(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】変性水添ポリオレフィン、樹脂組成物、絶縁性フィルム、半導体装置、および変性水添ポリオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/26 20060101AFI20240618BHJP
C08F 299/02 20060101ALI20240618BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240618BHJP
C08L 25/10 20060101ALI20240618BHJP
H01B 3/30 20060101ALI20240618BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20240618BHJP
H01B 17/56 20060101ALI20240618BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C08L23/26
C08F299/02
C08J5/18 CES
C08L25/10
H01B3/30 Q
H01B3/44 Z
H01B17/56 A
H05K1/03 610J
(21)【出願番号】P 2019176675
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148219
【氏名又は名称】渡會 祐介
(72)【発明者】
【氏名】黒川 津与志
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-160927(JP,A)
【文献】特開2015-151534(JP,A)
【文献】特開2014-086591(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137006(WO,A1)
【文献】特開2017-155144(JP,A)
【文献】特開2015-114545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/26
C08F 299/02
C08J 5/18
C08L 25/10
H01B 3/30
H01B 3/44
H01B 17/56
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:(IMA)-(水酸基末端水添PO)-(IMA)で示される変性水添ポリオレフィンであり、
ここで、IMAは、一般式(1):CH
2
=CR-COO―R’-NCO(式中、Rは、水素またはメチル基を示し、R’は、炭素数1~3のアルキレン基である)で表されるイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートであり、
水酸基末端水添POは、水酸基末端水添ポリオレフィンであり、
水酸基末端水添POのOH基と、IMAのNCO基とが、ウレタン結合している
変性水添ポリオレフィンと、スチレン系熱可塑性エラストマーと、を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、分子末端にラジカル重合可能な二重結合を有する熱硬化性樹脂を含む、請求項
1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項
1または
2記載の樹脂組成物を含む、絶縁性フィルム。
【請求項4】
請求項
1もしくは
2記載の樹脂組成物の硬化物、または請求項
3記載の絶縁性フィルムの硬化物。
【請求項5】
請求項
1もしくは
2記載の樹脂組成物の硬化物、または請求項
3記載の絶縁性フィルムの硬化物を含む、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性水添ポリオレフィン、樹脂組成物、絶縁性フィルム、半導体装置、および変性水添ポリオレフィンの製造方法に関する。特に、高周波化に対応可能な樹脂組成物、絶縁性フィルム、半導体装置、および変性水添ポリオレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近のプリント配線板における伝送信号の高速化要求に伴い、伝送信号の顕著な高周波化が進んでいる。これに伴い、プリント配線板に使用する材料に対して、高周波領域、具体的には、周波数1GHz以上の領域での伝送損失を低減できることが求められる。
【0003】
プリント配線板の絶縁層等に使用される接着剤として、例えば、熱硬化性樹脂として変性ポリフェニレンエーテル(以下、変性PPEという)を使用し、さらにスチレン系熱可塑性エラストマーを加えることにより、フィルム化することを可能にした、熱硬化性樹脂組成物が知られている(特許文献1)。
【0004】
