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特許7506363外胚葉性間葉系幹細胞およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】外胚葉性間葉系幹細胞およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240619BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N1/00 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023007554
(22)【出願日】2023-01-20
(62)【分割の表示】P 2019556765の分割
【原出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2023033613
(43)【公開日】2023-03-10
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】62/593,310
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「難治性疾患実用化研究事業」「表皮水疱症に対する新たな医薬品の実用化に関する研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「橋渡し研究戦略的推進プログラム」「骨髄間葉系幹細胞動員活性に基づく表皮水疱症治療薬開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】506364400
【氏名又は名称】株式会社ステムリム
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】玉井 克人
(72)【発明者】
【氏名】新保 敬史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】山崎 尊彦
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/107566(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/147470(WO,A1)
【文献】玉井克人,末梢循環間葉系細胞の生体損傷組織再生メカニズムを利用した再生誘導医薬開発,BIO Clinica,2016年09月10日,Vol. 31, No. 10,pp. 34-38
【文献】TAMAI, K et al.,179 Systemic administration of HMGB1 peptide drastically improves survival of the RDEB model mice by mobilizing multipotent stem/progenitor cells from bone marrow,Journal of Investigative Dermatology,2017年09月08日,Vol. 137, No. 10, Supplement 2,p. S223
【文献】玉井克人,表皮水疱症に対する新たな医薬品の実用化に関する研究, 平成26年度 委託業務成果報告書,厚生労働科学研究成果データベース, [online],2016年05月13日,201442002A, [検索日:2019.02.05], Retrieved from the Internet: <URL: https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201442002A>
【文献】澤芳樹,脳/心血管領域におけるアンメットニーズに対応する創薬研究, 平成24年度 総括・分担研究報告書,厚生労働科学研究成果データベース, [online],2014年03月11日,201243002A, [検索日:2019.02.05], Retrieved from the Internet: <URL: https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201243002A>
【文献】新保敬史ほか,網羅的遺伝子発現解析による末梢循環PDGFRα陽性間葉系幹細胞の性状解析,日本再生医療学会, [online],2018年02月23日,[検索日:2018.03.26], Retrieved from the Internet: <URL: http://www2.convention.co.jp/17jsrm/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から採取された椎骨骨髄から以下のa)~d)のいずれかの細胞を選択的に回収する工程を含む、外胚葉性間葉系幹細胞を製造する方法
a)PDGFRα陽性且つCD34陽性の細胞;
b)PDGFRβ陽性且つCD34陽性の細胞;
c)PDGFRα陽性且つProcr陽性の細胞;
d)PDGFRβ陽性且つProcr陽性の細胞
【請求項2】
以下の1)または2)の工程を含む、外胚葉性間葉系幹細胞を製造する方法:
)対象から採取された椎骨骨髄を固相上で培養した後、a)PDGFRα陽性且つCD34陽性の細胞、b)PDGFRβ陽性且つCD34陽性の細胞、cPDGFRα陽性且つProcr陽性の細胞、またはd)PDGFRβ陽性且つProcr陽性の細胞を選択的に回収する工程;
2)対象から採取された椎骨骨髄からa)PDGFRα陽性且つCD34陽性の細胞、b)PDGFRβ陽性且つCD34陽性の細胞、cPDGFRα陽性且つProcr陽性の細胞、またはd)PDGFRβ陽性且つProcr陽性の細胞を選択的に回収し、該細胞を固相上で培養する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外胚葉性間葉系幹細胞およびその製造方法に関する。本発明はまた、多能性幹細胞(multipotent stem cell)誘導物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄液等に含まれている間葉系幹細胞(MSC)は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、神経、上皮等、種々の組織に分化できる能力(多分化能)を有していることから、近年、MSCを用いて再生医療(細胞移植治療)を行う試みが広くなされている。しかし、これまで再生医療に用いられているMSCは、体外で継代培養を続けると次第に増殖能力や多分化能を失ってしまうことが知られている。そこで、一般的なMSCよりも組織再生を促進する能力の高い細胞や、当該細胞を生体内で活性化/誘導する作用を持った物質を見出し、従来の再生医療よりも効果の高い治療方法を提供することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2012/147470
【非特許文献】
【0004】
【文献】PNAS 2011 Apr 19;108(16):6609-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、外胚葉性間葉系幹細胞およびその製造方法を提供することである。本発明の目的はまた、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、壊死性組織損傷によって誘導され、末梢血中を循環する外胚葉性間葉系幹細胞(ectomesenchymal stem cells: EMSCs)が、損傷組織の再生に寄与していることを見出した。これは、本発明者らが以前に報告した「表皮水庖症において、剥離表皮内の壊死組織から放出されるHMGB1が末梢血循環を介して骨髄間葉系幹細胞を剥離表皮部に集積させ、損傷皮膚の再生を誘導する」というメカニズムの発見(PNAS 2011 Apr 19;108(16):6609-14)に加えて、今回、「パラビオーシスモデルの一方に表皮水庖症マウスの皮膚を移植し、他方にHMGB1の断片ペプチドを投与すると、PDGFRα系譜陽性の細胞が植皮部に集積して表皮を再生する」、「マウスに軟骨損傷を作成し、HMGB1の断片ペプチドを投与すると、P0系譜陽性の細胞が末梢血循環を介して軟骨損傷部位に集積し、軟骨組織を再生する」という結果を得たこと等に基づく。また、末梢血中のEMSCのソースが骨髄内の特定のPDGFRα陽性細胞である可能性、および末梢血中のEMSCが頭部神経襞(cranial neural fold)の表皮側から生じる外胚葉性間葉系細胞(ectomesenchyme)を発生学的起源とする細胞である可能性を示唆する実験結果も得た。かかる発見に基づき、本発明者らは、外胚葉性間葉系幹細胞およびその製造方法、ならびに壊死性組織損傷によって誘導される末梢血中の細胞を指標にして、多能性幹細胞の誘導活性を持つ物質をスクリーニングする方法の発明を完成させた。
【0007】
本発明者らはこれまでに、HMGB1タンパク質のA-boxのN末端の位置1~44のアミノ酸配列(MGKGDPKKPRGKMSSYAFFVQTCREEHKKKHPDASVNFSEFSKK)からなるペプチド(以下、「HA1-44ペプチド」という)が、間葉系幹細胞(MSC)等の多能性幹細胞を骨髄から末梢血中に動員し、種々の疾患モデルで治療効果を発揮することを見出している。今回、本発明者らは、HA1-44ペプチドの投与によって起こる生体の反応((i)末梢血中のPDGFRα陽性細胞集団の構成が変化する、(ii)末梢血中のPDGFRα陽性細胞の数が増える、(iii)椎骨骨髄内のPDGFRα陽性細胞の遺伝子発現が変化する)を新たに見出した。そして、これらの反応を指標にしてHA1-44ペプチドと同様の活性を有する物質、すなわち多能性幹細胞誘導物質をスクリーニングする方法を見出し、本発明を完成させた。すなわち、被験物質を動物等の対象に投与し、上記(i)~(iii)のいずれかと同じ反応が起こるかどうかを指標にして、該被験物質がHA1-44ペプチドと同様の活性を有する(多能性幹細胞の誘導および/もしくは動員、ならびに/または組織再生を促進する)かどうかを判定する方法を提供する。
【0008】
本発明者らはまた、HA1-44ペプチドによって末梢血中および損傷組織に動員され、該組織の再生に寄与する細胞を詳細に解析した結果、(i) HA1-44ペプチドによる組織再生促進に寄与している末梢血中の細胞は椎骨骨髄由来のPDGFRα陽性細胞であること、(ii)椎骨骨髄由来PDGFRα陽性細胞は他の骨の骨髄に由来するPDGFRα陽性細胞よりも骨、軟骨、および/または脂肪への分化能が高いこと、(iii)椎骨骨髄由来PDGFRα陽性細胞と同じ発生系譜(Prx1系譜陰性)のPDGFRα陽性細胞が他の骨の骨髄中にもわずかに存在することを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づき、骨髄や末梢血等のMSCを含む生体組織に由来する細胞集団をディッシュ上で培養してコロニーを形成させ、各コロニーをサブクローニングし、骨、軟骨、および/または脂肪への高い分化能を示す細胞クローンを選抜することにより、従来法(骨髄を採取してディッシュ上で培養する)で取得されるMSCよりも組織再生促進能力の高い多能性幹細胞を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、詳細には、以下に関する。
A)外胚葉性間葉系幹細胞。
B)外胚葉性間葉系幹細胞の製造方法。
C)項目B)に記載の製造方法によって得られる細胞。
D)MSC血中動員物質によって誘導される末梢血中の細胞または細胞集団。
E)High-mobility group box 1 (HMGB1)タンパク質のA-boxのN末端の位置1-44のアミノ酸配列(配列番号1)からなるペプチド(以下、「HA1-44ペプチド」とも称する)によって誘導される椎骨骨髄内の細胞または細胞集団。
F)項目D)またはE)に記載の細胞または細胞集団の製造方法。
G)間葉系幹細胞(MSC)を含む生体組織から、椎骨骨髄内のPDGFRα陽性細胞と同様の高い組織再生促進能力を有する細胞を取得、分離および/または濃縮する方法。
H)項目G)に記載の方法によって得られる細胞または細胞集団。
I)外胚葉性間葉系幹細胞を含有する、組織再生促進のために用いられる組成物。
J)壊死性組織損傷によって誘導される末梢血中の細胞を指標にして、多能性幹細胞の誘導活性を持つ物質をスクリーニングする方法。
K)HA1-44ペプチドを陽性対照として用い、生体内で組織再生に寄与している多能性幹細胞の反応を指標にして、多能性幹細胞の誘導活性を持つ物質をスクリーニングする方法。
L)末梢血中のコロニー形成性Pα細胞を指標として、MSC血中動員物質を投与した対象において期待される組織再生促進効果を判定する方法。
【0010】
本発明は、より詳細には、以下に関する。
a)以下のi)の特徴ならびにii)および/またはiii)の特徴を有する、コロニー形成性PDGFR陽性細胞:
i)骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化能を有する;
ii)表皮細胞への分化能を有する;
iii)P0系譜陽性である。
b)PDGFRα陽性である、項目a)に記載の細胞。
c)Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する、項目a)またはb)に記載の細胞。
d)PDGFRα陽性、CD34陽性、且つSca1陰性である、椎骨骨髄由来細胞。
e)以下の1)~4)のいずれかの工程を含む、コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法:
1)壊死性組織損傷を有する対象から末梢血を採取し、固相上で培養する工程;
2)壊死性組織損傷を有する対象から末梢血を採取し、固相上で培養した後、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
3)壊死性組織損傷を有する対象から末梢血を採取し、該末梢血からPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
4)壊死性組織損傷を有する対象から末梢血を採取し、該末梢血からPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収し、該細胞を固相上で培養する工程。
f)以下の1)~4)のいずれかの工程を含む、コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法:
1)壊死性組織損傷を有する対象から採取された末梢血を固相上で培養する工程;
2)壊死性組織損傷を有する対象から採取された末梢血を固相上で培養した後、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
3)壊死性組織損傷を有する対象から採取された末梢血からPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
4)壊死性組織損傷を有する対象から採取された末梢血からPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収し、該細胞を固相上で培養する工程。
