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  • 特許-スパッタリングターゲット材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20240619BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240619BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20240619BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20240619BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240619BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C23C14/34 A
B22F1/00 M
C22C1/04 B
C22C19/07 C
C22C33/02 B
C22C38/00 303Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020000248
(22)【出願日】2020-01-06
(65)【公開番号】P2021109980
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-536525(JP,A)
【文献】特開2017-045173(JP,A)
【文献】特開2017-057490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 19/07
C22C 38/00
C22C 1/04
C22C 33/02
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その材質が、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金Mであるスパッタリングターゲット材の製造方法であって、
第一粉末と、第二粉末とを混合して得られる混合粉末を焼結する焼結工程を含み、
上記第一粉末及び上記第二粉末が、それぞれ、多数の粒子からなり、
上記第一粉末をなす各粒子の材質が、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金M1であり、この合金M1の、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率が40at.%以上60at.%以下であり、
上記第二粉末をなす各粒子の材質が、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金M2であり、この合金M2の、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率が20at.%以上35at.%以下であり、
上記混合粉末におけるBの比率が、Co、Fe及びBの合計に対して、33at.%以上50at.%以下であり、
上記焼結工程において、Co及びFe和(Co+Fe)とBとの比[(Co+Fe):B]が、at.%で2:1である(CoFe)B相と、この比[(Co+Fe):B]が、at.%で1:1である(CoFe)B相と、を含む金属組織が形成され、
走査型電子顕微鏡を用いて、上記(CoFe)B相と上記(CoFe)B相との境界長さを測定して得られる、単位面積あたりの境界長さY(1/μm)と、上記合金Mの、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率X(at.%)とが、下記式を満たす、スパッタリングターゲット材の製造方法。
Y < -0.0015×(X-42.5)+0.15
【請求項2】
上記第一粉末と、上記第二粉末とを混合して上記混合粉末を得る混合工程をさらに含む、請求項1に記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット材の製造方法に関する。詳細には、本発明は、磁性層の製造に用いるスパッタリングターゲット材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ヘッド、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)等の磁気デバイスには、磁気トンネル接合(MTJ)素子が採用されている。MTJ素子は、高いトンネル磁気抵抗(TMR)信号、低いスイッチング電流密度(Jc)等の特徴を示す。
【0003】
磁気トンネル接合(MTJ)素子は、通常、Co-Fe-B系合金からなる2枚の磁性層で、MgOからなる遮蔽層を挟んだ構造を有している。この磁性層は、その材質がCo-Fe-B系合金であるターゲット材を用いたスパッタリングにより得られる薄膜である。ターゲットをなすCo-Fe-B系合金中のホウ素(B)含量を増加することにより、得られる磁性層の磁気性能が向上して、MTJ素子の高いTMR信号が達成される。
【0004】
一方、ホウ素含量の増加に従って、スパッタリング時にパーティクルの発生頻度が高くなる。特に、ホウ素含量33at.%以上の合金からなるターゲット材の使用時に、パーティクルの発生が顕著である。パーティクルの発生は、得られる磁性膜の品質劣化の原因となる。品質が劣化した磁性膜は、磁気デバイスの性能を不安定化させる。そのため、歩留まりが低下するという問題があった。
