IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

<>
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図1
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図2
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図3
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図4
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図5
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図6
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図7
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図8
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図9
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図10
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図11
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図12
  • 特許-分離膜の製造方法及び分離膜 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】分離膜の製造方法及び分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20240618BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240618BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240618BHJP
   B01D 17/022 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D17/022 501
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020132465
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2021023938
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019143503
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】余 亮
(72)【発明者】
【氏名】金指 正言
(72)【発明者】
【氏名】長澤 寛規
(72)【発明者】
【氏名】都留 稔了
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-529090(JP,A)
【文献】特公平05-066343(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第103638826(CN,A)
【文献】特表2006-519095(JP,A)
【文献】特表2010-506699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 17/022、61/00-71/82
C04B 41/00-91
B32B 18/00、37/00-30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック材料、ポリマー及び溶媒を混合して、膜成形する膜成形工程と、
前記膜成形工程で成形された膜材料を、凝固液中に浸漬して、前記ポリマーを相分離させ、セラミックグリーン体を生成する相転換工程と、
前記セラミックグリーン体を焼成して、前記ポリマーを燃焼除去する焼成工程と、
前記焼成工程で焼成された分離膜に、無機粒子のコロイド溶液を塗布して焼成し、第1の積層膜を形成する、第1積層工程と、を含み、
前記第1積層工程では、
前記焼成工程で焼成された分離膜に、親水性ポリマーを塗布し、
前記親水性ポリマー上に、前記無機粒子のコロイド溶液を塗布する、
ことを特徴とする分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記セラミック材料は、酸化アルミニウムである、
ことを特徴とする請求項1に記載の分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーは、ポリスルホンである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記凝固液は、水、エタノール又は水とエタノールとの混合液である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記親水性ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース、メチルセルロース、キトサンのいずれかである、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記第1の積層膜の無機粒子は、酸化アルミニウムである、