g)以下の1)~4)のいずれかの工程を含む、コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法:
1)対象から椎骨骨髄を採取し、固相上で培養する工程;
2)対象から椎骨骨髄を採取し、固相上で培養した後、Pα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
3)対象から椎骨骨髄を採取し、該骨髄からPα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
4)対象から椎骨骨髄を採取し、該骨髄からPα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収し、該細胞を固相上で培養する工程。
h)以下の1)~4)のいずれかの工程を含む、コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法:
1)対象から採取された椎骨骨髄を固相上で培養する工程;
2)対象から採取された椎骨骨髄を固相上で培養した後、Pα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
3)対象から採取された椎骨骨髄からPα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
4)対象から採取された椎骨骨髄からPα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収し、該細胞を固相上で培養する工程。
i)MSC血中動員物質を対象に投与し、該対象から末梢血を採取し、該採取された末梢血を固相上で培養することによって得られる、細胞集団。
j)MSC血中動員物質が、HA1-44ペプチドである、項目i)に記載の細胞集団。
k)MSC血中動員物質を対象に投与し、当該対象から末梢血を採取し、当該採取された末梢血を固相上で培養する工程を含む、細胞の製造方法。
l)MSC血中動員物質を投与された対象から採取された末梢血を固相上で培養する工程を含む、細胞の製造方法。
m)MSC血中動員物質が、HA1-44ペプチドである、項目k)またはl)に記載の方法。
n)1)HA1-44ペプチドを対象に投与し、2)該対象から椎骨の骨髄を採取し、3)該採取された骨髄を固相上で培養すること又は該採取された骨髄からPDGFRα陽性細胞をソーティングすることによって得られる、細胞集団。
o)1)HA1-44ペプチドを対象に投与し、2)該対象から椎骨の骨髄を採取し、3)該採取された骨髄を固相上で培養するか又は該採取された骨髄からPDGFRα陽性細胞をソーティングする工程を含む、細胞の製造方法。
p)HA1-44ペプチドを投与された対象から採取された椎骨の骨髄を固相上で培養するか又は該採取された骨髄からPDGFRα陽性細胞をソーティングする工程を含む、細胞の製造方法。
q)以下の工程を含む、細胞集団の製造方法:
1)MSCを含む生体組織由来の細胞集団を固相上で培養する工程;
2)工程1で得られたコロニーをサブクローニングする工程;
3)サブクローニングにより得られた細胞の一部を、骨、軟骨、および/または脂肪の分化誘導培地で培養し、骨、軟骨、および/または脂肪の分化マーカーの発現レベルを測定する工程;および
4)大腿骨の骨髄を固相上で培養することによって得られたMSCを、骨、軟骨、および/または脂肪の分化誘導培地で培養した場合の、骨、軟骨、および/または脂肪の分化マーカーの発現レベルと比較して、高い発現レベルを示した細胞クローンを選抜する工程。
r)以下の工程を含む、細胞集団の製造方法:
1)MSCを含む生体組織由来の細胞集団を固相上で培養する工程;および
2)Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有するコロニーを選抜する工程。
s)工程2が、Prx1系譜陰性のコロニーを選抜する工程である、項目r)に記載の方法。
t)MSCを含む生体組織由来の細胞集団から、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程を含む、細胞集団の製造方法。
u)以下の工程を含む、細胞集団の製造方法:
1)MSCを含む生体組織由来の細胞集団から、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;および
2)工程1)で回収された細胞を固相上で培養する工程。
v)請求項*~*に記載の製造方法によって得られる細胞または細胞集団。
w)以下のi)の特徴ならびにii)および/またはiii)の特徴を有するコロニー形成性PDGFR陽性細胞を含有する、組織再生促進のために用いられる組成物:
i)骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化能を有する;
ii)表皮細胞への分化能を有する;
iii)P0系譜陽性である。
x)中胚葉または外胚葉に由来する組織の再生促進のために用いられる、請求項*に記載の組成物。
y)以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法:
1)対象から末梢血を採取し、該末梢血に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;
2)被験物質を投与した対象から末梢血を採取し、該末梢血に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;および
3)工程2)で計数された細胞の数が、工程1)で計数された細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
z)以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法:
1)対象から採取された末梢血に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;
2)被験物質を投与された対象から採取された末梢血に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;および
3)工程2)で計数された細胞の数が、工程1)で計数された細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
aa)以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法:
1)対象から末梢血を採取し、固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
2)工程1で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
3)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド(HA1-44ペプチド)を対象に投与し、末梢血を採取し、固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
4)工程3で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
5)被験物質を対象に投与し、末梢血を採取し、固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
6)工程5で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
7)工程2および4で得られた遺伝子発現データをプールし、クラスタリング解析を行う工程;
8)工程2および6で得られた遺伝子発現データをプールし、クラスタリング解析を行う工程;および
9)工程7の解析結果と工程8の解析結果を比較し、工程5で得られた細胞集団(被験物質投与群)が、工程3で得られた細胞集団(HA1-44ペプチド投与群)と同じクラスター構成を有する場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
ab)工程3においてHA1-44ペプチドに代えて被験物質が投与され、かつ工程5において被験物質に代えてHA1-44ペプチドが投与される、項目aa)に記載の方法。
ac)網羅的遺伝子発現解析がRNAシークエンシング(RNA-seq)である、項目aa)またはab)に記載の方法。
ad)クラスタリング解析がiterative clustering and guide-gene selection(ICGS)アルゴリズムを用いて行われる、項目aa)~ac)のいずれか1つに記載の方法。
ae)以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法:
1)対象から採取された末梢血を固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
2)工程1)で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
3)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド(HA1-44ペプチド)を投与された対象から採取された末梢血を固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
4)工程3)で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
5)被験物質を投与された対象から採取された末梢血を固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
6)工程5)で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
7)工程2)および4)で得られた遺伝子発現データをプールし、クラスタリング解析を行う工程;
8)工程2)および6)で得られた遺伝子発現データをプールし、クラスタリング解析を行う工程;および
9)工程7)の解析結果と工程8)の解析結果を比較し、工程5)で得られた細胞集団が、工程3)で得られた細胞集団と同じクラスター構成を有する場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
af)以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法:
1)対象から末梢血を採取し、固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
2)工程1)で得られたコロニーの数を数える工程;
3)被験物質を対象に投与し、末梢血を採取し、固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
4)工程3)で得られたコロニーの数を数える工程;および
5)工程4)で計数されたコロニーの数が、工程2)で計数されたコロニーの数よりも多い場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
ag)以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法:
1)対象から採取された末梢血を固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
2)工程1)で得られたコロニーの数を数える工程;
3)被験物質を投与された対象から採取された末梢血を固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
4)工程3)で得られたコロニーの数を数える工程;および
5)工程4)で計数されたコロニーの数が、工程2)で計数されたコロニーの数よりも多い場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
ah)工程2)および4)において計数するコロニーが、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有するコロニーである、項目ae)またはaf)に記載のスクリーニング方法。
ai)以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法:
1)対象の椎骨から骨髄を採取し、固相上での培養またはセルソーティングによりPDGFRα陽性の細胞集団を得る工程;
2)工程1で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
3)被験物質を対象に投与し、椎骨から骨髄を採取し、固相上での培養またはセルソーティングによりPDGFRα陽性の細胞集団を得る工程;
4)工程3で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
5)工程2および4で得られた遺伝子発現データをプールし、パスウェイ解析を行う工程;および
6)工程5の解析の結果、工程1で得られた細胞集団(未処置群)と比較して、工程3で得られた細胞集団(被験物質投与群)において(i)EIF2シグナリング、eIF4およびp70S6Kシグナリングの調節、および/またはmTORシグナリングに関連するパスウェイが活性化されているか又は(ii)細胞死関連遺伝子の発現が抑制されている場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
aj)以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法:
1)対象の椎骨から採取された骨髄から、固相上での培養またはセルソーティングによりPDGFRα陽性の細胞集団を得る工程;
2)工程1)で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
3)被験物質を投与された対象の椎骨から採取された骨髄から、固相上での培養またはセルソーティングによりPDGFRα陽性の細胞集団を得る工程;
4)工程3)で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
5)工程2)および4)で得られた遺伝子発現データをプールし、パスウェイ解析を行う工程;および
6)工程5)の解析の結果、工程1)で得られた細胞集団と比較して、工程3)で得られた細胞集団において(i)EIF2シグナリング、eIF4およびp70S6Kシグナリングの調節、および/またはmTORシグナリングに関連するパスウェイが活性化されているか又は(ii)細胞死関連遺伝子の発現が抑制されている場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
ak)網羅的遺伝子発現解析がRNAシークエンシング(RNA-seq)である、項目ai)またはaj)に記載の方法。
al)以下の工程:
1)MSC血中動員物質を投与する前の対象から採取された末梢血中に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;および
