(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】心筋細胞シート
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20240618BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20240618BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240618BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240618BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20240618BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240618BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20240618BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240618BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C12N5/077
A61K35/34
A61K35/545
A61L27/38 200
A61L27/58
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/10
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2021037973
(22)【出願日】2021-03-10
(62)【分割の表示】P 2016559092の分割
【原出願日】2015-11-11
【審査請求日】2021-04-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2014230100
(32)【優先日】2014-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、再生医療実現拠点ネットワークプログラム「iPS細胞を用いた心筋再生治療創成拠点」に係る委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】伊勢岡 弘子
(72)【発明者】
【氏名】澤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】宮川 繁
(72)【発明者】
【氏名】福嶌 五月
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】上條 肇
【審判官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/137491(WO,A1)
【文献】Biomaterials,2011,Vol.32,p.7355-7362
【文献】再生医療,2012,Vol.11,No.4,p.372-378
【文献】Stem Cells,2012,Vol.30,p.1196-1205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 - 5/28
A61K 35/12 - 35/55
A61L 15/00 - 33/18
A61P 9/00 - 9/14
CAPlus/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)
ヒト人工多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供し、心筋細胞を含む第1の細胞集団を得るステップ、
(2)ステップ(1)で得た第1の細胞集団
をCD172陽性の心筋細胞集団とCD172陰性の非心筋細胞集団に分離するステップ、および
(3)ROCK阻害剤の非存在下で、ステップ(2)で得た
両細胞集団をCD172陽性の心筋細胞集団の全細胞数に対する割合を50~70%となるように混合して得た第2の細胞集団を培養してシート状細胞培養物を形成するステップ
を含む、
ヒト人工多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物の製造方法。
【請求項2】
第2の細胞集団の細胞密度が、2.1×10
5個/cm
2である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
(1)
ヒト人工多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供し、心筋細胞を含む第1の細胞集団を得るステップ、
(2)ステップ(1)で得た第1の細胞集団
をCD172陽性の心筋細胞集団とCD172陰性の非心筋細胞集団に分離するステップ、および
(3)ROCK阻害剤の非存在下で、ステップ(2)で得た
両細胞集団をCD172陽性の心筋細胞集団の全細胞数に対する割合を50~70%となるように混合して得た第2の細胞集団を培養してシート状細胞培養物を形成するステップ
を含む、
ヒト人工多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物のサイトカイン産生能を高める方法。
【請求項4】
第2の細胞集団の細胞密度が、2.1×10
5個/cm
2である、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物、その製造方法、当該シート状細胞培養物を含む組成物等、当該シート状細胞培養物を用いた疾患の処置方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
成体の心筋細胞は自己複製能に乏しく、心筋組織が損傷を受けた場合、その修復は極めて困難である。近年、損傷した心筋組織の修復のために、細胞工学的手法により作製した心筋細胞を含む移植片を患部に移植する試みが行われている(特許文献1、非特許文献1)。かかる移植片の作製に用いる心筋細胞の給源として最近注目されているのが、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞から誘導した心筋細胞であり、このような多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物の作製や動物での治療実験が試みられている(非特許文献2~3)。しかしながら、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物の開発は始まったばかりであり、その機能的特性や、それに影響する因子などについては依然不明な部分が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Shimizu et al., Circ Res. 2002 Feb 22;90(3):e40-e48
【文献】Matsuura et al., Biomaterials. 2011 Oct;32(30):7355-62
【文献】Kawamura et al., Circulation. 2012 Sep 11;126(11 Suppl 1):S29-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有用な機能的特性を有する、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物、その製造方法、当該シート状細胞培養物を含む移植片、および、当該シート状細胞培養物を用いた疾患の処置方法等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進める中、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞集団の全細胞数に対する多能性幹細胞由来の心筋細胞数の割合を50%~70%の範囲に調節することで、疾患の治療に有用なサイトカインの産生能が高まることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下に関する。
<1>多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団を培養して得られるシート状細胞培養物であって、前記細胞集団の全細胞数に対する多能性幹細胞由来の心筋細胞数の割合が、50%~70%である、前記シート状細胞培養物。
<2>細胞集団が、αSMA陽性細胞、CD31陽性細胞およびTE-7抗原陽性細胞からなる群から選択される細胞をさらに含む、上記<1>に記載のシート状細胞培養物。
