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特許7506404金属膜の製造方法、金属膜形成用組成物及び金属膜積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】金属膜の製造方法、金属膜形成用組成物及び金属膜積層体
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/40 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
C23C18/40
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020180874
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2021070873
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2019196521
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光史
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕己
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-075379(JP,A)
【文献】特開2009-256218(JP,A)
【文献】国際公開第2019/093121(WO,A1)
【文献】特開昭58-104169(JP,A)
【文献】特表2006-516818(JP,A)
【文献】特表2017-516887(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0153078(US,A1)
【文献】特表2019-527770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種と、溶媒と、を含む混合液中で、前記金属錯体及び前記金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と前記アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種とを反応させて金属前駆体液を得る工程、
得られた金属前駆体液と、有機還元剤と、を含む金属膜形成用組成物を調製する工程、及び、
得られた金属膜形成用組成物を基材に付与する工程、を含み、
前記金属錯体及び前記金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属が、銀、銅、リチウム、ニッケル、マンガン、亜鉛、及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記有機還元剤は、アスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、金属膜の製造方法。
【請求項2】
前記金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる金属と異なる金属の含有量が、金属膜に対し、X線回折を入射角0.3°の平行ビーム光学系で、2θが10°~80°まで0.05°ステップで、固定時間5°/分ずつ強度を測るX線回折による分析で検出限界以下である金属膜を得る請求項1に記載の金属膜の製造方法。
【請求項3】
金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種と、溶媒と、を含む混合液中で、前記金属錯体及び前記金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と前記アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種とを反応させて金属前駆体液を得る工程、
得られた金属前駆体液と、有機還元剤と、を含む金属膜形成用組成物を調製する工程、及び、
得られた金属膜形成用組成物を基材に付与する工程、を含み、
前記金属前駆体液を得る工程は、金属イオンを透過させず、水素イオンを透過させ得るフィルタを備えた流路を介して連結された一対の電解液槽を備える反応装置において、前記一対の電解液槽のそれぞれにアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種を含む電解液を貯留させ、且つ、金属製の電極を、前記電解液に少なくとも一部が接触する位置に配置し、一対の前記電極間を、直流電源を介して接続し、前記一対の前記電極間に前記直流電源により電圧を印加して、陽極となる電極が浸漬された電解液槽内において、前記電解液と金属イオンとを反応させる工程を含む、金属膜の製造方法。
【請求項4】
前記金属イオンが銅イオンであり、且つ、前記電極が銅製の電極である請求項3に記載の金属膜の製造方法。
【請求項5】
前記電解液は、エチレンジアミン四酢酸を含む請求項3又は請求項4に記載の金属膜の製造方法。
【請求項6】
前記有機還元剤は、カルボキシ基を有する化合物から選択される少なくとも1種を含む請求項~請求項5のいずれか1項に記載の金属膜の製造方法。
【請求項7】
前記有機還元剤は、アスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項~請求項6のいずれか1項に記載の金属膜の製造方法。
【請求項8】
前記金属膜形成用組成物を基材に付与する工程は、金属膜形成用組成物を基材に塗布する工程、金属膜形成用組成物に基材を浸漬する工程、及び容器形状の基体の内部に金属膜形成用組成物を貯留する方法、の少なくともいずれかを含む請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の金属膜の製造方法。
【請求項9】
基材に付与した金属膜形成用組成物を乾燥する工程を、さらに含む請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の金属膜の製造方法。
【請求項10】
金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種と、溶媒と、を含む混合液中で、前記金属錯体及び前記金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と前記アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種とを反応させて金属前駆体液を得る工程、
得られた金属前駆体液と、有機還元剤と、を含む金属膜形成用組成物を調製する工程、及び、
得られた金属膜形成用組成物を基材に付与する工程、を含み、
基材に付与した金属膜形成用組成物を乾燥する工程を、さらに含み、
金属膜形成用組成物を基材に付与する工程と、基材に付与した金属膜形成用組成物を乾燥する工程とを、複数回行う、金属膜の製造方法。
【請求項11】
金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を含む金属前駆体液、並びにアスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸からなる群より選択される少なくとも1種の有機還元剤を含み、
前記有機還元剤100質量部に対する前記金属前駆体液に含まれる金属イオンの含有量が50質量部~400質量部の範囲であり、
前記金属錯体及び前記金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属が、銀、銅、リチウム、ニッケル、マンガン、亜鉛、及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む金属膜形成用組成物。
【請求項12】
非導電性基材、及び、
前記非導電性基材上に、金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を含む金属前駆体液、並びにアスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸からなる群より選択される少なくとも1種の有機還元剤を含み、前記有機還元剤100質量部に対する前記金属前駆体液に含まれる金属イオンの含有量が50質量部~400質量部の範囲であり、
前記金属錯体及び前記金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属が、銀、銅、リチウム、ニッケル、マンガン、亜鉛、及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む金属膜形成用組成物を硬化した硬化物である金属膜を有する金属膜積層体の製造方法
【請求項13】
前記金属膜は、金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる金属と異なる金属の含有量が、金属膜に対し、X線回折を入射角0.3°の平行ビーム光学系で、2θが10°~80°まで0.05°ステップで、固定時間5°/分ずつ強度を測るX線回折による分析で検出限界以下である金属膜である請求項12に記載の金属膜積層体の製造方法
【請求項14】
前記非導電性基材は、JIS K7191(2015年)に規定される荷重たわみ温度及び長期耐熱連続試験(UL-746B(2013年))による連続耐熱温度の少なくとも一方が150℃未満である樹脂を含む請求項12又は請求項13に記載の金属膜積層体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属膜の製造方法、金属膜形成用組成物及び金属膜積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気伝導性及び熱伝導性に優れる金属膜、或いは金属酸化物膜は種々の用途に使用される。金属膜等は厚みを薄くすることにより光透過性を有する膜とすることができる。
例えば、電気伝導性が高く、抗菌性を有する銅膜は、基材表面における導電層、電磁波シールド、抗菌性部材等の形成に有用である。また、金属膜は熱伝導性が良好であり、例えば、照明設備等に使用することで放熱部材としての機能を発現させることができる。
金属膜或いは金属酸化物膜、特にミクロンオーダー或いはナノオーダーの厚みの金属薄膜は、気相法で形成されることが一般的である。しかしながら、スパッタリング等の気相法は、製膜に大がかりな装置を使用することから、湿式法による金属膜の製造方法が各種検討されている。
【0003】
一般に用いられる湿式法による金属膜の製造方法としては、電解メッキ法、無電解メッキ法等が挙げられ、いずれの方法によっても、ミクロンオーダーの厚みの金属膜を形成することができる。
しかし、電解メッキ法では、基材を電極として用いて金属膜を形成することから、基材の電気伝導性が不可欠であり、ガラス基材等の無機材料の基材には適用し難い。
無電解メッキ法によれば、無機材料の基材上に金属膜を析出させることができる。しかし、無電解メッキ液に含まれる触媒等の種類によっては、形成された金属膜の物性に影響を与えることがある。例えば、無電解メッキ液が金属触媒を含む場合、金属触媒が形成された金属膜中に残存し、金属膜が腐食するなどの問題が生じやすい。
【0004】
基材上に金属膜形成用組成物を付与して金属膜を形成する方法によれば、メッキ法の如き湿式法にて基材上に金属膜を析出させる方法に比較して、金属膜の組成、基材等の選択の自由度が高い。
太陽電池などの銅配線を形成する銅ペースト剤又は電着用溶液に用い得る銅ナノ粒子分散液の製造方法として、銅イオンとクエン酸とを含む第1の水溶液と、アスコルビン酸を含む第2の水溶液とを混合して銅ナノ粒子の分散物を得る銅ナノ粒子の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、本発明者らは、先に、金属膜の形成に有用な特定構造の金属錯体を含む金属膜形成用組成物を提案した(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-71816号公報
【文献】国際公開第2017/134769号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、得られた銅ナノ粒子は酸化し難い特性を有するため、配線の酸化物に起因する電気伝導性の低下が抑制される。しかし、得られた銅ナノ粒子を用いて配線などの金属膜を形成する場合、銅ナノ粒子に付着したアスコルビン酸を除去するため、銅ナノ粒子分散液で形成した層を窒素雰囲気下、190℃以上の温度で焼結する必要がある。このため、特許文献1に記載の方法では、金属基材以外の耐熱性に乏しい基材への配線等の金属膜の形成は困難である。
【0007】
特許文献2に記載の金属膜形成用組成物は、緻密な金属膜の形成に有用である。しかし、金属膜形成用組成物の製造に際しては、金属錯体を形成し得る金属塩化合物を溶媒に溶解して調製することが必要であった。また、金属膜の形成における加熱温度は従来の焼結温度に比較して低く抑えられているが、電気伝導性の金属膜の形成には100℃程度の加熱が望ましいとされている。このため、製造方法の観点からは、金属塩化合物を経ることなく、目的とする金属錯体を得る方法が望まれる。さらに、基材の汎用性を考慮すれば、加熱を行うことなく、電気伝導性の金属膜を形成する方法が望まれている。
【0008】
近年、半導体を用いた回路の作製に用いる金属膜形成用組成物については種々検討されている。しかし、電気伝導性及び熱伝導性を有する銅等の半導体以外の金属を用いた金属膜形成用組成物の製造方法、及び金属膜の製造方法については、未だ実用上満足できるものは得られていないのが現状である。また、いずれの金属膜形成用組成物も、電気伝導性を有する緻密な金属膜の形成には、焼結処理、100℃以上の温度での加熱処理等が必要であり、加熱処理を必要とせず、緻密な金属膜を形成する方法が望まれている。
【0009】
本発明の一実施形態の課題は、100℃以上の加熱処理を必要とせず、任意の基材上に、緻密な金属膜を簡易に形成し得る金属膜の製造方法を提供することである。
