(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】センサ搭載型カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20240618BHJP
A61M 60/295 20210101ALI20240618BHJP
A61M 60/497 20210101ALI20240618BHJP
A61M 60/531 20210101ALI20240618BHJP
A61M 60/841 20210101ALI20240618BHJP
A61B 5/0215 20060101ALI20240618BHJP
A61M 25/10 20130101ALN20240618BHJP
【FI】
A61M25/00 532
A61M60/295
A61M60/497
A61M60/531
A61M60/841
A61B5/0215
A61M25/10 540
(21)【出願番号】P 2022511973
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2021011879
(87)【国際公開番号】W WO2021200368
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2020061126
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤畑 貴史
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴樹
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-002346(JP,A)
【文献】特開2016-093290(JP,A)
【文献】特開2016-077361(JP,A)
【文献】特開平09-122085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00 - 25/18
A61M 60/295
A61M 60/497
A61M 60/531
A61M 60/841
A61B 5/0215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルチューブと、
光を利用して圧力を測定可能な圧力センサと、
前記圧力センサに接続される光ファイバと、
前記カテーテルチューブの遠位端部に備えられ、前記光ファイバが挿通されるとともに前記圧力センサを収容するセンサ収容空間が画成される通孔が形成された先端チップと、を有し、
前記先端チップには、前記センサ収容空間内への圧力伝達物質の注入孔として用いられ、前記センサ収容空間に連通するとともに前記先端チップの外周面で開口する側方挿通孔と、外部の圧力を測定するための採圧孔として用いられ、前記センサ収容空間に連通するとともに前記先端チップの遠位端部で開口し、前記圧力センサの寸法より小さい口径の開口部を有する遠位端挿通孔とが形成されており、
前記側方挿通孔の開口部が、樹脂膜により前記先端チップの外周面側で覆われていることを特徴とするセンサ搭載型カテーテル。
【請求項2】
前記遠位端挿通孔が、前記センサ収容空間から前記開口部に向かって細くなるテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のセンサ搭載型カテーテル。
【請求項3】
前記光ファイバに、前記センサ収容空間内の適切な位置に前記圧力センサが配置された場合に前記側方挿通孔から視認可能なマーカが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ搭載型カテーテル。
【請求項4】
前記マーカが、前記光ファイバを挿通した状態で前記光ファイバに固定されている略円筒部材であることを特徴とする請求項3に記載のセンサ搭載型カテーテル。
【請求項5】
前記先端チップには、前記通孔内への硬化性樹脂の注入孔として用いられ、前記センサ収容空間より近位端側の前記通孔に連通するとともに前記先端チップの外周面で開口する硬化性樹脂充填孔が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のセンサ搭載型カテーテル。
【請求項6】
前記硬化性樹脂充填孔の開口部が、樹脂膜により前記先端チップの外周面側で覆われていることを特徴とする請求項5に記載のセンサ搭載型カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、先端チップに圧力センサが搭載されたセンサ搭載型カテーテルに関する。
【0002】
近年、医療分野において、種々の治療や検査にカテーテルが用いられている。例えば、心機能低下時の治療として、大動脈内にバルーンカテーテルを挿入し、心臓の拍動に合わせてバルーンを拡張および収縮させて心機能の補助を行うIABP(IABP:Intra-Aortic Balloon Pumping)法が知られている。
【0003】
IABP法に用いられる大動脈内バルーンカテーテルとしては、バルーンカテーテルの遠位端部に光を利用して圧力を検出する圧力センサを取り付け、検出された血圧の信号を光ファイバを介してバルーンカテーテルの近位端に伝達するようにしたセンサ搭載型のカテーテルが提案されている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載されているカテーテルは先端チップを有し、その内部には、圧力センサを配置するためのセンサ収容孔と、圧力センサに接続された光ファイバを挿通させるための通孔とが形成されている。このカテーテルでは、短チューブまたは通孔壁と栓部材とによって、圧力伝達物質であるゲル状物質が充填される充填空間がセンサ収容孔内に画定されている。通孔の遠位端開口を通じて充填空間にゲル状物質が充填されることで、圧力センサの周囲がゲル状物質で満たされ、さらに、通孔の遠位端開口が先端隔壁膜で塞がれて充填空間が密封される。