【0005】
特開2004-346423公報(特許文献1)には、断面ミクロ組織においてホウ化物相を微細分散化させたCo-Fe-B系合金ターゲット材が開示されている。国際公開WO2015-080009公報(特許文献2)では、Bの高濃度相とBの低濃度相とを含み、Bの高濃度相を細かく分散している磁性材スパッタリングターゲットが提案されている。特開2017-057477公報(特許文献3)では、(CoFe)B、CoB及びFeBの形成を低減したスパッタリングターゲット材が提案されている。国際公開WO2016-140113公報(特許文献4)には、酸素含有量が100massppm以下の磁性材スパッタリングターゲットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-346423公報
【文献】国際公開WO2015-080009公報
【文献】特開2017-057477公報
【文献】国際公開WO2016-140113公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、MTJ素子の性能向上のために、Co-Fe-B系合金中のホウ素含量のさらなる増加が要望されている。特許文献1は、ホウ素含量が30at.%を超えるターゲット材を開示していない。特許文献2では、Co-Fe-B系合金からなるアトマイズ粉末が、所定の粒径となるように篩い分けされている。特許文献3では、ターゲット原料であるCo-Fe-B系合金粉末から、微粉が除去されている。特許文献4では、Co-Fe-B系合金のインゴットから酸化物の多い部分が切除されている。特許文献2-4に開示されたターゲット材は、いずれも製造効率上、好ましいものではない。
【0008】
本発明の目的は、スパッタリング時のパーティクルの発生が少ないスパッタリングターゲット材の効率的な製造方法の提供である。本発明の他の目的は、この製造方法により得られるスパッタリングターゲット材の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等の知見によれば、Co-Fe-B系合金粉末を焼結してなるターゲット材に形成される金属組織の構成相は、ホウ素含量33at.%を境界として変化する。詳細には、ホウ素含量33at.%以上の領域では、ホウ化物相である(CoFe)B相及び(CoFe)B相が優位に形成される。なお、本願明細書において、(CoFe)B相とは、Co及びBの和(Co+Fe)とBとの比[(Co+Fe):B]が、at.%で2:1である相を意味し、(CoFe)B相とは、この比[(Co+Fe):B]が、at.%で1:1である相を意味する。
【0010】
特許文献1及び2に例示されるように、一般的には、ターゲット材をなす合金のミクロ組織をより微細化することで、スパッタリング時のパーティクル発生が低減する傾向にあることが知られていた。しかしながら、本発明者等は、鋭意検討の結果、(CoFe)B相におけるスパッタリング速度と、(CoFe)B相におけるスパッタリング速度との差に起因して両相の境界に生じる段差が、パーティクル発生の要因であることを見出した。そして、パーティクルの発生を抑制するために、金属組織を微細化するという従来の技術常識に反し、(CoFe)B相及び(CoFe)B相をある程度粗大化して、その境界部分を減少させることにより、顕著な効果が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、その材質が、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金Mであるスパッタリングターゲット材の製造方法である。この製造方法は、第一粉末と、第二粉末とを混合して得られる混合粉末を焼結する焼結工程を含んでいる。第一粉末及び第二粉末は、それぞれ、多数の粒子からなる。第一粉末をなす各粒子の材質は、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金M1である。この合金M1の、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率は、40at.%以上60at.%以下である。第二粉末をなす各粒子の材質は、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金M2である。この合金M2の、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率は20at.%以上35at.%以下である。この混合粉末におけるBの比率は、Co、Fe及びBの合計に対して、33at.%以上50at.%以下である。
【0012】
この製造方法では、この焼結工程において、Co及びFeの和(Co+Fe)とBとの比(Co+Fe):Bが、at.%で2:1である(CoFe)B相と、この比(Co+Fe):Bが、at.%で1:1である(CoFe)B相と、を含む金属組織が形成される。走査型電子顕微鏡を用いて、この(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界長さを測定して得られる、単位面積あたりの境界長さY(1/μm)と、合金Mの、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率X(at.%)とは、下記式を満たしている。
Y < -0.0015×(X-42.5)+0.15
【0013】