本発明の他の実施形態の課題は、100℃以上の加熱処理を必要とせず、任意の基材上に、緻密な金属膜を簡易に形成し得る金属膜形成用組成物、及び上記金属膜形成用組成物の硬化物である金属膜を有する金属膜積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決手段は、以下の実施形態を含む。
<1> 金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種と、溶媒と、を含む混合液中で、前記金属錯体及び前記金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と前記アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種とを反応させて金属前駆体液を得る工程、得られた金属前駆体液と、有機還元剤と、を含む金属膜形成用組成物を調製する工程、及び、得られた金属膜形成用組成物を基材に付与する工程、を含む金属膜の製造方法。
<2> 前記金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる金属と異なる金属の含有量がX線回折による分析で検出限界以下である金属膜を得る<1>に記載の金属膜の製造方法。
【0011】
<3> 前記金属前駆体液を得る工程は、金属イオンを透過させず、水素イオンを透過させ得るフィルタを備えた流路を介して連結された一対の電解液槽を備える反応装置において、前記一対の電解液槽のそれぞれにアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種を含む電解液を貯留させ、且つ、金属製の電極を、前記電解液に少なくとも一部が接触する位置に配置し、一対の前記電極間を、直流電源を介して接続し、前記一対の前記電極間に前記直流電源により電圧を印加して、陽極となる電極が浸漬された電解液槽内において、前記電解液と金属イオンとを反応させる工程を含む、<1>又は<2>に記載の金属膜の製造方法。
<4> 前記金属イオンが銅イオンであり、且つ、前記電極が銅製の電極である<3>に記載の金属膜の製造方法。
<5> 前記電解液は、エチレンジアミン四酢酸を含む<3>又は<4>に記載の金属膜の製造方法。
【0012】
<6> 前記有機還元剤は、カルボキシ基を有する化合物から選択される少なくとも1種を含む<1>~<5>のいずれか1つに記載の金属膜の製造方法。
<7> 前記有機還元剤は、アスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>~<6>のいずれか1つに記載の金属膜の製造方法。
<8> 前記金属膜形成用組成物を基材に付与する工程は、金属膜形成用組成物を基材に塗布する工程、金属膜形成用組成物に基材を浸漬する工程、及び容器形状の基体の内部に金属膜形成用組成物を貯留する方法、の少なくともいずれかを含む<1>~<7>のいずれか1つに記載の金属膜の製造方法。
<9> 基材に付与した金属膜形成用組成物を乾燥する工程を、さらに含む<1>~<8>のいずれか1つに記載の金属膜の製造方法。
<10> 金属膜形成用組成物を基材に付与する工程と、基材に付与した金属膜形成用組成物を乾燥する工程とを、複数回行う<9>に記載の金属膜の製造方法。
【0013】
<11> 金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を含む金属前駆体液、並びにアスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸からなる群より選択される少なくとも1種の有機還元剤を含み、前記有機還元剤100質量部に対する前記金属前駆体液に含まれる金属イオンの含有量が50質量部~400質量部の範囲である金属膜形成用組成物。
【0014】
<12> 非導電性基材、及び、前記非導電性基材上に、金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を含む金属前駆体液、並びにアスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸からなる群より選択される少なくとも1種の有機還元剤を含み、前記有機還元剤100質量部に対する前記金属前駆体液に含まれる金属イオンの含有量が50質量部~400質量部の範囲である金属膜形成用組成物の硬化物ある金属膜を有する金属膜積層体。
<13> 前記金属膜は、金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる金属と異なる金属の含有量がX線回折による分析で検出限界以下である金属膜である<12>に記載の金属膜積層体。
<14> 前記非導電性基材は、JIS K7191(2015年)に規定される荷重たわみ温度及び長期耐熱連続試験(UL-746B(2013年))による連続耐熱温度の少なくとも一方が150℃未満である樹脂を含む<12>又は<13>に記載の金属膜積層体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、100℃以上の加熱処理を必要とせず、任意の基材上に、緻密な金属膜を簡易に形成し得る金属膜の製造方法を提供することができる。
本発明の他の実施形態によれば、100℃以上の加熱処理を必要とせず、任意の基材上に、緻密な金属膜を簡易に形成し得る金属膜形成用組成物及び上記金属膜形成用組成物の硬化物である金属膜を有する金属膜積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の金属膜の製造方法において、金属前駆体液の調製に用いる反応装置の一例を示す概略図である。
図2】石英ガラス板上に実施例1及び実施例2の製造方法で形成した銅膜のXRDパターンである。
図3】(A)は、石英ガラス板上に実施例1の製造方法で形成した銅膜の断面FE-SEM像であり、(B)は、石英ガラス板上に実施例2の製造方法で形成した銅膜の断面FE-SEM像である。
図4】(A)は、石英ガラス板上に実施例1の製造方法で形成した銅膜の表面FE-SEM像であり、(B)は、石英ガラス板上に実施例2の製造方法で形成した銅膜の表面FE-SEM像である。
図5】片端封止ガラス管内に本開示の方法により形成された銅膜、及び銅膜の内部抵抗を測定するために銅膜に取り付けられた測定端子方法の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の金属膜の製造方法について、具体的な実施形態を挙げて詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されず、その主旨に反しない限りにおいて、種々の変形例により実施することができる。
【0018】
本開示において「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示においては、特に断らない限り、室温及び常温は25℃を意味する。
【0019】
<金属膜の製造方法>
本開示の金属膜の製造方法(以下、単に「本開示の製造方法」と称することがある)は、金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種と、溶媒と、を含む混合液中で、前記金属錯体及び前記金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と前記アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種とを反応させて金属前駆体液を得る工程(工程I)、得られた金属前駆体液と、有機還元剤と、を含む金属膜形成用組成物を調製する工程(工程II)、及び、得られた金属膜形成用組成物を基材に付与する工程(工程III)、を含む。
【0020】
(工程I)
工程Iでは、金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種と、溶媒と、を含む混合液中で、前記金属錯体及び前記金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種と前記アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種と、を反応させて金属前駆体液を得る。
【0021】
-金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種-
混合液は、金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を、以下、特定金属化合物と総称することがある。
混合液が金属錯体を含む場合、金属錯体が混合液中に存在するアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種と反応する。
混合液が金属塩を含む場合、溶媒を含む混合液中で金属塩が解離して金属イオンとなり、金属イオンは混合液中に存在するアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種と反応して金属錯体を形成する場合がある。
混合液は、金属錯体及び金属塩の双方を含んでもよい。
【0022】
「金属塩」は、水を含む溶媒中で解離して金属イオンとなり、金属錯体を形成し得る機能を有する金属化合物である。
本開示における「金属塩」とは、25℃の水に可溶な金属塩を指す。25℃の水に可溶とは、25℃の水に対する溶解度が0.1質量%以上であることを指し、溶解度は1質量%以上であることが好ましい。
金属塩が水に可溶であることで、金属塩は水を含む溶媒中で解離して金属イオンとなり、当該金属イオンが溶媒中に含まれるアミン類と反応して金属錯体が得られる。さらに、溶媒中に所望により後述の錯体形成用の化合物が含まれる場合には、当該金属イオンと錯体形成用の化合物とが反応して金属錯体が形成される場合がある。
【0023】
混合液が含み得る金属錯体は、金属錯体を生成し得るNH配位子、RNH配位子(Rはアルキレン基を表す)、OH配位子、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン由来の配位子を部分構造として有する化合物から選ばれる金属錯体形成用の化合物の1種以上と、金属イオンとの反応生成物であることが好ましい。
金属錯体は、上記反応により予め生成された金属錯体を用いることができる。
金属錯体における金属としては、形成される金属膜の目的に応じた金属を用いればよい。金属としては、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)等が挙げられる。
混合液が金属錯体を含む場合の金属錯体としては、例えば、金属として銅(Cu)を含む、エチレンジアミン四酢酸銅、テトラアンミン銅等が好ましく挙げられる。形成される金属膜の電気及び熱の伝導性が良好であるという観点からは、Cu、Ag等が好ましく、Cuがより好ましい。
金属錯体としては、具体的には、例えば、金属として銅(Cu)を含む、エチレンジアミン四酢酸銅、テトラアンミン銅等が好ましく挙げられる。
【0024】
混合液が、金属塩を含む場合、金属塩は、既述のように、混合液に含まれるアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種と反応して金属錯体を形成することができる。
例えば、混合液が、金属塩としてギ酸銅と、後述のアミン類に包含されるアンモニアとを含む場合、混合液中において、ギ酸銅由来の銅イオンと過剰のアンモニアとが反応して、金属錯体であるテトラアンミン銅が生成される。
【0025】
また、混合液中に、金属イオンと反応して金属錯体を生成し得る化合物、例えば、NH配位子、RNH配位子(Rはアルキレン基を表す)、OH配位子、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン由来の配位子を部分構造として有する化合物から選ばれる金属錯体形成用の化合物の1種以上をさらに含むことで、所望の配位子を有する金属錯体を、混合液中に生成することができる。
金属錯体形成用の化合物としては、より具体的には、アンモニア、ギ酸アンモニウム、及びエチレンジアミン四酢酸(下記構造、以下、HEDTAと称することがある)から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、これらの化合物は、水溶液として混合液中に含まれることが好ましい。なかでも、混合液は、金属錯体形成用化合物としてのHEDTA水溶液を含むことがより好ましい。
【0026】
【化1】


【0027】
金属塩における金属は、金属錯体における金属と同様に、形成しようとする金属膜に応じた金属を選択すればよい。形成される金属膜の目的に応じた金属としては、Ag、Cu、Li、Ni、Mn、Zn、Co等が挙げられ、形成される金属膜の電気及び熱の伝導性が良好であるという観点からは、Cu、Ag等が好ましく、Cuがより好ましい。
混合液中で金属塩由来の金属錯体を形成する場合には、混合液中には、金属イオンになりやすい金属塩を含むことが好ましい。銅を含み、溶媒中で銅イオンとなりやすい金属塩としては、例えば、ギ酸銅、酢酸銅、塩化銅などが挙げられる。
混合液は、特定金属化合物を1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。
【0028】
混合液が金属塩を1種のみ含む場合でも、金属錯体形成用の化合物、例えば、エチレンジアミンをさらに含有させることで、混合液は、金属塩とアミン類との反応生成物である金属錯体と、金属塩とエチレンジアミンとの反応生成物である金属錯体との、互いに異なる配位子を有する2種の特定金属化合物を含有することになる。
混合液が特定金属化合物を2種以上含有する場合、金属塩と予め調製された金属錯体の双方を含有させてもよく、予め調整された互いに異なる配位子を有する金属錯体を2種以上含有させてもよい。
また、混合液が特定金属化合物を2種以上含有する場合、例えば、同じ金属を含み配位子の異なる金属錯体同士の組み合わせ、異なる金属を含む金属錯体同士の組み合わせのいずれであってもよい。合成適性上は、同種の金属を含む金属錯体同士の組み合わせであることが好ましい。
【0029】
-アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種-
