(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】移動体の速度導出装置、作業管理装置および移動体の速度導出方法
(51)【国際特許分類】
A01D 46/00 20060101AFI20240618BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A01D46/00 A
A01G7/00 603
(21)【出願番号】P 2021023438
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】内藤 裕貴
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-055207(JP,A)
【文献】特開平11-046550(JP,A)
【文献】特開2020-174546(JP,A)
【文献】特開2019-097447(JP,A)
【文献】特許第6673442(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0309650(US,A1)
【文献】特開2017-195895(JP,A)
【文献】特開2019-017396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 46/00-46/30
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物列における収穫対象果実の位置を示す位置情報を取得する果実位置取得部と、
収穫のために作物列に沿って走行する移動体の速度を導出する速度導出部と、を備えた移動体の速度導出装置であって、
前記速度導出部は、
収穫対象果実の位置情報にもとづいて、移動体の走行経路の複数の位置のそれぞれで収穫可能な果実数を導出する果実数導出部と、
各位置において収穫可能な果実数にもとづいて、各位置における移動体の速度を算出する速度算出部と、を有する、
ことを特徴とする移動体の速度導出装置。
【請求項2】
前記速度算出部は、各位置において収穫可能な果実数から、各位置における通過所要時間を算出し、算出した通過所要時間から移動体の速度を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動体の速度導出装置。
【請求項3】
前記速度算出部は、1つの果実の収穫所要時間と、各位置において収穫可能な果実数とを用いて、各位置における通過所要時間を算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の移動体の速度導出装置。
【請求項4】
1つの果実の収穫所要時間は、作業者に応じて設定される、
ことを特徴とする請求項3に記載の移動体の速度導出装置。
【請求項5】
1つの果実の収穫所要時間は、作業の困難さに応じて設定される、
ことを特徴とする請求項3に記載の移動体の速度導出装置。
【請求項6】
作物列における収穫対象果実の位置を示す位置情報を取得する果実位置取得部と、
収穫対象果実の位置情報にもとづいて、移動体の走行経路の複数の位置のそれぞれで収穫可能な果実数を導出する果実数導出部と、
各位置において収穫可能な果実数にもとづいて、各位置における移動体の速度を算出する速度算出部と、
前記速度算出部により算出された移動体の速度にもとづいて、作物列ごとの収穫時間を算出し、1日の収穫にかかる時間を導出する収穫時間導出部と、を備える。
ことを特徴とする作業管理装置。
【請求項7】
収穫のために作物列に沿って走行する移動体の速度を導出する方法であって、
作物列における収穫対象果実の位置を示す位置情報を取得するステップと、
収穫対象果実の位置情報にもとづいて、移動体の走行経路の複数の位置のそれぞれで収穫可能な果実数を導出するステップと、
各位置において収穫可能な果実数にもとづいて、各位置における移動体の速度を算出するステップと、を有する、
ことを特徴とする移動体の速度導出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物列に沿って走行する移動体の走行を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、第1照明手段から照射される第1照射領域と、第2照明手段から照射される第2照射領域とが重なる領域を撮像対象領域とし、第1照射領域と第2照射領域とが重ならない領域を撮像対象領域外として、撮像対象領域と撮像対象領域外とで光量差を発生させ、光量差によって、撮像手段から所定距離の領域内に位置する撮像対象植物体を、撮像手段から所定距離を越える位置にある非撮像対象植物体から区分して撮影する技術を開示する。
