がした後、露出したシリコーン粘着剤層表面を被着体に貼着させた後、前記重剥離フィルムを剥離する、フィルム積層体の使用方法。
[24]前記被着体が光学部材である、上記[23]に記載のフィルム積層体の使用方法。
[25]前記光学部材が偏光板又はタッチセンサーである、上記[24]に記載のフィルム積層体の使用方法。
[26]前記光学部材が車載用光学部材である、上記[24]に記載のフィルム積層体の使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明が提案する離型層組成物及び離型フィルムは、離型層を形成するための(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E)フッ素置換基を含まないポリマーを含むことにより、シリコーン粘着剤層に対して軽剥離性と低移行性を付与することができる。また、本発明が提案する離型フィルムの製造方法によれば、そのような離型層組成物及び離型フィルムを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の離型フィルムにおける離型層中のF濃度を示すプロファイルである。
【
図2】実施例5の離型フィルムにおける離型層中のF濃度を示すプロファイルである。
【
図3】実施例6の離型フィルムにおける離型層中のF濃度を示すプロファイルである。
【
図4】比較例1の離型フィルムにおける離型層中のF濃度を示すプロファイルである。
【
図5】比較例2の離型フィルムにおける離型層中のF濃度を示すプロファイルである。
【
図6】比較例3の離型フィルムにおける離型層中のF濃度を示すプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、実施の形態に基づいて本発明を説明する。但し、本発明は次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
<離型層組成物>
本発明の組成物は、離型層を形成するための組成物(以下「離型層組成物」と称する。)であって、(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマーを少なくとも含む。
【0013】
((A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマー)
本発明の離型層組成物は、(A)パーフルオロエーテル基を有する架橋性フッ素含有シリコーンポリマー(以下、「架橋性フッ素含有シリコーンポリマー」と記載することがある。)を含むことで、シリコーン粘着剤に対する安定した軽剥離性を付与することができる。
なお、「シリコーン(Silicone)」は、ケイ素と酸素からなるシロキサン結合(≡Si-O-Si≡)を骨格(シロキサン骨格)とし、そのケイ素(Si)にメチル(-CH3)を主体とする有機基が結合したポリオルガノシロキサンである。
また、「架橋性フッ素含有シリコーンポリマー」は、加熱又は光照射(紫外線)によって架橋反応して硬化することができるシリコーンである。
【0014】
前記「フッ素含有シリコーンポリマー」とは、フッ素原子を含有する置換基(以下「フッ素置換基」と記載することがある。)を持つシリコーンポリマーを言う。
このフッ素原子を含有する置換基(フッ素置換基)は、置換基にフッ素原子が含まれていれば特に限定はされない。具体的には、フッ素基(フッ素原子)、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2-トリフルオロエチル基、1H,1H-ヘプタフルオロブチル基、2H-ヘキサフルオロイソプロピル基、パーフルオロ-t-ブチル基、パーフルオロヘキシル基などを挙げることができる。また、エーテル結合とフッ素原子を有する1価の炭化水素基でもよく、例えば含フッ素ポリプロピレンオキシド構造などの含フッ素ポリアルキレンオキシド構造を有するフッ素置換基であってもよい。但し、これらに限定するものではない。
また、フッ素置換基を有する成分として、ポリマー骨格の側鎖部分にフッ素置換基を含むポリオルガノシロキサンを挙げることができる。
シロキサン骨格を構成するSiに直接結合する官能基(以下、「R」と記載することがある。)のうち、フッ素置換基の比率は、例えば5~35モル%、好ましくは10~30モル%である。
【0015】
(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーにおいて、Siに直接結合するRとしては、非置換又は置換の1価炭化水素基が挙げられる。1価炭化水素基は、フッ素原子で置換された1価の炭化水素基(すなわち、フッ素置換基)でもよいし、エーテル結合を有するものなどでもよい。また、上記の通りフッ素置換基がエーテル結合を有してもよい。また、後述するとおり、アルケニル基を有する1価炭化水素基でもよい。1価炭化水素基の炭素数は、例えば炭素数1~15、好ましくは炭素数1~10である。
【0016】
本願発明においてはヒドロシリル化付加反応により硬化する硬化型シリコーンを用いることが、特に「(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー」において、材料の入手性などの観点から好ましい。
したがって、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーは、少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましく、該アルケニル基によって架橋されることが好ましい。ここで、アルケニル基としては、例えば、ビニル基(エテニル基)、アリル基(2-プロペニル基)、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基などが挙げられるが、これらの中ではビニル基が好ましい。これらアルケニル基は、シロキサン骨格を構成するSiに直接結合する、珪素原子結合アルケニル基であるとよい。
シロキサン骨格を構成するSiに直接結合する官能基のうち、アルケニル基の比率は、例えば、0.2~10モル%、好ましくは0.5~5モル%である。
【0017】
また、Rの1価炭化水素基としては、上記アルケニル基、及びフッ素置換基以外に、アルキル基、アリール基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロプル基、n-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基等のアルキル基が挙げられる。また、アリール基としては、フェニル基、トリル基などが挙げられる。
また、上記のとおり、メチル基が主体であるとよく、例えばRのうち50モル%以上がメチル基であるとよく、好ましくは55~94モル%、より好ましくは65~89モル%である。
【0018】
(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーの具体的例としては、信越化学(株)製のKP-911、X-70-201S、X-41-3035;東レ・ダウコーニング(株)製のFS1265-300CS、FS1265-1000CS、FS1265-10000CS、BY24-900、BY24-903、3062、Q2-7785、SYL-OFF 7792、SYL-OFF 7795などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0019】
(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーは、溶剤型であっても、無溶剤型であってもよく、またこれらを混合したものであってもよい。(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーは、軽剥離化のため、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0020】
ここで、「無溶剤型硬化型シリコーン」とは、溶剤に希釈せずとも塗工できる粘度のシリコーンで、短いポリシロキサン鎖よりなっており、比較的低分子量のシリコーンである。
無溶剤型硬化型シリコーンの粘度は、85質量%のn-ヘプタン溶液としたときの25℃における動粘度が30,000mm2/s以下であるのが好ましく、中でも20,000mm2/s以下がより好ましく、10,000mm2/s以下がさらに好ましい。また、100mm2/s以上が好ましく、500mm2/s以上がさらに好ましい。
【0021】
他方、「溶剤型硬化型シリコーン」とは、溶剤に希釈しなければ塗工できない程度に粘度の高いシリコーンで、比較的高い分子量からなるシリコーンである。したがって、溶剤型硬化型シリコーンは、一般的には無溶剤型硬化型シリコーンよりも重量平均分子量ないし粘度が高い。なお、ここでいう粘度とは、同じ条件で測定した粘度であり、例えばn-ヘプタン、ジイソプロピルエーテルなどの有機溶剤に同じ濃度に溶解したときの25℃における粘度である。
【0022】
溶剤型硬化型シリコーンの25℃における粘度は、10質量%ジイソプロピルエーテル溶液とした時の粘度が0.1mm2/s以上が好ましく、中でも0.5mm2/s以上がより好ましく、その中でも1.0mm2/s以上がさらに好ましく、また、300mm2/s以下であるのが好ましく、200mm2/s以下がより好ましく、100mm2/s以下であるのがさらに好ましい。溶剤型硬化型シリコーンが高い粘度を有することにより、基材フィルムとの密着性が高まる傾向にある。
なお、「無溶剤型硬化型シリコーン」は、上記のとおり粘度が低いシリコーンを総称して述べるものであり、必ずしも無溶剤である必要はなく、溶剤で希釈したものを離型層組成物に配合してもよい。「溶剤型硬化型シリコーン」も同様に必ずしも溶剤に希釈したものを組成物に配合する必要はない。
【0023】
(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーのフッ素原子含有量(原子数分率)は、一般的に数千ppm(「架橋性フッ素含有シリコーンポリマー」中の全原子数の1%未満)~数十万ppm(「架橋性フッ素含有シリコーンポリマー」中の全原子数の数十%)程度である。
【0024】
本発明の離型層組成物は、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E)フッ素置換基を含まないポリマー、好ましくは(X)フッ素偏析促進剤を含むことで、シリコーン粘着剤層に対して軽剥離性を有し、かつ低移行性を実現でき、例えば、離型シートを剥離した後の粘着剤の残留粘着力を高めることができる。
その原理は定かではないが、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーは、好ましくは(X)フッ素偏析促進剤を含むことで、フッ素原子を有するポリマー成分が偏在して、高疎水性の成分が表面近傍に偏在しやすく、かつその偏在した状態が適切な架橋などにより安定的に維持されるためと推定される。
【0025】
また、フッ素置換基の比率、フッ素置換基の構造、及び粘度または重量平均分子量の少なくとも何れかが異なる(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーを少なくとも2種以上組み合わせて用いることが好ましい。このように、構造又は物性の異なる架橋性フッ素含有シリコーンポリマーを組み合わせることで、組成物中に剥離性と架橋性が異なる成分が混在することとなり、軽剥離性及び低移行性を確保しやすくなる。
【0026】
((E)フッ素置換基を含まないポリマー)
離型層組成物は、(E)フッ素置換基を含まないポリマーを含有する。本発明においては、その中でも、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーが好ましい。
(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーとしては、ポリオルガノシロキサン構造を有し、シロキサン骨格を構成するSiに直接結合する官能基Rが1価の炭化水素基であることが好ましい。この1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロプル基、n-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基等のアルキル基が挙げられる。また、アリール基としては、フェニル基、トリル基などが挙げられる。Rとしては、メチル基が主体であるとよく、例えばRのうち50モル%以上がメチル基であるとよく、好ましくは55~94モル%、より好ましくは65~89モル%である。