<3>細胞集団の全細胞数に対する多能性幹細胞由来の心筋細胞数の割合が25%以下または90%以上である、前記細胞集団を培養して得られるシート状細胞培養物よりサイトカイン産生能が高い、上記<1>または<2>に記載のシート状細胞培養物。
<4>(1)多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供し、心筋細胞を含む第1の細胞集団を得るステップ、
(2)ステップ(1)で得た第1の細胞集団に由来する心筋細胞を含む第2の細胞集団を得るステップ、および
(3)ステップ(2)で得た第2の細胞集団を培養してシート状細胞培養物を形成するステップ
を含み、第2の細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が50%~70%である、上記<1>~<3>のいずれか一つに記載のシート状細胞培養物の製造方法。
【0008】
<5>上記<1>~<3>のいずれか一つに記載のシート状細胞培養物を含む組成物。
<6>心疾患を処置するための、上記<5>に記載の組成物。
<7>上記<1>~<3>のいずれか一つに記載のシート状細胞培養物または上記<5>に記載の組成物の有効量を、それを必要とする対象に適用することを含む、前記対象における疾患を処置する方法。
<8>(1)多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供し、心筋細胞を含む第1の細胞集団を得るステップ、
(2)ステップ(1)で得た第1の細胞集団に由来する心筋細胞を含む第2の細胞集団を得るステップ、および
(3)ステップ(2)で得た第2の細胞集団を培養してシート状細胞培養物を形成するステップ
を含み、第2の細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が50%~70%である、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物のサイトカイン産生能を高める方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシート状細胞培養物は、疾患の治療に有用なサイトカインの産生能が高く、優れた治療効果をもたらすことができるため、医療分野への多大な貢献が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、完成したシート状細胞培養物A~Dの外観を示した写真図である。
【
図2】
図2は、シート状細胞培養物A~Dが産生したサイトカインの定量結果を示したグラフである。なお、縦軸は培養上清中の各サイトカインの濃度を示し、*はp<0.05、**はp<0.01をそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物(インターネットから入手可能な情報を含む)は、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0012】
本発明の一側面は、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団を培養して得られるシート状細胞培養物であって、前記細胞集団の全細胞数に対する多能性幹細胞由来の心筋細胞数の割合が、約25%超かつ約90%未満、好ましくは約30%~約80%、より好ましくは約40%~約75%、特に好ましくは約50%~約70%である、前記シート状細胞培養物(以下、「本発明のシート状細胞培養物」と称する場合がある)に関する。
【0013】
多能性幹細胞は、当該技術分野で周知の用語であり、生体の様々な組織に分化する能力を有する細胞を意味する。多能性幹細胞の非限定例としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植胚性幹細胞(ntES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが挙げられる。
【0014】
本発明において、「多能性幹細胞由来の心筋細胞」は、多能性幹細胞に由来する心筋細胞の特徴を有する細胞を意味する。心筋細胞の特徴としては、限定されずに、例えば、心筋細胞マーカーの発現、自律的拍動の存在などが挙げられる。心筋細胞マーカーの非限定例としては、例えば、c-TNT(cardiac troponin T)、CD172a(別名SIRPAまたはSHPS-1)、KDR(別名CD309、FLK1またはVEGFR2)、PDGFRA、EMILIN2、VCAMなどが挙げられる。一態様において、多能性幹細胞由来の心筋細胞は、c-TNT陽性かつ/またはCD172a陽性である。当該心筋細胞は、多能性幹細胞から心筋細胞を誘導すること、すなわち、多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供することによって得ることができる。多能性幹細胞から心筋細胞を誘導する様々な手法が知られている(例えば、Burridge et al., Cell Stem Cell. 2012 Jan 6;10(1):16-28)。かかる誘導法の非限定例としては、例えば、胚様体形成による方法、単層分化培養による方法、強制凝集による方法などが挙げられる。いずれの方法においても、中胚葉誘導因子(例えば、アクチビンA、BMP4、bFGF、VEGF、SCFなど)、心臓特異化(cardiac specification)因子(例えば、VEGF、DKK1、Wntシグナルインヒビター(例えば、IWR-1、IWP-2、IWP-4等)、BMPシグナルインヒビター(例えば、NOGGIN等)、TGFβ/アクチビン/NODALシグナルインヒビター(例えば、SB431542等)、レチノイン酸シグナルインヒビターなど)および心臓分化因子(例えば、VEGF、bFGF、DKK1など)を、順次作用させることにより誘導効率を高めることができる。一態様において、多能性幹細胞からの心筋細胞誘導処理は、浮遊培養下で形成した胚様体に、(1)BMP4、(2)BMP4とbFGFとアクチビンAとの組み合わせ、(3)IWR-1、および、(4)VEGFとbFGFとの組み合わせを順次作用させることを含む。
【0015】
多能性幹細胞由来の心筋細胞は、誘導後に精製し、純度を高めることができる。精製方法としては、心筋細胞に特異的なマーカー(例えば、細胞表面マーカーなど)を用いた種々の分離法、例えば、磁気細胞分離法(MACS)、フローサイトメトリー法、アフィニティ分離法や、特異的プロモーターにより選択マーカー(例えば、抗生物質耐性遺伝子など)を発現させる方法、さらにはこれらの方法の組合せなどが挙げられる(例えば、上記Burridge et al.など参照)。心筋細胞に特異的な細胞表面マーカーとしては、例えば、CD172a、KDR、PDGFRA、EMILIN2、VCAMなどが挙げられる。また、心筋細胞に特異的なプロモーターとしては、例えば、NKX2-5、MYH6、MLC2V、ISL1などが挙げられる。一態様において、心筋細胞は細胞表面マーカーであるCD172aに基づいて精製される。
【0016】
多能性幹細胞由来の心筋細胞は、上記のように多能性幹細胞から誘導し、任意に上記のような精製処理に供した心筋細胞集団であってもよい。当該心筋細胞集団における心筋細胞の純度(例えば、心筋細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞マーカー陽性細胞数の割合)は、例えば、約85%超、約86%超、約87%超、約88%超、約89%超、約90%超、約91%超、約92%超、約93%超、約94%超、約95%超、約96%超、約97%超、約98%超、約99%超などであってよい。一態様において、本発明における多能性幹細胞由来の心筋細胞は、心筋細胞の純度が90%超の心筋細胞集団である。
【0017】
多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団は、多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供して得られる心筋細胞誘導後の細胞集団をそのまま利用しても、心筋細胞誘導後の細胞集団から心筋細胞を精製して純度を高めたものを利用しても、心筋細胞誘導後の細胞集団から心筋細胞の一部を除去して純度を低下させたものを利用しても、精製した心筋細胞集団を他の細胞集団と混合したものを利用してもよい。一態様において、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団は、多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供して得られる細胞集団を精製して得た心筋細胞集団と、精製後に残った非心筋細胞集団とを、所定の比率で混合して得たものである。