【0003】
特許文献2は、下方から撮影した果実の画像と正面から撮影した果実の画像とから、果実の三次元画像の座標位置を特定し、得られた果実の三次元位置にあわせてマニピュレータを作動させる制御装置を備えた果実収穫ロボットを開示する。当該制御装置は、果実の着色状態を判別して、収穫の是非を判断する機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/218323号
【文献】特開2008-206438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トマト等果菜類の生産現場では、多くの労働者を雇用する大規模生産法人が増加傾向にある。大規模生産法人では数十名から百名を超える人員が作業するため、作業の効率性と作業指示の適切さは、農場運営を左右する。
【0006】
従来の収穫作業において、作業者は手押し台車又は搭乗する動力付き移動台車の前進、停止を手動で操作して果実を収穫しながら、次に収穫する果実を確認する作業も同時に行っており、収穫作業に専念できていない。生産現場における様々な作業の中で、収穫作業にかかる時間は作期を通じた全体作業時間の約3~4割を占めるため、効率的な農場運営を実現するためには、収穫作業が効率的に実施される必要がある。
【0007】
そこで本発明の目的は、収穫作業を効率的に実施するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の移動体の速度導出装置は、作物列における収穫対象果実の位置を示す位置情報を取得する果実位置取得部と、収穫のために作物列に沿って走行する移動体の速度を導出する速度導出部とを備える。速度導出部は、収穫対象果実の位置情報にもとづいて、移動体の走行経路の複数の位置のそれぞれで収穫可能な果実数を導出する果実数導出部と、各位置において収穫可能な果実数にもとづいて、各位置における移動体の速度を算出する速度算出部とを有する。
【0009】
本発明の別の態様の作業管理装置は、作物列における収穫対象果実の位置を示す位置情報を取得する果実位置取得部と、収穫対象果実の位置情報にもとづいて、移動体の走行経路の複数の位置のそれぞれで収穫可能な果実数を導出する果実数導出部と、各位置において収穫可能な果実数にもとづいて、各位置における移動体の速度を算出する速度算出部と、速度算出部により算出された移動体の速度にもとづいて、作物列ごとの収穫時間を算出し、1日の収穫にかかる時間を導出する収穫時間導出部とを備える。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、収穫のために作物列に沿って走行する移動体の速度を導出する方法であって、作物列における収穫対象果実の位置を示す位置情報を取得するステップと、収穫対象果実の位置情報にもとづいて、移動体の走行経路の複数の位置のそれぞれで収穫可能な果実数を導出するステップと、各位置において収穫可能な果実数にもとづいて、各位置における移動体の速度を算出するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、効率的な収穫作業を実現するために、収穫する果実の位置に応じて収穫用移動体の速度を好適に設定する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】作業者が果実を収穫する様子を示す図である。
【
図3】作業管理装置の機能ブロックを示す図である。
【
図4】移動台車の速度を導出する処理手順を示す図である。
【
図5】果実位置特定部による処理手順を示す図である。
【
図6】果実位置特定部による処理を説明するための図である。
【
図7】速度導出部による処理を説明するための図である。
【
図8】速度導出部による処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、施設園芸による農場1の例を示す。農場1では、複数の作物列が略平行に延在し、2つの作物列の間に、収穫用の動力付き移動台車の走行経路を構成するレール10a~10n(以下、特に区別しない場合には「レール10」と呼ぶ)が敷設されている。大規模な農場1ではハウス内に、数百以上の株が直線状且つ平行に植え付けられる。実施例では収穫する果実がトマトであり、各作物列にトマト株が並べて植え付けられているが、他の種類の果実を収穫対象としてもよい。
【0014】
