(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】高濃度スラリーを得るためのシックナーの管理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/22 20060101AFI20240619BHJP
B01D 21/24 20060101ALI20240619BHJP
B01D 21/30 20060101ALI20240619BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C22B3/22
B01D21/24 F
B01D21/30 G
C22B23/00 102
(21)【出願番号】P 2020082381
(22)【出願日】2020-05-08
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】若松 貴文
(72)【発明者】
【氏名】大道 陽平
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-144418(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051578(WO,A1)
【文献】特開2020-033602(JP,A)
【文献】特開2015-172254(JP,A)
【文献】特開2013-086015(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0129887(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0038782(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B01D 21/24
B01D 21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に固形物を沈降濃縮して形成された底部のスラリーが、シックナー底抜き口を押圧するシックナーにおいて、
前記シックナー
で処理する鉱石が、6.0質量%超のSi品位のニッケル酸化鉱石で、
シックナー底抜き口での押圧力を表すベッド圧力が、156~164kPaGの範囲の制御目標値になるように、シックナー底抜き口から排出するスラリー流量であるシックナーU/F流量を制御することで、スラリー密度が1.40~1.51[t/m
3
]の範囲にある濃縮スラリーが得られることを特徴とするシックナーの管理方法。
【請求項2】
前記ベッド圧力が制御目標値より低い場合に、前記
シックナーU/F流量を低下させ、前記ベッド圧力が制御目標値より高い場合に前記
シックナーU/F流量を上昇させることで、前記シックナー内の澱物固体層の体積を一定に保ちスラリー濃度が安定した濃縮スラリーが得られることを特徴とする請求項
1に記載のシックナーの管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石スラリーの固液分離シックナーにおける流量制御技術に関する。
より詳しくは、固液分離シックナーを用いた低品位Ni鉱石スラリーの固液分離工程において、シックナー底抜き口から排出するスラリーの流量(以下、シックナーの底抜き流量とも称す)を、シックナー内底部に設置した圧力計によるBed pressure[kPaG](ベッド圧とも表記)によって制御することで、スラリー中の固体成分の含有割合(単位質量スラリーにおける「solid%」(wt%)、あるいは単位体積スラリーにおける「スラリー濃度」(g/L)など)の高い濃縮スラリーを形成、回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石を原料とするニッケル湿式製錬の分野においては、近年、高温高圧下で酸浸出する高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leach)法による、ニッケル低品位鉱石からの有価金属の回収が実用化されている。そして、HPAL法によってニッケル酸化鉱石より浸出されたニッケル、コバルト等の有価金属の回収については、加圧下で有価金属を含む硫酸浴に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することにより、硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)として回収する方法が一般的に行われている(特許文献1)。
【0003】