プリント配線板の絶縁層等には、はんだ耐熱性が要求されることがある。はんだ耐熱性の観点からは、熱硬化性樹脂組成物がより多くの架橋成分を含むことが好ましい、と考えられる。
【0005】
ここで、はんだ耐熱性を向上させるために、単純に熱硬化性樹脂の量を増やし、スチレン系熱可塑性エラストマーの量を減らすと、絶縁層等の弾性率が高くなってしまう、という問題がある。
【0006】
また、近年では、常温の弾性率だけでなく、0℃以下といった低温における低弾性化が、絶縁層を含めた材料に求められる場合がある。このような場合に、従来、知られていた樹脂組成物では、低弾性化が十分ではない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、硬化物が低弾性率であり、かつ、はんだ耐熱性および高周波特性に優れる変性水添ポリオレフィンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を有することによって上記問題を解決した変性水添ポリオレフィン、樹脂組成物、絶縁性フィルム、半導体装置、および変性水添ポリオレフィンの製造方法に関する。
〔1〕式:(IMA)-(水酸基末端水添PO)-(IMA)で示される変性水添ポリオレフィンであり、
ここで、IMAは、一般式(1):CH2=CR-COO―R’-NCO(式中、Rは、水素またはメチル基を示し、R’は、炭素数1~3のアルキレン基である)で表されるイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートであり、
水酸基末端水添POは、水酸基末端水添ポリオレフィンであり、
水酸基末端水添POのOH基と、IMAのNCO基とが、ウレタン結合している。
〔2〕上記〔1〕記載の変性水添ポリオレフィンと、スチレン系熱可塑性エラストマーと、を含む、樹脂組成物。
〔3〕さらに、分子末端にラジカル重合可能な二重結合を有する熱硬化性樹脂を含む、上記〔2〕記載の樹脂組成物。
〔4〕上記〔2〕または〔3〕記載の樹脂組成物を含む、絶縁性フィルム。
〔5〕上記〔2〕もしくは〔3〕記載の樹脂組成物の硬化物、または上記〔4〕記載の絶縁性フィルムの硬化物。
〔6〕上記〔2〕もしくは〔3〕記載の樹脂組成物の硬化物、または上記〔4〕記載の絶縁性フィルムの硬化物を含む、半導体装置。
〔7〕IMAと、水酸基末端水添POと、を反応させる、式:(IMA))-(水酸基末端水添PO)-(IMA)で示される変性水添ポリオレフィンの製造方法。
ここで、IMAは、化学式(1):CH2=CR-COO―R’-NCO(式中、Rは、水素原子またはメチル基を示し、R’は、炭素数1~3のアルキレン基である)で表されるイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートであり、
水酸基末端水添POは、水酸基末端水添ポリオレフィンであり、
水酸基末端水添POのOH基と、IMAのNCO基とを、ウレタン結合させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明〔1〕によれば、硬化物が低弾性率であり、かつ、はんだ耐熱性および高周波特性に優れる変性水添ポリオレフィンを提供することができる。
【0011】
本発明〔2〕によれば、フィルム化が可能であり、かつ低誘電正接である樹脂組成物を提供することができる。
【0012】
本発明〔4〕によれば、硬化物が低弾性率であり、かつ、はんだ耐熱性に優れ、かつ低誘電正接である絶縁性フィルムを提供することができる。
【0013】
本発明〔5〕によれば、はんだ耐熱性に優れ、かつ低誘電正接である上記樹脂組成物の硬化物、または上記絶縁性フィルムの硬化物を提供することができる。本発明〔6〕によれば、はんだ耐熱性に優れ、かつ低誘電正接である上記樹脂組成物の硬化物、または上記絶縁性フィルムの硬化物により、はんだ耐熱性に優れる半導体装置を提供することができる。
【0014】
本発明〔7〕によれば、硬化物が低弾性率であり、かつ、はんだ耐熱性および高周波特性に優れる変性水添ポリオレフィンを、簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔変性水添ポリオレフィン〕
本発明の変性水添ポリオレフィン(以下、変性水添ポリオレフィンという)は、式:(IMA)-(水酸基末端水添PO)-(IMA)で示され、
ここで、IMAは、一般式(1):CH2=CR-COO―R’-NCO(式中、Rは、水素またはメチル基を示し、R’は、炭素数1~3のアルキレン基である)で表されるイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートであり、
水酸基末端水添POは、水酸基末端水添ポリオレフィンであり、
水酸基末端水添POのOH基と、IMAのNCO基とが、ウレタン結合している。
【0017】