他の観点から、本発明は、その材質が、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金Mであるスパッタリングターゲット材である。この合金Mの、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率Xは、33at.%以上50at.%以下である。この合金Mの金属組織は、Co及びFeの和(Co+Fe)とBとの比(Co+Fe):Bが、at.%で2:1である(CoFe)B相と、この比(Co+Fe):Bが、at.%で1:1である(CoFe)B相と、を含んでいる。このスパッタリングターゲット材では、走査型電子顕微鏡を用いて、(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界長さを測定して得られる、単位面積あたりの境界長さY(1/μm)と、Bの比率X(at.%)とが、下記式を満たしている。
Y < -0.0015×(X-42.5)+0.15
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る製造方法によれば、ホウ素含量が33at.%以上50at.%以下のCo-Fe-B系合金からなるターゲット材に、(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界長さが所定の条件を満たす金属組織が形成される。この金属組織では、パーティクル発生源となる(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界部分が少ない。この製造方法によれば、スパッタリング時のパーティクルの発生が低減されたターゲット材を、効率よく簡便に製造することができる。
【0015】
他の観点から、本発明に係るスパッタリングターゲット材は、ホウ素含量が33at.%以上50at.%以下のCo-Fe-B系合金を材質として形成されている。このターゲット材を用いて得られる磁性膜の磁気性能は、高い。このターゲット材には、(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界長さが所定の条件を満たす金属組織が形成されている。このターゲット材によれば、スパッタリング時のパーティクルの発生が抑制され、磁性膜製造の歩留まりが向上する。このターゲット材によれば、高性能かつ高品質の磁性膜を効率良く製造することができる。このターゲット材は、磁気ヘッド、MRAM等の磁気デバイスに用いる磁性膜の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例のスパッタリングターゲット材をなす合金の金属組織を示す走査型電子顕微鏡画像である。
図2図2は、比較例のスパッタリングターゲット材をなす合金の金属組織を示す走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0018】
本発明に係るスパッタリングターゲット材の材質は、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金Mであるスパッタリングターゲット材の製造方法である。本発明の効果が阻害されない限り、この合金Mは、任意成分として他の金属元素を含みうる。不可避的不純物としては、O、S、C、N等が例示される。
【0019】
この合金Mの、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率X(以下、ホウ素含量とも称する)は、33at.%以上50at.%以下である。Bの比率を33at.%以上とすることにより、得られる磁性膜の磁気性能が向上する。この磁性膜を組み込むことにより、MTJ素子の高いTMR信号が達成される。Bの比率が50at.%を超える合金組成では、純B相が形成されるため、後述する金属組織が得られない。
【0020】
このスパッタリングターゲット材には、(CoFe)B相及び(CoFe)B相を含む金属組織が形成されている。(CoFe)B相及び(CoFe)B相は、Bと、Co及び/又はFeとの反応によって形成されるホウ化物相であり、その定義は前述したとおりである。
【0021】
このターゲット材に形成された金属組織を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察するとき、(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界長さを測定して得られる、単位面積あたりの境界長さY(1/μm)は、この合金MにおけるBの比率X(at.%)を下記数式に代入して得られる値Vより小さい。
V = -0.0015×(X-42.5)+0.15
換言すれば、このスパッタリングターゲット材には、下記式を満たす金属組織が形成されている。
Y < -0.0015×(X-42.5)+0.15
【0022】
図1は、上記式を満たす金属組織を有するターゲット材について得られたSEM画像である。図1において、濃灰色の部分が(CoFe)B相であり、淡灰色の部分が(CoFe)B相である。このSEM画像から無作為に選択した領域を画像処理して、濃灰色の部分と淡灰色の部分との境界の長さ(μm)を求め、選択した領域の面積(μm)で除すことにより、単位面積あたりの境界長さY(1/μm)が算出される。画像処理には、市販の画像解析ソフトが用いられうる。
【0023】