すなわち、通孔の遠位端開口を通じてのみ外部と充填空間とが接続されており、この遠位端開口からゲル状物質を充填空間に充填するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているカテーテルでは、通孔の遠位端開口を通じてのみ外部と充填空間とが接続されており、この遠位端開口からゲル状物質が充填空間に充填される。そのため、ゲル状物質の充填時に充填空間内の空気が抜ける通路が無いことから充填空間に気泡(空隙)が残ってしまい、圧力センサをゲル状物質で確実に覆うことができず、圧力センサの測定精度が低下してしまうという問題がある。また、通孔の遠位端開口が先端隔壁膜で塞がれてしまうため、圧力センサは密封された充填空間内に配置された状態となる。外部の圧力(血圧)は、先端隔壁膜を介して充填空間内のゲル状物質に伝達されるものの、先端隔壁膜の介在により外部の圧力(血圧)を十分かつ正確に検知できず、圧力センサの測定精度が低下してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、外部の圧力(血圧)を高精度に測定することが可能なカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るセンサ搭載型カテーテルは、
カテーテルチューブと、
光を利用して圧力を測定可能な圧力センサと、
前記圧力センサに接続される光ファイバと、
前記カテーテルチューブの遠位端部に備えられ、前記光ファイバが挿通されるとともに前記圧力センサを収容するセンサ収容空間が画成される通孔が形成された先端チップと、を有し、
前記先端チップには、前記センサ収容空間内への圧力伝達物質の注入孔として用いられ、前記センサ収容空間に連通するとともに前記先端チップの外周面で開口する側方挿通孔と、外部の圧力を測定するための採圧孔として用いられ、前記センサ収容空間に連通するとともに前記先端チップの遠位端部で開口し、前記圧力センサの外径寸法より小さい口径の開口部を有する遠位端挿通孔とが形成されており、
前記側方挿通孔の開口部が、樹脂膜により前記先端チップの外周面側で覆われていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、側方挿通孔および遠位端挿通孔が、圧力伝達物質が充填されるセンサ収容空間に連通しており、側方挿通孔を通じて圧力伝達物質を注入した際に、センサ収容空間内の空気が遠位端挿通孔から抜けてセンサ収容空間内に気泡(空隙)が残らず、圧力センサを圧力伝達物質で確実に覆って圧力センサの測定精度を向上させることができるようになる。
【0010】
また、圧力伝達物質の注入に用いられた側方挿通孔を樹脂膜で覆って塞ぐ一方、外部の圧力(血圧)を測定するための採圧孔として用いられる遠位端挿通孔を塞ぐことなく外部に開放された構成とすることができるので、圧力センサが外部の圧力(血圧)を十分かつ確実に検知できるようになり、圧力センサの測定精度を向上させることができるようになる。
【0011】
また、遠位端挿通孔は圧力センサの外径寸法より小さい口径の開口部を有しており、例えば光ファイバが折れる等して圧力センサが遠位端挿通孔から流出しそうになった場合であっても、圧力センサは遠位端挿通孔を通過することができず、圧力センサが先端チップの外部(患者の体内)へ流出するのを防ぐことができるようになる。さらには、遠位端挿通孔の開口部が小さく形成されているため、センサ収容空間に充填された圧力伝達物質の外部(患者の体内)への流出量を低減させることができる。
【0012】
さらに、本発明に係るセンサ搭載型カテーテルは、前記遠位端挿通孔が、前記センサ収容空間から前記開口部に向かって細くなるテーパ状に形成されていてもよい。
【0013】
この構成によれば、圧力センサの外径寸法より小さい口径の開口部を有するように遠位端挿通孔を形成することができ、圧力センサが先端チップの外部(患者の体内)へ流出するのを確実に防ぐことができるようになる。
【0014】
さらに、本発明に係るセンサ搭載型カテーテルは、前記光ファイバに、前記センサ収容空間内の適切な位置に前記圧力センサが配置された場合に前記側方挿通孔から視認可能なマーカが設けられていてもよい。
【0015】
この構成によれば、センサ収容空間内に圧力センサを配置する際に、側方挿通孔から視認可能なマーカを確認することで、圧力センサの位置を把握して圧力センサを適切な位置に配置できるようになる。
【0016】
さらに、本発明に係るセンサ搭載型カテーテルは、前記マーカが、前記光ファイバを挿通した状態で前記光ファイバに固定されている略円筒部材であってもよい。
【0017】
この構成によれば、通孔内において光ファイバおよび圧力センサと共に進退する略円筒部材を側方挿通孔から視認することで、圧力センサの位置を把握して圧力センサを適切な位置に配置できるようになる。また、接着剤等の硬化性樹脂が固着する固着面が略円筒部材の表面によって確保され、光ファイバを通孔内に固定する固着強度を高めることができるようになる。
【0018】
さらに、本発明に係るセンサ搭載型カテーテルは、前記先端チップには、前記通孔内への硬化性樹脂の注入孔として用いられ、前記センサ収容空間より近位端側の前記通孔に連通するとともに前記先端チップの外周面で開口する硬化性樹脂充填孔が形成されていてもよい。
【0019】
この構成によれば、圧力センサに硬化性樹脂を付着させることなく、硬化性樹脂充填孔を通じて通孔に硬化性樹脂を直接充填させることができ、硬化性樹脂により光ファイバを通孔内に固定できるようになる。
【0020】
さらに、本発明に係るセンサ搭載型カテーテルは、前記硬化性樹脂充填孔の開口部が、樹脂膜により前記先端チップの外周面側で覆われていてもよい。
【0021】
この構成によれば、先端チップの外周面へ、例えばバルーン部等の他の部材を接合させる場合に、その接着性または熱融着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態におけるセンサ搭載型カテーテルの一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図1に示すセンサ搭載型カテーテルの斜視図である。
【
図4】
図2に示す先端チップの概略断面図であり、センサ搭載型カテーテルの製造に係る初期工程を示す図である。
【
図5】
