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特許7506481スラリー保管装置、スラリー製造システム及びスラリー保管方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】スラリー保管装置、スラリー製造システム及びスラリー保管方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 90/00 20060101AFI20240619BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240619BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240619BHJP
   B01F 35/00 20220101ALI20240619BHJP
   B01F 35/71 20220101ALI20240619BHJP
【FI】
B65D90/00 A
H01M4/139
H01M4/525
B01F35/00
B01F35/71
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020016442
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021123366
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000229047
【氏名又は名称】日本スピンドル製造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】大西 慶一郎
(72)【発明者】
【氏名】浅見 圭一
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 太地
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 博
(72)【発明者】
【氏名】柳田 昌宏
【審査官】植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138192(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/054191(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/037805(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 88/00-90/66
B65D 81/18-81/30
B01F 35/00-35/95
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体を分散部へ供給する粉体供給部と、
液体を分散部へ供給しつつスラリーを貯留するための攪拌タンクと、
粉体と溶媒とを混合する分散部と、
を備える分散装置と、
前記分散装置で調製されたハイニッケル材料を含有する水系スラリーを保管するスラリー保管装置とを備え、
前記スラリー保管装置はスラリーを保持する保持手段と、
前記保持手段で保持したスラリーに対して当該スラリーのpH値上昇を抑制するpH値上昇抑制手段と、を備えることを特徴とする、スラリー製造システム
【請求項2】
前記pH値上昇抑制手段は、加圧気体の供給による加圧手段を備えることを特徴とする、請求項1に記載のスラリー製造システム
【請求項3】
前記加圧手段において供給する加圧気体は、二酸化炭素(炭酸ガス)を含む気体であることを特徴とする、請求項2に記載のスラリー製造システム
【請求項4】
前記pH値上昇抑制手段は、ドライエアーを供給するドライエアー供給手段を備えることを特徴とする、請求項1に記載のスラリー製造システム
【請求項5】
前記pH値上昇抑制手段は、減圧手段を備えることを特徴とする、請求項1に記載のスラリー製造システム
【請求項6】
前記保持手段には、圧力センサを設け、
さらに、前記圧力センサの値に基づいて前記保持手段内の圧力を調整する圧力調整手段とを設けることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のスラリー製造システム
【請求項7】
スラリー製造方法であって、
粉体と溶媒とを混合する分散ステップと、
前記分散ステップで調製されたハイニッケル材料を含有する水系スラリーを保持する保持ステップと、を含み、
前記保持ステップは、保持している前記水系スラリーのpH値上昇を抑制するpH値上昇抑制ステップを含むことを特徴とする、スラリー製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー保管装置、スラリー製造システム、及びスラリー保管方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーを対象とするスラリー保管装置、スラリー製造システム、及びスラリー保管方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコンやタブレット端末等のようなポータブル型の電子機器の普及に伴い、二次電池の需要が高まっている。このような二次電池としては、高エネルギー密度を有し、動作電圧が高く、小型化、軽量化が可能であるリチウムイオン二次電池が広く用いられている。
【0003】
一般に、リチウムイオン二次電池とは、電気伝導を担うイオンとしてリチウムイオンを用いた二次電池(蓄電池)であり、例えば、リチウムイオン電池、リチウム二次電池、リチウム全固体電池、リチウムポリマー電池、リチウムゲル電池、などと呼称される蓄電デバイスを意味している。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質としては、非特許文献1に記載されるように、ニッケル、コバルト、マンガンなどの遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物が知られている。