この変性水添ポリオレフィンは、スチレン系熱可塑性エラストマーと相溶する。このため、変性水添ポリオレフィンと、スチレン系熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物は、フィルム化が可能である。さらに、樹脂組成物に、変性PPEを併用すると、変性PPEの特性(耐湿信頼性や耐熱性)を活かしつつ、低温における低弾性化が可能となる。
【0018】
(IMA)は、一般式(1):CH2=CR-COO―R’-NCO(式中、Rは、水素またはメチル基を示し、R’は、炭素数1~3のアルキレン基である)で表されるイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートであり、熱による反応性(熱ラジカル硬化性)の観点から、Rがメチル基であり、イソシアネート基の反応性の観点から、R’が炭素数2のアルキレン基である化学式(2):
【0019】
【0020】
で表される2-イソシアナトエチルメタクリレートであると、好ましい。
【0021】
(水酸基末端水添PO)としては、全繰り返し単位(下記一般式(3)、(4)におけるp、q、r、s、t、uが該当する)のうち、1,4-結合の繰り返し単位(下記一般式(3)、(4)におけるp、r、s、uが該当する)が50質量%超の水酸基末端水添ポリオレフィンや、1,2-結合の繰り返し単位(下記一般式(3)、(4)におけるq、tが該当する)が50質量%超の水酸基末端水添ポリオレフィンが、挙げられる。樹脂組成物の硬化物について、例えば、-40℃といった低温における弾性率を5GPa以下にすることができる観点から、1,4-結合の繰り返し単位が50質量%超の水酸基末端水添ポリオレフィンが好ましく、60質量%超の水酸基末端水添ポリオレフィンがより好ましく、70質量%超の水酸基末端水添ポリオレフィンがさらに好ましい。
【0022】
1,4-結合の繰り返し単位が50質量%超の水酸基末端水添ポリオレフィン(以下、水酸基末端水添1,4POという)として挙げられるものは、一般式(3):
【化2】
【0023】
(式中、nは40~60、pは0.1~0.3、qは0.1~0.3、rは0.4~0.8、である)水酸基末端1,4-ポリブタジエンの水添物、または一般式(4):
【0024】
【0025】
(式中、mは、25~45、sは0.1~0.3、tは0.1~0.3、uは0.4~0.8、である)で表される水酸基末端1,4-ポリイソプレンの水添物である。ここで、一般式(3)の水酸基末端水添1,4POの数平均分子量は、2200~3200であることが好ましく、一般式(4)の水酸基末端水添1,4POの数平均分子量は、1800~3000であることが好ましい。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値とする。
【0026】
〔変性水添ポリオレフィンの製造方法〕
本発明の式:(IMA)-(水酸基末端水添PO)-(IMA)で示される変性水添ポリオレフィンの製造方法は、IMAと、水酸基末端水添POと、を反応させる。ここで、IMAは、一般式(1):CH2=CR-COO―R’-NCO(式中、Rは、水素原子またはメチル基を示し、R’は、炭素数1~3のアルキレン基である)で表されるイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートであり、
水酸基末端水添POは、水酸基末端水添ポリオレフィンであり、
水酸基末端水添POのOH基と、IMAのNCO基とを、ウレタン結合させる。
【0027】
この製造方法により、フィルム化可能な樹脂組成物に使用するとき、その他の熱硬化性樹脂の量を増加させず、低弾性率を保持することを可能にする変性水添ポリオレフィンを、簡便に製造することができる。
【0028】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物(以下、樹脂組成物という)は、(A)上述の変性水添ポリオレフィンと、(B)スチレン系熱可塑性エラストマーと、を含む。(A)変性水添ポリオレフィンは、単独でも2種以上を併用してもよい。樹脂組成物は、フィルム化が可能であり、硬化後に低弾性率である。また、樹脂組成物の硬化物は、はんだ耐熱性に優れ、かつ低誘電正接である。
【0029】
(B)スチレン系熱可塑性エラストマーは、樹脂組成物に柔軟性と良好な誘電特性(すなわち、低誘電率、低誘電正接)を付与する。