図1に示される通り、上記式を満たす金属組織では、(CoFe)B相及び(CoFe)B相が微細分散されておらず、(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界部分が少ない。従って、このターゲット材を用いたスパッタリングでは、(CoFe)B相及び(CoFe)B相のスパッタリング速度の差に起因して、両相の境界に生じる段差も少ない。このターゲット材によれば、スパッタリング時のパーティクルの発生が充分に抑制される。
【0024】
本発明の効果が得られる限り、この金属組織が、(CoFe)B相及び(CoFe)B相以外に、他の相を有してもよい。この他の相が、本質的にホウ素を含まない非B合金相であってもよい。非B合金相として、CoFe相、Co相及びFe相が例示される。
【0025】
このスパッタリングターゲット材は、いわゆる粉末冶金により製造される。粉末冶金では、原料である粉末を高圧下で加熱して固化成形することにより焼結体を形成する。本発明に係るスパッタリングターゲット材の原料粉末は、第一粉末と第二粉末との混合粉末である。換言すれば、本発明に係るスパッタリングターゲット材の製造方法は、第一粉末と第二粉末とを混合して得られる混合粉末を焼結する焼結工程を含む。この焼結体を、機械的手段等で適正な形状に加工することにより、ターゲット材が得られる。
【0026】
第一粉末は、多数の粒子からなる。第一粉末をなす各粒子の材質は、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金M1である。この合金M1の、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率は、40at.%以上60at.%以下である。
【0027】
第二粉末は、多数の粒子からなる。第二粉末をなす各粒子の材質は、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金M2である。この合金M2の、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率は、20at.%以上35at.%以下である。
【0028】
この第一粉末と第二粉末の混合粉末である原料粉末において、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率は、33at.%以上50at.%以下である。この製造方法では、混合粉末におけるBの比率が前述の範囲を満たすように、第一粉末と、第二粉末との混合比が調整される。
【0029】
この混合粉末を原料粉末とすることにより、その材質が、Bと、Co及び/又はFeと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金Mであるスパッタリングターゲット材が得られる。この合金Mの、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率Xは、33at.%以上50at.%以下である。この製造方法では、混合粉末を焼結する焼結工程において、(CoFe)B相及び(CoFe)B相を含む金属組織が形成される。この製造方法で得られるターゲット材では、走査型電子顕微鏡観察により、(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界長さを測定して得られる、単位面積あたりの境界長さY(1/μm)と、合金Mの、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率X(at.%)とが、下記式を満たす。
Y < -0.0015×(X-42.5)+0.15
【0030】
第一粉末及び第二粉末は、それぞれ、アトマイズ法により製造されうる。アトマイズ法の種類は特に限定されず、ガスアトマイズ法であってもよく、水アトマイズ法であってもよく、遠心力アトマイズ法であってもよい。アトマイズ法の実施に際しては、既知のアトマイズ装置及び製造条件が適宜選択されて用いられる。
【0031】
第一粉末と第二粉末との混合には、既知の混合器が用いられうる。本発明の効果が阻害されない限り、第一粉末及び第二粉末に加えて、さらに他の組成の粉末を混合して、混合粉末としてもよい。
【0032】
好ましくは、混合粉末は、固化成形前に篩分級される。第一粉末及び第二粉末の混合前に、各粉末を篩分級してもよい。この篩分級の目的は、焼結を阻害する粒子径500μm以上の粒子(粗粉)を除去することにある。この混合粉末によれば、粗粉除去以外の粒度調整をしない場合でも、本発明の効果が得られる。
【0033】
ターゲット材の製造に際し、原料粉末である混合粉末を固化成形する方法及び条件は、特に限定されない。例えば、熱間静水圧法(HIP法)、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法(SPS法)、熱間押出法等が適宜選択される。また、固化成形して得られた焼結体を加工する方法も、特に限定されず、既知の機械的加工手段が用いられ得る。
【0034】
本発明に係る製造方法により得られるターゲット材は、例えば、MTJ素子に使用されるCo-Fe-B系合金の薄膜を形成するためのスパッタリングに好適に使用される。このターゲット材によれば、従来困難であった高いホウ素含量において、スパッタリング時のパーティクルの発生が顕著に低減され、磁性膜製造の歩留まりが向上する。これにより、磁気ヘッド、MRAM等の磁気デバイスに適した、高性能かつ高品質の磁性膜を効率良く得ることが可能になる。
【実施例
【0035】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0036】