(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーは、架橋性を有していても、有していなくてもよく、架橋性を有する場合には、官能基Rとして2以上のアルケニル基を有していてもよい。また、フッ素を含まない点を除いて、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーと同様の構造を有するものであってもよい。
さらに、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーは、溶剤型であっても、無溶剤型であってもよく、またこれらを混合したものであってもよい。中でも、安定的にシリコーン粘着剤への軽剥離性を得るための観点から、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーは、溶剤型硬化型シリコーンであるのが好ましい。
ここでフッ素置換基を含まないとは、シリコーン粘着剤に対して明確に軽剥離性を示すほどのフッ素置換基量を有していないとの意味であり、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーに対して2分の1以下のフッ素置換基量を有していても良い。
【0027】
(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーの具体例としては、例えば、信越化学(株)製のKNS-3051、KNS-320A、KNS-316、KNS-3002、KNS-3300、X-62-1387、KS-837、X-62-2829、KS-3650、KS-847H、KS-847T、KS-776L、KS-776A、KS-774、KS-3703T、KS-3601、KS-830E、X-62-2825、X-62-9201-A、X-62-9201B、KM3951、KM-768、X-52-6015、KF-2005、X-62-7205、X-62-7028-A、X-62-7028-B、X-62-7052、X-62-7622、X-62-7660、X-62-7655;東レ・ダウコーニング(株)製のSP7017、SP7015、SP7025、SP7031、LTC1006L、LTC1063L、LTC1036M、LTC1056L、SRX357、SRX211、SRX345、SRX370、LTC300B、LTC310、LTC355A、LTC759、LTC755、LTC750A、LTC752、LTC761、LTC856、LTC851などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0028】
また、前記(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーに重剥離添加剤を加えてもよく、その例としては、信越化学(株)製のKS-3800;東レ・ダウコーニング(株)製のSD7292、BY24-4980などを挙げることができる。
【0029】
(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーは、単独で用いてもよいし、又、反応性官能基や粘度が異なる2種類以上を混合して用いてもよい。
2種類以上のフッ素置換基を含まないシリコーンポリマーを混合することにより、硬化反応を調整したり、塗布液粘度を調整したり、さらには、濡れ性および反応性を高めたりすることができる。その際、無溶剤型シリコーン同士を混合するようにしても、溶剤型シリコーン同士を混合するようにしても、無溶剤型シリコーンと溶剤型シリコーンを混合するようにしてもよい。
なお、溶剤型硬化型シリコーン及び無溶剤型硬化型シリコーンについては、フッ素置換基を含まない以外は、上述のとおりであり、各々の好ましい粘度の範囲についても上述の範囲と同様である。
また、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーの重量平均分子量は、10,000~10,000,000の範囲であることが好ましく、より好ましくは50,000~5,000,000、更に好ましくは100,000~2,000,000である。重量平均分子量が上記範囲の硬化型シリコーンを用いることで、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、および(X)フッ素偏析促進剤の離型層表面への偏析が促進され、シリコーン粘着剤に対する軽剥離性を安定的に得ることができる。
【0030】
本離型層組成物における(E)フッ素置換基を含まないポリマーの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、本離型層組成物100質量部あたり、例えば99質量部以下であるとよく、好ましくは10~80質量部である。
【0031】
((X)フッ素偏析促進剤)
(X)フッ素偏析促進剤は、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、後述する(B)シリコーン架橋剤及び後述する(C)硬化触媒を含んでなる。
その調製方法としては、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(B)シリコーン架橋剤及び(C)硬化触媒を混合した後、攪拌および/または静置(すなわち、少し時間をおく)を行う“事前処理”を実施するものである。このようにして、常温下において、前記混合液中で架橋反応(「プレ架橋」とも称する)を進行させることで、(X)フッ素偏析促進剤を作製することができる。すなわち、(X)フッ素偏析促進剤は、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーの架橋化物、好ましくは(B)シリコーン架橋剤によって架橋された架橋化物を含有する組成物(事前処理組成物)である。
この際、前記「攪拌および/または静置」すなわち“事前処理”は、架橋反応を進行させる時間経過を伴うものであればよく、例えば振とうなどの他の手段でもよい。また、攪拌および/または静置などの事前処理の時間は、10秒以上行うのが好ましく、1分以上行うのがさらに好ましく、中でも3分以上、中でも5分以上、その中でも15分以上行うのが特に好ましい。事前処理時間の上限に特に制限は無い。溶剤の揮発や作業性の観点から、1週間以内が好ましく、3日以内がさらに好ましく、1日以内であることが特に好ましい。
また、事前処理における混合液の温度は、特に限定されないが、例えば5~50℃程度、好ましくは10~30℃程度である。
【0032】
事前処理によりプレ架橋が適度に進行した状態である、(X)フッ素偏析促進剤を併用することで、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーは、基材フィルムへの塗布後においては(A)成分のフッ素置換基が離型層表面に偏在しやすくなり、軽剥離性が担保される。また、架橋が十分に進行しやすくなり、表面に偏在した(A)成分のフッ素置換基が安定的に保持され、低移行性も確保しやすくなる。
事前処理は、事前処理組成物を有機溶剤で希釈した状態で行ってもよいし、有機溶剤で希釈しなくてもよい。事前処理組成物の固形分濃度は、例えば1~100質量%であるが、好ましくは3~50質量%、より好ましくは5~20質量%程度である。
【0033】
(配合比率)
離型層組成物における、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーと(X)フッ素偏析促進剤との質量比は1:50~1000:1であるのが好ましく、中でも1:20~200:1がより好ましく、その中でも1:10~50:1がさらに好ましく、その中でも1:5~20:1であるのがよりさらに好ましい。
なお、特に限定されないが、(X)成分を得るために使用される(A)成分(第1の(A)成分)としては、溶剤型硬化型シリコーンを使用し、(A)成分(第2の(A)成分)としては、無溶剤型硬化型シリコーンを使用してもよい。
また、(X)成分のフッ素置換基の比率は、例えば(A)成分(第2の(A)成分)のフッ素置換基の比率より高い方が好ましい。その場合の比率の差は、例えば1~15モル%程度でもよく、好ましくは2~12モル%程度、さらに好ましくは4~10モル%程度である。
なお、(X)成分の調製に際し、(A)成分(第1の(A)成分)を、溶剤型硬化型シリコーンとしたり、フッ素置換基の比率を高くしたりすると、(A)成分は架橋されにくくなるが、事前処理によりプレ架橋することで適切に架橋され、該(X)成分を用いることで、離型層組成物の低剥離性と低移行性の両立が図りやすくなる。
【0034】
((B)シリコーン架橋剤)
離型層組成物は、上記の(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーに加えて、(B)シリコーン架橋剤を含むことが好ましい。なお、(B)成分は離型層組成物に直接添加されてもよく、(X)フッ素偏析促進剤を構成する成分として、離型層組成物に添加されてもよく、両方の方法で添加されてもよい。
ここで、「架橋剤」とは、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーなどのポリマー同士を連結する化合物であり、例えば化学的共有結合によって2つ以上の分子を連結することができる化合物である。なお、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーは、シリコーンポリマー同士を連結する化合物である。
【0035】
シリコーン架橋剤として、(B1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤(「非フッ素化シリコーン架橋剤」とも称する。)、(B2)フッ素置換基を含むシリコーン架橋剤(「フッ素化シリコーン架橋剤」とも称する。)などを挙げることができる。
本発明においては(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤と、(B2)フッ素化シリコーン架橋剤のいずれを使用するか特に制限は無いが、事前処理(事前反応)の効果が高いこと、すなわちフッ素の偏在性を高めて、軽剥離性を高め、かつ、残留粘着力を高める効果をより確実なものとする観点から、(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤を用いるのが特に好ましい。(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤は、単独で使用してもよいが、(B2)フッ素化シリコーン架橋剤と併用してもよい。
【0036】
((B1)非フッ素化シリコーン架橋剤)
(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤としては、シロキサン骨格を有する架橋剤であるのが好ましく、シロキサン結合からなる主鎖の側鎖および/又は末端に、珪素原子結合水素原子(SiH基)を有するものが好ましい。より具体的には、下記一般式(1)で示され、一分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上(通常、3~200個程度)、より好ましくは3~100個、その中でも特に3~50個の珪素原子結合水素原子(SiH基)を有するものが好ましい。
【0037】
RbHcSiO(4-b-c)/2 (1)
【0038】
式(1)中、R(シロキサン骨格を構成するSiに直接結合する官能基)は炭素数1~15、好ましくは炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基である。また、bは0.7~2.1、好ましくは0.8~2.0、cは0.001~1.0で、かつb+cは0.8~3.0、好ましくは1.0~2.5を満足する正数である。
【0039】
ここで、Rとしては、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーのRと同様の基を挙げることができるが、好ましくはアルケニル基等の脂肪族不飽和結合を有さないものがよい。好ましい具体例としてはアルキル基、アリール基などが挙げられる。アルキル基、アリール基の詳細は、上記の通りである。
【0040】
上記珪素原子結合水素原子(SiH基)は、分子鎖末端の珪素原子に結合したものであっても、分子鎖途中(分子鎖非末端)の珪素原子に結合したものであっても、これらの両方に結合したものであってもよい。
【0041】
(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤の分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれでもよい。