【0030】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、特に限定されない。非水添や、一部水添のスチレン系熱可塑性エラストマーは、耐熱性が特に優れるため、好ましい。このようなスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)等が、挙げられる。水添スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)や、スチレン-(エチレン-エチレン/プロピレン)-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)等が、挙げられ、誘電特性に優れる観点から、SEBS、SEEPSが好ましい。また、スチレン系熱可塑性エラストマーは、(A)成分との相溶性がよく、(C)成分の選択肢であるポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE等とも相溶性がよい。このため、(A)~(C)成分を含む樹脂組成物を作製できる。さらに、(B)成分は、樹脂組成物の硬化物の低弾性化にも寄与するため、絶縁性フィルムに柔軟性を付与し、また樹脂組成物の硬化物に5GPa以下の低弾性が求められる用途に好適である。
【0031】
スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は、30,000~200,000であるものが好ましく、50,000~150,000であることがより好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値とする。スチレン系熱可塑性エラストマーは、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0032】
樹脂組成物は、さらに、(C)分子末端にラジカル重合可能な二重結合を有する熱硬化性樹脂を含むと、好ましい。
【0033】
分子末端にラジカル重合可能な二重結合を有する熱硬化性樹脂としては、分子末端に不飽和二重結合を有する数平均分子量が800~4500のポリフェニレンエーテルが挙げられる。(C)成分は、樹脂組成物に、接着性、高周波特性、耐熱性を付与する。ここで、高周波特性とは、高周波領域での伝送損失を小さくする性質をいう。分子末端にラジカル重合可能な二重結合を有する熱硬化性樹脂としては、末端にスチレン基を有するポリフェニレンエーテル(以下、変性PPEともいう)が、好ましい。
【0034】
末端にスチレン基を有するポリフェニレンエーテル(変性PPE)としては、高周波特性に優れるため、一般式(5)で示される化合物が好ましい。
【0035】
【0036】
(式(5)中、-(O-X-O)-は、一般式(6)または(7)で表される。)
【0037】
【0038】
【0039】
(式(6)中、R1,R2,R3,R7,R8は、同一または異なってもよく、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基である。R4,R5,R6は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基である。)
【0040】
(式(7)中、R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基である。-A-は、炭素数20以下の直鎖状、分岐状または環状の2価の炭化水素基である。)
【0041】
(式(5)中、-(Y-O)-は、一般式(8)で表され、1種類の構造または2種類以上の構造がランダムに配列している。)
【0042】
【0043】
(式(8)中、R17,R18は、同一または異なってもよく、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基である。R19,R20は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基である。)
【0044】
(式(5)中、a,bは、少なくともいずれか一方が0でない、0~100の整数を示す。)
【0045】
(式(7)における-A-としては、例えば、メチレン、エチリデン、1-メチルエチリデン、1,1-プロピリデン、1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、シクロヘキシリデン、フェニルメチレン、ナフチルメチレン、1-フェニルエチリデン、等の2価の有機基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。)
【0046】
(式(5)で示される化合物としては、R1,R2,R3,R7,R8,R17,R18が炭素数3以下のアルキル基であり、R4,R5,R6,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R19,R20が水素原子または炭素数3以下のアルキル基であるものが好ましく、特に一般式(6)または一般式(7)で表される-(O-X-O)-が、一般式(9)、一般式(10)、または一般式(11)であり、一般式(4)で表される-(Y-O)-が、式(12)または式(13)であるか、あるいは式(12)と式(13)がランダムに配列した構造であることがより好ましい。)
