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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】微生物燃料電池及び底泥改質方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20240618BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240618BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240618BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20240618BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240618BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M4/86 B
H01M4/90 M
H01M4/96 M
C02F3/34 101Z
C02F11/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020177834
(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2021072284
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019196155
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】日比野 忠史
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-084541(JP,A)
【文献】特開2012-130892(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105502673(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線に接続された複数の糸状カーボンである負極本体と鉄鋼スラグとを有する負極と、
水層に配置されるための正極と、を備え、
前記負極は、泥層に配置されるための電極であり、前記負極本体と前記鉄鋼スラグとが混合されている、
ことを特徴とする微生物燃料電池。
【請求項2】
前記正極は、
酸素消費物質吸収剤を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項3】
前記酸素消費物質吸収剤は、
石炭灰造粒物である、
ことを特徴とする請求項2に記載の微生物燃料電池。
【請求項4】
前記負極本体及び前記鉄鋼スラグは、網袋状の保持体に収容されている、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の微生物燃料電池。
【請求項5】
前記負極は、前記導線に接続されず前記鉄鋼スラグと混合された補助カーボンを備える、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の微生物燃料電池。
【請求項6】
前記泥層は、外部助燃料を含む、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の微生物燃料電池。
【請求項7】
前記負極と前記正極の間の泥層に配置される中継負極及び中継正極を備える、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の微生物燃料電池。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の微生物燃料電池を動作させることにより、前記負極周辺の底泥を改質する、
ことを特徴とする底泥改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物燃料電池及び底泥改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物の代謝能力を利用して有機物などの燃料を電気エネルギーに変換する微生物燃料電池(MFC:Microbial Fuel Cell)が開発されている。特に、河川、湖沼、海等の堆積泥を燃料とした微生物燃料電池(SMFC:Sediment Microbial Fuel Cell)は、発電と同時に有機廃棄物の処理、水質改善等の環境浄化を行うことができるので、堆積泥を燃料とする種々の微生物燃料電池が開発されている。