上記ニッケル・コバルト混合硫化物を得るためのHPAL法は、例えば、ニッケル酸化鉱石を解砕分級後、固液分離シックナーにおいて濃縮スラリーとする前処理工程(1)、得られたスラリーに硫酸を添加し、220~280℃で撹拌して高温加圧酸浸出し、浸出スラリーを得る浸出工程(2)、前記浸出スラリーに炭酸カルシウムなどの中和剤を添加して、浸出液中の余剰酸を中和し、金属不純物を水酸化物として沈殿させる予備中和工程(3)、予備中和工程後のスラリーを固液分離(4)して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液(ニッケル貴液)を得た後、硫化剤を添加してニッケル・コバルト混合硫化物とニッケル貧液を得る硫化工程(6)を行う。なお、固液分離(4)した固体である浸出残渣と前記硫化工程(6)で発生するニッケル貧液はさらに中和する最終中和工程(8)を行って処分する。
【0004】
ニッケル・コバルト混合硫化物の生産においては、浸出工程(2)で反応を効率よく進めるためにニッケル酸化鉱石の濃縮スラリーを用いるが、濃縮スラリーとしては前処理工程(1)において、以下の3つの要素、第1にNi品位[質量%]、第2にスラリー密度[トン/m3](以降は「トン」を「t」と表記する場合もある。)、第3に固体含有率[%](=solid%=100×固体成分質量[t]/スラリー質量[t])を高めることが重要である。
なぜならば浸出工程(2)へ供給される1日当りのNi量[トン/day]は、下記(A)式の計算式から求められるため、生産量の確保においては上記第1から第3の要素を、なるべく高く保つことが効果的である。
【0005】
【0006】
図1に固液分離シックナーの機構を示す。分級後鉱石(≦1.4~2.0mm)に水を加えて低濃度(solid%=15~20質量%)とした鉱石スラリーが、固液分離シックナー内に入ると、比重の大きい鉱石成分が底部に沈降し、最終的には鉱石成分を主体とする沈殿層の澱物固体層(ベッド)1と、水と微粒子を主体とする清澄液(O/F)2に分離される。沈殿層の澱物固体層1
はスラリ
ーとしてシックナー底抜き口3より排出
され、そして回収され、次工程である浸出工程(2)に送られる。
【0007】
高いsolid%を有する濃縮スラリーを得るには、一般的にベッド高さを一定とし、かつシックナーの底抜き流量を増加させすぎないことが重要であり、これを達成するためにシックナーへ流入および排出される鉱石量を常に等しくする必要がある。特許文献2にあるように、複数のシックナーを並列に繋ぎ濃縮スラリーのsolid%向上を目指す発明は存在するものの、供給鉱石量およびベッドレベルは鉱石組成(Si%)、供給スラリー濃度(供給鉱石量変動および供給水量変動による)の変動により目まぐるしく変わる為、オペレータの操作のみではシックナーの底抜き流量を適切に調整することが困難である。
ベッド高さを高く保つことにより、スラリーは固体が中心となり濃縮スラリーのsolid%は高くすることが可能であるが、清澄液(O/F)に鉱石粒子が混入(逸失)する危険も大きくなる。清澄液(O/F)に含まれる固体粒子の量は濁度として知ることができ、清澄液(O/F)に混入した固体粒子が増えて濁度が高くなった場合は、シックナーの底抜き流量を急激に増やす操作が必要となる。特に鉱石組成が高Si品位の場合に安定して高いsolid%を目指すことは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-350766号公報
【文献】特開2015-86457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、特に高Si品位の鉱石組成において、より簡便にスラリー濃度の高い濃縮スラリーを得ることのできるシックナーの管理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、低品位Ni酸化鉱の濃縮に用いる固液分離シックナーにおいて、各シックナーの底部に圧力計を設置しておき、圧力計により測定したベッド圧が高いときにシックナーU/F流量を大きく、低いときに小さく制御することで、ベッド圧を一定に保つとともに、ベッド圧に相当するシックナー内の澱物固体層のレベルを一定に保つことを目指した。この制御方法では、ベッド圧が安定するのでベッド圧を高くすることが容易になる。そのような高いベッド圧下では、その自重によって澱物固体層が圧密されることになり、スラリー濃度の高い濃縮スラリーを得ることができることを見出し本発明に至った。
【0011】
本発明の第1の発明は、底部に固形物を沈降濃縮して形成された底部のスラリーが、シックナー底抜き口を押圧するシックナーにおいて、前記シックナーのシックナー底抜き口から排出するスラリーの流量を調整することによって、シックナー底抜き口での押圧力を表すベッド圧力を所定の制御目標値になるように前記ベッド圧力を制御して前記シックナーのシックナー底抜き口から排出するスラリーのスラリー濃度(Solid%)を調整して濃縮スラリーを得ることを特徴とするシックナーの管理方法である。