動力付き移動台車はレール10を往復し、移動台車に搭乗する作業者は、レール10に沿った両側の作物列の果実を収穫する。そして当該作物列の収穫作業が終了すると、移動台車は、コンクリート等によって舗装される作業道を通って別のレール10に移動する。移動台車は、移動先のレール10を往復し、作業者は、そのレール10に沿った両側の作物列の果実を収穫する。これを繰り返し、作業者は、その日に担当する作物列の収穫作業を行う。なお1日の収穫作業には、1台以上の移動台車が使用され、複数の作業者がそれぞれ移動台車に乗って、並列に収穫作業を行ってもよい。
【0015】
図2は、作業者が果実を収穫する様子を示す。作業者は、レール10を走行する移動台車12に乗りながら果実を収穫する。動力付き移動台車12は作物列に沿って自動走行し、後述するように、その速度は、レール10の延在方向における位置に応じて制御される。
図2に示す作物列において、黒色で示す果実2は、熟していて収穫対象となる果実(収穫対象果実)であり、白色で示す果実は、未熟で収穫対象にならない果実である。
【0016】
作物列はレール10の両側で延在しており、作業者は、移動台車12がレール端部14aからレール端部14bに向けて走行するときに、一方の側の作物列から収穫対象果実を収穫し、移動台車12がレール端部14bからレール端部14aに向けて走行するときに、他方の側の作物列から収穫対象果実を収穫する。実施例では、以下に示す作業管理装置が、レール10上の各位置で作業者が収穫可能な果実数にもとづいて、移動台車12の速度を導出する。
【0017】
図3は、作業管理装置20の機能ブロックを示す。作業管理装置20は、農場1に設置されたサーバ装置により構成されてよいが、管理センターなどに設置されたサーバ装置により構成されてもよい。作業管理装置20は、移動台車12の速度を導出する速度導出装置30と、1日の収穫作業に関する予測を行う作業予測装置50とを備える。速度導出装置30は、果実位置特定部32、果実位置取得部34、速度導出部40および果実位置記憶部46を有し、速度導出部40は、果実数導出部42および速度算出部44を有する。作業予測装置50は、収穫時間導出部52、作業員数導出部54および作業時間導出部56を有する。
【0018】
図3において、さまざまな処理を行う機能ブロックとして記載される各要素は、ハードウェア的には、回路ブロック、メモリ、その他のLSIで構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。
【0019】
図4は、速度導出装置30が移動台車12の速度を導出する処理手順を示す。この処理手順では、まず果実位置特定部32が、作物列における収穫対象果実の位置を特定する(S10)。なお実施例における果実位置特定部32は、速度導出装置30の一機能として示されるが、別の例で果実位置特定部32は、速度導出装置30とは異なる別の装置(たとえば画像処理装置)の一機能であってもよい。
【0020】
図5は、果実位置特定部32による処理手順を示す。たとえば作業日当日の早朝、または作業日前日の夜間に、カメラで作物列を切れ目なく撮影して、撮影画像を画像記憶部(図示せず)に保存する。たとえばレール10を一定速度で走行する移動台車12にカメラを載せ、異なる位置から作物列を切れ目のないように自動的に撮影させてもよい。通常、作物列の長さは数十メートルあるが、移動台車12が所定距離(たとえば数メートル)移動するごとに作物列を撮影するようにカメラを制御することで、作物列を切れ目なく撮影できる。この撮影は、すべての作物列に対して行われる。果実位置特定部32は、画像記憶部から1つの作物列を切れ目なく撮影した複数の画像を読み出し、それらを繋ぎ合わせて、作物列の展開画像を生成する(S20)。
【0021】
図6は、果実位置特定部32による処理を説明するための図である。
図6(a)は、作物列の展開画像の例を示す。この展開画像は、1つの作物列の端から端までを撮影した画像であり、展開画像には、これから作業者が収穫する果実(収穫対象果実)と、収穫するには未熟な果実とが含まれる。果実位置特定部32は、展開画像に、明るさ補正、色補正、エッジ強調処理、ノイズ除去処理などの前処理を行った後(S22)、展開画像に含まれる果実を検出する(S24)。果実の検出は、既知の画像処理技術を利用してよい。
図6(b)は、展開画像において検出された果実を示す。
【0022】