【0003】
一般的に、微生物燃料電池は、発電可能な電力が小さいので、大きな電力を得るための方法が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-114375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の微生物燃料電池では、竹炭、木炭等からなる負極を堆積泥に埋設し、水層に配置された正極と接続することとしている。さらに、特許文献1では、木炭又は竹炭に鉄合金、マンガン等の金属還元剤を取り付けて負極とすることで、発生する電力量を増加させる方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、金属還元剤を負極の一部として木炭等に一体化させるため、負極の構造が複雑で製造コストが大きい。また、金属還元剤を用いた場合であっても、得られる電力量は実用的な電源としては小さい。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、安価で構造の簡素な負極を用いて、発電される電力量の大きい微生物燃料電池及び底泥改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る微生物燃料電池は、
導線に接続された複数の糸状カーボンである負極本体と鉄鋼スラグとを有する負極と、
水層に配置されるための正極と、を備え、
前記負極は、泥層に配置されるための電極であり、前記負極本体と前記鉄鋼スラグとが混合されている。
【0009】
また、前記正極は、
酸素消費物質吸収剤を備える、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記酸素消費物質吸収剤は、
石炭灰造粒物である、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記負極本体及び前記鉄鋼スラグは、網袋状の保持体に収容されている、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記負極は、前記導線に接続されず前記鉄鋼スラグと混合された補助カーボンを備える、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記泥層は、外部助燃料を含む、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記負極と前記正極の間の泥層に配置される中継負極及び中継正極を備える、
こととしてもよい。
【0015】
また、本発明の第2の観点に係る底泥改質方法は、
第1の観点に係る微生物燃料電池を動作させることにより、前記負極周辺の底泥を改質する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、負極に含まれる糸状の負極本体と鉄鋼スラグとを混合された状態で泥層に配置することにより、簡素な構造で安価な負極とするとともに、発電される電力量を大きくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態1に係る微生物燃料電池の概念図である。
図2】(A)は、実施の形態1に係る正極の構成を示す図であり、(B)は、正極本体を示す図である。
図3】実施の形態1に係る負極を示す図であり、(A)は、負極本体を網袋に収容する前の図、(B)は、負極本体を網袋に収容した後の図である。
図4】鉄鋼スラグを負極に用いた場合の電子伝達機構を示す模式図である。
図5】鉄鋼スラグを用いた場合と鉄鋼スラグを用いなかった場合で得られた電力の例を示すグラフである。
図6】実施の形態1に係る微生物燃料電池で得られた電力の例を示すグラフである。
図7】使用前の鉄鋼スラグと使用後の鉄鋼スラグの例を示す図である。
図8】二価鉄の溶出量の例を示すグラフである。
図9】(A)は、図8に係る実験における負極の構成を示す概念図であり、(B)は、負極の例を示す平面図である。
図10】本発明の実施の形態2に係る微生物燃料電池の構成を示す概念図である。
図11】実施の形態2に係る微生物燃料電池で得られた電力の例を示すグラフである。
図12】本発明の実施の形態3に係る電源装置の構成を示す概念図である。
図13】実施の形態3に係る電源装置で得られた電流の例を示すグラフである。
図14】本発明の実施の形態4に係る微生物燃料電池の構成を示す概念図である。
図15】実施の形態4に係る中継正極の電位を示すグラフである。
図16】実施の形態4に係る第1の回路のみ及び第1の回路と第2の回路とを併用した回路から得られた電流値を示すグラフである。