混合液は、アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種を含む。
本開示におけるアミンは、第一級アミン、第二級アミン、及び第三級アミンを包含する。アミンとしては、アルキルアミン等が挙げられる。混合液は、アミンに換えて、又はアミンに加えて、アンモニアを含むことができる。アンモニアは、アミンと同様の塩基性を有することから、以下、アンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種を「アミン類」と総称することがある。
アミン類は、混合液中に、塩化合物として含まれていてもよい。
混合液は、アミン類を1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。
アミン類は塩基性を有し、混合液中において、既述の特定金属化合物と反応し、金属前駆体液が得られる。
【0030】
-溶媒-
混合液は、溶媒を含む。
既述の特定金属化合物、及びアミン類を溶解する溶媒としては、水、水とアルコールとの混合物などの水性溶媒を用いることができる。
水は、不純物、特に金属イオン以外のイオンの含有量が少ないことが好ましく、そのような観点からは、精製水、イオン交換水、純水などを用いることが好ましい。
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、イソブタノール、n-ブタノール等の炭素数1~10の1価のアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが挙げられる。
【0031】
特定金属化合物の溶解性及びハンドリング性の観点からは、水性溶媒として、水、又は、水と炭素数1~5の1価のアルコールとの混合物が好ましく、水、又は、水と、メタノール、エタノール及びプロパノールから選ばれるアルコールと、の混合物がより好ましく、水がさらに好ましい。
溶媒として、水とアルコールとの混合物を用いる場合の混合比率は目的に応じて適宜選択される。水とアルコールとの混合物を溶媒として用いる場合には、水とアルコールとの混合物全量に対するアルコールの含有量は1質量%~60質量%であることが好ましい。
本開示の製造方法によれば、溶媒として水を用いた場合も、特定金属化合物を含む均一な金属前駆体液が得られ、得られた金属前駆体液を用いることにより、後述の工程を経て緻密な金属膜を形成し得ることも、本開示の製造方法の利点の一つである。
【0032】
-金属前駆体液の調製-
金属前駆体液は、溶媒中に、特定金属化合物とアミン類とを含有させ、十分に撹拌して混合することで調製することができる。
混合は、常温で行ってもよく、溶解を促進する目的で、溶媒を40℃~60℃に加温して行ってもよい。
撹拌方法としては、公知の撹拌方法を適用することができる。撹拌方法としては、特定金属化合物とアミン類とを含有する溶液を容器に入れ、マグネチックスターラー等の回転子を用いて撹拌する方法、パドル等の回転式撹拌翼を備える撹拌装置にて撹拌する方法、密閉し得る容器に溶液を入れて、容器を振とうさせて撹拌する方法、超音波を照射する方法等を挙げることができる。
簡易な方法としては、撹拌翼を備えた撹拌装置を用いる方法が挙げられる。回転翼の回転速度は、300rpm(回転/分:以下同様)~800rpmとすることができ、400rpm~600rpmが好ましい。
撹拌は、特定金属化合物とアミン類との反応が十分に進行するまで行うことが好ましく、上記した、常温で回転翼を備えた撹拌装置で撹拌する場合には、30分間~90分間程度撹拌することが好ましく、50分間~80分間程度撹拌することがより好ましい。
例えば、銅錯体を含む金属前駆体液を調製する場合、十分に撹拌された金属前駆体液は、銅イオンに起因して青色を呈する。
【0033】
工程Iは、公知の分子プレカーサー法を適用して、特定金属化合物とアミン類とを反応させて金属前駆体を得る工程であってもよい。
【0034】
本開示の製造方法の工程Iは、既述のように公知のプレカーサー法を適用することができるが、より純度の高い金属前駆体を得ることができるという観点から、工程Iは、以下の工程(以下、「工程I-2」と称することがある)を含むことが好ましい。
工程I-2は、金属イオンを透過させず、水素イオンを透過させ得るフィルタ(以下、単に「フィルタ」と称することがある。)を備えた流路を介して連結された一対の電解液槽を備える反応装置において、前記一対の電解液槽のそれぞれにアミンを含む電解液を貯留させ、且つ、金属製の電極を、前記電解液に少なくとも一部が接触する位置に配置し、一対の前記電極間を、直流電源を介して接続する工程、及び、一対の前記電極間に前記直流電源により電圧を印加して、陽極(アノード)となる電極が浸漬された電解液槽内において、電極である金属由来の金属イオンと前記電解液とを反応させて金属前駆体液を得る工程である。
【0035】
以下、図面を参照して、工程I-2について説明する。
図1は、本開示の金属膜の製造方法において、工程I-2である金属前駆体液の調製に用いる反応装置の一例を示す概略図である。
図1に示す反応装置10は、金属イオンを透過させず、水素イオンを透過させるフィルタ12を備えた流路14を介して連結された、電解液を貯留する一対の電解液槽16、18を備える。
電解液槽16及び電解液槽18は、それぞれ電解液20を貯留するために用いられる。
【0036】
(金属イオンを透過させず、水素イオンを透過させるフィルタ)
一対の電解液槽16、18を連結する流路14に備えられたフィルタ12の機能により、工程Iが、工程I-2を含むことにより、金属前駆体、ひいては金属膜形成用組成物をより効率よく製造し得る。
フィルタ12は、金属のイオンを透過させず、水素イオンを透過させる半透膜としてのフィルタであれば、特に制限なく使用することができる。即ち、本開示におけるフィルタは、イオンのサイズにより透過又は非透過を制御する機能を有するフィルタである。
フィルタとしては、再生セルロース膜(セロファン)、アセチルセルロース膜、コロジオン膜などのセルロース系フィルタ、素焼き板、多孔質セラミック等のセラミックフィルタ、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエステル系ポリマーアロイなどの多孔質膜、フッ素樹脂、セルロースアセテート等を含むメンブレンフィルタ等から選ばれる半透膜などが挙げられる。
市販品としては、例えば、人工透析に用いられるセルロースフィルタとして市販されている(株)日本メデカルサイエンス、ヴィスキングチューブなどが挙げられる。
これらの半透膜から、目的とする金属膜を形成する金属、詳細には目的とする金属膜を形成する金属イオンのサイズを考慮して、適宜選択して工程I-2におけるフィルタとして用いることができる。
なかでも、電解液と常時接触しても耐久性が良好であるという観点からは、セラミックフィルタ、透析用セルロースチューブなどから選ばれるセルロースフィルタ等が好ましい。
フィルタは、金属イオン、より詳細には、後述の電極として機能する金属に直流電流を印加することで生成する金属イオン、の透過を抑制することができれば、フィルタの種類、及び厚みには特に制限はない。
【0037】
次に、一対の電解液槽16、18のそれぞれにアミン類を含む電解液20を貯留させ、且つ、金属製の電極22、24を、前記電解液20に少なくとも一部が接触する位置に配置し、一対の前記電極22、24間を、直流電源26を介して接続する。
一対の電解液槽16、18のそれぞれに電解液を貯留することと、一対の電解液槽16、18のそれぞれに前記電極22、24を配置することは、いずれを先に行なってもよく、同時に行ってもよい。後述の如く電圧を印加して金属イオンを生成させる目的で、前記電極22、24は、その少なくとも一部が電解液槽16、18中に貯留された電解液20に接触する位置に配置される。
【0038】
(電極)
電極に用いる金属は、本開示の製造方法により、形成しようとする金属膜に応じて選択すればよい。電極に用いる金属としては、既述のように、銀(Ag)、銅(Cu)、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)等が挙げられる。金属イオンを生成しやすいこと、形成された金属膜の電気及び熱の伝導性が良好であるという観点からは、電極としては、Cu、Ag等が好ましく、Cuがより好ましい。
電極としてCuを用いることで、電解液中に、金属イオンとして銅イオンが生成される。銅イオンは、銅膜の生成に有用であるという観点から好ましい。
一対の電解液槽16、18中に用いられる電極22、24は、同じ金属であることが反応性の観点から好ましい。
【0039】
(電解液)
電解液は、生成された金属イオンと反応して金属前駆体である金属イオンの錯体を形成し得る電解液を用いる。
電解液は、金属錯体を生成し得るアミン類を含有する。アミン類は、工程Iで述べたプレカーサー法において説明したアミン類と同様であり、NH配位子、RNH配位子(Rはアルキレン基を表す)、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン由来の配位子を部分構造として有する化合物から選ばれる金属錯体形成用の化合物(以下、錯体形成用の化合物と称することがある)の1種以上であることが好ましく、アミン類は水溶液として電解液に含まれることが好ましい。また、錯体形成用の化合物としては、アミン類に加え、既述の金属錯体形成用の化合物として挙げたOH配位子などを含むことができる。
錯体形成用化合物としては、より具体的には、アミン類に包含されるアンモニア、ギ酸アンモニウム、及びエチレンジアミン四酢酸(上記構造、HEDTA)から選ばれる少なくとも1種のアミンを含む水溶液であることが好ましく、HEDTAの水溶液を含むことがより好ましい。アミン類は、電解液中に塩化合物として含まれていてもよい。
【0040】
工程I-2に用いる電解液は、錯体形成用化合物、例えば、アミン類などを1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。
なかでも、NH配位子を有するアンモニア、又は、RNH配位子を有するギ酸アンモニウムなどのアンモニウム誘導体の少なくとも1種と、ジアミン由来の配位子を有するHEDTAの少なくとも1種と、を含むことが好ましい。
【0041】
工程I-2における電解液の溶媒としては、工程Iで説明した、特定金属化合物、アミン類等の溶媒として用い得る溶媒、例えば、水、水とアルコールとの混合物などの水性溶媒を同様に用いることができる。
溶媒として用い得る、水、アルコール等の具体例、及び電解液の溶媒の好ましい態様は、工程Iで述べたプレカーサー法において説明した溶媒と同様である。
【0042】
電解液中における錯体形成用のアミン類の含有量としては、0.1質量%~20質量%の範囲が好ましく、0.5質量%~10質量%がより好ましく、1.0質量%~8質量%がさらに好ましい。
【0043】
電解液は、溶媒である水と、錯体形成用のアミン類を含む化合物とを混合し、撹拌することで調製することができる。電解液の調製は、常温(25℃)で行なってもよく、溶解を促進する目的で、溶媒を30℃~60℃に加温して行ってもよい。
撹拌は、錯体形成用の化合物が溶解し、電解液が目視で均一な溶液となるまで継続することが好ましい。常温にて電解液を調製する場合には、30分間~90分間程度撹拌することが好ましく、50分間~80分間程度撹拌することがより好ましい。
撹拌は公知の撹拌装置を用いて行うことができる。公知の撹拌装置としては、スターラー、パドルミキサー、インペラーミキサー等が挙げられるが、撹拌装置は上記装置に限定されない。
【0044】
次に、一対の前記電極22、24間に前記直流電源26により電圧を印加して、陽極(アノード)となる電極22が浸漬された電解液槽16内において、前記電解液と陽極である電極由来の金属イオンとを反応させた反応生成物を含む金属前駆体液を得る。
先に調製した電解液を、一対の電解液槽16、18中にそれぞれ貯留し、電解液槽に貯留された電解液に浸漬される位置に電極22、24(例えば、銅板)を配置しておく。そして、電極(陽極:アノード)22、及び電極(陰極:カソード)24の間に直流電源26により電圧を印加する。電圧は、0Vを超え、100V以下で印加することができ、1V~80Vの範囲が好ましく、10V~60Vの範囲がより好ましい。
電源としては、公知の直流電源を適宜選択して用いることができる。本開示に用い得る公知の直流電源としては、例えば、直流安定化電源(PMC18-2、商品名、菊水電子工業(株))などが挙げられる。
【0045】
電極に直流電流を印加した場合の一般的な反応は、例えば、銅電解精錬等における反応と同様である。
金属としての銅を陽極及び陰極として適用した例を挙げて説明すれば、陽極の金属は酸化されて金属イオンとして溶解し、陰極では、還元反応が生じる。この場合の反応を以下に示す。
陽極:Cu→Cu2++2e
陰極:H+2e→H
【0046】
なお、同じ一組の電極を1つの電解液槽に配置し、電圧を印加した場合も、同様に上記反応が生じる。その後、反応が進行し、電解液中の銅イオン濃度が高くなった場合には、経時により、陰極では、上記水素(H)の生成反応に比較し、Cu2++2e→Cuの反応が優先的におきる。これは、生成された銅イオン(Cu2+)が、陰極側で生成する水素イオン(H)よりもイオン化傾向が小さいことから生じる事象である。
従って、以下に示すように、電解液中の銅イオン濃度が所定量を超えると、陰極側に銅が析出し、電解液に含まれる銅イオン濃度は、所定量よりも増加せず、電圧の印加を継続すると、経時により金属錯体の生成効率が低下する傾向がある。
陽極:Cu→Cu2++2e
陰極:Cu2++2e→Cu
【0047】
工程Iが含む好ましい態様である工程I-2では、一対の電解液槽間を連結する流路にフィルタが備えられるため、陽極が存在する電解液槽にて生成された金属イオンは、陰極が存在する電解液槽には移動せず、陽極が存在する側の電解液槽における電解液中に留まり、電解液中の錯体形成用の化合物と反応して、金属錯体を形成する。
例えば、金属として銅(Cu)を用い、錯体形成用の化合物として、HEDTAを用いた場合、以下のような反応が起こる。
Cu2++HEDTA→[Cu(HEDTA)]2-+2H