【0018】
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。
【0019】
シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本発明におけるシート状細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができるものであってもよい。また、シート状細胞培養物は、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0020】
一態様において、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団は、αSMA陽性細胞、CD31陽性細胞およびTE-7抗原陽性細胞からなる群から選択される1種または2種以上の非心筋細胞をさらに含んでいる。αSMAおよびCD31は周知のタンパク質であり、TE-7抗原は、TE-7抗体(clone TE-7、マウスIgG1、Merck Millipore社製)により認識される抗原である(例えば、Goodpaster et al., J Histochem Cytochem. 2008 Apr;56(4):347-58など参照)。αSMA陽性細胞の非限定例としては、例えば、平滑筋細胞や筋線維芽細胞などが、CD31陽性細胞の非限定例としては、例えば、血管内皮細胞などが、TE-7抗原陽性細胞の非限定例としては、例えば、線維芽細胞や筋線維芽細胞などがそれぞれ挙げられる。上記非心筋細胞は、αSMA、CD31またはTE-7抗原に特異的に結合する抗体等を用いて同定することができる。上記非心筋細胞は、既知の方法により生体から単離してもよいし、多能性幹細胞などから誘導してもよい。
【0021】
一態様において、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団は、心筋細胞に加え、αSMA陽性細胞、CD31陽性細胞およびTE-7抗原陽性細胞を含んでいる。一態様において、αSMA陽性細胞、CD31陽性細胞およびTE-7抗原陽性細胞は、多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供することにより得たものである。好ましい態様において、αSMA陽性細胞、CD31陽性細胞およびTE-7抗原陽性細胞は、多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供して得た細胞集団から、心筋細胞を除去して得た非心筋細胞集団に含まれるものである。心筋細胞の除去は、例えば、上述の心筋細胞の精製などにより達成することができる。
【0022】
上記非心筋細胞集団の全細胞数に対するαSMA陽性細胞数の割合は、例えば、約65%~約95%、約75%~約93%、約80%~約91%、約85%~約90%、約86%~約89%等であってよく、上記非心筋細胞集団の全細胞数に対するCD31陽性細胞数の割合は、例えば、約1%~約10%、約2%~約9%、約3%~約8%、約3.5%~約7%、約4%~約6%等であってよく、上記非心筋細胞集団の全細胞数に対するTE-7抗原陽性細胞数の割合は、例えば、約0.1%~約50%、約0.2%~約45%、約0.4%~約40%、約0.5%~約35%、約0.6%~約32%等であってよい。
【0023】
一態様において、上記非心筋細胞集団の全総細胞数に対するTE-7抗原陽性細胞数の割合は、例えば、約0.1%~約10%、約0.2%~約5%、約0.4%~約2%、約0.5%~約1%、約0.6%~約0.7%等であってよい。別の態様において、上記非心筋細胞集団の全総細胞数に対するTE-7抗原陽性細胞数の割合は、例えば、約0.5%~約50%、約3%~約45%、約7.5%~約40%、約15%~約35%、約30%~約32%等であってよい。別の態様において、上記非心筋細胞集団の全総細胞数に対するTE-7抗原陽性細胞数の割合は、例えば、約0.2%~約40%、約0.5%~約32%、約3%~約25%、約7.5%~約20%、約15%~約17%等であってよい。
【0024】
なお、上記非心筋細胞集団には、αSMA、CD31およびTE-7抗原から選択される2種以上のマーカーに陽性である細胞が存在し得るため(例えば、筋線維芽細胞はαSMAおよびTE-7抗原の両方に陽性と考えられる(例えば、上記Goodpaster et al.など参照))、上記非心筋細胞集団の全細胞数に対する各非心筋細胞マーカー陽性細胞数のパーセンテージの合計は100%を超えることもある。
【0025】
多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団の全細胞数に対するαSMA陽性細胞数の割合は、該細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が約25%超かつ約90%未満の場合には、例えば、約6.5%~約71.25%、約7.5%~約69.75%、約8%~約68.25%、約8.5%~約67.5%、約8.6%~約66%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約30%~約80%の場合には、例えば、約13%~約66.5%、約15%~約65.1%、約16%~約63.7%、約17%~約63%、約17.2%~約62.3%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約40%~約75%の場合には、例えば、約16.25%~約57%、約18.75%~約55.8%、約20%~約54.6%、約21.25%~約54%、約21.5%~約53.4%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約50%~約70%の場合には、例えば、約19.5%~約47.5%、約22.5%~約46.5%、約24%~約45.5%、約25.5%~約45%、約25.8%~約44.5%等であってよい。
【0026】
多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団の全細胞数に対するCD31陽性細胞数の割合は、該細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が約25%超かつ約90%未満の場合に、例えば、約0.1%~約7.5%、約0.2%~約6.75%、約0.3%~約6%、約0.35%~約5.25%、約0.4%~約4.5%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約30%~約80%の場合には、例えば、約0.2%~約7%、約0.4%~約6.3%、約0.6%~約5.6%、約0.7%~約4.9%、約0.8%~約4.2%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約40%~約75%の場合には、例えば、約0.25%~約6%、約0.5%~約5.4%、約0.75%~約4.8%、約0.88%~約4.2%、約1%~約3.6%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約50%~約70%の場合には、例えば、約0.3%~約5%、約0.6%~約4.5%、約0.9%~約4%、約1.05%~約3.5%、約1.2%~約3%等であってよい。
【0027】
多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団の全細胞数に対するTE-7抗原陽性細胞数の割合は、該細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が約25%超かつ約90%未満の場合には、例えば、約0.01%~約37.5%、約0.02%~約33.75%、約0.04%~約30%、約0.05%~約26.25%、約0.06%~約24%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約30%~約80%の場合には、例えば、約0.02%~約35%、約0.04%~約31.5%、約0.08%~約28%、約0.1%~約24.5%、約0.12%~約22.4%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約40%~約75%の場合には、例えば、約0.03%~約30%、約0.05%~約27%、約0.1%~約24%、約0.13%~約21%、約0.15%~約19.2%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約50%~約70%の場合には、例えば、約0.03%~約25%、約0.06%~約22.5%、約0.12%~約20%、約0.15%~約17.5%、約0.18%~約16%等であってよい。