さらに、一分子中の珪素原子数(又は重合度)は2~3,000であるのが好ましく、中でも3以上がより好ましく、特に4以上がさらに好ましく、また、2000以下がより好ましく、その中でも1000以下がさらに好ましく、その中でも特に500以下であるのがさらに好ましい。
【0042】
(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤としては、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C6H5)SiO3/2単位とからなる共重合体などや、これらの例示化合物において、メチル基の一部又は全部をエチル基、プロピル基等の他のアルキル基、フェニル基等のアリール基で置換したものを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
なお、好ましくは2種類以上の架橋剤を併用するのが好ましい。併用する目的は架橋反応を進行させる作用を期待するものでもある。
【0043】
(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤の含有量(複数種類を使用する場合はその合計量)は、(A)架橋性フッ素含有ポリマー100質量部に対して0.05~25質量部であるのが好ましく、中でも0.1質量部以上がより好ましく、その中でも0.2質量部以上がさらに好ましく、また、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下であるのがさらに好ましく、5質量部以下がよりさらに好ましい。
【0044】
(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤の具体例としては、例えば、東レ・ダウコーニング(株)製の3062A、3062B、3062D、SP 7297などを挙げることができる。
【0045】
((B2)フッ素化シリコーン架橋剤)
他方、(B2)フッ素化シリコーン架橋剤としては、前記(1)式において、Rの少なくとも一部がフルオロ基を有する基であるものを挙げることができる。フルオロ基を有する基としては、上記したフッ素置換基が挙げられる。(B2)フッ素化シリコーン架橋剤のその他の構成は、Rの少なくとも一部がフルオロ基を有する基である点を除いて、(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤で説明したとおりであり、その説明は省略する。
フッ素化シリコーン架橋剤の具体例として、東レ・ダウコーニング(株)製の3062C、Q2-7560などを例示することができる。
【0046】
(B2)フッ素化シリコーン架橋剤の含有量は、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー100質量部に対して0.1~50質量部であるのが好ましく、中でも0.3質量部以上がより好ましく、その中でも0.5質量部以上がさらに好ましく、また、30質量部以下がより好ましく、その中でも20質量部以下であるのがさらに好ましく、10質量部以下であることがよりさらに好ましい。
【0047】
また、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー中の珪素原子結合アルケニル基の合計量に対する、(B)シリコーン架橋剤中の珪素原子結合水素原子(SiH基)のモル比は、0.3~20であるのが好ましく、中でも0.5以上がより好ましく、その中でも特に0.8以上がさらに好ましく、また、10以下がより好ましく、5.0以下であるのがさらに好ましい。
【0048】
((C)硬化触媒)
離型層組成物は、(B)シリコーン架橋剤に加えて、さらに(C)硬化触媒を含むことがより好ましい。なお、(C)成分は直接、離型層組成物に添加されてもよく、(X)フッ素偏析促進剤を構成する成分として、離型層組成物に添加されてもよく、両方の方法で添加されてもよい。
「硬化触媒」は、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーの珪素原子結合アルケニル基と、(B)シリコーン架橋剤のハイドロジェンシラン(SiH)基とのヒドロシリル化付加反応を促進するための触媒である。
硬化触媒としては、例えば白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属系触媒を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0049】
本離型層組成物における硬化触媒の含有量としては、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーの合計量に対して、金属換算量として、0.5~500質量ppmであるのが好ましく、中でも5質量ppm以上がより好ましく、その中でも10質量ppm以上がさらに好ましく、また、500質量ppm以下がより好ましく、200質量ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0050】
(離型層組成物の調製方法)
フッ素偏析促進剤は、前述のとおり、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(B)シリコーン架橋剤及び(C)硬化触媒を混合した後、“事前処理”を行うことで調製することができる。
なお、事前処理前において、(A)、(B)、及び(C)成分を混合する工程を前段工程ともいい、事前処理後に別の(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー(第2の(A)成分)、(E)フッ素置換基を含まないポリマーを混合する工程を後段工程ともいう。
【0051】
前段工程において混合される(B)シリコーン架橋剤としては、上述のように、(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤を用いることが好ましい。この場合、前段工程において使用される(B)シリコーン架橋剤は、(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤単独で使用してもよいし、(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤と(B2)フッ素化シリコーン架橋剤とを併用してもよい。また、前段工程において使用される第1の(A)成分としては、溶剤型硬化型シリコーンを使用してもよい。
さらに、前段工程においては、(A)、(B)及び(C)成分以外の成分を混合してもよく、例えば後述する(D)反応制御剤や、その他の成分で列挙した化合物を適宜混合してもよい。また、前段工程における、各成分の混合は、各成分が組成物において溶解又は概ね均一に分散するまで攪拌などして行うとよい。
【0052】
後段工程においては、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E)フッ素置換基を含まないポリマーに、(X)フッ素偏析促進剤を混合する
(A)成分は、上記の通り、フッ素置換基の比率、フッ素置換基の構造、及び粘度または重量平均分子量の少なくとも何れかが(X)成分の調製で用いた架橋性フッ素含有シリコーンポリマー(第1の(A)成分)とは異なる(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーであってもよい。
ここで、(X)成分と(A)成分(第2の(A)成分)の配合比率については、後に詳述する。また、後段工程において混合される(A)成分は、特に限定されないが、単独で離型層として用いた際に(X)成分を用いた場合よりもシリコーン粘着剤に対して軽剥離であることが好ましい。具体的には(X)成分よりも長いフッ素含有の置換基を有していたり、分岐構造を持ったフッ素含有置換基を含む架橋性フッ素シリコーンを使用するとよい。
【0053】
また、後段工程においては、(X)フッ素偏析促進剤に対して、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーに加えて、(A)成分以外を混合してもよく、例えば、(B)シリコーン架橋剤、(C)硬化触媒などを更に混合してもよい。後段工程において混合される(B)シリコーン架橋剤は、(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤単独又は(B2)フッ素化シリコーン架橋剤単独で使用してもよいし、(B1)非フッ素化シリコーン架橋剤と(B2)フッ素化シリコーン架橋剤とを併用してもよいが、少なくとも1種類の(B2)フッ素化シリコーン架橋剤が含まれることが好ましい。(B2)成分が含まれると(X)フッ素偏析促進剤の効果により離型層表面への偏析度合が高まり、優れた硬化性および軽剥離性が得られやすくなる。
後段工程にて混合する(B)シリコーン架橋剤の配合量は、特に限定されないが、前段工程において混合するシリコーン架橋剤(B)の配合量に対する比が、質量基準で、例えば0.1~100、好ましくは0.25~70、より好ましくは0.5~50である。
【0054】
また、本方法においては、所定のプレ架橋時間経過後に、後述するアセチレンアルコールなどの(D)反応制御剤を添加または追加してもよい。架橋反応が進み過ぎると、材料種によっては液の白濁やゲル化が生じる可能性があるが、反応制御剤を添加又は追加することで架橋反応を適度に抑制できる。
(D)反応制御剤は、(X)フッ素偏析促進剤に混合される、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー((A)成分)に予め添加されていてもよい。
【0055】
((D)反応制御剤)
離型層組成物及び本離型層は、必要に応じて、上記成分以外に、反応制御剤を含有してもよい。
(D)反応制御剤としては、下記一般式(2)で示されるアセチレンアルコールなどを使用することができる。
【0056】
CH≡C-C(R2)(OH)R1 (2)
【0057】
式(2)中、R1は直鎖状又は分岐状の炭素数5~15の1価の炭化水素基であり、R2は直鎖状の炭素数1~3の1価の炭化水素基である。
上記式(2)において、R1は炭素数が6~14の1価の炭化水素基であるのが好ましく、その中でも特に炭素数が8~12の1価の炭化水素基であるのが好ましい。
R1の具体例としては、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等のアルキル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
上記式(2)において、R1の1価の炭化水素基の炭素数が5以上であると、反応制御剤の揮発性が低くなり、制御効果が十分得られる。一方、炭素数が15以下であると、mol当たりのアセチレンアルコールの有効成分が少なくなり制御効果が弱くなることを防止でき、所望する反応制御効果を得るために多量に添加する必要がなくなる。
【0058】
上記式(2)において、R2は、直鎖状の炭素数1~3の1価の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~2の炭化水素基である。R2の具体例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、n-プロペニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。R2の炭素数が少ないほどシリコーン組成物の反応制御効果が出やすく、好ましくはメチル基がよい。
【0059】
反応制御剤は1種類でもよいし、必要に応じて、2種類以上を併用してもよい。
反応制御剤の含有量は、本離型層組成物100質量部あたり、0.001~5.0質量部であるのが好ましく、中でも0.01質量部以上がより好ましく、その中でも0.05質量部以上がさらに好ましく、また、1.0質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下であるのがさらに好ましい。なお、「離型層組成物100質量部」とは、揮発性成分(溶剤)を除いた離型層組成物における固形分100質量部を意味し、以下も同様である。
【0060】
(その他の成分)
離型層組成物は、上記成分以外に、必要に応じてその他の成分を含有することができる。例えば、上記(A)~(E)および(X)以外の非硬化性のシリコーン、シリコーンゴム、シリコーンレジン、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、セルロース等の樹脂や、これらの樹脂をグラフト重合などにより変性させた共重合体等;シリカ粒子、アルミナ粒子、シリコーンゴム粒子、シリコーンレジン粒子、シリコーンゴム/レジン複合粒子等の各種粒子;シランカップリング剤などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0061】