図17】第1の回路のみの場合及び第1の回路と第2の回路とを併用した場合の電流値から導出される獲得電子量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る微生物燃料電池及び底泥改質方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る微生物燃料電池1は、図1に示すように、正極10、導線20、負極30、出力部40を備える。
【0020】
正極10は、図2(A)に示すように、微生物燃料電池1の設置場所である河川、湖沼、海等の水層に配置される微生物燃料電池1のカソード電極であり、正極本体11、網状板12を備える。
【0021】
正極本体11は、糸状カーボンである。具体的には、糸状カーボンは、厚さ0.25mm±0.05mmのカーボンシート(NEWS Company社PL200-N)を、幅300mm、長さ300mmに裁断して500℃で30分間焼成した後、25mm×300mmの糸状にしたものである。本実施の形態では、図2(B)に示すように、この糸状カーボンの中間部分を結束して、導線20に接続している。
【0022】
上述のように、本明細書において糸状カーボンとは、細線状のものに限られず、柔軟性を有する矩形板状のものも含まれる。
【0023】
また、正極本体11は、2枚の網状板12で挟持されている。網状板12の材質は、樹脂、ゴム等特に限定されず、大きさも、特に限定されない。本実施の形態に係る網状板12は、タキロンシーアイ社製トリカルネット(登録商標)H02であり、材質は低密度ポリエチレン、網目ピッチは10mm×10mmである。また、大きさは、300mm×300mmの四角形である。2枚の網状板12は、正極本体11を挟み込んだ状態で、ナイロン製の結束バンド等で固定される。このように、正極本体11を網状板12で挟持することにより、正極本体11が、河川、湖沼、海等の自然環境下で長期間水流を受けることによって切断され、水中に流出することを抑制できる。
【0024】
図2(A)に示すように、本実施の形態では、2つの正極10が導線20に並列に接続されている。また、2つの正極10は塩化ビニル管の連結棒13に固定されており、連結棒13の中間部に浮体14が取り付けられている。これにより、正極10は水面、より詳細には、微生物燃料電池1が設置される河川、湖沼、海等の水面近傍の水中に、正極本体11が位置するように、配置される。したがって、正極本体11は、酸素濃度の高い水面近傍に配置されるので、効率よく発電を行うことができる。
【0025】
導線20は、図1に示すように、正極10及び負極30と負荷45とを接続して、微生物燃料電池1で発生した電力を負荷45へ伝えるものである。これにより、微生物燃料電池1で発生した電力を、照明用LED(Light Emitting Diode)等の負荷45で利用することができる。導線20の素材、径、抵抗値等は、特に限定されず、微生物燃料電池1の起電力、設置環境等に適した特性のものを選択すればよい。
【0026】
負極30は、泥層に配置される微生物燃料電池1のアノード電極であり、図3(A)、(B)に示すように、負極本体31、鉄鋼スラグ32、網袋33を備える。
【0027】
負極本体31は、正極本体11と同様の糸状カーボンである。具体的には、糸状カーボンは、0.25mm±0.05mmのカーボンシート(NEWS Company社PL200-N)を、幅300mm、長さ300mmに裁断して500℃で30分間焼成した後、25mm×300mmの糸状にしたものである。本実施の形態では、図2(B)に示すように、この糸状カーボンの中間部分を結束して、導線20に接続している。
【0028】
鉄鋼スラグ32は、負極本体31とともに網袋33に収容されて負極30を構成し、微生物燃料電池1の助燃料として発電される電力量を大きくするとともに、錘として陸上又は水上から投げ込まれた負極30を泥層に設置させるものである。
【0029】
鉄鋼スラグ32は、鉄鋼製造工程において副産物として発生するスラグであり、石灰(CaO)、シリカ(SiO)等を含む。本発明に係る鉄鋼スラグ32は、鉄(Fe)の含有率の高い製鋼スラグであることが好ましい。これにより、鉄鋼スラグ32を微生物燃料電池1の助燃料として用いることができる。
【0030】
図4は、鉄鋼スラグ32を負極本体31とともに泥層に配置した場合の電子伝達機構を模式的に示したものである。図4に示すように、鉄鋼スラグ32を負極30に用いると、鉄鋼スラグ32に残存している鉄の溶解反応により二価鉄(Fe2+)が生じる。これにより、底泥の酸化還元電位を低下させるとともに、多くの電子を得ることができるので、発電される電力量を大きくすることができる。
【0031】