[第一粉末及び第二粉末の製造]
表1-2に、第一粉末及び第二粉末として示される組成となるように、各原料を秤量して、耐火物からなる坩堝に投入して、減圧下、Arガス雰囲気で、誘導加熱により溶解した。その後、溶解した溶湯を、坩堝下部に設けられた小孔(直径8mm)から流出させ、高圧のArガスを用いてガスアトマイズすることにより、ターゲット材製造用の原料粉末を得た。
【0037】
[スパッタリングターゲット材の製造]
得られた第一粉末及び第二粉末を用いて、以下の手順により、実施例のターゲット材No.1-11及び比較例のターゲット材No.12及び13を製造した。
【0038】
始めに、ガスアトマイズ法で得た第一粉末及び第二粉末をそれぞれ篩分級して、直径500μm以上の粗粉を除去した。次に、篩分級後の第一粉末及び第二粉末を、第一粉末の質量aと第二粉末の質量bとの比が表1-2に示される混合比a:b(mass%)となるように、V型混合器に投入して、30~60分間混合して、混合粉末を得た。得られた混合粉末を、炭素鋼で形成された缶(外径220mm、内径210mm、長さ200mm)に充填して真空脱気した後、HIP装置を用いて、温度900~1200℃、圧力100~150MPa、保持時間1~5時間の条件で、焼結体を作製した。得られた焼結体を、ワイヤーカット、旋盤加工及び平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工して、スパッタリングターゲット材とした。
【0039】
単一の粉末(第一粉末)を用いることにより、V型混合器による混合を実施しなかったこと以外は、同様の手順により、比較例のターゲット材No.12及び13を製造した。
【0040】
得られたスパッタリングターゲット材の組成が、下表1-2に示されている。各ターゲット材について、Co、Fe及びBの合計に対するBの比率(at.%)を下記数式のXに代入することにより、値Vを算出した。得られた値Vが、それぞれ下表1-2に示されている。
V = -0.0015×(X-42.5)+0.15
【0041】
[走査型電子顕微鏡観察]
実施例及び比較例のターゲット材から試験片を採取し、各試験片の断面を研磨した。各試験片の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、縦250μm、横400μmの視野の反射電子像を、それぞれ5視野撮影した。その後、画像解析をおこなって(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界の周囲長を求め、単位面積あたりの境界長さを算出した。5視野で算出した数値の平均値が、境界長さY(1/μm)として、下表1-2に示されている。
【0042】
[パーティクル評価]
実施例及び比較例のターゲット材を用いて、DCマグネトロンスパッタにて、スパッタリングをおこなった。スパッタリング条件は、以下の通りである。
基板:アルミ基板(直径95mm、厚み1.75mm)
チャンバー内雰囲気:アルゴンガス
チャンバー内圧:圧力0.9Pa
スパッタリング後、Optical Surface Analyzerにて、直径95mmのアルミ基板上に付着した直径0.1μm以上のパーティクルを係数し、下記の基準に基づき、格付けを行った。この結果が、パーティクル評価として、下表1-2に示されている。
A:パーティクル数10個以下
B:パーティクル数10個超200個以下
C:パーティクル数200超
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表1に示される通り、実施例のターゲット材No.1-11で得られる境界長さYは、値Vより小さい。一方、表2に示される通り、比較例のターゲット材No.12及び13で得られる単位面積あたりの境界長さYは、値Vより大きい。
【0046】
実施例のターゲット材No.4について5視野撮影して得られたSEM画像の一つが、図1に示されている。比較例のターゲット材No.13について5視野撮影して得られたSEM画像の一つが、図2に示されている。図1及び2において、濃灰色の部分は(CoFe)B相であり、淡灰色の部分は(CoFe)B相である。図示される通り、実施例のターゲット材No.4の金属組織では、(CoFe)B相及び(CoFe)B相がそれぞれ粗大化されている。一方、比較例のターゲット材No.13には、(CoFe)B相及び(CoFe)B相が微細化された金属組織が形成されている。図1及び2の対比から、比較例のターゲット材と比較して、実施例のターゲット材には、(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界部分が少ない金属組織が形成されていることがわかる。
【0047】
単位面積あたりの境界長さYが値Vより小さく、(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界部分が少ない実施例No.1-11では、スパッタリング時のパーティクルの発生が低減された。一方、微細化された金属組織を有し、境界長さYが値Vより大きい比較例No.12及び13では、多数のパーティクルが発生した。
【0048】
以上説明された通り、実施例のターゲット材は、比較例のターゲット材に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上説明されたスパッタリングターゲット材は、Co-Fe-B系合金からなる薄膜を用いる種々の用途に適用されうる。
図1
図2