【0005】
リチウム遷移金属複合酸化物のうち、特にニッケル含有率が高いものはハイニッケル材料と呼ばれ、高い電気容量を安定して取り出すことのできる正極活物質として着目されている。
【0006】
一方、二次電池の電極作製においては、正極活物質をスラリー(固体を溶媒あるいは分散媒体とする液体中に懸濁させた泥状の懸濁液またはペースト)化したものを集電体表面に塗工しているが、スラリー作製時には主に有機溶媒が用いられている。しかし、近年、環境負荷の面などから有機溶媒の使用に関する規制(排出規制)が厳しくなってきており、排出規制をクリアするための処理にかかるコストも増大していく傾向にある。したがって、環境負荷の低減及び製造コストの削減の面から、有機溶媒の使用を少なくしていくことが求められている。
【0007】
例えば、特許文献1には、電極製造用スラリーとして、特定のバインダー成分を含む水溶液と電気化学的に活性化可能な化合物(正極活物質を含む)とを混合した水系スラリーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-38074号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】向井孝志著、「次世代電池用電極材料の高エネルギー密度、高出力化」、株式会社技術情報協会、2017年11月30日、第1章第1節、p.3-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
二次電池の電極作製において、生産スケジュールの都合等により、スラリーの調製後、すぐに塗工工程を実施できない場合がある。このとき、調製したスラリーを一時保管した後、塗工工程に供するという対応をとることがある。
【0011】
一方、本発明者らは、水系スラリー(水を溶媒あるいは分散媒体とするペースト)のうち、特にハイニッケル材料を含有する水系スラリーを保管する際、時間の経過とともにスラリーのpH値上昇が生じ、スラリーの物性が変質するという知見を得た。スラリーのpH値が上昇すると、次工程である塗工工程において、スラリーが塗工された集電体の腐食が起きるという問題が生じる。また、スラリーの物性が変質することで、集電体への塗工そのものが困難になるという問題も生じる。
【0012】
水系スラリーは、スラリー調製時に、スラリーの主要成分(正極活物質)と水とが十分混合されていると考えられるが、本発明者らが得た知見によれば、調製した水系スラリーは時間経過とともにアルカリ化していることが明らかとなった。したがって、特許文献1に記載されるような水系スラリーは、適切な条件下で保管する必要がある。
【0013】
本発明の課題は、水系スラリーのうち、特にハイニッケル材料を含有する水系スラリーを適切に保管することができるスラリー保管装置、スラリー製造システム、及びスラリー保管方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、スラリーを保持する保持手段に対し、スラリーのpH値上昇を抑制するpH値上昇抑制手段を設けることで、水系スラリーのうち、特にハイニッケル材料を含有する水系スラリーの適切な保管が可能になることを見出して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のスラリー保管装置、スラリー製造システム、及びスラリー保管方法である。
【0015】
上記課題を解決するための本発明のスラリー保管装置は、粉体と溶媒とを混合する分散装置にて調製されたハイニッケル材料を含有する水系スラリーを保管するスラリー保管装置であって、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーを保持する保持手段と、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーのpH値上昇を抑制するpH値上昇抑制手段とを備えることを特徴とするものである。
本発明のスラリー保管装置によれば、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーのpH値上昇を抑制するpH値上昇抑制手段を設けることにより、保持手段内に保持したハイニッケル材料を含有する水系スラリーの経時変化によるアルカリ化(pH値上昇)を抑止し、スラリーの物性が変質することを抑制することができる。これにより、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーを長期間安定して保管することが可能となる。
【0016】
また、本発明のスラリー保管装置の一実施態様としては、pH値上昇抑制手段は、加圧気体の供給による加圧手段を備えるという特徴を有する。
本発明者らの知見により、保持手段内のスラリーは、外気中の水分と接触することにより、アルカリ化が進行することが推察される。一方、この特徴によれば、保持手段内に外気が流入することを抑制することができる。これにより、保持手段内のスラリーが外気中の水分と反応することがなく、スラリーのpH値上昇を容易に抑制することができ、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの安定した保管を容易に行うことが可能となる。
【0017】
また、本発明のスラリー保管装置の一実施態様としては、加圧手段において供給する加圧気体は、二酸化炭素(炭酸ガス)を含む気体であるという特徴を有する。
この特徴によれば、保持手段内に外気が流入することを抑制することに加え、保持手段内に収容されたスラリー表面において、二酸化炭素(炭酸ガス、CO)が水に溶解して生じる酸成分とスラリー内のアルカリ成分による中和反応が起こる(2LiOH+CO→LiCO+HO)。これにより、スラリーの強アルカリ化(pH値が10を超える現象)をより確実に抑制することが可能となる。
【0018】