【0028】
一態様において、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団の全細胞数に対するTE-7抗原陽性細胞数の割合は、該細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が約25%超かつ約90%未満の場合には、例えば、約0.01%~約7.5%、約0.02%~約3.75%、約0.04%~約1.5%、約0.05%~約0.75%、約0.06%~約0.53%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約30%~約80%の場合には、例えば、約0.02%~約7%、約0.04%~約3.5%、約0.08%~約1.4%、約0.1%~約0.7%、約0.12%~約0.49%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約40%~約75%の場合には、例えば、約0.03%~約6%、約0.05%~約3%、約0.1%~約1.2%、約0.13%~約0.6%、約0.15%~約0.42%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約50%~約70%の場合には、例えば、約0.03%~約5%、約0.06%~約2.5%、約0.12%~約1%、約0.15%~約0.5%、約0.18%~約0.35%等であってよい。
【0029】
別の態様において、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団の全細胞数に対するTE-7抗原陽性細胞数の割合は、該細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が約25%超かつ約90%未満の場合には、例えば、約0.05%~約37.5%、約0.3%~約33.75%、約0.75%~約30%、約1.5%~約26.25%、約3%~約24%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約30%~約80%の場合には、例えば、約0.1%~約35%、約0.6%~約31.5%、約1.5%~約28%、約3%~約24.5%、約6%~約22.4%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約40%~約75%の場合には、例えば、約0.13%~約30%、約0.75%~約27%、約1.88%~約24%、約3.75%~約21%、約7.5%~約19.2%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約50%~約70%の場合には、例えば、約0.15%~約25%、約0.9%~約22.5%、約2.25%~約20%、約4.5%~約17.5%、約9%~約16%等であってよい。
【0030】
別の態様において、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団の全細胞数に対するTE-7抗原陽性細胞数の割合は、該細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が約25%超かつ約90%未満の場合には、例えば、約0.02%~約30%、約0.05%~約24%、約0.3%~約18.75%、約0.75%~約15%、約1.5%~約12.75%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約30%~約80%の場合には、例えば、約0.04%~約28%、約0.1%~約22.4%、約0.6%~約17.5%、約1.5%~約14%、約3%~約11.9%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約40%~約75%の場合には、例えば、約0.05%~約24%、約0.13%~約19.2%、約0.75%~約15%、約1.88%~約12%、約3.75%~約10.2%等であってよく、前記心筋細胞数の割合が約50%~約70%の場合には、例えば、約0.06%~約20%、約0.15%~約16%、約0.9%~約12.5%、約2.25%~約10%、約4.5%~約8.5%等であってよい。
【0031】
なお、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団には、αSMA、CD31およびTE-7抗原から選択される2種以上のマーカーに陽性である細胞が存在し得るため、当該細胞集団の全細胞数に対する各マーカーの陽性細胞数のパーセンテージの合計は100%を超えることもある。また、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団が、多能性幹細胞由来の心筋細胞と前記非心筋細胞集団とを混合したものである場合、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団の全細胞数に対する各種非心筋細胞マーカー陽性細胞数の割合は、上記の非心筋細胞集団の全細胞数に対する各種非心筋細胞マーカー陽性細胞数の割合と、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団の全細胞数に対する非心筋細胞集団の全細胞数の割合とを乗じることにより算出することができる。
【0032】
上記非心筋細胞集団または多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団における、αSMA陽性細胞数とCD31陽性細胞数との比は、例えば、約65~約95:約1~約10、約75~約93:約2~約9、約80~約91:約3~約8、約85~約90:約3.5~約7、約86~約89:約4~約6等であってよく、αSMA陽性細胞数とTE-7抗原陽性細胞数との比は、例えば、約65~約95:約0.1~約50、約75~約93:約0.2~約45、約80~約91:約0.4~約40、約85~約90:約0.5~約35、約86~約89:約0.6~約32等であってよく、CD31陽性細胞数とTE-7抗原陽性細胞数との比は、例えば、約1~約10:約0.1~約50、約2~約9:約0.2~約45、約3~約8:約0.4~約40、約3.5~約7:約0.5~約35、約4~約6:約0.6~約32等であってよく、αSMA陽性細胞数とCD31陽性細胞数とTE-7抗原陽性細胞数との比は、例えば、約65~約95:約1~約10:約0.1~約50、約75~約93:約2~約9:約0.2~約45、約80~約91:約3~約8:約0.4~約40、約85~約90:約3.5~約7:約0.5~約35、約86~約89:約4~約6:約0.6~約32等であってよい。
【0033】
シート状細胞培養物を構成する細胞は、シート状細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、げっ歯目動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギなどが含まれる。一態様において、シート状細胞培養物を構成する細胞はヒト細胞である。
【0034】
シート状細胞培養物を形成する細胞は、異種由来細胞であっても同種由来細胞であってもよい。ここで「異種由来細胞」は、シート状細胞培養物が移植に用いられる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、サルやブタに由来する細胞などが異種由来細胞に該当する。また、「同種由来細胞」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト細胞が同種由来細胞に該当する。同種由来細胞は、自己由来細胞(自己細胞または自家細胞ともいう)、すなわち、レシピエントに由来する細胞と、同種非自己由来細胞(他家細胞ともいう)を含む。自己由来細胞は、移植しても拒絶反応が生じないため、本発明においては好ましい。しかしながら、異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用することも可能である。異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用する場合は、拒絶反応を抑制するため、免疫抑制処置が必要となることがある。なお、本明細書中で、自己由来細胞以外の細胞、すなわち、異種由来細胞と同種非自己由来細胞を非自己由来細胞と総称することもある。本発明の一態様において、細胞は自家細胞または他家細胞である。本発明の一態様において、細胞は自家細胞である。本発明の別の態様において、細胞は他家細胞である。