ことを特徴とする請求項からのいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記第1の積層膜の無機粒子は、二酸化ケイ素及び二酸化ジルコニウムである、
ことを特徴とする請求項からのいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記第1の積層膜に、無機粒子のコロイド溶液を塗布して焼成し、第2の積層膜を形成する、第2積層工程を含む、
ことを特徴とする請求項からのいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記第2の積層膜の無機粒子は、二酸化ケイ素及び二酸化ジルコニウムである、
ことを特徴とする請求項に記載の分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜の製造方法及び分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの産業分野で発生する油性廃水について、油と水とを分離させる処理が必要とされている。油性廃水の組成は複雑、多様であるため、それぞれの油性廃水に適した処理が求められる。特に、ミクロン及びナノスケールの油滴を含む水中油型エマルジョンは、その多様性と複雑な組成のため、沈降タンク、遠心分離等の従来技術による分離が難しい。
【0003】
分離膜を用いた分離方法は、比較的エネルギー効率がよく、費用対効果が高く、広範囲の工業用油性廃水に適用可能であるので、油性廃水の分離のための分離膜、及び分離膜を用いた分離方法が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、分離性能を維持しつつ、強度と透過流束とを高めることのできる分離膜として、大きさの異なる細孔径を備える膜を積層した多層構造の分離膜が開発されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-234353号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】西田悠光、他3名、「分離膜用セラミック支持体の開発」、化学工学会講演論文集、SCEJ 50th Autumn Meeting、CC107、2018年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の分離方法では、有機材料の分離膜を用いて油性廃水の分離を行っている。しかしながら、有機材料の分離膜は、透過流束が比較的小さいため、効率的な分離処理を行うことが難しい。
【0008】
また、有機材料の分離膜は、一般的に親油性を有する油除去膜であり、膜表面及び細孔内部に付着する付着物を洗浄する必要がある。
【0009】
非特許文献1の分離膜は、細孔径の大きさを膜厚方向で変化させるため、多層構造としている。したがって、各層を積層して膜を製造するための製造工程が複雑化し、製造コストも増大する。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、油性廃水から効率よく油と水とを分離することができるとともに、洗浄が容易な分離膜を容易に製造することができる分離膜の製造方法及び分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、この発明に係る分離膜の製造方法は、
セラミック材料、ポリマー及び溶媒を混合して、膜成形する膜成形工程と、
前記膜成形工程で成形された膜材料を、凝固液中に浸漬して、前記ポリマーを相分離させ、セラミックグリーン体を生成する相転換工程と、
前記セラミックグリーン体を焼成して、前記ポリマーを燃焼除去する焼成工程と、
前記焼成工程で焼成された分離膜に、無機粒子のコロイド溶液を塗布して焼成し、第1の積層膜を形成する、第1積層工程と、を含み、
前記第1積層工程では、
前記焼成工程で焼成された分離膜に、親水性ポリマーを塗布し、
前記親水性ポリマー上に、前記無機粒子のコロイド溶液を塗布する。
【0012】
また、前記セラミック材料は、酸化アルミニウムである、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記ポリマーは、ポリスルホンである、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記凝固液は、水、エタノール又は水とエタノールとの混合液である、
こととしてもよい。
【0017】
また、前記親水性ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース、メチルセルロース、キトサンのいずれかである、
こととしてもよい。
【0018】
また、前記第1の積層膜の無機粒子は、酸化アルミニウムである、
こととしてもよい。
【0019】
また、前記第1の積層膜の無機粒子は、二酸化ケイ素及び二酸化ジルコニウムである、