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
式(5)で示される化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、2官能フェノール化合物と1官能フェノール化合物を酸化カップリングさせて得られる2官能フェニレンエーテルオリゴマーの末端フェノール性水酸基をビニルベンジルエーテル化することで製造することができる。(C)分子末端にラジカル重合可能な二重結合を有する熱硬化性樹脂は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0053】
(A)変性水添ポリオレフィンは、(A)変性水添ポリオレフィンと(B)スチレン系熱可塑性エラストマーと(C)PPEの合計100質量部に対して、5~60質量部であると、低弾性率およびはんだ耐熱性の観点から好ましい。
【0054】
(B)スチレン系熱可塑性エラストマーは、(A)変性水添ポリオレフィンと(B)スチレン系熱可塑性エラストマーと(C)PPEの合計100質量部に対して、5~80質量部であると、好ましい。(B)スチレン系熱可塑性エラストマーが少なすぎると硬化物が固く脆くなりやすくなり、多すぎるとはんだ耐熱性が悪化しやすくなる。
【0055】
(C)PPEは、(A)変性水添ポリオレフィンと(B)スチレン系熱可塑性エラストマーと(C)PPEの合計100質量部に対して、0~45質量部であると、好ましい。(C)PPEが多すぎると硬化物が固く脆くなりやすくなる。
【0056】
上記以外の樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂等を併用してもよい。
【0057】
樹脂組成物は、さらに、(D)充填剤を含むことができる。(D)は、無機充填剤であっても有機充填剤であってもよい。(D)成分として、無機充填剤を含むと、熱硬化性樹脂の硬化物の熱膨張係数(CTE)を低くする観点から、好ましい。(D)成分としては、高周波特性の観点から、シリカフィラーまたはフッ素系樹脂フィラーであると、好ましい。
【0058】
シリカフィラーとしては、溶融シリカ、球状シリカ、破砕シリカ、結晶性シリカ、非晶質シリカ等が挙げられ、特に限定されない。シリカフィラーの分散性、樹脂組成物の流動性、硬化物の表面平滑性、誘電特性、低熱膨張率、接着性等の観点からは、球状の溶融シリカが、望ましい。また、シリカフィラーの平均粒径(球状でない場合は、その平均最大径)は、特に限定されないが、比表面積の小ささによる硬化後の耐湿性向上の観点から、0.05~20μmであると、好ましく、0.1~10μmであると、より好ましく、1~10μmであると、さらに好ましい。ここで、シリカフィラーの平均粒径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準のメジアン径をいう。(D)充填剤は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0059】
(D)成分として無機充填剤を用いる場合、低CTE化の観点から、樹脂組成物(但し、溶剤を除く)中、45~75体積%であることが好ましく、50~70体積%であることが、より好ましい。無機充填剤が少ないと、所望する硬化後の樹脂組成物のCTEを達成することができず、無機充填剤が多いと、硬化後の樹脂組成物のピール強度が低下しやすくなる。(D)無機充填剤は、シランカップリング剤により表面処理されたものを使用しても良い。
【0060】
なお、樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)成分や(C)成分の硬化促進剤としての有機過酸化物や、シランカップリング剤等のカップリング剤(インテグラルブレンド)、消泡剤、レベリング剤、揺変剤、分散剤、酸化防止剤、難燃剤等の添加剤を、含むことができる。
【0061】
有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂(株)製、パーブチルZ)、ジクミルパーオキサイド(日本油脂(株)製、パークミルD)等が、挙げられる。
【0062】