また、本発明のスラリー保管装置の一実施態様としては、pH値上昇抑制手段は、ドライエアーを供給するドライエアー供給手段を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、保持手段内にある気体中の水分を低減させることが可能となる。これにより、保持手段内におけるスラリーと気体中の水分との反応を抑制して、スラリーのpH値上昇を容易に抑制することができ、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの安定した保管を容易に行うことが可能となる。
【0019】
また、本発明のスラリー保管装置の一実施態様としては、pH値上昇抑制手段が、減圧手段を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、保持手段内を減圧することで、保持手段内の気体成分を除去することができる。また、当該気体成分を除去することで、保持手段内の気体中の水分を低減させることが可能となる。これにより、保持手段内におけるスラリーと水分との反応を抑制し、スラリーのpH値上昇を容易に抑制することができ、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの安定した保管を容易に行うことが可能となる。
なお、減圧手段として、真空ポンプなどを用いて保持手段内を真空状態とすることで、より一層pH値上昇を抑制することが可能となる。
【0020】
また、本発明のスラリー保管装置の一実施態様としては、保持手段には、圧力センサを設け、さらに、圧力センサの値に基づいて保持手段内の圧力を調整する圧力調整手段とを設けるという特徴を有する。
この特徴によれば、保持手段内の圧力を計測する手段と、その値に応じて圧力を調整する手段を設けることで、スラリーの保管に係る維持管理について迅速な対応を可能にし、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの安定した保管をより一層確実に行うことが可能となる。また、スラリーの保管に係る維持管理自体を自動化することができるという効果も奏する。
【0021】
上記課題を解決するための本発明のスラリー製造システムは、上述したスラリー保管装置と、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーを調製する分散装置とを備えることを特徴とするものである。
このスラリー製造システムによれば、分散装置により調製されたスラリーを、次工程(塗工工程)に移送するまでの間、スラリーのアルカリ化や物性変質を抑制した状態で安定して保管することができる。これにより、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの保管及び取り扱いを容易にし、リチウムイオン二次電池の製造全体において環境負荷の低減や製造コストの削減等を実現することが可能となる。
【0022】
上記課題を解決するための本発明のスラリー保管方法は、粉体と溶媒とを混合する分散装置にて調製されたハイニッケル材料を含有する水系スラリーを保管するスラリー保管方法であって、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーを保持する保持ステップと、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーのpH値上昇を抑制するpH値上昇抑制ステップとを含むことを特徴とするものである。
このスラリー保管方法によれば、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーのpH値上昇を抑制するpH値上昇抑制ステップにより、保持ステップにより保持したハイニッケル材料を含有する水系スラリーの経時変化によるアルカリ化を抑制し、スラリーの物性が変質することを抑制することができる。これにより、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーを長期間安定して保管することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、水系スラリーのうち、特にハイニッケル材料を含有する水系スラリーを適切に保管することができるスラリー保管装置、スラリー製造システム、及びスラリー保管方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施態様のスラリー製造システムの構造を示す概略説明図である。
図2A】本発明の第1の実施態様のスラリー保管装置の構造を示す概略説明図である。
図2B】本発明の第1の実施態様のスラリー保管装置の別態様を示す概略説明図である。
図2C】本発明の第1の実施態様のスラリー保管装置の別態様を示す概略説明図である。
図3】本発明の第1の実施態様のスラリー製造システム及びスラリー保管装置の別態様を示す概略説明図である。
図4】本発明の第1の実施態様のスラリー保管装置を用いてハイニッケル材料を含有する水系スラリーを保管した際のpH値の経時変化を示すグラフである。
図5】本発明の第2の実施態様のスラリー保管装置の構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るスラリー保管装置、スラリー製造システム、及びスラリー保管方法を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載するスラリー保管装置及びスラリー製造システムについては、本発明に係るスラリー保管装置及びスラリー製造システムを説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。なお、本発明のスラリー保管方法については、以下のスラリー保管装置の構造及び作動の説明に置き換えるものとする。
【0026】
本発明の保管対象であるスラリーSとしては、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いられるリチウム遷移金属複合酸化物を含む水系スラリーであって、特にリチウムを含有する遷移金属複合酸化物中のニッケルの含有量が高く、いわゆるハイニッケル材料と称されるものを含む水系スラリーが挙げられる。
【0027】
