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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】ナノセルロース複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/215 20060101AFI20240619BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240619BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240619BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C08J3/215 CEP
C08L1/02
C08K5/098
C08J5/18 CEX
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020083910
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021178906
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501172235
【氏名又は名称】シャボン玉石けん株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 義人
(72)【発明者】
【氏名】川野 哲聖
(72)【発明者】
【氏名】川原 貴佳
(72)【発明者】
【氏名】完山 陽秀
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-533321(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024876(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロース及び石けんの懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、
前記懸濁液を凍結乾燥させる凍結乾燥工程と、
を備えていることを特徴とするナノセルロース複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記ナノセルロース及び石けんの配合割合が、質量比で、1~100:1であることを特徴とする請求項記載のナノセルロース複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記懸濁液における溶液の配合割合が、質量比で、石けんの10~200倍であることを特徴とする請求項又は記載のナノセルロース複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記懸濁液調製工程において、加熱下で懸濁液を調製することを特徴とする請求項のいずれか記載のナノセルロース複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノセルロース複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、最も豊富な再生可能な物質であり、古い時代から近代技術社会に至るまで継続して使用されている。植物由来の繊維であるセルロースは、環境負荷が小さく、かつ持続型資源であるとともに、高弾性率、高強度、低線膨張係数などの優れた特性を有する。そのため、幅広い用途、例えば、紙、フィルムやシートなどの材料、樹脂の複合材料(例えば、樹脂の補強剤)などとして利用されている。特に、微細化したナノセルロース(ナノファイバーなど)は、樹脂の補強剤として有用であり、樹脂との複合化に向けて多くの試みがなされている(特許文献1参照)。
【0003】
このような樹脂との複合化等に用いられるナノセルロースの製造においては、ナノセルロースが大量の水に分散した状態で得られる。この水分散したナノセルロースをオーブン乾燥などで乾燥すると、ナノセルロースが凝集することが知られている。この凝集を防止すべく、凍結乾燥が用いられることがあるが、凍結乾燥においても十分にナノセルロースの凝集を抑制することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-166818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、凝集が抑制され、これにより、樹脂や溶媒への分散性が向上したナノセルロース複合材料、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究した結果、ナノセルロースと石けんとの懸濁液を凍結乾燥して複合化することにより、ナノセルロースの凝集を抑制することができることを見いだした。また、このように製造されたナノセルロース複合材料は、樹脂や溶媒への高い分散性を示すことを見いだした。本発明は、このような知見によりなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]ナノセルロースに石けんが配合されていることを特徴とするナノセルロース複合材料。
[2]前記ナノセルロース及び石けんの配合割合が、質量比で、1~100:1であることを特徴とする上記[1]記載のナノセルロース複合材料。
[3]前記石けんが、脂肪酸ナトリウムであることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のナノセルロース複合材料。
[4]粉体であることを特徴とする上記[1]~[3]記載のナノセルロース複合材料。