こととしてもよい。
【0020】
また、前記第1の積層膜に、無機粒子のコロイド溶液を塗布して焼成し、第2の積層膜を形成する、第2積層工程を含む、
こととしてもよい。
【0021】
また、前記第2の積層膜の無機粒子は、二酸化ケイ素及び二酸化ジルコニウムである、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の分離膜の製造方法及び分離膜によれば、高い安定透過流束と油除去効率を有する、薄膜の親水性セラミック分離膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施の形態1に係る分離膜の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図2】実施の形態1に係る分離膜の製造工程の流れを示す概略図である。
図3】実施の形態1に係る分離膜の断面構造を示すSEM写真である。
図4】実施の形態1に係る分離膜の表面の状態を示すSEM写真である。
図5】実施の形態1に係る分離膜の表面濡れ性を示す図である。
図6】実施の形態1に係る分離膜の特性を示す図であり、(A)及び(B)は、分離特性を示すグラフ、(C)は、分離前のエマルジョン溶液及び透過液を示す図である。
図7】実施の形態2に係る分離膜の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図8】実施の形態2に係る分離膜の断面構造を示すSEM写真である。
図9】実施の形態2に係る分離膜の細孔径の分布を示す図である。
図10】実施の形態2に係る分離膜の製造工程でのコロイド溶液のコーティング回数による、細孔径の分布への影響を示す図である。
図11】実施の形態3に係る分離膜の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図12】シリカ-ジルコニア膜の細孔径の分布を示す図である。
図13】シリカ-ジルコニア膜を構成する粒子の大きさの個数分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(実施の形態1)
以下、図1のフローチャート及び図2の製造工程の流れを示す概略図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る分離膜の製造方法及び分離膜について説明する。
【0035】
本実施の形態に係る分離膜は、セラミック材料とポリマーとを材料とする相分離/焼結法により製造される。セラミック材料は、酸化チタン(TiO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化マグネシウム(MgO)等、特に限定されないが、本実施の形態では酸化アルミニウム(Al)を用いる。ポリマーは、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol:PVA)、セルロースアセテート、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone:PES)、ポリスルホン(polysulfone:PSF)等、特に限定されず、またこれらのポリマーを複数混合して用いてもよい。本実施の形態では、ポリスルホンを用いる。
【0036】
まず、膜成形工程における予備混合工程として、ポリスルホン、界面活性剤、溶媒を混
合する。本実施の形態に係る界面活性剤は、BASF社製Pluronic(登録商標)F-127である。また、溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide:DMF)、ジメチルアセトアミド(N,N-Dimethylacetamide:DMAc)等、特に限定されない。本実施の形態に係る溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPという。)である。各材料の混合比率(質量比率)は、ポリスルホン/界面活性剤/NMP=1/0.2/7である。
【0037】
上記の材料を攪拌容器に投入した後、材料温度を60℃に保ちつつ、24時間攪拌する(ステップS11)。これにより、ポリスルホンをNMP中に分散させて、均一な溶液を生成する。攪拌に係る温度、時間は、材料の種類、混合比率等により、均一な溶液が得られるよう、適宜設定すればよい。
【0038】
続いて、予備混合工程で生成された溶液にセラミック材料である酸化アルミニウム(Al)粉末を添加してセラミック懸濁液(スラリー)を生成する(ステップS12)。酸化アルミニウム粉末の粒径は大凡0.2μm以下である。また、酸化アルミニウムを含む各材料の混合比率(質量比率)は、ポリスルホン/界面活性剤/酸化アルミニウム/NMP=1/0.2/5/7である。
【0039】
上記セラミック懸濁液は、常温条件下でボールミル装置に、48時間かけられる。これにより、セラミック懸濁液中の各材料は均一に混合される(ステップS13)。
【0040】
さらに、セラミック懸濁液は、0.5時間超音波処理された後、6時間静置される。これにより、セラミック懸濁液に含まれている気泡が除去される(ステップS14)。
【0041】