なお、本発明において、ハイニッケル材料とは、正極活物質中の遷移金属元素を1とした場合、Niが0.5を超えるリチウムを含有した層状酸化物系材料を意味している。一般的に、Niが0.5未満である正極活物質は、原材料として炭酸リチウムと遷移金属水酸化物などが用いられ、空気中で焼成を行うことで生産される。このため、正極活物質中に反応性に富む水酸化リチウムがほとんど含まれない。一方、Niが0.5以上の正極活物質は、原材料として、反応性に富む水酸化リチウムと、遷移金属水酸化物や遷移金属オキシ水酸化物などを用いて、酸素中での焼成により生産される。このため、正極活物質中に反応性に富む水酸化リチウムが多く含まれる。また、Niが0.5以上の正極活物質は、プロトン交換反応によって水酸化リチウムを生成しやすい。したがって、このようなハイニッケル材料は、水を溶媒あるいは分散媒体とし、水系スラリーとして調製した場合において、保管の際の時間経過とともにアルカリ化が起こりやすいと考えられる。
【0028】
ハイニッケル材料としては、例えば、LiNiO、Li(Ni0.6Co0.4)O、Li(Ni0.8Co0.2)O、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O、Li(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O、Li(Ni0.9Co0.05Mn0.05)O、などが挙げられる。なお、ハイニッケル材料を構成する原子サイトの一部に他の原子が置換するものであってもよい。例えば、リチウム原子サイトの一部に他のアルカリ金属原子が置換するもの、ハイニッケル材料の酸素原子サイトの一部にフッ素原子が置換するものや、ハイニッケル材料の遷移金属原子サイトの一部にアルミニウム原子が置換するものなどが挙げられる。
すなわち、本発明におけるハイニッケル材料は、組成式で、LiNiAl(0<a≦1、0≦b<1、0.5≦c≦1、0≦d≦0.5、0≦e≦0.5、1<f≦2、0≦g<1、a+b=1、c+d+e=1、f+g=2、A=Na,K,Rb、M=Co,Mn,Fe,Ti,Zr,Nb,Mo,Wを意味する)で表されるものが挙げられる。
【0029】
〔第1の実施態様〕
(スラリー製造システム)
図1は、本発明の第1の実施態様におけるスラリー製造システムの構造を示す概略説明図である。
スラリー製造システム100は、図1に示すように、分散装置1とスラリー保管装置2Aを備えている。
【0030】
本実施態様のスラリー製造システム100は、まず分散装置1においてスラリーSを調製し、次いで、調製したスラリーSをスラリー保管装置2Aにて保管するものである。保管したスラリーSは、その後、次工程(主に塗工工程)を実施するタイミングに応じてスラリー保管装置2Aから次工程の実施箇所へ移送される。
【0031】
(分散装置)
分散装置1は、スラリーSとしてハイニッケル材料を含有する水系スラリーを調製することができるものであればよく、装置構成の詳細については特に限定されない。なお、本実施態様における分散装置1とは、少なくとも固体(粉体)及び液体(溶媒)を混合し、粒状固形物と液体の混合物であるスラリーを調製することができる装置を指しており、混合装置や混練装置などと呼ばれるものも包含している。なお、後述するように、本実施態様における分散装置1は、気体も混合することができる構成とすることがより好ましい。これにより、調製時においてスラリーSがアルカリ化することを抑制することができる。
【0032】
分散装置1に投入するスラリーSの原料としては、例えば、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質の粉体(以下、単に「粉体P」と呼ぶ)と、溶媒W(水)のほか、バインダーや導電材等が挙げられる。ここで、正極活物質としては、ハイニッケル材料として知られているリチウム遷移金属複合酸化物を用いることが好ましい。また、バインダーや導電材等は、必要に応じて適宜使用されるものであり、具体的な物質については特に限定されず、水系スラリーの調製において公知の物質を用いることができるものである。
【0033】
また、スラリーSの調製に際し、分散装置1に二酸化炭素(炭酸ガス)や不活性ガスなどの気体を供給するものとしてもよい。特に、分散装置1に二酸化炭素(炭酸ガス)を含む気体を供給することが好ましい。より好ましくは、分散装置1に二酸化炭素(炭酸ガス)のみを供給することが好ましい。これにより、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの調製中に発生する水酸化リチウムを中和し、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーが調製中に強アルカリ化することを抑制することが可能となる。
ハイニッケル材料を含まない場合では、スラリー中に水酸化リチウムが含まれないため、二酸化炭素(炭酸ガス)を供給することにより、水系スラリーのpH値が低く(pH値5未満)なり、遷移金属を酸で溶解させることがある。このように遷移金属が溶解したスラリーでは、充放電中に金属が再析出する恐れがある。また正極活物質の放電容量が小さく、安定したサイクル特性が得られないため、好ましくない。
なお、pH値とは、水素イオン濃度を示す指標である。すなわち、7未満の場合では酸性、7を超える場合はアルカリ性となる。本願においてpH値は、pHメーターで測定した値であるが、その他の方法として指示薬法などでpH値を判断してもかまわない。
【0034】
図1には、分散装置1として、粉体供給部10と、撹拌タンク11と、循環用送液ポンプ12と、分散部13とを備えたものを示している。なお、図1に示した分散装置1は、本実施態様における分散装置1の一例を示すものであり、図1に示す構成に限定されるものではない。
【0035】
粉体供給部10は、スラリーSの原料のうち、固体分(粉体P)を分散部13に対して投入するものである。