それから果実位置特定部32は、検出した果実の熟度を導出する。熟度導出処理については従来より様々な研究が行われており、たとえばトマトの熟度は、表面色における赤みの占める割合で数値化される。果実位置特定部32は、S24において検出された個々の果実の熟度を導出し、導出した熟度が所定の閾値以上である果実を、収穫対象果実として特定する(S26)。
【0023】
図6(c)は、展開画像において特定された収穫対象果実を示す。果実位置特定部32は、展開画像の座標系における収穫対象果実の中心座標を求めて、収穫対象果実の画像座標(u,v)として特定する(S28)。それから果実位置特定部32は、展開画像の座標系を実空間の座標系に変換して、画像座標(u,v)を実空間座標(x,y)に変換する(S30)。
【0024】
図6(d)は、実空間座標を示すXY座標系における収穫対象果実の座標位置を示す。実空間座標におけるX軸成分は、作物列における長さ方向の位置を表現し、Y軸成分は、作物列における高さ方向の位置を表現する。果実位置特定部32は、複数の収穫対象果実の実空間座標を、果実位置記憶部46に記憶させる。
【0025】
以上は、1つの作物列における収穫対象果実の実空間座標を特定する処理であるが、果実位置特定部32は、速度制御される移動台車12を利用した収穫作業の対象となる全ての作物列における収穫対象果実の実空間座標を特定して、果実位置記憶部46に記憶させる。この果実位置特定処理は、1日の収穫作業の開始前に必ず完了している必要がある。
【0026】
図4に戻って、果実位置取得部34が、果実位置記憶部46から、作物列における収穫対象果実の位置を示す位置情報を取得する(S12)。上記したように、収穫対象果実の位置情報は、作物列における長さ方向の位置と高さ方向の位置を表現するが、少なくとも長さ方向の位置を含んでいればよく、高さ方向の位置は含まれなくてもよい。果実位置取得部34は、取得した位置情報を、速度導出部40に供給する。
【0027】
図7および
図8は、速度導出部40による処理を説明するための図である。
図7(a)は、収穫対象果実の実空間座標を示す。果実数導出部42は、収穫対象果実の位置情報にもとづいて、移動台車12の走行経路(レール10)の複数の位置のそれぞれで収穫可能な果実数を導出する処理を実行する(S14)。この果実数導出処理では、果実数導出部42が、作業者の手が届く範囲を示す幅Rの窓区間を、複数の果実のそれぞれに対して設定する。
【0028】
図7(b)は、最も左側の果実2aの位置に幅Rの窓区間を設定した状態を示す。この窓区間は、そのX軸方向中心位置が果実2aのx座標位置となるように設定され、作業者が果実2aに対して手が届き、収穫可能な位置範囲を定める。幅Rの半分の長さ(R/2)は、作業者の手が届く長さに略等しく設定されてよい。長さR/2は、作業者の手が届く平均的な長さに設定されてよく、また作業者ごとに設定されてもよい。移動台車12がレール端部14aからレール端部14bに向けて走行する際、作業者は、
図7(b)に示す窓区間内で、果実2aを収穫することが予定される。果実数導出部42は、果実2aに対して設定した窓区間のx範囲をメモリ(図示せず)に記憶させる。
【0029】
図7(c)は、果実2aの右隣りにある果実2bの位置に窓区間を設定した状態を示す。この窓区間は、そのX軸方向中心位置が果実2bのx座標位置となるように設定され、作業者が果実2bに対して手が届き、収穫可能な位置範囲を定める。果実数導出部42は、果実2bに対して設定した窓区間のx範囲をメモリに記憶させる。
【0030】
図7(d)は、全ての果実2に窓区間を設定した状態を示す。果実数導出部42は、全ての収穫対象果実2a~2hに対して窓区間を設定し、それぞれの窓区間のx範囲をメモリに記憶させる。
【0031】
図8(a)は、設定した全ての窓区間をX軸上に仮想的に積み上げた状態を示す。果実2に対して設定される窓区間は、作業者が当該果実2を収穫できる範囲を示すため、2つ以上の窓区間が重なっているx位置は、重なった個数の果実2を作業者が収穫できる位置であることを意味する。
【0032】
図8(b)は、仮想的に積み上げた窓区間をx位置成分で分割してX軸上に積み上げ直した状態を示す。ここで縦軸は、収穫可能な果実数を示す。このように果実数導出部42は、全ての収穫対象果実2a~2hに対して設定した窓区間から、移動台車12の走行経路の複数の位置のそれぞれで収穫可能な果実数を導出する(S14)。
【0033】
以下、x範囲と、当該x範囲において収穫可能な果実数の導出された関係を示す。なおx0は、レール端部14aの位置を示し、x13は、レール端部14bの位置を示す。
x0≦x<x1 : 0個
x1≦x<x2 : 1個
x2≦x<x3 : 2個
x3≦x<x4 : 3個
