(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】金型
(51)【国際特許分類】
B28B 3/26 20060101AFI20240618BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20240618BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20240618BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240618BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B28B3/26 A
B01D39/20 D
B01D46/00 302
C04B38/00 303Z
F01N3/022 C
(21)【出願番号】P 2024049628
(22)【出願日】2024-03-26
(62)【分割の表示】P 2021537266の分割
【原出願日】2020-07-30
【審査請求日】2024-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2019146535
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】小方 智寿
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-168279(JP,A)
【文献】特開2005-270969(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133847(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/117559(WO,A1)
【文献】特開2011-167641(JP,A)
【文献】特開2005-125209(JP,A)
【文献】特開2016-187804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/26
B01D 39/20
B01D 46/00
C04B 38/00
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁で仕切られた複数の流路を備え、一方の端部から流入させた流体を前記多孔質の隔壁を通過させ他方の端部から流出するように構成され、
前記複数の流路は、前記一方の端部が開口し、かつ前記他方の端部が目封止された流入流路と、前記一方の端部が目封止され、かつ前記他方の端部が開口した流出流路とからなるセラミックハニカムフィルタ用の前記複数の流路を備えたセラミックハニカム成形体を押出成形するための金型であって、
前記流路の長手方向に垂直な断面において、
(a)前記流入流路の断面積が、前記流出流路の断面積より大きく、
(b)前記流入流路及び前記流出流路の断面形状が正四角形の四隅を切り落とした、4回回転対称の八角形であり、
(c)前記流入流路と前記流出流路とが、第一の方向と、前記第一の方向に直交する第二の方向とに交互に並んで、かつ前記隔壁を挟んで対向する辺同士が平行となるように配設されており、
(d)前記流入流路の開口率が45~60%であり、
(e)前記流路の数が30~60個/cm
2であり、
(f)前記流入流路と、その流入流路に隣接する流出流路との間に形成された隔壁の厚さt1が0.150~0.260 mmであり、
(g)前記流入流路と、その流入流路に隣接する流入流路との間に形成された隔壁の厚さt2が、1.175<t2/t1<1.6を満たすことを特徴とする金型。
【請求項2】
前記流路の長手方向に垂直な断面において、前記流入流路の各辺のうち、隣接する前記流入流路に対向する辺の長さα1、及び隣接する前記流出流路に対向する辺の長さα2、並びに前記流出流路の各辺のうち、隣接する前記流出流路に対向する辺の長さβ1、及び隣接する前記流入流路に対向する辺の長さβ2が、
0.2<α1/α2<1.2、
0.3<β1/β2<1.2、及び
0.3<β1/α1<1.5
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記多孔質の隔壁の気孔率が45~60%、及びメジアン気孔径が5~20μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質(パティキュレートマター(以下、「PM」という場合がある。))等を除去し、排ガスを浄化するために用いられるセラミックハニカムフィルタ用の複数の流路を備えたセラミックハニカム成形体を押出成形するための金型に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、環境汚染の原因となるような炭素を主成分とするスート(スス)等のPMが多量に含まれている。そのため、ディーゼルエンジン等の排気系の後処理装置として、PMを除去(捕集)するためのフィルタを搭載することが従来から行われている。このようなフィルタとして、セラミックハニカム構造体からなるセラミックハニカムフィルタが広く使用されている。通常、セラミックハニカムフィルタは、排ガスが流入する流入端面から排ガスが流出する流出端面まで延びる複数の流路を区画形成する多孔質の隔壁を有したセラミックハニカム構造体と、このセラミックハニカム構造体のいずれかの端面において、各流路の一方の端部を目封止した目封止部とから構成される。
【0003】
このようなセラミックハニカムフィルタを排ガスに含まれるPMの除去に用いると、排ガスは、セラミックハニカムフィルタの流入端面から、流出端面の端部が目封止された流路内に流入する。その後、排ガスは、多孔質の隔壁を透過して、流入端面の端部が目封止された流路内に移動する。そして、排ガスが、多孔質の隔壁を透過する際に、排ガス中のPMが隔壁に捕捉されて隔壁上に堆積して、PMが除去された排ガスが、流出端面から外部に流出される。