図2に示す先端チップの概略断面図であり、センサ搭載型カテーテルの製造に係る第2工程を示す図である。
【
図6】
図2に示す先端チップの概略断面図であり、センサ搭載型カテーテルの製造に係る第3工程を示す図である。
【
図7】
図2に示す先端チップの概略断面図であり、センサ搭載型カテーテルの製造に係る第4工程を示す図である。
【
図8】
図2に示す先端チップの概略断面図であり、センサ搭載型カテーテルの製造に係る第5工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書では、術者を基準として、患者の体内側を遠位側とし、術者の手元側を近位側とする。
【0024】
本発明に係るセンサ搭載型カテーテルは、先端チップに圧力センサが搭載されたカテーテルであり、特に、IABP法で用いられる大動脈内バルーンカテーテルとして好適である。以下の実施形態では、本発明に係るセンサ搭載型カテーテルとしてIABP法で用いられる大動脈内バルーンカテーテルについて説明するが、本発明に係るセンサ搭載型カテーテルは、冠血流予備比(FFR:Fractional Flow Reserve)測定のために用いられるカテーテル、あるいはその他のカテーテルとして好適である。
【0025】
図1は、本発明の実施形態におけるセンサ搭載型カテーテル1の一例を示す概略断面図である。
【0026】
図1に示すように、本発明の実施形態におけるセンサ搭載型カテーテル1は、IABP法で用いられる大動脈内バルーンカテーテルであり、心臓の拍動に合わせて拡張および収縮するバルーン部4を有する。バルーン部4は、膜厚50~150μm程度の薄膜で構成される。薄膜の材質は、特に限定されないが、耐屈曲疲労特性に優れた材質であることが好ましく、例えばポリウレタン等により構成される。
【0027】
バルーン部4の外径および長さは、心機能の補助効果に大きく影響するバルーン部4の内容積と、動脈血管の内径等に応じて決定される。バルーン部4の内容積は、特に限定されないが、20~50ccであり、バルーン部4の外径は、拡張時で12~16mmが好ましく、長さは、150~250mmが好ましい。
【0028】
バルーン部4の遠位端部40aは、先端チップ5の外周面に熱融着あるいは接着等の手段で取り付けられている。この先端チップ5には、軸方向に連通するワイヤ挿通孔50が形成されており、その近位端側には、内管3の遠位端部が入り込んでいる。内管3の遠位端部は、内管3の内部のワイヤ通路30とワイヤ挿通孔50とが連通するように、熱融着あるいは接着等の手段で、先端チップ5の近位端部に接続されている。
【0029】
バルーン部4の近位端部40bは、放射線不透過性金属リング等からなる造影マーカ6を介してまたは直接に、外管2の遠位端部外周に接続されている。この外管2の内部に形成された圧力流体導通路20を通じて、バルーン部4の内部に、圧力流体が導入および導出され、バルーン部4が拡張および収縮するようになっている。バルーン部4と外管2との接続は、熱融着あるいは接着等により行われる。
【0030】
内管(カテーテルチューブ)3は、バルーン部4および外管2の内部を軸方向に延在し、その内部には、バルーン部4の内部および外管2内に形成された圧力流体導通路20とは連通しないワイヤ通路30が形成されており、後述する分岐部7の二次ポート72に連通している。
【0031】
センサ搭載型カテーテル1を動脈内に挿入する際に、バルーン部4内に位置する内管3の外周面に、収縮した状態のバルーン部4が巻きつけられる。ワイヤ通路30は、バルーン部4を都合良く動脈内に差し込むために用いるガイドワイヤを挿通する管腔として用いられる。
【0032】
内管3の外側では、光ファイバ9が、内管3の軸方向に向かって延びている。より詳細には、光ファイバ9は、分岐部7とバルーン部4の近位端部40bとの間に延在する外管2の内部では、内管3の外側(外周面)に沿って、その軸方向に向かってまっすぐに延びている。また、光ファイバ9は、バルーン部4の近位端部40bと遠位端部40aとの間に位置するバルーン部4の内部では、内管3の外周面に螺旋状に巻きつけられつつ、その軸方向に向かって延びている。また、光ファイバ9は、バルーン部4の遠位端部40aが位置する先端チップ5の内部では、内管3の軸方向に向かってまっすぐに延びている(
図3参照)。なお、上述した収縮した状態のバルーン部4は、バルーン部4内において、光ファイバ9が螺旋状に巻きつけられた内管3に対して、巻きつけられる。
【0033】
後に詳述するように、光ファイバ9の遠位端部は先端チップ5内において硬化性樹脂14により固定される(
図6参照)。光ファイバ9の遠位端部が先端チップ5内で固定される前は、光ファイバ9の近位端側と遠位端側との間に位置するいずれの部分も、接着剤等の固定手段によって内管3の外周面等に固定されてはおらず、光ファイバ9の近位端側および遠位端側のみが、それぞれ三次ポート73および圧力センサ8に固定されている。
【0034】
外管2の近位端部には、分岐部7が連結されている。分岐部7は、外管2と別体に成形され、熱融着あるいは接着等の手段で外管2と連結される。分岐部7には、外管2内の圧力流体導通路20およびバルーン部4内に圧力流体を導入および導出するための一次ポート71が形成される一次通路74と、内管3内のワイヤ通路30に連通する二次ポート72が形成される二次通路75とが形成されている。
【0035】
一次ポート71は、図示省略されているポンプ装置に接続され、このポンプ装置により、圧力流体がバルーン部4内に導入および導出されるようになっている。一次通路74は、分岐部7の内部で直線状に延びており、圧力流体導通路20に対してまっすぐに接続される。そのため、圧力流体導通路20の内部では、一次ポート71を介して導入および導出される圧力流体の流路抵抗が低減され、バルーン部4の拡張および収縮の応答性を高めることが可能となっている。圧力流体としては、特に限定されないが、ポンプ装置の駆動に応じて素早くバルーン部4が拡張および収縮するように、粘性および質量の小さいヘリウムガス等が用いられる。
【0036】