x4≦x<x5 : 2個
x5≦x<x6 : 1個
x6≦x<x7 : 0個
x7≦x<x8 : 1個
x8≦x<x9 : 0個
x9≦x<x10 : 1個
x10≦x<x11 : 2個
x11≦x<x12 : 1個
x12≦x<x13 : 0個
【0034】
図8(c)は、移動台車12の走行経路の各位置における通過所要時間を示す。作業者が一つの果実を収穫するのにかかる時間(収穫所要時間)をKとすると、幅Rの窓区間における作業者の滞在時間がKであれば、作業者が窓区間に存在する果実を収穫できる。この前提のもと、速度算出部44は、各位置において収穫可能な果実数から、走行経路の各位置における通過所要時間を算出する(S16)。速度算出部44は、単位距離における通過時間k=K/Rを定義し、走行経路の各位置において、収穫可能な果実数Nにもとづく通過所要時間を算出する。実施例において速度算出部44は、果実数Nにkを乗算することで、各位置における通過所要時間を算出する。
【0035】
図8(d)は、移動台車12の走行経路の各位置において導出される速度を示す。速度算出部44は、算出した通過所要時間から、移動台車12の速度を算出する(S18)。速度算出部44は、走行経路の各位置における通過時間が
図8(c)に示すように算出した通過所要時間となるように、移動台車12の移動速度を算出してよい。具体的に速度算出部44は、各位置において収穫可能な果実数にもとづいて、各位置における移動台車12の速度を以下のように算出する。
【0036】
収穫可能数0のx位置における速度 : Vmax
収穫可能数1のx位置における速度 : R/K
収穫可能数2のx位置における速度 : R/2K
収穫可能数3のx位置における速度 : R/3K
なおVmaxは、R/K以上であるものとする。
【0037】
図8(d)に示すように、速度算出部44は、収穫可能な果実数が多いエリアでは速度を低速に設定し、収穫可能な果実数が少ないエリアでは速度を高速に設定した速度プロファイルを生成する。速度算出部44は、全ての作物列について移動台車12の速度を導出し、速度プロファイル記憶部(図示せず)に記憶させる。
【0038】
速度算出部44が生成した速度プロファイルは、収穫作業の開始前に、移動台車12に送信される。収穫作業中、移動台車12は、速度算出部44が導出した速度で自動走行し、したがって作業者は、移動台車12の操作を行う必要がなく、収穫作業に専念できる。なお複数の移動台車12が存在する場合、各移動台車12は、割り当てられた作物列に対して導出された速度プロファイルを取得し、当該割り当てられた作物列に沿って走行する際の速度制御に利用する。
【0039】
上記した実施例では、収穫所要時間Kが所定値であることを前提としているが、収穫所要時間Kは、作業者の収穫能力に応じて設定されてもよい。作業者に応じた収穫所要時間Kを設定することで、速度算出部44は、作業の速い作業者が搭乗する移動台車12に、より速い速度を設定できるようになる。
【0040】
また収穫所要時間Kは、収穫対象果実の高さ方向の位置、奥行き方向の位置、収穫対象果実の前に未熟果や茎等の障害物があるか等、収穫作業の困難さに応じて設定されてもよい。たとえば作業者が通常の作業姿勢で収穫するときの収穫所要時間と比較して、通常の作業姿勢とは異なる姿勢をとる必要がある場合の収穫所要時間は長く設定されてよい。収穫作業の困難さを加味することで、速度算出部44は、移動台車12の速度をより適切に設定できるようになる。
【0041】
以上のように速度算出部44が、全ての作物列に対する速度プロファイルを生成して、速度プロファイル記憶部に記憶させた後、作業予測装置50は、1日の収穫作業に関する予測を行ってよい。具体的に収穫時間導出部52は、速度プロファイル記憶部に記憶されている全ての作物列に対する速度プロファイルにもとづいて、作物列ごとの収穫時間を算出し、1日の収穫にかかる合計時間を導出する。ここで1日の収穫にかかる合計時間がTallと算出されたものとする。
【0042】
作業員数導出部54は、合計収穫時間Tallを用いて、収穫作業に必要な作業員数Mを導出する。1人の作業者の作業時間がhである場合、作業員数Mは、以下の式で計算される。
M=Tall/h
実施例によると、合計収穫時間Tallが、効率的な収穫作業が実施されることを前提として算出されるため、無駄のない作業員数Mを導出することが可能となる。なお作業者のシフト状況に応じた作業者ごとの作業時間h’を用いて、必要な作業員数Mが導出されてもよい。また上記したように、収穫所要時間Kが作業者の収穫能力に応じて設定されている場合には、作業者ごとの収穫所要時間Kを加味して、合計収穫時間Tallが算出されてよい。