【0035】
自家または他家多能性幹細胞は、限定されずに、例えば、採取した自家または他家体細胞(例えば、皮膚細胞(線維芽細胞、ケラチノサイト等)や血球(末梢血単核球等)など)に、OCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYC等の遺伝子を導入するなどして自家または他家iPS細胞を誘導することにより得ることができる。体細胞からiPS細胞を誘導する方法は当該技術分野において周知である(例えば、Bayart and Cohen-Haguenauer, Curr Gene Ther. 2013 Apr;13(2):73-92など参照)。
【0036】
シート状細胞培養物は、既知の任意の方法(例えば、特許文献1、非特許文献1~3など参照)で製造することができる。シート状細胞培養物の製造方法は、典型的には、細胞を培養基材上に播種するステップ、播種した細胞を培養してシート状細胞培養物を形成するステップ、形成されたシート状細胞培養物を培養基材から単離するステップを含むが、これに限定されない。
【0037】
培養基材は、細胞がその上で細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質の容器、容器中の固形もしくは半固形の表面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリックスなどが挙げられる。培養基材は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。好ましい培養基材としては、限定することなく、例えば、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面を有する基材が挙げられる。具体的には、親水性の表面を有する基材、例えば、コロナ放電処理したポリスチレン、コラーゲンゲルや親水性ポリマーなどの親水性化合物を該表面にコーティングした基材、さらには、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックスや、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子などを表面にコーティングした基材などが挙げられる。また、かかる基材は市販されている(例えば、Corning(R) TC-Treated Culture Dish、Corning社製など)。
【0038】
培養基材は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面が被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-プロペニル)-モルホリン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN-イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2-211865、特開2003-33177など参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。温度応答性材料で被覆された培養皿は市販されており(例えば、セルシード社のUpCell(R))、これらを本発明の製造方法に使用することができる。
【0039】
一態様において、本発明のシート状細胞培養物は、細胞集団の全細胞数に対する多能性幹細胞由来の心筋細胞数の割合が25%以下または90%以上である、前記細胞集団を培養して得られるシート状細胞培養物よりサイトカイン産生能が高い。サイトカイン産生能は、サイトカインを産生する能力を意味し、サイトカイン産生に係る任意の指標、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物から放出されるサイトカインの量、シート状細胞培養物に含まれるサイトカインの量、シート状細胞培養物を構成する細胞が発現するサイトカイン遺伝子の量などに基づいて評価することができる。
【0040】
本発明において、サイトカインとは、細胞から放出され、種々の細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子を意味する。したがって、本発明におけるサイトカインは、免疫細胞から放出されるものに限られない。本発明の一態様において、サイトカインは、シート状細胞培養物の移植先の組織への生着を促進する作用を有する。本発明の一態様において、サイトカインは、血管新生作用を有する。本発明の一態様において、サイトカインは、組織の再生や修復を促進する作用を有する。本発明の一態様において、サイトカインは、幹細胞(例えば、心臓幹細胞、骨髄幹細胞など)を動員する作用を有する。このようなサイトカインは当該技術分野において知られており、当業者は既知の情報をもとに、適切なサイトカインを決定することができる(例えば、Lui et al., Stem Cell Res. 2014 Jul 8. pii: S1873-5061(14)00080-4、Cochain et al., Antioxid Redox Signal. 2013 Mar 20;18(9):1100-13など参照)。本発明の一態様において、サイトカインは成長因子を含む。本発明の一態様において、サイトカインは血管新生作用および/または幹細胞動員作用を有する。本発明の特定の態様において、サイトカインはVEGFおよびSCFからなる群から選択される。したがって、本発明の一態様において、サイトカイン産生能は、成長因子の産生能である。また、本発明の一態様において、サイトカイン産生能は、血管新生作用および/または幹細胞動員作用を有するサイトカインの産生能である。さらに、本発明の特定の態様において、サイトカイン産生能は、VEGFおよびSCFからなる群から選択される成長因子の産生能である。
【0041】
シート状細胞培養物から放出されるサイトカインの量は、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物を所定の期間培養液中で培養した後、当該培養液(培養上清)に含まれるサイトカインの量(例えば、サイトカインの濃度など)を測定することなどにより得ることができる。シート状細胞培養物に含まれるサイトカインの量は、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物を所定の期間培養液中で培養した後、シート状細胞培養物を破砕または溶解し、得られた破砕液または溶解液中に含まれるサイトカインの量(例えば、サイトカインの濃度など)を測定することなどにより得ることができる。シート状細胞培養物を構成する細胞が発現するサイトカイン遺伝子の量は、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物から全RNAを抽出し、これに含まれるサイトカイン遺伝子の量を定量することなどにより得ることができる。
【0042】
サイトカインの量やサイトカイン遺伝子の発現量を測定する手法は、当該技術分野において周知であり、サイトカインの量を測定する手法としては、限定されずに、例えば、電気泳動法、ウェスタンブロッティング法、質量分析法、EIA(例えば、ELISAなど)、RIA(例えば、IRMA、RAST、RISTなど)、磁気免疫測定法(MIA、例えば、磁気ビーズを用いた免疫測定法など)、免疫組織化学法、免疫細胞化学法などが、サイトカイン遺伝子の発現量を測定する手法としては、限定されずに、例えば、ノーザンブロッティング法、サザンブロッティング法、DNAマイクロアレイ解析、RNaseプロテクションアッセイ、RT-PCR、リアルタイムPCR等のPCR法、in situハイブリダイゼーション法などが、それぞれ挙げられる。
【0043】
「サイトカイン産生能が高い」とは、本発明のシート状細胞培養物のサイトカイン産生能が、対照シート状細胞培養物(すなわち、細胞集団の全細胞数に対する多能性幹細胞由来の心筋細胞数の割合が25%以下または90%以上である、前記細胞集団を培養して得られるシート状細胞培養物)のサイトカイン産生能より、例えば、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約100%以上、約110%以上、約120%以上、約130%以上、約140%以上、約150%以上、約160%以上、約170%以上、約180%以上、約190%以上、約200%以上、約250%以上、約300%以上、約350%以上、約400%以上、約450%以上、約500%以上、約550%以上、約600%以上または約650%以上高いことなどを意味する。
【0044】