2)MSC血中動員物質を投与した後の該対象から採取された末梢血中に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;
を含み、工程2)で計数された細胞の数が工程1)で計数された細胞の数よりも多い場合に、該対象において組織再生が促進されることが示唆される、MSC血中動員物質の組織再生促進効果の判定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外胚葉性間葉系幹細胞およびその製造方法を提供することが可能になる。また、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Skin flapを作成したマウスと作成していないマウスそれぞれについて、末梢血中のPα細胞の数とHMGB1濃度をプロットした図である。
図2】マウスの末梢血を培養して得られたコロニーの写真、および末梢血1mLあたりに換算したCFU活性を示すグラフである。
図3】マウス末梢血から得たiCFPα細胞について、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、およびケラチン5発現細胞への分化誘導を行った結果を示す写真である。骨芽細胞はALP染色、脂肪細胞はOil Red-O染色、軟骨細胞はToluidine blue染色、ケラチン5発現細胞はレポータータンパクtdTomatoの蛍光によってそれぞれ検出した。
図4】iCFPα細胞についてシングルセルトランスクリプトーム解析を行い、得られたデータに基づいてクラスタリング解析を行った結果を示す図である。左側に表示されているのは、遺伝子発現プロファイル(特定の遺伝子セットの高発現等)に基づき予測された細胞種である。
図5】iCFPα細胞をコロニー単位でトランスクリプトーム解析し、クラスタリング解析を行った結果を示す図である。左側に表示されているのは、遺伝子発現プロファイル(特定の遺伝子セットの高発現等)に基づき予測された細胞種である。また、一つの列が一つのコロニーに対応する。
図6】Pα- H2B-GFPマウスの末梢血を培養して得られたコロニー形成細胞の写真である。
図7】iCFPα細胞について、Pα系譜、P0系譜、Prx1系譜、Sox1系譜およびLepR系譜の陰性/陽性率を調べた結果を示すグラフである。
図8】Skin flapを作成したマウスと作成していないマウスそれぞれについて、末梢血から得たコロニー形成細胞のCFU活性をPrx1系譜別に評価した結果を示すグラフである。
図9】Pα- H2B-GFP::Prx1-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスの大腿骨、椎骨、胸骨、腸骨、股関節(大腿骨骨頭および臼蓋)および頭蓋骨の骨髄組織に存在する細胞について、Pα発現およびPrx1系譜を検出した結果を示す写真である。
図10】Pα- H2B-GFP::Prx1-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスの大腿骨、椎骨、胸骨および腸骨の骨髄細胞をFACSで解析した結果を示す図である。
図11】椎骨骨髄由来のCFPα細胞について、P0系譜、Prx1系譜、Sox1系譜およびLepR系譜を調べた結果を示すグラフである。
図12】大腿骨骨髄由来のCFPα細胞について、P0系譜、Prx1系譜、Sox1系譜およびLepR系譜を調べた結果を示すグラフである。
図13】椎骨および大腿骨の骨髄由来CFPα細胞について、(a)コロニーの写真、(b)コロニー数、および(c)増殖曲線を示す。(c)の横軸は継代数を示す(P0=初代培養)。
図14】椎骨および大腿骨の骨髄由来CFPα細胞を脂肪細胞への分化誘導条件下で培養し、脂肪細胞の分化マーカーの発現を調べた結果を示すグラフである。
図15】椎骨および大腿骨の骨髄由来CFPα細胞を骨芽細胞への分化誘導条件下で培養し、骨芽細胞の分化マーカーの発現を調べた結果を示すグラフである。
図16】(a)椎骨および大腿骨の骨髄由来CFPα細胞を軟骨細胞への分化誘導条件下で培養し、軟骨細胞の分化マーカーの発現を調べた結果を示すグラフ、ならびに(b)形成された軟骨ペレットの写真および(c)軟骨ペレットの重量を示す図である。
図17】椎骨骨髄由来CFPα細胞をケラチノサイトへの分化誘導条件下で培養することにより得られたK5発現細胞の写真である。
図18】大腿骨骨髄由来CFPα細胞をケラチノサイトへの分化誘導条件下で培養することにより得られたK5発現細胞の写真である。
図19】椎骨および大腿骨の骨髄内Pα細胞についてシングルセルトランスクリプトーム解析を行い、得られたデータに基づいてクラスタリング解析を行った結果を示す図である。
図20】椎骨骨髄内Pα細胞をSca1とCD34の発現を指標にしてFACSで4種の集団に分離し、CFUアッセイを行った結果を示すグラフである。
図21】末梢血中のiCFPα細胞を椎骨および大腿骨のPα細胞と共にクラスタリング解析に供した結果を示す図である。
図22】骨髄内S34-MSCクラスターの細胞におけるProcrの発現を示す図である。
図23】Pα- H2B-GFPマウスの頸椎、胸椎、腰椎および大腿骨の骨髄におけるSca1+CD34+細胞の存在量(PDGFRα+CD45-生細胞に占める割合)を示すグラフである。
図24】末梢血を培養して得られたコロニー形成細胞の写真(a)、および該細胞の末梢血1mLあたりに換算したCFU活性を示すグラフ(b)である。
図25】パラビオーシスモデルの概略を示す図(a)、およびHA1-44ペプチド投与後の移植皮膚組織の観察結果を示す写真(b)である。Pα細胞はYFPの蛍光、7型コラーゲンは抗体でそれぞれ検出した。
図26】パラビオーシスモデルの概略を示す図(a)、HA1-44ペプチド投与後の移植皮膚組織の観察結果を示す写真(b)、および該移植皮膚組織内におけるPDGFRα+細胞の割合を示すグラフ(c)である。PDGFRαの発現はGFPの蛍光、Prx1系譜はレポータータンパクtdTomatoの蛍光によってそれぞれ検出した。
図27】パラビオーシスモデルの概略を示す図(a)、および対照群(生理食塩水投与)とHA1-44ペプチド投与群における膝軟骨損傷部位の組織観察結果を示す写真(b)である。P0lin+の細胞をレポータータンパクtdTomatoの蛍光で検出した。
図28】膝軟骨欠損作成から2、4、8および12週間後における、対照群(生理食塩水投与)およびHA1-44ペプチド投与群の膝軟骨損傷部位の組織観察結果(サフラニンO染色)を示す写真である。矢尻は、硝子軟骨の再生が観察された部分を示す。
図29】マウスの末梢血を培養して得られた細胞をコロニー単位でトランスクリプトーム解析し、クラスタリング解析を行った結果を示す図である。左側に表示されているのは、遺伝子発現プロファイル(特定の遺伝子セットの高発現等)に基づき予測された細胞種である。一つの列が一つのコロニーに対応する。HA1-44ペプチド投与群のマウス由来コロニーに対応する列の下には四角を表示した。
図30】マウス末梢血由来コロニーのクラスタリング解析結果を簡略化した表である。
図31】HA1-44ペプチド投与群および生理食塩水投与群のマウスにおける椎骨Pα細胞のトランスクリプトーム解析データに基づいて行ったパスウェイ解析の結果を示すグラフである。
図32】HA1-44ペプチド投与群および生理食塩水投与群のマウスにおける椎骨Pα細胞のトランスクリプトーム解析データに基づいて行ったパスウェイ解析(function解析)の結果を示すグラフである。
図33】HA1-44ペプチド投与前、投与8時間後、および投与24時間後に採取したヒト末梢血単核球画分におけるCD45陰性、TER-119陰性、且つPDGFRβ陽性細胞の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願において、「細胞」とは、 文脈に応じて1個の細胞または複数個の細胞を意味する。例えば、本願における細胞は、一種類の細胞からなる細胞集団であってもよく、複数種の細胞を含む細胞集団であってもよい。例えば、「骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨細胞への分化能を有する細胞」との表現は、1個/1種の細胞(に由来する均一な細胞集団)がこれら3つの細胞種への分化能を有する場合のみならず、複数種の細胞を含む細胞集団が、細胞集団全体として当該3つの細胞種への分化能を発揮する場合をも含む。
【0014】
本願において、外胚葉性間葉系幹細胞(EMSC)とは、コロニー形成能、ならびに間葉系の3系譜(骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞)への分化能を有し、且つ、外胚葉由来であることが示唆されるPDGFR陽性細胞を意味する。当該細胞が外胚葉由来であることは、例えばP0lin+であることにより示唆される。一態様において、EMSCは、表皮細胞(具体的には、K5陽性ケラチノサイト)への分化能をも有する。EMSCが分化できる表皮細胞としては、ケラチノサイト、ケラチン5(K5)を発現する細胞(K5陽性細胞)、K5を発現するケラチノサイト(K5陽性ケラチノサイト)が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、K5陽性ケラチノサイトへの分化能を有するか否かは、ケラチノサイトの分化誘導条件下で培養した場合にK5を発現する細胞に分化できるか否かで判定することができる。
【0015】
EMSCを特徴付けるマーカー(細胞系譜マーカーを含む)としては、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- が挙げられる。
【0016】
EMSCの例としては、
(a)壊死性組織損傷(skin flap等)に応答して末梢血中における存在量が増大するコロニー形成性Pα細胞(necrotic injury-induced colony-forming Pα cells; 以下、「iCFPα細胞」とも称する)、および
(b)椎骨骨髄に含まれるコロニー形成性Pα細胞(以下、「椎骨CFPα細胞」または「椎骨由来CFPα細胞」とも称する)が挙げられる。
【0017】
iCFPα細胞は、i)コロニー形成能を有し、且つ、ii) 骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨細胞への分化能を有している。したがって、iCFPα細胞は間葉系幹細胞としての性質を有していると言える。さらに、iCFPα細胞は、表皮細胞(K5陽性ケラチノサイト)への分化能を有し、且つ、P0lin+である。したがって、iCFPα細胞は外胚葉性間葉系幹細胞であると言える。
【0018】
iCFPα細胞を特徴付けるマーカーとしては、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- が挙げられる。
【0019】
椎骨由来CFPα細胞は、i)コロニー形成能を有し、且つ、ii) 骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨細胞への分化能を有している。したがって、椎骨由来CFPα細胞は間葉系幹細胞としての性質を有していると言える。さらに、椎骨由来CFPα細胞は、表皮細胞(K5陽性ケラチノサイト)への分化能を有し、且つ、P0lin+である。したがって、椎骨由来CFPα細胞は外胚葉性間葉系幹細胞であると言える。
【0020】
椎骨由来CFPα細胞を特徴付けるマーカーとしては、Pα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-が挙げられる。また、椎骨由来CFPα細胞には、LepRlin+細胞とLepRlin-細胞が含まれる。このうちLepRlin-細胞は、末梢血中のiCFPα細胞により近い性質を示すものと考えられる。
【0021】
本願は、EMSCの一態様として、以下のi)の特徴ならびにii)および/またはiii)の特徴を有する、コロニー形成性PDGFR陽性細胞を提供する:
i)骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化能を有する;
ii)表皮細胞への分化能を有する;
iii)P0系譜陽性である。
一実施形態において、上記コロニー形成性PDGFR陽性細胞は、PDGFRα陽性細胞である。別の実施形態において、上記コロニー形成性PDGFR陽性細胞は、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞である。
【0022】
上記コロニー形成性PDGFR陽性細胞のさらなる特徴の例として、以下のものが挙げられる:
・Pα+である;
・CD34+である;
・Sca1-である;
・CD34+、且つSca1-である;
・CD34+であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する;
・Sca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する;
・CD34+、且つSca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する;
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する;
・P0lin+、且つPrx1lin-である;
・P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-である;
・P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-である;
・P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-である;
・Pαlin+、P0lin+、且つPrx1lin-である;
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-である;
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-である;
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-である;
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つCD34+である;
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つSca1-である;
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、且つSca1-である;
・Pα+、且つCD34+である;
・Pα+、且つSca1-である;
・Pα+、CD34+、且つSca1-である;
・Pα+、且つCD34+であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する;
・Pα+、且つSca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する;
・Pα+、CD34+、且つSca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する;