図5は、負極30に鉄鋼スラグ32を用いた場合と用いなかった場合の電力量の例(I-W曲線)を示している。図5に示すように、本例では、鉄鋼スラグ32を用いなかった場合の最大出力は、電極面積あたり130mWであるのに対し、鉄鋼スラグ32用いた場合の最大出力は、580mWである。この結果から、鉄鋼スラグ32を負極本体31とともに泥層に配置して、負極30とすることにより、発電される電力量を大幅に増加できることがわかる。
【0032】
本実施の形態に係る鉄鋼スラグ32は礫状であり、その大きさは特に限定されないが、網袋33の網目から流出しないように、一定以上の大きさとしつつ、鉄鋼スラグ32の表面積がなるべく大きくなるように選択する。具体的には、鉄鋼スラグ32の大きさは、1~3.5cm程度であることが好ましい。
【0033】
網袋33は、負極本体31及び鉄鋼スラグ32を収容して負極30を構成する網袋状の保持体である。網袋33の素材、大きさ等は特に限定されず、負極本体31の長さ、鉄鋼スラグ32の大きさ等に基づいて適宜選択することができる。本実施の形態に係る網袋33は、7000cmの鉄鋼スラグ32を収容できるナイロン製の袋である。また、堆積泥は網袋33中に多く入ってくることが好ましいので、網袋33の網目の大きさは、鉄鋼スラグ32が網袋33から流出しない範囲で大きいことが好ましく、例えば5mm程度である。
【0034】
網袋33に負極本体31と鉄鋼スラグ32とを収容し、負極本体31の糸状カーボンが、鉄鋼スラグ32の間に広く配置されるように、負極本体31と鉄鋼スラグ32とを混合して絡ませる。そして、図3(B)に示すように、負極本体31及び鉄鋼スラグ32が網袋33から流出しないように網袋33の口を閉める。網袋33の口は、例えばナイロン製の結束バンドを用いて締められる。
【0035】
出力部40は、微生物燃料電池1の電力出力部であり、導線20を介して、正極10、負極30と、それぞれ接続されている。出力部40は、例えば、照明用LED等の負荷45に接続されている。また、出力部40は、蓄電池に接続されて、微生物燃料電池1で発生した電力を蓄電池に充電することとしてもよい。
【0036】
図6は、正極面積及び負極面積、すなわち正極本体11及び負極本体31の糸状カーボンの表面積を、それぞれ900cmとする微生物燃料電池1で得られた電力の例を示している。図6のI-V曲線及びI-W曲線に示されるように、本例の最大電圧は0.5V、最大出力は、110mAで60mW程度である。
【0037】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態では、糸状カーボンである負極本体31と鉄鋼スラグ32とが混合された状態で泥層に配置されるので、負極30の構造を簡素にするとともに、微生物燃料電池1で発電される電力量を大幅に増加させることができる。
【0038】
また、本実施の形態では、負極本体31と鉄鋼スラグ32とを網袋33に収容して微生物燃料電池1用の負極30としている。したがって、陸上又は水上から負極30を投入することにより、水中の堆積泥(比重1.1程度)に、鉄鋼スラグ32を備える負極30(鉄鋼スラグ32の比重2.6程度)が沈降し、泥層に負極30を設置することが可能である。これにより、負極30を容易に堆積泥中に設置することができる。
【0039】
また、微生物燃料電池1は、負極30を河川、湖沼、海等の泥層に設置して、底泥(ヘドロ)を主燃料とするので、発電と同時に底泥の浄化を行うことができる。また、網袋33の網目を通じて負極30内に入った底泥は、発電に伴う反応により流動性が高まり、河川、湖沼、海等の水流によって網袋33から流出しやすくなる。そして、水流とともに、網袋33内の底泥が入れ替わり、継続的に底泥の浄化を行うことができる。
【0040】
図7は、鉄鋼スラグ32の使用前と使用後の状態を示す図である。使用後の鉄鋼スラグ32は、海底の泥層に設置された、微生物燃料電池1の負極30の一部として2年間動作させた後のものである。図7に示すように、使用後の鉄鋼スラグ32は、ひび割れ、小さく砕けていることがわかる。これは、微生物燃料電池1が動作することにより、鉄鋼スラグ32から鉄イオン等のイオンが溶出したことによるものと考えられる。このように、本発明に係る負極30の一部として鉄鋼スラグ32を用いることにより、鉄鋼スラグ32を粉砕することができるので、鉄鋼スラグ32を土木材料等に再利用するための処理方法として微生物燃料電池1による発電方法を用いることができる。
【0041】