分岐部7には、一次ポート71および二次ポート72以外に、三次ポート73が形成されている。三次ポート73には、光ファイバ9を挿通させるための三次通路76が連通しており、三次ポート73からは、光ファイバ9の近位端側が引き出されるようになっている。三次ポート73から引き出される光ファイバ9は、三次ポート73の引き出し口に近接する三次通路76の内部に接着固定される。三次ポート73における光ファイバ9の引き出し口は、一次通路74および二次通路75の内部の流体が外部には漏れないようになっている。
【0037】
光ファイバ9の近位端には、光コネクタ10が接続されている。光ファイバ9の遠位端には、後に詳述するが、血圧を測定するための圧力センサ8が接続されている。光コネクタ10には、図示省略されている血圧測定装置が接続される。この血圧測定装置で測定した血圧の変動に基づき、心臓の拍動に応じてポンプ装置を制御し、0.4~1秒の短周期でバルーン部4を拡張および収縮させるようになっている。
【0038】
外管2の内周面と内管3の外周面とは、接着剤により固着されている。このように外管2と内管3とを固着することで、外管2内の圧力流体導通路20の流路抵抗が低くなり、バルーン部4の応答性が向上する。固着に用いる接着剤としては、特に限定されず、シアノアクリレート系接着剤、エポキシ系接着剤等の接着剤を用いることができ、シアノアクリレート系接着剤を用いることが特に好ましい。
【0039】
本実施形態のセンサ搭載型カテーテル1では、内管3の外径は、特に限定されないが、好ましくは、0.5~1.5mmであり、外管2の内径の30~60%が好ましい。この内管3の外径は、本実施形態では、軸方向に沿って略同じである。内管3は、例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の合成樹脂チューブ、あるいはニッケルチタン合金細管、ステンレス鋼細管等で構成される。また、内管3を合成樹脂チューブで構成する場合は、ステンレス鋼線等を埋設してもよい。
【0040】
外管2は、特に限定されないが、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の合成樹脂で構成され、ステンレス鋼線等を埋設してもよい。外管2の内径および肉厚は、特に限定されないが、内径は、好ましくは、1.5~4.0mmであり、肉厚は、好ましくは、0.05~0.4mmである。外管2の長さは、好ましくは300~800mmである。
【0041】
図2は、
図1に示すセンサ搭載型カテーテル1の先端チップ5の斜視図である。
【0042】
図2に示すように、先端チップ5は、胴体部51と先端部52とに大別される。胴体部51と先端部52とは、一体となっており、胴体部51と先端部52との境界には、段差部57が形成されている。段差部57よりも遠位側に位置する先端部52では、段差部57よりも近位側に位置する胴体部51に比較して、外径が大きくなっている。段差部57の高さは、例えば、胴体部51の外周面に固定した際のバルーン部4の遠位端部40aの厚さに相当する寸法と同程度に設定される。
【0043】
胴体部51は、外形が略円柱状に形成されており、先端チップ5の大部分を構成する。胴体部51の軸方向に沿った長さは、先端部52の軸方向に沿った長さよりも長くなっている。先端部52は、胴体部51よりも遠位側に位置し、胴体部51の遠位端からその軸方向に沿って遠位側に突出している。
【0044】
胴体部51の外周面には、複数の硬化性樹脂充填孔511~513が開口している。先端部52の側方の外周面には、側方挿通孔54が開口している。側方挿通孔54の開口部およびその近傍は、樹脂膜11により先端チップ5の外周面側で覆われている。さらに、先端部52の遠位端(先端)には、ワイヤ挿通孔50および遠位端挿通孔55が開口している。
【0045】
以下、
図3を参照しながら、先端チップ5の構造について詳細に説明する。
図3は、
図2に示す先端チップ5の概略断面図である。なお、最終的に製造される使用可能状態のセンサ搭載型カテーテル1では、例えば
図8に示すように硬化性樹脂14および圧力伝達物質12が先端チップ5内に充填され、側方挿通孔54の開口部が樹脂膜11で覆われ、さらに、胴体部51の外周面にバルーン部4の遠位端部40aが固定されるが、
図3では、バルーン部4、圧力伝達物質12、硬化性樹脂14は図示省略されている。
図3には、後述するセンサ搭載型カテーテル1の製造方法の初期工程における先端チップ5の状態が図示されていると言うこともできる。
【0046】
図3に示すように、胴体部51には、内管3が挿入される内管挿通孔53が形成されている。内管挿通孔53は、胴体部51の近位端から遠位側に向かって延びており、内管挿通孔53の遠位端は、ワイヤ挿通孔50の近位端に接続される。ワイヤ挿通孔50は、胴体部51と先端部52とに跨って配置されており、先端部52の遠位端で開口している。内管挿通孔53とワイヤ挿通孔50とは同軸上に連通して配置されており、内管挿通孔53は、ワイヤ挿通孔50の径よりも僅かに大きい(内管3の肉厚に相当する寸法だけ大きい)径を有している。なお、内管挿通孔53の遠位端とワイヤ挿通孔50の近位端とが接続される位置は、特に限定されるものではない。内管挿通孔53の遠位端とワイヤ挿通孔50の近位端とが胴体部51と先端部52との境界付近で接続されてもよく、内管挿通孔53が胴体部51と先端部52とに跨って配置されていてもよい。また、詳細な図示は省略するが、内管挿通孔53の内部に内管3を挿入すると、ワイヤ挿通孔50の近位端に、内管3のワイヤ通路30の遠位端が接続される。
【0047】
胴体部51と先端部52とに跨って通孔56が形成されている。通孔56は、先端チップ5の軸方向に沿って延在している。通孔56は、一端が先端チップ5の近位端で開口するとともに、他端が遠位端挿通孔55の近位端に接続されるように形成されている。通孔56の近位端には近位側開口部56aが形成されており、近位側開口部56aから通孔56内へ圧力センサ8および光ファイバ9を挿通させることができるようになっている。したがって、本技術分野で一般的に用いられている圧力センサ8の外径寸法は0.1~0.5mmであるが、通孔56の内径はこれより大きく設定される。また、通孔56の遠位端は、遠位端挿通孔55の近位端(テーパ部55bの近位端)と滑らかに接続されており、通孔56は、遠位端挿通孔55の開口部55aを通じて先端チップ5の外部と連通している。