・Pα+であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する;
・Pα+、P0lin+、且つPrx1lin-である;
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-である;
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-である;
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-である;
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、且つPrx1lin-である;
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-である;
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-である;
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-である;
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つCD34+である;
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つSca1-である;
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、且つSca1-である。
【0023】
一実施形態では、本発明は、PDGFRα陽性、CD34陽性、且つSca1陰性である、椎骨骨髄由来細胞に関する。当該細胞は、マーカーの共通性から、末梢血中のiCFPα細胞に相当する細胞であると推測される。従って、iCFPα細胞と同様の性質を示すことが期待される。当該椎骨骨髄由来細胞は、例えば、対象から椎骨骨髄を採取し、Pα+、CD34+、且つSca1-の細胞を選択的に回収することにより得ることができる。
【0024】
また、本願は、骨髄由来Pα+CD34+Sca1+ 細胞を提供する。さらに本願は、骨髄からPα+、CD34+、且つSca1+の細胞を選択的に回収する工程を含む、細胞の製造方法を提供する。
+CD34+Sca1+ 細胞のソースとして用い得る骨髄としては、椎骨(頸椎、胸椎、腰椎)および大腿骨の骨髄が挙げられる。一つの態様において、Pα+CD34+Sca1+ 細胞のソースとして用い得る骨髄は、椎骨の骨髄である。別の態様において、Pα+CD34+Sca1+ 細胞のソースとして用い得る骨髄は、頸椎の骨髄である。
【0025】
本発明者らはまた、Pα+CD34+Sca1+細胞が、ectomesenchymeを発生学的起源とする骨の骨髄中にも多く存在することを見出した。したがって、本願は、ectomesenchymeを発生学的起源とする骨の骨髄に由来するPα+CD34+Sca1+ 細胞を提供する。また、本願は、ectomesenchymeを発生学的起源とする骨の骨髄から、Pα+、CD34+、且つSca1+の細胞を選択的に回収する工程を含む、細胞の製造方法を提供する。ectomesenchymeを発生学的起源とする骨としては、前頭骨、鼻骨、頬骨、上顎骨、口蓋骨、下顎骨等が挙げられる。
【0026】
一実施形態では、本発明は、以下の1)~4)のいずれかの工程を含む、コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法に関する:
1)壊死性組織損傷を有する対象から末梢血を採取し、固相上で培養する工程;
2)壊死性組織損傷を有する対象から末梢血を採取し、固相上で培養した後、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
3)壊死性組織損傷を有する対象から末梢血を採取し、該末梢血からPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
4)壊死性組織損傷を有する対象から末梢血を採取し、該末梢血からPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収し、該細胞を固相上で培養する工程。
【0027】
一実施形態では、本発明は、以下の1)~4)のいずれかの工程を含む、コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法に関する:
1)壊死性組織損傷を有する対象から採取された末梢血を固相上で培養する工程;
2)壊死性組織損傷を有する対象から採取された末梢血を固相上で培養した後、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
3)壊死性組織損傷を有する対象から採取された末梢血からPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
4)壊死性組織損傷を有する対象から採取された末梢血からPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収し、該細胞を固相上で培養する工程。
【0028】
壊死性組織損傷としては、skin flap、表皮水庖症における表皮剥離等が挙げられるが、これらに限定されない。Skin flapでは、flapの先端部分への血液供給が不足し、虚血状態となることにより、細胞/組織の壊死が生じる。表皮水庖症においては、剥離した表皮組織に壊死が生じる。
【0029】
末梢血を固相上で培養する場合、培養の前に末梢血から赤血球を除去してもよい。赤血球の除去は、当業者に公知の溶血試薬を用いる方法、hetastarchで末梢血を処理して有核細胞を含む上清を回収する方法等により行い得る。
【0030】
上記コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法の工程2)、3)または4)において選択的に回収する細胞の例としては、以下が挙げられる:
・Pα+の細胞
・CD34+の細胞
・Sca1-の細胞
・CD34+、且つSca1-の細胞
・CD34+であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Sca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・CD34+、且つSca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・P0lin+、且つPrx1lin-の細胞
・P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、且つPrx1lin-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つCD34+の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つSca1-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、且つSca1-の細胞
・Pα+、且つCD34+の細胞
・Pα+、且つSca1-の細胞
・Pα+、CD34+、且つSca1-の細胞
・Pα+、且つCD34+であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Pα+、且つSca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Pα+、CD34+、且つSca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Pα+であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Pα+、P0lin+、且つPrx1lin-の細胞
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、且つPrx1lin-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つCD34+の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つSca1-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、且つSca1-の細胞。
【0031】
本願において、細胞を「選択的に回収」する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる:
(1)セルソーター等を用いて、所望のマーカー分子を発現する細胞を「ソート」する方法、
(2)目視により、または遺伝子発現解析の結果に基づいて、所望のマーカー分子を発現する細胞/コロニーを「回収」、「選抜」、「分離」、「単離」または「濃縮」する方法。
ここにいうマーカー分子としては、表面マーカー(細胞表面抗原)、lineageマーカー遺伝子のレポータータンパク等が挙げられる。
【0032】
一実施形態では、本発明は、以下の1)~4)のいずれかの工程を含む、コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法に関する:
1)対象から椎骨骨髄を採取し、固相上で培養する工程;
2)対象から椎骨骨髄を採取し、固相上で培養した後、Pα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
3)対象から椎骨骨髄を採取し、該骨髄からPα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
4)対象から椎骨骨髄を採取し、該骨髄からPα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収し、該細胞を固相上で培養する工程。
【0033】
一実施形態では、本発明は、以下の1)~4)のいずれかの工程を含む、コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法に関する:
1)対象から採取された椎骨骨髄を固相上で培養する工程;
2)対象から採取された椎骨骨髄を固相上で培養した後、Pα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
3)対象から採取された椎骨骨髄からPα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;
4)対象から採取された椎骨骨髄からPα+、P0lin+、Prx1lin-、およびSox1lin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収し、該細胞を固相上で培養する工程。
【0034】
一実施形態では、上記コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法の工程2)、3)または4)において、Pα+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収してもよい。
【0035】
上記コロニー形成性PDGFR陽性細胞を製造する方法の工程2)、3)または4)において選択的に回収する細胞の例としては、以下が挙げられる:
・P0lin+の細胞
・Prx1lin-の細胞
・Sox1lin-の細胞
・P0lin+、且つPrx1lin-の細胞
・P0lin+、且つSox1lin-の細胞
・Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・Pα+、且つP0lin+の細胞
・Pα+、且つPrx1lin-の細胞
・Pα+、且つSox1lin-の細胞
・Pα+、P0lin+、且つPrx1lin-の細胞
・Pα+、P0lin+、且つSox1lin-の細胞
・Pα+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・LepRlin-の細胞
・P0lin+、且つLepRlin-の細胞
・Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・P0lin+、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、P0lin+、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、P0lin+、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞。
【0036】
コロニー形成性PDGFR陽性細胞のソースとして用い得る椎骨としては、頸椎、胸椎、腰椎が挙げられる。一態様において、コロニー形成性PDGFR陽性細胞のソースとして用いる椎骨は、頸椎である。
【0037】
また、発明者らがこれまでに行った実験において、椎骨骨髄を固相上で培養して得られるコロニーは、全てPDGFR陽性であることを確認している。
【0038】
本願において、対象から採取される「骨髄」とは、種々の骨髄細胞を含む骨髄組織を意味する。
【0039】
1つの態様において、本発明は、壊死性組織損傷によって誘導される末梢血中の細胞を指標にして、多能性幹細胞の誘導活性を持つ物質をスクリーニングする方法に関する。
【0040】
本発明者らは、壊死性組織損傷(例えばSkin flap)によって末梢血中のiCFPα細胞が増加すること、および、HA1-44ペプチドの投与によって末梢血中のPα+P0lin+Prx1lin-細胞(即ち、iCFPα細胞を含む細胞集団)が増加することを見出した。したがって、末梢血中におけるiCFPα細胞の増大を指標にすれば、増殖能(コロニー形成能)と多分化能(multi-lineage differentiation potency)を有する多能性幹細胞(例えばMSC)の末梢血中における存在量を増大させる作用を持った物質(以下、多能性幹細胞動員物質、または多能性幹細胞誘導物質とも称する)をスクリーニングすることができる。
【0041】
一実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法に関する:
1)対象から末梢血を採取し、該末梢血に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;
2)被験物質を投与した対象から末梢血を採取し、該末梢血に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;および
3)工程2)で計数された細胞の数が、工程1)で計数された細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
【0042】
一実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法に関する:
1)対象から採取された末梢血に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;
2)被験物質を投与された対象から採取された末梢血に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;および