離型層組成物は、必要に応じて、例えば軽剥離化剤、重剥離化剤、密着性向上剤などの添加剤を含有してもよい。
軽剥離化剤、重剥離化剤、密着性向上剤の具体的な例としては、信越化学(株)製のKS-3800、X-92-185;東レ・ダウコーニング(株)製のBY24-850、SD7292、BY24-4980、SP7297、BY24-808、SD7200などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0062】
(固形分)
離型層組成物は、後述する通り、有機溶剤などの希釈溶剤で希釈されてもよい。離型層組成物の固形分濃度は0.1質量%~100質量%であるのが好ましく、中でも0.5質量%以上がより好ましく、その中でも1.0質量%以上がさらに好ましく、その中でも1.5質量%以上がよりさらに好ましく、また、50質量%以下がより好ましく、その中でも20質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下であるのがよりさらに好ましい。
【0063】
離型層組成物の固形分には、上記のとおりアルキルビニルポリシロキサン、及びアルキルハイドロジェンポリシロキサンが含まれることが好ましい。その中で、ビニル基などのアルケニル基を含有するアルキルビニルポリロキサンの好ましい量は、固形分質量当たり、85.0~99.9質量%であり、中でも90.0質量%以上がより好ましく、その中でも92.0質量%以上がさらに好ましく、また、99.5質量%以下がより好ましく、99.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0064】
<<離型フィルム>>
本発明の実施形態の一例に係る離型フィルムは、基材フィルムと、基材フィルムの片面側又は両面側に離型層を備えたものである。
【0065】
<離型層>
離型フィルムにおける離型層は、上記離型層組成物を硬化してなる層である。
当該離型層内の厚み方向におけるフッ素原子の濃度分布において、フッ素が離型層表面に偏在しているのが好ましい。
このように離型層表面にフッ素が偏在することにより、シリコーン粘着剤層に対して剥離し易い優れた軽剥離性と低移行性を実現することができると推察される。
本発明では、上記の通り、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E)フッ素置換基を含まないポリマーおよび(X)フッ素偏析促進剤を含むことで、フッ素を離型層表面に偏在させることができる。
【0066】
なお、(X)フッ素偏析促進剤を用いた場合は、(X)フッ素偏析促進剤を併用しなかった場合と比べ、いっそうフッ素を表面に偏在させることができる。すなわち、上記のような構成とすることにより、(X)フッ素偏析促進剤を併用しなかった場合に比べて、軽剥離性や低移行性、基材への密着性を高めることが可能である。その詳細なメカニズムは明らかではないが、“事前処理”された(X)フッ素偏析促進剤は液中で反応が進み分子量が高まる。その結果、(X)フッ素偏析促進剤は離型層表面へいっそう偏析し易くなる。(X)フッ素偏析促進剤は、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーや、その架橋剤と親和性が高いため、架橋性フッ素含有シリコーンポリマーも“つられて”離型層表面への偏析が促進され、軽剥離性が得られると推測する。
このようにフッ素を離型層表面に偏在させるようにするには、(X)フッ素偏析促進剤を併用することが好ましい。但し、かかる方法に限定するものではない。
【0067】
離型層におけるフッ素原子含有量は、シリコーン粘着剤に対して安定して好ましい軽剥離性を得ることができる観点から、3000モルppm以上であるのが好ましく、中でも10,000モルppm以上、その中でも50,000モルppm以上であるのがさらに好ましい。一方、上限は特に限定されないが、900,000モルppm以下が好ましく、800,000モルppm以下が好ましく、700,000モルppm以下がさらに好ましい。
【0068】
本離型層表面におけるフッ素原子比率は、好ましくは20%以上80%以下である。フッ素原子比率が上記範囲内であることで軽剥離性と低移行性の両立を図りやすくなる。フッ素原子比率は、より好ましくは25%以上60%以下、さらに好ましくは30%以上50%以下である。
フッ素原子比率は、XPS(X線光電子分光法)にGC-IB(ガスクラスターイオンビーム)を用いて、炭素(C)、酸素(O)、珪素(Si)及びフッ素(F)の原子を測定対象にして、フッ素原子の比率を求めることで測定できる。
【0069】
また、本離型層は、厚み方向のフッ素濃度分布比td(t1[75%]/t2[50%])が、1~70%であることが好ましい。なお、厚み方向のF濃度分布比td(t1[75%]/t2[50%])は、以下の方法で測定される。
すなわち、XPSにGC-IBを用いて、スパッタ速度(スパッタ条件設定)一定下において、試料フィルムの離型層内の厚み方向における炭素(C)、酸素(O)、珪素(Si)及びフッ素(F)の原子を対象に濃度分布(比率)を測定する。得られたフッ素原子濃度分布において、最表面(スパッタ時間0)のフッ素原子比率を基準とした時、フッ素原子比率が最表面の75%まで低下するのにかかるスパッタ時間(t1[75%])と、フッ素原子比率が最表面の50%まで低下する時間(t2[50%])との比td(t1[75%]/t2[50%])を百分率(%)で算出する。
【0070】
比td(t1[75%]/t2[50%])は、値が小さいほど、フッ素が離型層表面側に偏在していることを意味する。したがって、比td(t1[75%]/t2[50%])が上記のとおり70%以下と低くなると、軽剥離性を実現しやすくなる。そのような観点から、比td(t1[75%]/t2[50%])は、60%以下がより好ましく、55%以下がさらに好ましく、50%以下がよりさらに好ましい。
また、比td(t1[75%]/t2[50%])は、値が大きいほど、本離型層の内部までフッ素原子が一定量分散して、離型層表面のフッ素が安定的に保持され、シリコーン粘着剤層に対する離型剤成分の移行を防止できる。そのような観点から、比td(t1[75%]/t2[50%])は、上記の通り1%以上であることが好ましいが、より好ましくは4%以上、さらに好ましくは7%以上、特に好ましくは10%以上である。
【0071】
(離型層の膜厚)
離型層の膜厚は、特に限定するものではない。離型層の膜厚が厚ければ、基材の影響、例えば基材の硬さの影響を離型フィルムの離型面に伝えづらくなり、好ましい。以上の点から、離型層の膜厚は0.01μm以上であるのが好ましく、中でも0.05μm以上、その中でも0.10μm以上であるのがさらに好ましい。その一方、離型層の膜厚を一定以下とすると、ブロッキングの発生、コート外観の悪化などを防止できることから、10μm以下であるのが好ましく、中でも5μm以下、その中でも3μm以下、1μm以下であるのがさらに好ましく、0.5μm以下であるのが特に好ましい。
【0072】
<基材フィルム>
上記離型フィルムの基材フィルムとしては、フィルム状を呈するものであれば、その材料を特に限定するものではない。例えば、紙製、樹脂製、金属製などであってもよい。これらの中でも、機械的強度および柔軟性の観点から、樹脂製であることが好ましい。
【0073】
樹脂製の基材フィルム(樹脂フィルム)としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミドなどの高分子を膜状に形成したフィルムを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。また、フィルム化が可能であれば、これらの材料を混合したもの(ポリマーブレンド)や構成単位を複合化したもの(共重合体)であっても構わない。
【0074】
上記例示したフィルムの中でも、ポリエステルフィルムは、耐熱性、平面性、光学特性、強度などの物性が優れており、特に好ましい。
上記ポリエステルフィルムは単層でも、性質の異なる2以上の層を有する多層フィルム(積層フィルム)でもよい。
また、ポリエステルフィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された延伸フィルムであるのが好ましい。その中でも、力学特性のバランスや平面性の観点で、二軸延伸フィルムであるのがより好ましい。
【0075】
上記ポリエステルフィルムの主成分樹脂であるポリエステルは、ホモポリエステルであっても、共重合ポリエステルであってもよい。
なお、主成分樹脂とは、本ポリエステルフィルムを構成する樹脂の中で最も質量割合の大きい樹脂の意味であり、本ポリエステルフィルムを構成する樹脂の50質量%以上、或いは75質量%以上、或いは90質量%以上、或いは100質量%を占める場合が想定される。
【0076】
上記ホモポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などを挙げることができ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
代表的なホモポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等を例示することができる。
【0077】
一方、上記ポリエステルが共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体であることが好ましい。
共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の一種又は二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0078】
中でも、基材フィルムの主成分樹脂としては、60モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0079】
基材フィルムは、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を含有することも可能である。粒子を含有する場合、含有する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。さらに、ポリエステルの製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0080】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0081】
粒子の平均粒径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは0.1μm以上3μm以下の範囲である。平均粒径を上記範囲で用いることにより、フィルムに適度な表面粗度を与え、良好な滑り性と平滑性が確保できる。
なお、上記粒子の平均粒径は、以下の通り測定することができる。
原料としての粒子の平均粒径は、動的光散乱法等によって測定される体積基準粒度分布から求められる平均粒径(D50)として測定することができる。
基材フィルムに含有されている状態の粒子の平均粒径は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)を使用し、基材フィルムの表面或いは断面を観察し、10個以上の粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、断面形状が楕円形である場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
【0082】
さらに基材フィルム中の粒子含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.0003質量%以上3質量%以下の範囲である。粒子含有量をこれら下限値以上とすることで滑り性を確保できる。また、粒子がない場合、あるいは少ない場合は、フィルムの透明性が高くなり良好なフィルムとなる。ただし、滑り性が不十分となる場合があるため、塗布層中に粒子を入れることにより滑り性を向上させる等の工夫が必要な場合がある。
【0083】
また、多層フィルムにおいては、基材フィルムの表面を構成する表面層と、コア層を有するとよいが、表面層が上記粒子を有するとよい。表面層が上記粒子を含有する場合には、表面層における粒子の含有量が上記範囲内となるとよい。
多層フィルムは、表面層とコア層の2層構造であってもよいし、表面層、コア層及び表面層の3層構造であってもよい。また、コア層が2層以上からなり、4層以上の層構造を有してもよい。
【0084】
<離型フィルムの構成例>