粉体供給部10の構造については、分散装置において固体分の投入を行う構造として公知のものを用いることができ、特に限定されない。粉体供給部10の一例としては、例えば、図1に示すように、上部開口部及び下部開口部を有するホッパ10aを設け、粉体Pを上部開口部から投入し、下部開口部からラインL1を介して分散部13に粉体Pを供給するように設置することが挙げられる。
なお、粉体供給部10及びラインL1上には、種々の付帯機構を設けるものとしてもよい。このような付帯機構としては、例えば、粉体供給部10内の粉体Pの撹拌を行うための撹拌機構や、粉体供給部10内から分散部13に対して粉体Pを定量供給するための定量供給機構のほか、粉体供給部10内に付着した粉体Pを除去するためのバイブレータやキッカーなどが挙げられる。
【0036】
撹拌タンク11は、スラリーSの原料のうち、液体分(溶媒W)を分散部13に対して供給するものである。また、撹拌タンク11は、分散部13と循環可能に接続されており、調製したスラリーSが貯留されるものである。
撹拌タンク11の構造としては、分散装置において液体分の供給及びスラリーの貯留を行う構造として公知のものを用いることができ、特に限定されない。撹拌タンク11の一例としては、例えば、図1に示すように、タンク本体11aと、タンク本体11aの内部に撹拌装置11bとを備えており、ラインL2及びラインL3を介して分散部13と循環可能に接続することが挙げられる。また、タンク本体11aには、溶媒W(水)を外部から供給するためのラインL4及びタンク本体11a内の内容物(溶媒WあるいはスラリーS)を系外に排出するためのラインL5を設けることが挙げられる。
【0037】
なお、撹拌タンク11は、スラリー保管装置2Aの保持手段3と兼用することも可能である。スラリー保管装置2Aの保持手段3と撹拌タンク11の兼用に係る説明については、後述する。
【0038】
循環用送液ポンプ12は、分散装置1内の溶媒W及びスラリーSの流れ方向を制御し、流量を調整するためのものである。
循環用送液ポンプ12としては、例えば、図1に示すように、撹拌タンク11内の溶媒W及びスラリーSを吸引して、分散部13に向けて送出することができるポンプを、ラインL2上に設けることが挙げられる。これにより、溶媒W及びスラリーSは、撹拌タンク11と分散部13の間を循環し、分散部13における分散処理を繰り返すことができるため、溶媒Wに対する粉体Pの分散を均質化させることが可能となる。
【0039】
分散部13は、固体分(粉体P)と液体分(溶媒W)の混合及び分散処理を行い、スラリーSを調製するためのものである。
分散部13としては、例えば、超音波による分散を行う構成を備えるもの、プラネタリーミキサー、二軸混練機等、剪断力による分散を行う構成を備えるもの、キャビテーションと剪断力によって分散を行う構成を備えるものなどを用いることが挙げられる。なお、混練工程が不要で、正極活物質の過度な粉砕が生じにくいという観点から、キャビテーションと剪断力によって分散を行う構成を備えるものを用いることがより好ましい。キャビテーションと剪断力によって分散を行うものとしては、例えば、市販されているものとして日本スピンドル製造株式会社製「ジェットペースタ(登録商標)」などが挙げられる。
【0040】
分散部13には、粉体供給部10及び撹拌タンク11からラインL1及びラインL2を介して、粉体P及び溶媒Wが供給される。
なお、バインダーや導電材等を分散部13に供給する手段については特に限定されない。例えば、粉体Pと一緒に粉体供給部10からラインL1を介して供給することや、撹拌タンク11に供給し、溶媒Wと混合した後、ラインL2を介して供給することなどが挙げられる。
【0041】
分散部13において調製されたスラリーSは、ラインL3を介して撹拌タンク11に循環するものとしてもよく、ラインL6を介してスラリー保管装置2Aに供給するものとしてもよい。また、撹拌タンク11内のスラリーSも、ラインL2を介して分散部13に循環するものとしてもよく、ラインL2又はラインL5の一部を分岐し、スラリー保管装置2Aに供給するものとしてもよい。
スラリーSの調製後、分散装置1内の循環、あるいはスラリー保管装置2Aへの供給というスラリーSの供給先に係る判断については、スラリーSの調製量や調製条件に応じて適宜行うことが可能である。例えば、分散部13の駆動時間や粉体Pの投入量などを基準とし、スラリーSの供給先を判断すること等が挙げられる。また、スラリーSの供給先に係る判断及びこの判断に基づく供給先の切り換えについては、作業者が手動で行うものであってもよく、プログラムを実行するCPUや回路などを備えた制御部により実行されるものであってもよい。
【0042】
(スラリー保管装置)
図2A図2Cは、本発明の第1の実施態様におけるスラリー保管装置の構造を示す概略説明図である。
スラリー保管装置2Aは、図2A図2Cに示すように、スラリーSを保持する保持手段3と、スラリーSのpH値上昇を抑制するpH値上昇抑制手段4とを備えている。
【0043】
本実施態様のスラリー保管装置2Aは、分散装置1によって調製されたスラリーSを収容し、保管するためのものである。なお、保管期間が終了した際には、保持手段3に設けたラインL7を介して次工程(塗工工程)にスラリーSを移送する。
【0044】
保持手段3は、スラリーSを保持する空間を有するものであり、耐薬品性及び耐圧性を有する密閉可能な構造のものが好ましい。
保持手段3の具体的な構造としては、特に限定されない。保持手段3としては、例えば、密閉可能な蓋部を備え、耐薬品性及び耐圧性を有する有底筒状構造物や管状構造物などが挙げられる。
【0045】
また、保持手段3には、種々の付帯機構を設けるものとしてもよい。例えば、保持手段3内に撹拌機構を設け、スラリーSを撹拌することができるようにすることが挙げられる。これにより、後述するpH値上昇抑制手段4によって供給される気体(特に二酸化炭素(炭酸ガス))とスラリーSの接触効率を上げ、中和反応等によるpH値上昇抑制効果を高めることができる。また、他の例としては、保持手段3に温度調節機構を設け、スラリーSの保管に適した温度管理を行うものとすること等が挙げられる。このような温度調節機構としては、例えば、加熱機構を設けることが挙げられる。これにより、スラリーS内に溶存している気体(二酸化炭素(炭酸ガス))を排出させ、スラリーS表面におけるアルカリ化を抑制する機能を付与することができる。また、その他の例としては、冷却機構を設けることが挙げられる。これにより、保持手段3内に供給された気体(二酸化炭素(炭酸ガス))をより低圧で維持する機能を付与することが可能となる。さらに、温度調節機構として、加熱と冷却の切り換えが可能な機構を設け、上述した機能を適宜選択し、実行可能な制御を行うものとしてもよい。これにより、後述するpH値上昇抑制手段4と併せ、保管時におけるスラリーSのpH値上昇をより一層抑制し、かつ安定した保管が可能となる。