[5]樹脂に、上記[1]~[4]のいずれか記載のナノセルロース複合材料が配合されていることを特徴とするナノセルロース複合材料含有樹脂。
【0008】
[6]ナノセルロース及び石けんの懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、前記懸濁液を凍結乾燥させる凍結乾燥工程と、を備えていることを特徴とするナノセルロース複合材料の製造方法。
[7]前記ナノセルロース及び石けんの配合割合が、質量比で、1~100:1であることを特徴とする上記[6]記載のナノセルロース複合材料の製造方法。
[8]前記懸濁液における溶液の配合割合が、質量比で、石けんの10~200倍であることを特徴とする上記[6]又は[7]記載のナノセルロース複合材料の製造方法。
[9]前記懸濁液調製工程において、加熱下で懸濁液を調製することを特徴とする上記[6]~[8]のいずれか記載のナノセルロース複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明ナノセルロース複合材料は、凝集が抑制された材料であり、樹脂や溶媒への分散性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のCNF/石けん複合材料のSEM画像である。(A)は1000倍拡大写真であり、(B)は2000倍拡大写真である。
図2】本発明のCNF/石けん複合材料の動的光散乱法(DLS)を用いた粒子径測定の結果を示す図である。
図3】CNF及び石けんの質量比を変更した場合の本発明のCNF/石けん複合材料の性状を示す図である。
図4】CNF及び石けんの質量比を変更した場合の本発明のCNF/石けん複合材料の液中の分散状態を示す図である。
図5】本発明のCNF/石けん複合材料を配合した樹脂シートの引張強度試験の結果を示す図である。
図6】本発明のCNF/石けん複合材料を配合したポリビニルアルコールシートの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のナノセルロース複合材料は、ナノセルロースに石けんが配合されていることを特徴とする。
【0012】
本発明のナノセルロース複合材料は、石けんの配合効果により、その製造過程における凝集が防止される。また、この凝集が防止されたナノセルロース複合材料は、樹脂や溶媒への高い分散性を示す。
【0013】
(ナノセルロース)
本発明におけるナノセルロースは、天然セルロース、合成セルロースを微小化して調製することができる。天然セルロースとしては、植物由来のセルロースを挙げることができ、具体的に、広葉樹系パルプ、針葉樹系パルプ、竹、油やし等を例示することができる。
【0014】
天然セルロース等を微小化してナノセルロースとする方法としては、公知の種々の方法を挙げることができる。具体的には、高圧ホモジナイザー法、ボールミル粉砕法、グラインダー摩砕法、強剪断力混練法、凍結粉砕法等を例示することができる。
【0015】
ここで、ナノセルロースとしては、セルロースナノファイバー、セルロースマイクロクリスタル等を挙げることができ、セルロースナノファイバーが好ましい。ナノセルロースの形態としては、凝集が抑制された粉体であることが好ましい。
【0016】
本発明のナノセルロースとしては、化学修飾したものであってもよい。例えば、カチオン性、アニオン性、ノニオン性の変性セルロースを用いることができる。
【0017】
ナノセルロースの重合度(粘度法)としては、100~3000であることが好ましく、200~1500であることがより好ましく、200~1000であることがさらに好ましく、500~750であることが特に好ましい。具体的には、例えば、IMa-100、BMa-100、WFo-100、AFo-100、FMa-100(株式会社スギノマシン製)を挙げることができる。
【0018】
(石けん)
本発明の石けんは、天然油脂や、天然油脂由来の脂肪酸を原料として製造された脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウムをいい、炭素数が10~20程度のものが好適である。その製造方法としては、油脂そのものをアルカリで加水分解する鹸化法、油脂から取り出した脂肪酸とアルカリを直接反応させる中和法のいずれであってもよい。天然油脂としては、例えば、ヤシ油、パーム油、牛脂、オリーブ油を挙げることができる。
【0019】
ナノセルロース及び石けんの配合割合としては、質量比で、1~100:1であることが好ましく、1~30:1であることがより好ましく、1~25:1であることがさらに好ましく、1.5~20:1であることが特に好ましい。
【0020】
(ナノセルロース複合材料の製造方法)
本発明のナノセルロース複合材料の製造方法は、ナノセルロース及び石けんの懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、懸濁液を凍結乾燥させる凍結乾燥工程とを備えている。
【0021】
懸濁液調製工程においては、上記ナノセルロース及び石けんの配合割合で混合し、懸濁液を調製する。懸濁液調製工程における懸濁液の溶液(溶媒)の配合割合は、石けんが溶解する範囲で少ない方が好ましく、例えば、質量比で、石けんの10~200倍であることが好ましく、20~100倍であることがより好ましく、20~50倍であることがさらに好ましい。また、懸濁は、石けんの溶解性を高めるために、加熱条件下で行うことが好ましい。加熱温度としては、50~90℃程度が好ましい。
【0022】
凍結乾燥工程における凍結乾燥は、従来の通常のナノセルロースの製造と同様に行うことができる。
【0023】
(ナノセルロース複合材料含有樹脂)
上記本発明のナノセルロース複合材料は、樹脂に配合した場合、高い分散性を示す。