一態様において、本発明のシート状細胞培養物は実質的に無菌である。一態様において、本発明のシート状細胞培養物は無菌である。
【0045】
本発明の別の側面は、(1)多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供し、心筋細胞を含む第1の細胞集団を得るステップ、
(2)ステップ(1)で得た第1の細胞集団に由来する心筋細胞を含む第2の細胞集団を得るステップ、および
(3)ステップ(2)で得た第2の細胞集団を培養してシート状細胞培養物を形成するステップ
を含み、第2の細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が、約25%超かつ約90%未満、好ましくは約30%~約80%、より好ましくは約40%~約75%、特に好ましくは約50%~約70%である、上記シート状細胞培養物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称することがある)に関する。
【0046】
多能性幹細胞の心筋細胞誘導処理、細胞集団からの心筋細胞の単離、シート状細胞培養物およびシート状細胞培養物の形成については、本発明のシート状細胞培養物について上記したとおりである。ステップ(2)は、第1の細胞集団から心筋細胞を精製して心筋細胞の純度を高めることにより第2の細胞集団を得ても、第1の細胞集団から心筋細胞の一部を除去して心筋細胞の純度を低下させることにより第2の細胞集団を得ても、第1の細胞集団から精製した心筋細胞集団を他の細胞集団と混合することにより第2の細胞集団を得てもよい。一態様において、第2の細胞集団は、第1の細胞集団を精製して得た心筋細胞集団と、非心筋細胞とを、第2の細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が、約25%超かつ約90%未満、好ましくは約30%~約80%、より好ましくは約40%~約75%、特に好ましく約は約50%~約70%となるように混合することにより得る。
【0047】
第2の細胞集団は、αSMA陽性細胞、CD31陽性細胞およびTE-7抗原陽性細胞からなる群から選択される1種または2種以上の非心筋細胞を含んでいてもよく、好ましくは、αSMA陽性細胞、CD31陽性細胞およびTE-7抗原陽性細胞の3種の細胞をすべて含んでいてもよい。αSMA陽性細胞、CD31陽性細胞およびTE-7抗原陽性細胞、ならびにこれら細胞の取得方法は本発明のシート状細胞培養物について上記したとおりである。また、第2の細胞集団の全細胞数に対するαSMA陽性細胞数、CD31陽性細胞数およびTE-7抗原陽性細胞数の割合は、本発明のシート状細胞培養物の「多能性幹細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団」について上記したとおりである。
【0048】
特定の態様において、ステップ(2)は、第1の細胞集団を精製して得た心筋細胞集団と、第1の細胞集団から心筋細胞を除去した後に得られる非心筋細胞集団とを所定の割合すなわち、心筋細胞数:非心筋細胞数が、約25超かつ約90未満:約10超かつ約75未満、好ましくは約30~約80:約20~約70、より好ましくは約40~約75:約25~約60、特に好ましくは約50~約70:約30~約50となるように混合することを含む。
【0049】
本発明の製造方法は、シート状細胞培養物を形成するステップの後に、形成されたシート状細胞培養物を回収するステップをさらに含んでもよい。シート状細胞培養物の回収は、シート状細胞培養物が少なくとも部分的に、シート構造を保ったまま、足場となっている培養基材から遊離(剥離)できれば特に限定されず、例えば、タンパク質分解酵素(例えばトリプシンなど)による酵素処理および/またはピペッティングなどの機械的処理によって行うことができる。また、細胞を、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面を被覆した培養基材上で培養してシート状細胞培養物を形成した場合には、所定の刺激を加えることで、非酵素的に遊離することもできる。例えば、細胞を温度応答性培養皿で培養して細胞培養物を形成した場合には、温度を温度応答性材料の水に対する下限臨界溶液温度(LCST)以下または上限臨界溶液温度(UCST)以上とすることにより、シート状細胞培養物を非酵素的に遊離することができる。
【0050】
一態様において、本発明の製造方法はその全ステップがin vitroで行われる。別の態様において、本発明の製造方法は、in vivoで行われるステップ、限定されずに、例えば、対象から細胞(iPS細胞を用いる場合は、例えば、皮膚細胞、血球等)または細胞の給源となる組織(iPS細胞を用いる場合は、例えば、皮膚組織、血液等)を採取するステップを含む。一態様において、本発明の製造方法はその全ステップが無菌条件下で行われる。一態様において、本発明の製造方法は、最終的に得られるシート状細胞培養物が実質的に無菌となるように行われる。一態様において、本発明の製造方法は、最終的に得られるシート状細胞培養物が無菌となるように行われる。
【0051】
本発明の別の側面は、本発明のシート状細胞培養物を含む組成物、移植片および医療製品など(以下、「組成物等」と総称することがある)に関する。
本発明の組成物等は、本発明のシート状細胞培養物に加えて、種々の追加成分、例えば、薬学的に許容し得る担体や、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを含んでいてもよい。かかる追加成分としては、既知の任意のものを使用することができ、当業者はこれらの追加成分について精通している。また、本発明の組成物等は、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などと併用することができる。
【0052】
一態様において、本発明のシート状細胞培養物および組成物等は疾患(例えば、心疾患)を処置するためのものである。また、本発明のシート状細胞培養物は、疾患(例えば、心疾患)を処置するための組成物等の製造に使用することができる。疾患としては、限定されずに、例えば、心筋梗塞(心筋梗塞に伴う慢性心不全を含む)、拡張型心筋症、虚血性心筋症、収縮機能障害(例えば、左室収縮機能障害)を伴う心疾患(例えば、心不全、特に慢性心不全)などが挙げられる。本発明のシート状細胞培養物が産生するサイトカイン(例えば、VEGF、SCF等)は、疾患の処置に寄与し得る。疾患は、VEGFおよびSCFからなる群から選択されるサイトカイン、心筋細胞、および/または、シート状細胞培養物(細胞シート)が、その処置に有用なものであってもよい。
【0053】
本発明の別の側面は、本発明のシート状細胞培養物または組成物等の製造に用いる一部またはすべての要素を含む、本発明のシート状細胞培養物または組成物等を製造するための、および/または、本発明のシート状細胞培養物または組成物等を用いて疾患を処置するためのキット(以下、「本発明のキット」と称することがある)に関する。本発明のキットは、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物の培養に用いる細胞(例えば、多能性幹細胞、多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供して得られる細胞集団(第1の細胞集団)、第1の細胞集団から単離した心筋細胞、第1の細胞集団から心筋細胞集団を除去して得た非心筋細胞集団、多能性幹細胞由来の心筋細胞(および任意に所定の非心筋細胞)を所定の割合で含む細胞集団(第2の細胞集団)等)、培養液、培養皿、心筋細胞の精製に用いる試薬(例えば、抗体、洗浄液、ビーズ等)、器具類(例えば、ピペット、スポイト、ピンセット等)、シート状細胞培養物の製造方法や使用方法に関する指示(例えば、使用説明書、製造方法や使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリー等)などを含んでいてもよい。
【0054】
本発明の別の側面は、本発明のシート状細胞培養物または組成物等の有効量を、それを必要とする対象に適用することを含む、前記対象における疾患を処置する方法に関する。処置の対象となる疾患は、本発明のシート状細胞培養物および組成物等について上記したとおりである。
【0055】
本発明において、用語「対象」は、任意の生物個体、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体を意味する。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、組織の異常に関連する疾患の処置が企図される場合には、典型的には当該疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。