【0046】
pH値上昇抑制手段4は、スラリーSのpH値上昇を抑制し、スラリーSのアルカリ化を抑制するためのものである。
pH値上昇抑制手段4としては、スラリーSのアルカリ化を抑制することができるものであればよく、特に限定されない。ただし、pH値上昇抑制手段4として、pH値調整用薬剤の添加を行うと、スラリーSの物性や組成に影響を及ぼす可能性がある。したがって、pH値上昇抑制手段4としては、pH値調整用薬剤を添加すること以外の手段を用いることが好ましい。
【0047】
一般に、スラリーSのpH値が11を超えると、塗工時に集電体(主にアルミニウム集電体)が腐食するという問題が生じることが知られている。したがって、pH値上昇抑制手段4により、スラリーSのpH値を11以下とすることが好ましく、10以下とすることがより好ましい。
【0048】
本実施態様のpH値上昇抑制手段4としては、図2Aに示すように、加圧気体の供給による加圧手段4Aを備えるものが挙げられる。
加圧手段4Aとしては、加圧気体を供給し、ラインL8を経由して保持手段3内の圧力を上昇させることができるものであればよく、具体的な構成については特に限定されない。例えば、図2Aに示すように、高圧ガス容器(ボンベ)41などから直接保持手段3内に気体を供給することや、加圧ポンプを設けて保持手段3内に気体を供給することなどが挙げられる。
【0049】
本発明者らによる検討の結果、保持手段3内のスラリーSは、外気中の水分と接触することにより、アルカリ化が進行することが推察される。したがって、加圧手段4Aにより加圧気体を供給し、保持手段3内を陽圧にすることで、保持手段3内に外気が流入することを抑制することができる。これにより、保持手段3内のスラリーSが外気中の水分と反応することがなく、スラリーSのpH値上昇を抑制することができる。
【0050】
加圧手段4Aにより昇圧させた保持手段3内の圧力の値としては、特に限定されず、所望する効果の発現条件及び使用の態様等に応じて適宜設定することができる。例えば、加圧によるスラリーSのアルカリ化抑制の効果を確実に得るという観点から、圧力の値の下限としては、好ましくは0.05MPa(ゲージ圧、以下同様)以上であり、より好ましくは0.1MPa以上である。また、例えば、保持手段3の耐圧性の観点から、圧力の値の上限としては、好ましくは0.6MPa以下であり、より好ましくは0.5MPa以下である。
【0051】
加圧手段4Aにより供給する加圧気体は、窒素ガスやアルゴンガスのような不活性ガスのほか、二酸化炭素(炭酸ガス)のように水に溶けた際に酸性を示すガスなどが挙げられる。
【0052】
本実施態様の加圧手段4Aにおいて、加圧気体としては二酸化炭素(炭酸ガス)を用いることが好ましい。このとき、スラリーSは溶媒Wが水であるため、保持手段3内に収容されたスラリーS表面において、二酸化炭素(炭酸ガス)が水に溶解して酸成分(炭酸)を生成する。したがって、保持手段3内に収容されたスラリーS表面において、スラリーS内の水酸化リチウムなどのアルカリ成分と酸成分(炭酸)の中和反応が起こる。これにより、スラリーSのアルカリ化をより確実に抑制することができる。また、スラリーSの物性や組成に影響を与えないという観点からも、加圧気体としては二酸化炭素(炭酸ガス)を用いることが好ましい。
なお、加圧気体として二酸化炭素(炭酸ガス)を供給する際、高圧ガス容器から直接供給することが好ましい。二酸化炭素(炭酸ガス)の高圧ガス容器は入手が容易であり、また加圧気体の供給に際してポンプなどの駆動装置を必要としない。これにより、スラリーSの保管に係るコストを低減させることが可能となる。
【0053】
本実施態様のpH値上昇抑制手段4の別の態様としては、図2Bに示すように、ドライエアーを供給するドライエアー供給手段4Bを備えるものが挙げられる。
ドライエアー供給手段4Bとしては、水分含有量(湿度)の少ない空気(ドライエアー)を保持手段3内に供給することができるものであればよく、特に限定されない。ドライエアー供給手段4Bとしては、水分を除去した空気を生成可能なドライエアー発生装置42を用いることが挙げられる。なお、ドライエアー発生装置42の具体的な構成は特に限定されず、公知のものを用いることが挙げられる。なお、本実施態様におけるドライエアーとしては、スラリーSのアルカリ化抑制の効果を確実に得るという観点から、絶対湿度が1%以下の空気を用いることが好ましい。
【0054】
pH値上昇抑制手段4として、ドライエアー供給手段4Bを備えることにより、保持手段3内にある気体中の水分を低減させることができる。これにより、保持手段3内におけるスラリーSと気体中の水分との反応を抑制して、スラリーSのpH値上昇を抑制することができる。
なお、ドライエアー供給手段4Bにおいては、ドライエアーは加圧状態として供給する必要はないが、加圧したドライエアーを供給するものとしてもよい。これにより、加圧手段4Aに係る効果を併せて得ることができる。
【0055】
本実施態様のpH値上昇抑制手段4の別の態様としては、図2Cに示すように、減圧手段4Cを備えるものが挙げられる。
減圧手段4Cとしては、保持手段3内の圧力を減圧することができるものであればよく、特に限定されない。減圧手段4Cとしては、例えば、保持手段3に対して減圧用ポンプ43を設けることなどが挙げられる。
減圧手段4Cにより減圧させた保持手段3内の圧力の値としては、特に限定されず、所望する効果の発現条件及び使用の態様等に応じて適宜設定することができる。例えば、スラリーSのアルカリ化抑制の効果を確実に得るという観点から、圧力の値としては-0.07MPa以下とすることが好ましい。