【0012】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるシックナー底抜き口から排出するスラリーの流量の調整に用いる、前記ベッド圧力の制御目標値を、前記シックナーで処理する鉱石の種類の変更に伴って異なる値へと変更することを特徴とするシックナーの管理方法である。
【0013】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明における前記ベッド圧力が制御目標値より低い場合に、前記シックナー底抜き口から排出するスラリーの流量を低下させ、前記ベッド圧力が制御目標値より高い場合に前記シックナー底抜き口から排出するスラリーの流量を上昇させることで、前記シックナー内の澱物固体層の体積を一定に保ちスラリー濃度が安定した濃縮スラリーが得られることを特徴とするシックナーの管理方法である。
【0014】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明におけるシックナーで処理する鉱石が、6.0質量%超のSi品位のニッケル酸化鉱石で、前記シックナー底抜き口から排出するスラリーの流量を、156~164kPaGの範囲の制御目標値に前記ベッド圧がなるように制御することで、スラリー密度が1.40~1.51[t/m3]の範囲にある濃縮スラリーが得られることを特徴とするシックナーの管理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シックナー内下部に設置した圧力計により計測した「Bed pressure(kPaG)」(ベッド圧)を管理指標値に用い、シックナー底抜き口から排出するスラリーの流量を調整することで、その管理指標値を制御して固体成分が高められた、即ちsolid%の高い濃縮スラリーを形成、回収でき、得られるNi回収量を増加させる効果を有する。
また、本発明は、Ni酸化鉱石に含まれるSi品位が高くなるほど効果を享受するもので、産業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】鉱石の前処理工程で用いるシックナーのU/FおよびO/Fを概念的に示した図で、(a)はシックナーにおける材料フローの模式図で、(b)はシックナー内でのU/F、O/Fの関係を示す断面模式図である。
【
図3】シックナーのBed pressureとシックナーU/Fスラリーのsolid%の関係を鉱石Si品位で層別して示した図である。
【
図4】ベッド圧に基づく流量制御を実施した場合と、しない場合の鉱石Si品位とシックナーU/Fスラリーのsolid%の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施の形態に係るシックナー底部から得られるスラリーの濃度を高めるシックナーの管理方法の詳細について説明する。なお、本実施の形態は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更が可能である。
【0018】
本実施の形態は、シックニング能力の異なるシックナーS
AおよびシックナーS
Bを
図2のように接続し、シックナーS
Aで予備濃縮して得られた中間鉱石スラリーSL
1を、より高濃度まで濃縮しえるシックナーS
Bへ送液し、高solid%のシックナーU/F
スラリーを得るシックニング工程において、シックナーS
B内下部に設置した圧力計PG
Bを用いてシックナー底部のスラリーによるシックナー底抜き口での押圧力を表すベッド圧力の計測値を、管理指標値に用い、シックナーS
Bのシックナー
の底抜き流量を調整することによって、その管理指標値がベッド圧の制御目標値になるように制御してSolid%を調整した濃縮スラリー(シックナーS
BのシックナーU/F
スラリー)を得るシックナーの管理方法である。
【0019】
ここで、
図2において、S
AはシックナーA、S
BはシックナーBで、T
A、P
AはそれぞれシックナーAにスラリーを供給するタンクA、ポンプAで、T
B、P
BはそれぞれシックナーBにスラリーを供給するタンクB、ポンプBで、SL
1は中間鉱石スラリー、PG
BはシックナーBのシックナーU/F
スラリーの圧力値を計測する圧力計、FM
BはシックナーBのシックナーU/F
スラリーの流量を計測する流量計である。
【0020】
ここで、本実施の形態に係るシックナーとしては、特に限定されたものではないが、例えば、ニッケル酸化鉱石から有価金属を回収する湿式製錬法において、浸出工程へ送液する鉱石を濃縮したスラリーを得るためのシックナーが挙げられる。