【0004】
セラミックハニカムフィルタをディーゼルエンジンの後処理装置として連続的に使用すると、時間の経過とともに、PMが隔壁上に堆積して流路を閉塞させ、フィルタの圧力損失が上昇するため、堆積したPMを定期的に燃焼除去する再生処理が行われる。
【0005】
近年、隔壁上に堆積したPMにより流路が閉塞するのを抑制する目的で、排ガスが流入する側の流路の断面積を、排ガスが流出する側の流路の断面積より大きくしたハニカムフィルタが、例えば、特許文献1~3に提案されている。
【0006】
特許文献1は、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム構造体であって、多数の貫通孔は、長手方向に垂直な断面における面積の総和が相対的に大きくなるように、ハニカム構造体の一方の端部で封止されてなる大容積貫通孔群と、断面の面積の総和が相対的に小さくなるように、ハニカム構造体の他方の端部で封止されてなる小容積貫通孔群とからなり、ハニカム構造体の入口側の開口率をα(%)とし、隣り合う大容積貫通孔群を構成する貫通孔同士を隔てる隔壁と、隣り合う大容積貫通孔群を構成する貫通孔と小容積貫通孔群を構成する貫通孔とを隔てる隔壁との断面における厚さの差をβ(mm)としたときに、式(1):0.0022α+0.0329≦β≦0.0071α+0.2553、及び式(2):36≦α≦60の関係を満たすハニカム構造体を開示しており、大容積貫通孔群を構成する貫通孔の長手方向に垂直な断面の形状が八角形であり、小容積貫通孔群を構成する貫通孔の上記断面の形状が四角形であるのが望ましいと記載している。特許文献1は、このような構成を有するハニカム構造体に触媒を担持させる際には、大容積貫通孔群を構成する貫通孔と小容積貫通孔群を構成する貫通孔とを隔てる隔壁よりも、大容積貫通孔群を構成する貫通孔同士を隔てる隔壁に触媒をより多く担持させた方が、ハニカム構造体の圧力損失を上昇させることなく、排気ガス等の浄化性能を向上させることができると記載している。
【0007】
特許文献2は、特許文献1と同様に、排ガスが流入する側の流路(第1のセル)の断面積を、排ガスが流出する側の流路(第2のセル)の断面積より大きくなるように構成したハニカムフィルタであって、第1のセルの断面形状が八角形状又は角部が円弧状の四角形状で、第2のセルの断面形状が四角形状であり、隣り合う第1のセル同士を隔てる隔壁の壁厚が、隣り合う第1のセルと第2のセルとの間の隔壁の壁厚よりも大きく形成されたハニカムフィルタを開示している。特許文献2は、このような構成を有することにより流入側の流路から流出側の流路へ流体を流れやすくすることができるため、スス付き圧損を減少させつつ流体の流量を増大させ、つまり捕集性能を向上させつつ、ハニカムフィルタの強度を増大させることができると記載している。
【0008】
特許文献3は、特許文献1と同様に、排ガスが流入する側の流路(流入流路)の断面積を、排ガスが流出する側の流路(流出流路)の断面積より大きくなるように構成した目封止ハニカム構造体あって、流出流路のうちの少なくとも一の流路は、前記流路の延びる方向に垂直な断面における隔壁が交差する少なくとも一の角部に、前記流出流路を補強する補強部が形成された補強流路であり、かつ流入流路は、前記流路の延びる方向に垂直な断面における隔壁が交差する少なくとも一の角部に、前記流入流路を補強する補強部が形成され、かつ前記流入流路の補強された角部の数が、前記流出流路の補強された角部の数より少ない目封止ハニカム構造体を開示しており、流入流路の形状を八角形として、流出流路の形状を四角形とするのが好ましいと記載している。特許文献3は、このような構成を有することにより、圧力損失の増加を抑制できるとともに、目封止ハニカム構造体の耐久性を向上させることができ、目封止ハニカム構造体を機械的強度に優れたものとすることができると記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-125209号公報
【文献】国際公開第2008/117559号
【文献】国際公開第2012/133847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、排ガスが流入する側の流入流路の断面積を、排ガスが流出する側の流出流路の断面積より大きくした上記の引用文献に記載されたハニカムフィルタは、流入流路の隔壁上に堆積したPMで流入流路が閉塞することで生じるスス付き圧損の改善が不十分であり、さらなる改善が必要であった。また、断面形状が八角形の流路と四角形の流路との組み合わせから構成されるこれらのハニカムフィルタに対して、強度がさらに改善されたハニカムフィルタの開発が望まれていた。
【0011】
従って、本発明の目的は、排ガスが流入する側の流入流路の断面積を、排ガスが流出する側の流出流路の断面積より大きくしたハニカムフィルタにおいて、流入流路の隔壁上に堆積したPMにより流入流路が閉塞して圧力損失(スス付き圧損)が上昇するのを改善し、初期の圧力損失を維持しつつ、強度を改善させたハニカムフィルタ用の複数の流路を備えたセラミックハニカム成形体を押出成形するための金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、流入流路及び流出流路の断面形状を最適化するとともに、流入流路と流出流路との間の隔壁の厚さ、及び流入流路と流入流路との間の隔壁の厚さを特定の範囲に設定することにより、圧力損失及び強度を改善させたハニカムフィルタが得られることを見出し、本発明に想到した。
【0013】
すなわち、本発明のセラミックハニカムフィルタ用の複数の流路を備えたセラミックハニカム成形体を押出成形するための金型は、多孔質の隔壁で仕切られた複数の流路を備え、一方の端部から流入させた流体を前記多孔質の隔壁を通過させ他方の端部から流出するように構成され、