離型フィルムは、基材フィルムの片面側又は両面側に離型層を備えた構成であればよく、後述するように、離型フィルムの片面側又は両面側において、基材フィルムと離型層とは直接積層してもよいし、他の層を介して積層してもよい。
【0085】
前記「他の層」としては、例えば、基材フィルムと離型層との密着性を高めるためのアンカーコート層、フィルム表面への配合物やオリゴマーの滲み出し(ブリード、プレートアウト)を封止するオリゴマー封止層、帯電防止性を備えた帯電防止層などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0086】
離型フィルムの具体的構成例としては、基材フィルム/離型層、基材フィルム/アンカーコート層/離型層、基材フィルム/帯電防止層/離型層、基材フィルム/オリゴマー封止層/離型層、帯電防止層/基材フィルム/帯電防止層/離型層、オリゴマー封止層/基材フィルム/オリゴマー封止層/離型層、基材フィルム/帯電防止層/オリゴマー封止層/離型層、離型層/基材フィルム/離型層、離型層/アンカーコート層/基材フィルム/アンカーコート層/離型層、離型層/帯電防止層/基材フィルム/帯電防止層/離型層、離型層/オリゴマー封止層/基材フィルム/オリゴマー封止層/離型層、離型層/オリゴマー封止層/帯電防止層/基材フィルム/帯電防止層/オリゴマー封止層/離型層などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0087】
(アンカーコート層)
前記アンカーコート層としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン系共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、これらの変性物などの高分子材料を含有するものを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0088】
(オリゴマー封止層)
前記オリゴマー封止層は、加水分解性アルコキシシリケート及び/又はその重縮合物を含有するものでもよい。加水分解性アルコキシシリケートとしては、次の一般式(3)で示す構造(R1は、炭素数が1~10の炭化水素基を表す。)を挙げることができる。
【0089】
Si(OR1)4 (3)
【0090】
式(3)中、R1は、炭素数が1~10の炭化水素基を表す。
【0091】
上記オリゴマー封止層は、さらに無機系粒子を含有してもよく、無機系粒子の具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、バリウム塩等を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
また、上記オリゴマー封止層は、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、有機系高分子粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料等が含有されていてもよい。但し、これらに限定するものではない。
【0092】
(帯電防止層)
帯電防止層は、帯電防止性付与の観点から、導電性ポリマー及びバインダーポリマーを含有するのが好ましい。
なお、塗布液中には、本発明の主旨を損なわない範囲において、その他の成分を含有していても構わない。
【0093】
前記導電性ポリマーは、具体的には下記式(4)に示す繰り返し単位を有するポリチオフェンおよびその誘導体(I)を含有するのが好ましい。
【0094】
【0095】
上記式(4)において、R1,R2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~12の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、もしくは芳香族炭化水素基をあらわし、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシレン基、ベンゼン基などである。但し、これらに限定するものではない。
【0096】
なお、上記のアンカーコート層、帯電防止層、オリゴマー封止層などの層は、フィルム状の基材を製膜すると同時に形成するインラインコーティング法や、製膜済みの基材フィルムに別途工程で形成するオフラインコーティング法のどちらを採用して形成することもできる。インラインコーティング法の具体例としては、例えばポリエステルを溶融押出ししてから二軸延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸シート、その後に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルムの何れかにコーティングする方法である。
【0097】
<<離型層組成物及び離型フィルムの製造方法>>
次に、離型層組成物及び離型フィルムの製造方法の一例について説明する。本発明の離型層組成物の好ましい製造方法の一例としては、少なくとも1種類以上の(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーについて、事前に配合液中で架橋反応が行われ、その後、少なくとも別の(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーが混合されて調製される。
より具体的には、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー(第1の(A)成分)、(B)シリコーン架橋剤及び(C)硬化触媒を混合した後、攪拌および/または静置を行う“事前処理”を実施し、事前処理組成物((X)フッ素偏析促進剤)を得る。次に、該事前処理組成物((X)フッ素偏析促進剤)と、第1の(A)成とは別の(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー(第2の(A)成分)とを混合して離型層組成物を調製する方法が挙げられる。
そして、得られた離型層組成物は、この離型層組成物を基材フィルムの少なくとも片面側に塗布することにより、離型フィルムを製造するとよい。
【0098】
一般的に、離型フィルムにおいて、架橋性フッ素シリコーンポリマー(フッ素化シリコーン)の使用量を低減させる方策として、例えば、離型層におけるフッ素化シリコーンの含有割合を低減させたり、離型層の膜厚を薄くしたりする等の方策が考えられる。しかし、前者の方法では、本来の目的である軽剥離性が損なわれるし、後者の方法では、離型層を均一に形成出来なかったり、剥離力の安定性が低下したりするなどの問題がある。
これに対し、本発明では、上記のとおり、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E)フッ素置換基を含まないポリマーおよび(X)フッ素偏析促進剤(事前処理組成物)を含むことにより、軽剥離性を維持できる。
通常、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーに対し、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーを多く(例えば固形分重量で2倍)混合した溶液をフィルム上に塗布及び乾燥した場合、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーの離型層表面への偏析が十分に起こらず、所望する軽剥離性を得にくいことがある。
そこで本発明では、離型層の形成において、先ず、“事前処理”を行なった(X)フッ素偏析促進剤を準備し、次に、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E)フッ素置換基を含まないポリマーを混合して離型層組成物を調製することで、(A)架橋性フッ素含有ポリマーを離型層表面へ十分に偏析させることができ、且つ、シリコーン粘着剤に対してより剥離し易い(軽剥離性)塗膜形成を実現することができる。
【0099】
上記事前処理で得られた(X)フッ素偏析促進剤と、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーとを混合した後、必要に応じて溶剤で希釈して離型層組成物を調製するのが好ましい。
希釈のための溶剤としては、極性溶媒でもよく、非極性溶媒であってもよい。さらに、上記溶剤を2種類以上混合して用いてもよい。
前記の極性溶媒としては、エタノール、(イソ)プロピルアルコールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸(イソ)プロピル、酢酸(イソ)ブチル、酢酸(イソ)ペンチル、乳酸エチル、安息香酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール類、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリルなどを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0100】
前記の非極性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、イソヘキサン、イソオクタン、イソノナンなどの分岐構造を有する炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素類、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、ジオキサンなどを挙げることができる。
非極性溶媒としてフッ素溶媒を使用してもよい。フッ素溶媒としては、ハイドロフルオロエーテル類、メタキシレンヘキサフルオライド、トリデカフルオロオクタンなどを挙げることができる。また、フッ素溶媒としては、「FSシンナー」(信越化学(株)製)などの市販品を使用してもよい。但し、これらに限定するものではない。
【0101】
離型層組成物を基材フィルムに塗布する方法としては、例えば「コーティング方式」(原崎勇次著、槙書店、1979年発行)に示されるような塗布技術を用いることができる。例えばコーティングヘッドとして、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースロールコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレイコーター、カーテンコーター、カレンダコーター、押出コーター等が例示される。但し、これらに限定するものではない。
【0102】
なお、離型層組成物の調製方法は、上記した方法に限定されず、他の方法でもよく、例えば、上記事前処理を行なわなくてもよい。すなわち、(X)成分、(B)成分及び(C)成分を混合した後、速やかに、得られた組成物に、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー((A)成分)を混合して離型層組成物を調製してもよい。
また、離型層組成物は、該組成物を構成する成分を混合して得る限り、他のいかなる方法で行ってもよく、各成分を上記と異なる順番で混合してもよい。
また、離型層組成物に上記した(E)成分、その他の成分などを含有させる場合には、これら成分は、任意の段階で配合すればよい。
【0103】
(他の層の形成方法)
離型フィルムは、上述のように、基材フィルムの片面又は両面に、必要に応じてアンカーコート層、帯電防止層、オリゴマー封止層などの「他の層」を形成した後、離型層組成物を塗布し、硬化させて形成することができる。
このように「他の層」を形成する場合には、ロール状態より巻き出された基材フィルムの少なくとも片面側に、必要に応じて、アンカーコート層、帯電防止層、オリゴマー封止層などの「他の層」を形成した後、離型層組成物を塗布、硬化させることで離型層を形成する。
【0104】
<離型フィルムの物性>
離型フィルムは次の物性を有することができる。
【0105】
(加熱剥離力)
本離型層の加熱剥離力は、65mN/cm以下であるのが好ましく、60mN/cm以下であるのがより好ましく、中でも40mN/cm以下、その中でも30mN/cm以下、その中でも特に20mN/cm以下であるのがさらに好ましい。加熱剥離力が低いほど、シリコーン粘着剤との剥離に必要な力が少なくて済み、生産工程における剥離不良、粘着層変形などの不具合を抑制することができる。また、軽剥離性に優れる離型フィルムを使用することで、粘着シートの両面に剥離フィルムを備える両面粘着テープにおいて、意図しない側の剥離フィルムが剥がれてしまう現象を防止することが可能である。
一方、下限に関しては、特に限定するものではないが、剥離フィルムと粘着剤とを積層させた積層体を長期保管する上で、1mN/cm以上であるのが好ましい。
なお、加熱剥離力の評価は後述の方法で実施することができる。
【0106】