【0048】
遠位端挿通孔55は、一端が通孔56の遠位端に接続されるとともに、他端が先端チップ5の遠位端で開口するように形成されている。遠位端挿通孔55は、通孔56の軸方向と一致する方向に延在している。遠位端挿通孔55の開口部55aの形状は特に限定されるものではなく、例えば略長方形状または略円形状であってもよい。
【0049】
遠位端挿通孔55は、遠位側に向かって先細となるようにテーパ状に形成されたテーパ部55bを有している。テーパ部55bの近位端の内径は通孔56の遠位端の内径に等しく、したがって、テーパ部55bの近位端と通孔56の遠位端とは滑らかに接続されている。また、テーパ部55bは、遠位側へ向かうにつれてその内径が徐々に細くなるように形成されており、先端チップ5の遠位端で開口する遠位端挿通孔55の開口部55aの口径が、圧力センサ8の外径寸法(最大幅)より小さくなるよう形成されている。すなわち、遠位側へ向かって先細に形成されたテーパ部55bは、通孔56内の圧力センサ8が遠位側へ進行することを規制するようになっている。これにより、圧力センサ8が遠位端挿通孔55を通過して遠位端挿通孔55の開口部55aから外部へ流出してしまうことを防げるようになる。
【0050】
本技術分野で一般的に用いられている圧力センサ8の外径寸法は0.1~0.5mmであり、遠位端挿通孔55の開口部55aの口径は、使用対象の圧力センサ8の外径寸法に基づいてこれより小さく設定される。なお、遠位端挿通孔55の開口部55aは、圧力センサ8が通過できない程度に小さく設定されているが塞がれておらず、後述するように、センサ収容空間70に充填された圧力伝達物質12が、遠位端挿通孔55の開口部55aを通じて外部と直接接触できるようになっている(
図8参照)。
【0051】
側方挿通孔54は、一端が通孔56に接続されるとともに、他端が先端チップ5の先端部52の外周面で開口するように形成されている。側方挿通孔54は、先端チップ5の断面径方向に沿って延在しており、先端部52の近位側に位置する外周面(先端部52の側方の外周面)で開口している。また、側方挿通孔54の延在方向は通孔56の軸方向と略直交しており、側方挿通孔54は通孔56の側方から通孔56に連通している。なお、後述するように、側方挿通孔54は圧力伝達物質12を注入するための注入孔として用いられる。側方挿通孔54の開口部54aは、圧力伝達物質12を注入するためのシリンジが挿入可能な口径を有し、その口径は例えば0.1~0.5mmである。
【0052】
硬化性樹脂充填孔511~513は、一端が通孔56に接続されるとともに、他端が先端チップ5の胴体部51の外周面で開口するように形成されている。本実施形態では、3つの硬化性樹脂充填孔511~513が設けられている。硬化性樹脂充填孔511~513の開口部511a~513aは、胴体部51の外周面で軸方向に沿って略直線上に配列されるように形成されている。
【0053】
硬化性樹脂充填孔511~513は、先端チップ5の断面径方向に沿って延在しており、胴体部51の外周面(胴体部51の側方の外周面)で開口している。また、硬化性樹脂充填孔511~513の延在方向は通孔56の軸方向と略直交しており、硬化性樹脂充填孔511~513は通孔56の側方から通孔56に連通している。硬化性樹脂充填孔511~513の開口部511a~513aは、例えば略円形状である。後述するように、硬化性樹脂充填孔511~513は、硬化性樹脂14を注入するための注入孔として用いられる。硬化性樹脂充填孔511~513の開口部511a~513aは、硬化性樹脂14を注入するためのシリンジ13が挿入可能な口径を有し、その口径は例えば0.1~0.5mmである。
【0054】
本実施形態では、硬化性樹脂充填孔511は、通孔56の近位端側に接続されており、硬化性樹脂充填孔513は、通孔56の遠位端側に接続されており、硬化性樹脂充填孔512は、硬化性樹脂充填孔511と硬化性樹脂充填孔512との間で通孔56に接続されている。なお、硬化性樹脂充填孔511~513は、後述するように、光ファイバ9を通孔56内に固着させる目的で胴体部51の通孔56に硬化性樹脂14を注入するために用いられるものであり、この目的を達成するものであれば、硬化性樹脂充填孔511~513の位置や個数は特に限定されるものではない。
【0055】
圧力センサ8は、光ファイバ9を通して伝達する光の行路差等を利用して、圧力を測定するセンサである。圧力センサ8は、光ファイバ9の遠位端に取り付けられており、通孔56内に光ファイバ9とともに挿通されて、後述するように、圧力伝達物質12が充填されるセンサ収容空間70に配置される。圧力センサ8には、外部の圧力(血圧)が遠位端挿通孔55の開口部55aを通じて圧力伝達物質を介して伝達される。圧力センサ8は、この圧力を検出して、その検出結果を含む光信号を光ファイバ9を通じて光コネクタ10に送信するようになっている。
【0056】
本技術分野で一般的に用いられている圧力センサ8は、例えば略円筒状からなり、その外径寸法は0.1~0.5mm、軸方法の寸法は1~10mm程度である。圧力センサ8としては、特表2008-524606号公報、特開2000-35369号公報等に記載されたものを用いることができる。
【0057】
また、圧力センサ8から所定距離だけ離隔した近位側には、略円筒部材60が配置されている。略円筒部材60は、例えばステンレス鋼からなる部材であり、その外径は通孔56の内径より小さく、通孔56内に挿通可能である。略円筒部材60の内腔には光ファイバ9が挿通されており、略円筒部材60および光ファイバ9は接着剤等で固定されている。したがって、光ファイバ9の軸方向における進退にかかわらず、圧力センサ8と略円筒部材60との距離は、常に所定距離に維持されるようになっている。
【0058】
圧力センサ8と略円筒部材60との所定距離は、例えば、圧力センサ8が適切に位置決めされた場合に、略円筒部材60の一部(例えば、略円筒部材60の遠位側端面60a)が側方挿通孔54の下方(側方挿通孔54の径方向内側)に配置されるように設定される。例えば