前記セラミックハニカムフィルタの前記複数の流路は、前記一方の端部が開口し、かつ前記他方の端部が目封止された流入流路と、前記一方の端部が目封止され、かつ前記他方の端部が開口した流出流路とからなり、
前記流路の長手方向に垂直な断面において、
(a)前記流入流路の断面積が、前記流出流路の断面積より大きく、
(b)前記流入流路及び前記流出流路の断面形状が正四角形の四隅を切り落とした、4回回転対称の八角形であり、
(c)前記流入流路と前記流出流路とが、第一の方向と、前記第一の方向に直交する第二の方向とに交互に並んで、かつ前記隔壁を挟んで対向する辺同士が平行となるように配設されており、
(d)前記流入流路の開口率が45~60%であり、
(e)前記流路の数が30~60個/cm2であり、
(f)前記流入流路と、その流入流路に隣接する流出流路との間に形成された隔壁の厚さt1が0.150~0.260 mmであり、
(g)前記流入流路と、その流入流路に隣接する流入流路との間に形成された隔壁の厚さt2が、1.175<t2/t1<1.6を満たすことを特徴とする。
【0014】
本発明の金型において、前記流路の長手方向に垂直な断面において、前記流入流路の各辺のうち、隣接する前記流入流路に対向する辺の長さα1、及び隣接する前記流出流路に対向する辺の長さα2、並びに前記流出流路の各辺のうち、隣接する前記流出流路に対向する辺の長さβ1、及び隣接する前記流入流路に対向する辺の長さβ2が、
0.2<α1/α2<1.2、
0.3<β1/β2<1.2、及び
0.3<β1/α1<1.5
を満たすのが好ましい。
【0015】
本発明の金型において、前記多孔質の隔壁の気孔率は45~60%であり、メジアン気孔径が5~20μmであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、隔壁上に堆積したPMによりセルが閉塞してスス付き圧損が上昇するのを改善できるとともに、初期の圧力損失を維持しつつ、強度を改善させたハニカムフィルタ用の複数の流路を備えたセラミックハニカム成形体を押出成形するための金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のセラミックハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1におけるA-A断面を示す模式図である。
【
図3】
図2におけるB―B断面の一部を示す模式図である。
【
図4】
図2におけるB―B断面の一部を詳細に示す模式図である。
【
図5】本発明のセラミックハニカムフィルタの流入流路の開口率の算出方法を説明するための模式図である。
【
図6】本発明のセラミックハニカムフィルタの別の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図7】比較例1、2のセラミックハニカムフィルタの流路方向に垂直な断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0019】
[1] セラミックハニカムフィルタ
図1は本発明のセラミックハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1のA-A断面図である。さらに
図3及び
図4は
図2のB―B断面での部分断面図である。本発明のセラミックハニカムフィルタ1は、流路2の長手方向に垂直な平面で切断した断面の外形が円形又は楕円形に形成されており、流体の流路2を区画形成する多孔質の隔壁3及び外周壁4とを備え、流路2の長手方向に垂直な平面で切断した断面における断面積が異なる2種類の流路(流入流路2a及び流出流路2b)2が形成されている。
【0020】
図2に示すように、本発明のセラミックハニカムフィルタ1は、流入流路2aが開口する一方の端部から流入させた流体を、前記多孔質の隔壁3を透過させて流出流路2b内に透過流体として流出させ、透過流体を流出流路2bが開口する他方の端部から流出するように構成されている。そのため、前記流路2は、一方の端部が開口し、かつ他方の端部が目封止部5aで目封止された流入流路2aと、一方の端部が目封止部5bで目封止され、かつ他方の端部が開口した流出流路2bとを有する。
【0021】
流入流路2a及び流出流路2bの長手方向に垂直な平面で切断した断面において、流入流路2aの断面積は流出流路2bの断面積より大きく、流入流路2a及び流出流路2bの断面形状は正四角形の四隅を切り落とした、4回回転対称の八角形である。なお流路の断面積とは前記断面に開口する流路の開口面積のことである。
図3に示すように、流入流路2a及び流出流路2bは、前記断面において、第一の方向Xに交互に並んで配設されているとともに、前記第一の方向Xに直交する第二の方向Yに交互に並んで配設されている。このとき、流入流路2a及び流出流路2bは、それらの軸中心Oa,Obが第一の方向X及び第二の方向Yの同一直線上に並ぶように配設されている。各流入流路2aには、第一の方向Xに直交するとともに第二の方向Yに平行な2つの辺212と、第二の方向Yに直交するとともに第一の方向Xに平行な2つの辺212とを有し、同様に、各流出流路2bには、第一の方向Xに直交するとともに第二の方向Yに平行な2つの辺222と、第二の方向Yに直交するとともに第一の方向Xに平行な2つの辺222とを有する。
【0022】
さらに、流入流路2a及び流出流路2bは、前記断面において、流入流路2aと流出流路2bとの間に形成された隔壁3aを挟んで対向する辺同士が平行となるように配設されている。流入流路2aと流出流路2bとの間に形成された隔壁3aを挟んで対向する辺同士とは、例えば
図4において、流入流路2aの辺212と流出流路2bの辺222とのことであり、この辺212と辺222とが平行になるように流入流路2aと流出流路2bとが配設されている。従って、流入流路2aとそれに隣接する流入流路2aとの間に形成された隔壁3bを挟んで対向する辺同士(一方の流入流路2aの辺211と隣接する流入流路2aの辺211)も平行となる。
【0023】