シランカップリング剤としては、p-スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-1403)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(信越化学工業(株)製、KBE-846)、7-オクテニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-1083)、メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-5803)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-503)、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE-503)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-403)、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE-403)等が、挙げられる。難燃剤としては、ホスフィン酸金属塩(クラリアントジャパン製、OP-935)等が、挙げられる。
【0063】
樹脂組成物は、樹脂組成物を構成する(A)、(B)、必要に応じて(C)成分等の原料を、有機溶剤に溶解又は分散等させることにより、作製することができる。これらの原料の溶解又は分散等の装置としては、特に限定されるものではないが、加熱装置を備えた攪拌機、デゾルバー、ライカイ機、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0064】
有機溶剤としては、芳香族系溶剤として、例えば、トルエン、キシレン等、ケトン系溶剤として、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。有機溶剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。作業性の観点から、樹脂組成物は、200~3000mPa・sの粘度の範囲であることが好ましい。粘度は、E型粘度計を用いて、回転数50rpm、25℃で測定した値とする。
【0065】
得られる樹脂組成物は、フィルム化が可能であり、硬化後に、低弾性率であり、高周波特性に優れ、かつはんだ耐熱性に優れる。この樹脂組成物は、特に、硬化後に低温での弾性率の低さに優れる。
【0066】
〔絶縁性フィルム〕
本発明の絶縁性フィルムは、上述の樹脂組成物を含む。この絶縁性フィルムは、硬化後に低弾性率であり、はんだ耐熱性に優れ、かつ低誘電正接である絶縁性フィルムを提供することができる。本発明の絶縁性フィルムは、樹脂組成物から、所望の形状に形成される。具体的には、絶縁性フィルムは、上述の樹脂組成物を、支持体の上に、塗布した後、乾燥することにより、得ることができる。支持体は、特に限定されず、銅、アルミニウム等の金属箔、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)等の有機フィルム等が挙げられる。支持体はシリコーン系化合物等で離型処理されていてもよい。なお、樹脂組成物は、種々の形状で使用することができ、形状は特に限定されない--。
【0067】
樹脂組成物を支持体に塗布する方法は、特に限定されないが、薄膜化・膜厚制御の点からはグラビア法、スロットダイ法、ドクターブレード法が、好ましい。スロットダイ法により、厚さが5~300μmの樹脂組成物の未硬化フィルム、すなわち絶縁性フィルムを、得ることができる。
【0068】
乾燥条件は、樹脂組成物に使用される有機溶剤の種類や量、塗布の厚み等に応じて、適宜、設定することができ、例えば、50~120℃で、1~60分程度とすることができる。このようにして得られた絶縁性フィルムは、良好な保存安定性を有する。なお、絶縁性フィルムは、所望のタイミングで、支持体から剥離することができる。
【0069】
絶縁性フィルムの硬化は、例えば、150~230℃で、30~180分間の条件で行うことができる。絶縁性フィルムの硬化は、銅箔等による配線が形成された基板間に絶縁性フィルムを挟んでから行ってもよく、銅箔等による配線を形成した絶縁性フィルムを、適宜積層した後に行ってもよい。また、絶縁性フィルムは、基板上の配線を保護するカバーレイフィルムとして用いることもでき、その際の硬化条件も同様である。なお、樹脂組成物も、同様に硬化させることができる。また、硬化時に、例えば、1~5MPaの圧力で、プレス硬化させてもよい。
【0070】
本発明の絶縁性フィルムは、プリント配線板を形成することができる。このプリント配線板は、上述の樹脂組成物、または上述の絶縁性フィルムを用い、これを硬化して作製する。このプリント配線板は、高周波特性、はんだ耐熱性に優れる。多層配線板の中では、マイクロ波やミリ波通信用の基板、特に車載用ミリ波レーダー基板等の高周波用途のプリント配線板等が、挙げられる。多層配線板の製造方法は、特に、限定されず、一般的なプリプレグを使用してプリント配線板を作製する場合と同様の方法を、用いることができる。
【0071】
〔樹脂組成物の硬化物、または絶縁性フィルムの硬化物〕
本発明の上述の樹脂組成物の硬化物、または上述の絶縁性フィルムの硬化物は、はんだ耐熱性に優れ、かつ低誘電正接である。
【0072】
〔半導体装置〕