3)工程2)で計数された細胞の数が、工程1)で計数された細胞の数よりも多い場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
【0043】
上記スクリーニング方法において計数する細胞の特徴に関して、表面マーカー(Pα、CD34、Sca1)は抗体等を用いて検出することができる。あるいは、表面マーカー遺伝子のプロモーター下流にレポーター遺伝子を組み込んだ実験動物であれば、レポーター遺伝子の産物(蛍光タンパク等)を指標として検出することができる。系譜マーカー(Pα、P0、Prx1、Sox1、LepR)は、目的遺伝子の系譜追跡(lineage tracing)を可能にするDNA構造/コンストラクト(Cre-loxP系等)を持つトランスジェニック動物を用いることにより検出できる。
【0044】
上記スクリーニング方法の工程1)および2)において計数する細胞の例としては、以下が挙げられる:
・Pα+の細胞
・CD34+の細胞
・Sca1-の細胞
・CD34+、且つSca1-の細胞
・CD34+であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Sca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・CD34+、且つSca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・P0lin+、且つPrx1lin-の細胞
・P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、且つPrx1lin-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つCD34+の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つSca1-の細胞
・Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、且つSca1-の細胞
・Pα+、且つCD34+の細胞
・Pα+、且つSca1-の細胞
・Pα+、CD34+、且つSca1-の細胞
・Pα+、且つCD34+であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Pα+、且つSca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Pα+、CD34+、且つSca1-であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Pα+であり、且つ、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、およびLepRlin-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞
・Pα+、P0lin+、且つPrx1lin-の細胞
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、且つPrx1lin-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、且つLepRlin-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つCD34+の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、且つSca1-の細胞
・Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、且つSca1-の細胞。
【0045】
1つの態様において、本発明は、HA1-44ペプチドを陽性対照として用い、生体内で組織再生に寄与している多能性幹細胞の反応を指標にして、多能性幹細胞の誘導活性を持つ物質をスクリーニングする方法に関する。
【0046】
一実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法に関する:
1)対象から末梢血を採取し、固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
2)工程1で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
3)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド(HA1-44ペプチド)を対象に投与し、末梢血を採取し、固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
4)工程3で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
5)被験物質を対象に投与し、末梢血を採取し、固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
6)工程5で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
7)工程2および4で得られた遺伝子発現データをプールし、クラスタリング解析を行う工程;
8)工程2および6で得られた遺伝子発現データをプールし、クラスタリング解析を行う工程;および
9)工程7の解析結果と工程8の解析結果を比較し、工程5で得られた細胞集団(被験物質投与群)が、工程3で得られた細胞集団(HA1-44ペプチド投与群)と同じクラスター構成を有する場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
【0047】
他の実施形態では、工程3においてHA1-44ペプチドに代えて被験物質が投与され、かつ工程5において被験物質に代えてHA1-44ペプチドが投与される。すなわち、HA1-44ペプチドと被験物質は、どちらを先に対象に投与してもよい。工程1、3および5における対象は、同一の個体であってもよく、別の個体であってもよい。例えば、同一系統(strain)の動物を3頭用意し、1頭は物質を投与せず(又は溶媒のみ投与)、別の1頭にHA1-44ペプチドを投与し、残りの1頭に被験物質を投与した後、各個体から末梢血を採取して接着性の細胞集団の取得、網羅的遺伝子発現解析およびクラスタリング解析を行ってもよい。工程1における対象は、工程3および5においてそれぞれHA1-44ペプチドおよび被験物質を投与する際に用いる溶媒と同じ溶媒のみを投与した対象であってもよい。
【0048】
別の実施形態では、HA1-44ペプチドの代わりに、HA1-44ペプチドの変異体、修飾体、またはタグ付きHA1-44ペプチドが用いられる。変異体は、HA1-44ペプチドのアミノ酸配列において、数個、例えば、1~5個、好ましくは、1~4個、1~3個、さらに好ましくは1~2個、より好ましくは1個のアミノ酸が、置換、挿入、欠失および/または付加されているアミノ酸配列を有する。例えば、変異体は、HA1-44ペプチドのアミノ酸配列に対してローカルアラインメント(Local Alignment)を実施した場合に、50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より一層好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、または98%)の相同性を有するアミノ酸配列を有するペプチドである。アミノ酸配列の相同性は、例えば、FASTA、BLAST、DNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング(株)製)、GENETYX((株)ジェネティクス製)を用いて測定することができる。あるいは、単純に配列を比較し、計算することもできる。修飾体は、HA1-44ペプチドのアミノ酸配列において、数個、例えば、1~5個、好ましくは、1~4個、1~3個、さらに好ましくは1~2個、より好ましくは1個のアミノ酸のアミノ酸残基が修飾されているアミノ酸配列を有する。タグ付きHA1-44ペプチドが用いられる場合、例示的なタグとしては、His-タグ、FLAGタグ、mycタグ、およびGSTタグが挙げられるが、これらに限定されない。タグは、アミノ酸配列のN末端に付加してもよく、C末端に付加してもよい。
【0049】
当該スクリーニング方法において、網羅的遺伝子発現解析はRNAシークエンシング(RNA-seq)であってもよい。当該スクリーニング方法において、クラスタリング解析はiterative clustering and guide-gene selection(ICGS)アルゴリズムを用いて行われてもよい。
【0050】
別の実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法に関する:
1)対象から採取された末梢血を固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
2)工程1)で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
3)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド(HA1-44ペプチド)を投与された対象から採取された末梢血を固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
4)工程3)で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
5)被験物質を投与された対象から採取された末梢血を固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
6)工程5)で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
7)工程2)および4)で得られた遺伝子発現データをプールし、クラスタリング解析を行う工程;
8)工程2)および6)で得られた遺伝子発現データをプールし、クラスタリング解析を行う工程;および
9)工程7)の解析結果と工程8)の解析結果を比較し、工程5)で得られた細胞集団が、工程3)で得られた細胞集団と同じクラスター構成を有する場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
【0051】
別の実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法に関する:
1)対象から末梢血を採取し、固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
2)工程1)で得られたコロニーの数を数える工程;
3)被験物質を対象に投与し、末梢血を採取し、固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
4)工程3)で得られたコロニーの数を数える工程;および
5)工程4)で計数されたコロニーの数が、工程2)で計数されたコロニーの数よりも多い場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
工程1)における対象は、工程3)において被験物質を投与する際に用いる溶媒と同じ溶媒のみを投与した対象であってもよい。
工程2)および4)において計数するコロニーは、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有するコロニーであってもよい。
【0052】
別の実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法に関する:
1)対象から採取された末梢血を固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
2)工程1)で得られたコロニーの数を数える工程;
3)被験物質を投与された対象から採取された末梢血を固相上で培養することにより、接着性の細胞集団を得る工程;
4)工程3)で得られたコロニーの数を数える工程;および
5)工程4)で計数されたコロニーの数が、工程2)で計数されたコロニーの数よりも多い場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
工程1)における対象は、工程3)において被験物質が投与される際に用いられる溶媒と同じ溶媒のみを投与された対象であってもよい。
工程2)および4)において計数するコロニーは、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有するコロニーであってもよい。
【0053】
別の実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法に関する:
1)対象の椎骨から骨髄を採取し、固相上での培養またはセルソーティングによりPDGFRα陽性の細胞集団を得る工程;
2)工程1で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
3)被験物質を対象に投与し、椎骨から骨髄を採取し、固相上での培養またはセルソーティングによりPDGFRα陽性の細胞集団を得る工程;
4)工程3で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
5)工程2および4で得られた遺伝子発現データをプールし、パスウェイ解析を行う工程;および
6)工程5の解析の結果、工程1で得られた細胞集団(未処置群)と比較して、工程3で得られた細胞集団(被験物質投与群)において(i)EIF2シグナリング、eIF4およびp70S6Kシグナリングの調節、および/またはmTORシグナリングに関連するパスウェイが活性化されているか又は(ii)細胞死関連遺伝子の発現が抑制されている場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
工程1における対象は、工程3において被験物質を投与する際に用いる溶媒と同じ溶媒のみを投与した対象であってもよい。
【0054】
当該スクリーニング方法において、網羅的遺伝子発現解析はRNAシークエンシング(RNA-seq)であってもよい。当該スクリーニング方法において、パスウェイ解析はIngenuity Pathway Analysis (IPA)ソフトウェア (https://www.qiagenbioinformatics.com)を用いて行ってもよい。
【0055】
別の実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、多能性幹細胞誘導物質のスクリーニング方法に関する:
1)対象の椎骨から採取された骨髄から、固相上での培養またはセルソーティングによりPDGFRα陽性の細胞集団を得る工程;
2)工程1)で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
3)被験物質を投与された対象の椎骨から採取された骨髄から、固相上での培養またはセルソーティングによりPDGFRα陽性の細胞集団を得る工程;