流入流路2aは隔壁3aを挟んで4つの流出流路2bが隣接しており、流入流路2aの軸中心Oaと4つの流出流路2bの軸中心Obとの間の距離が全て等しく、同様に、流出流路2bは隔壁3aを挟んで4つの流入流路2aが隣接しており、流出流路2bの軸中心Obと4つの流入流路2aの軸中心Oaとの間の距離が全て等しい。すなわち、流入流路2a及び流出流路2bは、各流路の軸中心Oa,Obが正方格子の交点に一致するように配設されている。
【0024】
流入流路2aとその流入流路2aに隣接する流出流路2bとの間に形成された隔壁3aの厚さt1は0.150~0.260 mmであって、流入流路2aとその流入流路2aに隣接する流入流路2aとの間に形成された隔壁3bの厚さt2は1.175<t2/t1<1.6の関係を満たし、流入流路2aの開口率は45~60%である。ここで流入流路2aの開口率とは、流路2の長手方向に垂直な平面で切断した断面において、セラミックハニカムフィルタ1の断面積に対する流入流路2aの断面積(開口面積)の合計の割合のことを言う。具体的には、
図5に示すように、流入流路2aの軸中心と、それに隣接する流出流路2bの軸中心を結ぶ辺を一辺として構成される四角形領域を単位断面領域Sとしたとき、単位断面領域Sにおける流入流路2a
1,2a
2の部分の断面積の合計を単位断面領域Sの面積で除して求めた割合である。
【0025】
以上に説明したように、本発明のセラミックハニカムフィルタは、流入流路2aの断面積を流出流路2bの断面積よりも大きくし、流入流路2aの開口率を45~60%、流路の数を30~60個/cm2としているため、セラミックハニカムフィルタ1に微粒子を含有する排ガスを流した際に、一方の端部(流体が流入する側の端部)に開口する流入流路2aが閉塞して生じるスス付き圧損の上昇を改善することができる。一方、流入流路2aの開口率を大きくすることにより流出流路2bの断面積が相対的に狭まるため初期の圧力損失の上昇が懸念されるが、流入流路2aとその流入流路に隣接する流出流路2bとの間に形成された隔壁3aの厚さt1を0.150~0.260 mmのように薄く設定していることから、流入流路2aから流出流路2bへ排ガスが隔壁3aを通過する際の通気抵抗が低減し、初期の圧力損失の上昇を抑えることができる。
【0026】
流入流路2a及び流出流路2bの断面形状を正四角形の四隅を切り落とした、4回回転対称の八角形とするとともに、流入流路2aと流出流路2bとが、第一の方向と、前記第一の方向に直交する第二の方向とに交互に並んで、かつ前記隔壁3aを挟んで対向する辺同士が平行となるように配設されているので、隣接する2つの流入流路2aと隣接する2つの流出流路2bとで囲まれた隔壁3bに、流入流路2a及び流出流路2bの角部が対向しないような配置となり、流入流路2a及び流出流路2b角部が隔壁3bの破壊の起点となり難い。さらに、流入流路2aとその流入流路2aに隣接する流出流路2bとの間に形成された隔壁3aの厚さt1、及び流入流路2aとその流入流路2aに隣接する流入流路2aとの間に形成された隔壁3bの厚さt2を、1.175<t2/t1<1.6の関係を満たすようにしているので、t1を0.150~0.260 mmのような薄い隔壁厚さとした場合であっても、従来技術のような八角形の流入流路と四角形の流出流路とからなるハニカムフィルタに比較して強度を改善することができる。
【0027】
流入流路2aの開口率は45~60%とする。前記開口率が45%未満では、セラミックハニカムフィルタ1に微粒子を含有する排ガスを流した際に、隔壁上に堆積したPMにより流入流路が閉塞してしまい、スス付き圧損が上昇する。一方、開口率が60%を超えると、相対的に流出流路の断面積が小さくなって初期圧損が上昇する。流入流路2aの開口率は47%以上が好ましく、49%以上がより好ましい。一方、流入流路2aの開口率は58%以下が好ましく、56%以下がより好ましい。
【0028】
流入流路2aとその流入流路2aに隣接する流出流路2bとの間に形成された隔壁3aの厚さt1は0.150~0.260 mmとする。厚さt1が0.150 mm未満では、強度の改善効果が十分に得られず、厚さt1が0.260 mmを超えると初期圧損が高くなる。厚さt1は0.160 mm以上が好ましく、0.170 mm以上がより好ましい。一方、厚さt1は0.250 mm以下が好ましく、0.240 mm以下がより好ましい。
【0029】
流入流路2aとその流入流路2aに隣接する流入流路2aとの間に形成された隔壁3bの厚さt2は1.175<t2/t1<1.6の関係を満たすように設定する。1.175<t2/t1とすることにより、すなわちt2をt1の1.175倍より厚くすることにより流入流路2aから流出流路2bへ流体を流れやすくすることができ、微粒子の捕集を効果的に行うことができる。しかし、t2/t1が、1.175以下となる場合、流入流路2aから流出流路2bへ流体が流れ難くなり、微粒子の捕集を効果的に行うことが難しくなる。一方、t2/t1が1.6以上になると、t2とt1との壁厚の差が大きくなって、熱衝撃が生じた際に、隔壁3aと隔壁3bとの交点部で破損が生じる場合がある。t2/t1は、1.2超が好ましく、1.3超がより好ましい。また、t2/t1は、1.58未満が好ましく、1.55未満がより好ましい。
【0030】
流入流路2a及び流出流路2bの断面形状は、前述したように、正四角形の四隅を切り落とした、4回回転対称の八角形である。流入流路2aの八つの辺の長さは、全て同一であってもよいし、隣接する流入流路2aに対向する辺211の長さα1及び隣接する流出流路2bに対向する辺212の長さα2が異なっていても良いが、一つの流入流路2aにおける4つの辺211の長さα1は同一であり、4つの辺212の長さα2は同一である(