本発明の半導体装置は、上述の樹脂組成物の硬化物、または上述の絶縁性フィルムの硬化物を含む。このはんだ耐熱性に優れ、かつ低誘電正接である上述の樹脂組成物の硬化物、または上述の絶縁性フィルムの硬化物により、高信頼性である。ここで、半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能しうる装置全般を指し、電子部品、半導体回路、これらを組み込んだモジュール、電子機器等を含むものである。
【実施例】
【0073】
本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部、%はことわりのない限り、質量部、質量%を示す。
【0074】
〔合成例1:変性水添ポリイソプレンの合成〕
予め溶媒としてトルエンを150質量部投入した丸底フラスコに、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレン(出光興産(株)製、商品名:エポール、水酸基含有量:0.94mol/kg)を100質量部投入し、次に、攪拌機で液が跳ねないように攪拌しながら、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンの水酸基等量に対して、イソシアネート当量が1:1となる量で、2-イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工(株)製、商品名:カレンズMOI、分子量:155.15)を16.3質量部投入し、そのまま攪拌しながら、室温で反応させた。24時間後、48時間後、7日後でサンプリングし、FT-IRにより、水酸基とイソシアネート基の反応によるイソシアネート基の減少と、ウレタン結合の生成、増加を、観察した。
図1に、FT-IRのチャートを示す。
図1の縦軸は、吸光度(Abs)を示し、横軸は、波数(単位:cm
-1)を示す。下記の
図2も、同様である。
図1の「(1)」は、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンの単体のチャートを、「(2)」は、2-イソシアナトエチルメタクリレートの単体のチャートを、「24h」は、混合開始から24時間後の反応系のチャートを、「48h」は、混合開始から48時間後の反応系のチャートを示す。
【0075】
なお、FT-IR測定は、上記の生成物(液状)を、台座にへらで薄く塗布し、室温にて乾燥窒素を吹き付けてトルエンを除去し、乾燥したものを、測定用試料とした。装置は、パーキンエルマー製 全自動FTIRマイクロスコープシステム Spectrum Spotlight 400を用い、クリスタルにZnSeを用い、ATR法にてFT-IR測定を行った。
【0076】
反応後も変化しない基のピークとして、(1)では「CH」のピーク、(2)では「CO」のピークを基準とし、その大きさを、「24h」、「48h」のチャートと共にそろえて併記することで、その他のピークの大きさの変化がわかるように表記した。
図1の(1)および(2)のチャートに対し、24時間、48時間後に、「NH」に帰属されるピークが発現し、24時間後に比べ48時間後の方が、より大きくなっていることがわかった。一方、(2)のチャートに対し、24時間、48時間後には、「NCO」に帰属されるピークは顕著に減少し、24時間後に比べ48時間後の方がより小さくなった。このことから、2-イソシアナトエチルメタクリレートのNCO基が水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンのOH基と反応してウレタン結合となっていることがわかった。
【0077】
次に、
図2に、FT-IRのチャートを示す。
図2の「48h」は、混合開始から48時間後の反応系のチャートを、「7日」は、混合開始から7日後の反応系のチャートを示す。
図2では、
図1と同様に「CH」のピークの大きさをそろえ、その他のピークの大きさの変化がわかるように表記した。
図2に示すように、48時間後と7日後で、NCOのピークとN-Hのピークにほとんど変化は無かったため、48時間で反応が終了したと判断した。
【0078】
以上から、この配合において、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンと2-イソシアナトエチルメタクリレートは常温で容易に反応し、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンの末端水酸基と2-イソシアナトエチルメタクリレートのイソシアネート基が反応し、ウレタン結合を介して、メタクリロイル基が付加したメタクリロイル基末端水添ポリイソプレンとすることができたことを確認した。この配合及びこの条件では、反応は24時間では、まだ反応が不十分であり、48時間で反応が終了した。なお、7日後の不揮発分(nV)を測定したところ、55.0%であった。また、反応中の液温を測定したが、温度の変化は全くなかった。なお、下記樹脂組成物とフィルムの作製には、この不揮発分55.0%の試料を用いた。