4)工程3)で得られた細胞集団についてコロニー又はシングルセル単位で網羅的遺伝子発現解析を行う工程;
5)工程2)および4)で得られた遺伝子発現データをプールし、パスウェイ解析を行う工程;および
6)工程5)の解析の結果、工程1)で得られた細胞集団と比較して、工程3)で得られた細胞集団において(i)EIF2シグナリング、eIF4およびp70S6Kシグナリングの調節、および/またはmTORシグナリングに関連するパスウェイが活性化されているか又は(ii)細胞死関連遺伝子の発現が抑制されている場合に、当該被験物質を、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として選択する工程。
【0056】
当該スクリーニング方法において、網羅的遺伝子発現解析はRNAシークエンシング(RNA-seq)であってもよい。当該スクリーニング方法において、パスウェイ解析はIngenuity Pathway Analysis (IPA)ソフトウェア (https://www.qiagenbioinformatics.com)を用いて行ってもよい。
【0057】
他の態様において、本発明は、MSC血中動員物質によって誘導される末梢血中の細胞または細胞集団に関する。また、本発明は、HA1-44ペプチドによって誘導される椎骨骨髄内の細胞または細胞集団に関する。
【0058】
本願において、「MSC血中動員物質」とは、間葉系幹細胞(MSC)を末梢血中に動員する活性、又は末梢血中におけるMSCの存在量を増大させる活性を有する物質を意味する。MSC血中動員物質の例としては、HMGB1タンパク、HMGB2タンパクおよびHMGB3タンパク(例えばWO2008/053892およびWO2009/133939に記載)、S100A8タンパクおよびS100A9タンパク(例えばWO2009/133940およびWO2011/052668に記載)、ならびに本発明者らによる国際出願WO2012/147470に記載の各種HMGB1ペプチド(例えば、HMGB1タンパクのアミノ酸残基1-44からなるペプチド(本願におけるHA1-44ペプチド))等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
一実施形態では、本発明は、MSC血中動員物質を対象に投与し、該対象から末梢血を採取し、該採取された末梢血を固相上で培養することによって得られる、細胞集団に関する。一実施形態において、MSC血中動員物質はHA1-44ペプチドであってもよい。
【0060】
他の実施形態では、本発明は、1)HA1-44ペプチドを対象に投与し、2)該対象から椎骨の骨髄を採取し、3)該採取された骨髄を固相上で培養すること又は該採取された骨髄からPDGFRα陽性細胞をソーティングすることによって得られる、細胞集団に関する。
【0061】
別の態様において、本発明は、上記の細胞または細胞集団の製造方法に関する。
【0062】
一実施形態では、本発明は、MSC血中動員物質を対象に投与し、当該対象から末梢血を採取し、当該採取された末梢血を固相上で培養する工程を含む、細胞の製造方法に関する。他の実施形態では、本発明は、MSC血中動員物質を投与された対象から採取された末梢血を固相上で培養する工程を含む、細胞の製造方法に関する。これら製造方法の一実施形態において、MSC血中動員物質はHA1-44ペプチドであってもよい。
【0063】
他の実施形態では、本発明は、1)HA1-44ペプチドを対象に投与し、2)該対象から椎骨の骨髄を採取し、3)該採取された骨髄を固相上で培養するか又は該採取された骨髄からPDGFRα陽性細胞をソーティングする工程を含む、細胞の製造方法に関する。
【0064】
さらに別の態様において、本発明は、間葉系幹細胞(MSC)を含む生体組織から、椎骨骨髄内のPDGFRα陽性細胞と同様の高い組織再生促進能力を有する細胞を取得、分離および/または濃縮する方法に関する。またさらに別の態様において、本発明は、上記の取得、分離および/または濃縮する方法によって得られる細胞または細胞集団に関する。
【0065】
一実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、細胞集団の製造方法に関する:
1)間葉系幹細胞(MSC)を含む生体組織由来の細胞集団を固相上で培養する工程;
2)工程1で得られたコロニーをサブクローニングする工程;
3)サブクローニングにより得られた細胞の一部を、骨、軟骨、および/または脂肪の分化誘導培地で培養し、骨、軟骨、および/または脂肪の分化マーカーの発現レベルを測定する工程;および
4)大腿骨の骨髄を固相上で培養することによって得られたMSCを、骨、軟骨、および/または脂肪の分化誘導培地で培養した場合の、骨、軟骨、および/または脂肪の分化マーカーの発現レベルと比較して、高い発現レベルを示した細胞クローンを選抜する工程。
【0066】
他の実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、細胞集団の製造方法に関する:
1)MSCを含む生体組織由来の細胞集団を固相上で培養する工程;および
2)Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有するコロニーを選抜する工程。一実施形態において、工程2は、Prx1系譜陰性のコロニーを選抜する工程であってもよい。
【0067】
別の実施形態では、本発明は、MSCを含む生体組織由来の細胞集団から、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程を含む、細胞集団の製造方法に関する。
【0068】
他の実施形態では、本発明は、以下の工程を含む、細胞集団の製造方法に関する:
1)MSCを含む生体組織由来の細胞集団から、Pα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+、およびSca1- から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を選択的に回収する工程;および
2)工程1)で回収された細胞を固相上で培養する工程。
【0069】
本願の細胞集団の製造方法において、MSCを含む生体組織としては、骨髄、臍帯、臍帯血、胎盤、脂肪組織、歯髄、骨膜、滑膜、卵膜、末梢血等が挙げられるが、これらに限定されない。骨髄としては、大腿骨、椎骨、胸骨、腸骨、頭蓋骨等の骨髄が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
さらに別の態様において、本発明は、外胚葉性間葉系幹細胞を含有する、組織再生促進のために用いられる組成物に関する。一実施形態では、本発明は、以下のi)の特徴ならびにii)および/またはiii)の特徴を有するコロニー形成性PDGFR陽性細胞を含有する、組織再生促進のために用いられる組成物に関する:
i)骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化能を有する;
ii)表皮細胞への分化能を有する;
iii)P0系譜陽性である。
一実施形態では、該組成物は、中胚葉または外胚葉に由来する組織の再生促進のために用いられるものである。中胚葉に由来する組織としては、骨、軟骨、筋肉、血管内皮等が挙げられるが、これらに限定されない。外胚葉に由来する組織としては、上皮組織(例えば表皮)、神経組織等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
本発明の組織再生促進のために用いられる組成物は、医薬上許容される担体、希釈剤および/または賦形剤を含んでもよい。本発明の組織再生促進のために用いられる組成物に含まれる外胚葉性間葉系幹細胞の量、組成物の剤形、投与頻度などは、再生対象とする組織の種類および/または投与される対象の状態などの条件に応じて適宜選択することができる。
【0072】
さらに別の態様において、本発明は、外胚葉性間葉系幹細胞を投与することを含む、対象の組織再生を促進する方法に関する。一実施形態では、本発明は、以下のi)の特徴ならびにii)および/またはiii)の特徴を有するコロニー形成性PDGFR陽性細胞を対象に投与することを含む、該対象の組織再生を促進する方法に関する:
i)骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化能を有する;
ii)表皮細胞への分化能を有する;
iii)P0系譜陽性である。
上記細胞の投与方法は、再生を促進する組織の種類および/または投与される対象の状態などの条件に応じて適宜選択することができる。当該投与方法としては、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経鼻投与、経口投与、座剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
さらに別の態様において、本発明は、対象の組織再生促進における使用のための外胚葉性間葉系幹細胞に関する。
【0074】
さらに別の態様において、本発明は、対象における組織再生を促進するための医薬の製造のための外胚葉性間葉系幹細胞の使用に関する。
【0075】
末梢血中のiCFPα細胞は、壊死性組織損傷が生じているケース等において、EMSCに媒介される組織再生活性を評価するための有益なバイオマーカーになると考えられる。したがって、本願は、末梢血中のiCFPα細胞を指標として、MSC血中動員物質を投与した対象において期待される組織再生促進効果を判定する方法を提供する。
【0076】
一実施形態では、本発明は、以下の工程:
1)MSC血中動員物質を投与する前の対象から採取された末梢血中に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;および
2)MSC血中動員物質を投与した後の該対象から採取された末梢血中に含まれるPα+、Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-、CD34+およびSca1-から選択される1つ以上の特徴を有する細胞を計数する工程;
を含み、工程2)で計数された細胞の数が工程1)で計数された細胞の数よりも多い場合に、該対象において組織再生が促進されることが示唆される、MSC血中動員物質の組織再生促進効果の判定方法に関する。
【0077】
本願において、「対象」は、ヒトおよび非ヒト動物のいずれであってもよい。一態様において、対象は非ヒト動物である。非ヒト動物としては、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ウマ、ヒツジ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
本願が提供する細胞(または細胞集団)の製造方法、スクリーニング方法、およびMSC血中動員物質の組織再生促進効果の判定方法に関して、対象から末梢血を採取するタイミングは特に限定されない。人為的に壊死性組織損傷を作成する場合またはMSC血中動員物質を投与する場合には、例えば、壊死性組織損傷の作成またはMSC血中動員物質の投与から2~24時間後に末梢血を採取する方法を挙げることができる。一態様において、対象から末梢血を採取するタイミングは、壊死性組織損傷の作成またはMSC血中動員物質の投与から2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24時間後であり得る。別の態様において、対象から末梢血を採取するタイミングは、壊死性組織損傷の作成またはMSC血中動員物質の投与から4~24時間後、8~24時間後、8~16時間後、または10~14時間後であり得る。
【0079】
本願が提供する細胞、細胞(または細胞集団)の製造方法、細胞を含む組成物、およびスクリーニング方法の一態様において、PDGFR陽性細胞は、PDGFRα陽性細胞である。
【0080】
なお、本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照により本明細書に組み入れられる。また、本願は、2017年12月1日に米国特許商標庁に出願された米国仮特許出願第62/593310号に基づく優先権を主張するものであり、当該米国仮特許出願の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0081】
以下に、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下に本発明をさらに詳細に述べるが、本発明は以下に記載される態様に限定されるものではない。
【実施例
【0082】
材料および方法
1.マウス
PDGFRαの発現をGFPの蛍光で確認できるPα-H2B-GFPマウス(The Jackson Laboratory、Stock No: 007669)、およびCre-loxPシステムを利用した各種の細胞系譜追跡マウスを実験に用いた。Cre-loxPシステムを利用した細胞系譜追跡マウスは、CreドライバーマウスとCreレポーターマウスを交配することにより作出できる。Creドライバーマウスとは、所望の遺伝子のプロモーター配列の下流にCreリコンビナーゼのコード配列が導入されたDNA構造を有するトランスジェニックマウスである。Creレポーターマウスとは、ROSA26等の遺伝子座に「プロモーター(CAGプロモーター等)-loxP-stopカセット-loxP-所望のレポーター遺伝子(本願の実施例においてはEYFPまたはtdTomato)」という構造のDNA配列が導入されたトランスジェニックマウスである。
【0083】
本願実施例では、Creドライバーマウスとして、以下のマウスを用意した。
・Pα-Creマウス(The Jackson Laboratory、Stock No: 013148)
・P0-Creマウス(The Jackson Laboratory、Stock No: 017927)
・Prx1-Creマウス(The Jackson Laboratory、Stock No: 005584)
・Sox1-Creマウス(RIKEN BioResource Research Center、Accession No. CDB0525K)
・LepR-Creマウス(The Jackson Laboratory、Stock No: 008320)
・Krt5-Creマウス(MGI ID: 1926815、Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Jul 8;94(14):7400-5に記載のK5 Cre トランスジェニックマウス)
【0084】
Creレポーターマウスとして、以下のマウスを用意した。
・Rosa26-EYFPマウス(The Jackson Laboratory 、Stock No: 006148)
・Rosa26-tdTomatoマウス(The Jackson Laboratory、Stock No: 007909)
【0085】
上記6種のドライバーマウスとRosa26-tdTomatoレポーターマウスを交配することにより、以下の細胞系譜追跡マウスを作出した。
・Pα-Cre::Rosa26-tdTomatoマウス
・P0-Cre::Rosa26-tdTomatoマウス