図4を参照)。α1とα2との比α1/α2は、1.2以下であるのが好ましい。1.2を超えると、流入流路2aと、その流入流路2aに隣接する流入流路2aとの間に形成された隔壁3bの厚さt2が大きくなり、初期の圧力損失が大きくなる。比α1/α2は、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.6以下、最も好ましくは0.50以下である。一方、比α1/α2は、0.2以上であるのが好ましい。0.2未満の場合、前記隔壁3bの厚さt2が小さくなり、強度の改善効果が十分に得られない。比α1/α2は、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.35以上である。
【0031】
同様に、流出流路2bの八つの辺の長さも、全て同一であってもよいし、隣接する流出流路2bに対向する辺221の長さβ1及び隣接する流入流路2aに対向する辺222の長さβ2が異なっていても良いが、一つの流出流路2bにおける4つの辺221の長さβ1は同一であり、4つの辺222の長さβ2は同一である(
図4を参照)。β1とβ2との比β1/β2は、1.2以下であるのが好ましい。1.2を超えると、流出流路2bと、その流出流路2bに隣接する流出流路2bとの間に形成された隔壁3bの厚さt3が大きくなり、初期の圧力損失が大きくなる。比β1/β2は、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.8以下、最も好ましくは0.6以下である。一方、比β1/β2は、0.3以上であるのが好ましい。0.3未満の場合、流出流路2bと、それに隣接する流出流路2bとの間に形成された隔壁3bに破壊の起点となる角部が生じ、強度の改善効果が十分に得られない。比β1/β2は、より好ましくは0.35以上、さらに好ましくは0.4以上である。尚、八つの辺の接続部には微小なRが形成されていても良い。
【0032】
流出流路2bの辺221の長さβ1と流入流路2aの辺211の長さα1との比β1/α1は、1.50以下であるのが好ましい。1.50を超えると、隣接する流出流路2b間の隔壁3bの厚さt3が大きくなり、初期の圧力損失が大きくなる。比β1/α1は、より好ましくは1.40以下、さらに好ましくは1.30以下、最も好ましくは1.25以下である。一方、比β1/α1は、0.30以上であるのが好ましい。0.30未満の場合、流出流路2bと、それに隣接する流出流路2bとの間に形成された隔壁3bに破壊の起点となる角部が生じ、強度の改善効果が十分に得られない。比β1/α1は、より好ましくは0.40以上、さらに好ましくは0.45以上である。
【0033】
本発明のセラミックハニカムフィルタ1は、流路の数が30~60個/cm
2(流入流路15~30個/cm
2、及び流出流路15~30個/cm
2)である。前述の単位断面領域S(
図5を参照)を基準にして規定すると、この単位断面領域Sには0.5個の流入流路及び0.5個の流出流路、すなわち1個の流路が含まれるため、流路の数が30~60個/cm
2とは単位断面領域Sが1cm
2あたり30~60個含まれると言うことである。言い換えれば、単位断面領域Sが一辺0.183 cmの正方形から一辺0.129 cmの正方形の間であるのが好ましい。(例えば、一辺0.183 cmの正方形が30個集まれば、合計の面積は0.183 cm×0.183 cm×30個=1 cm
2となり、一辺0.129 cmの正方形が60個集まれば、合計の面積は0.129 cm×0.129 cm×60個=1 cm
2となる。)流路の数が30個/cm
2未満であると強度の改善効果が十分に発揮されず、60個/cm
2を超えると初期圧損が高くなる。流路の数は40個/cm
2以上が好ましく、45個/cm
2以上がより好ましい。また、流路の数は55個/cm
2以下が好ましく、50個/cm
2以下がより好ましい。
【0034】
本発明のセラミックハニカムフィルタ1の多孔質の隔壁3は45~60%の気孔率を有するのが好ましい。気孔率が45%未満の場合、PMが捕集された際にスス付き圧損が高くなる。気孔率は好ましくは48%以上、更に好ましくは50%以上である。一方、気孔率が60%を超えると再生処理後の使用開始初期のPM捕集率が低下する。気孔率は好ましくは59%以下、さらに好ましくは58%以下である。なお隔壁の気孔率は後述の水銀圧入法で測定する。
【0035】
本発明のセラミックハニカムフィルタ1の多孔質の隔壁3は5~20μmのメジアン気孔径d50を有するのが好ましい。メジアン気孔径d50が5μm未満である場合、再生処理後の使用開始初期の初期圧力損失を低く維持することが難しくなる。メジアン気孔径d50は、好ましくは7μm以上、更に好ましくは9μm以上である。一方、メジアン細孔径d50が20μm超の場合、PM捕集性能が悪化する。メジアン気孔径d50は、好ましくは18μm以下、更に好ましくは16μm以下である。
【0036】
水銀圧入法による気孔率及びメジアン気孔径の測定は、Micromeritics社製のオートポアIII 9410を使用して測定することができる。この測定は、セラミックハニカム構造体から切り出した試験片(10 mm×10 mm×10 mm)を測定セル内に収納し、セル内を減圧した後、水銀を導入して加圧したときに、試験片内に存在する気孔中に押し込まれた水銀の体積を求めることによって行う。この時加圧力が大きくなればなるほど、より微細な気孔にまで水銀が浸入するので、加圧力と気孔中に押し込まれた水銀の体積との関係から、気孔径と累積気孔容積(最大の気孔径から特定の気孔径までの気孔容積を累積した値)の関係を求めることができる。水銀の浸入は気孔径の大きいものから小さいものへと順次行われ、前記圧力を気孔径に換算し、気孔径の大きい側から小さい側に向かって積算した累積気孔容積(水銀の体積に相当)を気孔径に対してプロットし、気孔径と累積気孔容積との関係を示すグラフを得る。本願において、水銀を導入する圧力は0.5psi(0.35×10-3 kg/mm2)とし、水銀の加圧力が1800psi(1.26kg/mm2、気孔径約0.1μmに相当)での累積気孔容積を全気孔容積とする。
【0037】
得られた水銀圧入法の測定結果から、気孔率及びメジアン気孔径d50(累積気孔容積が全気孔容積の50%となる気孔径;μm)を算出する。気孔率は、全気孔容積Vと、隔壁材質の真比重ρとから計算式:
[ρ×V/(1+ρ×V)]×100(%)
によって求めることができる。例えば、セラミックハニカムフィルタの隔壁の材質がコーディエライトである場合は、コーディエライトの真比重2.52g/cm3を用いて、セラミックハニカムフィルタの隔壁の材質が炭化珪素である場合は、炭化珪素の真比重3.21g/cm3を用いて計算する。
【0038】
本発明のセラミックハニカムフィルタは、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中のPM等を除去し、排ガスを浄化するために用いられるため、内燃機関の排気量に応じて、外径125~400 mm及び長さ125 mm~400 mmの大きさであるのが好ましい。
【0039】
セラミックハニカムフィルタ1の隔壁の材料としては強度及び耐熱性の観点から、炭化珪素、コーディエライト、炭化珪素-酸化物系複合材、珪素-炭化珪素系複合材料、窒化珪素、ムライト、アルミナ、シリカ、スピネル、リチウムアルミニウムシリケート、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を用いるのが好ましい。中でも、コーディエライトは熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れることから好ましい。さらに、炭化珪素-酸化物系複合材は、耐熱性により優れていることからさらに好ましい。炭化珪素-酸化物系複合材は、骨材の炭化珪素を酸化物の結合材で結合されて構成されるもので、酸化物として、コーディエライト、ムライト、スピネル、アルミナ、サフィリン、及びクリストバライトから構成される群より選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。
【0040】
流路2の目封止に用いる目封止材としては、前記セラミックハニカムフィルタ1の隔壁と同様な材料を選択して用いることができる。隔壁の材料と同一の材料としても良い。前記隔壁と同様の材質の骨材をコロイダルシリカ、コロイダルアルミナなどのコロイド状酸化物を用いて結合して形成しても良い。
【0041】
本発明のセラミックハニカムフィルタは、外周壁4が形成されていてもよい。外周壁4は、セラミックハニカム構造体の押出成形時に同時に形成しても良いし、外周壁を有さないセラミックハニカム構造体を作製し、その外周周縁部分を加工により除去した後に、外周壁コート層を設けて形成しても良い。外周壁コート層としては、セラミック粒子と水とを含み、セラミック粒子としては、コーディエライト、シリカ、アルミナ等を使用できる。バインダーとして、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等のコロイド状酸化物を含むこともできる。
【0042】
流入流路2a及び流出流路2bの目封止部5a,5bの流路方向の長さは、2~15 mmが好ましい。2 mm未満では、隔壁3と目封止部5との接合面積が小さいため、強度が確保できず、目封止部が脱落することもある。15 mmを超えると、相対的に隔壁の面積が小さくなって圧力損失が高くなる、又は熱衝撃により目封止部が破損することもある。
【0043】
本発明のセラミックハニカムフィルタの別の例として、
図6に示すように、ハニカムセグメント10が、接合材層13を介して互いの接合面で一体的に接合されてなるハニカムセグメント接合体としてもよい。すなわち、ハニカムセグメントを接合してなるセラミックハニカムフィルタは、流入流路2a及び流出流路2bの長手方向に垂直な断面において、
(a)流入流路2aの断面積が流出流路2bの断面積より大きく、
(b)流入流路2a及び流出流路2bの断面形状が正四角形の四隅を切り落とした、4回回転対称の八角形であり、
(c)流入流路2aと流出流路2bとが、第一の方向と、前記第一の方向に直交する第二の方向とに交互に並んで、かつ隔壁3aを挟んで対向する辺同士が平行となるように配設されており、
(d)流入流路2aの開口率が45~60%であり、
(e)前記流路の数が30~60個/cm
2であり、
(f) 流入流路2aと、その流入流路2aに隣接する流出流路2bとの間に形成された隔壁の厚さt1が0.150~0.260 mmであり、
(g) 流入流路2aと、その流入流路2aに隣接する流入流路2aとの間に形成された隔壁の厚さt2が、1.175<t2/t1<1.6を満たすハニカムセグメント10が、
図6に示すように、接合材層13を介して互いの接合面で一体的に接合されてなるハニカムセグメント接合体である。ハニカムセグメント接合体の外周面は、外周コート層14で被覆するのが好ましい。
【0044】
[2] セラミックハニカムフィルタの製造方法
本発明のセラミックハニカムフィルタの製造方法について説明する。
まずセラミック原料に、有機バインダー、造孔材、及び水を添加して混合、混練を行って、可塑化したセラミック坏土を作製する。
【0045】
セラミック原料は、炭化珪素、コーディエライト化原料、炭化珪素-酸化物系複合化原料、珪素-炭化珪素系複合材料、窒化珪素、ムライト、アルミナ、シリカ、スピネル、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。これらの中でも、コーディエライトは熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れることからコージェライト化原料が好ましい。さらに、炭化珪素-酸化物系複合化原料は、耐熱性により優れていることからさらに好ましい。炭化珪素-酸化物系複合化原料は、骨材の炭化珪素粒子が酸化物の結合材で結合されて構成されるもので、酸化物として、コーディエライト粒子、ムライト粒子、スピネル粒子、アルミナ粒子、サフィリン粒子、クリストバライト粒子、及びコーディエライト、ムライト、スピネル、アルミナ、サフィリン、又はクリストバライトを得る原料粉末からなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。