図8は、鉄鋼スラグ32による二価鉄(Fe2+)の溶出量の例を示すグラフである。具体的には、図9(A)、(B)に示すように、直径30cm、深さ30cmの円筒状の容器に電極(負極本体31)と15kgの鉄鋼スラグ32とを投入し、有機物の沈降が多い海底に設置する。そして、微生物燃料電池1として1年間動作させた後に、容器内の二価鉄の量を計測した。本実験では、比較のために容器内になにも入れずに設置した場合、鉄鋼スラグ32を入れずに負極本体31のみを入れた従来のSMFCの場合、鉄鋼スラグ32のみをいれた場合、それぞれについて二価鉄の溶出量を計測した。
【0042】
図8に示すように、容器に何も入れなかった場合(control)の二価鉄の量は0.16mg/L、容器に負極本体31のみを入れた場合(SMFC)の二価鉄の量は0.22mg/Lであり、ほぼ同等であった。また、容器に鉄鋼スラグ32のみを入れた場合の二価鉄の溶出量は14mg/Lであり、容器に負極本体31と鉄鋼スラグ32とを入れて微生物燃料電池1として動作させた場合の二価鉄の溶出量は44500mg/Lであった。この結果から、鉄鋼スラグ32を負極本体31とともに海底に設置して微生物燃料電池1として動作させた場合の二価鉄の溶出量は、単に鉄鋼スラグ32を海底に設置した場合と比較して、3000倍以上多くなることがわかる。
【0043】
すなわち、本発明のように鉄鋼スラグ32を負極本体31とともに底泥に配置して微生物燃料電池1を動作させることにより、多くの鉄を供給することができるので、鉄が欠乏した環境であっても微細藻類の増殖を図ることができる等、効率的に負極30周辺の底泥を改質することが可能である。
【0044】
また、正極10は、酸素消費物質吸収剤を備えることとしてもよい。酸素消費物質吸収剤は、底泥等から生じる硫化水素等の酸素消費物質を吸収する。これにより、正極10への酸素供給量が低下して、微生物燃料電池1の発電効率が低下することを抑制することができる。
【0045】
酸素消費物質吸収剤は、特に限定されず、硫化水素等の酸素消費物質を吸収できるものであればよく、例えば、石炭灰造粒物である。この場合、ビーズ状の石炭灰造粒物を、糸状カーボンの正極本体11と混合し、網状板12で挟持すればよい。石炭灰造粒物は、酸化カルシウムを含む酸素消費物質吸収剤であり、取扱い及び費用の点で好ましい。
【0046】
本実施の形態に係る微生物燃料電池1は、1つの負極30を備えることとしたが、これに限られない。例えば、複数の負極30を接続することにより、発電量を増加させることとしてもよい。また、複数の正極10を接続することとしてもよい。これらにより、消費電力の大きい種々の負荷45を出力部40に接続して、駆動させることができる。
【0047】
本実施の形態に係る負極30は、負極30の周辺1m程度範囲で泥を酸化できるので、複数の負極30を接続する場合、負極30を1.5m程度の間隔で格子状に設置することが好ましい。負極30を格子状に配置して、並列接続することにより、微生物燃料電池1の発電電力を増加させるとともに、効率よく泥層の浄化範囲を広げることができる。
【0048】
また、本実施の形態では、鉄鋼スラグ32を助燃料として用いることとしたが、外部助燃料を用いることとしてもよい。外部助燃料は、負極30が設置される泥層において、負極30の周辺に配置される助燃料である。外部助燃料の材質は特に限定されないが、例えば、網袋33内の助燃料である鉄鋼スラグ32と同様の鉄鋼スラグ32を用いることができる。より具体的には、負極30を中心とする半径1m円内の泥層に、外部助燃料として、鉄鋼スラグ32を10cm程度の厚さで撒けばよい。これにより、発電量を増加させ、継続的、安定的に電流を獲得することができる。
【0049】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る微生物燃料電池2は、負極30’が、補助カーボン35を備える点で、実施の形態1と異なる。その他の構成は実施の形態1と同様であるので、同じ符号を付す。
【0050】
本実施の形態に係る負極30’は、負極本体31、鉄鋼スラグ32、網袋33、補助カーボン35を備える。負極本体31、鉄鋼スラグ32、網袋33の構成は、実施の形態1と同様である。
【0051】
補助カーボン35は、正極本体11、負極本体31と同様の糸状カーボンを裁断したものであり、補助カーボン35の長さは1cm程度である。補助カーボン35は、図10の概念図に示すように、導線20に接続されず、鉄鋼スラグ32と混合された状態で負極30’の網袋33に収容される。これにより、補助カーボン35を介して負極本体31へと電子を運ぶことができるので、補助カーボン35が無く、水中を電子が伝わる場合と比較して、効率よく負極30内の電子を集めることができる。
【0052】