他方、この反応で生成した水素イオンは、フィルタを透過し得るために、陰極が存在する側の電解液槽へ移動し、陰極では、上記「H+2e→H」の反応が進行し、水素が発生する。
陽極が存在する側の銅イオンは、銅錯体の形成に用いられるため、陽極側では、「Cu→Cu2++2e」の反応が進行し、金属前駆体としての金属錯体が効率よく生成されると考えられる。
従って、本開示の製造方法において、工程Iが、工程I-2を含むことにより、金属前駆体を高濃度で安定に含む金属前駆体液を、金属塩化合物などの中間体を経ずに効率よく製造することができる。
【0048】
(工程II)
工程IIは、工程I-2を含んでいてもよい工程Iにて得られた金属前駆体液と、有機還元剤(以下、特定還元剤と称することがある)と、を含む金属膜形成用組成物を調製する工程である。
工程IIでは、工程Iで得られた金属前駆体液と、後述の特定還元剤を含む水溶液とを混合して金属膜形成用組成物を調製することが好ましい。
【0049】
-金属前駆体液-
工程IIで用いられる金属前駆体液は、工程Iで得た金属前駆体液、具体的には、少なくとも、特定金属化合物とアミン類とを含む溶液である。金属前駆体液に含まれる金属錯体は、金属塩とアミン類及び所望によりさらに含有される既述の金属錯体形成用の化合物との反応生成物であってもよく、予め調製された金属錯体であってもよい。
前記金属前駆体液は、特定金属化合物を1種のみ含有してもよく、2種以上含有してもよい。
前記金属前駆体液が、金属前駆体である特定金属化合物を2種以上含有する場合、例えば、同じ金属を含み配位子の異なる金属錯体同士の組み合わせ、異なる金属を含む金属錯体同士の組み合わせなどのいずれであってもよい。合成適性上は、同種の金属を含む金属錯体同士の組み合わせであることが好ましい。
【0050】
-特定還元剤-
金属膜形成用組成物の調製に用いられる特定還元剤は、カルボキシ基を有する化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。特定還元剤として、分子内にカルボキシ基を有し、還元剤としての機能を有する有機カルボン酸化合物から適宜選択して用いることが好ましい。
【0051】
特定還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸等から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、金属膜の形成性がより良好であるという観点からは、アスコルビン酸、クエン酸、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アスコルビン酸及びクエン酸から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
有機還元剤としてアスコルビン酸を含むことが、本開示の金属膜形成用組成物の好ましい態様の一つとして挙げられる。
【0052】
特定還元剤は水溶液として用いられることが好ましい。
水溶液の調製に用いられる水は、金属イオンを含まないか、或いは、金属イオン濃度ができるだけ低いことが、得られる金属膜の均一性の観点から好ましく、従って、水溶液の調製に用いられる水は、精製水、イオン交換水、純水などを用いることが好ましい。
特定還元剤を水に溶解する際には、溶解性を向上させる目的で、溶媒である水を30℃~60℃に加温してもよく、35℃~45℃に加温することが好ましい。溶解は、撹拌しながら行ってもよく、撹拌方法は、既述の金属錯体の溶液の調整方法の項で挙げた撹拌方法を同様に適宜、適用することができる。
特定還元剤の水溶液における特定還元剤の含有量は、10質量%~40質量%の範囲が好ましく、10質量%~30質量%の範囲であることがより好ましい。
水溶液全量に対する特定還元剤の含有量が10質量%以上であることで、水溶液に反応に十分な有機還元剤が含まれることになり、含有量が40質量%以下であることで、水溶液の安定性がより良好となる。
【0053】
工程IIでは、金属前駆体液と、特定還元剤の溶液とを混合して得られる金属膜形成用組成物における金属前駆体液及び有機還元剤の含有量には、特に制限はなく、目的とする金属膜に応じて適宜選択することができる。
金属膜形成用組成物に含まれる特定還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが50質量部~400質量部とすることができ、なかでも、得られる金属膜形成用組成物の金属膜形成性がより良好となるという観点からは、特定還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが100質量部~350質量部であることが好ましく、特定還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが150質量部~350質量部とすることがより好ましい。
【0054】
特定還元剤に対する金属イオンの含有量の範囲を上記好ましい範囲とすることで、基材上により効率よく、より緻密な金属膜が形成される。この作用機構は明確ではないが、本発明者らは以下のように考えている。
特定還元剤100質量部に対する金属イオンの含有量が50質量部以上であることで、金属錯体に含まれる金属イオンの還元性がより向上し、基材に付着した金属イオンの還元により金属の析出が速やかとなり、緻密な金属膜が形成されると考えられる。また、特定還元剤100質量部に対する金属イオンの含有量が400質量部以下であることで、金属イオンの還元に起因する金属の析出速度が良好な範囲に維持され、金属前駆体化合物におけるアンモニア又はアミンによる金属の析出抑制、及び析出した金属膜の再溶解による基材に付着しない金属粒子の析出が抑制されると考えられる。
なお、上記作用機構は推定であり、本開示の製造方法を何ら制限するものではない。
【0055】
得られた金属膜形成用組成物は、金属膜の形成に有用である。
金属膜形成用組成物の調製における金属前駆体液の含有量は、工程Iにおいて金属前駆体液を調製する際の、金属錯体の種類と含有量、又は、工程I-2における電解液の種類、電解液の濃度、直流電流の印加エネルギー、印加時間などを調整することで制御することができる。
一般に、金属膜形成用組成物全量に対する特定金属化合物の含有量を測定することは困難である。しかし、金属膜形成用組成物により形成される金属膜の物性は、金属膜形成用組成物における金属の含有量に依存する。
緻密で、均一な金属膜を形成し得るという観点からは、金属膜形成用組成物全量に対する金属の含有量は、0.5質量%~10質量%の範囲であることが好ましく、1質量%~8質量%の範囲であることがより好ましい。
金属の含有量が上記範囲であることで、金属膜形成用組成物により形成される金属膜の組織がより均一となり、電気伝導性、及び熱伝導性がより良好となる。
金属膜形成用組成物中の金属の含有量は、例えば、「錯体化学の基礎 ウェルナー錯体と有機金属錯体」(KS化学専門書:講談社、1989年)に記載の方法で測定することができる。
【0056】
(工程III)
工程IIIは、工程IIで得られた金属膜形成用組成物を基材に付与する工程である。
既述の工程IIを経て得られた金属膜形成用組成物は、金属錯体が水性の溶媒中に均一に高濃度で存在し、且つ、共存する有機還元剤の機能により、金属錯体の安定性が良好であり、組成物に含まれる金属錯体は、硬質な基材の表面に対する吸着性が良好であることから、任意の基材表面に緻密な組織を有する金属膜を形成することができる。
即ち、工程IIIでは、前記金属膜形成用組成物を、任意の基材に付与することにより、基材表面に金属錯体が吸着し、緻密な金属膜が形成される。
【0057】
例えば、金属として銅を用いた場合には、銅錯体に由来する銅のナノ粒子が基材に付着して銅膜が形成され、形成された銅膜は、電気伝導性及び熱伝導性に優れたものとなる。
また、金属膜形成用組成物に含まれる金属錯体がアンモニウム基、エチレンジアミンに由来する配位子等を有する場合には、金属錯体は、無機基材、特にガラス基材との密着性が良好となる。従って、当該金属錯体を用いて形成された金属膜は無機基材との密着性に優れることが期待できる。
【0058】
-基材への金属膜形成用組成物の付与-
工程IIIでは、得られた金属膜形成用組成物を、基材に付与して、金属膜形成用組成物層を形成するが、本開示における金属膜形成用組成物に含まれる金属錯体は、基材への吸着性が良好であるため、金属膜形成用組成物層の溶媒を除去することで、基材に緻密な金属膜が形成される。
工程IIIにおける基材への金属膜形成用組成物の付与方法には特に制限はなく、基材の素材、形状等に応じて、公知の塗布方法、浸漬方法等の種々の方法をとることができる。
金属膜形成用組成物を基材に付与する工程IIIは、金属膜形成用組成物を基材に塗布する工程、金属膜形成用組成物に基材を浸漬する工程、及び容器形状の基材の内部に金属膜形成用組成物を貯留する方法、の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0059】
金属膜形成用組成物を基材に塗布する方法としては、例えば、スプレー塗布法、スピン塗布法、ブレード塗布法、バー塗布法、ロール塗布法、ダイ塗布法、フロー塗布法等が挙げられる。また、キャスト法にて金属膜形成用組成物を基材に付与してもよい。
金属膜形成用組成物の粘度などの物性、形成する金属膜の厚みなどを考慮して、適切な塗布方法を選択すればよい。
基材に局所的に金属膜形成用組成物を付与する方法として、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの印刷法を適用してもよい。印刷法を用いることにより、基材の所望の領域のみに、局所的に金属膜を形成することができる。
金属膜形成用組成物の塗布量は、一般的には、ウエット膜厚で、1μm~10μmの範囲とすることが好ましく、3μm~5μmの範囲とすることがより好ましい。
【0060】
基材の一方の面に、金属膜を形成する場合、基材の一方の面に、金属膜形成用組成物を付与して金属膜形成用組成物の塗膜(金属膜形成用組成物層)を形成した後、一定期間静置することが、より緻密な膜を形成し得るという観点から好ましい。静置時間は、例えば、常温(25℃)においては、6時間以上であることが好ましく、12時間以上であることがより好ましい。基材に形成された金属膜形成用組成物層を静置することで、金属膜形成用組成物に含まれる金属が基材に吸着して金属膜が形成される。静置時間の上限には特に制限はないが、生産性等を考慮すれば、120時間以下とすることができ、90時間以下が好ましい。
また、基材の一方の面に、金属膜形成用組成物を付与して金属膜形成用組成物層を形成した後、静置するに際して、静置する領域の雰囲気温度、形成された金属膜形成用組成物層の液温等を、常温以上、例えば、30℃以上、好ましくは40℃以上とすることで、反応速度が上昇し、より短い静置時間にて、緻密な金属膜を形成することができる。温度は、金属膜形成用組成物に影響を与え難いという観点から、80℃以下が好ましい。
例えば、雰囲気温度を35℃とした場合の静置時間は、4時間以上が好ましく、8時間以上がより好ましい。静置時間の上限は、常温の場合と同様である。
金属膜形成後には、残余の金属膜形成用組成物を除去してもよい。
【0061】
金属膜形成用組成物を付与する方法としては、ディップ法等のように金属膜形成用組成物に基材を浸漬する浸漬方法を適用してもよく、浸漬方法によれば、成形された任意の形状の基材に簡易に金属膜を形成すること、平板状の基材の両面に金属膜を形成すること、などが可能となる。
【0062】
本開示の製造方法では、基材に金属膜形成用組成物を付与する、即ち、基材表面に金属膜形成用組成物を接触させるだけで基材表面に金属膜を形成することができる。このため、容器形状の基体の内部に金属膜形成用組成物を貯留する方法をとることで、容器状の基材の内面のみに金属膜を形成することができる。
例えば、片末端が封止された試験管の如き形状のガラス管の内面のみに金属膜を形成する場合、塗布方法、浸漬方法を適用することは困難である。しかし、本開示の製造方法によれば、片末端封止ガラス管に金属膜形成用組成物を注入し、ガラス管内に金属膜形成用組成物を貯留することで、ガラス管の内側のみに金属膜を簡易に形成することができる。
この方法を適用することで、容器状の基材の内側の表面のみに、簡易に金属膜を形成することができる。また、円筒形などの中空管に金属膜形成用組成物を注入し、両端を封止することで、任意の中空管の内面に金属膜を形成することができる。
中空管、例えば、片末端封止ガラス管などの内部に金属膜形成用組成物を貯留して経時する場合、重力方向の下方に金属膜が形成されやすくなる。このため、金属膜形成用組成物を貯留する中空管を、重力方向に対し円周方向に90°、180°などの角度で回転させること、例えば、ガラス管の長手方向を水平に配置し、且つ、経時させる際には、ガラス管の円筒の中心軸に対して円周方向にガラス管全体を定期的に回転させることも、均一な金属膜を形成する観点からは好ましい。
【0063】
基材を金属膜形成用組成物に浸漬する方法、及び容器状の基材内に金属膜形成用組成物を貯留する方法の少なくともいずれかの方法により基材に金属膜形成用組成物を付与する場合、浸漬時間又は貯留時間は、例えば、常温(25℃)においては、6時間以上であることが好ましく、12時間以上であることがより好ましい。膜厚を厚くしようとする場合には、浸漬時間又は貯留時間は、24時間以上とすることができる。
浸漬時間又は貯留時間の上限には特に制限はないが、生産性の観点からは、120時間以下とすることができ、90時間以下が好ましい。
金属膜形成用組成物を貯留する領域の雰囲気温度、金属膜形成用組成物の温度等を、常温以上、例えば、30℃以上、好ましくは40℃以上とすることで、反応速度が上昇し、より短い貯留時間にて容器状の基材の内側に、緻密な金属膜を形成することができる。温度は、金属膜形成用組成物に影響を与え難いという観点から、80℃以下が好ましい。
例えば、雰囲気温度を35℃とした場合の貯留時間は、4時間以上が好ましく、8時間以上がより好ましい。貯留時間の上限は、常温の場合と同様である。
【0064】
基材に形成される金属膜の厚みは目的に応じて選択することができる。金属膜を基材に塗布する方法の場合には、金属膜の厚みは、基材に付与する金属膜形成用組成物の付与量、金属膜形成用組成物の組成、金属膜形成用組成物と基材との接触時間(金属膜形成用組成物層の静置時間)等により制御することができる。