図3に示すように、圧力センサ8が適切に位置決めされた場合における圧力センサ8の遠位端と側方挿通孔54の遠位端側の内周面との距離をL1とし、側方挿通孔54の内径をL2とすると、圧力センサ8の遠位端と略円筒部材60の遠位側端面60aとの距離Lは、L1≦L≦L1+L2の範囲となるように設定される。圧力センサ8と略円筒部材60との距離をこのように定めることで、圧力センサ8が適切に位置決めされた場合に、略円筒部材60の遠位側端面60aが側方挿通孔54から視認可能な位置に配置される。すなわち、略円筒部材60(ここでは、略円筒部材60の遠位側端面60a)を側方挿通孔54から視認可能なマーカとすることで、圧力センサ8の軸方向の配置位置を適切に決めることができる。
【0059】
次に、
図3~
図8を参照しながら、本発明の実施形態におけるセンサ搭載型カテーテル1の製造方法の一例について説明する。
【0060】
まず、先端チップ5と、遠位端に圧力センサ8が取り付けられた光ファイバ9とを用意する。なお、先端チップ5の形成方法は、特に限定されるものではなく詳細には説明しないが、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の合成樹脂材料を用いて、例えば射出成形法により製造することができる。
【0061】
そして、圧力センサ8を近位側開口部56aから通孔56内に挿入して、圧力センサ8が通孔56の遠位端近傍(遠位端挿通孔55の手前)に配置されるまで光ファイバ9を遠位側に向けて押し込む。このとき、側方挿通孔54内を見ながら、略円筒部材60の遠位側端面60aが視認できる位置まで光ファイバ9を押し込んで、圧力センサ8の位置決めを行う。これにより、
図3に示すように、通孔56の遠位端近傍の適切な位置に圧力センサ8が配置されるとともに、通孔56内に光ファイバ9の遠位端部が配置される。
【0062】
次に、通孔56内に硬化性樹脂14を注入して、光ファイバ9の遠位端部を通孔56内に固定する。なお、硬化性樹脂14は、特に限定されないが、充填時には流動性を有し、充填後に硬化する接着剤等の樹脂が好適に使用される。硬化性樹脂14として使用される樹脂の具体例としては、シアノアクリレート系接着剤等の湿気硬化型接着剤、エポキシ系一液型接着剤等の加熱硬化型接着剤、エポキシ系二液型接着剤等の二液混合硬化型接着剤を挙げることができる。
【0063】
例えば、
図4に示すように、まず、硬化性樹脂充填孔(以下、第2充填孔)512内に、硬化性樹脂14が充填されたシリンジ13を挿入して、シリンジ13から硬化性樹脂14を注入する。第2充填孔512を通じて注入された硬化性樹脂14は、通孔56内に流れ込み、そこから通孔56の近位側および遠位側に向かって流れ出す。このとき、硬化性樹脂充填孔(以下、第3充填孔)513内を見ながら、第2充填孔512を通じて硬化性樹脂14を注入し、通孔56の遠位側に向かって流れる硬化性樹脂14が第3充填孔513から視認できるまで硬化性樹脂14を注入する。
【0064】
第2充填孔512を通じて注入した硬化性樹脂14が第3充填孔513から視認できる位置まで到達した場合、硬化性樹脂14が、第2充填孔512と第3充填孔513との間の区域における通孔56内に隙間なく十分に充填された状態となる。したがって、第3充填孔513の下方に流れ込んだ硬化性樹脂14を視認することで、第2充填孔512と第3充填孔513との間の区域における通孔56内の硬化性樹脂14の充填具合を把握することができる。なお、第2充填孔512を通じて注入した硬化性樹脂14は、通孔56内を近位側(第1充填孔511の下方)に向かっても流れている。また、第2充填孔512を通じて硬化性樹脂14を注入していることから、第2充填孔512の開口部512aまで硬化性樹脂14が充填された状態となる(
図4参照)。
【0065】
次に、
図5に示すように、硬化性樹脂充填孔(以下、第1充填孔)511内に、硬化性樹脂14が充填されたシリンジ13を挿入して、シリンジ13から硬化性樹脂14を注入する。第1充填孔511を通じて硬化性樹脂14を注入することで、第1充填孔511と第2充填孔512との間の区域における通孔56内ならびに第1充填孔より近位側の区域における通孔56内に、硬化性樹脂14が隙間なく十分に充填された状態となる。また、第1充填孔511を通じて硬化性樹脂14を注入していることから、第1充填孔511の開口部511aまで硬化性樹脂14が充填された状態となる(
図5参照)。
【0066】
さらに、
図6に示すように、第3充填孔513内に、硬化性樹脂14が充填されたシリンジ13を挿入して、シリンジ13から硬化性樹脂14を注入する。第3充填孔513を通じて注入された硬化性樹脂14は、通孔56内に流れ込み、そこから通孔56の遠位側に向かって流れ出す。なお、第3充填孔513の下方より近位側の通孔56内にはすでに硬化性樹脂14が充填されている。
【0067】
第3充填孔513と側方挿通孔54との間の区域における通孔56内には、その遠位側端面60aが側方挿通孔54の下方に位置するように略円筒部材60が配置されている。第3充填孔513を通じて注入された硬化性樹脂14は、略円筒部材60の外周面の外側(略円筒部材60の外周面と通孔56の内周面との間)を通って通孔56内を遠位側に向かって流れる。このとき、側方挿通孔54内を見ながら第3充填孔513を通じて硬化性樹脂14を注入し、通孔56の遠位側に向かって流れる硬化性樹脂14が側方挿通孔54から視認できるまで硬化性樹脂14を注入する。
【0068】
第3充填孔513を通じて注入した硬化性樹脂14が側方挿通孔54から視認できる位置まで到達した場合、硬化性樹脂14が、第3充填孔513と側方挿通孔54との間の区域における通孔56内に隙間なく十分に充填された状態となる。したがって、側方挿通孔54の下方に流れ込んだ硬化性樹脂14を視認することで、第3充填孔513と側方挿通孔54との間の区域における通孔56内の硬化性樹脂14の充填具合を把握することができる。また、第3充填孔513を通じて硬化性樹脂14を注入していることから、第3充填孔513の開口部513aまで硬化性樹脂14が充填された状態となる。
【0069】