(粘着剤剥離力)
本離型層の粘着剤剥離力は、750mN/cm以下であるのが好ましく、中でも600mN/cm以下、その中でも500mN/cm以下、その中でも特に400mN/cm以下であるのがさらに好ましい。粘着剤剥離力が低いほど、シリコーン粘着剤との剥離に必要な力が少なくて済み、生産工程における剥離不良、粘着層変形などの不具合を抑制することができる。また、軽剥離性に優れる離型フィルムを使用することで、粘着シートの両面に剥離フィルムを備える両面粘着テープにおいて、意図しない側の剥離フィルムが剥がれてしまう現象を防止することが可能である。
一方、粘着剤剥離力の下限に関しては特に限定するものではないが、剥離フィルムと粘着剤とを積層させた積層体を長期保管する上で、1mN/cm以上であるのが好ましい。
なお、粘着剤剥離力の評価は後述の方法で実施することができる。
【0107】
(残留接着率)
離型層の残留接着率は、85%以上、好ましくは90%以上であるのが好ましく、中でも95%以上がさらに好ましい。
上記範囲を満足することにより、離型層表面が接触する相手方被着体表面への離型層成分の転着が少なくなる。
なお、残留接着率とは、剥離剤の移行を確認するための指標であり、通常,粘着テープを剥離剤塗工面などに貼って、剥がしたあとの粘着力について、ブランクに対する相対比率で表示した値である(JIS Z 0109:2015参照)。
本願において残留接着率の評価は、後述の方法で実施するものとする。
【0108】
<<フィルム積層体>>
上記離型フィルム(以下、適宜「本発明の離型フィルム」ということがある)は、各種のフィルム積層体に使用できる。
本発明の実施形態の一例にかかるフィルム積層体としては、本発明の離型フィルムと、シリコーン粘着剤層と、機能層を有する積層フィルムとを備え、本発明の離型フィルムと、機能層を有する積層フィルムとがシリコーン粘着剤層を介して貼り合わされてなるものを挙げることができる。なお、各フィルム積層体において、本発明の離型フィルムは、離型層がシリコーン粘着剤層に接触する位置に配置される。
【0109】
<積層フィルム(1)>
前記の「機能層を有する積層フィルム」としては、例えば、基材フィルムと、基材フィルムの少なくとも片面側に、架橋樹脂層すなわち樹脂が架橋してなる構造を備えた層を有する積層フィルム(「積層フィルム(1)」と称する。)を挙げることができる。なお、基材フィルムとしては、上記<基材フィルム>として説明したものと同様である。なお、以下の説明では、積層フィルム(1)の基材フィルムは、基材フィルム(1)ということがある。
【0110】
上記積層フィルム(1)において、前記架橋樹脂層は、例えば、導電性ポリマーおよびバインダーポリマー、必要に応じて架橋剤、粒子を含有する架橋樹脂層組成物から形成されたものを例示することができる。このような架橋樹脂層は、例えば、基材フィルム(1)のシリコーン粘着剤層に接着される側の面とは反対側の面に設けられるとよい。
【0111】
(導電性ポリマー)
前記導電性ポリマーとして、ポリチオフェン系化合物とポリ陰イオンからなる組成物を含有することが好ましい。
【0112】
前記ポリ陰イオンとは、「遊離酸状態の酸性ポリマー」のことを指し、高分子カルボン酸、あるいは、高分子スルホン酸、ポリビニルスルホン酸などが好ましい。高分子カルボン酸の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸が例示される。高分子スルホン酸の具体例として、ポリスチレンスルホン酸が例示される。中でも、ポリスチレンスルホン酸が導電性の点で最も好ましい。なお、遊離酸の一部が中和された塩の形をとってもよい。これらポリ陰イオンを重合時に用いることにより、本来、水に不溶なポリチオフェン系化合物を水分散あるいは水性化しやすく、かつ、酸としての機能がポリチオフェン系化合物のドーピング剤としての機能も果たすものと考えられる。
【0113】
また、高分子カルボン酸や高分子スルホン酸は、共重合可能な他のモノマー、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどと共重合した形で用いることもできる。ポリ陰イオンとして用いられる高分子カルボン酸や高分子スルホン酸の分子量は特に限定されないが、塗剤の安定性や導電性の点で、その質量平均分子量は1000~1000000が好ましく、より好ましくは5000~150000である。本発明の特性を阻害しない範囲で、一部リチウム塩やナトリウム塩などのアルカリ塩やアンモニウム塩などを含んでも良い。中和された塩の場合も、非常に強い酸として機能するポリスチレンスルホン酸とアンモニウム塩は、中和後の平衡反応の進行により、酸性側に平衡がずれることが分かっており、これによりドーパントとして作用すると考えられる。
【0114】
ポリチオフェン系化合物としては、ポリチオフェンまたはその誘導体が挙げられる。ポリチオフェンまたはその誘導体は上記の通りである。ポリチオフェン系化合物に対して、ポリ陰イオンは、固形分質量比でより過剰に存在させた方が導電性の点で好ましく、ポリチオフェン系化合物1質量部に対し、ポリ陰イオンは1質量部~5質量部が好ましく、1質量部~3質量部がより好ましい。上記ポリチオフェン系化合物とポリ陰イオンからなる組成物に関して、例えば、特開平6-295016号公報、特開平7-292081号公報、特開平1-313521号公報、特開2000-6324号公報、ヨーロッパ特許EP602731号、米国特許US5391472号などに記載例があるが、これら以外の方法であってもよい。一例を挙げると、3,4-ジヒドロキシチオフェン-2,5-ジカルボキシエステルのアルカリ金属塩を出発物質として、3,4-エチレンジオキシチオフェンを得た後、ポリスチレンスルホン酸水溶液にペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸鉄と、先に得た3,4―エチレンジオキシチオフェンを導入し、反応させ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などのポリチオフェン系化合物に、ポリスチレンスルホン酸などのポリ陰イオンが複合体化した組成物を得る方法がある。
また、例えば、導電性ポリマー技術の最新動向(株式会社 東レリサーチセンター発行 1999年6月1日 第1刷)にも記載例がある。
【0115】
(バインダーポリマー)
架橋樹脂層組成物を構成するバインダーポリマーとは、高分子化合物安全性評価フロースキーム(昭和60年11月、化学物質審議会主催)に準じて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(Mn)が1000以上の高分子化合物で、かつ造膜性を有するものと定義する。
【0116】
架橋樹脂層組成物を構成するバインダーポリマーとしては、イオン性ポリマーと相溶又は混合分散可能であれば、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂;エポキシ樹脂;オキセタン樹脂;キシレン樹脂;アラミド樹脂;ポリイミドシリコーン;ポリウレタン;ポリウレア;メラミン樹脂;フェノール樹脂;ポリエーテル;アクリル樹脂及びこれらの共重合体等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を併用してもよい。但し、これらに限定するものではない。
【0117】
前記バインダーポリマーは、原料として、有機溶剤に溶解されていてもよいし、ヒドロキシル基やスルホ基、カルボキシ基等の官能基が付与されて水溶液化若しくは界面活性剤を併用して水分散化されていてもよい。また、バインダーポリマーには、必要に応じて、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶媒、粘度調整剤等を併用してもよい。
【0118】
前記バインダーポリマーの中でも、離型層との密着性の観点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂の中から選択されるいずれか1種類以上の使用が好ましい。
【0119】
架橋樹脂層組成物中におけるバインダーポリマーの含有量は、固形分質量比で、好ましくは5~90質量%であり、より好ましくは10~70質量%であり、さらに好ましくは10~60質量%である。バインダーポリマーの含有量が、上記範囲にあれば、得られる架橋樹脂層の強度や離型層への密着性を十分に得ることができる。
【0120】
(架橋剤)
架橋樹脂層組成物には、必要に応じて架橋剤を含ませることができる。
架橋剤は主に、他の樹脂や化合物に含まれる官能基との架橋反応や、自己架橋によって、架橋樹脂層の凝集性、表面硬度、耐擦傷性、耐溶剤性、耐水性等を改良することができる。
【0121】
架橋剤はどのような種類の架橋剤でも使用することが可能である。例えばメラミン化合物、グアナミン系、アルキルアミド系、及びポリアミド系の化合物、グリオキサール系、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アジリジン化合物、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、ジアルコールアルミネート系カップリング剤、ジアルデヒド化合物、ジルコアルミネート系カップリング剤、過酸化物、熱又は光反応性のビニル化合物や感光性樹脂等が好適に用いられる。中でも、離型層への良好な密着性を相乗的に得るという観点から、メラミン化合物、エポキシ化合物の架橋剤やシランカップリング剤を用いることが好ましい。
また、これら架橋剤には他のポリマー骨格に反応性基を持たせた、ポリマー型架橋反応性化合物も含まれており、さらに本発明においては、これら架橋剤を1種又は2種以上を併用してもよい。
【0122】
架橋樹脂層組成物中における架橋剤の含有量は、固形分質量比で、好ましくは1~90質量%であり、より好ましくは3~50質量%であり、さらに好ましくは5%~40%である。架橋剤の比率が、上記の範囲にあれば、バインダーポリマーとの相乗作用による離型層への密着性を十分に得ることができる。
【0123】
(粒子)
架橋樹脂層の固着性、滑り性改良を目的として、架橋樹脂層は粒子を含有してもよい。
当該粒子の平均粒径に特に制限はない。例えば光学用途に用いる場合はフィルムの透明性の観点から、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以下である。また架橋樹脂層の固着性、滑り性改良を得る観点から好ましくは0.01μm以上である。
粒子の具体例としてはシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化チタン等の不活性無機粒子やポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリビニル系樹脂から得られる微粒子あるいはこれらの架橋粒子に代表される有機粒子等を挙げることができる。
【0124】
なお、上記粒子の平均粒径は、以下の通り測定することができる。
原料としての粒子の平均粒径は、動的光散乱法等によって測定される体積基準粒度分布から求められる平均粒径(D50)として測定することができる。
架橋樹脂層に含有されている状態の粒子の平均粒径は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)を使用し、架橋樹脂層の表面或いは断面を観察し、10個以上の粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、断面形状が楕円形である場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
【0125】
また、前記架橋樹脂層は、別の実施態様として、バインダーポリマー、架橋剤、シランカップリング剤、粒子などを含む組成物から形成される、易接着層であってもよい。易接着層は、シリコーン粘着剤層に対する易接着層であり、基材フィルム(1)のシリコーン粘着剤層に接着される側の面に設けられるとよい。バインダーポリマー、架橋剤、及び粒子は、上記で説明したとおりである。
【0126】
(その他)
架橋樹脂層は、必要に応じて界面活性剤、消泡剤、塗布性改良剤、離型剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、導電剤、紫外線等光吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等が含有されてもよい。
【0127】
架橋樹脂層中の成分の分析は、例えば、TOF-SIMS、ESCA、蛍光X線等の分析によって行うことができる。
また、積層フィルム(1)において、基材フィルム(1)の一方の面に導電性ポリマーおよびバインダーポリマーを含有する架橋樹脂層組成物から形成される架橋樹脂層が設けられ、他方の面に上記易接着層が設けられてもよい。