【0065】
基材を金属膜形成用組成物に浸漬する方法、片末端が封止された基材に金属膜形成用組成物を貯留する方法を適用する場合には、金属膜の厚みは、金属膜形成用組成物の組成、基材と金属膜形成用組成物との接触時間等を制御することにより、制御することができる。
【0066】
(基材)
金属膜を形成するための基材は、目的に応じて適宜選択することができる。
本開示の製造方法によれば、金属膜形成用組成物を基材に付与するのみで、基材上に金属膜が形成できる。このため、本開示の製造方法によれば、材質に着目すれば、非導電性基材、耐熱性の低い基材などの基材に対し、金属膜を形成することができる。また、基材の形状に着目すれば、曲面を有する基材、多孔質基材、円筒形基材の内部など、いずれの形状の基材にも金属膜を形成することができる。
従って、金属膜の使用目的に応じて、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、加工性、気体遮断性、低吸湿性、防水性等の各種物性を有する基材を任意に選択して用いることができる。例えば、一般に回路基板として用いられる材料を、基材として用いることができる。
基材としては、寸法安定性が良好であるという観点からは、ガラス、セラミックス、金属等の無機基材が好ましい。無機基材としては、より具体的には、無アルカリガラス基材、ソーダガラス基材、パイレックス(登録商標)ガラス基材、石英ガラス基材等のガラス基材、シリコン基板等の半導体基板、ステンレス基材、アルミニウム基材、ジルコニウム基材等の金属基材、アルミナ基材等の金属酸化物基材等が挙げられる。
【0067】
本開示の製造方法によれば、100℃以上の熱処理を行う必要がなく、基材上に金属膜を形成することが可能であるため、有機基材も好適に使用することができる。有機基材としては、耐熱性が比較的高い熱硬化性樹脂、エンジニアリングプラスチック等の樹脂基材に加え、耐熱性の比較的低い樹脂を含む有機基材、例えば、ある種の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等を含む有機基材にも簡易に金属膜が形成できる。
従って、例えば、予め成形された熱硬化性樹脂の成形体、熱可塑性樹脂の成形体等に対しても、成形体の任意の面に簡易に金属膜が形成できるという利点をも有する。
有機基材として用い得る樹脂の一例としては、例えば、四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、高密度ポリエチレン、ポリイミドなどの比較的耐熱性が良好な樹脂が挙げられる。
有機基材として用い得る樹脂の別の例として、JIS K7191(2015年)に規定される荷重たわみ温度(以下、単に「荷重たわみ温度」と称することがある。)及び長期耐熱連続試験(UL-746B(2013年))による連続耐熱温度の少なくとも一方が150℃未満である熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が挙げられる。さらに、本開示の製造方法によれば、荷重たわみ温度及び連続耐熱温度の少なくとも一方が100℃未満である熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの比較的耐熱性の低い樹脂も有機基材として用いることができる。
【0068】
有機基材の荷重たわみ温度は、JIS K7191(2015年)に規定される物性であり、本開示では、荷重1.81MPa負荷の条件で測定した値を用いている。
JIS K7191(2015年)は、JIS K7191-1 第1部:通則、JIS K7191-2 第2部:プラスチック及びエボナイト、JIS K7191-3 第3部:高強度熱硬化性樹脂積層材及び長繊維強化プラスチックからなる部編成からなる規格群で構成され、樹脂に応じてこれら規格群のいずれかに準拠して荷重たわみ温度を測定することができる。
有機基材の長期耐熱連続試験であるUL-746B(2013年)は、Underwriters Laboratories Inc.の規格であり、所定時間、一般には40,000時間、一定の温度の大気中に放置した場合に、物性値(強度)が初期値の50%まで劣化する温度を指し、無荷重で連続して使用し得る耐熱温度の目安となる。
なお、有機基材に適用される樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、樹脂の融点も耐熱性の目安として参照することができる。
樹脂の融点は、当該樹脂に適した公知の測定方法、例えば、JIS K7121(1987年)プラスチック移転温度測定方法(関連規格:ASTM D3418-82)により測定することができる。軟化点は、JIS K7206(2016年)に記載のビカット軟化点測定方法などにより測定することができる。
以下に、基材として使用し得る樹脂材料の例について、荷重たわみ温度(荷重1.81MPa負荷)及び連続耐熱温度の少なくとも一方を記載する。熱可塑性樹脂については、融点(文献値)を併記する。
本開示の金属膜積層体における有機基材の例としては、化学便覧 基礎編 改定5版(丸善出版:2004年) 5.4 プラスチック材料 I-715~I-717に記載の樹脂が挙げられ、当該箇所に記載される荷重たわみ温度(荷重1.81MPa負荷)を参照することができる。なお、下記表1において「-」は、不明又は測定不能であることを示す。
【0069】
【表1】
【0070】
樹脂基材に用い得る樹脂としては、PET、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ナイロン6などのポリアミド、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。
なお、硬質ウレタンフォームは、耐熱温度の上限が約150℃前後であり、軟質ポリウレタンフォームは、耐熱温度の上限は約80℃であるが、本開示の製造方法によれば、上記多孔質ウレタンフォームを基材とすることができる。即ち、本開示の製造方法によれば、細孔内部を含むウレタンフォームの表面に金属膜を形成することが可能である。
融点又は軟化点が150℃未満、より好ましくは100℃未満である耐熱性の比較的低い有機基材に、高純度の金属膜を形成できることも、本開示の製造方法の特徴の一つである。
【0071】
基材は単層構造でもよく、複数の異種素材を用いた積層構造を有していてもよい。また、金属を改質した基材を用いてもよい。金属を改質した基材としては、例えば、アルミニウム基材に酸化処理を施した酸化皮膜付きアルミニウム基材、イットリウム安定化ジルコニウム基材、ステンレス基材等が挙げられる。
また、既述のウレタンフォーム、さらに、セラミック多孔質板、不織布などの多孔質基材に対しても、金属膜を形成することができる。
【0072】
基材の厚みは、使用目的に応じて選択することができる。
また、本開示の製造方法によれば、既存の部材を基材として用い、基材の任意の面に金属膜を形成することができる 。
【0073】
工程IIIでは、既述のように、金属膜形成用組成物を基材に付与するのみで金属膜を形成することができるため、平板状の基材のみならず、種々の形状の基材の、任意の面に、金属膜を形成することができる。
【0074】
本開示の金属膜の製造方法は、工程I、工程II及び工程IIIに加え、その他の工程をさらに含むことができる。その他の工程としては、工程IIIで形成された金属膜形成用組成物を、詳細には、金属膜形成用組成物層を乾燥する工程、形成された金属膜を加熱処理(アニール(焼成)処理)する工程などが挙げられる。
【0075】
(その他の工程)
-金属膜形成用組成物を乾燥する工程-
本開示の製造方法は、工程IIIにおいて基材に付与した金属膜形成用組成物を乾燥する工程をさらに有していてもよい。
金属膜形成用組成物に含まれる溶媒が、乾燥により除去されて、基材上に金属膜が形成される。
本開示における乾燥は、室温における自然乾燥も包含する。さらに、金属膜形成用組成物に対し、後述する如く加熱乾燥等を行うことで、自然乾燥させる場合よりも、基材に密着した金属膜をより速やかに形成することができる。
ここでいう乾燥とは、金属膜形成用組成物に含まれる溶媒を減少させることを指し、必ずしも溶媒を完全に除去することを意味するものではない。
【0076】
乾燥は常法により行うことができる。
乾燥方法としては、既述の自然乾燥に加え、加熱乾燥、気流の吹きつけによる乾燥などを行うことができる。
自然乾燥する場合には、室温にて60分間~5時間静置すればよい。
加熱乾燥する場合には、公知の加熱手段を適宜選択して適用することができる。加熱方法としては、例えば、基材裏面からプレート状ヒーター、ヒートロール等の加熱手段を接触させる方法、電気炉等の加熱ゾーンを通過させる方法、赤外線、マイクロ波等のエネルギー線を照射する方法、温風を吹き付ける方法等が挙げられる。
加熱乾燥の際の加熱温度には特に制限はない。乾燥効率及び基材に対する影響の抑制等を考慮すれば、加熱温度は30℃以上100℃未満の範囲とすることができ、30℃~60℃の範囲とすることが好ましい。
加熱乾燥する際の乾燥時間は、生産性の観点から、10秒間~20分間の範囲であることが好ましい。
【0077】
本開示の製造方法では、工程IIIである金属膜形成用組成物を基材に付与する工程と、基材に付与した金属膜形成用組成物を乾燥する工程と、を、複数回行うことができる。
【0078】
まず、工程IIIにおいて、基材に金属膜形成用組成物を付与し、さらに、金属膜形成用組成物を乾燥することで、基材上に金属膜が形成される。その後、金属膜が形成された基材に、再度、金属膜形成用組成物を付与すると、金属膜形成用組成物に含まれる金属錯体が、基材上に形成された金属膜表面に吸着する。その後、乾燥することにより、より厚みの大きい金属膜が形成される。
基材に付与することができる金属膜形成用組成物の量は、金属膜形成用組成物の物性により制限される場合がある。しかし、いずれの金属膜形成用組成物を用いる場合においても、金属膜形成用組成物の付与と、乾燥とを複数回行うことにより、金属膜形成用組成物の付与と、乾燥とを1回のみ行って得た金属膜よりも、より厚みの大きい金属膜が形成される。従って、上記工程を繰り返す回数を制御することにより、基材上に任意の厚みの金属膜を容易に形成することができる。
【0079】
金属膜が形成された基材に、さらに金属膜形成用組成物を付与する場合、金属膜形成用組成物は、既に形成された金属膜に接触する。既に形成された金属膜に含まれる金属粒子間に、金属膜形成用組成物に含まれる金属前駆体が付着して金属微粒子が成長することで、金属の析出が速やかに行われる。このため、金属膜に含まれる金属微粒子が、より緻密に存在することとなり、金属膜の厚みの向上のみならず、金属膜の物性、例えば、電気伝導性などもより良好となることが期待できる。
【0080】
-形成された金属膜を加熱処理する工程-
本開示の製造方法によれば、100℃以上の温度条件による加熱処理を行う必要はなく、金属膜を形成することができる。
しかしながら、金属膜の使用目的、用いられる基材の種類等によっては、形成された金属膜をさらに加熱する加熱処理工程を行ってもよい。
加熱温度としては、100℃以上とすることができる。基材が金属、セラミック、エンジニアリングプラスチックなどの耐熱性の基材である場合には、一般的に金属膜をアニール処理する温度である200℃~500℃の加熱処理を行うこともできる。
加熱処理する工程を行うことにより、基材上に存在する金属錯体由来の金属ナノ粒子が互いに融着する、残存する金属錯体が速やかに金属に転化される、溶媒がより速やかに除去される、などのさらなる効果を奏する場合があり、基材上に形成された金属膜の組織がより緻密になることが期待できる。
【0081】
加熱条件は、金属膜の使用目的、金属膜形成用組成物に含まれる金属の特性に応じて適宜選択される。
例えば、錯体が、Cu、Li、Ni、Mn、Zn、及びCoからなる群より選ばれる金属原子を含む場合には、加熱処理を行う場合の加熱は、100℃以上の温度条件で行うことができ、加熱処理の効果がより顕著になるという観点からは、200℃以上の温度条件にて行うことが好ましく、250℃以上の温度条件にて行うことがより好ましい。
加熱温度の上限値には特に制限はなく、金属の融点、軟化点等の物性、使用する基材の耐熱性に応じて適宜選択すればよい。一般的には、加熱温度は500℃以下とすることができる。500℃を超えた加熱温度で加熱した場合、金属膜の形成効果がそれ以上向上せず、却って基材などに影響を与えることがある。
【0082】
加熱処理する工程を行う場合、加熱は大気雰囲気下で行なってもよく、不活性ガス雰囲気下で行なってもよい。不活性ガスを含む雰囲気下で行う場合の不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられる。
不活性ガス雰囲気下など、酸素濃度を低くする雰囲気下で加熱処理を行なう場合、酸素濃度は10ppm以下とすることが好ましい。
また、金属の種類によって選択された加熱温度まで昇温した後、当該加熱温度に数分間維持して、金属膜を加熱することも形成される金属膜の均一性の観点から好ましい。
なお、既述のように、より膜厚の厚い金属膜を形成する際には、金属膜形成用組成物を基材に付与する工程と、乾燥する工程とに加え、さらに加熱する処理工程を行い、この3つの工程を複数回行ってもよい。
【0083】
また、加熱工程の態様の一つとして、形成された金属膜を200℃~500℃の温度条件にてアニール(焼成)する工程が挙げられる。
形成された金属膜をさらに加熱するアニール(焼成)処理を行うことで、形成された金属膜の均一性をより向上させることができる。アニール処理の際の焼成温度は、200℃~500℃が好ましく、300℃~500℃がより好ましい。
【0084】
(金属膜)
本開示の製造方法により得られる金属膜の厚みは目的に応じて選択される。本開示における金属膜形成用組成物は、特定金属化合物に由来する金属錯体が溶解した状態で均一に含まれるため、例えば、10nm~200nmといった極めて薄い金属膜を形成することができる。
また、金属膜形成用組成物の付与と、金属膜形成用組成物の乾燥とを複数回繰り返す方法などを適用することで、より厚みの大きい金属膜、具体的には、数ミクロンオーダーの厚みのある金属膜を簡易に形成することができる。