脱気されたセラミック懸濁液は、清潔で滑らかなガラス板上で流延(キャスト)され、厚さ制御可能なドクターブレードで均される(ステップS15)。これにより、セラミック懸濁液から、所定の厚さのキャストフィルムが形成される。本実施の形態に係る成形された膜材料としてのキャストフィルムの厚さは、0.1mm以上1mm以下であり、より好ましくは0.2mm以上0.5mmである。
【0042】
続いて、相転換工程として、キャストフィルムは、ガラス板とともに、凝固液中に浸漬される(ステップS16)。これにより、キャストフィルムに含まれるポリスルホンは、相分離される。凝固液は、ポリマーの凝固液であり、高分子に対する貧溶媒である。具体的には、凝固液は、水、エタノール又は水とエタノールとの混合液であり、本実施の形態では、蒸留水又は純エタノールを凝固液として用いる。キャストフィルムは、凝固液である蒸留水または純エタノール中に浸漬されると0.5時間程度で固化し、ガラス板から分離できる。ガラス板から分離されたキャストフィルムは、完全に相分離されるまで、蒸留水または純エタノール中で保存される。これにより、セラミックグリーン体が完成される。
【0043】
本実施の形態では、後述する分離性能の確認実験のため、焼成前のセラミックグリーン体を円形切断ナイフで切断し、直径28mmの円形フィルムとした。焼成前のセラミックグリーン体は、加工が容易であるため、この状態で所望の形状に成形することにより、複雑な形状の分離膜も容易に製造することができる。
【0044】
続いて、焼成工程として、セラミックグリーン体の円形フィルムを酸化アルミニウム(Al)のプレートで挟み、空気雰囲気下の炉内で、焼成する(ステップS17)。具体的な焼成プロセスとしては、まず、150℃で0.5時間加熱して、セラミックグリーン体に含まれる溶媒を除去する。次に、600℃で2時間加熱してセラミックグリーン体に含まれる有機ポリマー(ポリスルホン及び界面活性剤)を燃焼除去する。続いて、1250℃で2時間焼成して緻密化した。これにより、原料粒子である酸化アルミニウムが収縮し、セラミック分離膜が完成する。ここで、各温度の間は、3℃/minの加熱速度とした。
【0045】
図3は、上述の製造方法で製造される分離膜の断面構造を示す走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)写真であり、製造工程における分離膜の相分離状態を示している。図3は、上記ステップS16において、セラミックグリーン体を25℃の蒸留水中で相分離させた場合(a~c)、25℃の純エタノール中で相分離させた場合(d~f)の例を示している。また、比較のため、50℃の空気中に60分以上置いて凝固させた場合(h~j)の例を併せて示している。
【0046】
また、図4は、図3と同様に、各条件で製造したセラミック分離膜の表面(a~c)及び裏面(d~f)を観察したSEM写真であり、25℃の蒸留水中で相分離させた場合(a、d)、25℃の純エタノール中で相分離させた場合(b、e)、50℃の空気中に60分以上置いて凝固させた場合(c、f)を示している。
【0047】
図3の断面図及び図4の分離膜両面の写真から、本実施の形態に係る分離膜の製造方法によって製造された分離膜は、分離膜の厚さ方向において細孔径が変化する非対称性(フィンガー状の細孔)を有する粒状構造の分離膜であることがわかる。より具体的には、一方の面(図4の裏面側)から他方の面(図4の表面側)に向かって、細孔径が徐々に小さくなっている。このように、一方の細孔径を小さく形成することで、分離膜の分離度を向上させるとともに、他方の細孔径を大きく形成することで、透水性を高めることができる。また、本実施の形態に係る分離膜は、単層で非対称性を有する分離膜を形成できるので、膜厚を薄くすることができ、より透過流束を高めることが可能となる。
【0048】
分離膜の構造は、上記の通り、微粒子であるセラミック材料の集合体であり、粒子同士の間隙が細孔となっている。粒子サイズは、100nm以上10μm以下程度である。
【0049】
図5は、25℃の純エタノール中で相分離させた場合のセラミック分離膜の表面濡れ性を表す実験の様子を示している。図5(a)は、空気中で分離膜の表面に接触した水滴が急速に広がる様子を示している。図5(b)は、空気中における分離膜表面の鉱油接触角を示している。図5(b)に示すように、鉱油接触角は17.3°と非常に小さい。図5(a)、(b)から、本実施の形態に係る分離膜の表面構造は、見かけ上、両親媒性を示すことがわかる。
【0050】
一方、図5(c)は、水中での動的な油付着プロセスを示し、図5(d)は、ロールオフ角2.8°での油滴の水中滑り挙動を示している。図5(c)、(d)から、本実施の形態に係る分離膜は、水中において高い疎油性を有することを示している。このような高い疎油性は、水中油型エマルジョンの分離において、分離膜が油滴によって汚れにくいこと、すなわち高い防汚特性を有することを示している。
【0051】
また、図6(A)は、純エタノール中で相分離させた厚さ0.19mmと0.48mmの2種類の分離膜について、膜間圧力差と純水の流束との関係を示す図である。図6(A)から、本実施の形態に係る分離膜が高い透水性を有するとともに、薄い分離膜が、より高い透過性を有することがわかる。すなわち、高い透水性を有することにより、本実施の形態に係る分離膜が、連続クロスフロー膜ユニットにおける工業用油性廃水の大量処理に適していることがわかる。