【0043】
作業時間導出部56は、合計収穫時間Tallを用いて、収穫作業にかかる1人あたりの作業時間Hを導出する。収穫作業を行う作業員数がmである場合、収穫作業の所要時間Hは、以下の式で計算される。
H=Tall/m
実施例によると、合計収穫時間Tallが、効率的な収穫作業が実施されることを前提として算出されるため、適切な所要時間Hを導出することが可能となる。
【0044】
以上、本発明について実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素の組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。実施例では、作業管理装置20がサーバ装置として構成されることを説明したが、たとえば作業管理装置20の速度導出装置30が移動台車12に設けられ、移動台車12が、担当する作物列の収穫対象果実の位置情報を取得して、当該担当する作物列における速度プロファイルを算出してもよい。
【0045】
実施例では、収穫のために作物列に沿って走行する移動体の例として、作業者が搭乗する移動台車12を示したが、移動体は、これに限定されるものではない。たとえば、収穫物を載せるための移動台車12のみが速度プロファイルにしたがって走行し、作業者が徒歩で追従する形態であってもよい。また作業者ではなく、収穫ロボットが収穫作業を行う場合に、速度導出装置30は、収穫機能を搭載した自走式の収穫ロボットの移動速度を導出してもよい。
【0046】
実施例では、移動体の走行経路としてレール10が敷設されていることを示したが、移動体は圃場を自由走行するものであってもよい。また実施例では、作業者が片側の作物列のみから果実を収穫しているが、両側の作物列から果実を収穫してもよい。
【0047】
実施例では、移動台車12が、速度算出部44が導出した速度プロファイルにしたがって自動走行することを説明したが、作業者の作業速度によっては、移動速度が速すぎたり、遅すぎたりする場合がある。このため移動台車12の自動走行中に、作業者が、設定された速度プロファイルを、全体に速度の遅い側、あるいは速い側にシフト操作できるようにしてもよい。また不測の事態に備えて、作業者が移動台車12を緊急停止操作できるようにしてもよい。
【0048】
実施例では、一つの果実の収穫所要時間をKに設定したうえで、二つの果実の収穫所要時間を2K、三つの果実の収穫所要時間を3Kとして、速度プロファイルを算出した。変形例では、一つの果実の収穫所要時間をKとした場合に、m(mは2以上の整数)個の果実の収穫所要時間をm×Kとは異なる時間に設定してもよい。たとえば、収穫果実数ごとの収穫所要時間が統計的に求められて、速度プロファイルの計算に反映されてもよい。
【0049】
実施例では、果実位置特定部32が、展開画像の座標系における収穫対象果実の画像座標(u,v)を実空間座標(x,y)に変換し、速度導出部40が、実空間座標を用いて果実数導出処理(S14)、通過所要時間算出処理(S16)、速度算出処理(S18)を実行している。変形例で速度導出部40は、展開画像の座標系における画像座標を用いて果実数導出処理(S14)、通過所要時間算出処理(S16)、速度算出処理(S18)を実行し、算出した展開画像の座標系における速度を、実空間の座標系における速度に変換してもよい。なお実空間の座標系に変換するタイミングは、速度算出処理(S18)の終了後に限らず、果実数導出処理(S14)、通過所要時間算出処理(S16)、速度算出処理(S18)のいずれかの実行中に、展開画像の座標系が実空間の座標系に変換されてもよい。
【0050】
移動台車12の走行履歴は、随時サーバ装置等に送信されて、農場管理者や作業監督者が、移動台車12が通過したエリア(収穫作業が完了したエリア)をリアルタイムに確認できるようにしてもよい。これにより作業の進捗状況や作業遅延、作業者のトラブル等を早急に把握し、作業計画の見直しや作業者の安全確保等を迅速に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
10・・・レール、12・・・移動台車、14a,14b・・・レール端部、20・・・作業管理装置、30・・・速度導出装置、32・・・果実位置特定部、34・・・果実位置取得部、40・・・速度導出部、42・・・果実数導出部、44・・・速度算出部、46・・・果実位置記憶部、50・・・作業予測装置、52・・・収穫時間導出部、54・・・作業員数導出部、56・・・作業時間導出部。