既述の金属膜形成用組成物を用いて、1回の付与により形成される金属膜の厚みは、50nm~150nmであることが好ましい。
得られた金属膜の厚みは、基材上に形成された金属膜の断面を、実施例にて詳述するように走査型電子顕微鏡等により観察することで、公知の測定方法により測定することができる。
【0085】
本開示の製造方法により得られた金属膜は、原料となる金属膜形成用組成物に、金属材料として、特定金属化合物のみを含むことから、組織が緻密であり、且つ、純度の高い金属膜を形成することができる。このため、例えば、金属として銅を用いた場合、形成された銅膜は緻密な構造を有し、電気伝導性及び熱伝導性に優れる。
金属膜を、単一の金属を有する特定金属化合物のみを含有する金属膜形成用組成物を用いて形成する場合、形成された金属膜における当該金属の含有量は90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0086】
本開示の製造方法により得られる金属膜は、製造方法に起因して純度の高い金属膜となる。本開示の製造方法によれば、無電解メッキ液の如く、触媒等を含むことを必要とせず、基材上に金属膜が形成される。本開示の製造方法により得られる金属膜の原料金属は、金属膜形成用組成物に含まれる特定金属化合物のみであるため、得られた金属膜は、特定金属化合物が含む金属以外の異種金属を含む余地がない。
従って、本開示の製造方法は、特定金属化合物に含まれる金属とは異なる金属の含有量が、X線回折による分析で検出限界以下である金属膜を得る製造方法であることが好ましい。
金属膜中の目的とする金属の含有量は、例えば、X線回折(XRD)により測定することができる。X線回折による金属膜中の金属含有量の測定方法については、実施例にて説明する。
【0087】
金属膜形成用組成物により得られた金属膜中には、不純物の含有量が極めて少ない。
溶剤由来の不純物が僅かに金属膜中に残存することがあるが、主として原料である溶剤由来の炭素原子程度であり、形成された金属膜の特性を損なう懸念がない。これは、還元剤等を必要とする無電解メッキ膜、アニオン性金属錯体を用いたプレカーサー法により形成される金属膜に比較して大きな利点であるといえる。
【0088】
本開示の製造方法によれば、金属膜を任意の基材の任意の面に、全面に亘り均一に形成することができ、さらに、パターン状に形成することもできる。また、容器状の基材の内面のみに金属膜を形成することができる。
なお、パターン状の金属膜を形成する場合には、既述のように印刷法を用いて金属膜形成用組成物を基材に任意のパターン状に付与することで、パターン状の金属膜を形成することができる。パターン状の金属膜の形成方法としては、さらに、基材上に均一な金属膜を形成した後、エッチング等の公知の方法を用いてパターニングしてパターン状の金属膜を形成する方法が挙げられる。
【0089】
本開示の製造方法は、当該金属を含む金属酸化物膜の形成にも応用することができる。
本開示の製造方法を適用して金属酸化物膜を形成する方法としては、金属膜形成用組成物により形成した金属膜を、さらに熱処理して酸化物膜とする方法、金属膜形成用組成物を用いて金属膜を形成する際に、積極的に酸化雰囲気とし、酸化雰囲気下で熱処理する方法等が挙げられる。
形成された金属膜を酸化雰囲気下で熱処理して金属酸化物膜を製造する方法としては、例えば、金属膜を配置する雰囲気を5%~80%の酸素濃度とし、200℃以上の温度で0.5時間以上熱処理温する方法などが挙げられる。なお、熱処理温度及び熱処理時間の上限には特に制限はない。例えば、熱処理時間が長いほど、金属膜の酸化が進行することが期待される。熱処理温度の上限値は、基材の耐熱性により制限されることがある。例えば、金属基材、セラミック基材などを用いる場合には、製造適性上は、熱処理温度は1000℃以下とすることができる。
熱処理時間の上限は、目的とする金属酸化物膜の性状、用いる基材の特性等により適宜選択される。製造適性上は、例えば、熱処理時間の上限は96時間以下とすることができる。
【0090】
本開示の製造方法によれば、緻密で基材との密着性に優れた金属膜を簡易に形成することができ、金属膜、特に銅の薄膜を必要とする分野に好適である。また、基材の種類及び金属の種類に対する選択の自由度が高いため、本開示の製造方法は種々の分野に応用することができる。
【0091】
<金属膜形成用組成物>
本開示の金属膜形成用組成物は、金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を含む金属前駆体液、並びに有機還元剤を含み、前記有機還元剤100質量部に対する前記金属前駆体液に含まれる金属イオンの含有量が50質量部~400質量部の範囲である。
本開示の金属膜形成用組成物は、既述の本開示の金属膜の製造方法に好適に使用される。
本開示の金属膜形成用組成物に含まれる金属前駆体液及び有機還元剤は、既述の本開示の製造方法において説明した金属前駆体液及び特定還元剤と同じであり、好ましい例も同様である。
【0092】
本開示の金属膜形成用組成物においては、特定還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが50質量部~400質量部の範囲であり、金属膜形成用組成物の金属膜形成性がより良好となるという観点からは、特定還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが100質量部~350質量部の範囲であることが好ましく、特定還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが150質量部~350質量部の範囲であることがより好ましい。
【0093】
特定還元剤100質量部に対する金属イオンの含有量が50質量部~400質量部であることで、金属錯体に含まれる金属イオンの還元性がより向上し、基材に付着した金属イオンの還元により金属の析出が適切な速度に維持され、基材上に緻密な金属膜が形成されると考えられる。
特定還元剤100質量部に対する金属イオンの含有量が50質量部未満であると、特定金属化合物の還元される速度が低下し、金属膜が効率よく形成されない懸念があり、特定還元剤100質量部に対する金属イオンの含有量が400質量部を超える場合、金属イオンの還元に起因する金属の析出速度がより向上するため、形成された金属膜の再剥離及び基材に付着し得ない金属粒子の析出等が生じる懸念がある。
【0094】
金属膜形成用組成物における金属イオンの含有量は、例えば、「錯体化学の基礎 ウェルナー錯体と有機金属錯体」(KS化学専門書:講談社、1989年)に記載の方法で測定することができる。
金属膜形成用組成物における特定還元剤の含有量は、例えば、以下の方法により測定することができる。
まず、金属膜形成用組成物を乾燥させて粉末を作製する。得られた粉末を、熱重量示差熱分析装置(Thermogravimeter-Differential Thermal Analyzer:TG-DTA)を用いて分析することで、特定還元剤の含有量を測定することができる。
本開示においては、熱重量示差熱分析装置として、マックサイエンス社製、TG-DTA2000S(商品名)を用い、100ml(ミリリットル)/minの空気を通気しながら、10℃/minの昇温速度で測定した値を採用している。
【0095】
本開示の金属膜形成用組成物の常温(25℃)におけるpHは6~8が好ましく、pH7.5近傍の中性域がより好ましい。
金属膜形成用組成物のpHは、公知のpHメーターにて測定することができる。
【0096】
本開示の金属膜形成用組成物は、有機成分である特定還元剤を含み、金属成分としては目的とする金属膜の形成に寄与する金属イオンのみを含み、他の金属成分、例えば、置換メッキに使用される還元性の金属、無電解めっきに使用される触媒などを含む必要がない。このため、本開示の金属膜形成用組成物により形成された金属膜は、触媒等を含まず、高純度であり、緻密な金属膜となる。
【0097】
本開示の金属膜形成用組成物は、任意の基材に接触させることにより、100℃以上の加熱処理を必要とせず、基材上に金属膜を形成することができるため、例えば、耐熱性の低い基材、平板状ではない成形体としての基材に対しても、任意の位置に電気伝導性を有する金属膜を形成することができる。また、金属膜形成用組成物の処方、基材と金属膜形成用組成物との接触時間、接触させる回数などを制御することで、任意の厚みの金属膜を形成することができるため、その応用範囲は広い。
【0098】
<金属膜積層体>
本開示の金属膜積層体は、非導電性基材、及び、前記非導電性基材上に、金属錯体及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種とアンモニア及びアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を含む金属前駆体液、並びにアスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸からなる群より選択される少なくとも1種の有機還元剤を含み、前記有機還元剤100質量部に対する前記金属前駆体液に含まれる金属イオンの含有量が50質量部~400質量部の範囲である金属膜形成用組成物の硬化物である金属膜を有する金属膜積層体である。
本開示の金属膜積層体は、既述の本開示の製造方法により得ることができる。
【0099】
非導電性基材上における金属膜は、特定金属化合物と異なる金属の含有量がX線回折による分析で検出限界以下である金属膜であることが好ましい。
金属膜の厚みには特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。金属膜の厚みは、10nm以上とすることができる。上限には特に制限はなく、必要に応じて、例えば、3μm以上、好ましくは5μm以上の膜を有してもよい。なお、製造適性の観点から、膜厚は10μm以下とすることができる。
例えば、既述の本開示の製造方法を適用して金属膜積層体を得る場合には、基材上に本開示の金属膜形成用組成物を適用し、乾燥する工程を複数回くり返すことで、より厚みの大きい金属膜を簡易に形成することができる。
【0100】
金属膜積層体における金属膜の厚みとしては、例えば、基材上に金属膜を有する電気伝導性の機能を有する金属膜積層体である場合には、金属膜の厚みは、20nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。金属膜を配線として用いる場合には、金属膜の厚みは、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。電気伝導性の金属膜積層体における金属膜の上限には特に制限はない。金属膜の厚みは、生産性の観点から、例えば、10μm以下とすることができる。
金属膜として、銅膜、銀膜などを有する金属膜積層体を抗菌素材とする場合には、金属膜の厚みは、抗菌効果と使用性とのバランスが良好であるという観点から、1μm~5μmが好ましく、2μm~4μmがより好ましい。
金属膜積層体における非導電性基材及び金属膜の厚みは、既述の方法により測定することができる。
【0101】
非導電性基材には特に制限はなく、ガラス基材、セラミック基材、熱可塑性樹脂基材、熱硬化性樹脂基材などから任意に選択することができる。
本開示の金属膜積層体における金属膜は、前記本開示の金属膜形成用組成物の硬化物であり、基材に金属膜形成用組成物を接触させ、乾燥させることにより、加熱を必要とせず形成される金属膜である。
従って、本開示の金属膜積層体は、荷重たわみ温度及び連続耐熱温度の少なくとも一方が150℃未満である樹脂を含む基材上に、緻密な金属膜を有する積層体の態様をとることもできる。
【0102】
非導電性基材として用い得る樹脂としては、例えば、四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレンなどの耐熱性が良好な樹脂が挙げられる。
さらに、既述の本開示の製造方法の項において例示したように、荷重たわみ温度及び連続耐熱温度の少なくとも一方が150℃未満、さらに、100℃未満である熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの有機基材も非導電性基材として用いることができる。
荷重たわみ温度及び連続耐熱温度の少なくとも一方が150℃未満である熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、既述の本開示の製造方法の項において例示した樹脂が同様に挙げられ、好ましい例も同様である。
【0103】
なお、融点又は軟化点が150℃未満である熱可塑性樹脂は、成型性が良好であり、公知の方法により、任意の形状の有機基材の成形体を容易に得ることができる。そして、得られた熱可塑性樹脂の成形体を有機基材として、本開示の金属膜積層体とすることで、任意の形状の、基材と金属膜とを有する金属膜積層体を容易に得ることができる。
また、上述のウレタンフォームの如き、比較的耐熱温度が低い有機基材を有する金属膜積層体を提供することも可能である。
【0104】
本開示の金属膜積層体における金属膜は、基材との密着性が良好である。例えば、後述の実施例1に記載の方法と同様の製造方法により、ガラス基材上に厚さ5μmの銅膜を有する金属膜積層体を得て、JIS H 8504(1999年) 引きはがし試験方法にて、基材と金属膜との剥離試験を行った場合でも、剥離、膨れ等が認められない、密着性が良好な膜を有する金属膜積層体となることが確認されている。
本開示の金属膜積層体は、平板状のみならず、曲面を有する基材、多孔質基材など、種々の形状の非導電性基材と金属膜とを有する金属膜積層体とすることができ、その応用範囲は広い。
【実施例
【0105】
以下、本開示の製造方法、本開示の製造方法に用いられる金属膜形成用組成物、及び本開示の製造方法により得られる金属膜積層体を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に制限されず、その主旨を超えない限りにおいて種々の変型例にて実施することができる。
【0106】
〔実施例1〕
(1.銅錯体水溶液の調製)