【0056】
また、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、組織の異常に関連する疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0057】
本発明の処置方法においては、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを、本発明のシート状細胞培養物または組成物等と併用することができる。また、本発明の処置方法においては、本発明のシート状細胞培養物が産生するサイトカイン(例えば、VEGF、SCF等)が、疾患の処置に寄与し得る。
【0058】
本発明の処置方法は、本発明の製造方法に従って、本発明のシート状細胞培養物を製造するステップをさらに含んでもよい。本発明の処置方法は、シート状細胞培養物を製造するステップの前に、対象からシート状細胞培養物を製造するための細胞(iPS細胞を用いる場合は、例えば、皮膚細胞、血球等)または細胞の給源となる組織(iPS細胞を用いる場合は、例えば、皮膚組織、血液等)を採取するステップをさらに含んでもよい。一態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物または組成物等の投与を受ける対象と同一の個体である。別の態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物または組成物等の投与を受ける対象とは同種の別個体である。別の態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物または組成物等の投与を受ける対象とは異種の個体である。
【0059】
本発明において、有効量とは、例えば、疾患の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量(例えば、シート状細胞培養物のサイズ、重量、枚数等)であり、好ましくは、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、例えば、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や疾患モデル動物における試験などにより適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、処置の対象となる組織病変の大きさは、有効量決定のための重要な指標となり得る。
【0060】
投与方法としては、典型的には組織への直接的な適用が挙げられる。投与頻度は、典型的には1回の処置につき1回であるが、所望の効果が得られない場合には、複数回投与することも可能である。組織に適用する際、本発明のシート状細胞培養物や組成物等を対象の組織に縫合糸やステープルなどの係止手段により固定してもよい。
【0061】
本発明の別の側面は、(1)多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供し、心筋細胞を含む第1の細胞集団を得るステップ、
(2)ステップ(1)で得た第1の細胞集団に由来する心筋細胞を含む第2の細胞集団を得るステップ、および
(3)ステップ(2)で得た第2の細胞集団を培養してシート状細胞培養物を形成するステップ
を含み、第2の細胞集団の全細胞数に対する心筋細胞数の割合が約25%超かつ約90%未満 、好ましくは約30%~約80%、より好ましくは約40%~約75%、特に好ましくは約50%~約70%である、多能性幹細胞由来の心筋細胞を含むシート状細胞培養物のサイトカイン産生能を高める方法(以下、「サイトカイン産生能増大方法」と称することがある)に関する。
【0062】
本発明のサイトカイン産生能増大方法における各ステップは、本発明の製造方法について上記したとおりである。また、「サイトカイン産生能を高める」とは、シート状細胞培養物のサイトカイン産生能を、対照シート状細胞培養物(すなわち、細胞集団の全細胞数に対する多能性幹細胞由来の心筋細胞数の割合が25%以下または90%以上である、前記細胞集団を培養して得られるシート状細胞培養物)のサイトカイン産生能より、例えば、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約100%以上、約110%以上、約120%以上約130%以上約140%以上、約150%以上、約160%以上、約170%以上、約180%以上、約190%以上、約200%以上、約250%以上、約300%以上、約350%以上、約400%以上、約450%以上、約500%以上、約550%以上、約600%以上または約650%以上高めることなどを意味する。
【実施例】
【0063】
本発明を以下の例を参照してより詳細に説明するが、これらは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
例1 ヒトiPS細胞からの心筋細胞の誘導
ヒトiPS細胞(253G1株)を理化学研究所バイオリソースセンターから購入し、直径10cmの培養皿内で、5ng/mLのbFGF(basic fibroblast growth factor、リプロセル社製、以下同様)を添加したPrimate ES Cell Medium(リプロセル社製)中、マイトマイシンC処理を施したマウス胎児線維芽細胞(MEF、リプロセル社製)上で維持した。細胞の継代は、3~4日ごとに、コロニーを維持したまま(単細胞懸濁液にせずに)、細胞剥離液(CTK溶液、リプロセル社製、以下同様)を用いて行った。
【0065】
心筋細胞の誘導は、浮遊培養下の胚様体(EB)に所定の添加物を所定の時期に作用させることにより行った。10枚の培養皿から細胞剥離液で剥離したヒトiPS細胞の凝集塊(約2×107細胞)を、10μMのROCK阻害剤(Y-27632、和光純薬社製)を添加した100mLのmTeSRTM1(STEMCELL Technologies社製)に再懸濁し、撹拌機能付培養装置(Bio Jr. 8、エイブル社製)に導入した。培養中、撹拌速度を40rpm、溶解酸素濃度を40%、pHを7.2、温度を37℃にそれぞれ維持した。溶解酸素濃度の調節は空気、酸素または窒素により、pHの調節はCO2の添加によりそれぞれ行った。
【0066】
培養装置内での培養開始(0日目)の1日後(1日目)に、培地を、0.5ng/mLのBMP4(R&D Systems社製、以下同様)を添加した心筋細胞誘導用基本培地(50μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich社製)、2mMのL-グルタミンおよび400μMの1-チオグリセロール(Sigma-Aldrich社製)を含むStemPro(R)-34 SFM(Life Technologies社製))に置換した。その後、以下の時期に、培地を、以下の添加物を含む心筋細胞誘導用基本培地に置換した。2日目:10ng/mLのBMP4、5ng/mLのbFGFおよび3ng/mLのアクチビンA(R&D Systems社製)、5日目:4μMのWntシグナル阻害剤(IWR-1-endo、和光純薬社製)、7日目:5ng/mLのVEGF(R&D Systems社製)および10ng/mLのbFGF。その後、9、11、13および15日目に、7日目と同じ培地(すなわち、5ng/mLのVEGFおよび10ng/mLのbFGFを添加した心筋細胞誘導用基本培地)で培地交換を行った。こうしてヒトiPS細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団(細胞塊)を得た。当該細胞集団は、0.05%トリプシン/EDTAで解離後、残存する細胞凝集物をストレイナー(BD Bioscience社製)で除去し、その後の実験に供した。
【0067】
例2 非心筋細胞の構成比の解析
例1で得た解離した細胞集団の一部を用いて、当該細胞集団における非心筋細胞の構成比を調べた。まず、細胞集団を、非心筋細胞マーカー(血管内皮細胞等のマーカーであるCD31、平滑筋細胞等のマーカーであるαSMAまたは線維芽細胞等のマーカーであるTE-7抗原)と心筋細胞マーカーであるc-TNTの両方について二重標識した。
【0068】
CD31発現細胞の標識は、細胞集団を、PE結合抗ヒトCD31抗体(clone WM59、マウスIgG1、BD社製)と反応させた後、細胞を固定・透過処理剤(BD Cytofix/CytopermTM Fixation/Permeabilization Solution Kit、BD社製、以下同様)で固定、透過処理し、処理後の細胞を、抗c-TNT抗体(Troponin T-C Antibody (CT3)、マウスIgG2a、Santa Cruz Biotechnology社製、以下同様)、次いで、蛍光標識二次抗体(Alexa Fluor(R) 647結合抗マウスIgG2a抗体、Life Technologies社製)と反応させることにより行った。