【0052】
また、図6(B)は、膜間圧力差0.1MPaの場合の分離特性を示している。本例に係る分離膜は、99%以上の高い分離効率を有するとともに、2300~3000L/m2h barの高い安定な透過性を示している。また、図6(C)は、分離前のエマルジョン溶液と透過液とを示す図である。図6(C)に示すように、透過後の液では、油滴はほとんど観察されず、十分な分離特性を有していることがわかる。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態に係る分離膜の製造方法では、高い安定透過流束と油除去効率を有する、薄膜の親水性セラミック分離膜を製造することができる。したがって、油性廃水から効率よく油と水とを分離することができるとともに、洗浄が容易で良好な機械的安定性を有する分離膜を製造することが可能である。
【0054】
また、本実施の形態に係る分離膜は、分離膜の厚さ方向において細孔径が変化する非対称性を有している。これにより、効率的に油性廃水の分離処理を行うことができる。
【0055】
また、本実施の形態に係る分離膜は、上記非対称構造を有する分離膜を、単相の粒状セラミック膜として構成している。したがって、異なる大きさの細孔径を備える膜を積層して構成する多層構造の分離膜と比較して、製造工程を簡素化することができ、製造コストを低減することができる。また、単相の分離膜であるので、分離膜の膜厚を薄く形成することができる。これにより、透過流束を高め、分離性能の高い分離膜を形成することができる。また、本実施の形態に係る分離膜は、セラミック膜であるので、高分子膜と比較して、機械的強度が高く、寿命の長い薄膜の分離膜を製造することができる。
【0056】
本実施の形態では、ガラス板上で成形されたキャストフィルムを、蒸留水または純エタノール中に浸漬されることとしたが、これに限られない。例えば、キャストフィルムを50℃の乾燥オーブン中で一定時間保持した後、蒸留水または純エタノール中に浸漬することとしてもよい。これにより、セラミック材料の凝集度を高めて、細孔径を小さくすることができる。すなわち、キャストフィルムの乾燥温度によって、セラミック材料の凝集度を調整できるので、細孔径の大きさで決定される分離膜の非対称構造を容易に調整することが可能である。
【0057】
(実施の形態2)
上記実施の形態1に係る分離膜は、単層のセラミック分離膜であることとしたが、さらに細孔を有する薄膜の分離膜を積層することにより、分離性能を制御することもできる。本実施の形態では、第1積層工程として、実施の形態1に係るセラミック分離膜に、より細孔径の小さい分離膜を積層する場合について説明する。
【0058】
以下、図7のフローチャートを参照しつつ、本発明の実施の形態2に係る分離膜の製造方法及び分離膜について説明する。実施の形態1の製造方法(ステップS11~S17)により酸化アルミニウム(Al)を材料とするセラミックの板状膜(以下、基材という。)を生成する(ステップS21)。
【0059】
次に、親水性ポリマーであるポリビニルアルコール(PVA)をスピン塗布し、50℃で2時間以上乾燥させる(ステップS22)。スピン塗布の条件(回転数)は、特に限定されず、塗布される親水性ポリマーの粘度、環境や温度等に基づいて適宜調整すればよい。例えば、本実施の形態に係るPVAは、3000rpmから5000rpmでスピン塗布される。PVAは、溶媒を水として、10wt%に調整した。PVAを塗布する面は、実施の形態1に係るセラミック分離膜の細孔径が小さい側の面である。本実施の形態では、親水性ポリマーとしてPVAを用いたが、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース、メチルセルロース、キトサン等を用いてもよい。
【0060】
そして、水を分散媒とした無機粒子のコロイド溶液であるアルミナゾル(日産化学株式会社製アルミナゾル520-A)を乾燥されたPVA層上に塗布し、600℃の空気中で焼成して、第1の積層膜を形成する(ステップS23)。本実施の形態では、特性比較のため、上記アルミナゾルをさらに希釈して、無機粒子である酸化アルミニウムの濃度を1.0%、2.5%、5.0%とする3種類のアルミナゾルを用いた。
【0061】
図8(a)、(b)は、それぞれ、基材と第1の積層膜との間にPVAを塗布しなかった場合と塗布した場合のSEM写真である。図8(a)に示すPVAを塗布しなかった場合では、基材に、アルミナゾルが浸透している。他方、図8(b)に示すPVAを塗布した場合では、基材上に、第1の積層膜であるアルミナゾルの薄膜(膜厚1μm程度)が、積層されていることがわかる。すなわち、PVAを塗布することにより、アルミナゾルを基材に浸透させることなく、基材と第1の積層膜とを形成できるので、所望の細孔径を有する分離膜を形成することができる。また、本実施の形態に係る分離膜では、図8(b)に示すように、第1の積層膜は薄く形成されている。これにより、分離膜全体の膜厚を小さくすることができるので、透過性が高く、分離効率の良い分離膜を構成できる。
【0062】
図9は、本実施の形態に係る分離膜の細孔径の分布を示している。図9に示すように、酸化アルミニウムの濃度の高いアルミナゾル溶液を用いるほど細孔径は小さくなる傾向にあり、各サンプルに係る平均細孔径は、5nm以上8nm以下と考えられる。