【0128】
(架橋樹脂層の形成方法)
架橋樹脂層の形成方法に関しては、ポリエステルフィルムなどの延伸フィルムの延伸工程中など、基材フィルム(1)の製造ライン上においてフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造した基材フィルム(1)上に製造ラインの系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。製膜と同時に塗布が可能であるため、製造が安価に対応可能であり、架橋樹脂層の厚みを延伸倍率により変化させることができるという点でインラインコーティングが好ましく用いられる。
【0129】
インラインコーティングについては、以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては、特に縦延伸が終了した横延伸前にコーティング処理を施すことができる。インラインコーティングによりポリエステルフィルムなどの基材フィルム(1)上に架橋樹脂層が設けられる場合には、製膜と同時に塗布が可能になると共に架橋樹脂層を高温で処理することができ、積層フィルム(1)として好適なポリエステルフィルムを製造できる。
【0130】
インラインコーティングによって架橋樹脂層を設ける場合は、上述の一連の化合物を含む架橋樹脂層組成物の水溶液又は水分散体としての塗布液を、ポリエステルフィルムなどの基材フィルム(1)上に塗布する要領にて行うのが好ましい。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は1種又は2種以上を併用することができる。
【0131】
塗布液中の有機溶剤の含有量は10質量%以下が好ましく、さらに好ましくは5質量%以下である。具体的な有機溶剤の例としては、n-ブチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール等の脂肪族アルコール又はシクロヘキサノール等の脂環族アルコール類、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、n-ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール誘導体、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸アミル等のエステル類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、N-メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。
【0132】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、架橋樹脂層組成物を架橋などするために、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。
【0133】
架橋樹脂層を形成する方法としては、例えば、グラビアコート、リバースロールコート、ダイコート、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、カーテンコート、ナイフコート、トランスファロールコート、スクイズコート、カーテンコート、含浸コート、キスコート、スプレーコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗布方式を用いることができる。
【0134】
(架橋樹脂層の厚さ)
架橋樹脂層の厚さは、最終的な被膜としてみた際に、各種機能性を発現させる観点から、0.01μm~3μmであるのが好ましく、中でも0.02μm以上がより好ましく、その中でも0.03μm以上がさらに好ましく、また、1μm以下がより好ましく、その中でも0.3μm以下であるのがさらに好ましい。
なお、架橋樹脂層組成物を含む塗布液の塗布量は、固形分量で通常0.01~3g/m2、好ましくは0.01~1g/m2、さらに好ましくは0.01~0.3g/m2である。0.01g/m2以上であれば、帯電防止性能又はシリコーン粘着剤層への接着性(すなわち、易接着性能)において十分な性能が得られる。また、3g/m2以下であれば、架橋樹脂層は、外観・透明性が良好で、フィルムのブロッキング、ライン速度低下による生産性の低下を招くおそれがない。
本発明において塗布量は、塗布した時間あたりの液質量(乾燥前)、塗布液不揮発分濃度、塗布幅、延伸倍率、ライン速度等から計算で求めることができる。
【0135】
<積層フィルム(2)>
前記の「機能層を有する積層フィルム」としては、例えば、基材フィルムと、基材フィルムの片面側に設けた、他の離型層を備えた離型フィルム(「積層フィルム(2)」と称する)を挙げることができる。他の離型層は、シリコーン粘着剤層側に設けられるとよく、積層フィルム(2)は他の離型層を介してシリコーン粘着剤層に接着される。なお、他の離型層は、上記した離型層以外の離型層であるとよく、例えばシリコーン剥離剤から形成される離型層などであってもよい。なお、基材フィルムとしては、上記<基材フィルム>として説明したものと同様である。なお、以下の説明では、積層フィルム(2)の基材フィルムは、基材フィルム(2)ということがある。
【0136】
前記他の離型層の一例として、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される第1層、フッ素置換基を有する成分を含有する第2層を順次備えた構成からなるものを挙げることができる。この構成においては、第2層がシリコーン粘着剤層に接触する層となるとよい。第2層としては、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される層を挙げることができる。
【0137】
前記「他の離型層」の別の一例として、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される層を挙げることができる。
【0138】
さらに前記「他の離型層」の別の一例として、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される層を挙げることができる。
【0139】
前記の「主成分」とは、構成成分のうち、最も質量割合の大きな成分を意味するものである。
また、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー及び(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーは、上記で説明したとおりであるが、他の離型層では、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーは必ずしも2種以上使用する必要はない。
また、積層フィルム(2)において、基材フィルム(2)の一方の面に他の離型層が設けられ、他方の面に導電性ポリマーおよびバインダーポリマーを含有する架橋樹脂層組成物から形成される架橋樹脂層が設けられてもよい。
【0140】
<樹脂フィルム>
本発明の実施形態の別の一例にかかるフィルム積層体としては、上述した本発明の離型フィルムと、シリコーン粘着剤層と、樹脂フィルムとを備え、本発明の離型フィルムに、シリコーン粘着剤層を介して、樹脂フィルムを直接貼り合わされてなる構成を備えたものを挙げることができる。なお、直接貼り合わせるとは、樹脂フィルム自体が、上記した架橋樹脂層などの他の層を介せずにシリコーン粘着剤層に接着されることを意味する。
樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリオレフィンフィルムなど、従来から公知のフィルムを目的に応じて使用することができる。
【0141】
<フィルム積層体の用途>
フィルム積層体は、耐久性および透明性が良好なシリコーン粘着剤を用いることができる観点から、車載用部材の貼り合わせに用いるのが好ましい。
【0142】
<離型フィルム及びフィルム積層体の使用方法>
本発明の離型フィルムは、シリコーン粘着剤に対して優れた離型性を有することから、シリコーン粘着剤に対する軽剥離フィルムとして次のように使用することができる。
すなわち、本発明の離型フィルム(「軽剥離フィルム」と称する)は、該軽剥離フィルムと、シリコーン粘着剤層と、重剥離フィルムとを備え、軽剥離フィルムをシリコーン粘着剤層の一方の面側に、重剥離フィルムを当該シリコーン粘着剤層の他方の面側に積層してなり、重剥離フィルムが軽離型フィルムよりも剥離強度(例えば、上記の常態剥離力)が高い、フィルム積層体において使用することができる。このフィルム積層体においては、軽剥離フィルムを剥がした後、露出したシリコーン粘着剤層表面を「被着体」に貼着させ、必要に応じて該シリコーン粘着剤層を硬化させた後、前記重剥離フィルムを剥離するようにして使用することができる。すなわち、上記積層フィルム(2)を有するフィルム積層体は、かかる使用方法に好適に使用できる。ただし、かかる使用方法に限定するものではない。
【0143】
各フィルム積層体が備えるシリコーン粘着剤層が貼付される被着体としては、例えば各種工程紙、合い紙、光学部材を挙げることができる。前記光学部材としては、偏光板、又は、タッチセンサーなどを挙げることができる。また、シリコーン粘着剤自体が有する耐熱性、耐寒性、耐候性、高透明性を活かして、自動車に搭載されるタッチパネルなどの車載用にも利用でき、したがって、上記被着体は車載用光学部材が好ましい。
【0144】
(シリコーン粘着剤)
上記各シリコーン粘着剤層は、シリコーン粘着剤からなる。前記シリコーン粘着剤は、シリコーンを主成分樹脂とする粘着剤であればよい。当該「主成分樹脂」とは、粘着剤を構成する樹脂の中で最も含有割合(質量)の大きな樹脂の意味である。
前記シリコーン粘着剤は、例えば付加反応型、過酸化物硬化型又は縮合反応型のシリコーン粘着剤等を挙げることができる。中でも、低温短時間で硬化可能という観点から、付加反応型シリコーン粘着剤が好ましく用いられる。なお、これらの付加反応型シリコーン粘着剤は支持体上への粘着剤層の形成時に硬化するものである。
前記シリコーン粘着剤として、付加反応型シリコーン粘着剤を用いる場合、前記シリコーン粘着剤は白金触媒等の触媒を含んでいてもよい。
例えば、前記付加反応型シリコーン粘着剤は、必要に応じて、トルエン等の溶剤で希釈したシリコーン樹脂溶液を、白金触媒等の触媒を添加して均一になるよう攪拌した後、支持体上に塗布し、100~130℃で1~5分間加熱することで硬化させることができる。
また、必要に応じて、前記付加反応型シリコーン粘着剤に架橋剤、粘着力を制御するための添加剤を加えたり、前記粘着剤層の形成前に前記支持体にプライマー処理を施したりしてもよい。
【0145】
前記付加反応型シリコーン粘着剤に用いるシリコーン樹脂の市販品としては、SD4580PSA、SD4584PSA、SD4585PSA、SD4587LPSA、SD4560PSA、SD4570PSA、SD4600FCPSA、SD4593PSA、DC7651ADHESIVE、DC7652ADHESIVE、LTC-755、LTC-310(いずれも東レ・ダウコーニング社製)、KR-3700、KR-3701、X-40-3237-1、X-40-3240、X-40-3291-1、X-40-3229、X-40-3323、X-40-3306、X-40-3270-1(いずれも信越化学社製)、AS-PSA001、AS-PSA002、AS-PSA003、AS-PSA004、AS-PSA005、AS-PSA012、AS-PSA014、PSA-7465(いずれも荒川化学工業社製)、TSR1512、TSR1516、TSR1521(いずれもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)等を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0146】
(偏光板)
上記偏光板の材料および構成は任意である。例えば、ヨウ素を配向色素として用いた延伸ポリビニルアルコールフィルムに保護フィルムとしてTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを積層したものが、この種の偏光板として広く実用化されている。
また、偏光板は、表面に、実質的に位相差を有しないハードコート、防眩、低反射、帯電防止などの機能を持つ層構成を有するものであってもよい。
【0147】
(タッチセンサー)
上記タッチセンサーは、ユーザが画面に表示される画像を指やタッチペンなどで接触する場合、この接触に反応してタッチ地点を把握する部材であり、センサー技術により、静電容量方式、抵抗膜方式、赤外線または超音波などを利用した表面波方式などの方法が例示される。