ナノセルロースを配合する樹脂としては、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリアミド、ナイロン、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸や、これらの共重合体を挙げることができる。これらの樹脂は混合して用いてもよい。
【0025】
熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、ラテックスや、これらの共重合体を挙げることができる。これらの樹脂は混合して用いてもよい。
【0026】
樹脂に対するナノセルロースの配合量としては、質量比で、樹脂100に対して0.1~30であることが好ましく、1~20であることがより好ましく、1.5~15であることがさらに好ましく、2~10であることが特に好ましい。
【実施例
【0027】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0028】
[ナノセルロース(セルロースナノファイバー)及び石けんの複合材料の調製]
5質量%セルロースナノファイバー(CNF)懸濁液(水分散ゲル)60gと、石けん(シャボン玉石けん株式会社製)1.5gとをヒータ上で、80℃にて30分撹拌を行い、CNF/石けん分散液を回収した。次いで、このCNF/石けん分散液を凍結乾燥し、粉末状のCNF/石けん(2:1)複合材料(本発明のナノセルロース複合材料)を得た。
【0029】
[ナノセルロース複合材料の特性評価]
上記調製方法で得られたCNF/石けん複合材料の特性評価を行った。
【0030】
(SEM観察)
図1は、CNF/石けん複合材料のSEM画像を示す。図1に示すように、CNF/石けん複合材料は、CNFが解繊され、密な表面形状が観察された。
【0031】
(粒子サイズ測定)
CNF/石けん複合材料について、動的光散乱法(DLS)を用いて粒子径の測定を行った。図2に、その結果を示す。図2に示すように、CNF/石けん複合材料の粒子径は小さくなっており、これは、CNFが解繊されたものと考えられる。
【0032】
[セルロースナノファイバー及び石けんの配合比の検討]
CNF及び石けんの質量比を変更して、CNF/石けん複合材料を調製した。
【0033】
(性状)
各配合比のCNF/石けん複合材料の性状を図3に示す。図3に示すように、CNF/石けん複合材料は、CNF及び石けんの各配合比(1.5~20:1)において、凝集が抑制され、粉体状のものが得られた。
【0034】
(有機溶媒への分散性試験)
各配合比のCNF/石けん複合材料の水及び有機溶媒への分散性を確認した。なお、比較として、CNFの凍結乾燥品を用いた。有機溶媒としては、エタノール、アセトン、クロロホルム、DMF、DMSO、n-ヘキセン、トルエンを用いた。具体的には、CNF/石けん複合材料と水又は有機溶媒とを混合して10mg/mlとし、2時間の超音波処理を行った。
【0035】
図4に、各配合比のCNF/石けん複合材料の分散状態を示す。図4に示すように、全体として水及び有機溶媒に対する分散性が向上していることが確認できる。特に、比較例に係るCNF凍結乾燥品では全く分散しなかったエタノール、アセトン、n-ヘキサン、トルエンに対しても、優れた分散性を示した。
【0036】
[CNF/石けん複合材料を配合した樹脂組成物の調製]
【0037】
<ポリビニルアルコール(PVAとの複合化)>
(調製方法1)
ポリビニルアルコール(PVA)4gと水100mlとの混合液を、80℃にて1時間攪拌した。その後、CNF/石けん複合材料(2:1wt%)0.12gを添加して攪拌し、凍結乾燥した後、プレス機を用いてシート成型を行った(200℃、30秒)。
【0038】
(調製方法2)
CNF/石けん複合材料(2:1wt%)0.12gと水50mlとを1分間ホモジナイザー処理した。このホモジナイザー処理したCNF/石けん複合材料を、ポリビニルアルコール(PVA)4gと水50mlとの混合液に添加し、80℃にて1時間攪拌した。その後、CNF/石けん複合材料(2:1wt%)0.12gを添加して攪拌し、凍結乾燥した後、プレス機を用いてシート成型を行った(200℃、30秒)。
【0039】
上記調製方法1及び2で製造した本発明の樹脂シートについて、引張強度及びヤング率を確認した。なお、比較として、CNF/石けん複合材料を配合しないポリビルアルコール(比較1)、及び石けんのみを配合したポリビニルアルコール(ナノセルロース配合なし)(比較2)を用いた。
【0040】
具体的には、得られたシートをダンベルカッターSDL-100(株式会社ダンベル)を用いてダンベル型に切断後、測定した。試験片の平行部は、幅3mm、長さ30mmであった。試験片の切断後、コンパクト引張試験機IMC-18E0(井元製作所、京都、日本)を用いて測定した。各サンプル10mm/minの引張速度で最低3回試験を行った。
結果を表1及び図5に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1及び図5に示すように、本発明のCNF/石けん複合材料を配合した樹脂シートは、引張強度及びYoung率の向上が見られた。
【0043】
また、キャスト法により製造したCNF/石けん複合材料(3質量%)を配合したポリビニルアルコールシートの外観を図6に示す。
図6に示すように、CNF/石けん複合材料が均一に分散していることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のナノセルロース複合材料は、樹脂等に配合して用いることができることから、産業上有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6