設定する圧力値については、高ければ高いほどしっかりと濃縮できる点で良いが、高すぎることで沈殿層の量(通常、厚みと固体含有率のどちらも)が大きくなり、清澄液の濁度が上昇するリスクと、濃縮スラリーのsolid%が高くなりすぎて底抜き部が閉塞するリスクがある為、使用する鉱石に応じ適切な圧力を設定する必要がある。
【0021】
このような、solid%を調整した濃縮スラリーを、後工程の浸出スラリーを得る浸出工程(2)へ送液することにより、ニッケル・コバルト混合硫化物の生産効率を増大させられることに加え、浸出工程(2)で使用する各種資材(硫酸、蒸気、石灰石)の使用量を削減することも可能となる。
【0022】
このような本発明に係るシックナーの管理方法を用いることにより、このベッド圧とシックナーU/F
スラリーの密度の関係が、処理したニッケル酸化鉱石(品種)に注目して層別したところ、
図3に示されるように鉱石に含まれるSi品位に大きく依存することが見出された。
【0023】
図3からは、特にSi品位が高い(6.1質量%のプロット。Si品位が6.0質量%超、6.1質量%以上であれば高いと言える)ニッケル酸化鉱石におけるベッド圧を、156~164kPaGの範囲からさまざまな値を選んで制御目標値となるように制御することで、他の鉱石よりも敏感にスラリー密度が変化することが読み取れる。スラリー密度から液密度(≒1)を差し引いた残りが固形分の量に相当することからすると、高いベッド圧では高いスラリー密度すなわち高い固体含有率が得られると言える。
したがって、高い固体含有率を得るには、制御目標値として高いベッド圧(シックナーの大きさや希望する固体含有率に応じて選択すればよいが、たとえば156~164kPaGの範囲における任意の点)を選択すればよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【実施例1】
【0025】
能力の異なるシックナーS
A、およびシックナーS
Bを、
図2のように接続したシックニングプロセスにおいて得られる濃縮スラリーのsolid%および供給鉱石Si品位の関係を、ベッド圧に基づく流量制御を実施した場合と、しない場合で比較した結果を散布図にして
図4に示す。
図4より、ベッド圧に基づく流量制御を実施した場合、特にSi品位の高い(6.0質量%>)領域において、従来よりも高いsolid%を達成することが可能となった。
【実施例2】
【0026】
供給鉱石Si品位を6.0質量%とした場合に、本実施例に係るシックナーの管理方法を用いて、供給鉱石に含まれるNi成分の回収を図った。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0027】
供給鉱石Si品位を8.0質量%とした場合に、本実施例に係るシックナーの管理方法を用いて、供給鉱石に含まれるNi成分の回収を図った。その結果を表1に示す。
【0028】
(従来例1)
供給鉱石Si品位を6.0質量%とし、本実施例に係るシックナーの管理方法を用いずに、供給鉱石に含まれるNi成分の回収を図ったところ、表1に示されるような結果が得られた。
(従来例2)
【0029】
供給鉱石Si品位を8.0質量%とし、本実施例に係るシックナーの管理方法を用いずに、供給鉱石に含まれるNi成分の回収を図ったところ、表1に示されるような結果が得られた。
【0030】
表1を参照するに、本発明のU/F流量制御を、U/Fの圧力値を管理指標値として用いるシーケンス制御によって、特にSi品位が高い(>6.0質量%)スラリーのsolid%がシーケンス導入前に比べて上昇する。同じSi品位で比較した場合Si品位=6.0質量%で1.1%増大(46.05→46.56)、Si品位=8.0質量%で4.2%増大(43.47→45.31)した。この値に基づきスラリー流量225m3/h、鉱石Ni品位1.08質量%に享受できる経済効果を試算した結果を表1の右側に示すが、単位時間あたりのNi回収量(すなわち生産性)は従来比でSi品位が6.0質量%の場合に約0.7[t/day]増加、Si品位が8.0質量%の場合に約2.4[t/day]増加し、高Si品位の鉱石ほど、その効果を享受できることがわかる。
【0031】
【符号の説明】
【0032】
1 沈殿層(澱物固体層)
2 清澄液(O/F)
3 シックナー底抜き口
S シックナー
SA シックナーA
SB シックナーB
TA タンクA(シックナーAにスラリーを供給)
PA ポンプA
TB タンクB(シックナーBにスラリーを供給)
PB ポンプB
SL1 中間鉱石スラリー
PGB シックナーBのシックナー底抜き口から排出するスラリー(シックナーU/F)の圧力値を計測する圧力計
FMB シックナーBのシックナー底抜き口から排出するスラリー(シックナーU/F)の流量を制御する流量計
シックナーU/F 濃縮スラリー