【0063】
図10は、アルミナゾルの塗布回数による、細孔径の分布への影響を示している。具体的には、図10は5.0%のアルミナゾルを1~5回塗布した場合の細孔径の測定結果である。図10に示すように、平均細孔径は、塗布回数によって大きく変化しないことがわかる。すなわち、少ない塗布回数で細孔径の小さい積層膜を形成できることがわかる。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態では、実施の形態1の方法により製造した分離膜(基材)に、アルミナゾルを塗布して、第1の積層膜を形成することにより、より細孔径が小さく、分離性能の高い、薄膜の分離膜を構成することができる。
【0065】
また、本実施の形態では、実施の形態1に係る基材上に、PVAを塗布した後に、アルミナゾル溶液を塗布して第1の積層膜を形成することとしている。これにより、アルミナゾル溶液が基材に浸透することを抑制し、所望の細孔径を有する積層膜を形成することができる。
【0066】
また、本実施の形態では、酸化アルミニウムを前駆体とするセラミックの無機膜を積層するので、油滴に対する防汚特性を保ちつつ、分離性能を向上させることができる。
【0067】
(実施の形態3)
実施の形態2では、実施の形態1に係るセラミック分離膜(基材)に、アルミナゾルを用いて第1の積層膜を形成することとしたが、さらに細孔を有する薄膜を積層し、分離膜の細孔径を制御することとしてもよい。
【0068】
以下、図11のフローチャートを参照しつつ、本発明の実施の形態3に係る分離膜の製造方法及び分離膜について説明する。
【0069】
本実施の形態では、第2積層工程として、実施の形態2に係る第1の積層膜に、第2の積層膜としてのシリカ-ジルコニア(SiO-ZrO)膜を形成する場合について説明する。図11に示すように、まず、基材(ステップS11~17)、及び第1の積層膜である酸化アルミニウムを前駆体とするセラミックの第2の積層膜(ステップS21~23)を形成し、実施の形態2に係る分離膜を生成する(ステップS31)。
【0070】
続いて第2の積層膜を形成する。まず、前駆体としてのオルトケイ酸テトラエチル(TEOS:tetraethyl orthosilicate)とジルコニウム(IV)ブトキシド(zirconium(IV) butoxide)をエタノール溶媒中で、水および塩酸と混合し、無機粒子である二酸化ケイ素(シリカ)と二酸化ジルコニウム(ジルコニア)の複合構造を形成する。この時の前駆体濃度は9.5wt%、水モル比(HO/TEOS)は4、塩酸モル比(HCl/TEOS)は0.1~0.2である。その後、水と塩酸で希釈して、前駆体濃度を1~2wt%、pHを1~2の範囲に調整し、煮沸攪拌することでシリカ-ジルコニアコロイドゾルは調整される(ステップS32)。
【0071】
実施の形態2で製造した分離膜の第1の積層膜に、シリカ-ジルコニアコロイドゾルをスピン塗布し、550℃で15分間焼成する。この操作を計2回行うことで分離膜の外表面(第1の積層膜表面)を均質化し、第2の積層膜であるシリカ-ジルコニア膜を形成する(ステップS33)。
【0072】
図12は、本実施の形態に係るシリカ-ジルコニア膜の2つのサンプルにおける細孔径の分布を示している。図12に示すように、シリカ-ジルコニア膜の平均細孔径は、2nm以上4nm以下と考えられる。
【0073】
図13は、実施の形態2の第1の積層膜に係るアルミナゾルと、本実施の形態に係るシリカ-ジルコニアコロイドゾルの粒子の大きさに対する個数分布を示している。図13に示すように、本実施の形態に係るシリカ-ジルコニアコロイドゾルの平均粒子径は、実施の形態2に係るアルミナゾルの平均粒子径より大きい。これにより、本実施の形態に係る第2の積層膜の細孔径を、実施の形態2に係る第1の積層膜の細孔径より小さく制御することができる。
【0074】
以上、説明したように、本実施の形態に係る分離膜は、実施の形態2に係る分離膜に、細孔を有するシリカ-ジルコニアの第2の積層膜を形成することにより、より高い分離性能を有する薄膜の分離膜を形成することができる。
【0075】
本実施の形態では、実施の形態2に係る第1の積層膜上に、第2の積層膜であるシリカ-ジルコニア膜を形成することとしたが、これに限られない。実施の形態1に係るセラミック分離膜(基材)上に、シリカ-ジルコニア膜を第1の積層膜として形成することとしてもよい。この場合、実施の形態1に係るセラミック分離膜(基材)上に親水性ポリマーであるポリビニルアルコール(PVA)を塗布し、シリカ-ジルコニア膜を形成することとしてもよい。親水性ポリマーとして、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース、メチルセルロース、キトサン等を用いてもよい。これにより、分離膜の製造工程を簡素化するとともに、分離膜の分離性能を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、油性廃水から油と水とを分離する分離膜に好適である。特に、連続クロスフロー膜ユニットにおける工業用油性廃水の大量処理に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13