・Prx1-Cre::Rosa26-tdTomatoマウス
・Sox1-Cre::Rosa26-tdTomatoマウス
・LepR-Cre::Rosa26-tdTomatoマウス
・Krt5-Cre::Rosa26-tdTomatoマウス
【0086】
また、Pα-CreドライバーマウスとRosa26-EYFPレポーターマウスを交配することにより、Pα-Cre::Rosa26-EYFPマウスを作出した。
Pα- H2B-GFPマウスは、PDGFRα遺伝子のプロモーターの下流にヒストンH2BとeGFPの融合タンパクをコードする配列がノックインされたマウスである。当該Pα- H2B-GFPマウスと上記Prx1-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスを交配することにより、Pα- H2B-GFP::Prx1-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスを作出した。
【0087】
2.Skin flapの作成
本願実施例においては、壊死性組織損傷を起こす方法として、skin flapの作成を行った。具体的なskin flapの作成方法は、以下の通りである。
8-10週齢雄のマウス(20-25g)に対して、1.5-2.0%(v/v)のイソフルレン吸入麻酔下で背部の剃毛を行った。尾側のみ皮膚の連続性を保つようにして、剪刀を用いて背部中央に横2.0×縦4.0 cmのSkin flapを作成した(これにより、flapの根元から離れた先端部が虚血状態となり、皮膚組織の壊死性損傷が生じる)。Skin flap作成後の患部は、十分な大きさの絆創膏で保護した。Skin flap作成から12時間後にそれぞれ心臓血採血、椎骨および大腿骨骨髄の細胞分離、椎骨および大腿骨の凍結切片作成を行った。
【0088】
3.パラビオーシスの作成
Kamran P et al. J Vis Exp. 2013 Oct 6;(80)を参考に、6週齢雄の野生型マウスと6週齢雄の細胞系譜追跡マウスを用いたパラビオーシスモデルを作成した。2匹同時にイソフルレンでの全身麻酔導入を行い、heat pad上にポジショニングした。2匹の相対する体側面を剃毛し、肘関節から膝関節にかけて約5mm幅で皮膚を切除した。背側の皮膚を5-0バイクリルで連続縫合した。相対する肘関節、膝関節を3-0バイクリルで縫合した。同様に5-0バイクリルで腹側の皮膚を連続縫合した。麻酔からの覚醒をheat pad上で待った。活動が制限されるため、1ケージに1ペアまでの飼育とし、撒き餌を行った。
【0089】
4.組織染色および観察
椎骨および大腿骨を採取後、4%パラホルムアルデヒド固定、0.5M EDTA溶液脱灰、30%スクロース溶液置換を経て、川本法用凍結包埋剤 Super Cryoembedding Medium;SCEM(Leica)を用いて凍結ブロックを作成した。Cryofilmタイプ2C(9)(Leica)を用いて厚さ10μmで薄切を行い、各抗体を用いて免疫染色を行った(1次抗体は4℃で一晩、2次抗体は4℃で1時間)。共焦点顕微鏡を用いて組織の観察を行った。
【0090】
5.末梢血、椎骨、大腿骨の細胞の取得と培養
末梢血からの細胞回収は次の方法で行った。全身麻酔下で心臓から末梢血を約800-1000μL採取した(ヘパリンを含有する1 mLシリンジを使用)。赤血球を除去するため、採取した血液と等量のHetasep(STEMCELL Technologies社、Cat No. ST-07906)を加え、100Gで2分間遠心し、室温で15分間インキュベートした後、上清を回収した。当該上清を、末梢血中の有核細胞を含むサンプルとして次の実験に供した。
骨髄からの細胞回収は次の方法で行った。全身麻酔下で採取した椎骨、大腿骨を0.2%コラゲナーゼA溶液(Sigma社、Cat#10103578001)に浸漬し、37℃で1時間インキュベートした。乳鉢で骨髄細胞を押し出し、ピペッティングで回収して40μmのセルストレーナーに通した。300Gで5分間遠心して上清を除去し、RBC Lysis buffer(BioLegend社、cat#420301)で溶血して赤血球を除去し、骨髄細胞として次の実験に供した。
【0091】
6.末梢血のコロニーアッセイ
上記の手順によって得た上清(末梢血中の有核細胞含有サンプル)を、コラーゲンIでコートされた6ウェルプレート(Corning社、Cat No. 356400)に播種し、MesenCult Expansion Kit(STEMCELL Technologies社、Cat No. ST-05513)を利用して当該キットのマニュアル通りに調製したExpansion Mediumに1% L-glutamine(ナカライテスク社)、10μM ROCK inhibitor(Y27632、Tocris Bioscience社)および 1% ペニシリン/ストレプトマイシン(ナカライテスク社)を含有させた培地(数値はいずれも終濃度)を用いて、37℃、5%CO2、5%O2の条件下で10日間培養した。培養期間中は1週間に2回、培地を新鮮なものに交換した。培養10日目に、Differential Quik Stain Kit(シスメックス株式会社、Cat No. 16920)を用いてプレート上の細胞を染色し、50個以上の細胞を含むコロニーの数をカウントした。
【0092】
7.骨芽/脂肪/軟骨細胞への分化誘導
Passage 3-5の生細胞を12well plateに50,000細胞/wellで播種し、サブコンフルエントになるまで10% FBS/DMEMで培養した。その後、脂肪細胞への分化には100 nM dexamethasone (Sigma)、0.5 mM isobutylmethylxanthine (Sigma)、50 mM indomethacin (Wako)、10μg/ml insulin (Sigma)を含む10% FBS/DMEMを用いて14日間脂肪分化誘導を行った。
骨芽細胞への分化には1 nM dexamethasone、20 mM β-glycerol phosphate (Wako)、50 μg/ml ascorbate-2-phosphate (Sigma-Aldrich Corp.)を含む10% FBS/DMEMを用いて21日間骨芽細胞分化誘導を行った。各分化誘導後に4% PFAで固定し、脂肪細胞はoil red-O染色、骨芽細胞はALP activity assay kit (TAKARA BIO Inc., Kusatsu, Japan)を用いてALP染色を行い、それぞれ顕微鏡で観察した。
軟骨分化誘導では、まず300,000細胞を15 ml チューブで300g、5分間の遠心を行った。40ng/ml proline(Sigma)、50μg/ml ascorbic acid 2-phosphate、x100 ITS mix (BD Bioscience)、2μg/ml fluocinolone (Tokyo chemistry industry, Tokyo, Japan)、5 ng/ml transforming growth factor-b3 (R&D Systems, Minneapolis, MN)、100 nM dexamethasone (Sigma)を含む10% FBS/DMEMで21日間、軟骨分化誘導を行った。完成した軟骨ペレットは、パラフィン包埋し、6μmの厚さで薄切、トルイジンブルー染色を行った。
【0093】
8.ケラチノサイトへの分化誘導
・動物
Krt5-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスを8~10週齢になるまで飼育し、実験に使用した。

・採材
採材前日にマウス背部にskin flapを作成し、作成から12時間経過後に麻酔下で心臓採血により末梢血を採取した。skin flapを作成していないマウスについても同様に末梢血を採取した。採血後に大腿骨および椎骨を採取した。

・細胞調整
末梢血はHetaSepを用いて赤血球を除去し、6wellのcollagen I コートのプレートに1匹分の血液分を1wellに播種し、5%O2、5%CO2、37℃の条件で培養した。培地は、MesenCult または 20% FBS/MEMα(いずれもRock inhibitorおよび1% Penicillin-Streptomycin含有)を使用した。
採材した大腿骨は両骨端を切断して縦半分に割り、椎骨は縦半分に割って、0.2% CollagenaseA / DMEM (10mM HEPES, 1% Penicillin-Streptomycin)で処理した(37℃ウォーターバス,1時間)。CollagenaseA処理後に乳鉢をもちいて骨髄細胞を回収し、40um cell strainerで単一細胞に分散させ、1×RBC Lysis solutionで溶血してから播種し、5%O2、5%CO2、37℃の条件で培養した。培地はMesenCult または 20% FBS/MEMα(いずれもRock inhibitorおよび1% Penicillin-Streptomycin含有)を用いた。

・分化誘導
コロニー形成を確認した後、1uM レチノイン酸(SIGMA)および25ng/mL BMP4(R&D)を含んだ培地をwellに添加して、5%CO2、37℃で培養してケラチノサイトへ分化誘導した。オールインワン顕微鏡(キーエンス)により、Tomato陽性/陰性の細胞を観察した。
【0094】
9.トランスクリプトーム解析(細胞集団のRNA-seq)
細胞集団からRNAを抽出し、Smart-seq2 protocol (Nature Protocols 9, 171-181 (2014) doi:10.1038/nprot.2014.006) に従ってRNA-seqライブラリを作成した。得られたライブラリを、nextseq high output kit (37bp ペアエンドリード)を用いて Nextseq500 (Illumina)でシークエンスした。Illuminaの bcl2fastq v2.17.1.14 をデフォルトのパラメータおよび--no-lane-splitting オプションで用いて、ベースコールの fastq フォーマットへの変換とデマルチプレックス(demultiplex)を行った。TrimGalore(http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/trim_galore/)を用いてリードをトリムし、RSEM(Li et al., BMC Bioinformatics 12, 323 (2011); バージョンはSTAR-2.5.2b)を用いてマッピングとカウント(定量)を行った。サンプル間の発現変動解析はDESeq2(Love et al., Genome Biol. 15, 550 (2014))を用いて行った。発現変動遺伝子(DEGs)をIngenuity Pathway Analysis (IPA) ソフトウェア(https://www.qiagenbioinformatics.com)にアップロードし、DEGsと最も関連性の高い生物学的パスウェイおよび機能を抽出した。RSEMで得たTPM(Transcripts Per kilobase Million)カウントに1を加えてlog2変換した値(log2(TPM+1))に基づき、AltAnalyze_v.2.1.0-PyのICGSアルゴリズムを用いてクラスタリング解析を行った。
【0095】
10.トランスクリプトーム解析(シングルセルRNA-seq)
単細胞浮遊液を調製し、自動セルカウンター TC20 (BioRad) で細胞生存を評価した。ddSEQ Single-Cell Isolator および SureCell WTA 3’ Library prep kit を製造元のプロトコールに従って使用し、シングルセルRNA-seq ライブラリを作成した。得られたライブラリを、Nextseq high output kit (Read1:68bp, Read2:75bp)を用いて Nextseq500 (Illumina) でシークエンスした。Illuminaの bcl2fastq v2.17.1.14 をデフォルトのパラメータおよび--no-lane-splitting オプションで用いて、ベースコールの fastq フォーマットへの変換とデマルチプレックス(demultiplex)を行った。細胞バーコード領域に生じる可能性のある合成上およびシークエンシング上のエラーは Edit distance (ED)<2 で修正した。Drop-Seq Tools v1.12 (STARバージョンはSTAR-2.5.2b) を用いてリードを解析(マッピングと定量)し、デジタル発現マトリックスを生成した。得られたマトリックスを voom (limma 3.32.10)を用いて標準化した。該標準化されたマトリックスに基づき、AltAnalyze_v.2.1.0-Py をデフォルト設定で用いてICGSアルゴリズムによるクラスタリング解析を行った。また、該標準化されたマトリックスに基づき、tSNEアルゴリズム(Rtsneを使用)による次元圧縮とhclust(method=ward.D2)を用いたクラスタリング解析を行い、結果をggplot2またはplot.lyを用いてプロットした。発現変動解析にはDESingleを使用した。
【0096】
11.FACS解析
椎骨および大腿骨から採取した骨髄細胞について、各種の表面分子に対する蛍光標識抗体を用いてFACS解析を行った。蛍光検出、ソーティング等の一連のプロセスはBD FACS Aria III systemを用いて行い、得られたデータの解析はFlowJo software Ver. 6.3.3 (Tree Star, Ashland, OR)を用いて行った。
【0097】
12.パラビオーシスおよび軟骨欠損モデル
上記3.に記載した方法で、6週齢雄の野生型マウスと6週齢雄のP0-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスを用いたパラビオーシスモデルを作成した。術後4週間で血液キメラが完成後、0.5mm径の手回しドリル(MEISINGER社製)を用いて野生型マウスの膝関節に0.5x0.5x0.5mmの軟骨欠損を作成した。軟骨欠損を作成した直後に生理食塩水100μLで希釈したHA1-44ペプチド 100μgを尾静脈より投与し、その後も同じ用量で術後4週まで2回/週の頻度で投与した。対照群には、HA1-44ペプチド投与群と同じスケジュールで、生理食塩水100μL/匹を尾静脈より投与した。膝軟骨欠損作成から12週間後に膝関節を採取し、4% パラホルムアルデヒド固定(一晩)、0.5M EDTA溶液による脱灰(3日間)、30% スクロース置換(1日間)を経て、凍結ブロックを作成した。クライオスタットを用いて厚さ10μmで薄切し、共焦点顕微鏡を用いてTomato陽性細胞の分布を解析した。また、8週齢雄の野生型マウスを用いて上記と同様に膝関節に軟骨欠損を作成し、上記と同じ用量およびスケジュールでHA1-44ペプチドを投与し、膝軟骨欠損作成から2、4、8および12週間後に膝関節を採取して組織切片のサフラニンO染色を行った。
【0098】
略語

マーカーに関して(XX、YYは所望の遺伝子/タンパク名)
XX+: XX陽性
XX-: XX陰性