【0056】
pH値上昇抑制手段4として、減圧手段4Cを備えることにより、保持手段3内の圧力を陰圧とすることで、保持手段3内の気体中の水分を低減させることが可能となる。これにより、保持手段3内におけるスラリーSと気体中の水分との反応を抑制し、スラリーSのpH値上昇を抑制することができる。
【0057】
また、本実施態様のスラリー保管装置2Aにおける保持手段3としては、図1図2A図2Cに示すように、分散装置1とは独立して設けるものに限定されない。例えば、分散装置1における構成(撹拌タンク11)が、保持手段3の機能を兼ね備えるものとしてもよい。
【0058】
図3は、スラリー製造システム100及びスラリー保管装置2Aの別の態様として、分散装置1における撹拌タンク11が、保持手段3の機能を兼ね備えたものを示す概略説明図である。
図3には、撹拌タンク11にpH値上昇抑制手段4として加圧手段4Aを設けたものを示しているが、上述したpH値上昇抑制手段4のうち、いずれを適用するものであってもよく、特に限定されない。
【0059】
図3に示すように、分散装置1の撹拌タンク11に接続されているラインL2上に開閉切換弁11cを設け、スラリーSの調製時には、開閉切換弁11cを開くことで、撹拌タンク11と分散部13の循環経路を形成する。一方、スラリーSの保管時には、開閉切換弁11cを閉じることで、撹拌タンク11内にスラリーSを収容した状態とし、保持手段3の機能を持たせることができる。したがって、開閉切換弁11cが閉じている間に、pH値上昇抑制手段4(加圧手段4A)により加圧気体として二酸化炭素(炭酸ガス)を撹拌タンク11内に供給することで、撹拌タンク11内においてスラリーSのアルカリ化を抑制し、安定した保管が可能となる。なお、撹拌タンク11に接続されているラインL2又はラインL5の一部を分岐し、保管期間が終了した際には、分岐したラインL2又はラインL5を介して次工程(塗工工程)にスラリーSを移送するものとしてもよい。
【0060】
図3に示すように、本実施態様のスラリー保管装置2Aの保持手段3として、分散装置1の撹拌タンク11を兼用させることで、スラリー製造システム100全体の構成をコンパクト化することが可能となる。
【0061】
以下、本実施態様のスラリー保管装置に係る具体的な実施例について説明する。
実施例の実施条件は、次の通りである。保持手段3として、容積300mLの密閉可能な耐圧容器を用いた。また、スラリーSとして、組成式LiNi0.8Co0.15Al0.05の正極活物質を含む水系のハイニッケルスラリー100mLを、保持手段3内に収容した。さらに、pH値上昇抑制手段4として、加圧手段4Aを用い、二酸化炭素(炭酸ガス)を保持手段3(耐圧容器)に供給し、保持手段3(耐圧容器)内の圧力をゲージ圧で0.1MPaとした。
一方、比較例の実施条件は、実施例と同じ保持手段3及びスラリーSを用いたものとした。なお、比較例にはpH値上昇抑制手段4は設けていない。
【0062】
図4は、本実施態様のスラリー保管装置2Aを用いてハイニッケル材料を含有する水系スラリーを保管した際のpH値の経時変化を示すグラフである。図4の縦軸は、スラリーSのpH値を示しており、図4の横軸は、保持手段3内にスラリーSを収容してからの経過日数を示している。また、ここでは、白抜きの四角(◇)が実施例、白抜き三角(△)が比較例を示している。
【0063】
図4から、実施例においては、時間経過とともにpH値が1.5程度上昇するが、その後pH値が10を超えることはなく、pH値は9から10の範囲内で推移していることがわかる。一方、比較例においては、時間経過とともにpH値が上昇し続けていることがわかる。
したがって、本実施態様におけるスラリー保管装置2Aにより、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの保管時におけるpH値上昇を抑制することができ、安定した保管が可能であることが示された。
【0064】
以上のように、本実施態様のスラリー保管装置及びスラリー保管方法により、水系スラリーのうち、特にハイニッケル材料を含有する水系スラリーについて、経時変化によるアルカリ化を抑止し、スラリーの物性が変質することを抑制することが可能となる。これにより、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの適切な保管を行うことができる。
また、本実施態様のスラリー製造システムを用いることにより、調製したスラリーを適切に保管することができるため、スラリーの品質を維持した状態で次工程(塗工工程)に移送することが可能となる。特に、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの保管及び取り扱いが容易となることにより、リチウムイオン二次電池の製造全体において、環境負荷の低減や製造コストの削減等を実現することが可能となる。
【0065】
〔第2の実施態様〕
図5は、本発明の第2の実施態様のスラリー保管装置の構成を示す概略である。
第2の実施態様のスラリー保管装置2Bは、図5に示すように、第1の実施態様のスラリー保管装置2Aにおける保持手段3に、圧力センサ5を設けるとともに、圧力センサ5の値に基づき、保持手段3内の圧力を調整する圧力調整手段6を設けるものである。なお、図5は、第1の実施態様において図2Aに基づき説明したスラリー保管装置2Aに対し、圧力センサ5及び圧力調整手段6を設けたものについて示している。また、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0066】
本実施態様のスラリー保管装置2Bは、保持手段3内の圧力を圧力センサ5により計測し、その計測した値に基づき、圧力調整手段6によって保持手段3内の圧力を調整するものである。これにより、pH値上昇抑制手段4により、保持手段3内の加圧あるいは減圧を行った場合、圧力センサ5によりスラリーSのアルカリ化抑制に適した圧力値から外れた状態を検知することができる。また、圧力調整手段6により保持手段3内が適切な圧力値となるように圧力を調整することができる。このため、スラリーSの保管に係る維持管理について、迅速な判断及び対応が可能となる。また、圧力センサ5及び圧力調整手段6をデータ入力及び制御が可能となるように接続することで、スラリーSの保管に係る維持管理を自動化することが可能となる。