図11は、正極面積及び負極面積、すなわち正極本体11及び負極本体31の糸状カーボンの表面積を、それぞれ900cmとする微生物燃料電池2で得られた電力の例を示している。図11では、比較のため、実施の形態1に係る微生物燃料電池1、本実施の形態に係る微生物燃料電池2を用いて室内実験を行った場合の例(室内)と、海に微生物燃料電池1を設置して実験を行った場合の例(現地)とを示している。図11のI-V曲線及びI-W曲線に示されるように、本例の室内実験では、最大電圧は0.95V、最大出力は、2.4A/mで1.2W/m程度であり、実施の形態1に係る微生物燃料電池1と比較して、より大きな電力を得られることがわかる。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態に係る微生物燃料電池2では、負極30’が補助カーボン35を備えることにより、発生する電力を大きくすることができる。
【0054】
本実施の形態では、補助カーボン35として、適当な長さに裁断された糸状カーボンを用いることとしたが、これに限られない。例えば、竹炭、木炭等を用いることとしてもよい。これにより、補助カーボン35としてより安価な材料を使用することができる。
【0055】
(実施の形態3)
上述の実施の形態1及び実施の形態2に係る微生物燃料電池1、2は、他の補助電池51とともに用いることも可能である。本実施の形態では、上述の実施の形態に係る微生物燃料電池1と、補助電池51とを直列に接続した電源装置50について説明する。
【0056】
電源装置50は、図12に示すように、微生物燃料電池1、補助電池51を備える。微生物燃料電池1は、複数並列に接続して用いることとしてもよく、微生物燃料電池1に代えて微生物燃料電池2を用いてもよい。また、微生物燃料電池1と微生物燃料電池2の両方を用いてもよい。
【0057】
補助電池51の種類、出力等は特に限定されないが、微生物燃料電池1とともに屋外に設置可能であり、発電時に騒音、排出物を出さないことから太陽電池を用いることが好ましい。
【0058】
補助電池51が微生物燃料電池1と直列に接続されることにより、電源装置50の電圧が高まり電流が大きくなる。図13は、補助電池51を用いた場合と、補助電池51を用いなかった場合とにおける発生電流の時間変化の例を示すグラフである。図13に示すように、補助電池51である太陽電池を用いた場合、電源装置50の電流が増加している。
【0059】
以上説明したように、電源装置50は、補助電池51と微生物燃料電池1とを直列に接続することにより、電流を増加させるので、微生物燃料電池1の負極30周辺の泥層の浄化を促進することができる。また、鉄鋼スラグ32の破砕の進行を早めることができる。
【0060】
本実施の形態では、補助電池51として、太陽電池を用いることとしたが、これに限られない。例えば、アルカリ電池、マンガン電池等の一次電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池等の二次電池等でもよい。これにより、安価で設置の容易な電源装置50を構成することができる。また、補助電池51の種類に関わらず、複数の補助電池51を組み合わせて用いることとしてもよい。
【0061】
(実施の形態4)
上述の実施の形態1及び実施の形態2に係る微生物燃料電池1、2は、正極10と負極30とを直接接続することとしているが、正極10と負極30との間に中継電極を配置することも可能である。本実施の形態では、実施の形態1に係る微生物燃料電池1で示された正極10と負極30との間の回路に、泥層に配置される中継正極52及び中継負極53を備える微生物燃料電池3について説明する。
【0062】
中継正極52は、図14に示すように、負極30と接続された電極であり、泥層に配置される。中継正極52に係る素材、形状等の構成は特に限定されない。本実施の形態に係る中継正極52は、実施の形態1に係る正極10と同様の構成、すなわち結束された糸状カーボンを網状板12で挟み込んだ構成となっている。これにより、柔軟性を有する糸状カーボンの電極本体を、剛性を有する網状板12とともに泥層に埋め込むことができるので、糸状カーボンのみの場合と比較して、より容易に中継負極53を泥層に配置することができる。また、電極本体である糸状カーボンを広い範囲(面積)に拡げて泥層に配置することができるので、負極30で獲得された電子によって、中継正極52周辺の電位を効率的に低下させることができる。
【0063】
中継負極53は、正極10と接続された電極であり、中継正極52の近傍の泥層に配置される。中継負極53に係る素材、形状等の構成は特に限定されない。本実施の形態に係る中継負極53は、中継正極52と同様に、結束された糸状カーボンを網状板12で挟み込んだ構成となっている。これにより、中継負極53を容易に泥層に配置することができる。中継正極52と中継負極53との間の距離は特に限定されず、中継負極53が中継正極52による電位低下の影響を受ける範囲で、中継正極52、中継負極53の形状等に基づいて設定すればよい。本実施の形態では、中継正極52と中継負極53との間の距離は、5cmと設定される。