【0069】
αSMA発現細胞の標識は、細胞を固定・透過処理剤で固定、透過処理し、処理後の細胞を、抗c-TNT抗体と、抗αSMA抗体(clone E184、ウサギIgG、Abcam社製)とに反応させ、次いで、上記一次抗体に結合する蛍光標識二次抗体(Alexa Fluor(R) 647結合抗マウスIgG2a抗体およびAlexa Fluor(R) 488結合抗ウサギ抗体、いずれもLife Technologies社製)と反応させることにより行った。
【0070】
TE-7抗原発現細胞の標識は、細胞を固定・透過処理剤で固定、透過処理し、処理後の細胞を、抗c-TNT抗体と、抗ヒト線維芽細胞抗体(clone TE-7、マウスIgG1、Merck Millipore社製)とに反応させ、次いで、上記一次抗体に結合する蛍光標識二次抗体(Alexa Fluor(R) 647結合抗マウスIgG2a抗体およびAlexa Fluor(R) 488結合抗マウスIgG1抗体、いずれもLife Technologies社製)と反応させることにより行った。
【0071】
標識した細胞を、BD FACSCanto
TM II フローサイトメーターおよびBD FACSDiva
TM ソフトウェア(いずれもBD社製)を用いて解析した。非心筋細胞集団の全細胞数に対する各非心筋細胞マーカー陽性細胞数の割合は、c-TNT陰性画分の細胞集団(非心筋細胞集団)の全細胞数に対する各非心筋細胞マーカー陽性細胞数の割合として算出した。結果を下表1に示す。
【表1】
【0072】
例3 心筋細胞の分離
例1で得た解離した細胞集団の一部を、心筋細胞マーカーであるCD172に特異的に結合する、PE(フィコエリスリン)結合抗ヒトCD172a/b抗体(clone SE5A5、BioLegend社製)で標識した。標識した細胞に抗PEマイクロビーズ(Miltenyi Biotec社製)を負荷し、細胞とビーズの混合物をMidiMACSTM Separator(Miltenyi Biotec社製)に設置したLS Columns(Miltenyi Biotec社製)に通して、CD172陽性の心筋細胞を含む心筋細胞集団と、CD172陰性の非心筋細胞を含む非心筋細胞集団とに分離した。
【0073】
分離した心筋細胞集団の一部を用いて、別の心筋細胞マーカーであるc-TNTを発現する細胞数の、分離した心筋細胞集団の全細胞数に対する割合をフローサイトメトリーで解析した。すなわち、分離した心筋細胞集団を固定・透過処理剤で固定、透過処理し、処理後の細胞を、抗c-TNT抗体、次いで、蛍光標識二次抗体(Alexa Fluor(R) 647結合抗マウスIgG2a抗体、Life Technologies社製)と反応させた後、標識した細胞を、BD FACSCantoTM II フローサイトメーターおよびBD FACSDivaTM ソフトウェア(いずれもBD社製)を用いて解析した。解析の結果、上記で分離した心筋細胞集団の全細胞数に対するc-TNT陽性細胞数の割合は90%超であった。
【0074】
例4 シート状細胞培養物の作製
例3で分離した心筋細胞集団と非心筋細胞集団とを下表2の比率で混合し、シート状細胞培養物形成用の細胞集団A~Dを調製した。
【表2】
なお、表中の割合(%)は、細胞集団の全細胞数に対する各種細胞集団の細胞数の割合を意味する。また、例2で算出した非心筋細胞集団における各非心筋細胞マーカー陽性細胞の割合は、心筋細胞集団と非心筋細胞集団の分離ステップの前後で実質的に変化しないと考えられるため、分離後の非心筋細胞集団についても適用可能である。
【0075】
細胞集団A~Dを、それぞれ2.1×10
5個/cm
2の密度で、温度応答性培養皿(UpCell
(R)、セルシード社製)に播種し、ROCK阻害剤を含まない10%FBS加DMEM中、37℃、5%CO
2にて5日間増殖培養してシート状細胞培養物を形成し、温度処理(室温での10~30分程度の静置)により培養皿からシート状細胞培養物を剥離した(
図1)。以下では、細胞集団A~Dで形成したシート状細胞培養物を、それぞれシート状細胞培養物A~Dと記す。
【0076】
例5 シート状細胞培養物の評価
(1)外観
心筋細胞集団の割合が50%以上の細胞集団で形成したシート状細胞培養物B~Dは、自発的な同期拍動を示した。また、シート状細胞培養物A~Cは、移植に適した白色円形の形状を形成することができたが、シート状細胞培養物Dは安定したシート状の構造を形成することができなかった(
図1)。
【0077】
(2)サイトカインの産生
シート状細胞培養物A~Dを、10%FBS加DMEM中、37℃、5%CO
2にて2日間培養して得た培養上清に含まれるVEGFおよびSCFの濃度を、Bio-Plex
(R) Suspension Array System(Bio-Rad Laboratories社製)を用い、製品マニュアルに従って測定した(n=4)。VEGFの定量にはBio-Plex Pro
TM ヒトサイトカイン 28-Plex アッセイを、SCFの定量にはBio-Plex Pro
TM ヒトサイトカイン 21-Plex アッセイをそれぞれ用いた。各群間の統計学的有意差の評価には、Non-repeated Measures ANOVAを用いた。
図2に示す結果から、シート状細胞培養物を形成する細胞集団における心筋細胞集団の割合を50%~70%とすることで、高いサイトカイン産生量が得られることが分かる。VEGFは血管新生作用を有し、移植片の生存率を高めることなどが知られており(例えば、Suzuki et al., Circulation. 2001 Sep 18;104(12 Suppl 1):I207-12など)、SCFは、心筋細胞に分化し得る骨髄幹細胞を動員し得ることなどが知られている(例えば、Lutz et al., Cardiovasc Res. 2008 Jan;77(1):143-50など)。したがって、これらのサイトカインの産生量が高い本発明のシート状細胞培養物は、高い治療効果を有することが予測される。
【0078】
(3)細胞外マトリックス構成成分の発現
シート状細胞培養物A~DをPBSで2回洗浄後、RNeasy(R) Mini(Qiagen社製)で全RNAを抽出した。得られた全RNAを基にSuperScript(R) VILOTM cDNA Synthesis Kit(Life Technologies社製)を用いてcDNAを合成したのち、TaqMan(R) Gene Expression AssaysおよびTaqMan(R) Fast Advanced Master Mix(いずれもLife Technologies社製)を用いてリアルタイムPCRにより細胞外マトリックス構成成分の発現量を定量した。なお、TaqMan(R) Gene Expression AssaysのAssay IDおよび検出遺伝子は下表3に示すとおりである。
【0079】
【表3】
I型およびIII型コラーゲンは、シート状細胞培養物AおよびBでより多く発現しており、一方、心組織の主要な細胞外マトリックス構成成分であるラミニンα2およびα4は、シート状細胞培養物Cでより多く発現していた。
【0080】
(4)電気伝導速度
シート状細胞培養物A~Dの電気伝導速度を多電極アレイ(multi-electrode array)により測定した。例4で調製した細胞集団A~Dを、それぞれ2.1×105個/cm2の密度で、MEDプローブ(アルファメッドサイエンティフィック社製)に播種した。10%FBS加DMEM中、37℃、5%CO2にて5日間増殖培養してシート状細胞培養物を形成した後、シート状細胞培養物がプローブに付着したままの状態でMED64システム(アルファメッドサイエンティフィック社製)を用いて、細胞外電位を測定し、MED64 Mobius(WitWerx社製)を用いて各チャネルのピーク時間を検出し、伝導速度を算出した。シート状細胞培養物B~Dの伝導速度は、それぞれ3.5±1.8cm/秒、8.6±2.8cm/秒および16±5.0cm/秒であり、心筋細胞集団の割合が多いほど大きくなった。
【0081】
本明細書に記載された本発明の種々の特徴は様々に組み合わせることができ、そのような組合せにより得られる態様は、本明細書に具体的に記載されていない組合せも含め、すべて本発明の範囲内である。また、当業者は、本発明の精神から逸脱しない多数の様々な改変が可能であることを理解しており、かかる改変を含む均等物も本発明の範囲に含まれる。したがって、本明細書に記載された態様は例示にすぎず、これらが本発明の範囲を制限する意図をもって記載されたものではないことを理解すべきである。