一般にタッチセンサーは液晶表示パネル、有機ELなどの表示装置に搭載される。
また、近年、ガラス基板の代替として、フレキシブル性に着目して、基材フィルムを用いる傾向にあり、タッチセンサーフィルムを使用することが好ましい。
タッチセンサーフィルムは、感知電極の機能を実行するためのパターン化した透明導電層を設けるのが一般的である。
【0148】
<語句の説明など>
一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格;JIS K6900)。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0149】
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例】
【0150】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0151】
<評価方法>
(1)加熱剥離力(No.5413 Si粘着剤テープ評価)
試料フィルムの離型層表面に、シリコーン系粘着テープ(3M社製「No.5413」)の片面を貼り付け、50mm×300mmのサイズにカットし、この状態で、熱風式オーブンにて100℃(設定温度)で1時間加熱保持し、次いで23℃、50%RHで1時間静置した後、引張試験機((株)島津製作所「EZ graph」)を使用して、引張速度300mm/分の条件下で180°剥離力を測定した。
【0152】
(2)粘着剤剥離力(SD4580 Si粘着剤評価)
ダウ・東レ(株)製のシリコーン粘着剤「SD4580」100質量部と、トルエン50質量部と、ダウ・東レ(株)製の白金触媒「NC-25」0.9質量部を混合し、シリコーン粘着剤液を作成した。粘着力を安定化させるため、塗布は調液後5時間経過後に実施した。
三菱ケミカル(株)製の100μm厚さのPETフィルム「T100-100」上に前記シリコーン粘着剤液をアプリケーターで0.3mmの塗布厚みでコートし、100℃で3分間の条件で硬化させた。
シリコーン粘着剤面に離型フィルムの離型層側の面を、ゴムローラーを用いて貼り合わせ後、室温(23℃)の環境下で24時間保管し、幅2.5cm×長さ15cmで切り出して測定試料を得た。PETフィルムをSUS板に載置し、下側を剥離試験機のチャック、上側を輪ゴムにより固定して、剥離試験機により180°、0.3m/minの条件で離型フィルムをシリコーン粘着剤層から剥離して、離型フィルムのシリコーン粘着剤に対する剥離力の測定を行った。
【0153】
(3)残留接着率(離型層の移行性代用評価、No.5413 Si粘着剤テープ評価)
試料フィルムの離型面に、シリコーン粘着剤付きテープ(3M社製「No.5413」)を2kgゴムローラーで貼り付けた後、50mm×250mm長に切り出した状態を残留接着率の測定試料とした。100℃に加熱したオーブン内で、1時間加熱処理した後、20mm幅に切り出し常温常湿に1時間放置した。洗浄済みのステンレス板(60mm×150mm)に測定試料から剥がした粘着テープをゴムローラーで圧着した。
剥離力は、島津製作所(株)製「EZ Graph」を使用し、引張速度0.3(m/min)の条件下、室温(23℃)にて180°剥離を行った。そして、測定した残留接着率の評価フィルムの剥離力及び基準フィルム(試料フィルムの代わりに、ナフロンテープにNo.5413テープを貼り合せた試料)の剥離力を次式に代入して残留接着率(%)を求めた。
残留接着率(%)=移行性評価フィルムの剥離力/基準フィルムの剥離力×100
【0154】
(4)離型層中の厚み方向におけるフッ素原子濃度(atom%)
XPS(X線光電子分光法)にGC-IB(ガスクラスターイオンビーム)を用いて、スパッタ速度(スパッタ条件設定)一定下において、試料フィルムの離型層内の厚み方向における炭素(C)、酸素(O)、珪素(Si)及びフッ素(F)の原子を対象に濃度分布(比率)を測定した。
フッ素原子濃度分布において、最表面(スパッタ時間0)のフッ素原子比率を基準とした時、フッ素原子比率が最表面の75%まで低下するのにかかるスパッタ時間(t1[75%])と、フッ素原子比率が最表面の50%まで低下する時間(t2[50%])との比td(t1[75%]/t2[50%])を百分率(%)で算出した。
また、離型層表面におけるフッ素(F)原子比率(atom%)を求めた。なお、フッ素(F)原子比率は、炭素(C)、酸素(O)、珪素(Si)及びフッ素(F)の原子の総量に対する、フッ素(F)原子の量の割合(atom%)である。
【0155】
この際、XPSの設定条件は次のとおりである。
装置:島津製作所製 KRATOS ULTRA2
=分析条件=
X線強度:AlKα/15kV・375W
測定範囲:110μΦ
パスエネルギー:40eV
帯電補正:284.6eV(C1s)
=スパッタ条件=
Ar-GCIB
Ar3000+
5kV、70分(2分間隔、35水準)
【0156】
<実施例1>
(X)フッ素偏析促進剤として、下記(A1)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、下記(B1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤、下記(C1)硬化触媒(白金触媒1)及び希釈溶剤を混合して溶液a1を作製した。該溶液a1を均一になるように1分間撹拌し、45分間静置して事前の液中反応を十分に行った(事前処理)。その後、下記溶液b1((A2)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー+(C2)硬化触媒(白金触媒2))および下記溶液c1((E1)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン+(C2)硬化触媒(白金触媒2))を、質量比(溶液a1:溶液b1:溶液c1)が0.9:0.1:2となるように混合し、固形分濃度3.6質量%の塗布液A1を作製した。そして、基材フィルム(三菱ケミカル(株)製PETフィルム(「T100-38」、厚み38μm))の片面に、前記塗布液A1をNo.4バーを用いて塗布し、150℃で15秒間熱処理して硬化させ、離型層を設けた離型フィルム(試料フィルム)を得た。上記方法にて評価した結果を表1及び
図1に示す。
(離型層組成物)
溶液a1:
(A1)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー
(ダウ・東レ(株)「3062」、10質量%)100質量部
(B1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤
(東レ・ダウコーニング(株)「3062A」)0.50質量部
(C1)白金触媒1
(東レ・ダウコーニング(株)「FS XK-3077」) 0.50質量部
希釈溶剤:ジイソプロピルエーテル/酢酸エチル/シクロヘキサノン(6:4:0.2)
溶液b1:
(A2)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー
(信越化学(株)製「X-70-201S」、15質量%、フッ素置換基を含むシリコーン架橋剤含有)100質量部
(C2)白金触媒2(信越化学(株)製「CAT-PL-50T」)0.5質量部
希釈溶剤:ジイソプロピルエーテル/酢酸エチル/シクロヘキサノン(6:4:0.2)
溶液c1:
(E1)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン
(信越化学(株)製「KS-847H」、溶剤型、30質量%、架橋剤/反応制御剤含有)100質量部
(C2)白金触媒2(信越化学(株)製「CAT-PL-50T」) 0.5質量部
希釈溶剤:ジイソプロピルエーテル/酢酸エチル/シクロヘキサノン(6:4:0.2)
【0157】
<実施例2~6>
溶液a1、溶液b1の混合比を変えた以外は実施例1と同様にして、離型フィルム(試料フィルム)を得た。上記方法にて評価した結果を表1に示す。また、実施例5及び6の離型フィルムにおける、離型層中の厚み方向のフッ素原子濃度分布プロファイルを
図2及び
図3に示す。
【0158】
<比較例1>
溶液a1、溶液c1を質量比が1:2となるように混合した以外は実施例1と同様にして、離型フィルム(試料フィルム)を得た。上記方法にて評価した結果を表1及び
図4に示す。
【0159】
<比較例2>
溶液b1、溶液c1を質量比が1:2となるように混合した以外は実施例1と同様にして、離型フィルム(試料フィルム)を得た。上記方法にて評価した結果を表1及び
図5に示す。
【0160】
<比較例3>
溶液b1を単独で用いた以外は実施例1と同様にして、離型フィルム(試料フィルム)を得た。上記方法にて評価した結果を表1及び
図6に示す。
【0161】
【0162】
<考察>
上記実施例及び比較例の試験結果から、基材フィルムの少なくとも片面側に形成する離型層が、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーおよび(X)フッ素偏析促進剤を含む離型層組成物が硬化してなる離型層を有する離型フィルムは、シリコーン粘着剤層に対して剥離し易い優れた軽剥離性と、低い移行性を有することが分かった。
しかも、その様な離型層の共通点を調査すると、当該離型層内の厚み方向におけるフッ素原子の濃度分布において、フッ素が離型層表面側に効率良く偏在している特徴を見出すことができた。
上記実施例1、5及び6の離型フィルムにおけるフッ素原子濃度分布プロファイル(
図1、
図2及び
図3)から、適切な配合比率(条件)において、実施例の離型フィルムは、フッ素が離型層表面側に偏在していることがわかる。一方、比較例2の離型フィルムにおけるフッ素原子濃度分布プロファイル(
図5)から、フッ素の偏在の程度が低いことが実証された。
また、最表面(スパッタ時間0)のフッ素原子比率を基準とした時、フッ素原子比率が最表面の75%まで低下するのにかかるスパッタ時間(t1[75%])と、フッ素原子比率が最表面の50%まで低下する時間(t2[50%])との比(t1[75%]/t2[50%])が2種類の架橋性フッ素含有シリコーンポリマーを混合した離型層では小さくなった。すなわち、エッチング初期のフッ素原子濃度低下が早くなった。それに対して、1種類の架橋性フッ素含有シリコーンポリマーのみの離型層では、比(t1[75%]/t2[50%])が大きくなった。すなわち、離型層表面と軽剥離性に寄与しない離型層内部のフッ素原子濃度の差が小さくなった。
【0163】
他方、上記離型層の形成方法においては、次のことが分かった。
(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(E’)フッ素置換基を含まないシリコーンポリマーおよび(X)フッ素偏析促進剤を含む離型層組成物をフィルム上に塗布及び乾燥した場合、より高疎水性であるフッ素置換基が表面(空気界面)側に偏析し易くなっていることが推察される。
本発明では、先ず、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー、(B)シリコーン架橋剤及び(C)硬化触媒を混合し、攪拌および/または静置を行って反応させる“事前処理”を行い、該事前処理で得られた事前処理組成物、いわゆる「フッ素偏析促進剤」と、(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマー(E’)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンポリマーとを混合して離型層組成物を調製したところ、シリコーン粘着剤に対してより剥離し易い軽剥離性を示した。それでいて、低移行性の塗膜形成を実現することができることが分かった。
このメカニズム詳細は不明であるが、(X)成分の配合液作製後、経時変化において、配合液中で、適度な絡み合い(プレ架橋)が起こっているものと推察される。それに伴い、(X)成分は離型層表面への偏析が強くなる。また、(X)成分は(A)架橋性フッ素含有シリコーンポリマーと親和性が高いため、離型層表面への偏析が弱い(A)架橋性フッ素シリコーンポリマーであっても、(X)成分と共に離型層表面(空気界面)側により多く存在しようとするものと推察される。
また、(E’)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンは、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーンと比べて軽剥離性に関連する柔軟性に優れている。上記理由により、シリコーン粘着剤に対して軽剥離性に優れた離型層の塗膜形成が可能になったと推察される。