【0046】
有機バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を用いることができる。
【0047】
造孔材としては、小麦粉、グラファイト、澱粉粉、中実又は中空の樹脂(ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、メチルメタクリレート・アクリロニトリル共重合体等)等を用いることができる。これらのうち、中空の樹脂粒子が好ましく、中でもメチルメタクリレート・アクリロニトリル共重合体で形成された中空の樹脂粒子が好ましい。
【0048】
得られたセラミック坏土をハニカム状の押出成形用金型で押出して、所定長さに切断し、
図5に示したように、断面における断面積が相対的に大きい流路(流入流路2a)と、相対的に小さい流路(流出流路2b)とを有するセラミックハニカム成形体とし、熱風炉、熱処理炉、マイクロ波等で乾燥して、セラミックハニカム乾燥体を作製する。その後、必要に応じて端面、外周等の加工を施し、焼成することでセラミックハニカム構造体を製造する。焼成の条件は、セラミック原料の種類により異なるため、その種類に応じて適切な条件を選択すればよい。例えば、コーディエライト化原料を使用する場合は、焼成温度は1350~1440℃が好ましく、焼成時間は、最高温度での保持時間として3~10時間が好ましい。炭化珪素、炭化珪素-酸化物系複合化原料の場合は、焼成温度は1200~1450℃が好ましく、焼成時間は、最高温度での保持時間として3~10時間が好ましい。
【0049】
焼成して得られたセラミックハニカム構造体の外周周縁部を除去加工した後、目封止部5a,5bを形成する。流入流路2aについては、流体が流出する側の端部において目封止部5aを形成し、流出流路2bについては、流体が流入する側の端部において目封止部5bを形成する。この目封止部5a,5bの形成には、従来公知の方法を用いることができる。具体的な一例として、セラミックハニカム構造体の端面にフィルムを貼り付け、目封止部を形成しようとする流路に対応した位置のフィルムに孔を開け、このフィルムを貼り付けたままの状態で、目封止部の形成材料をスラリー化した目封止用スラリーにハニカム構造材の端面を浸漬又は押圧して、フィルムに開けた孔から目封止しようとする流路の開口端部内に目封止用スラリーを充填する。充填された目封止用スラリーを乾燥した後、必要に応じて加熱及び焼成して硬化させることにより目封止部が形成される。
【0050】
目封止部が形成されたセラミックハニカム構造体の外周部に外皮材をコーティングして乾燥させる。外皮材は、セラミックス粒子とコロイダルシリカからなるコート材を用いることができ、セラミックス粒子としては、コーディエライト、シリカ、アルミナ、ムライト等を用いることができる。
【0051】
前述した、ハニカムセグメントを接合してなるセラミックハニカムフィルタ(
図6を参照)の製造方法について説明する。ハニカムセグメント接合体からなるセラミックハニカムフィルタは、前記得られたセラミック坏土をハニカム状の押出成形用金型で、
図6に示すハニカムセグメント10の形状である外形四角形状に押出して、所定長さに切断し、
図5に示したように、断面における断面積が相対的に大きい流路(流入流路2a)と、相対的に小さい流路(流出流路2b)とを有するハニカムセグメント成形体とし、熱風炉、熱処理炉、マイクロ波等で乾燥して、ハニカムセグメント乾燥体を作製する。その後、必要に応じて端面、外周面等の加工を施し、焼成することでセラミックハニカム構造のハニカムセグメント10を製造する。焼成の条件は、セラミック原料の種類により異なるため、その種類に応じて適切な条件を選択すればよい。例えば、コーディエライト化原料を使用する場合は、焼成温度は1350~1440℃が好ましく、焼成時間は、最高温度での保持時間として3~10時間が好ましい。炭化珪素、炭化珪素-酸化物系複合化原料の場合は、焼成温度は1200~1450℃が好ましく、焼成時間は、最高温度での保持時間として3~10時間が好ましい。
【0052】
焼成して得られたセラミックハニカム構造のハニカムセグメント10の両端部に目封止部5a、5bを形成する。この目封止部5a,5bの形成には、従来公知の方法を用いることができる。具体的な一例として、セラミックハニカムセグメント10の端面にフィルムを貼り付け、目封止部を形成しようとする流路に対応した位置のフィルムに孔を開け、このフィルムを貼り付けたままの状態で、目封止部の形成材料をスラリー化した目封止用スラリーにハニカムセグメント10の端面を浸漬又は押圧して、フィルムに開けた孔から目封止しようとする流路の開口端部内に目封止用スラリーを充填する。充填された目封止用スラリーを乾燥した後、必要に応じて加熱及び焼成して硬化させることにより目封止部が形成される。
【0053】
目封止部が形成されたハニカムセグメント10を、例えば、
図6に示すように16個準備し、それらの外周面同士を接合材で接合し、乾燥、必要に応じ焼成させる。接合材としては、セラミックス粒子、無機繊維、無機バインダ、有機バインダ、その他必要に応じて添加される添加剤等を含む接合材を用いることができる。尚、接合するハニカムセグメント10の数は、
図6では16個の場合を示したが、特に限定されない。例えば、ハニカムセグメント10の大きさを調整して、4個としても良い。
【0054】
その後、ハニカムセグメント10を接合してなるハニカムセグメント接合体の外周を加工して所定の外周形状とし、コート層14で被覆した後、乾燥し、必要に応じて焼成して硬化させることにより、ハニカムセグメント10が接合材層13を介して一体的に接合されてなるハニカムセグメント接合体を得ることができる。
【0055】