純水25gに、金属塩であるギ酸銅四水和物2.54gと25質量%アンモニア水4.56gとを加え、室温にて、500rpmの条件で1時間撹拌し、金属前駆体液を得た。得られた金属前駆体の溶液は、目視による観察で深青色を呈していた。(工程I)
【0107】
(2.アスコルビン酸水溶液の調製)
純水72gと、有機還元剤としてのアスコルビン酸18gとを混合し、液温40℃にて10分間撹拌し、無色透明のアスコルビン酸水溶液を得た。
【0108】
(3.金属膜形成用組成物の調製)
(1.)で得た金属前駆体液と、(2.)で得たアスコルビン酸水溶液とを、アスコルビン酸100質量部に対し、金属前駆体の溶液中の銅の含有量が300質量部となる比率で混合し、室温にて20分間撹拌して金属膜形成用組成物を得た。(工程II)
(1.)で得た金属前駆体液と、(2.)で得たアスコルビン酸水溶液とを、混合した直後は、混合液は深緑色を呈していたが、混合を継続したところ、20分後には、得られた金属膜形成用組成物は黄色に変化した。
実施例1で得た金属膜形成用組成物のpHをpH計(PICCOLO+、HANNA Instruments社製)を用いて測定したところ、25℃における金属膜形成用組成物のpHは7.5であった。
また、既述の方法で金属膜形成用組成物に含まれる金属(銅)イオンの量及び有機還元剤であるアスコルビン酸の量を測定したところ、アスコルビン酸100質量部に対する銅イオンの含有量は300質量部であった。
【0109】
(4.金属膜形成用組成物の基材への付与)
ポリスチレン製プラスチックシャーレ(直径90mm、深さ15mm)に、十分に洗浄した石英ガラス板(長さ:20mm×幅:20mm×厚さ:1.5mm)を4枚配置した。
プラスチックシャーレに、工程IIで得た金属膜形成用組成物を30g注入し、石英ガラス板を金属膜形成用組成物に浸漬し、室温にて、3日間静置した。
3日後に石英ガラス板をプラスチックシャーレから取り出し、純水で5回洗浄した後、室温にて乾燥させ、実施例1の製造方法により、石英ガラス板の面上に銅膜が形成された石英ガラス板(以下、積層体1と称する)を得た。(工程III)
【0110】
〔実施例2〕
実施例1で得た積層体1(銅膜が形成された石英ガラス板)をプラスチックシャーレに入れ、実施例1の工程IIと同様にして得た金属膜形成用組成物を30g注入し、積層体1を金属膜形成用組成物に浸漬し、室温にて、3日間静置した。
3日後に、積層体1をプラスチックシャーレから取り出し、純水で5回洗浄した後、室温にて乾燥させ、実施例2の製造方法により、実施例1で得た積層体1における銅膜の面上にさらに銅膜が形成された積層体2を得た。
【0111】
〔銅膜の評価〕
(1.成分分析)
実施例1及び実施例2で得られた銅膜に対し、X線回折(XRD)をSMART Lab装置(RIGAKU社)を用い、入射角0.3°の平行ビーム光学系で、2θが10°~80°まで0.05°ステップで、固定時間5°/分ずつ強度を測ることで、測定した。
得られたXRDのパターンを図2に示す。図2に明らかなように、実施例1及び実施例2で得た膜は、いずれも銅の単一相であることが確認された。また、金属膜形成用組成物の付与と乾燥とを2回繰り返した実施例2では、実施例1に比較してパターン強度が高く、より緻密な銅膜が形成されていると推定される。
【0112】
(2.銅膜の膜厚)
銅膜が形成された石英ガラス板を、面方向に垂直に切断し、切断面を走査型電子顕微鏡(FE-SEM:JSM-6701F:商品名、日本電子(株))を用いて、倍率5000倍で撮影し、FE-SEM像を得た。図3(A)は、実施例1で得た積層体1における銅膜の断面のFE-SEM像であり、図3(B)は、実施例2で得た積層体2における銅膜の断面のFE-SEM像である。
図3の断面FE-SEM像から、それぞれ3箇所の銅膜の膜厚を測定し、算術平均して銅膜の平均膜厚を得た。
その結果、実施例1により得た銅膜の平均膜厚は、4.29μmであり、実施例2により得た銅膜の平均膜厚は、9.64μmであった。
【0113】
(3.銅膜の外観評価)
銅膜が形成された石英ガラス板である積層体1及び積層体2に対し、銅膜が形成された面方向から、膜厚測定用のFE-SEM像を同じ条件で撮影し、FE-SEM像を得た。図4(A)は、実施例1で得た積層体1の銅膜形成面のFE-SEM像であり、図4(B)は、実施例2で得た積層体2の銅膜形成面のFE-SEM像である。
図4のFE-SEM像を観察し、視野角内の無作為に選択した銅ナノ粒子の直径を3個測定し、算術平均して銅ナノ粒子の平均粒子径とした。なお、銅ナノ粒子は、最長径を粒子の直径とした。
その結果、実施例1により得た銅膜における銅ナノ粒子の平均粒子径は、3.5μmであり、実施例2により得た銅膜における銅ナノ粒子の平均粒子径は1.8μmであった。
【0114】
(4.電気伝導率評価)
得られた積層体1及び積層体2における銅膜について、以下の方法で電気伝導性を測定した。銅膜の電気抵抗は、四探針法によって5点計測し、測定値の最大値と最小値を除いた3点で平均値を算出して得た値を銅膜の電気抵抗値(以下、「抵抗値」と称することがある。)とした。抵抗値が低いほど、電気伝導性が良好であると評価する。
測定は、デジタルマルチメーター:岩崎通信機(株)〔旧岩通計測(株)〕、VOAC7512及びKEITHLEY、Model2010 Multimeterを用いて行なった。
その結果、実施例1により得た積層体1における銅膜の電気伝導率は、5.3×10-4Ωcmであり、実施例2により得た積層体2における銅膜の電気伝導率は、1.8×10-4Ωcmであった。このことから、得られた銅膜は、いずれも薄膜でありながら、実用上十分な電気伝導性を示した。
【0115】
図3の断面FE-SEM像、図4の銅膜形成面のFE-SEM像及び電気伝導率の評価より、金属膜形成用組成物の付与と乾燥とを2回繰り返した実施例2で得た積層体2は、実施例1で得た積層体1に比較して、形成された銅膜は、より厚みが増し、銅膜を形成する銅ナノ粒子のサイズがより小さくなり、電気伝導性がより向上したことが確認された。
これは、金属膜形成用組成物の付与と乾燥とを複数回繰り返すことで、既に形成された金属膜に金属前駆体が接触して、金属膜における金属微粒子間に金属前駆体が付着し、金属微粒子が成長することで、金属の析出が速やかに行われ、金属膜がより緻密になり、電気伝導性がより良好になったためと考えられる。
【0116】
〔実施例3〕
(1.ガラス管の洗浄)
実施例1で得た金属膜形成用組成物を用いて、片端封止ガラス管(直径:12.75mm、高さ100mm)の内面に、以下の手順により銅膜を形成した。
まず、500ml(ミリリットル)のビーカーに立てた状態で片端封止ガラス管を入れ、前記ガラス管内に洗浄剤としてクリーンエース(アズワン(株))を満たした。ビーカーに水を入れ、60分間超音波照射した(照射条件:70W、42kHz)。その後、洗浄剤を排出し、ガラス管内を10回純水で洗浄した。
その後、カラス管内及びビーカー内を純水で満たし、60分間超音波照射した。以上の処理を行った後、70℃の乾燥器中で60分間乾燥させて銅膜形成用の片端封止ガラス管を得た。
【0117】
(2.金属膜形成用組成物のガラス管(基材)への付与)
実施例1で得た金属膜形成用組成物を、洗浄し、乾燥した前記片端封止ガラス管に12g注入してガラス管内に貯留し、ガラス管を立てた状態で、ガラス管の開口部をパラフィルムで被覆し、室温にて3日間静置した。静置3日後に金属膜形成用組成物を排出し、室温にて24時間自然乾燥した。
目視による観察では、ガラス管の内面に金属光沢を有する銅膜が形成されていることが確認された。
図5は、片端封止ガラス管内に実施例3の製造方法により形成された銅膜、及び銅膜の内部抵抗を測定するために銅膜に取り付けられた測定端子を示す概略断面図である。
図5に示すように、実施例3の製造方法により、片端封止ガラス管30の内部に銅膜32が形成された。形成された銅膜32の内部抵抗の測定は、図5に示すように、銅膜32が内部に形成された片端封止ガラス管30の開口部近傍の2点に、抵抗値測定器(図示せず)に連結する一対の導線36の先端に位置する一対の測定端子34を当てて、抵抗値測定器により行った。その結果、形成された銅膜の内部抵抗値は3kΩ~20kΩであり、電気伝導性を有する銅膜が形成されていることがわかった。
【0118】
(3.金属膜形成用組成物のガラス管(基材)への再付与)
上記で得られた内面に銅膜が形成された片端封止ガラス管に、新たに実施例1で得た金属膜形成用組成物を12g注入してガラス管内に貯留した。ガラス管の開口部をパラフィルムで被覆し、室温にて3日間静置した。静置3日後に金属膜形成用組成物を排出し、室温にて24時間自然乾燥した。
その結果、金属膜形成用組成物を再付与して形成された銅膜は、金属膜形成用組成物を1回のみ付与した後に形成された銅膜よりも、銅膜の金属光沢が増していた。
図5に示す方法にて、既述の方法と同様にして、ガラス管の内部に形成された銅膜の抵抗値を測定した。測定により得た銅膜の内部抵抗値は、0.3Ω~1kΩであり、金属膜形成用組成物の付与と乾燥とを2回行うことで、金属膜形成用組成物の付与と乾燥とを1回のみ行って形成した銅膜よりも、電気伝導性がより向上した銅膜が形成されることが確認された。
【0119】
実施例1~実施例3で製造された銅膜の評価結果より、基材に金属膜形成用組成物を付与し、乾燥させるのみで、基材上に簡易に電気伝導性を有する銅膜が形成されることが確認された。
また、基材への金属膜形成用組成物の付与と、乾燥とを2回行うことにより、1回のみ行った場合に比較し、より緻密で、膜厚がより厚く、電気伝導性がより良好な銅膜を形成し得ることがわかる。
【0120】
〔実施例4〕
(1.電解液Aの調製)
500mL(ミリリットル)の三角フラスコに、300gの水を入れ、撹拌しながら、HEDTA(9.174g:31.39mmol)、及びアンモニア(4.773g:78.48mmol)をこの順に加えて、常温(25℃)にて1時間撹拌を継続し、電解液Aを得た。
得られた電解液Aは、目視で観察したところ、透明な均一溶液であった。
【0121】
(2.金属前駆体の溶液の調製)
図1に示す如き、一対の電解液槽16、18として、2つの石英製のセル(幅:100mm×長さ:100mm×深さ:60mm)を準備した。一対の電解液槽16、18は、セルロース製の透析用フィルタ((株)日本メデカルサイエンス製、ヴィスキングチューブ)12を備えた流路で連結されている。
その後、電解液槽16、18のそれぞれに、前記で得た電解液A(電解液20)を150gずつ貯留した。
次に、貯留された電解液Aに接するように、一対の電解液槽16、18のそれぞれに、電極22、24を配置した。
電極22及び電極24として、銅板(長さ:900mm×幅:37mm×厚さ:0.3mm)を用いた。
電極22と電極24とを、直流電源26に接続し、電圧を、0Vを超え18Vまで印加し2Aの電流を供給した。電源としては、直流安定化電源(PMC18-2(商品名)、菊水電子工業(株))を用いた。
電圧を印加することにより、陽極としての電極22が配置された電解液槽16では、電極22である銅板から溶出した銅イオンに起因して、電解液が青色に変色し、銅錯体を含む金属前駆体液が得られたことが確認された(工程I)。
他方、陰極としての電極(銅板)24が配置された側の電解液槽18では、電解液の変色は認められなかった。また、陰極としての電極24から気体が発生することが確認された。気体を収集して確認したところ、水素ガスであることがわかった。
【0122】
(3.金属膜形成用組成物の調製)
工程Iで得た金属前駆体液と、実施例1で調製したアスコルビン酸の15質量%水溶液とを、アスコルビン酸100質量部に対し、金属前駆体の溶液中の銅の含有量が300質量部となる比率で混合し、室温にて20分間撹拌して金属膜形成用組成物を得た。(工程II)
金属前駆体液と、実施例1で得たアスコルビン酸水溶液とを、混合した直後は、混合液は深緑色を呈していたが、混合を継続したところ、20分後には、得られた金属膜形成用組成物は黄色に変化した。
【0123】
(4.金属膜の形成)
ポリスチレン製プラスチックシャーレ(直径90mm、深さ15mm)に、十分に洗浄した石英ガラス板(長さ:20mm×幅:20mm×厚さ:1.5mm)を4枚配置した。
プラスチックシャーレに、上記実施例4の工程IIで得た金属膜形成用組成物を30g注入し、石英ガラス板を金属膜形成用組成物に浸漬し、室温にて、3日間静置した。
3日後に石英ガラス板をプラスチックシャーレから取り出し、純水で5回洗浄した後、室温にて乾燥させ、実施例4の製造方法により、石英ガラス板の面上に銅膜が形成された石英ガラス板を得た。(工程III)
【0124】
(銅膜の評価)
得られた銅膜について、実施例1と同様にして評価を行った。
得られた銅膜をX線回折(XRD)で測定したところ、得られたXRDのパターンにより、形成された銅膜は、銅の単一相であることが確認された。
【0125】
得られた銅膜について、実施例1における方法と同様にして抵抗値を測定した。
その結果、抵抗値は、5.3×10-4Ωcmであり、得られた銅膜は、薄膜でありながら、実用上十分な電気伝導性を示した。
【0126】
〔実施例5-1、実施例5-2、比較例1〕
(1.銅錯体水溶液の調製)
純水35gに、金属塩であるギ酸銅四水和物5.78gと25質量%アンモニア水10.48gとを加え、室温にて、500rpmの条件で1時間撹拌して混合物を得た。
純水をさらに添加して、混合物に含まれる銅イオン濃度が0.5mmol/gとなるように調整し、金属前駆体液2を得た。(工程I)
【0127】
(2.アスコルビン酸水溶液の調製)
純水32gと、有機還元剤としてのアスコルビン酸8gとを混合し、室温(25℃)にて500rpmの条件で30分間撹拌し、その後、純水をさらに添加量して、アスコルビン酸濃度が1.14mmol/gである、無色透明のアスコルビン酸水溶液2を得た。
【0128】
(3.金属膜形成用組成物の調製)
(1.)で得た金属前駆体液2と、(2.)で得たアスコルビン酸水溶液2とを、混合して室温にて500rpmの条件で20分間撹拌して、アスコルビン酸100質量部に対する銅イオンの含有量が100質量部である実施例5-1の金属膜形成用組成物(i)を得た。同様にして、混合比を変え、アスコルビン酸100質量部に対する銅イオンの含有量は300質量部である実施例5-2の金属膜形成用組成物(ii)を得た。(工程II)