側方挿通孔54の下方に流れ込んだ硬化性樹脂14が側方挿通孔54を通じて視認できた時点で、第3充填孔513を通じて行っている硬化性樹脂14の注入を終了する。硬化性樹脂14の注入を終了すると、側方挿通孔54の下方より遠位側の通孔56内へ硬化性樹脂14は流れなくなり、硬化性樹脂14が圧力センサ8に付着することはない。以上により、通孔56内への硬化性樹脂14の充填作業は完了となる。その後、硬化性樹脂14を硬化させて光ファイバ9の遠位端部を通孔56内に固着させることで、遠位端に圧力センサ8が取り付けられた光ファイバ9を先端チップ5の通孔56内に固定することができる。
【0070】
なお、通孔56内に配置されている略円筒部材60の表面によって、硬化性樹脂14が固着する固着面が確保され、光ファイバ9を通孔56内に固定する固着強度を高めることができるようになる。すなわち、略円筒部材60は、上述したように圧力センサ8を適切な位置に配置するための位置決め用のマーカとしての役割に加えて、光ファイバ9を通孔56内に固定する固着強度を高めるための部材としての役割を有している。
【0071】
続いて、硬化性樹脂14を硬化させた後、圧力センサ8の周辺に圧力伝達物質12を充填させる。なお、圧力伝達物質12としては、例えばシリコーンゲル、ポリアクリルアミドゲル、ポリエチレンオキサイドゲル等のゲル状物質、シリコーンオイル等のオイル状物質等を使用することができる。
【0072】
上述した硬化性樹脂14の注入作業によって、側方挿通孔54の下方より近位側の通孔56内には硬化性樹脂14が充填され、硬化した状態となっている。側方挿通孔54の下方には、硬化した硬化性樹脂14の遠位端14aが通孔56の近位側を塞ぐように存在しており、硬化した硬化性樹脂14の遠位端14aより遠位側の通孔56には、圧力センサ8が収容されたセンサ収容空間70が画成されている。センサ収容空間70には、側方挿通孔54および遠位端挿通孔55が連通している。すなわち、センサ収容空間70は、硬化した硬化性樹脂14の遠位端14aより遠位側に画成された空間であり、側方挿通孔54の開口部54aおよび遠位端挿通孔55の開口部55aの2箇所で外部に開放されている(
図6参照)。
【0073】
図7に示すように、側方挿通孔54を通じて、圧力伝達物質12をセンサ収容空間70内に充填する。側方挿通孔54を通じて注入された圧力伝達物質12は、硬化した硬化性樹脂14の遠位端14aより遠位側に画成されたセンサ収容空間70内に流れ込む。このとき、圧力伝達物質12は、センサ収容空間70内の空気を遠位端挿通孔55から押し出しながらセンサ収容空間70に流れ込む。センサ収容空間70に流れ込んだ圧力伝達物質12がセンサ収容空間70内に隙間なく十分に充填されると、圧力伝達物質12は遠位端挿通孔55から流出する。したがって、遠位端挿通孔55からの圧力伝達物質12の流出を確認することで、センサ収容空間70内の圧力伝達物質12の充填具合を把握することができる。
【0074】
このように、側方挿通孔54を通じて圧力伝達物質12を注入することで、センサ収容空間70内に溜まっていた空気が遠位端挿通孔55から抜けてセンサ収容空間70内に気泡(空隙)が残らず、圧力センサ8の周囲が圧力伝達物質12で確実に満たされて圧力センサ8の測定精度を向上させることができる。
【0075】
その後、圧力伝達物質12の注入に用いられた側方挿通孔54の開口部54aを塞ぐように、側方挿通孔54の開口部54aおよびその周辺に樹脂膜11を形成する。例えば、側方挿通孔54の開口部54aおよびその周辺に先端チップ5の外周面側から液状にした樹脂を垂らして固化させることで、側方挿通孔54の開口部54aが、樹脂膜11によって先端チップ5の外周面側で覆われた状態とする。これにより、側方挿通孔54から圧力伝達物質12が流出するのを防ぐことができる。樹脂膜11は、生体との適合性を十分に確保する観点から、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドエラストマー等の材料を使用することができる。
【0076】
なお、遠位端挿通孔55の開口部55aについては、樹脂膜11等で塞がずに、センサ収容空間70に充填された圧力伝達物質12が遠位端挿通孔55の開口部55aを通じて外部と直接接触できるようにする。遠位端挿通孔55は外部に開放されているものの、遠位端挿通孔55の開口部55aは小さく形成されているため、センサ収容空間70に充填された圧力伝達物質12の外部(患者の体内)への流出量を低減させることができる。また、遠位端挿通孔55は圧力センサ8の外径寸法より小さい口径の開口部55aを有しているので、例えば光ファイバ9が折れる等して圧力センサ8が遠位端挿通孔55から流出しそうになった場合であっても、圧力センサ8は遠位端挿通孔55を通過することができず、圧力センサ8が先端チップ5の外部(患者の体内)へ流出するのを防ぐことができる。
【0077】
さらに、第1~第3充填孔511~513のそれぞれについても、側方挿通孔54の開口部54aと同様に、第1~第3充填孔511~513の開口部511a~513aを塞ぐように樹脂膜11を形成する。そして、胴体部51の内管挿通孔53に内管3の遠位側を挿入して接続固定し、バルーン部4の遠位端部40aを熱融着あるいは接着等により胴体部51の近位側の外周面に固定する。バルーン部4の遠位端部40aが固定される胴体部51の近位側の外周面には、第1~第3充填孔511~513の開口部511a~513aが存在している。第1~第3充填孔511~513内に充填された硬化性樹脂14が露出している場合には、十分な固着強度が確保できないおそれがあるが、第1~第3充填孔511~513の開口部511a~513aを樹脂膜11で覆うことで、硬化性樹脂14が露出している場合に比べてより高い固着強度でバルーン部4の遠位端部40aを固定することができる。以上の製造方法により、
図8に示すようにセンサ搭載型カテーテル1が製造される。
【0078】
以下、本発明に係る作用について説明する。
【0079】