【0067】
圧力センサ5は、保持手段3内の圧力を計測することができるものであればよく、特に限定されない。圧力センサ5の測定結果は、測定データとして圧力調整手段6に直接入力を可能とするものであってもよく、作業者が記録した測定結果を圧力調整手段6に手入力するものであってもよい。なお、スラリーSの保管に係る維持管理を自動化するためには、圧力センサ5の測定結果は、データとして圧力調整手段6に対して直接入力可能とすることが好ましい。
【0068】
圧力調整手段6は、圧力センサ5の測定結果に基づき、保持手段3内の圧力を調整することができるものであればよく、特に限定されない。圧力調整手段6としては、例えば、pH値上昇抑制手段4として設けられた加圧手段4Aに係る加圧気体の供給量を調整することや、減圧手段4Cに係る減圧用ポンプの駆動力を調整すること等が挙げられる。
より具体的には、図5に示すように、高圧ガス容器41と保持手段3を接続するラインL9上に、圧力調整手段6として、高圧ガス容器41からのガス供給量の制御が可能な機構であるバルブ61を設けることが挙げられる。
また、このバルブ61と圧力センサ5を制御可能に接続し、さらに、圧力センサ5の測定結果を入力するとともに、適切な範囲内にあるかどうかの判断を行い、その判断結果に応じてバルブ61の開度を決定して操作する制御部(不図示)を設けるものとしてもよい。これにより、スラリー保管に係る維持管理を自動化することが可能となる。
【0069】
さらに、圧力調整手段6の別の例としては、pH値上昇抑制手段4とは別に、保持手段3内の圧力を調整するための機構を独立して設けるものとすること等が挙げられる。これにより、pH値上昇抑制手段4側に不具合が生じた場合であっても、保持手段3内の圧力を適切に維持することができ、スラリーSを安定して保管することが可能となる。
【0070】
以上のように、本実施態様のスラリー保管装置2Bは、保持手段内の圧力を計測する圧力センサと、その値に応じて保持手段内の圧力を調整する圧力調整手段を設けることで、スラリーの保管に係る維持管理について迅速な対応を可能にし、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの安定した保管をより一層確実に行うことが可能となる。また、スラリーの保管に係る維持管理自体を自動化することができるという効果も奏する。
【0071】
また、本実施態様のスラリー保管装置2Bは、第1の実施態様に示したスラリー製造システム100におけるスラリー保管装置としても好適に用いることが可能である。これにより、スラリーの保管に係る維持管理について迅速な対応を可能にし、ハイニッケル材料を含有する水系スラリーの安定した保管をより一層確実に行うことができるスラリー製造システムとすることが可能となる。また、スラリーの保管に係る維持管理自体を自動化できるスラリー製造システムとすることが可能となるという効果も奏する。
【0072】
なお、上述した実施態様は、スラリー保管装置、スラリー製造システム、及びスラリー保管方法の一例を示すものである。本発明に係るスラリー保管装置、スラリー製造システム、及びスラリー保管方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係るスラリー保管装置、スラリー製造システム、及びスラリー保管方法を変形してもよい。
【0073】
例えば、本実施態様のスラリー保管装置として、保持手段内に水分を吸着する吸着剤を設けるものとしてもよい。これにより、保持手段内の気体中の水分をより一層低減させることが可能となる。このため、スラリーの保管時において、スラリーのアルカリ化をより一層抑制することが可能となる。
【0074】
また、例えば、本実施態様のスラリー保管装置及びスラリー製造システムとして、pH値上昇抑制手段のうち、加圧手段として二酸化炭素(炭酸ガス)の高圧ガス容器を用いた場合、高圧ガス容器を分散部にも接続し、分散処理時に二酸化炭素(炭酸ガス)を供給する手段としても用いるものとしてもよい。また、保持手段と分散部に対し切り換え可能となるように、高圧ガス容器を接続するものとしてもよい。このとき、スラリー調製時には分散部側に高圧ガス容器から二酸化炭素(炭酸ガス)を供給し、スラリー保管時には保持手段側に高圧ガス容器から二酸化炭素(炭酸ガス)を供給することが可能となる。これにより、スラリー製造システム全体としてコンパクト化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のスラリー保管装置及びスラリー保管方法は、スラリーを適切に保管できる保管技術として利用することができる。特に、ハイニッケル材料を含有する水系のスラリーを適切に保管する保管技術として好適に利用することができる。
【0076】
本発明のスラリー製造システムは、スラリーの調製後、スラリーの品質を維持した状態で保管することが可能なスラリー製造システムとして利用することができる。特に、ハイニッケル材料を含有する水系のスラリーを調製するスラリー製造システムとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1…分散装置、10…粉体供給部、10a…ホッパ、11…撹拌タンク、11a…タンク本体、11b…撹拌装置、11c…開閉切換弁、12…循環用送液ポンプ、13…分散部、2A,2B…スラリー保管装置、3…保持手段、4…pH値上昇抑制手段、4A…加圧手段、4B…ドライエアー供給手段、4C…減圧手段、41…高圧ガス容器、42…ドライエアー発生装置、43…減圧用ポンプ、5…圧力センサ、6…圧力調整手段、61…バルブ、100…スラリー製造システム、L1~L9…ライン、S…スラリー、P…粉体、W…溶媒
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5