各金属膜形成用組成物に含まれる金属(銅)イオンの量及び有機還元剤であるアスコルビン酸の量は、既述の方法で測定した。
また、金属前駆体液2に、アスコルビン酸水溶液2を添加せず、純水を19.2g添加した以外は、金属膜形成用組成物(i)と同様にして比較例1の金属膜形成用組成物を得た。
【0129】
(4.金属膜形成用組成物の基材への付与)
ポリスチレン製プラスチックシャーレ(直径90mm、深さ15mm)に、十分に洗浄した石英ガラス板(長さ:20mm×幅:20mm×厚さ:1.5mm)を4枚配置した。
プラスチックシャーレに、工程IIで得た各金属膜形成用組成物を30g注入し、石英ガラス板を金属膜形成用組成物に浸漬し、室温にて、3日間静置した。
3日後に石英ガラス板をプラスチックシャーレから取り出し、純水で5回洗浄した後、室温にて乾燥させたところ、実施例5-1 及び実施例5-2で得た金属膜形成用組成物を用いたものは、石英ガラス板の面上に銅膜が形成された。
比較例1の比較金属膜形成用組成物を用いたものは、石英ガラス板の面上には銅膜は形成されなかった。(工程III)
【0130】
(5.金属膜の評価)
得られた銅膜について、以下の方法で、抵抗値を測定した。
ガラス板状に形成された銅膜について、無作為に選択して膜上の5点を2端子測定法にて測定し、最大値及び最小値を除く3点の平均値を抵抗値とした。測定は、2端子抵抗計(三和電気計器(株)、SANWA デジタルマルチメーター PC20)を用い、常温にて測定した。上記方法で測定した抵抗値が低いほど電気伝導性が良好であると評価する。
その結果、実施例5-1で得た銅膜の抵抗値は100kΩ~2MΩであり、実施例5-2で得た銅膜の抵抗値は1.3Ωであり、得られた銅膜は、いずれも実用上十分な電気伝導性を示した。
一方、アスコルビン酸を含有しない金属膜形成用組成物を用いた比較例1では、銅膜は形成されなかった。
【0131】
〔実施例6-1~実施例6-4〕
(1.銅錯体水溶液の調製)
純水45gに、金属塩であるギ酸銅四水和物3.71gと25質量%アンモニア水6.51gとを加え、室温にて、500rpmの条件で1時間撹拌し、金属前駆体液を得た。得られた金属前駆体の溶液は、目視による観察で深青色を呈していた。金属前駆体液に含まれる銅イオン濃度を0.3mmol%に調整した。(工程I)
【0132】
(2.アスコルビン酸水溶液の調製)
純水35gと、有機還元剤としてのアスコルビン酸8.75とを混合し、室温にて30分間撹拌し、無色透明のアスコルビン酸水溶液を得た。水溶液のアスコルビン酸の濃度を20質量%に調整した。
【0133】
(3.金属膜形成用組成物の調製)
(1.)で得た金属前駆体液と、(2.)で得たアスコルビン酸水溶液とを、アスコルビン酸100質量部に対し、金属前駆体の溶液中の銅イオンの含有量が下記表2に記載の如く、それぞれ200質量部(実施例6-1:金属膜形成用組成物(a))、300質量部(実施例6-2:金属膜形成用組成物(b))、350質量部(実施例6-3::金属膜形成用組成物(c))、及び400質量部(実施例6-4:金属膜形成用組成物(d))の比率となる量で混合し、室温にて20分間撹拌して金属膜形成用組成物(a)~(d)を得た。(工程II)
【0134】
【表2】
【0135】
(4.ガラス管の洗浄)
実施例1で得た金属膜形成用組成物1を用いて、片端封止ガラス管(直径:12.75mm、高さ350mm)の内面に、以下の手順により銅膜を形成した。
まず、500ml(ミリリットル)のビーカーに立てた状態で片端封止ガラス管を入れ、前記ガラス管内に洗浄剤としてクリーンエース(アズワン(株))を入れて、洗浄用ブラシ(ブラシスケール:22mmΦ×180mm)を用いて2分間ブラッシングした。その後、ガラス管内を10回水洗した。次に、10gのクリーンエースをガラス管内入れて1分間ブラッシングした。その後10回水洗し、精製水で5回及びエタノールで3回置換した。
その後、室温で1晩ガラス管開口部を下向きにした状態で静置して、自然乾燥させて銅膜形成用の片端封止ガラス管を得た。
【0136】
(5.金属膜形成用組成物のガラス管(基材)への付与)
前記3.で調製した5種類の金属膜形成用組成物を、洗浄し、乾燥した前記片端封止ガラス管に80g注入してガラス管内に貯留し、ガラス管を立てた状態で、ガラス管の開口部をゴム栓にて密封し、室温(23℃~25℃)にてガラス管を、ゴム栓側を上方として垂直(縦置き)に配置し、3日間静置した。
静置後、金属膜形成用組成物を排出し、純水で5回洗浄した後、室温にて乾燥させた。同様の試料をそれぞれ3点ずつ作製した。
目視による観察では、ガラス管の内面に金属光沢を有する銅膜が形成されていることが確認された。
【0137】
(6.金属膜の評価)
ガラス管内に生成した銅膜の質量及び形成された金属膜の抵抗値を測定した。
銅膜の質量は、銅膜を形成していないガラス管と、銅膜形成後のガラス管との質量差から測定した。測定は、3点の試料について行い、その平均値を銅膜の質量とした。
【0138】
得られた銅膜の抵抗値の測定は、以下の方法で行った。
ガラス管開口部付近の銅膜上の無作為に選択した5点を2端子測定法で測定し、最大値及び最小値を除く3点の平均値を抵抗値とした。測定装置は、実施例5-1と同じ装置を用いた。
結果を、上記表2に併記した。
表2の結果より、片端封止ガラス管内に形成された銅膜の抵抗値は、いずれも低抵抗であり、電気伝導性を有する銅膜が形成されていることがわかった。
また、アスコルビン酸100部に対し、銅イオンが200部及び300部の実施例6-1及び実施例6-2で形成した銅膜は、より抵抗値が低く、電気伝導性がより良好であることが分かる。
【0139】
〔実施例7-1~実施例7-2〕
(7.ガラス管の配置方向の検討)
実施例6-1で得た金属膜形成用組成物(a)(アスコルビン酸100部に対して、銅イオンを200部含む組成物)を用いて、ガラス管の配置方向による銅膜の生成状況を検討した。
実施例6-1で用いた片端封止ガラス管に実施例6-1で得た金属膜形成用組成物(a)を80g注入してガラス管内に貯留し、ガラス管を立てた状態で、ガラス管の開口部をゴム栓にて密封し、室温(23℃~25℃)にてガラス管を、ゴム栓側を上方として垂直(縦置き)に配置して、3日間静置した試料(実施例7-1)と、ガラス管を水平(横置き)に配置した試料(実施例7-2)について、形成された銅膜の評価を行った。
【0140】
実施例7-2では、ガラス管をまず、横置きの状態で24時間静置、その後、ガラス管の円周方向を上下反転(180°回転)させて横置きの状態で24時間静置し、さらに、円周方向を上下反転(180°回転)させて横置きの状態で24時間静置した。
72時間経過後に、形成された銅膜の状態を目視で観察したところ、実施例7-2は、実施例7-1に対して、均一性が良好な銅膜が形成されていた。
形成された銅膜の質量と、銅膜の抵抗値を、実施例6-1と同様にして測定した。実施例7-2の横置きの試料では、最終的に重力方向の下方となった側の銅膜(48時間下方に位置した側)と、重力方向に対し上方(24時間下方に位置した側)の双方の銅膜について抵抗値を測定した。
結果を表3に示す。
【0141】
【表3】
【0142】
表3によれば、縦置きしたガラス管に膜が形成された実施例7-1において形成された銅膜の質量に比較して、横置きしたガラス管に形成された実施例7-2において形成された銅膜の質量がより大きいことがわかる。
また、ガラス管を横向きとして銅膜を形成した場合、重力方向に対し下方に位置する側のガラス管内面に形成された銅膜は、重力方向の上方に位置する側のガラス管内面に形成された銅膜よりも、目視で観察したところ厚く見えた。
横置きしたガラス管の重力方向の下側部分に形成された銅膜の抵抗値は、重力方向の上方に位置する側のガラス管内面に形成された金属膜よりも、測定した抵抗値がより低く、電気伝導性がより良好であった。ガラス管を回転させて場合でも、下方に位置する時間がより長い側に、より厚みの大きい銅膜が形成されることが分かる。
これらより、ガラス管内に銅膜を形成させる場合、重力方向に対し、垂直な縦置きよりも、重力方向に対し水平な横置きが均一な膜の形成に有用であり、重力方向の影響を軽減するため、ガラス管の上下方向を回転させることも有用であることが推定される。
【0143】
〔実施例8-1~実施例8-9〕
(金属膜形成用組成物の調製)
実施例5-1において、(1.)で得た金属前駆体液2と、(2.)で得たアスコルビン酸水溶液2とを、アスコルビン酸100部に対し、銅イオンがそれぞれ100部、200部及び300部となる量で、混合して室温にて500rpmの条件で20分間撹拌して、銅イオンの含有比率が100部の金属膜形成用組成物(i)、銅イオンの含有比率が200部の金属膜形成用組成物(ii)及び銅イオンの含有比率が300部の金属膜形成用組成物(iii)を得た。(工程II)
【0144】
(金属膜形成用組成物の基材への付与)
ポリスチレン製プラスチックシャーレ(直径90mm、深さ15mm)に、十分に洗浄した石英ガラス板(長さ:20mm×幅:20mm×厚さ:1.5mm)を4枚配置した。
プラスチックシャーレに、工程IIで得た各金属膜形成用組成物(i)~(iii)をそれぞれ30g注入し、石英ガラス板を金属膜形成用組成物(i)~(iii)に浸漬し、室温にて、1日間静置した。
静置後の石英ガラス板をプラスチックシャーレから取り出し、純水で5回洗浄した後、室温にて乾燥させて、石英ガラス板の面上に銅膜が形成された実施例8-1、実施例-4及び実施例8-7の銅膜積層体を得た。(工程III)
金属膜形成用組成物(i)~(iii)に浸漬し、静置する時間を2日間とした以外は上記と同様にして、実施例8-2、実施例8-5及び実施例8-8の銅膜積層体を得た。た。
金属膜形成用組成物(i)~(iii)に浸漬し、静置する時間を3日間とした以外は上記と同様にして、実施例8-3、実施例8-6及び実施例8-9の銅膜積層体を得た。た。
アスコルビン酸100部に対する銅イオンの含有比率、金属膜形成用組成物の浸漬時間を、下記表4に示す。
【0145】
【表4】
【0146】
(5.金属膜の評価)
得られた銅膜について、実施例1と同様にして形成された銅膜の抵抗値を測定した。また、実施例7-1と同様にして形成された銅膜の質量を測定した。結果を表4に併記した。
表4に示すように、いずれのガラス基材にも電気伝導性を有する銅膜が形成されていることが確認された。
また、実施例8-1、8-4及び8-7との対比より、アスコルビン酸100部に対し、銅イオンを200部及び300部含有する金属膜形成用組成物では、銅イオンの含有比率が100部の試料よりも質量がより大きい銅膜が形成されたことがわかる。また、金属膜形成用組成物の浸漬時間が1日間、2日間の試料に対して3日間の実施例が、形成された銅膜の電気伝導性がより良好であった。
【0147】
〔実施例9-1、実施例9-2〕
(金属膜形成用組成物の調製)
実施例6-1と同様にして、金属膜形成用組成物(a)(アスコルビン酸100部に対して、銅イオンを200部含む組成物)を得た。
【0148】
(金属膜形成用組成物のウレタン基材への付与)
ポリエチレン製の袋((株)生産日本社、ユニパックE-4(商品名)、縦×横=140mm×100 mm)に、ブロック型のウレタンフォーム(縦10mm×横10mm×長さ60mm:薄緑色)と、前記で得た金属膜形成用組成物(a)35gとを入れ、ウレタンフォームを5回程度押して、ウレタンフォーム内の空気を指で押し出し、濾過鐘で30分間減圧した。その後、ポリエチレン製の袋の開口部を封じて、室温で24時間静置した。
その後、ウレタンフォームをポリエチレン製の袋から取り出し、空隙内に残存する金属膜形成用組成物を指で押し出し、洗浄水として純水を用いて1回洗浄した後、洗浄水を除去し、室温にて1時間乾燥した。
得られたウレタンフォームは褐色に変色し、表面に銅膜が形成されたことが確認された。このようにして、銅膜を有する実施例9-1の銅膜積層体であるウレタンフォームを得た。得られた実施例9-1銅膜積層体について、実施例1と同様にして抵抗値を測定したところ、40MΩ以上であり、電気伝導性を有することが確認された。
【0149】
実施例9-1の銅膜積層体を、上記と同じポリエチレン製の袋に入れ、前記で得た金属膜形成用組成物を35g入れ、同様にしてウレタンフォーム内の空気を指で押し出し、濾過鐘で30分間減圧した。その後、ポリエチレン製の袋の開口部を封じて、室温で24時間静置した。その後、ウレタンフォームをポリエチレン製の袋から取り出し、空隙内に残存する金属膜形成用組成物を指で押し出し、洗浄水として純水を用いて1回洗浄した後、洗浄水を除去し、室温にて1時間乾燥して実施例9-2の銅膜積層体を得た。
実施例9-2の銅膜積層体は、実施例9-1の銅膜積層体に比較し、銅由来の褐色がより濃くなったことが観察された。
得られた実施例9-2の銅膜積層体について、実施例8-1と同様にして抵抗値を測定したところ、40MΩ以上であり、電気伝導性を有することが確認された。
【0150】
(産業上の利用分野)
本開示の金属膜の製造方法によれば、100℃以上の加熱処理を必要とせず、基材との密着性に優れた緻密な金属膜を、簡易に形成し得る金属膜の製造方法が提供される。
本開示の製造方法によれば、平板状のみならず、任意の形状の基材における任意の面に金属膜を容易に形成することができ、耐熱性を有しない基材にも、基材との密着性が良好な金属膜が形成できることから、種々の分野に応用することができる。
また、基材に対し、金属膜形成用組成物の付与と乾燥とを複数回行うことで、金属膜形成用組成物の付与と乾燥とを1回のみ行って得た金属膜よりも膜厚が大きく、より緻密な金属膜を容易に形成することができる。
本開示の製造方法により製造される金属膜は、例えば、大規模集積回路(LSI)の回路、太陽電池配線、トレンチ埋入配線、電磁波シールド、赤外線遮断ガラス、熱反射ガラス、真空集熱器の熱伝導部材、金属としての、銀又は銅の特性を利用した抗菌性スポンジなどの抗菌性材料、熱媒管等に好適に使用される。
【符号の説明】
【0151】
10 反応装置
12 フィルタ
14 流路
16 電解液槽(陽極側の電解液槽)
18 電解液槽(陰極側の電解液槽)
20 電解液
22 電極(銅板、陽極)
24 電極(銅板、陰極)
26 直流電源
30 片端封止ガラス管
32 銅膜
34 測定端子
36 導線
図1
図2
図3
図4
図5