YYlin+: YY系譜陽性
YYlin-: YY系譜陰性

PDGFR: platelet-derived growth factor receptor
Pα: platelet-derived growth factor receptor alpha(PDGFRα)
Pα細胞: PDGFRα陽性細胞
MSC: 間葉系幹細胞
EMSC: 外胚葉性間葉系幹細胞(ectomesenchymal stem cell)
CFPα細胞: コロニー形成性Pα細胞(colony-forming Pα cells)
iCFPα細胞: 壊死性損傷に誘導されるコロニー形成性Pα細胞(necrotic injury-induced colony-forming Pα cells)
CFU: コロニー形成単位(colony-forming unit)
LepR: レプチン受容体(Leptin receptor)
【実施例1】
【0099】
実施例1
末梢血中のiCFPα細胞の性質
Pα- H2B-GFPマウスの背部にskin flapを作成し、12時間後に採取した末梢血に含まれるPα細胞の数を調べた。その結果、skin flapを作成していない対照群と比較してskin flap 群ではPα細胞が顕著に増加しており、当該Pα細胞の増加は末梢血中のHMGB1濃度の上昇と相関が見られた(図1)。また、Pα- H2B-GFPマウスの末梢血を培養してコロニーアッセイを行った結果、対照群よりもskin flap群で顕著に多くのコロニーが得られ(全てPα陽性細胞)、CFU活性が高いことが示された(図2)。かかる結果は、壊死性組織損傷によって、末梢血中のコロニー形成性Pα細胞が増加することを示す。
さらに、skin flapを作成したマウスの末梢血を培養して得たコロニー形成性Pα細胞(即ち、iCFPα細胞)は、骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化能を示し、且つ、ケラチノサイトへの分化誘導条件において、ケラチン5(Krt5, K5)を発現する細胞へ分化する能力を示した(図3)。
【0100】
Skin flap作成後の末梢血由来CFPα細胞(iCFPα細胞)についてシングルセルトランスクリプトーム解析を行った結果、MSC等の細胞種に対応する遺伝子群の発現が高い細胞がほとんどであった(図4)。また、Krt8やKrt18等の表皮細胞に特徴的な遺伝子を発現する細胞も含まれていた。さらに、対照群とskin flap群の末梢血由来CFPα細胞をコロニー単位でトランスクリプトーム解析し、ICGSアルゴリズムでクラスタリング解析した結果、skin flap作成後のCFPα細胞が大部分を占めるクラスターでは、骨髄幹細胞やMSC等の細胞種に特徴的な遺伝子群の発現が高く、中でもHoxA2遺伝子が高発現していることが特徴的であった(図5)。
【実施例2】
【0101】
実施例2
末梢血中のiCFPα細胞の表面マーカー
対照群およびskin flap群のいずれも、末梢血を培養して得られるコロニーは全てPα陽性であった(図6)。また、skin flap群の末梢血CFPα細胞(iCFPα細胞)をシングルセルでトランスクリプトーム解析した結果、CD34陽性、且つSca1陰性であった。
【実施例3】
【0102】
実施例3
末梢血中のiCFPα細胞の細胞系譜マーカー
skin flap作成マウスの末梢血由来CFPα細胞(iCFPα細胞)を、Pα系譜、P0系譜、Prx1系譜、Sox1系譜およびLepR系譜について、Cre-loxP系を利用したトランスジェニックマウスを用いて系譜追跡したところ、iCFPα細胞は全て、Pα系譜陽性、P0系譜陽性、Sox1系譜陰性、LepR系譜陰性であった(図7)。Prx1系譜については、iCFPα細胞の93%が陰性であった(図7)。
また、平常時の血中にもPrx1系譜陽性と陰性のコロニー形成細胞がわずかに存在するが、skin flapで増加するのは専らPrx1系譜陰性の細胞であった(図8)。したがって、iCFPα細胞はPrx1系譜陰性と定義できる。
末梢血のiCFPα細胞は、P0lin+且つPrx1lin-であることから外胚葉由来であると考えられ、さらに、Sox1lin-であることおよびHoxA2遺伝子が高発現していることを考慮すると、頭部神経襞を発生学的起源とする細胞であることが示唆される。
【実施例4】
【0103】
実施例4
外胚葉由来間葉系細胞の探索
Pα- H2B-GFP::Prx1-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスから採取した大腿骨、椎骨、胸骨、腸骨、股関節(大腿骨骨頭および臼蓋)、および頭蓋骨の骨髄組織を調べたところ、Pα+且つPrx1lin-の細胞は(当該調査の範囲内では)椎骨に特異的に存在していた(図9および10)。
【実施例5】
【0104】
実施例5
椎骨および大腿骨のCFPα細胞の系譜マーカー
椎骨および大腿骨の骨髄を培養して得たCFPα細胞について、細胞系譜追跡マウスを用いてP0系譜、Prx1系譜、Sox1系譜およびLepR系譜を調べた。その結果、椎骨のCFPα細胞は、P0lin+、Prx1lin-、且つSox1lin-で、LepRlinに関しては約60%が陰性であった(図11)。大腿骨のCFPα細胞は、P0lin+、Prx1lin+、且つSox1lin-で、LepRlinに関しては約80%が陽性であった(図12)。かかる結果から、末梢血のiCFPα細胞(Pαlin+、P0lin+、Prx1lin-、Sox1lin-、LepRlin-)のソースが椎骨に存在することが示唆される。
【実施例6】
【0105】
実施例6
椎骨および大腿骨のCFPα細胞の性質
椎骨および大腿骨の骨髄を培養して得たCFPα細胞について、コロニー形成能と骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨細胞への分化能を比較したところ、いずれも椎骨CFPα細胞の方が高い能力を示した(図13~16)。また、椎骨および大腿骨のCFPα細胞をオールトランスレチノイン酸(ATRA)とBMP-4で分化誘導した結果、ケラチン5を発現するコロニーが観察され(図17および18)、椎骨および大腿骨のCFPα細胞がK5陽性細胞への分化能を有する細胞を含んでいることが確認された。
【実施例7】
【0106】
実施例7
椎骨および大腿骨のPα細胞のトランスクリプトーム解析
椎骨および大腿骨の骨髄細胞からPα細胞をソートし、シングルセルトランスクリプトーム解析を行った。クラスタリング解析の結果、骨髄のPα細胞は6つのクラスターに分かれた(図19)。当該6つのクラスターを、各クラスターの細胞が特異的に発現している遺伝子に基づいて、(1)S34-MSC(Sca1 and CD34-expressing)、(2)osteoprogenitor(Osteomodulin and Wnt16- expressing)、(3)osteoblast(osterix and osteocalcin-expressing)、(4)osteocyte(PHEX and DMP1-expressing)、(5)CAR cell(CXCL12 and LepR-expressing)、および(6)CD45-expressing cellと定義した。椎骨と大腿骨を比較すると、椎骨にはS34-MSCクラスターの細胞が多く、CARクラスターの細胞が少ないのに対し、大腿骨にはCARクラスターの細胞が多く、S34-MSCクラスターの細胞が少ないことが見て取れる。
また、S34-MSCクラスターの中には、Sca1+CD34+、Sca1+CD34-、およびSca1-CD34+の細胞が含まれていた。そこで、椎骨のPα細胞を、Sca1とCD34の発現を指標にしてFACSで分離し、CFUアッセイを行った。その結果、CFU活性は、Sca1+CD34+細胞>Sca1+CD34-細胞およびSca1-CD34+細胞>Sca1-CD34-細胞の順で高かった(図20)。
【実施例8】
【0107】
実施例8
末梢血中のPα細胞と椎骨のPα細胞との対応
末梢血中のiCFPα細胞のトランスクリプトーム解析データに基づき、椎骨および大腿骨のPα細胞と共にクラスタリング解析を行った。その結果、末梢血のiCFPα細胞は、S34-MSCクラスターの近くに位置した(図21)。また、当該末梢血iCFPα細胞は、CD34+Sca1-であった。この結果を系譜マーカーと併せて考慮すると、末梢血iCFPα細胞は椎骨のS34-MSCクラスターに含まれるCD34+Sca1-細胞に相当することが示唆される。
【実施例9】
【0108】
実施例9
骨髄内Sca1 + CD34 + 細胞
骨髄のS34-MSCクラスターに含まれるSca1+CD34+細胞は、Procrを特異的に発現していた(図22)。したがって、Procrは、増殖能が最も高く骨髄Pα細胞の中で最もヒエラルキーの高い細胞と考えられるSca1+CD34+細胞のマーカーになり得る。また、頸椎、胸椎、腰椎、大腿骨におけるSca1+CD34+細胞の存在量を調べたところ、頸椎>胸椎>腰椎>大腿骨の順で多かった(図23)。
【実施例10】
【0109】
実施例10
HMGB1投与によって誘導される血中循環細胞の組織再生に対する寄与
本発明者らはこれまでに、骨髄由来Pα陽性間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を持ったドメインとしてHMGB1タンパクのN末端の1番目から44番目のアミノ酸配列(配列番号:1)からなるペプチド(HA1-44ペプチド)を同定している。今回、HA1-44ペプチドの投与によって誘導される末梢血中の細胞に関して以下の実験結果を得た。
(1)HA1-44ペプチドを投与した系譜追跡マウスの末梢血を培養すると、対照群(生理食塩水投与)の末梢血よりも多くのコロニーが得られ、当該コロニーは全てPα陽性であり、その大部分はPrx1系譜陰性であった(図24)。
(2)Pα-Cre::Rosa26-EYFPマウスと野生型(WT)マウスのパラビオーシスモデルを作成し、野生型マウスに表皮水庖症マウスの皮膚を移植した後、HA1-44ペプチドをPα-Cre::Rosa26-EYFPマウスに投与した。その結果、植皮内の再生した上皮組織の中に、7型コラーゲンを発現するPαlin+の細胞の存在が確認された(図25)。
(3)Pα-H2B-GFP::Prx1-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスと野生型マウスのパラビオーシスモデルを作成し、野生型マウスの背部に野生型マウス新生仔の皮膚を移植した後、HA1-44ペプチドをPα-H2B-GFP::Prx1-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスに投与した。その結果、植皮内にPα+且つPrx1lin-の細胞の存在が確認された(図26)。
(4)P0-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスと野生型マウスのパラビオーシスモデルを作成し、野生型マウスの膝関節に軟骨損傷を作成した後、HA1-44ペプチドをP0-Cre::Rosa26-tdTomatoマウスに投与した。その結果、HA1-44ペプチド投与群では軟骨損傷部位にP0lin+細胞の集積が確認されたのに対し、対照群(生理食塩水投与)ではP0lin+細胞の集積は見られなかった(図27)。また、パラビオーシスモデルではない単独の野生型マウスに膝関節の軟骨損傷を作成した後、HA1-44ペプチドまたは生理食塩水を投与した結果、HA1-44ペプチド投与群では軟骨損傷部位において硝子軟骨が再生されたのに対し、生理食塩水投与群の軟骨損傷部位に見られたのは線維軟骨のみであった(図28)。
以上の結果から、HA1-44ペプチドによって誘導される末梢血中のPα細胞(Pα+P0lin+Prx1lin-細胞)は、壊死性組織損傷によって誘導されるiCFPα細胞と同じであるか、又は少なくともiCFPα細胞を含んでおり、表皮や軟骨等の組織損傷を修復する機能を果たしているものと考えられる。
【実施例11】
【0110】
実施例11
HMGB1投与によって誘導される細胞の変化
(1)HA1-44ペプチドを投与したマウスおよび生理食塩水を投与したマウスから末梢血を採取し、プラスチックプレート上で培養して接着性細胞のコロニーを得た。当該細胞について、コロニー単位でトランスクリプトーム解析を行い、得られたデータに基づいてICGSアルゴリズムでクラスタリングを行ったところ、図29のような結果を得た。また、当該クラスタリングの結果を簡略化して表したものが図30である。本願のスクリーニング方法においては、HA1-44ペプチドと同様の結果、例えば、図30と同様の予測細胞種(に対応する遺伝子セットの発現)によって特徴付けられるクラスターが形成され、各クラスターに属するコロニーの数が「クラスター1:生食群≒被験物質群、クラスター2:生食群<被験物質群、クラスター3:生食群>被験物質群、クラスター4:生食群>被験物質群」となるような結果をもたらす物質は、多能性幹細胞誘導活性を有する物質の候補として評価できる。
(2)HA1-44ペプチドを投与したマウスおよび生理食塩水を投与したマウスから採取した椎骨のPα細胞についてトランスクリプトーム解析を行い、得られたデータに基づいてIPAでパスウェイ解析を行った。その結果、HA1-44ペプチド投与群の椎骨Pα細胞では、対照群と比較してEIF2シグナリング、eIF4およびp70S6Kシグナリングの調節、およびmTORシグナリングに関連するパスウェイが活性化されていた(図31)。また、HA1-44ペプチド投与群の椎骨Pα細胞では、対照群と比較して細胞死関連遺伝子の発現が抑制されていた(図32)。
【実施例12】
【0111】
実施例12
ヒト体内におけるHMGB1ペプチドの活性
Phase I 臨床試験において、HA1-44ペプチドの静脈内投与により循環血中におけるCD45陰性、TER-119陰性、且つPDGFRβ陽性細胞が増加することが示された(図33)。PDGFRβはヒト間葉系幹細胞のマーカーであるため、本明細書に記載の末梢血中のiCFPα細胞および椎骨CFPα細胞を規定するマーカー(複数のマーカーの組み合わせを含む)において「PDGFRα」を「PDGFRβ」と読み替えたものも、ヒトにおけるEMSC(末梢血中または椎骨内のコロニー形成性PDGFR陽性細胞)を規定するマーカー(複数のマーカーの組み合わせを含む)になるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明に係る末梢血中の外胚葉性間葉系幹細胞は、従来再生医療に用いられてきた骨髄由来間葉系幹細胞よりも増殖能や多分化能が優れており、且つ、骨髄穿刺よりも低侵襲な末梢血採取という方法によって得ることが可能な治療用細胞として、細胞移植療法等に用いることができる。また、損傷組織の再生に寄与している末梢血中の外胚葉性間葉系幹細胞の特徴(マーカー等)が明らかになったことにより、当該細胞を指標として、体内の多能性幹細胞を誘導する活性を持った物質を効率的にスクリーニングすることが可能になる。
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【配列表】
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