本発明に係るセンサ搭載型カテーテル1は、カテーテルチューブ(内管)3と、光を利用して圧力を測定可能な圧力センサ8と、圧力センサ8に接続される光ファイバ9と、カテーテルチューブ3の遠位端部に備えられ、光ファイバ9が挿通されるとともに圧力センサ8を収容するセンサ収容空間70が画成される通孔56が形成された先端チップ5とを有する。先端チップ5には、側方挿通孔54と遠位端挿通孔55とが形成されている。側方挿通孔54は、センサ収容空間70内への圧力伝達物質12の注入孔として用いられ、センサ収容空間70に連通するとともに先端チップ5の外周面で開口する。遠位端挿通孔55は、外部の圧力を測定するための採圧孔として用いられ、センサ収容空間70に連通するとともに先端チップ5の遠位端部で開口し、圧力センサ8の外径寸法より小さい口径の開口部55aを有する。側方挿通孔54の開口部54aは、樹脂膜11により先端チップ5の外周面側で覆われている。
【0080】
この構成によれば、側方挿通孔54および遠位端挿通孔55が、圧力伝達物質12が充填されるセンサ収容空間70に連通しており、側方挿通孔54を通じて圧力伝達物質12を注入した際に、センサ収容空間70内の空気が遠位端挿通孔55から抜けてセンサ収容空間70内に気泡(空隙)が残らず、圧力センサ8を圧力伝達物質12で確実に覆って圧力センサ8の測定精度を向上させることができるようになる。
【0081】
また、圧力伝達物質12の注入に用いられた側方挿通孔54を樹脂膜11で覆って塞ぐ一方、外部の圧力(血圧)を測定するための採圧孔として用いられる遠位端挿通孔55を塞ぐことなく外部に開放された構成とすることができるので、圧力センサ8が外部の圧力(血圧)を十分かつ確実に検知できるようになり、圧力センサ8の測定精度を向上させることができるようになる。
【0082】
また、遠位端挿通孔55は圧力センサ8の外径寸法より小さい口径の開口部55aを有している。例えば光ファイバ9が折れる等して圧力センサ8が遠位端挿通孔55から流出しそうになった場合であっても、圧力センサ8は遠位端挿通孔55を通過することができず、これにより、圧力センサ8が先端チップ5の外部(患者の体内)へ流出するのを防ぐことができるようになる。さらには、遠位端挿通孔55の開口部55aが小さく形成されているため、センサ収容空間70に充填された圧力伝達物質12の外部(患者の体内)への流出量を低減させることができる。
【0083】
さらに、本発明に係るセンサ搭載型カテーテル1は、遠位端挿通孔55が、センサ収容空間70から開口部55aに向かって細くなるテーパ状に形成されていてもよい。
【0084】
この構成によれば、圧力センサ8の外径寸法より小さい口径の開口部55aを有するように遠位端挿通孔55を形成することができ、圧力センサ8が先端チップ5の外部(患者の体内)へ流出するのを確実に防ぐことができるようになる。
【0085】
さらに、本発明に係るセンサ搭載型カテーテル1は、光ファイバ9に、センサ収容空間70内の適切な位置に圧力センサ8が配置された場合に側方挿通孔54から視認可能なマーカが設けられていてもよい。
【0086】
この構成によれば、センサ収容空間70内に圧力センサ8を配置する際に、側方挿通孔54から視認可能なマーカを確認することで、圧力センサ8の位置を把握して圧力センサ8を適切な位置に配置できるようになる。
【0087】
さらに、本発明に係るセンサ搭載型カテーテル1は、マーカが、光ファイバ9を挿通した状態で光ファイバ9に固定されている略円筒部材60であってもよい。
【0088】
この構成によれば、通孔56内において光ファイバ9および圧力センサ8と共に進退する略円筒部材60を側方挿通孔54から視認することで、圧力センサ8の位置を把握して圧力センサを適切な位置に配置できるようになる。また、接着剤等の硬化性樹脂14が固着する固着面が略円筒部材60の表面によって確保され、光ファイバ9を通孔56内に固定する固着強度を高めることができるようになる。
【0089】
さらに、本発明に係るセンサ搭載型カテーテル1は、先端チップ5には、通孔56内への硬化性樹脂14の注入孔として用いられ、センサ収容空間70より近位端側の通孔56に連通するとともに先端チップ5の外周面で開口する硬化性樹脂充填孔511~513が形成されていてもよい。
【0090】
この構成によれば、圧力センサ8に硬化性樹脂14を付着させることなく、硬化性樹脂充填孔511~513を通じて通孔56内に硬化性樹脂14を直接充填させることができ、硬化性樹脂14により光ファイバ9を通孔56内に固定できるようになる。
【0091】
さらに、本発明に係るセンサ搭載型カテーテル1は、硬化性樹脂充填孔511~513の開口部511a~513aが、樹脂膜11により先端チップ5の外周面側で覆われていてもよい。
【0092】
この構成によれば、先端チップ5の外周面へバルーン部4の遠位端部40a等の他の部材を接合させる場合に接着性または熱融着性を向上させることができる。
【0093】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上述した実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属するすべての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0094】
1 センサ搭載型カテーテル
2 外管
3 内管(カテーテルチューブ)
4 バルーン部
5 先端チップ
6 造影マーカ
7 分岐部
8 圧力センサ
9 光ファイバ
10 光コネクタ
11 樹脂膜
12 圧力伝達物質
13 シリンジ
14 硬化性樹脂
14a 硬化性樹脂の遠位端
20 圧力流体導通路
30 ワイヤ通路
40a バルーン部の遠位端部
40b バルーン部の近位端部
50 ワイヤ挿通孔
51 胴体部
52 先端部
53 内管挿通孔
54 側方挿通孔
54a 側方挿通孔の開口部
55 遠位側挿通孔
55a 遠位側挿通孔の開口部
56 通孔
56a 通孔の近位側開口部
57 段差部
60 略円筒部材
60a 略円筒部材の遠位側端面
70 センサ収容空間
71 一次ポート
72 二次ポート
73 三次ポート
74 一次通路
75 二次通路
76 三次通路
511 硬化性樹脂充填孔(第1充填孔)
511a 硬化性樹脂充填孔(第1充填孔)の開口部
512 硬化性樹脂充填孔(第2充填孔)
512a 硬化性樹脂充填孔(第2充填孔)の開口部
513 硬化性樹脂充填孔(第3充填孔)
513a 硬化性樹脂充填孔(第3充填孔)の開口部