以上のような製造方法により、本発明のハニカムフィルタを得ることができる。なお、目封止部は、セラミックハニカム構造体を焼成する前のセラミックハニカム乾燥体に目封止用スラリーを充填し、その後、セラミックハニカム乾燥体と目封止部とを同時に焼成してもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
実施例1~2及び比較例1~2
コーディエライト化原料として、カオリン、タルク、シリカ、アルミナの粉末を、質量比で、50%のSiO
2、36%のAl
2O
3、及び14%のMgOのコーディエライト組成となるように調整し、造孔材として中空の樹脂粒子、有機バインダーとしてメチルセルロースとヒドロキシプロピルメチルセルロースを添加し、乾式で十分混合した後、水を添加し、十分な混練を行って可塑化したセラミック杯土を作製した。このセラミック坏土を押出し成形用金型を用いてハニカム形状に押出し成形し、切断して、直径280 mm、全長314.8 mmの成形体とした。この成形体を、マイクロ波で乾燥し、最高温度1410℃で25時間保持して焼成した後、外周周縁部を除去加工し、流路の断面形状が正四角形の四隅を切り落とした、4回回転対称の八角形で、断面積の大きな流路と小さな流路が交互に配置された
図1~4に示すセル構造を有する実施例1及び2のコーディエライト質セラミックハニカム構造体と、流路の断面形状が
図7に示すセル構造を有する比較例1及び2のコーディエライト質セラミックハニカム構造体を得た。表1に具体的な形状及び構造を示す。
【0058】
得られたセラミックハニカム構造体の外周周縁部を直径264.7 mmとなるように除去加工した後、流路端部が目封止部で交互に目封止されるように、コーディエライト化原料からなる目封止材スラリーを充填し、乾燥し、1400℃で焼成を行った。焼成後の目封止部の長さは7~10 mmの範囲であった。目封止部を形成したセラミックハニカム構造体の外周に、非晶質シリカとコロイダルシリカとからなる外皮材をコーティングして乾燥させ、外径266.7 mm及び全長304.8 mmを有し、表1に示すセル構造(
図4を参照)、及び表2に示す気孔率及びメジアン気孔径を有する実施例1~2及び比較例1~2のコーディエライト質セラミックハニカムフィルタを2個ずつ作製した。
【0059】
実施例1~2及び比較例1~2の各セラミックハニカムフィルタの一つを用いて、以下に説明するように水銀圧入法による気孔率及びメジアン気孔径の測定、並びにA軸圧縮強度の評価を行った。また、もう一つのセラミックハニカムフィルタを用いて、以下の方法により、初期圧損及びスス付き圧損の評価を行った。これらの結果をまとめて表2に示す。
【0060】
(a)気孔率及びメジアン気孔径の測定
水銀圧入法による測定は、セラミックハニカムフィルタから切り出した試験片(10 mm×10 mm×10 mm)を、Micromeritics社製オートポアIIIの測定セル内に収納し、セル内を減圧した後、水銀を導入して加圧し、加圧時の圧力と試験片内に存在する気孔中に押し込まれた水銀の体積との関係を求めることにより行った。前記圧力を気孔径に換算し、気孔径の大きい側から小さい側に向かって積算した累積気孔容積(水銀の体積に相当)を気孔径に対してプロットし、気孔径と累積気孔容積との関係を示すグラフを得た。水銀を導入する圧力は0.5psi(0.35×10-3 kg/mm2)とし、圧力から気孔径を算出する際の常数は、接触角=130°及び表面張力=484dyne/cmの値を使用した。そして、水銀の加圧力が1800psi(1.26kg/mm2、気孔径約0.1μmに相当)での累積気孔容積を全気孔容積とした。得られた水銀圧入法の測定結果から、全気孔容積、気孔率、累積気孔容積が全気孔容積の50%となる気孔径(メジアン気孔径)を算出した。気孔率は、全気孔容積Vと、隔壁材質であるコーディエライトの真比重ρ(=2.52g/cm3)とから計算式:[ρ×V/(1+ρ×V)]×100(%)によって求めた。
【0061】
(b)A軸圧縮破壊強度
社団法人自動車技術会が定める規格M505-87「自動車排気ガス浄化触媒用セラミックモノリス担体の試験方法」に従ってA軸圧縮破壊強度を測定し、比較例1の測定値を1.00とした相対値で示した。
【0062】
(c)初期圧損
圧力損失テストスタンドに固定したセラミックハニカムフィルタに、空気を流量10 Nm3/minで送り込み、流入側と流出側との差圧(圧力損失)を初期圧損値として測定し、比較例1の測定値を1.00とした相対値で示した。なおセラミックハニカムフィルタを固定する際に、断面積が大きい流入流路が目封止されずに開口した端部が空気の流入側となるようにセラミックハニカムフィルタを配置した。
【0063】
(d)スス付き圧損
圧力損失テストスタンドに固定したセラミックハニカムフィルタに、空気流量10 Nm3/minで、平均粒径0.11μmの燃焼煤を1.3 g/hの速度で投入し、フィルタ体積1リットルあたりの煤付着量が2 gとなった時の流入側と流出側との差圧(圧力損失)をスス付き圧損として測定し、比較例1の測定値を1.00とした相対値で示した。なおセラミックハニカムフィルタを固定する際に、断面積が大きい流入流路が目封止されずに開口した端部が空気の流入側となるようにセラミックハニカムフィルタを配置した。
【0064】
【表1】
注(1) α1は、流入流路の各辺のうち、隣接する流入流路に対向する辺211の長さを表す。
(2) α2は、流入流路の各辺のうち、隣接する流出流路に対向する辺212の長さを表す。
(3) β1は、流出流路の各辺のうち、隣接する流出流路に対向する辺221の長さを表す。
(4) β2は、流出流路の各辺のうち、隣接する流入流路に対向する辺222の長さを表す。
【0065】
【0066】
表2に示す結果から、本発明の実施例1及び2のセラミックハニカムフィルタは、比較例1のセラミックハニカムフィルタに対して、初期圧損を維持しつつ、スス付き圧損が改善され、さらにA軸圧縮強度も改善されていることがわかる。比較例2のセラミックハニカムフィルタは、A軸圧縮強度は改善されているものの、初期圧損及びスス付き圧損が悪化していた。