【0064】
微生物燃料電池3では、網状板12で挟み込まれた中継正極52と中継負極53とが対向するように泥層に配置される。これにより、負極30で獲得された電子が中継正極52に伝わり、中継正極52及び中継負極53の周辺の電位を低下させる。したがって、中継負極53と正極10との間の電位差を大きくすることができ、中継負極53と正極10との間で生じる電流を大きくすることができる。これにより、微生物燃料電池3の性能を向上させることができる。また、負極30周辺のみならず、中継正極52及び中継負極53周辺でも底泥を改質することができるので、より広範囲の底泥を改質することが可能である。
【0065】
図15は、本実施の形態に係る微生物燃料電池3における中継正極52の電位の測定結果を示すグラフである。ここで、地点Aは、図14に示すように、中継正極52周辺の電位の状態を確認するために、中継正極52と中継負極53との間に設定された地点である。中継正極52と地点Aとの距離は2cmである。また、本例における中継正極52と負極30との間の距離は15cmである。
【0066】
図15に示すように、負極30と接続された中継正極52の電位は、負極30で回収された電子によって時間経過とともに低下する。また、地点Aの電位も、中継正極52の電位低下に伴って低下しており、中継正極52周辺の電位が低下していることがわかる。
【0067】
図16は、微生物燃料電池3の内部での電流値を示すグラフである。以下、図14に示すように、正極10と中継負極53とが導線で接続された内部回路を第1の回路、中継正極52と負極30とが導線で接続された内部回路を第2の回路として説明する。第2の回路によって、時間の経過に伴って中継正極52周辺の電位が低下する。これに対応して、図16に示すように、第1の回路で獲得される電流値I1は大幅に増加していることがわかる。
【0068】
図17は、本実施の形態に係る微生物燃料電池3、すなわち第1の回路と第2の回路とを含む場合と、第1の回路のみの場合とで、30日間で獲得された電子量の合計値を示すグラフである。図17に示すように、第1の回路のみの場合の獲得電子量E1と比較して、第2の回路を含む微生物燃料電池3の場合の獲得電子量E2では、7倍以上の電子を獲得できていることがわかる。
【0069】
以上説明したように、微生物燃料電池3では、正極10と負極30との間に、中継正極52及び中継負極53を配置することにより、中継正極52及び中継負極53の周辺の電位を低下させ、中継負極53と正極10との間で生じる電流を大きくすることができる。また、負極30周辺のみならず、中継負極53周辺でも底泥を改質することができるので、より広範囲の底泥を改質することが可能である。
【0070】
本実施の形態では、正極10と中継負極53とを接続する第1の回路は1つであることとしたが、これに限られない。例えば、第2の回路と、複数の第1の回路とを用いて微生物燃料電池3を構成することとしてもよい。具体的には、中継正極52の周辺に、正極10と中継負極53とが導線で接続された第1の回路を複数配置する。1つの第2の回路により生産された電子によって複数の中継負極53周辺の電位を低下させることができ、より効率的に電力を得ることができる。また、効率的に複数の中継負極53周辺の底泥を改質することが可能となる。
【0071】
また、複数の第2の回路と、1又は2以上の第1の回路とを用いて微生物燃料電池3を構成することとしてもよい。複数の第2の回路により生産された電子によって、中継負極53周辺の電位を低下させることができる。また、複数の負極30と中継負極53とによって、より広範囲で底泥を改質することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、河川、湖沼、海等の泥層に設置される微生物燃料電池に好適である。特に、微生物燃料電池を用いた環境浄化を行いつつ、より大きく、安定した電力が求められる電源装置に好適である。
【符号の説明】
【0073】
1,2,3 微生物燃料電池、10 正極、11 正極本体、12 網状板、13 連結棒、14 浮体、20 導線、30,30’ 負極、31 負極本体、32 鉄鋼スラグ、33 網袋、35 補助カーボン、40 出力部、45 負荷、50 電源装置、51 補助電池、52 中継正極、53 中継負極
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