【0079】
〔合成例2:変性水添ポリブタジエンの合成〕
合成例2として、水酸基末端水添1,4-ポリイソプレンの代わりに、水酸基末端水添1,2-ポリブタジエン(日本槽達(株)製、商品名:GI-2000、数平均分子量;2000、水酸基価:40~55(KOHmg/g))に変えたこと以外は、合成例1と同様の条件で合成を行った。なお、下記樹脂組成物とフィルムの作製には、この不揮発分43.6%の試料を用いた。
【0080】
〔樹脂組成物とフィルムの作製〕
表1に示す配合(固形分換算値)で、各成分を秤量し、攪拌混合した後、湿式微粒化装置(吉田機械興業株式会社製、ナノマイザーMN2-2000AR)を用いて分散させ、液状の樹脂組成物を得た。この液状の樹脂組成物を支持体(離型処理をほどこしたPETフィルム)の片面に塗布し、100℃で10分間乾燥させることにより、支持体付のフィルム(厚さ:100μm)を得た。
【0081】
ここで、表1に記載した合成例1、2は、上記合成例1、2で得られた変性水添ポリオレフィンを、
G1652MUは、クレイトンポリマー製SEBS(スチレン比30%)を、
セプトン4044は、株式会社クラレ製SEEPS(スチレン比32%)を、
OPE-2St 2200は、三菱ガス化学(株)製スチレン末端変性PPE(分子量(Mn):2200)を、
パーブチルZは、日本油脂(株)製t-ブチルパーオキシベンゾエートを、
KBM-1403は、信越化学工業(株)製p-スチリルトリメトキシシランを、
FB-3SDXは、デンカ製球状シリカ(平均粒径:3.4μm品)を、使用した。
〔評価方法〕
【0082】
〈相溶性〉
まず、樹脂と溶剤のみを混合攪拌して、クリヤーを調整し、一日放置した後、外観を観察し、濁りや層分離が発生せず相溶性が良好な場合を「○」、濁りや層分離が発生し相溶性が悪いと判断した場合を「×」とした。表1に、相溶性試験の結果を示す。
【0083】
<比誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)>
支持体付きフィルムを、200℃×60分で加熱硬化させ、支持体から剥離した後、50mm×70mmの大きさに裁断し、厚みを測定し、誘電体共振器法(SPDR法)(10GHz)にて、誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)を測定した。表1に、誘電特性の結果を示す。誘電率(ε)は、3.5以下であると、好ましい。誘電正接(tanδ)は、0.003以下であると、好ましい。
【0084】
<弾性率の評価>
200℃×60分で加熱硬化させた試料を、40mm×10mmの大きさに裁断し、DMAを使用して、常温(25℃)および低温(-40℃)での弾性率を測定した。表1に、弾性率の結果を示す。25℃での弾性率は、3GPa以下であると、好ましい。-40℃での弾性率が、5GPa以下であると、好ましい。
【0085】
<はんだ耐熱性の評価>
支持体付きのフィルムから支持体を剥がした。このフィルムの両面に、銅箔(CF-T9FZSV、福田金属箔粉工業(株)製、厚さ:18μm)を、粗化面を内側にして貼り合わせ、プレス機で200℃×60分、圧力:3MPaの条件で、プレス硬化させた。これを、30mm×30mmの大きさに裁断し試験片とし、260、270、280、290、300℃の各温度に加熱したはんだ浴の表面に60秒間載せ、ふくれの発生の有無を観察した。n=3で試験し、ふくれが発生しなかったものを「○」、ふくれが発生したものを「×」と評価した。表2に、実施例5と比較例1のはんだ耐熱性の結果を示す。
【0086】
【0087】
【0088】
表1からわかるように、実施例1~7は、相溶性、比誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)、弾性率のすべてにおいて良好な結果であった。表2からわかるように、はんだ耐熱性について、比較例1のスチレン系熱可塑性エラストマーの2分の1量を変性水添ポリオレフィンに置換えた実施例5は、290℃まで良好であった。これに対して、変性水添ポリオレフィンを含まない比較例1は、270℃まで良好であったが、280℃では膨れが発生した。変性水添ポリオレフィンを含むが、スチレン系熱可塑性エラストマーを含まない参考例1は、相溶性が悪かった。このため、他の項目については評価を行えなかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の変性水添ポリオレフィンは、スチレン系熱可塑性エラストマーと併用し、誘電特性を悪化することなく、低温の弾性率を低くおさえたまま、架橋することによってはんだ耐熱性を向上することができるので、非常に有用である。